(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105128
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20250703BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20250703BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250703BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20250703BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20250703BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C08G59/68
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K5/09
C08K5/3445
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223444
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永塚 諒
(72)【発明者】
【氏名】大石 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆行
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J002CD031
4J002DE146
4J002EF068
4J002EF118
4J002EU117
4J002EU198
4J002FD016
4J002FD157
4J002GQ00
4J036AA01
4J036AE05
4J036DB06
4J036FA02
4J036FA10
4J036FB08
4J036GA01
4M109AA01
4M109CA21
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB12
4M109EC15
(57)【要約】
【課題】保存安定性と硬化時における硬化速度とを高めることができ、かつ硬化物から抽出される塩素イオンの発生量を低減できる封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ化合物(A)と、フェノール化合物(B)と、硬化促進剤(C)と、無機充填材(D)と、カルボン酸化合物(E)とを含有する。硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)と、フェノール化合物(B)と、硬化促進剤(C)と、無機充填材(D)と、カルボン酸化合物(E)とを含有し、
前記硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有し、
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立に水素、又は炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基であり、R
3及びR
4は、各々独立にフェニレン基、又はナフチレン基であり、R
5は、フェニル基、又は下記式(2)で示される基であり、
【化2】
式(2)中、nは、3以上8以下であり、
式(2)中、Xは、-SH、-NH
2、-NH-Ph、-Ph-CH=CH
2、-NH-C
2H
4-NH
2、-N=C=O、グリシジルエーテル基、又は下記式(3)で示される基である、
【化3】
封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記R1及び前記R2は、各々独立して、炭素数1又は2の炭化水素基であり、前記R5はフェニル基又は-C3H6SHである、
請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記アミジンケイ酸塩(C1)は、下記式(11)で示される化合物、下記式(12)で示される化合物、及び下記式(13)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
【化4】
【化5】
【化6】
請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸化合物(E)は、多官能カルボン酸化合物(E1)を含有する、
請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能カルボン酸化合物(E1)は、フタル酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、及びイソシアヌル酸環を有するカルボン酸化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、
請求項4に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記アミジンケイ酸塩(C1)が有するカチオンのモル数に対する前記カルボン酸化合物(E)が有するカルボキシル基のモル数の比率は、0.5以上1.5以下である、
請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
半導体素子と、前記半導体素子を封止する封止部とを備え、
