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特開2025-105896音響再生装置、信号処理装置、信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105896
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】音響再生装置、信号処理装置、信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20250703BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
G10K11/178 110
H04R1/10 101Z
H04R1/10 104Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025075597
(22)【出願日】2025-04-30
(62)【分割の表示】P 2022511638の分割
【原出願日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020063187
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新開 章吾
(72)【発明者】
【氏名】飛世 速光
(72)【発明者】
【氏名】勝山 峻
(72)【発明者】
【氏名】コーダヴァティ マヘンドラ
(72)【発明者】
【氏名】福永 拓馬
(57)【要約】
【課題】複数のマイクロフォンを用いる場合を想定して、より適切なマイクロフォン配置状態を提案する。
【解決手段】音響再生装置について、ノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンと、ノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンと、ノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォンと、第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と第3のマイクロフォンにより収音された第3集音信号とを用いて生成されるノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットと、を備え、第1のマイクロフォンの集音面とされた第1の集音面は、ドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされ、第2のマイクロフォンの集音面とされた第2の集音面は、ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされ、第3のマイクロフォンの集音面とされた第3の集音面は、第1の集音面及び第2の集音面の何れとも異なる方向を向く面とされている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンと、
前記ノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンと、
前記ノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォンと、
前記第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と前記第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と前記第3のマイクロフォンにより収音された第3集音信号とを用いて生成されるノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットと、を備え、
前記第1のマイクロフォンの集音面とされた第1の集音面は、前記ドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされ、
前記第2のマイクロフォンの集音面とされた第2の集音面は、前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされ、
前記第3のマイクロフォンの集音面とされた第3の集音面は、前記第1の集音面及び前記第2の集音面の何れとも異なる方向を向く面とされた
音響再生装置。
【請求項2】
前記ドライバユニットが配置されるハウジングを備え、
前記ハウジングの内部には、前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンが配置された
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記第1のマイクロフォンは、前記第2のマイクロフォンよりも前記ドライバユニットに近接して配置された
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項4】
前記第1の集音面は、前記第2の集音面よりも前記ドライバユニットに近接して配置された
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項5】
前記第2の集音面は、前記第1の集音面と対向する方向とは異なる方向を向く面とされた
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項6】
前記ドライバユニットが配置されたハウジングを備え、
前記ハウジングの内部空間は、少なくとも第1音響空間が設けられ、
前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンは、それぞれ別の音響空間に配置された
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項7】
前記ハウジングの内部空間は、少なくとも第1音響空間と第2音響空間とが設けられ、
前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンは、一方が前記第1音響空間に配置され他方が前記第2音響空間に配置された
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記ドライバユニットからの出力音が放音される放音口を有し、
前記第2のマイクロフォンの集音面は、前記放音口を向く面とされた
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項9】
前記第1のマイクロフォンが配置される配置面と前記第2のマイクロフォンが配置される配置面は、それぞれ異なる部材上の面とされた
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項10】
前記第3の集音面は、前記ハウジングの外部空間の音を集音する集音面とされた
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項11】
前記ノイズキャンセリング信号は、前記第1集音信号及び前記第2集音信号を用いたフィードバック方式のキャンセル信号と、前記第3集音信号を用いたフィードフォワード方式のキャンセル信号と、に基づいて生成される
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項12】
前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンと前記第3のマイクロフォンは、それぞれ異なる音響空間に配置された
請求項1の記載の音響再生装置。
【請求項13】
前記ハウジングの内部空間は、少なくとも第1音響空間と第2音響空間とが設けられ、
前記第1音響空間と前記第2音響空間は、音響抵抗部材によって隔てられた空間とされた
請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項14】
前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンは、一方が前記第1音響空間に配置され他方が前記第2音響空間に配置された
請求項13に記載の音響再生装置。
【請求項15】
ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が音響出力を行うドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされた第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされた第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記第1のマイクロフォンの集音面と前記第2のマイクロフォンの集音面の何れとも異なる方向を向く面とされた第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号と、を用いて、ノイズキャンセリング信号を生成する音響信号処理部を備えた
信号処理装置。
【請求項16】
ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が音響出力を行うドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされた第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされた第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記第1のマイクロフォンの集音面と前記第2のマイクロフォンの集音面の何れとも異なる方向を向く面とされた第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号と、を用いて、ノイズキャンセリング信号を生成する
信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響再生装置、信号処理装置、信号処理方法に関する。特にはノイズキャンセリング信号の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2,3にも開示されているように、携帯型のオーディオプレーヤ等に用いるヘッドフォンやイヤフォンにおいて外部環境のノイズ(騒音)を低減して、リスナに対して、外部ノイズを低減した良好な再生音場空間を提供するようにしたノイズキャンセリングシステムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-122729号公報
【特許文献2】特開2008-116782号公報
【特許文献3】特開2008-250270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のノイズキャンセリングシステムの一例は、アクティブなノイズ低減を行なうアクティブ方式のノイズ低減システムで、基本的には、次のような構成を備える。
すなわち、音響-電気変換手段としてのマイクロフォンで外部ノイズ(騒音)を集音し、その集音したノイズの音響信号から、ノイズとは音響的に逆相のノイズキャンセリング信号を生成する。このノイズキャンセリング信号を、音楽等の本来の聴取目的たる音響信号と合成してスピーカで音響再生する。これにより外来ノイズが音響的に相殺されるようにしてノイズを低減するものである。
【0005】
このようなノイズ低減システムでは、複数のマイクロフォンを用いて集音し、適切なフィルタ処理でノイズキャンセリング信号を生成することでノイズキャンセル性能を向上させることができると考えられる。
【0006】
本開示では、このように複数のマイクロフォンを用いる場合を想定して、より適切なマイクロフォン配置状態を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の音響再生装置は、イズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンと、前記ノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンと、前記ノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォンと、前記第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と前記第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と前記第3のマイクロフォンにより収音された第3集音信号とを用いて生成されるノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットと、を備え、前記第1のマイクロフォンの集音面とされた第1の集音面は、前記ドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされ、前記第2のマイクロフォンの集音面とされた第2の集音面は、前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされ、前記第3のマイクロフォンの集音面とされた第3の集音面は、前記第1の集音面及び前記第2の集音面の何れとも異なる方向を向く面とされたものである。
