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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010702
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20250116BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250116BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250116BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250116BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20250116BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/66 A
H01M50/531
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112835
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】新中 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 駿
(72)【発明者】
【氏名】菊池 彰文
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H017AA04
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE01
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ06
5H029BJ12
5H029DJ05
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ12
5H043AA04
5H043BA20
5H043CA13
5H043EA07
5H043JA01E
5H043JA15E
5H043JA21E
5H043KA01E
5H043KA22E
5H043KA35E
5H043LA00E
5H043LA21E
5H043LA22E
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備えつつ、充放電時の短絡が抑制された全固体二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る全固体二次電池10は、一対の電極が固体電解質層3を介して対向し、上記一対の電極1、2のうちの少なくとも一方は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層5、6を備え、上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、活物質層側に設けられた金属層4aと、該金属層4aに対して上記活物質層5とは反対側に設けられた、上記金属層4aよりヤング率の小さい背面層4bとを含む集電体4を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極が固体電解質層を介して対向し、
上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備え、
上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、活物質層側に設けられた金属層と、該金属層に対して上記活物質層とは反対側に設けられた、上記金属層よりヤング率の小さい背面層と、を含む集電体を備える、
全固体二次電池。
【請求項2】
上記集電体は、上記背面層の両面に上記金属層を備える、請求項1記載の全固体二次電池。
【請求項3】
上記集電体は、上記金属層が上記背面層から平面方向に突出するタブ部を有する、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
上記背面層が、両面に粘着性を有する樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂である、請求項1から3のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質として難燃性の固体を用いた全固体二次電池の開発が進められている。全固体二次電池として、電極に高分子製の部材を配置したものが知られている。
【0003】
特許文献1には、実施例1として、「負極集電体の集電部としてCu箔・・・を準備し、負極集電体の弾性部として、電子伝導性を有するシリコーンゴム・・・を準備した。また、固体電解質層を形成するための固体電解質として、硫化物固体電解質(LiBrおよびLiIを含むLiS-P系材料)を準備した。さらに、正極(対極)としてLi箔を準備した。
その後、硫化物固体電解質・・・を、・・・プレス成形し、固体電解質層を形成した。得られた固体電解質層の一方の面側にLi箔を配置し、他方の面側にCu箔およびゴムを配置し、・・・プレス成形し、発電要素・・・を形成した。得られた発電要素を・・・拘束し、評価用電池を得た。得られた評価用電池は、図5(a)に示すように、SUS、Li箔、固体電解質層、Cu箔、ゴムおよびSUSがこの順に配置された積層構造を有する。」(段落[0067]から[0068])との記載がある。
【0004】
特許文献2には、「正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層がこの順に積層されているモノポーラ型電池ユニットを3つ作製した。
これらのモノポーラ型電池ユニット同士を、間に絶縁性ポリマーフィルムを挟んで互いに積層した。積層した各モノポーラ型電池ユニット同士の正極集電体層及び負極集電体層を、図2に示すように接続して、実施例1の全固体電池積層体を完成させた。」(段落[0093]から[0094])との記載がある。
【0005】
特許文献3には、「以下の材料を用いて、図1に示す積層構造を有する電池積層体10を準備し、その側面を樹脂層11で被覆して、10MPaの拘束力で拘束して、実施例1~3並びに比較例1及び2の全固体電池を作成した。
