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2025-105715導電性樹脂組成物、及び樹脂成形体、電気接点部材、感光体ドラムフリンジ、軸受け部材、複写機本体、トナーカートリッジの機構部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105715
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物、及び樹脂成形体、電気接点部材、感光体ドラムフリンジ、軸受け部材、複写機本体、トナーカートリッジの機構部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/02 20060101AFI20250703BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250703BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20250703BHJP
   C08K 5/50 20060101ALI20250703BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20250703BHJP
   C08L 23/02 20250101ALI20250703BHJP
【FI】
C08L59/02
C08K3/04
C08K5/353
C08K5/50
C08K5/101
C08L23/02
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025069256
(22)【出願日】2025-04-21
(62)【分割の表示】P 2020212460の分割
【原出願日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020028011
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 貴博
(72)【発明者】
【氏名】屋根 晃
(57)【要約】
【課題】導電性フィラーを含有するPOM樹脂組成物において、POM樹脂の熱分解が少なく、さらには吸水率が低く、射出成形用途として実使用上問題ない導電性POM樹脂組成物を提供する。
【解決手段】主成分としてポリアセタールと、カーボンブラックと、黒鉛と、にオキサゾリン基含有化合物とその反応生成物を加えて導電性樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてポリアセタールと、カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する導電性樹脂組成物であって、
オキサゾリン基含有化合物とその反応生成物とを含有することを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラック1gに対して、前記オキサゾリン基含有化合物とその反応生成物との和の化学量論量が0.02mmol以上2mmol以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記オキサゾリン基含有化合物が、分子構造内に芳香環を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記オキサゾリン基含有化合物が、以下の式(1)で示されるオキサゾリン誘導体であることを特徴とする請求項3に記載の導電性樹脂組成物。
【化1】
〔上記式中、Rは水素又はオキサゾリン基、Xは単結合又は炭素数5以下の炭化水素鎖を示し、その末端が他の共重合成分と共重合していてもよい。〕
【請求項5】
さらに、芳香族リン系化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族リン系化合物が、トリフェニルホスフィンであることを特徴とする請求項5に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラックの含有量が樹脂組成物中で7質量%以上13質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
前記カーボンブラックは、フタル酸ジブチル吸油量が250ml/100g以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項10】
前記脂肪酸エステルが、ミリスチン酸セチル及びステアリン酸ステアリルのうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸エステルが、前記導電性樹脂組成物中に10質量%以下の含有量で含まれることを特徴とする請求項9又は10に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項12】
