(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105084
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】医療用ゴム物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20250703BHJP
A61J 1/06 20060101ALI20250703BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20250703BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C08J7/00 304
A61J1/06 H
A61M5/315 512
A61M5/32 500
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223382
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】紀田 擁軍
(72)【発明者】
【氏名】石田 聖
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
4F073
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB23
4C047BB25
4C047BB26
4C047BB28
4C047BB36
4C047DD02
4C047DD08
4C066HH14
4C066NN01
4C066PP04
4F073AA07
4F073BA12
4F073BB05
4F073BB08
4F073CA46
4F073HA11
(57)【要約】
【課題】表面の摩擦係数および粘着性が低減された医療用ゴム物品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、(a)基材ゴムとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に、紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項2】
前記紫外線の波長が、160nm~380nmである請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項3】
前記硬化物への紫外線の積算照度が、1000mJ/cm2~50000mJ/cm2である請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項5】
(a)基材ポリマーがハロゲン化ブチルゴムのみからなる請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項6】
前記硬化物の表面の少なくとも一部が、不活性樹脂層で被覆されており、不活性樹脂層で被覆されておらず、露出しているゴム表面に紫外線を照射する請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項7】
前記不活性樹脂層が、フッ素樹脂からなる層である請求項6に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項8】
前記不活性樹脂層が、非フッ素樹脂からなる層である請求項6に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項9】
前記医療用ゴム物品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項10】
前記医療用ゴム物品が、薬液に対向する接液面部とバレルに接触する摺動面部とを有し、前記接液面部が不活性樹脂層で被覆されており、前記摺動面部が不活性樹脂層で被覆されておらず、医療用ゴム組成物の硬化物が露出しているシリンジ用プランジャストッパーである請求項6に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項11】
前記不活性樹脂層が、フッ素樹脂からなる層である請求項10に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【請求項12】
前記不活性樹脂層が、非フッ素樹脂からなる層である請求項10に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ゴム物品の製造方法に関するものであり、より詳しくは、医療用ゴム物品表面の摩擦係数および粘着性を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ゴム物品には、ガスバリア性に優れるハロゲン化ブチルゴムが使用されている。ハロゲン化ブチルゴムは、加硫出来る二重結合量が僅かなので、加硫後のゴム物品表面には粘着性がある(タック値が高い)。そのために摺動性が悪く、更に長期間保管するとゴム物品同士がくっ付いてしまうという問題がある。高摺動性を付与し、摩擦抵抗を低くする目的で、加硫後のゴム物品表面にシリコーンオイルを塗布し、または、フッ素樹脂系フィルムでラミネートすることが行われている。
【0003】
一方、ポリマー材料表面の性質を向上させるために、ポリマー材料に紫外線を照射する表面改質方法がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、側鎖または主鎖に-CH2-結合を有するポリマーからなる素材に、不活性雰囲気中で、波長が160~310nmである紫外線を照射した後、酸化性雰囲気中で、前記素材に、波長が200nm以下である紫外線を照射することにより、素材表面の濡れ性を均一にする素材の表面改質方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、一般式(1)R-CH=CH2(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射することにより、前記ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与するポリマー材料基材の表面処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03-128941号公報
【特許文献2】特開2023-053773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摺動性を改善するために医療用ゴム物品の表面にシリコーンオイルを塗布したり、フッ素樹脂系フィルムでラミネートすることが行われている。しかしながら、シリコーンオイルを塗布した医療用ゴム物品が、バイオ薬品に接触すると、シリコーン粒子によるタンパク質の凝集が起こる恐れがある。そのため、バイオ薬品を使用する医療用品には、シリコーンオイル塗布した医療用ゴム物品は使えない。特に、プレフィルドシリンジのプランジャストッパーでは、シリコーンオイルフリー(SOF)のニーズが高くなっている。
【0008】
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムなどのフッ素樹脂系フィルムをラミネートしたラミネート医療用ゴム物品は、PTFEフィルムの弾性率がゴムより100倍高く、プレフィルドシリンジのプランジャストッパーとしてシール性が低下する傾向がある。
【0009】
