(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025106579
(43)【公開日】2025-07-15
(54)【発明の名称】高周波誘電加熱用接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 201/02 20060101AFI20250708BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20250708BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20250708BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20250708BHJP
C09J 7/10 20180101ALI20250708BHJP
B29C 65/04 20060101ALI20250708BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
C09J201/02
C09J123/26
C09J11/04
C09J7/35
C09J7/10
B29C65/04
B29C65/48
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025068923
(22)【出願日】2025-04-18
(62)【分割の表示】P 2022533962の分割
【原出願日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2020113564
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020113539
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021010550
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】土渕 晃司
(72)【発明者】
【氏名】田矢 直紀
(57)【要約】
【課題】少ない消費エネルギーでも、高い接着強度でガラスと接着でき、経時的に接着力が低下し難い高周波誘電加熱用接着剤を提供すること。
【解決手段】高周波誘電加熱用接着剤(接着シート1A)であって、熱可塑性樹脂(A)及び高周波電界の印加により発熱する誘電フィラー(B)を少なくとも含有し、前記熱可塑性樹脂(A)は、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)を少なくとも含み、前記第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性熱可塑性樹脂であり、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂である、高周波誘電加熱用接着剤(接着シート1A)。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波誘電加熱用接着剤であって、
前記高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び周波数域が3MHz以上、300MHz以下の高周波電界の印加により発熱する誘電材料を少なくとも含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)は、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)を少なくとも含み、
前記第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性熱可塑性樹脂であり、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂であり、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、極性部位を有し、
前記誘電材料は、誘電フィラー(B)であり、
前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性ポリオレフィン系樹脂である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていないポリオレフィン系樹脂である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の前記極性部位は、酸性部位である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の前記酸性部位は、酸無水物構造である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の重合体中、最も多く含まれる繰り返し単位は、エチレン又はプロピレンである、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の重合体中、最も多く含まれる繰り返し単位は、エチレン又はプロピレンである、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の重合体中、最も多く含まれる繰り返し単位と、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の重合体中、最も多く含まれる繰り返し単位とが、同一である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤が含有する前記熱可塑性樹脂(A)中の前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率は、15体積%以上、80体積%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRは、2g/10min以上、50g/10min以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤中の前記誘電材料の体積含有率は、5体積%以上、50体積%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、1μm以上、30μm以下であり、
前記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により、前記誘電フィラー(B)の粒度分布を測定し、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2001に準じて算出した体積平均粒子径である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項13】
前記高周波誘電加熱用接着剤は、接着シートである、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘電加熱用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的に接着することが困難な被着体同士を接着する方法として、例えば、所定の樹脂中に発熱材料を配合してなる接着剤を被着体の間に介在させ、誘電加熱処理、誘導加熱処理、超音波溶着処理、又はレーザー溶着処理等を行う方法が提案されている。
被着体としてガラスを用いる場合の接着方法としては、以下のような技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラスと無機強化熱可塑性樹脂とを接着するための熱可塑性樹脂組成物として、高周波誘導で発熱する発熱体と、水分の存在下で無機物と反応する官能基を含む単量体で変性された融点が90℃~200℃の熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、他の接着方法として、例えば、特許文献2には、真空ラミネート法によってガラス面に密着させるためのガラス密着シートが記載されており、このガラス密着シートは、低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合したシラン変性ポリエチレン系樹脂を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-097445号公報
【特許文献2】特開2016-068426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いる場合、ガラスとの接着に必要な消費エネルギーが多く、特許文献2に記載のガラス密着シートを用いる場合、ガラスとの接着に必要な真空ラミネートする際の圧力保持時間が長い。また、ガラスとの接着に用いられる組成物やシートには、製造された後、使用されるまでの保管中に接着力が低下しないことも求められる。
【0007】
本発明の目的は、少ない消費エネルギーでも、高い接着強度でガラスと接着でき、経時的に接着力が低下し難い高周波誘電加熱用接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、高周波誘電加熱用接着剤であって、前記高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び高周波電界の印加により発熱する誘電材料を少なくとも含有し、前記熱可塑性樹脂(A)は、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)を少なくとも含み、前記第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性熱可塑性樹脂であり、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂である、高周波誘電加熱用接着剤が提供される。
