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特開2025-10513窒化ホウ素薄膜の作製方法および窒化ホウ素薄膜
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  • 特開-窒化ホウ素薄膜の作製方法および窒化ホウ素薄膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010513
(43)【公開日】2025-01-21
(54)【発明の名称】窒化ホウ素薄膜の作製方法および窒化ホウ素薄膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/38 20060101AFI20250110BHJP
   C23C 16/511 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C23C16/38
C23C16/511
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024108594
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】63/525,367
(32)【優先日】2023-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】524256055
【氏名又は名称】宇川精密材料科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PENTAPRO MATERIALS INC
【住所又は居所原語表記】2 F.,No.358,Sec.1,Wenxing Rd.,Zhubei City,Hsinchu County 302053,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110004439
【氏名又は名称】AIPPAY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】郭文哲
(72)【発明者】
【氏名】李文亮
(72)【発明者】
【氏名】李豪浚
(72)【発明者】
【氏名】郭原良
(72)【発明者】
【氏名】劉建和
(72)【発明者】
【氏名】蔡明新
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA07
4K030AA18
4K030BA26
4K030BA38
4K030BA39
4K030BA49
4K030BB02
4K030CA02
4K030CA05
4K030CA07
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA16
4K030JA18
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】低温での操作が可能であり、基板への熱的損傷のリスクを低減し、またエネルギー消費を削減できる窒化ホウ素薄膜の製造方法および該窒化ホウ素薄膜そのものを提供する。
【解決手段】
本発明は、ホウ素および窒素原子を含む前駆体をエネルギー制御装置に供給する工程、該エネルギー制御装置内で前駆体の励起状態を形成する工程、最後に、基板上に窒化ホウ素を含む材料層を形成する工程を主に含み、本発明の方法の主要な特徴は、特定の波長範囲の電磁波を放射する第1電磁波源を備えたエネルギー制御装置を使用することである。さらに、本方法には、窒化ホウ素薄膜の形成をさらに促進するためのいくつかの追加的な工程が含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ホウ素原子および窒素原子を含む前駆体をエネルギー制御装置に供給する工程と、
(b) 前記エネルギー制御装置において、前記前駆体の励起状態を形成する工程と、
(c) 基板上に窒化ホウ素を含む材料層を形成する工程と、を含み、
前記前駆体の励起状態は、ホウ素原子および窒素原子、または結合解離状態にある、ホウ素配位子および窒素配位子を含み、
前記エネルギー制御装置は、特定の波長範囲の電磁波を放射する第1電磁波源を含む窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項2】
前記前駆体は、ホウ素と窒素の原子比が1:1の化合物から選択される請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項3】
前記前駆体は、ホウ素と窒素の原子比が1:1である、ボラジン、トリメチルアミンボラン、テトラメチルアンモニウムボラン、窒化ホウ素、アンモニアボラン、トリス(エチルメチルアミノ)ボランからなる群から選択される1種以上を含む請求項2に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項4】