SOF規制対応として、シリコーンオイルを使わず、医療用ゴム物品表面の摩擦係数および粘着性を低減させる方法が求められている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面の摩擦係数および粘着性が低減される新規な医療用ゴム物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に、紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする。本発明者は、(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に紫外線を照射することにより、硬化物表面が低摩擦係数および低粘着性(タック値がほぼゼロ)に大きく改質されることを見い出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用ゴム物品の製造方法を用いれば、表面の摩擦係数および粘着性が低減された医療用ゴム物品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(プランジャストッパー)の説明図。
【
図2】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(プランジャストッパー)の説明図。
【
図3】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(ゴム栓)の説明図。
【
図4】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(ゴム栓)の説明図。
【
図5】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(真空採血管用ゴム栓)の説明図。
【
図6】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(真空採血管用ゴム栓)の説明図。
【
図7】本発明の医療用ゴム物品の一実施形態(ノズルキャップ)の説明図。
【
図8】医療用ゴム物品の摩擦係数の測定方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に、紫外線を照射する工程(以下、単に「紫外線照射工程」ということがある。)を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の製造方法で使用する医療用ゴム組成物の硬化物は、(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物を加硫することにより得られる。まず、医療用ゴム組成物について説明する。
【0016】
<医療用ゴム組成物>
[(a)基材ポリマー]
(a)前記基材ポリマーは、ハロゲン化ブチルゴムを含有する。ハロゲン化ブチルゴムは、紫外線照射工程において架橋反応が起こり、ゴム表面において(a)基材ポリマー全体の弾性率が上がり、変形しにくくなる。その結果、本発明の製造方法により得られた医療用ゴム物品は、他の物品との接触面において真な接触面積が低下し、摩擦係数が小さくなる。
【0017】
(a)前記基材ポリマーに含まれるハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、および、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物などが挙げられる。これらのハロゲン化ブチルゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。なお、ブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体である。なお、前記ハロゲン化ブチルゴムは、常温(23℃)で固体であることが好ましい。
【0018】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.2質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
(a)前記基材ポリマーが、ハロゲン化ブチルゴムとして、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムを含有する場合、紫外線照射工程において、塩素化または臭素化されたイソプレン部分で架橋反応が起こる。
(a)前記基材ポリマーが、ハロゲン化ブチルゴムとして、臭素化イソブチレンーパラメチルスチレン共重合体ゴム(BIMS)を含有する場合、紫外線照射工程において、臭素化されたパラメチルスチレン部位のところで架橋反応が起こる。
【0020】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば、エクソンモービル社製のExxon(登録商標)Chlorobutyl 1066〔ハロゲン含量率:1.25wt%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕、Exxon Chlorobutyl 5066〔ハロゲン含量率:1.50wt%、ムーニー粘度:40ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL(登録商標)CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば、エクソンモービル社製のExxon Bromobutyl 2211〔ハロゲン含量率:2.0wt%、ムーニー粘度:32ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 2222〔ハロゲン含量率:2.0wt%、ムーニー粘度:32ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 2235〔ハロゲン含量率:2.1wt%、ムーニー粘度:39ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 2244〔ハロゲン含量率:2.0wt%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 2255〔ハロゲン含量率:2.1wt%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 6222〔ハロゲン含量率:2.4wt%、ムーニー粘度:32ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 7211〔ハロゲン含量率:2.0wt%、ムーニー粘度:32ML1+8(125℃)、比重:0.93〕、Exxon Bromobutyl 7244〔ハロゲン含量率:2.1wt%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2等の少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
(a)前記基材ポリマーは、ハロゲン化ブチルゴム以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、例えば、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0023】
