(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105079
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】直動案内装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223377
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大部 竹之介
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA36
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA72
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA24
3J104BA33
3J104DA02
3J104EA02
3J104EA07
(57)【要約】
【課題】軌道面に進入するボールの挙動に関わらず、衝撃力を緩和しつつ円滑なボールの移動を確保できるにも関わらず、低コストである直動案内装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】直動案内装置において、スライダ本体の幅方向中心と、案内レールの長手方向軸線とを通過する面を垂直中心面CPとし、垂直中心面CPに直交し、転動通路の直線部中心線を通る平面を水平基準面HPとし、垂直中心面CPに平行であって面取り部と交差する面を垂直基準面VPとしたときに、面取り部の表面は、直線部中心線に直交する断面において、第1軌道面の溝底中心O1に対して第1軌道面から離間するように水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、回転軌跡の最小半径は第1軌道面の溝底半径rより大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、
案内レールに対して長手方向に相対移動するように配置されたスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に形成される転動通路内に沿って転動自在に配置される複数の転動体と、を備えた直動案内装置であって、
前記スライダは、
前記案内レールの軌道溝に対向配置されて前記転動体の転動通路を形成する軌道溝、及び前記転動体の戻し通路を有するスライダ本体と、
前記戻し通路と前記転動通路とを接続する方向転換路を有するエンドキャップと、を備え、
前記スライダ本体の軌道溝は、前記転動通路の中央部側の第1軌道面と、前記転動通路の端部側の第2軌道面とを有し、
前記第2軌道面は、前記第1軌道面から前記スライダ本体の端面まで延在する第1傾斜面と、前記第1傾斜面に接することなく前記スライダ本体の端面まで延在する面取り部とを有し、
前記スライダ本体の幅方向中心と、前記案内レールの長手方向軸線とを通過する面を垂直中心面CPとし、前記垂直中心面CPに直交し、前記転動通路の直線部中心線を通る平面を水平基準面HPとし、前記垂直中心面CPに平行であって前記面取り部と交差する面を垂直基準面VPとしたときに、
前記面取り部の表面は、前記直線部中心線に直交する断面において、前記転動通路の直線部中心線O1に対して前記第1軌道面から離間するように前記水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、前記回転軌跡の最小半径は前記第1軌道面の溝底半径rより大きい、
ことを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記点O2から最も離れた前記面取り部の縁は、前記点O2を中心とする円の一部である、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記第1傾斜面は、前記スライダ本体の端面に向かうにつれて、前記垂直基準面VPから離間し、
前記面取り部の表面は、前記スライダ本体の端面に向かうにつれて、前記水平基準面HPから離間する、
ことを特徴とする請求項2に記載の直動案内装置。
【請求項4】
前記水平基準面HPで切断されて得られる前記第1傾斜面の断面形状は、曲率半径R1の円弧形状を有し、前記垂直基準面VPで切断されて得られる前記面取り部の表面断面形状は、曲率半径R2の円弧形状を有し、R2<R1である、
ことを特徴とする請求項3に記載の直動案内装置。
【請求項5】
前記水平基準面HPで切断されて得られる前記第1傾斜面の断面形状は、円弧形状を有し、前記垂直基準面VPと交差する前記面取り部の表面の交差部は、直線状である、
ことを特徴とする請求項3に記載の直動案内装置。
【請求項6】
前記水平基準面を挟んで前記第1傾斜面の両側に第2傾斜面及び第3傾斜面が形成されており、
前記第2傾斜面及び前記第3傾斜面が前記面取り部である、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項7】
前記第2傾斜面と前記第3傾斜面とが接続している、
ことを特徴とする請求項6に記載の直動案内装置。
【請求項8】
前記水平基準面から記第1傾斜面を挟んで離間する側に第2傾斜面が形成されており、
前記第2傾斜面が前記面取り部である、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項9】
前記面取り部の表面の面粗度は、前記第1傾斜面の面粗度と異なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項10】
案内レールと、
案内レールに対して長手方向に相対移動するように配置されたスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に形成される転動通路内に沿って転動自在に配置される複数の転動体と、を備えた直動案内装置の製造方法であって、
前記スライダは、
前記案内レールの軌道溝に対向配置されて前記転動体の転動通路を形成する軌道溝、及び前記転動体の戻し通路を有するスライダ本体と、
前記戻し通路と前記転動通路とを接続する方向転換路を有するエンドキャップと、を備え、
前記スライダ本体の軌道溝は、前記転動通路の中央部側の第1軌道面と、前記転動通路の端部側の第2軌道面とを有し、
前記第2軌道面は、前記第1軌道面から前記スライダ本体の端面まで延在する第1傾斜面と、前記第1傾斜面に接することなく前記スライダ本体の端面まで延在する面取り部とを有しており、
テーパ状の回転軌跡を有する研削工具または切削工具を、前記転動通路の直線部中心線O1に対して前記第1軌道面から離間させるよう平行移動させた加工軸線O2回りに回転させつつ、前記加工軸線O2に沿って前記第2軌道面に接近させて、前記第1傾斜面の一部を切除することにより前記面取り部を形成する、