イズキャンセル処理に用いるためのマイクロフォンを複数備えた構成において、音響再生装置内の複数の音響空間において集音を行う状態にしやすい。
【0008】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォンの集音面は前記第2のマイクロフォンの集音面よりも前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの近くに位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニットから第1のマイクロフォンの集音面までの空間の伝達関数が変化しにくくされる。
【0009】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォンの集音面は前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向に対向して位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニットから第1のマイクロフォンの集音面までの空間の伝達関数が変化しにくくされる。
【0010】
響再生装置においては、前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットが配置され前記ドライバユニットからの出力音が放音される放音口を有したハウジングを備え、前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは、前記ハウジング内に配置され、前記第2のマイクロフォンは前記第1のマイクロフォンよりも前記放音口に近い位置に位置されていてもよい。
これにより、第2のマイクロフォンは第1のマイクロフォンよりも耳の鼓膜に近い位置における集音を行うことができる。
【0011】
響再生装置においては、前記第2のマイクロフォンの集音面は前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向に対向しないように位置されていてもよい。
これにより、第2のマイクロフォンがノイズを集音しやすくされる。
【0012】
響再生装置においては、前記ハウジング内において前記ドライバユニットの放音方向に少なくとも一つの音響空間が位置し、前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは前記一つの音響空間に位置されていてもよい。
これにより、マイクロフォンが配置された音響空間におけるノイズ成分を高精度に集音することができる。
【0013】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォンは集音面が前記ドライバユニットの放音方向に対向するように位置され、前記第2のマイクロフォンは集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ向きになるように位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニットから第1のマイクロフォンの集音面までの空間の伝達関数が変化しにくい。また、第2のマイクロフォンは鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすくされる。
【0014】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは異なる音響空間に配置されていてもよい。
これにより、第1のマイクロフォンと第2のマイクロフォンで集音されるノイズが異なるものとされる。
【0015】
響再生装置においては、前記ハウジング内に複数の音響空間が設けられ、前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは前記複数の音響空間における異なる空間に位置されていてもよい。
これにより、第1のマイクロフォンと第2のマイクロフォンで集音されるノイズがより異なるものとされる。
【0016】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォンが位置される第1音響空間と前記第2のマイクロフォンが位置される第2音響空間を隔てる音響抵抗部材が配置されていてもよい。
これにより、一方の音響空間についてドライバユニットからマイクロフォンまでの空間の伝達関数が変化しにくい安定空間とすることができる。
【0017】
響再生装置においては、前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットが配置され前記ドライバユニットからの出力音が放音される放音口を有したハウジングを備え、前記第1音響空間は、前記ドライバユニットと前記音響抵抗部材と前記ハウジングとに囲まれた空間とされ、前記第2音響空間は、前記音響抵抗部材と前記ハウジングと前記放音口とに囲まれた空間とされていてもよい。
これにより、第1音響空間は、空間の伝達関数が変化しにくい安定空間とされる。また、第2音響空間は、鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすい空間とされる。
【0018】
響再生装置においては、前記第1のマイクロフォンは前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向である前方側に位置され、前記第2のマイクロフォンは前記ドライバユニットの後方側に位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニットの後方に位置する第2のマイクロフォンは、音響出力の逆相の音を集音可能とされる。更に、第2のマイクロフォンは、ドライバユニットから第2のマイクロフォンの集音面までの空間の伝達関数がリスナの装着状態により変化しにくくされる。
【0019】
響再生装置においては、前記第1集音信号の高域成分に基づいて第1ノイズキャンセリング信号を生成する第1フィードバックフィルタと、前記第2集音信号の低域成分に基づいて第2ノイズキャンセリング信号を生成する第2フィードバックフィルタと、を備え、前記音響信号処理部は、前記第1ノイズキャンセリング信号と前記第2ノイズキャンセリング信号に基づいて前記ノイズキャンセリング信号の生成を行ってもよい。
第1のマイクロフォンは第2のマイクロフォンよりもドライバユニットの近くに配置されているため、第1FBフィルタに設定されるフィルタ係数は第2FBフィルタに設定されるフィルタ係数よりも不適切なものになりにくい。これにより、第1集音信号に基づくノイズキャンセリング信号は、第2集音信号に基づくノイズキャンセリング信号よりもハウリングが発生しにくいものとすることができる。
【0020】
響再生装置においては、ハイパスフィルタ、ハイシェルビングフィルタまたはハイピークEQフィルタによって前記第1集音信号の高域成分が抽出され、ローパスフィルタ、ローシェルビングフィルタまたはローピークEQフィルタによって前記第2集音信号の低域成分が抽出されてもよい。
これにより、ドライバユニットからマイクロフォンまでの空間の伝達関数が変化しにくい第1のマイクロフォンのフィードバックループに対して、ハウリングしやすい高域成分の集音信号を入力することができる。また、鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすい第2のマイクロフォンのフィードバックループに対して、低域成分の集音信号を入力することができる。
【0021】
響再生装置においては、フィードフォワード方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォンを備え、前記音響信号処理部は、前記第1集音信号と前記第2集音信号と前記第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号とを用いて前記ノイズキャンセリング信号の生成を行ってもよい。
例えば、音響再生装置の外部の音を集音するように第3のマイクロフォンを設けることが考えられる。
【0022】
本開示の信号処理装置は、イズキャンセル処理に用いられ集音面が音響出力を行うドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされた第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされた第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記第1のマイクロフォンの集音面と前記第2のマイクロフォンの集音面の何れとも異なる方向を向く面とされた第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号と、を用いて、ノイズキャンセリング信号を生成する音響信号処理部を備えたものである。
【0023】
本開示の信号処理方法は、イズキャンセル処理に用いられ集音面が音響出力を行うドライバユニットの放音方向とは異なる方向を向く面とされた第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ方向を向く面とされた第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号と、前記ノイズキャンセル処理に用いられ集音面が前記第1のマイクロフォンの集音面と前記第2のマイクロフォンの集音面の何れとも異なる方向を向く面とされた第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号と、を用いて、ノイズキャンセリング信号を生成するものである。
これらの信号処理装置や信号処理方法によれば、ノイズキャンセル処理に用いるためのマイクロフォンを複数備えた構成において、音響再生装置内の複数の音響空間において集音を行う状態にしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムを適用した音響再生装置の構成例について伝達関数の観点から示すブロック図である。
図2】第1の実施の形態のイヤフォンを示す図である。
図3】第1の実施の形態の音響再生装置のブロック図である。
図4】第1の実施の形態の第1DSPのブロック図である。
図5】第1の実施の形態の第2DSPのブロック図である。
図6】第1の実施の形態のヘッドフォンを示す図である。
図7】第2の実施の形態のイヤフォンを示す図である。
図8】第2の実施の形態のヘッドフォンを示す図である。
図9】第3の実施の形態のイヤフォンを示す図である。
図10】第3の実施の形態のヘッドフォンを示す図である。
図11】第4の実施の形態のイヤフォンを示す図である。
図12】第4の実施の形態の音響再生装置のブロック図である。
図13】第4の実施の形態の第3DSPのブロック図である。
図14】第1変形例の音響再生装置のブロック図である。
図15】音響抵抗部材の取り付け例を示す図である。
図16】音響抵抗部材の取り付け例を示す図である。
図17】音響抵抗部材の取り付け例を示す図である。
図18】音響抵抗部材の取り付け例を示す図である。
図19】各フィルタの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。
<1.ノイズキャンセリング技術の説明>
<2.第1の実施の形態>
<2-1.音響再生装置の構成>
<2-2.音響再生装置の内部構成>
<2-3.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
<3.第2の実施の形態>
<3-1.イヤフォンとしての音響再生装置>
<3-2.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
<4.第3の実施の形態>
<4-1.イヤフォンとしての音響再生装置>
<4-2.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
<5.第4の実施の形態>
<5-1.音響再生装置の構成>
<5-2.音響再生装置の内部構成>
<6.変形例>
<6-1.第1変形例>
<6-2.第2変形例>
<6-3.その他>
<7.まとめ>
<8.本技術>

