(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105239
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】錠剤の製造方法、および錠剤の製造装置
(51)【国際特許分類】
A61J 3/06 20060101AFI20250703BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20250703BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250703BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20250703BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250703BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
A61J3/06 E
A61K33/06
A61P1/04
A61P3/02
A61P43/00 111
A61K9/20
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223659
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 修平
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C047CC15
4C047LL04
4C047LL07
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC29
4C076FF36
4C076FF70
4C076GG01
4C076GG14
4C076GG50
4C086HA04
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086NA20
4C086ZA66
4C086ZC02
(57)【要約】
【課題】搬送工程におけるメンテナンスが簡便な錠剤の製造方法を提供する。
【解決手段】斯かる錠剤の製造方法は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させる成形工程と、上記成形工程の工程後である前段工程から上記成形工程により形成させた成形錠剤を搬送部材に落下させ、上記成型錠剤を後段工程へ搬送する搬送工程と、を含む。また、上記成形錠剤が落下する上記搬送部材の表面は、下記物性(a)及び(b)を充足する特定材料を有する。
(a)摩擦係数が0.15以下である。
(b)引っ張り弾性率が2.0×10
3MPa以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の製造方法であって、
酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させる成形工程と、
前記成形工程の工程後である前段工程から前記成形工程により形成させた成形錠剤を搬送部材に落下させ、前記成型錠剤を後段工程へ搬送する1以上の搬送工程と、
を含むと共に、
前記成形錠剤が落下する前記搬送部材の表面は、下記物性(a)及び(b)を充足する特定材料を有する、錠剤の製造方法。
(a)摩擦係数が0.15以下である。
(b)引っ張り弾性率が2.0×103MPa以下である。
【請求項2】
前記特定材料は、更に下記物性(c)を充足する、請求項1に記載の錠剤の製造方法。
(c)引っ張り強度が50MPa以下である。
【請求項3】
前記特定材料は、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂から選択される、請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
前記搬送部材は、前記成形錠剤を載置して、鉛直方向の上方と下方との間を昇降する昇降機構の昇降部材である、請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記成形錠剤に印刷を行う印刷工程を更に含むと共に、
前記搬送工程は、前記印刷工程で印刷が施された前記成形錠剤を前記搬送部材に落下させることを更に含む、請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記搬送部材は、基材と、前記基材の上に設けられた前記特定材料とを含む、請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項7】
前記搬送部材は、前記基材と前記特定材料との間に、前記成形錠剤の衝撃を吸収する衝撃吸収部を有する、請求項6に記載の錠剤の製造方法。