ことを特徴とする直動案内装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ころやボール等の転動体を内部で無限循環させながら被案内物を直線的に案内する直動案内装置は、半導体製造装置や超精密加工機械、超精密測定機器等の運動精度に大きな影響を与える重要な機械要素の一つである。
【0003】
直動案内装置は、案内レールとスライダ本体とを備える。案内レールには、レール側転動体軌道溝が設けられる。スライダ本体には、レール側転動体軌道溝に対向するスライダ側転動体軌道溝が設けられ、このスライダ側転動体軌道溝及びレール側転動体軌道溝の間に形成した転動通路内に配設された複数の転動体の転動を介して軸方向に移動可能となるように案内レールに支持される。直動案内装置は、さらに転動通路と略平行となるようにスライダ本体内に設けた転動体戻し通路と、スライダ本体の移動方向の両端部に取付けられたエンドキャップに設けられて転動通路及び転動体戻し通路を連通させる方向転換路と、を備えている。
【0004】
直動案内装置の転動体が、転動通路、方向転換路及び転動体戻し通路を無限循環する際には、周期的な微小振動(以下、転動体通過振動という)が発生し、これが前述した機器類の運動精度を大きく左右する。転動体通過振動は、予圧や外部荷重によって負荷を受けながら転動通路(負荷域)を転動している転動体が、負荷域から転動体循環路(無負荷域)に出る際に負荷が開放されるとき、または反対に、無負荷域から負荷域に進入する際に新たに負荷を負うときに発現する。
【0005】
この転動体通過振動の抑制のため、転動通路を形成しているスライダ側転動体軌道溝の両端部にクラウニングと呼ばれる傾斜面を設けている。クラウニングにより転動体の負荷域出入りに伴う負荷変動を徐々に行わせることで、転動体通過振動を低減させることができる。
【0006】
特許文献1には、スライダ側転動体軌道溝の両端部に設けた傾斜部を、スライダ側転動体軌道溝から連続して傾斜が緩やかになるように大きな曲率半径で形成した曲面形状の第1クラウニングと、この第1クラウニングと隣接し、方向転換路の内周面に向かって延びる第1クラウニングよりも傾斜が急で第1クラウニングの軸方向長さよりも短い第2クラウニングと、この第2クラウニングとスライダ本体の端面との間に設けられ、第1クラウニング及び第2クラウニングよりも傾いた傾斜面とで構成した直動案内軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1のスライダ本体において、スライダ側転動体軌道溝の軸線を通る、鉛直方向や水平方向等々にのびる面でスライダ側転動体軌道溝を切断した断面において、何れの断面でもその端部における形状が一様である。このため、すべての断面において、共通する形状の第1クラウニング、第2クラウニング及び傾斜面を形成する必要があり、これにより加工工具の早期損耗が生じ、直動案内軸受の製造コストを押し上げる恐れがある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、軌道面に進入するボールの挙動に関わらず、衝撃力を緩和しつつ円滑なボールの移動を確保できるにも関わらず、低コストである直動案内装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の直動案内装置は、
案内レールと、
案内レールに対して長手方向に相対移動するように配置されたスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に形成される転動通路内に沿って転動自在に配置される複数の転動体と、を備えた直動案内装置であって、
前記スライダは、
前記案内レールの軌道溝に対向配置されて前記転動体の転動通路を形成する軌道溝、及び前記転動体の戻し通路を有するスライダ本体と、
前記戻し通路と前記転動通路とを接続する方向転換路を有するエンドキャップと、を備え、
前記スライダ本体の軌道溝は、前記転動通路の中央部側の第1軌道面と、前記転動通路の端部側の第2軌道面とを有し、
前記第2軌道面は、前記第1軌道面から前記スライダ本体の端面まで延在する第1傾斜面と、前記第1傾斜面に接することなく前記スライダ本体の端面まで延在する面取り部とを有し、
前記スライダ本体の幅方向中心と、前記案内レールの長手方向軸線とを通過する面を垂直中心面CPとし、前記垂直中心面CPに直交し、前記転動通路の直線部中心線を通る平面を水平基準面HPとし、前記垂直中心面CPに平行であって前記面取り部と交差する面を垂直基準面VPとしたときに、
前記面取り部の表面は、前記直線部中心線に直交する断面において、前記転動通路の直線部中心線O1に対して前記第1軌道面から離間するように前記水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、前記回転軌跡の最小半径は前記第1軌道面の溝底半径rより大きい、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の直動案内装置の製造方法は、
案内レールと、
案内レールに対して長手方向に相対移動するように配置されたスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に形成される転動通路内に沿って転動自在に配置される複数の転動体と、を備えた直動案内装置の製造方法であって、
前記スライダは、
前記案内レールの軌道溝に対向配置されて前記転動体の転動通路を形成する軌道溝、及び前記転動体の戻し通路を有するスライダ本体と、
前記戻し通路と前記転動通路とを接続する方向転換路を有するエンドキャップと、を備え、
前記スライダ本体の軌道溝は、前記転動通路の中央部側の第1軌道面と、前記転動通路の端部側の第2軌道面とを有し、
前記第2軌道面は、前記第1軌道面から前記スライダ本体の端面まで延在する第1傾斜面と、前記第1傾斜面に接することなく前記スライダ本体の端面まで延在する面取り部とを有しており、
テーパ状の回転軌跡を有する研削工具または切削工具を、前記転動通路の直線部中心線O1に対して前記第1軌道面から離間させるよう平行移動させた加工軸線O2回りに回転させつつ、前記加工軸線O2に沿って前記第2軌道面に接近させて、前記第1傾斜面の一部を切除することにより前記面取り部を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軌道面に進入するボールの挙動に関わらず、衝撃力を緩和しつつ円滑なボールの移動を確保できるにも関わらず、低コストである直動案内装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る直動案内装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の直動案内装置のスライダ本体を案内レールの長手方向から見た正面図である。
【
図4】
