(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010813
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】真空断熱多重管の終端構造
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20250116BHJP
F17C 9/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
F16L59/065
F17C9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113044
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】規矩 大誠
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宣孔
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕也
(72)【発明者】
【氏名】北田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】合志 義亜
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰三
(72)【発明者】
【氏名】石黒 遼
【テーマコード(参考)】
3E172
3H036
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172DA04
3E172DA90
3E172EB03
3E172JA08
3E172KA03
3H036AA02
3H036AB33
3H036AC06
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】運用中の真空断熱多重管に対する事後的作業への対応性に優れた真空断熱多重管の終端構造を提供する。
【解決手段】真空断熱多重管の終端構造TR1は、低温流体を流通させる内管2と、内管2を覆う外管3と、内管2と外管3との間の真空断熱層4と、を含む真空断熱多重管1の終端構造である。終端構造TR1は、外管3の端縁3Eよりも外側に突出する突出部分22Aを含む内管2の突出端部22と、突出端部22と外管3の端縁3Eとを覆う保冷チャンバ6と、外管3で覆われた内管2の本体部21の内部空間S0と、突出端部22の内部空間S3とを仕切る遮断機構5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温流体を流通させる内管と、前記内管を覆う外管と、前記内管と前記外管との間の真空断熱層と、を含む真空断熱多重管の終端構造であって、
前記外管の端縁よりも外側に突出する突出部分を含む前記内管の突出端部と、
前記突出部分と前記外管の端縁とを覆う保冷カバーと、
前記外管で覆われた前記内管の本体部と前記突出端部との間に位置し、前記内管の本体部と前記突出端部とを仕切る遮断機構と、を備える真空断熱多重管の終端構造。
【請求項2】
請求項1に記載の真空断熱多重管の終端構造において、
前記保冷カバーは、前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを含み、当該キャビティの真空引きが可能な状態で前記外管に取り付けられる保冷チャンバである、真空断熱多重管の終端構造。
【請求項3】
請求項1に記載の真空断熱多重管の終端構造において、
前記遮断機構は、前記内管の管軸方向に間隔を置いて配置された第1弁および第2弁と、前記第1弁と前記第2弁との間を繋ぐ接続管とを含む、真空断熱多重管の終端構造。
【請求項4】
請求項1に記載の真空断熱多重管の終端構造において、
前記遮断機構は、前記内管の管軸方向に互いに間隔を置いて配置された第1弁、第2弁および第3弁と、前記第1弁と前記第2弁との間を繋ぐ第1接続管と、前記第2弁と前記第3弁との間を繋ぐ第2接続管とを含む、真空断熱多重管の終端構造。
【請求項5】
請求項3に記載の真空断熱多重管の終端構造において、
前記突出端部は、前記突出部分の端縁の開口と、前記開口を封止するフランジ式の封止部とを有し、
前記保冷カバーは、前記封止部を含む前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを有する、真空断熱多重管の終端構造。
【請求項6】
請求項4に記載の真空断熱多重管の終端構造において、