・正極集電体層:アルミニウム集電箔・・・
・正極活物質層:正極活物質+硫化物固体電解質+導電助剤+バインダー・・・
正極活物質:LiCo1/3Ni1/3Mn1/3
硫化物固体電解質:LiS-P-LiI-LiBr
導電助剤: 気相成長法炭素繊維(VGCF)
バインダー: ポリフッ化ビニリデン(PVdF)
・固体電解質層:硫化物固体電解質+バインダー・・・
硫化物固体電解質:LiS-P-LiI-LiBr
バインダー:スチレンブタジエンゴム(SBR)
・負極活物質層:Si合金系負極活物質+硫化物固体電解質+バインダー・・・
硫化物固体電解質:LiS-P-LiI-LiBr
バインダー:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)
・正極/負極集電体層:SUS集電箔・・・
なお、樹脂層を構成する樹脂材料としては、実施例1~3では、シリコーン樹脂を用いて、比較例1及び2はエポキシ樹脂を用いた。電池積層体の圧縮弾性率との関係を調整するために適宜にフィラーを添加した。」(段落[0084]から[0086])との記載がある。
【0006】
特許文献4には、「(正極構造体の作製)
正極活物質としてのLiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)三元系粉末と、硫化物系固体電解質としてのLiS-P・・・非晶質粉末と、正極層導電性物質(導電助剤)としての気相成長炭素繊維粉末とを・・・秤量し、自転公転ミキサを用いて混合した。
次いで、この混合粉に、結着剤としてのスチレン・ブタジエンゴム(SBR)が溶解した脱水キシレン溶液を・・・添加して1次混合液を調製した。さらに、この1次混合液に、・・・脱水キシレンを適量添加することで、2次混合液を調製した。さらに、・・・直径5mmのジルコニアボールを・・・2次混合液に投入した。これにより生成された3次混合液を自転公転ミキサに投入し、・・・撹拌することで、正極活物質層塗工液を調製した。
次いで、正極集電体として・・・アルミ箔集電体を用意し、・・・正極活物質層塗工液をアルミ箔集電体上に塗工し、その後、正極活物質層塗工液が塗工されたアルミ箔集電体を・・・ホットプレートで・・・乾燥させた。次いで、アルミ箔集電体の裏面についても正極活物質層塗工液を塗工し、・・・ホットプレートで・・・乾燥させた。次いで、塗工されたアルミ箔集電体をさらに・・・真空乾燥させた。これにより、正極集電体の両面に正極活物質層を形成し、正極構造体を得た。・・・・
(負極構造体の作製)
負極集電体として・・・ニッケル箔集電体を用意した。また、負極活物質として、旭カーボン社製CB1(無定形炭素・・・)、旭カーボン社製CB2(無定形炭素・・・)、および・・・銀粒子を準備した。
次いで、・・・CB1、・・・CB2、・・・銀粒子を容器に入れ、そこへバインダ・・・を含むN-メチルピロリドン(NMP)溶液を・・・加え、混合溶液を得た。次いで、この混合溶液に・・・NMPを少しずつ加えながら混合溶液を撹拌することで、スラリーを作製した。このスラリーをニッケル箔集電体にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で・・・乾燥させた。これにより得られた積層体を・・・真空乾燥した。以上の工程により、負極集電体上に負極活物質層が積層された負極構造体を作製した。
(固体電解質負極複合体の作製)
硫化物系固体電解質としてのLiS-P・・・非晶質粉末に、・・・脱水キシレンに溶解したSBRバインダを添加して1次混合スラリーを生成した。さらに、この1次混合スラリーに、・・・脱水キシレンおよび脱水ジエチルベンゼンを適量添加することで、2次混合スラリーを生成した。さらに、・・・直径5mmのジルコニアボールを・・・3次混合スラリーに投入した。これにより作製した3次混合液を自転公転ミキサに投入し、・・・撹拌することで、電解質層塗工スラリーを作製した。
・・・固体電解質スラリーを負極構造体上に塗工した。その後、・・・ホットプレートで・・・乾燥させた後、・・・真空乾燥させ、固体電解質層を形成した。・・・以上により、負極構造体の上に固体電解質層が形成された固体電解質負極複合体を得た。
(全固体二次電池の作製)
シート状の固体電解質負極複合体と、両面に正極活物質層が形成されたシート状の正極構造体とをそれぞれトムソン刃で打ち抜いた後、固体電解質層が正極構造体両面にそれぞれ接するように、固体電解質負極複合体、正極構造体、固体電解質負極構造体の順で重ねた。この状態でアルミニウムラミネートフィルムに入れ、真空機で・・・真空排気しラミネートパックを行った。
次いで、・・・アルミ板(支持板)上に載せて、支持板を含めて真空ラミネートパックを行った。これを加圧媒体中に沈め、・・・等方圧処理(圧密化工程)を行った。・・・これにより、単セルとしての全固体二次電池を作製した。この際、アルミ板側に接した側の固体電解質負極複合体の負極集電箔をA面、反対の負極集電箔をB面と呼ぶこととする。
・・・
(積層全固体二次電池の作製)
作製した全固体二次電池の単セル2個の間を絶縁し、一方の全固体二次電池のA面と他方の全固体二次電池のB面が向い合わせとなるように重ね、端子を取り付けたアルミニウムラミネートフィルムに入れ、真空機で・・・真空排気した後、ヒートシールを行いパックすることで実施例1に係る積層全固体二次電池を作製した。」(段落[0111]から[0121])との記載がある。また、引用文献4には、絶縁層について、「隣接する全固体二次電池1同士を絶縁可能であれば特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂といった熱可塑性樹脂シートや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂といった熱硬化性樹脂シート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリカーボネートといったエンジニアリング・プラスチック、シリコーンゴム、ウレタンゴムといった合成ゴムシート、また紙類等のシート、また樹脂を全固体電池1上にコーティングしたものであってもよい。」(段落[0081])との記載がある。
【0007】
特許文献5には、「[全固体電池用集電体の作製]
(実施例1)
