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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001050
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ガニレリクス又はその塩の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/23 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
C07K7/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142162
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 真也
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA15
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
4H045FA30
4H045FA40
4H045FA44
4H045FA57
4H045FA61
4H045GA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液相ペプチド合成法による新たなガニレリクスの製造法を提供する。
【解決手段】液相ペプチド合成法によるガニレリクス又はその塩の製造方法であって、C末端から3番目及び5番目のジエチルホモアルギニン残基の縮合反応原料として、下記式

(式中、R及びRはBoc、Cbz、Troc、Alloc、Trt、Mmt、Teoc、Phth、SES、又はivDdeを示し、Rはアミノ保護基を示す)で表される群の1つ以上の化合物、および液相ペプチド合成用担体を用いるガニレリクス又はその塩の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相ペプチド合成法によるガニレリクス又はその塩の製造方法であって、C末端から3番目及び5番目のジエチルホモアルギニン残基の縮合反応原料として、下記式(1)~(3)
【化1】
(式中、R1及びR2はBoc、Cbz、Troc、Alloc、Trt、Mmt、Teoc、Phth、SES、又はivDdeを示し、R3はアミノ保護基を示す)
で表される群の1つ以上の化合物、および液相ペプチド合成用担体を用いるガニレリクス又はその塩の製造方法。
【請求項2】
次の工程a~cを含むことを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、アミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程、
b.反応液中の前記アミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を除去する工程、
c.反応液に水溶液を添加した後、分液して、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、前記アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程。
【請求項3】
工程aに引き続き、縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルのクエンチ剤を添加する工程を含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
原料アミノ酸が、C末端側からD-AlaNH2、Pro、hArg(Et)2、Leu、D-hArg(Et)2、Tyr、Ser、D-3-ピリジルAla、D-p-クロロPhe、D-ナフチルAlaの順である請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記R1及びR2がBocであり、前記R3がFmoc又はCbzである請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記R1及びR2がBocであり、前記R3がFmocである請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アミノ酸活性エステルのクエンチ剤が、水溶性アミンである、請求項3~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性アミンが、ヒドロキシルアミン、アミド硫酸、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸、ヒドロキシルアミン-O-ホスホン酸、又はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基及び複素環式基から選ばれる1種若しくは2種以上を有する1級、2級若しくは3級アミン類であって、ヒドロキシ基、エーテル結合、アルコキシ基、スルホニル基、スルホン酸基、硫酸基、及びリン酸基から選ばれる1種又は2種以上の置換基を有していてもよいアミン類である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
3がFmocである場合において、工程bに引き続き、ジベンゾフルベンのトラッピング剤を添加する工程を含む、請求項2~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ジベンゾフルベンのトラッピング剤が、炭素数1~10のアルキル基を有するメルカプト化合物であって、カルボン酸、カルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸、又はスルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の置換基を有するメルカプト化合物である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記式(I)で表される化合物である請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~20の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【化3】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
pは、1~4の整数を示し;
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香環、又は式(b):
【化4】
(式中、*は結合位置を示し;
qは、0~4の整数を示し;
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
q個のR14は、それぞれ独立して、
脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【化5】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴナドトロピンアンタゴニストであるガニレリクス又はその塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガニレリクスは、ゴナドトロピンアンタゴニストであり、調節卵巣刺激下における早発排卵防止薬として上市されている。ガニレリクスは、C末端から3番目と5番目にジエチルホモアルギニン残基を有するデカペプチド医薬品であり、固相ペプチド合成法により製造されている(特許文献1、2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】CN102584945A
【特許文献2】国際公開第2015/188774号
【特許文献3】特許第5113118号公報
【特許文献4】特許第4500854号
【特許文献5】特許第5929756号公報
【特許文献6】特許第6092513号公報
【特許文献7】特許第5768712号公報
【特許文献8】特許第5803674号公報
【特許文献9】特許第6116782号公報
【特許文献10】特許第6201076号公報
【特許文献11】特許第6283774号公報
【特許文献12】特許第6283775号公報
【特許文献13】特許第6322350号公報
【特許文献14】特許第6393857号公報
【特許文献15】特許第6531235号公報
【特許文献16】国際公開第2019/009317号
【特許文献17】国際公開第2020/175472号
【特許文献18】国際公開第2020/175473号
【特許文献19】特表2003-500416号公報
【特許文献20】特表2004-516330号公報
【特許文献21】特開平4-211096号公報
【特許文献22】特開平5-170795号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】厚生労働省医薬食品局審査管理課「ガニレスト皮下注0.25mgシリンジ」審議結果報告書https://www.pmda.go.jp/drugs/2008/P200800034/170050000_22000AMX01714000_A100_2.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガニレリクスのようなデカペプチドの製造法としては、試薬レベルの少量であれば固相ペプチド合成法が好ましいが、医薬品としての供給という大量生産には不向きである。これは、固相合成が不均一な反応系であり混合効率が低く、反応速度が遅いためである。さらに、反応途中にペプチドを精製することができないため、定量的に反応させる目的で、伸長させるアミノ酸や試薬を3~4当量と大過剰量使用する必要もある。一方、液相ペプチド合成法によれば、均一な反応系であり、試薬の使用量を抑えることも可能である。しかしながら、ペプチド鎖の伸長に伴い有機溶媒への溶解度が低下することに起因する反応速度の低下や、ペプチド伸長反応毎に各ペプチドの性質に適した分離工程を検討する必要があり煩雑であることから、いわゆる液相ペプチド合成は近年おこなわれておらず、液相ペプチド合成法によるガニレリクスの合成も行われていなかった。
【0006】