前記封止部が請求項1から6のいずれか一項に記載の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を含む、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置に関し、詳しくはエポキシ化合物を含有する封止用エポキシ樹脂組成物及びこの封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を含む封止部を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)無機充填材及び(D)硬化促進剤を含む封止用エポキシ樹脂組成物が開示され、(D)硬化促進剤の平均粒径は10μm以下であり、かつ(D)硬化促進剤は、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、及びホスホニウム化合物とシラン化合物の付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含みうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の課題は、保存安定性と硬化時における硬化速度とを高めることができ、かつ硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる封止用エポキシ樹脂組成物及び封止用エポキシ樹脂組成物から作製される半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ化合物(A)と、フェノール化合物(B)と、硬化促進剤(C)と、無機充填材(D)と、カルボン酸化合物(E)とを含有する。前記硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有する。
【0006】
【0007】
式(1)中、R1及びR2は、各々独立に水素、又は炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基である。R3及びR4は、各々独立にフェニレン基、又はナフチレン基である。R5は、フェニル基、又は下記式(2)で示される基である。
【0008】
【0009】
式(2)中、nは、3以上8以下である。式(2)中、Xは、-SH、-NH2、-NH-Ph、-Ph-CH=CH2、-NH-C2H4-NH2、-N=C=O、グリシジルエーテル基、又は下記式(3)で示される基である。
【0010】
【0011】
本開示の半導体装置は、半導体素子と、前記半導体素子を封止する封止部とを備える。前記封止部が前記の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を含む。
【発明の効果】
【0012】
保存安定性と硬化時における硬化速度とを高めることができ、かつ硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる封止用エポキシ樹脂組成物及び封止用エポキシ樹脂組成物から作製される半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る半導体装置を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
本開示の実施形態について説明する。なお、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、以下で示される作用機序は、推測されたものであり、本開示は以下における作用機序の説明に拘束されない。
【0015】
(概要)
本開示の封止用エポキシ樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、エポキシ化合物(A)と、フェノール化合物(B)と、硬化促進剤(C)と、無機充填材(D)と、カルボン酸化合物(E)とを含有する。硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有する。
【0016】
【0017】
式(1)中、R1及びR2は、各々独立に水素、又は炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基である。R3及びR4は、各々独立にフェニレン基、又はナフチレン基である。R5は、フェニル基、又は下記式(2)で示される基である。
【0018】
【0019】
式(2)中、nは、3以上8以下である。式(2)中、Xは、-SH、-NH2、-NH-Ph、-Ph-CH=CH2、-NH-C2H4-NH2、-N=C=O、グリシジルエーテル基、又は下記式(3)で示される基である。
【0020】
【0021】
なお、本開示において、硬化物から抽出される塩化物イオンは、例えばエポキシ化合物(A)に含有される塩素原子を有する不純物(例えば、副生成物)等に由来する塩化物イオンを含む。また、「-NH-Ph」における「-Ph」はフェニル基を意味し、「-Ph-CH=CH2」における「-Ph-」は、フェニレン基を意味する。
【0022】
上記構成によって、組成物(X)の保存安定性と硬化時における硬化速度とを高めることができ、かつ硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる。少し詳しく説明すると、硬化促進剤(C)が、上記アミジンケイ酸塩(C1)を含有していることにより、組成物(X)を加熱して硬化させる際の硬化性を損なうことなく、組成物(X)の保存安定性を高められる。また、アミジンケイ酸塩(C1)は、その反応性に起因して、硬化物から抽出される塩化物イオンの抽出量の増大を招きうる。これに対して、組成物(X)がカルボン酸化合物(E)を含有していることにより、アミジンケイ酸塩(C1)の反応性を制御できる。これによって、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる。言い換えれば、エポキシ化合物(A)に含有される塩素原子を有する不純物に由来して発生する塩化物イオンの抽出量を低減できる。そして、硬化物から抽出される塩化物イオンの量が低減できることにより、組成物(X)を用いて作製された半導体装置における塩化物イオンに起因するマイグレーションを抑制できる。したがって、組成物(X)は、半導体装置を作製するために好適に使用できる。なお、「硬化物から抽出される塩化物イオンの量が低減できる」とは、より詳しくは、半導体装置のマイグレーションの要因となる遊離の塩化物イオンの量が低減されることを意味する。
【0023】
(成分)
<エポキシ化合物>
組成物(X)は、エポキシ化合物(A)を含有する。エポキシ化合物(A)は、硬化物に耐熱性を付与しうる成分である。組成物(X)が加熱されると、エポキシ化合物(A)は、フェノール化合物(B)と反応して硬化しうる。
【0024】