酸変性PVDF-A・・・、アセチレンブラック・・・、ポリN-ビニルピロリドン-A・・・、酸化チタン粒子・・・を用意し、これに・・・N-メチル-2-ピロリドンとイソプロピルアルコールを加えた。・・・その混合液を・・・攪拌機・・・を使用し・・・混合して塗工液を得た。・・・
次に、・・・アルミニウム箔を用意し、グラビアコーター・・・の液溜め(パン)に調製した塗工液を入れ、グラビアロールを一定速度で回転させた。アルミニウム箔をグラビアロールに接触させ、グラビアロールの回転方向と同方向にアルミニウム箔を搬送してコーティングを行い、塗布された塗工液を・・・乾燥させた。
アルミニウム箔の反対面も同様にして塗工液を塗布、乾燥した。」(段落[0101]から[0103])との記載、「<正極活物質層の作製>
正極活物質としてLiCoO・・・、導電助剤として導電性カーボンブラック・・・、およびバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン・・・、酸化物系固体電解質としてLLTO(La:LiCO:TiOのモル比が14:28:50)・・・にNメチル-2-ピロリドンを適宜加えながらこれらを攪拌・および混合し、スラリー状の分散液を作製した。作製した分散液を実施例1~3および比較例1で作製した集電体上に・・・ドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させ、加圧成形して、全固体電池正極サンプルを得た。」(段落[0109])との記載、及び「[全固体電池の評価]
<酸化物系固体電解質層の作製>
La:LiCO:TiOのモル比が14:28:50となるように秤量し、乳鉢で混合した。前記混合物・・・に対し、エタノールを・・・少量加えて、乳鉢で湿式混合しスラリーを得た。前記スラリーを直径10mmの容器に・・・詰め、一軸プレスをしてペレット状にした。得られたペレットを・・・仮焼成し、次いで・・・本焼成した。
<全固体電池の作製>
前記全固体電池正極サンプルを直径10mmに打ち抜き、前記酸化物系固体電解質層ペレット、直径10mmに打ち抜いた・・・Li金属箔・・・の順に積層して圧接し、外装材はアルミラミネートを用いて、ハーフセルの全固体電池を作製した。」(段落[0111]から[0112])との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-2495号公報
【特許文献2】特開2020-136261号公報
【特許文献3】特開2020-21551号公報
【特許文献4】特開2019-121558号公報
【特許文献5】特開2021-99934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備える全固体二次電池では、充放電時に短絡が生じる問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備えつつ、充放電時の短絡が抑制された全固体二次電池を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面に係る全固体二次電池は、一対の電極が固体電解質層を介して対向し、上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備え、上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、活物質層側に設けられた金属層と、該金属層に対して上記活物質層とは反対側に設けられた、上記金属層よりヤング率の小さい背面層と、を含む集電体を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面に係る全固体二次電池は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備えつつ、充放電時の短絡が抑制されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、積層型の全固体二次電池の一実施形態を示す断面図である。
図2図2は、全固体二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
図3図3は、実施例1で作製した全固体二次電池における電極体の構造を示す断面図である。
図4図4は、実施例2で作製した全固体二次電池における電極体の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)本発明の一実施形態に係る全固体二次電池は、一対の電極が固体電解質層を介して対向し、上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備え、上記一対の電極のうちの少なくとも一方は、活物質層側に設けられた金属層と、該金属層に対して上記活物質層とは反対側に設けられた、上記金属層よりヤング率の小さい背面層と、を含む集電体を備える。
【0015】
上記(1)に記載の全固体二次電池によれば、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備えつつ、短絡が抑制された全固体二次電池が提供できる。
【0016】
(2)上記(1)に記載の全固体二次電池において、上記集電体は、上記背面層の両面に上記金属層を備えるものであってもよい。
【0017】
上記(2)に記載の全固体二次電池は、集電体の両面に活物質層を形成することができるため、エネルギー密度を高めることができる。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)に記載の全固体二次電池は、上記集電体が、上記金属層が上記背面層から平面方向に突出するタブ部を有するものであってもよい。
【0019】
上記(3)に記載の全固体二次電池は、溶接により集電体にタブリードを取り付けることができるため、組み立てが容易になる。
【0020】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の全固体二次電池は、上記背面層が、両面に粘着性を有する樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂であってもよい。
【0021】
上記(4)に記載の全固体二次電池は、複数の電極体を積層して全固体二次電池を組み立てる際に、背面層を介して電極体同士を低圧力のプレスで接合することができるため、組み立て時における電極のクラックの発生が抑制される。
