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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105476
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】電解セル構造体
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/63 20210101AFI20250703BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20250703BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20250703BHJP
【FI】
C25B9/63
C25B9/23
C25B9/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024200964
(22)【出願日】2024-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2023222706
(32)【優先日】2023-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 直幸
(72)【発明者】
【氏名】船川 明恭
(72)【発明者】
【氏名】藤田 修平
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA03
4K021CA01
4K021CA02
4K021CA11
4K021CA15
4K021DB49
4K021DB50
4K021DB53
4K021EA07
(57)【要約】
【課題】電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることのできる、電解セル構造体を提供する。
【解決手段】
電解セル構造体であって、
底面と当該底面の上方に位置する開放部とを有する枠体と、
前記開放部側に配され、かつ、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極と、
前記底面上に設けられ、かつ、前記電極を支持するリブと、
前記リブに固定され、かつ、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有するバッフル板と、
を備え、
前記短辺L1が、1.3m以上1.6m以下であり、
前記長辺L4と前記短辺L1との比が、L4/L1として、0.35以上0.97以下である、電解セル構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解セル構造体であって、
底面と当該底面の上方に位置する開放部とを有する枠体F1と、
前記開放部側に配され、かつ、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極E1と、
前記底面上に設けられ、かつ、前記電極E1を支持するリブR1と、
前記リブに固定され、かつ、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有するバッフル板B1と、
を備え、
前記短辺L1が、1.3m以上1.6m以下であり、
前記長辺L4と前記短辺L1との比が、L4/L1として、0.35以上0.97以下である、電解セル構造体。
【請求項2】
略直方体の形状を有し、かつ、電解液から気体を分離する、気液分離部を更に備え、
前記電解セル構造体における通電面を平面視したとき、前記気液分離部が、短辺L5(m)×長辺L6(m)の略矩形の形状を有し、
前記短辺L5と前記短辺L1との比が、L5/L1として、0.03以上0.08以下である、請求項1に記載の電解セル構造体。
【請求項3】
前記枠体F1及び前記電極E1で画成される極室容積V1と前記気液分離部の容積V2との比が、V1/V2として、15以上20以下である、請求項2に記載の電解セル構造体。
【請求項4】
前記電極E1と前記バッフル板B1とがなす角が、0.5°以上2.4°以下である、請求項1に記載の電解セル構造体。
【請求項5】
電極E2と、当該電極E2の通電面を押圧する導電性マットレスと、を更に備え、
前記電極E1が、陽極であり、かつ、前記電極E2が、陰極である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解セル構造体。
【請求項6】
複数の、請求項1に記載の電解セル構造体と、
隣接する前記電解セル構造体の間に配されるイオン交換膜と、
前記電解セル構造体と前記イオン交換膜とを連結するように構成された連結手段と、
を備える、電解槽。
【請求項7】
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記電解セル構造体における前記固定ヘッドとの接触面の全面を押圧するように構成されている、請求項6に記載の電解槽。
【請求項8】
前記連結手段に最も近い前記電解セル構造体と前記連結手段との間にダミーセルを更に備え、
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記ダミーセルを押圧するように構成されており、
前記ダミーセルが、前記固定ヘッドからの押圧下で、前記電解セル構造体における前記ダミーセルとの接触面の全面を押圧するように構成されている、請求項6に記載の電解槽。
【請求項9】
前記ダミーセルが剛性材である、請求項8に記載の電解槽。
【請求項10】
前記連結手段に嵌合するように構成されたアタッチメントを更に備え、
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記アタッチメントを押圧可能に構成されており、
前記アタッチメントが、前記固定ヘッドからの押圧下で、前記電解セル構造体における前記アタッチメントとの接触面の全面を押圧するように構成されている、請求項6に記載の電解槽。
【請求項11】
前記アタッチメントが、剛性材である、請求項10に記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電解セル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属塩電気分解は、食塩水等のアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解(以下、単に「電解」ともいう。)して、高濃度のアルカリ金属水酸化物、水素、塩素などを製造する方法である。その方法としては、水銀法や、隔膜法による電解が挙げられるが、近年では、電力効率の良いイオン交換膜法が主に用いられている。
