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特開2025-10772非線形光学測定システム、それを備えた内視鏡システム、光源装置および非線形光学測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010772
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】非線形光学測定システム、それを備えた内視鏡システム、光源装置および非線形光学測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20250116BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
G01N21/65
A61B1/00 500
A61B1/00 523
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112974
(22)【出願日】2023-07-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年12月7日 Optics Continuum、第1巻、第12号、第2539~2548頁にて公開 令和4年12月28日 下記ウェブサイトを通じて公開(https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-20K21158/20K211582021hokoku/)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「マルチモダル多光子顕微鏡用新規量子光源の開発と応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願,令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「マルチモダル多光子顕微鏡を用いた無染色解析技術の開発と応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】塗谷 睦生
(72)【発明者】
【氏名】加納 英明
【テーマコード(参考)】
2G043
4C161
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043AA04
2G043CA05
2G043EA04
2G043HA01
2G043HA02
2G043JA01
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA03
4C161GG01
4C161HH54
4C161QQ04
4C161WW17
(57)【要約】
【課題】シンプルな光学系によって非線形光学測定法を実現する。
【解決手段】非線形ラマン分光システム100は、パルスレーザ光源11と、QPMデバイス12と、対物レンズ2と、光検出器4とを備える。パルスレーザ光源11は、シード光を用いずにQPMデバイス12におけるパラメトリック下方変換(PDC)を誘起する励起光としてのパルスレーザ光を発する。対物レンズ2は、QPMデバイス12における励起光のPDCにより互いに同軸に生成されたシグナル光およびアイドラー光を集光して試料に照射する。光検出器4は、試料の非線形光学現象により発生した光を検出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学結晶と、
シード光を用いずに前記非線形光学結晶におけるパラメトリック下方変換を誘起する励起光としてのパルスレーザ光を発する光源と、
前記非線形光学結晶における前記励起光のパラメトリック下方変換により互いに同軸に生成されたシグナル光およびアイドラー光を集光して試料に照射するレンズと、
前記試料の非線形光学現象により発生した光を検出する光検出器とを備える、非線形光学測定システム。
【請求項2】
前記励起光のパルス幅は、サブナノ秒オーダーまたはナノ秒オーダーであり、
前記励起光のピーク強度は、3桁ワットオーダーから5桁ワットオーダーまでの範囲内である、請求項1に記載の非線形光学測定システム。
【請求項3】
前記シグナル光と前記アイドラー光との周波数差を変更する周波数差変更部と、
前記光検出器による検出結果に対する演算処理を行うプロセッサとをさらに備え、
前記プロセッサは、前記周波数差が所定範囲内を走査または所定値に設定された場合の前記光検出器による検出結果に基づいて、前記試料のデータを算出し、
前記データは、ラマンデータと、和周波発生(SFG:Sum Frequency Generation)データと、第二次高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)データと、多光子励起データとのうちの少なくとも1つであり、
前記ラマンデータは、ラマンスペクトルまたはラマンイメージであり、
前記SFGデータは、SFGスペクトルまたはSFGイメージであり、
前記SHGデータは、SHGスペクトルまたはSHGイメージであり、
前記多光子励起データは、多光子励起スペクトルまたは多光子励起イメージである、請求項1または2に記載の非線形光学測定システム。
【請求項4】
前記シグナル光および前記アイドラー光のうちの一方に対する他方の遅延時間を変更するように構成された遅延時間変更部をさらに備え、
前記プロセッサは、前記遅延時間がゼロに設定されて前記シグナル光と前記アイドラー光との間で強度ゆらぎが同期した条件下における前記光検出器による検出結果に基づいて、前記データを算出する、請求項3に記載の非線形光学測定システム。
【請求項5】
前記データは、前記ラマンデータであり、
前記試料の非線形光学現象により発生した光は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光であり、
前記プロセッサは、
前記遅延時間がゼロである条件下での前記光検出器による検出結果に基づく第1CARSデータと、前記遅延時間が非ゼロである条件下での前記光検出器による検出結果に基づく第2CARSデータとを算出し、
前記第1CARSデータと前記第2CARSデータとの差分により得られる差分データを算出する、請求項4に記載の非線形光学測定システム。
【請求項6】
請求項3に記載の非線形光学測定システムと、
前記シグナル光、前記アイドラー光および前記非線形光学現象により発生した光のうちの少なくとも1つが各々を伝搬する1以上の光ファイバとを備える、内視鏡システム。
【請求項7】
非線形光学結晶と、
シード光を用いずに前記非線形光学結晶におけるパラメトリック下方変換を誘起する励起光としてのパルスレーザ光を発する光源とを備え、
前記非線形光学結晶における前記励起光のパラメトリック下方変換により生成されたシグナル光およびアイドラー光は、試料に照射されて前記試料の非線形光学現象による光を発生させる、光源装置。
【請求項8】
試料の非線形光学現象による光を発生させるための光を準備するステップを含み、
前記準備するステップは、
シード光を用いることなく励起光としてのパルスレーザ光を非線形光学結晶に入射するステップと、
前記非線形光学結晶における前記励起光のパラメトリック下方変換によりシグナル光およびアイドラー光を互いに同軸に生成するステップと、
前記非線形光学結晶から同軸に伝搬するシグナル光およびアイドラー光をレンズを用いて集光するステップとを含み、さらに、
前記レンズにより集光されたシグナル光およびアイドラー光を前記試料に照射するステップと、
前記試料の非線形光学現象により発生した光を検出するステップとを含む、非線形光学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非線形光学測定システム、それを備えた内視鏡システム、光源装置および非線形光学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の非線形光学測定法が実用化されている。たとえば非線形ラマン分光法は、様々な技術分野に応用され、特に生命科学・医療計測などの分野での生体試料の計測において著しい発展を見せている。特開2009-222531号公報(特許文献1)、特開2011-191496号公報(特許文献2)、特開2022-153601号公報(特許文献3)および特開2022-29970号公報(特許文献4)は、複数のパルス光を試料に照射した場合に試料から発せられる非線形ラマン散乱光(より具体的にはコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光)を検出することにより試料を分析する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-222531号公報
【特許文献2】特開2011-191496号公報
【特許文献3】特開2022-153601号公報
【特許文献4】特開2022-29970号公報
【特許文献5】国際公開第2007/084112号
【特許文献6】特開2017-203646号公報
【特許文献7】国際公開第2020/195674号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yujiro Eto, Enhanced two-photon excited fluorescence by ultrafast intensity fluctuations from an optical parametric generator, Applied Physics Express 14, 012011 (2021).
【非特許文献2】Yujiro Eto, Locally controlled two-photon excited fluorescence by correlated ultrafast intensity fluctuations, Applied Physics Express 14, 022003 (2021).