エポキシ化合物(A)の分子形態としては、特に限定されていないが、エポキシ化合物(A)は、モノマー、オリゴマー、プレポリマー又はポリマー等のいずれの分子形態をとっても構わない。
【0025】
エポキシ化合物(A)は、例えばフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ化合物;ナフトールノボラック型エポキシ化合物;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ化合物;ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物;ナフトールアラルキル型エポキシ化合物;トリフェノールメタン型エポキシ化合物、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ化合物等の多官能型エポキシ化合物;トリフェニルメタン型エポキシ化合物;テトラキスフェノールエタン型エポキシ化合物;ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物;スチルベン型エポキシ化合物;ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物;ビフェニル型エポキシ化合物;ナフタレン型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ化合物等のブロム含有エポキシ化合物;ジアミノジフェニルメタンやイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ化合物;並びにフタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0026】
<フェノール化合物>
組成物(X)は、フェノール化合物(B)を含有する。フェノール化合物(B)は、上記の通り、エポキシ化合物(A)と反応しうる成分である。
【0027】
フェノール化合物(B)は、例えばフェノールノボラック化合物、クレゾールノボラック化合物、ナフトールノボラック化合物等のノボラック型化合物;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル化合物;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル化合物等のアラルキル型化合物;トリフェノールメタン型樹化合物等の多官能型フェノール化合物;ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック化合物、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック化合物等のジシクロペンタジエン型フェノール化合物;テルペン変性フェノール化合物;ビスフェノールA又はビスフェノールF等のビスフェノール型化合物;並びにトリアジン変性ノボラック化合物等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0028】
フェノール化合物(B)1当量に対するエポキシ化合物(A)の当量比は0.6以上10以下であることが好ましい。この当量比が0.6以上であれば、硬化物の高い耐湿性を実現できる。この当量比は0.8以上であることがより好ましい。この当量比が10以下であれば、組成物(X)の良好な硬化性と硬化物の良好な耐熱性及び強度とを実現できる。この当量比は5以下であることがより好ましい。
【0029】
<硬化促進剤>
組成物(X)は、硬化促進剤(C)を含有する。硬化促進剤(C)は、エポキシ化合物(A)とフェノール化合物(B)との硬化反応の進行を促進できる。
【0030】
(アミジンケイ酸塩)
硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有する。
【0031】
【0032】
式(1)中、R1及びR2は、各々独立に水素、又は炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基である。R3及びR4は、各々独立にフェニレン基、又はナフチレン基である。R5は、フェニル基、又は下記式(2)で示される基である。
【0033】
【0034】
式(2)中、nは、3以上8以下である。式(2)中、Xは、-SH、-NH2、-NH-Ph、-Ph-CH=CH2、-NH-C2H4-NH2、-N=C=O、グリシジルエーテル基、又は下記式(3)で示される基である。
【0035】
【0036】
硬化促進剤(C)が、上記の通り、アミジンケイ酸塩(C1)を含有していることにより、保存安定性と硬化時における硬化速度を高めることができる。この理由については正確には明らかにされていないが、以下のような理由によると推察される。すなわち、硬化促進剤(C)に含まれるアミジンケイ酸塩(C1)は、アミジン骨格を有するカチオン部と、シリケート骨格を有するアニオン部とから構成されている。アミジン骨格を有するカチオン部は比較的塩基性が高く、そのため高い活性を有しうる。一方、シリケート骨格を有するアニオン部は、ジヒドロキシナフタレン由来又はカテコール由来の骨格を有するため高い融点を有しうる。したがって、アミジンケイ酸塩(C1)は、室温等の温度条件下では活性を低く保ちやすい。その一方で、アミジンケイ酸塩(C1)は、高温条件下において活性が高くなりやすく、融点付近の温度まで加熱することで活性が高まりうる。組成物(X)は、このようなアミジンケイ酸塩(C1)を含有しているため、室温時における保存安定性を高め、かつ加熱することで活性を高めることができ、硬化時に硬化速度を高めることができる、と推察される。なお、上記式(1)中、R1及びR2は、各々独立して、炭素数1又は2の炭化水素基であることが好ましい。この場合、保存安定性と硬化時における硬化速度とをより高めることができる。また、R5はフェニル基又は-C3H6SHであることが好ましい。この場合も、保存安定性と硬化時における硬化速度とをより高めることができる。
【0037】
