(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104996
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】電子機器用の樹脂部材、樹脂組成物及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250703BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250703BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223239
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】屋根 晃
(72)【発明者】
【氏名】大島 義人
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002CF051
4J002CM041
4J002DE066
4J002DE136
4J002FA116
4J002FD016
4J002GQ00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】電気的特性に優れた電子機器用の樹脂部材を提供する。
【解決手段】電子機器用の樹脂部材であって、マトリックス樹脂1と、マトリックス樹脂1に分散した誘電体粒子と、を含み、誘電体粒子は、強誘電体粒子2の凝集体である凝集体粒子3であり、強誘電体粒子2の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、凝集体粒子3の粒子径は、1μm以上100μm以下である樹脂部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする樹脂部材。
【請求項2】
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする樹脂部材。
【請求項3】
前記凝集体粒子の形状は、鱗片状であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項4】
前記凝集体粒子のアスペクト比は、3以上20以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項5】
前記凝集体粒子の単位面積当たりの個数は、1個/mm2以上100個/mm2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項6】
前記凝集体粒子の粒子径は、5μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項7】
前記誘電体粒子は、チタン酸化合物を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項8】
前記誘電体粒子は、チタン酸バリウムを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項9】
前記誘電体粒子の含有量は、0.1質量%以上10質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項10】
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項11】
前記マトリックス樹脂は、極性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項12】
前記マトリックス樹脂は、結晶性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項13】
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項14】
前記マトリックス樹脂は、ポリエチレンテレフタレートを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項15】
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項16】
さらに、エラストマーを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項17】
さらに、前記誘電体粒子以外の、無機材料を主成分とするフィラー粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項18】
前記無機材料の比誘電率が10未満であることを特徴とする請求項17に記載の樹脂部材。
【請求項19】
さらに、前記誘電体粒子以外の、遷移金属元素を含む金属材料、遷移金属元素を含む化合物材料、典型金属元素を含む金属材料、典型金属元素を含む化合物材料の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項20】
前記樹脂部材の体積は、1,000mm3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂部材。
【請求項21】
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項22】
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項23】
請求項21または22に記載の樹脂組成物を溶融して金型に射出することを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【請求項24】
請求項1または2に記載の樹脂部材と、
電気部品、金属部品および光学部品の少なくともいずれかと、を有することを特徴とする電子機器。
【請求項25】
前記樹脂部材が外装体であることを特徴とする請求項24に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用の樹脂部材、樹脂組成物及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器用の樹脂部材に用いる樹脂組成物には、高誘電率化と成形性が求められている。特許文献1には、数μm程度の粒径で真球度の高い強誘電体であるチタン酸バリウムをポリカーボネート樹脂に含有させた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マトリックス樹脂に、強誘電体、比誘電率10以上の常誘電体等の誘電率が高い誘電体を分散させた場合、摩擦等で表面近傍の誘電体粒子が分極することで、電子機器用の樹脂部材の表面が帯電し、ほこりが付着しやすくなるという課題があった。特に、粒子径が1μm以上の比較的大きな粒子を用いた場合、表面の帯電量が増加しやすくなり、電子機器用の樹脂部材に用いた場合、ほこりが付着しやすくなるという課題があった。
本発明の目的は、電気的特性に優れた電子機器用の樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂部材は、
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする。
本発明の他の樹脂部材は、
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする。
本発明の他の樹脂組成物は、
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電気的特性に優れた電子機器用の樹脂部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】誘電体粒子がマトリックス樹脂に分散した状態を示す概念図である。
【
図2】
図1の誘電体の1次粒子が分極した状態を示す概念図である。
【
図3】本実施形態の電子機器を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。以下の本発明を実施するための形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0009】
≪電子機器用の樹脂部材≫
本実施形態に係る第一の電子機器用の樹脂部材は、マトリックス樹脂と、マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含む樹脂部材である。そして、誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子である。強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下である。凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下である。
【0010】
また、本実施形態に係る第二の電子機器用の樹脂部材は、マトリックス樹脂と、マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含む樹脂部材である。そして、誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子である。常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下である。凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下である。
