(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105830
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20250703BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20250703BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20250703BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20250703BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20250703BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20250703BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20250703BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20250703BHJP
A23L 29/30 20160101ALI20250703BHJP
C13B 35/08 20110101ALI20250703BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D61/36
B01D69/02
B01D71/68
B01D71/26
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/32
B01D61/02
B01D61/58
B01D69/00
B01D67/00 500
B01D65/02
A23L29/30
C13B35/08
【審査請求】有
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025073649
(22)【出願日】2025-04-25
(62)【分割の表示】P 2021047252の分割
【原出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】須賀 友規
(57)【要約】
【課題】原料液が高粘度であっても当該原料液中の目的成分を少ない変質で高濃度まで濃縮できる、中空糸膜、膜モジュール、原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法を提供する。
【解決手段】粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための多孔質の中空糸膜であって、透気度が500L/h・m
2・kPa以上であり、200kPa加圧時の20質量%濃度のエタノール水溶液の透水速度が100mL/h・m
2以下であり、かつ中空糸内径が0.3mm以上2.0mm以下である、中空糸膜。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための多孔質の中空糸膜であって、
透気度が500L/h・m2・kPa以上であり、
200kPa加圧時の20質量%濃度のエタノール水溶液の透水速度が100mL/h・m2以下であり、かつ
中空糸内径が0.3mm以上2.0mm以下である、中空糸膜。
【請求項2】
前記透気度が1000L/h・m2・kPa以上5000L/h・m2・kPa以下であり、
前記透水速度が50mL/h・m2以下であり、かつ
前記中空糸内径が0.5mm以上1.5mm以下である、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂で構成されている、請求項1又は2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項5】
粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための膜モジュールであって、
前記膜モジュールは、多孔質の中空糸膜と、前記中空糸膜を収容する略円柱状又は略多角柱状のモジュールケースとを有し、
前記膜モジュールは、前記モジュールケースの軸方向の両端部に、固定用樹脂によって前記中空糸膜が開口端部を有して固定されている膜固定部と、原料液を前記開口端部から前記中空糸膜の内部に流通させるための原料液流通用開口部とを有し、且つ、側面部に、前記膜モジュールの気相部に連通して、気相部内の蒸気を前記膜モジュールの外部に取り出すための蒸気取出口を有し、
前記蒸気取出口の開口面積は、前記中空糸膜の膜面積の1500分の1以上であり、
前記中空糸膜の有効長が中空糸内径の100倍以上1000倍以下であり、
前記原料液流通用開口部の開口面積が中空糸の総開口断面積の0.2倍以上8.0倍以下である、膜モジュール。
【請求項6】
前記蒸気取出口の開口面積は、前記中空糸膜の膜面積の1000分の1以上250分の1以下であり、
前記中空糸膜の有効長が中空糸内径の100倍以上800倍以下であり、
前記原料液流通用開口部の開口面積が中空糸の総開口断面積の0.2倍以上5.0倍以下である、請求項5に記載の膜モジュール。
【請求項7】
前記モジュールケースが、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、及び塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、並びに/又はステンレス、真鍮、黄銅、及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属で構成されている、請求項5又は6に記載の膜モジュール。
【請求項8】
前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、請求項5~7のいずれか一項に記載の膜モジュール。
【請求項9】
前記中空糸膜が請求項1~4のいずれか一項に記載の中空糸膜である、請求項5~8のいずれか一項に記載の膜モジュール。
【請求項10】
粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための原料液濃縮システムであって、
前記原料液濃縮システムは、原料液を貯留する原料液タンクと、原料液を加温する加温部と、前記加温部で加温された原料液を濃縮するための、多孔質の中空糸膜を有する膜蒸留部と、原料液を前記原料液タンクから前記加温部、前記膜蒸留部の順に流通させて前記原料液タンクに循環させる循環ポンプとを有し、
前記中空糸膜は、原料液を中空部に受け入れて蒸気を中空糸膜外側に排出するように配置されており、
前記中空糸膜の原料液流入部位において、
原料液温度が30℃以上80℃以下であり、
原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であり、
中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧され、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であり、
中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下である
ように構成されている、原料液濃縮システム。
【請求項11】
粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮して原料液濃縮物を製造する方法であって、前記方法は、
原料液を加温する加温工程と、
前記加温された原料液を多孔質の中空糸膜の中空部に流通させて膜蒸留により濃縮する濃縮工程とを含み、
前記濃縮工程で濃縮された原料液を循環させて濃縮前の原料液に合流させ、
前記中空糸膜の原料液流入部位において、
原料液温度が30℃以上80℃以下であり、
原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であり、
中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧され、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であり、
中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下である、方法。
【請求項12】
前記原料液温度が40℃以上70℃以下である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記中空糸膜外側圧力が-90kPa以下である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記原料液圧力が30kPa以上210kPa以下であり、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が300kPa以下である、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上0.5m/s以下である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記加温工程において、原料液を90℃以下の加温部に接触させることによって加温する、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記加温部が、50℃以上の蒸気又は50℃以上の温水である熱媒を循環させる熱交換器である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記加温部が廃熱を利用する、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記濃縮工程の後に、濃縮された原料液を蒸発器に流通させる追加濃縮工程を更に有し、前記追加濃縮工程における原料液温度が、前記濃縮工程における原料液温度以上である、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
逆浸透膜で原料液を予備濃縮する予備濃縮工程を更に含み、予備濃縮された原料液を前記濃縮工程に供する、請求項11~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が40以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が70以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が35以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が62以下である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
濾過膜で原料液を濾過して不純物を除去する濾過工程を更に含み、濾過された原料液を前記濃縮工程に供する、請求項11~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記濾過膜の孔径が20μm以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記濾過膜の孔径が1.0μm以下である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記濾過膜がクロスフロー配置される、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記濾過膜を逆洗する逆洗工程を更に有する、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記濃縮工程と前記濾過工程とを互いに独立の原料液流路にて行う、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、請求項11~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記中空糸膜の中空部に水を通液することにより、前記中空糸膜に付着した原料液を除去する工程を、1日当たり1回以上行う、請求項11~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記中空糸膜の中空部にpH5以下又はpH9以上の薬液を通液することにより、前記中空糸膜に付着した膜汚染物質を除去する工程を、1週間当たり1回以上行う、請求項11~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記濃縮工程を、請求項1~4のいずれか一項に記載の中空糸膜、又は請求項5~9のいずれか一項に記載の膜モジュールを用いて行う、請求項11~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項10に記載の原料液濃縮システムを用いる、請求項11~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