前記基板を構成する材料が、金属、金属合金、セラミック、ポリマーまたはそれらの組み合わせから選択される1種以上を含む請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項5】
前記材料層は、六方晶窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、またはアモルファス窒化ホウ素を含む請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、前記前駆体は、25℃から400℃の温度でエネルギー制御装置に供給される請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項7】
前記エネルギー制御装置への前記前駆体の供給は、不活性キャリアガスを使用して行われる請求項6に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項8】
前記不活性キャリアガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素、またはそれらの組み合わせから選択される1種以上で構成される請求項7記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項9】
前記不活性キャリアガスに占める前記前駆体のモル濃度は、0.5%以上10%以下である請求項7記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項10】
前記不活性キャリアガスの前記エネルギー制御装置への流量が20sccm以上40sccm以下である請求項7記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項11】
前記エネルギー制御装置内の圧力が20torr以上60torr以下である請求項7に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項12】
前記不活性キャリアガスの前記エネルギー制御装置内での平均滞留時間は10秒以上100秒以下である請求項7に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項13】
前記第1電磁波源が180nm以上500nm以下の波長であって、かつ100W以上600W以下の電力を有する電磁波を放射する請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項14】
前記エネルギー制御装置は、0.5nm以上180nm以下の波長であって、かつ100W以上600W以下の電力を有する電磁波を放射する第2電磁波源をさらに含む請求項13に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項15】
前記工程(c)が、前記基板の表面に、前記基板の表面への粒子の堆積を減少させるための基板バイアスを形成することをさらに含む請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項16】
前記工程(c)において、前記基板の温度を400℃以下に維持することを含む請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項17】
前記工程(c)において、前記窒化ホウ素の形成速度を高めるためにプラズマ源を含む反応室を備えることをさらに含む請求項1に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項18】
前記プラズマ源は、直流プラズマ、高周波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上からなり、かつ前記プラズマ源から放出されるプラズマのエネルギーが300Wを超える請求項17に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項19】
前記プラズマが、アルゴン、ヘリウム、窒素、水素、アンモニア、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種のガスを含む請求項14に記載の窒化ホウ素薄膜の作製方法。
【請求項20】
下記(a)~(c)の工程を含む方法によって作製される基板上に形成された窒化ホウ素薄膜であって、
(a) ホウ素原子および窒素原子を含む前駆体をエネルギー制御装置に供給する工程と、
(b) 前記エネルギー制御装置において、前記前駆体の励起状態を形成する工程と、
