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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104903
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
H02M3/28 D
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223076
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】松本 光介
(72)【発明者】
【氏名】花村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】廣田 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】松井 亮二
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AA19
5H730AS01
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS17
5H730BB27
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE07
5H730EE13
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】DABコンバータにおいて、偏磁抑制と高効率化を両立させる。
【解決手段】DABコンバータにおいて、制御回路(13)は、第1直流部(E1、Ca)から第2直流部(E2、Cb)へ降圧して電力を伝送する場合、第1直流部(E1、Ca)と絶縁トランス(TR1)の二次巻線(n2)が導通する第1の期間と、絶縁トランス(TR1)の一次巻線(n1)の両端が第1ブリッジ回路(11)内で短絡する第2の期間と、を含むように制御する。制御回路(13)は、第1の期間から第2の期間に遷移する際に第1ブリッジ回路(11)に設定する第1のデッドタイムより、第2の期間から第1の期間に遷移する際に第1ブリッジ回路(11)に設定する第2のデッドタイムを長く設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スイッチング素子と第2スイッチング素子が直列接続された第1レグと、第3スイッチング素子と第4スイッチング素子が直列接続された第2レグを有し、前記第1レグと前記第2レグが第1直流部に並列接続される第1ブリッジ回路と、
第5スイッチング素子と第6スイッチング素子が直列接続された第3レグと、第7スイッチング素子と第8スイッチング素子が直列接続された第4レグを有し、前記第3レグと前記第4レグが第2直流部に並列接続される第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路と前記第2ブリッジ回路の間に接続された絶縁トランスと、
前記第1スイッチング素子-前記第8スイッチング素子を制御する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記第1直流部から前記第2直流部へ降圧して電力を伝送する場合、前記第1直流部と前記絶縁トランスの二次巻線が導通する第1の期間と、前記絶縁トランスの一次巻線の両端が前記第1ブリッジ回路内で短絡する第2の期間と、を含むように制御し、
前記第1の期間から前記第2の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路に設定する第1のデッドタイムより、前記第2の期間から前記第1の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路に設定する第2のデッドタイムを長く設定する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記第1のデッドタイムは、直列接続された2つのスイッチング素子の同時オンが回避されることが担保された時間以上に設定され、
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線に流れる電流がゼロに到達することが担保された固定値に設定される、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線に流れる電流がゼロに到達することが担保された変動値に設定される、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御回路は、
前記第2の期間において、前記第2ブリッジ回路に含まれる対角の2つのスイッチング素子をオン状態に制御し、前記絶縁トランスを流れる電流の絶対値が所定の閾値以下になると、前記対角の2つのスイッチング素子の少なくとも一方をターンオフし、
前記第2の期間から前記第1の期間に遷移する際に前記第2ブリッジ回路の一方のレグに設定されるデッドタイムを、前記第1デッドタイム以上の可変値に設定する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御回路は、
前記第2直流部から前記第1直流部へ降圧して電力を伝送する場合、
前記第1スイッチング素子-前記第4スイッチング素子に供給する駆動信号と、前記第5スイッチング素子-前記第8スイッチング素子に供給する駆動信号を入れ替える、
請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流電力を別の電圧の直流電力に変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムやV2H(Vehicle to Home)システムに使用されるパワーコンディショナは、高効率な電力変換が求められる。V2Hシステムは、電動車(例えば、EV、PHEV)に搭載された蓄電池と、商用電力系統または宅内の負荷との間で充放電することができる。例えば、家庭用の太陽光発電システムで発電した電力を電動車の蓄電池に充電することができる。また、電動車に搭載された蓄電池を、宅内の負荷のピークシフトやバックアップ用途に利用することができる。V2Hシステムで使用されるDC/DCコンバータには高効率であること、絶縁型であることに加え、広範囲の電圧レンジが求められる。電動車に搭載された蓄電池は、車種により蓄電池の電圧が大きく異なるためである。これらの要求を満たすDC/DCコンバータの一つに、DAB(Dual Active Bridge)コンバータがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
DABコンバータにおいて、電流連続モードで動作させると、トランスに印加される電圧期間が正負の半周期で一致しなくなる。これにより、励磁電流に直流電流が流れ、磁気飽和により励磁インダクタンスが急激に減少してしまう「偏磁」という現象が発生する。この偏磁現象により、トランスに流れる励磁電流が増加し、損失増加や回路の定格電流を超えて保護停止や機器故障などにつながるため、偏磁現象が起きないように回路を動作させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第16/125373号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