これに対し、近年、液相ペプチド合成において、液相ペプチド合成用担体(Tag)が報告されている(特許文献3~18)。本担体は疎水性が高い化合物であるため、親水性の高いアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミド(以下、アミノ酸等ということがある)を本担体に結合することで、有機溶媒への溶解性を大きく向上させることができる。従って、本担体にアミノ酸等を結合した状態でペプチド伸長反応を実施した場合、担体に結合したアミノ酸等を有機層に溶解させ、不要成分、たとえばペプチド伸長反応に使用した余剰の原料アミノ酸や、その分解物、原料アミノ酸の保護基を脱保護した際に副生する化合物等を水層に溶解させることで、液液分離により、担体に結合したアミノ酸等を簡便に精製できるという利点がある。さらに担体が結合した状態でもペプチドの粗精製が可能という利点もある。このように、液相ペプチド合成用担体を使用すれば、煩雑な分離操作を必要とせずに、ペプチドの大量製造が可能となった。
なお、本明細書で「アミノ酸アミド」とは、アミノ酸のC末端のカルボキシ基(-COOH)がアミド基(-CONH2)となった構造をいう。また、「ペプチドアミド」とは、ペプチドのC末端のカルボキシ基がアミド基となった構造をいう。
さらに、本明細書で「液液分離」と記載した場合、前述の工程、すなわち担体に結合したアミノ酸等を有機層に溶解させ、不要成分、たとえばペプチド伸長反応に使用した余剰の原料アミノ酸や、その分解物、原料アミノ酸の保護基を脱保護した際に副生する化合物等を水層に溶解させる工程をいう。
【0007】
しかし、ガニレリクスの場合、この液相ペプチド合成用担体を使用しても、ガニレリクスの構造中に存在するグアニジル基含有アミノ酸(ジエチルホモアルギニン)の縮合反応の際の液液分離が困難であることが判明した。
【0008】
従って、本発明の課題は、液相ペプチド合成法による新たなガニレリクスの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、液相ペプチド合成用担体を使用したガニレリクスの液相ペプチド合成に用いるジエチルホモアルギニンのグアニジル基の保護手段について種々検討した。まず、アルギニン類のグアニジル基の保護手段として汎用されてきたプロトン保護(特許文献19~22)を検討したところ、ジエチルホモアルギニンの縮合反応後の液液分離が困難であった。これに対し、アルギニン類のグアニジノ基をBoc基などの保護基で保護したジエチルホモアルギニンを原料として用いれば、縮合反応後の液液分離が良好になり、液相ペプチド合成法により工業的に有利な方法でガニレリクス又はその塩が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[11]を提供するものである。
[1]液相ペプチド合成法によるガニレリクス又はその塩の製造方法であって、C末端から3番目及び5番目のジエチルホモアルギニン残基の縮合反応原料として、下記式(1)~(3)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R1及びR2はBoc、Cbz、Troc、Alloc、Trt、Mmt、Teoc、Phth、SES、又はivDdeを示し、R3はアミノ保護基を示す)
で表される群の1つ以上の化合物、および液相ペプチド合成用担体を用いるガニレリクス又はその塩の製造方法。
[2]次の工程a~cを含むことを特徴とする、[1]記載の製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、アミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程、
b.反応液中の前記アミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を除去する工程、
c.反応液に水溶液を添加した後、分液して、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、前記アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程。
[3]工程aに引き続き、縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルのクエンチ剤を添加する工程を含む、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]原料アミノ酸が、C末端側からD-AlaNH2、Pro、hArg(Et)2、Leu、D-hArg(Et)2、Tyr、Ser、D-3-ピリジルAla、D-p-クロロPhe、D-ナフチルAlaの順である[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記R1及びR2がBocであり、前記R3がFmoc又はCbzである[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記R1及びR2がBocであり、前記R3がFmocである[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記アミノ酸活性エステルのクエンチ剤が、水溶性アミンである、[3]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記水溶性アミンが、ヒドロキシルアミン、アミド硫酸、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸、ヒドロキシルアミン-O-ホスホン酸、又はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基及び複素環式基から選ばれる1種若しくは2種以上を有する1級、2級若しくは3級アミン類であって、ヒドロキシ基、エーテル結合、アルコキシ基、スルホニル基、スルホン酸基、硫酸基、及びリン酸基から選ばれる1種又は2種以上の置換基を有していてもよいアミン類である[7]記載の製造方法。
[9]R3がFmocである場合において、工程bに引き続き、ジベンゾフルベンのトラッピング剤を添加する工程を含む、[2]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記ジベンゾフルベンのトラッピング剤が、炭素数1~10のアルキル基を有するメルカプト化合物であって、カルボン酸、カルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸、又はスルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の置換基を有するメルカプト化合物である、[9]に記載の製造方法。
[11]前記液相ペプチド合成用担体が、下記式(I)で表される化合物である[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
【化2】
【0014】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~20の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0015】
【化3】
【0016】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
pは、1~4の整数を示し;
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香環、又は式(b):
【0017】
【化4】
【0018】
(式中、*は結合位置を示し;
qは、0~4の整数を示し;
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
q個のR14は、それぞれ独立して、
脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0019】
【化5】
【0020】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
【発明の効果】
【0021】
本発明のジエチルホモアルギニンの保護体を用いる方法でガニレリクス又はその塩を製造すれば、縮合反応後の液液分離が容易になり、ガニレリクス又はその塩が工業的に有利に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例(1-d)※1の工程における液液分離にて、分液漏斗を振盪後、室温で25分間静置した後の液面の写真である。
図2】参考例(1-d)※2の工程における液液分離にて、分液漏斗を振盪後、室温で25分間静置した後の液面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的化合物である、ガニレリクスは下記の構造を有するデカペプチド[N-アセチル-3-(2-ナフチル)-D-アラニル-4-クロロ-D-フェニルアラニル-3-(3-ピリジル)-D-アラニル-L-セリル-L-チロシル-N6-(N,N'-ジエチルカルバミミドイル)-D-リジル-L-ロイシル-N6-(N,N'-ジエチルカルバミミドイル)-L-リジル-L-プロリル-D-アラニンアミド)]であり、ゴナドトロピンアンタゴニストであり、調節卵巣刺激下における早発排卵防止薬として上市されている。
【0024】
【化6】
【0025】
上記の構造において、デカペプチド構造を構成するアミノ酸残基は、C末端側から、D-AlaNH2、Pro、hArg(Et)2、Leu、D-hArg(Et)2、Tyr、Ser、D-3-ピリジルAla、D-p-クロロPhe、D-ナフチルAlaと略記することがある。
【0026】
本発明のガニレリクス又はその塩の製造方法は、液相ペプチド合成法によるガニレリクス又はその塩の製造方法であって、C末端から3番目及び5番目のジエチルホモアルギニン残基の縮合反応原料として、下記式(1)~(3)
【0027】
【化7】
【0028】
(式中、R1及びR2はBoc、Cbz、Troc、Alloc、Trt、Mmt、Teoc、Phth、SES、又はivDdeを示し、R3はアミノ保護基を示す)
で表される化合物のうち1つ以上と液相ペプチド合成用担体を用いるガニレリクス又はその塩の製造方法である。
【0029】
まず、ジエチルホモアルギニン残基の縮合反応原料として用いる前記式(1)~(3)で表される化合物について説明する。