【0003】
イオン交換膜法では、陽極及び陰極(以下、これらを総称して「電極」ともいう。)を備える電解セルを、イオン交換膜を介して多数並べた電解槽を用いて電解を行う。電解セルは、陰極を取り付けた陰極室と、陽極を取り付けた陽極室が、隔壁(背面板)を介して、背中合わせに配置された構造を有している。電解セルでは、陽極室にアルカリ金属塩化物水溶液を供給し、陰極室にアルカリ金属水酸化物を供給して、電解することで、陽極室では塩素ガスを生成し、陰極室ではアルカリ金属水酸化物や水素ガスを生成する。
【0004】
また、近年では、電力原単位をさらに向上させるため、イオン交換膜と陰極を接触させて電解を行うゼロギャップ電解が主流となってきている。例えば、特許文献1には、複極式フィルタープレス型塩化アルカリ金属水溶液電解槽用の単位セルに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3707778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術において、横幅2400mm及び高さ1280mmの単位セルが開示されており、単位セルの陽極室の上部にはバッフルプレートを設けることができるとされているが、このような構成においては、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量の観点で、改善の余地がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる、電解セル構造体を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、所定の構成を有する電解セル構造体により、上記の点が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
電解セル構造体であって、
底面と当該底面の上方に位置する開放部とを有する枠体F1と、
前記開放部側に配され、かつ、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極E1と、
前記底面上に設けられ、かつ、前記電極E1を支持するリブR1と、
前記リブに固定され、かつ、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有するバッフル板B1と、
を備え、
前記短辺L1が、1.3m以上1.6m以下であり、
前記長辺L4と前記短辺L1との比が、L4/L1として、0.35以上0.97以下である、電解セル構造体。
[2]
略直方体の形状を有し、かつ、電解液から気体を分離する、気液分離部を更に備え、
前記電解セル構造体における通電面を平面視したとき、前記気液分離部が、短辺L5(m)×長辺L6(m)の略矩形の形状を有し、
前記短辺L5と前記短辺L1との比が、L5/L1として、0.03以上0.08以下である、[1]に記載の電解セル構造体。
[3]
前記枠体F1及び前記電極E1で画成される極室容積V1と前記気液分離部の容積V2との比が、V1/V2として、15以上20以下である、[2]に記載の電解セル構造体。
[4]
前記電極E1と前記バッフル板B1とがなす角が、0.5°以上2.4°以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の電解セル構造体。
[5]
電極E2と、当該電極E2の通電面を押圧する導電性マットレスと、を更に備え、
前記電極E1が、陽極であり、かつ、前記電極E2が、陰極である、[1]~[4]のいずれかに記載の電解セル構造体。
[6]
複数の、請求項1に記載の電解セル構造体と、
隣接する前記電解セル構造体の間に配されるイオン交換膜と、
前記電解セル構造体と前記イオン交換膜とを連結するように構成された連結手段と、
を備える、電解槽。
[7]
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記電解セル構造体における前記固定ヘッドとの接触面の全面を押圧するように構成されている、[6]に記載の電解槽。
[8]
前記連結手段に最も近い前記電解セル構造体と前記連結手段との間にダミーセルを更に備え、
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記ダミーセルを押圧するように構成されており、
前記ダミーセルが、前記固定ヘッドからの押圧下で、前記電解セル構造体における前記ダミーセルとの接触面の全面を押圧するように構成されている、[6]に記載の電解槽。
[9]
前記ダミーセルが剛性材である、[8]に記載の電解槽。
[10]
前記連結手段に嵌合するように構成されたアタッチメントを更に備え、
前記連結手段が、プレス器と、前記プレス器に連結された固定ヘッドと、を備え、
前記固定ヘッドが、前記プレス器の駆動により、前記アタッチメントを押圧可能に構成されており、
前記アタッチメントが、前記固定ヘッドからの押圧下で、前記電解セル構造体における前記アタッチメントとの接触面の全面を押圧するように構成されている、[6]に記載の電解槽。
[11]
前記アタッチメントが、剛性材である、[10]に記載の電解槽。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる、電解セル構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電解セル構造体の構成例を示す模式的断面図である。
図2】2つの電解セル構造体を直列に接続する際の構成例を示す模式的断面図である。
図3】電解槽の一例を示す模式図である。
図4】電解槽を組み立てる工程の一例を示す模式的斜視図である。
図5図1に示す電解セル構造体50を方向αから正面視した図である。
図6図6(A)は、図5に示す電解セル構造体50のx-x’断面を方向βから観察した図である。図6(B)は、図6(A)に示す枠体101の断面構造において、陽極室の容積V1を説明するための図である。
図7図5に示す電解セル構造体50のy-y’断面を方向γから観察した図である。
図8】バッフル板が陽極に対して傾斜して配置されている例を示す図である。
図9図9(A)は、電解セル構造体における通電面中央部分の位置を例示する図である。図9(B)は、電解槽において、プレス器が電解セル構造体を押圧して連結する際の押圧位置と通電面中央部分との関係を説明するための図である。