【0009】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていないポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)は、極性部位を有することが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の前記極性部位は、酸性部位であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の前記酸性部位は、酸無水物構造であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成は、エチレン又はプロピレンであることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の主たる組成は、エチレン又はプロピレンであることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成と、前記第二の熱可塑性樹脂(A2)の主たる組成とが、同一であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記高周波誘電加熱用接着剤が含有する前記熱可塑性樹脂(A)中の前記第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率は、15体積%以上、80体積%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRは、2g/10min以上、50g/10min以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記高周波誘電加熱用接着剤中の前記誘電材料の体積含有率は、5体積%以上、50体積%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記誘電材料は、誘電フィラー(B)であることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、チタン酸バリウム及び酸化チタンからなる群から選択される少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0022】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤において、前記誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、1μm以上、30μm以下であることが好ましい。前記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により、前記誘電フィラー(B)の粒度分布を測定し、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2001に準じて算出した体積平均粒子径である。
【0023】
本発明の一態様に係る高周波誘電加熱用接着剤は、接着シートであることが好ましい。
【0024】
本発明の一態様によれば、少ない消費エネルギーでも、高い接着強度でガラスと接着でき、経時的に接着力が低下し難い高周波誘電加熱用接着剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】一実施態様に係る高周波誘電加熱接着シートの概略断面図である。
【
図1B】一実施態様に係る高周波誘電加熱接着シートの概略断面図である。
【
図1C】一実施態様に係る高周波誘電加熱接着シートの概略断面図である。
【
図2】一実施態様に係る高周波誘電加熱接着シート及び誘電加熱装置を用いた高周波誘電加熱処理を説明する概略図である。
【
図3A】一実施形態に係る成型体の形態の例を示す概略斜視図である。
【
図3B】一実施形態に係る成型体の形態の例を示す概略斜視図である。
【
図3C】一実施形態に係る成型体の形態の例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[高周波誘電加熱用接着剤]
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び高周波電界の印加により発熱する誘電材料を少なくとも含有し、熱可塑性樹脂(A)は、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)を少なくとも含み、第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性熱可塑性樹脂であり、第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性熱可塑性樹脂とは異なるその他の熱可塑性樹脂である。
高周波電界とは、高周波で向きが反転する電界である。
【0027】
誘電材料は、高周波電界の印加により発熱する材料であり、周波数域が3MHz以上、300MHz以下の高周波電界を印加した時に発熱する材料であることが好ましい。誘電材料は、誘電樹脂及び誘電フィラー(B)の少なくともいずれかであることが好ましい。高周波誘電加熱接着シートを加工したときに、高周波誘電加熱接着シートに含まれる誘電材料の劣化を抑制しやすい観点で、誘電材料は、誘電フィラー(B)であることがより好ましい。
以下、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートが、誘電材料として、誘電フィラー(B)を含む場合について説明する。
【0028】
<熱可塑性樹脂(A)>
本実施形態において、高周波誘電加熱用接着剤は、少なくとも2種の熱可塑性樹脂(A)を含有する。本実施形態において、高周波誘電加熱用接着剤は、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)を少なくとも含む。
【0029】
本実施形態において、第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性熱可塑性樹脂である。第一の熱可塑性樹脂(A1)としてのシラン変性熱可塑性樹脂は、シラン変性された熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、シリル基含有化合物と熱可塑性樹脂との共重合体、及び熱可塑性樹脂をシリル基含有化合物でグラフト重合したシラン変性熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0030】
本実施形態において、第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂である。第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。
【0031】
熱可塑性樹脂(A)としてシラン変性熱可塑性樹脂を含む高周波誘電加熱用接着剤は、ガラスに対する高い接着力を得やすい。しかしながら、熱可塑性樹脂としてシラン変性熱可塑性樹脂のみを含有する高周波誘電加熱用接着剤は、接着性の低下が生じ易い。この接着性の低下は、シラン変性熱可塑性樹脂が、吸水しやすく、シラン変性熱可塑性樹脂の反応性基同士の架橋反応が、経時的に進むために生じると考えられる。
高周波誘電加熱用接着剤が、熱可塑性樹脂としてシラン変性熱可塑性樹脂だけでなく、シラン変性されていない熱可塑性樹脂も含有している場合、意図しない経時的な接着性の低下が抑制される。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、シラン変性されていない熱可塑性樹脂も含有しているため、高周波誘電加熱用接着剤が吸水することが抑制されるとともに、反応性基同士が離されて、架橋反応が進みにくくなると考えられる。また、高周波誘電加熱用接着剤がシラン変性熱可塑性樹脂とシラン変性されていない熱可塑性樹脂とを含有する場合、当該高周波誘電加熱用接着剤の粘度を調整しやすく、高周波誘電加熱用接着剤に加工適性を付与しやすい。
【0032】
第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)における熱可塑性樹脂は、例えば、融解し易いとともに、所定の耐熱性を有する等の観点から、それぞれ独立に、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、フェノキシ系樹脂、及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0033】
シラン変性熱可塑性樹脂における熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。すなわち、第一の熱可塑性樹脂(A1)は、シラン変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。第一の熱可塑性樹脂(A1)がシラン変性ポリオレフィンであれば、成形性が優れるとともに、高周波誘電加熱にて溶融し易く接着性が高い高周波誘電加熱用接着剤を得やすい。なお、高周波誘電加熱用接着剤の成形性は、高周波誘電加熱用接着剤を所望の形態(例えば、シート又は成型体)への加工し易さを意味する。本明細書において、形態が接着シートである本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を、高周波誘電加熱接着シートと称する場合がある。
【0034】
シラン変性されていない熱可塑性樹脂における熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。すなわち、第二の熱可塑性樹脂(A2)は、シラン変性されていないポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)がシラン変性されていないポリオレフィン系樹脂であれば、成形性が優れるとともに、高周波誘電加熱にて溶融し易く接着性が高い高周波誘電加熱用接着剤を得やすい。ポリオレフィン自体の疎水性が高いため、シラン変性されていないポリオレフィン系樹脂は、経時的な接着性能の低下の抑制にも、高い効果を示す。
【0035】
第一の熱可塑性樹脂(A1)がシラン変性ポリオレフィン系樹脂であり、かつ、第二の熱可塑性樹脂(A2)がシラン変性されていないポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。シラン変性ポリオレフィン系樹脂とシラン変性されていないポリオレフィン系樹脂とは、相溶性に優れる。そのため、シラン変性ポリオレフィン系樹脂とシラン変性されていないポリオレフィン系樹脂とを含有することにより、成形性が優れ、接着性が高く、かつ、接着性能の経時的な低下が起こり難い高周波誘電加熱用接着剤をさらに得やくなる。
【0036】
シラン変性ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、シリル基含有化合物とオレフィンとの共重合体、及びポリオレフィンをシリル基含有化合物でグラフト重合したシラン変性ポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
シリル基含有化合物と共重合させるオレフィンは、例えば、炭素数2~20のα-オレフィンであることが好ましく、炭素数2~20のα-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、及び4,4-ジメチル-1-ペンテンからなる群から選択される少なくともいずれかのオレフィンであることが好ましく、エチレン及びプロピレンの少なくともいずれかのオレフィンであることがより好ましい。シリル基含有化合物と共重合させるオレフィンは、1種でもよいし、2種以上でもよい。
シリル基含有化合物でグラフト重合するポリオレフィンとしては、上記オレフィンの単独重合体、及び二種以上のオレフィン同士の共重合体等が挙げられ、エチレン及びプロピレンの少なくともいずれかのオレフィン由来のモノマー単位を有する単独重合体又は共重合体が好ましい。また、予め反応性基を有するポリオレフィンを、シリル基含有化合物でグラフト重合したシラン変性ポリオレフィンであることも好ましい。
【0038】
シリル基含有化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリスメチルエチルケトオキシムシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシラン等のビニルシラン;(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類;スチリルトリメトキシシラン等のスチリルシラン類等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を表す場合に用いる表記であり、他の類似用語についても同様である。