1及びR2はBoc(tert-ブトキシカルボニル)、Cbz(ベンジルオキシカルボニル)、Troc(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル)又はAlloc(アリルオキシカルボニル)、Trt(トリチル)、Mmt(4-モノメトキシトリチル)、Teoc(2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル)、Phth(フタロイル)、SES((2-トリメチルシリル)-エタンスルホニル)、ivDde(1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン)-3-メチルブチル)を示す。このうち、縮合反応物の液液分離を良好にする観点から、Bocが好ましい。
3はアミノ保護基を示す。当該アミノ保護基としては、Fmоc(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)、Bоc、Cbzなどが挙げられ、このうちFmoc、Cbzが好ましく、塩基性条件で脱保護できるFmоcがより好ましい。
特に、R1及びR2がBocであり、R3がFmоcである化合物がより好ましい。
【0030】
前記式(1)~(3)で表される構造は、E/Z異性体又はイミノ/アミノ異性体であり、当該化合物は、これらの異性体の混合物であってもよい。
【0031】
前記式(1)~(3)で表される化合物は、例えば、αアミノ保護ジエチルホモアルギニン、又はこれと液相ペプチド合成用担体との結合体に、二炭酸ジ-tert-ブチル、N-tert-ブトキシカルボニルイミダゾール等のBoc化剤などのアミノ保護化剤を反応させることにより製造できる。
例えば、このBoc化反応は、塩基の存在下、溶媒中で行うのが好ましい。塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、DMAP(4-ジメチルアミノピリジン)、N-メチルイミダゾールなどの有機塩基又はこれらの混合有機塩基でもよく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基でもよい。塩基の添加量は、アルギニン誘導体に対して0.1~30当量、好ましくは1~20当量であるが、これに限定されない。
反応溶媒は、水、THF(テトラヒドロフラン)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、トルエン、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、又はこれらの混合溶媒などが用いられる。反応は、0℃~40℃で、1~24時間行うのが好ましい。
【0032】
次に、前記液相ペプチド合成用担体について、説明する。このような液相ペプチド合成用担体は、アミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミド(アミノ酸等)の官能基を保護して、当該保護されたアミノ酸等を有機溶媒に可溶化する担体であれば良く、例えば、特許文献3~18などに記載の化合物を用いることができる。
このような液相ペプチド合成用担体としては、具体的には、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化8】
【0034】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~20の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0035】
【化9】
【0036】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
pは、1~4の整数を示し;
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香環、又は式(b):
【0037】
【化10】
【0038】
(式中、*は結合位置を示し;
qは、0~4の整数を示し;
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
q個のR14は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0039】
【化11】
【0040】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
【0041】
式(I)中の環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよく、単環性でも、多環性でよいC4~20の芳香環を示す。当該芳香環としては、C6~20の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~20の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環、1,1’-ビナフタレン環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の芳香族複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の芳香族複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
【0042】
11は、水素原子を示すか、又は環Aがベンゼン環でRbが前記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。R11とR13が一緒になって形成してもよい環としては、フルオレン環又はキサンテン環が好ましい。
【0043】
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R15としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖又は分岐鎖のC1~10のアルキル基が挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0044】
p個のR12は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0045】
【化12】
【0046】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す。
pは、1~4の整数を示す。
【0047】
本明細書において、脂肪族炭化水素基を有する有機基とは、その分子構造中に脂肪族炭化水素基を有する一価の有機基である。当該脂肪族炭化水素基を有する有機基中の脂肪族炭化水素基の部位は、特に限定されず、末端に存在してもよく、それ以外の部位に存在してもよい。
当該有機基中に存在する脂肪族炭化水素基とは、直鎖、分岐状若しくは環状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、有機溶媒溶解性の点から、C5以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、C5~50の脂肪族炭化水素基がより好ましく、C8~30の脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。当該脂肪族炭化水素基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、特にアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。さらに、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基がより好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がさらに好ましく、C8~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がよりさらに好ましい。
【0048】
アルキル基の具体例としては、炭素数1~30のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキル基、べへニル基、テトラコサニル基、ヘキサコサニル基、イソステアリル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基、各種ステロイド基から水酸基などを除外した基が挙げられる。
分岐鎖を有するアルキル基としては、2、3―ジヒドロフィチル基、3,7,11-トリメチルドデシル基が挙げられる。またX1が-NHC(=O)-の場合、X112として2,2,4,8,10,10-ヘキサメチル-5-ドデカン酸アミドが挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、1-プロぺニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、オレイル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基が挙げられる。
アルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基などが挙げられる。
【0049】
上記の脂肪族炭化水素基には、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換していてもよい。脂肪族炭化水素基に酸素原子を介して置換し得る脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、炭素数2~20のアルケニルオキシ基、炭素数3~6のシクロアルキルオキシ基などの一価の基、それらから誘導される二価の基などが挙げられる。また、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換している脂肪族炭化水素基に、さらに酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換した繰り返し構造を有していてもよい。
具体的には、R12として12-ドコシルオキシ-1-ドデシル基、3,4,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンジル基、2,2,2-トリス(オクタデシルオキシメチル)エチル基、3,4,5-トリス(オクタデシルオキシ)シクロへキシルメチル基などが挙げられる。