【0022】
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の構成、蓄電装置の構成、及び全固体二次電池の製造方法並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0023】
<<全固体二次電池の構成>>
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池(以下、単に「全固体二次電池」ともいう。)は、一対の電極、すなわち正極及び負極が、固体電解質層を介して対向して配置された電極体と、これを収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極が固体電解質層を介して積層された積層型である。また、電極体は、導電性基材の一方の面に正極活物質層を、他方の面に負極活物質層をそれぞれ形成した、所謂「バイポーラ型」であってもよい。
【0024】
図1に全固体二次電池の一例を示す。全固体二次電池10は、正極1と負極2とが固体電解質層3を介して配置された二次電池である。正極1は、正極集電体4及び正極活物質層5を有する。負極2は、負極集電体7及び負極活物質層6を有する。図1に示す全固体二次電池10においては、負極集電体7上に、負極活物質層6、固体電解質層3、正極活物質層5及び正極集電体4がこの順で積層されている。また、図1に示す全固体二次電池10においては、正極集電体4が、正極活物質層5側に設けられた金属層4aと、金属層4aに対して正極活物質層5とは反対側に設けられた、金属層4aよりヤング率の小さい背面層4bとを含む。なお、全固体二次電池は、負極集電体7が、金属層と背面層とを含むものであってもよい。
【0025】
<電極>
電極は、集電体と、当該集電体に直接又は中間層を介して配される活物質層とを有する。
【0026】
(集電体)
集電体としては、正極集電体4と負極集電体7とが用いられ、その少なくとも一方は、金属層と、該金属層よりもヤング率の小さい背面層とを含む。
【0027】
集電体が背面層を含む場合の背面層以外の部分、及び集電体が背面層を含まない場合の集電体それ自体(以下、「集電体導電部」と総称することがある。)は、それぞれ導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。
【0028】
電極が正極1である場合、集電体導電部の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。集電体導電部としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極1の集電体導電部としては、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。正極1の集電体導電部は、上記材質の表面に、導電性を有する他の材質が配置されたものであってもよい。
【0029】
正極集電体4の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極集電体4の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極集電体4の強度を高めつつ、全固体二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0030】
電極が負極2である場合、集電体導電部の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。なお、負極2が金属層及び背面層を含むものである場合には、金属層の材質として炭素質材料のみからなるものは含まれないことは言うまでもない。集電体導電部としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極集電体導電部としては、銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。負極2の集電体導電部は、上記材質の表面に、導電性を有する他の材質が配置されたものであってもよい。
【0031】
負極集電体7の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極集電体7の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極集電体7の強度を高めつつ、全固体二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0032】
なお、後述する負極活物質層6が導電性を有する場合は、負極集電体7を用いなくてもよい。この場合、正極集電体4を、金属層4aと背面層4bとを含むものとする。
【0033】
金属層と共に集電体に含まれる背面層は、当該金属層よりもヤング率が小さい。正極集電体4と負極集電体7の少なくとも一方が背面層を含むことで、後述する活物質層を、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含むものとした場合でも、充放電時の短絡を抑制することができる。これは、以下の作用機序によるものと推定される。アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層は、充電時又は放電時に、アルカリ金属イオンを吸蔵することでその体積が大きく膨張し、これに伴い電極に圧縮荷重が印加される。この圧縮荷重により、電極は、圧縮方向、すなわち厚さが減少する方向のみならず、その面積が拡大する方向にも変形する。こうして生じる面積が拡大する方向の変形に、電極中の集電体が追従することができなくなって破断することで、従来の構造の全固体二次電池では短絡が生じていた。しかし、集電体が、金属層と共に、これよりもヤング率が小さい背面層を含む場合には、変形しやすい背面層が、金属層に先んじて、面積が拡大する方向に破断することなく変形し、金属層の面積が拡大する方向の変形を抑制することで、集電体の破断が抑制され、その結果、全固体二次電池の短絡が抑制される。
【0034】