【0011】
電子機器用の樹脂部材と別の部材との間に摩擦があった際に、これらの間で電子のやり取りが行われ、電子を受け渡した側はプラスの電荷を、電子を受け取った側はマイナスの電荷を帯び、いわゆる帯電した状態になる。強誘電体及び比誘電率10以上である常誘電体(以下、両者をまとめて「誘電体」と称する場合がある。)、特に強誘電体は、その内部で分極し電荷を保持する性質が強いため、電子機器用の樹脂部材の材料に誘電体が含まれる場合、帯電量が大きくなり、ほこりが付着しやすくなる。
【0012】
図1は、誘電体粒子がマトリックス樹脂に分散した状態を示す概念図である。
図1(a)は、粒子径が比較的大きい誘電体の1次粒子が分散した状態を示し、
図1(b)は、粒子径が比較的小さい誘電体の1次粒子が凝集し、
図1(a)の粒子とほぼ同じ粒子径の凝集体粒子(2次粒子)として分散した状態を示す。
図1において、1はマトリックス樹脂、2は誘電体の1次粒子、3は凝集体粒子である。
【0013】
図2は、
図1において誘電体の1次粒子2が分極した状態を示す概念図である。
図2(a)は、
図1(a)において誘電体の1次粒子2が分極した状態を示し、
図2(b)は、
図1(b)において誘電体の1次粒子2が分極した状態を示す。
図2において、誘電体の1次粒子2の帯電状態を濃淡で示している。
【0014】
図1(a)に示す様に誘電体の1次粒子2の粒子径が比較的大きい場合、粒子の体積に比例して一粒子当たりの帯電量が大きくなる。そして、この誘電体の1次粒子2が、マトリックス樹脂1に分散して、電子機器用の樹脂部材の表面近傍にあることで、電子機器用の樹脂部材の表面の帯電量が多くなり、ほこりの付着量が多くなる。
【0015】
これに対し、本実施形態では、電子機器用の樹脂部材内の誘電体粒子が、
図1(b)に示す様に粒子径の比較的小さな誘電体の1次粒子2が凝集して凝集体粒子3を構成する。この場合、凝集体粒子3の粒子径とほぼ同じ粒子径の誘電体の1次粒子2に比べ、電子機器用の樹脂部材の表面の帯電量が小さくなり、ほこりの付着量が抑制される。
【0016】
これは、次の様に考えられる。即ち、
図1(a)に示す様に粒子径の比較的大きな1次粒子の場合、
図2(a)に示す様に、粒子全体にわたって、分極が生じるため、大きな帯電量になる。一方、
図1(b)に示す様に粒子径の比較的小さな1次粒子が凝集して大きな粒子径の凝集体粒子を構成した場合、
図2(b)に示す様に、個別の1次粒子内で分極したものの集合体となる。そのため、電子機器用の樹脂部材の表面に露出する1次粒子しか表面の帯電量に影響を及ぼさない。その結果、本実施形態では、ほこりの付着量が抑制されると考えられる。帯電性は樹脂部材の電気的特性の1つであり、誘電体粒子の形態によって制御することができる。
【0017】
また、誘電体粒子が凝集状態であり、凝集体粒子が一定以上の粒子径であることで、マトリックス樹脂と誘電体粒子との界面の面積が過度に大きくなることがなく、粘度の上昇が低く保たれるため、成形性も良好な状態が保たれる。
【0018】
さらに、凝集体粒子の方が、電磁シールド性に有利になる。電磁シールド性に関連する指標として誘電正接というパラメータがある。
図1(a)の場合に比較して、
図1(b)の場合は、誘電正接が高くなる。誘電正接とは、電波が誘電体と共振した時に、熱に変換されて失われる量を表されるパラメータであり、これが大きいほど、電磁シールド性が優れる。電磁シールド性は樹脂部材の電気的特性の1つであり、誘電体粒子の形態によって制御することができる。
【0019】
≪電子機器用の樹脂部材の製造方法≫
<樹脂組成物>
まず、本実施形態の電子機器用の樹脂部材の製造に使用できる樹脂組成物について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、誘電体粒子と、を含む。本実施形態の樹脂組成物は、さらに、エラストマーを含んでもよく、誘電体粒子以外の、無機材料を主成分とするフィラー粒子を含んでもよい。
【0020】
[マトリックス樹脂]
マトリックス樹脂は、繰り返し構造を持つポリマーであればよく、マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が含まれる。マトリックス樹脂、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0023】
マトリックス樹脂は、極性ポリマーであることが望ましい。極性ポリマーは分子内で分極のある樹脂であり、誘電体粒子の分極と逆方向に配向し、帯電を緩和することができる。
【0024】
極性ポリマーとは、例えば、アミド基、イミド基、カルボニル基(ケトン基)、エステル結合等の極性基を主鎖に含むポリマーのことである。極性ポリマーは、一般的に汎用エンプラやスーパーエンプラと称される樹脂であり、ポリエチレンやポリプロピレンといった汎用樹脂よりも、耐熱性や強度などにおいて高い物性が必要な用途に使用される。また、機械物性値を向上させることが可能となれば、成形物の薄肉化や軽量化が可能となるため、極性ポリマーのさらなる物性向上が期待されている。
【0025】
極性ポリマーとして具体的には、アミド基を有するポリマーとして、例えば、ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。イミド基を有するポリマーとして、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。カルボニル基(ケトン基)を有するポリマーとして、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。エステル結合を有するポリマーとして、例えば、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエステルなどが挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0026】
マトリックス樹脂として、熱可塑性樹脂の中でも結晶性ポリマーを使用することが好ましい。結晶性ポリマーは、分子が決まった方向に配向するため、分子内の分極が非晶の状態より大きくなるため、誘電体粒子の分極を緩和することができる。また、結晶性ポリマーは非晶性ポリマーに比べて、硬度や弾性、剛性に優れる点で有利である。上述した極性ポリマーの中で、結晶性ポリマーは、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。ポリエステルの中でも、ポリアリレートやポリカーボネートは非晶性ポリマーである。極性ポリマーとしては、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、極性ポリマーであると同時に、結晶性ポリマーであり、また、分子の配向が起こりやすいため、より効果的に誘電体粒子の分極を緩和することができる。また、ポリエチレンテレフタレート生産時のCO2排出量が、ポリカーボネート生産時のCO2排出量よりも小さいため、ポリエチレンテレフタレートの使用は、CO2排出量削減に貢献できる。結晶性ポリマーの結晶化度は例えば1~50%であり、好ましくは1~40%である。結晶化度は成形条件(温度や圧力)により制御できる。
【0027】
また、マトリックス樹脂は、架橋剤を用いて架橋させた極性ポリマーでもよい。架橋剤としては、例えば、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート架橋剤などの熱により架橋反応する化合物が挙げられる。極性ポリマーは、例えば、分子量が減少した使用済ポリマーを回収し、架橋剤によって使用済ポリマーを再架橋させて分子量を増加させた再生ポリマーであってもよい。使用済ポリマーおよび再生ポリマーとしては、生産量や使用量の多いポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0028】
本実施形態におけるカルボジイミド架橋剤とは、分子内に少なくとも一つのカルボジイミド基を有する化合物であり、例えば適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加熱し、脱炭酸反応で製造できる。カルボジイミド基は(-N=C=N-)で表される。カルボジイミド架橋剤が用いられたマトリックス樹脂中には、カルボジイミド架橋剤に由来するカルボジイミド基が、高分子の一部として存在する。
【0029】