【0039】
第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂(A2)におけるポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリメチルペンテン等のホモポリマーからなる樹脂、並びにエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン及び4-メチルペンテン等からなる群から選択されるモノマーの共重合体からなるα-オレフィン樹脂等であることも好ましい。
【0040】
第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成は、機械的強度に優れ、成形性も高く、安定した接着特性の高周波誘電加熱用接着剤が得られるという観点から、エチレン又はプロピレンであることが好ましい。
【0041】
第二の熱可塑性樹脂(A2)の主たる組成は、機械的強度に優れ、成形性も高く、安定した接着特性の高周波誘電加熱用接着剤が得られるという観点から、エチレン又はプロピレンであることが好ましい。
【0042】
本明細書において、「熱可塑性樹脂の主たる組成」とは、例えば、熱可塑性樹脂が重合体である場合は、当該重合体が含む繰り返し単位の内、当該重合体中でも最も多く含まれる繰り返し単位である。熱可塑性樹脂が単独のモノマー由来の重合体であれば、当該モノマー単位(繰り返し単位)が「熱可塑性樹脂の主たる組成」である。熱可塑性樹脂が共重合体である場合は、当該重合体中でも最も多く含まれる繰り返し単位が「熱可塑性樹脂の主たる組成」である。熱可塑性樹脂が共重合体である場合、当該共重合体中、「熱可塑性樹脂の主たる組成」は、30質量%以上含まれる繰り返し単位(モノマー単位)であり、一態様においては、30質量%超含まれる繰り返し単位であり、別の一態様においては、40質量%以上含まれる繰り返し単位であり、さらに別の一態様においては、50質量%以上含まれる繰り返し単位である。また、熱可塑性樹脂が共重合体である場合、最も多く含まれる繰り返し単位が、2種以上であってもよい。
【0043】
第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成と、第二の熱可塑性樹脂(A2)の主たる組成とが、同一であることが好ましい。
例えば、第一の熱可塑性樹脂(A1)が、繰り返し単位としてプロピレン単位を50質量%以上含むシラン変性ポリプロピレンであり、第二の熱可塑性樹脂(A2)も、繰り返し単位としてプロピレン単位を50質量%以上含む無水マレイン酸変性ポリプロピレンである場合、第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成(繰り返し単位)及び第二の熱可塑性樹脂の主たる組成(繰り返し単位)は、いずれもプロピレンであり、第一の熱可塑性樹脂(A1)及び第二の熱可塑性樹脂の主たる組成が同一である。
第一の熱可塑性樹脂(A1)の主たる組成と、第二の熱可塑性樹脂(A2)の主たる組成とが、同一であることにより、第一の熱可塑性樹脂(A1)と第二の熱可塑性樹脂(A2)との相溶性が向上し、第一の熱可塑性樹脂(A1)の反応性基同士をより離し易くなる。
【0044】
高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)中の第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率は、15体積%以上であることが好ましく、25体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることがさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)中の第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率は、80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)中の第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率が15体積%以上であることにより、ガラスとの接着性を得やすい。
熱可塑性樹脂(A)中の第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率が80体積%以下であることにより、保存安定性を得やすい。
【0045】
高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)中の第二の熱可塑性樹脂(A2)の体積含有率は、20体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることがさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)中の第二の熱可塑性樹脂(A2)の体積含有率は、85体積%以下であることが好ましく、75体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)中の第二の熱可塑性樹脂(A2)の体積含有率が20体積%以上であることにより、高周波誘電加熱用接着剤の保存安定性が得やすくなる。
熱可塑性樹脂(A)中の第二の熱可塑性樹脂(A2)の体積含有率が85体積%以下であることにより、ガラスとの接着性の低下を防ぎやすくなる。
【0046】
ただし、高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)中の第一の熱可塑性樹脂(A1)の体積含有率及び第二の熱可塑性樹脂(A2)の体積含有率の合計は、100質量%以下である。
【0047】
高周波誘電加熱用接着剤中の第一の熱可塑性樹脂(A1)と第二の熱可塑性樹脂(A2)との体積比は、15:85~80:20であることが好ましく、25:75~70:30であることがより好ましく、40:60~60:40であることがさらに好ましい。
【0048】
第二の熱可塑性樹脂(A2)は、極性部位を有することが好ましい。極性部位としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、アクリロイル基、アセトキシ基、スルホ基、ホスホ基、フェノール基、酢酸ビニル構造、及び酸無水物構造等が挙げられる。極性部位は、共重合によって樹脂に導入されても良いし、変性によって樹脂に導入されても良い。極性部位を有する熱可塑性樹脂は、被着体に対して高い接着力を示すので好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)は、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0049】
高周波誘電加熱用接着剤が、第一の熱可塑性樹脂(A1)と、極性部位を有する第二の熱可塑性樹脂(A2)とを含有する場合、高周波誘電加熱用接着剤中の第一の熱可塑性樹脂(A1)と極性部位を有する第二の熱可塑性樹脂(A2)との体積比は、15:85~80:20であることが好ましく、25:75~70:30であることがより好ましく、40:60~60:40であることがさらに好ましい。
【0050】
第二の熱可塑性樹脂(A2)の極性部位は、酸性部位であることも好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)は、酸性部位を有するポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)の酸性部位としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、フェノール基、及び酸無水物構造等が挙げられる。第二の熱可塑性樹脂(A2)が酸性部位を有することで、高周波誘電加熱用接着剤中のシラン変性熱可塑性樹脂の割合の低下に伴う接着性能の低下を抑制できる。
【0051】
第二の熱可塑性樹脂(A2)は、極性部位として酸変性構造を有する樹脂であることも好ましく、酸変性構造を有するポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。極性部位としての酸変性構造は、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂)を酸変性することによって導入される部位である。熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂)を酸変性する際に用いる化合物としては、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物及び不飽和カルボン酸のエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分が挙げられる。本明細書において、酸変性構造を有するポリオレフィン系樹脂を酸変性ポリオレフィン系樹脂と称する場合がある。
【0052】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びシトラコン酸などが挙げられる。
【0053】
不飽和カルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸の酸無水物などが挙げられる。
【0054】
不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル及びテトラヒドロ無水フタル酸ジメチル等の不飽和カルボン酸のエステルなどが挙げられる。
【0055】
(極性部位を有するポリオレフィン系樹脂)
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂における極性部位は、ポリオレフィン系樹脂に対して極性を付与できる部位であれば特に限定されない。極性部位を有するポリオレフィン系樹脂は、被着体に対して高い接着力を示すので好ましい。
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体であってもよい。また、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系モノマーの重合によって得られたオレフィン系ポリマーに極性部位を付加反応等の変性により導入させた樹脂でもよい。
【0056】
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系モノマーの種類については、特に制限されない。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン及び4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。オレフィン系モノマーは、これらの一種単独で用いられてもよく、二種以上の組み合わせで用いられてもよい。
オレフィン系モノマーは、機械的強度に優れ、安定した接着特性の高周波誘電加熱用接着剤が得られるという観点から、エチレン及びプロピレンの少なくともいずれかが好ましい。