なお、実施の形態の記載及び請求項でいう音響再生装置とは、リスナが耳に装着して聴音する装置を指しており、頭部に装着するヘッドセット型(ヘッドフォン)のほか、いわゆる「イヤフォン」と呼ばれる耳介或いは耳孔に装着するようなタイプも含むものとする。
【0026】
<1.ノイズキャンセリング技術の説明>

フィードバック方式のノイズキャンセリング技術について説明する。図1はフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムを適用した音響再生装置の構成例について、伝達関数の観点から示すブロック図である。
なお、図1においては、音響再生装置のリスナ(聴取者)の片耳側の部分についての構成のみを示している。左右の両耳それぞれについての音響再生装置の構成は、共に図1と同様のものとされている。
【0027】
音響再生装置は、電気信号である音響信号を再生するための電気-音響変換手段としてのドライバユニットが設けられている。
そして、リスナが再生したい音楽などの信号である音響信号Smがイコライザおよび加算器を通じて出力音響信号としてパワーアンプに供給される。パワーアンプを通じた音響信号がドライバユニットに供給されて、音響再生され、リスナの耳に対して再生音が放音される。
【0028】
音響信号Smが入力される入力端と、左右の耳用のドライバユニットとの間の信号伝送路中には、イコライザ、加算器、パワーアンプ、マイクロフォン、マイクロフォンアンプ、ノイズキャンセル用のFB(Feedback)フィルタが設けられている。
このような構成においては、リスナの音響聴取環境において、音響再生装置の外部のノイズのうち、音響再生装置内のリスナの音響聴取位置に入り込むノイズNをフィードバック方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
【0029】
フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいては、リスナの音響聴取位置であるところの、ノイズと音響信号の音響再生音とを合成する音響合成位置(ノイズキャンセルポイントPc)でのノイズを集音する。
したがって、ノイズ集音用のマイクロフォンは、音響再生装置のハウジングの内側となるノイズキャンセルポイントPcのノイズを集音可能な位置に設けられる。このマイクロフォンの位置の音が制御点となるため、ノイズ減衰効果を考慮し、ノイズキャンセルポイントPcは、通常耳に近い位置、つまりドライバユニットの振動板前面とされ、この位置に、マイクロフォンが設けられる。
そして、そのマイクロフォンで集音したノイズの逆相成分を、FBフィルタで、ノイズキャンセリング信号として生成し、その生成したノイズキャンセリング信号をドライバユニットに供給して音響再生することで、外部から音響再生装置のハウジング内に入ってきたノイズを低減させるものである。
【0030】
マイクロフォンで集音されたアナログ音響信号は、マイクロフォンアンプを通じてADC(Analog-to-digital Converter)によりデジタル音響信号に変換される。そして、そのデジタル音響信号がフィードバック方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタ(FBフィルタ)に入力される。
【0031】
デジタルフィルタは、入力されるデジタル音響信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性のノイズキャンセリング信号を生成する。
【0032】
生成されたノイズキャンセリング信号は、加算器に供給される。
【0033】
上述のように加算器には、リスナが聴取したいとされる音響信号Smが、イコライザを通じて供給される。イコライザは、入力音響信号の音質補正を行なう。
このイコライザの出力と、FBフィルタからのノイズキャンセリング信号が加算器で合成され、出力音響信号として、パワーアンプを通じてドライバユニットに供給されて音響再生される。
なお、加算器の前段または後段の何れかにおいては、各信号をデジタル信号からアナログ信号へと変換するDAC(Digital-to-Analog Converter)が設けられている。
【0034】
再生音響にはFBフィルタにおいて生成されたノイズキャンセリング信号による音響再生成分が含まれる。このノイズキャンセリング信号による音響再生成分とノイズとが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズが低減(キャンセル)される。
【0035】
図1には、各部の伝達関数を示している。具体的には、「A」はパワーアンプの伝達関数を示し、「D」はドライバユニットの伝達関数を示し、「M」はマイクロフォンおよびマイクロフォンアンプの部分に対応する伝達関数を示し、「-β」はフィードバックのために設計されたフィルタの伝達関数を示している。また、「H」はドライバユニットからマイクロフォンまでの空間の伝達関数を示し、「E」は聴取目的の音響信号Smにかけられるイコライザの伝達関数を示している。上記の各伝達関数は複素表現されているものとする。
【0036】
また、図1に示す「N」は、外部のノイズ源から音響再生装置のハウジング内のマイクロフォン位置近辺に侵入してきたノイズであり、「P」はリスナの耳に届く音圧である。なお、外部ノイズが音響再生装置のハウジング内に伝わってくる原因としては、例えばイヤパッド部の隙間から音圧として漏れてくる場合や、音響再生装置が音圧を受けて振動した結果として音響再生装置のハウジング内部に音が伝わる場合などが考えられる。
【0037】
この図1の伝達関数ブロックは、次の(式1)で表現することができる。
【0038】
(式1)
P={1/(1+ADHMβ)}・N+{AHD/(1+ADHMβ)}・ES
【0039】
そして、この(式1)において、ノイズに着目すると、ノイズNは、1/(1+ADHMβ)に減衰していることが分かる。ただし(式1)の系がノイズ低減対象周波数帯域にて、ノイズキャンセリング機構として安定して動作するためには、次の(式2)が成立している必要がある。
【0040】
(式2)
|1/(1+ADHMβ)|<1
【0041】
上記の(式2)を満たすような「-β」となるようにFBフィルタのフィルタ係数が設定されることで、十分なノイズ低減効果を得ることができる。
【0042】
<2.第1の実施の形態>
<2-1.音響再生装置の構成>
図2を参照して音響再生装置1の第1の実施の形態を説明する。なお、図2はイヤフォンとしての音響再生装置1を例に挙げたものである。
【0043】
音響再生装置1は、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、を備えている。
【0044】
ドライバユニット4は、振動板4aを備えることにより音響出力が可能とされている。
以降の説明においては、ドライバユニット4の放音方向を「前方」と記載する。
【0045】
ハウジング3は、前後方向が軸方向とされた円柱形状とされ前方に開口された箱状に形成された箱状部5と、箱状部5の前方の開口から前方に延びる管状に形成された音導管6とから成る。
ハウジング3の内部空間2は、箱状部5に囲まれた空間とされドライバユニット4などの各部が配置される配置空間7と、音導管6に囲まれた空間とされた音導空間8とから成る。
【0046】
音導管6の前方の開口は、ドライバユニット4からの音響出力をハウジング3の外部へ出力するための放音口9として形成されている。
【0047】
ドライバユニット4は、例えば、配置空間7における前後方向の略中央部に配置されている。配置空間7は、ドライバユニット4により、ドライバユニット4の前方の空間である前方空間7aとドライバユニット4の後方の空間である後方空間7bとに分離されている。
【0048】
後方空間7bには、例えば、ドライバユニット4を駆動するための基板や電池などが収納されている場合がある。
【0049】
音響再生装置1は、ハウジング3における放音口9の外周面に前方から着脱可能なイヤピース10が取り付けられている。イヤピース10は、シリコンやゴムやウレタン等の弾性変形可能な部材によって形成されている。
【0050】
音響再生装置1は、内部空間2に配置される複数のマイクロフォンを有している。図2は、音響再生装置1が二つのマイクロフォンを備えている例である。
具体的に、音響再生装置1は、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12を備えている。
【0051】
第1のマイクロフォン11は、集音面11aがドライバユニット4の振動板4aと略対向するように前方空間7aに配置されている。
【0052】
第2のマイクロフォン12は、集音面12aが第1のマイクロフォン11の集音面11aとは異なる向きとなるように音導空間8に配置されている。具体的には、集音面12aが音導管6の中心軸を向くように第2のマイクロフォン12が取り付けられている。換言すれば、第2のマイクロフォン12は、ドライバユニット4の振動板4aと対向しないように配置されている。
【0053】
即ち、第1のマイクロフォン11は第2のマイクロフォン12よりもドライバユニット4に近い位置に配置されている。
また、第2のマイクロフォン12は第1のマイクロフォン11よりも放音口に近い位置に配置されている。
【0054】
第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12を異なる音響空間に配置することで、異なる音響空間である前方空間7aと音導空間8の集音を行うことができる。即ち、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1は、前方空間7aにおけるノイズを含んだ信号とされる。また、第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2は、音導空間8におけるノイズを含んだ信号とされる。
【0055】
また、第2のマイクロフォン12は、第1のマイクロフォン11よりも耳の鼓膜に近い位置において集音を行うことができる。
【0056】
以上のような構成を採ることにより、第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12から集音された集音信号を用いたフィードバック制御を行い、ノイズキャンセリング信号を生成する。
生成されたノイズキャンセリング信号は、例えば、音源信号Smに加算されることにより、ドライバユニット4からの出力信号として生成される。このようにして生成された出力信号がドライバユニット4から出力されることで、所定のキャンセルポイントにおいてノイズが低減された再生音響がリスナに聴取される状態となる。
【0057】
<2-2.音響再生装置の内部構成>
図3は、音響再生装置1の内部構成のブロック図である。なお、図3及び以降の各図においては、説明の簡略化のため、ステレオ音響信号についての左右チャンネルうちの一方のみを示している。他方のチャンネルにおいても図3と同様の構成を採ることで、ステレオ音響についてノイズキャンセル処理を行うことが可能である。
なお、各構成部位については、左右のチャンネルで共用してもよい。
【0058】
音響再生装置1には、外部に設けられた不図示のオーディオプレーヤ等の音楽・音声ソース機器からデジタル信号としての音源信号Smが入力される。音源信号Smは、例えば、リスナが聴取したい音楽などのデジタル信号である。
【0059】
音響再生装置1は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に対する処理を行うための各部として、第1アンプ21Aと、第1ADC22Aと、第1DSP(Digital Signal Processor)23Aと、を備えている。
【0060】
また、音響再生装置1は、第2のマイクロフォン12の集音信号S2に対する処理を行うための各部として、第2アンプ21Bと、第2ADC22Bと、第2DSP23Bと、を備えている。
【0061】
更に、音響再生装置1は、加算器24,25と、イコライザ回路26と、DAC27と、パワーアンプ28と、を備えている。
【0062】
第1集音信号S1は、前述したように、ドライバユニット4の振動板4aの前方空間7aのノイズを含んだ音響を集音したものである。
第1集音信号S1は、第1アンプ21Aで増幅された後、第1ADC22Aでデジタル信号に変換されて第1DSP23Aに入力される。
【0063】
第1DSP23Aは、フィードバック方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタを備えている。
【0064】
図4は、第1DSP23Aの構成例を示した図である。図示するように、第1DSP23Aは、HPF(High Pass Filter)31と第1FBフィルタ32を備えている。
【0065】
HPF31は、第1ADC22Aからの入力デジタル信号について低域成分を除去するデジタルフィルタである。