ここで、金属層及び背面層のヤング率は、丸善出版「化学便覧」に掲載されている値による。上記便覧に記載されている材料名と照合するために、金属層及び背面層のそれぞれの材質を特定する。金属層の材質を特定するための方法として、活物質層をエタノール等で除去し、金属層を露出させ、エネルギー分散型分光法(EDS)による定性分析を行うことが挙げられる。背面層の材質を特定するための方法として、背面層を露出させ、赤外吸収分光法(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(PGS-MS)等による定性分析を行うことが挙げられる。背面層を露出させる方法としては、金属層を可溶な酸で溶出させる、金属層を剥離して除去する等が挙げられる。背面層を直接測定に供試でき、且つ、そのことによった方が、より正確に背面層のヤング率を求めることが期待できる場合は、JIS-K-7127(1999年)「プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件」に準拠して実測する。
【0035】
背面層の材質は、金属層よりもヤング率が小さいものであれば特に限定されない。このような背面層の材質としては、樹脂、ゴム等の高分子材料が例示される。これらのうち、入手及び加工が容易である点で、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン等が好ましい。
【0036】
背面層は、両面に粘着性を有する樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂であることが好ましい。背面層を両面に粘着性を有する樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂で形成することで、複数の電極体を積層して全固体二次電池を組み立てる際に、背面層を介して電極同士を低圧力のプレスで接合することができるため、組み立て時の圧力に起因する電極のクラックの発生を抑制することができる。このような背面層を構成する粘着性を有する樹脂又は熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0037】
金属層及び背面層を含む集電体は、背面層の両面に金属層を備えるものであってもよい。このような構造の集電体は、従来の集電体と同様に、その両面に活物質層を形成することができる。
【0038】
集電体は、金属層が背面層から平面方向に突出するタブ部を有することが好ましい。このような構造の集電体は、タブ部に対して溶接によってタブリードを取り付けることができるため、全固体二次電池の組み立てが容易になる利点を有する。特に、集電体が背面層の両面に金属層を備える場合において、前記集電体の金属層が背面層から平面方向に突出するタブ部を有することにより、溶接によってタブ部にタブリードを取り付ける操作が背面層の存在によって困難となるおそれを低減できる。
【0039】
(中間層)
中間層は、集電体と活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで集電体と活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0040】
(活物質層)
活物質層は、電極活物質を含む。ここで、本開示における電極活物質とは、全固体二次電池内で電気化学的に酸化還元される物質を意味する。このため、上述した集電体導電部は、電極活物質には該当しない。電極活物質は、正極活物質又は負極活物質のいずれかである。電極活物質として正極活物質を含む場合、活物質層は正極活物質層5となり、電極は正極1となる。他方、電極活物質として負極活物質を含む場合、活物質層は負極活物質層6となり、電極は負極2となる。正極活物質層5又は負極活物質層6の少なくとも一方は、電極活物質として、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む。活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー及び固体電解質等の任意成分を含む。
【0041】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン全固体二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。また、正極活物質として、後述する負極活物質として挙げる物質(ただし、金属Liを除く)を用いてもよい。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO,Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層5においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
正極活物質は、粒子(粉体)であってもよく、膜であってもよい。正極活物質が粒子である場合、その平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層5の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0043】
正極活物質は、その表面にイオン伝導性を有する他の物質が存在するものであってもよい。イオン伝導性を有する他の物質としては、LiNbO、LiTiO、LiTi、LiTi12、LiZrO、LiTaO等が例示される。正極活物質表面のイオン伝導性を有する他の物質の存在形態は限定されず、例えば、膜状に被覆していてもよく、粒子が付着していてもよい。
【0044】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0045】
正極活物質層5における正極活物質の含有量は、20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上85質量%以下がより好ましく、40質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層5の高エネルギー密度化と低抵抗化とを両立できる。
【0046】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。
【0047】
