(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010769
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】クライオポンプの再生方法、および、クライオシステム
(51)【国際特許分類】
F04B 37/08 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
F04B37/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112967
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】591176306
【氏名又は名称】アルバック・クライオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】朴 文官
(72)【発明者】
【氏名】中田 亮澄
(72)【発明者】
【氏名】日高 康祐
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA25
3H076BB03
3H076BB41
3H076CC46
3H076CC81
3H076CC91
3H076CC99
(57)【要約】
【課題】露点に対するポンプケースの表面における温度の乖離を抑えることを可能としたクライオポンプの再生方法、および、クライオシステムに関する。
【解決手段】クライオポンプ10の再生方法は、クライオポンプ10が備えるポンプケース12内を加熱することが可能に構成された加熱部13によってポンプケース12内を加熱すること、および、加熱部13によるポンプケース12内の加熱を開始した後に、ポンプケース12内にパージガスを導入することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプが備えるポンプケース内を加熱することが可能に構成された加熱部によって前記ポンプケース内を加熱すること、および、
前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を開始した後に、前記ポンプケース内にパージガスを導入すること、を含む
クライオポンプの再生方法。
【請求項2】
前記ポンプケース内を加熱することは、前記ポンプケース内への前記パージガスの導入を開始した後に、前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を停止することを含む
請求項1に記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項3】
前記ポンプケース内を加熱することは、前記クライオポンプの冷凍機が備える第1ステージと第2ステージとを加熱することによって、前記ポンプケース内を加熱することを含む
請求項1または2に記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項4】
前記ポンプケース内を加熱することは、前記冷凍機が備えるモーターを用いて前記ポンプケース内を加熱することを含む
請求項3に記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項5】
前記ポンプケース内を加熱することは、前記パージガスを導入する前に前記加熱部によって前記ポンプケース内を加熱する第1期間が、前記パージガスを導入する第2期間よりも長いことを含む
請求項1または2に記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項6】
冷凍機と、前記冷凍機を収容するポンプケースと、前記ポンプケース内を加熱することが可能に構成された加熱部と、前記ポンプケースに接続されたパージガス導入部と、を備えるクライオポンプと、
前記加熱部の駆動および前記パージガス導入部の駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を開始した後に、前記ポンプケース内にパージガスを導入するように、前記加熱部の駆動および前記パージガス導入部の駆動を制御することが可能に構成される
クライオシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クライオポンプの再生方法、および、クライオシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、ポンプケース、冷凍機、熱シールド、および、クライオパネルを備えている。冷凍機は、第1温度に冷却される第1ステージと、第1温度よりも低い第2温度に冷却される第2ステージとを備えている。熱シールドは第1ステージに接続されることによって、第1温度まで冷却される。クライオパネルは、熱シールド内に位置し、かつ、第2ステージに接続されることによって、第2温度まで冷却される。ポンプケースは、冷凍機の第1ステージおよび第2ステージ、熱シールド、および、クライオパネルを収容している。クライオポンプでは、極低温に冷却されたクライオパネルが真空槽内の気体を凝縮させることによって、真空槽内の気体が排気される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クライオポンプは、凝縮した気体をクライオパネルに貯め込む。