【請求項8】
錠剤の製造装置であって、
酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させた成形錠剤を搬送部材に落下させ、前記成型錠剤を後段工程へ搬送する搬送装置を含むと共に、
前記成形錠剤が落下する前記搬送部材の表面は、下記物性(a)及び(b)を充足する特定材料を有する、錠剤の製造装置。
(a)摩擦係数が0.15以下である。
(b)引っ張り弾性率が2.0×103MPa以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤の製造方法、および錠剤の製造装置であり、特に、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させた錠剤の製造方法、および錠剤の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムを主成分・有効成分とする錠剤は、制酸、緩下、マグネシウム補給、抗低マグネシウム血症などの各種用途に幅広く用いられている。
【0003】
斯かる錠剤は、例えば特許文献1に示すように、酸化マグネシウム粉末と添加剤とを混合、打錠し、必要に応じて表面に、文字または記号等の識別情報を印刷されることにより製造される。
【0004】
斯かる錠剤の製造時には、酸化マグネシウム粉末と添加剤とを打錠機により圧縮成形させた打錠後の錠剤(以下、「成形錠剤」とも称する)や印刷機による印刷後の錠剤(以下、「印刷錠剤」とも称する)を移送する場合に、錠剤を搬送部材の上に落下させて搬送する搬送工程が設けられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の錠剤の製造方法で成形錠剤を多量に生産する場合、搬送工程のメンテナンスが煩雑になる虞があった。
【0007】
本発明の課題の一つは、搬送工程におけるメンテナンスが簡便な錠剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討した結果、搬送工程において錠剤が落下する搬送部材の表面に特定の物性を備えた材料を用いることにより、搬送工程におけるメンテナンスが簡便になることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本開示は例えば以下の態様を提供する。
[1]錠剤の製造方法であって、成形工程と、搬送工程と、を含む。上記成形工程は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させる。上記搬送工程は、上記成形工程の工程後である前段工程から上記成形工程により形成させた成形錠剤を搬送部材に落下させ、上記成型錠剤を後段工程へ搬送する。上記成形錠剤が落下する上記搬送部材の表面は、下記物性(a)及び(b)を充足する特定材料を有する。
(a)摩擦係数が0.15以下である。
(b)引っ張り弾性率が2.0×103MPa以下である。
[2]上記[1]に記載の錠剤の製造方法において、上記特定材料は、更に下記物性(c)を充足する。
(c)引っ張り強度が50MPa以下である。
[3]上記[1]又は上記[2]に記載の錠剤の製造方法において、上記特定材料は、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂から選択される。
[4]上記[1]ないし上記[3]の何れか1つに記載の錠剤の製造方法において、上記搬送部材は、上記成形錠剤を載置して、鉛直方向の上方と下方との間を昇降する昇降機構の昇降部材である。
[5]上記[1]ないし上記[4]の何れか1つに記載の錠剤の製造方法は、上記成形錠剤に印刷を行う印刷工程を更に含む。上記搬送工程は、上記印刷工程で印刷された上記成形錠剤を上記搬送部材に落下させる。
[6]上記[1]ないし上記[5]の何れか1つに記載の錠剤の製造方法において、上記搬送部材は、基材と、上記基材の上に設けられた上記特定材料とを含む。
[7]上記[6]に記載の錠剤の製造方法において、上記搬送部材は、上記基材と上記特定材料との間に、上記成形錠剤の衝撃を吸収する衝撃吸収部を有する。
[8]錠剤の製造装置である。上記製造装置は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形させた成形錠剤を搬送部材に落下させ、前記成型錠剤を後段工程へ搬送する搬送装置を含む。前記成形錠剤が落下する前記搬送部材の表面は、下記物性(a)及び(b)を充足する特定材料を有する。
(a)摩擦係数が0.15以下である。
(b)引っ張り弾性率が2.0×103MPa以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の錠剤の製造方法によれば、搬送工程におけるメンテナンスが簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、付着性及び着色性試験前後における比較例1の搬送部材の表面及び実施例1の搬送部材の表面を示す光学顕微鏡写真である。