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂におけるオレフィン由来の構成単位は、エチレン又はプロピレンに由来する構成単位であることが好ましい。
【0057】
第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂がオレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体である場合、当該共重合体は、極性部位を有するモノマー由来の構成単位を2質量%以上含むことが好ましく、4質量%以上含むことがより好ましく、5質量%以上含むことがさらに好ましく、6質量%以上含むことがよりさらに好ましい。また、当該共重合体は、極性部位を有するモノマー由来の構成単位を30質量%以下含むことが好ましく、25質量%以下含むことがより好ましく、20質量%以下含むことがさらに好ましく、15質量%以下含むことがよりさらに好ましい。
当該共重合体が極性部位を有するモノマー由来の構成単位を2質量%以上含むことで、高周波誘電加熱用接着剤の接着強度が向上する。また、当該共重合体が極性部位を有するモノマー由来の構成単位を30質量%以下含むことで、第二の熱可塑性樹脂(A2)のタックが強くなり過ぎることを抑制できる。その結果、高周波誘電加熱用接着剤の成形加工が困難になるのを防止し易くなる。
【0058】
第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂がオレフィン系モノマーと酸性部位を有するモノマーとの共重合体である場合、当該共重合体における酸性部位を有するモノマー由来の構成単位の割合は、オレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体である場合の極性部位を有するモノマー由来の構成単位の割合と同様の範囲であることが好ましく、当該範囲内であることで得られる効果も、第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂がオレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体である場合と同様である。
【0059】
第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂が酸変性構造を有する場合、酸による変性率は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。
第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂が酸変性構造を有する場合、酸による変性率は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
第二の熱可塑性樹脂(A2)が酸変性構造を有する場合、酸による変性率が、0.01質量%以上であることで、高周波誘電加熱用接着剤の接着強度が向上する。また、酸による変性率が30質量%以下であることで、第二の熱可塑性樹脂(A2)のタックが強くなり過ぎることを抑制できる。その結果、高周波誘電加熱用接着剤の成形加工が困難になるのを防止し易くなる。
本明細書において、酸による変性率は、酸変性ポリオレフィンの総質量に対する酸に由来する部分の質量の百分率である。
【0060】
第二の熱可塑性樹脂(A2)の酸性部位は、酸無水物構造であることも好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)は、酸無水物構造を有するポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。第二の熱可塑性樹脂(A2)が酸無水物構造を有することにより、誘電フィラー(B)との相互作用を抑えられるため、高周波誘電加熱用接着剤をシート成形する際のトルク上昇やゲル化を抑えることができる。
酸無水物構造は、無水マレイン酸構造であることがより好ましい。無水マレイン酸構造は、熱可塑性樹脂をグラフト変性することによって導入された基でもよいし、無水マレイン酸構造を含む単量体を共重合して得た無水マレイン酸共重合体でもよい。
【0061】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンにおいて、無水マレイン酸による変性率は、第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂が酸変性構造を有する場合の変性率と同様の範囲であることが好ましく、当該範囲内であることで得られる効果も、第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂が酸変性構造を有する場合と同様である。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンがオレフィン系モノマーと無水マレイン酸構造を含むモノマーとの共重合体である場合、当該共重合体における無水マレイン酸構造を含むモノマー由来の構成単位の割合は、オレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体である場合の極性部位を有するモノマー由来の構成単位の割合と同様の範囲であることが好ましく、当該範囲内であることで得られる効果も、第二の熱可塑性樹脂(A2)としてのポリオレフィン系樹脂がオレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体である場合と同様である。
【0062】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンにおけるオレフィン由来の構成単位は、エチレン又はプロピレンに由来する構成単位であることが好ましい。すなわち、無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂又は無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0063】
(熱可塑性樹脂のMFR)
熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRは、2g/10min以上であることが好ましく、2.5g/10min以上であることがより好ましく、3g/10min以上であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRは、50g/10min以下であることが好ましく、30g/10min以下であることがより好ましく、20g/10min以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRが2g/10min以上であることにより、シート成形性が優れ、また、接合時において、高周波誘電加熱用接着剤の濡れ広がりが良いため、短時間で接合強度が得られやすい。
熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRが50g/10min以下であることにより、誘電加熱処理時に高周波誘電加熱用接着剤の粘度が低くなりすぎることを抑制しやすい。高周波誘電加熱用接着剤の粘度が低くなりすぎると、接合時に被着体間の樹脂量が減少して接着強度が得られにくくなるが、粘度低下を抑制することで、接着強度が得られやすい。
熱可塑性樹脂(A)の190℃におけるMFRは、後述する実施例の項目において説明する方法により測定できる。
【0064】
<誘電フィラー(B)>
誘電フィラー(B)は、高周波電界の印加により発熱するフィラーである。
誘電フィラー(B)は、周波数域が3MHz以上、300MHz以下の高周波電界を印加した時に発熱するフィラーであることが好ましい。誘電フィラー(B)は、周波数域3MHz以上、300MHz以下のうち、例えば、周波数13.56MHz、27.12MHz又は40.68MHz等の高周波電界の印加により発熱するフィラーであることが好ましい。
【0065】
(種類)
誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素(SiC)、アナターゼ型酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ルチル型酸化チタン、水和ケイ酸アルミニウム、アルカリ金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料又はアルカリ土類金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料等の一種単独又は二種以上の組み合わせが好適である。
【0066】
誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、チタン酸バリウム及び酸化チタンからなる群から選択される少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0067】
例示した誘電フィラーの中でも、種類が豊富であり、様々な形状及びサイズから選択でき、高周波誘電加熱用接着剤の接着特性及び機械特性を用途に合わせて改良できるため、誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛であることがさらに好ましい。誘電フィラー(B)として酸化亜鉛を用いることで、無色の高周波誘電加熱用接着剤を得ることができる。酸化亜鉛は、誘電フィラーの中でも密度が小さいため、誘電フィラー(B)として酸化亜鉛を含有する高周波誘電加熱用接着剤を用いて被着体を接合した場合、他の誘電フィラーを含有する接着剤を用いた場合と比べて、接合体の総重量が増大し難い。酸化亜鉛は、セラミックの中でも硬度が高過ぎないため、高周波誘電加熱用接着剤の製造装置を傷つけ難い。酸化亜鉛は、不活性な酸化物であるため、熱可塑性樹脂と配合しても、熱可塑性樹脂に与えるダメージが少ない。
また、誘電フィラー(B)としての酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタン及びルチル型酸化チタンの少なくともいずれかであることが好ましく、誘電特性に優れるという観点から、アナターゼ型酸化チタンであることがより好ましい。
【0068】
(体積含有率)
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率は、5体積%以上であることが好ましく、8体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率は、50体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましく、35体積%以下であることがさらに好ましく、25体積%以下であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率が5体積%以上であることで、発熱性が向上し、高周波誘電加熱用接着剤とガラス製の被着体とを強固に接着し易い。
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率が50体積%以下であることで、シートとしてのフレキシブル性を得やすく、靱性の低下も防止しやすくなるので、後工程で高周波誘電加熱用接着剤を所望の形状に加工しやすい。
【0069】