【非特許文献3】Yujiro Eto and Mutsuo Nuriya, Enhanced two-photon excited fluorescence from green fluorescent proteins by ultrafast fluctuations in intense light pulse, Vol. 1, No. 12 / 15 Dec 2022 / Optics Continuum 2539.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非線形光学測定法、より具体的には、非線形ラマン法、和周波発生法(SFG:Sum Frequency Generation)、第二高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)、多光子励起法などでは、複雑な光学系がしばしば採用される。たとえば非線形ラマン分光法では、試料の非線形応答を引き起こすために2本の高強度のレーザ光が試料に照射される。そのような2本の高強度のレーザ光を準備して試料へと導くためには複雑な光学系を要し得る。社会実装を進める上で、できるだけシンプルな光学系によって非線形光学測定法を実現したい、という要望が常に存在する。本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的の1つは、シンプルな光学系によって非線形光学測定法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に係る非線形光学測定システムは、非線形光学結晶と、光源と、レンズと、光検出器とを備える。光源は、シード光を用いずに非線形光学結晶におけるパラメトリック下方変換を誘起する励起光としてのパルスレーザ光を発する。レンズは、非線形光学結晶における励起光のパラメトリック下方変換により互いに同軸に生成されたシグナル光およびアイドラー光を集光して試料に照射する。光検出器は、試料の非線形光学現象により発生した光を検出する。
【0007】
本開示の他の局面に係る内視鏡システムは、非線形光学測定システムと、シグナル光、アイドラー光および上記非線形光学現象により発生した光のうちの少なくとも1つが各々を伝搬する複数の光ファイバとを備える。
【0008】
本開示のさらに他の局面に係る光源装置は、非線形光学結晶と、シード光を用いずに非線形光学結晶におけるパラメトリック下方変換を誘起する励起光としてのパルスレーザ光を発する光源とを備える。非線形光学結晶における励起光のパラメトリック下方変換により生成されたシグナル光およびアイドラー光は、試料に照射されて試料の非線形光学現象による光を発生させる。
【0009】
本開示のさらに他の局面に係る非線形光学測定方法は、試料の非線形光学現象による光を発生させるための光を準備するステップを含む。準備するステップは、シード光を用いることなく励起光としてのパルスレーザ光を非線形光学結晶に入射するステップと、非線形光学結晶における励起光のパラメトリック下方変換によりシグナル光およびアイドラー光を互いに同軸に生成するステップと、非線形光学結晶から同軸に伝搬するシグナル光およびアイドラー光をレンズを用いて集光するステップとを含む。非線形ラマン分光方法は、さらに、レンズにより集光されたシグナル光およびアイドラー光を試料に照射するステップと、試料の非線形光学現象により発生した光を検出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、シンプルな光学系によって非線形光学測定法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】CARS分光法を概略的に説明するための図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る非線形ラマン分光システムの全体構成の一例を示す図である。
図3】光源装置の構成および機能を、より詳細に説明するための図である。
図4】QPMデバイスから出射される光の波長と結晶温度との関係の一例を示す図である。
図5】シグナル光とアイドラー光との間の周波数差と結晶温度Tとの関係の一例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る非線形ラマン分光方法の処理手順の第1例を示すフローチャートである。
図7】励起光の強度とQPMデバイスからの出射光の強度との関係の測定結果の一例を示す図である。
図8】実施の形態1における非線形ラマン分光測定結果の一例を示す図である。
図9】本開示の実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステムの全体構成の第1例を示す図である。
図10】本開示の実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステムの全体構成の第2例を示す図である。
図11】実施の形態1に係る非線形ラマンイメージング方法の処理手順の第2例を示すフローチャートである。
図12】本開示の実施の形態2に係る非線形ラマン分光システムの全体構成の一例を示す図である。
図13】シグナル光およびアイドラー光のパルス波形を説明するための図である。
図14】アンチストークス光の強度の増強結果の一例を示す図である。
図15】本実施の形態におけるCARS分光法を説明するための図である。
図16】シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在しない場合のアンチアストークス光の周波数を説明するための図である。
図17】シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在する場合のアンチアストークス光の周波数を説明するための図である。
図18】遅延時間を0に設定した場合のSFGスペクトルの一例を示す図である。
図19】SFGスペクトルの差分を説明するための概念図である。
図20】実施の形態2に係る非線形ラマン分光方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図21】実施の形態2に係る非線形ラマンイメージング方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図22】本開示の実施の形態3に係る内視鏡システムの全体構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0013】
<用語の説明>
本開示およびその実施の形態において、試料の非線形光学現象により発生した光とは、試料の非線形ラマン散乱、和周波発生(SFG)、第二高調波発生(SHG)または多光子励起により発生した光を意味する。「非線形光学測定システム」とは、非線形ラマン分光、非線形ラマンイメージング、SFG分光、SFGイメージング、SHG分光、SHGイメージング、多光子励起分光および多光子励起イメージングのうちの少なくとも1つを実行可能な測定システムを意味する。同様に、「非線形光学測定方法」とは、上記手法のうちの少なくとも1つを用いる測定方法を意味する。
【0014】
本開示およびその実施の形態において、「フェムト秒オーダー」とは、1フェムト秒以上かつ1ピコ秒未満の時間範囲を意味する。「サブピコ秒オーダー」とは、100フェムト秒以上かつ1ピコ秒未満の時間範囲を意味する。「ピコ秒オーダー」とは、1ピコ秒以上かつ1ナノ秒未満の時間範囲を意味する。「サブナノ秒オーダー」とは、100ピコ秒以上かつ1ナノ秒未満の時間範囲を意味する。「ナノ秒オーダー」とは、1ナノ秒以上かつ1マイクロ秒未満の時間範囲を意味する。「3桁ワットオーダー」または「サブキロワットオーダー」とは、100W(=0.1kW)以上かつ1kW未満のパワーを意味する。「4桁ワットオーダー」とは、1kW以上かつ10kW未満のパワーを意味する。「5桁ワットオーダー」とは、10kW以上かつ100kW未満のパワーを意味する。
【0015】
本開示およびその実施の形態において、「パラメトリック下方変換」(PDC:Parametric Down-Conversion)は「自発パラメトリック下方変換」(SPDC:Spontaneous Parametric Down-Conversion)から区別される。SPDCとPDCとを区別するための理論的な基準としては、励起光から生成されるシグナル光およびアイドラー光の各々の平均光子数が用いられ得る。本開示およびその実施の形態では、SPDCとは、モード当たりの光子数が1以下である光子対生成過程である。これに対し、PDCとは、モード当たりの光子数が1よりも多い光子対生成過程である。なお、「モード当たり」とは、1パルス当たりという意味であってもよいし、同じ周波数という意味であってもよい。
【0016】
SPDCとPDCとを区別するための、より実際的な基準としては、励起光の強度が用いられ得る。PDCを起こすためのレーザ光(連続波レーザ光であってもよいが、パルスレーザ光が好ましい)のピーク強度は、SPDCを起こすためのレーザ光のピーク強度よりも顕著に高い。具体的には、一般に、SPDCを起こすためのレーザ光(典型的には連続波レーザ光)のピーク強度は数十mW~数Wである。これに対し、本開示およびその実施の形態において要求される、PDCを起こすためのピーク強度は、好ましくは3桁ワットオーダー(サブキロワットオーダー)~5桁ワットオーダー(すなわち100W~100kW)であり、より好ましくは3桁ワットオーダー~4桁ワットオーダー(すなわち100W~10kW)である。この基準に従えば、ピーク強度が少なくとも100Wであるレーザ光の照射による光子対生成過程がPDCに分類される。ピーク強度が100Wである場合、モード当たり1012個オーダーの光子対が生成する。
【0017】