図1Aは試験前の写真、
図1Bは試験後の写真をそれぞれ示す。
【
図2A】
図2Aは、本発明の一実施形態に係る錠剤の製造方法に用いられるバケット状の搬送部材の例を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の一実施形態に係る錠剤の製造方法に用いられる長尺箱状の搬送部材を模式的に示す図である。
図2B(a)は側方断面図、
図2B(b)は上面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る錠剤の製造方法に用いられる搬送部材の断面構造の例を模式的に示す図である。
図3Aは一層構造の搬送部材を、
図3Bは二層構造の搬送部材を、
図3Cは三層構造の搬送部材をそれぞれ示す。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る原料に酸化マグネシウムを含む錠剤の製造装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0013】
[緒言]
本発明の一態様は、錠剤の製造方法に関する。斯かる製造方法は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形(これを適宜「打錠」と称する。)させる成形工程と、成形工程後の前段工程から成形工程により圧縮成形(打錠)させた錠剤(これを適宜「成形錠剤」と称する。)を搬送部材に落下させ、成型錠剤を後段工程へ搬送する搬送工程とを含む。更に、斯かる錠剤の製造方法は、成形錠剤に印刷を行う印刷工程を更に含んでいてもよく、この場合、搬送工程は、印刷工程による印刷後の成形錠剤(これを適宜「印刷錠剤」と称する。)を搬送部材に落下させることを更に含んでいてもよい。
【0014】
ここで、本発明の一態様によれば、圧縮成形(打錠)後の錠剤(成形錠剤)が落下する搬送部材の表面が、所定の物性を充足する材料(これを適宜「特定材料」と称する。)を有する。更に、錠剤の製造方法が印刷工程を更に含む場合は、印刷工程による印刷後の成形錠剤(印刷錠剤)を搬送する搬送部材の表面も、特定材料を有していてもよい。
【0015】
本発明者等の検討によれば、酸化マグネシウムの成形錠剤は、製造過程において搬送時の衝撃などで不可避的に成形錠剤の粉末を生じやすいところ、生じた粉末が静電気で成形錠剤の表面に付着しやすい傾向にある。付着した酸化マグネシウム錠剤の粉末は、衝撃の大きい搬送部材の表面に落下しやすい。搬送部材の表面に落下した粉末は、大気中の水分を吸収して水酸化マグネシウムに変質しやすい傾向にある。本発明者等は、特に、成形錠剤を多量に生産する場合、酸化マグネシウムの成形錠剤の粉末が時間の経過と共に水酸化マグネシウムに変質し、搬送部材への固着を招く原因となっていることを見出した。斯かる成形錠剤から生ずる粉末(以下、「錠剤粉末」とも称する)の搬送部材への固着は、錠剤の搬送の妨げになったり、錠剤の品質を低下させる虞があった。また、特に印刷後の錠剤粉末が搬送部材に固着すると、印刷後の錠剤粉末が固着した搬送部材によって、その後に搬送される錠剤が着色を生じる虞があった。そのため、搬送工程では、搬送部材への固着を定期的に除去しようするメンテナンスが煩雑な作業となる。
【0016】
斯かる搬送部材への錠剤粉末の固着を防止するには、錠剤から生じた粉末の付着を防止すべく、搬送部材には高いクッション性及びすべり特性を有する材料を用いることが望まれる。しかし一方で、酸化マグネシウム錠剤は高い硬度を有するため、搬送部材の材料には耐久性も必要となる。
【0017】
本発明者等は、斯かる前提に基づき鋭意検討した結果、所定範囲の摩擦係数及び引っ張り弾性率を有する特定材料を用いて、成形錠剤が落下する搬送部材の表面を構成するとの着想を得た。これにより、酸化マグネシウム錠剤の落下を受容し得る十分な耐久性を維持しつつ、錠剤粉末の付着を防止することが可能となる。また、特に印刷後の錠剤粉末の付着による搬送部材への固着を防止することによって、その後に搬送される錠剤に対する着色の発生を防止することも可能になる。
【0018】
以下、まずは搬送部材に用いられる特定材料について説明した上で、次に斯かる特定材料を用いた搬送部材の例について説明し、続いて斯かる搬送部材を用いた錠剤の製造方法の例について説明する。
【0019】
[特定材料]
一態様によれば、搬送部材に用いられる特定材料は、以下に説明する特定の物性が、それぞれ所定の範囲を充足することを特徴とする。
【0020】