カルボジイミド架橋剤の例としては、例えば、ジフェニルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-o-トルイルカルボジイミド、ジ-p-トルイルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-o-トルイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン-ビス-シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-トリイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド、N,N’-ベンジルカルボジイミド、N-オクタデシル-N’-フェニルカルボジイミド、N-ベンジル-N’-フェニルカルボジイミド、N-オクタデシル-N’-トリルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-トリルカルボジイミド、N-フェニル-N’-トリルカルボジイミド、N-ベンジル-N’-トリルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-エチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-エチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-o-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2-エチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2-イソブチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物;ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0030】
本実施形態におけるオキサゾリン架橋剤とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物である。特に、その原料モノマーの少なくとも一つとしてオキサゾリン化合物を含むモノマーを使用して合成されるポリマーが好ましい。オキサゾリン化合物としては、2-オキサゾリン、3-オキサゾリン、4-オキサゾリン化合物があり、いずれを用いてもよいが、特に2-オキサゾリン化合物が反応性に富みかつ工業的にも実用化されている。オキサゾリン化合物としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン,5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-5,6-ジヒドロ-4H-1,-オキサジン、4,4,6-トリメチル-2-ビニル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン,4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン,4-アクリロイル-オキシメチル-2,4-ジメチル-2-オキサゾリン,4-メタクリロイル-オキシメチル-2,4-ジメチル-2-オキサゾリン、4-メタクリロイル-オシメチル-2-フェニル-4-メチル-2-オキサゾリン,2-(4-ビニルフェニル)-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン,4-エチル-4-ヒドロキシメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-エチル-4-カルボエトキシメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態におけるエポキシ系架橋剤には、例えば、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。
【0032】
グリシジルエーテル化合物の例としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応から得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0033】
グリシジルエステル化合物の例としては、例えば、安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げることができる。なかでも、安息香酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
【0034】
グリシジルアミン化合物の例としては、例えば、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロモアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。グリシジルイミド化合物の例としては、N-グリシジルフタルイミド、N-グリシジル-4-メチルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-3-メチルフタルイミド、N-グリシジル-3,6-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-4-エトキシフタルイミド、N-グリシジル-4-クロルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジクロルフタルイミド、N-グリシジル-3,4,5,6-テトラブロムフタルイミド、N-グリシジル-4-n-ブチル-5-ブロムフタルイミド、N-グリシジルサクシンイミド、N-グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N-グリシジル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、N-グリシジルマレインイミド、N-グリシジル-α,β-ジメチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-エチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-プロピルサクシンイミド、N-グリシジルベンズアミド、N-グリシジル-p-メチルベンズアミド、N-グリシジルナフトアミド、N-グリシジルステラミドなどを挙げることができる。なかでも、N-グリシジルフタルイミドが好ましい。
【0035】
脂環式エポキシ化合物の例としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-エチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-フェニル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-ナフチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-トリル-3-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミドなどを挙げることができる。
【0036】
また、その他のエポキシ化合物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油などのエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノゾラック型エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0037】
本実施形態で用いるイソシアネート架橋剤について、当該化合物中に官能基としてイソシアネート基を有するものであれば特に限定されるものではなく、公知のポリイソシアネート架橋剤を用いることができる。具体的には一般に使用される水分散型ポリイソシアネート系架橋剤が使用できる。水分散性ポリイソシアネート系架橋剤は、ポリイソシアネートポリマーに親水基を導入したものであり、水に添加・攪拌すると、微粒子として水中に分散することが可能である。
【0038】
水分散性ポリイソシアネートを構成するポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルイソシアネート、(m-もしくはp-)フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4-フェニルイソシアネート)等の芳香族ポリイソシアネート;水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-(または-2,6-)ジイソシアネート、1,3-(または1,4-)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート化合物が挙げられる。かかるポリイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート構造、ウレタン構造、ビウレット構造、アロファネート構造、ウレトジオン構造、三量体構造等を有するポリイソシアネート化合物を用いることもできる。イソシアネート基を活性水素基でブロックしたいわゆるブロックイソシアネートを使用してもよい。
【0039】
マトリックス樹脂は、これら極性ポリマーのうち一種又はこれらの混合物から形成されることが好ましい。
【0040】
[誘電体(強誘電体及び比誘電率10以上である常誘電体)]