【0050】
上記の脂肪族炭化水素基には、
【0051】
【化13】
【0052】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基、のいずれかである有機基が置換していてもよい。
シリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリル基が好ましい。ここで、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
好ましいシリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリル基であり、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリル基である。シリル基に置換する3個のアルキル基又はアリール基は、同一でも異なっていてもよい。
また、シリルオキシ基が結合したアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリルオキシ基が1~3個結合した、炭素数1~13の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。好ましいシリルオキシ基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基である。シリルオキシ基に置換する3個のアルキル基又はアリール基は、同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~13の直鎖又は分岐鎖のアルキル基は、分岐鎖であることが好ましく、4級炭素原子を有することがさらに好ましい。
【0053】
pは、1~4の整数を示す。ここで、pは、1~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0054】
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0055】
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示す。
ここで、芳香族環としては、C6~18の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~18の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
Raの芳香族環には、1~3個のハロゲン原子が置換していてもよい。
【0056】
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環、又は前記式(b)で表される基を示す。
式(b)中のqは、0~4の整数を示す。
qは、0~3が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0057】
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R18としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0058】
q個のR14は、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0059】
【化14】
【0060】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す。
14で表される有機基は、前記のR12と同じものが挙げられ、前記のR12と同じものが好ましい。
【0061】
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。
【0062】
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0063】
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。
ここで、R20としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0064】
前記の式(I)の化合物のうち、好ましい液相ペプチド合成用担体の具体例としては、下記式(7)、(20)又は(21)で表される化合物が挙げられる。その一つとしては、式(7)で表される化合物を用いることができる(特許文献9、10)。
【0065】
【化15】
【0066】
(式中、Ybは-CH2OR34(ここでR34は水素原子、ハロゲノカルボニル基、活性エステル型カルボニル基又は活性エステル型スルホニル基を示す)、-CH2NHR35(ここで、R35は水素原子、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又はアラルキル基を示す)、ハロゲノメチル基、ホルミル基、又はオキシムを示し、R21、R22、R23、R24及びR25のうちの少なくとも1個は式(8)
【0067】
【化16】
【0068】
で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し;
26は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し;
3はO又はCONR36(ここでR36は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し;
Aは式(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)又は(19)
【0069】
【化17】
【0070】
(ここで、R27、R28、R29は、同一又は異なって、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有していても良いアリール基を示し;R30は単結合又は炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、R31、R32及びR33はそれぞれ、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す)
で表される基を示す)
【0071】
また、液相ペプチド合成用担体としては、式(20)で表される化合物を用いることができる(特許文献11、12、15)。
【0072】
【化18】
【0073】
(式中、X4は-OR51(ここでR51は水素原子、活性エステル型カルボニル基又は活性エステル型スルホニル基を示す)、-NHR35、アジド、ハロゲン、イソシアネート、X5と一緒になって=N-OH又は=Oを示し、X4が-OR51、-NHR35、アジド又はハロゲンの場合X5は水素原子又は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、又はシクロアルキル基を示し、X4がイソシアネートの場合X5は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、又はシクロアルキル基を示し;
41~R50のうちの少なくとも1個は式(2)で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し;
4が-OR51、-NHR35、アジド又はハロゲンであり、かつX5が水素原子のとき、若しくはX4とX5が一緒になって=Oのとき、R45とR46は酸素原子を介して結合してキサンテン環を形成していてもよい)
【0074】
また、液相ペプチド合成用担体としては、式(21)で表される化合物を用いることができる(特許文献13、14)。
【0075】
【化19】
【0076】
(式中、X6はヒドロキシ基又はハロゲン原子を示し、R61~R75のうちの少なくとも1個は式(2)で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し、R70とR71は単結合で結合してフルオレン環を形成していてもよく、酸素原子を介して結合してキサンテン環を形成していてもよい)
【0077】
なお、液相ペプチド合成用担体は、原料であるアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はぺプチドアミド(アミノ酸等)のカルボキシル基にリンカーを介して結合させることもできる。
ここでいうリンカーとは、リンカーの一方が、前記アミノ酸等のカルボキシル基と結合し、他方が液相ペプチド合成用担体と結合する2つの反応基をもつ有機基である。好ましいリンカーは、分子量が約2000以下(好ましくは約1500以下、より好ましくは約1000以下)の有機基であって、反応基として、同じでも異なってもよく、アミノ基、カルボキシル基、及びハロメチル基からなる群より選ばれる少なくとも2つの基を分子内にもつ化合物である。例えば、以下の化合物を挙げることができる。
【0078】
【化20】
【0079】
【化21】
【0080】
(式中、Yは1~6、好ましくは1~4の整数である)。
【0081】
【化22】
【0082】
(式中、Xはハロゲン原子、好ましくは塩素又は臭素である)。
【0083】
【化23】
【0084】
(式中、Zは2~40、好ましくは2~35、より好ましくは、2~28の整数である)。
(上記リンカーの構造式は、側鎖官能基等に結合する前の状態かつ液相ペプチド合成用担体と結合する前の状態を示す)。
【0085】
次に、ペプチド伸長反応について説明する。ぺプチド伸長反応は、次の工程a、工程b及び工程cを有するのが好ましい。なお、工程b、cの順序は不問であり、工程b次いで工程cの順、すなわちアミノ基の保護基を除去した後に縮合体を含有する有機溶媒層を得てもよいし、工程c次いで工程bの順、すなわち縮合体を含有する有機溶媒層を得た後にアミノ基の保護基を除去してもよい。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、アミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程、
b.反応液中の前記アミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を除去する工程、
c.反応液に水溶液を添加した後、分液して、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、前記アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程。