偏磁抑制のために、DABコンバータを電流不連続モードで動作させるには、トランスに流れる電流が0となるまでの、長時間のデッドタイムが必要となる。通常、フルブリッジ回路内のスイッチング素子のデッドタイムには、固定された値が使用される。デッドタイムを長く設定した場合、偏磁を抑制することができるが、損失が増加する。反対に、デッドタイムを短く設定した場合、損失を減少させることができるが、偏磁が発生しやすくなる。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、DABコンバータにおいて、偏磁抑制と高効率化を両立させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の電力変換装置は、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子が直列接続された第1レグと、第3スイッチング素子と第4スイッチング素子が直列接続された第2レグを有し、前記第1レグと前記第2レグが第1直流部に並列接続される第1ブリッジ回路と、第5スイッチング素子と第6スイッチング素子が直列接続された第3レグと、第7スイッチング素子と第8スイッチング素子が直列接続された第4レグを有し、前記第3レグと前記第4レグが第2直流部に並列接続される第2ブリッジ回路と、前記第1ブリッジ回路と前記第2ブリッジ回路の間に接続された絶縁トランスと、前記第1スイッチング素子-前記第8スイッチング素子を制御する制御回路と、を備える。前記制御回路は、前記第1直流部から前記第2直流部へ降圧して電力を伝送する場合、前記第1直流部と前記絶縁トランスの二次巻線が導通する第1の期間と、前記絶縁トランスの一次巻線の両端が前記第1ブリッジ回路内で短絡する第2の期間と、を含むように制御し、前記第1の期間から前記第2の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路に設定する第1のデッドタイムより、前記第2の期間から前記第1の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路に設定する第2のデッドタイムを長く設定する。
【0008】
本開示によれば、DABコンバータにおいて、偏磁抑制と高効率化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る電力変換装置の構成を説明するための図である。
図2図2(a)-(b)は、電力変換装置の比較例に係る降圧動作における電流の流れを説明するための図である。
図3】電力変換装置の比較例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンを説明するための図である。
図4図4(a)-(b)は、電力変換装置の比較例に係る昇圧動作における電流の流れを説明するための図である。
図5】電力変換装置の比較例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンを説明するための図である。
図6】電力変換装置の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第1の推移例を示す図である。
図7図7(a)-(d)は、電力変換装置の実施例に係る降圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その1)。
図8図8(a)-(d)は、電力変換装置の実施例に係る降圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その2)。
図9】電力変換装置の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第2の推移例を示す図である。
図10】電力変換装置の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子の逆方向伝送時のスイッチングパターンと、トランス電流の推移例を示す図である。
図11】電力変換装置の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第1の推移例を示す図である。
図12図12(a)-(d)は、電力変換装置の実施例に係る昇圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その1)。
図13図13(a)-(d)は、電力変換装置の実施例に係る昇圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その2)。
図14】電力変換装置の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第2の推移例を示す図である。
図15】電力変換装置の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第3の推移例を示す図である。
図16】電力変換装置の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の第4の推移例を示す図である。
図17】電力変換装置の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子の逆方向伝送時のスイッチングパターンと、トランス電流の推移例を示す図である。
図18】電力変換装置の実施例に係る昇降圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、トランス電流の推移例を示す図である。
図19図19(a)-(b)は、電力変換装置の実施例に係る昇降圧動作における第3の期間のスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である。
図20図20(a)は、昇降圧モードを設けない場合のデューティ比と伝送電力の関係を模式的に描いた図である。図20(b)は、昇降圧モードを設けた場合のデューティ比と伝送電力の関係を模式的に描いた図である。
図21】電力変換装置の昇圧動作時における第1スイッチング素子-第8スイッチング素子のスイッチングパターンと、偏磁発生時のトランス電流の推移例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施の形態に係る電力変換装置1の構成を説明するための図である。電力変換装置1は絶縁型の双方向DC/DCコンバータ(DABコンバータ)であり、第1直流電源E1から供給される直流電力を変換して第2直流電源E2に伝送する。また電力変換装置1は、第2直流電源E2から供給される直流電力を変換して第1直流電源E1に伝送する。電力変換装置1は降圧して電力伝送することも、昇圧して電力伝送することも可能である。
【0011】
第1直流電源E1は例えば、EVに搭載された蓄電池や電気二重層コンデンサ、又は定置型の蓄電池や電気二重層コンデンサが該当する。第2直流電源E2は例えば、インバータを介して商用電力系統に接続された直流バスが該当する。当該直流バスには、他のDC/DCコンバータを介して他の蓄電池、太陽電池、燃料電池等が接続されていてもよい。
【0012】
電力変換装置1は、一次側コンデンサCa、第1ブリッジ回路11、第1インダクタンスL1、絶縁トランスTR1、第2インダクタンスL2、第2ブリッジ回路12、二次側コンデンサCb及び制御回路13を備える。
【0013】
第1直流電源E1と並列に一次側コンデンサCaが接続される。第2直流電源E2と並列に二次側コンデンサCbが接続される。一次側コンデンサCa及び二次側コンデンサCbには例えば、電解コンデンサが使用される。本明細書では、第1直流電源E1と一次側コンデンサCaを総称して第1直流部と呼び、第2直流電源E2と二次側コンデンサCbを総称して第2直流部と呼ぶ。
【0014】
第1ブリッジ回路11は、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2が直列接続された第1レグと、第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4が直列接続された第2レグが並列接続されて構成されるフルブリッジ回路である。第1ブリッジ回路11は第1直流部と並列接続され、第1レグの中点と第2レグの中点が、絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端にそれぞれ接続される。第1ブリッジ回路11は、第1直流部から供給される一次側の直流電圧を交流電圧に変換して、絶縁トランスTR1の一次巻線n1に出力することができる。また第1ブリッジ回路11は、絶縁トランスTR1の一次巻線n1から供給される交流電圧を直流電圧に変換して、第1直流部に出力することができる。
【0015】
