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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010646
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
G02B27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112727
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 武
(72)【発明者】
【氏名】三浦 清雅
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA13
2H199DA15
2H199DA20
2H199DA22
2H199DA23
2H199DA32
2H199DA36
2H199DA46
(57)【要約】
【課題】虚像を視認する場合の表示角度と実像を視認する場合の表示角度とを異ならせて表示するヘッドアップディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】射出する光の偏光を互いに異なる第1偏光と第2偏光とに切り替え可能な表示部12と、第1偏光となる表示光L1を反射すると共に第2偏光となる表示光L2を透過する第1ミラー131と、表示光L2を反射する第2ミラー132と、表示部12の光路に対する角度が可変となるように回転させるモーター14と、表示部12及びモーター14を制御する制御部15とを備え、制御部15が、表示光L1を出射する場合と表示光L2を出射する場合とで、表示部12の光路に対する角度を異ならせるように制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出口を有し、前記射出口から表示光を透光部材に向けて射出することで前記表示光が表す表示像の虚像及び実像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
表示素子と、前記表示素子よりも光路に沿って前記射出口側に設けられると共に射出する光の偏光を互いに異なる第1偏光と第2偏光とに切り替え可能な切替素子と、を備え、光源が出射した光を透過させると共に前記表示像を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記表示像を表す光を前記透光部材に向けて反射させる反射部と、
前記表示部の光路に対する角度が可変となるように回転させる駆動部と、
前記切替素子及び前記駆動部を制御する制御部と、
を有し、
前記反射部は、
第1偏光となる第1光線を反射すると共に第2偏光となる第2光線を透過する第1ミラーと、
前記第2光線を反射する第2ミラーと、
を含み、
前記第1ミラー及び前記第2ミラーは、
前記表示素子が前記第1光線を出射するときは、前記透光部材及び前記反射部を含む結像光学系の光学焦点と前記表示部との間の位置関係が、前記表示部が前記光学焦点よりも前記射出口側となる第1状態となり、
前記表示素子が前記第2光線を出射するときは、前記表示部が前記光学焦点よりも前記光源側となる第2状態となるように配置されており、
前記制御部は、
前記表示素子から前記第1光線を出射する前記第1状態における前記表示部の前記角度と、前記表示素子から前記第2光線を出射する前記第2状態における前記表示部の前記角度とが、互いに異なるように、前記表示素子と前記駆動部とを連携して制御する
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1状態において視認させる前記虚像が路面に対して45度未満の第1角度で視認され、前記第2状態において視認させる前記実像が路面に対して45度以上の第2角度で視認されるか、
前記第1状態において視認させる前記虚像が前記第2角度で視認され、前記第2状態において視認させる前記実像が前記第1角度で視認される、
ように前記切替素子及び前記駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1状態において視認させる前記虚像が前記第1角度で視認され、前記第2状態において視認させる前記実像が前記第2角度で視認されるように、前記切替素子及び前記駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項2記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記第1偏光は、
前記第1ミラーに対するS偏光であり、
前記第2偏光は、
前記第1ミラーに対するP偏光である、