他のゴム成分を使用する場合、(a)基材ポリマー中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。また、(a)基材ポリマーがハロゲン化ブチルゴムのみからなることも好ましい態様である。
【0024】
前記医療用ゴム組成物は、(b)架橋剤を含有することが好ましい。(b)架橋剤は、(a)基材ポリマーが含有するハロゲン化ブチルゴム成分を架橋させるために配合される。(b)前記架橋剤としては、ハロゲン化ブチルゴムを架橋させることが可能な架橋剤であれば特に限定されない。(b)前記架橋剤としては、例えば、硫黄、金属酸化物、樹脂架橋剤、有機過酸化物、トリアジン誘導体などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上併用して用いることができる。
【0025】
架橋剤として使用される硫黄としては、例えば、不溶性硫黄、粉末硫黄、微粉硫黄、沈降性硫黄、コロイド硫黄、塩化硫黄などを挙げることができる。
【0026】
架橋剤として使用される金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などを挙げることができる。
【0027】
樹脂架橋剤としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、熱反応性フェノール樹脂、フェノールジアルコール系樹脂、ビスフェノール樹脂、熱反応性ブロモメチルアルキル化フェノール樹脂などのアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂類を挙げることができる。
【0028】
前記有機過酸化物は、具体的には、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシ、ジ-t-ヘキシルペルオキシ、ジ-t-ブチルペルオキシ、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3などが挙げられる。パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルペルオキシマレエート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエートなどが挙げられる。パーオキシケタールとしては、例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ジ(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
架橋剤として使用されるトリアジン誘導体としては、例えば一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0030】
【0031】
[式中、Rは、-SH、-OR1、-SR2、-NHR3または-NR4R5(R1、R2、R3、R4およびR5は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基またはシクロアルキル基を示す。R4およびR5は、同一であっても異なっていてもよい。)である。M1およびM2は、H、Na、Li、K、1/2Mg、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族1級アミン、2級アミンもしくは3級アミン、第4級アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。M1およびM2は、同一または異なってもよい。]
【0032】
一般式(1)において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、またはドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、または2-ペンテニル基等の炭素数1~12のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはアセナフチレニル基等の炭素数6~14のアリール基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2,2-ジフェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、2-ビフェニリルメチル基、3-ビフェニリルメチル基または4-ビフェニリルメチル基等の炭素数7~19のアラルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えばトリル基、キシル基またはオクチルフェニル基等の炭素数7~19のアルキルアリール基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基またはシクロノニル基等の炭素数3~9のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0033】
一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の具体例としては、例えば2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-メチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-(n-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-オクチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-プロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジアリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジメチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(iso-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジプロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(2-エチルヘキシル)アミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジオレイルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ラウリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンもしくは2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、またはこれらのナトリウム塩もしくはジナトリウム塩が挙げられる。
【0034】
これらのなかでも、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-ジアルキルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが好ましく、入手の容易さから2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが特に好ましい。
【0035】
また、トリアジン誘導体としては、例えば、6-[ビス(2-エチルへキシル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