前記突出端部は、前記突出部分の端縁に着脱不能に取り付けられたキャップ部を有し、
前記保冷カバーは、前記キャップ部を含む前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを有する、真空断熱多重管の終端構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温流体を流通させる内管と、前記内管を覆う外管と、前記内管と前記外管との間の真空断熱層とを含む真空断熱多重管の終端構造に関する。
【背景技術】
【0002】
低温の液化ガスの移送管として、真空断熱多重管が用いられることがある。真空断熱多重管は、外管と、外管内に配置された内管と、前記内管と前記外管との間の真空断熱層とを含む。低温の液化ガスの移送設備では、移送可能な管長の真空断熱多重管を複数接続して、移送管路が形成される。特許文献1には、真空断熱二重管の現場接続技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記移送設備に敷設された真空断熱多重管に対し、設備運用中に真空断熱多重管の増設や検査等の事後的作業が行われることがある。このため、前記事後的作業に容易に対応できる終端構造を真空断熱多重管に具備させておくことが望ましい。
【0005】
本開示は、事後的作業への対応性に優れた真空断熱多重管の終端構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の局面に係る真空断熱多重管の終端構造は、低温流体を流通させる内管と、前記内管を覆う外管と、前記内管と前記外管との間の真空断熱層と、を含む真空断熱多重管の終端構造であって、前記外管の端縁よりも外側に突出する突出部分を含む前記内管の突出端部と、前記突出部分と前記外管の端縁とを覆う保冷カバーと、前記外管で覆われた前記内管の本体部と前記突出端部との間に位置し、前記内管の本体部と前記突出端部とを仕切る遮断機構と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、事後的作業への対応性に優れた真空断熱多重管の終端構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る、トリプルブロック形式の真空断熱多重管の終端構造を示す図である。
【
図2】
図2(A)および(B)は、第1実施形態の真空断熱多重管の終端に増設用の真空断熱多重管を接続する手順を示す図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る、ダブルブロック形式の真空断熱多重管の終端構造を示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態の変形例に係る真空断熱多重管の終端構造を示す図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る、シングルブロック形式の真空断熱多重管の終端構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本開示に係る真空断熱多重管の終端構造の実施形態を詳細に説明する。液化天然ガス(LNG)や液化水素(LH2)などの極低温の液化ガスを扱う設備では、当該液化ガスの移送配管として真空断熱多重管が用いられることがある。真空断熱多重管を用いることで、ボイルオフガスの発生や配管表面への着氷を抑制でき、例えば、液化水素の場合には配管表面での液化空気の発生を抑止できる。
【0010】
液化ガス設備においては、例えば、将来の設備増設計画に基づき、移送配管の末端に配管延長に備えた終端構造の施与が必要となる場合がある。移送配管として真空断熱多重管を用いる場合にも、前記終端構造の構築が求められる。当該終端構造としては、延長用の真空断熱多重管の接続作業や既設の真空断熱多重管の検査等を容易に行えること、終端構造部分からの既設の真空断熱多重管への入熱を抑制できること、が求められる。とりわけ、液化水素を移送する場合には、終端構造部分での着氷や液化空気の発生を抑制できることも肝要となる。以上のような要請に対応可能な、真空断熱多重管の終端構造の各種実施形態を、以下に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る真空断熱多重管の終端構造TR1を模式的に示す図である。
図1では、真空断熱多重管として、内管2、外管3および真空断熱層4を有する真空断熱二重管1の終端1Eに施与される終端構造TR1を例示している。第1実施形態における真空断熱二重管1の移送対象は、液化水素(LH