一般に、光パラメトリック増幅では、微弱な光が、非線形光学結晶内で強力な励起光と相互作用することによって増幅される。本開示およびその実施の形態において、「シード光」とは、励起光により増幅される微弱な光を意味する。
【0018】
レーザ光の「周波数」は、非線形光学の技術分野における慣習に従い、角周波数(角振動数)、波長または波数に換算可能であり、適宜読み替えられる。2本のレーザ光間の「周波数差」も、角周波数差(角振動数差)、波長差または波数差に適宜読み替えられる。
【0019】
[実施の形態1]
<CARS分光法>
以下の実施の形態では、本開示に係る非線形光学測定システムが非線形ラマン分光システムまたは非線形ラマンイメージングシステムであって、当該システムによりCARS分光法が実現される構成を例に説明する。
【0020】
図1は、CARS分光法を概略的に説明するための図である。第1ポンプ光とストークス光とによって振動準位のポピュレーションが形成される。そして、第2ポンプ光を用いてアンチストークス光が生成される。以下、第1ポンプ光と第2ポンプ光とを区別しない場合、または第1ポンプ光と第2ポンプ光とを包括的に表す場合には「第1」または「第2」という表記を省略する。
【0021】
本実施の形態では、後述するパラメトリック下方変換(PDC)によりシグナル光とアイドラー光とが生成される。そして、シグナル光がポンプ光として使用され、アイドラー光がストークス光として使用される。説明に際し、シグナル光とポンプ光とが混在したりアイドラー光とストークス光とが混在したりすると、混乱を招き得る。そのような混乱を避けるために表記を統一し、シグナル光およびポンプ光をいずれも「シグナル光」と記載し、アイドラー光およびストークス光をいずれも「アイドラー光」と記載する。図中、シグナル光をLで示し、アイドラー光をLで示す。ただし、当業者であれば適宜、シグナル光をポンプ光と読み替えたり、アイドラー光をストークス光と読み替えたりすることが可能である。アンチストークス光が本開示に係る「試料の非線形光学現象により発生した光」に相当する。アンチストークス光をLASで示す。
【0022】
ただし、本開示に係る非線形ラマン分光システムを適用可能な非線形ラマン分光法はCARS分光法に限定されない。具体的には、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)分光法、誘導ラマン利得分光法(SRGS:Stimulated Raman Gain Spectroscopy)、逆ラマン分光法(IRS:Inverse Raman Spectroscopy)、コヒーレントストークスラマン分光法(CSRS:Coherent Stokes Raman Spectroscopy)などにも本開示に係る非線形ラマン分光システムは適用可能である。非線形ラマンイメージングシステムについても同様である。
【0023】
<分光システム構成>
図2は、本開示の実施の形態1に係る非線形ラマン分光システムの全体構成の一例を示す図である。非線形ラマン分光システム100は、光源装置1と、対物レンズ2と、サンプルホルダ3と、光検出器4と、コントローラ10とを備える。
【0024】
光源装置1は、コントローラ10からの制御指令に従って、後段の対物レンズ2に供給するための光を生成する。光源装置1は、パルスレーザ光源11と、擬似位相整合(QPM:Quasi-Phase-Matched)デバイス12と、ヒータ13とを含む。
【0025】
パルスレーザ光源11は、QPMデバイス12(非線形光学結晶)を励起するための励起光を発する。励起光(excitation light)をLで示す。QPMデバイス12は、パルスレーザ光源11からの励起光のパラメトリック下方変換(PDC)によりシグナル光とアイドラー光とを同軸に生成する。励起光に加えてシード光が用いられることはない。ヒータ13はQPMデバイス12を加熱する。パルスレーザ光源11、QPMデバイス12およびヒータ13については図3にて、より詳細に説明する。
【0026】
対物レンズ2は、光源装置1(QPMデバイス12)とサンプルホルダ3との間に配置されている。対物レンズ2は、QPMデバイス12により同軸に生成されたシグナル光およびアイドラー光を集光する。対物レンズ2についても図3にて詳細に説明する。対物レンズ2は、本開示に係る「レンズ」に相当する。「レンズ」は反射型のレンズであってもよい。
【0027】
2本のレーザ光を「同軸」に生成する、もしくは出射する、または2本のレーザ光が「同軸」に伝搬するとは、2本のレーザ光が厳密な意味で寸分違わず一致している場合を含むが、これに限定されず、2本のレーザ光が略一致している場合も含む。2本のレーザ光は、後段の光学系において1本のレーザ光として取り扱うことができる程度に(言い換えれば、別々の光学系を組まなくてよい程度に)一致していればよく、その程度は、当業者であれば本明細書の記載および技術常識等を勘案して理解可能である。
【0028】
サンプルホルダ3は、対物レンズ2と光検出器4との間に配置されている。サンプルホルダ3は試料(SPで示す)を保持する。試料の種類は特に限定されないが、たとえば、細胞、組織などの生体試料である。
【0029】
シグナル光とアイドラー光とが試料に照射されると、アンチストークス光が発生する。この例では、サンプルホルダ3と光検出器4との間に配置された図示しない光学素子(ショートパスフィルタ、ダイクロイックミラーなど)によりシグナル光およびアイドラー光は除去され、アンチストークス光のみが光検出器4に到達する。
【0030】
光検出器4は、アンチストークス光を検出し、その検出強度を示す信号をコントローラ10に出力する。より具体的に、実施の形態1において、光検出器4は、CCD(Charge Coupled Device)センサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどのイメージセンサ41を含む。ただし、光検出器4は、シングルピクセル型の受光素子を含んでもよいし、分光器と、シングルピクセル型またはマルチピクセル型の受光器とを含んでもよい。
【0031】
コントローラ10は、プロセッサ101と、メモリ102と、入力装置103と、出力装置104とを含む。プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)などの演算処理装置である。メモリ102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む記憶装置である。メモリ102には、OS(Operating System)を含むシステムプログラムと、コンピュータ読み取り可能なコードを含む制御プログラムと、試料の非線形ラマン分光を行うための各種パラメータとが格納されている。プロセッサ101は、システムプログラム、制御プログラムおよびパラメータを読み出してメモリ102に展開して実行することによって、非線形ラマン分光を行うための様々な演算処理を実現する。入力装置103は、キーボード、マウス、タッチパネル、操作ボタン等であって、ユーザ(研究者、開発者、学生などの測定者)による操作を受け付ける。出力装置104は、モニタ、プリンタ等であって、プロセッサ101による演算処理の途中経過および結果を出力する。
【0032】
≪光源装置≫
図3は、光源装置1の構成および機能を、より詳細に説明するための図である。図3に示すように、パルスレーザ光源11からの励起光は、レンズ141により集光されてQPMデバイス12に入射する。また、QPMデバイス12からのシグナル光およびアイドラー光は、レンズ142により平行光に変換されて後段の対物レンズ2に向けて出射される。励起光の周波数を2ωと表すと、シグナル光のピーク周波数はω+Δωであり、アイドラー光のピーク周波数はω-Δωである。シグナル光とアイドラー光との間の周波数差(ピーク周波数差)は2Δωである。
【0033】
パルスレーザ光源11は、ナノ秒レーザ光源またはサブナノ秒レーザ光源である。パルスレーザ光源11は、好ましくは、励起光のパルス幅がナノ秒オーダーであるQスイッチレーザ光源である。1つの具体例として、コボルト(Cobolt)社Torシリーズのパルスレーザ装置(波長532nm)が用いられ得る。波長1064nmの基本波を出射する装置を採用し、非線形光学結晶(たとえば三ホウ酸リチウム(LBO)結晶)を用いて基本波から2倍波が生成されてもよい。
【0034】
なお、一般に、フェムト秒オーダー~ピコ秒オーダーの超短パルスレーザ光の発生にはモード同期レーザが用いられる。モード同期レーザはパルスレーザ光源11としては好ましくない。その理由については後述する(図13参照)。
【0035】
QPMデバイス12は、周期分極反転構造を有する非線形光学結晶を含む。非線形光学結晶は、この例では一定の分極反転周期(ピッチ)を有する。QPMデバイス12は、この例の非線形光学結晶に代えて、TypeIまたはTypeII型の位相整合条件を満たす非線形光学結晶を含んでもよい。非線形光学結晶の材料は、たとえばニオブ酸リチウム(LiNbO)である。そのようなQPMデバイスはPPLN(periodically poled lithium niobate)と呼ばれる。PPLNの光路方向の長さは、たとえば1cm~2.5cmである。QPMデバイス12がPPLNであり、かつ、励起光の波長が532nmである場合、シグナル光およびアイドラー光は、いずれも近赤外光である。この例では、シグナル光およびアイドラー光の各々の線幅は約5nmである。
【0036】
QPMデバイス12に含まれる非線形光学結晶の材料は特に限定されない。非線形光学結晶の材料は、たとえば、硫化ガリウム銀(AgGaS)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、リン酸チタニルカリウム(KTiOP)、ニオブ酸カリウム(KNbO)などであってもよい。