第2ブリッジ回路12は、第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6が直列接続された第3レグと、第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8が直列接続された第4レグが並列接続されて構成されるフルブリッジ回路である。第2ブリッジ回路12は第2直流部と並列接続され、第3レグの中点と第4レグの中点が、絶縁トランスTR1の二次巻線n2の両端にそれぞれ接続される。第2ブリッジ回路12は、第2直流部から供給される二次側の直流電圧を交流電圧に変換して、絶縁トランスTR1の二次巻線n2に出力することができる。また第2ブリッジ回路12は、絶縁トランスTR1の二次巻線n2から供給される交流電圧を直流電圧に変換して、第2直流部に出力することができる。
【0016】
第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8にはそれぞれ、第1ダイオードD1-第8ダイオードD8が逆並列に形成または接続される。また、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8にはそれぞれ、第1容量C1-第8容量C8が並列に形成または接続される。
【0017】
第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8には例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使用できる。第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8にMOSFETが使用される場合、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のドレイン・ソース間にそれぞれ形成される寄生ダイオードを第1ダイオードD1-第8ダイオードD8として使用するか、外付けのダイオード素子を第1ダイオードD1-第8ダイオードD8としてそれぞれ接続する。また、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のドレイン・ソース間にそれぞれ形成される寄生容量を第1容量C1-第8容量C8として使用するか、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のドレイン・ソース間に外付けのコンデンサを第1容量C1-第8容量C8としてそれぞれ接続する。
【0018】
第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8にIGBTが使用される場合、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のコレクタ・エミッタ間に外付けのダイオード素子を第1ダイオードD1-第8ダイオードD8としてそれぞれ接続する。また、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のコレクタ・エミッタ間に外付けのコンデンサを第1容量C1-第8容量C8としてそれぞれ接続するか、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のコレクタ・エミッタ間にそれぞれ形成される寄生容量を第1容量C1-第8容量C8として使用する。
【0019】
MOSFETは、IGBTと比較してテイル電流が発生しないため、ターンオフ時のスイッチング損失を削減して発熱を低減することができるため、冷却器(例えば、ヒートシンク)を小型化することができる。また、IGBTと比較して高周波駆動が可能であるため、受動部品(例えば、トランス、コンデンサ)を小型化することができる。ただし、MOSFETは通常、IGBTよりオン抵抗が大きくなる。
【0020】
近年、高耐圧で低損失なスイッチング素子として、ワイドギャップ半導体(例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンド(C))を使用したスイッチング素子が普及してきている。本実施の形態では、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8に、SiC-MOSFETを使用することを想定する。SiC-MOSFETは、Si-MOSFETと比較して高耐圧であるため、小型化することができ、単位面積当たりのオン抵抗を小さくすることができる。
【0021】
絶縁トランスTR1は、第1ブリッジ回路11の交流端子と第2ブリッジ回路12の交流端子との間に接続される。絶縁トランスTR1は、一次巻線n1に接続される第1ブリッジ回路11の出力電圧を、一次巻線n1と二次巻線n2の巻数比に応じて変換し、二次巻線n2に接続される第2ブリッジ回路12に出力する。また絶縁トランスTR1は、二次巻線n2に接続される第2ブリッジ回路12の出力電圧を、二次巻線n2と一次巻線n1の巻数比に応じて変換し、一次巻線n1に接続される第1ブリッジ回路11に出力する。
【0022】
第1インダクタンスL1は、第1ブリッジ回路11の交流端子と絶縁トランスTR1の一次巻線n1の間に、直列に接続または形成される。第2インダクタンスL2は、第2ブリッジ回路12の交流端子と絶縁トランスTR1の二次巻線n2の間に、直列に接続または形成される。図1に示す例では、第1インダクタンスL1は、第1ブリッジ回路11の第1レグの中点と絶縁トランスTR1の一次巻線n1との間に接続されたリアクトル素子で構成されている。第2インダクタンスL2は、第2ブリッジ回路12の第3レグの中点と絶縁トランスTR1の二次巻線n2との間に接続されたリアクトル素子で構成されている。
【0023】
なお、第1インダクタンスL1は、第1ブリッジ回路11の第1レグの中点と、絶縁トランスTR1の一次巻線n1との間に形成される一次巻線n1の漏れインダクタンスで構成されてもよい。第2インダクタンスL2は、第2ブリッジ回路12の第3レグの中点と、絶縁トランスTR1の二次巻線n2との間に形成される二次巻線n2の漏れインダクタンスで構成されてもよい。なお、第1インダクタンスL1と第2インダクタンスL2のいずれか一方が省略されてもよい。
【0024】
制御回路13は基本制御として以下の制御を実行する。制御回路13は、第1直流部から第2直流部へ電力伝送する際(第1直流電源E1から放電する際)、二次側の電流センサ23により検出される電流値が電流指令値を維持するように第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8を制御する。なお、一次側の第1電圧センサ21により検出される電圧値、二次側の第2電圧センサ22により検出される二次側の電圧値、一次側の電流センサ(不図示)で検出される電流値を目標値として制御してもよい。
【0025】
また制御回路13は、第2直流部から第1直流部へ電力伝送する際(第1直流電源E1に充電する際)、一次側の電流センサ(不図示)により検出される電流値が電流指令値を維持するように第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8を制御する。なお、一次側の第1電圧センサ21により検出される電圧値、二次側の第2電圧センサ22により検出される二次側の電圧値、二次側の電流センサ23で検出される電流値を目標値として制御してもよい。
【0026】
このようにDABコンバータは、一次側と二次側が対称な構成であり、双方向に電力伝送することができる。以下、電力変換装置1の動作を説明する。
【0027】
(比較例)
図2(a)-(b)は、電力変換装置1の比較例に係る降圧動作における電流の流れを説明するための図である。図3は、電力変換装置1の比較例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンを説明するための図である。図4(a)-(b)は、電力変換装置1の比較例に係る昇圧動作における電流の流れを説明するための図である。図5は、電力変換装置1の比較例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンを説明するための図である。
【0028】
比較例では、位相シフト方式を採用している。第1スイッチング素子Q1-第6スイッチング素子Q6のデューティ比は50%で固定され、第7スイッチング素子Q7及び第8スイッチング素子Q8は全オフ状態を維持する。
【0029】