なお、工程aに引き続き、縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルのクエンチ剤を添加する工程を実施してもよい。また、アミノ保護基がFmoc基である場合、工程bに引き続き、ジベンゾフルベンのトラッピング剤を添加する工程を実施してもよい。
【0086】
工程a記載の液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド、又はペプチドアミド(以下、液相ペプチド合成用担体結合ペプチドと略する)は、以下のように製造できる。まず、液相ペプチド合成用担体をTHF等の有機溶媒に溶解し、例えばFmocで保護されたアミノ酸又はペプチド及び縮合剤、例えば、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、塩基、例えばDMAPを添加して縮合を行う。すると、アミノ酸又はペプチドのカルボキシ基に液相ペプチド合成用担体が結合した中間体であるN-Fmoc-液相合成用担体結合ペプチドを製造できる。もしくは、液相ペプチド合成用担体をトルエン等の有機溶媒に溶解し、例えばFmocで保護されたアミノ酸アミド又はペプチドアミド及び酸触媒、例えば、メシル酸を添加して縮合を行う。すると、アミノ酸アミドまたはペプチドアミドのアミド基に液相ペプチド合成用担体が結合した中間体であるN-Fmoc-液相合成用担体結合ペプチドを製造できる。
【0087】
もう一方の原料である、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチド(以下、アミノ基保護アミノ酸と略する)とは、アミノ酸又はペプチドのアミノ基がアミノ保護基で保護されており、一方、カルボキシル基は保護されておらず反応性であるアミノ酸又はペプチドを意味する。アミノ酸又はペプチドが1以上のアミノ基を有する場合は、少なくとも一つのアミノ基がアミノ保護基で保護されていれば良い。
アミノ保護基としては、Fmоc基、Bоc基、Cbz基などが挙げられ、このうち塩基性条件で脱保護できるFmоc基がより好ましい。
なお、アミノ基保護アミノ酸が、水酸基、アミノ基、グアニジル基、カルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有する場合、これらの官能基にペプチド合成で用いられる一般的な保護基が導入されていてもよく、反応終了後の任意の時点で、必要に応じて保護基を除去することで目的化合物を得ることができる。
水酸基の保護基としてはtBu基、Trt基、Bz(ベンゾイル)基、アセチル基、シリル基等が挙げられ、グアニジル基の保護基としては、Pbf基、Boc基、Pmc基、ニトロ基等が挙げられ、カルボキシル基の保護基としてはtBu基、メチル基、エチル基、Bz基等が挙げられ、チオール基の保護基としては、Trt基、Acm(アセトアミドメチル)基、tBu基、S-tBu(ジチオ-tert-ブチル)基、Dpm(ジフェニルメチル)基、MBom(4-メトキシベンジルオキシメチル)基等が挙げられ、インドール基の保護基としては、Boc基等が挙げられ、イミダゾール基の保護基としては、Boc基、Bom(ベンジルオキシメチル)基、Bum(tert-ブトキシメチル)基、Trt基、Ddm(4,4’-ジメトキシジフェニル)基、MBom基等を挙げることができる。
【0088】
アミノ基保護アミノ酸は、例えば、アミノ保護基でアミノ基を保護したいアミノ酸又はペプチドに、例えばTHF/水などの混合溶媒中でFmoc-OSu等を塩基の存在下に反応させることにより、製造することができる。
【0089】
本発明の工程aは前記の原料を縮合させる工程であり、工程aに用いられる反応溶媒は有機溶媒を含む溶媒である。本発明で用いる前記の液相ペプチド合成用担体でアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドを保護すれば、得られた液相ペプチド合成用担体結合ペプチドが、有機溶媒に溶解するようになるため、液相ペプチド合成が可能となる。
そのような有機溶媒としては、例えば、THF、DMF、シクロヘキサン、CPME、2-メチルTHF、4-メチルテトラヒドロピラン(4-メチルTHP)、酢酸イソプロピル、クロロホルム、ジクロロメタン、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド(DMAc)、NFM(N-formylmorpholine)を挙げることができ、好ましくは、THF、DMF、CPME,2-メチルTHF、4-メチルTHP、N-メチルピロリドンである。さらに、上記溶媒の2種以上の混合溶媒でもよい。
【0090】
縮合反応は、前記有機溶媒を含む溶媒中で、前記液相ペプチド合成用担体、又は液相ペプチド合成用担体結合ペプチドと、前記アミノ基保護アミノ酸と、縮合剤と塩基を混合することにより行うことができる。
【0091】
液相ペプチド合成用担体結合ペプチドに対する、アミノ基保護アミノ酸の使用量は、液相ペプチド合成用担体結合ペプチドに対して、通常1.01~4当量、好ましくは1.03~3当量、より好ましくは1.05~2当量、さらに好ましくは1.1~1.5当量である。本発明のペプチド製造法では、工程aに引き続き、未反応のアミノ酸の活性エステルをその後に添加するクエンチ剤で捕獲して不活性化することができる。そのため、過剰のアミノ基保護アミノ酸を用いても、残存の問題が生じない。
【0092】
縮合剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤を、本発明においても用いることができる、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)を挙げることができる。好ましくは、DMT-MM、HBTU、HATU、又はCOMUである。縮合剤の使用量は、液相ペプチド合成用担体結合ペプチドに対して、好ましくは1~4当量、より好ましくは1~2当量、さらに好ましくは1.05~1.45当量である。
塩基としては、ペプチド合成において一般的に用いられる塩基を、本発明においても用いることができる。例えば、DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、DMAP、NMM(N-メチルモルホリン)、TMP(2,4,6-トリメチルピリジン)を挙げることができる。好ましくはDIPEAである。
【0093】
縮合工程において、反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するために、好ましくは、活性化剤が添加される。ここで活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤を用いることができる。例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾールカルボン酸エチル(HOCt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、3-ヒドロキシ-4-ケトベンゾトリアジン(HOOBt)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノール、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)等を挙げることができる。好ましくは、HOBt、HOOBt、HOCt、HOAt、Oxymaである。活性化剤の使用量は、液相ペプチド合成用担体結合ペプチドに対して、好ましくは1~4当量、より好ましくは1~2当量、さらに好ましくは1.05~1.45当量である。
【0094】
前記溶媒の使用量は、液相ペプチド合成用担体結合ペプチド等を溶解した濃度が、好ましくは0.1mM~1Mとなる量であり、より好ましくは1mM~0.5Mとなる量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、例えば、-20~40℃が好ましく、より好ましくは0~30℃である。縮合反応時間は、通常1分~30時間である。
【0095】
工程aに引き続き、縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルクエンチ剤(以下、「クエンチ剤」ということがある)を添加する工程をおこなってもよい。工程aにおいて、原料であるアミノ基保護アミノ酸は、液相ペプチド合成用担体又は液相ペプチド合成用担体結合ペプチドに対して過剰量添加される。このため、アミノ基保護アミノ酸が縮合反応時に活性化されたアミノ酸活性エステルは、縮合反応後に余剰分が残存する。この余剰なアミノ酸活性エステルをクエンチする工程である。
本工程における前記クエンチ剤の添加量は、理論上残存する活性アミノ酸エステル1当量に対して、好ましくは1~10当量、より好ましくは1~6当量、さらに好ましくは1~3当量である。
【0096】
前記のアミノ酸活性エステルのクエンチ剤は、分子内にアミノ基を有する化合物であり、特許第6703668号公報、特許第6713983号公報、国際公開第2021/132545号公報、Molecules 2021, 26, 3497-3505.などに記載の化合物を用いることができる。
当該クエンチ剤としては、ヒドロキシルアミン、アミド硫酸、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸、ヒドロキシルアミン-O-ホスホン酸、1級アミン又は2級アミンを有するアルキルアミン、1級アミン又は2級アミンを有する芳香族アミンを使用することができ、3級アミンを使用することもできる。さらに、余剰のクエンチ剤を液液分離にて水層に除去できることから水溶性であることが好ましく、水酸基、スルホ基、硫酸基、リン酸基といった親水性置換基を有するアミンが好ましい。また、化合物中のアミノ基の数は1つ(1価)でもよく、2価以上でもよい。
用いることができるアルキルアミンとしては、例えば、炭素数1~14のアルキルアミンを挙げることができ、好ましくは炭素数2~10のアルキルアミン、より好ましくは炭素数2~8のアルキルアミン、さらに好ましくは炭素数3~4のアルキルアミンである。また本発明で用いることができる芳香族アミンとしては、たとえば炭素数1~14の芳香族アミンを挙げることができ、好ましくは炭素数6~10の芳香族アミンである。