図4(a)は、スライダ本体の一部を切断して示す斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)にて鎖線で示す脚部一部を取り出して拡大した斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、
図4の脚部の一部を矢印VA方向に見た図であり、
図5(b)は、
図5(a)に示す脚部を、水平基準面HPに直交し軌道溝の幅方向両端近傍における脚部を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝を見た図であり、
図5(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図であり、
図5(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例にかかる
図5(b)と同様な断面を、転動体とともに示す模式図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態にかかる
図5(b)と同様な断面を、転動体とともに示す模式である。
【
図8】
図8(a)は、第2実施形態にかかる
図5(a)と同様な図であり、
図8(b)は、
図8(a)に示す脚部を、水平基準面HPに直交し軌道溝の幅方向両端近傍における脚部を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝を見た図であり、
図8(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図であり、
図8(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、第3実施形態にかかる
図5(a)と同様な図であり、
図9(b)は、
図9(a)に示す脚部を、水平基準面HPに直交し軌道溝の幅方向両端近傍における脚部を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝を見た図であり、
図9(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図であり、
図9(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、第4実施形態にかかる
図5(a)と同様な図であり、
図10(b)は、
図10(a)に示す脚部を、水平基準面HPに直交し軌道溝の幅方向両端近傍における脚部を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝を見た図であり、
図10(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図であり、
図10(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図である。
【
図11】
図11(a)は、第5実施形態にかかる
図5(a)と同様な図であり、
図11(b)は、
図11(a)に示す脚部を、水平基準面HPに直交し軌道溝の幅方向両端近傍における脚部を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝を見た図であり、
図11(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図であり、
図11(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝の端部の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書において、方向を示す用語(上方、下方等)は、特に断りがない限り
図2におけるそれぞれの方向を指すものとする。また、「長手方向」とは、案内レールまたはスライダの長手方向をいうものとする。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る直動案内装置を示す斜視図である。
図2は、
図1の直動案内装置のスライダ本体を案内レールの長手方向から見た正面図であるが、エンドキャップを省略して図示している。
図3は、
図2のIII-III断面図であるが、保持器4及び保持器用溝10Baは図示を省略する。
図2において、スライダ本体2Aの幅方向中心と、案内レール1の長手方向軸線とを通過する面を垂直中心面CPとし、垂直中心面CPに直交し、案内レール1を挟んで両側に配置された一対の転動通路13Aの直線部中心線O1を通る平面を水平基準面HPとする。また、転動通路13Aの直線部中心線O1から第1上軌道面側にシフトし、水平基準面HPに直交する平面を垂直基準面VPとする。ただし、垂直基準面VPは、垂直中心面CPに平行であって、後述する第2傾斜面及び第3傾斜面に交差する面とする。詳細は後述するが、一方の転動通路13Aに対応した垂直基準面VP及び水平基準面HPを用いて、各部構成を説明する。
【0016】
直線状に延びる断面形状略矩形の案内レール1に沿って、断面形状略U字状のスライダ2が、案内レール1の長手方向に移動可能に組み付けられている。案内レール1の幅方向左右両側面1a,1aと上面1bとが交差する稜部には、断面形状がほぼ1/4円弧形状である凹溝からなる軌道溝10A,10Aが長手方向に沿って形成されている。
【0017】
また、案内レール1の幅方向左右両側面1a,1aの上下方向略中央部には、断面形状がほぼ半円形状である凹溝からなる軌道溝10B,10Bが長手方向に沿って形成されている。さらに、軌道溝10B,10Bの溝底部には、保持器4の一部を収容してスライダ2の移動時に保持器4を案内する保持器用溝10Ba(ワイヤー溝)が、スライダ2の移動領域の両端間(例えば、案内レール1の長手方向両端間)にわたって長手方向に沿って形成されている。保持器用溝10Baの断面形状は例えば略矩形状である。
【0018】
また、スライダ2は、案内レール1の上面1bに対向する平板状の胴部7と、胴部7の左右両側部からそれぞれ下方に延び側面1aに対向する2つの脚部6,6とからなり、胴部7と脚部6,6とのなす角度は略直角であるため、スライダ2の断面形状は略U字状をなしている。さらにスライダ2は、両脚部6,6の間に案内レール1を挟むようにして、案内レール1に対し移動可能に取り付けられている。
【0019】
スライダ2は、スライダ本体2Aと、スライダ本体2Aの両端部(長手方向の両端部)に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bと、を備えている。さらに、スライダ2の両端部(各エンドキャップ2Bの長手方向外端面)には、案内レール1の外面(上面1b及び側面1a,1a)に摺接して、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうち長手方向端面側に面する部分を密封するサイドシール5,5が装着されており、スライダ2の下部には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうちスライダ2の下面側に面する部分を密封するアンダーシール8,8が装着されている。これらサイドシール5,5及びアンダーシール8,8により、外部から前記隙間への異物の浸入や、前記隙間から外部への潤滑剤の漏出が防止される。
