(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025107757
(43)【公開日】2025-07-22
(54)【発明の名称】吊荷の姿勢自動制御装置と姿勢自動制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/08 20060101AFI20250714BHJP
【FI】
B66C13/08 J
B66C13/08 P
B66C13/08 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001159
(22)【出願日】2024-01-09
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】小田井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聡
(72)【発明者】
【氏名】板垣 昌利
(72)【発明者】
【氏名】菅原 聡
(57)【要約】
【課題】吊荷の姿勢を低コストで自動で制御することができる制御装置と制御方法を提供する。
【解決手段】本発明による、吊荷の姿勢自動制御装置は、吊荷1に設置されて吊荷1の姿勢の情報を取得する姿勢情報取得装置2と、吊荷1を吊り下げるチェーンをそれぞれが備える複数のチェーンブロック3と、チェーンブロック3に接続されチェーンブロック3の位置を水平方向に移動させる水平方向直動機構7と、チェーンブロック3と水平方向直動機構7を制御する制御部8とを備える。制御部8は、姿勢情報取得装置2が取得した吊荷1の姿勢の情報を基に、チェーンブロック3を制御してチェーンの長さを制御するとともに、水平方向直動機構7を制御してチェーンブロック3の位置を水平方向に移動させることで、吊荷1の姿勢を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷に設置されて前記吊荷の姿勢の情報を取得する姿勢情報取得装置と、
前記吊荷を吊り下げるチェーンをそれぞれが備える複数のチェーンブロックと、
前記チェーンブロックに接続され前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる水平方向直動機構と、
前記チェーンブロックと前記水平方向直動機構を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記姿勢情報取得装置が取得した前記吊荷の姿勢の情報を基に、前記チェーンブロックを制御して前記チェーンの長さを制御するとともに、前記水平方向直動機構を制御して前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させることで、前記吊荷の姿勢を制御する、
ことを特徴とする、吊荷の姿勢自動制御装置。
【請求項2】
前記水平方向直動機構は、前記チェーンブロックが接続されたボールねじと、前記ボールねじを回転させるモータを備え、前記ボールねじが回転することにより前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる、
請求項1に記載の吊荷の姿勢自動制御装置。
【請求項3】
前記姿勢情報取得装置は、前記吊荷の姿勢の情報として、前記吊荷のロール角、ピッチ角、及びヨー角を取得し、
前記制御部は、前記ロール角と前記ピッチ角がそれぞれの目標値以下となるように、前記チェーンの長さを制御し、前記ヨー角が前記ヨー角の目標値以下となるように、前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる、
請求項1に記載の吊荷の姿勢自動制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ロール角と前記ピッチ角がそれぞれの前記目標値以下となるように前記チェーンの長さを制御した後に、前記ヨー角が前記ヨー角の前記目標値以下となるように前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる、
請求項3に記載の吊荷の姿勢自動制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記吊荷の中心の位置を変化させずに、前記チェーンの長さを制御する、
請求項3に記載の吊荷の姿勢自動制御装置。
【請求項6】
複数のチェーンブロックのそれぞれが備えるチェーンで吊り下げられた吊荷に設置された姿勢情報取得装置が、前記吊荷の姿勢の情報を取得する取得ステップと、
制御部が、前記姿勢情報取得装置が取得した前記吊荷の姿勢の情報を基に、前記チェーンの長さを制御するとともに、前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させることで、前記吊荷の姿勢を制御する制御ステップと、