【0037】
本実施の形態において、QPMデバイス12における励起光からシグナル光およびアイドラー光の生成過程としてはパラメトリック下方変換(PDC)が用いられる。励起光の強度が低すぎると、自発パラメトリック下方変換(SPDC)しか誘起されず、そうすると試料において非線形ラマン散乱光がほとんど発生しない。逆に励起光の強度が高すぎると、PPLNが損傷(熱的損傷、誘電破壊など)する可能性がある。励起光の強度は、励起光のビームサイズ、PPLNのサイズ(特に光路方向の長さ)などを考慮した上で、PPLNの損傷を避けつつも十分な非線形ラマン散乱光が発生するように定められる。より具体的には、励起光のピーク強度の下限は3桁ワットオーダー(の下限値=100W)であり、励起光のピーク強度の上限は5桁ワットオーダー(の上限値=100kW)である。
【0038】
対物レンズ2は、前述のとおり、QPMデバイス12により同軸に生成されたシグナル光およびアイドラー光を集光する。これにより、後段の試料における光強度密度が高められる。
【0039】
加えて、対物レンズ2は、位相整合条件に関連する機能を有する。非線形ラマン散乱のためのアンチストークス光を生成するためには、試料中でも位相整合条件が満たされることを要する。この場合、シグナル光の波数ベクトルとアイドラー光の波数ベクトルとアンチストークス光の波数ベクトルとによって位相整合条件が決まる。つまり、ある特定の向きにシグナル光の波数ベクトルとアイドラー光の波数ベクトルとを設定することで、位相整合条件を満たす方向にアンチストークス光が生成される。位相整合条件を満たす方向は試料の屈折率分散から算出可能であるため、算出された方向からシグナル光およびアイドラー光を試料に照射することも考えられる。しかし、本実施の形態では、そのような光学系の調整に代えて、対物レンズ2によって集光されたシグナル光とアイドラー光とが試料に照射される。そうすると、対物レンズ2による集光により様々な波数ベクトル成分を各々が有するシグナル光とアイドラー光とが生成されるので、その中には試料中で位相整合条件を満たす波数ベクトル成分も含まれる。したがって、位相整合条件を満たす方向への光学系の調整が不要になる。
【0040】
ヒータ13は、たとえば、QPMデバイス12を加熱するように構成されたオーブンである。より詳細には、ヒータ13は、コントローラ10からの制御指令に従って、QPMデバイス12の温度が目標温度となるようにQPMデバイス12を加熱する。以下、QPMデバイス12の温度を「結晶温度T」と記載する。目標温度を変更することによって結晶温度Tを様々な温度に可変に設定できる。結晶温度Tを変更すると、非線形光学結晶のピッチが実効的に変化するため、QPMデバイス12の位相整合条件を満たすシグナル光およびアイドラー光の波長が変化する。
【0041】
図4は、QPMデバイス12から出射される光の波長と結晶温度Tとの関係の一例を示す図である。横軸は結晶温度Tを表す。縦軸はシグナル光またはアイドラー光の波長を表す。シグナル光の波長は測定値である。アイドラー光の波長は、シグナル光の波長の測定値に基づく算出値である。図4に示すように、結晶温度Tを変更することによって、QPMデバイス12の位相整合条件を満たすシグナル光とアイドラー光との波長の組み合わせが変化するので、シグナル光とアイドラー光との間の周波数差2Δωを変更できる。このように、ヒータ13は本開示に係る「周波数差変更部」の一例である。
【0042】
図5は、シグナル光とアイドラー光との間の周波数差と結晶温度Tとの関係の一例を示す図である。横軸は結晶温度Tを表す。縦軸は、シグナル光とアイドラー光との間の周波数差2Δωを表す。図5に示すような関係を事前に準備してコントローラ10のメモリ102に格納しておく。これにより、結晶温度Tから周波数差2Δωを算出したり、所望の周波数差2Δωを得るために必要な結晶温度Tを算出したりすることが可能になる。
【0043】
図3に記載のQPMデバイス12は、非線形光学結晶のピッチが一定の素子である。しかし、QPMデバイス12は、ピッチが扇型に変化するファンアウト(fan-out)型の素子であってもよい。ファンアウト型の素子への励起光の入射位置を変更することによって、位相整合条件を満たす波長が変化するため、周波数差2Δωが変更される。図示しないが、光源装置1は、ヒータ13に代えて、ファンアウト型の素子を移動可能に構成された装置(典型的には電動精密ステージ)を含んでもよい。その場合、当該装置が本開示に係る「周波数差変更部」に相当する。あるいは、固定されたファンアウト型の素子への励起光の入射位置を可変に光学系が構築されていてもよい。その場合、当該光学系が本開示に係る「周波数差変更部」に相当する。QPMデバイス12は、ピッチが光路方向に沿って変化するチャープ型の素子であってもよい。
【0044】
<分光処理フロー>
図6は、実施の形態1に係る非線形ラマン分光方法の処理手順の第1例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば、操作ボタン等の入力装置103がユーザの操作を受け付けた場合に実行される。各ステップは、基本的にはコントローラ10(プロセッサ101)によるソフトウェア処理によって実現されるが、コントローラ10内に配置された電子回路によるハードウェア処理によって実現されてもよい。後述する他のフローチャートについても同様である。以下、ステップを「S」と略す。
【0045】
図6のフローチャートに示される処理は、試料の分光分析(典型的には同定)を目的とする測定に関するものである。以下のS101~S104の処理は、測定条件を事前に設定するための処理である。これらの処理の順序は適宜入れ替え可能である。
【0046】
S101において、コントローラ10は、シグナル光とアイドラー光との間の周波数差2Δωの走査範囲を設定する。コントローラ10は、たとえば、入力装置103へのユーザ操作を受け付けることによって周波数差2Δωの走査範囲を取得する。
【0047】
S102において、コントローラ10は、S101にて設定された周波数差2Δωの走査範囲から結晶温度Tの走査範囲を決定する。コントローラ10は、たとえば結晶温度Tと周波数差2Δωとの対応関係を示すマップまたはテーブル(図5参照)に基づいて、当該変換処理を行うことが可能である。
【0048】
S103において、コントローラ10は、PDCを起こすことが可能な超高利得領域(以下「PDC領域」とも記載する。)に励起光のピーク強度を設定する。
【0049】
図7は、励起光の強度とQPMデバイス12からの出射光の強度との関係の測定結果の一例を示す図である。横軸は、QPMデバイス12に入射される励起光の時間平均強度を表す。縦軸は、QPMデバイス12から出射される光(シグナル光+アイドラー光)の時間平均強度を表す。
【0050】
図7には、励起光のビームウエストの直径が約160μmであり、QPMデバイス12(PPLN)の長さが1cmである場合の測定結果が示されている。この例では、QPMデバイス12からの出射光の時間平均強度が最大で6mW程度であった。この値は、パルス光のピーク強度に換算すると、300W程度である。このような測定結果に基づいて、励起光の強度と、PDCを起こすために要求されるピーク強度との関係を事前に準備することが可能である。したがって、コントローラ10は、PDCに要求されるピーク強度を達成可能なPDC領域内の値に励起光の強度(特にピーク強度)を設定できる。
【0051】
単に励起光をQPMデバイス12に照射しさえすれば、非線形ラマン分光に要求される強度のPDCが誘起されるわけではないことに留意する。従来、「シード光を用いずにPDCのみで作り出したレーザ光では、非線形ラマン分光に要求される十分な強度が得られない」ことが技術常識であった。図7に示す測定結果は、非線形光学結晶の損傷を避けつつもQPMデバイス12からの出射光の強度が十分に向上するように、PDCのパラメータ(励起光のビームウエスト、QPMデバイス12の長さなど)を最適化することで得られたものである。
【0052】
図6に戻り、S104において、コントローラ10は、光学系に設けられたミラー(図示せず)を制御することによって、シグナル光およびアイドラー光の試料への照射位置を調整する。光照射位置は事前に定められていてもよい。
【0053】
S105において、コントローラ10は、入力装置103への測定開始操作を受け付けるまで待機する(S105においてNO)。当該操作を受け付けると(S105においてYES)、コントローラ10は処理をS106に進める。続くS106~S111の処理は、周波数差2Δωを走査するための処理である。
【0054】
S106において、コントローラ10は、S102にて設定された結晶温度の走査範囲内の温度に結晶温度Tを設定する。n(nは自然数)回目の測定において設定された結晶温度TをT(n)と記載する。
【0055】
S107において、コントローラ10は、励起光の出力を開始するように光源装置1を制御する。そして、コントローラ10は、アンチストークス光の検出強度を示す信号を光検出器4から取得する(S108)。その後、励起光の出力を停止するように光源装置1を制御する(S109)。
【0056】
S110において、コントローラ10は、今回の結晶温度T(n)が、S102にて設定された結晶温度の走査範囲の終了値に達したかどうかを判定する。結晶温度T(n)が終了値に達していない場合(S110においてNO)、コントローラ10は、結晶温度を次回値T(n+1)に設定する(S111)。そして、コントローラ10は処理をS106に戻す。これにより、結晶温度Tが走査範囲内を走査される。
【0057】