【0066】
第1FBフィルタ32は、フィードバック方式のデジタルノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタである。
即ち、第1FBフィルタ32は、第1集音信号S1における高域成分に基づいて第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成する。
【0067】
第1DSP23Aで生成された信号は、加算器24に入力される。
【0068】
第2集音信号S2は、前述したように、音導管6の内部空間である音導空間8のノイズを含んだ音響を集音したものである。
第2集音信号S2は、第2アンプ21Bで増幅された後、第2ADC22Bでデジタル信号に変換されて第2DSP23Bに入力される。
【0069】
第2DSP23Bは、フィードバック方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタを備えている。
【0070】
図5は、第2DSP23Bの構成例を示した図である。図示するように、第2DSP23Bは、LPF(Low Pass Filter)33と第2FBフィルタ34を備えている。
【0071】
LPF33は、第2ADC22Bからの入力デジタル信号について高域成分を除去するデジタルフィルタである。
【0072】
第2FBフィルタ34は、フィードバック方式のデジタルノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタである。
即ち、第2FBフィルタ34は、第2集音信号S2における低域成分に基づいて第2ノイズキャンセリング信号Snc2を生成する。
【0073】
第2DSP23Bで生成された信号は、加算器24に入力される。
【0074】
加算器24は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc1と、第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc2とを加算合成し、合成ノイズキャンセリング信号Sncとして加算器25へ出力する。
【0075】
加算器25に対しては、合成ノイズキャンセリング信号Sncの他に音源信号Smに基づくデジタル信号も入力される。
【0076】
音源信号Smは、イコライザ回路26に入力される。
イコライザ回路26は、入力される音源信号Smに対して音質補正処理や音質効果処理のためのイコライジング処理を行い、得たデジタル信号を加算器25へ出力する。
イコライザ回路26は、例えば、DSP内に構成されていてもよい。
【0077】
加算器25は、合成ノイズキャンセリング信号Sncとイコライザ回路26からの信号を加算合成し、出力音響信号としてDAC27へ出力する。
【0078】
加算器25からの出力信号は、DAC27でアナログ信号へ変換された後、パワーアンプ28で増幅されてドライバユニット4へ供給される。
【0079】
ドライバユニット4では、入力された出力音響信号に基づく音響出力処理が実行される。これにより、所定のノイズキャンセルポイントにおいてノイズが低減された再生音響がリスナに聴取される状態となる。
【0080】
第1のマイクロフォン11は、図2に示すように、集音面11aがドライバユニット4の振動板4aに対向するように配置されている。このような第1のマイクロフォン11の配置とすることにより、ドライバユニット4から第1のマイクロフォン11までの空間の伝達関数が変化しにくくされる。
【0081】
空間の伝達関数が変化しなければ、設定した第1FBフィルタ32において設定されたフィルタ係数で十分なノイズキャンセル性能を有したノイズキャンセリング信号を生成することが可能となる。
即ち、第1集音信号S1を用いて生成した第1ノイズキャンセリング信号Snc1は、ノイズキャンセリング性能を十分に発揮できるものとされる。
【0082】
なお、第2のマイクロフォン12は、図2に示すように、音導空間8に設けられたものであり、ドライバユニット4から第2のマイクロフォン12までの空間の伝達関数は変化し得る。
【0083】
空間の伝達関数が変化すると、第2FBフィルタ34において設定されたフィルタ係数が適切ではなくなる場合があり、その場合には、ハウリングが発生する可能性がある。
【0084】
ハウリングの発生は、一般的に1kHz以上の高域成分に起因することが多い。
そこで、高域成分については空間の伝達関数が変化しにくい第1のマイクロフォン11を用いて生成した第1ノイズキャンセリング信号Snc1を用いることとする。
これにより、高域成分に起因したハウリングの発生を抑制することができる。
【0085】
また、それ以外の低域成分については、リスナの鼓膜により近い位置で集音可能な第2のマイクロフォン12を用いて生成した第2ノイズキャンセリング信号Snc2を用いる。
これにより、キャンセルポイントを鼓膜に近づけることが可能である。
【0086】
例えば、第1ノイズキャンセリング信号Snc1は、カットオフ周波数が200HzとされたHPF31によって抽出された第1集音信号S1の高域成分に基づいて生成される。
また、第2ノイズキャンセリング信号Snc2は、カットオフ周波数が200HzとされたLPF33によって抽出された第2集音信号S2の低域成分に基づいて生成される。
【0087】
上記構成によれば、第1集音信号S1の高域成分に基づく第1ノイズキャンセリング信号Snc1と第2集音信号S2の低域成分に基づく第2ノイズキャンセリング信号Snc2が合成されることにより合成ノイズキャンセリング信号Sncが生成されるため、ハウリングの発生を抑制しつつ鼓膜位置におけるノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0088】
図3では、第1DSP23Aと第2DSP23Bが設けられている例を示したが、一つのDSP内に第1集音信号S1に対するデジタルフィルタと第2集音信号S2に対するデジタルフィルタが形成されていてもよい。
また、その場合には、同じDSPにおいてイコライザ回路26が形成されていてもよい。
【0089】
なお、図3においては、音源信号Smがデジタル信号である例を示したが、アナログ信号であってもよい。その場合には、音源信号SmがADCを用いてデジタル信号に変換されてイコライザ回路26に入力される。
【0090】
第1DSP23Aが備えるHPF31は、ハイシェルビングフィルタやハイピークEQ(イコライザ)フィルタで代用することが可能である(図19参照)。
また、第2DSP23Bが備えるLPF33は、ローシェルビングフィルタやローピークEQフィルタで代用することが可能である(図19参照)。
【0091】
なお、音響再生装置1の内部構成は図3図4及び図5に示す構成以外であっても構わない。一例を挙げると、例えば、第1FBフィルタ32及び第2FBフィルタ34の少なくとも一方はアナログ信号についてのフィルタであってもよい。その場合には、第1ADC22Aや第2ADC22Bが不要となる。
【0092】
また、第1DSP23Aや第2DSP23Bの代わりにCPU(Central Processing Unit)やハードワイヤード信号処理を行うハードワイヤード回路などを用いてもよい。
【0093】
更に、第1のマイクロフォン11や第2のマイクロフォン12がデジタルマイクであってもよい。その場合には、第1ADC22Aや第2ADC22Bが不要となる。
【0094】
また、図4に示すHPF31は第1FBフィルタ32の前段ではなく後段に設けられていてもよい。また、HPF31が第1FBフィルタ32の内部に設けられていてもよい。
図5に示すLPF33についても同様に第2FBフィルタ34の後段に設けられていてもよいし、第2FBフィルタ34の内部に設けられていてもよい。
以降の各部についても同様である。
【0095】
<2-3.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
上述した第1の実施の形態における構成をヘッドフォンとしての音響再生装置1Aに適用した例について、図6を参照して説明する。
なお、図2に示すイヤフォンとしての音響再生装置1と同様の構成については、同一の符号を付す。
【0096】
音響再生装置1Aは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、を備えている。
【0097】
ドライバユニット4は、振動板4aを備えることにより音響出力が可能とされている。
【0098】
ハウジング3は、ドライバユニット4が取り付けられる配置凹部41が形成されたベース部42と、配置凹部41の前方の周縁部に取り付けられるイヤパッド43とを備えている。
イヤパッド43の前方の内周縁は放音口9として形成されている。
【0099】
内部空間2は、イヤパッド43とドライバユニット4の前面と放音口9とに囲まれた空間である前方空間7aと、ベース部42とドライバユニット4の後面とに囲まれた空間である後方空間7bから成る。
【0100】
音響再生装置1Aは、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12を備えている。
【0101】
ドライバユニット4の振動板4aの前方には、例えば網目状に形成され振動板4aを保護するための保護部材44が取り付けられている。
【0102】
保護部材44には、第1のマイクロフォン11が取り付けられる第1取付部44aと第2のマイクロフォン12が取り付けられる第2取付部44bが略中央に設けられている。
第2のマイクロフォン12は、集音面12aが第1のマイクロフォン11の集音面11aと異なる方向を向くように配置されている。
【0103】
例えば、第1取付部44aは後方(振動板方向)及び側方に開口された凹部とされ、集音面11aが振動板4aと略対向するように第1のマイクロフォン11が取り付けられる。
【0104】
また、第2取付部44bは前方及び側方に開口された凹部とされ、集音面12aがドライバユニット4の放音方向と同じ向きとなるように第2のマイクロフォン12が取り付けられる。
【0105】
第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12は、共に前方空間7aに配置されている。即ち、第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12は同一の音響空間に配置されている。
第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12が同じ音響空間に配置されており、且つ、第1のマイクロフォン11の集音面11aの向きと第2のマイクロフォン12の集音面12aが異なる向きとされていることにより、マイクロフォンが配置された音響空間におけるノイズ成分を高精度に集音することが可能となる。
従って、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0106】
音響再生装置1Aの内部構成のブロック図は、図3と同様の構成とされているため、説明を省略する。
【0107】
ヘッドフォンとしての音響再生装置1Aが図3及び図6に示す構成とされることで、第1集音信号S1の高域成分に基づく第1ノイズキャンセリング信号Snc1と第2集音信号S2の低域成分に基づく第2ノイズキャンセリング信号Snc2が合成されて合成ノイズキャンセリング信号Sncが生成されるため、ハウリングの発生を抑制しつつ鼓膜位置におけるノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0108】
<3.第2の実施の形態>
<3-1.イヤフォンとしての音響再生装置>
第2の実施の形態におけるイヤフォンとしての音響再生装置1Bは、内部空間2を複数の音響空間に分割するための音響抵抗部材51を備えている。
具体的な構成について、図7を参照して説明する。なお、図2に示した第1の実施の形態における音響再生装置1と同様の構成については、同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0109】
音響再生装置1Bは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、第1のマイクロフォン11と、第2のマイクロフォン12と、を備えている。
【0110】
内部空間2は、各部が配置される配置空間7と、音導管6に囲まれた音導空間8と、から成る。
配置空間7は、ドライバユニット4の前方の空間である前方空間7aと、ドライバユニット4の後方の空間である後方空間7bと、から成る。
【0111】
音導管6の前方の開口は、ドライバユニット4からの音響出力をハウジング3の外部へ出力するための放音口9として形成されている。
【0112】
音響再生装置1Bは、前方空間7aと音導空間8との間に両空間を隔てる音響抵抗部材51を備えている。