ことを特徴とする請求項3記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記駆動部の制御により回転する前記表示部の回転軸心と、前記回転軸心に沿った一方側から見た前記表示部の側面視形状における中心位置とが、略一致する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視認者に対して虚像及び実像を切り替えつつ所望の表示を行うヘッドアップディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置が知られている。このヘッドアップディスプレイ装置では、表示器からの光によりスクリーンに表示された表示像を透光部材へと反射させる構成において、結像光学系の光学焦点とスクリーンとの間の前後位置関係を変更することで、虚像が透光部材の外に視認される状態と、実像が透光部材の内側に視認される状態と、の表示切替を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-70074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、虚像が視認される場合の表示角度と実像が視認される場合の表示角度とが異なるように切り替える点は考慮されていない。
【0005】
虚像の表示角度と実像
の表示角度とを異ならせる場合には、例えば光学系のミラーの配置を変更するという手法が考えられる。この場合、ミラーの配置位置を機械的に変更する必要があるため、ヘッドアップディスプレイ装置の筐体のサイズが大きくなってしまい搭載性が悪くなるという問題がある。
【0006】
また、ミラーの配置位置を変更可能にした場合であっても、光源の指向性により表示像の輝度にムラが生じてしまう。このような輝度のムラを解消するためには、光源の指向性を切り替える必要があるが、この指向性の切り替え制御は技術的な難易度が非常に高くなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、装置を大型化することなく且つ簡易的な制御で、虚像を視認する場合の表示角度と実像を視認する場合の表示角度とを異ならせて表示するヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、射出口17を有し、前記射出口17から表示光Lを透光部材WSに向けて射出することで前記表示光Lが表す表示像の虚像VI及び実像RIを視認させるヘッドアップディスプレイ装置1であって、表示素子121と、前記表示素子121よりも光路に沿って前記射出口17側に設けられると共に射出する光の偏光を互いに異なる第1偏光と第2偏光とに切り替え可能な切替素子122と、を備え、光源11が出射した光を透過させると共に前記表示像を表示する表示部12と、前記表示部12に表示された前記表示像を表す光を前記透光部材WSに向けて反射させる反射部13と、前記表示部12の光路に対する角度が可変となるように回転させる駆動部14と、前記切替素子122及び前記駆動部14を制御する制御部15と、を有し、前記反射部13は、第1偏光となる第1光線L1を反射すると共に第2偏光となる第2光線L2を透過する第1ミラー131と、前記第2光線L2を反射する第2ミラー132と、を含み、前記第1ミラー131及び前記第2ミラー132は、前記表示素子121が前記第1光線L1を出射するときは、前記透光部材WS及び前記反射部13を含む結像光学系の光学焦点Fと前記表示部12との間の位置関係が、前記表示部12が前記光学焦点Fよりも前記射出口17側となる第1状態となり、前記表示素子121が前記第2光線L2を出射するときは、前記表示部12が前記光学焦点Fよりも前記光源11側となる第2状態となるように配置されており、前記制御部15は、前記表示素子121から前記第1光線L1を出射する前記第1状態における前記表示部12の前記角度と、前記表示素子121から前記第2光線L2を出射する前記第2状態における前記表示部12の前記角度とが、互いに異なるように、前記表示素子121と前記駆動部14とを連携して制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミラーの配置変更による装置の大型化を招くことなく、光の偏光及び表示部の光路に対する角度を連携させた簡単な制御で、虚像の表示角度と実像の表示角度とを異ならせて視認させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置において虚像を生成する場合の構成を示す図。
図2】本発明の一実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置において実像を生成する場合の構成を示す図。
図3】本発明の一実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置における光源及び表示部の構造を示す模式図。