アミジンケイ酸塩(C1)は、例えば、比較的高い融点を有する。このため、常温(例えば室温、約25℃)条件下において、アミジンケイ酸塩(C1)は、組成物(X)中で、固形状で含有されうる。そのため、常温下において、アミジンケイ酸塩(C1)は、エポキシ化合物(A)及びフェノール化合物(B)の活性を高めにくくできる。これによって、組成物(X)の保存安定性をより高めることができる。アミジンケイ酸塩(C1)の融点は、160℃以上であれば好ましく、180℃以上であればより好ましく、200℃以上であれば更に好ましい。アミジンケイ酸塩(C1)の融点の上限は、特に制限されないが、例えば300℃以下である。
【0038】
アミジンケイ酸塩(C1)は、下記式(11)、下記式(12)、及び下記式(13)で示される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性と硬化時における硬化速度とを更に高めることができる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
上記式(11)から上記式(13)で示される化合物は、特許6917707号に記載の方法で合成可能である。
【0043】
組成物(X)において、エポキシ化合物(A)とフェノール化合物(B)との合計に対する硬化促進剤(C)の含有率は1質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この含有率が1質量%以上であれば、硬化時における硬化速度をより高めることができる。この含有率が3質量%以上であることがより好ましい。この含有率が35質量%以下であれば、組成物(X)の高められた保存安定性を維持できる。この含有率が25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
また、エポキシ化合物(A)とフェノール化合物(B)との合計に対するアミジンケイ酸塩(C1)の含有率は1質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この含有率が1質量%以上であれば、硬化時における硬化速度をより高めることができる。この含有率は3質量%以上であることがより好ましい。この含有率が35質量%以下であれば、組成物(X)の高められた保存安定性を維持できる。この含有率は25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
<無機充填材>
組成物(X)は、無機充填材(D)を含有する。無機充填材(D)は、硬化物の線膨張係数を低めることができる。また、無機充填材(D)は、硬化物の耐熱性と熱伝導性とを高めることができる。
【0046】
無機充填材(D)の平均粒径は、例えば0.5μm以上15μm以下である。この場合、組成物(X)の流動性を良好に維持できる。なお、本開示における無機充填材(D)の平均粒径は、体積基準のメジアン径(D50)である。メジアン径(D50)は、レーザー回折・散乱法で測定して得られる粒度分布から算出される。粒度分布は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定でき、レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EXIIを挙げることができる。
【0047】
無機充填材(D)は、粒子径が0.1μm以下の無機粒子(D1)を含有し、かつ無機充填材(D)に対する無機粒子(D1)の含有率が0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の溶融時の流動性をより良好に維持できる。無機粒子(D1)の平均粒径の下限は特に制限されない。本開示において、無機粒子(D1)の含有率は、レーザー回折式粒度分布測定装置により粒子径0.1μm以下の頻度分布を測定することにより確認できる。測定装置は、上記の装置と同じであってよい。
【0048】
無機充填材(D)は、例えば溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有できる。
【0049】
組成物(X)において、エポキシ化合物(A)とフェノール化合物(B)と硬化促進剤(C)と無機充填材(D)との合計に対する無機充填材(D)の含有率は、60質量%以上93質量%以下であることが好ましい。この含有率が60質量%以上であれば、組成物(X)を加熱して溶融させた時の流動性を高めることができる。この含有率は65質量%以上であることがより好ましい。この含有率が93質量%以下であれば、組成物(X)の充填性を確保できる。この含有率は90質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
<カルボン酸化合物>
組成物(X)はカルボン酸化合物(E)を含有する。カルボン酸化合物(E)は、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる。
【0051】
カルボン酸化合物(E)により、上記効果を発揮できる理由は、正確には明らかにはされていないが、以下のような理由によると推察される。
【0052】
組成物(X)にはアミジンケイ酸塩(C1)が含有されているが、上記の通り、アミジンケイ酸塩(C1)を構成するアミジン骨格を有するカチオン部は比較的塩基性が高く、高い活性を有しうる。そのため、硬化物中において、カチオン部が、フェノール化合物(B)に由来するフェノール性水酸基からプロトンを引き抜くことにより、フェノキシドイオンが発生しうる。フェノキシドイオンは、高い求核性を有しうる。そのため、フェノキシドイオンは、硬化物に含まれる、原子に対して求核攻撃を行いうる。硬化物中には、塩素原子を有する不純物等に由来する、塩素原子が結合した炭素原子が含まれているが、この炭素原子は求核攻撃を受けやすい。したがって、硬化物に含まれる塩素原子が結合した炭素原子は、フェノキシドイオンによって容易に求核攻撃され、その結果塩化物イオンを脱離してしまう。このような機構により、硬化物から塩化物イオンが発生しうる。
【0053】