図10図10(A)は、既存の電解槽の一例を示す模式図である。図10(B)は、既存の電解槽のプレス器及び固定ヘッドを大型化した例を示す模式図である。図10(C)は、既存の電解槽のプレス器及び固定ヘッドにダミーセルを適用した例を示す模式図である。図10(D)は、ダミーセルの一例を示す図である。図10(E)は、既存の電解槽のプレス器及び固定ヘッドにアタッチメントを適用した例を示す模式図である。
図11図5に示す電解セル構造体50の構成に基づき、実施例における濃度測定位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面中上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。ただし、当該図面は本実施形態の一例を示すものに過ぎず、本実施形態はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0013】
本実施形態の電解セル構造体は、底面と当該底面の上方に位置する開放部とを有する枠体F1と、前記開放部側に配され、かつ、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極E1と、前記底面上に設けられ、かつ、前記電極E1を支持するリブR1と、前記リブに固定され、かつ、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有するバッフル板B1と、を備え、前記短辺L1が、1.3m以上1.6m以下であり、前記長辺L4と前記短辺L1との比が、L4/L1として、0.35以上0.97以下である。本実施形態の電解セル構造体は、このように構成されているため、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる。
【0014】
〔電解セル〕
本実施形態において、「電解セル構造体」は、電解セルの構造の一部又は全体を指す語として用いる。すなわち、本実施形態の電解セル構造体は、電解セルの陽極室側の構造を指すものであってよく、陽極室側及び陰極室側の双方の構造を指すものであってもよい。
以下では、本実施形態の電解セル構造体を電解槽に適用する場合を例に、図面を用いて説明する。
図1は、電解セル構造体50の構成を例示する模式的断面図である。図1の例において、電解セル構造体50は、陽極室60と、陰極室70と、陽極室60及び陰極室70の間に設置された隔壁80と、陽極室60に設置された陽極11と、陰極室70に設置された陰極21と、を備える。図1に示すように、必要に応じ、陰極室内に設置された逆電流吸収体18を備えてもよい。陰極室70は、集電体23と、当該集電体を支持する支持体24と、金属弾性体22とを更に有する。金属弾性体22は、集電体23及び陰極21の間に設置されている。支持体24は、集電体23及び隔壁80の間に設置されている。集電体23は、金属弾性体22を介して、陰極21と電気的に接続されている。隔壁80は、支持体24を介して、集電体23と電気的に接続されている。したがって、隔壁80、支持体24、集電体23、金属弾性体22及び陰極21は電気的に接続されている。陰極21の表面全体は還元反応のための触媒層で被覆されていることが好ましい。また、電気的接続の形態は、隔壁80と支持体24、支持体24と集電体23、集電体23と金属弾性体22がそれぞれ直接取り付けられ、金属弾性体22上に陰極21が積層される形態であってもよい。これらの各構成部材を互いに直接取り付ける方法として、溶接等が挙げられる。
【0015】
図2は、電解槽4内において隣接する2つの電解セル構造体50の断面図である。図3は、電解槽4を示す。図4は、電解槽4を組み立てる工程を示す。
【0016】
図2に示すように、電解セル構造体50、陽イオン交換膜51、電解セル構造体50がこの順序で直列に並べられている。電解槽内において隣接する2つの電解セルのうち一方の電解セル構造体50の陽極室と他方の電解セル構造体50の陰極室との間に陽イオン交換膜51が配置されている。つまり、電解セル構造体50の陽極室60と、これに隣接する電解セル構造体50の陰極室70とは、陽イオン交換膜51で隔てられる。図3に示すように、電解槽4は、陽イオン交換膜51を介して直列に接続された複数の電解セル構造体50から構成される。つまり、電解槽4は、直列に配置された複数の電解セル構造体50と、隣接する電解セル構造体50の間に配置された陽イオン交換膜51と、を備える複極式電解槽である。図4に示すように、電解槽4は、陽イオン交換膜51を介して複数の電解セル構造体50を直列に配置して、プレス器5により連結されることにより組み立てられる。
【0017】
電解槽4は、電源に接続される陽極端子7と陰極端子6とを有する。電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル構造体50のうち最も端に位置する電解セル構造体50の陽極11は、陽極端子7に電気的に接続される。電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル2のうち陽極端子7の反対側の端に位置する電解セルの陰極21は、陰極端子6に電気的に接続される。電解時の電流は、陽極端子7側から、各電解セル構造体50の陽極及び陰極を経由して、陰極端子6へ向かって流れる。なお、連結した電解セル構造体50の両端には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)と、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)を配置してもよい。この場合、その一端に配置された陽極ターミナルセルに陽極端子7が接続され、他の端に配置された陰極ターミナルセルに陰極端子6が接続される。
【0018】
塩水の電解を行なう場合、各陽極室60には塩水が供給され、陰極室70には純水又は低濃度の水酸化ナトリウム水溶液が供給される。各液体は、電解液供給管(図中省略)から、電解液供給ホース(図中省略)を経由して、各電解セル構造体50に供給される。また、電解液及び電解による生成物は、電解液回収管(図中省略)より、回収される。電解において、塩水中のナトリウムイオンは、一方の電解セル構造体50の陽極室60から、陽イオン交換膜51を通過して、隣の電解セル構造体50の陰極室70へ移動する。よって、電解中の電流は、電解セル構造体50が直列に連結された方向に沿って、流れることになる。つまり、電流は、陽イオン交換膜51を介して陽極室60から陰極室70に向かって流れる。塩水の電解に伴い、陽極11側で塩素ガスが生成し、陰極21側で水酸化ナトリウム(溶質)と水素ガスが生成する。