カエデ樹液である原料液を、請求項1~4のいずれか一項に記載の中空糸膜、請求項5~9のいずれか一項に記載の膜モジュール、請求項10に記載の原料液濃縮システム、又は請求項11~33のいずれか一項に記載の原料液濃縮物の製造方法を用いて濃縮することを含む、メイプルシロップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製造プロセス及び工業プロセスにおける高粘度原料液の濃縮に有用な、中空糸膜、膜モジュール、原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法に関する。より詳しくは、本発明は、食品製造プロセス及び工業プロセスで使われる高粘度原料液から溶媒の一部を膜蒸留で分離することによって原料液を濃縮する、原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康指向により、天然から収穫され、抽出又は濃縮された食料品に対して、消費者の関心が寄せられている。例えば、天然物由来の原料液を蒸発機に入れて水分を加熱蒸発させて得られる濃縮液を、甘味料として、各種料理、菓子類などへ添加することが行われている。しかし、原料液を高温で加熱すると、原料液に含まれる多くの成分が変質又は消失するため、得られる濃縮液において、香味成分の劣化、及び変色が生じるという問題があった。
【0003】
一方、工業プロセスにおいても、加熱により分解しやすい有価物を含む原料液の濃縮が求められる場合がある。このような原料液は、上記の食料品と同様、加熱を抑えた方法により濃縮する必要がある。
【0004】
そこで、加熱を必要とせずに原料液を濃縮できる方法として、一般的に、逆浸透膜法及び正浸透膜法が用いられてきた。例えば、特許文献1及び2には、メイプルシロップを逆浸透膜法で濃縮する方法が記載されており、特許文献3には、液状の食品を、正浸透膜法で濃縮する方法が記載されている。また、特許文献4には、液状の食品を、逆浸透膜法と膜蒸留法の組合せで濃縮する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-70448号公報
【特許文献2】米国特許第9622505号明細書
【特許文献3】国際公開第2019/098390号
【特許文献4】特開2016-068006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、逆浸透膜法では、原料液に、濃縮液の浸透圧よりも高い圧力をかける必要があるため、濃縮濃度に限界がある。また逆浸透膜法では、膜に高圧がかかるため、原料液の含有成分が膜に吸着され易く、繰り返し運転すると、膜性能が低下するという問題があった。
【0007】
一方、膜蒸留法では加熱が必要であるため、加熱方法又は温度によっては、濃縮液の劣化、有価物の分解、変色等が起こってしまうという問題があった。さらに、例えば、メイプルシロップ、蜂蜜などの糖液を始め、コーヒー抽出液、茶抽出液、出汁、香料乳化物、食品油乳化物などの液状食料品の製造においては、原料液が本来的に高粘度である。そのため、膜蒸留効率を上昇させるために一定以上の線速を維持した場合、圧力損失が増大し、膜の濡れ、したがって膜の多孔質構造の閉塞による濃縮性能低下につながるという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決し、原料液が高粘度であっても当該原料液中の目的成分を少ない変質で高濃度まで濃縮できる、中空糸膜、膜モジュール、原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための多孔質の中空糸膜であって、
透気度が500L/h・m2・kPa以上であり、
200kPa加圧時の20質量%濃度のエタノール水溶液の透水速度が100mL/h・m2以下であり、かつ
中空糸内径が0.3mm以上2.0mm以下である、中空糸膜。
[2] 前記透気度が1000L/h・m2・kPa以上5000L/h・m2・kPa以下であり、
前記透水速度が50mL/h・m2以下であり、かつ
前記中空糸内径が0.5mm以上1.5mm以下である、上記態様1に記載の中空糸膜。
[3] ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂で構成されている、上記態様1又は2に記載の中空糸膜。
[4] 前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、上記態様1~3のいずれかに記載の中空糸膜。
[5] 粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための膜モジュールであって、
前記膜モジュールは、多孔質の中空糸膜と、前記中空糸膜を収容する略円柱状又は略多角柱状のモジュールケースとを有し、
前記膜モジュールは、前記モジュールケースの軸方向の両端部に、固定用樹脂によって前記中空糸膜が開口端部を有して固定されている膜固定部と、原料液を前記開口端部から前記中空糸膜の内部に流通させるための原料液流通用開口部とを有し、且つ、側面部に、前記膜モジュールの気相部に連通して、気相部内の蒸気を前記膜モジュールの外部に取り出すための蒸気取出口を有し、
前記蒸気取出口の開口面積は、前記中空糸膜の膜面積の1500分の1以上であり、
前記中空糸膜の有効長が中空糸内径の100倍以上1000倍以下であり、
前記原料液流通用開口部の開口面積が中空糸の総開口断面積の0.2倍以上8.0倍以下である、膜モジュール。
[6] 前記蒸気取出口の開口面積は、前記中空糸膜の膜面積の1000分の1以上250分の1以下であり、
前記中空糸膜の有効長が中空糸内径の100倍以上800倍以下であり、
前記原料液流通用開口部の開口面積が中空糸の総開口断面積の0.2倍以上5.0倍以下である、上記態様5に記載の膜モジュール。
[7] 前記モジュールケースが、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、及び塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、並びに/又はステンレス、真鍮、黄銅、及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属で構成されている、上記態様5又は6に記載の膜モジュール。
[8] 前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、上記態様5~7のいずれかに記載の膜モジュール。
[9] 前記中空糸膜が上記態様1~4のいずれかに記載の中空糸膜である、上記態様5~8のいずれかに記載の膜モジュール。
[10] 粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための原料液濃縮システムであって、
前記原料液濃縮システムは、原料液を貯留する原料液タンクと、原料液を加温する加温部と、前記加温部で加温された原料液を濃縮するための、多孔質の中空糸膜を有する膜蒸留部と、原料液を前記原料液タンクから前記加温部、前記膜蒸留部の順に流通させて前記原料液タンクに循環させる循環ポンプとを有し、
前記中空糸膜は、原料液を中空部に受け入れて蒸気を中空糸膜外側に排出するように配置されており、
前記中空糸膜の原料液流入部位において、
原料液温度が30℃以上80℃以下であり、
原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であり、
中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧され、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であり、
中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下である
ように構成されている、原料液濃縮システム。
[11] 粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮して原料液濃縮物を製造する方法であって、前記方法は、
原料液を加温する加温工程と、
前記加温された原料液を多孔質の中空糸膜の中空部に流通させて膜蒸留により濃縮する濃縮工程とを含み、
前記濃縮工程で濃縮された原料液を循環させて濃縮前の原料液に合流させ、
前記中空糸膜の原料液流入部位において、
原料液温度が30℃以上80℃以下であり、
原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であり、
中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧され、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であり、
中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下である、方法。
[12] 前記原料液温度が40℃以上70℃以下である、上記態様11に記載の方法。
[13] 前記中空糸膜外側圧力が-90kPa以下である、上記態様11又は12に記載の方法。
[14] 前記原料液圧力が30kPa以上210kPa以下であり、
前記原料液圧力と前記中空糸膜外側圧力との差圧が300kPa以下である、上記態様11~13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上0.5m/s以下である、上記態様11~14のいずれかに記載の方法。
[16] 前記加温工程において、原料液を90℃以下の加温部に接触させることによって加温する、上記態様11~15のいずれかに記載の方法。
[17] 前記加温部が、50℃以上の蒸気又は50℃以上の温水である熱媒を循環させる熱交換器である、上記態様16に記載の方法。
[18] 前記加温部が廃熱を利用する、上記態様16又は17に記載の方法。
[19] 前記濃縮工程の後に、濃縮された原料液を蒸発器に流通させる追加濃縮工程を更に有し、前記追加濃縮工程における原料液温度が、前記濃縮工程における原料液温度以上である、上記態様11~18のいずれかに記載の方法。
[20] 逆浸透膜で原料液を予備濃縮する予備濃縮工程を更に含み、予備濃縮された原料液を前記濃縮工程に供する、上記態様11~19のいずれかに記載の方法。
[21] 前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が40以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が70以下である、上記態様20に記載の方法。
[22] 前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が35以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が62以下である、上記態様21に記載の方法。
[23] 濾過膜で原料液を濾過して不純物を除去する濾過工程を更に含み、濾過された原料液を前記濃縮工程に供する、上記態様11~22のいずれかに記載の方法。
[24] 前記濾過膜の孔径が20μm以下である、上記態様23に記載の方法。
[25] 前記濾過膜の孔径が1.0μm以下である、上記態様24に記載の方法。
[26] 前記濾過膜がクロスフロー配置される、上記態様23~25のいずれかに記載の方法。
[27] 前記濾過膜を逆洗する逆洗工程を更に有する、上記態様23~26のいずれかに記載の方法。
[28] 前記濃縮工程と前記濾過工程とを互いに独立の原料液流路にて行う、上記態様23~27のいずれかに記載の方法。
[29] 前記原料液が、Brix値2以上70以下のカエデ樹液である、上記態様11~28のいずれかに記載の方法。
[30] 前記中空糸膜の中空部に水を通液することにより、前記中空糸膜に付着した原料液を除去する工程を、1日当たり1回以上行う、上記態様11~29のいずれかに記載の方法。
[31] 前記中空糸膜の中空部にpH5以下又はpH9以上の薬液を通液することにより、前記中空糸膜に付着した膜汚染物質を除去する工程を、1週間当たり1回以上行う、上記態様11~30のいずれかに記載の方法。
[32] 前記濃縮工程を、上記態様1~4のいずれかに記載の中空糸膜、又は上記態様5~9のいずれかに記載の膜モジュールを用いて行う、上記態様11~31のいずれかに記載の方法。