即ち、前方空間7aは、ハウジング3の箱状部5とドライバユニット4と音響抵抗部材51とに囲まれた空間とされることにより、音響的に安定した空間とされる。従って、ドライバユニット4から第1のマイクロフォン11までの空間の伝達関数がより変化しにくくされる。
【0113】
また、音導空間8は、ハウジング3の音導管6と、音響抵抗部材51と、放音口9と、に囲まれた空間とされている。
なお、二つの音響空間への分割は、音響抵抗部材51によって完全に二つの空間に分割する場合だけでなく、音響的に完全に二つの空間に分割した場合と同様の効果(或いはそれに類似した効果)を得られればよい。例えば、後述する図17図18のように二つの音響空間の間の一部に音響抵抗部材51を配置することにより音響的に二つの空間に分割されたと見なすことができる場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0114】
音響再生装置1Bの内部構成のブロック図は、図3と同様の構成とされている。
【0115】
音響再生装置1Bが、図3及び図7に示す構成とされることで、安定空間とされた前方空間7aで集音した信号である第1集音信号S1の高域成分に基づいて生成された第1ノイズキャンセリング信号Snc1は、ハウリングの発生をより抑制しつつノイズキャンセル性能の向上を図ることが可能なものとされる。
【0116】
また、第2ノイズキャンセリング信号Snc2は、キャンセルポイントをより鼓膜に近づけることが可能な信号とされる。
【0117】
従って、第1集音信号S1の高域成分に基づく第1ノイズキャンセリング信号Snc1と第2集音信号S2の低域成分に基づく第2ノイズキャンセリング信号Snc2が合成されて合成ノイズキャンセリング信号Sncが生成されることにより、ハウリングの発生を抑制しつつ鼓膜位置におけるノイズキャンセル性能を更に向上させることができる。
【0118】
<3-2.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
図8にヘッドフォンとしての音響再生装置1Cの構成例を示す。
なお、図2に示す音響再生装置1や図6に示す音響再生装置1Aや図7に示す音響再生装置1Bと同様の構成については、同一の符号を付し適宜説明を省略する。
【0119】
音響再生装置1Cは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12と、を備えている。
【0120】
ドライバユニット4は、振動板4aを備えることにより音響出力が可能とされている。
【0121】
ハウジング3は、ドライバユニット4が取り付けられる配置凹部41が形成されたベース部42と、配置凹部41の前方の周縁部に取り付けられるイヤパッド43とを備えている。
イヤパッド43の前方の内周縁は放音口9として形成されている。
【0122】
ドライバユニット4の振動板4aの前方には、例えば網目状に形成され振動板4aを保護するための保護部材44が取り付けられている。
【0123】
内部空間2は、イヤパッド43とドライバユニット4の前面と放音口9とに囲まれた空間である前方空間7aと、ベース部42とドライバユニット4の後面とに囲まれた空間である後方空間7bから成る。
【0124】
音響再生装置1Cには、前方空間7aを更に二つの音響空間に分ける音響抵抗部材51が設けられている。具体的には、音響抵抗部材51によって前方空間7aは、ドライバユニット4側の空間である内方空間52と、放音口9側の空間である外方空間53と、に分離されている。なお内方空間52及び外方空間53はイヤフォンとしての音響再生装置1における前方空間7a及び音導空間8として捉えることもできる。
【0125】
音響抵抗部材51は、例えば、保護部材44に取り付けられている。
【0126】
第1のマイクロフォン11は、集音面11aが振動板4aと略対向するように保護部材44の後面に取り付けられている。
【0127】
第2のマイクロフォン12は、集音面12aが放音口9を向くようにされて音響抵抗部材51の前面に取り付けられている。
【0128】
即ち、音響再生装置1Cが備える第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12は、音響抵抗部材51で隔てられた異なる音響空間に配置される。
【0129】
音響再生装置1Cの内部構成のブロック図は、図3と同様の構成とされている。即ち、音響再生装置1Cにおいては、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1の高域成分に基づいて第1ノイズキャンセリング信号Snc1が生成される。
【0130】
従って、音響的に安定空間とされた内方空間52に配置された第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1を用いて合成ノイズキャンセリング信号Sncが生成されることにより、ハウリングの発生をより抑制することが可能なものとされる。
【0131】
また、第2集音信号S2の低域成分を用いて合成ノイズキャンセリング信号Sncが生成されることにより、鼓膜位置におけるノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0132】
<4.第3の実施の形態>
<4-1.イヤフォンとしての音響再生装置>
第3の実施の形態におけるイヤフォンとしての音響再生装置1Dは、内部空間2を複数の音響空間に分割する音響抵抗部材51を備えると共に、第2のマイクロフォン12をドライバユニット4の後方に配置したものである。
【0133】
具体的に、図9を参照して説明する。
音響再生装置1Dは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、第1のマイクロフォン11と、第2のマイクロフォン12と、を備えている。
【0134】
内部空間2は、各部が配置される配置空間7と、音導管6に囲まれた音導空間8と、から成る。
配置空間7は、ドライバユニット4の前方の空間である前方空間7aと、ドライバユニット4の後方の空間である後方空間7bと、から成る。
【0135】
音響再生装置1Dは、前方空間7aと音導空間8との間に両空間を隔てる音響抵抗部材51を備えている。
即ち、前方空間7aは、ハウジング3の箱状部5とドライバユニット4と音響抵抗部材51とに囲まれた空間とされることにより、音響的に安定した空間とされる。
【0136】
第1のマイクロフォン11は、前方空間7aにおいて集音面11aが振動板4aと略対向するように配置されている。
第2のマイクロフォン12は、後方空間7bにおいて集音面12aが振動板4aと対向しないように配置されている。
【0137】
音響再生装置1Dの内部構成のブロック図は、図3と同様の構成とされている。
【0138】
後方空間7bに配置した第2のマイクロフォン12においては、振動板4aから前方に放出される音圧とは逆相の音圧とハウジング3を介して侵入してきたノイズが集音可能とされる。更に、第2のマイクロフォン12が集音する信号がドライバユニットからマイクロフォンまでの空間の伝達関数の変化の影響を受けにくい構成とすることができる。
【0139】
従って、第2のマイクロフォン12による第2集音信号S2を用いて合成ノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0140】
なお、本例においては、第1のマイクロフォン11が前方空間7aに配置され第2のマイクロフォン12が後方空間7bに配置された例を示したが、第1のマイクロフォン11が後方空間7bに配置され第2のマイクロフォン12が音導空間8に配置されていてもよい。
【0141】
<4-2.ヘッドフォンとしての音響再生装置>
第3の実施の形態におけるヘッドフォンとしての音響再生装置1Eについて、図10を参照して説明する。
なお、図2に示す音響再生装置1や図6に示す音響再生装置1Aなど、上述した各種の音響再生装置と同様の構成については、同一の符号を付し適宜説明を省略する。
【0142】
音響再生装置1Eは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12と、を備えている。
【0143】
ドライバユニット4は、振動板4aを備えることにより音響出力が可能とされている。
【0144】
ハウジング3は、ベース部42とイヤパッド43とを備えている。イヤパッド43の前方の内周縁は放音口9として形成されている。
【0145】
ドライバユニット4の振動板4aの前方には、保護部材44が取り付けられている。
【0146】
第1のマイクロフォン11は、前方空間7aに配置されている。具体的には、第1のマイクロフォン11は、集音面11aが振動板4aと略対向するように保護部材44の後面に取り付けられている。
【0147】
第2のマイクロフォン12は、後方空間7bに配置されている。具体的には、第2のマイクロフォン12は、集音面12aが第1のマイクロフォン11の集音面11aとは異なる向きとなるようにハウジング3に取り付けられている。
【0148】
即ち、音響再生装置1Eが備える第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12は、異なる音響空間に配置される。
【0149】
後方空間7bに配置した第2のマイクロフォン12においては、振動板4aから前方に放出される音圧とは逆相の音圧とハウジング3を介して侵入してきたノイズが集音可能とされる。
【0150】
従って、第2のマイクロフォン12による第2集音信号S2を用いて合成ノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0151】
<5.第4の実施の形態>
<5-1.音響再生装置の構成>
図11は、第4の実施の形態におけるイヤフォンとしての音響再生装置1Fである。第4の実施の形態における音響再生装置1Fは、フィードフォワード方式のノイズキャンセリング信号を生成するための第3のマイクロフォン61を備えている。
【0152】
具体的に、音響再生装置1Fの構成について、図11を参照して説明する。
【0153】
音響再生装置1Fは、内部空間2が形成されたハウジング3と、内部空間2に配置されるドライバユニット4と、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12と、フィードフォワード方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォン61と、を備えている。
【0154】
内部空間2は、各部が配置される配置空間7と、音導管6に囲まれた音導空間8と、から成る。
配置空間7は、ドライバユニット4の前方の空間である前方空間7aと、ドライバユニット4の後方の空間である後方空間7bと、から成る。
【0155】
第1のマイクロフォン11は、前方空間7aにおいて集音面11aが振動板4aと略対向するように配置されている。
第2のマイクロフォン12は、集音面12aが第1のマイクロフォン11の集音面11aと異なる方向を向くように音導空間8に配置されている。
【0156】
第3のマイクロフォン61は、音響再生装置1Fの外部の音を集音可能なように集音面61aが外部空間に位置するようにハウジング3に取り付けられている。
【0157】
これにより、フィードバック方式のノイズキャンセル処理とフィードフォワード方式のノイズキャンセル処理を組み合わせることができ、ノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0158】
なお、前方空間7aと音導空間8との間に両空間を隔てる音響抵抗部材51を音響再生装置1Fが備えていてもよい。
これにより、前方空間7aは、ハウジング3の箱状部5とドライバユニット4と音響抵抗部材51とに囲まれた音響的に安定した空間とされる。
【0159】
<5-2.音響再生装置の内部構成>
図12は、音響再生装置1Fの内部構成のブロック図である。
音響再生装置1Fは、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に対する処理を行うための各部として、第1アンプ21Aと、第1ADC22Aと、第1DSP23Aと、を備えている。
【0160】
また、音響再生装置1Fは、第2のマイクロフォン12の集音信号S2に対する処理を行うための各部として、第2アンプ21Bと、第2ADC22Bと、第2DSP23Bと、を備えている。
【0161】
更に、音響再生装置1は、第3のマイクロフォン61の集音信号S3に対する処理を行うための各部として、第3アンプ21Cと、第3ADC22Cと、第3DSP23Cと、を備えている。
【0162】
音響再生装置1Fは、加算器24,25と、イコライザ回路26と、DAC27と、パワーアンプ28と、を備え、更に加算器62を備えている。
【0163】
