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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010814
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】渦流探傷方法及び渦流探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20250116BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113045
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】522502680
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 繁俊
(72)【発明者】
【氏名】川田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北澤 諭
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA30
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB09
2G053CB24
2G053DA02
2G053DA09
(57)【要約】
【課題】異なる肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷装置等を提供する。
【解決手段】渦流探傷装置100は、一対の検出コイル2a、2bと、探傷器3と、を備える。探傷器には、複数の校正用電縫鋼管を用いて予め取得された、一方の検出コイル2bに誘起される誘起電圧と、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、探傷器には、1つの校正用電縫鋼管を用いて、予め検出された誘起電圧が記憶されていると共に、予め校正された探傷感度が設定され、探傷器は、電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧と、校正用電縫鋼管について記憶されている誘起電圧と、関係とに基づき、設定されている探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、探傷感度補正ステップで補正した探傷感度を用いて、電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を、前記電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、
前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、
1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、
前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、
ことを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項2】
管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を、前記電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、
前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得し、前記欠陥信号の大きさが所定範囲内にある前記誘起電圧の範囲を特定する誘起電圧範囲特定ステップと、
1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、
前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、前記誘起電圧範囲特定ステップで特定した前記誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、前記誘起電圧範囲特定ステップで特定した前記誘起電圧の範囲内にあると判定された場合に、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、
ことを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項3】
管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記電縫鋼管が貫通し、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、
前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、
前記探傷器には、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、
前記探傷器には、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、予め検出された前記誘起電圧が記憶されていると共に、予め校正された探傷感度が設定され、
前記探傷器は、
前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記校正用電縫鋼管について記憶されている前記誘起電圧と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、
ことを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項4】
管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記電縫鋼管が貫通し、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、
前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、
前記探傷器には、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係に基づき特定された、前記欠陥信号の大きさが所定範囲内にある前記誘起電圧の範囲が記憶され、
前記探傷器には、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて予め校正された探傷感度が設定され、
前記探傷器は、
前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、記憶されている前記誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、記憶されている前記誘起電圧の範囲内にあると判定された場合に、設定されている前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、
ことを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項5】
ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を、前記鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、
前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、
1つの前記校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、