そのため、クライオポンプには、クライオパネルに貯め込んだ気体を放出する処理である再生処理が必要である。再生処理では、クライオポンプの昇温と同時に、昇温速度を高める観点から、ポンプケース内へのパージガスの導入が開始される。パージガスの導入は、ポンプケース内の温度における昇温速度を高める一方で、ポンプケースの表面における温度の低下を生じさせる。これにより、ポンプケースの表面における温度が、クライオポンプが設置された環境の露点を下回ることによって、ポンプケースの表面において結露が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのクライオポンプの再生方法は、クライオポンプが備えるポンプケース内を加熱することが可能に構成された加熱部によって前記ポンプケース内を加熱すること、および、前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を開始した後に、前記ポンプケース内にパージガスを導入すること、を含む。
【0006】
上記課題を解決するためのクライオシステムは、冷凍機と、前記冷凍機を収容するポンプケースと、前記ポンプケース内を加熱することが可能に構成された加熱部と、前記ポンプケースに接続されたパージガス導入部と、を備えるクライオポンプと、前記加熱部の駆動および前記パージガス導入部の駆動を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を開始した後に、前記ポンプケース内にパージガスを導入するように、前記加熱部の駆動および前記パージガス導入部の駆動を制御することが可能に構成される。
【0007】
上記クライオポンプの再生方法、および、クライオシステムによれば、加熱部によって加熱されたポンプケース内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケースの表面における温度が下がりにくくなる。そのため、露点に対するポンプケースの表面における温度の乖離が抑えられるから、ポンプケースの表面における結露が抑えられる。
【0008】
上記クライオポンプの再生方法において、前記ポンプケース内を加熱することは、前記ポンプケース内への前記パージガスの導入を開始した後に、前記加熱部による前記ポンプケース内の加熱を停止することを含んでもよい。
【0009】
上記クライオポンプの再生方法によれば、ポンプケース内へのパージガスの導入と、加熱部によるポンプケース内の加熱との両方が行われる期間を含むから、ポンプケース内の温度が高まりやすくなる。
【0010】
上記クライオポンプの再生方法において、前記ポンプケース内を加熱することは、前記クライオポンプの冷凍機が備える第1ステージと第2ステージとを加熱することによって、前記ポンプケース内を加熱することを含んでもよい。
【0011】
上記クライオポンプの再生方法によれば、第1ステージと第2ステージとの両方が加熱されるから、2つのステージの一方のみが加熱される場合に比べて、ポンプケース内の温度が高まりやすくなる。
【0012】
上記クライオポンプの再生方法において、前記ポンプケース内を加熱することは、前記冷凍機が備えるモーターを用いて前記ポンプケース内を加熱することを含んでもよい。
上記クライオポンプの再生方法によれば、クライオポンプを加熱するための加熱部を冷凍機のモーターが兼ねるため、クライオポンプが別途加熱部を備える必要がない分だけ、クライオポンプの構造を簡素化することが可能である。
【0013】
上記クライオポンプの再生方法において、前記ポンプケース内を加熱することは、前記パージガスを導入する前に前記加熱部によって前記ポンプケース内を加熱する第1期間が、前記パージガスを導入する第2期間よりも長いことを含んでもよい。
【0014】
上記クライオポンプの再生方法によれば、第1期間が第2期間よりも長いことによって、加熱部によって十分に加熱されたポンプケース内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケースの表面における温度がさらに下がりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、クライオシステムの構成を示すシステム構成図である。
【
図2】
図2は、一実施形態における加熱部におけるオンとオフとを切り替えるタイミングと、パージガス導入部におけるオンとオフとを切り替えるタイミングとを示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、同実施形態における第1ステージの温度、第2ステージの温度、および、ポンプケースの表面における温度の推移を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、参考例における加熱部におけるオンとオフとを切り替えるタイミングと、パージガス導入部におけるオンとオフとを切り替えるタイミングとを示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、同参考例における第1ステージの温度、第2ステージの温度、および、ポンプケースの表面における温度の推移を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、試験例におけるクライオポンプの各部での温度の推移を示すグラフである。