第1集音信号S1は、前述したように、ドライバユニット4の振動板4aの前方空間7aのノイズを含んだ音響を集音したものである。
第1集音信号S1は、第1アンプ21Aで増幅された後、第1ADC22Aでデジタル信号に変換されて第1DSP23Aに入力される。
【0164】
第1DSP23Aは、フィードバック方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタを備えている(図4参照)。
第1DSP23Aで生成された信号は、加算器24に入力される。
【0165】
第2集音信号S2は、前述したように、音導管6の内部空間である音導空間8のノイズを含んだ音響を集音したものである。
第2集音信号S2は、第2アンプ21Bで増幅された後、第2ADC22Bでデジタル信号に変換されて第2DSP23Bに入力される。
【0166】
第2DSP23Bは、フィードバック方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタを備えている(図5参照)。
第2DSP23Bで生成された信号は、加算器24に入力される。
【0167】
加算器24は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc1と、第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc2とを加算合成し、加算器62へ出力する。
【0168】
第3集音信号S3は、音響再生装置1Fの外部空間のノイズを含んだ音響を集音したものである。
第3集音信号S3は、第3アンプ21Cで増幅された後、第3ADC22Cでデジタル信号に変換されて第3DSP23Cに入力される。
【0169】
第3DSP23Cは、フィードフォワード方式のノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタを備えている。具体的には、図13に示すように、第3FFフィルタ63を備えている。
【0170】
第3FFフィルタ63は、フィードフォワード方式のデジタルノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタである。即ち、第3FFフィルタ63は、第3集音信号S3に基づいて第3ノイズキャンセリング信号Snc3を生成する。
第3DSP23Cで生成された第3ノイズキャンセリング信号Snc3は、加算器62に入力される。
【0171】
加算器62は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc1と第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc2の合成信号と、第3のマイクロフォン61の第3集音信号S3に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Snc3とを加算合成し、合成ノイズキャンセリング信号Sncとして加算器25へ出力する。
【0172】
加算器25に対しては、合成ノイズキャンセリング信号Sncの他に音源信号Smに基づくデジタル信号も入力される。
【0173】
音源信号Smは、イコライザ回路26に入力される。
イコライザ回路26は、入力される音源信号Smに対して音質補正処理や音質効果処理のためのイコライジング処理を行い、得たデジタル信号を加算器25へ出力する。
イコライザ回路26は、例えば、DSP内に構成されていてもよい。
【0174】
加算器25は、合成ノイズキャンセリング信号Sncとイコライザ回路26からの信号を加算合成し、出力音響信号としてDAC27へ出力する。
【0175】
加算器25からの出力信号は、DAC27でアナログ信号へ変換された後、パワーアンプ28で増幅されてドライバユニット4へ供給される。
【0176】
ドライバユニット4では、入力された出力音響信号に基づく音響出力処理が実行される。これにより、所定のノイズキャンセルポイントにおいてノイズが低減された再生音響がリスナに聴取される状態となる。
【0177】
第1のマイクロフォン11は、図11に示すように、集音面11aがドライバユニット4の振動板4aに対向するように配置されているため、第1ノイズキャンセリング信号Snc1は、ハウリングの発生を抑制することが可能とされる。
【0178】
また、集音面12aが第1のマイクロフォン11とは異なる向きとされた第2のマイクロフォン12による第2集音信号S2を用いることにより、キャンセルポイントを鼓膜に近づけることが可能である。
【0179】
更に、集音面61aが音響再生装置1Fの外部空間のノイズを拾うように構成されていることにより、フィードフォワード方式によるノイズキャンセル処理を行うことが可能である。
第3のマイクロフォン61による第3集音信号S3を用いることにより、ノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0180】
図12では、第1DSP23Aと第2DSP23Bと第3DSP23Cが設けられている例を示したが、一つのDSP内に第1集音信号S1用のデジタルフィルタと第2集音信号S2用のデジタルフィルタと第3集音信号S3用のデジタルフィルタが形成されていてもよい。
また、その場合には、同じDSPにおいてイコライザ回路26が形成されていてもよい。
【0181】
なお、図3においては、音源信号Smがデジタル信号である例を示したが、アナログ信号であってもよい。その場合には、音源信号SmがADCを用いてデジタル信号に変換されてイコライザ回路26に入力される。
【0182】
また、第4の実施の形態としての音響再生装置1Fは、第3のマイクロフォン61を備えたヘッドフォンとしての音響再生装置でもよく、その場合でも同様の効果を得ることができる。
【0183】
<6.変形例>
<6-1.第1変形例>
上述した各例では、第1集音信号S1、第2集音信号S2それぞれに対して、ノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタが設けられている例を説明した。
即ち、図3図4及び図5で説明したように、音響再生信号1においては、第1集音信号S1を用いてノイズキャンセリング信号Snc1を生成するためのデジタルフィルタとして第1FBフィルタ32が設けられ、第2集音信号S2を用いてノイズキャンセリング信号Snc2を生成するためのデジタルフィルタとして第2FBフィルタ34が設けられている。
【0184】
デジタルフィルタ処理の演算量を削減するために、ノイズキャンセリング信号Sncを生成するためのデジタルフィルタが一つだけ設けられていてもよい。
【0185】
具体的に図14を参照して、ノイズキャンセリング信号Sncを生成するためのデジタルフィルタが一つだけ設けられた音響再生装置1Gの内部構成を説明する。
【0186】
音響再生装置1Gは、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に対する処理を行うための各部として、第1アンプ21Aと、第1ADC22Aと、HPF71と、を備えている。即ち、音響再生装置1Gは、第1集音信号S1についてのデジタルフィルタ処理を行う第1DSPを備えていない。
【0187】
第1集音信号S1は、第1アンプ21Aで増幅された後、第1ADC22Aでデジタル信号に変換され、更にHPF71で低域成分を除去されて加算器73に入力される。
【0188】
音響再生装置1Gは、第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2に対する処理を行うための各部として、第2アンプ21Bと、第2ADC22Bと、LPF72と、を備えている。即ち、音響再生装置1Gは、第2集音信号S2についてのデジタルフィルタ処理を行う第2DSPを備えていない。
【0189】
第2集音信号S2は、第2アンプ21Bで増幅された後、第2ADC22Bでデジタル信号に変換され、更にLPF72で高域成分を除去されて加算器73に入力される。
【0190】
加算器73は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1の高域成分と、第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2の低域成分とを加算合成し、ノイズキャンセリング信号を生成するためのデジタルフィルタであるFBフィルタ74へ出力する。
【0191】
FBフィルタ74は、加算合成された集音信号に基づいて、ノイズキャンセリング信号Snc’を生成するためのデジタルフィルタ処理を行う。
生成されたノイズキャンセリング信号Snc’は、前述した合成ノイズキャンセリング信号Sncと見なすことが可能である。
【0192】
加算器25は、ノイズキャンセリング信号Snc’とイコライザ回路26からの信号を加算合成し、出力音響信号としてDAC27へ出力する。
【0193】
DAC27は、加算器25からの入力信号をアナログ信号へ変換し、パワーアンプ28へ出力する。
パワーアンプ28は、入力信号を増幅してドライバユニット4へ供給する。
【0194】
ドライバユニット4では、入力された出力音響信号に基づく音響出力処理が実行される。
【0195】
なお、図14に示すHPF71は、第1ADC22Aの後段ではなく前段に設けられていてもよい。即ち、アナログ信号についてのフィルタ処理を行ってもよい。
同様に、LPF72は第2ADC22Bの前段に設けられていてもよい。
【0196】
なお、HPF71はハイシェルビングフィルタやハイピークEQフィルタなどで代用することが可能である。また、LPF72はローシェルビングフィルタやローピークEQフィルタなどで代用することが可能である。
【0197】
更に、HPF71やLPF72が設けられておらず、FBフィルタ74のみが設けられている構成であってもよい。
【0198】
<6-2.第2変形例>
第2の実施の形態では、音響再生装置1B,1Cに音響抵抗部材51が設けられている例を説明した。
ここでは、音響抵抗部材51の取り付け態様について、ヘッドフォン型の音響再生装置1Cを例示して説明する。
【0199】
保護部材44への音響抵抗部材51の取り付け例の一つ目を図15に示す。音響抵抗部材51(斜線のハッチングで図示する)は、保護部材44の前方における全面に亘って取り付けられていてもよい。
これにより、音響抵抗部材51の前方の空間(例えば外方空間53)と後方の空間(例えば内方空間52)を音響的に分断することができる。従って、後方の空間を音響的により安定した空間とすることができ、ハウリングの発生を抑制することができる。
【0200】
保護部材44への音響抵抗部材51の取り付け例の二つ目を図16に示す。音響抵抗部材51(斜線のハッチングで図示する)は、保護部材44の略中央部を覆うように前方から取り付けられてもよい。
この場合には、音響抵抗部材51の中央に第1のマイクロフォン11が位置するようにすることが好ましい。
【0201】
保護部材44への音響抵抗部材51の取り付け例の三つ目を図17に示す。音響抵抗部材51(斜線のハッチングで図示する)は、保護部材44の上半分の領域や下半分の領域や右半分の領域や左半分の領域を覆うように前方から取り付けられてもよい。
また、その場合には、音響抵抗部材51が保護部材44の中央部に対して音響抵抗部材51によって覆われた部分にオフセットするように位置されることが好ましい。
【0202】
保護部材44への音響抵抗部材51の取り付け例の四つ目を図18に示す。音響抵抗部材51(斜線のハッチングで図示する)は、保護部材44の上端から下端にかけて中央部を覆うように前方から取り付けられてもよい。
また、その場合には、音響抵抗部材51の中央に第1のマイクロフォン11が位置するようにすることが好ましい。
【0203】
図15に示すような保護部材44の全面に亘って音響抵抗部材51を取り付ける構成以外に、図16図17及び図18に示すような構成であっても、後方の空間を音響的に安定した空間とすることができるため、ハウリングの発生を抑制する効果を得ることができる。
【0204】
<6-3.その他>
なお、上述した各例では、音響再生装置としてヘッドフォンやイヤフォンを例に挙げたが、それ以外の例も考えられる。例えば、部屋のようなある程度の広さを有した空間におけるノイズキャンセル処理を行うために生成されるノイズキャンセリング信号についても、上述した構成を適用することができる。
即ち、FB制御に用いる第1MCと第2MCが部屋内に設けられる。この場合には、第1MCよりも第2MCの方が窓やドアの近くとなるように配置される。
更に、部屋の外部にFF制御に用いる第3MCを設けてもよい。
このようにして、音響空間としての部屋で音楽などを視聴する場合に、ノイズが低減され視聴に適した空間を提供することができる。
【0205】
<7.まとめ>