強誘電体としては、強誘電性を示すものであれば特に限定されない。強誘電体は、典型的にはペロブスカイト構造を有するが、正方晶や菱面体結晶(ロンボヘドラル)であってもよい。強誘電体としては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛等のチタン酸化合物、鉄酸ビスマス(ビスマスフェライト)、タンタル酸ストロンチウムビスマス、ニオブ酸ストロンチウムビスマス等が挙げられる。また、チタン酸化合物のチタンを同族のHf、Zrで置換したもの、チタン酸バリウムのBaを同族のCaやSrで置換したものであってもよい。直方晶の酸化ハフニウムが強誘電性を示すことも知られている。これらのうちでも、比誘電率が高いことから、チタン酸化合物が好ましく、チタン酸バリウムがさらに好ましい。強誘電体は、単独で用いてもよく、2種類以上を適宜混合して使用してもよい。
【0041】
また、強誘電体粒子は、高誘電率の結晶からなるコア部と、コア部を取り囲む比較的誘電率の低いシェル部の2相を有するコアシェル構造を有していもいい。例えば、強誘電体粒子は、チタン酸バリウムの結晶からなるコア部と、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)等の希土類元素を含有するシェル部を有するコアシェル構造を有していもいい。
【0042】
比誘電率が10以上である常誘電体としては、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム(ハフニア)、酸化イットリウム(イットリア)、酸化ランタン、酸化セリウム(セリア)、酸化タンタル、酸化ニオブ、チタン酸亜鉛、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム等が挙げられる。常誘電体の比誘電率は、好ましくは50以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは500以上、より更に好ましくは1,000以上である。
【0043】
強誘電体粒子(1次粒子)、比誘電率が10以上である常誘電体粒子(1次粒子)の粒子径(1次粒子径)は、10nm以上1,000nm以下であることが好ましい。誘電体の1次粒子の粒子径が1,000nmより大きい場合、粒子内の帯電量が大きくなり、電子機器用の樹脂部材の表面の帯電量が大きくなってしまう。そのため、誘電体の1次粒子の粒子径は、1,000nm以下であることが好ましい。誘電体の1次粒子の粒子径が300nm以下であると、帯電量が減少するため、ほこりの付着がさらに抑制され、より好ましい。また、誘電体の1次粒子の粒子径が10nmより小さいと、粒子間の凝集力が高くなり、凝集体粒子を構成した際、粒子間で電荷のやり取りが生じて、凝集体粒子全体で帯電量が大きくなり、電子機器用の樹脂部材の表面の帯電量が大きくなってしまう。そのため、誘電体の1次粒子の粒子径は、10nm以上であることが好ましい。誘電体の1次粒子の粒子径が50nm以上であると、粒子間の凝集力が落ち、粒径の制御性が上がるため、より好ましい。
【0044】
誘電体は凝集状態であることが好ましい。さらには、凝集体粒子(2次粒子)の粒子径(2次粒子径)は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。凝集体粒子の粒子径が1μm未満であると、凝集体粒子の表面積が大きくなり、マトリックス樹脂との界面の面積が増えて、溶融粘度が上がって、良好な成形性を得ることができない。そのため、凝集体粒子の粒子径は、1μm以上であることが好ましい。凝集体粒子の粒子径が5μm以上であると、さらに良好な流動性が得られ、より好ましい。また、凝集体粒子の粒子径が5μm以上であれば、凝集体粒子内の誘電体粒子間で複雑に電荷が干渉しあうため、誘電正接が高くなり、電磁シールド性がさらによくなり、より好ましい。一方、凝集体粒子の粒子径が100μmより大きいと、凝集体粒子の影響で表面性が悪くなるため、良好な成形性を得ることができない。このため、凝集体粒子の粒子径は、100μm以下であることが好ましい。凝集体粒子の粒子径が50μm以下であると、表面性がさらに良好となるため、より好ましい。
【0045】
凝集体粒子の形状は、特に限定されないが、鱗片状であることが好ましい。凝集体粒子の形状が鱗片状であると、凝集体粒子が、結晶核剤や結晶化促進剤として機能し、凝集体粒子の周辺で、マトリックス樹脂の結晶化が促進される。その結果、電子機器用の樹脂部材内に、結晶化の促進された部分と、結晶化の促進されない部分が存在する。結晶化の促進された部分と、結晶化の促進されない部分は弾性率が異なるため、少量の凝集体粒子が不均一に存在すると、振動が発生した際、不均一に変形し、剪断摩擦によるエネルギー損失が生じ、制振性が向上する。
【0046】
凝集体粒子のアスペクト比は、3以上20以下であることが好ましい。凝集体粒子のアスペクト比が3未満では、成形時に凝集体粒子が表面に露出しやすくなる可能性があるため、表面の帯電量が多くなる可能性がある。さらに、表面帯電量が下がるため、凝集体粒子のアスペクト比は5以上であることが好ましい。一方、凝集体粒子のアスペクト比が20を超えると、凝集体粒子の影響で表面性が悪くなる可能性があるため、良好な成形性を得ることができない可能性がある。さらに、表面性が良くなるため、凝集体粒子のアスペクト比は10以下であることが好ましい。
【0047】
凝集体粒子の単位面積当たりの個数は、1個/mm2以上100個/mm2以下が好ましい。凝集体粒子の単位面積当たりの数が1個/mm2未満では、誘電正接が低くなる可能性がある。一方、凝集体粒子の単位面積当たりの数が100個/mm2を超えると、表面近傍の誘電体粒子が多くなり表面の電荷が高くなる可能性があるため、ほこりの吸着が増加する可能性がある。
【0048】
誘電体の1次粒子の粒子径、凝集体粒子の粒子径、凝集体粒子のアスペクト比、凝集体粒子の個数の測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0049】
即ち、本実施形態の電子機器用の樹脂部材について、断面研磨やミクロトーム、イオンミリング等の前処理によって、横方向断面サンプルを製作する。イオンミリングは断面の平滑性が高く、粒子の脱落を抑制できるので好適である。加工によってサンプルの温度が上昇する場合にはクライオ処理などの冷却を行ってもよい。
【0050】
その後、以下に示す条件で走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行い、断面のSEM像を取得する。なお、粒子径に応じて、観察倍率を使い分けることが好ましい。例えば、粒子径が100nm以下の場合には50,000倍の倍率で観察を行い、粒子径が100nmを超える場合には10,000倍の倍率で観察を行い、さらに粒子径が10μmを超える場合には1,000倍の倍率で観察を行うことが好ましい。
【0051】
得られたSEM像から、以下に示す条件の二値化および画像解析によって、電子機器用の樹脂部材断面の任意の範囲における誘電体粒子のメディアン径を誘電体粒子の粒子径とする。電子機器用の樹脂部材断面の任意の範囲は、例えば隣接する2辺の長さが長さLと長さMである四辺形の領域とすることができる。長さLおよび長さMは、例えば5μm以上であり、好ましくは10μm以上であり、例えば500μm以下であり、例えば100μm以下である。長さLと長さMは、同じであってもよいし、異なっていてもよく、長さMに対する長さLの比は、0.5以上2以下であってもよい。なお、SEM像の二値化および画像解析は米国国立衛生研究所の画像処理ソフトウェアImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いる。
【0052】
[条件]
{装置名}
ショットキー電界放出形走査型電子顕微鏡 JSM-F100(日本電子(株)製)
{加速電圧}
3kV
{倍率}
10,000倍または1,000倍
{測定範囲}
12.8μm×9.6μm(10,000倍)または128μm×96μm(1,000倍)
{評価数}
10エリア/サンプル
{二値化および画像解析}
ImageJ
{二値化法}
MaxEntropy(誘電体粒子を二値化により分離できるよう、閾値は適宜修正する。画像処理ソフトウェアにより二値化できない場合は、別途ペイントソフト等により、誘電体粒子のみ目視によって塗りつぶした画像を用意する。)
{粒子径の計算方法}
凝集体粒子の粒径が最大となる位置での長さを長径とし、この長径と直交する方向で長さが最大となる位置での長さを短径とし、各粒子の粒子径は、(長径+短径)/2とした。
粒子径の代表値(統計値)としては、中央値(メディアン径;50%粒子径)を用いた。この他、粒子径の代表値として、平均値(平均粒子径)や最頻値(モード径)を用いることもできる。
{アスペクト比の計算方法}
長径/短径(質量平均値)
{凝集体粒子の単位面積当たりの個数の計算方法}
二値化した画像から、接触した誘電体の1次粒子の集団を1つの凝集体粒子と判断し、観察画像から凝集体粒子の数を計測し、観察面積で割った数値を、凝集体粒子の単位面積当たりの個数とした。
【0053】
誘電体粒子の含有量は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。誘電体粒子の含有量が0.1質量%未満では、誘電正接が低く、電磁シールド性を発揮しにくい可能性がある。誘電体粒子の含有量が1質量%以上であれば、誘電正接が増加し、さらに良好な電磁シールド性が発揮され、より好ましい。一方、誘電体粒子の含有量が30質量%より多いと、表面近傍の誘電体粒子が多くなって表面の電荷が高くなる可能性があり、ほこりの吸着が増加する可能性がある。誘電体粒子の含有量が10質量%以下であれば、ほこりの吸着量が減るため、より好ましい。