【0019】
(陽極室)
本実施形態の電解セル構造体が備える電極E1が、陽極室60側の部材である態様、すなわち、陽極11に対応する場合を例に、説明する。図5は、図1の電解セル構造体50を方向α(すなわち、陽極11側)から正面視した図である。図5に示すように、陽極11(前述の「電極E1」に対応する。)は、枠体101(前述の「枠体F1」に対応する。)に囲われるように配されており、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する。陽極室60は、枠体101と陽極11で区画されている。図5において、陽極11の紙面裏側(隔壁80側)には、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有するバッフル板103(前述の「バッフル板B1」に対応する。)が配されている。また、陽極11、バッフル板103及び枠体101の上方には、気体が混入した電解液から気体を分離する陽極側気液分離部104が配されている。なお、特に断りがない限り、上方とは、図1の電解セル構造体50における上方向を意味し、下方とは、図1及び図5の電解セル構造体50における下方向を意味する。以下、図6~8も参照しつつ図5に示す構成について更に説明する。
【0020】
図6(A)は、図5に示す電解セル構造体50のx-x’断面を方向βから観察した図である。図6(A)に示すように、枠体101は、底面101aと底面101aの上方(図6(A)の上方)に位置する開放部101bとを有する。図6(A)に示すように、枠体101は、底面101aから立設される側壁部が開放部101bを規定するように構成されていてよい。枠体101の開放部101b側には陽極11が配されている。陽極11の長辺L2に基づいて、開放部101bの大きさを設定することができる。また、枠体101の底面101a上にはリブ102(前述の「リブR1」に対応する。)が設けられている。リブ102は、陽極11を支持する。バッフル板103は、リブ102で固定されている。図6(A)の例においては、バッフル板103は、2つのリブ102の間に溶接等の方法により固定されている。短辺L3に基づいてこの2つのリブ102の間の距離を設定することができる。リブ102は、導電性の部材であってよく、金属平板であってよく、空孔を有する金属平板であってもよい。枠体101には、前述の側壁部から延設されるようにしてシール面101cが形成されている。2つの電解セル構造体50同士を密着させて電解液流通時の気密性を確保する際、シール面101cは、押圧を受ける。本実施形態において、気密性を確保する際、陽極11も押圧を受けるように配置されてよい。
【0021】
本実施形態において、陽極11の短辺L1は、1.3m以上1.6m以下とされている。L1が1.3m以上であることにより、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる。また、L1が1.6m以下であることにより、電解セルとしての取り扱い性を確保することができる。上記観点から、短辺L1は、1.35m以上1.55m以下が好ましく、1.4m以上1.5m以下がより好ましい。
【0022】
陽極11としては、いわゆるDSA(登録商標)等の金属電極を用いることができる。DSAとは、ルテニウム、イリジウム、チタンを成分とする酸化物によって表面を被覆されたチタン基材の電極である。形状としては、短辺L1(m)×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する限り特に限定されず、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0023】
陽極11の長辺L2は、特に限定されず、2.0m以上2.8m以下であってよく、2.1m以上2.6m以下であってもよく、2.2m以上2.5m以下であってもよい。
【0024】
陽極室60には、図示しない陽極側電解液供給部より、電解液が供給される。陽極側電解液供給部は、陽極室60の下方(図1の下方)に配置されることが好ましい。陽極側電解液供給部としては、例えば、表面に開口部が形成されたパイプ(分散パイプ)等を用いることができる。かかるパイプは、陽極11の表面に沿って、電解セルの下部19に対して平行に配置されていることがより好ましい。このパイプは、電解セル構造体50内に電解液を供給する電解液供給管(液供給ノズル)に接続される。液供給ノズルから供給された電解液はパイプによって電解セル構造体50内まで搬送され、パイプの表面に設けられた開口部から陽極室60の内部に供給される。パイプを、陽極11の表面に沿って、電解セルの下部19に平行に配置することで、陽極室60の内部に均一に電解液を供給することができるため好ましい。
【0025】
バッフル板103は、短辺L3(m)×長辺L4(m)の略矩形の形状を有する限り特に限定されず、陽極室60の電解液の流れを制御する仕切り板として機能する。バッフル板103は、導電性の部材であってよく、金属平板であってよい。バッフル板103を設けることで、陽極室60において電解液(塩水等)を内部循環させ、その濃度を均一にすることができる。内部循環を起こすために、バッフル板103は、陽極11近傍の空間と隔壁80近傍の空間とを隔てるように配置することが好ましい。上記観点から、バッフル板103は、陽極11及び隔壁80の各表面に対向するように設けられていることが好ましい。バッフル板103により仕切られた陽極11近傍の空間では、電解が進行することにより電解液濃度(塩水濃度)が下がり、また、塩素ガス等の生成ガスが発生する。これにより、バッフル板103により仕切られた陽極11近傍の空間と、隔壁80近傍の空間とで気液の比重差が生まれる。これを利用して、陽極室60における電解液の内部循環を促進させ、陽極室60の電解液の濃度分布をより均一にすることができる。このようなバッフル板103の機能を説明するべく、図5に示す電解セル構造体50のy-y’断面を方向γから観察した様子を図7に示す。なお、y-y’は、図5における2つのリブ102の間を通るように引いた線であり、y-y’断面は、2つのリブ102の間に位置するバッフル板103の断面図に対応する。すなわち、図7に示すバッフル板103は、図7において図示しない2つのリブ102の間に固定されている。