前記鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、
ことを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項6】
ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記鋼管が貫通し、前記鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、
前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、
前記探傷器には、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、
前記探傷器には、1つの前記校正用鋼管を用いて、予め検出された前記誘起電圧が記憶されていると共に、予め校正された探傷感度が設定され、
前記探傷器は、
前記鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記校正用鋼管について記憶されている前記誘起電圧と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、
ことを特徴とする渦流探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管の溶接部等に存在する欠陥を、電縫鋼管を製造する造管工程において検出する渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。特に、本発明は、造管工程において電縫鋼管の肉厚が所定の肉厚範囲において変化しても、異なる肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。また、本発明は、冷間抽伸工程が実行された鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。特に、本発明は、冷間抽伸工程が実行された鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管、ERW鋼管ともいう)は、公知のように、造管工程において、コイルから巻き出された板材(フープ材と称される)をロールで管状に成形し、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて電気抵抗溶接することで製造される。この電気抵抗溶接は、高周波電力が印加されたインダクションコイルを用いて、板材の端部に渦電流を生成し、この渦電流によって加熱(誘導加熱)された板材の端部をロールで圧接する方法である。電気抵抗溶接によって鋼管の内外面に押し出された溶鋼は、冷却してビードとして鋼管に残存するため、このビードは溶接直後に切削工具で切削される。
【0003】
上記の造管工程で得られた電縫鋼管には、二次加工工程として、一般的に、冷間抽伸工程が実行される。冷間抽伸工程は、鋼管内にプラグやマンドレルを挿入した状態で、ダイスに鋼管を通して引き抜く冷間抽伸を行う工程である。この冷間抽伸工程は、造管工程後の鋼管を素材として、種々の寸法(外径、肉厚)を有する鋼管を製造するのに適したものであり、内外面にビードの切削痕が残る造管工程後の鋼管に比べて、冷間抽伸工程後の鋼管は、外径・肉厚寸法が均一で、表面粗さが改善されるという利点がある。
【0004】
ここで、造管工程において、突き合わせた板材の端部間にスケールが侵入すると、溶接部に欠陥(溶接欠陥)が生じる場合がある。侵入するスケールは、造管工程で使用する冷却水に含有される場合や、板材の成形の際に雰囲気中に浮遊している場合が考えられる。造管工程で生じた溶接欠陥が、次工程である冷間抽伸工程等の二次加工工程まで残存すると、二次加工工程において、この溶接欠陥に応力集中が生じることで、鋼管に割れが生じる可能性がある。鋼管に割れが生じると、鋼管の歩留まりが低下する他、二次加工工程にトラブルが発生してその修復に多大な工数が掛かるおそれがある。このため、造管工程において、品質保証のために溶接欠陥を精度良く検出可能とすることが望まれている。
【0005】
したがって、従来、造管工程では、一般的に、電縫鋼管に交流磁界を作用させることで電縫鋼管に生じた渦電流を、電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷が行われている。
【0006】
しかしながら、造管工程では、先行して管状に成形される一のフープ材(先行フープ材)の後端部と、次に管状に成形される他のフープ材(後行フープ材)の先端部とが溶接によって接合され(これを中継ぎ溶接と称する)、連続的に電縫鋼管を製造するのが一般的である。そして、製造する電縫鋼管の外径が同一であれば、先行フープ材の厚みと、後行フープ材の厚みが異なるものであっても、これらを中継ぎ溶接して、連続的に電縫鋼管を製造することが可能である。
このため、造管工程では、厚みが異なるフープ材を中継ぎ溶接することで、一定の肉厚ではなく、例えば、特許文献1、2に記載のように、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管(所定の肉厚範囲において異なる肉厚を有する電縫鋼管)が連続的に製造される場合がある。特許文献1には、肉厚範囲4.0mm~6.0mm(特許文献1の請求項8等)、特許文献2には、肉厚範囲2.5mm~5mm(特許文献2の第6図)の電縫鋼管を連続的に製造する方法が開示されている。
【0007】
上記のように、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を渦流探傷する場合、同一の探傷感度(差動信号の増幅度)を用いると、肉厚の変化が渦流探傷の探傷精度に影響を及ぼすおそれがある。このため、例えば、肉厚が変化する毎に造管工程を中断し、人工欠陥を設けた校正用電縫鋼管を用いて渦流探傷の探傷感度を校正する方法を採用することが考えられる。
しかしながら、このような方法は、造管工程を中断する必要があるため、造管工程の効率を低下させる上、校正用電縫鋼管を用意する(例えば、製品としての電縫鋼管の一部に人工欠陥を設けて校正用電縫鋼管とする)必要があるため、電縫鋼管の歩留まり低下を招くという問題がある。
なお、特許文献1、2には、前述のように、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造することが記載されているものの、このような所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管の渦流探傷方法については、開示も示唆も無い。
【0008】
また、冷間抽伸工程が実行された後の鋼管についても同様に、品質保証のために、鋼管に交流磁界を作用させることで鋼管に生じた渦電流を、鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷が行われている。
しかしながら、冷間抽伸工程では、用いるダイスやプラグ等を変更することで、種々の外径、肉厚を有する鋼管が製造されるため、同一の探傷感度を用いると、外径や肉厚の変化が渦流探傷の探傷精度に影響を及ぼすおそれがある。このため、前述の造管工程の場合と同様に、外径や肉厚が変化する毎に、冷間抽伸工程を中断し、人工欠陥を設けた校正用鋼管を用いて渦流探傷の探傷感度を校正する方法を採用することが考えられる。しかしながら、このような方法は、冷間抽伸工程の効率を低下させる上、校正用鋼管を用意する(例えば、製品としての鋼管の一部に人工欠陥を設けて校正用鋼管とする)必要があるため、鋼管の歩留まり低下を招くという問題がある。特に、冷間抽伸工程において少量多品種の鋼管を製造する場合には、上記の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第7081718号公報