さらに、ポリオレフィンまたはオレフィン共重合エラストマーを含有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリオレフィンが、引張降伏応力10MPa以上のポリエチレンであることを特徴とする請求項12に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリオレフィンが、前記導電性樹脂組成物中に10質量%以下の含有量で含まれることを特徴とする請求項12又は13に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項16】
請求項15に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする電気接点部材。
【請求項17】
請求項15に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする感光体ドラムフリンジ。
【請求項18】
請求項15に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする軸受け部材。
【請求項19】
請求項15に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする複写機本体。
【請求項20】
請求項15に記載の樹脂成形体からなることを特徴とするトナーカートリッジの機構部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタールを主成分として含有する導電性樹脂組成物、及び該導電性樹脂組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール(POM樹脂)はバランスの取れた機械的性質と優れた摺動性を持つ樹脂であり、特に摺動性が優れていることから、歯車をはじめとする各種の精密機構部品やOA機器などに広く使用されている。特に近年では様々な用途において部材一体化が要求されており、摺動性以外の特性として導電性を付与するため導電性フィラーを添加して、摺動の際に発生する静電気の除去性能や導電配線としての機能を持った部材へ適用されている。
この導電性フィラーを添加したPOM樹脂組成物は、フィラーの添加により溶融粘度が上昇するため可塑化の工程で発熱が起こりやすい。またフィラーの表面等にPOM樹脂の分解反応を促進する活性水素、特に酸性のプロトンを持った有機官能基があると、熱分解物であるホルムアルデヒドが発生しやすい。
特許文献1には導電性カーボンブラックや黒鉛を添加した上で、オレフィン系樹脂、脂肪酸と脂肪族アルコールからなるエステル、そしてエポキシ化合物を配合することにより、熱安定性と高い導電性を付与したPOM樹脂組成物が開示されている。係るPOM樹脂組成物においては、脂肪酸と脂肪族アルコールからなるエステルが滑剤として作用して混練や可塑化成形等の工程での発熱を抑え、エポキシ化合物が活性水素を有する有機官能基と反応して、分解反応を抑制するものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-269996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エポキシ化合物は活性水素を有する官能基との反応でエポキシ基が開環して、縮合した官能基の隣接位炭素に親水性のヒドロキシ基を有する縮合物を与える。そのため、エポキシ化合物の構造やエポキシ官能基の当量、縮合物相手の構造にもよるが、反応生成物の吸水率は一般に2%前後と高い傾向がある。そのため、特許文献1に開示されたPOM樹脂組成物においては、一般に、吸水率が0.2%乃至0.3%のPOM樹脂にエポキシ化合物を添加してその反応を伴う押出混練を行った場合、POM樹脂単体と比較して吸水率の上昇が見込まれる。乾燥と吸水の可逆現象は樹脂成形体の湿度環境変動時の寸法安定性に影響を与えることから、POM樹脂組成物の吸水率が上昇することは好ましいことではない。
本発明の課題は、導電性フィラーを含有するPOM樹脂組成物において、POM樹脂の熱分解が少なく、さらには吸水率が低い導電性POM樹脂組成物、及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、主成分としてポリアセタールと、カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する導電性樹脂組成物であって、
オキサゾリン基含有化合物とその反応生成物とを含有することを特徴とする。
本発明の第二は、上記本発明の導電性樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂成形体である。