具体的なアミンとしては、これに限定されないが、例えば、プロピルアミン、メチルアミン、ヘキシルアミン、ベンジルアミン、アニリン、トルイジン、2,4,6-トリメチルアニリン、アニシジン、フェネチジン、ヒドロキシルアミン、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1-エチルピペラジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール(AEE)、タウリン、硫酸水素2-アミノエチル(2-アミノエチル硫酸、AEHS)などを挙げることができる。また、NMI(N-メチルイミダゾール)、DMAP、トリメチルアミンを挙げることができる。なかでも、2-(2-アミノエトキシ)エタノール(AEE)、タウリン、硫酸水素2-アミノエチル(2-アミノエチル硫酸、AEHS)が好ましい。
【0097】
工程bは、反応液中の前記アミノ基保護アミノ酸のアミノ保護基を脱離する工程である。
当該アミノ保護基の脱離工程は、アミノ保護基の種類により相違する。例えば、アミノ保護基がFmoc基の場合は反応液を塩基性条件とすればよい。アミノ保護基がBoc基の場合は反応液を酸性条件とすればよい。アミノ保護基がCbz基の場合は接触還元すればよい。このうち、ワンポット液相合成とするには、アミノ保護基をFmoc基とするのがより好ましい。
【0098】
アミノ保護基がFmoc基の場合のアミノ保護基の脱離工程について説明する。
Fmoc脱離工程は、反応液を塩基性にできればよいが、アミン化合物、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン(DABCO)、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン類;1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1-エチルピペラジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピぺリジン、ピペラジンなどの1級又は2級のアミノ基を少なくとも1つ持つ2価以上の水溶性アミン類を用いることができる。好ましくは、DBU、DBN、ピぺリジン、ピペラジン、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミンであり、より好ましくは、DBU、ピぺリジン、ピペラジン、1-メチルピペラジンである。
工程bにおいて添加するアミン化合物の当量は、系に存在するFmoc基の量に対して、1~30当量、好ましくは4~20当量、より好ましくは4~10当量である。
【0099】
また、前記アミン化合物に加えて、脱Fmoc反応により生じるDBF(ジベンゾフルベン)及びDBFとアミンとの付加体(DBF-アミン付加体)のトラッピング剤を添加するのが好ましい。ここで用いられるDBF及びDBF-アミン付加体のトラッピング剤としては、メルカプト化合物が挙げられる。用いることができるメルカプト化合物としては、メルカプト基を有し、DBFと反応した化合物が水溶性を示すものであれば特に限定されないが、例えば炭素数1~10のアルキル基を有するメルカプト化合物であって、カルボン酸、カルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸、またはスルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の置換基を有するメルカプト化合物が挙げられ、下記の一般式(4)又は(5)で表される化合物が挙げられる。
【0100】
【化24】
【0101】
(式中、L1及びL2は、それぞれ2価の有機基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属を示す)
【0102】
一般式(4)又は(5)中のL1及びL2は、それぞれ2価の有機基を示す。当該2価の有機基としては、炭素数1~10の2価の有機基が好ましく、より好ましくは、メルカプト基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、メルカプト基を有していてもよい炭素数6~10のアリーレン基、メルカプト基を有していてもよい炭素数4~9のヘテロアリーレン基が挙げられる。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、メルカプトトリメチレン基、メルカプトプロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、フェニレン基、ナフチレン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、キノリル基、イソキノリン基などが挙げられる。
Mは水素原子又はアルカリ金属を示す。具体的には、水素原子、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
具体的には、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、システイン、メルカプトメタンスルホン酸ナトリウム、2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム、2-メルカプトエタンスルホン酸、3-メルカプトプロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム、1,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2-メルカプトベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム、などが挙げられ、3-メルカプトプロパンスルホン酸が好ましい。
【0103】
メルカプト化合物の添加量は、Fmoc基の量に対して1~30当量が好ましく、1~10当量がより好ましく、1~5当量がさらに好ましい。
前記アミン化合物とメルカプト化合物は、同時に添加してもよく、メルカプト化合物、次いでアミン化合物の順に添加してもよい。
Fmoc脱離工程は、-20~40℃の温度で、1分~5時間行えばよい。
【0104】
工程cは、反応液に水溶液を添加した後、分液して、液相ペプチド合成用担体に結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、前記アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程である。
工程bの反応液に水溶液を添加した後、水層と有機溶媒層を分液する。
水層には、アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドと活性エステルクエンチ剤との縮合体と、DBF-トラッピング剤付加体が含まれる。すなわち、アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドと活性エステルクエンチ剤との縮合体は、工程cの水溶液の添加だけで、容易に水層に抽出される。
一方、有機溶媒層には、液相ペプチド合成用担体に結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドと、前記アミノ保護基が脱離したアミノ酸又はペプチドとの縮合体が含まれる。
ここで、用いられる水溶液としては、水、又は中性~塩基性付近のpHを有する水溶液が挙げられる。具体的には、水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化セシウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化リチウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸セシウム水溶液、リン酸水素二ナトリウム水溶液、リン酸三ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液、リン酸水素二カリウム水溶液、リン酸三カリウム水溶液又はこれらの水溶液とDMF、DMSO、NFM、NMPの混合溶媒等が挙げられる。
【0105】
得られたガニレリクスは、必要に応じて酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、トリフルオロ酢酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの鉱酸塩に変換することができる。
【0106】
このように、本発明方法によれば、単に水溶液を添加して分液するだけで、アミノ酸活性エステルと生成物であるペプチドとの分液不良が起こることがない。また、固液分離を必要としないので、煩雑な分離操作を必要としないワンポット合成が可能になる。前記した一連の工程は、マイクロフロー技術を用いて実施しても良い。マイクロフロー技術を用いたペプチド合成技術については、例えばNature Communications 7, Article number:13491(2016)に記載がある。
【実施例0107】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0108】
参考例1
Fmoc-NH(D2-STag)の合成
【0109】
【化25】
【0110】
(O=(D2-STag)、OH(D2-STag)、Fmoc-NH(D2-STag)は式中の構造を示す。)
【0111】
参考例(a)
O=(D2-STag)(積水メディカル株式会社製)41.4g(47.7mmol)をトルエン 228mL、メタノール 36.0mLの混合溶液に溶解し、水素化ホウ素ナトリウム 2.16g(57.2mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。反応溶液を水 83.0mLで3回分液洗浄した。得られた有機層に無水硫酸ナトリウム20.0gを添加し、充分撹拌した後濾過し、OH(D2-STag)を含むトルエン溶液を得た。
【0112】
参考例(b)