図4】本発明の一実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置におけるPGUの構成を示す機能ブロック図。
図5】本発明の一実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置における輝度の均斉度の測定点を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置という)において虚像を生成する場合の構成を示す図、図2は、本実施形態に係るHUD装置において実像を生成する場合の構成を示す図である。
【0012】
図1及び図2において、HUD装置1は、例えば配線基板に実装された可視波長域の光を出す発光ダイオードからなり、白色の光を発する光源11、及び、当該光源11から入射した光で画像を生成し、射出する光の偏光を互いに異なる第1偏光と第2偏光とに切り替えて表示する表示部12からなるPGU(Picture Generation Unit)10と、表示部12に表示された表示像を表す表示光L(図1の場合は虚像VIの表示像を表す表示光L1、図2の場合は実像RIの表示像を表す表示光L2)をウィンドシールドWS(透光部材)に向けて反射する反射部13と、表示光Lの光路に対する表示部12の角度が可変となるように回転させるモーター14(駆動部)と、表示部12における表示内容の制御、第1偏光及び第2偏光の切り替え制御、並びにモーター14の駆動制御を行う制御部15とを備え、これらが筐体16に収容される。筐体16には表示光Lが射出される開口部17(射出口)が設けられ、当該開口部17には内部を保護するためのカバーガラス18が配置される。ウィンドシールドWSは投光部材の一例、モーター14は駆動部の一例、開口部17は射出口の一例である。
【0013】
HUD装置1は、車両CのウィンドシールドWSの下方(例えばインストゥルメントパネルの内部)に配置され、表示光L(L1,L2)を出射し、ウィンドシールドWSへ投影する。表示光LはHUD装置1の内部の光源11及び表示部12で生成される。表示部12から射出する表示光Lは反射部13を伝って、筐体16の開口部17からカバーガラス18を通して出射される。車両Cの乗員DRは、ウィンドシールドWSに反射した表示光Lを視認することで、ウィンドシールドWSの奥側に図1に示すような虚像VIや手前側に図2に示すような実像RIを視認することができる。
【0014】
図1に示す虚像VIには、例えば車両Cの速度やエンジン回転数と言った車両情報、ターンバイターンや地図などの経路案内表示、ブラインドスポットインジケータ、制限速度超過警告などの警告表示など、乗員DRへ注意喚起する必要性が高い情報が、当該乗員DRから見てウィンドシールドWSの向こう側に表示される。また、図2に示す実像RIには、例えばエンタメコンテンツ、乗員DRをサポートするアシスタントやエージェント、それらを示すキャラクターなどが、乗員DRから見てウィンドシールドWSの手前側に表示される。これらの表示により、視点移動及び眼の焦点距離調整の必要が低減された運転環境が提供される。虚像VIや実像RIにはこれらの情報を示す文字やアイコンの他、背景部分も含まれており、乗員DRからの平面視ではこれは例えば略矩形状をなしている。
【0015】
ここで、光源11及び表示部12の構成について説明する。図3は、本実施形態に係るHUD装置における光源及び表示部の構造を示す模式図である。図3に示すように、光源11よりも光路に沿って射出口側に表示部12が設けられる。表示部12は、例えばTFT(Thin Film Transistor)型の表示素子121と、当該表示素子121よりも光路に沿って射出口側に設けられ、射出する表示光Lの偏光を互いに異なる第1偏光と第2偏光とに切り替える切替素子122とを備える。
【0016】
なお、例えば第1偏光をS偏光とし、第2偏光をP偏光としてもよいし、その逆でもよい。また、S偏光やP偏光に限らず、第1偏光と第2偏光とのそれぞれの偏光角が異なる状態であればよく、例えば偏光角が少なくとも22.5度以上異なるものであるのが望ましい。
【0017】
表示素子121は、図4において後述する表示制御部21に接続されており、当該表示制御部21から送られる信号にしたがって任意の形状の図形を表す光を形成する。また、切替素子122は、表示素子121から射出される光線の中で特定の偏光、具体的には上述した第1偏光や第2偏光である光線だけを抽出すると共に、それらを切り替える処理を行う。切替素子122は、図4において後述する表示部駆動部22に接続されており、当該表示部駆動部22から送られる信号にしたがって偏光の切り替えを行う。
【0018】
なお、切替素子122による偏光の切り替えは電気的な処理で行うようにしてもよいし、偏光板や波長板を表示素子121の射出口側に配置し、光軸方向を中心軸方向として、当該中心軸に対して所定の角度で物理的に回転させることで偏光の切り替えを行ってもよい。いずれの場合であっても、上記表示部駆動部22の制御により偏光の切り替えが行われる。