【0054】
[エラストマー材料]
樹脂に対するエラストマー材料の添加は衝撃強度を向上させることが知られている。そのため、本実施形態においては、さらなる衝撃強度の向上のため、エラストマー材料を含有してもよい。エラストマー材料の含有量は、30質量%以下であることが好ましい。エラストマー材料は、架橋点の役割を果たすハードセグメントと、ゴム弾性を示すソフトセグメントの組み合わせからなる共重合体であり、プラスチックとゴムのそれぞれの性質を併せ持っている熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0055】
エラストマー材料としては、例えば、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられる。エラストマー材料は、アクリル系エラストマーまたはエステル系エラストマーであることが好ましい。
【0056】
ウレタン系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが、ウレタン基を含むポリウレタンであり、ソフトセグメントが、エステル結合を含むポリエステルまたはエーテル結合を含むポリエーテルであるエラストマー等が挙げられる。なお、ウレタン基及びエステル結合は極性を持つ。
【0057】
エステル系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが、エステル結合を含むポリエステルであり、ソフトセグメントが、エステル結合を含むポリエステルまたはエーテル結合を含むポリエーテルであるエラストマー等が挙げられる。なお、エステル結合は極性を持つ。
【0058】
アミド系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが、アミド基を含むポリアミドであり、ソフトセグメントが、エステル結合を含むポリエステルまたはエーテル結合を含むポリエーテルであるエラストマー等が挙げられる。なお、アミド基およびエステル結合は極性を持つ。
【0059】
アクリル系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが、メタクリル酸メチルの重合体であってエステル結合を有するポリメチルメタクリレートであり、ソフトセグメントが、エステル結合を有するアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等の共重合体であるエラストマー等が挙げられる。また、ハードセグメントが、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、ソフトセグメントが、メタクリル酸メチルの重合体であってエステル結合を有するポリメチルメタクリレートであるエラストマー等が挙げられる。なお、エステル結合は極性を持つ。
【0060】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、ソフトセグメントが、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等であるエラストマー等が挙げられる。
【0061】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがポリスチレンであり、ソフトセグメントが、ブタジエン、イソプレン、エチレン等であるエラストマー等が挙げられる。
【0062】
マトリックス樹脂が極性ポリマーである場合、エラストマー材料は、マトリックス樹脂との親和性の観点から、極性基を有することが好ましい。エラストマー材料が有する極性基は、例えば、ウレタン基、アミド基、エステル結合等である。特に、エラストマー材料は、ハードセグメントまたはソフトセグメントのいずれか一方または両方にエステル結合を有することが好ましい。
【0063】
エラストマー材料がエステル結合などの極性基を有することで、エラストマー材料が耐熱性を有し、極性ポリマー、特に耐熱性が高い極性ポリマーと溶融混練が可能となる。また、エステル結合を有するエラストマー材料は機械物性が比較的高く、物性向上に寄与する。
【0064】
エラストマー材料のガラス転移点(ガラス転移温度)が常温よりも低いことで、常温でエラストマーとして作用する。エラストマー材料のガラス転移点は、0℃よりも低いことが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。
【0065】
エラストマー材料を、熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂と溶融状態で溶融混練して、エラストマー粒子として、マトリックス樹脂中に微分散させることで、衝撃強度が向上する。そのため、マトリックス樹脂と溶融混練可能であるように、エラストマー材料の融点は、樹脂組成物の加熱温度(成形温度)よりも低いことが好ましい。樹脂組成物の加熱温度は、熱可塑性ポリマーであるマトリックス樹脂が溶融する温度であり、マトリックス樹脂のガラス転移点より高く、マトリックス樹脂が結晶性ポリマーであればマトリックス樹脂の融点よりも高いことが好ましい。したがって、エラストマー材料の融点は、マトリックス樹脂の融点よりも低いことが好ましい。エラストマー材料の融点がマトリックス樹脂の融点よりも高くてもよいが、このことは、エラストマー材料を溶融させるためのマトリックス樹脂への加熱によってマトリックス樹脂の分子量が低下するなど熱劣化の原因となりうる。マトリックス樹脂が結晶性ポリマーである場合、エラストマー材料の融点は、マトリックス樹脂のガラス転移点より高くてよい。マトリックス樹脂が非晶性ポリマーである場合、マトリックス樹脂の融点は定義されないので、エラストマー材料の融点は、マトリックス樹脂のガラス転移点よりも低いことが好ましい。
【0066】
マトリックス樹脂のガラス転移点は、使用時の強度を確保するために50℃以上であることが好ましく、加工性を考慮して200℃以下であることも好ましい。マトリックス樹脂の融点は、耐熱性を考慮して100℃以上であることが好ましく、200℃以上であることが好ましく、加工性を考慮して300℃以下であることが好ましい。エラストマー材料の融点は、使用時の強度を確保するために、50℃以上であることが好ましく、加工性を考慮して300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることが好ましい。
【0067】
エラストマー材料は、ゴム弾性すなわち柔軟性を有するがゆえに、マトリックス樹脂の衝撃強度の向上に寄与する。エラストマーを含有する樹脂組成物を成形して得られる成形体に衝撃を付与した際に、エラストマー粒子を中心にマトリックス樹脂が配向し、クレーズが形成されることでより効率的に衝撃を緩和できる。そのため、エラストマー粒子が微細に多数個分散していることが好ましい。このため、エラストマー粒子の粒子径は10μm以下であることが好適であり、より好ましくは5μm以下である。エラストマー粒子が力学的に効率よく機能するために、エラストマー粒子の粒子径は0.1μm以上であることが好適であり、より好ましくは0.5μm以上である。エラストマー粒子は、典型的には溶融混練によって分散混合されて形成される粒子であり、そのようなエラストマー粒子の粒子径を、分散粒子径あるいは分散粒径と称することができる。粒子径は、例えば、誘電体粒子の粒子径と同様の方法で測定することができる。
【0068】
[フィラー粒子]
樹脂に対するフィラー粒子の添加は、曲げ弾性率をはじめとした力学特性を向上させることが知られている。そのため、本実施形態においては、さらなる曲げ弾性率、衝撃強度の向上のため、誘電体粒子以外の、無機材料を主成分とするフィラー粒子を含有してもよい。無機材料の比誘電率は10未満であることが好ましい。フィラー粒子の含有量は、40質量%以下であることが好ましい。フィラー粒子の形状は、真球や扁球などの球状、多面体状、不定形状、板状、鱗片状、針状あるいは繊維状などである。針状あるいは繊維状のフィラー粒子の長さは、例えば100μm以下であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0069】
無機材料を主成分とするフィラー粒子としては特に制限はないが、例えば、雲母、ガラス繊維、ガラス球、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、クレー類、タルク、酸化シリコン(シリカ)、ウォラストナイト、フォルステライト、ゼオライト、けい藻土、けい砂、フライアッシュ、軽石粉、スレート粉、酸化アルミニウム(アルミナ)、アルミナホワイト、硫酸アルミニウム、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、シラスバルーン、フライアッシュバルーンなどの粒子が挙げられる。
【0070】
フィラー粒子は、フィラー粒子の主成分である無機材料の基体と、当該基体を覆う有機材料あるいは無機材料の表面層を有していてもよい。表面層の厚さは、例えば100nm以下であり、10nm以下であることが好ましい。無機材料を主成分としたフィラー粒子において、無機材料が占める体積は、有機材料が占める体積よりも大きく、90体積%以上であることが好ましい。