を有することを特徴とする、吊荷の姿勢自動制御方法。
【請求項7】
前記取得ステップでは、前記姿勢情報取得装置が、前記吊荷の姿勢の情報として、前記吊荷のロール角、ピッチ角、及びヨー角を取得し、
前記制御ステップでは、前記制御部が、前記ロール角と前記ピッチ角がそれぞれの目標値以下となるように前記チェーンの長さを制御した後に、前記ヨー角が前記ヨー角の目標値以下となるように前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる、
請求項6に記載の吊荷の姿勢自動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷の運搬時に吊荷の姿勢を自動で制御するための装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場や製造現場などにおける吊荷の運搬では、吊荷を正確な位置に据え付けるために、トータルステーションやカメラを吊荷に搭載して、作業員が吊荷の姿勢や周囲の環境を監視しながら吊荷を手動で制御することがある。このような手動制御における人手不足やヒューマンエラーを解消するために、吊荷の姿勢を自動で制御する技術が注目されている。
【0003】
吊荷の姿勢を自動で制御する従来の技術の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された装置では、タワークレーンの吊荷のジブ先端からワイヤで吊り下げられたコアコントロールユニットを介して吊荷を吊上げ、人工衛星からの測位データと、ワイヤの角度データと、吊荷の加速度データと、吊荷の姿勢角データとを受信して吊荷の荷振れ角を検出し、荷振れ角に応じた推力をスラスタから発生させて吊荷の荷振れを制御し、吊荷の現在位置と取付け位置との差異からスライド量を算出し、スラスタにより取付け位置に位置合わせすることで、吊荷の姿勢を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吊荷が吊具によって吊り下げられて、例えばクレーンによって運搬される場合に、吊荷が大きいと、吊荷は、運搬中に吊具とともに傾斜したり旋回したりすることがある。
【0006】
作業員が吊荷の姿勢を監視しながら手動で制御して吊荷を据え付ける場合には、吊荷の姿勢を正確に水平にすることが困難であり、吊荷を高精度で据え付けるのが難しいという課題がある。また、作業員による手動の制御では、長期間の工程では人件費がかかるうえに、ヒューマンエラーによる据付のミスや人身事故が発生するのではないかという懸念もある。
【0007】
吊荷の姿勢を自動で制御する技術では、手動制御における上記の課題を解決することができるが、人工衛星からの測位データやトータルステーションを用いて得た座標データなどを用いて吊荷の位置を制御すると、コストが増大するという課題がある。また、例えば高放射線下で吊荷を運搬する場合には、吊荷の位置を制御するための機器が放射線により汚染してしまう可能性があるので、工程ごとに機器を交換する必要があり、莫大なコストが掛かるという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、吊荷の姿勢を低コストで自動で制御することができる制御装置と制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による、吊荷の姿勢自動制御装置は、吊荷に設置されて前記吊荷の姿勢の情報を取得する姿勢情報取得装置と、前記吊荷を吊り下げるチェーンをそれぞれが備える複数のチェーンブロックと、前記チェーンブロックに接続され前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させる水平方向直動機構と、前記チェーンブロックと前記水平方向直動機構を制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記姿勢情報取得装置が取得した前記吊荷の姿勢の情報を基に、前記チェーンブロックを制御して前記チェーンの長さを制御するとともに、前記水平方向直動機構を制御して前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させることで、前記吊荷の姿勢を制御する。
【0010】