本発明で使用する医療用ゴム組成物において、トリアジン誘導体としては1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記塩素化ブチルゴムおよび臭素化ブチルゴムは、それぞれ架橋のメカニズムが異なるため、架橋に最適な架橋成分を選択して使用するのが好ましい。前記医療用ゴム組成物が、ハロゲン化ブチルゴムとして塩素化ブチルゴムを含む場合は、(b)架橋剤としてトリアジン誘導体を含有することが好ましい。また、前記医療用ゴム組成物が、ハロゲン化ブチルゴムとして臭素化ブチルゴムを含む場合は、(b)架橋剤として、金属酸化物を含有することが好ましい。
【0038】
前記医療用ゴム組成物中の(b)前記架橋剤の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.6質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。(b)架橋剤の含有量が前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と加工性(ヤケの少ない)の良いゴムを得ることができるからである。
【0039】
ハロゲン化ブチルゴムとして、塩素化ブチルゴムを使用し、(b)架橋剤としてトリアジン誘導体を使用する場合、医療用ゴム組成物中の(b)前記架橋剤の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.6質量部以上であることがさらに好ましく、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。(b)架橋剤の含有量が前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と加工性(ヤケの少ない)の良いゴムを得ることができるからである。
【0040】
ハロゲン化ブチルゴムとして、臭素化ブチルゴムを使用し、(b)架橋剤として、金属酸化物を使用する場合、医療用ゴム組成物中の(b)前記架橋剤の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。(b)架橋剤の含有量が前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と加工性(ヤケの少ない)の良いゴムを得ることができるからである。
【0041】
前記医療用ゴム組成物は、加硫促進剤を含まないことが好ましい。最終製品のゴム製品中に加硫促進剤が残存して、シリンジなど中の薬液へ溶出する場合があるからである。前記加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系促進剤(例:ジフェニルグアニジン)、チウラム系促進剤(例:テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド)、ジチオカルバミン酸塩系促進剤(例:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、チアゾール系促進剤(例:2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド)、スルフェンアミド系促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)が挙げられる。
【0042】
前記医療用ゴム組成物は、さらに受酸剤を含有してもよい。受酸剤は、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時に発生する塩素系ガスや臭素系ガスを吸収して、これらのガスによる架橋阻害等の発生を防止するために機能する。また、受酸剤は、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時にスコーチ防止剤として、また、医療用ゴム部品の圧縮永久ひずみが大きくなるのを防止するためにも機能する。
【0043】
前記受酸剤としては、例えば、ハイドロタルサイト、金属酸化物、金属水酸化物などが挙げられる。
【0044】
ハイドロタルサイトとしては、例えば、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O、Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O等のMg-Al系ハイドロタルサイト等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの受酸剤は、1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、先述した架橋剤として使用される金属酸化物も受酸剤として機能しうる。
【0045】
前記受酸剤の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。受酸剤の含有量が前記範囲内であれば、金型等への錆発生を抑制し、原料自体が白点異物となる不具合を減らすことができるからである。
【0046】
前記医療用ゴム組成物には、さらに充填剤を配合してもよい。前記充填剤としては、例えば、クレー、タルクなどの無機充填剤が挙げられる。これらの中でも、前記充填剤としては、無機充填剤が好ましく、クレーまたはタルクがさらに好ましい。前記充填剤は、医療用ゴム部品のゴム硬さを調整するために機能するとともに、増量材として医療用ゴム部品の生産コストを低減させるためにも機能する。
【0047】
前記クレーとしては、焼成クレーやカオリンクレーを挙げることができる。前記クレーの具体例としては、例えばHOFFMANN MINERAL(ホフマンミネラル)社製のSILLITIN(登録商標)Z、ENGELHARD(エンゲルハード)社製のSATINTONE(登録商標)W、土屋カオリン工業社製のNNカオリンクレー、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のPoleStar200Rなどが挙げられる。
【0048】
前記タルクの具体例としては、例えば竹原化学工業社製のハイトロンA、日本タルク社製のMICRO ACE(登録商標)K-1、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のミストロン(登録商標)ベーパー等が挙げられる。
【0049】
前記医療用ゴム組成物中の充填剤の含有量は、目的とする医療用ゴム物品のゴム硬さ等に応じて適宜設定することが好ましい。前記医療用ゴム組成物中の充填剤の含有量は、例えば、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。
【0050】
前記医療用ゴム組成物には、さらに、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、ステアリン酸などの滑剤、加工助剤や、架橋活性剤としてのポリエチレングリコール、プロセスオイル等を適宜の割合で配合してもよい。
【0051】
前記医療用ゴム組成物は、(a)基材ポリマーと(b)架橋剤と、その他、必要に応じて加える配合材料とを混練することにより得られる。混練は、例えば、オープンロール、密閉式ニーダーなどを用いて行うことができる。混練物は、リボン状、シート状、ペレット状などに成形することが好ましく、シート状に成形することがより好ましい。