これに対して、組成物(X)には、カルボン酸化合物(E)が含有されている。そのため、硬化物中にフェノキシドイオンが発生したとしても、そのフェノキシドイオンに対してカルボン酸化合物(E)がプロトンを供給し、元のフェノール性水酸基に戻すことができる。これによって、フェノキシドイオンの求核攻撃に伴う、塩化物イオンの脱離を抑制できる。なお、カルボン酸化合物(E)がフェノキシドイオンに、プロトンを供給することにより、カルボキシラートアニオンが発生しうるが、このカルボキシラートアニオンは、フェノキシドイオンよりも求核性が高くない。そのため、カルボキシラートアニオンは、硬化物に含まれる、塩素原子が結合した炭素原子を求核攻撃しにくい。したがって、カルボキシラートアニオンの求核攻撃に伴う、塩化物イオンの脱離は生じにくい。このような機構により、カルボン酸化合物(E)によって、硬化物に塩化物イオンが発生しにくくなり、その結果、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる、と推察される。
【0054】
カルボン酸化合物(E)が1分子中に有するカルボキシル基の数は2以上であることが好ましい。別の言い方をすれば、カルボン酸化合物(E)は、多官能カルボン酸化合物(E1)を含有することが好ましい。この場合、硬化物から抽出される塩化物イオンの量をより低減できる。多官能カルボン酸化合物(E1)は、フタル酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、及びイソシアヌル酸環を有するカルボン酸化合物より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を更に低減できる。
【0055】
フタル酸化合物は、例えば、芳香環にカルボキシル基に加えて、別の官能基が結合していてもよい。官能基としては、例えばヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、アセチル基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。また、フタル酸化合物の具体的な例を列挙すると、フタル酸化合物は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び5-ヒドロキシイソフタル酸等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。これらの中でも、フタル酸化合物は、フタル酸及び5-ヒドロキシイソフタル酸のうち少なくとも一方を含有していることが好ましい。この場合、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を特に低減できる。
【0056】
脂肪族ジカルボン酸化合物の分子構造は特に限定されておらず、直鎖状であってもよく、分岐を有するものであっても構わない。ただし、直鎖状であることが好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸化合物の具体的な例を列挙すると、脂肪族ジカルボン酸化合物は、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸及び1,10-デカンジカルボン酸等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸化合物は、グルタル酸及びアジピン酸のうち少なくとも一方を含有していることが好ましい。この場合も、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を特に低減できる。
【0057】
イソシアヌル酸環を有するカルボン酸化合物は、例えば1分子中に2つ以上のカルボン酸を有する化合物を含有する。イソシアヌル酸環を有するカルボン酸化合物は、1分子中に3つのカルボン酸を有する三官能カルボン酸化合物を含有することが好ましい。この場合、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を特に低減できる。また、このような三官能カルボン酸化合物の具体的な例としては、トリス(3-カルボキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート又はトリス(1-カルボキシメチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0058】
アミジンケイ酸塩(C1)が有するカチオンのモル数に対するカルボン酸化合物(E)が有するカルボキシル基のモル数の比率は0.5以上1.5以下であることが好ましい。この比率が0.5以上であれば、硬化物における塩化物イオンの発生量をより低減できる。この比率が1.5以下であれば、組成物(X)の硬化性を維持できる。この比率は0.7以上であることがより好ましい。この比率は1.2以下であることがより好ましい。
【0059】
<その他の成分>
組成物(X)は、上記挙げたエポキシ化合物(A)、フェノール化合物(B)、硬化促進剤(C)、無機充填材(D)及びカルボン酸化合物(E)に加えて、添加剤(F)を含有してもよい。添加剤(F)は、例えば消泡剤、表面調整剤、カップリング剤、ワックス、フラックス、粘度調整剤、レベリング剤、低応力剤、及び顔料等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0060】
また、組成物(X)は、有機溶剤(G)を含有しても構わない。ただし、組成物(X)は、有機溶剤(G)を含有せず、又は組成物(X)の固形分に対する有機溶剤(G)の含有率が0.5質量%以下であることが好ましい。なお、組成物(X)の固形分とは、組成物(X)のうち有機溶剤(G)を除いた成分の合計を意味する。
【0061】
(封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法)
組成物(X)は、例えば上記で説明した組成物(X)に含有されうる成分を配合し、同時に又は順次配合し、必要に応じて適宜の添加剤を加えて混合することで、混合物を得る。例えば構成成分をミキサー、ブレンダーなどで十分均一になるまで混合し、続いて、熱ロールやニーダーなどの混練機により加熱しながら混練してから、室温に冷却してもよい。更に具体的に言えば、エポキシ化合物(A)と、硬化促進剤(C)とを混練した予混合物を用意し、この予混合物にフェノール化合物(B)と無機充填材(D)とを混合して混合物を得てもよい。なお、無機充填材(D)が平均粒径の異なる複数種の原料を含有する場合は、無機充填材(D)を混練物に混合する前に、予め平均粒径の異なる複数種の無機充填材(D)を混合した混合物を調製してから、この平均粒径を測定し、前記の混錬物へ配合することで、組成物(X)を調製してもよい。