【
図7】
図7は、試験例におけるクライオポンプの各部での最低温度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から
図7を参照して、クライオポンプの再生方法およびクライオポンプの一実施形態を説明する。
[クライオシステム]
図1を参照してクライオシステムを説明する。
【0017】
図1が示すように、クライオシステム1は、クライオポンプ10と制御部20とを備えている。クライオポンプ10は、冷凍機11、ポンプケース12、加熱部13、および、パージガス導入部14を備えている。ポンプケース12は、冷凍機11を収容している。加熱部13は、ポンプケース12内を加熱することが可能に構成されている。パージガス導入部14は、ポンプケース12に接続されている。
【0018】
制御部20は、加熱部13の駆動およびパージガス導入部14の駆動を制御する。制御部20は、加熱部13によるポンプケース12内の加熱を開始した後に、ポンプケース12内にパージガスを導入するように、加熱部13の駆動およびパージガス導入部14の駆動を制御することが可能に構成される。
【0019】
本開示のクライオシステム1によれば、加熱部13によって加熱されたポンプケース12内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケース12の表面における温度が下がりにくくなる。そのため、露点に対するポンプケース12の表面における温度の乖離が抑えられるから、ポンプケース12の表面における結露が抑えられる。
【0020】
クライオポンプ10の冷凍機11は、例えばギフォード・マクマホン(GM)式冷凍機である。冷凍機11は、第1ステージ11Aおよび第2ステージ11Bを備えている。冷凍機11の駆動期間中において、第2ステージ11Bの温度は第1ステージ11Aの温度よりも低い。第1ステージ11Aの温度は、例えば50K以上110K以下であってよい。第2ステージ11Bの温度は、例えば10K以上20K以下であってよい。冷凍機11は、第1シリンダー11Cおよび第2シリンダー11Dを備えている。第1シリンダー11Cは、第1ステージ11Aに接続されている。第2シリンダー11Dは、第1ステージ11Aおよび第2ステージ11Bに接続されている。
【0021】
冷凍機11は、モーター11Mを備えている。モーター11Mが回転することにより、冷凍機11の膨張室内で断熱膨張が行われ、これによって冷凍機11の第1ステージ11Aおよび第2ステージ11Bが冷却される。また、本実施形態の拡張応用として、冷凍機11は、モーターがステージ11A,11Bを冷却する際の回転方向と逆方向で回転することによって、第1ステージ11Aおよび第2ステージ11Bを加熱することが可能な構成であってもよい。
【0022】
ポンプケース12は、第1筒部12A、および、第1筒部12Aに接続された第2筒部12Bを備えている。第1筒部12Aは、第1シリンダー11Cおよび第1ステージ11Aを収容している。第2筒部12Bは、第2シリンダー11Dおよび第2ステージ11Bを収容している。
【0023】
ポンプケース12は、第1ポート12P1および第2ポート12P2を備えている。第1ポート12P1は、第1筒部12Aに位置している。第2ポート12P2は、第2筒部12Bに位置している。第1ポート12P1には、パージガス排出部17が接続されている。第2ポート12P2には、パージガス導入部14が接続されている。
【0024】
パージガス導入部14は、パージガスをポンプケース12内に導入するためのバルブである。パージガス導入部14は、例えば電磁バルブである。パージガス導入部14がオンの状態であることによって、パージガス導入部14が開状態を有するから、第2ポート12P2を介してパージガスがポンプケース12内に導入される。パージガス導入部14がオフの状態であることによって、パージガス導入部14が閉状態を有するから、第2ポート12P2を介したパージガスの導入が停止される。パージガス導入部14には、パージガスを貯留するガスボンベGCが接続されている。ガスボンベGCには、パージガスの一例である窒素ガスが貯留されている。
【0025】
クライオポンプ10は、ポンプケース12の第2筒部12B内に位置する熱シールド15を備えている。熱シールド15は、第1ステージ11Aに接続されている。冷凍機11の駆動期間中において、熱シールド15の温度は第1ステージ11Aの温度に略等しい。冷凍機11は、熱シールド15内に位置するクライオパネル16を複数備えている。各クライオパネル16は、第2ステージ11Bに接続されている。冷凍機11の駆動期間中において、各クライオパネル16の温度は第2ステージ11Bの温度に略等しい。
【0026】