一方、結晶温度T(n)が終了値に達した場合(S110においてYES)、コントローラ10は処理をS112に進め、アンチストークス光の強度の測定結果を出力装置104に出力する。たとえば、コントローラ10は、アンチストークス光の強度をスペクトル表示するように出力装置104を制御する。これにより、本実施の形態ではCARSスペクトルが取得される。S112の処理によって一連の処理が終了する。なお、CARSスペクトルの表示タイミングは光照射終了後に限定されない。S106~S111における光照射中に測定途中のCARSスペクトルが表示されてもよい。この例では、CARSスペクトル(ラマンスペクトル)が本開示に係る「ラマンデータ」に相当する。
【0058】
図8は、実施の形態1における非線形ラマン分光結果の一例を示す図である。横軸は波数を表す。縦軸はアンチストークス光の規格化された強度を表す。試料としては、ポリスチレン(黒丸参照)とガラス(白丸参照)とを用いた。2900cm-1付近に注目すると、ポリスチレンがラマン遷移を持つ一方で、ガラスはラマン遷移を持たないことが読み取れる。
【0059】
<イメージングシステム構成>
図9は、本開示の実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステムの全体構成の第1例を示す図である。非線形ラマンイメージングシステム100Aは、非線形ラマンイメージングが適用される顕微鏡システムである。非線形ラマンイメージングシステム100Aは、光源装置1(QPMデバイス12)と対物レンズ2との間に光スキャナ51をさらに備える点において、非線形ラマン分光システム100(図2参照)と異なる。
【0060】
光スキャナ51は、たとえばガルバノスキャナであって、コントローラ10からの制御指令に従って制御される。光スキャナ51を制御することによって、シグナル光およびアイドラー光を対物レンズ2を介して試料の任意の位置に照射可能である。シグナル光およびアイドラー光を試料上で走査することも可能である。
【0061】
図10は、本開示の実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステムの全体構成の第2例を示す図である。非線形ラマンイメージングシステム100Bは、非線形ラマンイメージングシステム100Aと同様に、非線形ラマンイメージングが適用される顕微鏡システムである。非線形ラマンイメージングシステム100Bは、サンプルホルダ3に取り付けられた可動ステージ52をさらに備える点において、非線形ラマン分光システム100(図2参照)と異なる。
【0062】
可動ステージ52は、たとえば電動精密ステージであって、コントローラ10からの制御指令に従って変位する。可動ステージ52を制御することによっても、シグナル光およびアイドラー光を試料上で走査することが可能である。図示しないが、光スキャナ51と可動ステージ52とが組み合わせられてもよい。
【0063】
<イメージング処理フロー>
図11は、実施の形態1に係る非線形ラマンイメージング方法の処理手順の第2例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、試料のリアルタイムイメージング(動画撮影)を目的とする測定に関するものである。一枚の画像(動画の各フレーム)を取得するための光スキャナ51または可動ステージ52の走査範囲は予め定められていると想定する。以下では光スキャナ51を備える構成(図9参照)を例に説明するが、光スキャナ51を可動ステージ52に読み替え可能である。
【0064】
S121において、コントローラ10は、シグナル光とアイドラー光との間の周波数差2Δωを設定する。典型的には、周波数差Δ2ωは、アンチストークス光の強度が最も高い値に設定される。そして、コントローラ10は、設定された周波数差2Δωに対応する結晶温度Tを決定する。
【0065】
S122において、コントローラ10は、励起光のピーク強度をPDC領域内の適切な値(3桁ワットオーダー~5桁ワットオーダーの範囲内の値)に設定する。
【0066】
S123において、コントローラ10は、入力装置103への測定開始操作を受け付けるまで待機する(S123においてNO)。当該操作を受け付けると(S123においてYES)、コントローラ10は、S121にて設定された温度に結晶温度Tを設定する(S124)。
【0067】
S125において、コントローラ10は、励起光の出力を開始するように光源装置1を制御する。
【0068】
S126において、光スキャナ51のミラー角度θを走査範囲内の角度θ(k)(kは自然数)に設定する。ミラー角度θは最初は初期値に設定される。コントローラ10は、アンチストークス光の検出強度を示す信号を光検出器4から取得する(S127)。これにより、ミラー角度θ(k)に対応するピクセル(光照射位置)におけるアンチストークス光の信号強度が取得される。なお、ピクセル当たりの露光時間は1ミリ秒程度であってもよいと見積もられる。
【0069】
一枚の画像を取得するためのミラー角度θの走査が完了するまで(S128においてNO)、コントローラ10は、ミラー角度θをわずかに変化させながら(S129)、アンチストークス光の検出強度を示す信号を順次取得する。ミラー角度θが終了値に達し、光スキャナ51の走査が完了すると(S128においてYES)、コントローラ10は、複数のピクセルにおけるアンチストークス光の検出強度の分布を示す画像を出力装置104に出力する(S130)。
【0070】
入力装置103への測定終了操作を受け付けていない場合(S131においてNO)、コントローラ10は処理をS126に戻す。この際、ミラー角度θは初期値にリセットされる。S126~S130の処理が繰り返し実行されることにより、試料の動画が撮影されてリアルタイムイメージングが実現される。動画撮影に代えて静止画撮影が行われてもよい。試料の時間変化が緩やかである場合、タイムラプスイメージングが行われてもよい。この例では、これらの動画、静止画またはタイムラプスイメージが本開示に係る「ラマンデータ」(ラマンイメージ)に相当する。測定終了操作を受け付けると(S131においてYES)、コントローラ10は、励起光の出力を停止するように光源装置1を制御する(S132)。これにより、一連の処理が終了する。
【0071】
<先行技術との対比>
種々の非線形ラマン分光法では、試料の非線形応答を引き起こす(非線形ラマン散乱を発生させる)ために2本の高強度のレーザ光を試料に照射することが求められる。この要求に応えるため、従来は主に以下の2つの手法が用いられてきた。第1の手法は、互いに出射波長が異なる2台のレーザ光源装置を使用するものである(たとえば特許文献1参照)。第2の手法は、シード光によって強度が高められた2色光源装置(互いに波長が異なる2本のパルスレーザ光を同時に出射可能な光源)を使用するものである。しかしながら、これらの手法では、レーザ光の分岐・波長変換・合波などの仕組みを要する。そのため、光学系構築の難度が高かったり、構築された光学系を安定的に維持することが困難であったりし得る。
【0072】
本実施の形態においては、光源装置1におけるPDCに関連するパラメータ(励起光のピーク強度、励起光のビームウエスト、非線形光学結晶の長さなど)を調整(好ましくは最適化)することによって、QPMデバイス12における超高利得領域でのPDCを用いて高い瞬間強度を有し、かつ同軸上で伝搬するシグナル光とアイドラー光とを発生させる。その上で、高い瞬間強度を有するシグナル光とアイドラー光とを対物レンズ2から同軸に出射させる。これによって、1本の励起光のみから、試料の非線形ラマン情報を取得可能な強度を有しかつ同軸に伝搬するシグナル光とアイドラー光とが得られる。その結果、本発明者らが実証したように、シード光を用いなくともPDCのみによってCARS分光法を実現できる(図8参照)。この手法によれば、レーザ光の分岐・波長変換・合波などの仕組みは省略可能である。したがって、実施の形態1によれば、非線形ラマン分光を実現するための光学系がシンプルになる。よって、システム小型化およびコスト低減が可能である。
【0073】
国際公開第2007/084112号(特許文献5)には、SPDCにより量子もつれ光子対を生成し、その一方の光子をシグナル光として使用することが記載されている(図3参照)。さらに、量子もつれを利用してラマン信号の検出効率を向上させる旨も記載されている(第22~23ページ参照)。しかし、SPDCとは、モード当たりの平均光子数1以下のシグナル光およびアイドラー光しか生成されない微弱領域における過程である。そのため、たとえ検出効率が向上したとしても、ノイズに埋もれてラマン信号を検出できないか、あるいはラマン信号の検出に極めて長い時間を要する。これに対し、本実施の形態では、好ましくはQスイッチレーザ光源を光源装置1として用いることによって超高利得領域でのPDCを誘起する。これにより、シグナル光およびアイドラー光の光子数が数桁~数十桁も増加するため、アンチストークス光を効果的に増強可能である。
【0074】
特開2017-203646号公報(特許文献6)に開示されたCARS計測装置は、光パラメトリック発振器を含む(図1図3参照)。そのため、光パラメトリック増幅の安定化のための電気回路の追加等によってシステム構成が複雑にもなるとともに、共振器の分だけシステムサイズが大きくなる。当然、光パラメトリック発振器の部材コストもかかる。これに対し、本実施の形態によれば、光パラメトリック発振器を設けなくて済むため、シンプルかつコンパクトかつ安価なシステムを構築できる。
【0075】
非線形ラマン分光法とPDCとの組み合わせの困難性は以下のように説明される。CARS分光法などの非線形ラマン分光法は、生命科学・医療計測・物理化学などの分野で主に使用されている。一方、PDCは、レーザ科学・非線形光学・量子光学などの分野で研究されている。つまり、非線形ラマン分光法とPDCとは技術分野が異なる。したがって、非線形ラマン分光法から出発した当業者にとって、非線形ラマン分光法にPDCを適用することは容易に想到し得るものではない。逆に、PDCから出発した当業者にとっても、PDCの適用先として非線形ラマン分光法を容易には想到し得ない。