上述したヘッドフォンやイヤフォンなどの音響再生装置1(1A,1B,1C,1D,1E,1G)においては、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11と、第1のマイクロフォン11とは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォン12と、第1のマイクロフォン11により集音された第1集音信号S1と第2のマイクロフォン12により集音された第2集音信号S2とを用いてノイズキャンセリング信号Sncを生成する音響信号処理部(第1DSP23A、第2DSP23B等)と、を備えている。
フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いるためのマイクロフォンを複数備えた構成において、音響再生装置1内の複数の音響空間(例えば、ドライバユニット4の前方空間7aと音導管内の空間(音導空間8))において集音を行う状態にしやすい。
フィードバック方式に用いるマイクロフォンを複数用いることで、ノイズキャンセル効果の向上に寄与することができるが、それぞれのマイクロフォンの集音方向を変えることで、複数の空間においてノイズを含む音響信号の集音を適切に行うことができ、フィードバック方式によるノイズキャンセル効果の向上に好適である。
【0206】
第1の実施の形態(図2)で説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11の集音面11aは第2のマイクロフォン12の集音面12aよりもノイズキャンセリング信号Sncに基づいて音響出力を行うドライバユニット4の近くに位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニット4から第1のマイクロフォン11の集音面11aまでの空間の伝達関数が変化しにくくされる。
従って、第1FBフィルタ32において設定されたフィルタ係数で十分なノイズキャンセル性能を有した第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成することが可能となる。即ち、第1のマイクロフォン11の集音信号により生成された第1ノイズキャンセリング信号Snc1を加えることにより、ノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0207】
第1の実施の形態(図2)で説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11の集音面11aはノイズキャンセリング信号Sncに基づいて音響出力を行うドライバユニット4の放音方向(前方)に対向して位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニット4から第1のマイクロフォン11の集音面11aまでの空間の伝達関数が変化しにくくされる。
従って、第1FBフィルタ32において設定されたフィルタ係数で十分なノイズキャンセル性能を有した第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成することが可能となる。即ち、第1のマイクロフォン11の集音信号により生成された第1ノイズキャンセリング信号Snc1を加えることにより、ノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0208】
第1の実施の形態(図2)で説明したように、音響再生装置1においては、ノイズキャンセリング信号Snc1に基づいて音響出力を行うドライバユニット4が配置されドライバユニット4からの出力音が放音される放音口9を有したハウジング3を備え、第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12は、ハウジング3内に配置され、第2のマイクロフォン12は第1のマイクロフォン11よりも放音口9に近い位置に位置されていてもよい。
これにより、第2のマイクロフォン12は第1のマイクロフォン11よりも耳の鼓膜に近い位置における集音を行うことができる。
従って、キャンセルポイントが耳の鼓膜に近くなり、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0209】
第1の実施の形態(図2図6)や、第2の実施の形態(図7図8)や、第3の実施の形態(図9図10)や、第4の実施の形態(図11)などで説明したように、音響再生装置1においては、第2のマイクロフォン12の集音面12aはノイズキャンセリング信号Sncに基づいて音響出力を行うドライバユニット4の放音方向(前方)に対向しないように位置されていてもよい。
これにより、第2のマイクロフォン12がノイズを集音しやすくされる。
従って、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0210】
第1の実施の形態(図6)で説明したように、音響再生装置1においては、ハウジング3内においてドライバユニット4の放音方向に少なくとも一つの音響空間が位置し、第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12は一つの音響空間に位置されていてもよい。
これにより、マイクロフォンが配置された音響空間におけるノイズ成分を高精度に集音することができる。
従って、フィルタ係数の設定をより適切に行うことが可能とされ、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
また、音響空間を複数に分割するための部材等の配置が不要とされる。これにより、製造に係るコストの削減を行うことができる。また、部品点数が削減されることにより、組み立て工数の削減を図ることができる。
【0211】
第1の実施の形態(図6)や第2の実施の形態(図8)や第3の実施の形態(図10)などで説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11は集音面11aがドライバユニット4の放音方向に対向するように位置され、第2のマイクロフォン12は集音面12aがドライバユニット4の放音方向と同じ向きになるように位置されていてもよい。
これにより、ドライバユニット4から第1のマイクロフォン11の集音面11aまでの空間の伝達関数が変化しにくい。また、第2のマイクロフォン12は鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすくされる。
従って、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1と第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2の双方を用いてノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、ハウリングの発生を抑制しつつノイズキャンセル性能を向上させることが可能となる。
【0212】
第1の実施の形態(図2)や第2の実施の形態(図7図8)、或いは、第3の実施の形態(図9図10)などで説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12は異なる音響空間に配置されていてもよい。
これにより、第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12で集音されるノイズが異なるものとされる。
従って、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1と第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2の双方に基づいてノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、ノイズキャンセル性能の向上を図ることが可能となる。
【0213】
第1の実施の形態(図2)や第2の実施の形態(図7図8)、或いは、第3の実施の形態(図9図10)などで説明したように、音響再生装置1においては、ハウジング3内に複数の音響空間が設けられ、第1のマイクロフォン11及び第2のマイクロフォン12は複数の音響空間における異なる空間に位置されていてもよい。
これにより、第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12が共にハウジング3内に配置される。また、第1のマイクロフォン11と第2のマイクロフォン12で集音されるノイズがより異なるものとされる。
従って、ハウジング内の異なる位置における集音信号を得ることができ、ノイズキャンセル性能の向上を図ることができる。
【0214】
第2の実施の形態(図7図8)などで説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11が位置される第1音響空間(前方空間7a、内方空間52)と第2のマイクロフォン12が位置される第2音響空間(音導空間8)を隔てる音響抵抗部材51が配置されていてもよい。
これにより、一方の音響空間(前方空間7a)についてドライバユニット4からマイクロフォン(第1のマイクロフォン11)までの空間の伝達関数が変化しにくい安定空間とすることができる。
従って、設定されたフィルタ係数を用いて高いノイズキャンセル効果を得ることができる。
【0215】
第2の実施の形態(図7図8)などで説明したように、音響再生装置1においては、ノイズキャンセリング信号Sncに基づいて音響出力を行うドライバユニット4が配置されドライバユニット4からの出力音が放音される放音口9を有したハウジング3を備え、第1音響空間(前方空間7a)は、ドライバユニット4と音響抵抗部材51とハウジング3とに囲まれた空間とされ、第2音響空間(音導空間8)は、音響抵抗部材51とハウジング3と放音口9とに囲まれた空間とされていてもよい。
これにより、第1音響空間は、空間の伝達関数が変化しにくい安定空間とされる。また、第2音響空間は、鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすい空間とされる。
音響的な安定空間とされた第1音響空間(図2における前方空間7aや図8における内方空間52など)に配置された第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1を用いて第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成することで、第1FBフィルタ32に設定されたフィルタ係数はノイズキャンセル性能の高い適切なものとすることができる。
また、イヤフォンやヘッドフォンなどの音響再生装置は使用状態によって変形する場合がある。その場合には、空間伝達関数が変化することにより、設定されたフィルタ係数が適切でなくなり、ハウリングの発生などを招来してしまう虞がある。そのような場合であっても、第1音響空間が音響抵抗部材51によって外部と遮蔽されることにより音響的な安定状態が維持されることで、フィルタ係数の適切な設定が確保され、ハウリングの発生を抑制することができる。
しかし、安定空間に配置されたマイクロフォン(第1のマイクロフォン11)では、ノイズキャンセル効果を発揮したいポイント付近(即ち鼓膜付近)のノイズを十分に集音することができない場合がある。ノイズの集音が不十分である場合には、生成されたノイズキャンセリング信号が適切なものではなくなり、鼓膜位置におけるアクティブノイズキャンセル効果が低減してしまう場合がある。
本構成によれば、第1音響空間とは異なる第2音響空間(図2における音導空間8や図8における外方空間53など)に配置された第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2を用いて第2ノイズキャンセリング信号Snc2が生成されるため、ハウリングを抑えつつ高いノイズキャンセル性能を発揮することができる。
【0216】
第3の実施の形態(図9図10)などで説明したように、音響再生装置1においては、第1のマイクロフォン11はノイズキャンセリング信号Sncに基づいて音響出力を行うドライバユニット4の放音方向である前方側に位置され、第2のマイクロフォン12はドライバユニット4の後方側に位置されていてもよい。
これにより、例えば、ドライバユニット4の後方に位置する第2のマイクロフォン12は、音響出力の逆相の音を集音可能とされる。更に、第2のマイクロフォン12は、ドライバユニット4から第2のマイクロフォン12の集音面12aまでの空間の伝達関数がリスナの装着状態により変化しにくくされる。
このとき、第2のマイクロフォン12は、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1に基づいて生成されたノイズキャンセリング信号Sncでは消しきれなかったノイズについても集音される。