なお、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤中に、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)が含まれているため、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計体積に対して、誘電フィラー(B)の体積含有率は、5体積%以上であることが好ましく、8体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計体積に対して、誘電フィラー(B)の体積含有率は、50体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましく、35体積%以下であることがさらに好ましく、25体積%以下であることがよりさらに好ましい。
【0070】
上記では、接着層中の誘電材料の体積含有率として、誘電材料が誘電フィラー(B)である場合の体積含有率について説明した。接着層中の誘電材料の体積含有率は、誘電材料が誘電フィラー(B)である場合に限らず、誘電フィラー(B)以外の誘電材料の場合でも、接着層中の誘電フィラー(B)の体積含有率と同様の範囲であることが好適である。すなわち、接着層中の誘電材料の体積含有率は、5体積%以上であることが好ましく、50体積%以下であることが好ましい。
【0071】
(平均粒子径)
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が1μm以上であることで、高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加時に高い発熱性能を発現し、高周波誘電加熱用接着剤は、ガラス製の被着体と短時間で強固に接着できる。
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が30μm以下であることで、高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加時に高い発熱性能を発現し、高周波誘電加熱用接着剤は、ガラス製の被着体と短時間で強固に接着できる。また、誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が30μm以下であることで、高周波誘電加熱用接着剤の強度低下を防止できる。
【0072】
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、次のような方法によって測定される。レーザー回折・散乱法により、誘電フィラー(B)の粒度分布測定を行い、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2001に準じて体積平均粒子径を算出する。
【0073】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が、接着シート(高周波誘電加熱接着シート)である場合、誘電フィラー(B)の平均粒子径DFと高周波誘電加熱接着シートの厚さTとが、1≦T/DF≦2500の関係を満たすことが好ましい。
T/DFは、1以上であることが好ましく、2以上であることが好ましく、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。T/DFが1以上であれば、接着時に誘電フィラー(B)と被着体とが接触することに起因する接着強度の低下を防止できる。
T/DFは、2500以下であることが好ましく、2000以下であることが好ましく、1750以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、500以下であることがさらに好ましく、100以下であることがよりさらに好ましく、50以下であることがさらになお好ましい。T/DFが2500以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの作製時に、シート製造装置への負荷を抑制できる。
【0074】
(添加剤)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、添加剤を含んでいてもよいし、添加剤を含んでいなくてもよい。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が、複数の層からなる高周波誘電加熱接着シートである場合、当該複数の層の少なくともいずれかの層が添加剤を含んでいてもよいし、添加剤を含んでいなくてもよい。当該複数の層の少なくともいずれかの層が添加剤を含んでいる場合、当該複数の層の内、高周波誘電加熱用接着剤を含有する接着層が添加剤を含んでいてもよいし、添加剤を含んでいなくてもよい。
【0075】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が添加剤を含む場合、添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、ワックス、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、カップリング剤、粘度調整剤、有機充填剤、及び無機充填剤等が挙げられる。添加剤としての有機充填剤、及び無機充填剤は、誘電材料(誘電フィラー)とは異なる。
【0076】
粘着付与剤及び可塑剤は、高周波誘電加熱用接着剤の溶融特性、及び接着特性を改良できる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂の水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、及び芳香族石油樹脂の水素化物が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、石油系プロセスオイル、天然油、二塩基酸ジアルキル、及び低分子量液状ポリマーが挙げられる。石油系プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、及び芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。天然油としては、例えば、ひまし油、及びトール油等が挙げられる。二塩基酸ジアルキルとしては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、及びアジピン酸ジブチル等が挙げられる。低分子量液状ポリマーとしては、例えば、液状ポリブテン、及び液状ポリイソプレン等が挙げられる。
【0077】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が添加剤を含む場合、高周波誘電加熱用接着剤中の添加剤の含有率は、通常、高周波誘電加熱用接着剤の全体量基準で、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、高周波誘電加熱用接着剤中の添加剤の含有率は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0078】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、溶剤を含有しないことが好ましい。溶剤を含有しない高周波誘電加熱用接着剤によれば、被着体との接着に用いる接着剤に起因するVOC(Volatile Organic Compounds)の問題が発生し難い。
【0079】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、炭素又は炭素を主成分とする炭素化合物(例えば、カーボンブラック等)及び金属等の導電性物質を含有しないことが好ましい。接着層は、例えば、炭素鋼、α鉄、γ鉄、δ鉄、銅、黄銅、アルミニウム、鉄-ニッケル合金、鉄-ニッケル-クロム合金、カーボンファイバー及びカーボンブラックを含有しないことが好ましい。
【0080】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が導電性物質を含有する場合、接着剤中の導電性物質の含有率は、それぞれ独立に、接着剤の全体量基準で、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.1質量%以下であることがさらになお好ましい。
接着剤中の導電性物質の含有率は、0質量%であることが特に好ましい。
接着剤中の導電性物質の含有率が20質量%以下であれば、誘電加熱処理した際に電気絶縁破壊して接着部及び被着体の炭化という不具合を防止し易くなる。
【0081】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤中、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0082】
<高周波誘電加熱用接着剤の形態及び特性>
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の形態は、特に限定されないが、例えば、シート又は成型体である。本明細書において、成型体は、シートではない。シートとは、通常、1mm以下、2mm以下、又は5mm以下の均一の厚さの枚葉状のものを指す。
【0083】
(高周波誘電加熱接着シート)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、接着シート(高周波誘電加熱接着シート)であることが好ましい。本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、一態様では、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤からなる接着層の一層のみで構成され、別の態様では、複数の層から構成される場合がある。高周波誘電加熱接着シートが接着層の一層のみからなる場合、当該接着層そのものが高周波誘電加熱接着シートに相当するため、高周波誘電加熱接着シートの形態及び特性は、接着層の形態及び特性に相当する。
【0084】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、一態様としては高周波誘電接着性の接着層の一層のみからなる。なお、高周波誘電加熱接着シートは、接着層の一層のみからなる態様に限定されず、高周波誘電加熱接着シートの別の態様としては、接着層以外の層が積層されている態様も挙げられる。
このように、高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着性の接着層の一層のみからなる場合があるため、本明細書において、「高周波誘電加熱接着シート」という用語と、「接着層」という用語は、場合によっては、互いに入れ替えることが可能である。
図1A~
図1Cには、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの複数の態様の概略図が例示されている。
【0085】
図1Aに示された高周波誘電加熱接着シート1Aは、単一の接着層10のみから構成される。高周波誘電加熱接着シート1Aは、第一表面11及び第一表面11とは反対側の第二表面12を有する。
高周波誘電加熱接着シートは、単一の接着層のみからなることが好ましい。単一の接着層のみからなることで、高周波誘電加熱接着シートの厚さを薄くすることができ、また簡単に成形することができる。