一態様によれば、特定材料の摩擦係数は、通常0.15以下である。中でも0.14以下、更には0.13以下であることが好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば0.01以上とすることができる。なお、本明細書において「摩擦係数」とは、別途指定する場合を除き、動摩擦係数を指すものとする。また、所与の材料の摩擦係数は、JIS K 7125等の手法により測定することができる。
【0021】
一態様によれば、特定材料の引っ張り弾性率は、通常2.0×103MPa以下である。中でも1.5×103MPa以下、更には1.0×103MPa以下であることが好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば1.0×10MPa以上とすることができる。なお、所与の材料の引っ張り弾性率は、JIS K 7161等の手法により測定することができる。
【0022】
一態様によれば、特定材料の曲げ弾性率は、通常2.0×103MPa以下であることが好ましい。中でも1.5×103MPa以下、更には1.0×103MPa以下であることが好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば1.0×10MPa以上とすることができる。なお、所与の材料の曲げ弾性率は、JIS K 7171等の手法により測定することができる。
【0023】
一態様によれば、特定材料の引っ張り強度は、通常50MPa以下であることが好ましい。中でも45MPa以下、更には40MPa以下であることが好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば0.5MPa以上とすることができる。なお、所与の材料の引っ張り強度は、JIS K 7161等の手法により測定することができる。
【0024】
一態様によれば、特定材料の圧縮強度は、通常50MPa以下であることが好ましい。中でも45MPa以下、更には40MPa以下であることが好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば0.5MPa以上とすることができる。なお、所与の材料の圧縮強度は、JIS K 7181等の手法により測定することができる。
【0025】
斯かる特定材料は、限定されるものではないが、例えばフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂から選択することができる。中でもフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂が好ましく、フッ素系樹脂が特に好ましい。
【0026】
フッ素系樹脂の例としては、限定されるものではないが、四フッ化エチレン(PTFE)樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合(PFA)樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合(FEP)樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合(ETFE)樹脂、フッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂(ECTFE)樹脂が挙げられる。中でも四フッ化エチレン(PTFE)樹脂が好ましい。
【0027】
ポリエチレン系樹脂の例としては、限定されるものではないが、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂が挙げられる。中でも超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)樹脂又はポリエチレン(PE)樹脂が好ましい。
【0028】
ポリプロピレン系樹脂の例としては、限定されるものではないが、ポリプロピレン(PP)樹脂が挙げられる。中でもポリプロピレン(PP)樹脂が好ましい。
【0029】
なお、特定材料は、何れか1種を単独で使用してもよく、何れか2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0030】
本発明者等の検討によれば、圧縮成形(打錠)後の錠剤(成形錠剤)を搬送する搬送部材の表面の材料として、上記物性を充足する特定材料を選択して用いることにより、搬送部材への錠剤粉末の付着を抑制し、惹いては固着の発生を予防することができる。また、印刷後の成形錠剤(印刷錠剤)を搬送する搬送部材の表面の材料としても、斯かる従来の材料の代わりに、上記物性を充足する特定材料を選択して用いることにより、印刷錠剤粉末が固着した搬送部材によるその後の錠剤の着色を防止することが可能となる。
【0031】
[搬送部材]