本発明の第三は、上記本発明の樹脂成形体からなることを特徴とする、電気接点部材、感光体ドラムフリンジ、軸受け部材、複写機本体、トナーカートリッジの機構部品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い導電性と低い吸水率を有する導電性POM樹脂組成物、及び成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0008】
<導電性樹脂組成物の構成>
本発明の導電性樹脂組成物は、ポリアセタール(POM樹脂)を主成分とし、導電性フィラーとしてカーボンブラックと黒鉛とを含有する樹脂組成物であり、オキサゾリン基含有化合物とその反応生成物とを含むことを特徴とする。本構成においてカーボンブラックと黒鉛とを組み合わせることで、高い導電性と摺動性とが得られる。
【0009】
オキサゾリンは化学式C35NOを持つ5員環複素環式化合物である。オキサゾリン基を分子構造内に有するオキサゾリン基含有化合物は、カルボン酸やフェノールといった有機官能基と反応して、オキサゾリン基が開環したN-アシルエタノールアミンと有機官能基との縮合化合物を与えることが知られている。一例として、芳香環を有するオキザゾリン化合物とフェノール類との反応を以下に示す。
【0010】
【化1】
上記式中、Rは水素又はオキサゾリン基、Xは単結合又は炭素数5以下の炭化水素鎖を示し、その末端が他の共重合成分と共重合していてもよい。また、Xは非共有電子対(元素や官能基なし)、又は酸素原子、ヒドロキシル基を示す。
【0011】
カーボンブラックの表面には製造過程に由来するカルボン酸やフェノールといった有機官能基が残存している。そして、これらの有機官能基は酸性の活性水素(プロトン)を有するためPOM樹脂の分解反応を促進し、熱分解物であるホルムアルデヒドを発生させやすい。オキサゾリン基含有化合物は、このプロトンを有する有機官能基と反応して縮合化合物となるため、オキサゾリン基含有化合物を樹脂組成物に含有させることで、カーボンブラック表面の有機官能基が消費される。その結果、有機官能基によって促進されるPOM樹脂の分解反応を抑制させることができる。また、有機官能基とエポキシ化合物の反応で得られる生成物とは異なり、オキサゾリン基含有化合物と有機官能基との反応生成物である縮合化合物はヒドロキシ基を有さないため吸水率を低くすることができる。
【0012】
本発明に用いられるオキサゾリン基含有化合物の構造は特に限定されるものではないが、分子構造内に芳香環を有することが好ましい。オキサゾリン基含有化合物が芳香環を有する場合、sp2混成軌道の導電性炭素原子を有するカーボンブラックや黒鉛の電子的相互作用によって、該カーボンブラックにオキサゾリン基含有化合物が吸着されることが期待される。その結果、カーボンブラック表面のプロトンを有する有機官能基とオキサゾリン基とが優先的に反応して、より効果的にPOM樹脂の分解反応を抑制することができる。
【0013】
芳香環を有するオキザゾリン基含有化合物としては、一例として以下の式(1)で示されるオキサゾリン誘導体が挙げられる。
【0014】
【化2】
上記式中、Rは水素又はオキサゾリン基、Xは単結合又は炭素数5以下の炭化水素鎖を示し、その末端が他の共重合成分と共重合していてもよい。
【0015】
上記オキサゾリン誘導体として、市販のオキザゾリン化合物を用いることも可能である。例えば、以下の式(2)で示される三國製薬工業(株)製の「CPレジンA 1,3-BPO(製品名)」が挙げられる。また、以下の式(3)で示される構造を主成分とするオキサゾリン変性ポリスチレンである(株)日本触媒製の「エポクロス(登録商標)RPS-1005S(型番)」なども挙げられる。これらは、複数種を併用してもよい。また、活性水素と反応する他の化合物、具体的にはウレタンの原料であるイソシアネート類、尿素やユリア樹脂のような含窒素化合物を併用しても構わない。
【0016】
【化3】
上記式(3)中、m、nはそれぞれ整数を示す。
【0017】
また、本発明の導電性樹脂組成物には、オキザゾリン基と有機官能基の反応を促進させるため、芳香族リン系化合物を添加することが好ましい。芳香族リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート及びこれら化合物の芳香環上水素を有機官能基で置換したものがあり、特にトリフェニルホスフィンを好適に用いることができる。また、これらの化合物を単独で添加してもよいし、複数を組み合わせてもよい。通常、オキサゾリン基と有機官能基の反応では芳香族リン系化合物の使用量はオキサゾリン基含有化合物に対して触媒量(1質量%程度)が標準的である。しかしながら、反応が溶液系ではなく溶融樹脂のような粘度の高い粘性流体内で行われる場合、とくに混練押出機のような連続式反応機を通過させて反応させる場合は、反応速度や時間が制限されることから過剰量用いることが望ましい。具体的には、反応を完結させる観点においてオキサゾリン基含有化合物に対して1質量%以上200質量%以下の範囲が好ましい。組成物の物性を損なわないためには10質量%以上100質量%以下の範囲がより好ましい。