2)である。真空断熱二重管1は、液化水素供給源1Tに接続され、所要の箇所へ液化水素を移送する。液化水素供給源1Tは、例えば液化水素を貯蔵する液化水素貯蔵タンク、液化水素移送船の船内タンク、液化水素生産プラントなどである。
【0012】
内管2は、移送対象の低温流体を流通させる管である。第1実施形態では、内管2を液化水素が流通する。外管3は、内管2を覆う管であり、内管2と同軸に配置されている。真空断熱層4は、内管2と外管3との間の空間層であって、真空引きにより形成される層である。真空引きによって熱のキャリアが除かれることで、内管2と外管3との間の空間層が断熱層として機能する。
【0013】
真空断熱二重管1の終端1Eは、例えば、新たな真空断熱二重管1の増設が予定されている、あるいは既設の真空断熱二重管1の検査が予定されている、などの何らかの理由で、切断作業の実行が見込まれている終端1Eである。終端1Eには、前記増設の作業を想定した終端構造TR1が備えられている。終端構造TR1は、内管2の突出端部22、遮断機構5および保冷チャンバ6(保冷カバー)を備えている。
【0014】
突出端部22は、終端1Eにおける外管3の端縁3Eよりも外側に突出する突出部分22Aを含む、内管2の端末に相当する部分である。増設作業時には、突出端部22に増設用の真空断熱二重管1の内管2が接続される。外管3の端縁3Eには、当該端縁3Eと突出端部22の外周面との間のギャップを埋めるエンドシール31が取り付けられている。エンドシール31の取り付けにより、真空断熱層4の密閉性が維持されている。突出端部22の端縁には、溶接接合等によって前記端縁に対して着脱不能にキャップ部25が取り付けられ、前記端縁の開口が封止されている。
【0015】
遮断機構5は、内管2の本体部21と突出端部22との間に位置し、本体部21と突出端部22を仕切る機構である。より詳しくは、遮断機構5は、内管2の本体部21の内部空間S0と、突出端部22の内部空間S3とを空間的に遮断する機構である。本体部21は、内管2の外管3で覆われた部分であり、実際に液化水素の移送を行っている運用部分である。遮断機構5は、内管2の管軸方向に互いに間隔を置いて配置された第1弁51、第2弁52および第3弁53と、これらの弁同士を接続する第1接続管23および第2接続管24とを含む。第1実施形態では、内管2の本体部21と突出端部22との間に3つの弁、つまり3つの空間ブロックを配設するトリプルブロック構造を例示している。
【0016】
第1弁51、第2弁52および第3弁53は、ボールバルブ、バタフライバルブあるいはゲートバルブなどからなり、弁配置位置において内管2の隣接する内部空間の遮断および開放を切り替える。第1接続管23は、第1弁51と第2弁52との間を繋いでいる。第2接続管24は、第2弁52と第3弁53との間を繋いでいる。第1弁51の開・閉により、本体部21の内部空間S0と第1接続管23の内部空間S1との連通・遮断が切り替えられる。第2弁52の開・閉により、第1接続管23の内部空間S1と第2接続管24の内部空間S2との連通・遮断が切り替えられる。第3弁53の開・閉により、第2接続管24の内部空間S2と突出端部22の内部空間S3との連通・遮断が切り替えられる。
【0017】
保冷チャンバ6は、内管2の突出端部22における突出部分22Aと外管3の端縁3Eとを覆うように、真空断熱二重管1の終端1Eに取り付けられている。保冷チャンバ6は、キャップ部25を含む突出部分22Aと外管3の端縁3Eとを収容可能なキャビティを有する。保冷チャンバ6は、当該キャビティの真空引きやガス置換が可能なように、図略のシール構造を伴って外管3に取り付けられている。保冷チャンバ6にはパージターミナル61が備えられている。パージターミナル61を用いて、保冷チャンバ6の内部空間S4の真空引きや不活性ガス置換などが可能である。内部空間S4を真空引きすることで、突出部分22Aの領域でも真空断熱構造を構築できる。
【0018】
保冷チャンバ6の取り付け目的は、外管3の端縁3Eから突出している突出部分22Aの保冷、突出部分22Aから内管2の本体部21への入熱抑制、突出部分22Aの保護などである。前記保冷によって、突出端部22の外周面への着氷や液化空気の発生を抑制できる。また、前記保冷の結果として、前記入熱も抑制される。さらに、保冷チャンバ6の覆いにより、突出部分22Aが雨水や風雪に曝されず、飛来物や動植物の突出部分22Aへの干渉を阻止できる。
【0019】
