(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001068
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/28 20060101AFI20241225BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20241225BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B23P15/28 A
B24C1/00 Z
B24C11/00 B
B24C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100422
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】河口 誠司
(72)【発明者】
【氏名】上田 志津代
(57)【要約】
【課題】ドリル,エンドミル,タップなどの工具の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の工具の製造方法は、工具基材の表面に対して樹脂を含有した投射材を用いたショットブラスト処理を行う第1工程、この第1工程後に過酸化水素水を含む液体に工具基材を浸漬する第2工程、この第2工程後に工具基材の表面に硬質皮膜を被覆する第3工程から形成する。また、この第2工程と第3工程との間に、工具基材に付着した過酸化水素水を含む液体を洗浄する中間工程をさらに追加することもできる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基材の表面に対して樹脂を含有した投射材を用いてショットブラスト処理を行う第1工程と、前記第1工程後に過酸化水素水を含む液体に前記工具基材を浸漬する第2工程と、前記第2工程後に前記工具基材の表面に硬質皮膜を被覆する第3工程と、を有することを特徴とする工具の製造方法。
【請求項2】
前記投射材には、少なくともダイヤモンドまたは炭化ケイ素のいずれかをさらに含有していることを特徴とする請求項1に記載の工具の製造方法。
【請求項3】
前記工具は、転造加工用工具であることを特徴とする請求項2に記載の工具の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程と前記第3工程との間に、前記工具基材に付着した前記過酸化水素水を含む液体を洗浄する中間工程をさらに有していることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の工具の製造方法。
【請求項5】
前記工具基材は、高速度工具鋼または合金鋼のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル,エンドミル,タップなど工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、ドリル等の工具には表面に硬質皮膜を被覆(コーティング)する。これらの硬質皮膜を被覆する前に、各種材質の投射材を用いたショットブラスト処理を行うことで工具の表面に対して研磨加工を行い、できる限り平滑な表面に整えておく。これは、コーティング工程において、工具基材の表面性状(表面粗さ)がそのまま硬質皮膜の性状に表れるからである(特許文献1ないし3参照)。この時、投射材の材質に柔らかい樹脂を使用することで、ショットブラスト処理による衝撃を吸収して、工具基材の表面を傷つけずに表面を滑走させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-268656号公報
【特許文献2】特開2018-001144号公報
【特許文献3】特開2021-074654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ショットブラスト処理に使用する投射材(メディア)に樹脂が含有されていると、樹脂が柔らかいので、工具基材の表面を滑走する時に樹脂が削れたり、ショットブラスト処理の衝撃で樹脂が砕けたりすることで、樹脂が工具基材に付着した状態になる。結果として、工具基材の表面に分散した細かな樹脂がコーティング工程にて、残存することで硬質皮膜の表面性状に大きな影響を及ぼしていた。また、残存した樹脂がコーティング工程にてガスを発生させて、異常放電を誘発し、工具基材の表面を傷つけてしまっていた。
【0005】
そこで、本発明は表面に被覆する硬質皮膜の表面を平滑にできる工具の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために、本発明の工具の製造方法は、工具基材の表面に対して樹脂を含有した投射材を用いてショットブラスト処理を行う第1工程、過酸化水素水を含む液体に工具基材を浸漬する第2工程および工具基材の表面に硬質皮膜を被覆する第3工程から形成する。なお、投射材については、ダイヤモンドまたは炭化ケイ素(SiC)のいずれかの物質をさらに含有しても構わない。また、第2工程と第3工程の間に工具基材の表面に付着した過酸化水素水を含む液体を洗浄する中間工程を追加しても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の工具の製造方法は、高速度工具鋼や合金鋼などの工具基材の表面に対して、樹脂を含有した投射材を用いてショットブラスト処理を行った場合に工具基材の表面に付着する汚れを過酸化水素水が含まれる液体で除去する点に特徴がある。
【0008】
すなわち、過酸化水素水の還元反応で洗浄対象である工具基材と汚れの隙間から気泡を発生させることで、汚れである付着物を剥がすことができる。そのため、後工程である工具基材の表面に硬質皮膜を被覆する第3工程では、工具基材の表面が十分に清浄されているので工具基材と硬質皮膜の密着性が高まり、平滑な硬質皮膜の表面が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1工程後の工具基材Wの表面状態を示す模式図である。
【
図2】第2工程における工具基材Wの表面状態を示す模式図である。
【
図3】第2工程後の工具基材Wの表面状態を示す模式図である。
【
図4】第3工程後の工具Tの表面状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の工具の製造方法の一実施形態について図面を用いて以下に説明する。本発明の工具の製造方法の第1工程後の工具基材Wの表面状態を示す模式図を
図1、第2工程における工具基材Wの表面状態を示す模式図を
図2、第2工程後の工具基材Wの表面状態を示す模式図を
図3、第3工程後の工具Tの表面状態を示す模式図を
図4にそれぞれ示す。
【0011】
まず、樹脂を含有した投射材を用いてショットブラスト処理(本発明の第1工程)が行われた工具基材Wの表面は、
図1に示す様に投射材の樹脂に起因した汚れPが表面Sに付着している。次に、過酸化水素水を含む液体(化学薬品)に工具基材Wを浸漬する(本発明の第2工程)ことで、
図2に示す様に過酸化水素水が表面Sを起点として化学反応が起こり、微細な気泡が多数発生する。この気泡の破裂衝撃の作用によって工具基材Wから汚れPを浮かして、除去する。
【0012】
第2工程が終了した後、過酸化水素水を含む液体の中から工具基材Wを取り出して、洗浄した後に十分に乾燥させる。乾燥した工具基材Wは、
図3に示す様に表面から汚れが除去されており、清浄度の高い工具基材Wを準備することができる。最後に、
図4に示す様に成膜装置などを利用して工具基材Wの表面に硬質皮膜Cを被覆する(本発明の第3工程)。
【0013】
なお、本発明の工具については、切削工具、歯切工具、転造加工用工具(転造工具)等の各種工具に適用できる。工具の基材は高速度工具鋼や合金鋼とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0014】
C 硬質皮膜
T 工具
P 汚れ
S 工具表面
Y 過酸化水素水を含む液体
W 工具基材