【0086】
図1Bに示された高周波誘電加熱接着シート1Bは、接着層10と、接着層10を支持する基材30を有し、高周波誘電加熱接着シート1Aと同様、接着層10は、第一表面11を有する。基材30としては、接着層10を支持できる部材であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種以上の樹脂を含む樹脂フィルム又は樹脂シートが挙げられる。基材30は、誘電フィラー(B)を含んでいてもよく、接着層10中の誘電フィラー(B)と基材30中の誘電フィラーとは、互いに同一であるか又は異なる。
【0087】
図1Cに示された高周波誘電加熱接着シート1Cは、接着層10と、接着層20と、接着層10及び接着層20の間に配置された中間層40と、を有する。高周波誘電加熱接着シート1Cは、第一表面11及び第一表面11とは反対側の第二表面21を有する。高周波誘電加熱接着シート1Cにおける接着層10を第一接着層と称する場合があり、接着層20を第二接着層と称する場合がある。第一接着層と第二接着層との間に中間層が配置された構成の高周波誘電加熱接着シートにおいては、第一接着層が本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの接着層の条件を満たしていればよく、一態様においては、第一接着層及び第二接着層の両方が同じ組成及び特性の層であり、一態様においては、第二接着層が第一接着層とは組成及び特性の少なくともいずれかの点で異なる高周波誘電加熱接着性の層であり、一態様においては、第二接着層が、高周波誘電加熱接着性の層ではない一般的な接着剤の層であり、高周波誘電加熱接着性ではない第二接着層としては、例えば、水又は溶剤が蒸発して乾燥固化する乾燥固化型の接着剤の層、又は粘着剤(感圧性接着剤)から形成される粘着剤の層である。
【0088】
・高周波誘電加熱接着シートの厚さ
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートの厚さが5μm以上であれば、被着体と接着する際に、高周波誘電加熱接着シートが被着体の凹凸に追従しやすく、接着強度が発現しやすくなる。
高周波誘電加熱接着シートが複数の層からなる多層構成の場合、接着層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートが多層構成のシートである場合、接着層の厚さが5μm以上であれば、被着体と接着する際に、接着層が被着体の凹凸に追従しやすく、接着強度が発現しやすくなる。
高周波誘電加熱接着シートの厚さの上限は、特に限定されない。高周波誘電加熱接着シートの厚さが増すほど、高周波誘電加熱接着シートと被着体とを接着して得られる接合体全体の重量も増加するため、高周波誘電加熱接着シートは、実使用上問題ない範囲の厚さであることが好ましい。高周波誘電加熱接着シートの実用性及び成形性も考慮すると、高周波誘電加熱接着シートの厚さは、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。
【0089】
高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、塗布が必要な液状の接着剤を用いる場合と比べて、取り扱い易く、被着体との接合時の作業性も向上する。
【0090】
また、高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、シート厚さなどを適宜制御できる。そのため、接着シートをロール・ツー・ロール方式に適用することもでき、かつ、抜き加工等により、被着体との接着面積、並びに被着体の形状に合わせて、接着シートを任意の面積及び形状に加工できる。そのため、高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、製造工程の観点からも、利点が大きい。
【0091】
(成型体)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、成型体であることも好ましい。本実施形態に係る成型体の形態は、特に限定されない。
図3A~
図3Cには、本実施形態に係る成型体の形態の例を示す概略斜視図が示されている。本実施形態に係る成型体は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を成型した単一の部分からなる成型体であってもよいし、複数の部分からなる成型体であってもよい。例えば、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤(第一材料)からなる第一部分と、第一部分の第一材料とは異なる材料である第二材料からなる第二部分と、を有する成型体が挙げられる。
【0092】
図3Aに示されている成型体1Dの形状は、立方体である。成型体1Dは、第一部分10Dと、第一部分10Dよりも大きな体積の第二部分20Dと、を有する。
【0093】
図3Bに示されている成型体1Eの形状も、立方体である。成型体1Dと成型体1Eとは、立方体中に占める第一部分の位置及び割合が異なる。成型体1Dにおいては、第二部分20Dの底面全体に対して第一部分10Dが接している。これに対して、成型体1Eにおいては、立方体の角に第一部分10Eが位置して、第二部分20Eと接している。
【0094】
本実施形態に係る成型体は、複数の第一部分を有していてもよい。例えば、
図3Cに示されている成型体1Fは、軸方向に沿って一部が切り欠かれた中空の略円筒状の第二部分20Fと、第二部分20Fの当該円筒の切り欠かれた2つの端面に接する2つの第一部分10Fとを有する。成型体中の第一部分の数は、2つに限定されず、3つ以上でもよい。
【0095】
本発明に係る成型体の形態は、成型体1D,1E,及び1Fに示された例に限定されない。また、成型体1D,1E,及び1Fに示された例では、第一部分と第二部分とが直接接しているが、本発明は、第一部分と第二部分とが直接接している態様に限定されず、第一部分と第二部分とが他の部分(例えば、第三部分等)を介して接していてもよい。
【0096】
本実施形態に係る成型体において、第二部分は、第二材料からなる。
第二材料は、特に限定されない。第二材料は、例えば、有機材料、無機材料及び天然由来材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含んでいることが好ましい。有機材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂等が挙げられる。無機材料としては、例えば、セラミック、ガラス、及び金属等が挙げられる。天然由来材料としては、例えば、木材、紙、皮革、及び石等が挙げられる。
本実施形態に係る成型体において、第一材料と第二材料とが異なる。第一材料と第二材料とが異なるとは、第一材料が含有する成分全てと、第二材料が含有する成分全てとが、一致しないことを意味する。例えば、第一材料が、シラン変性熱可塑性樹脂(第一の熱可塑性樹脂(A1))、シラン変性熱可塑性樹脂とは異なるその他の熱可塑性樹脂(第二の熱可塑性樹脂(A2))と、酸化亜鉛とを含有する材料であり、第二材料が、シラン変性熱可塑性樹脂のみを含む材料である場合、第二材料は、その他の熱可塑性樹脂及び酸化亜鉛を含有しないため、第一材料と第二材料とで成分全てが一致せず、第一材料と第二材料とが異なる。
【0097】
(高周波誘電加熱用接着剤の製造方法)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、例えば、上述の各成分を混合することにより製造できる。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が接着シートである場合、製造方法は特に限定されないが、例えば、次のように製造できる。単層の高周波誘電加熱接着シートは、上述の各成分を予備混合し、押出機、及び熱ロール等の公知の混練装置を用いて混錬し、押出成形、カレンダー成形、インジェクション成形、及びキャスティング成形等の公知の成形方法により製造できる。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートが多層構成の場合は、例えば、上述の各成分を予備混合し、多層押出機を用いた共押出法によって製造できる。また、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを構成する各層(例えば、第一接着層、中間層及び第二接着層)の単層シートを個別に作製し、複数の単層シートをラミネート処理して積層させることによっても、多層構成のシートを製造できる。複数の単層シートをラミネート処理する際には、例えば、熱ラミネーターを使用する。
また、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、溶融した接着層を基材の上にコーティングする熱押出コーティング、又はホットメルトコーティングによっても製造でき、接着層組成物を溶媒中に分散又は溶解させた塗布液を基材の上にコーティングするウェットコーティングによっても製造できる。
【0098】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が成型体である場合、製造方法は特に限定されないが、例えば、次のように製造できる。
本実施形態に係る成型体が、高周波誘電加熱用接着剤(第一材料)を成型した単一の部分からなる成型体である場合は、単色成型法により製造できる。
本実施形態に係る成型体が、
図3A~
図3Cに示す成型体のような複数の部分を有する多色成型体の場合、複数の材料(例えば、第一材料、及び第二材料)を用いて多色成型法により製造できる。また、高周波誘電加熱用接着剤(第一材料)を成型した単一の部分からなる成型体を、別の成型体に嵌め込んで多色成型体を製造してもよい。
【0099】
また、第一材料、及び第二材料の一方からなる第1成型体と、前記第一材料、及び前記第二材料の他方とを用いてインサート成型法により、多色成型体を製造できる。
例えば、第二材料の材質が金属又はセラミックである場合も、所望の形状の金属製又はセラミック製の第二部分を準備しておき、この第二部分と、第一材料とを用いてインサート成型法により本実施形態に係る成型体を製造してもよい。
【0100】
また、例えば、本実施形態に係る成型体は、第一材料、及び第二材料の一方を用いて射出成型法又は圧縮成型法により、第1成型体を成型し、第一材料、及び第二材料の他方と、第1成型体とを用いてインサート成型法により製造できる。
例えば、第二材料を用いて射出成型法又は圧縮成型法により、第1成型体を成型する。この第1成型体が第二部分に相当する。次に、第一材料と第1成型体とを用いてインサート成型法により成型体を製造してもよい。インサート成型時に形成された第一材料からなる部分が第一部分に相当する。
【0101】
(高周波誘電加熱用接着剤の使用方法)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、被着体との接着に使用できる。また、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、複数の被着体同士の接着にも使用できる。