【特許文献2】特開平4-13486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、造管工程において電縫鋼管の肉厚が所定の肉厚範囲において変化しても、異なる肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、冷間抽伸工程が実行された鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記第1の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、電縫鋼管の鋼種によっては(例えば、電縫鋼管の鋼種がステンレス鋼である場合)、電縫鋼管の肉厚と、同一寸法の(電縫鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の)欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとが良好な相関性を有することを見出した。具体的には、電縫鋼管の肉厚が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなることを見出した。また、電縫鋼管の肉厚と、一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧(磁気飽和レベルまで磁化された電縫鋼管の欠陥が無い部位が一対の検出コイルを貫通している状態で誘起される誘起電圧)とが良好な相関性を有することを見出した。具体的には、電縫鋼管の肉厚が大きくなれば、何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧は小さくなることを見出した。したがって、何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、欠陥信号の大きさとが良好な相関性を有し、誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさは小さくなることを見出した。
このため、人工欠陥が設けられた互いに異なる肉厚を有する校正用電縫鋼管を用いて、何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を予め取得しておけば、造管工程で品質保証する電縫鋼管について検出した誘起電圧と、1つの校正用電縫鋼管について予め検出した誘起電圧と、予め取得した前記関係とに基づき、前記1つの校正用電縫鋼管を用いて校正した探傷感度を、渦流探傷する電縫鋼管の肉厚に応じた適切な探傷感度に補正でき、精度良く渦流探傷できることに想到した。
【0012】
本発明に係る第1の渦流探傷方法は、上記の本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
すなわち、前記第1の課題を解決するため、本発明は、第1の渦流探傷方法として、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を、前記電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、ことを特徴とする渦流探傷方法を提供する。
なお、本発明に係る第1の渦流探傷方法において、「同一寸法の人工欠陥」は、校正用電縫鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥を意味する。後述の第2の渦流探傷方法についても同様である。電縫鋼管の渦流探傷の場合、人工欠陥としては、貫通孔が多用される。
また、本発明に係る第1の渦流探傷方法において、「探傷感度」は、差動信号の増幅度を意味する。後述の第2の渦流探傷方法についても同様である。
さらに、本発明に係る第1の渦流探傷方法において、複数の校正用電縫鋼管を用いて取得する関係を構成する何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧は、磁気飽和レベルまで磁化された校正用電縫鋼管の人工欠陥が設けられていない部位が一対の検出コイルを貫通している状態で誘起される誘起電圧を意味する。後述の第2の渦流探傷方法についても同様である。
なお、本発明に係る第1の渦流探傷方法において、関係取得ステップで用いる校正用電縫鋼管の一部には、互いに同一の肉厚を有する校正用電縫鋼管が含まれていてもよい(互いに異なる肉厚を有する校正用電縫鋼管が少なくとも複数含まれていればよい)。後述の第2の渦流探傷方法についても同様である。
【0013】
本発明に係る第1の渦流探傷方法によれば、関係取得ステップにおいて、誘起電圧と、欠陥信号の大きさとの関係が取得され、探傷感度校正ステップにおいて、1つの校正用電縫鋼管を用いて(品質保証する電縫鋼管の肉厚範囲にある一の肉厚を有する校正用電縫鋼管を用いて)、探傷感度が校正される。なお、関係取得ステップ及び探傷感度校正ステップは、この順に実行する場合に限らず、何れを先に実行してもよい。
次に、探傷感度補正ステップにおいて、電縫鋼管(品質保証する電縫鋼管)について検出した誘起電圧と、探傷感度校正ステップで1つの校正用電縫鋼管について検出した誘起電圧と、関係取得ステップで取得した関係とに基づき、探傷感度校正ステップで校正した探傷感度が補正される。この探傷感度の補正としては、例えば、電縫鋼管について検出した誘起電圧と関係とによって求まる欠陥信号の大きさをAとし、1つの校正用電縫鋼管について検出した誘起電圧と関係とによって求まる欠陥信号の大きさをBとすると、校正した探傷感度をB/A倍に補正することが考えられる。なお、探傷感度補正ステップは、電縫鋼管の肉厚が変化した直後(先行フープ材と厚みの異なる後行フープ材の先端部に相当する部位が一対の検出コイルに到達した直後)に実行することが好ましい。このタイミングで探傷感度補正ステップを実行することが好ましい理由は、先行フープ材と後行フープ材との溶接による接合部(これを中継ぎ部と称する)及びこの中継ぎ部を基準とした電縫鋼管の規定長さ部分は、不良品として処理する(したがって、中継ぎ部及び規定長さ部分は、渦流探傷不要である)のが一般的であるため、後行フープ材の先端部に相当する部位が一対の検出コイルに到達した直後に探傷感度補正ステップを実行しても、電縫鋼管の不良品として処理されない部分について未探傷領域が生じることが無いからである。
最後に、欠陥検出ステップにおいて、探傷感度補正ステップで補正した探傷感度を用いて、電縫鋼管に存在する欠陥が検出される。
本発明に係る第1の渦流探傷方法によれば、前述のように、校正した探傷感度をB/A倍に補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用電縫鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が電縫鋼管に存在する場合、1つの校正用電縫鋼管の肉厚と電縫鋼管の肉厚とが異なる場合であっても、校正用電縫鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷することができる。また、複数の校正用電縫鋼管を用いて誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得し、1つの校正用電縫鋼管について誘起電圧を検出しておけば、電縫鋼管の肉厚が所定の肉厚範囲において変化しても、異なる肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、造管工程の効率が低下したり、電縫鋼管の歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0014】