(c) 基板上に窒化ホウ素を含む材料層を形成する工程と、を含み、
前記前駆体の励起状態は、ホウ素原子および窒素原子、または結合解離状態にある、ホウ素配位子および窒素配位子を含み、
前記エネルギー制御装置は、特定の波長範囲の電磁波を放射する第1電磁波源と、前記第1電磁波源が発する電磁波の波長よりも短い波長の電磁波を発する第2電磁波源とを含むことを特徴とする窒化ホウ素薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の作製方法および薄膜そのものに関し、より詳細には、窒化ホウ素薄膜の作製方法および窒化ホウ素薄膜に関する。本発明は、薄膜の分野に属する発明であり、特に窒化ホウ素薄膜の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素薄膜は、その独特な機械的、熱的、化学的、および電気的特性により広範な分野で注目を集めている。これらの特性は、窒化ホウ素薄膜を、特に高温高圧環境で使用することに適しており、例えば、切削工具、電子デバイス、保護コーティングなどに利用されている。窒化ホウ素薄膜の合成は、一般的には、化学気相成長(CVD)や物理気相成長(PVD)技術が使用され、ホウ素尿素やアミノボランなどの前駆体が用いられる。
【0003】
しかしながら、高品質のBN薄膜を合成するためには、薄膜の化学量論、相、および微細構造の制御が難しいため、依然として課題が存在する。例えば、従来の化学気相成長技術は、高温環境を必要とするため、基板に熱損傷を与えることもあるし、エネルギー消費が増加することがある。一方、物理気相成長技術は、低温で実施できるが、薄膜の化学量論および相制御に限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、窒化ホウ素薄膜は、多くの優れた特性を有しているにもかかわらず、その製造プロセスにおける課題が依然として高く、実用化に至りにくい。よって、これらの課題に対処することは、当業者が非常に着目しているテーマである。本発明は、前述の課題を解決することを目的とするものであり、窒化ホウ素薄膜の作製方法および窒化ホウ素薄膜そのものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的およびその他の目的に従って、本発明は以下のステップを含む窒化ホウ素薄膜の製造方法を提供する。まず、ホウ素原子および窒素原子を含む前駆体をエネルギー制御装置に供給する。次に、エネルギー制御装置内で前駆体の励起状態を形成する。この励起状態は、ホウ素および窒素原子を含み、さらにそのうちの一部または全ての配位子が結合破壊状態にある。その後、基板上にホウ素窒化物を含む材料層を形成する。この過程で、エネルギー制御装置には特定の波長範囲内の電磁波を放出する第1電磁波源が含まれる。
【0006】
特定の実施形態では、前駆体は、ホウ素と窒素の原子比が1:1である化合物から選択される。さらに、前駆体は、ボラジン(B363)、トリス(ジメチルアミノ)ボラン(TDMAB、C312BN)、テトラメチルアンモニウムボラン、ホウ素尿素、アミノボラン(BH6N)、およびトリス(エチルメチルアミノ)ボラン(TEMAB)を含む化合物から選択され、それらいずれもがホウ素と窒素の原子比が1:1の化合物である。いくつかの実施形態では、基板の表面に粒子の堆積を減少させるために基板バイアスを形成することも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明による基板上にホウ素窒化物層を形成する方法の実施形態を示すフローチャートである。
図2A】本発明のエネルギー制御装置の一実施形態を示す図である。
図2B】本発明のエネルギー制御装置の別の実施形態を示す図である。
図3】ホウ素窒化物薄膜が形成された基板を示す図である。
図4】反応室の内部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示される作業工程を参照し、本発明は、基板上に窒化ホウ素薄膜を作製する方法を提供する。本発明の方法は、まず、ステップS110で示されるように、ホウ素および窒素原子を含む前駆体をエネルギー制御装置に供給することから始まる。ここで、前駆体は、ホウ素と窒素の原子比が1:1である化合物から選択される。当該化合物としては、ボラジン(ホウ素-窒素環状化合物、B363)、トリメチルアミンボラン(C312BN)、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、ホウ素窒化物、アンモニアボラン(BH6N)、およびトリエチルメチルアミンボラン(TEMAB)からなる群より選択される1種以上が含まれる。
【0009】