本発明による、吊荷の姿勢自動制御方法は、複数のチェーンブロックのそれぞれが備えるチェーンで吊り下げられた吊荷に設置された姿勢情報取得装置が、前記吊荷の姿勢の情報を取得する取得ステップと、制御部が、前記姿勢情報取得装置が取得した前記吊荷の姿勢の情報を基に、前記チェーンの長さを制御するとともに、前記チェーンブロックの位置を水平方向に移動させることで、前記吊荷の姿勢を制御する制御ステップとを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、吊荷の姿勢を低コストで自動で制御することができる制御装置と制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1による、吊荷の姿勢自動制御装置の構成の概略を示す図。
【
図3】本実施例による姿勢自動制御装置のブロック線図。
【
図4】本実施例による姿勢自動制御装置のシステム構成を示す図。
【
図5】本実施例による姿勢自動制御方法の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による、吊荷の姿勢自動制御装置と姿勢自動制御方法では、吊具を用いて吊荷を運搬するときに、吊荷の姿勢の情報(傾斜角と旋回角)を用いて吊荷の姿勢を自動で制御する。本発明では、比較的安価な装置を用いて吊荷の傾斜角や旋回角を取得し、吊荷の姿勢を自動で制御するので、ヒューマンエラーの発生を防止してコストを削減することができる。
【0014】
以下、本発明の実施例による、吊荷の姿勢自動制御装置と吊荷の姿勢自動制御方法を説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0015】
また、以下の説明では、吊荷の姿勢自動制御装置と吊荷の姿勢自動制御方法を、それぞれ姿勢自動制御装置と姿勢自動制御方法と略称することもある。
【実施例0016】
図1は、本発明の実施例1による、吊荷の姿勢自動制御装置の構成の概略を示す図である。
【0017】
吊荷1は、吊具9から吊り下げられて、図示していないクレーンで運搬される。クレーンは、吊具9を移動させる。吊具9は、平面部を有する部材であり、板状部材や、鉄骨を組んで構成された井桁状部材などで構成することができる。
【0018】
本実施例による姿勢自動制御装置は、吊具9に吊り下げられた吊荷1の姿勢を自動で制御する。本実施例では、姿勢自動制御装置は、吊荷1の姿勢を水平にする制御を行うとする。
【0019】
本実施例による姿勢自動制御装置は、姿勢情報取得装置2と、複数のチェーンブロック3と、水平方向直動機構7と、制御部8を備え、吊荷1の姿勢を自動で制御する。
【0020】
姿勢情報取得装置2は、吊荷1に設置されて、吊荷1の姿勢の情報を取得する。姿勢情報取得装置2は、例えば、慣性計測装置(IMU、Inertial Measurement Unit)や傾斜計で構成することができ、吊荷1の姿勢の情報として、吊荷1のロール角、ピッチ角、及びヨー角を計測して取得する。姿勢情報取得装置2は、吊荷1の任意の位置に設置することができる。
【0021】
なお、ロール角とピッチ角は、吊荷1の傾斜角であり、地面(水平面)に対する傾斜角度である。ヨー角は、吊荷1の旋回角であり、水平面内における所定の方向に対する旋回角度である。水平面内における所定の方向とは、予め定めた任意の方向であり、例えば、慣性計測装置で定められる方向(例えば、地磁気センサーが測定する地磁気の方向)である。
【0022】
複数のチェーンブロック3は、吊荷1と吊具9を接続し、吊荷1を吊具9から吊り下げる。チェーンブロック3のそれぞれは、チェーンを備えており、チェーンで吊荷1を吊り下げる。チェーンブロック3の数は、吊荷1の形状などに応じて定めることができ、例えば3本以上が好ましい。本実施例では、一例として、姿勢自動制御装置が4本のチェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)を備える例を示している。4本のチェーンブロック3a、3b、3c、3dは、例えば
図1に示すように、吊荷1の角部に接続される。
【0023】
水平方向直動機構7は、チェーンブロック3に接続されチェーンブロック3の位置を水平方向に移動させる機構である。本実施例では、一例として、姿勢自動制御装置が2つの水平方向直動機構7(7a、7b)を備える例を示している。水平方向直動機構7aは、チェーンブロック3a、3dに接続され、チェーンブロック3a、3dの位置を水平方向に移動させる。水平方向直動機構7bは、チェーンブロック3b、3cに接続され、チェーンブロック3b、3cの位置を水平方向に移動させる。
【0024】
制御部8は、演算装置10とハブ11と制御装置12を備え、チェーンブロック3と水平方向直動機構7を制御して、吊荷1の姿勢を制御する。制御部8は、姿勢情報取得装置2が取得した吊荷1の姿勢の情報を基に、チェーンブロック3を制御してチェーンの長さを制御するとともに、水平方向直動機構7を制御してチェーンブロック3の位置を水平方向に移動させることで、吊荷1の姿勢を制御する。
【0025】