パージガス排出部17は、パージガスをポンプケース12外に排出するためのバルブである。パージガス排出部17は、例えば電磁バルブである。パージガス排出部17がオンの状態であることによって、パージガス排出部17が開状態を有するから、第1ポート12P1を介してパージガスがポンプケース12外に排出される。パージガス排出部17がオフの状態であることによって、パージガス排出部17が閉状態を有するから、第1ポート12P1を介したパージガスの排気が停止される。パージガス排出部17は、排気ダクトEDに接続されている。
【0027】
加熱部13は、第1ステージ11Aと第2ステージ11Bとの両方を加熱することが可能に構成されてよい。加熱部13は、第1ステージ11Aのみを加熱可能に構成されてもよいし、第2ステージ11Bのみを加熱可能に構成されてもよい。加熱部13は、ポンプケース12が画定する空間内に位置し、かつ、ポンプケース12には接していない。加熱部13は、例えばヒーターであってよい。
【0028】
クライオシステム1は、第1温度センサー21および第2温度センサー22を備えている。第1温度センサー21は、第1ステージ11Aの温度を検出する。第2温度センサー22は、第2ステージ11Bの温度を検出する。各温度センサー21,22は、例えば熱電対であってよい。
【0029】
制御部20は、加熱部13、パージガス導入部14、パージガス排出部17、第1温度センサー21、および、第2温度センサー22に電気的に接続されている。制御部20は、クライオポンプ10の再生処理に関わる条件を記憶している。制御部20は、加熱部13、パージガス導入部14、および、パージガス排出部17の駆動を制御する。制御部20は、例えば制御部20が記憶する再生処理の条件に基づいて、加熱部13、パージガス導入部14、および、パージガス排出部17の駆動を制御する。
【0030】
制御部20は、第1温度センサー21が検出した第1ステージ11Aの温度を第1温度センサー21から入力する。制御部20は、第2温度センサー22が検出した第2ステージ11Bの温度を第2温度センサー22から入力する。
【0031】
制御部20は、加熱部13によるポンプケース12内の加熱を開始した時点から、予め定められた加熱期間が経過した後に、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとして加熱期間を記憶している。
【0032】
あるいは、制御部20は、第1温度センサー21が検出した第1ステージ11Aの第1温度、および、第2温度センサー22が検出した第2ステージ11Bの第2温度の少なくとも一方に基づいて、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更してもよい。
【0033】
例えば、制御部20が第1温度のみに基づいてパージガス導入部14の状態を変更する場合には、制御部20は、第1温度が第1設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとして第1設定温度を記憶している。あるいは、制御部20が第2温度のみに基づいてパージガス導入部14の状態を変更する場合には、制御部20は、第2温度が第2設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとして第2設定温度を記憶している。
【0034】
またあるいは、制御部20は、第1温度および第2温度の両方に基づいてパージガス導入部14の状態を変更してもよい。この場合には、制御部20は、第1温度が第1設定温度以上であること、および、第2温度が第2設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更する。制御部20は、再生処理の条件として第1設定温度および第2設定温度を記憶している。
【0035】
制御部20は、パージガス導入部14によるパージガスの導入を開始した時点から、予め定められたパージガス導入期間が経過した後に、パージガス導入部14の状態をオンからオフに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとしてパージガス導入期間を記憶している。
【0036】
あるいは、制御部20は、第1温度および第2温度の少なくとも一方に基づいて、パージガス導入部14の状態をオンからオフに変更してもよい。例えば、制御部20が第1温度のみに基づいてパージガス導入部14の状態を変更する場合には、制御部20は、第1温度が第3設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオンからオフに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとして第3設定温度を記憶している。あるいは、制御部20が第2温度のみに基づいてパージガス導入部14の状態を変更する場合には、制御部20は、第2温度が第4設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオンからオフに変更してもよい。この場合には、制御部20は、再生処理の条件の1つとして第4設定温度を記憶している。
【0037】
またあるいは、制御部20は、第1温度および第2温度の両方に基づいてパージガス導入部14の状態を変更してもよい。この場合には、制御部20は、第1温度が第3設定温度以上であること、および、第2温度が第4設定温度以上であることを条件に、パージガス導入部14の状態をオンからオフに変更する。制御部20は、再生処理の条件として第3設定温度および第4設定温度を記憶している。