ボラジンは、室温で無色の液体であり、その高い熱安定性から窒化ホウ素薄膜を作製するための前駆体として公知に使用される。トリス(ジメチルアミノ)ボランは、高い反応性と揮発性で知られ、化学気相成長プロセスに適している。テトラメチルアンモニウムボロハイドライドは、空気中で安定した化合物で、窒化ホウ素薄膜の単一の原料前駆体として使用することができる。ホウ素尿素は、通常の条件下で安定しており、窒化ホウ素ナノチューブを合成するための前駆体として使用できる。アミノボランは、室温で固体であり、窒化ホウ素ナノチューブおよびナノシートを合成するための前駆体として使用できる。トリス(エチルメチルアミノ)ボランは、通常の条件下で安定した化合物であり、窒化ホウ素薄膜を合成するための前駆体として使用できる。本発明では、これらの化合物を単独、または組み合わせて使用される。
【0010】
本発明のエネルギー制御装置の一実施形態を図1および図2Aを参照しつつ詳述する。エネルギー制御装置100は、電源101、第1電磁波源102、および、導波管やアンテナなどのように電磁波を放出する伝搬装置103を含む。電源101は、第1電磁波源102にエネルギーを供給して電磁波を生成する。第1電磁波源102は、指定された波長およびエネルギーレベルで電磁波を生成する装置であり、伝搬装置103は電磁波を前駆体に向けて導く。さらに、エネルギー制御装置100には、電磁波の波長およびエネルギーを調整する制御システム104が含まれる。本実施形態において、制御システム104は、マイクロプロセッサ104aまたは他のタイプのコントローラ、および電磁波の波長とエネルギーを監視するセンサ104bが含まれる。マイクロプロセッサ104aは、センサ104bの読み取り値に基づいて第1電磁波源102の動作を調整し、電磁波を所望の波長およびエネルギーレベルに維持する。また、エネルギー制御装置100には冷却システム105および安全システム106が含まれる。冷却システム105は、エネルギー制御装置100のコンポーネントを冷却し、過熱を防ぐために設けられている。安全システム106は、動作中のエネルギー制御装置100の安全を確保するための装置であり、異常な動作が検出された場合に自動的に装置を停止させる。さらに、エネルギー制御装置100は、前駆体を導入し、また排出するチャネル(図示せず)を備える。
【0011】
本発明の一実施形態の方法において、前駆体は、特定の温度条件下でエネルギー制御装置100に導入される。本実施形態では、温度は25℃から400℃の範囲に維持される。前駆体のエネルギー制御装置100への導入は、不活性担体ガスによって行われ、この不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、またはこれらのガスの組み合わせが使用される。不活性ガスは、前駆体を安定した状態に保つ能力並びに前駆体およびエネルギー制御装置100との適合性に依存して選択される。この作製工程において、不活性担体ガスの流量を調整して前駆体の励起状態の形成を最適化することができる。高流量は、前駆体を迅速にエネルギー制御装置に導入するために使用される。一方、低流量は、前駆体と電磁波の間の十分な相互作用を確保するために使用される。流量も、エネルギー制御装置内の温度や圧力の変化に基づいて調整することもできる。これにより、プロセスの動的制御が可能となり、基板上に高品質の窒化ホウ素薄膜を形成することができる。
【0012】
一実施形態において、不活性担体ガス中に占めるホウ素原子および窒素原子を含む前駆体のモル分率は0.5%以上10%以下である。エネルギー制御装置100に入る不活性担体ガスの流量は20sccm以上40sccm(標準立方センチメートル毎分)に設定され、エネルギー制御装置100内の蒸気圧は20torr以上60torr以下に設定されており、不活性担体ガスの平均滞留時間は10秒以上100秒以下である。
【0013】
引き続き、図1および図2Aを参照し、ステップS120において、エネルギー制御装置100を介して前駆体が高エネルギー状態とされて、すなわち「励起状態」が生成される。この励起状態には、ホウ素原子および窒素原子が励起状態にある場合、またその一部または全ての配位子が結合切断状態にある場合が含まれる。一実施形態において、エネルギー制御装置100の第1電磁波源102は、波長が180nm以上500nm以下、エネルギーが100W以上600W以下の範囲で制御された電磁波を放射する。別の具体的な実施形態として、図2Aに示される構成要素に加えて、図2Bに示すように、エネルギー制御装置100'には第2電磁波源107を含む。この第2の電磁波源107の波長範囲は0.5nm以上180nm以下の間で、出力は100W以上600W以下である。この第2電磁波源107の電磁波の波長は、第1電磁波源102のそれよりも短波長である。短波長は、より高エネルギーのフォトンに対応する。これらの高エネルギーのフォトンは、前駆体をより効果的に励起し、より効率的に励起状態を形成することができる。第1電磁波源102と第2電磁波源107を調整することにより、前駆体の励起状態の形成を最適化することができる。