終端構造TR1は、パージ作業用の第1ノズル71、第2ノズル72および第3ノズル73を備えている。第1ノズル71は、第1接続管23の内部空間S1のパージ用のノズルである。第1ノズル71を通して、内部空間S1に存在するガスの排気、および内部空間S1への置換ガスの導入が可能である。同様に、第2ノズル72は第2接続管24の内部空間S2のパージ用のノズル、第3ノズル73は突出端部22の内部空間S3のパージ用のノズルである。第1、第2、第3ノズル71、72、73は、複数本のノズルで構成しても良い。なお、ノズル71、72、73のいずれか、例えば第1ノズル71の設置を省いても良い。また、第3ノズル73は、突出端部22の外管3で覆われた部分、もしくは突出部分22Aのいずれから分岐されても良い。
【0020】
図1には、真空断熱二重管1の運用時における内部空間S0~S3の流体充填状況が示されている。第1弁51、第2弁52および第3弁53は閉止状態とされる。内管2の本体部21の内部空間S0には、液化水素(LH
2)が流通している。内部空間S1、S2、S3には水素ガス(GH
2)が充填されている。内部空間S1、S2、S3にヘリウムガス以外の他のガス、例えば窒素ガス等の不活性ガスを充填した場合、本体部21の液化水素の冷熱によって、当該ガスが液化ないしは固化する。また、内部空間S1、S2、S3に空気などの酸素を含むガスを充填した場合、第1弁51からの水素の漏洩の可能性をゼロにはできないことから、水素と酸素との混合気体の発生し防爆性の確保が困難となる場合がある。内部空間S1、S2、S3への充填ガスが水素ガスであれば、前記液化や固化、混合気体の発生の問題を回避できる。
【0021】
<増設作業例>
図2(A)および(B)は、第1実施形態の真空断熱二重管1の終端1Eに増設用の真空断熱二重管を接続する手順を示す図である。
図2(A)には、内管2の突出端部22を切断するカットラインC1と、保冷チャンバ6を切断するカットラインC2とが付記されている。カットラインC1、C2に沿った切断の前に、内部空間S2、S3のパージが行われる。
図1に示したように、内部空間S2、S3には水素ガスが充填されている。とりわけ、突出端部22の切断による内部空間S3の水素ガスと周囲の空気との接触を回避するため、内部空間S3の水素ガスを窒素ガス(GN
2)に置換するパージが行われる。なお、窒素ガスに代えて、他の不活性ガスを置換ガスとして用いても良い。
【0022】
具体的には、第3弁53を開とし、第2ノズル72および第3ノズル73を利用して前記パージを行う。第1弁51および第2弁52は閉のままとされ、第1接続管23の内部空間S1は、水素ガスが封入された状態が維持される。また、内管2の本体部21は、液化水素を流通する運用状態が維持される。第2ノズル72から窒素ガスが、第2接続管24の内部空間S2に供給される。供給された窒素ガスと現存の水素ガスとは、内部空間S2で混合ガスとなる。当該混合ガスは、第3弁53を通過して突出端部22の内部空間S3に入り、第3ノズル73から排出される。第3ノズル73に設置された図略のガス濃度計の計測結果で、内部空間S2、S3に窒素ガスが充填されたことが確認されたら、第3弁53が閉とされる。このパージにより、仮に第2弁52から水素ガスの漏洩があった場合でも、漏洩した水素ガスを第3ノズル73から排出できる。上記とは逆に、第3ノズル73から窒素ガスを内部空間S2へ供給し、第2ノズル72から前記混合ガスを排出する態様としても良い。
【0023】
上記のパージが完了したら、先ずカットラインC2に沿って保冷チャンバ6が切断される。カットラインC2は、内管2のカットラインC1よりも端縁3Eに近い位置に設定される。保冷チャンバ6の切断残部である残部チャンバ6Aは、増設後の内管2の継手部分を覆うカバーの一部として活用される。次いで、カットラインC1に沿って突出端部22が切断される。この切断によって除去されるのは、突出部分22Aの一部である。当該切断によって内部空間S3の窒素ガスは大気へ放散され、内部空間S3には空気(Air)が進入する。なお、
図2の例とは異なり、カットラインC2よりもカットラインC1の方が端縁3Eに近い位置に設定される場合もある。さらに、端縁3Eよりも第3弁53寄りにカットラインC2が設定される場合もある。
【0024】
既存の真空断熱二重管1の終端1Eに継ぎ足される、増設用の真空断熱二重管10は、内管20、外管30および真空断熱層40を備えている。これらは、真空断熱二重管1の内管2、外管3および真空断熱層4と実質的に同じ構成を有している。真空断熱二重管10は、内管20が外管30の端縁30Eよりも外側に突出した突出端部202が形成された、終端1Eと対峙する終端部分を具備している。
【0025】