【0019】
また、表示部12は、図1及び図2に示すように、モーター14の駆動動作に伴って光路に対する角度が可変となるように回転する。図1及び図2において、虚像VIと実像RIとを状況に応じて切り替えるときに、乗員DRから見て遠方にある表示像は路面に対して傾斜しており、近方にある表示像は路面に対して垂直に立っているように表示させたい場合がある。例えば、遠方に傾斜させた虚像VIの表示像であれば路面に表示が展開されているように見えるため、ナビゲーションなどを行うときには路面と表示とが重畳するように視認させることができ、直感的な情報提示が可能になる。一方、例えば、近方に垂直に立っている実像RIの表示像であれば、自動運転や停車中にエンタメコンテンツを見るような場面で使うことが想定され、乗員DRにとって視認性を向上させることが可能となる。
【0020】
上記のように表示像の傾斜具合を状況に応じて適正に制御する必要があるため、具体的には、光軸方向をロール軸とした場合に表示部12をピッチ回転させることで、表示光Lが表す表示像を路面に対して垂直に立てて表示したり、傾いて表示する。例えば、図1の場合は、光源11による光線の発光面と表示部12が表示光L1を射出する射出面とが非平行となるように表示部12を回転するモーター14を制御することで、乗員DRは第1偏光である表示光L1の表示像を路面に対して傾斜して視認する。図2の場合は、光源11による光線の発光面と表示部12が表示光L2を射出する射出面とが平行となるように表示部12を回転するモーター14を制御することで、乗員DRは第2偏光である表示光L2の表示像を路面に対して垂直に立ったように視認する。この表示部12を回転する場合のモーター14の制御は、図4において後述する表示部駆動部22により行われる。
【0021】
反射部13は、平面又は曲率を有するミラーからなる第1ミラー131、第2ミラー132及び第3ミラー133を備える。第1ミラー131は、第1偏光となる表示光L1(第1光線)を反射すると共に第2偏光となる表示光L2(第2光線)を透過する。第2ミラー132は、第1ミラー131を透過する表示光L2(第2光線)を反射するミラーである。第1ミラー131及び第2ミラー132で反射したそれぞれの表示光L1,L2は、第3ミラー133に導かれ、当該第3ミラー133で反射してウィンドシールドWSに射出され、乗員DRがそれぞれの表示像を視認することが可能となる。表示光L1は第1光線の一例、表示光L2は第2光線の一例である。
【0022】
なお、図2に示すように、第1ミラー131は表示光L2を透過するミラーであることから、第2ミラー132で反射した表示光L2についても当然に第2ミラー132の背面側から正面側に透過することが可能となっている。すなわち、図2に示すように、第1ミラー131を透過した表示光L2は、第2ミラー132で反射し、再び第1ミラー131を透過して第3ミラー133に導かれる。このことから、第2ミラー132を第1ミラー131の背面側に近接して配置することが可能となり、筐体16が大型化してしまうことを防止することができる。
【0023】
ここで例えば、第1偏光をS偏光(第1ミラー131に対するS偏光)とし、第2偏光をP偏光(第1ミラー131に対するP偏光)とし、第1ミラー131を当該第1ミラー131に対してS偏光の光線を反射すると共にP偏光の光線を透過するミラーとし、第2ミラー132を第1ミラー131に対してP偏光の光線を反射すると共にS偏光の光線を透過するミラーとする。このような構成の場合、S偏光である表示光L1は第1ミラー131で反射され、第3ミラー133に導かれる。P偏光である表示光L2は第1ミラー131を透過し、第2ミラー132で反射され、第3ミラー133に導かれる。このような反射部13の構成、及び表示光L1,L2の偏光を設定することで、それぞれの表示光L1,L2が異なる表示像を生成することが可能となる。
【0024】
図1における表示光L1が表す表示像と図2における表示光L2が表す表示像について具体的に説明する。図1に示すように、第1ミラー131に対して第1偏光(ここではS偏光とする)である表示光L1を射出する場合に、表示部12を第1ミラー131に十分近い位置に配置することで、第1ミラー131、第3ミラー133及びウィンドシールドWSを1つの結像光学系と見なしたときに、その結像光学系の焦点距離よりも表示部12の位置が近くなる。すなわち、上記結像光学系の光学焦点Fと表示部12との位置関係が、表示部12が光学焦点Fよりも射出口側に配置される第1状態となる。この第1状態の場合、乗員DRには遠方に虚像VIが視認される。
【0025】