前行程で得られたトルエン溶液に9-フルオレニルメチルカルバメート 13.7g(57.2mmol)、シュウ酸・2水和物 1.80g(14.3mmol)を添加し、80℃で3時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、メタノール:水=9:1 414mL、へプタン414mLを添加し、分液した。得られた有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(5%Na2CO3aq.) 207mLで1回、メタノール:水=9:1 414mLで3回分液洗浄した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、残渣にテトラヒドロフラン83.0mLを加え、減圧下で濃縮した。残渣をテトラヒドロフラン62mLに溶解し、メタノール830mLに滴下した。析出した固体をろ取し、減圧下で乾燥して、Fmoc-NH(D2-STag) 45.5gを得た。
ESIMS (m/z) 1107.9 (M+NH4+
【0113】
実施例1
Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHとFmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHを用いたガニレリクスの合成(Fmoc-アミノ-活性エステル体のクエンチング剤として、2-(2-Aminoethoxy)ethanol(AEE)を使用した。)
なお、以降D体であるとの表記のないアミノ酸はL体を示す。
【0114】
【化26】
【0115】
反応式中、(NH2(D2-STag)、H-D-Ala-NH(D2-STag)、H-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OH、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、H-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser-Tyr-D-hArg(Et)2-Leu-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH2・nTFA)は反応式中の構造を示す。なお、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHは反応式中の3種類の異性体の混合物を示す。このため、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)も3種類の異性体の混合物と推測される。さらに、H-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)は、hArg(Et)2(Boc)2とD-hArg(Et)2(Boc)2がそれぞれ反応式中の3種の異性体となっていると推測され、合計9種類の異性体の混合物となっている可能性がある。)また、R’の構造中の*は結合点を示す。
【0116】
実施例(1-a)
Fmoc-NH(D2-STag) 2.00g(1.83mmol)をシクロペンチルメチルエーテル(CPME)29.3mLに溶解し、DMF 7.33mL、ジメチルスルホキシド(DMSO)2.55mLに溶解した3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(MPS)0.542g(3.04mmol)、さらにMPS 0.111g(0.62mmol)を固体状態で追加し、2,3,4,6,7,8,9,10-Octahydropyrimidol[1,2-a]azepine(DBU) 0.548mL(3.67mmol)を加え、室温で1時間35分撹拌した。8℃まで冷却し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA) 0.319mL(1.83mmol)、1N硫酸3.67mL(3.67mmol)、水24.2mL、CPME 1.00mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 4.55mL、50%リン酸水素二カリウム水溶液(50%K2HPO4aq.) 6.07mLを加え、分液洗浄し、NH2(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0117】
実施例(1-b)
得られた混合液に、CPME 1.00mL、DMF 8.30mL、Fmoc-D-Ala-OH・H2O 0.725g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で45分撹拌した。2-(2-Aminoethoxy)ethanol(AEE) 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、10℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間20分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.2mL、CPME 0.796mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 5.10mL、50%K2HPO4aq. 6.80mLを加え、分液洗浄し、H-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0118】
実施例(1-c)
得られた混合液に、CPME 2.20mL、DMF 8.30mL、Fmoc-Pro-OH・H2O 0.782g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間20分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.2mL、CPME 0.861mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 5.11mL、50%K2HPO4aq. 6.81mLを加え、分液洗浄し、H-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0119】
実施例(1-d)
得られた混合液に、CPME 2.70mL、DMF 8.30mL、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OH(反応式中に示した3種のisomerの混合物) 1.47g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.3mL、CPME 0.950mLを添加し、分液した※1。得られた有機層にDMF 5.12mL、50%K2HPO4aq. 6.83mLを加え、分液洗浄し、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
ESIMS(m/z) 1463.7 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
※1 有機層中の目的物のHPLC純度:76.2%
HPLC分析条件(1)
カラム:YMC-Pack Pro C18, S-5μm, 12nm, 250mm×4.6mmI.D.
移動相A:500mM過塩素酸ナトリウムaq.
移動相B:THF
流速: 1.0mL/min
カラム温度:45℃
検出波長:280nm
グラジエント条件:75%B(0min)→90%B(10min)→90%B(20min)→75%B(21min)→75%B(33min)
【0120】
実施例(1-e)
実施例(1-d)と同様に、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-D-Pal(3)-OH、Fmoc-D-pClPhe-OH、Fmoc-D-Nal(2)-OHを用いてペプチドを伸長し、H-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。なお、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH(3種の異性体の混合物)は下記の構造を示し、*は結合点を示す。
【0121】
【化27】
【0122】
実施例(1-f)
得られた混合液に、CPME 0.800mL、DMF 8.95mL、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、酢酸0.126mL(2.20mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。反応液を減圧下で濃縮し、得られた残渣をアセトニトリル(MeCN) 106mLに滴下した。固体を濾取し、濾物をMeCN 50.0mLで洗浄した。濾物にMeCN 106mLを加え、撹拌した後、固体を濾取し、濾物をMeCN 50.0mLで洗浄した。得られた固体を減圧下で乾燥し、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag) 3.98gを得た。
ESIMS (m/z) 1467.3 (M+2H)2+
【0123】
実施例(1-g)
トリフルオロ酢酸13.9mL(181mmol)、Triisopropylsilane 0.365mL(1.78mmol)、水0.365mL(20.3mmol)の混合溶液を5℃に冷却し、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag) 1.50gを添加した。5分後、室温に昇温し、6時間55分撹拌した。反応液を10℃に冷却したmethyl tert-butyl ether(MTBE)に滴下し、5℃、4400rpmで1分間遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去し、沈殿物を得た。このMTBEによる洗浄、遠心分離、デカンテーションをさらに3回行い、沈殿物を得た。沈殿物を減圧下で乾燥し、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser-Tyr-D-hArg(Et)2-Leu-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH2・nTFA 0.929gを得た。
ESIMS (m/z) 785.5 (M+2H)2+
HPLC純度:94.3%
HPLC分析条件(2)
カラム:Inertsustain, S-3μm, 250mm×2.1mmI.D.
移動相A:0.1%TFA aq.