被着体の材質は、特に限定されない。被着体の材質は、有機材料、及び無機材料(金属材料等を含む。)のいずれの材料でもよく、有機材料と無機材料との複合材料でもよい。
被着体の材質としての有機材料は、例えば、プラスチック材料、及びゴム材料が挙げられる。プラスチック材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリアミド樹脂(ナイロン6及びナイロン66等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂、及びポリスチレン樹脂等が挙げられる。ゴム材料としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、及びシリコーンゴム等が挙げられる。また、被着体は、有機材料の発泡材でもよい。
被着体の材質としての無機材料としては、ガラス材料、セメント材料、セラミック材料、及び金属材料等が挙げられる。また、被着体は、繊維と上述したプラスチック材料との複合材料である繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Plastics,FRP)でもよい。この繊維強化樹脂におけるプラスチック材料は、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリアミド樹脂(ナイロン6及びナイロン66等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂、及びポリスチレン樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種である。繊維強化樹脂における繊維は、例えば、ガラス繊維、ケブラー繊維、及び炭素繊維等が挙げられる。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いて複数の被着体同士を接着する場合、複数の被着体は、互いに同じ材質であるか、又は異なる材質である。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、ガラス製の被着体との接着に好適に使用できる。複数の被着体同士を接着する場合は、少なくともいずれかの被着体がガラス製であれば、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、当該ガラス製の被着体と強固に接着できる。
被着体の形状は、特に限定されないが、高周波誘電加熱用接着剤を貼り合わせることのできる面を有することが好ましく、シート状又は板状であることが好ましい。複数の被着体同士を接着する場合は、それら被着体の形状及び寸法は、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0102】
[接着方法]
本実施形態に係る接着方法は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いる接着方法である。
以下、本実施形態に係る接着方法の一例として、単一の接着層からなる高周波誘電加熱接着シートを用いて、第一の被着体と第二の被着体とを接着する態様を挙げて説明するが、本発明は、この態様に限定されない。第二の被着体の材質も特に限定されない。
【0103】
本実施形態の一態様に係る接着方法は、以下の工程P1及び工程P2を含む。
【0104】
・工程P1
工程P1は、第一の被着体と第二の被着体との間で本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを挟持する工程である。工程P1では、ガラス製の第一の被着体を高周波誘電加熱接着シートの第一表面に接触させる。また、工程P1では、第二の被着体を高周波誘電加熱接着シートの第二表面に接触させる。
【0105】
高周波誘電加熱接着シートは、第一の被着体と第二の被着体とを接着できるように、第一の被着体と第二の被着体の間に挟持すればよい。高周波誘電加熱接着シートは、第一の被着体と第二の被着体との間の一部において、複数箇所において又は全面において挟持すればよい。第一の被着体と第二の被着体との接着強度を向上させる観点から、第一の被着体と第二の被着体との接着面全体に亘って高周波誘電加熱接着シートを挟持することが好ましい。また、第一の被着体と第二の被着体との間の一部において高周波誘電加熱接着シートを挟持する一態様としては、第一の被着体と第二の被着体との接着面の外周に沿って高周波誘電加熱接着シートを枠状に配置して、第一の被着体と第二の被着体との間で挟持する態様が挙げられる。このように高周波誘電加熱接着シートを枠状に配置することで、第一の被着体と第二の被着体との接着強度を得るとともに、接着面全体に亘って高周波誘電加熱接着シートを配置した場合に比べて接合体を軽量化できる。また、第一の被着体と第二の被着体との間の一部に高周波誘電加熱接着シートを挟持する一態様によれば、用いる高周波誘電加熱接着シートのサイズを小さくできるため、接着面全体に亘って高周波誘電加熱接着シートを配置した場合に比べて高周波誘電加熱処理時間を短縮できる。
【0106】
・工程P2
工程P2は、工程P1において第一の被着体と第二の被着体との間で挟持した高周波誘電加熱接着シートに対して、3MHz以上、300MHz以下の高周波電界を印加して、第一の被着体と第二の被着体とを高周波誘電加熱接着シートにより接着する工程である。
例えば、誘電加熱接着装置を用いることにより、高周波誘電加熱接着シートに対して高周波電界を印加できる。なお、本明細書において、「誘電加熱装置」を「誘電加熱接着装置」又は「高周波誘電加熱装置」と称する場合がある。
【0107】
図2には、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シート及び誘電加熱装置を用いた高周波誘電加熱処理を説明する概略図が示されている。
【0108】
(誘電加熱接着装置)
図2には、誘電加熱接着装置50の概略図が示されている。
誘電加熱接着装置50は、第一高周波電界印加電極51と、第二高周波電界印加電極52と、高周波電源53と、を備えている。
第一高周波電界印加電極51と、第二高周波電界印加電極52とは、互いに対向配置されている。第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52は、プレス機構を有している。このプレス機構により、第一の被着体110、高周波誘電加熱接着シート1A及び第二の被着体120を、第一高周波電界印加電極51と第二高周波電界印加電極52との間で加圧処理できる。
【0109】
第一高周波電界印加電極51と第二高周波電界印加電極52とが互いに平行な1対の平板電極を構成している場合、このような電極配置の形式を平行平板タイプと称する場合がある。
高周波電界の印加には平行平板タイプの高周波誘電加熱装置を用いることも好ましい。平行平板タイプの高周波誘電加熱装置であれば、高周波電界が電極間に位置する高周波誘電加熱接着シートを貫通するので、高周波誘電加熱接着シート全体を温めることができ、被着体と高周波誘電加熱接着シートとを短時間で接着できる。
【0110】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52のそれぞれに、例えば、周波数13.56MHz程度、27.12MHz程度又は周波数40.68MHz程度の高周波電界を印加するための高周波電源53が接続されている。
誘電加熱接着装置50は、
図2に示すように、第一の被着体110及び第二の被着体120との間に挟持した高周波誘電加熱接着シート1Aを介して、誘電加熱処理する。さらに、誘電加熱接着装置50は、誘電加熱処理に加えて、第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52による加圧処理によって、第一の被着体110と第二の被着体120とを接着する。なお、加圧処理を行わずに、例えば接着シートや被着体の自重のみによる押圧により第一の被着体110と第二の被着体120とを接着してもよい。なお、加圧処理を行わずに第一の被着体110と第二の被着体120とを接着してもよい。
【0111】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52の間に、高周波電界を印加すると、高周波誘電加熱接着シート1Aにおける接着剤成分中に分散された誘電フィラー(図示せず)が、高周波エネルギーを吸収する。
そして、誘電フィラーは、発熱源として機能し、誘電フィラーの発熱によって、熱可塑性樹脂成分を溶融させ、短時間処理であっても、最終的には、第一の被着体110と第二の被着体120とを強固に接着できる。
【0112】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52は、プレス機構を有することから、プレス装置としても機能する。そのため、第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52による圧縮方向への加圧及び高周波誘電加熱接着シート1Aの加熱溶融によって、第一の被着体110と第二の被着体120とをより強固に接着できる。
【0113】
(高周波誘電加熱接着条件)
高周波誘電加熱接着条件は、適宜変更できるが、以下の条件であることが好ましい。
【0114】
高周波電界の出力は、10W以上であることが好ましく、30W以上であることがより好ましく、50W以上であることがさらに好ましく、80W以上であることがよりさらに好ましい。
高周波電界の出力は、50,000W以下であることが好ましく、20,000W以下であることがより好ましく、15,000W以下であることがさらに好ましく、10,000W以下であることがよりさらに好ましく、1,000W以下であることがさらになお好ましい。
高周波電界の出力が10W以上であれば、誘電加熱処理時に温度が上昇し難いという不具合を防止できるので、良好な接着力を得やすい。
高周波電界の出力が50,000W以下であれば、誘電加熱処理による温度制御が困難となる不具合を防ぎ易い。
【0115】
高周波電界の印加時間は、1秒以上であることが好ましい。
高周波電界の印加時間は、300秒以下であることが好ましく、240秒以下であることがより好ましく、180秒以下であることがさらに好ましく、120秒以下であることがよりさらに好ましく、100秒以下であることがさらになお好ましい。
高周波電界の印加時間が1秒以上であれば、誘電加熱処理時に温度が上昇し難いという不具合を防止できるので、良好な接着力を得やすい。
高周波電界の印加時間が300秒以下であれば、第一の被着体と第二の被着体とを接着させた接合体の製造効率が低下したり、製造コストが高くなったり、さらには、被着体が熱劣化するといった不具合を防ぎ易い。
【0116】
印加する高周波電界の周波数は、1kHz以上であることが好ましく、1MHz以上であることがより好ましく、5MHz以上であることがさらに好ましく、10MHz以上であることがよりさらに好ましい。
印加する高周波電界の周波数は、300MHz以下であることが好ましく、100MHz以下であることがより好ましく、80MHz以下であることがさらに好ましく、50MHz以下であることがよりさらに好ましい。具体的には、国際電気通信連合により割り当てられた工業用周波数帯13.56MHz、27.12MHz又は40.68MHzが、本実施形態の高周波誘電加熱接着方法(接着方法)にも利用される。