【0052】
本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、前記医療用ゴム組成物を硬化する工程を含んでもよい。本発明で使用する医療用ゴム組成物の硬化物は、前記医療用ゴム組成物を加硫(架橋)してなるものである。リボン状、シート状、ペレット状の混練物をプレス成型することにより、所望形状の医療用ゴム組成物の硬化物が得られる。プレス時に医療用ゴム組成物の架橋反応が進行する。成形温度は、例えば、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。成形時間は、2分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましく、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。成形圧力は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0053】
本発明を適用する医療用ゴム組成物の硬化物は、その表面の少なくとも一部が、不活性樹脂層で被覆されていてもよい。例えば、医療用ゴム組成物から構成されるシートに不活性樹脂フィルムを重ねた状態で、プレス成形することにより、医療用ゴム組成物の硬化物の表面の少なくとも一部が不活性樹脂層で被覆される。
【0054】
不活性樹脂層は、医療用ゴム物品表面の少なくとも一部に不活性樹脂層が被覆されていればよく、医療用ゴム物品の形態に応じて適宜積層されていることが好ましい。特に、医療用ゴム物品が、薬品と接する面に不活性樹脂層を設けることが好ましい。この態様では、不活性樹脂層が良好な耐薬品性を発現するとともに、不活性樹脂層が設けられていない面の摺動性を紫外線照射により改善できる。
【0055】
不活性樹脂層を構成する樹脂としては特に限定されないが、良好な耐薬品性が得られるという点から、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、または、非フッ素樹脂を挙げることができる。
【0056】
テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)とは、エチレンとテトラフルオロエチレンを30/70~70/30のモル比で共重合したものであり、改質目的でさらに他の成分を共重合した変性ETFEがある。他の成分としては、フッ素含有オレフィンや炭化水素系オレフィンが挙げられる。具体的には、プロピレン、ブテンなどのα-オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロブチルエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどの含フッ素オレフィン、エチレンビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、含フッ素アクリレート類などがあり、2~10モル%程度共重合されて、ETFEを改質する。
【0057】
変性ETFEとしては、接着性を付与する官能基を有するETFEを好適に使用することができ、該官能基としては、カルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基、炭素-炭素二重結合、スルホン酸基、エーテル基などが挙げられる。また、変性ETFEの市販品としては、旭硝子(株)製のフルオンAH-2000などが挙げられる。
【0058】
非フッ素樹脂としては、オレフィン系樹脂を挙げることができる。前記オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの共重合体等が挙げられ、ポリエチレン(特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))が好ましい。また、オレフィン系樹脂は、フッ素を含んでいてもよい。
【0059】
使用する不活性樹脂フィルムの厚みは、医療用ゴム物品の形状やサイズに合わせて適宜調整すればよいが、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、150μm以下が好ましく、130μm以下がより好ましく、110μm以下がさらに好ましい。不活性樹脂フィルムの厚みが前記範囲内であれば、製品成形時のフィルム破り、成形後製品表面のフィルムに皺や浮き不良等が発生せず、成形加工性と製品特性の両立ができることとなるからである。
【0060】
不活性樹脂フィルムの算術平均粗さRaは、キャスティング法フィルムや、押出しフィルムの0.01~0.03μmのものから、スカイビングフィルムの0.10μmのものでも、金型の表面粗さを0.03μm以下にすることで、液密着性、気密性に優れた医療用ゴム物品が得られる。不活性フィルム自体のRaの下限は特に限定されない。
【0061】
不活性樹脂フィルムは、ゴム等との接着性を高める処理を行うことが好ましい。接着性を高める処理としては、化学処理法、フィルムの表面を粗面化する処理や、これらを組み合わせたものが挙げられ、具体例としては、ナトリウム処理、グロー放電処理、大気圧下又は真空下でのプラズマ処理(放電処理)、エキシマレーザー処理(放電処理)、イオンビーム処理が挙げられる。
【0062】
<紫外線照射工程>
本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、前記医療用ゴム組成物の硬化物に、紫外線を照射する工程(紫外線照射工程)を含む。紫外線を照射する医療用ゴム組成物の硬化物は、最終的な医療用ゴム物品の形状に成形されたものであってもよいし、最終的な医療用ゴム物品の形状に成形される前の予備成形体であってもよい。
【0063】
医療用ゴム組成物の硬化物に紫外線を照射する方法は、特に限定されないが、例えば、紫外線を発する光源を用いて、医療用ゴム組成物の硬化物の表面に照射することが挙げられる。
【0064】
前記紫外線の波長は、160nm以上であることが好ましく、165nm以上であることがより好ましく、170nm以上であることがさらに好ましい。紫外線の波長が160nm以上であれば、表面改質ができるからである。また、前記紫外線の波長の上限は、特に限定されないが、380nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。紫外線の波長が380nm以下であれば、紫外線のエネルギーが高くなり、ハロゲン化ブチルゴムの架橋効率が高くなり、変形しにくくなる。また、高エネルギーの紫外線によって医療用ゴム組成物の硬化物の表面粘着性へ貢献する低分子成分が分解して蒸発し、低粘着性を実現することができる。さらに、前記低分子成分の蒸発により、硬化物の表面が粗くなるため、摩擦係数を一層低下することができる。これらの中でも、本発明の効果を一層良好に得られる点から、波長が200nm以下の真空紫外線が特に好ましい。
【0065】