図2(a)は、第1直流電源E1から第2直流電源E2へ電力が伝送される状態を示している(以下、伝送状態という)。図2(b)は、第1直流電源E1と絶縁トランスTR1が切り離され、第1インダクタンスL1及び第2インダクタンスL2から第2直流電源E2へ電力が伝送される状態を示している(以下、転流状態という)。降圧動作では伝送状態と転流状態の比率で、伝送される電力の電圧または電流が制御される。転流状態の比率が高いほど、伝送される電力の電圧または電流が低く制御される。
【0030】
具体的には図3に示すように、第1レグ(第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2)の位相が固定、第2レグ(第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4)の位相が可変とされ、第2レグの位相が制御されることにより、第1レグと第2レグの位相差が制御される。第3レグ(第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6)は、第2レグに同期して制御される。制御回路13は、一次側から二次側へ伝送する電力を増加させる場合、当該位相差が小さくなるように制御し(第2レグの位相を左にシフト)、一次側から二次側へ伝送する電力を減少させる場合、当該位相差が大きくなるように制御する(第2レグの位相を右にシフト)。
【0031】
図4(a)は、絶縁トランスTR1と第2直流電源E2が切り離され、第1直流電源E1から第1インダクタンスL1及び第2インダクタンスL2に電力が蓄積される状態を示している(以下、蓄積状態という)。図4(b)は、第1直流電源E1、第1インダクタンスL1及び第2インダクタンスL2から第2直流電源E2へ電力が伝送される伝送状態を示している。昇圧動作では伝送状態と蓄積状態の比率で、伝送される電力の電圧または電流が制御される。蓄積状態の比率が高いほど、伝送される電力の電圧または電流が高く制御される。
【0032】
具体的には図5に示すように、第1レグ及び第2レグの位相が固定、第3レグの位相が可変とされ、第3レグの位相が制御されることにより、第1レグ及び第2レグと、第3レグとの位相差が制御される。制御回路13は、一次側から二次側へ伝送する電力を増加させる場合、当該位相差が大きくなるように制御し(第3レグの位相を右にシフト)、一次側から二次側へ伝送する電力を減少させる場合、当該位相差が小さくなるように制御する(第3レグの位相を左にシフト)。
【0033】
比較例では全てのデッドタイムが同じに設定されている。デッドタイムは、直列接続された2つのスイッチング素子が同時オンになって貫通電流が流れることを防止するために設定される。デッドタイム中に、ダイオードを経由して電流が流れる場合、デッドタイム中にダイオード損失が発生する。このダイオード損失は、デッドタイムが長くなるほど大きくなる。
【0034】
(実施例(降圧))
図6は、電力変換装置1の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第1の推移例を示す図である。トランス電流ILは、絶縁トランスTR1を流れる電流である。図7(a)-(d)は、電力変換装置1の実施例に係る降圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その1)。図8(a)-(d)は、電力変換装置1の実施例に係る降圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その2)。
【0035】
制御回路13は、第1直流部から第2直流部へ降圧して電力を伝送する場合、第1の期間T1(降圧)と第2の期間T2(降圧)を含むように制御する。第1の期間T1(降圧)は、第1ブリッジ回路11が第1直流部と絶縁トランスTR1の一次巻線n1を導通させ、第2ブリッジ回路12が絶縁トランスTR1の二次巻線n2と第2直流部を導通させる伝送状態となる期間である。第2の期間T2(降圧)は、絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端が第1ブリッジ回路11内で短絡し、第2ブリッジ回路12が絶縁トランスTR1の二次巻線n2と第2直流部を導通させる転流状態となる期間である。
【0036】
制御回路13は、第1の期間T1(降圧)から第2の期間T2(降圧)に遷移する際に第1ブリッジ回路11に第1のデッドタイムTd1(降圧)を設定する。制御回路13は、第2の期間T2(降圧)から第1の期間T1(降圧)に遷移する際に第1ブリッジ回路11に第2のデッドタイムTd2(降圧)を設定する。
【0037】
第1のデッドタイムTd1(降圧)及び第2のデッドタイムTd2(降圧)において、直列接続された第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2の両方をオフ状態に制御する。直列接続された第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4の両方をオフ状態に制御する。
【0038】
本実施例では、制御回路13は、第1のデッドタイムTd1(降圧)より第2のデッドタイムTd2(降圧)を長く設定する。具体的には、第1のデッドタイムTd1(降圧)は、直列接続された2つのスイッチング素子の同時オンが回避されることが担保された時間以上に設定される。
【0039】
第2のデッドタイムTd2(降圧)は、第2の期間T2(降圧)に絶縁トランスTR1の二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される。より具体的には、第2のデッドタイムTd2(降圧)は、絶縁トランスTR1の一次巻線n1または二次巻線n2に印加される少なくとも一方の電圧の変化に関係なく、二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上の固定値または変動値に設定される。
【0040】
制御回路13は、1スイッチング周期において、第1の期間T1-1(降圧)→第1のデッドタイムTd1-1(降圧)→第2の期間T2-1(降圧)→第2のデッドタイムTd2-1(降圧)→第1の期間T1-2(降圧)→第1のデッドタイムTd1-2(降圧)→第2の期間T2-2(降圧)→第2のデッドタイムTd2-2(降圧)の順でスイッチング状態を切り替える。
【0041】
第1の期間T1-1(降圧)は、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図7(a)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1は、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4を介して第1直流部と導通する。
【0042】
第1のデッドタイムTd1-1(降圧)は、第1スイッチング素子Q1と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図7(b)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第3ダイオードD3と第1スイッチング素子Q1を介して短絡する。
【0043】
第2の期間T2-1(降圧)は、第1スイッチング素子Q1と第3スイッチング素子Q3と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第4スイッチング素子Q4と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図7(c)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第3スイッチング素子Q3と第1スイッチング素子Q1を介して短絡する。
【0044】
第2のデッドタイムTd2-1(降圧)は、第3スイッチング素子Q3と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2と第4スイッチング素子Q4と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図7(d)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1は、第2ダイオードD2と第3スイッチング素子Q3を介して第1直流部と導通する。