従って、第1のマイクロフォン11の第1集音信号S1だけでなく第2のマイクロフォン12の第2集音信号S2に基づいてノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、高いノイズキャンセル性能を発揮することができる。
【0217】
第1の実施の形態(図4図5)で説明したように、音響再生装置1においては、第1集音信号S1の高域成分に基づいて第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成する第1フィードバックフィルタ(第1FBフィルタ32)と、第2集音信号S2の低域成分に基づいて第2ノイズキャンセリング信号Snc2を生成する第2フィードバックフィルタ(第2FBフィルタ34)と、を備え、音響信号処理部は、第1ノイズキャンセリング信号Snc1と第2ノイズキャンセリング信号Snc2に基づいてノイズキャンセリング信号Sncの生成を行ってもよい。
第1のマイクロフォン11は第2のマイクロフォン12よりもドライバユニット4の近くに配置されているため、第1FBフィルタ32に設定されるフィルタ係数は第2FBフィルタ34に設定されるフィルタ係数よりも不適切なものになりにくい。これにより、第1集音信号S1に基づく第1ノイズキャンセリング信号Snc1は、第2集音信号S2に基づくノイズキャンセリング信号Snc2よりもハウリングが発生しにくいものとすることができる。
従って、ハウリングが起きやすい高域成分については、第1集音信号S1を用いることによりハウリングが発生しにくい第1ノイズキャンセリング信号Snc1を生成し、ハウリングが起きにくい低域成分については、第2集音信号S2を用いてノイズキャンセル性能を向上させた第2ノイズキャンセリング信号Snc2を生成する。これらを用いてノイズキャンセリング信号Sncを生成することにより、ハウリングの発生を抑制しつつノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0218】
第1の実施の形態(図4図5)で説明したように、音響再生装置1においては、ハイパスフィルタHPF31、ハイシェルビングフィルタまたはハイピークEQフィルタによって第1集音信号S1の高域成分が抽出され、ローパスフィルタLPF33、ローシェルビングフィルタまたはローピークEQフィルタによって第2集音信号S2の低域成分が抽出されてもよい。
これにより、ドライバユニット4からマイクロフォンまでの空間の伝達関数が変化しにくい第1のマイクロフォン11のフィードバックループに対して、ハウリングしやすい高域成分の集音信号を入力することができる。また、鼓膜により近い位置のノイズを集音しやすい第2のマイクロフォン12のフィードバックループに対して、低域成分の集音信号を入力することができる。
従って、ハウリングの発生を抑制することができる。また、第1集音信号S1の低域成分が除去されることにより、第2集音信号S2に基づくノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0219】
第4の実施の形態(図11)などで説明したように、音響再生装置1においては、フィードフォワード方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォン61を備え、音響信号処理部(第1DSP23A、第2DSP23B、第3FFフィルタ63等)は、第1集音信号S1と第2集音信号S2と第3のマイクロフォン61により集音された第3集音信号S3とを用いてノイズキャンセリング信号Sncの生成を行ってもよい。
例えば、音響再生装置1Fの外部の音を集音するように第3のマイクロフォン61を設けることが考えられる。
このような第3のマイクロフォン61による第3集音信号S3を用いることにより、ノイズキャンセル性能を向上させることができる。
【0220】
上述した各種の実施の形態のように、信号処理装置は、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11によって集音された第1集音信号S1と、第1のマイクロフォン11とは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォン12によって集音された第2集音信号S2と、を用いてノイズキャンセリング信号Sncを生成する音響信号処理部(第1DSP23A、第2DSP23B等)を備えている。
【0221】
また、信号処理装置が実行する信号処理方法は、フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォン11によって集音された第1集音信号S1と、第1のマイクロフォン11とは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォン12によって集音された第2集音信号S2と、を用いてノイズキャンセリング信号Sncを生成するもので方法である。
このような信号処理装置及び信号処理方法により、音響再生装置1内の複数の音響空間(例えば、ドライバユニット4の前方空間7aと音導管内の空間(音導空間8))において集音を行う状態にしやすく、フィードバック方式に用いるマイクロフォンを複数用いることで、ノイズキャンセル効果の向上に寄与することができるが、それぞれのマイクロフォンの集音方向を変えることで、複数の空間においてノイズを含む音響信号の集音を適切に行うことができる。これにより、フィードバック方式によるノイズキャンセル効果の向上が可能とされる。
【0222】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
また、上述した各例は、組み合わせが不可能でない限りいかように組み合わせることも可能である。
【0223】
<8.本技術>
なお本技術のヘッドフォン装置は以下のような構成も採ることができる。
(1)
フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンと、
前記第1のマイクロフォンとは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンと、
前記第1のマイクロフォンにより集音された第1集音信号と前記第2のマイクロフォンにより集音された第2集音信号とを用いてノイズキャンセリング信号を生成する音響信号処理部と、を備えた
音響再生装置。
(2)
前記第1のマイクロフォンの集音面は前記第2のマイクロフォンの集音面よりも前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの近くに位置された
上記(1)に記載の音響再生装置。
(3)
前記第1のマイクロフォンの集音面は前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向に対向して位置された
上記(1)から上記(2)の何れかに記載の音響再生装置。
(4)
前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットが配置され前記ドライバユニットからの出力音が放音される放音口を有したハウジングを備え、
前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは、前記ハウジング内に配置され、
前記第2のマイクロフォンは前記第1のマイクロフォンよりも前記放音口に近い位置に位置された
上記(1)から上記(3)の何れかに記載の音響再生装置。
(5)
前記第2のマイクロフォンの集音面は前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向に対向しないように位置された
上記(1)から上記(4)の何れかに記載の音響再生装置。
(6)
前記ハウジング内において前記ドライバユニットの放音方向に少なくとも一つの音響空間が位置し、
前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは前記一つの音響空間に位置された
上記(4)に記載の音響再生装置。
(7)
前記第1のマイクロフォンは集音面が前記ドライバユニットの放音方向に対向するように位置され、
前記第2のマイクロフォンは集音面が前記ドライバユニットの放音方向と同じ向きになるように位置された
上記(6)に記載の音響再生装置。
(8)
前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは異なる音響空間に配置された
上記(1)から上記(5)の何れかに記載の音響再生装置。
(9)
前記ハウジング内に複数の音響空間が設けられ、
前記第1のマイクロフォン及び前記第2のマイクロフォンは前記複数の音響空間における異なる空間に位置された
上記(4)または上記(6)の何れかに記載の音響再生装置。
(10)
前記第1のマイクロフォンが位置される第1音響空間と前記第2のマイクロフォンが位置される第2音響空間を隔てる音響抵抗部材が配置された
上記(8)に記載の音響再生装置。
(11)
前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットが配置され前記ドライバユニットからの出力音が放音される放音口を有したハウジングを備え、
前記第1音響空間は、前記ドライバユニットと前記音響抵抗部材と前記ハウジングとに囲まれた空間とされ、
前記第2音響空間は、前記音響抵抗部材と前記ハウジングと前記放音口とに囲まれた空間とされた
上記(10)に記載の音響再生装置。
(12)
前記第1のマイクロフォンは前記ノイズキャンセリング信号に基づいて音響出力を行うドライバユニットの放音方向である前方側に位置され、
前記第2のマイクロフォンは前記ドライバユニットの後方側に位置された
上記(1)から上記(11)の何れかに記載の音響再生装置。
(13)
前記第1集音信号の高域成分に基づいて第1ノイズキャンセリング信号を生成する第1フィードバックフィルタと、
前記第2集音信号の低域成分に基づいて第2ノイズキャンセリング信号を生成する第2フィードバックフィルタと、を備え、
前記音響信号処理部は、前記第1ノイズキャンセリング信号と前記第2ノイズキャンセリング信号に基づいて前記ノイズキャンセリング信号の生成を行う
上記(2)に記載の音響再生装置。
(14)
ハイパスフィルタ、ハイシェルビングフィルタまたはハイピークEQフィルタによって前記第1集音信号の高域成分が抽出され、
ローパスフィルタ、ローシェルビングフィルタまたはローピークEQフィルタによって前記第2集音信号の低域成分が抽出される
上記(13)に記載の音響再生装置。
(15)
フィードフォワード方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第3のマイクロフォンを備え、
前記音響信号処理部は、前記第1集音信号と前記第2集音信号と前記第3のマイクロフォンにより集音された第3集音信号とを用いて前記ノイズキャンセリング信号の生成を行う
上記(1)から上記(14)の何れかに記載の音響再生装置。
(16)
フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンによって集音された第1集音信号と、前記第1のマイクロフォンとは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンによって集音された第2集音信号と、を用いてノイズキャンセリング信号を生成する音響信号処理部を備えた
信号処理装置。
(17)
フィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第1のマイクロフォンによって集音された第1集音信号と、前記第1のマイクロフォンとは異なる方向に集音面を有しフィードバック方式によるノイズキャンセル処理に用いられる第2のマイクロフォンによって集音された第2集音信号と、を用いてノイズキャンセリング信号を生成する
信号処理方法。
【符号の説明】
【0224】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F 音響再生装置
3 ハウジング
4 ドライバユニット
7a 前方空間(第1音響空間)
8 音導空間(第2音響空間)
9 放音口
11 第1のマイクロフォン
11a 集音面
12 第2のマイクロフォン
12a 集音面
23A 第1DSP(音響信号処理部)
23B 第2DSP(音響信号処理部)
31 HPF
32 第1FBフィルタ
33 LPF
34 第2FBフィルタ
51 音響抵抗部材
52 内方空間(第1音響空間)
61 第3のマイクロフォン
63 第3FFフィルタ
71 HPF
72 LPF
S1 第1集音信号
S2 第2集音信号
S3 第3集音信号
Snc1 第1ノイズキャンセリング信号
Snc2 第2ノイズキャンセリング信号
Snc 合成ノイズキャンセリング信号
図1
図2
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