【0038】
第1設定温度は、例えば100℃以上320℃以下であってよい。第2設定温度は、例えば90℃以上320℃以下であってよい。第3設定温度は、例えば290℃以上320℃以下であってよい。第4設定温度は、例えば290℃以上320℃以下であってよい。
【0039】
[クライオポンプの再生方法]
図2から
図5を参照して、クライオポンプの再生方法を説明する。
本開示のクライオポンプ10の再生方法は、ポンプケース12内を加熱すること、および、ポンプケース12内にパージガスを導入することを含んでいる。ポンプケース12内を加熱することは、クライオポンプ10が備えるポンプケース12内を加熱することが可能に構成された加熱部13によってポンプケース12内を加熱する。ポンプケース12内を加熱することは、ポンプケース12内にパージガスが導入されていないことを含む。ポンプケース12内にパージガスを導入することは、加熱部13によるポンプケース12内の加熱を開始した後に、ポンプケース12内にパージガスを導入する。
【0040】
本開示のクライオポンプ10の再生方法によれば、加熱部13によって加熱されたポンプケース12内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケース12の表面における温度が下がりにくくなる。そのため、露点に対するポンプケース12の表面における温度の乖離が抑えられる、すなわちポンプケース12の表面における温度が露点を下回る度合いが小さく抑えられるから、ポンプケース12の表面における結露が抑えられる。以下、図面を参照して、クライオポンプ10の再生方法をより詳しく説明する。
【0041】
図2は、本実施形態における加熱部13のオンとオフとを切り替えるタイミング、および、パージガス導入部14のオンとオフとを切り替えるタイミングを示すタイミングチャートである。
【0042】
図2が示すように、タイミングT1において、加熱部13の状態がオフからオンに変更される。これにより、加熱部13によるポンプケース12内の加熱が開始される。タイミングT1では、パージガス導入部14はオフの状態であるから、すなわち閉状態であるから、ポンプケース12内にはパージガスが導入されていない。
【0043】
上述したように、加熱部13は第1ステージ11Aと第2ステージ11Bとの両方を加熱することが可能である。そのため、ポンプケース12内を加熱することでは、冷凍機11が備える第1ステージ11Aと第2ステージ11Bとが加熱されることによって、ポンプケース12内が加熱される。このように、第1ステージ11Aと第2ステージ11Bとの両方が加熱されるから、2つのステージ11A,11Bの一方のみが加熱される場合に比べて、ポンプケース12内の温度が高まりやすくなる。
【0044】
次いで、タイミングT2において、パージガス導入部14の状態がオフからオンに変更される。これにより、ポンプケース12内へのパージガスの導入が開始される。なお、タイミングT1からタイミングT2までの期間において、パージガス導入部14はオフの状態に維持されている。また、タイミングT2において、加熱部13は、タイミングT1から引き続きオンの状態に維持されている。パージガスの流量は、例えば5slm以上300slm以下であってよい。また、パージガスの導入側圧力が、例えば0.1MPaG以上0.6MPaGであってよい。
【0045】
タイミングT1からタイミングT2までの加熱期間は、上述したように、予め定められた期間に設定されてもよい。あるいは、タイミングT2は、第1温度および第2温度の少なくとも一方に基づいて決定されてもよい。
【0046】
続いて、タイミングT3において、パージガス導入部14の状態がオンからオフに変更される。これにより、ポンプケース12内へのパージガスの導入が停止される。また、タイミングT3において、加熱部13の状態がオンからオフに変更される。これにより、加熱部13によるポンプケース12内の加熱が停止される。
【0047】
タイミングT2からタイミングT3までのパージガス導入期間は、予め定められた期間に設定されてもよい。あるいは、タイミングT3は、第1温度および第2温度の少なくとも一方に基づいて決定されてもよい。
【0048】
このように、本実施形態の再生方法では、ポンプケース12内へのパージガスの導入を開始した後に、加熱部13によるポンプケース12内の加熱を停止する。そのため、再生方法が、ポンプケース12内へのパージガスの導入と、加熱部13によるポンプケース12内の加熱との両方が行われる期間を含むから、ポンプケース12内の温度が高まりやすくなる。
【0049】
ポンプケース12内を加熱することは、パージガスを導入する前に加熱部13によってポンプケース12内を加熱する加熱期間が、パージガスを導入するパージガス導入期間よりも長いことを含んでよい。加熱期間は第1期間の一例であり、かつ、パージガス導入期間は第2期間の一例である。すなわち、タイミングT1からタイミングT2までの期間が、タイミングT2からタイミングT3までの期間よりも長くてもよい。加熱期間がパージガス導入期間よりも長いことによって、加熱部13によって十分に加熱されたポンプケース12内にパージガスが導入される。これにより、パージガスの導入によってポンプケース12の表面における温度がさらに下がりにくくなる。