【0062】
加熱処理をする場合の加熱温度、加熱時間は、適宜調整可能である。このときの加熱温度は、例えば組成物(X)の流動開始温度以上であり、かつエポキシ化合物(A)とフェノール化合物(B)との反応開始温度よりも低いことが好ましい。具体的には、加熱温度は、温度90℃以上140℃以下であることが好ましい。また、冷却の方法も特に制限されず、適宜設定可能である。本実施形態では、25℃において固形状の組成物(X)が得られる。
【0063】
上記の方法で調製された組成物(X)を粉砕することで、粉体状の組成物(X)を製造してもよい。また、粉体状の組成物(X)を打錠することでタブレット状の組成物(X)を製造してもよい。これら以外にも、組成物(X)は適宜の形状を有してよい。
【0064】
組成物(X)は、例えば硬化を開始する温度まで加熱することにより、硬化させることができ、これにより組成物(X)の硬化物が得られる。組成物(X)は、硬化速度が大きく、硬化性に特に優れる。そのため、硬化させる際の加熱条件、例えば加熱温度、加熱時間、及び最高加熱温度等は、エポキシ化合物(A)の種類、フェノール化合物(B)の種類、及び硬化促進剤(C)の種類、カルボン酸化合物(E)の種類、各種成分の特性に応じて適宜調整すればよい。
【0065】
(封止用エポキシ樹脂組成物の物性)
本実施形態に係る組成物(X)の物性について説明する。
【0066】
<性状>
例えば、組成物(X)は、25℃において固形状である。組成物(X)から硬化物を作製するにあたっては、調製して保管しておいた組成物(X)を加熱溶融することで作製できる。
【0067】
<硬化性>
組成物(X)は、加熱して溶融させた際に良好な流動性を示す。例えば、具体的な物性値として、組成物(X)1.67mLに対し温度170℃の条件下で測定されるトルク値が0.1kgf・cm(0.0098N・m)となるのに要する時間が、30秒以上100秒以下である。トルク値は、具体的には、JSR株式会社製のキュラストメータ7Pの試験機を用い、試験機の金型の上下表面温度170℃に設定し、試料1.67mLを注入することにより測定される。本開示において、「試料1.67mLに対し温度175℃の条件下で測定されるトルク値が0.1kgf・cmとなるのに要する時間」をゲルタイムともいう。なお、上記トルク値及びゲルタイムの測定には、測定用の試料として組成物(X)を1.67ml用いているが、本開示において硬化物を作製する場合における組成物(X)の量を制限するものではない。なお、ゲルタイムが30秒以上であると、組成物(X)から封止部を作製する際の流動性を良好に維持しやすい。ゲルタイムが100秒以下であると、組成物(X)の硬化性を良好に維持できる。なお、上記成分を適宜調整することによって、ゲルタイムを40秒以上とすることもでき、ゲルタイムを80秒以下とすることもできる。
【0068】
<充填性>
組成物(X)は、充填性が高められている。例えば、具体的な物性値として、組成物(X)は、ASTM D3123に準拠したスパイラルフロー試験法で金型温度175℃、注入圧力70kgf/cm2(6.86MPa)、及び成形時間180秒の条件下で測定される流動距離が、50cm以上である。なお、上記成分を適宜調整することによって、上記流動距離を100cm以上とすることもでき、150cm以上とすることもできる。なお、上記流動距離の上限は、特に制限されず、適宜調整できる。
【0069】
<塩化物イオン抽出量>
組成物(X)から作製された硬化物は、塩化物イオンの発生量が低減されている。例えば、硬化物から抽出される塩化物イオン濃度は、50ppm以下である。塩化物イオン濃度を確認する方法としては次のような方法が挙げられる。まず、硬化物を溶媒中で加熱することにより、硬化物から発生した塩化物イオンを抽出する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば水、DMF(ジメチルホルムアミド)等を使用できる。続いて、抽出に使用した溶媒(以下、抽出溶媒)を回収し、その溶媒中に含まれる塩化物イオンの含有量を測定する。抽出溶媒中の塩化物イオンの含有量はイオンクロマトグラフによって測定できる。なお、上記説明した組成物(X)の組成を変更することで、硬化物から抽出される塩化物イオン濃度を30ppm以下とすることもできる。
【0070】
<潜在性>
組成物(X)は、高い潜在性を有する。本開示において「潜在性」とは、比較的低い温度、例えば常温(25℃)における流動性の低下が生じにくく、成形温度に到達するまでの間の温度においても流動性を有することをいう。つまり、組成物(X)は、保存安定性が高いことで、高い潜在性を有する。そして、成形温度に到達してからは速やかに硬化しうるという特性を有する。
【0071】
(応用例)
組成物(X)の応用例について説明する。
【0072】
<半導体装置>
組成物(X)は、上記の通り、半導体装置1を作製するために好適に使用できる。半導体装置1は、半導体素子3と半導体素子3を封止する封止部4とを備える。封止部4は、上記で説明した組成物(X)の硬化物を含む(
図1参照)。以下、半導体装置1及びその製造方法の例について説明する。
【0073】
半導体装置1は、例えばMini、Dパック、D2パック、To22O、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)等といった、挿入型パッケージ、又はクワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、プラスチック・ボール・グリッド・アレイ(PBGA)、ファインピッチ・ボール・グリッド・アレイ(FBGA)、ウェハー・レベル・パッケージ(WLP)、パネル・レベル・パッケージ(PLP)、ファン・アウト・ウェハー・レベル・パッケージ(FO-WLP)、ファン・アウト・パネル・レベル・パッケージ(FO-PLP)、フリップチップ・ボールグリッド・アレイ(FC-BGA)、アンテナインパッケージ(AiP)、又はシステムインパッケージ(SiP)等といった、表面実装型のパッケージの半導体装置1を含む。
【0074】