【0071】
エラストマー粒子を含有する成形体に衝撃を付与した際、エラストマー粒子を中心にマトリックス樹脂が配向し、クレーズが形成されることで、より効率的に衝撃を緩和できる。この際、フィラー粒子が材料欠陥となることで衝撃強度の低下が起こることを避けるため、フィラー粒子は小粒子径であることが好ましい。フィラー粒子が、粒子径の大きい粗大粒子である場合、フィラー粒子が応力集中点として作用するため、衝撃強度が低下し、クラックが進展する可能性がある。一方で、樹脂組成物製造工程において、粒子を十分に解砕分散させるため、粒子径が小さいことによって生じる粒子凝集による分散不良を避けることが好ましい。フィラー粒子が、粒子径の小さい微細粒子である場合、樹脂組成物製造工程において、粒子凝集によってフィラー粒子を分散させることが困難となる可能性がある。その結果、粒子凝集による材料欠陥が生じ、衝撃強度の低下を招き、クラックが進展する可能性がある。
【0072】
このため、独立分散するフィラー粒子の粒子径は、例えば10μm以下であり、5μm以下が好適であり、好ましくは2μm以下である。フィラー粒子の粒子径が10μm以下であれば、フィラー粒子の添加による衝撃強度の低下を良好に抑制することができる。また、粒子径が0.2μm以上であれば、フィラー粒子をマトリックス樹脂中に良好に微分散させることができ、衝撃強度の低下を抑制することができる。このため、フィラー粒子の粒子径は0.2μm以上かつ10μm以下であることが好適であり、より好ましくは0.2μm以上かつ5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以上かつ2μm以下である。樹脂組成物は、粒子径が10μmを超えるフィラー粒子を含有していてもよい。粒子径が10μmを超えるフィラー粒子の粒子径は100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。粒子径は、例えば、誘電体粒子の粒子径と同様の方法で測定することができる。
【0073】
フィラー粒子は、カップリング剤や脂肪酸などの表面処理剤によって基体が表面処理されていることが好ましい。表面処理されたフィラー粒子については、あらかじめ表面処理された市販品を用いてもよいし、樹脂組成物の製造時に別途表面処理工程を設けてもよい。表面処理剤の使用量は、処理対象のフィラー粒子の比表面積と表面処理剤の最小被覆面積から算出することが可能である。なお、粒子径が小さいフィラー粒子を使用する際には、フィラー粒子の比表面積が大きくなるため、表面処理剤の使用量は必然的に増加する。このため、使用する表面処理剤の添加量には幅があり、フィラー粒子に対して0.5質量%から5質量%程度添加することが一般的である。処理方法としてはインテグラルブレンド法などの乾式処理法や、表面処理剤水溶液による湿式処理法など既知の方法で行うことができる。表面処理によって形成された表面層は、フィラー粒子の一部を構成する。
【0074】
表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等のシランカップリング剤が挙げられる。また、チタネート系やアルミネート系のカップリング剤を用いてもよい。また、脂肪酸としてはラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。これらのうちでも、シランカップリング剤が好ましい。これらの表面処理剤は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0075】
[その他の成分]
本実施形態の樹脂組成物には、必要に応じて他の各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤の種類は、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー材料の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。機能性を向上する各種添加剤として、難燃剤やワックス、各種脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸の金属塩等の滑剤・離型剤、各種帯電防止剤、脂肪酸エステル、ポリオレフィンやオレフィン共重合エラストマー、ポリシロキサン等の摺動性向上剤、ポリアミド樹脂やアクリルアミドの重合体、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物及びその誘導体、尿素及びその誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物、エポキシ化合物といった分解抑制剤、メラミンやアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩などの蟻酸捕捉剤、有機リン系化合物等の難燃剤が挙げられる。また、長期安定性を向上する各種添加剤として、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル化合物等の紫外線吸収剤やヒンダートアミン系光安定剤、ヒンダートフェノール系の酸化防止剤等も挙げられる。上記添加剤は、一種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物は、誘電体粒子以外の、遷移金属元素を含む金属材料、遷移金属元素を含む化合物材料、典型金属元素を含む金属材料、典型金属元素を含む化合物材料の少なくとも一種を含有してもよい。
【0077】
遷移金属元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などが挙げられる。典型金属元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)などが挙げられる。なお、ケイ素(Si)やヒ素(As)は、ゲルマニウム(Ge)やアンチモン(Sb)と共に半金属に分類されうるが、ここでは、ケイ素(Si)とヒ素(As)は非金属元素として扱っている。金属材料は金属単体もしくは合金であり、金属元素を含む化合物である金属化合物は、例えば、金属元素の酸化物や窒化物、炭化物、無機酸塩、有機酸塩である。金属化合物は、複数の遷移金属元素、複数の典型金属元素あるいは遷移金属元素と典型金属元素とを含む複合化合物であってもよい。化合物は無機化合物と有機化合物に分類されるが、金属化合物である有機化合物、すなわち有機金属化合物は炭素と金属元素の結合を持つ化合物であるものとする。
【0078】
ここで挙げた遷移金属元素や典型金属元素を含む材料は、マトリックス樹脂に分散した粒子径が0.1μm以上のフィラー粒子であってもよいし、粒子径が0.1μm未満の粒子であってもよい。また、エラストマー粒子を含む場合、ここで挙げた遷移金属元素や典型金属元素を含む材料は、エラストマー粒子よりも小さい粒子でありうるし、エラストマー粒子3分散した粒子でありうる。あるいは、ここで挙げた遷移金属元素や典型金属元素を含む材料は、マトリックス樹脂やエラストマー粒子に溶解していてもよい。
【0079】
ここで挙げた遷移金属元素や典型金属元素を含む材料の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下で、マトリックス樹脂、誘電体粒子の含有量よりも少ないことが好ましい。この範囲であれば、強誘電体相互作用を起こし、誘電正接が高まることがある。
【0080】
マトリックス樹脂とエラストマー材料とで特定の金属元素の含有量が異なる場合、当該金属元素の分布画像(マッピング画像)を取得することで、観察画像におけるマトリックス樹脂とエラストマー材料との区別を容易にすることができる。例えば、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)あるいはチタン(Ti)は、極性ポリマーを重合する際の重合触媒としての化合物に含まれ、マトリックス樹脂に溶解もしくは分散しうる。あるいは、遷移金属元素や典型金属元素を含む材料は、樹脂組成物に着色するための顔料としての化合物に含まれ、マトリックス樹脂に分散し得る。あるいは、複数のフィラー粒子が、例えば、炭酸カルシウムを主成分とするフィラー粒子と、酸化チタンを主成分とするフィラー粒子とを含んでいて、この両方が、独立分散していてもよい。
【0081】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、予め、誘電体の1次粒子を凝集させて凝集体粒子を形成することが好ましい。具体的には、例えば、誘電体の1次粒子に、ポリビニルブチラール、フタル酸ジオクチル、トルエン、エタノール等を添加して、ボールミルで混合分散させ、誘電体スラリーを作成する。その後、アプリケータ等を用い、誘電体スラリーを、ポリエチレンテレフタレート製フィルム等に塗工し、乾燥させ、誘電体層を形成する。スキージ等を用いて、誘電体層を剥離し、剥離した誘電体層を、ボールミル等を使って粉砕し、誘電体の凝集体粒子を得ることができる。この際、例えば、粉砕時間を調整することで、凝集体粒子の粒子径やアスペクト比を調整することができる。
【0082】