【0018】
また、本発明の導電性樹脂組成物中のカーボンブラック1gに対して、樹脂組成物中のオキサゾリン基含有化合物とその反応生成物の和の化学量論量(オキザゾリン基単位に換算)が0.02mmol以上2mmol以下であることが好ましい。より好ましくは、この化学量論量が0.02mmol以上0.2mmol以下である。この量が0.02mmol未満であると、カーボンブラック表面に存在する有機官能基に対してオキサゾリン基の量が十分でなく、有機官能基が残ってしまうためPOM樹脂の分解反応の抑制効果が弱くなってしまう。また、化学量論量が2mmolを超えると、未反応のオキサゾリン基が樹脂組成物に残りやすく、導電性樹脂組成物及びその成形体の長期安定性が損なわれやすい。
【0019】
次に、本発明の導電性樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0020】
<POM樹脂>
本発明の導電性樹脂組成物は、POM樹脂を主成分とする樹脂組成物である。ここで主成分とは導電性樹脂組成物中に占めるPOM樹脂の割合が50質量%以上であることを意味する。ポリアセタール本来の摺動性、強度を確保する観点から、POM樹脂の割合は70質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
本発明で使用可能なPOM樹脂は、ホルムアルデヒド単量体又はその多量体(トリオキサン等)を単独重合して得られる、実質上オキシメチレン単位のみから成るポリアセタールホモポリマーや、ホルムアルデヒド単量体又はその多量体(トリオキサン等)とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、1,3-ジオキソラン等のグリコールや環状エーテル類、環状ホルマール類を共重合させて得られるポリアセタールコポリマーを代表例として挙げることができる。
【0022】
好ましくは化学的な安定性からポリアセタールコポリマーを用いることができる。また、コポリマーの種類に応じて、架橋構造やブロック構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることが可能であり、ポリアセタールコポリマーの構造的特徴に特に制限はない。
【0023】
ポリマーの末端構造も特に制限はないものの、末端部にオキシメチレン単位の水酸基やアルデヒドが存在している場合、この末端部が熱分解の起点となりそのままでは実用上用いることは困難である。オキシメチレン単位の末端に対する化学的な封止処理を施すか、アミン類やアンモニウム化合物等で不安定末端部の分解処理を施し、オキシメチレン単位以外のコポリマー成分が末端となったPOM樹脂を使用することが好ましい。
【0024】
本発明で使用可能なPOM樹脂は用途に応じて各種添加剤が加えられた市販のPOM樹脂を用いてもよい。例えば、
ポリプラスチック(株)製「ジュラコン(登録商標)」シリーズ、
旭化成(株)製「テナック(商標)」シリーズ、「テナック(登録商標)-C」シリーズ、
三菱エンジニアリングプラスチック(株)「ユピタール(登録商標)」シリーズである。
また、これらのPOM樹脂を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明で使用可能なPOM樹脂のメルトフローレート(MFR,JIS-K7210条件で測定)は、190℃において0.5g/10min乃至100g/10min、好ましくは1g/10min乃至50g/10minである。
【0026】
<カーボンブラック>
本発明で使用可能なカーボンブラックは導電性であり、鎖状構造の発達したカーボンブラックである。好ましくは、凝集体としての平均1次粒子径(アグリゲート径)が0.05μm以上1μm以下の範囲にあるものが用いられる。また、カーボンブラックの添加量は、導電性樹脂組成物中で5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。カーボンブラックの添加量が5質量%以上で良好な導電性が得られ、25質量%以下では成形加工時の発熱が小さく、POM樹脂の熱分解が起こりにくく、好ましい。また、樹脂組成物の成形加工時の流動性が良好である15質量%以下がより好ましい。POM樹脂の熱分解と導電性のバランスを両立するためには、特に7質量%以上13質量%以下であることが好ましい。
【0027】