【0014】
図1および図3を参照し、図3は、基板上に形成された窒化ホウ素薄膜を図示している。ステップS130では、基板20の少なくとも一方の表面に励起状態の前駆体が誘導される。このステップの鍵は、前駆体が励起状態にあることである。この励起状態の前駆体は、ホウ素原子および窒素原子、またはこれら原子の一部またはすべての配位子が結合切断状態である。この結合切断状態は、ホウ素原子および窒素原子が励起され、他の原子や分子と化学反応する準備ができていることを意味する。この状態は、エネルギー制御装置によって提供される特定のエネルギー条件に前駆体を曝露することによって達成される。
【0015】
励起状態の前駆体が基板20に誘導されると、ステップS140に示されるように、励起状態のホウ素原子および窒素原子は、基板上に新しい材料層21を形成し始める。この新しい材料層21は、窒化ホウ素、すなわち窒化ホウ素薄膜を含む。形成された窒化ホウ素薄膜の特定の特性は、基板上のホウ素原子および窒素原子の配置によって決定される。要約すると、ステップS130は、主に励起状態の前駆体を基板に誘導し、基板上に窒化ホウ素を含む材料層を形成することである。このプロセスにおける基板20の温度は約400℃以下に維持される。
【0016】
材料層21には、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、立方晶窒化ホウ素(c-BN)、またはアモルファス窒化ホウ素(a-BN)が含まれる場合がある。材料層中の窒化ホウ素の異なる種類の結晶構造、例えばh-BN、c-BN、またはa-BNは、材料層中のホウ素原子および窒素原子の原子配置が異なることに起因する。これらの異なる結晶構造は、異なる物理的特性および化学的特性をもたらし、さまざまな用途に有利である場合がある。例えば、h-BNは、グラファイトに似た層状構造を持ち、潤滑剤として非常に有用である。一方、c-BNは、ダイヤモンドに似た構造を持ち、非常に硬く、切削工具として非常に有用である。アモルファス窒化ホウ素は独特の無秩序な構造を持ち、秩序ある構造を持つ材料には見られない特有の物理的および化学的特性を持つ。
【0017】
したがって、アモルファス窒化ホウ素は、特定の特殊な用途において優れた性能を示す場合があり、例えば高温または高圧環境、または高い耐摩耗性や耐食性が要求される状況での使用に適している。さらに、非晶質窒化ホウ素の無秩序な構造は、優れた熱安定性および化学的安定性を提供し、高温または化学的に厳しい環境でもその構造および性能を維持できる。このため、非晶質窒化ホウ素は、高性能潤滑剤、耐摩耗材料、耐食コーティングなどのさまざまな工業用途で広く使用されている。
【0018】
本実施形態では、基板20の材料は、金属、金属合金、セラミックス、ポリマー、またはこれらの組み合わせから選択される。具体的には、金属基板の材料は、アルミニウム、銅、鋼、またはこれらの組み合わせから選択される。金属合金基板の材料は、ステンレス鋼、真鍮、青銅、またはこれらの組み合わせから選択される。セラミック基板の材料は、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、またはこれらの組み合わせから選択される。ポリマー基板の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、またはこれらの組み合わせから選択される。基板材料の選択は、窒化ホウ素薄膜の要求特性、製品の用途、および製品が使用される条件などのさまざまな要因によって決定される。
【0019】
例えば、当業者は高い機械的強度と優れた耐摩耗性を提供する基板材料を選択する場合、ステンレス鋼またはアルミナを基板材料として使用することを選択する。これにより、形成される窒化ホウ素層が基板に強く結合し、厳しい使用条件下でも長期間にわたりその性能を維持することができる。一方、特定の環境下での優れた化学的安定性が要求される場合、ジルコニアまたは炭化ケイ素を基板材料として選択することができる。これにより、形成される窒化ホウ素層が化学的に厳しい環境下でも劣化せず、安定した性能を提供することができる。
【0020】
注目すべきは、基板20は、材料層21と基板20との間の接着を強化するために、窒化ホウ素薄膜を堆積する前に処理またはコーティングされることもあるということである。例えば、基板は、洗浄、粗面化、またはプライマーや接着促進剤でコーティングしてもよい。さらに、一実施形態では、基板20に基板バイアスと呼ばれる電場を適用し、基板20の表面への荷電粒子の堆積を減少させることができる。基板バイアスは、荷電粒子の極性に応じて正バイアスまたは負バイアスのいずれでもよい。例えば、荷電粒子が主に正に荷電している場合は正バイアスが設定され、逆に荷電粒子が主に負に荷電している場合は負バイアスが設定される。