一方、図2に示すように、第2ミラー132に対して第2偏光(ここではP偏光とする)である表示光L2を射出する場合に、表示部12を第2ミラー132から十分遠い位置に配置することで、第2ミラー132、第3ミラー133及びウィンドシールドWSを1つの結像光学系と見なしたときに、その結像光学系の焦点距離よりも表示部12の位置が遠くなる。すなわち、上記結像光学系の光学焦点Fと表示部12との位置関係が、表示部12が光学焦点Fよりも光源11側に配置される第2状態となる。この第2状態の場合、乗員DRには目前に実像RIが視認される。
【0026】
すなわち、例えば乗員DRから見てウィンドシールドWSの外側に路面に対して傾いた虚像VIを視認させたいような場合は、表示部12の切替素子122が、表示光LをS偏光である表示光L1として射出するように切り替え、第1ミラー131、第3ミラー133及びウィンドシールドWSで構成される結像光学系により表示光L1が表す表示像をウィンドシールドWSに表示する。また、例えば乗員DRから見てウィンドシールドWSの内側に路面対して垂直に立った実像RIを視認させたいような場合は、表示部12の切替素子122が、表示光LをP偏光である表示光L2として射出するように切り替え、第2ミラー132、第3ミラー133及びウィンドシールドWSで構成される結像光学系により表示光L2が表す表示像をウィンドシールドWSに表示する。このとき、第1状態における表示部12の角度(モーター14の回転角)と、第2状態における表示部12の角度(モーター14の回転角)とが互いに異なるように、表示素子121とモーター14とを連携して制御することで、路面に対する虚像VI及び実像RIを所望の角度で視認させることが可能となる。
【0027】
なお、上記図1及び図2の説明においては、乗員DRから見てウィンドシールドWSの外側に路面に対して傾いた虚像VIを視認させ、乗員DRから見てウィンドシールドWSの内側に路面に対して垂直に立った実像RIを視認させるように記載しているが、上述したように、路面との角度の大小を問わずに虚像VI及び実像RIのそれぞれが路面に対して異なる傾斜角度で視認されるようにモーター14の回転角度が制御されるようにしてもよい。
【0028】
また、ウィンドシールドWSの外側に虚像VIを視認させる場合、当該虚像VIの傾斜角度が路面に対して45度未満(第1角度)となるようにモーター14の回転角度を制御すると共に、ウィンドシールドWSの内側に実像RIを視認させる場合、当該実像RIの傾斜角度が路面に対して45度以上(第2角度)となるようにモーター14の回転角度を制御するようにしてもよい。逆に、ウィンドシールドWSの外側の虚像VIの傾斜角度が路面に対して45度以上(第2角度)となるようにモーター14の回転角度を制御すると共に、ウィンドシールドWSの内側の実像RIの傾斜角度が路面に対して45度未満(第1角度)となるようにモーター14の回転角度を制御するようにしてもよい。45度未満は第1角度の一例、45度以上は第2角度の一例である。
【0029】
図4は、本実施形態に係るHUD装置におけるPGUの構成を示す機能ブロック図である。なお、図4においては、本願発明に直接関連する必要最小限の構成のみを記載したものであり、その他の公知の構成については省略する。図4において、PGU10は、制御部15と光源11と表示部12とを備える。制御部15は、例えば車速センサ、ナビゲーション装置、RADAR(Radio Detecting and Ranging)、LiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)などの各種デバイス30から送られる情報に基づいて、任意の形状の図形を表す光を生成するように表示部12に命令を出す表示制御部21と、例えば運転モード(手動運転、自動運転)を切り替えるスイッチ20から送信される信号に基づいて、表示像の路面に対する傾斜角度の制御や偏光方向の切り替え制御を行う表示部駆動部22とを備える。
【0030】
また、表示部12は、表示制御部21から送られる信号にしたがって任意の形状の図形を表す光を形成するTFT型の表示素子121と、表示部駆動部22から送られる信号にしたがって、射出する表示光Lを第1偏光の表示光L1又は第2偏光の表示光L2のいずれかに切り替える切替素子122と、表示部駆動部22から送られる信号にしたがって、表示光Lの光路に対する角度が可変となるように回転するモーター14とを備える。
【0031】
図4の構成において、例えば手動運転時には、表示部駆動部22が切替素子122を第1偏光である表示光L1が射出されるように切替制御すると共に、表示部12を回転するモーター14の回転角度を、表示光L1の表示像が路面に対して傾斜するような角度となるように駆動制御する。このとき、表示制御部21は、上述したような車両情報、経路案内情報、警告表示などを表す表示光L1を生成するように表示素子121を制御する。
【0032】