マトリックス樹脂と誘電体粒子を混合する手段としては、例えば、2軸押出機やニーダー等のようにスクリューや羽根を用いて、樹脂組成物を溶融し、剪断を加える方法が挙げられる。また、ロールミルのように、近接した複数のロール上に樹脂組成物を通すことで、溶融し、剪断を加える方法が挙げられる。また、剪断を加えた樹脂組成物は、ストランドとして連続的に吐出したものを細かく切断することで、ペレット化する方法や、樹脂塊として取出し、粉砕機にかけることによって微細化する方法もある。本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、マトリックス樹脂と、誘電体粒子を溶融混練する工程を有してもよい。混練装置としては、例えば、二軸押出機、二本ロール等が挙げられ、具体的には、TEM型押し出し機(東芝機械社製)、TEX二軸混練機(日本製鋼所社製)、PCM混練機(池貝鉄工所社製)、ニーデックス(日本コークス社製)等が挙げられる。
【0083】
<成形方法>
成形方法としては、特に限定されない。たとえば射出成形、押し出し成形、プレス成形、トランスファー成形などがある。金型からの押し出し成形で製造したペレットを用いて、射出成形を行ってもよい。この中では、樹脂組成物を溶融して金型に射出する射出成形が好ましい。射出成形は成形サイクルタイムが短く効率よく製造することが可能であるからである。射出成形によって成形された樹脂組成物を射出成形体と称することができる。また、射出成形で形成した成形体を、ブロー成形などでさらに加工してもよい。
【0084】
≪電子機器≫
図3に示すように、本実施形態の電子機器100は、本実施形態の電子機器用の樹脂部材10a、10bを有する。電子機器100としては、プリンタ、複写機等の事務機器、CT等の医療機器、プロジェクタ、ディスプレイ等の映像機器等が挙げられる。これら各種の電子機器は、本実施形態の電子機器用の樹脂部材10a、10bの他に、電気部品13、光学部品12および金属部品11の少なくともいずれかを有する。これらの電気部品13、光学部品12あるいは金属部品11は、電子機器100の機能を実現する。金属部品11は、電子機器100の機械的強度を確保するための筐体にも用いられうる。樹脂部材10a、10bの体積は、10
3mm
3以上でありうる。樹脂部材10a、10bの体積は、好ましくは10
4mm
3以上であり、10
8mm
3以下であってもよく、10
6mm
3以下であってもよい。体積が大きいほど、樹脂部材の厚みは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であってもよく、5mm以下であってもよい。
【0085】
電子機器用の樹脂部材10a、10bは、電子機器100の機械的な強度を確保したり、電子機器100を機械的に保護したりする部材として用いられうる。電子機器用の樹脂部材10aは、電子機器100の外装体、例えば外装カバーであってもよい。この外装体は、金属製の筐体(金属部品11)に固定されていてもよい。本実施形態の電子機器用の樹脂部材10bは、機器100の内装体、例えば機構部品であってもよい。この内装体は、金属製の筐体(金属部品11)に固定されていてもよい。電子機器用の樹脂部材10a、10bが電波のシールド性を有することは、電子機器100の安定動作や電子機器100からの電波放射抑制の点から好ましい。
【実施例0086】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。本実施例(比較例も含む)において用いた材料は以下の通りである。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
≪実施例1≫
(1)凝集体粒子の製造
強誘電体粒子B-1の50質量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)「エスレックB・KBM-2」)5質量部、フタル酸ジオクチル(関東化学(株)「フタル酸ジオクチル鹿特級」)2質量部に、トルエン69質量部、エタノール46質量部を添加して、ボールミルで混合分散させ、強誘電体スラリーを作成した。
【0091】
アプリケータを用い、この強誘電体スラリーを、ポリエチレンテレフタレート製フィルムに均一に塗工した。その後、80℃で10分間乾燥させ、強誘電体層を得た。スキージを用いて、強誘電体層を剥離した。剥離した強誘電体層を、ボールミルを使って粉砕し、強誘電体の凝集体粒子を得た。
【0092】
(2)ペレットの製造
マトリックス樹脂A-1の95質量部、得られた凝集体粒子5質量部を、2軸押し出し機を用いて混練し、ペレットを得た。このぺレットの溶融粘度を以下の方法で測定し、評価した。結果を表4に示す。
【0093】
<溶融粘度>
溶融粘度:JIS-K-7199:1999に準拠し、具体的には、インテスコ全自動キャピラリーレオメーター((株)インテスコ)を用い、d=1mm、L/D=30のキャピラリーを用い、剪断速度=1,000/secにおける溶融粘度を測定した。以下の基準で評価し、A評価からD評価までを高評価、E評価を低評価とした。
A:150Pa・s以下。
B:150Pa・sを超えて250Pa・s以下。
C:250Pa・sを超えて400Pa・s以下。
D:400Pa・sを超えて1,000Pa・s以下。
E:1,000Pa・sを超える。
【0094】
(3)成形体(電子機器用の樹脂部材及び試験片)の製造
(3-1)電子機器用の樹脂部材の製造
得られたペレットを、縦120mm横120mm厚み5mm、表面粗さRa1.0μmの電子機器用の樹脂部材を模した金型に射出し、電子機器用の樹脂部材を射出成形した。この電子機器用の樹脂部材に含まれる強誘電体の電子顕微鏡観察を行い、凝集体粒子の粒子径、アスペクト比、個数を求めた。結果を表4に示す。
【0095】
また、この電子機器用の樹脂部材にてついて、以下の方法で、表面帯電量、ほこり付着量、表面粗さを測定し、評価した。結果を表4に示す。
【0096】
<表面帯電量>
成形した電子機器用の樹脂部材を、低発塵ワイパー(旭化成(株)「ベンコット・S-2」)で100回摩擦し、10分間放置した。その後、電子機器用の樹脂部材の上部を、デジタル静電電位測定器(春日電機(株)「KSD-0103」)を用いて測定した。3回測定し、その平均を測定値とした。
【0097】
<ほこり付着量>
成形した電子機器用の樹脂部材の表面にセルロース粉(富士フイルム和光純薬(株)「セルロース粉末38μm通過」)を付着させた後、空気を勢いよく吹きつけ、表面のセルロース粉を除去した。以下の基準で評価し、A評価からD評価までを高評価、E評価を低評価とした。
A:除去しない状態で、セルロース粉が付着していない。
B:除去後、セルロース粉が付着していない。
C:除去後、わずかながらセルロース粉が付着している。
D:除去後、セルロース粉が多量に付着している。
E:除去後、セルロース粉が全面に付着している。
【0098】
<表面粗さ(成形性の評価)>
成形した電子機器用の樹脂部材の表面粗さを測定し、成形性を評価した。具体的には、成形した電子機器用の樹脂部材について、JIS-B0601に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)を求め、以下の基準で成形性を評価し、A評価からD評価までを高評価、E評価を低評価とした。
A:0.3μm以下。
B:0.3μmを超えて0.5μm以下。
C:0.5μmを超えて0.7μm以下。
D:0.7μmを超えて1.0μm以下。
E:1.0μmを超える。
【0099】
(3-2)試験片の製造
得られたペレットを、高さ30mm、直径8mmの円柱状の試験片用の金型に射出し、試験片を射出成形した。この試験片にてついて、以下の方法で、誘電正接を測定し、評価した。結果を表4に示す。
【0100】
<誘電正接(電磁シールド性の評価)>
試験片の誘電正接を測定し、電磁シールド性を評価した。具体的には、試験片について、キーコム(株)製、摂動法空洞共振器タイプDPS18を用い、3GHzでの誘電率、誘電正接を測定し、以下の基準で電磁シールド性を評価した。
A:0.01以上。
B:0.01未満0.001以上。
C:0.001未満0.0005以上。
D:0.0005未満0.0002以上。
E:0.0002未満。
【0101】
≪比較例1≫
凝集体粒子を製造せず、強誘電体粉末B-5をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。表面帯電量が-4.1kVであり、ほこりの付着量がE評価であり、埃の付着性の悪化が確認された。強誘電体粒子の粒子径が大きかったため、表面帯電量が多くなり、ほこりの付着性が悪化したと考えられる。
【0102】
≪比較例2≫
凝集体粒子を製造せず、強誘電体粉末B-2をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。溶融粘度が2,356Pa・s、E評価であり、流動性の悪化が確認された。粒子径の小さな強誘電体粒子が凝集することなく、マトリックス樹脂に分散したため、粘度が上昇したと考えられる。
【0103】
≪比較例3≫
強誘電体粒子B-3を用いた以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。表面粗さがRa1.61μmで、E評価であり、表面性の悪化が確認された。凝集体粒子の粒子径が大きいため、表面性が悪くなったと考えられる。
【0104】
≪実施例2≫