前記紫外線を発する光源としては、前記波長範囲の紫外線を発することができるものであれば、特に限定されない。例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプなどが用いられる。特にエキシマランプは、エネルギーが強く、比較的短時間で表面の改質が行われる点から好ましい。前記エキシマランプは、用いる放電ガスの種類によって異なる波長の紫外線を発する。例えば、キセノン(Xe2)を用いると172nm、塩化キセノン(XeCl)を用いると308nm、臭化キセノン(XeBr)を用いると283nm、ヨウ化キセノン(XeI)を用いると253nm、フッ化アルゴン(ArF)を用いると193nm、臭化アルゴン(ArBr)を用いると165nm、塩化クリプトン(KrCl)を用いると222nm、臭化クリプトン(KrBr)を用いると207nmの中心波長を有する紫外線(「エキシマUV光」とも呼ばれる)を発する。本発明では、中心波長が200nm以下の真空紫外線を発するエキシマランプが好ましく、キセノンを用いたエキシマランプ(中心波長:172nm)が特に好ましい。
【0066】
前記紫外線照射工程では、医療用ゴム組成物の硬化物への紫外線の積算照度は、1000mJ/cm2以上であることが好ましく、3000mJ/cm2以上であることがより好ましく、5000mJ/cm2以上であることがさらに好ましい。医療用ゴム組成物の硬化物への積算照度が1000mJ/cm2以上であれば、ハロゲン化ブチルゴムの架橋が十分に行われるとともに、医療用ゴム組成物の硬化物の表面粘着性へ貢献する低分子成分がより分解しやすくなる。また、医療用ゴム組成物の硬化物への紫外線の積算照度の上限は、特に限定されないが、50000mJ/cm2以下であることが好ましく、45000mJ/cm2以下であることがより好ましく、40000mJ/cm2以下であることがさらに好ましい。医療用ゴム組成物の硬化物への積算照度が50000mJ/cm2以下であれば、照射設備の寿命、表面改質の効率性のバランスがとれるからである。なお、前記医療用ゴム組成物の硬化物への紫外線の積算照度とは、医療用ゴム組成物の硬化物の表面に到達する紫外線の合計照度(到達照度)であって、医療用ゴム組成物の硬化物の表面に到達する紫外線の強度(到達強度)に紫外線の照射時間を乗じることで算出することができる。
【0067】
前記紫外線の到達強度および照射時間は、上記した範囲の積算照度となるように適当に調整すればよいが、通常、前記紫外線の到達強度は、10mW/cm2/sec~100mW/cm2/sec、照射時間は、10秒~5000秒とすることが好ましい。紫外線の到達強度および照射時間をこれらの範囲とすることで、上記した範囲の積算照度となりやすいからである。
【0068】
医療用ゴム組成物の硬化物の表面と紫外線を発する光源(ランプ)との距離は、特に限定されないが、紫外線照射の均一性を高める点から、1mm~20mmとすることが好ましい。
【0069】
本発明では、医療用ゴム組成物の硬化物に紫外線を照射することにより、硬化物表面を低摩擦係数および低粘着性に大きく改質することができる。
【0070】
本発明の製造方法において、医療用ゴム組成物の硬化物の表面の少なくとも一部が、不活性樹脂層で被覆されている場合、不活性樹脂層で被覆されておらず、露出しているゴム表面に紫外線を照射することが好ましい。露出しているゴム表面の一部にのみ紫外線を照射してもよいし、露出しているゴム表面の全面に紫外線を照射するようにしてもよい。
【0071】
本発明の医療用ゴム物品の製造方法は、医療用ゴム組成物の硬化物を所定の形状に加工する工程、洗浄する工程、滅菌する工程、乾燥する工程を含んでもよい。例えば、紫外線照射後の医療用ゴム組成物の硬化物から、不要部分を切除、除去して所定の形状にし、さらに洗浄、減菌、乾燥、および、包装して、医療用ゴム物品が製造される。なお、不要部分を切除、除去して所定の形状にすることは、医療用ゴム組成物の硬化物に紫外線を照射する前に行ってもよい。
【0072】
本発明の製造方法により得られる医療用ゴム物品は、シリコーンオイルを使わなくても、低摩擦係数および低粘着性を実現することができる。よって、本発明の医療用ゴム物品は、SOF規制に対応できながら、低摩擦係数および低粘着性が求められる医療用ゴム物品として好適に使用できる。
【0073】
本発明の製造方法により得られる医療用ゴム物品は、SOF対応の点から、シリコーンオイルが塗布されないことが好ましい。前記シリコーンオイルとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンおよびこれらの変性体等が挙げられる。
【0074】
本発明の製造方法により得られる医療用ゴム物品としては、例えば、液剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等の各種薬剤用の容器のゴム栓やシール部材、真空採血管用ゴム栓、プレフィルドシリンジ用のプランジャストッパー(ガスケット)、あるいはノズルキャップなどの摺動もしくはシール部品等が挙げられる。これらの中でも、低摩擦係数や低粘着性が求められる医療用ゴム物品(例えば、ゴム栓やプランジャストッパー)が好ましく、優れた摺動性が求められるプランジャストッパーが特に好ましい。
【0075】
このうちバイアル用や輸液製剤容器用を含むゴム栓やシール部材は、ゴム硬さが日本工業規格JIS K6253-3:2012「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って測定されるデュロメータタイプA硬さ(ショアA硬さ)で表して35以上であるのが好ましく、60以下であるのが好ましい。
【0076】
またプレフィルドシリンジ用のガスケットやノズルキャップの摺動もしくはシール部品は、上記ショアA硬さが40以上であるのが好ましく、70以下であるのが好ましい。
【0077】
医療用ゴム物品のゴム硬さは、各原料の配合割合を変更することで調整可能である。
【0078】
以下、本発明を適用する医療用ゴム物品の具体例について説明する。
<プランジャストッパー>
図1は、本発明の医療用ゴム物品が使用される医療用注射器、いわゆるプレフィラブルシリンジ30と呼ばれる注射器を分解状態で示す図である。
図1において、シリンジバレル31およびプランジャストッパー33は、半分が断面で表わされている。プレフィラブルシリンジ30は、円筒形状のシリンジバレル31と、シリンジバレル31と組み合わされ、シリンジバレル31内を往復移動し得るプランジャ32と、プランジャ32の先端に装着されるプランジャストッパー33とを含んでいる。
【0079】
プランジャ32は、たとえば横断面が十文字状の樹脂製板片で構成され、その先端部にはプランジャストッパー33が取り付けられるヘッド部38が備えられている。ヘッド部38は、プランジャ32と一体に形成された樹脂製で、雄ねじ形状に加工されている。プランジャストッパー33は、短軸の略円柱形状で、その先端面は、たとえば軸中心部が突出する鈍角の山形形状をしている。そして後端面から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部35が形成されている。プランジャ32のヘッド部38が、プランジャストッパー33の嵌合凹部35にねじ込まれることにより、プランジャ32の先端にプランジャストッパー33が装着される。
【0080】
図2は、プランジャストッパーの一例の半断面正面図である。プランジャストッパー40は、医療用ゴム組成物の硬化物で構成される本体41と、この本体の表面の一部を被覆する不活性樹脂層42とを含む。プランジャストッパー40は、薬液に対向する接液面部47とシリンジバレルに接触する摺動面部46とを有する。
【0081】
図2に示した態様では、プランジャストッパー40をシリンジバレル内に挿入したときに、薬液と接する山形形状の接液面部47のみに不活性樹脂層42が被覆されている。不活性樹脂層42としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルムが好ましい。