また、例えば自動運転時には、表示部駆動部22が切替素子122を第2偏光である表示光L2が射出されるように切替制御すると共に、表示部12を回転するモーター14の回転角度を、表示光L2の表示像が路面に対して垂直に立つような角度となるように駆動制御する。このとき、表示制御部21は、上述したような乗員DRをサポートするアシスタントやエージェント、それらを示すキャラクターなどを表す表示光L2を生成するように表示素子121を制御する。
【0033】
なお、本実施形態に係るHUD装置1において、表示光L1の光路と表示光L2の光路とにおけるそれぞれの代表光線が一致していることが望ましい。表示部駆動部22の制御により表示部12の回転角度に応じて表示部12に対する光線の入射角が変化するが、表示部12は厚さが極めて薄いため光軸はほぼずれることがない。仮に表示光L1の向きと表示光L2の向きとがずれたとしても、輝度の均斉度が以下に示す担保条件の範囲内であればそれぞれの表示光L1,L2の向きは考慮しないものとする。
【0034】
図5は、本実施形態に係るHUD装置における輝度の均斉度の測定点を示す図である。ここで言う均斉度とは、表示領域の各点における輝度の分布のムラがどの程度抑えられているかということを意味する。図5に示す矩形は、虚像VIや実像RIの表示領域全体を示す表示領域WRであり、表示部12の表示領域全体に白色光線を射出させた場合、筐体16やその他の外装によって白色光線が遮られることがなければ、表示光L1や表示光L2により表示領域WRに示す矩形の表示像が表示される。
【0035】
ここで、例えば表示領域WRにおいて、中心点、上下左右の4点、及び四隅の4点の合計9個の点P(P1~P9)を設定し、それぞれの点Pにおける輝度を測定する。各点P1~P9で測定した輝度のうち最大値をBmax、最小値をBminとした場合、r=Bmin/Bmaxを表示像の均斉度と定義する。rの値が予め設定されている所定の閾値(例えば、0.7や0.8など)以上であれば、均斉度が担保されていると判断する。すなわち、本実施形態に係るHUD装置1においては、上記rの値が所定の閾値以上である場合は、表示光L1と表示光L2との向きにずれが生じた場合であっても、乗員DRによる視認性には影響がなく特段考慮する必要がないものと判断できる。
【0036】
また、表示光L1の光路と表示光L2の光路について、それぞれの代表光線を一致させるために、表示部12を回転させるモーター14の回転軸と、表示部12を回転軸心に沿った一方側から見た側面視形状における中心位置(表示部12を図1及び図2に示す紙面方向から見た場合の中心位置)とを略一致させるようにしてもよい。こうすることで、表示光L1の光路と表示光L2の光路について、それぞれの代表光線が一致し、均斉度を担保することが可能になる。
【0037】
更に、図5で示した均斉度の測定について、定期的又は不定期に均斉度の算出を行い、均斉度が担保できる程度のモーター14の回転角度や第1偏光及び第2偏光の偏光角をキャリブレーションで再設定するようにしてもよい。
【0038】
このように、本実施形態に係るHUD装置1においては、装置の大型化を招くことなく簡単な制御で虚像VIと実像RIの路面に対する傾き角度を異ならせて、表示内容に適した態様で且つバリエーション豊かな表示が可能になる。特に、例えば手動運転モードと自動運転モードとを切り替える機能を有する車両Cの場合、手動運転モードのときは、乗員DRの運転操作に重要となる情報をウィンドシールドWSの外側に路面に対して傾斜した(例えば45度未満の角度の)虚像VIとして表示し、自動運転モードのときは、乗員DRにとってエンターテインメント性が高い情報をウィンドシールドWSの内側に路面に対して垂直に立たせた(例えば45度以上の角度の)実像RIとして表示することで、乗員DRの運転環境に応じて所望の情報を適正な態様で視認させると共に、乗員DRの視認性を向上させることができる。
【0039】
また、第1偏光を第1ミラー131に対するS偏光とし、第2偏光を第1ミラー131に対するP偏光とすることで、光特性及び表示態様が異なる表示光L1とL2とを簡単な制御で切り替えることができ、バリエーションがある表示を実現することができる。
【0040】
更に、モーター14の制御により回転する表示部12の回転軸心と、当該回転軸心に沿った一方側から見た表示部12の側面視形状における中心位置とが略一致することで、均斉度が担保された高品質な表示を実現することができる。
【符号の説明】
【0041】
C 車両
DR 乗員
F 光学焦点
L(L1,L2) 表示光
P(P1~P9) 点
VI 虚像
RI 実像
WR 表示領域
WS ウィンドシールド
1 HUD装置
10 PGU
11 光源
12 表示部
13 反射部
14 モーター
15 制御部
16 筐体
17 開口部
18 カバーガラス
20 スイッチ
21 表示制御部
22 表示部駆動部
30 各種デバイス
121 表示素子
122 切替素子
131 第1ミラー
132 第2ミラー
133 第3ミラー
図1
図2
図3
図4
図5