【0076】
ここではCARSスペクトル(ラマンスペクトル)を取得する例を説明したが、これに限らず、SFGスペクトル、SHGスペクトルまたは多光子励起スペクトルも同様に取得可能である。シグナル光およびアイドラー光を試料に照射した際に、試料の非線形光学現象から生じるSFGスペクトル、SHGスペクトルまたは多光子励起スペクトルが検出される。
【0077】
[実施の形態2]
実施の形態1では、シグナル光およびアイドラー光の光路が測定中に固定されている構成について説明した。実施の形態2においては、シグナル光とアイドラー光との光路長差を調整可能な構成について説明する。
【0078】
<システム構成>
図12は、本開示の実施の形態2に係る非線形ラマン分光システムの全体構成の一例を示す図である。非線形ラマン分光システム200は、ダイクロイックミラー61,62と、移動ミラー71と、駆動装置72と、ミラー81~83とをさらに備える点、および、光検出器4に代えて光検出器4Aを備える点において、実施の形態1に係る非線形ラマン分光システム100(図2参照)と異なる。これら以外の非線形ラマン分光システム200の構成(光源装置1、対物レンズ2およびサンプルホルダ3)は、非線形ラマン分光システム100の対応する構成と同等である。
【0079】
ダイクロイックミラー61は、光源装置1(QPMデバイス12)の後段に配置されている。ダイクロイックミラー61は、QPMデバイス12からのシグナル光とアイドラー光とを分岐する。この例では、ダイクロイックミラー61は、シグナル光を反射する一方でアイドラー光を透過する。シグナル光は、ミラー81を経由してダイクロイックミラー62に向かう。アイドラー光は移動ミラー71に向かう。
【0080】
移動ミラー71は、アイドラー光の光路(伝搬方向)に沿って移動可能に構成されている。具体的には、移動ミラー71には駆動装置72が設けられている。駆動装置72は、電動アクチュエータであって、たとえば、コントローラ10からの制御指令に従って機械的に変位するモータ駆動装置(サーボモータ、ステッピングモータなど)である。駆動装置72は、コントローラ10からの印加電圧に応じて変位するピエゾ素子であってもよい。駆動装置72を用いて移動ミラー71の位置を変化させることによって、シグナル光とアイドラー光との光路長差を設定できる。アイドラー光は、移動ミラー71による反射後にミラー82を経由してダイクロイックミラー62に向かう。なお、移動ミラー71および駆動装置72は、本開示に係る「遅延時間変更部」に相当する。
【0081】
ダイクロイックミラー62は、シグナル光の光路においてミラー81とミラー83との間に配置されているとともに、アイドラー光の光路においてミラー82とミラー83との間に配置されている。この例では、ダイクロイックミラー62は、ダイクロイックミラー61と同様に、シグナル光を反射する一方でアイドラー光を透過する。これにより、ダイクロイックミラー62は、ダイクロイックミラー61により分岐されたシグナル光とアイドラー光とを合波する。合波されたシグナル光およびアイドラー光は、ミラー83を経由して対物レンズ2に至る。
【0082】
光検出器4Aは、イメージセンサ41に加えて分光器42を含む点において、光検出器4と異なる。分光器42は、試料からのアンチストークス光を分光する。分光器42を設けることによって、アンチストークス光を単にイメージセンサ41により検出する構成(図2参照)と比べて、アンチストークス光の波数分解能を1桁~2桁程度向上させることができる。
【0083】
なお、図12のシステム構成では、シグナル光の光路長が固定され、アイドラー光の光路長が可変である。しかし、逆に、アイドラー光の光路長が固定され、シグナル光の光路長が可変であってもよい。あるいは、シグナル光の光路長およびアイドラー光の光路長の両方が可変であってもよい。
【0084】
<強度ゆらぎ>
図13は、シグナル光およびアイドラー光のパルス波形を説明するための図である。シグナル光およびアイドラー光の各々は、ベースとなるサブナノ秒オーダー~ナノ秒オーダーのパルス波形(パルス包絡線)に、フェムト秒オーダーのスパイクが重畳することにより、強度変化を示す。この強度変化は、量子ゆらぎに起因するものであり、「強度ゆらぎ」(intensity fluctuations)と呼ばれる。SPDCではシグナル光子とアイドラー光子とが同時に生成される。この同時性は超高利得領域におけるPDCでも失われることはない。PDCでは、シグナル光のスパイクとアイドラー光のスパイクとが同時に生成される。つまり、シグナル光とアイドラー光との間で強度ゆらぎ(スパイクのパターン)は類似している(強度ゆらぎの詳細については非特許文献1~3を参照)。
【0085】
モード同期レーザを励起光として用いてPDCを誘起した場合でも強度ゆらぎは生じる。しかし、超短パルスレーザ光は非線形光学結晶中で広がるため、非線形光学結晶を超高利得領域で励起してPDCを誘起することは困難である。加えて、フェムト秒オーダーのスパイクがフェムト秒オーダーのパルス波形に重畳した場合、シグナル光およびアイドラー光のベース強度自体が変動する。つまり、パルスエネルギーがパルスごとに変化する。したがって、超短パルスレーザ光は、本実施の形態のような分光分析またはイメージングへの応用には適さない。よって、モード同期レーザの採用は好ましくない。
【0086】
通常、試料への照射時には、その前段における光学素子による屈折率分散によって、シグナル光およびアイドラー光のうちの一方は他方に対して時間的に遅延している。図13に示す例では、シグナル光に対してアイドラー光が遅延している。この遅延の長さを「遅延時間τ」と記載する。シグナル光とアイドラー光との光路長差を移動ミラー71を用いて調整することにより、遅延時間τを0に設定可能である。実施の形態2において遅延時間τが制御されるのはラマンデータの測定精度を向上させるためである。以下、測定精度向上に寄与する2つの作用を説明する。
【0087】
<1.アンチストークス光の強度増強>
一般に、CARS分光法におけるアンチストークス光の強度は、シグナル光の瞬間強度の2乗と、アイドラー光の瞬間強度との積に比例する。このような非線形応答では、非線形光学結晶に照射される全光量(光強度の時間的な総和)が等しい条件下で比較すると、瞬間的に高い強度の光を照射する方が、時間的に一定の強度の光を照射し続ける場合と比べて、非線形ラマン散乱の対象である試料から得られるアンチストークス光の強度が高い。
【0088】
本実施の形態では、遅延時間τ=0に設定する。シグナル光とアイドラー光とは類似した強度ゆらぎのパターンを有する。そのため、τ=0とすることで、強度ゆらぎが同期した状態でシグナル光とアイドラー光とが試料に照射される。これにより、高い瞬間強度のシグナル光が試料に照射される場合には、アイドラー光の照射強度も高くなり、その結果、アンチストークス光の強度が効果的に増強される。
【0089】
図14は、アンチストークス光の強度の増強結果の一例を示す図である。横軸はシグナル光に対するアイドラー光の遅延時間τを表す。縦軸はアンチストークス光の規格化された強度を表す。図14に示す例では、遅延時間τ=0の場合には、τ≠0の場合と比べて、アンチストークス光の強度が約1.2倍に増強した。理論的には、シグナル光およびアイドラー光の分散を適切に補償すれば2倍以上の増強が可能であると推定される。
【0090】
図14に示すように、アンチストークス光の強度が遅延時間τ=0においてピークをとる一方で、当該ピークはサブピコ秒程度の時間幅(±数十μmの光路長差に相当)を有する。つまり、遅延時間τが0から多少ずれていたとしてもアンチストークス光の強度は1(ベースライン)よりも大きい。このことから、アンチストークス光の強度を増強するのに遅延時間τが厳密に0であることは要求されないことが分かる。したがって、本開示において、「遅延時間がゼロである」とは、遅延時間τが0を含む所定の範囲内であることを意味し、「遅延時間が非ゼロである」とは、遅延時間τが当該範囲外であることを意味する。
【0091】
<2.時間分解能および波数分解能の向上>
第2の作用は、超短パルス波レベルの時間分解能と連続波レベルの波数分解能との両立を目的とするものである。まず、時間分解能が向上する理由について説明する。ここでは、ラマンスペクトルが過渡的に変化する時間分解非線形ラマン分光法を想定する。その場合、時々刻々変化するラマンスペクトルを、どのくらい細かな時間幅に区切って測定可能かが時間分解能に相当する。
【0092】
従来の時間分解非線形ラマン分光法では、2発(またはそれ以上)のパルスレーザ光が試料に照射される。2発のパルスレーザ光間の時間差によって、どの時刻におけるラマンスペクトルを測定するかが設定される。また、各パルスレーザ光の時間幅(パルス幅)によって時間分解能が決定する。たとえばサブピコ秒オーダーの時間分解能を実現するには、時間幅がサブピコ秒オーダーの超短パルスレーザ光を用いることを要する。
【0093】
これに対し、本実施の形態においては、図13にて説明したシグナル光およびアイドラー光の各々に含まれる複数のスパイクに着目し、2発の超短パルスレーザ光に代えて、複数のスパイクに超短パルスレーザ光の役割を担わせる。これにより、超短パルスレーザ光を用いた時間分解測定と類似した測定を実現できる。より詳細に説明すると、本実施の形態において超短パルスレーザ光の時間幅に相当する量はスパイクの時間幅(スパイク幅)である。シグナル光に発生するスパイクゆらぎの時間幅は、シグナル光の線幅(周波数幅の逆数)程度である。アイドラー光についても同様である。シグナル光およびアイドラー光の線幅がいずれもナノメートルオーダーである場合、スパイクの時間幅はサブピコ秒オーダーである。したがって、本実施の形態によれば、シグナル光およびアイドラー光の各々がサブナノ秒オーダー~ナノ秒オーダーのパルス包絡線をもつにもかかわらず、サブピコ秒オーダーの時間分解能を実現できる。