加えて、上記の添加量の範囲で十分な導電性を有する樹脂組成物を得る上で、カーボンブラックはフタル酸ジブチル吸油量(DBP吸油量、ASTM D2415-65T)が250ml/100g以上であることが好ましい。
【0028】
本発明で使用可能なカーボンブラックは、例えば、
電気化学工業(株)製「デンカブラック(登録商標)」(粒状品のDBP吸油量:160ml/100g)、
東海カーボン(株)製「シースト(製品名)」シリーズ(DBP吸油量:40ml/100g乃至160ml/100g)、「トーカブラック(製品名)」シリーズ(DBP吸油量:50ml/100g乃至170ml/100g)、
三菱ケミカル(株)製「三菱カーボンブラック(製品名)」シリーズ(DBP吸油量:40ml/100g乃至180ml/100g)である。
また、DBP吸油量が250ml/100gを超えるものとしては、
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)「ケッチェンブラック(製品名)」シリーズ(DBP吸油量:350ml/100g乃至500ml/100g)、「ライオナイト(製品名)」シリーズ(DBP吸油量:250ml/100g乃至400ml/100g)、
オリオン・エンジニアド・カーボン社製「PRINTEX(製品名)」シリーズ(50ml/100g乃至420ml/100g)がある。
上記カーボンブラックは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
<黒鉛>
本発明で使用可能な黒鉛は人造品乃至は天然品から目的に応じて適宜選択することができる。黒鉛の形状は特に制限されず、例えば鱗片状、塊状、球状、土状等いずれでもかまわないが、より良好な導電性発現の観点から、鱗片状黒鉛であることが好ましい。
【0030】
本発明で使用可能な黒鉛粉末の平均粒径は0.5μm乃至100μmの範囲が好ましく、より好ましくは20μm乃至80μmの範囲である。高い導電性と温度変化時の寸法安定性の観点から20μm以上が好ましく、取り扱い性と成形体表面性の観点から100μm以下であることが好ましい。
【0031】
鱗片状黒鉛は、例えば、日本黒鉛(株)製「CP(製品名)」シリーズ、「F♯(製品名)」シリーズ、伊藤黒鉛工業(株)製「CNP(製品名)」シリーズ、「Z(製品名)」シリーズなどがある。また、2種類以上の黒鉛を併用してもよい。また、黒鉛の添加量は導電性樹脂組成物中で2質量%乃至8質量%の範囲にあることが好ましい。
【0032】
<その他の添加剤>
本発明の導電性樹脂組成物には、必要に応じて他の各種添加剤が配合されていてもよい。機能性を向上する各種添加剤として、難燃剤やワックス、各種脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸の金属塩等の滑剤・離型剤、各種帯電防止剤、脂肪酸エステル、ポリオレフィンやオレフィン共重合エラストマー、ポリシロキサン等の摺動性向上剤、ポリアミド樹脂やアクリルアミドの重合体、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物及びその誘導体、尿素及びその誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物、エポキシ化合物といったPOM樹脂の分解抑制剤、メラミンやアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩などの蟻酸捕捉剤、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリスチレンエラストマー等の耐衝撃向上剤、有機リン系化合物等の難燃剤が挙げられる。また、長期安定性を向上する各種添加剤として、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル化合物等の紫外線吸収剤やヒンダートアミン系光安定剤、ヒンダートフェノール系の酸化防止剤等も挙げられる。
【0033】
中でも、ポリオレフィンやオレフィン共重合エラストマー、脂肪酸エステルが好ましく用いられ、ポリオレフィンとしてはポリエチレン、特に低密度ポリエチレン、オレフィン共重合エラストマーとしてはスチレン/ブタジエンブロック共重合体が好ましく用いられ、これらの引張降伏応力が10MPa以上であることがより好ましい。これらの添加剤を用いることで、耐摩耗性の向上が期待できる。これらの添加剤の添加量は、樹脂組成物中で10質量%以下であることが好ましい。
【0034】