[33] 上記態様10に記載の原料液濃縮システムを用いる、上記態様11~32のいずれかに記載の方法。
[34] カエデ樹液である原料液を、上記態様1~4のいずれかに記載の中空糸膜、上記態様5~9のいずれかに記載の膜モジュール、上記態様10に記載の原料液濃縮システム、又は上記態様11~33のいずれかに記載の原料液濃縮物の製造方法を用いて濃縮することを含む、メイプルシロップの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、原料液が高粘度であっても当該原料液中の目的成分を少ない変質で高濃度まで濃縮できる、中空糸膜、膜モジュール、原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の膜モジュールの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の膜モジュールの一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法を説明するための概念図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態ともいう)について、非限定的な例を挙げて具体的に詳細に説明する。なお本開示の図面において、同一の符号が付された要素は、互いに同様の構成又は機能を有するものであることが意図されている。
【0013】
本発明者は、膜蒸留による原料液の濃縮において、低温運転での蒸気取出し効率(すなわち濃縮効率)が良好であり、且つ原料液の粘度上昇に伴う圧力上昇にも対応可能な膜及び膜モジュールを見出した。低温での濃縮は、原料液中の目的成分の変質、分解、変色等を回避する上で有利である。本発明者はまた、膜蒸留における圧力、線速、前処理方法等を工夫することで、原料液から溶媒を高効率で且つ長期間安定して分離できることを見出した。
【0014】
<中空糸状膜>
本発明の一態様は、
粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための多孔質の中空糸膜であって、
透気度が500L/h・m2・kPa以上であり、
200kPa加圧時の20質量%濃度のエタノール水溶液の透水速度が100mL/h・m2以下であり、かつ
中空糸内径が0.3mm以上2.0mm以下である、中空糸膜を提供する。
【0015】
本実施形態に係る多孔質膜は、膜の一方の面から他方の面まで連通している細孔(連通孔)を持つことが必要である。この連通孔は、ポリマー等の膜材料のネットワークに包含されてよく、枝分かれした孔でも直通孔でもよい。この細孔は、蒸気を通すが、被処理水(液体)を通さないことが必要である。
【0016】
中空糸膜は、疎水性であることがウェッティング防止に望ましい。疎水性を表す指標に水接触角がある。本実施形態では、中空糸膜のいずれの部位も、水接触角が90°以上であることが好ましく、より好ましくは110°以上、更に好ましくは120°以上である。水接触角には特に上限はないが、現実的には150°程度以下とすることが好ましい。水接触角は、液滴法により、25℃で測定される値である。液滴法は、例えば2μLの純水を測定対象物の表面に滴下し、測定対象物と液滴とにより形成される角度を、投影画像からの解析によって数値化する方法である。
【0017】
中空糸膜の孔径及び孔径分布も、ウェッティング抑制との因果関係が強い。本実施形態の中空糸膜の平均孔径は、0.01μm以上1.0μm以下の範囲内であることが好ましく、0.03μm以上0.6μm以下の範囲内であることがより好ましい。平均孔径が0.01μm以上である場合、蒸気の透過抵抗が大きくなり過ぎず、原料液濃縮液の生産速度が遅くならず、1.0μm以下である場合、膜の疎水性を向上させることによるウェッティング抑制効果が大きく好ましい。原料液濃縮液の生産速度とウェッティング抑制との両立の観点から、中空糸膜の孔径分布は狭い方が好ましい。具体的には、平均孔径に対する最大孔径の比が1.2~2.5の範囲内である孔径分布を有することが好ましい。なお中空糸膜の孔径は、ASTM:F316-86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)で測定される値である。
【0018】
原料液濃縮液の生産速度の面から、中空糸膜の空隙率は、50体積%以上85体積%以下であることが好ましい。この値が50体積%以上である場合、原料液濃縮液の生産速度が良好であり、85体積%以下である場合は膜自体の強度が良好であり、長期使用の際に破断等の問題が発生しにくい。
【0019】
本実施形態に係る中空糸膜は、中空糸膜の内側に加熱した原料液を流通し、外側を減圧状態にすることにより、不揮発性の有価物を保持したまま、水を主成分とする揮発成分のみを原料液から取り出すことが出来る。その際、原料液の蒸気圧と減圧側の絶対圧との差である蒸気圧差を駆動力として蒸気が移動する。低温での膜蒸留には、わずかな蒸気圧差でも蒸気を効率よく通すことができる膜であることが好ましい。また、高粘度原料液の低温濃縮においては、膜間差圧が上昇しやすく、膜の濡れが生じやすいため、液体侵入圧(LEP:Liquid Entry Pressure)の高い膜であることが好ましい。
【0020】
原料液の濃縮過程においては、濃縮の程度(濃縮倍率)が高くなるにつれて、溶液の粘度が徐々に高くなる。従来の膜蒸留法の場合、溶液の粘度が3cP以上になると、原料液の流路への通液に伴う圧力損失が増大するため、効率よく濃縮できない。また、このような状態で長期的に運転すると、膜の濡れが生じてしまい濃縮性能が経時的に低下する。さらに、溶液の粘度が600cPを超えると、送液ポンプによる送液が困難となる。粘度が3cP以上600cP以下である原料液としては、種々の糖液、例えば、Brix値(すなわち、Brix計で測定される糖度の値)2以上70以下のカエデ樹液(すなわち、メイプルシロップの原料)や白樺樹液(すなわち、バーチシロップの原料)、ココナッツ液体胚乳、蜂蜜などの糖液を始め、コーヒー抽出液、茶抽出液、出汁、香料乳化物、食品油乳化物などの液状食料品が挙げられる。また、逆浸透膜で濃縮された廃水や正浸透膜濃縮システムで用いられる誘導溶液などの無機イオンを含む水溶液などの工業プロセス液が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る中空糸膜は、粘度が3cP以上600cP以下である原料液を濃縮対象とするのに特に適している。具体的には、中空糸膜の透気度は、一態様において、500L/h・m2・kPa以上であり、好ましくは、1000L/h・m2・kPa以上、又は2000L/h・m2・kPa以上、又は2500L/h・m2・kPa以上である。透気度は、好ましくは、5000L/h・m2・kPa以下である。透気度が500L/h・m2・kPa以上である場合、蒸気移動に対する膜抵抗が大きくなり過ぎず、低温条件のわずかな蒸気圧差での濃縮運転が容易である。また、透気度が5000L/h・m2・kPa以下である場合、透気度が大きくなり過ぎず膜の耐圧性が良好である。
【0022】
中空糸膜は、25℃で、20質量%濃度のエタノール(EtOH)水溶液を中空糸内部(すなわち中空部)に満たし、200kPaに加圧した際に中空糸外側に透過するEtOH水溶液の透水速度が、一態様において、100mL/h・m2以下、好ましくは50mL/h・m2以下である。透水速度が上記範囲である場合、膜が濡れ難いため、原料液の濃度上昇に伴う膜間差圧の上昇により膜が濡れて濃縮性能が低下するという不都合が良好に回避される。透水速度は膜の濡れ抑制の観点からは低い方が好ましいが、良好な膜蒸留性能を得る観点から、一態様において、0.1mL/h・m2以上、又は1.0mL/h・m2以上であってよい。
【0023】
中空糸膜の内径は、一態様において、0.3mm以上2.0mm以下であり、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。内径が0.3mm以上である場合、原料液の濃度上昇に伴う圧力損失が増大しても送液が困難にならず、内径が2.0mm以下である場合、膜面積あたりの中空糸内部体積が大きくなり過ぎず濃縮システムのデッドボリュームが大きくなり過ぎない。
【0024】
本実施形態に係る中空糸膜は、主たる構成成分として疎水性高分子を含むことが好ましい。疎水性高分子は、水に対する親和性が低い高分子である。この観点から、中空糸膜は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂で構成されることが好ましい。疎水性、製膜性、機械的耐久性、及び熱的耐久性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンがより好ましい。なお、これらの高分子の重合後又はこれらから膜を形成した後の精練によって、可塑剤等の不純物は除去されていることがより好ましい。
【0025】
中空糸膜の製造方法としては、溶融状態の樹脂膜を冷却することにより相分離を起こして多孔質層を形成させる熱誘起相分離法、又は溶液状態の樹脂膜を非溶剤と接触させることで相分離を起こして多孔質層を形成させる乾湿式法(非溶媒相分離法)を好適に用いることができる。
【0026】
高粘度原料液を流通するための耐圧性、及び効率的な蒸気移動の観点から、熱誘起相分離法又は非溶媒相分離法により得られた多孔質膜に、疎水性ポリマーのコーティングを適用することが好ましい。疎水性ポリマーを、多孔質膜の原料液側(液相部側)表面、蒸気透過側(気相部側)表面、及び膜内部(細孔内の壁面)のうちの全部又は一部に疎水性の被膜を形成することにより、膜に撥水性を与えるか、又は膜の撥水性を向上させてよい。
【0027】
中空糸膜にコーティングされる疎水性ポリマーとしては、例えば、以下が挙げられる:
(ア)シランカップリング剤と反応させることで、架橋構造を形成するシリコーン系ポリマー、及びポリマーゲル;
(イ)シロキサン結合を持つ樹脂、例えば、ジメチルシリコーンゲル、メチルフェニルシリコーンゲル、アミノ基等の有機官能基が導入された反応性変性シリコーンゲル、フロロアルキル変性を行ったシリコーンゲル;
(ウ)側鎖に(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等を持つポリマーを溶剤に溶かしたもの;
(エ)側鎖にフルオロアルキル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等を持つ疎水性ポリマー薄膜;
(オ)側鎖にフルオロアルキル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等を持つ撥水剤、等。
疎水性ポリマーとしては、特に、炭素数1~12の(パー)フルオロアルキル基、又は(パー)フルオロポリエーテル基を有する(メタ)アクリレート系モノマー、及びビニル系モノマーから選択される1種以上の重合体が、好ましい。
【0028】
<膜モジュール>
本発明の一態様は、粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための膜モジュールを提供する。
【0029】
図1及び2は、本実施形態の膜モジュールの一例を示す概略図である。
図1及び2を参照し、一態様において、膜モジュール10は、多孔質の中空糸膜1と、当該中空糸膜1を収容する略円柱状又は略多角柱状のモジュールケース2とを有する。中空糸膜1は、一態様において、前述した本実施形態に係る中空糸膜であってよい。ここで、「略円柱状」とは、例えば、円柱状、楕円柱状等、及びこれらに類似する形状を包含する。「略多角柱状」とは、例えば、頂点の数が3~100の多角形を底面とする多角柱状、及びこれらに類似する形状を包含する。「これらに類似する形状」とは、円柱、多角柱等の角がカットされている形状、角が丸みを帯びている形状、軸が屈曲又は湾曲している形状、及びこれらの組み合わせ等を含む概念である。膜モジュールの形状としては、円柱状、楕円柱状、頂点の数が4~12の多角形を底面とする多角柱状、及びこれらに類似する形状が好ましく、円柱状、楕円柱状、4角柱状、及びこれらに類似する形状がより好ましい。
【0030】
モジュールケース2は、軸方向の両端部に、固定用樹脂によって中空糸膜1が開口端部を有して固定されている膜固定部21と、原料液を上記開口端部から中空糸膜1の内部に流通させるための原料液流通用開口部22とを有してよい。モジュールケース2は、側面部に、膜モジュール10の気相部に連通して、気相部内の蒸気を膜モジュール10の外部に取り出すための蒸気取出口23を有してよい。
【0031】