【0094】
続いて、波数分解能の向上について説明する。波数分解能とは、ラマンスペクトル上で、どのくらい2つのピークが隣り合っていても当該2つのピークを互いに分離可能かを示す指標である。
【0095】
高い波数分解能が要求される場合、従来の非線形ラマン分光法では、線幅が十分に狭いレーザ光が用いられる。これに対し、本実施の形態においては、シグナル光とアイドラー光との周波数相関(以下「周波数相関」とも略す。)が利用される。理解を容易にするため、下記の3つの事項に整理して順に説明する。
(1)周波数相関を利用すると、なぜ波数分解能が向上するのか。
(2)PDC領域でも周波数相関は存在するのか。
(3)PDC領域で周波数相関を利用するためには、どのような処理が必要なのか。
【0096】
≪(1)波数分解能が向上する理由≫
図15は、本実施の形態におけるCARS分光法を説明するための図である。シグナル光の周波数をωで表し、アイドラー光の周波数をωで表し、アンチアストークス光の周波数をωASで表す。シグナル光とアイドラー光との間には2ω-ω=ωASとの関係が成立する。加えて、試料の分子振動に共鳴する周波数をΩ(定数)で表すと、ω-ω=Ωとの関係が得られる。
【0097】
本実施の形態では、シグナル光とアイドラー光とがPDCにより生成されるため、シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在する。この場合のアンチアストークス光の周波数について、そのような周波数相関が存在しない場合と対比しながら説明する。
【0098】
図16は、シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在しない場合のアンチアストークス光の周波数を説明するための図である。図17は、シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在する場合のアンチアストークス光の周波数を説明するための図である。図16(A)および図17(A)はωとωとの関係を示す。図16(B)および図17(B)はラマンスペクトル(CARSスペクトル)を模式的に示す。
【0099】
図16(A)を参照して、シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在しない場合、ωとωとのペア(ω,ω)は円形の周波数領域によって表される。このペアが有する周波数の曖昧さ(時間とエネルギーとの不確定性関係に起因する周波数の広がり)が濃淡により表現されている。試料の共鳴周波数Ωの周波数幅が十分に狭いと仮定すると、前述の2つの式(2ω-ω=ωASおよびω-ω=Ω)と円形の周波数領域とが同時に重なり合う部分において、試料の分子共鳴に由来するアンチストークス光が生成される。アンチストークス光は周波数幅δωASの曖昧さ(波数分解能)を有する。(ω,ω)が円形領域に表される場合、周波数幅δωASが広い。このことから、周波数相関が存在しない場合には波数分解能が低いことが分かる(図16(B)参照)。
【0100】
これに対し、シグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が存在する場合、図17(A)に示すように、(ω,ω)が有する周波数の曖昧さは、一定程度の幅をもつものの円形領域と比べて十分に狭い直線状の領域によって表される。この場合、周波数相関が存在しない場合と比べて、周波数幅δωASが大幅に狭い。このことは、周波数相関を利用することによってアンチストークス光の波数分解能が顕著に向上することを意味している(図17(B)参照)。
【0101】
≪(2)PDC領域における周波数相関の存在≫
PDC領域でもシグナル光とアイドラー光との間に周波数相関が実在することは自明な事項ではなく、実験的な証明を要する。本発明者らは、その証明をSFGを用いて行った。より具体的には、シグナル光とアイドラー光とのSFGビームを生成して試料(具体的にはBBO結晶)のSFGスペクトルを測定した。
【0102】
図18は、遅延時間τ=0に設定した場合のSFGスペクトルの一例を示す図である。上図がSFGスペクトルを示す。下図は、比較のための励起光のスペクトルを示す。
【0103】
図18より、遅延時間τ=0に設定した場合に、急峻なピークが生成されることを確認できるとともに、当該ピークの波長および線幅が励起光の波長および線幅とほぼ等しいことを確認できる。以下、このスペクトル成分を「ピーク成分」と称する。励起光の周波数の幅が0.1nm以下であるのに対して、シグナル光およびアイドラー光は、その数十倍程度も太い線幅(たとえば約5nm)をもつ。それにもかかわらず、シグナル光とアイドラー光とのSFGビームには、励起光の波長および線幅とほぼ等しいピーク成分が含まれている。このピーク成分は、図17(A)に示した相関関係が満たされることで生み出されたものである。これにより、PDC領域における周波数相関の存在が証明されたといえる。
【0104】
一方、遅延時間τ=0におけるSFGスペクトルは、ピーク成分だけでなく、ピーク成分の波長を中心とするブロードなスペクトル成分も含む。以下、後者のスペクトル成分を「ブロード成分」と称する。ブロード成分は、相関関係のない光同士の相互作用によって生み出されたものである。
【0105】
≪(3)周波数相関を利用するための処理≫
PDC領域における周波数相関を利用するために必要な処理について、まずはSFGを例に説明する。
【0106】
図19は、SFGスペクトルの差分を説明するための概念図である。図19には、遅延時間τを所定の走査ステップΔτずつ順に走査することによって取得された5つのSFGスペクトルが模式的に示されている。この例では、τ=0におけるSFGスペクトル(ブロード成分およびピーク成分の両方を含む。)から、τ=2ΔτにおけるSFGスペクトル(ブロード成分のみを含む。)を差し引くことによって、ピーク成分が抽出される。
【0107】
遅延時間τ=0に設定した場合のCARSスペクトルもSFGスペクトルと同様に、周波数相関があるシグナル光のモードおよびアイドラー光のモードのペアにより生成されるスペクトル成分(SFGにおけるピーク成分に相当)と、周波数相関がないペアにより生成されるスペクトル成分(SFGにおけるブロード成分に相当)との両方を含む。そこで、本実施の形態では、遅延時間τ=0の場合のCARSスペクトルと、遅延時間τが非ゼロの場合のスペクトルとの差分が算出される。そうすると、周波数相関がないペアにより生成されるスペクトル成分が除去されて、周波数相関があるペアにより生成されるスペクトル成分が残る。これにより、CARSスペクトルにおける、高い波数分解能のスペクトル成分の純度が高まるため、CARSスペクトルの波数分解能を向上させることができる。
【0108】
このように、狭い線幅のレーザ光が用いられる従来の手法に代えて、遅延時間τ=0に設定することにより、どのモードのシグナル光と、どのモードのアイドラー光とが相互作用するのかが特定される状況を作り出すことによっても、CARSスペクトルの波数分解能を向上させることが可能である。実施の形態2によれば、超短パルス光レベルの時間分解能と連続波レベルの周波数分解能とを両立させることができる。
【0109】
<処理フロー>
図20は、実施の形態2に係る非線形ラマン分光方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図20では紙面の都合上、測定に必要な事前設定のための処理(図6のS101~S104の処理)と、測定開始操作を受け付ける処理(S105の処理)とについては図示を省略している。事前設定処理は、遅延時間τの走査範囲(移動ミラー71の走査範囲および走査ステップ)を設定する処理をさらに含んでもよい。
【0110】
S201において、コントローラ10は、結晶温度をT(n)に設定するようにヒータ13を制御する。T(n)とは、事前に設定された結晶温度の走査範囲内の、n回目の温度操作における温度である。
【0111】
S202において、コントローラ10は、遅延時間をτ(j)(jは自然数)に設定するように移動ミラー71の駆動装置72を制御する。τ(j)とは、事前に設定された遅延時間の走査範囲内の、j回目の時間操作における時間である。
【0112】
S203において、コントローラ10は、PDC領域内のピーク強度を有する励起光の出力を開始するように光源装置1を制御する。そして、コントローラ10は、アンチストークス光の検出強度を示す信号を光検出器4から取得する(S204)。その後、コントローラ10は、励起光の出力を停止するように光源装置1を制御する(S205)。
【0113】
S206において、コントローラ10は、遅延時間の今回値τ(j)が、遅延時間τの走査範囲の終了値に達したかどうかを判定する。遅延時間τ(j)が終了値に達していない場合(S206においてNO)、コントローラ10は、遅延時間を次回値τ(j+1)に設定する(S207)。そして、コントローラ10は処理をS202に戻す。これにより、遅延時間τが走査範囲内を走査される。遅延時間τ(j)が終了値に達すると(S206においてYES)、コントローラ10は処理をS208に進める。
【0114】
S208において、コントローラ10は、結晶温度の今回値T(n)が、結晶温度Tの走査範囲の終了値に達したかどうかを判定する。結晶温度T(n)が終了値に達していない場合(S208においてNO)、コントローラ10は、結晶温度を次回値T(n+1)に設定する(S209)。そして、コントローラ10は処理をS201に戻す。これにより、結晶温度Tが走査範囲内を走査される。結晶温度T(n)が終了値に達すると(S208においてYES)、コントローラ10は処理をS210に進める。この時点で、遅延時間τごとにCARSスペクトル(結晶温度Tとアンチストークス光の検出強度との関係)が取得されている。