【0020】
さらに、スライダ本体2Aの左右両脚部6,6の内側面の角部及び上下方向略中央部には、案内レール1の軌道溝10A,10A,10B,10B(以下、これらを総称する符号として10を用いることがある)に対向する断面形状がほぼ半円形である凹溝からなる軌道溝11A,11A,11B,11B(以下、これらを総称する符号として11を用いることがある)が形成されている。また、案内レール1の軌道溝10とスライダ2の軌道溝11との間に、断面ほぼ円形の転動通路13A,13A,13B,13B(以下、これらを総称する符号として13を用いることがある)がそれぞれ形成されており、これらの転動通路は長手方向に延びている。
【0021】
転動通路13内には複数の転動体3(ボール)が保持器4に保持されつつ転動自在に装填されており、転動通路13内における転動体3の転動を介して、スライダ2が案内レール1に案内されて長手方向に移動可能となっている。保持器4は例えばワイヤーで形成されており、案内レール1に組み付ける前のスライダ2からの転動体3の脱落を防止するために、転動体3を保持している。
【0022】
なお、案内レール1及びスライダ2が備える軌道溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列、あるいは三列以上であってもよい。また、軌道溝10,11の断面形状は、前述したように単一の円弧からなる円弧状でもよいが、曲率中心の異なる2つの円弧を組合せてなる略V字状(ゴシックアーク形状溝)でもよい。
【0023】
さらに、スライダ2は、スライダ本体2Aの左右両脚部6,6の肉厚部分の上部及び下部に、転動通路13と平行をなして長手方向に貫通する断面形状略円形の貫通孔からなる戻し通路14A,14A,14B,14B(以下、これらを総称する符号として14を用いることがある)を備えている(
図2、
図3参照)。
【0024】
エンドキャップ2Bは、例えば樹脂材料の成形品からなり、スライダ本体2Aと同様に断面形状が略U字状に形成されている。また、エンドキャップ2Bの裏面(スライダ本体2Aとの当接面)の左右両側には、断面形状円形で円弧状に湾曲する方向転換路15が上下二段に形成されている(
図3参照)。このエンドキャップ2Bをねじ等の締結部材でスライダ本体2Aに取り付けると、方向転換路15によって転動通路13と戻し通路14とが接続される。なお、方向転換路15の断面形状は、
図3において模式的に示されている。
【0025】
これら戻し通路14と両端の方向転換路15とで、転動体3を転動通路13の終点から始点に搬送して循環させる転動体搬送路16が構成され、転動通路13と転動体搬送路16とで、略環状の循環経路が構成される(
図3参照)。この略環状の循環経路は、案内レール1を挟んで左右両側にそれぞれ上下2段形成される。
【0026】
スライダ2が案内レール1に沿って長手方向に移動すると、転動通路13内に装填されている転動体3は、転動通路13内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動通路13の終点に達すると、転動通路13からすくい上げられ方向転換路15へ送られる。方向転換路15に入った転動体3は、向きを変えて戻し通路14に導入され、戻し通路14を通って反対側の方向転換路15に至り、ここで再び向きを変えて転動通路13の始点に戻る。転動体3が、このような循環経路内の循環を無限に繰り返すことで、スライダ2が案内レール1に沿って円滑に移動する。
【0027】
図4(a)は、スライダ本体2Aの一部を切断して示す斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)にて鎖線で示す脚部6の一部を取り出して拡大した斜視図である。
図5(a)は、
図4の脚部6の一部を矢印VA方向に見た図である。
図5(b)は、
図5(a)に示す脚部6を、水平基準面HPに直交し軌道溝11Aの幅方向両端近傍における脚部6を通過する垂直基準面VPで切断して軌道溝11Aを見た図である。垂直基準面VPは、転動通路13Aの直線部中心線O1に対して軌道溝11A側に位置する(以下の実施形態において同じ)。
図5(c)は、水平基準面HPで切断した軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
図5(d)は、垂直基準面VPで切断した軌道溝11Aの端部の断面を示す図であるが、切削工具(または研削工具)の回転軌跡とともに示す。
【0028】
図を参照して、軌道溝11A,11Bの端部形状について説明する。以下、軌道溝11Aを上側軌道溝として説明し、軌道溝11Bを下側軌道溝として説明する。また、単に第1軌道面という場合、第1上軌道面と第1下軌道面の少なくとも一方を指し、単に第2軌道面という場合、第2上軌道面と第2下軌道面の少なくとも一方を指す。
【0029】
図4(a)~(b)において、上側軌道溝11Aは、スライダ本体2Aの中央側の第1上軌道面11Aaと、スライダ本体2Aの端部側の第2上軌道面11Abとを有する。第1上軌道面11Aaと第2上軌道面11Abは、それぞれ溝底を通る水平基準面HP(
図5参照)を境界として、水平基準面HPより上方を上側フランクといい、水平基準面HPより下方を下側フランクという。上側フランク及び下側フランクは、水平基準面HPを基準に対称形状である。
【0030】
第1上軌道面11Aaは、長手方向に直交する断面が一様である。第1上軌道面11Aaと、案内レール1の軌道溝10A(
図2参照)とで形成される円筒状空間の中心線を、転動通路13Aの直線部中心線O1とする。転動通路13Aの直線部中心線O1は、水平基準面HP(
図5(a))内にある。これに対し、第2上軌道面11Abは、長手方向に直交する断面が部分的に異なるように形成される。
【0031】
図5において、第2上軌道面11Abは、直線部中心線O1に沿って延在する第1上傾斜面11Acと、第1上傾斜面11Acに接してそれより上方に形成される第2上傾斜面11Adと、第1上傾斜面11Acに接してそれより下方に形成される第3上傾斜面11Aeと、を有する。第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeが面取り部を構成する。第1上傾斜面11Acは、水平基準面HPを基準に対称形状であり、また第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeは、水平基準面HPを基準に対称となる形状をそれぞれ有する。ここで、単に第1傾斜面という場合、第1上傾斜面と後述する第1下傾斜面の少なくとも一方を指し、また単に第2傾斜面という場合、第2上傾斜面と後述する第2下傾斜面の少なくとも一方を指し、また単に第3傾斜面という場合、第3上傾斜面と後述する第3下傾斜面の少なくとも一方を指す。