膜モジュールは、カートリッジとハウジングとで構成されていてもよい。その場合は、蒸気取出口を有するハウジングに対し、固定用樹脂によって中空糸膜が固定されたカートリッジをセットすることにより、膜モジュールとして使用することができる。膜モジュール内に固定された中空糸膜束は、ネット、不織布、カートリッジケース等から選択される1種以上の部材を、任意的に有していてもよい。
【0032】
〈膜固定部〉
膜固定部21において中空糸膜を接着固定する固定用樹脂は、機械的強度が良好で、かつ例えば100℃程度までの耐熱性を有することが望ましい。固定用樹脂として使用できる樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂、熱硬化性のウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の観点ではエポキシ樹脂が好ましいが、ハンドリング性はウレタン樹脂が好ましい。
【0033】
膜固定部を、膜モジュールの軸方向に垂直な面で切断した断面積基準での中空糸膜の充填率は、膜モジュールの小型化の観点から、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。また、固定用樹脂による中空糸の固定を均一に行うため、この充填率は、好ましくは74%以下、より好ましくは70%以下である。中空糸膜の充填率(%)は、(中空糸膜の断面積の合計)÷(膜固定部の断面積)×100で計算される。なお中空糸膜の断面積とは、中空糸の外周で囲まれる部分の面積をいい、中空部の面積を含む概念である。
【0034】
〈膜有効長〉
膜モジュール10における中空糸膜1の有効長は、当該膜モジュールの軸方向両端部にそれぞれ配置された2つの膜固定部間の最短距離として定義される。
【0035】
高粘度原料液を中空糸膜内部に流通させる際、層流領域における圧力損失は有効長に比例し、内径の2乗に反比例する。中空糸膜の有効長は、中空糸膜全長当たりの有効長比率を高める(すなわち膜をより有効的に使用する)観点から、好ましくは、中空糸膜内径の100倍以上、又は250倍以上、又は500倍以上であり、圧力損失を低減するため、好ましくは、中空糸膜内径の1000倍以下、又は800倍以下である。
【0036】
〈蒸気取出口〉
膜モジュール10における蒸気取出口23は、膜モジュールの気相部に連通し、気相部の蒸気を膜モジュールの外部に取り出すことができる。膜モジュールの外部に取り出された蒸気は、例えば後述の蒸気凝縮部によって凝縮され、回収されてよい。
【0037】
減圧下での蒸気流速増大に伴う圧力損失を防ぐため、蒸気取出口は、蒸気流速を所望の値以下に留めるのに十分な面積を有することが好ましい。この観点から、モジュールの蒸気取出口23の開口面積は、中空糸膜1の膜面積の1500分の1以上が好ましく、1000分の1以上であることがより好ましい。モジュールケース2本体が複数の蒸気取出口23を有する場合、蒸気取出口の開口面積は開口部全部の合計面積として評価される。蒸気取出口の大きさについては制限がないが、前述の通り、膜モジュールは略円柱状又は略多角柱状の形状を有していることから、蒸気取出口は膜モジュールの機械的強度を損なわない範囲であることがより好ましい。この観点から、膜モジュール10の蒸気取出口23の開口面積は、中空糸膜1の膜面積の250分の1以下であることがより好ましい。
【0038】
〈原料液流通用開口部〉
膜モジュール10における原料液流通用開口部22は、膜モジュール10の軸方向両端部に配置された膜固定部21の外側に設置される。膜モジュール10は、原料液流通用開口部22を介して原料液濃縮システムの原料液流路に接続され、原料液を中空糸膜内部に流通することが出来る。
【0039】
濃縮対象の高粘度原料液を流通させた際の圧力損失増大を防ぐため、原料液流通用開口部22の開口面積は、中空糸の総開口断面積の0.2倍以上であることが好ましく、また、原料液流路配管内のデッドスペースを小さくするため、中空糸の総開口断面積の8.0倍以下であることが好ましく、5.0倍以下であることがより好ましい。
【0040】
〈モジュールケース〉
上記したとおり、本実施形態における膜蒸留は、中空糸膜の気相部を減圧状態にして運転されるため、モジュールケース2にはその軸方向に圧縮応力がかかる。この圧縮応力による膜モジュールの寸法変化を抑制するため、膜モジュールは、軸方向の両端部以外の部分がモジュールケースで覆われていてもよい。モジュールケースは、単一又は複数の部材で構成されてよく、例えば、本体部と、当該本体部に取付けられた、原料液流通用開口部を有するキャップ部とを有する構成等、所望に応じた任意の部材構成を有してよい。モジュールケースは、原料液から発生した蒸気の流れを妨げないように、十分な面積を有する蒸気取出口23を有している。モジュールケースは、例えば樹脂及び/又は金属で構成されていてよい。蒸気取出口23を取り付ける際の加工性及び圧縮応力への耐久性の観点から、モジュールケースは、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、及び塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、並びに/又はステンレス、真鍮、黄銅、及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属で構成されていることが好ましい。
【0041】
〈原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法〉
本発明の一態様は、粘度が3cP以上600cP以下である原料液を膜蒸留によって濃縮するための、原料液濃縮システム、及び原料液濃縮方法(すなわち原料液濃縮物の製造方法)を提供する。本実施形態の原料液濃縮方法は、一態様において本実施形態の原料液濃縮システムを用いて実施でき、また当該方法の濃縮工程は、一態様において、本実施形態の中空糸膜又は膜モジュールを用いて実施できる。
【0042】
図3及び4は、本実施形態の原料液濃縮システム及び原料液濃縮方法を説明するための概念図である。
図3及び4を参照し、本実施形態に係る原料液濃縮システム100は、原料液を貯留する原料液タンク101と、原料液を加温する加温部103と、当該加温部103で加温された原料液を濃縮するための、多孔質の中空糸膜を有する膜蒸留部104と、原料液を原料液タンク101から加温部103、膜蒸留部104の順に流通させて原料液ポンプ101に循環させる循環ポンプ102(例えばギアポンプ)とを有する。上記中空糸膜は、原料液を中空部に受け入れて蒸気を中空糸膜外側に排出するように配置されている。膜蒸留部104は、原料液を流通する液相部と蒸気を取り出すための気相部とを隔て、且つ気相部を減圧状態にできる構造を有している。一態様において、膜蒸留部104は、本実施形態の膜モジュール10を有してよい。また一態様において、膜蒸留部104が有する中空糸膜は、前述の本実施形態に係る中空糸膜であってよい。
【0043】
原料液濃縮システム100は、中空糸膜の原料液流入部位において、一態様において、原料液温度が30℃以上80℃以下であるように構成されており、一態様において、原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であるように構成されており、一態様において、中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧されているように構成されており、原料液圧力と中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であるように構成されており、一態様において、中空糸膜内部において原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下であるように構成されている。
【0044】
図3及び4を参照し、本実施形態に係る原料液濃縮物の製造方法は、例えば加温部103で、原料液を加温する工程と、加温された原料液を、例えば膜蒸留部104で、多孔質の中空糸膜の中空部に流通させて膜蒸留により濃縮する濃縮工程とを含む。当該方法においては、濃縮工程で濃縮された原料液を循環させて濃縮前の原料液、例えば原料液タンク101の原料液に、合流させる。
【0045】
本実施形態の原料液濃縮物の製造方法においては、中空糸膜の原料液流入部位において、一態様において、原料液温度が30℃以上80℃以下であり、一態様において、原料液圧力が10kPa以上300kPa以下であり、一態様において、中空糸膜外側圧力が-80kPa以下に減圧され、一態様において、原料液圧力と中空糸膜外側圧力との差圧が395kPa以下であり、一態様において、中空糸膜内部における原料液線速が0.05m/s以上1.0m/s以下である。
【0046】
原料液濃縮システム100は、膜蒸留部104で生じた蒸気を凝縮する蒸気凝縮部105を有してよい。一態様において、蒸気凝縮部105は蒸気配管を介して膜モジュール10の蒸気取出口23に接続される。蒸気配管内には、原料液が凝縮水に混入することを防ぐためにデミスターを設置してもよい。
【0047】
原料液濃縮システム100は、上記以外に、例えば、凝縮液タンク106、抜き出しポンプ107、減圧装置108、流量調整器(図示せず)、圧力調整器(図示せず)等を更に備えていてよい。また、原料液濃縮システム100は、加温部103に加え、原料液タンク101を含む原料液流路及び蒸気凝縮部を保温できる構造をさらに備えていてよい。
【0048】
蒸気凝縮部105は、膜蒸留部104(例えば、膜モジュール10の蒸気取出口23)と連通する気相部と、膜蒸留部104(例えば、膜モジュール10の蒸気取出口23)から拡散してきた蒸気を凝集するための冷却体とを有していてよい。冷却体は、内部に冷却媒(例えば、冷却水)が流通することによって低温が維持されている。冷却体の構造は、例えば、管が集まった構造でもよいし、板が重なった構造でもよい。冷却体部が、蒸気凝縮部105の気相部に拡散してきた蒸気に接触すれば、該蒸気は冷却、凝縮されて、蒸留水(透過水)となる。これを凝集液タンク106に貯留して、回収することにより、蒸留水を得ることができる。
【0049】
膜蒸留部104では、中空糸膜の片側を減圧状態にすることにより、原料液の蒸気圧と減圧部の絶対圧との差である蒸気圧差を駆動力として、原料液から蒸気を取り出すことが出来る。原料液が高温であると、蒸気圧差が大きくなり濃縮効率が良好になる。一方で、濃縮液の劣化、有価物の分解又は変色を抑える観点から、原料液は所定の温度以下に保つことが有利である。すなわち、濃縮液の品質を保ちながら濃縮効率をよくするためには、膜蒸留部104の中空糸膜の原料液流入部位において、原料液温度が30℃以上80℃以下であることが好ましく、40℃以上70℃以下であることがより好ましい。上記の上限温度以下であれば品質の保持が容易であり、上記の下限温度以上であれば原料液の蒸気圧が小さくなりすぎず濃縮が良好に進行する。
【0050】
膜蒸留部104の気相部の圧力を下げると、原料液と気相部との蒸気圧差が大きくなるため、濃縮効率が向上する。低温で膜蒸留を行う場合は、気相部の圧力を所定値以下にすることが有利である。具体的には、大気圧を0kPaとしたときに、気相部の圧力(すなわち、中空糸膜外側圧力)が、-80kPa以下であることが好ましく、-90kPa以下がより好ましい。上記圧力は、低い方が好ましいが、プロセス制御を容易にする観点から、一態様において、-99kPa以上、又は-97kPa以上であってよい。
【0051】
膜蒸留部104に原料液を流通させる際、中空糸膜全体に均一に原料液を流通させるためには、所定値以上の原料液圧力が有利である。具体的には、原料液圧力は、10kPa以上が好ましく、30kPa以上がより好ましい。原料液圧力は、中空糸膜及びモジュールケースの耐圧性を考慮し、所定値以下に保つことが有利である。具体的には、300kPa以下、又は210kPa以下が好ましい。
【0052】
中空糸膜を用いた膜蒸留では、液相部と気相部との圧力差である膜間差圧が液体侵入圧以上になった場合、原料液が液相部から気相部に移動してしまい、原料液のロスにつながる。そのため、膜蒸留部104では、膜間差圧を液体侵入圧以下に保つことが有利である。具体的には、液相部と気相部との圧力の差(すなわち、原料液圧力と中空糸膜外側圧力との差圧)は、好ましくは、395kPa以下、又は380kPa以下、又は300kPa以下である。上記差圧は、良好な濃縮効率を得る観点から、好ましくは、50kPa以上、又は80kPa以上、又は90kPa以上である。
【0053】
膜蒸留においては、原料液中の水分が蒸発する膜表面を直接加熱することが難しい。そのため、蒸発に必要な潜熱を供給するために原料液の線速を所定値以上に保つことが有利である。具体的には、中空糸膜内部における原料液線速は、0.05m/s以上であることが好ましい。一方、原料液の線速上昇に伴い液相部の圧力も上昇するため、線速は所定値以下に抑えることが有利である。具体的には、中空糸膜内部における原料液線速は、1.0m/s以下が好ましく、0.5m/s以下がより好ましい。