脂肪酸エステル類は摺動性の改良と樹脂組成物の製造時の混練トルクの軽減に有効であり、好適に用いることができる。例えば、1価脂肪酸と1価脂肪族アルコールのエステルが好ましい。天然由来で容易に入手可能な1価脂肪酸としてミリスチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などがあり、これらと脂肪族アルコールから得られるエステルは好適に用いることができる。特にミリスチン酸セチルとステアリン酸ステアリルを添加剤として用いた場合の摺動性、熱変形温度、混練時のトルク低減量といった特性のバランスからより好ましい。脂肪酸エステル類の添加量は、これら特性のバランスを確保する目的からも、樹脂組成物中で10質量%以下であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の導電性能を損なわない範囲で、低熱膨張率性や剛性等の機能向上を目的として、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩化合物、ガラス系充填剤、ケイ酸化合物、金属粉末や金属繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの無機成分が含まれていてもよい。
【0036】
金属酸化物としては、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。炭酸塩としては、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、石膏繊維等が挙げられる。ケイ酸塩化合物としては珪酸カルシウム(ウォラストナイト、ゾノトライト等)、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、カオリン、バーミキュライト、スメクタイト等が挙げられる。ガラス系充填剤としては、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン等が挙げられる。ケイ酸化合物としては、シリカ(ホワイトカーボンなど)、ケイ砂等が挙げられる。金属粉末や金属繊維を構成する主元素としては、鉄、アルミニウム、チタン、銅等が挙げられ、これらの元素と他の元素を複合化したものでもよい。
【0037】
これらの無機充填剤は、その表面がシランカップリング剤やチタンカップリング剤、有機脂肪酸、アルコール、アミン等の各種表面処理剤、ワックスやシリコーン樹脂等で処理されているものであってもよい。
上記添加剤は、一種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0038】
<構成成分について>
本発明の導電性樹脂組成物の構成成分については、公知の分離技術及び分析技術を組み合わせて知ることができる。その方法や手順は特に制限されないが、一例として、導電性樹脂組成物から有機成分を抽出した溶液を各種クロマトグラフ法等で成分を分離した後に成分分析を進めることができる。
【0039】
導電性樹脂組成物から有機成分を抽出するには、可溶な溶媒に導電性樹脂組成物を溶解させればよく、予め導電性樹脂組成物を細かく破砕したり溶媒を加熱撹拌したりすることで、抽出に必要とする時間を短縮することができる。使用する溶媒は導電性樹脂組成物を構成する有機成分の性状に応じて任意に選択できるが、本発明の如くPOM樹脂を含む樹脂組成物の場合、ヘキサフルオロプロパノール等の溶媒が好適に用いられる。
【0040】
ここで有機成分を分離した後に残る残渣を乾燥して秤量することで、導電性樹脂組成物中に含まれる無機成分の含有量を知ることができる。導電性樹脂組成物の無機成分の含有量を知る方法としては、他に熱重量分析(TGA)等で樹脂の分解温度以上まで温度を上げて灰分を定量する方法もある。
【0041】
導電性樹脂組成物から有機成分を抽出した溶液は、各種クロマトグラフ等の方法により成分を分離できる。低分子量の添加物の類はガスクロマトグラフ(GC)や高速液相カラムクロマトグラフ(HPLC)法、高分子量の重合体はゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)等で分離を行える。特に分子量の大きな架橋重合物やゲルが含まれる場合、液中にミセルが形成されている場合は、遠心分離や半透膜による分離を選択することもできる。分離された有機成分は、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定、ラマンスペクトル測定、マススペクトル測定、元素分析などの公知の分析手法により分析できる。
【0042】
無機成分、特にカーボンブラック、黒鉛、及びこれらの表面の有機官能基と化学的に結合したオキサゾリン基含有化合物については、その他の有機成分を可溶な溶媒に溶解して抽出した後、遠心分離して得られる残渣から回収することができる。この残渣については適切な化学処理、例えば強酸等による処理で各成分のフラグメントへと分離することが可能で、遠心分離により可溶な成分を分取したのち、中和後に溶媒を除去、洗浄した上でガスクロマトグラフ(GC)や高速液相カラムクロマトグラフ(HPLC)法、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定、ラマンスペクトル測定、マススペクトル測定、元素分析などの公知の分析手法によりその構造を確認することができる。