【0032】
図5(b)に示すように、第1上傾斜面11Acは、第1上軌道面11Aaに接続されるが、第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeは、第1上軌道面11Aaに対して長手方向に離間している。具体的に、第1上傾斜面11Acの水平基準面HPに直交する方向に見たときの幅は、第1上軌道面11Aaの近傍で一様であり、第1上軌道面11Aaの近傍からスライダ本体2Aの端部に向かって漸次狭くなるように、
図5(b)の方向に見て先細形状に形成される。一方、第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeは、第1上軌道面11Aaから所定距離離れた位置から始まり、スライダ本体2Aの端部に向かって水平基準面HPに直交する方向に見たときの幅が漸次広くなるように、
図5(b)の方向に見て略三角形状に形成される。
【0033】
第1上傾斜面11Acは、スライダ本体2A(脚部6)の端面(長手方向端部)2Aaから距離L1の位置を始端とし、端面2Aaで終端する。距離L1を第1上傾斜面11Acの長手方向長さとする。転動体3の直径をDaとしたときに、L1=1.0×Da~2.0×Daであると好ましい。
【0034】
第1上傾斜面11Acは、
図5(c)に示すように、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて転動通路13Aの直線部中心線O1(垂直基準面VP)から(
図5(c)で上方)に離れるクラウニング形状を有する。クラウニング形状は、水平基準面HPを含む
図5(c)の断面において曲率半径R1の円弧形状である。
【0035】
一方、第2上傾斜面11Adは、
図5(d)に示すように、スライダ本体2A(脚部6)の端面2Aaから距離L2の位置を始端とし、端面2Aaで終端する。第1上傾斜面11Acの長手方向長さがL1であるとき、L1>L2であると好ましい。L1に対してL2の方が長い場合、上側軌道溝11Aの負荷を支える機能や、第1上傾斜面11Acのクラウニングの機能を阻害する可能性が増大するほか、加工時にスライダ本体2Aのブランク(素材)に対する軸方向の切り込み量が増える。これにより、半径方向の切り込み量を減らすことによるリードタイム増加や、工具への負荷が増大することが懸念される。これに対し、L1>L2とすることで、上側軌道溝11Aや第1上傾斜面11Acの機能を邪魔することなく、加工時にスライダ本体2Aのブランクに対する軸方向の切り込み量を抑制できる。
【0036】
第2上傾斜面11Adは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて水平基準面HPから(
図5(d)で上方)に離れる面取り形状を有する。面取り形状は、垂直基準面VPを含む
図5(d)の断面において曲率半径R2の円弧形状であると好ましい。ただし本実施形態ではR2=∞であり、すなわち
図5(d)の断面において面取り形状は直線となる。
【0037】
図5(d)に示す断面において、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adの交差する点は、不連続点となると好ましい。具体的には、
図5(d)に示す断面を2次元座標系とし、さらに第1上傾斜面11Acの表面形状を曲線CL1で表し、第2上傾斜面11Adの表面形状を曲線C2で表し、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adとの交点をP1としたときに、交点P1における曲線CL1の接線の傾き(微分値)と、交点P1における曲線CL2の接線の傾き(微分値)が異なる場合、曲線CL1と曲線CL2とが交点P1で不連続であり、このとき交点P1を不連続点という。交点P1は、第2上軌道面11Abにおいて直線部中心線O1側に突出する凸部の頂点であると好ましい。
【0038】
第3上傾斜面11Aeの形状については、水平基準面HPを基準に対称形状である以外、第2上傾斜面11Adの形状と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
また、
図4(a)~(b)において、下側軌道溝11Bは、上側軌道溝11Aに並行して、スライダ本体2Aの中央側の第1下軌道面11Baと、スライダ本体2Aの端部側の第2下軌道面11Bbとを有する。第1下軌道面11Baと第2下軌道面11Bbは、それぞれ溝底における水平基準面HP(
図2参照)を境界として、水平基準面HPより上方を上側フランクといい、水平基準面HPより下方を下側フランクという。上側フランク及び下側フランクは、水平基準面HPを基準に対称形状である。
【0040】
第1下軌道面11Baは、長手方向に直交する断面が一様である。これに対し、第2下軌道面11Bbは、長手方向に直交する断面が部分的に異なるように形成される。
【0041】
第2下軌道面11Bbは、水平基準面HPに沿って延在する第1下傾斜面11Bcと、第1下傾斜面11Bcより上方に形成される第2下傾斜面11Bdと、第1下傾斜面11Bcより下方に形成される第3下傾斜面11Beと、を有する。第2下傾斜面11Bd及び第3下傾斜面11Beは、水平基準面HPを基準に対称形状である。なお、下側軌道溝11Bは、上側軌道溝11Aと同様の構成を有するため、その説明を省略する。さらに、上側軌道溝11Aと下側軌道溝11Bの他端側の形状も、上述と同様であるため、その説明を省略する。
【0042】
(本実施形態の作用効果)
図6は、比較例にかかる
図5(b)と同様な断面を、転動体とともに示す模式図である。
図7は、本実施形態にかかる
図5(b)と同様な断面を、転動体とともに示す模式であるが、転動通路13Aの直線部中心線O1は紙面垂直方向にシフトしている。ここでは、転動通路13Aを例に説明するが、転動通路13Bにおいても同様である。
【0043】
本実施形態に対して、比較例のスライダ本体は、第2軌道面を有しておらず、円筒状の第1上軌道面11Aaが端面2Aaと直接交差している。それ以外の比較例の構成は、本実施形態の構成と同様である。
【0044】
例えばエンドキャップ2B内の方向転換路15(
図3参照)を通過する際の遠心力や振動等の影響で、転動体3の中心が転動通路13Aの直線部中心線O1に対してずれた状態で、方向転換路15から転動通路13A内に進入することがある。このとき、転動体3の中心と転動通路13Aの直線部中心線O1とのずれ量を偏心量eとする。転動体3の直径は、転動通路13Aの直径よりわずかに小さいため、その直径差(転動通路13Aの直径-転動体3の直径)の1/2より偏心量eが小さい場合には、転動体3は転動通路13Aにスムーズに進入できる。しかしながら、直径差の1/2を偏心量eが超えた場合、転動通路13Aの進入方向端縁(エッジ)に転動体3が衝接し、それにより騒音の発生や転動体3の傷つきなどが発生する恐れがある。