【0082】
プランジャストッパー40がシリンジバレルと接触する摺動面部(外側周面)46は、不活性樹脂層42が設けられておらず、紫外線照射が行われている。摺動面部(外側周面)46は、高い摺動性を有する。
【0083】
前記プランジャストッパー40は、短い円柱形状であり、前記円柱形状の外側周面46に環状リブ43,44,45を複数有する。前記環状リブは、シリンジバレルの内周面と摺接する。複数の環状リブは、プランジャストッパーの先端面(接液面部)47から後端面48に向かって、軸方向に配列されている。環状リブの個数は、1以上であれば、特に限定されないが、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0084】
図2のプランジャストッパー40は、先端側から第1環状リブ43、第2環状リブ44、第3環状リブ45を有する。先端の第1環状リブ43は、径方向の圧縮率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、10%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。圧縮率は、非圧縮状態の環状リブの外径D1と、シリンジバレルの内径Rとから、次式により算出される。圧縮率(%)=100×(D1-R)/D1
【0085】
先端の環状リブ43の摺接部直線長さH1(前記軸方向長さ)は、前記円柱形状の外側周面の直線長さ(外側周面の前記軸方向長さ)Hoに対して、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましく、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
第2環状リブ44の摺接部直線長さH2(前記軸方向長さ)および第3環状リブ45の摺接部直線長さH3(前記軸方向長さ)は、前記円柱形状の外側周面の直線長さHo(外側周面の前記軸方向長さ)に対して、それぞれ、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、15%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましく、13%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
なお、プランジャストッパーは、ストッパー、あるいは、ガスケットと言われる場合がある。
【0088】
<ゴム栓>
図3は、本発明を適用する医療用栓体の一例を説明するための説明図である。より具体的には、バイアル瓶のゴム栓である。
図3(a)は、平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)におけるA-A線断面図である。
【0089】
前記医療用栓体50は、天板53と天板53の下面から下方に延出する円筒状の脚部55を有する。天板53および脚部55が、ゴム組成物の硬化物で構成されている。脚部55は、本発明の医療用栓体で医療容器を打栓したときに、医療容器の口部に嵌入する。
図3(b)において、円筒状の脚部55の対向する内面は、下方から上方(天面側に)向って、脚部の内面間の距離が徐々に小さくなるようにテーパー状に形成されている。
【0090】
前記天板53は、平面視で円形である。天板53には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部53aと、医療容器を打栓したときに、医療容器の口部の上縁面に接するフランジ部53bを有している。
【0091】
フランジ部53bの天面側には、他のゴム栓との密着防止のための突起物57が設けられている。
【0092】
穿刺部53aは、天板53における容器内部の薬液を吸引するために注射針を差し込むための領域である。前記穿刺部53aは、平面視において円形であり、天板53の中央に存在する。また、前記穿刺部53aは、天面から凹状に形成されている。
【0093】
図3の態様では、天板53の下面および脚部55の表面の全体が、不活性樹脂層59により被覆されている。なお、不活性樹脂層59は、天板53の下面および脚部55の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。不活性樹脂層59としては、ポリテトラフルオロエチレンフィルムが好ましい。
【0094】
天板53の上面は、不活性樹脂層が設けられておらず、紫外線照射がされている。天板53の上面は、摩擦係数および粘着性が低減されているので、ゴム栓体同士がくっ付くという問題が改善される。
【0095】
図4は、本発明を適用する医療用ゴム栓体50の別の態様を示す説明図である。
図4(a)は、平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)におけるB-B線断面図である。
図4の医療用ゴム栓体50において、
図3と構成が共通する部分については、説明を省略する。
【0096】
本態様の医療用ゴム栓体50は、天板53の下面から延出する二股の脚部55を有している。
図4(b)において、二股状の脚部55の対向する内面は、下方から上方(天面側に)向って、脚部の内面間の距離が徐々に小さくなるようにテーパー状に形成されている。
図4の態様では、天板53および脚部55が、ゴム組成物の硬化物から構成され、天板53の下面および脚部55の表面の全体が、不活性樹脂層59により被覆されている。なお、不活性樹脂層59は、天板53の下面および脚部55の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。
【0097】
天板53の上面は、不活性樹脂層が設けられておらず、紫外線照射がされている。天板53の上面は、摩擦係数および粘着性が低減されているので、ゴム栓体同士がくっ付くという問題が改善される。
【0098】
図3および
図4の医療用ゴム栓50の天板53の天面部にはナイロンフィルム層が設けられていてもよい。医療用ゴム栓50の天面部にナイロンフィルム層を設けることで、医薬品製造時の機械的搬送性を担保できる。また、医療用ゴム栓50の天面部にナイロンフィルム層を設けることで天面部の表面滑性度を上昇させることができ、注射針の穿刺時に針刺フラグメントの発生を防止できる。
【0099】
<真空採血管のゴム栓>
図5は、真空採血管の一例を示す説明図である。真空採血管90は、有底管91と有底管91の開口を封止するゴム栓93とからなる。採血管内を減圧にすることにより自動的に血液を採取できるように設計されている。
【0100】
図6は、本発明を適用する医療用栓体の一例を説明するための説明図である。真空採血管用ゴム栓の一例を示す説明図である。
図6(a)は、斜視図であり、
図6(b)は、断面図である。真空採血管のゴム栓は、天板94と天板94の下面から下方に延出する円筒状の脚部95を有する。天板94および脚部95が弾性体で構成されている。脚部95は、ゴム栓で真空採血管を打栓したときに真空採血管の口部に嵌入する。天板94の中央には、注射針を差し込むための領域である穿刺部96が設けられている。前記穿刺部96は、天面から凹状に形成されている。天板94の下面および脚部95の表面の全体が、不活性樹脂層97で被覆されている。なお、不活性樹脂層97は、天板94の下面および脚部95の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。
【0101】