負極活物質層6を、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含むものとする場合、使用する負極活物質としては、金属Li、Si、Sn、Ag、Zn、Ca、Al、Mg、In等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金等が例示される。なお、金属Liは、アルカリ金属イオンがLiイオンである場合、厳密にはLiを溶解又は析出する物質となるが、本開示においては、この溶解又は析出も、広義の吸蔵又は放出として扱う。アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属の合金としては、Li-Ag合金、Li-Zn合金、Li-Ca合金、Li-Al合金、Li-Mg合金、Li-In合金、Li-Si合金、Li-Sn合金、Li-Au合金、Sn-Cu合金、Sn-Co合金等が挙げられる。
【0048】
上述した正極活物質層5が、正極活物質としてアルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含むものである場合、負極活物質は、Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料のいずれかであってもよい。負極活物質層6においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0050】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0051】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0052】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0053】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0054】
負極活物質は、粒子(粉体)であってもよく、膜であってもよい。負極活物質が粒子である場合、その平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極1で例示した方法から選択できる。
【0055】
負極活物質層6に粒子状の負極活物質を使用する場合の負極活物質の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層6の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0056】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。なお、活物質が黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料である場合、これらは導電剤に含まれない。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、繊維状の炭素質材料が好ましく、CNTが特に好ましい。
【0057】
活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上25質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、全固体二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0058】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0059】
活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0060】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0061】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0062】
固体電解質としては、公知の固体電解質の中から適宜選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、酸化物固体電解質等を用いることができる。これらのうち、塑性変形により活物質と良好な接触状態を形成しやすい点で、硫化物固体電解質が好ましい。
硫化物固体電解質としては、LiPSCl、LiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiN、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)等が挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質としては、一般式Liで表される化合物が好ましく、LiYCl、LiYBr、LiYI、LiInCl、LiInBr、LiInF、LiZrCl、LiErCl、LiErBr、LiDyCl、LiDyBr、LiGdCl、LiGdBr、LiHoCl、LiHoBr、LiLaCl、LiLaBr、LiNdCl、LiNdBr、LiScCl、LiScBr、LiScF、LiSmCl、LiSmBr、LiTbCl、LiTbBr、LiTmCl、LiTmBr、LiAlF、LiTiF、LiGaF、LiGeF等が挙げられる。
酸化物固体電解質としては、LiLaZr12、Li0.5La0.5TiO、LiTi(PO、LiBO-LiCO、LiBO-LiSO等が挙げられる。
【0063】
活物質層における固体電解質の含有量は、5質量%以上60質量%以下が好ましく、15質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0064】
活物質層が正極活物質層5である場合、正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー、固体電解質以外の成分として、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0065】
活物質層が負極活物質層6である場合、負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー、固体電解質以外の成分として、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0066】