図2(B)は、既存の真空断熱二重管1の終端1Eに、増設用の真空断熱二重管10が継ぎ足された状態を示している。既存の内管2の突出端部22と、増設の内管20の突出端部202の端縁同士が溶接され、内管接続部J1が形成される。増設用の真空断熱二重管10の終端は、追加チャンバ6Bで覆われる。追加チャンバ6Bの端縁は、残部チャンバ6Aの端縁に溶接され、チャンバ接続部J2が形成される。残部チャンバ6Aと追加チャンバ6Bとの溶接体により、内管接続部J1および端縁3E、30Eを覆う閉鎖空間S40を提供する継手カバー60が形成される。
【0026】
内管接続部J1およびチャンバ接続部J2の形成後、第3ノズル73から内部空間S3へ窒素ガスが供給される。この窒素ガス供給により、空気が入り込んでいる突出端部22の内部空間S3および増設の内管20の内部空間が、窒素ガスに置換される。また、継手カバー60の閉鎖空間S40は、パージターミナル61を使用して真空引きされる。これにより、内管接続部J1において継手カバー60が外管3の役目を果たし、閉鎖空間S40が真空断熱層4の役目を果たす。
【0027】
増設後のスタートアップ作業では、第2接続管24の内部空間S2、突出端部22の内部空間S3および増設された内管20の内部空間の窒素ガスが、水素ガスに置換される。しかる後、第1弁51、第2弁52および第3弁53が開放され、内管2の本体部21から液化水素が、増設された真空断熱二重管10の内管20へ流入される。
【0028】
以上説明した第1実施形態の終端構造TR1によれば、真空断熱二重管1の終端1Eに内管2の突出端部22が設けられる。突出端部22は、外管3の端縁3Eよりも外側に突出する突出部分22Aを含む。突出部分22Aを設けておくことで、増設用の真空断熱二重管10の内管20との接続作業の容易化を図ることができる。また、突出部分22Aは保冷チャンバ6で覆われ、且つ、突出端部22と内管2の本体部21とは遮断機構5で空間的に遮断されている。このため、突出部分22Aの機械的な保護が図られるだけでなく、突出部分22Aから本体部21への入熱や、突出部分22Aの表面への着氷、液化空気の発生などを抑制できる。
【0029】
とりわけ、第1実施形態では、内管2の本体部21と突出端部22との間に、第1弁51、第2弁52および第3弁53という3つの空間的なブロックが介在する。このようなトリプルブロック構造は、液化水素を移送する真空断熱二重管1の終端1Eにおいて、種々の利点をもたらす。すなわち、運用中には液化水素が流通する内管2の本体部21と、突出端部22との間に、第1接続管23および第2接続管24の2つの内部空間S1、S2が存在する。この2つの内部空間S1、S2が、本体部21の内部空間S0に存在する液化水素に対するバッファ空間として機能する。
【0030】
既述の通り、突出端部22に対しては、増設の際に火気が発生する切断作業や溶接作業が行われる。液化水素ないしは水素ガスは可燃性であるので、本体部21と突出端部22との間には不活性ガスで満たされた空間を介在させることが望ましい。本実施形態のトリプルブロック構造を採用すれば、
図2(A)に示したように、内部空間S1に水素ガスを充填し、内部空間S2に窒素ガスを充填することができる。突出端部22の内部空間S3に隣接する内部空間S2は窒素ガス雰囲気であるので、火気の発生する作業を突出端部22に施与できる。また、液化水素が流通する本体部21の内部空間S0に隣接する内部空間S1を、例えば窒素ガス雰囲気とした場合、窒素ガスが液化水素の冷熱で凝固し、第1弁51に窒素の固化物が付着する問題が生じ得る。しかし、本実施形態では、水素ガス雰囲気とした内部空間S1を内部空間S0に隣接させることができるので、上記の問題を回避できる。
【0031】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係る真空断熱二重管1の終端構造TR2を模式的に示す図である。終端構造TR2は、第1実施形態と同様に、内管2、外管3および真空断熱層4を有する真空断熱二重管1の終端1Eに施与されている。第1実施形態と相違する点は、遮断機構5Aが、内管2の管軸方向に互いに間隔を置いて配置された第1弁51Aおよび第2弁52Aと、これらの弁間を連通させる一つの接続管26とから構成される点である。第2実施形態では、内管2の本体部21と突出端部22との間に2つの弁、つまり2つの空間ブロックを配設するダブルブロック構造を例示している。
【0032】