一態様によれば、圧縮成形(打錠)後の錠剤(成形錠剤)を搬送する搬送部材の表面が、上記特定材料を有する。一態様によれば、印刷後の成形錠剤(印刷錠剤)を搬送する搬送部材の表面も、上記特定材料を有していてもよい。これらの点を除けば、搬送部材の構造や材料は、特に制限されず、任意とすることが可能である。
【0032】
図2は、一実施形態に係る錠剤の製造方法に用いられる搬送部材の例を模式的に示す図である。
図2Aはバケット状の搬送部材を、
図2Bは長尺箱状の搬送部材をそれぞれ示す。
図2B(a)は側方断面図、
図2B(b)は上面図である。但し、これらの図に示す搬送部材はあくまでも例に過ぎず、本願発明はこれらの図によって何ら限定されるものではない。
【0033】
図2Aに示すバケット状の搬送部材10Aは、上面が開放された籠状の構造を有する。斯かるバケット状の搬送部材10Aは、前段工程からの成形錠剤をその内部に受容すると共に、水平方向又は垂直方向に移動して斯かる錠剤を搬送するように構成される。ここで、前段工程から成形錠剤が受容されるバケット状の搬送部材10Aの内部の表面Saの少なくとも一部、好ましくは実質的に全部が、上記特定材料を有するように構成される。
【0034】
図2B(a)の側方断面図及び
図2B(b)の上面図に示す長尺箱状の搬送部材10Bは、上面及び一方の端部(図中右側)の側面が開放された長尺箱状の構造において、他方の端部(図中左側)の内側面が傾斜面として形成された構造を有する。斯かる長尺箱状の搬送部材10Bは、前段工程からの成形錠剤Tが
図2中紙面の左側から傾斜面に沿って導入される。
図2Bにおいて、導入方向を図中D1の矢印で示す。また、搬送部材10Bは、搬送部材10Bに連結された図示しない振動機によって振動される。搬送部材10Bは、振動機の振動により、成形錠剤Tを
図2中紙面の右側に向かって搬送するように構成される。
図2Bにおいて、搬送方向を図中D2の矢印で示す。ここで、搬送部材10Bは、成形錠剤Tが導入される搬送部材10Bの傾斜面表面Sbの少なくとも一部、好ましくは実質的に全部が、上記特定材料を有するように構成される。
【0035】
図3は、本発明の一実施形態に係る錠剤の製造方法に用いられる搬送部材の断面構造の例を模式的に示す図である。
図3Aは一層構造の搬送部材を、
図3Bは二層構造の搬送部材を、
図3Cは三層構造の搬送部材をそれぞれ示す。但し、これらの図に示す搬送部材の断面構造はあくまでも例に過ぎず、本願発明はこれらの図によって何ら限定されるものではない。
【0036】
図3Aに示す搬送部材の断面構造20Aは、基材層La1のみからなる一層構造である。本断面構造20Aにおいては、基材層La1の露出面(図中上方)が成形錠剤と接触する表面Sを構成する。惹いては、基材層La1が上記特定材料を有することになる。
【0037】
図3Bに示す搬送部材の断面構造20Bは、基材層La2と表面層Lb2とからなり、基材層La2の上に表面層Lb2が積層されてなる二層構造を有する。本断面構造20Bにおいては、表面層Lb2の露出面(図中上方)が成形錠剤と接触する表面Sを構成する。惹いては、表面層Lb2が上記特定材料を有することになる。
【0038】
図3Cに示す搬送部材の断面構造20Cは、基材層La3と表面層Lb3と衝撃吸収部Lc3からなり、基材層La3と表面層Lb3との間に衝撃吸収部Lc3が介挿された三層構造を有する。本断面構造20Cにおいては、表面層Lc3の露出面(図中上方)が成形錠剤と接触する表面Sを構成する。惹いては、表面層Lc3が上記特定材料を有することになる。
【0039】
一態様によれば、搬送部材の表面を構成する層(断面構造20Aの場合は基材層La1、断面構造20Bの場合は表面層Lb2、断面構造20Cの場合は表面層Lb3)は、上記特定材料のみから構成されてもよいが、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意の1又は2以上の他の材料を含んでいてもよい。
【0040】
但し、搬送部材の表面を構成する層が、上記特定材料に加えて1又は2以上の他の材料を含む場合も、斯かる他の材料の比率は少ないことが好ましい。一態様によれば、搬送部材の表面を構成する層における特定材料の含有比率は、制限されるものではないが、通常50質量%以上、中でも60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、又は95質量%以上、又は98質量%以上、又は99質量%以上、又は実質的に100質量%であることが好ましい。
【0041】
一態様によれば、搬送部材の表面は、成形錠剤やその粉末が落ちやすいように、下地に対して所定の傾斜を有することが好ましい。一態様によれば、搬送部材の表面の下地に対する傾斜角(
図3A~Cにおける角度θ)は、通常5°以上、中でも10°以上、また、通常30°以下、中でも20°以下であることが好ましい。
【0042】
[錠剤の製造方法及び製造装置]