電極の好ましい組合せとしては、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属またはその合金を含む負極活物質層6を備える負極2と、金属層4a及び背面層4bを含む正極用集電体4を備える正極1との組合せが挙げられる。この組合せによれば、背面層4bが奏する、上述した金属層4aの面積が拡大する方向の変形の抑制作用が顕著になり、集電体の破断、及びこれに起因する全固体二次電池の短絡が効果的に抑制される。
【0067】
<固体電解質層>
固体電解質層3は、固体電解質を含む。固体電解質としては、電極に使用可能な上記固体電解質を用いることができる。
【0068】
<<蓄電装置の構成>>
本実施形態の全固体二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の全固体二次電池を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの全固体二次電池に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の全固体二次電池10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の全固体二次電池10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の全固体二次電池10の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0069】
<<全固体二次電池の製造方法>>
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の製造方法は、例えば、正極集電体4上に正極活物質層5を形成することと、負極集電体7上に負極活物質層6を形成することと、固体電解質層3を形成することと、上記正極1及び負極2を、固体電解質層3を介して積層することにより電極体を形成することとを備える。また、電極体は、正極集電体4、正極活物質層5、固体電解質層3、負極活物質層6、及び負極集電体7をこの順に重ね合わせて、同時に圧縮成形することによっても製造できる。
【0070】
<その他の実施形態>
なお、本発明の全固体二次電池は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【実施例0071】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0072】
[実施例1]
(正極活物質層の形成)
正極活物質として、表面がLiNbOでコーティングされた、組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子で構成される粉末(平均粒径3μm)を準備した。固体電解質として、組成式LiPSClで表される硫化物固体電解質(平均粒径0.6μm)を準備した。導電剤として、気相法炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF(登録商標)、平均径150nm)を準備した。バインダとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)を準備した。
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質と、固体電解質と、導電剤とをハイブリッドミキサーを用いて混合した。次いで、この混合物に、上記バインダ、及び溶媒としての酪酸ブチルを添加し、ハイブリッドミキサーにて混練して、正極活物質層形成用ペーストを作製した。正極活物質層形成用ペースト中の固形分の質量比は、(正極活物質):(固体電解質):(導電剤):(バインダ)=76:20:2:2とした。
正極集電体用金属層として、厚さ20μmのAl箔(Alのヤング率:70GPa)を30mm×30mmの正方形形状に切り出し、片面に、中央部に20mm×20mmの開口部を持った30mm×30mmの正方形形状の微粘着PETフィルム(ニッパ株式会社製)を貼り付けた。上記正極活物質層形成用ペーストを、マルチアプリケータ(コーテック株式会社製、MA100)を用いて、固形分として目付45mg・cm-2となるようにAl箔の上記微粘着PETフィルムを貼り付けた側の面に塗工した後、上記微粘着PETフィルムを剥がした。このようにして、正極集電体用金属層の片面に正極活物質層を形成した。正極活物質層は、正極集電体用金属層の中央部に位置し、20mm×20mmの正方形形状を有していた。
【0073】
(固体電解質層の形成)
固体電解質及びバインダとして、正極活物質層の形成時に使用したものと同種の硫化物固体電解質及びスチレンブタジエンゴムをそれぞれ準備した。
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、固体電解質に、バインダと溶媒としてのデカンを添加し、ハイブリッドミキサーにて混練して、固体電解質層形成用ペーストを作製した。固体電解質層形成用ペースト中の固形分の質量比は、(固体電解質):(バインダ)=95:5とした。
上記正極集電体用金属層の正極活物質層が形成された側の面に、上記固体電解質層形成用ペーストをマルチアプリケータ(コーテック株式会社製、MA100)を用いて、固形分として目付15mg・cm-2以上25mg・cm-2以下となるように塗工した。これを有機溶媒が揮発する温度に設定したアルゴン雰囲気の乾燥器内で乾燥させて、正極集電体用金属層の正極活物質層が形成された側の面に固体電解質層を形成した。
正極集電体用金属層の正極活物質層が形成された面とは反対側の面の全面に、背面層として、片面に粘着性を有する厚さ60μmのポリイミドテープ(ポリイミドのヤング率:3.0GPa)を貼り付けた。
これを2組作製し、ポリイミドテープ同士が接するように重ねて正極/固体電解質層の積層体とした。
【0074】
(負極の作製)
厚さ20μmのCu箔の片面に中間層を配し、負極集電体を準備した。
負極活物質として、金属Si粒子で構成される粉末(平均粒径0.8μm)を準備した。固体電解質、導電剤及びバインダとして、正極活物質層の形成時に使用したものと同種の硫化物固体電解質、気相法炭素繊維及びスチレンブタジエンゴムをそれぞれ準備した。
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、負極活物質と、固体電解質と、導電剤とをハイブリッドミキサーを用いて混合した。次いで、この混合物に、バインダと溶媒としての酪酸ブチルを添加し、ハイブリッドミキサーにて混練して、負極活物質層形成用ペーストを作製した。負極活物質層形成用ペースト中の固形分の質量比は、(負極活物質):(固体電解質):(導電剤):(バインダ)=44:50:3:3とした。