【0045】
第1の期間T1-2(降圧)は、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図8(a)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1は、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3を介して第1直流部と導通する。
【0046】
第1のデッドタイムTd1-2(降圧)は、第2スイッチング素子Q2と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図8(b)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第2スイッチング素子Q2と第4ダイオードD4を介して短絡する。
【0047】
第2の期間T2-2(降圧)は、第2スイッチング素子Q2と第4スイッチング素子Q4と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第3スイッチング素子Q3と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図8(c)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第2スイッチング素子Q2と第4スイッチング素子Q4を介して短絡する。
【0048】
第2のデッドタイムTd2-2(降圧)は、第4スイッチング素子Q4と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図8(d)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1は、第1ダイオードD1と第4スイッチング素子Q4を介して第1直流部の両端と導通する。
【0049】
第1のデッドタイムTd1(降圧)は、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2の同時オン、または第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4の同時オンが回避されることが担保された最小時間に設定されることが望ましい。
ダイオード整流による順方向損失Vfより、同期整流(第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4の同時オン、または第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3の同時オン)による導通損失の方が小さい。ダイオード整流期間となる第1のデッドタイムTd1(降圧)を最小化することで、同期整流期間を最大化することができ、第1ブリッジ回路11における損失を減少させることができる。
【0050】
第2のデッドタイムTd2(降圧)は、絶縁トランスTR1の偏磁を抑制するため、二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される。第2のデッドタイムTd2(降圧)に固定値が使用される場合、第2のデッドタイムTd2(降圧)は、第1直流部の想定される電圧変動と第2直流部の想定される電圧変動をもとにした実験またはシミュレーションにより予め導出された値に設定される。例えば、実験またはシミュレーションにより導出された、電流連続モードが回避できる最小値に、マージンを加えた値に設定されてもよい。第2のデッドタイムTd2(降圧)に固定値を使用する場合、スイッチング周波数を固定でき、制御の複雑化を回避できる。
【0051】
第2のデッドタイムTd2(降圧)に変動値が使用される場合、制御回路13は、電流センサ23から取得される電流の検出値が設定時間以上、連続してゼロになると、第2のデッドタイムTd2(降圧)を終了させる。第2のデッドタイムTd2(降圧)に変動値を使用する場合、電流の実効値をより小さくでき、損失をより減少させることができる。
【0052】
図9は、電力変換装置1の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第2の推移例を示す図である。制御回路13は、第2の期間T2(降圧)において原則的に、第2ブリッジ回路12に含まれる対角の2つのスイッチング素子をオン状態に制御して同期整流させる。制御回路13は、第2の期間T2(降圧)において、トランス電流ILの絶対値が所定の閾値Ith以下になると、当該対角の2つのスイッチング素子の少なくとも一方をターンオフしてダイオード整流に切り替える。なお、効率は低下するが、両方のスイッチング素子をターンオフしてもよい。
【0053】
図9に示す例では、制御回路13は、第2の期間T2-1(降圧)では第8スイッチング素子Q8をターンオフして同期整流からダイオード整流に切り替え、第2の期間T2-2(降圧)では第7スイッチング素子Q7をターンオフして同期整流からダイオード整流に切り替えている。
【0054】
閾値Ithは、トランス電流ILを理想的に計測でき、制御系・駆動系の遅延が理想的に0であれば、0Aに設定される。実際には電圧計測誤差やスイッチング素子に供給する駆動信号の遅延を考慮し、閾値Ithは、(0±マージン)Aに設定される。マージンの値は、設計者による実験やシミュレーションをもとに、スイッチング周期の半周期内においてトランス電流ILの正負が反転せず、かつ第2の期間T2(降圧)の同期整流期間が最大になるように設定される。
【0055】
図9に示す例では、制御回路13は、第2の期間T2(降圧)から第1の期間T1(降圧)に遷移する際に第2ブリッジ回路12の第4レグに設定するデッドタイムを、第1のデッドタイムTd1以上の可変値に設定する。ダイオード整流に早く切り替わるほど、第4レグに設定されるデッドタイムが長くなる。
【0056】
制御回路13は、トランス電流ILの絶対値が所定の時間内に閾値Ithまで低下しない場合、第2ブリッジ回路12に含まれる対角の2つのスイッチング素子の少なくとも一方のターンオフをスキップする。所定の時間は、半周期-デッドタイムに設定される。即ち、トランス電流ILの絶対値が所定の時間内に閾値Ithまで低下しない場合、第2ブリッジ回路12に含まれる対角の2つのスイッチング素子がオン状態のままデッドタイムに突入し、デッドタイムに突入することで制御回路13は、第5スイッチング素子Q5-第8スイッチング素子Q8を全てオフ状態に制御する。
【0057】
図6に示すように、トランス電流ILの絶対値の減少速度が遅く、電力の逆流が発生するリスクがない場合、同期整流からダイオード整流に切り替える必要はない。一方、図9に示すように電力の逆流が発生するリスクがある場合、同期整流からダイオード整流に切り替える。電力の逆流が発生すると、電力伝送に関係ない無効電流が流れ、損失増加につながる。ダイオード整流に切り替えることで、無効電流による損失増加を防止できる。
【0058】
図10は、電力変換装置1の実施例に係る降圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8の逆方向伝送時のスイッチングパターンと、トランス電流ILの推移例を示す図である。図6に示した第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンでは、第1直流部から第2直流部へ降圧して電力を伝送する例を説明した。この点、第2直流部から第1直流部へ降圧して電力を伝送することも可能である。この場合、図10に示すように、制御回路13は、第1スイッチング素子Q1-第4スイッチング素子Q4に供給する駆動信号と、第5スイッチング素子Q5-第8スイッチング素子Q8に供給する駆動信号を入れ替えればよい。
【0059】
(実施例(昇圧))
図11は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第1の推移例を示す図である。図12(a)-(d)は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その1)。図13(a)-(d)は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作におけるスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である(その2)。