【0054】
〈原料液の加温〉
加温工程においては、原料液の加熱による分解又は変性を抑える観点で、原料液を90℃以下の加温部に接触させることによって加温することが好ましい。加温工程に有用な、原料液を加温するための加温部103は、原料液流路の一部を加温することにより原料液を加温する構造を有してよい。原料液の加温方法としては、熱交換器により熱媒から原料液に熱量を供給することにより原料液を加温する方法、配管部分を電熱線、炎等によって加熱する方法を用いることが出来る。原料液流路内で最も高温になるのは加温部の配管表面であることから、原料液の加熱による分解又は変性を抑える観点で、加温部103の表面温度(すなわち、原料液と接触する部位の温度)は90℃以下であることが好ましい。
【0055】
加温部103の表面温度をできるだけ低くするためには、熱交換器により熱媒から原料液に熱量を供給することにより原料液を加温する方法がより好ましく、熱媒として温水又は蒸気(例えば大気圧以下に減圧した蒸気)を用いることがより好ましい。熱利用効率の観点から、温水又は蒸気の温度は、50℃以上であることが好ましい。温水又は蒸気の温度は、原料液中の目的成分の変質、分解、変色等を回避する観点から、好ましくは100℃以下である。また、濃縮エネルギーコスト削減の観点から、濃縮工程以外の工程で生じた廃熱を利用して原料液を加温してもよい。
【0056】
膜蒸留においては、原料液中の溶質による蒸気圧降下も、膜蒸留の効率に影響する。濃縮にともない溶質の濃度が上昇すると蒸気圧降下により原料液の蒸気圧が大きく低下するため、液相部と気相部の蒸気圧差が小さくなり、膜蒸留の効率が低下する。原料液の加温を抑えるという観点では、原料液の濃度を一定以下にすることが好ましい。糖液を例にとると、膜蒸留による濃縮後のBrix値が70以下であることが好ましく、より好ましくはBrix値67以下、または62以下である。
【0057】
〈前処理〉
本実施形態の原料液濃縮方法では、濃縮方法全体のエネルギー効率を向上させるために、濃縮工程の前に、予備濃縮、不純物(例えば、樹液中の繊維分等)除去等の目的で前処理を行ってもよい。
図4を参照し、一態様においては、原料液タンク101よりも上流の予備タンク109に原料液をまず供給し、当該原料液を送液ポンプ110経由で前処理部111に導入して前処理した後、原料液ポンプ101に供給してよい。前処理部111は、不純物除去のための濾過膜、予備濃縮のための逆浸透膜、これらの組合せ、等であってよい。一態様においては、濃縮工程と、前処理工程としての濾過工程及び/又は予備濃縮工程とを互いに独立の原料液流路にて行う。
【0058】
より具体的には、一態様において、
図4に示すように、膜蒸留部104で濃縮された原料液は、前処理部111を経ずに原料液タンク101に循環させてよい。すなわち、一態様においては、濃縮工程で濃縮された原料液を循環させて、前処理工程の後で濃縮前の原料液に合流させてよい(すなわち、前処理部を、膜蒸留部と直列に配置してよい)。
【0059】
一方、別の一態様において、原料液タンク101から膜蒸留部104を経て原料タンク101に戻る原料液循環経路とは別に、原料液タンク101から前処理部111を経て原料液タンク101に原料液を循環させる前処理経路を設けてもよい(すなわち、前処理部を、膜蒸留部と並列に配置してよい)。このような前処理様式は、原料液循環流路における原液循環流量を保ちながら、原料液濃縮に伴う濃度上昇により新たに生成する不純物を経時的に取り除くことが出来る点で有利である。
【0060】
〈濾過膜〉
一態様において、前処理部は濾過膜を有してよい。原料液中には、食物繊維をはじめとする不溶成分が存在する可能性が高く、そのまま膜蒸留を行うと液相部の過剰な圧力上昇、擦過による膜の破損、膜表面での不溶成分堆積による膜つまりなどの原因となる。そのため、膜蒸留をより効率的に実施するために、不溶成分を除去することが好ましい。不溶成分除去には膜濾過法が適している。一態様においては、原料液中の不溶成分を効率的に除去する観点から、孔径20μm以下の濾過膜が好ましい。濾過膜の孔径は、1.0μm以下であることがより好ましい。濾過膜の孔径は、濾過効率の観点から、例えば、0.1μm以上、又は0.3μm以上であってよい。
【0061】
(クロスフロー濾過)
上記の膜濾過による不溶成分除去を、クロスフロー濾過方式で行うことは、濾過膜の目詰まり防止の観点から好ましい。クロスフロー濾過では、平膜又は中空糸膜を有するクロスフロー濾過膜モジュールを使用できる。一態様において、濾過膜モジュールは、濾過対象液の流路側に流入口と流出口とを合わせて2つ以上有し、透過液の流路側に1つ以上の流出口を有する。このような濾過膜モジュールに濾過対象液を循環させながら圧力をかけることにより、不溶成分の膜表面への堆積を防ぎながら透過液を得ることが出来る。濾過対象液の循環流量及び透過液の流量については特に制限はないが、効率的な濾過を実施する観点から、濾過対象液の循環流量は透過液の流量の3倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0062】
〈濾過膜の逆洗〉
濾過膜による不溶成分除去においては、濾過膜表面に堆積した不溶成分を除去して膜性能を維持することを目的として、定期的に逆洗を実施してもよい。逆洗に使用する流体として、水、膜濾過工程での透過液、膜蒸留で得られた凝縮水等を例示できる。また、空気を用いた逆洗方法である、エアバックウォッシュ方式を用いてもよい。逆洗を実施するタイミングとしては、濾過膜の膜間差圧の上昇、透過液流量の減少等から判断できる。また、予め設定した周期(例えば1時間に1回)で逆洗を実施してもよい。
【0063】
(逆浸透膜)
逆浸透膜は特に限定されないが、好ましい例は酢酸セルロース製の中空糸膜や、ポリアミドを含む分離層を有する複合膜である。逆浸透膜は原料液の予備濃縮に用いられ、原料液を逆浸透膜の分離層側に配置し加圧することにより、原料液中の水分のみを透過させ、除去することが出来る。この場合、原料液の濃縮に伴い原料液中の溶質濃度が飽和濃度を超え、不溶成分として析出することがある。また、前処理部としては、逆浸透膜と前述の濾過膜とを併用してもよい。この場合、原料液を、例えば、逆浸透膜、濾過膜の順に流通させる(すなわち、逆浸透膜を濾過膜よりも上流側に配置する)ことが、不溶成分の除去効率向上の観点からより好ましい。
【0064】
一般的に、逆浸透膜は、原料液をその浸透圧以上に加圧することにより、水のみを選択的に膜を透過させることができる。逆浸透膜を利用した予備濃縮工程では、原料液の濃縮に伴い原料液の浸透圧が上昇するため、原料液を高濃度まで濃縮する場合はより高圧に加圧する必要がある。逆浸透膜によるショ糖水溶液の濃縮を例にとると、参考文献(Journal of Food Engineering 155 (2015) 10-15)によると、2モル/kg-H2O(すなわちBrix値40.6)のショ糖水溶液の浸透圧はおよそ67気圧であり、3モル/kg-H2O(すなわちBrix値50.7)のショ糖水溶液の浸透圧はおよそ100気圧である。
【0065】
また、原料液が高粘度の場合は、膜表面の濃度分極の影響が大きくなるため、上記浸透圧よりも高い圧力が必要になる。上記から、逆浸透膜を用いて糖液を濃縮する場合、Brix値40以上に濃縮することは困難であることが予想される。前記予備濃縮工程においては、効率の観点から、予備濃縮後の原料液の濃度は、好ましくは、Brix値40以下、又はBrix値35以下、又はBrix値30以下である。
【0066】
〈中空糸膜の洗浄〉
本実施形態における原料液濃縮方法では、原料液の濃縮に伴い析出した不溶成分の除去、原料液切り替え時の原料液混入防止等、特に中空糸膜に付着した原料液の除去を目的として、膜モジュールの液相部を定期的に洗浄することができる。具体的には、中空糸膜の中空部に1日1回以上水を通液して洗浄することが好ましい。また、水に溶けにくい成分の除去、システム内部の殺菌等、特に、中空糸膜に付着した膜汚染物質の除去を目的として、薬液を用いた洗浄を週に1回以上行うことも好ましい。洗浄に用いる水は、飲料水、逆浸透膜の透過水、本実施形態の原料液濃縮システムで得られた凝縮水等を使用してよい。洗浄に用いる薬液は、pH5以下の薬液(例えば、塩酸、クエン酸水溶液等の酸性水溶液)、又は、pH9以上の薬液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液)を用いることが出来る。また、酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを順番に使用することにより、無機成分と有機成分との両方を効率的に除去することが出来る。
【0067】
〈蒸発による追加濃縮〉
本実施形態の原料液濃縮方法では、濃縮した原料液の殺菌、加熱による風味付け等を目的として、濃縮方法全体のエネルギー効率を向上させるために、濃縮工程の後に蒸発器(図示せず)による追加濃縮工程を含めることが出来る。目的とする殺菌又は風味付けの効果を得るために、追加濃縮工程では、濃縮された原料液を、膜蒸留による濃縮工程の原料液温度以上に加温することが好ましい。一態様において、蒸発器は前述の濾過膜よりも下流に配置されてよい。
【0068】
〈メイプルシロップの製造方法〉
本発明の一態様は、カエデ樹液である原料液を、前述した本実施形態の中空糸膜、前述した本実施形態の膜モジュール、前述した本実施形態の原料液濃縮システム、又は前述した本実施形態の原料液濃縮物の製造方法を用いて濃縮することを含む、メイプルシロップの製造方法を提供する。本発明の一態様によれば、当該方法を用いることにより、色調及び香味に優れるメイプルシロップを製造できる。
【実施例0069】
以下、実施例を挙げて本発明の例示の態様をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
《中空糸膜の諸物性の測定》
[外径、内径、及び膜厚]
中空糸膜の外径及び内径については、中空糸膜を、その長手方向に垂直な方向にカミソリで薄く切り、顕微鏡を用いて断面の外径及び内径をそれぞれ測定した。膜厚は下記数式(1)により算出した。
膜厚(mm)=[外径(mm)-内径(mm)]/2 (1)
【0071】
[平均孔径]
中空糸膜の平均孔径は、ASTM:F316-86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)により測定した。
測定は、約10cm長の中空糸膜に対し、液体としてエタノールを用いて、25℃、昇圧速度0.01atm/秒の標準測定条件において行った。
平均孔径は、下記数式(2)により求めた。
平均孔径[μm]=2,860×(使用液体の表面張力[dyne/cm])/(ハーフドライ空気圧力[Pa]) (2)
ここで、エタノールの25℃における表面張力としては、21.97dyne/cmの値を用いた。
【0072】
[最大孔径]
中空糸膜の最大孔径は、バブルポイント法を用いて測定した。長さ8cmの中空糸膜の一方の末端を閉塞し、他方の末端に圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。この状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、中空糸膜をエタノールに浸漬した。このとき、エタノールがライン内に逆流しないように、ラインに極僅かに窒素で圧力をかけた状態として、中空糸膜をエタノール中に浸漬した。中空糸膜を浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させ、中空糸膜の外壁から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力Pを記録した。この値から、中空糸膜の最大孔径d[μm]を、下記数式(3):
d=C1γ/P (3)
{式中、C1は定数、γは表面張力[dyne/cm]、Pは圧力[Pa]である。}により算出した。エタノールを浸漬液としたときの定数C1と表面張力γとの積の値は、C1γ=0.0879[N/m]とした。
【0073】
[空隙率]
中空糸膜の空隙率は、下記に記載の方法により求めた。
中空糸膜を一定長さに切り、その重量を測定し、空隙率を下記数式(4):
空隙率(%)=100-[中空糸膜の質量(g)×100]/[ポリマー密度(g/cm3)×{(外径(cm)/2)2-(内径(cm)/2)2}×3.14×長さ(cm)] (4)
により求めた。
【0074】
[透気度]