前述のように、一態様によれば、錠剤の製造方法は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形(打錠)させる成形工程と、上記成形工程の工程後の前段工程から上記成形工程により圧縮成形(打錠)させた錠剤(成形錠剤)を搬送部材に落下させ、上記成型錠剤を後段工程へ搬送する搬送工程とを含む。更に、斯かる錠剤の製造方法は、上記成形錠剤に印刷を行う印刷工程を更に含んでいてもよく、この場合、上記搬送工程は、上記印刷工程による印刷後の成形錠剤(印刷錠剤)を搬送部材に落下させることを更に含んでいてもよい。
【0043】
以下、斯かる錠剤の製造方法を実施する錠剤の製造装置の例として、一実施形態に係る酸化マグネシウム含有錠剤の製造装置を挙げて説明する。しかし、本発明が適用される錠剤の製造方法及び製造装置は、以下に説明されるものに何ら限定されるものではない。
【0044】
図4は、一実施形態に係る酸化マグネシウム含有錠剤の製造装置を模式的に示す図である。
図4の錠剤製造装置100は、打錠機200と、昇降機300と、印刷機400と、コンテナ収缶用振動フィーダー500と、錠剤回収コンテナ600とを有する。
【0045】
打錠機200は、酸化マグネシウムを含む原料を圧縮成形(打錠)して成形錠剤を作製するように構成されると共に、作製された成形錠剤を排出する錠剤排出シュート202を有する。斯かる打錠機200の構成は、従来公知の打錠機の構成と同一である。
【0046】
昇降機300は、打錠機200で作製された成形錠剤を上方に搬送するように構成されると共に、受容部302と、バケット304と、昇降機構306と、錠剤排出シュート308とを有する。受容部302は、錠剤排出シュート202を介して排出された成形錠剤を受容するように構成される。バケット304は、受容部302で受容された成形錠剤を収容すると共に、垂直軸に沿って上方又は下方に移動するように構成される。斯かるバケット304は搬送部材に相当し、例えば
図2Aに示すバケット状の搬送部材として構成される。昇降機構306は、バケット304を垂直軸に沿って上方又は下方に移動させるように構成される。錠剤排出シュート308は、上昇してきたバケット304に収容されている成形錠剤を排出するように構成される。斯かる昇降機300の構成は、従来公知の昇降機の構成と同一である。
【0047】
印刷機400は、昇降機300により搬送されてきた成形錠剤に表面に文字や記号等の識別情報を印刷するように構成されると共に、ホッパー402及び錠剤排出シュート404を有する。ホッパー402は、錠剤排出シュート308を介して排出された成形錠剤を受容し、印刷機400内部に誘導するように構成される。錠剤排出シュート404は、印刷機400により印刷が施された成形錠剤(印刷錠剤)を排出するように構成される。斯かる印刷機400の構成は、従来公知の錠剤用印刷機の構成と同一である。
【0048】
コンテナ収缶用振動フィーダー500は、印刷機400により印刷が施された成形錠剤(印刷錠剤)を水平に移動させるように構成される。コンテナ収缶用振動フィーダー500は、搬送路502及び振動機504を有する。搬送路502は、印刷機400から錠剤排出シュート404を介して排出された印刷錠剤を導入されて、これを水平方向に搬送する経路として機能する。搬送路502は搬送部材に相当し、例えば
図2Bに示す長尺箱状の搬送部材として構成される。振動機504は、搬送路502に連結されてこれを振動させることにより、搬送路502に導入された印刷錠剤を、搬送路502の内面に沿って長尺方向に進行させる機能を有する。斯かるコンテナ収缶用振動フィーダー500の構成は、従来公知の錠剤用フィーダーの構成と同一である。
【0049】
錠剤回収コンテナ600は、コンテナ収缶用振動フィーダー500により搬送されてきた印刷錠剤を収容して回収するように構成される。斯かる錠剤回収コンテナ600の構成は、従来公知の錠剤用コンテナの構成と同一である。
【0050】
なお、当業者であれば従来技術(例えば特許文献1に記載の技術)及び技術常識を考慮して、
図4の錠剤製造装置100の各構成要素の機能や構成の決定・改変や、1又は2以上の構成要素の省略、変更、及び/又は追加を、適宜実施することが可能である。
【0051】
斯かる
図4の錠剤製造装置100を用いて、錠剤の製造方法を実施する場合、その詳細は特に制限されないが、例えば以下の通りである。
【0052】
酸化マグネシウム錠剤の原料となる酸化マグネシウム粉末の製造方法は、制限されるものではないが、金属マグネシウムを燃焼して酸化する方法や、マグネシウム塩を焼成して熱分解する方法が用いられる。原料として用いられるマグネシウム塩としては、水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0053】