図7に示すように、電解液は、電解セルの下部19から上方に向けて供給されるが、バッフル板103があることにより、電解液はバッフル板103の陽極11側を上方(方向F1)に流れ、次いで、陽極室60内の上部(バッフル板103の上方)で流れが反転し(方向F2)、その後、電解液はバッフル板103の枠体101側を下方(方向F3)に流れることとなる。このように、バッフル板103により、陽極室60内における電解液の循環性が向上する傾向にある。本実施形態において、陽極11のL1が1.3m以上であることにより、電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる一方、L1が大きくなるほど、電解液の循環性が低下する傾向にある。そこで、本実施形態においては、バッフル板103の長辺L4と陽極11の短辺L1との比(L4/L1)を0.35以上0.97以下とする。L4/L1がこの範囲にあることにより、電解液の循環性が向上する。このように、本実施形態においては、陽極11の短辺L1を1.3m以上1.6m以下とし、かつ、バッフル板103の長辺L4と陽極11の短辺L1との比(L4/L1)を0.35以上0.97以下とすることにより、電解液の循環性を確保しつつ電力原単位及び水酸化ナトリウム生産量を向上させることができる。上記観点から、L4/L1は、0.40以上0.9以下であることが好ましく、0.50以上0.88以下であることがより好ましい。
【0026】
バッフル板103の長辺L4は、特に限定されず、0.5m以上1.35m以下であってよく、0.8m以上1.3m以下であってもよく、0.9m以上1.25m以下であってもよい。また、バッフル板103の短辺L3も、特に限定されず、0.05m以上0.15m以下であってよく、0.07m以上0.12m以下であってもよく、0.09m以上0.11m以下であってもよい。
【0027】
図7において、バッフル板103は、陽極11及び枠体101(隔壁80)に対して平行に配置されている例を示したが、これに限定されない。すなわち、バッフル板103は、陽極11及び枠体101(隔壁80)に対して傾斜して配置されていてもよい。図8は、バッフル板103が陽極11に対して角度θだけ傾斜して配置されている例を示す図である。図8に示すバッフル板103は、2つのリブ(不図示)の間に固定されている。本実施形態においては、電解液の循環性の観点から、陽極11とバッフル板103とがなす角(すなわち、角度θ)が、0.5°以上2.4°以下であることが好ましく、より好ましくは0.6°以上2.0°以下であり、更に好ましくは0.7°以上1.5°以下である。
【0028】
図5に示すように、本実施形態における電解セル構造体50には、気体と液体を分離するための陽極側気液分離部104が設けられていることが好ましい。陽極側気液分離部104は、例えば、電解液導入口、気体導出口及び電解液導出口(いずれも不図示)を備えてよい。電解時、電解セル構造体50で発生した塩素ガス等の生成ガスと電解液が混相(気液混相)となり系外に排出されると、電解セル構造体50内部の圧力変動によって振動が発生する傾向にある。陽極側気液分離部104が設けられている場合、かかる振動に起因するイオン交換膜の物理的な破損を抑制できる傾向にある。上記観点から、陽極側気液分離部には、気泡を消去するための消泡板が設置されることが好ましい。気液混相流が消泡板を通過するときに気泡がはじけることにより、電解液とガスに分離することができる。その結果、電解時の振動を防止することができる。陽極側気液分離部104は、図5に示すように、略直方体の形状を有していてよい。電解セル構造体における通電面を平面視したとき、すなわち、図5のように、陽極11側から電解セル構造体50を観察したとき、陽極側気液分離部104の形状は、短辺L5(m)×長辺L6(m)の略矩形の形状を有することが好ましい。このとき、短辺L5と短辺L1との比(L5/L1)は、0.03以上0.08以下であることが好ましい。
【0029】
枠体101は、図6等に示すように、断面視コの字状に形成されていてよく、ニッケル又はチタンからなる板を所望とする形状に形成したものであってよい。陽極室側の枠体101としては、チタンからなる板を断面視コの字状に形成したものであってよい。陽極室60の極室容積V1は、枠体101におけるシール面101cにより規定される仮想面101dと、枠体101とによって区画される領域の体積として求めることができる(図6(B)参照)。なお、図6の例において、仮想面101dに陽極11(通電面)が配されることとなる。ここで、陽極室60の極室容積V1と陽極側気液分離部104の容積V2との比(V1/V2)は、15以上20以下であることが好ましく、15.5以上19.5以下であることがより好ましく、16以上18.5以下であることが更に好ましい。
【0030】
なお、図1等には示していないが、陽極室60の内部に集電体を別途設けてもよい。かかる集電体としては、後述する陰極室の集電体と同様の材料や構成とすることもできる。また、陽極室60においては、陽極11自体を集電体として機能させることもできる。
【0031】
(陰極室)
陰極室70において、支持体24と、集電体23と、金属弾性体22と、陰極21とが、この順に配されていてよい。また、これらの部材は、電気的に接続されていてよい。陰極室70も、陽極室60と同様に、陰極側電解液供給部、陰極側気液分離部を有していてよい。例えば、本実施形態の電解セル構造体が備える電極E2が、陰極室70側の部材である態様、すなわち、陰極21に対応する場合も、陰極室70の極室容積V1’と陰極側気液分離部の容積V2’との比(V1’/V2’)は、15以上20以下であることが好ましく、15.5以上19.5以下であることがより好ましく、16以上18.5以下であることが更に好ましい。その他、陰極室70を構成する各部位のうち、陽極室60を構成する各部位と同様のものについては説明を省略する。
【0032】
陰極21は、ニッケル基材とニッケル基材を被覆する触媒層とを有することが好ましい。ニッケル基材上の触媒層の成分としては、Ru、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。触媒層の形成方法としては、メッキ、合金めっき、分散・複合めっき、CVD、PVD、熱分解及び溶射が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。触媒層は必要に応じて複数の層、複数の元素を有してもよい。また、必要に応じて陰極21に還元処理を施してもよい。なお、陰極21の基材としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスにニッケルをメッキしたものを用いてもよい。陰極21の形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0033】