演算装置10は、姿勢情報取得装置2に接続されている。演算装置10は、姿勢情報取得装置2が取得した吊荷1の姿勢の情報から、吊荷1の姿勢を水平にするために必要なチェーンブロック3の変位量を演算して求める。演算装置10は、求めた変位量を、ハブ11を介して制御装置12に伝達する。演算装置10は、例えば、コンピュータで構成することができる。
【0026】
制御装置12は、演算装置10が求めた変位量を基に、チェーンブロック3と水平方向直動機構7を制御し、吊荷1の姿勢を制御して吊荷1の姿勢を水平にする。制御装置12は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC、Programmable Logic Controller)で構成することができる。
【0027】
チェーンブロック3の変位量には、チェーンブロック3のチェーンの長さについての変位の量と、チェーンブロック3の水平方向の位置についての変位の量が含まれる。
【0028】
チェーンブロック3は、制御部8に制御されて、チェーンの長さを変えることができる。チェーンブロック3は、図示していないモータを備え、このモータに駆動されてチェーンの長さを変える。このモータは、制御装置12に制御されて回転して、チェーンブロック3を駆動する。
【0029】
吊荷1の傾斜角(ロール角とピッチ角)は、チェーンブロック3がチェーンの長さを変えることで制御される。
【0030】
チェーンブロック3は、制御部8に制御された水平方向直動機構7により、水平方向の位置を変えることができる。
【0031】
図2は、水平方向直動機構7の構成の概略を示す図である。
【0032】
水平方向直動機構7は、モータ13とボールねじ14とストッパ15を備える。本実施例では、水平方向直動機構7a、7bのそれぞれが、モータ13とボールねじ14とストッパ15を備える。
【0033】
モータ13は、ボールねじ14の一端部に接続しており、制御装置12に制御されて回転してボールねじ14を回転させる。
【0034】
ボールねじ14には、複数のチェーンブロック3が接続されている。本実施例では、水平方向直動機構7aが備えるボールねじ14には、チェーンブロック3a、3dが接続されており、水平方向直動機構7bが備えるボールねじ14には、チェーンブロック3b、3cが接続されている。ボールねじ14は、モータ13の作用により回転して、チェーンブロック3の位置を水平方向に移動させる。
【0035】
ストッパ15は、ボールねじ14の両端部に設置されており、チェーンブロック3の駆動範囲を制限する。
【0036】
水平方向直動機構7aは、モータ13によって、ボールねじ14に接続されたチェーンブロック3a、3dの位置を水平方向(ボールねじ14の延伸方向)に移動させる。水平方向直動機構7bは、モータ13によって、ボールねじ14に接続されたチェーンブロック3b、3cの位置を水平方向(ボールねじ14の延伸方向)に移動させる。
【0037】
チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)は、モータ13の回転によって同一の方向に同一の距離だけ移動することができる。チェーンブロック3は、モータ13の回転方向に応じて、移動する向きを変えることができる。
【0038】
吊荷1の旋回角(ヨー角)は、モータ13が回転してチェーンブロック3が水平方向に移動することで制御される。
【0039】
図3は、本実施例による姿勢自動制御装置のブロック線図である。
【0040】
図4は、本実施例による姿勢自動制御装置のシステム構成を示す図である。
【0041】
姿勢情報取得装置2は、吊荷1の姿勢(ロール角、ピッチ角、及びヨー角)を計測し、吊荷1の姿勢の情報を取得する。姿勢情報取得装置2は、取得した吊荷1の姿勢の情報を演算装置10に伝達する。
【0042】
演算装置10は、姿勢情報取得装置2が取得した吊荷1の姿勢の情報から、吊荷1を水平にするために必要なチェーンブロック3の変位量を求め、求めたチェーンブロック3の変位量を、ハブ11を介して制御装置12に伝達する。演算装置10は、吊荷1の姿勢(ロール角、ピッチ角、及びヨー角)が予め定めた目標値以下となるようなチェーンブロック3の変位量を求める。吊荷1のロール角、ピッチ角、及びヨー角が目標値以下であれば、吊荷1が水平であるとみなすことができる。
【0043】
制御装置12は、演算装置10が求めたチェーンブロック3の変位量を基に、チェーンブロック3と水平方向直動機構7に変位指令を送信する。具体的には、制御装置12は、チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)に、チェーンの長さを変える指令を送信するとともに、水平方向直動機構7(7a、7b)に、ボールねじ14を回転させてチェーンブロック3の水平方向の位置を変える指令を送信する。