酸化マグネシウム錠剤の原料となる酸化マグネシウム粉末の製造方法は、制限されるものではないが、金属マグネシウムを燃焼して酸化する方法や、マグネシウム塩を焼成して熱分解する方法が用いられる。原料として用いられるマグネシウム塩としては、水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムが挙げられる。こうして得られた酸化マグネシウム粉末をそのまま、或いは任意により1又は2以上の他の材料と混合することにより、酸化マグネシウム錠剤の原料粉末とすることが出来る。
【0054】
酸化マグネシウム錠剤の原料粉末を、打錠機200により打錠する。打錠時の圧力は特に制限されないが、例えば一錠当りのパンチ圧として、上限は20kN以下、又は18kN以下、又は16kN以下とすることができる。例えば、下限は2kN以上、又は3kN以上、又は4kN以上とすることができる。打錠機200の杵の形状も限定されない。例えば、形状は、標準R、二段R、糖衣R、隅角R、隅角平面、隅丸平面が挙げられる。打錠後の錠剤(成形錠剤)は、錠剤排出シュート202を介して排出され、昇降機300の受容部302により受容される。
【0055】
昇降機300の受容部302により受容された成形錠剤は、バケット304に収容される。成形錠剤を収容したバケット304は、昇降機構306により垂直軸に沿って上方に移動する。バケット304が錠剤排出シュート308に到達すると、バケット304に収容されている成形錠剤は、錠剤排出シュート308によって排出され、印刷機400のホッパー402により受容される。
【0056】
印刷機400のホッパー402により受容された成形錠剤は、印刷機400内部に誘導され、印刷機400によってその表面に文字や記号等の識別情報が印刷される。印刷が施された成形錠剤(印刷錠剤)は、錠剤排出シュート404から排出され、コンテナ収缶用振動フィーダー500に載置される。コンテナ収缶用振動フィーダー500に載置された印刷錠剤は、コンテナ収缶用振動フィーダー500によって搬送され、錠剤回収コンテナ600によって回収される。
【0057】
ここで、一態様によれば、打錠機200による圧縮成形(打錠)後の錠剤(成形錠剤)を搬送する搬送部材、即ちバケット304の内部表面S1が、上記特定材料を有する。これにより、バケット(搬送部材)304について、高い硬度を有する酸化マグネシウム錠剤の落下を受容し得る十分な耐久性を維持しつつ、錠剤粉末の付着を抑制し、惹いては固着を防止することが可能となる。
【0058】
また、一態様によれば、印刷機400による印刷後の成形錠剤(印刷錠剤)を搬送する搬送部材、即ちコンテナ収缶用振動フィーダー500の上部表面S2も、上記特定材料を有していてもよい。これにより、コンテナ収缶用振動フィーダー(搬送部材)500について、高い硬度を有する酸化マグネシウム錠剤の落下を受容し得る十分な耐久性を維持しつつ、錠剤粉末の付着を抑制し、惹いては固着を防止することが可能となる。更には、その後にコンテナ収缶用振動フィーダー(搬送部材)500により搬送される錠剤に対する着色の発生を防止することも可能になる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
[試験例1:搬送部材に用いる材料の物性の検討]
特定材料(フッ素系樹脂:四フッ化エチレン(PTFE)樹脂;ポリエチレン系樹脂:超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂;ポリプロピレン系樹脂:ポリプロピレン(PP)樹脂)、及び、特定材料の要件を満たさない材料(これを適宜「非特定材料」と称する。;ポリアセタール(POM)樹脂)について、各種物性を測定した。
【0061】
【0062】
[試験例2:特定材料に対する錠剤粉末の付着性及び固着性の検討]
特定材料(フッ素系樹脂;四フッ化エチレン(PTFE)樹脂)の樹脂サンプル(実施例1)、及び、非特定材料(ポリアセタール(POM)樹脂)の樹脂サンプル(比較例1)を用意し、錠剤粉末の付着性及び固着性を検証した。
【0063】
具体的には、容器の底に各樹脂サンプルを固定し、印刷錠剤(マグミット錠500mg)を1000錠投入した。上記容器を混合機(TSUKASA:クロスロータリ混合機)にて30rpmで3時間混合した後、樹脂サンプルを取り出し、錠剤粉末の付着性を確認した。その後、エアブローにて樹脂サンプル表面の錠剤粉末を除去した。除去しきれなかった錠剤粉末を固着したものとして、光学顕微鏡(Hirox社製)にて観察した。
【0064】
各樹脂サンプルの試験前後の光学顕微鏡写真を
図1に示す。非特定材料(ポリアセタール(POM)樹脂)の樹脂サンプル(比較例1)では、試験後に多量の錠剤粉末の付着及び固着が観察された。一方、特定材料(フッ素系樹脂;四フッ化エチレン(PTFE)樹脂)の樹脂サンプル(実施例1)では、試験後に錠剤粉末の付着及び固着は殆ど観察されなかった。