上記負極集電体の、上記中間層を配した面に、上記負極活物質層形成用ペーストをマルチアプリケータ(コーテック株式会社製、MA100)を用いて、固形分として目付45mg・cm-2となるように塗工した。これを有機溶媒が揮発する温度に設定したアルゴン雰囲気の乾燥器内で乾燥させて、負極集電体の片面に負極活物質層を形成した。これを20mm×20mmの正方形形状に打ち抜き、負極とした。
【0075】
(電極体の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で、2面の正極活物質層をそれぞれ覆うように形成された固体電解質層上に、上記負極をそれぞれ重ねて配置して、積層体を得た。この積層体は、図3に示すように、負極集電体7、負極活物質層6、固体電解質層3、正極活物質層5、正極集電体4(4a、4b、4a)、正極活物質層5、固体電解質層3、負極活物質層6、及び負極集電体7が、この順で積層されてなる。得られた積層体を、可撓性を有するシール材中に減圧しながら封入した後、グローブボックスから取り出し、160℃、1000MPaの条件で温間等方プレスを行い、各層を接合して電極体を得た。
【0076】
(全固体二次電池の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で、シール材を開封して電極体を取り出し、外装体に封入して、実施例1に係る全固体二次電池を得た。
【0077】
[比較例1]
正極の作製手順を以下のものに変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る全固体二次電池を得た。正極集電体として、厚さ20μmのAl箔を準備し、その両面に正極活物質層形成用ペーストを塗工し、乾燥して正極活物質層を形成した。正極活物質層は、各面において、30mm×30mmの正方形形状の正極集電体の中央部に位置し、20mm×20mmの正方形形状を有していた。次いで、両面の周縁部に相当する四辺にそれぞれ5mm幅で露出する正極集電体の一部に10mm×8mmの矩形状の金属製タブを取り付けると共に、上記露出するAl箔が全て覆われるように、厚さ130μmのフッ素樹脂テープ(日東電工社製、ニトフロンテープ)を貼り付けて正極とした。
【0078】
[比較例2]
正極及び電極体の作製手順を以下のものに変更した以外は、比較例1と同様の手順で、比較例2に係る全固体二次電池を得た。30mm×30mmの正方形形状の正極集電体の各面の中央部に、20mm×20mmの正方形形状の正極活物質層が形成された正極の両面に、正極活物質層を覆うように、20mm×20mmの正方形形状の固体電解質層を形成した。固体電解質層の周囲に露出する正極集電体上に、厚さ60μmのポリイミドテープを貼り付けた後、固体電解質層に負極を重ねて配置して温間等方プレスを行い、各層を接合して電極体を得た。
【0079】
<評価>
得られた各全固体二次電池について、50℃の下、以下の要領で充放電試験を行った。
充電電流0.1C、充電終止電圧4.25Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.025Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.5Vとして定電流放電を行った。
【0080】
充放電試験の結果、比較例に係る各全固体二次電池は、充電時に短絡が発生し、以後の充放電ができなかったのに対し、実施例に係る各全固体二次電池は、短絡を生じることなく充放電が可能であった。
【0081】
[実施例2]
正極の作製手順を以下のものに変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2に係る全固体二次電池を得た。正極集電体用金属層として、厚さ20μmのAl箔を30mm×30mmの正方形形状の一辺から幅8mmのタブ部が10mm延出した形状に切り出し、その片面にのみ、正極活物質層形成用ペーストを塗工し、乾燥して正極活物質層を形成した。正極活物質層は、正極集電体用金属層のうち上記正方形形状部の中央部に位置し、20mm×20mmの正方形形状を有していた。これを2枚作製した。このうちの1枚にのみ、正極集電体用金属層の正極活物質層が形成された面とは反対側の面の上記正方形形状部に、両面に粘着性を有する樹脂フィルムである厚さ10μmのPET製フィルム(PETのヤング率:2.0GPa)を30mm×30mmの正方形形状に切り出し、背面層として貼り付けた。上記背面層に、その余の1枚の正極集電体用金属層の正極活物質層が形成された面とは反対側の面を貼り合わせて正極とした。
このようにして、図4に示す積層電極体を得た。得られた積層電極体は、正極集電体4の金属層4aのうち、8mm×10mmの矩形状の上記タブ部が、固体電解質層3、負極活物質層6又は背面層4bのいずれとも対向していない。
【0082】
実施例2に係る全固体二次電池は、背面層4bが両面に粘着性を有する樹脂フィルムであるため、複数の電極体同士を低圧力のプレスで接合することができた。また、正極集電体4がタブ部を有していることから、抵抗溶接によりタブリードを取り付けることができた。このように、実施例2に係る全固体二次電池は、容易に組み立てることができるものであった。
【0083】
<評価>
実施例2に係る全固体二次電池について、実施例1及び比較例1から2と同様の方法で、充放電試験を行なった。その結果、短絡を生じることなく充放電が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の一側面に係る全固体二次電池は、アルカリ金属イオンを吸蔵若しくは放出し得る金属又はその合金を含む活物質層を備えつつ、充放電時の短絡が抑制されたものである点で、有用なものである。
【符号の説明】
【0085】
1 正極
2 負極
3 固体電解質層
4 正極集電体
4a (正極集電体の)金属層
4b (正極集電体の)背面層
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極集電体
10 全固体二次電池
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4