【0117】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤によれば、少ない消費エネルギーでも、高い接着強度でガラスと接着できる。さらに、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、経時的に接着力が低下し難い接着剤であり、長期保管性にも優れる。
【0118】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、一般的な粘着剤に比べて、耐水性及び耐湿性が優れる。
【0119】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加により加熱されるため、高周波誘電加熱用接着剤が局所的に加熱される。それゆえ、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤によれば、被着体との接着時に被着体全体が溶融するという不具合を防ぎやすい。
【0120】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いた接着方法によれば、誘電加熱接着装置によって、外部から、所定箇所のみを局所的に加熱することができる。そのため、被着体が、大型で且つ複雑な立体構造体又は厚さが大きく且つ複雑な立体構造体等であり、さらに高い寸法精度を求められる場合でも、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いた接着方法は、有効である。
【0121】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等を含むことができる。
【0122】
高周波誘電加熱接着シートは、粘着部を有していてもよい。粘着部を有することで、被着体と被着体との間に高周波誘電加熱接着シートを挟持する際に、位置ずれを防止して、正確な位置に配置できる。粘着部は、高周波誘電加熱接着シートの一方の面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。また、粘着部は、高周波誘電加熱接着シートの面に対して、部分的に設けられていてもよい。高周波誘電加熱接着シートは、粘着部を有していない場合でも、第一の被着体と第二の被着体とを強固に接着できる。
【0123】
高周波誘電加熱処理は、前記実施形態で説明した電極を対向配置させた誘電加熱接着装置に限定されず、格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いてもよい。格子電極タイプの高周波誘電加熱装置は、一定間隔ごとに第一極性の電極と、第一極性の電極とは反対極性の第二極性の電極とを同一平面上に交互に配列した格子電極を有する。
例えば、第一の被着体の端部と第二の被着体の端部とを重ね合わせて接着した接合体を製造する場合は、第一の被着体側又は第二の被着体側に格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を配置して高周波電界を印加する。
【0124】
格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いて第一の被着体と第二の被着体とを接着させる場合に、第一の被着体側に第一の格子電極を配置し、第二の被着体側に第二の格子電極を配置して、第一の被着体、高周波誘電加熱用接着剤及び第二の被着体を、第一の格子電極と第二の格子電極との間に挟んで同時に高周波電界を印加してもよい。
【0125】
格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いて第一の被着体と第二の被着体とを接着させる場合に、第一の被着体及び第二の被着体の一方の面側に格子電極を配置し、高周波電界を印加し、その後、第一の被着体及び第二の被着体の他方の面側に格子電極を配置し、高周波電界を印加してもよい。
【0126】
高周波電界の印加には格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることも好ましい。格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることで、第一の被着体及び第二の被着体の厚さの影響を受けず、第一の被着体及び第二の被着体の表層側、例えば、高周波誘電加熱用接着剤までの距離が近い被着体側から誘電加熱することにより、被着体同士を接着できる。また、格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることで、接合体の製造の省エネルギー化を実現できる。
【0127】
なお、図においては、簡略化のために電極を対向配置させた誘電加熱接着装置を用いた態様を例示した。
【実施例0128】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0129】
[高周波誘電加熱用接着剤の作製]
(実施例1~5及び比較例1~2)
表1に示す材料を予備混合した。予備混合した材料を30mmφ二軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー設定温度を180℃以上、200℃以下、ダイス温度を200℃に設定し、予備混合した材料を溶融混練した。溶融混錬した材料を冷却した後に、当該材料をカットすることにより、粒状のペレットを作製した。次いで、作製した粒状ペレットを、Tダイを設置した単軸押出機のホッパーに投入し、シリンダー温度を200℃、ダイス温度を200℃の条件として、Tダイから、フィルム状溶融混練物を押出し、冷却ロールにて冷却させることにより、実施例1~5及び比較例1~2に係る厚さ400μmのシート状の高周波誘電加熱用接着剤(高周波誘電加熱接着シート)のそれぞれを作製した。
【0130】
表1に示す熱可塑性樹脂及びフィラーの説明は、次の通りである。
・シラン変性PP:シラン変性ポリプロピレン、三菱ケミカル株式会社製、製品名「リンクロンPM700N」
・シラン変性PE:シラン変性ポリエチレン、三菱ケミカル株式会社製、製品名「リンクロンSS732N」
・m-PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、三菱ケミカル株式会社製、製品名「モディックP565」
・PP:ポリプロピレン、株式会社プライムポリマー製、製品名「プライムポリプロF-744NP」
・m-PE:無水マレイン酸変性ポリエチレン、三菱ケミカル株式会社製、製品名「モディックM545」
・酸化亜鉛(ZnO):体積平均粒子径11μmの酸化亜鉛。堺化学工業株式会社製、製品名「LP-ZINC11」
【0131】
(MFR:Melt flow rate)
熱可塑性樹脂の190℃におけるMFRは、JIS K 7210-1:2014に準じて、降下式フローテスター(株式会社島津製作所製,型番「CFT-100D」)を用いて測定した。
複数種の熱可塑性樹脂を混合して用いる場合は、当該複数種の樹脂を表1に示す比率で二軸混錬して、混合樹脂ペレットを作製し、その混合樹脂ペレットのMFRを上述と同様に測定した。
【0132】
(誘電フィラーの体積平均粒子径)
レーザー回折・散乱法により、誘電フィラーの粒度分布を測定した。粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2001に準じて体積平均粒子径を算出した。算出した酸化亜鉛(ZnO)の体積平均粒子径は、11μmであった。
【0133】
〔高周波誘電加熱接着シートの評価〕
以下に示すとおり高周波誘電加熱接着シートを評価し、評価結果を表1に示す。
【0134】
(接着力(引張せん断力))
高周波接着性評価の一つの指標として、接着力(引張せん断力)を評価した。
作製した高周波誘電加熱接着シートを、25mm×12.5mmの大きさに切断した。一対の被着体(第一の被着体及び第二の被着体)としてのソーダライムガラス(25mm×100mm×3mm(厚さ))の間に、切断した高周波誘電加熱接着シートを、被着体の重ね合わせ部分と一致するように配置した。このように配置した後、一対の被着体と高周波誘電加熱接着シートとを高周波誘電加熱装置(山本ビニター社製、製品名「YRP-400T-A」)の電極間に固定した。高周波誘電加熱装置の一対の電極の面積は、それぞれ、800mm2(=40mm×20mm)とし、被着体(ソーダライムガラス)の重ね合わせ部分を覆うように当該一対の電極を配置した。固定した状態で、下記高周波印加条件で高周波電界を印加して、高周波誘電加熱接着シートと被着体を接着させて、接着力評価用の試験片を作製した。
また、作製した高周波誘電加熱接着シートを、別途、高温高湿条件下で長時間保管(50℃、95%RHの条件に1週間保管)した後、上記と同様にして接着力評価用の試験片を作製した。
【0135】
・高周波印加条件
周波数 :40.68MHz
出力 :150W
印加時間 :20秒
押し圧:0.5MPa
高周波印加時の押し圧は、第一の被着体と第二の被着体との接合部に加えた圧力である。
【0136】
高温高湿条件下で長時間保管する前の高周波誘電加熱接着シートを用いて作製した試験片を促進試験前の試験片とし、長時間保管した後の高周波誘電加熱接着シートを用いて作製した試験片を促進試験後の試験片とした。これら試験片を用いて、接着力としての引張せん断力(単位:MPa)を測定した。引張せん断力の測定には、万能引張試験機(インストロン社製、製品名「インストロン5581」)を用いた。引張せん断力の測定における引張速度は、10mm/分とした。なお、表中の「>4.0」は、引張せん断力が4.0MPa超であったことを意味する。JIS K 6850:1999に準じて引張せん断力を測定した。
【0137】
【0138】
実施例1~実施例5の高周波誘電加熱接着シートは、熱可塑性樹脂としてシラン変性熱可塑性樹脂とシラン変性されていない熱可塑性樹脂とを含んでいるため、少ない消費エネルギーでも、ガラス製の被着体同士を高い接着強度で接着でき、促進試験前の引張せん断力が高く、かつ、促進試験後の引張せん断力も同等以上であって、接着力が経時的に低下しておらず、長期保管性の高い接着シートであった。
比較例1の高周波誘電加熱接着シートは、熱可塑性樹脂としてシラン変性熱可塑性樹脂を含んでいるため、促進試験前の引張せん断力は、高かった。しかしながら、比較例1の高周波誘電加熱接着シートは、シラン変性されていない熱可塑性樹脂を含んでおらず、促進試験後の引張せん断力が、大幅に低下した。このように、比較例1の高周波誘電加熱接着シートは、接着力が経時的に低下し易く、長期保管性の低い接着シートであった。
比較例2の高周波誘電加熱接着シートは、熱可塑性樹脂としてシラン変性熱可塑性樹脂を含んでいないため、ガラスに対して接着しなかった。
10…接着層(第一接着層)、10D…第一部分、10E…第一部分、10F…第一部分、11…第一表面、12…第二表面、110…第一の被着体、120…第二の被着体、1A…高周波誘電加熱接着シート、1B…高周波誘電加熱接着シート、1C…高周波誘電加熱接着シート、1D…成型体、1E…成型体、1F…成型体、20…接着層(第二接着層)、20D…第二部分、20E…第二部分、20F…第二部分、21…第二表面、30…基材、40…中間層、50…誘電加熱接着装置、51…第一高周波電界印加電極、52…第二高周波電界印加電極、53…高周波電源。