【0045】
これに対し本実施形態によれば、クラウニング形状を持つ第1上傾斜面11Acが、転動通路13Aの進入方向端部に形成されている。このため、水平方向に上記直径差の1/2を超えた偏心量eで偏心した状態でも、方向転換路15から進入してきた転動体3は、曲率半径R1を持つ外凸形状の第1上傾斜面11Ac(
図5(c)参照)に斜めに当接したのち転動して第1上軌道面11Aaに案内されることとなり、それによりヘルツ応力の大きな変化を抑制することで、騒音の発生や転動体3の傷つきなどを抑えることができ、転動体3の円滑な移動を確保できる。
【0046】
一方、
図7に示すように、垂直方向に上記直径差の1/2を超える偏心量eで偏心した転動体3が進入する場合もある。かかる場合、第1上傾斜面11Acのみでは、転動体3のスムーズな進入が阻害される恐れがある。これに対し、本実施形態においては、第2上軌道面11Abの進入方向端部近傍において、第1上傾斜面11Acの上下に、落ち量d2を持つ面取り部として第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Aeとを形成している。
【0047】
このため、上下方向に比較的大きな偏心量eで偏心した転動体3が進入してきた場合にも、曲率半径R2を持つ外凸形状の第2上傾斜面11Adまたは第3上傾斜面11Aeに斜めに当接したのち転動し、その後第1上傾斜面11Acから第1上軌道面11Aaに案内される。これによりスライダ本体2Aへの衝突力を緩和して、騒音の発生や転動体3の傷つきなどを抑えることができ、さらに転動体3の円滑な移動を確保できる。
【0048】
下側軌道溝11Bについても、上側軌道溝11Aと同様の構成を有するため、同様の効果を発揮する。
【0049】
(第1上軌道面及び第2上軌道面の加工方法)
次に、第1上軌道面11Aaの加工方法について説明する。第1上軌道面11Aaを研削加工する場合、まずスライダ本体2Aのブランクにおいて、第1上軌道面11Aaに類似する溝を切削加工等にて形成する。その後、転動通路13Aの直線部中心線O1回りに回転する研削工具を用いて、上側軌道溝11Aの中央部及び端部を研削する。これにより、第1上軌道面11Aa及び第1上傾斜面11Acが形成される。
【0050】
第1上軌道面11Aa及び第第1上傾斜面11Acを形成したのち、別な切削工具(または研削工具)TLを用いて面取り加工を行い、第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Aeを加工形成する。切削工具TLは、
図5(a)、(d)に鎖線で示すような円錐状(テーパ状)の回転軌跡を有する。その回転軌跡の最大径は、第1上軌道面11Aaの上下方向幅より大きい。
【0051】
具体的には、
図5(a)に示すように、水平基準面HP内であって、転動通路13Aの直線部中心線O1に対して上側軌道溝11Aから離間させるよう平行移動させた加工軸線O2を設定する。そのうえで、切削工具TLを加工軸線O2回りに回転させつつ、加工軸線O2に沿って第1上傾斜面11Acに接近させて、その一部(端部の上下)を切除するように研削加工を行う。これにより、第2上傾斜面11Adが研削加工され、同時に第3上傾斜面11Aeが研削加工される。
【0052】
すなわち、面取り部である第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの表面は、直線部中心線O1に直交する断面(
図5(a)に平行な断面)において、第1上軌道面11Aの溝底中心(直線部中心線O1)に対して第1上軌道面11Aから離間するように水平基準面HPに沿ってシフトした点(加工軸線)O2を中心とする回転軌跡上にあり、該回転軌跡の最小半径(点O2から、点O2に最も近接した第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Ae上の点P4,P5までの距離)は第1上軌道面11Aの溝底半径rより大きい。ここでは、スライダ本体2Aの端面2Aaと交差する第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの縁EG1,EG2は、点O2を中心とする円の一部となる。
【0053】
上側軌道溝11Aと同様に、下側軌道溝11Bを加工形成することができる。
【0054】
本実施形態によれば、切削工具TLを加工軸線O2に沿って第2上軌道面11Abに接近させるのみで面取り部の加工を行うことができるから、加工時間が短縮され、スライダ本体2Aの歩留まり向上を図れる。また、第2上軌道面11Abの溝の一部を切除することで、面取り部の加工を行うため、切削工具TLの損耗も少なく、メンテナンス間隔が長くなり、スライダ本体2Aのコスト低減を図れる。
【0055】
さらに、本実施形態ではスライダ本体2Aの軌道溝端部において、クラウニングに加え、転動体3が衝突しやすい軌道溝の端部上下に面取り部を設けることで、エッジ部を鈍くさせ、エッジ衝突時の接触面圧を低減し、転動体3の早期摩耗を抑制することができる。また、溝底方向はクラウニングのままとすることで、荷重を支える負荷圏も変わらず、耐久性や作動性は維持される。以上より、耐久性を維持したまま長寿命化に対応可能な直動案内装置を提案することができる。
【0056】
すなわち本実施形態によれば、スライダ本体2Aの軌道溝11,11Bにクラウニング形状と面取り部を複合的に形成することで、転動体3が転動通路13A、13Bに偏心して進入した場合でも、円滑な移動を確保できる。また、転動体3が転動通路13A、13Bの端部にあるエッジに衝突することを抑制できるため、転動体3が転動通路13A、13Bに進入する際の衝突圧力の増加を抑えることができる。
【0057】
(第2実施形態)
図8(a)は、第2実施形態における
図5(a)と同様な図である。
図8(b)は、
図8(a)に示す脚部6を、水平基準面HPに直交し上側軌道溝11Aの幅方向両端近傍における脚部6を通過する垂直基準面VPで切断して上側軌道溝11Aを見た図である。
図8(c)は、水平基準面HPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
図8(d)は、垂直基準面VPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
【0058】
本実施の形態は、第1実施形態に対して、上側軌道溝11Aの第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Aeの形状が異なり、それに応じて第1上傾斜面11Acの形状も異なっている。下側軌道溝11Bも同様である。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0059】