図1に、本実施形態における半導体装置1の断面図を示す。この半導体装置1は、金属製のリードフレーム2と、リードフレーム2に搭載されている半導体素子3と、半導体素子3とリードフレーム2とを電気的に接続するワイヤ5と、半導体素子3を封止する封止部4とを備える。半導体素子3は、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード又は固体撮像素子である。半導体素子3は、SiC、GaN等の新規のパワーデバイスであってもよい。ワイヤ5は、金製でもよいが、銀と銅とのうち少なくとも一方を含んでもよい。つまり、ワイヤ5は、銀製又は銅製でもよい。ワイヤ5が銀と銅とのうち少なくとも一方を含む場合、ワイヤ5はパラジウムなどの金属の薄膜でコートされていてもよい。また、封止部4はワイヤ5も封止している。封止部4はダイパッド6及びインナーリード21も封止し、そのため封止部4は、リードフレーム2と接している。また、リードフレーム2がメッキ層24を備える場合は、リードフレーム2はメッキ層24と接している。
【0075】
本実施形態では、リードフレーム2は、ダイパッド6、インナーリード21及びアウターリード22を備える。リードフレーム2は、例えば銅製又は42アロイなどの鉄合金製である。例えば、リードフレーム2は、銅製、又は42アロイなどの鉄合金製の主体23と、主体23を覆うメッキ層24とを備える。この場合、リードフレーム2の腐食を抑制できる。メッキ層24は、例えば銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも1種の成分を含有する。メッキ層24は、銀、ニッケル及びパラジウムのうちいずれか1種の金属のみを含有してもよく、銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも1種の金属を含有する合金を含有しても構わない。メッキ層24は、積層構造を有してもよく、例えばパラジウム層、ニッケル層及び金層からなる積層構造を有してもよい。メッキ層24の厚みは、例えば1~20μmの範囲内である。ただし、メッキ層24の厚みは、前記の値に制限されない。
【0076】
<半導体装置の製造方法>
半導体装置1の製造方法について説明する。
【0077】
リードフレーム2のダイパッド6上に半導体素子3を適宜のダイボンド材7で固定する。これにより、リードフレーム2に半導体素子3を搭載する。
【0078】
続いて、半導体素子3とリードフレーム2におけるインナーリード21とを、ワイヤ5で接続する。
【0079】
そして、組成物(X)を半導体素子3、ダイパッド6、ダイボンド材7及びリードフレーム2の一部に塗布する。そして、塗布した組成物(X)を加熱して硬化させることで、半導体素子3を封止する封止部4を形成する。なお、組成物(X)を成形することで封止部4を作製するに当たり、加圧成形法が適用されることが好ましい。加圧成形法には、例えば射出成形法、トランスファ成形法、又は圧縮成形法等が含まれる。組成物(X)を加圧成形法で成形する条件は、組成物(X)の組成に応じて適宜設定される。例えば、組成物(X)を加圧成形法で成形する際の成形圧力は例えば3MPa以上であり、成形温度は120℃以上である。特に、トランスファ成形法の場合は、金型への組成物(X)の注入圧力は、例えば3MPa以上であり、4MPa以上710MPa以下であれば好ましい。また、加熱温度(金型温度)は120℃以上であることが好ましく、160℃以上190℃以下であれば更に好ましい。また、加熱時間は例えば30秒以上300秒以下であり、60秒以上180秒以下であれば更に好ましい。なお、トランスファ成形法では、金型内で封止部4を作製した後、金型を閉じたままで封止部4を加熱することにより後硬化(ポストキュア)を行ってから、金型を開いて半導体装置1を取り出すことが好ましい。後硬化のための加熱条件は、例えば加熱時間が160℃以上190℃以下、加熱時間が2時間以上8時間以下である。
【0080】
このようにして、組成物(X)から作製される封止部4を備える半導体装置1が得られる。なお、半導体装置1の作製方法は、上記の方法のみに限られず、半導体装置1において、上記で説明した組成物(X)を充填させて、半導体素子3等の電子部品を封止することができればよい。
【0081】
(態様)
本開示は以下の態様を含む。
【0082】
本開示の第1の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ化合物(A)と、フェノール化合物(B)と、硬化促進剤(C)と、無機充填材(D)と、カルボン酸化合物(E)とを含有する。硬化促進剤(C)は、下記式(1)で示されるアミジンケイ酸塩(C1)を含有する。
【0083】
【0084】
式(1)中、R1及びR2は、各々独立に水素、又は炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基である。R3及びR4は、各々独立にフェニレン基、又はナフチレン基である。R5は、フェニル基、又は下記式(2)で示される基である。
【0085】
【0086】
式(2)中、nは、3以上8以下である。式(2)中、Xは、-SH、-NH2、-NH-Ph、-Ph-CH=CH2、-NH-C2H4-NH2、-N=C=O、グリシジルエーテル基、又は下記式(3)で示される基である。
【0087】
【0088】
この態様によれば、保存安定性と硬化時における硬化速度とを高めることができ、かつ硬化物から抽出される塩化物イオンの量を低減できる封止用エポキシ樹脂組成物を提供できる。
【0089】
本開示の第2の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、第1の態様において、R1及びR2は、各々独立して、炭素数1又は2の炭化水素基である。R5はフェニル基又は-C3H6SHである。
【0090】
この態様によれば、保存安定性と硬化時における硬化速度をより高めることができる。
【0091】
本開示の第3の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、第1又第2の態様において、アミジンケイ酸塩(C1)は、下記式(11)で示される化合物、下記式(12)で示される化合物、及び下記式(13)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