【0043】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法は特定の方法に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている混合方法を用いることができる。例えば、タンブラー、V型ブレンダー、バンバリーミキサー、混練ロール、ニーダー、単軸押出機、二軸以上の多軸押出機等の混合機により混合、混練して製造することができる。特に二軸押出機による溶融混練が生産性に優れている。
【0044】
導電性樹脂組成物の製造においては、POM樹脂、カーボンブラック、黒鉛、オキサゾリン基含有化合物、及び必要に応じて用いられるその他の添加剤のうち複数の成分を予め予備混合又は予備混練してもよいし、同時に混合又は混練してもよい。特に押出機による製造においては、成分毎に個別のフィーダーを設け押出過程において逐次添加を行った混練を行うこともできる。
【0045】
その他の添加剤を、POM樹脂、カーボンブラック、黒鉛、オキサゾリン基含有化合物のうちのいずれか1つ又は複数と予備混合する場合、乾式法又は湿式法で処理すればよい。乾式法では、ヘンシェルミキサー、ボールミル等の攪拌機を用いて攪拌する。湿式法では、溶剤に導電性樹脂を加えて攪拌し、混合後に溶剤を乾燥除去する。
【0046】
溶融混練による製造において、混練温度、混練時間及び送出速度は、混練装置の種類や性能、配合成分、及び必要に応じて用いられるその他の添加剤の成分の性状に応じて任意に設定できる。混練温度については通常150℃乃至250℃、好ましくは160℃乃至230℃、より好ましくは170℃乃至210℃である。混練温度が150℃以上で分散性が良好になり、250℃以下とすることで熱分解によるホルムアルデヒドの発生や諸物性の低下を抑制することができる。
【0047】
本発明の導電性樹脂組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般に用いられている成形方法で容易に成形が可能であり、ブロー成形、真空成形、二色成形、インサート成形等にも適用可能である。本発明の導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は、OA機器その他の電気電子機器の部品、又は電気電子機器の導電性機能部品として適用される。また、本発明の樹脂成形体は、自動車や航空機等の構造部材、建築部材、食品容器等にも適用可能である。即ち、型を用いて樹脂組成物を成形して成形体を製造する種々の製造方法に適用可能であり、特に高い導電性と摺動性が要求される複写機本体及びトナーカートリッジ用容器の機構部品に好適に用いることができる。具体的には、電気・電子機器内における電気接点部材、画像形成装置内の感光体ドラムフランジ、プロセスカートリッジの部品、軸受け部材等に好適に用いられる。
【実施例0048】
本実施例(比較例も含む)において用いた材料は以下の通りである。
(A)POM樹脂
A:ポリプラスチック(株)製「ジュラコン(登録商標)M270CA(製品名)」
【0049】
(B)導電性カーボンブラック
B-1:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「ライオナイトEC200L(製品名)」(DBP吸油量:260ml/100g)
B-2:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「ライオナイトCB(製品名)」(DBP吸油量:378ml/100g)
B-3:オリオン・エンジニアドカーボンズ(株)製「プリンテックスXE2-B(製品名)」(DBP吸油量:420ml/100g)
【0050】
(C)黒鉛
C-1:伊藤黒鉛工業(株)製「Z-25(製品名)」(鱗片状黒鉛、平均粒径:25μm)
C-2:日本黒鉛工業(株)製「F♯3(製品名)」(鱗片状黒鉛、平均粒径:60μm)
【0051】
(D)オキサゾリン基含有化合物
D-1:三國製薬工業(株)製「CPレジンA 1,3-BPO(製品名)」(二官能性オキサゾリン)
D-2:(株)日本触媒製「エポクロス RPS-1005S(製品名)」(オキサゾリン変性ポリスチレン、オキサゾリン当量:0.27mmol/g)
【0052】
(E)その他の添加剤
E-1:日油(株)製「スパームアセチ(製品名)」(主成分:ミリスチン酸セチル)
E-2:宇部丸善ポリエチレン(株)製「UBEポリエチレンL719(製品名)」(低密度ポリエチレン、引張降伏応力13MPa)
E-3:旭化成(株)製「サンテックLD L1850A(製品名)」(低密度ポリエチレン、引張降伏応力12MPa)