【0044】
図5は、本実施例による姿勢自動制御方法の手順を示すフローチャートである。
図5に示す姿勢自動制御方法は、本実施例による姿勢自動制御装置が実行する。
【0045】
S101で、演算装置10と制御装置12は、姿勢自動制御装置が使用するパラメータを初期化する。姿勢自動制御装置が使用するパラメータには、吊荷1のロール角、ピッチ角、及びヨー角が含まれる。
【0046】
S102で、姿勢情報取得装置2は、吊荷1のロール角とピッチ角を計測して取得する。
【0047】
S103で、演算装置10は、吊荷1のロール角がロール角の目標値以下であるか否かと、吊荷1のピッチ角がピッチ角の目標値以下であるか否かを判断する。ロール角の目標値とピッチ角の目標値は、吊荷1の姿勢を水平にするための値として、予め任意に定めることができ、例えば10度以下の角度とすることができる。
【0048】
吊荷1のロール角とピッチ角のうち少なくとも一方がそれぞれの目標値を超えている場合には、S104のステップに進む。吊荷1のロール角とピッチ角の両方がそれぞれの目標値以下である場合には、S106のステップに進む。
【0049】
S104で、演算装置10は、吊荷1のロール角とピッチ角がそれぞれの目標値以下となるような、チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)のチェーンの長さについての変位の量を演算して求める。
【0050】
S105で、制御装置12は、演算装置10が求めた、チェーンの長さについての変位の量を基に、チェーンブロック3を制御して、チェーンの長さを変える。この制御により、吊荷1のロール角とピッチ角を変えることができる。
【0051】
S105を実行したら、再びS102のステップに進む。
【0052】
S106で、姿勢情報取得装置2は、吊荷1のヨー角を計測して取得する。
【0053】
S107で、演算装置10は、吊荷1のヨー角がヨー角の目標値以下であるか否かを判断する。ヨー角の目標値は、吊荷1の姿勢を水平にするための値として、予め任意に定めることができ、例えば10度以下の角度とすることができる。
【0054】
吊荷1のヨー角がヨー角の目標値を超えている場合には、S108のステップに進む。吊荷1のヨー角がヨー角の目標値以下である場合には、S110のステップに進む。
【0055】
S108で、演算装置10は、吊荷1のヨー角がヨー角の目標値以下となるような、チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)の水平方向の位置についての変位の量を演算して求める。
【0056】
S109で、制御装置12は、演算装置10が求めた、チェーンブロック3の水平方向の位置についての変位の量を基に、水平方向直動機構7(7a、7b)を制御して、チェーンブロック3の位置を水平方向に移動させる。この制御により、吊荷1のヨー角を変えることができる。
【0057】
S109を実行したら、再びS106のステップに進む。
【0058】
S110で、姿勢情報取得装置2は、吊荷1のロール角とピッチ角とヨー角を計測して取得する。
【0059】
S111で、演算装置10は、吊荷1のロール角とピッチ角とヨー角がそれぞれの目標値以下であるか否かを判断する。吊荷1のロール角とピッチ角とヨー角のうち少なくとも1つがそれぞれの目標値を超えている場合には、S103のステップに進む。吊荷1のロール角とピッチ角とヨー角の全てがそれぞれの目標値以下である場合には、S112のステップに進む。
【0060】
S112で、演算装置10と制御装置12は、姿勢自動制御装置の終了処理を行う。終了処理には、例えば、吊荷1のロール角、ピッチ角、及びヨー角の出力や、チェーンの長さの変化量とチェーンブロック3の水平方向の位置の移動量の出力が含まれる。
【0061】
本実施例による姿勢自動制御装置は、
図3、5に示すようなフィードバック制御を行って、吊荷1の姿勢の計測と姿勢の制御を繰り返すことで、吊荷1の姿勢を水平にする。
【0062】
吊荷1の姿勢の制御においては、ロール角、ピッチ角、及びヨー角を制御する順序によっては、制御に時間がかかることがある。すなわち、吊荷1の姿勢を短時間で制御するには、これらの3つの角度(吊荷1の3つの自由度)をどの順序で変更するかが重要である。本実施例では、ロール角とピッチ角を変更した後に、ヨー角を変更する。発明者が行った数値シミュレーションによると、この順序でロール角、ピッチ角、及びヨー角を変更すると、短時間で効率的に吊荷1の姿勢を制御することができた。
【0063】