【0050】
図3は、本実施形態における第1温度、第2温度、および、ポンプケース12の表面における温度の推移を示すタイミングチャートである。なお、ポンプケース12の表面における温度は、ポンプケース12の表面のうち、第2筒部12Bの表面において測定した温度である。また、
図3において、第1ステージ11Aの温度が一点鎖線で示され、第2ステージ11Bの温度が二点鎖線で示され、かつ、ポンプケース12の表面における温度が実線で示されている。
【0051】
図3が示すように、タイミングT1において加熱部13による加熱が開始され、これによって第1温度および第2温度の両方が上昇する。ただし、タイミングT1ではパージガスの導入は開始されないから、加熱部13によって加熱される部位がポンプケース12内における局所に抑えられる。結果として、パージガスの導入が開始される前において、ポンプケース12の表面における温度はほぼ変化しない。タイミングT1からタイミングT2までの間において、第1温度の昇温速度、および、第2温度の昇温速度は、ポンプケース12の表面における温度の昇温速度よりも高い。
【0052】
タイミングT2においてパージガスの導入が開始され、これによって第1温度および第2温度がさらに上昇する。パージガスが導入されることによって、各ステージ11A,11Bは加熱部13による加熱に加えて、パージガスによっても加熱される。そのため、タイミングT2からタイミングT3までにおける各温度の昇温速度は、タイミングT1からタイミングT2までにおける各温度の昇温速度よりも高い。
【0053】
タイミングT2において、ポンプケース12内が加熱部13によって加熱された後に、パージガスがポンプケース12内に導入される。そのため、ポンプケース12内の部材によってポンプケース12の温度よりも低い温度に冷却されたパージガスがポンプケース12に接しても、ポンプケース12の表面における温度が低下しにくい。そのため、ポンプケース12の表面における温度が露点を下回りにくい。
【0054】
図4は、参考例における加熱部13のオンとオフとを切り替えるタイミング、および、パージガス導入部14のオンとオフとを切り替えるタイミングを示すタイミングチャートである。
【0055】
図4が示すように、タイミングt1において、加熱部13の状態がオフからオンに変更され、かつ、パージガス導入部14の状態がオフからオンに変更される。これにより、加熱部13によるポンプケース12内の加熱が開始されると同時に、パージガス導入部14によるポンプケース12内へのパージガスの導入が開始される。次いで、タイミングt2において、加熱部13の状態がオンからオフに変更され、かつ、パージガス導入部14の状態がオンからオフに変更される。
【0056】
図5は、参考例における第1温度、第2温度、および、ポンプケース12の表面における温度の推移を示すタイミングチャートである。なお、ポンプケース12の表面における温度は、ポンプケース12の表面のうち、第2筒部12Bの表面において測定した温度である。また、
図5において、第1ステージ11Aの温度が一点鎖線で示され、第2ステージ11Bの温度が二点鎖線で示され、かつ、ポンプケース12の表面における温度が実線で示されている。
【0057】
図5が示すように、タイミングt1において加熱部13による加熱とパージガスの導入とが同時に行われる。そのため、加熱部13によって加熱されたパージガスが各ステージ11A,11Bに供給されやすく、これによって各ステージ11A,11Bの温度が急峻に上昇する。同時に、ポンプケース12内の部材によって冷却されたパージガスがポンプケース12を冷却するから、ポンプケース12の表面における温度が低下する。これによって、ポンプケース12の表面における温度が露点を下回り、ポンプケース12の表面において結露が生じる。
【0058】
[試験例]
図6および
図7を参照して、試験例を説明する。
[試験例1]
第1ステージ11Aの温度を100Kに設定し、かつ、第2ステージ11Bの温度を15Kに設定した状態で、クライオポンプを駆動した。次いで、クライオポンプの駆動を停止した後に、加熱部13の状態をオフからオンに変更した。加熱部13の状態をオンに変更した時点から12分後であって、第1ステージ11Aの温度が197Kであり、かつ、第2ステージ11Bの温度が223Kである時点において、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更した。この際に、パージガスとして窒素ガスを用い、かつ、パージガスの導入側圧力を0.6MPaGに設定した。パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更すると同時に、パージガス排出部17の状態をオフからオンに変更した。
【0059】
[試験例2]
試験例1において、加熱部13の状態をオフからオンに変更すると同時に、パージガス導入部14の状態をオフからオンに変更した以外は、試験例1と同様の方法によって、クライオポンプの再生を行った。
【0060】
[評価結果]
各試験例について、ポンプケース12の各部位において測定した温度は、