E-4:(株)プライムポリマー製「ウルトゼックス20100J(製品名)」(低密度ポリエチレン、引張降伏応力9MPa)
E-5:日油(株)製「モディパーA1100(製品名)」(相溶化剤)
E-6:(株)JSR製「TR2827(製品名)」(スチレン/ブタジエンブロック共重合体)
E-7:キシダ化学(株)製トリフェニルホスフィン
E-8:キシダ化学(株)製メラミン(アルデヒド反応性化合物)
E-9:東京化成工業(株)製2-イミダゾリジノン(アルデヒド反応性化合物)
E-10:キシダ化学(株)製フタルイミド(アルデヒド反応性化合物)
E-11:BASFジャパン(株)製「イルガノックス1010(製品名)」(ヒンダートフェノール系酸化防止剤)
E-12:BASFジャパン(株)製「イルガフォス168(製品名)」(リン系加工安定剤)
E-13:(株)ADEKA製「アデカスタブZS-27」(金属不活性化剤)
E-14:東京化成工業(株)1,2,3-ベンゾトリアゾール(金属不活性化剤・アルデヒド反応性化合物)
E-15:キシダ化学(株)製ジシアンジアミド(エポキシ硬化剤)
E-16:DIC(株)製「EPICLON-695(製品名)」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)
E-17:東ソー(株)製コロネート4362(製品名)(イソシアネート化合物)
【0053】
(導電性樹脂組成物の製造)
POM樹脂(A)を予め90℃の温度で3時間乾燥した。その上で、最終的に得られる導電性樹脂組成物中の各成分の質量%が表1に示す配合量となるよう、カーボンブラック(B)、黒鉛(C)、オキサゾリン基含含有化合物(D)、その他の添加剤(E)を加え、原材料のブレンド物を作製した。当該ブレンド物を池貝社製二軸押出機「PCM30(製品名)」でシリンダ温度200℃の条件で溶融混練してストランドを作製し、ペレタイザーにより切断加工することで導電性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0054】
(体積抵抗率評価)
導電性樹脂組成物を切断加工前のストランドの状態で取り分け、直径をノギスで計測した。5cmの長さの範囲をカイセ(株)製「ハンディーミリオームテスターSK-3800(製品名)」で抵抗値を計測し、導電性樹脂組成物の体積抵抗率を算出した。
【0055】
(熱安定性評価)
導電性樹脂組成物中に含まれるPOM樹脂(A)が分解してホルムアルデヒドガスが発生した場合、導電性樹脂組成物の重量減少が観測できる。TAインスツルメント社製の熱重量分析(TGA)「Q500」を用いて225℃窒素気流下で2時間保持し、重量減少率を測定した。
【0056】
(飽和吸水率評価)
得られた導電性樹脂組成物のペレットを住友重機械工業社製の射出成形機「SE-180D(製品名)」により、シリンダ温度200℃、金型温度60℃で射出成形し、JISK7152-1で規定される短冊形試験片タイプB1(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を作製した。
【0057】
上記試験片についてJIS K 7209 A法を参考に水中に浸漬し、試験片の重量増加から飽和吸水率を求めた。A法では通常23±1℃の水に浸漬するが、加速試験のため浸漬温度のみを40±1℃に変更し、それ以外はA法と同等の条件で評価した。
【0058】
(耐摩耗性評価)
得られた導電性樹脂組成物のペレットを住友重機械工業社製の射出成形機「SE-180D(製品名)」により、シリンダ温度200℃、金型温度30℃で射出成形し、φ7mmの円状孔が開いた成形体を作製した。この円状孔に同径のステンレス製軸を通し、60rpmの回転速度で24時間回転させた時の摩耗量を評価した。実施例1の摩耗量を基準として、摩耗量が同程度であるものを〇、10%以上悪化したものを△、10%以上低減されたものを◎とした。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1及び表2中、D-1,D-2,E-16,E-17がカーボン表面に存在する官能基と反応する添加剤である。
【0062】
表1と表2から、オキサゾリン基含有化合物の添加により、それ以外の反応性添加剤を加えた場合に比べて高い導電性を有しており、熱分解が少なく、さらには吸水率が低い樹脂組成物とその成形体が得られていることがわかった。尚、反応性添加剤を全く加えなかった比較例1では押出混練でPOM樹脂が激しく分解し、ペレット製造を行うことができなかった。
【0063】
本発明は、以上説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、本発明の実施形態及び実施例に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態及び実施例に記載されたものに限定されない。