集電体23は、集電効果を高める機能を有する。集電体23は多孔板であってよく、陰極21の表面と略平行に配置されていてよい。集電体23としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性のある金属からなることが好ましい。集電体23は、これらの金属の混合物、合金又は複合酸化物でもよい。なお、集電体23の形状は、集電体として機能する形状であればどのような形状でもよく、板状、網状であってもよい。
【0034】
集電体23と陰極21との間に金属弾性体22が設置されることにより、直列に接続された複数の電解セル構造体50の各陰極21が陽イオン交換膜51に押し付けられ、各陽極11と各陰極21との間の距離が短くなり、直列に接続された複数の電解セル構造体50全体に掛かる電圧を下げることができる。電圧が下がることにより、消費電量を下げることができる。また、金属弾性体22が設置されることにより、本実施形態における電解用電極を含む積層体を電解セルに設置した際に、金属弾性体22による押し付け圧により、該電解用電極を安定して定位置に維持することができる。金属弾性体22としては、渦巻きばね、コイル等のばね部材、クッション性のマットレス(導電性マットレス)等を用いることができる。金属弾性体22としては、イオン交換膜を押し付ける応力等を考慮して適宜好適なものを採用できる。金属弾性体22を陰極室70側の集電体23の表面上に設けてもよいし、陽極室60側の隔壁の表面上に設けてもよい。通常、陰極室70が陽極室60よりも小さくなるよう両室が区画されているので、枠体の強度等の観点から、金属弾性体22を陰極室70の集電体23と陰極21の間に設けることが好ましい。また、金属弾性体23は、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性を有する金属からなることが好ましい。本実施形態の電解セル構造体においては、陰極室側の部材として、陰極21の通電面をイオン交換膜側に向けて押圧する導電性マットレスを備えることが好ましい。
【0035】
陰極室70は、集電体23と隔壁80とを電気的に接続する支持体24を備えることが好ましい。これにより、効率よく電流を流すことができる。支持体24は、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなど電気伝導性を有する金属からなることが好ましい。また、支持体24の形状としては、集電体23を支えることができる形状であればどのような形状でもよく、棒状、板状又は網状であってよい。支持体24は、例えば、板状である。複数の支持体24は、隔壁80と集電体23との間に配置される。複数の支持体24は、それぞれの面が互いに平行になるように並んでいる。支持体24は、隔壁80及び集電体23に対して略垂直に配置されている。
【0036】
本実施形態の電解セル構造体において、イオン交換膜と電解セルとの間をシールするために、ガスケットを配置してよい。ガスケットの具体例としては、中央に開口部が形成された額縁状のゴム製シート等が挙げられる。ガスケットには、腐食性の電解液や生成するガス等に対して耐性を有し、長期間使用できることが求められる。そこで、耐薬品性や硬度の点から、通常、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン・プロピレンゴム(EPMゴム)の加硫品や過酸化物架橋品等がガスケットとして用いられる。また、必要に応じて液体に接する領域(接液部)をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素系樹脂で被覆したガスケットを用いることもできる。これらガスケットは、電解液の流れを妨げないように、それぞれ開口部を有していればよく、その形状は特に限定されない。例えば、陽極室60を構成する陽極室枠又は陰極室70を構成する陰極室枠の各開口部の周縁に沿って、額縁状のガスケットが接着剤等で貼り付けられる。そして、例えば陽イオン交換膜51を介して2体の電解セル構造体50を接続する場合(図2参照)、陽イオン交換膜51を介してガスケットを貼り付けた各電解セル構造体50を締め付ければよい。これにより、電解液、電解により生成するアルカリ金属水酸化物、塩素ガス、水素ガス等が電解セル構造体50の外部に漏れることを抑制することができる。陽極側ガスケット12は、陽極室60を構成する枠体表面に配置されることが好ましい。陰極側ガスケット13は、陰極室70を構成する枠体表面に配置されていることが好ましい。1つの電解セルが備える陽極側ガスケット12と、これに隣接する電解セルの陰極側ガスケット13とが、陽イオン交換膜51を挟持するように、電解セル同士が接続される(図2参照)。これらのガスケットにより、陽イオン交換膜51を介して複数の電解セル構造体50を直列に接続する際に、接続箇所に気密性を付与することができる。
【0037】
〔電解槽〕
本実施形態の電解槽は、電解セル構造体を備える。本実施形態の電解槽の具体例としては、複数の電解セル構造体と、隣接する電解セル構造体の間に配されるイオン交換膜と、電解セル構造体とイオン交換膜とを連結するように構成された連結手段と、を備える電解槽が挙げられる。
【0038】
本実施形態におけるイオン交換膜は、特に限定されず、例えば、国際公開第2018/174199号に記載のイオン交換膜等の公知のものを採用してよい。
【0039】
本実施形態における連結手段は、特に限定されず、一例として、図3~4に例示するようなプレス器5を採用し得る。プレス器5を連結手段とする例において、電解槽の運転時、隣接する2つの電解セル構造体50の陽極側気液分離部104同士が対向する部分よりも、枠体101同士が対向する部分を十分に押圧することが好ましい。枠体101同士が対向する部分を十分に押圧することで、電解液の流路となる部分の気密性を確保され、電解槽運転時における電解液のリークを防止し得る。
【0040】
図9(A)の例においては、陽極側気液分離部104も含めた電解セル構造体50全体の中央部ではなく、陽極11の中央部分SC(陽極11の面内における中央部分;通電面中央部分)を中心に押圧することが好ましい。この場合、陽極11及びシール面101cを均一に押圧しやすくなる。
【0041】