ISO 9237に準拠して測定した。膜モジュールに乾燥空気を流入させ、膜モジュールの入口と出口との圧力(kPa)、及び膜モジュール出口での乾燥空気流量(L/h)を測定した。乾燥空気流量(L/h)を、上記入口と上記出口との差圧(kPa)及び膜面積で除して透気度(L/m2・h・kPa)を算出した。
【0075】
[原料液の粘度]
原料液の粘度は、Thermo Scientific社製の粘度計(形式名「HAAKE ViscoTester iQ」による溶液粘度として測定した。
【0076】
[Brix値]
糖度計(アタゴ社 PAL-1)を用いて測定した。なお、糖度計は、測定前に蒸留水で0%に補正した。
【0077】
[可視光透過度]
濃縮液を限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ-0.5、PLGCウルトラセル-10メンブレン、10kDa、UFC501008)を用いろ過した後、ろ液について分光光度計用のスクリューキャップ付き二面透明石英セル(ジーエルサイエンス株式会社 S15-UV-10、光路長10mm、光路幅10mm)に試料を十分量入れ、UV/visスペクトルの測定により可視光透過度を求めた。ブランクはグリセリンを用いた。UV/visの分析条件は、下記のとおりである。
-UV/vis条件-
UV/vis装置:日本分光 JASCO V-770
測定モード:Abs
測定波長 : 800~200nm
データ取込間隔:0.5nm
光源:D2、WI
光源切換:340nm
補正:ベースライン
【0078】
《膜蒸留の実施》
実施例1~21及び比較例2~6における膜蒸留は、
図1及び2に準ずる構成の膜モジュールを膜蒸留部として設けた、
図3又は4に準ずる構成の原料液濃縮システムによって行った。
【0079】
膜蒸留部としての膜モジュールは、各実施例及び比較例に記載のとおりの構成とし、蒸気凝縮部の出口は、配管によって凝縮液タンクに連結した。そして、凝縮液タンクの気相部を、圧力調整器を介して減圧装置と連結することにより、系内の圧力調整を行った。
【0080】
原料液流路内には、熱交換器を用いた加温部を設け、その熱媒として温水を用いた。循環ポンプとしてギアポンプを用いて原料液を原料液流路中に循環させ、膜モジュールの出口に設けた背圧弁を用いて原料液の圧力を調整した。蒸気凝縮部には10℃の冷却水(CW)を10L/minの流量で循環させた。
【0081】
[Fluxの測定]
膜蒸留を行い、重量計若しくは積算流量計を用いて、凝縮液タンクに流入した蒸留水の重量を測定し、下記数式(5):
Flux=運転時間1時間の膜蒸留で得られた蒸留水の重さ÷膜面積÷運転時間(1時間) (5)
に従ってFluxを算出した。
以下の基準で評価した。
A:10.0kg/m2・h 以上
B:5.0kg/m2・h 以上 10.0kg/m2・h未満
C:1.0kg/m2・h 以上 5.0kg/m2・h 未満
D:1.0kg/m2・h 未満
【0082】
[運転中の原料液圧力の測定]
運転中の原料液圧力は、膜モジュールの原料液流入口における原料液圧力を測定した。
【0083】
[運転中の最大膜間差圧の測定]
運転中の最大膜間差圧は、濃縮試験における原料液圧力と中空糸膜外側圧力の差圧の最大値を測定した。
【0084】
[繰り返し運転性]
以下の基準で評価した。
A:運転後の透気度が運転前の90%以上
B:運転後の透気度が運転前の75%以上90%未満
C:運転後の透気度が運転前の60%以上75%未満
D:運転後の透気度が運転前の60%未満
【0085】
[着色]
以下の基準で評価した。
A:560nmの可視光透過度が85%以上
B:560nmの可視光透過度が80%以上85%未満
C:560nmの可視光透過度が75%以上80%未満
D:560nmの可視光透過度が75%未満
【0086】
[風味]
得られた原料液濃縮物をパネラー5人の賞味に供し、以下の2種類の基準により風味を評価した。
A:パネラー5人全員が原料本来の風味が強いと判断した。
B:原料本来の風味が強いと判断したパネラーが1人以上4人以下であった。
C:原料本来の風味が強いと判断したパネラーが1人もいなかった。
【0087】
《実施例1》
[中空糸膜の疎水化]
内径0.35mm、外径0.64mm、ASTM-F316-86から求めた平均孔径0.21μm、最大孔径0.29μm、空隙率72%のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜3700本について、フロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FS-392B(0.5質量%)に一度完全に浸漬した後に、引き上げ、乾燥を行うことにより、中空糸膜の内側表面及び外側表面に疎水性ポリマーを塗布した。
【0088】
[中空糸膜モジュールの作製]
膜モジュールの作製においては、固定用樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をモジュールケース内に接着固定することで、軸方向両端に膜固定部を形成した。膜固定部は、2つの膜固定部の間の最短距離(すなわち、中空糸膜の有効長)が約300mmとなるように構成した。モジュールケースとしては、内径55mm、外径60mmのポリスルホン製の円柱状ケースを使用した。本ケースには、外周側面に、1.5S配管による面積0.0010m2の蒸気取出口が1つ設けられている。また、本ケースの軸方向両端には、膜モジュールを原料液濃縮システムの原料液流路に接続するためのキャップを装着した。キャップには、2.5S、0.0028m2の開口部を原料液流通用開口部として設けた。得られた膜モジュールの透気度は、600L/h・m2・kPaであり、200kPa加圧時の20質量%濃度のEtOH水溶液の透水速度は80mL/h・m2であった。
【0089】
上記[膜モジュールの作製]で得られた膜モジュールを使用して、
図3に準ずる構成の原料液濃縮システムを組み立て、表1~3の条件に従い、メイプルウォーター140kgを膜蒸留によって濃縮した。未濾過メイプルウォーター(Brix2.0、粘度3.2cP、以下同様)をBrix70(粘度370cP)まで濃縮するまでにかかった時間は76.4時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は108.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは1.5kg/m
2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の70%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は79%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。
【0090】
以上の結果から、実施例1の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も良好であることが検証された。
【0091】
《実施例2》
撥水処理後の透気度が1200L/h・m2・kPaであること以外は実施例1と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は38.2時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は108.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは3.0kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の72%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は81%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例2の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も良好であることが検証された。
【0092】
《実施例3》
撥水処理後の透気度が4800L/h・m2・kPaであること以外は実施例1と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は13.0時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は108.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは8.8kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の71%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は83%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例3の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も良好であることが検証された。
【0093】
《実施例4》
200kPa加圧時の20質量%濃度のEtOH水溶液の透水速度は40mL/h・m2であった。以外は実施例3と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は12.6時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は108.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは9.1kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の85%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は81%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例4の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0094】
《実施例5》
内径0.68mm、外径1.25mmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜1000本を用い、膜固定部間の最短距離が約500mmとなるように固定して膜モジュールを作製した。濃縮試験時に中空糸膜内を流れる原料液の線速が0.1m/sであり、加温部の熱媒に88℃の減圧蒸気を用いること以外は実施例4と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は13.8時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は139.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは9.5kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の87%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は83%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例5の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0095】
《実施例6》
内径1.40mm、外径2.57mmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜200本を用いてモジュールを作製し、キャップ部に2.0S、0.0018m2の原料液流通用開口部を有し、加温部の熱媒に88℃の温水を用いること以外は実施例5と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は27.0時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は110.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは11.8kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の86%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は80%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例6の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0096】
《実施例7》