図6および
図7が示す通りであった。各試験例について、第1ステージ11A、第2ステージ11B、第1筒部12A、第2筒部12B、第1ポート12P1、および、パージガス排出部17の温度を測定した。なお、各試験例において、第1ステージ11Aおよび第2ステージ11Bの両方の温度が300Kに達するまで、ポンプケース12の各部位における温度を測定し続けた。
【0061】
図6において、試験例1における各部位の温度が実線で示され、かつ、試験例2における各部位の温度が破線で示されている。
図6において、各ステージ11A,11Bの温度における単位が「K」であり、かつ、第1筒部12A、第2筒部12B、第2ポート12P2、および、パージガス排出部17の温度における単位が「℃」である。
【0062】
図6が示すように、試験例1では、各ステージ11A,11Bの昇温速度が試験例2よりも低いものの、ポンプケース12の各部位における温度が0℃を下回らないことが認められた。これに対して、試験例2では、各ステージ11A,11Bの昇温速度が試験例1よりも高いものの、ポンプケース12のうち、第1筒部12A以外の温度が0℃を下回る期間が存在することが認められた。
【0063】
図7が示すように、試験例1において、第2筒部12Bの最低温度が5.4℃であり、第1筒部12Aの最低温度が11.8℃であり、第1ポート12P1の最低温度が6.4℃であり、パージガス排出部17の最低温度が1.4℃であることが認められた。試験例2において、第2筒部12Bの最低温度が-0.9℃であり、第1筒部12Aの最低温度が8.7℃であり、第1ポート12P1の最低温度が-8.4℃であり、パージガス排出部17の最低温度が-17.1℃であることが認められた。
【0064】
23℃の環境において、湿度が50%であるときの露点が12.0℃であり、湿度が55%であるときの露点が13.5℃であり、湿度が60%であるときの露点が14.8℃である。そのため、試験例1によれば、ポンプケース12の各部位における温度と露点との乖離を試験例2よりも小さくすることが可能であることが認められた。
【0065】
また、ポンプケース12の表面を目視で観察したところ、試験例2では表面における各部位において水滴が生じていることが認められた。これに対して、試験例1では、ポンプケース12の表面における各部位において水滴が生じていないことが認められた。
【0066】
以上説明したように、クライオポンプの再生方法およびクライオポンプの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)加熱部13によって加熱されたポンプケース12内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケース12の表面における温度が下がりにくくなる。そのため、露点に対するポンプケース12の表面における温度の乖離が抑えられるから、ポンプケース12の表面における結露が抑えられる。
【0067】
(2)ポンプケース12内へのパージガスの導入と、加熱部13によるポンプケース12内の加熱との両方が行われる期間を含むから、ポンプケース12内の温度が高まりやすくなる。
【0068】
(3)第1ステージ11Aと第2ステージ11Bとの両方が加熱されるから、2つのステージ11A,11Bの一方のみが加熱される場合に比べて、ポンプケース12内の温度が高まりやすくなる。
【0069】
(4)加熱期間がパージガス導入期間よりも長いことによって、加熱部13によって十分に加熱されたポンプケース12内にパージガスが導入されるから、パージガスの導入によってポンプケース12の表面における温度がさらに下がりにくくなる。
【0070】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[加熱部]
・冷凍機11が備えるモーター11Mが、加熱部を兼ねてもよい。この場合には、クライオポンプ10の再生方法において、冷凍機11が備えるモーター11Mを用いてポンプケース12内を加熱することが可能である。これにより、以下の効果を得ることが可能である。
【0071】
(5)クライオポンプ10を加熱するための加熱部を冷凍機11のモーター11Mが兼ねるため、クライオポンプ10が別途加熱部を備える必要がない分だけ、クライオポンプ10の構造を簡素化することが可能である。
【0072】
なお、クライオポンプ10が上述した加熱部13を備える場合に、加熱部13と冷凍機11のモーター11Mとの両方によって、ポンプケース12内を加熱してもよい。この場合には、加熱部13のみあるいはモーター11Mのみによってポンプケース12内を加熱する場合に比べて、ポンプケース12内の温度における昇温速度を高めることが可能である。
【0073】
[再生方法]
・パージガス導入期間は、加熱期間以上の長さであってもよい。この場合であっても、ポンプケース12内へのパージガスの導入を開始する前に、加熱部13によってポンプケース12内を加熱することによって、上述した(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…クライオシステム
10…クライオポンプ
11…冷凍機
12…ポンプケース
13…加熱部
14…パージガス導入部
20…制御部