【0060】
制御回路13は、第1直流部から第2直流部へ昇圧して電力を伝送する場合、第1の期間T1(昇圧)と第2の期間T2(昇圧)を含むように制御する。第1の期間T1(昇圧)は、第1ブリッジ回路11が第1直流部と絶縁トランスTR1の一次巻線n1を導通させ、絶縁トランスTR1の二次巻線n2の両端が第2ブリッジ回路12内で短絡する蓄積状態となる期間である。第2の期間T2(昇圧)は、第1ブリッジ回路11が第1直流部と絶縁トランスTR1の一次巻線n1を導通させ、第2ブリッジ回路12が絶縁トランスTR1の二次巻線n2と第2直流部を導通させる伝送状態となる期間である。
【0061】
制御回路13は、第1の期間T1(昇圧)から第2の期間T2(昇圧)に遷移する際に第2ブリッジ回路12に第1のデッドタイムTd1(昇圧)を設定する。制御回路13は、第2の期間T2(昇圧)から第1の期間T1(昇圧)に遷移する際に第1ブリッジ回路11に第2のデッドタイムTd2(昇圧)を設定する。
【0062】
第1のデッドタイムTd1(昇圧)において、直列接続された第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8の両方をオフ状態に制御する。なお、直列接続された第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6の両方をオフ状態に制御する。
【0063】
第2のデッドタイムTd2(昇圧)において、直列接続された第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2の両方をオフ状態に制御する。直列接続された第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4のオン/オフ状態が切り替わる場合、制御回路13は、第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4の両方をオフ状態に制御する。
【0064】
本実施例では、制御回路13は、第1のデッドタイムTd1(昇圧)より第2のデッドタイムTd2(昇圧)を長く設定する。具体的には、第1のデッドタイムTd1(昇圧)は、直列接続された2つのスイッチング素子の同時オンが回避されることが担保された時間以上に設定される。
【0065】
第2のデッドタイムTd2(昇圧)は、第2の期間T2(昇圧)に絶縁トランスTR1の二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される。より具体的には、第2のデッドタイムTd2(昇圧)は、絶縁トランスTR1の一次巻線n1または二次巻線n2に印加される少なくとも一方の電圧の変化に関係なく、二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上の固定値または変動値に設定される。
【0066】
制御回路13は、1スイッチング周期において、第1の期間T1-1(昇圧)→第1のデッドタイムTd1-1(昇圧)→第2の期間T2-1(昇圧)→第2のデッドタイムTd2-1(昇圧)→第1の期間T1-2(昇圧)→第1のデッドタイムTd1-2(昇圧)→第2の期間T2-2(昇圧)→第2のデッドタイムTd2-2(昇圧)の順でスイッチング状態を切り替える。
【0067】
第1の期間T1-1(昇圧)は、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図12(a)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2の両端は、第5スイッチング素子Q5と第7スイッチング素子Q7を介して短絡する。
【0068】
第1のデッドタイムTd1-1(昇圧)は、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図12(b)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第5スイッチング素子Q5と第8ダイオードD8を介して第2直流部と導通する。
【0069】
第2の期間T2-1(昇圧)は、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図12(c)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8を介して第2直流部と導通する。
【0070】
第2のデッドタイムTd2-1(昇圧)は、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8が全てオフ状態である(図12(d)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第5ダイオードD5と第8スイッチング素子Q8を介して第2直流部と導通する。
【0071】
第1の期間T1-2(昇圧)は、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図13(a)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2の両端は、第8スイッチング素子Q8と第6スイッチング素子Q6を介して短絡する。
【0072】
第1のデッドタイムTd1-2(昇圧)は、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図13(b)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第7ダイオードD7と第6スイッチング素子Q6を介して第2直流部と導通する。
【0073】
第2の期間T2-2(昇圧)は、第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図13(c)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第7スイッチング素子Q7と第6スイッチング素子Q6を介して第2直流部と導通する。
【0074】
第2のデッドタイムTd2-2(昇圧)は、第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8が全てオフ状態である(図13(d)参照)。絶縁トランスTR1の二次巻線n2は、第7ダイオードD7と第6ダイオードD6を介して第2直流部と導通する。
【0075】
第1のデッドタイムTd1(昇圧)は、第7スイッチング素子Q7と第8スイッチング素子Q8の同時オン(または第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6の同時オン)が回避されることが担保された最小時間に設定されることが望ましい。ダイオード整流による順方向損失Vfより、同期整流(第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8の同時オン、または第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7の同時オン)による導通損失の方が小さい。ダイオード整流期間となる第1のデッドタイムTd1(昇圧)を最小化することで、同期整流期間を最大化することができ、第2ブリッジ回路12における損失を減少させることができる。
【0076】
第2のデッドタイムTd2(昇圧)は、絶縁トランスTR1の偏磁を抑制するため、二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される。第2のデッドタイムTd2(昇圧)に固定値が使用される場合、第2のデッドタイムTd2(昇圧)は、第1直流部の想定される電圧変動と第2直流部の想定される電圧変動をもとにした実験またはシミュレーションにより予め導出された値に設定される。例えば、実験またはシミュレーションにより導出された、電流連続モードが回避できる最小値に、マージンを加えた値に設定されてもよい。第2のデッドタイムTd2(昇圧)に固定値を使用する場合、スイッチング周波数を固定でき、制御の複雑化を回避できる。