また、本発明者らは鋭意検討を行い、電縫鋼管の種類によっては(例えば、電縫鋼管の鋼種が炭素鋼である場合)、電縫鋼管の肉厚が変化しても、同一寸法の(電縫鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の)欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさの変化が少ないことを見出した。また、電縫鋼管の肉厚が変化しても、一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧(電縫鋼管の欠陥が無い部位が一対の検出コイルを貫通している状態で誘起される誘起電圧)の変化も少ないことを見出した。
このため、人工欠陥が設けられた互いに異なる肉厚を有する校正用電縫鋼管を用いて、何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を予め取得し、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲を予め特定しておけば、造管工程で品質保証する電縫鋼管について検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にある場合には、1つの校正用電縫鋼管を用いて校正した探傷感度をそのまま用いても(電縫鋼管の肉厚に応じて探傷感度を補正しなくても)、精度良く渦流探傷できることに想到した。
【0015】
本発明に係る第2の渦流探傷方法は、上記の本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
すなわち、前記第1の課題を解決するため、本発明は、第2の渦流探傷方法として、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を、前記電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得し、前記欠陥信号の大きさが所定範囲内にある前記誘起電圧の範囲を特定する誘起電圧範囲特定ステップと、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、前記誘起電圧範囲特定ステップで特定した前記誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、前記誘起電圧範囲特定ステップで特定した前記誘起電圧の範囲内にあると判定された場合に、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、ことを特徴とする渦流探傷方法を提供する。
【0016】
本発明に係る第2の渦流探傷方法によれば、誘起電圧範囲特定ステップにおいて、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲が特定され、探傷感度校正ステップにおいて、1つの校正用電縫鋼管を用いて(品質保証する電縫鋼管の肉厚範囲にある一の肉厚を有する校正用電縫鋼管を用いて)、探傷感度が校正される。なお、誘起電圧範囲特定ステップ及び探傷感度校正ステップは、この順に実行する場合に限らず、何れを先に実行してもよい。
次に、判定ステップにおいて、電縫鋼管(品質保証する電縫鋼管)について検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にあるか否かが判定される。なお、判定ステップは、電縫鋼管の肉厚が変化した直後(先行フープ材と厚みの異なる後行フープ材の先端部に相当する部位が一対の検出コイルに到達した直後)に実行することが好ましい。また、品質保証強化のため、肉厚変化の有無に関わらず、連続的に判定ステップを実行することも、全長保証の観点から有効である。
最後に、電縫鋼管について検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にあると判定された場合には、欠陥検出ステップにおいて、探傷感度校正ステップで校正した探傷感度を用いて、電縫鋼管に存在する欠陥が検出される。
本発明に係る第2の渦流探傷方法によれば、電縫鋼管について検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にあると判定された場合には、仮に、1つの校正用電縫鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が電縫鋼管に存在する場合、1つの校正用電縫鋼管の肉厚と電縫鋼管の肉厚とが異なる場合であっても、校正した探傷感度をそのまま用いて、校正用電縫鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷することができる。また、複数の校正用電縫鋼管を用いて誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得し、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲を特定しておけば、電縫鋼管の肉厚が所定の肉厚範囲において変化しても、異なる肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(1つの校正用電縫鋼管を用いて校正した探傷感度をそのまま用いるだけでよい)ため、造管工程の効率が低下したり、電縫鋼管の歩留まり低下が生じるおそれがない。
なお、判定ステップにおいて、電縫鋼管について検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内に無いと判定された場合には、何らかの異常が生じていると考えられるため、例えば、警報信号を出力する態様が考えられる。これにより、必要に応じて、造管工程を中断し、検出コイルの異常の有無を点検したり、校正用電縫鋼管を用いて探傷感度を校正し直す等の処置が可能である。
【0017】
また、前記第1の課題を解決するため、本発明は、第1の渦流探傷装置として、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記電縫鋼管が貫通し、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、前記探傷器には、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、前記探傷器には、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて、予め検出された前記誘起電圧が記憶されていると共に、予め校正された探傷感度が設定され、前記探傷器は、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記校正用電縫鋼管について記憶されている前記誘起電圧と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、ことを特徴とする渦流探傷装置としても提供される。
【0018】
また、前記第1の課題を解決するため、本発明は、第2の渦流探傷装置として、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管を製造する造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記電縫鋼管が貫通し、前記電縫鋼管に交流磁界を作用させることで前記電縫鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、前記探傷器には、前記電縫鋼管の前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係に基づき特定された、前記欠陥信号の大きさが所定範囲内にある前記誘起電圧の範囲が記憶され、前記探傷器には、1つの前記校正用電縫鋼管を用いて予め校正された探傷感度が設定され、前記探傷器は、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、記憶されている前記誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて、前記電縫鋼管について検出した前記誘起電圧が、記憶されている前記誘起電圧の範囲内にあると判定された場合に、設定されている前記探傷感度を用いて、前記電縫鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、ことを特徴とする渦流探傷装置としても提供される。