【0021】
基板バイアスを設定する目的は、堆積プロセスを妨げる可能性のある帯電粒子を排除することで、堆積された窒化ホウ素の品質を向上させることである。基板にバイアスをかけると、電場が帯電粒子の移動に影響を与え、これらの粒子が基板表面に直接堆積するのを難しくする。これにより、基板表面への帯電粒子のランダムな堆積を減少させ、より滑らかで均一な材料層21を得ることができる。したがって、基板バイアスの設定により窒化ホウ素薄膜の品質を向上させることができる。
【0022】
図4も参照して、図4は反応室の内部の概略図を示している。一実施形態では、ステップS130はプラズマ源210を備えた反応室200内で実行される。この設計は、窒化ホウ素の形成速度を増加させることを目的としている。本工程では、反応室200内のプラズマ源210が重要な役割を果たす。プラズマ源210の主な機能は、プラズマを生成することであり、プラズマとは、電気的に不均衡な状態で、正電荷と負電荷が等しい数だけ含まれているガスである。この状態では、ガスの原子または分子がプラズマ源210のエネルギーによってイオン化され、帯電粒子を形成する。これらの帯電粒子は、高エネルギーを有し、前駆体とさらに化学反応を起こし得る。
【0023】
当該化学反応中に、帯電粒子は前駆体中のホウ素原子および窒素原子と結合して窒化ホウ素を形成する。この化学反応は、反応室200内およびプラズマ源210の影響下で行われる。さらに、プラズマ源210は、直流(DC)プラズマ、ラジオ周波数(RF)プラズマ、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ、またはこれらの組み合わせなど、様々な形態を取ることができる。それぞれのプラズマ源タイプには、特定の操作条件と利点がある。例えば、DCプラズマ源は最も一般的なタイプであり、直流電圧を使用してプラズマを生成する。RFプラズマ源は、ラジオ周波数電圧を使用してプラズマを生成し、低圧で動作し、高いプラズマ密度を生成することができる。ECRプラズマ源は、磁場を使用してプラズマを生成し、非常に低圧で動作し、非常に高いプラズマ密度を生成することができる。
【0024】
本実施形態では、プラズマ源210のエネルギー出力は300Wを超えるように設定されている。このエネルギー設定により、プラズマ源は効果的にプラズマを生成し、ガスの原子または分子をイオン化して帯電粒子を形成するのに十分なエネルギーを提供できる。このエネルギー設定は、特定の用途の要求に応じて調整することもできる。さらに、プラズマは、アルゴン、ヘリウム、窒素、水素、アンモニア、またはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのガスで構成される。これらのガスは、プラズマを効果的に生成する能力と、前駆体および反応室との適合性によって選択される。例えば、アルゴンおよびヘリウムは、高いイオン化エネルギーを持ち、高密度プラズマを生成するため、最も一般的に使用されるプラズマガスである。窒素および水素は、プラズマ内で特定の化学反応が必要な場合に使用できる。アンモニアは、プラズマ内で窒素を含む化学反応が必要な場合に使用できる。
【0025】
要約すると、本発明の窒化ホウ素薄膜の作製方法は、既存の窒化ホウ素薄膜の堆積方法と比較して、いくつかの重要な利点がある。まず、本発明の方法は、低温で作製するので、基板への熱損傷のリスクを大幅に低減することができ、かつエネルギー消費を削減することができる。この低温の作製方法は、単に効率を高めるだけでなく、環境にも配慮したものとなる。さらに、本発明の方法は、窒化ホウ素薄膜の形成をさらに促進するためのいくつかの追加の選択肢を含む。例えば、基板バイアスを適用することで、基板表面への帯電粒子の堆積を減少させ、窒化ホウ素層の品質を向上させることができる。さらに、反応室にプラズマ源を含めることで、窒化ホウ素の形成速度を向上させ、生産効率を向上させることができる。これらのオプションステップにより、窒化ホウ素薄膜の製造方法はより柔軟になり、特定のニーズに応じて調整することができる。
【0026】
以上の通り、好適な実施形態に基づいて本発明の内容を開示したが、これらは本発明を制限することを意図するものではない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、適宜、変更および修正を加えることができる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決定されるべきものである。

図1
図2A
図2B
図3
図4
【外国語明細書】




図1

図2A

図2B

図3

図4