【0077】
第2のデッドタイムTd2(昇圧)に変動値が使用される場合、制御回路13は、電流センサ23から取得される電流の検出値が設定時間以上、連続してゼロになると、第2のデッドタイムTd2(昇圧)を終了させる。第2のデッドタイムTd2(昇圧)に変動値を使用する場合、電流の実効値をより小さくでき、損失をより減少させることができる。
【0078】
図14は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第2の推移例を示す図である。図15は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第3の推移例を示す図である。図16は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの第4の推移例を示す図である。
【0079】
図10に示した第1の例では、制御回路13は、第1レグと第2のレグの第3レグの時比率を、第1のデッドタイムTd1(昇圧)及び第2のデッドタイムTd2(昇圧)を除き50%に固定し、第1レグと第2のレグと第3レグ間の位相差を0°に固定する。制御回路13は、第1レグ-第4のレグ間において第2のデッドタイムTd2(昇圧)を一致させる。
【0080】
図14に示した第2の例は、図10に示した第1の例と比較して以下の点で相違する。制御回路13は、第2のデッドタイムTd2-1(昇圧)において第4のレグの第8スイッチング素子Q8がオン状態を維持し、第2のデッドタイムTd2-2(昇圧)において第4のレグの第7スイッチング素子Q7がオン状態を維持する。第2の例では、第2のデッドタイムTd2(昇圧)において、第4レグが同期整流状態を維持することで、第4レグにおける損失を減少させることができる。
【0081】
図15に示した第3の例は、図14に示した第2の例と比較して以下の点で相違する。制御回路13は、第3レグにおける第2のデッドタイムTd2(昇圧)を可変させる。具体的には制御回路13は、第2のデッドタイムTd2-1(昇圧)において、第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6の同時オンが回避される最小のデッドタイムを確保しつつ、第5スイッチング素子Q5をできるだけ長くオン状態に制御する。制御回路13は、第2のデッドタイムTd2-2(昇圧)において、第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6の同時オンが回避される最小のデッドタイムを確保しつつ、第6スイッチング素子Q6をできるだけ長くオン状態に制御する。第3の例では、第2のデッドタイムTd2(昇圧)において、第3レグの同期整流期間を長くすることで、第3レグにおける損失を減少させることができる。
【0082】
図16に示した第4の例は、図15に示した第3の例と比較して以下の点で相違する。制御回路13は、第1レグにおける第2のデッドタイムTd2(昇圧)を最小時間に固定する。具体的には制御回路13は、第2のデッドタイムTd2-1(昇圧)において、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2の同時オンが回避される最小のデッドタイムを確保しつつ、第2スイッチング素子Q2のオン時間を最大化する。制御回路13は、第2のデッドタイムTd2-2(昇圧)において、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2の同時オンが回避される最小のデッドタイムを確保しつつ、第1スイッチング素子Q1のオン時間を最大化する。第4の例では、第2のデッドタイムTd2(昇圧)において、第1レグの同期整流期間を長くすることで、第1レグにおける損失を減少させることができる。なお、第4の例における第1レグと第2レグの制御を入れ替えてもよい。
【0083】
図17は、電力変換装置1の実施例に係る昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8の逆方向伝送時のスイッチングパターンと、トランス電流ILの推移例を示す図である。図11に示した第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンでは、第1直流部から第2直流部へ昇圧して電力を伝送する例を説明した。この点、第2直流部から第1直流部へ昇圧して電力を伝送することも可能である。この場合、図17に示すように、制御回路13は、第1スイッチング素子Q1-第4スイッチング素子Q4に供給する駆動信号と、第5スイッチング素子Q5-第8スイッチング素子Q8に供給する駆動信号を入れ替えればよい。
【0084】
(実施例(昇降圧))
図18は、電力変換装置1の実施例に係る昇降圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、トランス電流ILの推移例を示す図である。昇降圧動作は降圧動作から昇圧動作に、または昇圧動作から降圧動作に切り替わる間の期間に挿入される動作である。制御回路13は、昇圧と降圧の切り替わりの期間において、第1直流部から第2直流部へ昇降圧して電力を伝送する場合、第1の期間T1(昇圧)と第2の期間T2(昇圧)と第3の期間T3を含むように制御する。第3の期間T3は、絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端が第1ブリッジ回路11内で短絡し、第2ブリッジ回路12が絶縁トランスTR1の二次巻線n2と第2直流部を導通させる転流状態となる期間である。
【0085】
図19(a)-(b)は、電力変換装置1の実施例に係る昇降圧動作における第3の期間のスイッチングパターンと電流の流れを説明するための図である。第3の期間T3-1は、第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2と第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオフ状態である(図19(a)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第4スイッチング素子Q4と第2ダイオードD2を介して短絡する。
【0086】
第3の期間T3-2は、第3スイッチング素子Q3と第6スイッチング素子Q6と第7スイッチング素子Q7がオン状態で、第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2と第4スイッチング素子Q4と第5スイッチング素子Q5と第8スイッチング素子Q8がオフ状態である(図19(b)参照)。絶縁トランスTR1の一次巻線n1の両端は、第1ダイオードD1と第3スイッチング素子Q3を介して短絡する。
【0087】
昇降圧動作において、図18に示すように制御回路13は、第1スイッチング素子Q1に供給する駆動信号と第4スイッチング素子Q4に供給する駆動信号に位相差を設け、第2スイッチング素子Q2に供給する駆動信号と第3スイッチング素子Q3に供給する駆動信号に位相差を設ける。この位相差に相当する期間が第3の期間T3となる。昇降圧動作では、第2の期間T2(第1直流部と絶縁トランスTR1が導通状態)の終了前に、第3の期間T3(第1直流部と絶縁トランスTR1が遮断状態)が挿入されるため、第1直流部から第2直流部に供給されるエネルギーが抑制される。
【0088】
制御回路13は、第1の期間T1(昇圧)から第2の期間T2(昇圧)に遷移する際に第2ブリッジ回路12に第1のデッドタイムTd1(昇圧)を設定する。制御回路13は、第3の期間T3から第1の期間T1(昇圧)に遷移する際に第1ブリッジ回路11に第2のデッドタイムTd2(昇圧)を設定する。
【0089】
制御回路13は、第1のデッドタイムTd1(昇圧)より第2のデッドタイムTd2(昇圧)を長く設定する。具体的には、第1のデッドタイムTd1(昇圧)は、直列接続された2つのスイッチング素子の同時オンが回避されることが担保された時間以上に設定される。第2のデッドタイムTd2(昇圧)は、第2の期間T2(昇圧)に絶縁トランスTR1の二次巻線n2に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される。