図9(B)は、電解槽においてプレス器5が複数(図9(B)の例において5つ)の電解セル構造体50pを押圧して連結する際の押圧位置と中央部分SC(通電面中央部分)との関係を説明するための図である。隣接する2つの電解セル構造体の間にはイオン交換膜が配置されるが、図9(B)において、当該イオン交換膜は省略されている。図9(B)の例において、プレス器5は、シリンダーSDとルーズヘッドLHとを備える。シリンダーSDの先端には、球面座SPが形成されており、球面座SPは、矢印PV方向、紙面手前方向、紙面奥方向等に傾けられるように構成されてよい。図9(B)のように、シリンダーSDが、球面座SPでルーズヘッドLHと嵌合していることにより、ルーズヘッドLHの向き(押圧方向)を適宜調整し得るため、押圧方向が制御しやすくなる。ここで、図9(B)のように、球面座SPが、中央部分SC(通電面中央部分)に重なるように配置されることが好ましい。このように配置される場合、陽極側気液分離部104が並ぶ部分R1に対し、複数の電解セル構造体50pが並ぶ部分R2を選択的に押圧しやすくなる。
【0042】
以下、本実施形態の電解セル構造体を、既存の電解槽(例えば、短辺L1が1.3m未満である電極を含む電解セルを格納する前提で設計された電解槽)に適用する際に採用し得る態様について説明する。
【0043】
図10(A)は、短辺1.3m未満×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極を含む電解セル構造体50aを格納する前提で設計された電解槽4aを示す説明図である。電解槽4aにおいて、複数の電解セル構造体50aがプレス器5により固定ヘッド8に向けて押圧されることにより、各電解セルが連結され、運転可能な状態となる。このような電解槽4aに、本実施形態における電解セル構造体を備える電解セル構造体50を適用する場合、すなわち、短辺1.3m以上1.6m以下×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極を含む電解セル構造体50を適用する場合、プレス器5によって電解セル構造体50の全面を十分に押圧することができず、電解性能に影響が及び得る。そこで、図10(B)に示すように、プレス器5よりも大きく設計されたプレス器5a及び固定ヘッド8よりも大きく設計された固定ヘッド8aを備える電解槽4を採用することができる。プレス器5a及び固定ヘッド8aを短辺1.3m以上1.6m以下×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極のサイズに合わせて設計することにより、電解セル構造体50の全面を十分に押圧した状態で各電解セルを連結することができる。
【0044】
また、図10(C)に示すように、既存のプレス器5及び既存の固定ヘッド8の各々に隣接して、ダミーセル9aを設置することもできる。ダミーセル9aを短辺1.3m以上1.6m以下×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極のサイズに合わせて設計することにより、電解セル構造体50の全面を十分に押圧した状態で各電解セルを連結することができる。ダミーセル9aは、必ずしも電解セルとしての機能を有するものでなくてもよく、例えば、電解セル構造体50と同様の形状、サイズ、重量及び強度を有するものを使用してよい。一例として、ダミーセル9aは、電解性能を有しない。ダミーセル9aが電解性能を有しないことは、後述する実施例に記載の電解運転において、実施例の電解セル構造体をダミーセル9aに置き換えた際に電気分解反応が生じないことをもって確認することができる。その他、ダミーセル9aが電解性能を有しないことは、電極に使用し得る触媒金属が使用されていないことや当該触媒金属が触媒として機能し得る位置に配置されていないことをもって判断することもできる。
【0045】
本実施形態において、均一な押圧の観点から、ダミーセル9aは、剛性材であることが好ましい。ダミーセル9aが剛性材であることは、後述する実施例に記載の電解運転において、既存のプレス器5及び既存の固定ヘッド8の各々に隣接して、ダミーセル9aを設置した際に電解液のリークが生じないことや、押圧によるダミーセル9aの変形が観測されないことをもって確認することができる。その他、ダミーセル9aが剛性材であることは、ダミーセル9aの材質(ヤング率)及び厚さを考慮して判断することもできる。例えば、ヤング率Y1及び厚さT1のダミーセルとヤング率Y2及び厚さT2のダミーセルとは、Y1×T1の値とY2×T2の値とを求め、数値が大きい方が、より高い剛性を有するものと評価し得る。一実施形態において、ダミーセルの剛性は、電解セル構造体の剛性と同じであるか、電解セル構造体の剛性よりも大きい。
【0046】
ダミーセル9aの材質は、特に限定されず、例えば、金属製であってよく、SS材(一般構造用圧延鋼材)を用いてもよい。
【0047】
ダミーセル9aの厚さは、特に限定されず、例えば、20mm以上であってよく、30mm以上であってよく、60mm以上であってよい。また、ダミーセル9aの厚さは、例えば、150mm以下であってよく、130mm以下であってよい。
【0048】
ダミーセル9aは、図10(D)に示すように、格子状に構成されてよい。すなわち、ダミーセル9aは、本体部DBにおいて複数の格子LPが形成されたものであってよい。格子LPの大きさや数が増加するほどダミーセル9aの重量が低減される傾向にあり、結果的にメンテナンス性が向上し得る。一方、格子LPの大きさや数が減少するほどダミーセル9aの剛性が高くなる傾向にあり、結果的により均一な押圧に寄与し得る。本実施形態において、ダミーセル9aが格子状に構成されている場合、剛性を確保する観点から、60mm以上であることが好ましく、電解セル構造体の設置数を確保し、電解性能を確保する観点から、130mm以下であることが好ましい。
【0049】
さらに、図10(E)に示すように、既存のプレス器5及び既存の固定ヘッド8の各々に隣接して、アタッチメント9bを設置することもできる。アタッチメント9bを短辺1.3m以上1.6m以下×長辺L2(m)の略矩形の形状を有する電極のサイズに合わせて設計することにより、電解セル構造体50の全面を十分に押圧した状態で各電解セルを連結することができる。アタッチメント9bは、例えば、電解セル構造体50と同様の形状、サイズ及び強度を有するものであって、既存のプレス器5/既存の固定ヘッド8に接触する面において、既存のプレス器5/既存の固定ヘッド8に嵌合するような形状を有するものを使用することができる。本実施形態において、均一な押圧の観点から、アタッチメント9bは、剛性材であることが好ましい。アタッチメント9bが剛性材であることの評価及び剛性の大小関係の評価は、ダミーセル9aと同様に行うことができる。一実施形態において、アタッチメント9bの剛性は、電解セル構造体の剛性と同じであるか、電解セル構造体の剛性よりも大きい。