内径1.85mm、外径3.40mmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜100本を用いてモジュールを作製し、キャップ部に1.5S、0.0010m2の開口部を有すること以外は実施例6と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は43.1時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は103.6kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは11.2kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の89%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は84%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例7の膜及び膜モジュールは、原料液であるメイプルウォーターについて、過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0097】
《実施例8》
膜モジュール側面にある蒸気取出口が2.5S配管3本、0.0030m2であり、流入口での原料液温度が55℃であり、減圧部が-95kPaであり、加温部の表面温度が65℃であり、加温部を流れる熱媒が70℃の温水であること以外は実施例5と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は14.3時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は151.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは9.2kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の85%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は86%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例8の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0098】
《実施例9》
膜モジュール原料液流入口での原料液温度が45℃であり、加温部の表面温度が55℃であり、加温部を流れる熱媒が60℃の温水であること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は21.5時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は151.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは6.1kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の84%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は91%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例9の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化の影響をほとんど与えずに、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0099】
《実施例10》
膜モジュール原料液流入口での原料液温度が35℃であり、加温部の表面温度が45℃であり、加温部を流れる熱媒が50℃の温水であること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は30.5時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は151.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは4.3kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の88%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は90%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例10の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化の影響をほとんど与えずに、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0100】
《実施例11》
内径1.85mm、外径3.40mmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜100本を用い、膜固定部環の最短距離が約278mmとなるように固定し、側面に1.0S、0.0004m2の蒸気取出口を有する膜モジュールを作製した。さらに、中空糸膜内部における原料液の線速が0.45m/sであること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は85.9時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は366.2kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは10.1kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の60%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は87%であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例11の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も良好であることが検証された。
【0101】
《実施例12》
内径1.85mm、外径3.40mmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の中空糸膜100本を用い、膜固定部環の最短距離が約93mmとなるように固定し、側面に内径6mm、0.000028m2の蒸気取出口を3つ有する膜モジュールを作製した。さらに、メイプルウォーター35kgを用い、中空糸膜内部における原料液の線速が0.80m/sであること以外は実施例11と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は60.8時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は379.6kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは10.7kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の63%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は86%がかった淡黄色であり、メイプルウォーター独特の香りを比較的維持していた。以上の結果から、実施例12の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を伴うことなく、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も良好であることが検証された。
【0102】
《実施例13》
膜モジュールの原料液流路出口にバルブを設けてモジュールに背圧をかけ、試験開始時の膜モジュールの原料液流路入口における圧力を30kPaにしたこと以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は13.5時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は191.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは9.7kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の87%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は85%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例13の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0103】
《実施例14》(直列全濾過)
濾過膜として孔径20μmのろ紙を用いて原料液を減圧濾過(全濾過)した後に原料液タンクに導入したこと以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70(280cP)まで濃縮するまでにかかった時間は12.9時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は163.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは10.2kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の85%であった。得られた原料液の可視光透過度は86%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例14の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0104】
《実施例15》(直列クロスフロー濾過)
濾過膜として孔径0.8μmのPVDF製中空糸膜を用いて原料液をクロスフロー濾過し、濾過後の原料液を原料液タンクに導入したこと以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。なお濾過膜は定期的に蒸留水を用いて逆洗した。メイプルウォーターをBrix70(215cP)まで濃縮するまでにかかった時間は10.9時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は149.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは12.0kg/m2・hであり、濃縮試験後の膜モジュールの透気度は、初期の91%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は87%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例15の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0105】
《実施例16》(並列クロスフロー濾過)
濾過膜として孔径0.8μmのPVDF製中空糸膜を用い、原料液タンクから膜蒸留部を経て原料タンクに戻る膜蒸留循環経路とは別に、原料液タンクから濾過膜を経て原料液タンクに戻る濾過循環経路を設け、当該濾過膜によるクロスフロー濾過を行ったこと以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。なお濾過膜は定期的に蒸留水を用いて逆洗した。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は10.7時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は149.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは12.2kg/m2・hであった、また、濃縮試験後に膜モジュールの中空糸内側に水を30分間通水洗浄したのちに測定した透気度は、初期の95%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は87%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例16の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後に水洗浄を行うことにより膜性能の低下が大幅に抑制されることが検証された。
【0106】
《実施例17》(廃熱利用)