この態様によれば、保存安定性と硬化時における硬化速度を更に高めることができる。
【0096】
本開示の第4の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、第1から第3のいずれか1の態様において、カルボン酸化合物(E)は、多官能カルボン酸化合物(E1)を含有する。
【0097】
この態様によれば、硬化物から抽出される塩化物イオンの量をより低減できる。
【0098】
本開示の第5の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、第4の態様において、多官能カルボン酸化合物(E1)は、フタル酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、及びイソシアヌル酸環を有するカルボン酸化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0099】
この態様によれば、硬化物から抽出される塩化物イオンの量を更に低減できる。
【0100】
本開示の第6の態様に係る封止用エポキシ樹脂組成物は、第1から第5のいずれか1の態様において、アミジンケイ酸塩(C1)が有するカチオンのモル数に対するカルボン酸化合物(E)が有するカルボキシル基のモル数の比率は0.5以上1.5以下である。
【0101】
この態様によれば、硬化物における塩化物イオンの発生量をより低減でき、かつ封止用エポキシ樹脂組成物の高められた保存安定性を維持できる。
【0102】
本開示の第7の態様に係る半導体装置(1)は、半導体素子(3)と、半導体素子(3)を封止する封止部(4)とを備える。封止部(4)が第1から第6のいずれか1の態様の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を含む。
【実施例0103】
以下、本実施形態における、より具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみには制限されない。
【0104】
1.組成物の調製
表1に示す成分を混合することで、組成物を調製した。表1に示す成分の詳細は下記のとおりである。
【0105】
(1)エポキシ化合物
-エポキシ化合物#1:化合物名ビフェニル型エポキシ化合物。三菱ケミカル株式会社製。品名YX4000H。官能基当量(エポキシ基当量)187~197。
【0106】
(2)フェノール化合物
-フェノール化合物#1:化合物名フェノールアラルキル化合物。明和化成株式会社製。品名MEHC7851SS。
【0107】
(3)硬化促進剤
-硬化促進剤#1:下記式(11)に示すアミジンケイ酸塩。
【0108】
【0109】
-硬化促進剤#2:化合物名2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール。四国化成工業株式会社製。品名2PHZ―PW。
【0110】
(4)無機充填材
-無機充填材#1:化合物名アルミナ。住友化学株式会社製。品名AA-05。平均粒径0.58μm。
【0111】
-無機充填材#2:化合物名アルミナ。住友化学株式会社製。品名AA-03NF。平均粒径0.25μm。
【0112】
-無機充填材#3:化合物名アルミナ。日本アエロジル株式会社製。品名AluC。
【0113】
-無機充填材#4:化合物名合成ハイドロタルサイト。協和化学工業株式会社製。品名DHT-4A。平均粒径0.37μm。
【0114】
(5)カルボン酸化合物
-カルボン酸化合物#1:5-ヒドロキシイソフタル酸。東京化成工業株式会社製。
【0115】
-カルボン酸化合物#2:フタル酸。東京化成工業株式会社製。
【0116】
-カルボン酸化合物#3:アジピン酸。東京化成工業株式会社製。
【0117】
-カルボン酸化合物#4:グルタル酸。東京化成工業株式会社製。
【0118】
-カルボン酸化合物#5:トリス(3-カルボキシプロピル)イソシアヌレート。四国化成工業株式会社製。品名C3CIC酸。
【0119】
-カルボン酸化合物#6:トリス(3-カルボキシエチル)イソシアヌレート。四国化成工業株式会社製。品名CIC酸。
【0120】
(6)添加剤
-添加剤#1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン。信越化学株式会社製。品名KBM573。
【0121】
-添加剤#2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン。信越化学株式会社製。品名KBM803。
【0122】
-添加剤#3:離型剤。大日化学工業株式会社製。品名カルナバF-100。
【0123】
-添加剤#4:顔料。三菱ケミカル株式会社製。品名MA100(カーボンブラック)。
【0124】
2.評価試験
(1)スパイラルフロー
組成物に対し、ASTM 3123に準じて、スパイラルフロー金型を用いて、金型温度170℃、注入圧力70kgf/cm2(6.86MPa)、成形時間180秒の条件で、樹脂組成物を成形し、成形開始から180秒間で流動した距離(流動距離)を測定した。測定により得られた値を表1に示す。流動距離が100cm以上であると、溶融時の流動性に優れると判断できる。
【0125】
(2)ゲルタイム
キュラストメータ試験装置(JSR株式会社製 型番キュラストメータ7P)を用いて、金型の上下温度を170℃とし、組成物の試料1.67mlを注入した時点で時間の計測を開始し、トルク値の測定を行い、トルク値が0.1kgf・cm(0.0098N・m)となるまでの時間(ゲルタイム)を計測した。計測により得られた値を表1に示す。ゲルタイムが100秒以下であると、溶融時の流動性が高いと判断できる。
【0126】
(3)塩化物イオン抽出量
組成物を170℃、6時間の条件で加熱して硬化物を得た。硬化物を、121℃、24時間、2気圧の水中で加熱しながら硬化物中から塩化物イオンを抽出した。加熱後、塩化物イオンの抽出に使用した水を回収し、イオンクロマトグラフにより、水中に含有される塩化物イオンの抽出量を測定した。結果を表1に示す。塩化物イオン抽出量が100ppm以下であると、遊離の塩化物イオンの数値が低いと判断できる
【0127】