【0090】
図20(a)は、昇降圧モードを設けない場合のデューティ比と伝送電力の関係を模式的に描いた図である。図20(b)は、昇降圧モードを設けた場合のデューティ比と伝送電力の関係を模式的に描いた図である。図20(a)に示すように昇降圧モードを設けない場合、降圧モードと昇圧モードの切り替わり時に、伝送電力(伝送電流と考えてもよい)の傾きが変化する変極点が1つ発生する。図20(b)に示すように昇降圧モードを設けた場合、降圧モードと昇降圧モードの切り替わり時と、昇降圧モードと昇圧モード切り替わり時に変極点が2つ発生する。昇降圧モードを設けた場合、変極点の数は2つになるが、各変極点の傾きの変化は、昇降圧モードを設けない場合の変極点の傾きより緩やかになる。図20(b)に示すように昇圧モードと降圧モードの間に昇降圧モードを挟むことで、回路ゲインを滑らかに変化させ、電流発振を小さく抑えることができる。
【0091】
以上説明したように本実施例によれば、第1のデッドタイムTd1より第2のデッドタイムTd2を長く設定することで、偏磁を抑制しつつ高効率化することができる。
【0092】
図21は、電力変換装置1の昇圧動作時における第1スイッチング素子Q1-第8スイッチング素子Q8のスイッチングパターンと、偏磁発生時のトランス電流ILの推移例を示す図である。図21に示す例では、第1のデッドタイムTd1と第2のデッドタイムTd2の値を等しく設定している。半スイッチング周期の切り替わり時においてトランス電流ILが0Aでないと、回路のバラつき等により、正期間の電流時間積Aと負期間の電流時間積Bがアンバランスになり、直流成分が発生する。
【0093】
この点、本実施例では、半スイッチング周期の切り替わり時においてトランス電流ILが0Aであることが担保され、電流不連続モードで動作することができる。これにより、偏磁を抑制することができる。また、半スイッチング周期の切り替わり時と異なるタイミングの第1のデッドタイムTd1は短く設定することで、ダイオードに導通する期間を短くすることができ、損失を減少させることができる。また、逆電流または貫通電流を回避できる範囲で、同期整流期間をできるだけ長く設定することで、さらに損失を減少させることができる。
【0094】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0095】
降圧モードにおいて、第1レグと第2レグのスイッチングパターンを所定のスイッチング周期ごとに入れ替えてもよい。この場合、第1スイッチング素子Q1-第4スイッチング素子Q4の発熱を平準化させることができる。昇圧モードにおいて、第3レグと第4レグのスイッチングパターンを所定のスイッチング周期ごとに入れ替えてもよい。この場合、第5スイッチング素子Q5-第8スイッチング素子Q8の発熱を平準化させることができる。
【0096】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0097】
[項目1]
第1スイッチング素子(Q1)と第2スイッチング素子(Q2)が直列接続された第1レグと、第3スイッチング素子(Q3)と第4スイッチング素子(Q4)が直列接続された第2レグを有し、前記第1レグと前記第2レグが第1直流部(E1、Ca)に並列接続される第1ブリッジ回路(11)と、
第5スイッチング素子(Q5)と第6スイッチング素子(Q6)が直列接続された第3レグと、第7スイッチング素子(Q7)と第8スイッチング素子(Q8)が直列接続された第4レグを有し、前記第3レグと前記第4レグが第2直流部(E2、Cb)に並列接続される第2ブリッジ回路(12)と、
前記第1ブリッジ回路(11)と前記第2ブリッジ回路(12)の間に接続された絶縁トランス(TR1)と、
前記第1スイッチング素子(Q1)-前記第8スイッチング素子(Q8)を制御する制御回路(13)と、を備え、
前記制御回路(13)は、
前記第1直流部(E1、Ca)から前記第2直流部(E2、Cb)へ降圧して電力を伝送する場合、前記第1直流部(E1、Ca)と前記絶縁トランス(TR1)の二次巻線(n2)が導通する第1の期間と、前記絶縁トランス(TR1)の一次巻線(n1)の両端が前記第1ブリッジ回路(11)内で短絡する第2の期間と、を含むように制御し、
前記第1の期間から前記第2の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路(11)に設定する第1のデッドタイムより、前記第2の期間から前記第1の期間に遷移する際に前記第1ブリッジ回路(11)に設定する第2のデッドタイムを長く設定する、
電力変換装置(1)。
これによれば、偏磁抑制と高効率化を両立させることができる。
[項目2]
前記第1のデッドタイムは、直列接続された2つのスイッチング素子の同時オンが回避されることが担保された時間以上に設定され、
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線(n2)に流れる電流がゼロに到達することが担保された時間以上に設定される、
項目1に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、第2のデッドタイムにより偏磁を抑制しつつ、第1のデッドタイムによりデッドタイム全体の損失を減少させることができる。
[項目3]
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線(n2)に流れる電流がゼロに到達することが担保された固定値に設定される、
項目2に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、電圧条件が変化しても偏磁抑制が可能であり、スイッチング周波数を固定できるため制御を簡単化できる。
[項目4]
前記第2のデッドタイムは、前記第2の期間に前記トランスの二次巻線(n2)に流れる電流がゼロに到達することが担保された変動値に設定される、
項目2に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、電圧条件が変化しても偏磁抑制が可能であり、電流の実効値をさらに小さくでき、損失をさらに減少させることができる。
[項目5]
前記制御回路(13)は、
前記第2の期間において、前記第2ブリッジ回路(12)に含まれる対角の2つのスイッチング素子をオン状態に制御し、前記絶縁トランス(TR1)を流れる電流の絶対値が所定の閾値以下になると、前記対角の2つのスイッチング素子の少なくとも一方をターンオフし、
前記第2の期間から前記第1の期間に遷移する際に前記第2ブリッジ回路(12)の一方のレグに設定されるデッドタイムを、前記第1デッドタイム以上の可変値に設定する、
項目1に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、無効電流の発生を抑制しつつ、第2ブリッジ回路(12)における損失を減少させることができる。
[項目6]
前記制御回路(13)は、
前記第2直流部(E2、Cb)から前記第1直流部(E1、Ca)へ降圧して電力を伝送する場合、
前記第1スイッチング素子(Q1)-前記第4スイッチング素子(Q4)に供給する駆動信号と、前記第5スイッチング素子(Q5)-前記第8スイッチング素子(Q8)に供給する駆動信号を入れ替える、
項目1に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、双方向動作が可能となる。
【符号の説明】
【0098】
E1 第1直流電源、 E2 第2直流電源、 1 電力変換装置、 11 第1ブリッジ回路、 12 第2ブリッジ回路、 13 制御回路、 21 第1電圧センサ、 22 第2電圧センサ、 23 電流センサ、 Q1-Q8 スイッチング素子、 D1-D8 ダイオード、 C1-C8 容量、 L1 第1インダクタンス、 L2 第2インダクタンス、 TR1 絶縁トランス、 n1 一次巻線、 n2 二次巻線、 Ca 一次側コンデンサ、 Cb 二次側コンデンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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