第1弁51Aの開・閉により、本体部21の内部空間S0と接続管26の内部空間S11との連通・遮断が切り替えられる。第2弁52Aの開・閉により、接続管26の内部空間S11と突出端部22の内部空間S12との連通・遮断が切り替えられる。突出端部22は、終端1Eにおける外管3の端縁3Eよりも外側に突出する突出部分22Aを含み、その端縁の開口はキャップ部25で封止されている。外管3の端縁3Eには、エンドシール31が取り付けられている。
【0033】
保冷チャンバ6は、突出部分22Aと外管3の端縁3Eとを覆うように、真空断熱二重管1の終端1Eに取り付けられている。保冷チャンバ6の内部空間S13に対しては、真空引きや不活性ガス置換などが行われる。また、接続管26の内部空間S11のパージ用の第1ノズル71Aと、突出端部22の内部空間S12のパージ用の第2ノズル72Aとが備えられている。
【0034】
真空断熱二重管1を液化水素の移送に用いる場合、その運用時には、第1弁51Aおよび第2弁52Aは閉とされ、内管2の本体部21の内部空間S0には液化水素が流通する。内部空間S11、S12には水素ガスが充填される。増設作業の際には、第2ノズル72Aから窒素ガスが導入され、内部空間S12が水素ガスから窒素ガスに置換される。この場合、内部空間S11の水素ガスが第2弁52Aを通して内部空間S12へ流入しないよう、第2弁52Aの封止性を厳格に管理することが望ましい。しかる後、第1実施形態と同様に、保冷チャンバ6および突出端部22が順次切断され、増設用の真空断熱二重管との溶接接続が行われる。なお、真空断熱二重管1を液化天然ガスの移送に用いる場合には、内部空間S11、S12には窒素ガス等の不活性ガスを充填すれば良い。
【0035】
図4は、第2実施形態の変形例に係る真空断熱二重管1の終端構造TR2Aを示す図である。内管2の本体部21に液化水素を流通させる場合、本体部21の内部空間S0に隣接する接続管26の内部空間S11には、水素ガスを充填する必要がある。これは、例えば窒素ガスを内部空間S11に充填すると、液化水素の冷熱で第1弁51Aに窒素の固化物が付着する不具合が生じ得るからである。水素ガスを内包する接続管26に隣接する突出端部22に、増設時に切断および溶接という火気の発生する作業を施すことは、なるべく回避したいところである。終端構造TR2Aは、この点に鑑みた構造を備える。
【0036】
終端構造TR2Aは、突出端部22の端縁開口の封止構造、当該突出部分22Aを覆う保冷カバー62を除き、
図3の終端構造TR2と同じである。以下、相違点に係る構造を説明する。突出端部22は、キャップ部25に代わる、フランジ式の封止部を備えている。突出端部22の端縁開口の周縁には端縁フランジ22Fが設けられている。端縁フランジ22Fに、ボルト止め式のフランジ蓋27が取り付けられることで、前記端縁開口が封止されている。すなわち、フランジ蓋27を端縁フランジ22Fへ取り付けることで内部空間S12を閉鎖空間とし、フランジ蓋27を取り外すことで内部空間S12を開放できる。
【0037】
保冷カバー62は、端縁フランジ22Fおよびフランジ蓋27からなるフランジ式の封止部を有する突出部分22Aと、外管3の端縁3Eとを収容可能なキャビティを有するケーシングである。保冷カバー62は、フランジ部63を有する装着開口を有している。真空断熱二重管1の終端1Eにおいて外管3の外周には、受けフランジ32が取り付けられている。保冷カバー62のフランジ部63が受けフランジ32に対向するように、保冷カバー62が終端1Eに外嵌される。その後、フランジ部63が受けフランジ32に、ボルト止め等によって固定される。つまり、保冷カバー62は、前記ボルトの締結およびその解除により、外管3に対して着脱可能である。
【0038】
図4の終端構造TR2Aにおける真空断熱二重管の増設作業例を説明する。この場合、増設される二重管の内管の端縁にフランジを取り付けておく。
図2(A)に示した増設用の真空断熱二重管10ならば、内管20の突出端部202の端縁に、
図4に示す端縁フランジ22Fと同じ端縁フランジを設けておく。真空断熱二重管1の運用時、内管2の本体部21の内部空間S0には液化水素が流通し、内部空間S11、S12には水素ガスが充填される。保冷カバー62の内部空間S13には、真空引き、窒素ガス封入などが行われる。なお、突出端部22の周囲に保冷シートを巻回した上で、保冷カバー62を外嵌する保冷構造を採用しても良い。
【0039】
増設作業時には、第2ノズル72Aを使用して、内部空間S12の水素ガスを窒素ガスに置換するパージ作業が行われる。もちろん、第1弁51Aおよび第2弁52Aは閉止状態である。次いで、フランジ部63のボルトの締結が解除され、保冷カバー62が取り外される。その後、突出端部22の端縁フランジ22Fから、フランジ蓋27が取り外される。これらの作業により、増設スタンバイの状態となる。続いて、増設用の真空断熱二重管10の内管20が、突出端部22の端縁フランジ22Fにフランジ接続される。さらに、受けフランジ32を利用する等して、内管接続部を覆う継手カバーが取り付けられる。