天板94の上面は、不活性樹脂層が設けられておらず、紫外線照射がされている。天板94の上面は、摩擦係数および粘着性が低減されているので、ゴム栓体同士がくっ付くという問題が改善される。
【0102】
<ノズルキャップ>
図7(a)は、医療用シリンジのノズルキャップの一例と、それを被せる注射筒のノズルを示す断面図である。
図7(b)は、ノズルキャップをノズルに被せた状態を示す断面図である。ノズルキャップ81は、医療用ゴム組成物から一体に形成されている。ノズルキャップ81は、内径D8がノズル83の外径D9よりわずかに小さい筒状部86と、当該筒状部86の一端側(図では上端側)に連成された針刺部87とを備えている。針刺部87は、筒状部86と連続した外面を有する柱状に形成されている。筒状部86の他端側(図では下端側)にはノズル83を筒状部86に挿入してノズルキャップ81を上記ノズル83に被せるための開口88が設けられている。ノズルキャップ81の内表面および筒状部86の下方端部の表面が、不活性樹脂層84で被覆されている。
【0103】
ノズルキャップ81の外側表面は、不活性樹脂層が設けられておらず、紫外線照射がされている。ノズルキャップ81の外側表面は、摩擦係数および粘着性が低減されているので、ノズルキャップ同士がくっ付くという問題が改善される。
【実施例0104】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0105】
[医療用ゴム物品の作製]
表1に示した材料を、オープンロールを用いて60℃で20分間混練して、医療用ゴム組成物を調製した。得られた医療用ゴム組成物を170℃、15分間の成形条件で架橋させた後、直径28mm、厚み2mmの円形スラブに打抜き、紫外線照射用試験片(医療用ゴム組成物の硬化物)とした。前記紫外線照射用試験片に真空紫外線(波長:172nm)を表1に示した積算照度となるように照射した。
紫外線の照射条件
・照射装置:無電極エキシマ172nm照射装置(株式会社エム・ディ・コム製)
・硬化物の表面とランプとの距離:7mm
・紫外線の到達強度:57.9mW/cm2/sec
【0106】
【0107】
使用した配合材料の詳細は以下の通りである。
塩素化ブチルゴム:エクソンモービル社製 Exxon(登録商標)Chlorobutyl 1066(塩素含量率:1.25wt%)
汎用ブチルゴム:エクソンモービル社製 Exxon(登録商標)Butyl 268(不飽和度:2.30モル%)
トリアジン誘導体:三協化成社製 ジスネットDB
硫黄:日本乾溜工業社製 不溶性硫黄(セイミOT)
酸化亜鉛:正同化学工業社製 活性亜鉛華AZO
酸化マグネシウム:協和化学工業社製 マグサラット150s
ジチオカルバミン酸塩:大内新興化学工業社製 ノクセラー(登録商標)ZTC
【0108】
[評価方法]
(1)摩擦係数
<静摩擦係数、動摩擦係数の測定>
図8は、上記で作製した医療用ゴム物品(紫外線照射後の厚み2mm、直径28mmの円形スラブ)について、静動摩擦係数測定機TL201(TAILAB社製)を用いた摩擦係数の測定方法を示す説明図である。測定サンプル63を下側のステージ64に固定し、直径10mmのSUS球62を取り付けた専用プローブに10gの分銅61を載せて測定サンプル63の表面とSUS球62を接触させる。その後ステージ64を20mmの距離を10mm/秒の速度で矢印の方向に移動させる。その際に発生する摩擦力Fを荷重(垂直抗力)Nで割った値を摩擦係数μとした。(μ=F/N)
なお、移動距離20mmの平均垂直抗力N1で割った係数を動摩擦係数とし、移動距離20mmの最大平均垂直抗力N2で割った係数を静摩擦係数とした。
<静摩擦係数の評価>
下記の評価基準により静摩擦係数を評価した。
○:静摩擦係数が1.50未満である。
△:静摩擦係数が1.50以上、3.3未満である。
×:静摩擦係数が3.3以上である。
静摩擦係数が3.3未満を合格とする。
<動摩擦係数の評価>
下記の評価基準により動摩擦係数を評価した。
○:動摩擦係数が1.30未満である。
△:動摩擦係数が1.30以上、2.00未満である。
×:動摩擦係数が2.00以上である。
動摩擦係数が2.00未満を合格とする。
【0109】
(2)粘着性試験
<タック値の測定>
上記で作製した医療用ゴム物品(紫外線照射後の厚み2mm、直径28mmの円形スラブ)について、試験機EZ-SX(島津製作所製)を用いて、医療用ゴム物品を下側の専用治具に固定し、上の金属Φ10mmSUSプローブを医療用ゴム物品の表面に押し付け、設定した圧力(10N)に到達後、10秒間保持し、10mm/秒の速度で上に上昇させ、プローブとゴム組成物の硬化物の間に発生した密着力のピーク値をタック値と定義し、n=5を測定し、maxとminを除いたn=3の平均値をタック値とした。
<粘着性の評価>
下記の評価基準により粘着性を評価した。
〇:タック値が0.55N以下である。
×:タック値が0.55N超である。
【0110】
(3)総合評価
〇:摩擦係数の評価結果および粘着性の評価結果は、〇または△である。
×:摩擦係数の評価結果と粘着性の評価結果のどちらも×である。
【0111】
摩擦係数、粘着性の測定結果および評価結果を表1に示した。表1より、本発明の製造方法により得られた医療用ゴム物品は、表面の摩擦係数および粘着性が低減されたものであることが分かる。
本発明の表面改質方法は、表面の摩擦係数および粘着性が低減された医療用ゴム部品を与えることができる。本発明の医療用ゴム部品は、低摩擦係数や低粘着性(特に良好な摺動性)が求められる医療用ゴム部品として好適に使用できる。
本発明の好ましい態様(1)は、(a)基材ポリマーとして、ハロゲン化ブチルゴムを含有する医療用ゴム組成物の硬化物に、紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする医療用ゴム物品の製造方法である。
本発明の好ましい態様(4)は、前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物よりなる群から選択される少なくとも1種である態様(1)~(3)のいずれか一つの医療用ゴム物品の製造方法である。
本発明の好ましい態様(6)は、前記硬化物の表面の少なくとも一部が、不活性樹脂層で被覆されており、不活性樹脂層で被覆されておらず、露出しているゴム表面に紫外線を照射する態様(1)~(5)のいずれか一つの医療用ゴム物品の製造方法である。
本発明の好ましい態様(9)は、前記医療用ゴム物品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である態様(1)~(8)のいずれか一つの医療用ゴム物品の製造方法である。
本発明の好ましい態様(10)は、前記医療用ゴム物品が、薬液に対向する接液面部とバレルに接触する摺動面部とを有し、前記接液面部が不活性樹脂層で被覆されており、前記摺動面部が不活性樹脂層で被覆されておらず、医療用ゴム組成物の硬化物が露出しているシリンジ用プランジャストッパーである態様(6)の医療用ゴム物品の製造方法である。
前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。
前記医療用ゴム物品が、薬液に対向する接液面部とバレルに接触する摺動面部とを有し、前記接液面部が不活性樹脂層で被覆されており、前記摺動面部が不活性樹脂層で被覆されておらず、医療用ゴム組成物の硬化物が露出しているシリンジ用プランジャストッパーである請求項1に記載の医療用ゴム物品の製造方法。