強誘電体粒子B-2を用いた以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0105】
≪実施例3≫
凝集体粒子の製造において、ボールミルを使って粉砕する時間を変えて、凝集体粒子の粒子径やアスペクト比を調整した以外は、実施例2と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0106】
≪実施例4乃至7≫
凝集体粒子の製造において、ボールミルを使って粉砕する時間を変えて、凝集体粒子の粒子径やアスペクト比を調整した以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0107】
≪実施例8≫
強誘電体粒子B-4を用いた以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0108】
≪実施例9,10≫
それぞれマトリックス樹脂A-2,A-3を用いた以外は、実施例2と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表5に示す。
【0109】
≪実施例11乃至14≫
強誘電体粒子の配合量を表5に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表5に示す。
【0110】
≪実施例15乃至21≫
ペレットの製造において、それぞれ、その他の成分C-1乃至C-7を表5に示す量で、マトリックス樹脂、凝集体粒子と共に混練した以外は、実施例1と同様にして、凝集体粒子、ペレット及び成形体を製造し、評価した。結果を表5に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
本発明は、以上説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、本発明の実施形態及び実施例に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態及び実施例に記載されたものに限定されない。
【0114】
また、少なくとも1つの実施形態に新たな事項の追加を行うことができる。なお、本明細書の開示内容は、本明細書に明示的に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。
【0115】
なお、本明細書で例示した具体的な数値範囲について、e~fという記載(e、fは数字)は、e以上および/またはf以下という意味である。また、例示した具体的な数値範囲について、i~jという範囲およびm~nという範囲が併記(i、j、m、nは数字))してある場合には、下限と上限の組は、iとjの組またはmとnの組に限定されるものではない。例えば、複数の組の下限と上限を組み合わせて検討もよい。すなわち、i~jという範囲およびm~nという範囲が併記してある場合には、矛盾が生じない範囲において、i~nという範囲で検討を行ってもよいし、m~jという範囲で検討を行ってもよいものである。また、e以上であることは、eであるかeよりも大きい(eを超える)ことを意味し、eを採用せずにeよりも大きい値を採用してもよい。また、f以下であることは、fであるかfよりも小さい(f未満)ことを意味し、fを採用せずにfよりも小さい値を採用してもよい。
【0116】
また、本明細書の開示内容は、本明細書に記載した個別の概念の補集合を含んでいる。すなわち、本明細書に例えば「AはBである」旨の記載があれば、たとえ「AはBでない」旨の記載を省略していたとしても、本明細書は「AはBでない」旨を開示していると云える。なぜなら、「AはBである」旨を記載している場合には、「AはBでない」場合を考慮していることが前提だからである。
【0117】
≪含まれる構成≫
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする樹脂部材。
(構成2)
電子機器用の樹脂部材であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であることを特徴とする樹脂部材。
【0118】
(構成3)
前記凝集体粒子の形状は、鱗片状であることを特徴とする構成1または2に記載の樹脂部材。
(構成4)
前記凝集体粒子のアスペクト比は、3以上20以下であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成5)
前記凝集体粒子の単位面積当たりの個数は、1個/mm2以上100個/mm2以下であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成6)
前記凝集体粒子の粒子径は、5μm以上であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成7)
前記誘電体粒子は、チタン酸化合物を含有することを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成8)
前記誘電体粒子は、チタン酸バリウムを含有することを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成9)
前記誘電体粒子の含有量は、0.1質量%以上10質量%であることを特徴とする構成1乃至8のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成10)
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載の樹脂部材。
【0119】
(構成11)
前記マトリックス樹脂は、極性ポリマーを含有することを特徴とする構成1乃至10のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成12)
前記マトリックス樹脂は、結晶性ポリマーを含有することを特徴とする構成1乃至11のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成13)
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルを含有することを特徴とする構成1乃至12のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成14)
前記マトリックス樹脂は、ポリエチレンテレフタレートを含有することを特徴とする構成1乃至13のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成15)
前前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする構成1乃至14のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成16)
さらに、エラストマーを含むことを特徴とする構成1乃至15のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成17)
さらに、前記誘電体粒子以外の、無機材料を主成分とするフィラー粒子を含むことを特徴とする構成1乃至16のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成18)
前記無機材料の比誘電率が10未満であることを特徴とする構成17に記載の樹脂部材。
(構成19)
さらに、前記誘電体粒子以外の、遷移金属元素を含む金属材料、遷移金属元素を含む化合物材料、典型金属元素を含む金属材料、典型金属元素を含む化合物材料の少なくとも一種を含有することを特徴とする構成1乃至18のいずれかに記載の樹脂部材。
(構成20)
前記樹脂部材の体積は、1,000mm3以上であることを特徴とする構成1乃至19のいずれかに記載の樹脂部材。
【0120】
(構成21)
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、強誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記強誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(構成22)
樹脂組成物であって、
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂に分散した誘電体粒子と、を含み、
前記誘電体粒子は、比誘電率が10以上である常誘電体粒子の凝集体である凝集体粒子であり、
前記常誘電体粒子の粒子径は、10nm以上1,000nm以下であり、
前記凝集体粒子の粒子径は、1μm以上100μm以下であり、
前記マトリックス樹脂は、ポリエステルと、カルボジイミドとを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(構成23)
構成21または22に記載の樹脂組成物を溶融して金型に射出することを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【0121】
(構成24)
構成1乃至20のいずれかに記載の樹脂部材と、
電気部品、金属部品および光学部品の少なくともいずれかと、を有することを特徴とする電子機器。
(構成25)
前記樹脂部材が外装体であることを特徴とする構成24に記載の電子機器。