【0040】
第2実施形態の変形例に係る終端構造TR2Aによれば、保冷カバー62は外管3に着脱可能であり、突出端部22がフランジ式の封止部を有する。このため、突出端部22の切断および溶接を行わずとも、当該突出端部22の内部空間S12の開放および封止、つまり内管20の継ぎ足しを行える。従って、内部空間S12に隣接する接続管26の内部空間S11に水素ガスが存在していても、終端構造TR2Aでは増設の際には火気を伴う作業を行わずとも済むので、防爆性を担保できる。
【0041】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係る真空断熱二重管1の終端構造TR3を模式的に示す図である。終端構造TR3は、第1、第2実施形態と同様に、内管2、外管3および真空断熱層4を有する真空断熱二重管1の終端1Eに施与されている。第1、第2実施形態と相違する点は、遮断機構5Bが、一つの弁51Bで構成されている点である。つまり、第3実施形態では、内管2の本体部21と突出端部22との間に1つの弁51Bだけが配設されるシングルブロック構造を例示している。
【0042】
弁51Bの開・閉により、本体部21の内部空間S0と接続管26の内部空間S11との連通・遮断が切り替えられる。突出端部22は、終端1Eにおける外管3の端縁3Eよりも外側に突出する突出部分22Aを含み、その端縁の開口はキャップ部25で封止されている。キャップ部25に代えて、
図4に示したフランジ式の封止部を採用しても良い。外管3の端縁3Eには、エンドシール31が取り付けられている。保冷チャンバ6は、突出部分22Aと外管3の端縁3Eとを覆うように、真空断熱二重管1の終端1Eに取り付けられている。突出端部22の内部空間S21のパージ用に、ノズル71Bが突出端部22に取り付けられている。
【0043】
真空断熱二重管1を液化水素の移送に用いる場合、その運用時には、弁51Bは閉とされ、内管2の本体部21の内部空間S0には液化水素が流通する。突出端部22の内部空間S21には水素ガスが充填される。保冷チャンバ6の内部空間S22に対しては、真空引きや不活性ガス置換などが行われる。増設作業の際には、保冷チャンバ6および突出端部22が順次切断され、増設用の真空断熱二重管との溶接接続が行われる。
【0044】
第3実施形態の終端構造TR3によれば、真空断熱二重管1の終端1Eに内管2の突出端部22が設けられる。この突出端部22が存在していることで、真空断熱二重管1の増設や内管2に対する検査などの事後的な作業の容易化を図ることができる。また、突出端部22の突出部分22Aは保冷チャンバ6で覆われ、且つ、突出端部22と内管2の本体部21とは遮断機構B(弁51B)で空間的に遮断されている。このため、突出部分22Aの機械的な保護が図られるだけでなく、突出部分22Aから本体部21への入熱や、突出部分22Aの表面への着氷などを抑制できる。
【0045】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0046】
本開示の第1の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、低温流体を流通させる内管と、前記内管を覆う外管と、前記内管と前記外管との間の真空断熱層と、を含む真空断熱多重管の終端構造であって、前記外管の端縁よりも外側に突出する突出部分を含む前記内管の突出端部と、前記突出端部と前記外管の端縁とを覆う保冷カバーと、前記外管で覆われた前記内管の本体部と前記突出端部との間に位置し、前記内管の本体部と前記突出端部とを仕切る遮断機構と、を備える。
【0047】
第1の態様によれば、真空断熱多重管の終端に内管の突出端部が設けられる。この突出端部が存在していることで、真空断熱多重管の増設や内管に対する検査などの事後的な作業の容易化を図ることができる。また、突出部分は保冷カバーで覆われ、且つ、突出端部と内管の本体部とは遮断機構で仕切られている。このため、突出部分の機械的な保護が図られるだけでなく、突出端部から内管の本体部への入熱や、突出部分の表面への着氷などを抑制できる。
【0048】