加温部における熱媒に、70℃の工場廃水を用いることによって廃熱を利用したこと以外は実施例15と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は10.5時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は149.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは12.5kg/m2・hであった、また、濃縮試験後に膜モジュールの中空糸内側にクエン酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を順番に30分間ずつ通水洗浄したのちに測定した透気度は、初期の97%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は88%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例17の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後に薬液洗浄を行うことにより膜性能の低下が大幅に抑制されることが検証された。
【0107】
《実施例18》(濾過膜+逆浸透膜)
逆浸透膜によりBrix35まで濃縮して得た原料液予備濃縮物を濾過膜によって濾過した後、透過後の原料液予備濃縮物を原料液タンクに導入したこと以外は実施例15と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70(150cP)まで濃縮するまでにかかった時間は1.2時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は149.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは6.0kg/m2・hであった、また、濃縮試験後に膜モジュールの中空糸内側にクエン酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を順番に30分間ずつ通水洗浄したのちに測定した透気度は、初期の98%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は92%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例18の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後に薬液洗浄を行うことにより膜性能の低下が大幅に抑制されることが検証された。
【0108】
《実施例19》(濾過膜+逆浸透膜)
逆浸透膜によりBrix30まで濃縮して得た原料液予備濃縮物を濾過膜によって濾過した後、透過後の原料液予備濃縮物を原料液タンクに導入したこと以外は実施例15と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix62(102cP)まで濃縮するまでにかかった時間は1.1時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は149.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは8.1kg/m2・hであった、また、濃縮試験後に膜モジュールの中空糸内側にクエン酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を順番に30分間ずつ通水洗浄したのちに測定した透気度は、初期の99%であった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は94%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。以上の結果から、実施例19の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix62の高粘度まで濃縮でき、濃縮後に薬液洗浄を行うことにより膜性能の低下が大幅に抑制されることが検証された。
【0109】
《実施例20》(蒸発による追加濃縮)
膜蒸留により原料液をBrix50まで濃縮したのち、蒸発器として常圧蒸留装置を用いてBrix70まで100℃以上の温度で更に加熱濃縮したこと以外は実施例15と同様の条件で濃縮試験を行った。膜蒸留によりメイプルウォーターをBrix50(51cP)まで濃縮するまでにかかった時間は6.2時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は139.7kPaであり、全濃縮試験の膜蒸留の通算Fluxは15.0kg/m2・hであった。また、濃縮試験後に膜モジュールの中空糸内側にクエン酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を順番に30分間ずつ通水洗浄したのちに測定した透気度は、初期の99%であった。常圧蒸留装置での濃縮後に得られた原料液濃縮物の可視光透過度は81%であり、メイプルシロップ独特の強い香りを持っていた。以上の結果から、実施例20の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液であるメイプルウォーターについて、加熱による過度の着色や風味の劣化を大きく低減しながら、Brix70の高粘度まで濃縮でき、濃縮後に薬液洗浄を行うことにより膜性能の低下が大幅に抑制されることが検証された。
【0110】
《実施例21》(塩化マグネシウム水溶液の濃縮)
原料液として20質量%の塩化マグネシウム水溶液を用いたこと以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。塩化マグネシウム水溶液を30質量%に濃縮するまでにかかった時間は1.1時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は134.7kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは12.0kg/m2・hであった、また、濃縮試験後に測定した透気度は、初期の97%であった。以上の結果から、実施例21の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液として塩化マグネシウム水溶液を用いた場合においても30質量%の高粘度まで濃縮でき、濃縮後の膜性能も大変良好であることが検証された。
【0111】
《比較例1》(逆浸透膜)
実施例18と同様の方法で、逆浸透膜を用いたメイプルウォーターの濃縮を行った。
原料液のBrix値が40を超えたところで逆浸透膜の透水性能が大幅に低下し、それ以上濃縮することが困難であった。
《比較例2》(平膜、低透気度)
撥水処理後の透気度が300L/h・m2・kPa、膜厚20μmである多孔質の平膜をプリーツ状に折り畳んだ状態で円筒形のケースに収納すること以外は実施例1と同様の方法で平膜モジュールを作製した。前記平膜モジュールを用いること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は174.8時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は191.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは0.75kg/m2・hであった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は83%であり、メイプルウォーター独特の香りは失われていた。以上の結果から、比較例2の膜及び膜モジュール、運転条件では、高粘度の原料液を効率よく膜全体に流通させることが出来ず、また、原料液中の蒸気を効率的に取りだすことが出来ずに濃縮に時間がかかってしまい、香気成分が失われてしまったことが検証できた。
【0112】
《比較例3》(平膜、高透気度)
撥水処理後の透気度が6000L/h・m2・kPaであり、200kPa加圧時の20質量%濃度のEtOH水溶液の透水速度は140mL/h・m2であること以外は比較例1と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は9.0時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は191.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは14.5kg/m2・hであった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は82%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。濃縮試験後の膜モジュールは一部に濡れている部分が観察でき、透気度は初期の50%であった。以上の結果から、比較例2の膜及び膜モジュール、運転条件では、膜のLEPが不足しているため原料液により膜が濡れやすく、繰返し運転が難しいということ検証できた。
【0113】
《比較例4》(小内径、低透気度)
撥水処理後の透気度が4800L/h・m2・kPaであること以外は比較例1と同様のプリーツ型平膜モジュールを用い、前記平膜モジュールのプリーツ内側の原料液線速が0.18m/sであること以外は比較例1と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は10.2時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は418.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは8.0kg/m2・hであった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は82%であり、メイプルウォーター独特の香りを維持していた。濃縮試験後の膜モジュールは一部に濡れている部分が観察でき、透気度は初期の40%であった。以上の結果から、比較例4の膜及び膜モジュール、運転条件では、圧力が上昇しやすく、膜間差圧の上昇に伴って膜が濡れてしまうため、繰返し運転が難しいということ検証できた。
【0114】
《比較例5》(平膜、高原料液温度)
リボンヒーターを巻いた配管を加温部とし、表面温度110℃で原料液を加熱し、膜モジュールの原料液入口における原料液温度が90℃であること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。メイプルウォーターをBrix70まで濃縮するまでにかかった時間は7.3時間であり、濃縮中の最大膜間差圧は176.0kPaであり、全濃縮試験の通算Fluxは18.0kg/m2・hであった。得られた原料液濃縮物の可視光透過度は73%であり、メイプルウォーター独特の香りは失われていた。濃縮試験後の膜モジュールには膜の接着部に原料液中の凝集物による詰まりが多数あり、さらに膜の一部に濡れている部分が観察でき、透気度は初期の40%であった。以上の結果から、比較例5の膜及び膜モジュール、運転条件では、高温により原料液が変性や劣化しやすく、品質を維持できないことが検証できた。
【0115】
《比較例6》(平膜、低減圧)
膜モジュールの原料液入口における原料液温度が80℃であり減圧部の圧力が-20kPaであること以外は実施例8と同様の条件で濃縮試験を行った。全濃縮試験の通算Fluxは0.50kg/m2・hと低く、濃縮途中で試験を終了した。以上の結果から、比較例6の膜及び膜モジュール、運転条件では、原料液側と減圧部において十分な蒸気圧差を得ることが出来ず、濃縮が出来ないことが検証された。
【0116】
【0117】
【0118】
前記濃縮工程の後に、濃縮された原料液を蒸発器に流通させる追加濃縮工程を更に有し、前記追加濃縮工程における原料液温度が、前記濃縮工程における原料液温度以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が40以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が70以下である、請求項10に記載の方法。
前記原料液が糖液であり、前記予備濃縮工程で予備濃縮された原料液のBrix値が35以下であり、前記濃縮工程で濃縮された原料液のBrix値が62以下である、請求項11に記載の方法。
前記中空糸膜の中空部にpH5以下又はpH9以上の薬液を通液することにより、前記中空糸膜に付着した膜汚染物質を除去する工程を、1週間当たり1回以上行う、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。