第1上傾斜面11Acは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて転動通路13Aの直線部中心線O1(垂直基準面VP)から(
図8(c)で上方)に離れるクラウニング形状を有する。クラウニング形状は、水平基準面HPを含む
図8(c)の断面において曲率半径R1の円弧形状である。
【0060】
第2上傾斜面11Adは、
図8(d)に示すように、スライダ本体2A(脚部6)の端面2Aaから距離L2の位置を始端とし、端面2Aaで終端する。第1上傾斜面11Acの長手方向長さがL1であるとき、L1>L2である。
【0061】
第2上傾斜面11Adは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて水平基準面HPから(
図8(d)で上方)に離れる面取り形状を有する。面取り形状は、垂直基準面VPを含む
図8(d)の断面において曲率半径R2の円弧形状であると好ましい。ただし本実施形態では第1実施形態と異なり、R2≠∞であって、内凸の形状である。
【0062】
図8(d)に示す断面において、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adの交差する交点P1は、不連続点となると好ましい。
【0063】
第1上軌道面11Aa及び第2上軌道面11Abは、第1実施形態と同様に形成する。その後、切削工具TLを用いて、面取り加工を行い、第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Aeを加工形成する。加工工具TLは、
図8(a)、(d)に鎖線で示すような外周が円弧形状(例えばトロイダル形状のようなテーパ形状)の回転軌跡を有する。その回転軌跡の最大径は、第1上軌道面11Aaの上下方向幅より大きい。
【0064】
また、面取り部である第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの表面は、直線部中心線O1に直交する断面(
図8(a)に平行な断面)において、第1上軌道面11Aの溝底中心(直線部中心線O1)に対して第1上軌道面11Aから離間するように水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、該回転軌跡の最小半径(点O2から、点O2に最も近接した第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Ae上の点P4,P5までの距離)は第1上軌道面11Aの溝底半径rより大きい。ここでは、スライダ本体2Aの端面2Aaと交差する第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの縁EG1,EG2は、点O2を中心とする円の一部となる。
【0065】
具体的に、
図8(a)に示すように、水平基準面HP内であって、転動通路13Aの直線部中心線O1に対して上側軌道溝11Aから離間させるよう平行移動させた加工軸線O2を設定する。そのうえで、切削工具TLを加工軸線O2回りに回転させつつ、加工軸線O2に沿って第2上軌道面11Abに接近させて、その一部を切除するように研削加工を行う。これにより、第2上傾斜面11Adが研削加工され、同時に第3上傾斜面11Aeが研削加工される。
【0066】
上側軌道溝11Aと同様に、下側軌道溝11Bを加工形成することができる。
【0067】
本実施形態によれば、第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Ae等の断面形状を円弧形状としたため、エッジ部(交点P1)の鋭さを抑え、面取り部を曲面状になだらかとなることで、接触面圧の低減や転動体3の詰まりがより軽減され、早期摩耗の抑制や作動性を向上させる効果がある。
【0068】
(第3実施形態)
図9(a)は、第3実施形態における
図5(a)と同様な図である。
図9(b)は、
図9(a)に示す脚部6を、水平基準面HPに直交し上側軌道溝11Aの幅方向両端近傍における脚部6を通過する垂直基準面VPで切断して上側軌道溝11Aを見た図である。
図9(c)は、水平基準面HPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
図9(d)は、垂直基準面VPで切断した上側軌道溝11Aの端部の上部断面を示す図である。
【0069】
本実施の形態は、第1実施形態に対して、上側軌道溝11Aの第2上傾斜面11Adと第3上傾斜面11Aeとを端面2Aa側で接続させており、それに応じて第1上傾斜面11Acの形状も異なる。下側軌道溝11Bも同様である。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0070】
水平基準面HPの上方において、第2上軌道面11Abは、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adを有する。第1上傾斜面11Acは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて転動通路13Aの直線部中心線O1(垂直基準面VP)から(
図9(c)で上方)に離れるクラウニング形状を有するが、端面2Aaに至る前に終端する。クラウニング形状は、水平基準面HPを含む
図9(c)の断面において曲率半径R1の円弧形状である。
【0071】
第2上傾斜面11Adは、
図9(d)に示すように、スライダ本体2A(脚部6)の端面2Aaから距離L2の位置を始端とし、端面2Aaで終端する。第1上傾斜面11Acの長手方向長さがL1であるとき、L1>L2である。
【0072】
第2上傾斜面11Adは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて水平基準面HPから(
図9(d)で上方)に離れる面取り形状を有する。面取り形状は、垂直基準面VPを含む
図9(d)の断面において曲率半径R2の円弧形状であると好ましい。本実施形態ではR2=∞としてもよいし、R2<R1としてもよい。
【0073】
水平基準面HPの下方において、上側軌道溝11Aの内側面は、円筒面の一部である。したがって、上述した実施形態の切削工具TLを用いて、面取り加工として第2上傾斜面11Adのみを形成できる。下側軌道溝11Bも同様に形成できる。
【0074】
すなわち、面取り部である第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの表面は、直線部中心線O1に直交する断面(