従って、制御部8は、ロール角とピッチ角がそれぞれの目標値以下となるように、チェーンブロック3を制御してチェーンの長さを制御した後に、ヨー角がヨー角の目標値以下となるように、水平方向直動機構7を制御してチェーンブロック3の位置を水平方向に移動させるのが好ましい。
【0064】
以下では、
図5のS104で演算装置10が求める、チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)のチェーンの長さについての変位の量の例と、S108で演算装置10が求める、チェーンブロック3(3a、3b、3c、3d)の水平方向の位置についての変位の量の例を説明する。以下の説明では、吊荷1の形状が直方体であり、姿勢情報取得装置2が取得した吊荷1のロール角、ピッチ角、及びヨー角が10度以下の微小な角度であるとする。また、以下の説明では、吊荷1のロール角とピッチ角とヨー角の目標値が0度であるとする。
【0065】
図6Aは、吊具9に吊り下げられた吊荷1を示す図である。
図6Bは、吊荷1と水平方向直動機構7(7a、7b)を示す平面図である。
【0066】
吊荷1は、4本のチェーンブロック3a、3b、3c、3dによって吊具9から吊り下げられている。吊荷1の上面において、吊荷1の長手方向で互いに隣り合う2本のチェーンブロック3a、3d(またはチェーンブロック3b、3c)の間隔を、2Vとする。吊荷1の上面において、吊荷1の短手方向で互いに隣り合う2本のチェーンブロック3a、3b(またはチェーンブロック3c、3d)の間隔を、2Wとする。また、チェーンブロック3a、3b、3c、3dのチェーンの長さを、それぞれLa、Lb、Lc、Ldとする。チェーンの長さLa、Lb、Lc、Ldは、それぞれのチェーンが吊具9と吊荷1とを接続している距離である。
【0067】
水平方向直動機構7aは、チェーンブロック3a、3dが接続されており、チェーンブロック3a、3dの位置を水平方向に移動させる。水平方向直動機構7bは、チェーンブロック3b、3cが接続されており、チェーンブロック3b、3cの位置を水平方向に移動させる。
【0068】
図6Aと
図6Bに示すように、吊荷1は、ロール角がφであり、ピッチ角がθであり、ヨー角がψである。また、吊荷1のヨー角を修正するために、水平方向直動機構7bが移動させたチェーンブロック3b、3cの水平方向の変位の量をΔとする。
【0069】
吊荷1がロール角φとピッチ角θだけ傾斜した場合には、幾何学的関係から、チェーンブロック3a、3b、3c、3dのチェーンの長さLa、Lb、Lc、Ldとロール角φとピッチ角θとの関係は、チェーンブロック3の間隔を表すVとWを用いて、式(1)で表される。
【0070】
【0071】
吊荷1がヨー角ψだけ旋回した場合には、幾何学的関係から、ヨー角ψとチェーンブロック3b、3cの水平方向の変位の量Δとの関係は、チェーンブロック3の間隔を表すVとWを用いて、式(2)で表される。
【0072】
【0073】
本実施例では、吊荷1の中心の位置(すなわち、吊荷1の中心位置の座標)を変化させることなく、チェーンブロック3a、3b、3c、3dのチェーンの長さLa、Lb、Lc、Ldを変更するとする。吊荷1の中心の位置を変化させないことで、吊荷1の姿勢の変化量を小さくすることができ、短時間で安定的に吊荷1の姿勢を制御することができる。従って、制御部8は、吊荷1の中心の位置を変化させずに、チェーンの長さLa、Lb、Lc、Ldを制御するのが好ましい。
【0074】
吊荷1の中心の位置を変化させない場合には、吊荷1のロール角とピッチ角が目標値(0度)となるようなチェーンの長さLa’、Lb’、Lc’、Ld’は、式(1)を変形した式(3)で表される。
【0075】
【0076】
また、吊荷1のヨー角が目標値(0度)となるような、チェーンブロック3b、3cの水平方向の変位の量Δ1と、チェーンブロック3a、3dの水平方向の変位の量Δ2は、式(2)を変形した式(4)で表される。
【0077】
【0078】
式(4)に示されているように、水平方向にΔだけ変位したチェーンブロック3b、3cには、この変位の方向と反対方向にΔ1だけ移動させ、チェーンブロック3a、3dには、この変位の方向と同じ方向にΔ2だけ移動させる。
【0079】
本実施例による姿勢自動制御装置では、吊荷1の姿勢の情報を取得する装置(センサー)として、吊荷1に設置される姿勢情報取得装置2(例えば、慣性計測装置または傾斜計)だけを用いるので、吊荷1の姿勢を低コストで自動で制御することができる。
【0080】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
1…吊荷、2…姿勢情報取得装置、3、3a、3b、3c、3d…チェーンブロック、7、7a、7b…水平方向直動機構、8…制御部、9…吊具、10…演算装置、11…ハブ、12…制御装置、13…モータ、14…ボールねじ、15…ストッパ。