第2の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、第1の態様の終端構造において、前記保冷カバーは、前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを含み、当該キャビティの真空引きが可能な状態で前記外管に取り付けられる保冷チャンバである。
【0049】
第2の態様によれば、真空断熱多重管の終端における突出部分の領域でも真空断熱構造を構築できる。従って、内管を流通させる流体が、空気を液化させてしまうような極低温流体であっても、突出部分の表面での液化空気や着氷の発生を抑制できる。
【0050】
第3の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、第1または第2の態様の終端構造において、前記遮断機構は、前記内管の管軸方向に間隔を置いて配置された第1弁および第2弁と、前記第1弁と前記第2弁との間を繋ぐ接続管とを含む。
【0051】
第3の態様によれば、内管の本体部と突出端部との間に、第1弁および第2弁という2つの空間的なブロックが介在することになる。従って、内管の本体部を流通する低温流体の冷熱の突出端部への伝熱、前記突出端部から前記本体部への入熱を一層抑制できる。また、真空断熱多重管の増設の際に、接続管の内部空間をバッファ空間として利用できるので、増設工事の作業性を向上させることができる。
【0052】
第4の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、第1または第2の態様の終端構造において、前記遮断機構は、前記内管の管軸方向に互いに間隔を置いて配置された第1弁、第2弁および第3弁と、前記第1弁と前記第2弁との間を繋ぐ第1接続管と、前記第2弁と前記第3弁との間を繋ぐ第2接続管とを含む。
【0053】
第4の態様によれば、内管の本体部と突出端部との間に、第1弁、第2弁および第3弁という3つの空間的なブロックが介在することになる。従って、内管の本体部と突出端部との間の伝熱をより一層抑制できる。また、内管の本体部と突出端部との間に、第1接続管および第2接続管の2つの内部空間をバッファ空間として利用できる。従って、内管を流通する流体可燃性であって空気を液化させる冷熱を持つ液化ガスであっても、2つのバッファ空間を用いて突出端部に対する各種の作業に影響が及ばないようにすることが可能となる。
【0054】
第5の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、第3の態様の終端構造において、前記突出端部は、前記突出部分の端縁の開口と、前記開口を封止するフランジ式の封止部とを有し、前記保冷カバーは、前記封止部を含む前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを有する。
【0055】
第5の態様によれば、突出端部がフランジ式の封止部を有する。このため、前記保冷カバーを取り外し、前記封止部を開放すれば、内管の増設接続や内管に対する検査等を行える。すなわち、突出端部の切断および溶接を行わずとも当該突出端部の内部空間を開放および封止できる。従って、例えば低温流体が液化水素などの防爆対策が必要な液体であっても、防爆性を担保しつつ前記突出端部に対する作業を行い得る。
【0056】
第6の態様に係る真空断熱多重管の終端構造は、第4の態様の終端構造において、前記突出端部は、前記突出部分の端縁に着脱不能に取り付けられたキャップ部を有し、前記保冷カバーは、前記キャップ部を含む前記突出部分と前記外管の端縁とを収容するキャビティを有する。
【0057】
第6の態様によれば、突出部分の端縁がキャップで封止されているので、突出端部の内・外空間を完全に離隔できる。また、内管の本体部と突出端部との間には2つのバッファ空間が存在しているので、低温流体が液化水素であっても、突出端部に対して火気が発生する作業を行い得る。例えば、突出端部の内部空間を開放するとき当該突出端部を切断したり、突出端部に増設用の内管を溶接したりする作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
1 真空断熱二重管(真空断熱多重管)
1E 終端
2 内管
21 本体部
22 突出端部
22F 端縁フランジ
23 第1接続管
24 第2接続管
25 キャップ部
26 接続管
27 フランジ蓋(フランジ式の封止部)
3 外管
3E 端縁
4 真空断熱層
5、5A、5B 遮断機構
51、51A 第1弁
52、52A 第2弁
53 第3弁
6 保冷チャンバ(保冷カバー)
62 保冷カバー
TR1、TR2、TR2A、TR3 終端構造
S0、S1、S2、S3 内部空間