図9(a)に平行な断面)において、第1上軌道面11Aの溝底中心(直線部中心線O1)に対して第1上軌道面11Aから離間するように水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、該回転軌跡の最小半径(点O2から、点O2に最も近接した第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Ae上の点P4,P5までの距離)は第1上軌道面11Aの溝底半径rより大きい。ここでは、スライダ本体2Aの端面2Aaと交差する第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの縁EG3は、つながっており点O2を中心とする円の一部となる。本実施形態の第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeは、上述した切削工具を用いて、加工軸線O2に沿った追い込み量を調整することで加工形成できる。
【0075】
図9(b)に示すように、2箇所の面取り部である第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeが溝底付近で一体となることで、クラウニングを維持しつつ溝底のエッジ部を除去できる為、耐久性や作動性を維持しつつ早期摩耗を抑制させる効果がある。
【0076】
(第4実施形態)
図10(a)は、第4実施形態における
図5(a)と同様な図である。
図10(b)は、
図10(a)に示す脚部6を、水平基準面HPに直交し上側軌道溝11Aの幅方向両端近傍における脚部6を通過する垂直基準面VPで切断して上側軌道溝11Aを見た図である。
図10(c)は、転動通路13Aの直線部中心線O1を含み水平基準面HPに対して傾斜した傾斜面SPで切断した上側軌道溝11Aの端部の上部断面を示す図である。
図10(d)は、垂直基準面VPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
【0077】
本実施の形態は、第1実施形態に対して、水平基準面HPの上方と下方とで上側軌道溝11Aの形状が異なる。下側軌道溝11Bも同様である。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0078】
第2上軌道面11Abは、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adを有する。第1上傾斜面11Acは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて転動通路13Aの直線部中心線O1(垂直基準面VP)から(
図10(c)で上方)に離れるクラウニング形状を有するが、端面2Aaに至る前に終端する。クラウニング形状は、水平基準面HPを含む
図10(c)の断面において曲率半径R1の円弧形状である。
【0079】
第2上傾斜面11Adは、
図10(d)に示すように、スライダ本体2A(脚部6)の端面2Aaから距離L2の位置を始端とし、端面2Aaで終端する。第1上傾斜面11Acの長手方向長さがL1であるとき、L1>L2である。
【0080】
第2上傾斜面11Adは、第1上軌道面11Aaから離れるにつれて水平基準面HP及び垂直基準面VPから(
図10(d)で上方)に離れる面取り形状を有する。面取り形状は、傾斜面SPを含む
図10(d)の断面において曲率半径R2の円弧形状であると好ましい。本実施形態ではR2=∞としてもよいし、R2<R1としてもよい。
【0081】
図10(d)に示す断面において、第1上傾斜面11Acと第2上傾斜面11Adの交差する交点P1は、不連続点となると好ましい。
【0082】
すなわち、面取り部である第2上傾斜面11Adの表面は、直線部中心線O1に直交する断面(
図10(a)に平行な断面)において、第1上軌道面11Aの溝底中心(直線部中心線O1)に対して第1上軌道面11Aから離間するように水平基準面HPに沿ってシフトした点O2を中心とする回転軌跡上にあり、該回転軌跡の最小半径(点O2から、点O2に最も近接した第2上傾斜面11Ad上の点P4までの距離)は第1上軌道面11Aの溝底半径rより大きい。ここでは、スライダ本体2Aの端面2Aaと交差する第2上傾斜面11Adの縁EG1は、点O2を中心とする円の一部となる。なお、第2上傾斜面11Adを省略する代わりに、第3上傾斜面11Aeを設けてもよい。
【0083】
本実施形態のように、上側軌道溝11A等の断面形状が半円状に限らず、転動体3と上側軌道溝11A等の接触角を考慮する必要がある場合や、転動体3が衝突しやすい部位に面取り部を限定する場合でも、上述した実施形態と同様の効果がある。
【0084】
(第5実施形態)
図11(a)は、第5実施形態における
図5(a)と同様な図である。
図11(b)は、
図11(a)に示す脚部6を、水平基準面HPに直交し上側軌道溝11Aの幅方向両端近傍における脚部6を通過する垂直基準面VPで切断して上側軌道溝11Aを見た図である。
図11(c)は、水平基準面HPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
図11(d)は、垂直基準面VPで切断した上側軌道溝11Aの端部の断面を示す図である。
【0085】
本実施形態の上側軌道溝11Aの形状は、第1実施形態と同様であるが、第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの面粗度が、第1上傾斜面11Acの面粗度よりも粗い。第1上傾斜面11Acの面粗度は、第1上軌道面11Aaの面粗度と略等しい。面粗度は、算術平均粗さRa等によって評価でき、例えば第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの算術平均粗さRaは、第1上傾斜面11Acの算術平均粗さRaよりも50%以上粗いと好ましい。下側軌道溝11Bも同様である。それ以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0086】
例えば、第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの面粗度は、砥粒の粒度が大きい研削工具で面取り加工を行ったり、切削工具を用いて面取り部にツールマークを形成することなどで、第1上傾斜面11Acの面粗度よりも粗くすることができる。第2上傾斜面11Ad及び第3上傾斜面11Aeの面粗度を粗くすることで、面取り部への潤滑剤の付着が促進され、面取り部に転動体3が衝突する際の損傷を抑制する効果が期待できる。
【0087】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1 案内レール
2 スライダ
2A スライダ本体
2B エンドキャップ
3 転動体
4 保持器
10A,10B 軌道溝
11A,11A 軌道溝
13A,13B 転動通路
14A,14B 戻し通路
15 方向転換路