【0115】
S210において、コントローラ10は、様々な遅延時間τにおいて取得された複数のCARSスペクトルのうち、遅延時間τ=0におけるCARSスペクトルを特定する。スペクトルがピークを有する場合、スペクトルを波数について微分した微分波形を算出することにより当該ピークを検出可能である。コントローラ10は、たとえば、全てのCARSスペクトルの微分波形を算出し、その中でピークが検出されたものを遅延時間τ=0におけるCARSスペクトルと特定する。
【0116】
S211において、コントローラ10は、遅延時間τ=0におけるCARSスペクトルと、遅延時間τ≠0におけるCARSスペクトル(たとえば、τ=0から規定の時間だけ異なる遅延時間τにおけるCARSスペクトル)との差分をとることにより得られる差分スペクトルを算出する。前述のとおり、差分スペクトルでは連続波レベルの波数分解能が達成される。なお、差分スペクトルは本開示に係る「差分データ」の一例である。
【0117】
S212において、コントローラ10は、差分スペクトルを表示するように、出力装置104を制御する。差分スペクトルに加えて、遅延時間τ=0におけるCARSスペクトルおよび遅延時間τ≠0におけるCARSスペクトルが表示されてもよい。差分スペクトル以外のCARSスペクトルは測定途中の任意のタイミング(たとえばアンチストークス光の強度を光検出器4から取得したタイミング)で表示されてもよい。
【0118】
ここでは、様々な遅延時間τにおける複数のCARSスペクトルのうちのどのスペクトルが遅延時間τ=0に対応するものかが測定開始前には不明である状況を例に説明した。しかし、同様の測定を繰り返す場合など、遅延時間τ=0の測定条件(移動ミラー71をどの位置に調整すればτ=0であるのか)が事前に判明している場合には、遅延時間τの走査を省略してもよい。具体的には、遅延時間τ=0の測定条件と、遅延時間τ≠0の測定条件との2通りのみで測定を行えばよい。これにより測定時間を短縮できる。
【0119】
実施の形態2のように分光器を用いて高波数分解能でCARS分光が行われる場合のCARSスペクトルとしては、単一のピークを含むカーブではなく、分散カーブが測定され得る。分散カーブとは、アンチストークス光に含まれるCARS過程による成分と非共鳴バックグラウンド過程による成分との干渉により複数の振動共鳴波数を含むカーブであって、ガウス分布を微分したような形状を有する。この場合であっても、分散カーブに現れる複数の振動共鳴波数と、CARS過程による成分の共鳴中心波数とは一致する。したがって、複数の振動共鳴波数が分散カーブに現れる測定条件を遅延時間τ=0の条件として特定すればよい。あるいは、最大エントロピー法(MEM:Maximum Entropy Model)などの公知の手法を用いて分散カーブからCARSスペクトルを再構築(CARS過程による振動共鳴成分のみを抽出)することも可能である。再構築されたCARSスペクトルにおいて振動共鳴波数が確認される測定条件をτ=0の条件として特定してもよい。
【0120】
図20では、試料の同定等の分光分析を目的とするシステム構成(図2参照)およびフローチャート(図6参照)をベースに説明した。しかし、試料のイメージングのためのシステム構成(図9および図10参照)およびフローチャート(図11参照)を実施の形態2のベースにしてもよい。
【0121】
図21は、実施の形態2に係る非線形ラマンイメージング方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。S221において、コントローラ10は、ヒータ13を制御することによって、所望の周波数差に対応する温度に結晶温度Tを設定する。
【0122】
S222において、コントローラ10は、移動ミラー71の駆動装置72を制御することによって、遅延時間τ=0に設定する。そして、コントローラ10は、当該条件下でS223~S228のイメージング処理を実行する。イメージング処理は、図11のS125~S129の処理と略同等であるため、説明は繰り返さない。これにより、遅延時間τ=0におけるアンチストークス光の検出強度の分布を示す画像が取得される。
【0123】
S229において、コントローラ10は、移動ミラー71の駆動装置72を制御することによって、遅延時間τを非ゼロに設定する。そして、コントローラ10は、上記S223~S228の処理と同様のイメージング処理を実行する(S230)。これにより、遅延時間τが非ゼロの場合のアンチストークス光の検出強度の分布を示す画像が取得される。
【0124】
S231において、コントローラ10は、遅延時間τ=0の場合の画像と、遅延時間τが非ゼロの場合の画像との差分画像を作成して出力装置104に表示させる。なお、差分画像は本開示に係る「差分データ」の他の一例である。
【0125】
ここでは静止画像を差分画像として作成する例を説明した。しかし、たとえばミラー角度θの走査速度が十分に速い光スキャナ51を使用することにより、測定対象とする試料の時間変化をリアルタイムで観察する(つまり、動画を撮影する)ことも可能である。
【0126】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、シンプルな光学系によって小型かつ安価な非線形ラマン分光システムを実現できる。それに加えて、実施の形態2によれば、シグナル光とアイドラー光との間の遅延時間τを制御することによって、超短パルス光レベルの時間分解能と連続波レベルの波数分解能とを同時に達成できる。本発明者らによる見積もりによれば、様々なパラメータを最適化することにより、数十~100フェムト秒の時間分解能と、約0.5μmの空間分解能と、10cm-1未満の波数分解能と、600~3600cm-1の波数帯域とを同時に達成可能である。
【0127】
ここではCARSスペクトル(ラマンスペクトル)またはCARSイメージング(ラマンイメージング)を実施する例を説明した。しかし、これに限らず、SFGスペクトル、SFGイメージング、SHGスペクトル、SHGイメージング、多光子励起スペクトルまたは多光子励起イメージングも同様に実施可能である。
【0128】
[実施の形態3]
実施の形態3では、実施の形態1または2に係る非線形ラマンイメージングシステムを内視鏡システムに適用した構成について説明する。
【0129】
図22は、本開示の実施の形態3に係る内視鏡システムの全体構成の一例を示す図である。内視鏡システム300は、サンプルホルダ3を備えない点、および、ダイクロイックミラー63と光ファイバ91~94とを備える点において、実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステム100A(図9参照)と異なる。
【0130】
光ファイバ91は、光源装置1(QPMデバイス12)と光スキャナ51とを光学的に結合する。光ファイバ92は、光スキャナ51とダイクロイックミラー63とを光学的に結合する。光ファイバ93は、ダイクロイックミラー63と対物レンズ2とを光学的に結合する。光ファイバ94は、ダイクロイックミラー63と光検出器4(イメージセンサ41)とを光学的に結合する。光ファイバ91~94の各々は、伝搬する光ごとに別々に設けられていてもよい。全ての光ファイバ91~94が必須でなく、光ファイバ91~94のうちの1以上が設けられていればよい。
【0131】
ダイクロイックミラー63は、光源装置1からのシグナル光およびアイドラー光を透過する。対物レンズ2は、ダイクロイックミラー63からのシグナル光およびアイドラー光を集光して試料(生体組織など)に照射し、かつ、試料からのアンチストークス光を取り込む。ダイクロイックミラー63は、対物レンズ2により取り込まれたアンチストークス光を反射する。これにより、アンチストークス光がイメージセンサ41により検出される。
【0132】
内視鏡システム300の他の構成は、実施の形態1に係る非線形ラマンイメージングシステム100Aの対応する構成と同等である。また、内視鏡システム300における処理手順も実施の形態1における処理手順(図11参照)と同等である。実施の形態3に係る内視鏡システムは、実施の形態2に係る非線形ラマンイメージングシステム200(図12参照)をベースとするものであってもよい。その場合の処理手順も実施の形態2における処理手順(図20または図21参照)と同等である。よって、詳細な説明は繰り返さない。ここでは非線形ラマンイメージングを例に説明したが、これに限らず、SFGイメージング、SHGイメージングまたは多光子励起イメージングも内視鏡システムに適用可能である。
【0133】
実施の形態3によれば、シンプルな光学系によって小型かつ安価な内視鏡システムを実現できる。内視鏡システムが使用される医療現場において光学系を修正したり微調整したりすることは現実的でないため、光学系の安定性が高いことのメリットは大きい。
【0134】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0135】
1 光源装置、11 パルスレーザ光源、12 QPMデバイス、13 ヒータ、141,142 レンズ、2 対物レンズ、3 サンプルホルダ、4 光検出器、41 イメージセンサ、42 分光器、51 光スキャナ、52 可動ステージ、61~63 ダイクロイックミラー、71 移動ミラー、72 駆動装置、81~83 ミラー、91~93 光ファイバ、10 コントローラ、101 プロセッサ、102 メモリ、103 入力装置、104 出力装置、100,200 非線形ラマン分光システム、100A,100B 非線形ラマンイメージングシステム、300 内視鏡システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22