【0050】
図10において、隣接する2つの電解セル構造体の間にはイオン交換膜が配置されるが、これらの図において、当該イオン交換膜は省略されている。
【0051】
図9~10において、1つのプレス器5が電解セル構造体を連結する態様について例示したが、本実施形態においては、複数の押圧手段で電解セル構造体を連結してよい。例えば、ボルト状の押圧部材(図9~10におけるプレス器5よりも押圧面の面積が小さいものであり、例えば、プレッシャーボルト等。)を電解槽の一端に複数配置し、これらの部材でプレス器5と同様に電解セル構造体を押圧してもよい。
【0052】
本実施形態における連結手段は、前述したものの他、タイロッドであってもよい。タイロッドは、例えば、当該タイロッドの一端がプレス器5に係止する等して固定され、当該タイロッドの他端が固定ヘッド8に係止する等して固定されてよい。かかる2か所の固定部間の距離を調整し、当該タイロッドの一端と当該タイロッドの他端とを互いに引き寄せるようにして、これらの間に配置される全ての電解セル構造体を連結するように構成されてよい。
【0053】
本実施形態における連結手段は、上記の他、例えば、電解セル構造体に形成された貫通孔を連結機構の一部としてもよい。図6(A)等に示すように、電解セル構造体50における枠体101は、陽極11で覆われていないシール面101cを有してよく、シール面101cには、一又は複数の貫通孔を設けることもできる。このように構成された複数の電解セル構造体(各々同じ位置に貫通孔を有する電解セル構造体)を準備し、電解槽内に配置し、前述のようなタイロッドを用いてこれらを固定してよい。例えば、複数の電解セル構造体の貫通孔の全てにタイロッドを通過させ、タイロッドの両端が、それぞれ、両端の電解セル構造体の貫通孔で係止する等して固定されてよい。かかる2か所の固定部間の距離を調整し、当該タイロッドの一端と当該タイロッドの他端とを互いに引き寄せるようにして、これらの間に配置される全ての電解セル構造体を連結するように構成されてよい。
【実施例0054】
以下に、本実施形態を実施例に基づいて更に詳細に説明する。本実施形態はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
ゼロギャップ式の電解セル構造体を次のようにして準備した。すなわち、断面構造が図1と同様であって、図1における陽極室60が図6と同様に構成されている、ゼロギャップ式の電解セル構造体を準備した。すなわち、この電解セル構造体は、陽極室と、陰極室と、気液分離室とを有し、陽極室及び陰極室は、互いに背中合わせに配置した。また、バッフル板は陽極室内のみに設けることとした。具体的には、バッフル板として、長辺866mm×短辺95mmのチタン板を用い、図8に示すように、陽極に対して傾斜して(バッフル板と陽極とがなす角θが1.27°となるように傾けて)設置した。
陽極室の下部(電解セル構造体の載置面)と平行となるように直径25.4mmの分散パイプを設置した。分散パイプには直径約1.5mmの穴を等間隔に開けた。同様に、陰極室にも直径12mmの分散パイプを設置した。
陽極としては、1mm厚みのチタン板をエキスパンド加工し、ロールプレスにより1mmに圧延したものに、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化チタンを主成分とするコーティングを施したものを用いた。この陽極をリブに取り付けた。
陰極としては、線径0.15mm、40メッシュのニッケル金網に酸化ルテニウムを主成分とするコーティングを施したものを用いた。
集電体としては、ニッケル板をエキスパンド加工し、溶射法によりニッケル/酸化ニッケルコーティングを施したものを用いた。集電体の上に、線径0.15mmのニッケル線を編んでなるマットレスを金属弾性体として設置した。さらにその上に、上記陰極を設置した。陰極は、イオン交換膜と接するように配置した。
上記の電解セル構造体を図3のように直列に並べて、隣接する電解セル構造体間に、陽イオン交換膜ACIPLEX(登録商標)F7001を、ガスケットを介して挟むようにして、電解槽を組み立てた。すなわち、一方の端部に電流リード板を取り付けた陽極ターミナルセル、もう一方の端部に電流リード板を取り付けた陰極ターミナルセルを配置し、電解セル構造体と陽イオン交換膜とをプレス機で押圧して連結し、電解槽を組み立てた。
なお、電極の短辺長さは1500mm、長辺長さは2400mmであった。
上記の電解槽を用い、次の条件で電解運転を行った。この電解槽の陽極室側に、陽極液として出口塩水濃度が205g/Lとなるように濃度300g/Lの塩水を供給し、陰極室側には出口苛性ソーダ濃度が32重量%となるように希薄苛性ソーダを供給し、電解温度85℃、電解時のゲージ圧力で40kPa、電流密度6kA/m2で電解を実施した。
電力原単位、水酸化ナトリウム生産量、及び陽極室の濃度分布(図10に示すように、陽極室内の9点で食塩濃度を測定し、最大濃度と最小濃度の差を濃度分布の値とした。)の測定結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2~8及び比較例1~4]
実施例1におけるL1、L2、L4、V1、L4/L1、L5/L1、V1/V2、及び/又は、θの値が表1に記載のとおりとなるように、陽極のサイズ、枠体のサイズ、バッフル板のサイズ及び/又はバッフル板の設置の際の角度を変更したことを除き、実施例1と同様にして電解槽を準備し、実施例1と同様にして電解運転を行った。
電力原単位、水酸化ナトリウム生産量、及び陽極室の濃度分布の測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【符号の説明】
【0058】
4…電解槽、5…プレス器、6…陰極端子、7…陽極端子、
8…固定ヘッド、9a…ダミーセル、9b…アタッチメント、
11…陽極、12…陽極ガスケット、13…陰極ガスケット、
18…逆電流吸収体、19…陽極室の下部、
21…陰極、22…金属弾性体、23…集電体、24…支持体、
50…電解セル構造体、60…陽極室、51…イオン交換膜(隔膜)、70…陰極室、
80…隔壁、101…枠体、101a…底面、101b…開放部、
101c…シール面、101d…仮想面、
102…リブ、103…バッフル板、104…気液分離部(陽極側気液分離部)
図1
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図11