移動相B:0.1%TFA含有MeCN
流速: 0.22mL/min
カラム温度:33℃
検出波長:225nm
グラジエント条件:33%B(0min)→47%B(40min)→95%B(60min)→95%B(65min)→33%B(68min)→33%B(85min)
【0124】
参考例2
Fmoc-hArg(Et)2-OH・HClを用いたH-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)の合成(Fmoc-アミノ-活性エステル体のクエンチング剤:AEE)
【0125】
【化28】
【0126】
(Fmoc-hArg(Et)2-OH・HCl、H-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)は反応式中の構造を示す。)
【0127】
参考例(1-a)、(1-b)、(1-c)
実施例1-a、1-b、1-cと同様にして、Fmoc-NH(D2-STag) 2.00g(1.83mmol)からH-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0128】
参考例(1-d)
得られた混合液に、CPME 2.60mL、DMF 8.30mL、Fmoc-hArg(Et)2-OH・HCl 1.11g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.3mL、CPME 0.950mLを添加し、分液を試みたが、エマルジョン※2となり、分液操作を行うことができなかった。
ESIMS (m/z) 1263.5 (M+H)+
※2 エマルジョン中の目的物のHPLC純度:10.4%
HPLC分析条件:実施例(1-d)の(1)と同一。
【0129】
実施例2
Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHとFmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHを用いたGanirelixの合成(Fmoc-アミノ-活性エステル体のクエンチング剤:硫酸水素2-アミノエチル(2-AEHS))
【0130】
【化29】
【0131】
実施例(2-a)
実施例(1-a)と同様の方法で、Fmoc-NH(D2-STag) 0.800g(0.733mmol)からNH2(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0132】
実施例(2-b)
得られた混合液に、CPME 0.600mL、DMF 3.30mL、Fmoc-D-Ala-OH・H2O 0.290g(0.880mmol)、DIPEA 0.511mL(2.93mmol)、COMU 0.377g(0.880mmol)を加え、室温で50分撹拌した。DMSO 0.704mLに溶解した2-AEHS 24.8mg(0.176mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 0.237mLに溶解したMPS 50.4mg(0.283mmol)、固体のMPS 0.263g(1.48mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 0.597mL(3.99mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸4.60mL(4.60mmol)、10%炭酸ナトリウム水溶液(10%Na2CO3aq.)8.30mL、CPME 0.319mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 2.04mL、50%K2HPO4aq. 2.72mLを加え、分液洗浄し、H-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0133】
実施例(2-c)
得られた混合液に、CPME 0.800mL、DMF 3.30mL、Fmoc-Pro-OH・H2O 0.313g(0.880mmol)、DIPEA 0.511mL(2.93mmol)、COMU 0.377g(0.880mmol)を加え、室温で50分撹拌した。DMSO 0.704mLに溶解した2-AEHS 24.8mg(0.176mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 0.237mLに溶解したMPS 50.4mg(0.283mmol)、固体のMPS 0.263g(1.48mmol)を加え、6℃に冷却し、DBU 0.597mL(3.99mmol)を加え、1時間20分撹拌した。1N硫酸4.60mL(4.60mmol)、10%Na2CO3aq. 8.30mL、CPME 0.345mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 2.04mL、50%K2HPO4aq. 2.72mLを加え、分液洗浄し、H-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0134】
実施例(2-d)
得られた混合液に、CPME 0.600mL、DMF 3.30mL、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OH(図中に示した3種の異性体の混合物)0.587g(0.880mmol)、DIPEA 0.511mL(2.93mmol)、COMU 0.377g(0.880mmol)を加え、室温で50分撹拌した。DMSO 0.704mLに溶解した2-AEHS 24.8mg(0.176mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 0.237mLに溶解したMPS 50.4mg(0.283mmol)、固体のMPS 0.263g(1.48mmol)を加え、7℃に冷却し、DBU 0.597mL(3.99mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸4.60mL(4.60mmol)、10%Na2CO3aq. 8.40mL、CPME 0.380mLを添加し、分液した※3。得られた有機層にDMF 2.05mL、50%K2HPO4aq. 2.73mLを加え、分液洗浄し、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
ESIMS (m/z) 1463.6 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
※3 HPLC純度:78.0%
HPLC分析条件:実施例(1-d)の(1)と同一。
【0135】
実施例(2-e)
実施例(2-d)と同様に、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-D-Pal(3)-OH、Fmoc-D-pClPhe-OH、Fmoc-D-Nal(2)-OHを用いてペプチドを伸長し、H-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0136】
実施例(2-f)
実施例(1-f)と同様の方法で、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag) 1.36gを得た。
ESIMS (m/z) 1467.3 (M+2H)2+
【0137】
実施例(2-g)
実施例(1-g)と同様の方法で、Ac-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser(tBu)-Tyr(tBu)-D-hArg(Et)2(Boc)2-Leu-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag) 0.700gからAc-D-Nal(2)-D-pClPhe-D-Pal(3)-Ser-Tyr-D-hArg(Et)2-Leu-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH2・nTFA 0.455gを得た。
ESIMS (m/z) 785.5 (M+2H)2+
HPLC純度:94.4%
HPLC分析条件:実施例(1-g)の(2)と同一。
【0138】
実施例(1-d)の※1と参考例(1-d)の※2の分液の様子を図1図2に示した。図1に示した実施例(1-d)では、有機層と水層の界面が明瞭であり、液液分離が良好であった。一方図2に示した参考例(1-d)では、分液漏斗内全体がエマルジョンとなり、室温で25分間静置してもエマルジョンは解消せず、有機層と水層に分離することができなかった。
次に、実施例1の※1と実施例2の※3と参考例1の※2のHPLC分析結果を表1に示した。本発明のBoc基にて保護したFmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHを使用した実施例1、2では、分液性が良好で、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を76.2%、78.0%と高い純度で合成することができた。実施例1、2では、引き続きペプチド伸長反応を実施し、目的物であるガニレリクスの粗体を、94.3%、94.4%と高い純度で得ることができた。一方、Boc基ではなくプロトン保護のみおこなっているFmoc-hArg(Et)2-OH・HClを使用した参考例1では、H-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を合成した際に分液することができなかった。ガニレリクスの合成を継続するには、液液分離ではなく、他の方法でH-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を精製する必要があり、工業的に不利であった。なお、エマルジョン中のH-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)の純度は10.4%と著しく低かった。
【0139】
【表1】
【0140】
以上の結果から、従来技術であるプロトン保護をおこなったFmoc-hArg(Et)2-OH・HClの代わりに本発明のBoc保護をおこなったFmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHを用いることで、分液性が改善され、工業的に有利な方法でガニレリクスが得られることがわかった。
図1
図2