【0019】
また、前記第2の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った結果、前述の第1の渦流探傷方法は、冷間抽伸工程後の鋼管に対しても有効であることを見出した。すなわち、冷間抽伸工程後の種々の外径、肉厚を有する鋼管についても、一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、欠陥信号の大きさとが良好な相関性を有し、誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさが小さくなることを見出した。
このため、人工欠陥が設けられた互いに異なる外径及び異なる肉厚を有する校正用鋼管を用いて、何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を予め取得しておけば、冷間抽伸工程後に品質保証する鋼管について検出した誘起電圧と、1つの校正用鋼管について予め検出した誘起電圧と、予め取得した前記関係とに基づき、前記1つの校正用鋼管を用いて校正した探傷感度を、渦流探傷する鋼管の外径、肉厚に応じた適切な探傷感度に補正でき、精度良く渦流探傷できることに想到した。
【0020】
本発明に係る第3の渦流探傷方法は、上記の本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
すなわち、前記第2の課題を解決するため、本発明は、第3の渦流探傷方法として、ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を、前記鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、1つの前記校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、前記鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、ことを特徴とする渦流探傷方法を提供する。
なお、本発明に係る第3の渦流探傷方法において、「鋼管」及び「校正用鋼管」は、電縫鋼管に限るものではなく、継目無鋼管等の他の鋼管も含む概念である。
また、本発明に係る第3の渦流探傷方法において、「同一寸法の人工欠陥」は、校正用鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥を意味する。
また、本発明に係る第3の渦流探傷方法において、「探傷感度」は、差動信号の増幅度を意味する。
さらに、本発明に係る第3の渦流探傷方法において、複数の校正用鋼管を用いて取得する関係を構成する何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧は、磁気飽和レベルまで磁化された校正用鋼管の人工欠陥が設けられていない部位が一対の検出コイルを貫通している状態で誘起される誘起電圧を意味する。
なお、本発明に係る第3の渦流探傷方法において、関係取得ステップで用いる校正用鋼管の一部には、互いに同一の外径を有する校正用鋼管や、互いに同一の肉厚を有する校正用鋼管が含まれていてもよい(外径及び肉厚の双方が互いに異なる校正用鋼管が少なくとも複数含まれていればよい)。
【0021】
本発明に係る第3の渦流探傷方法によれば、校正した探傷感度を補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が鋼管(品質保証する鋼管)に存在する場合、1つの校正用鋼管の外径、肉厚と鋼管の外径、肉厚とが異なる場合であっても、校正用鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷することができる。また、複数の校正用鋼管を用いて誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得し、1つの校正用鋼管について誘起電圧を検出しておけば、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、冷間抽伸工程の効率が低下したり、鋼管の歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0022】
さらに、前記第2の課題を解決するため、本発明は、第3の渦流探傷装置として、ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記鋼管が貫通し、前記鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、前記探傷器には、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて予め取得された、前記一対の検出コイルのうちの何れか一方の検出コイルに誘起される誘起電圧と、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、前記探傷器には、1つの前記校正用鋼管を用いて、予め検出された前記誘起電圧が記憶されていると共に、予め校正された探傷感度が設定され、前記探傷器は、前記鋼管について検出した前記誘起電圧と、前記校正用鋼管について記憶されている前記誘起電圧と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、ことを特徴とする渦流探傷装置としても提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、造管工程において電縫鋼管の肉厚が所定の肉厚範囲において変化しても、異なる肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能である。また、本発明によれば、冷間抽伸工程が実行された鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図3】ステンレス鋼からなる校正用電縫鋼管の肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの関係の一例を示す図である。
図4】外径48.6mm、肉厚0.8mmのフェライト系ステンレス鋼からなり、肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔である人工欠陥が設けられた校正用電縫鋼管について、磁気飽和電流と、欠陥信号の大きさとの関係を求めた試験結果の一例を示す図である。
図5】検出コイルに誘起される誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさが小さくなることを説明する説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aの概略構成を模式的に示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図8】炭素鋼からなる校正用電縫鋼管の肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態(第1実施形態~第3実施形態)に係る渦流探傷装置及びこれを用いた渦流探傷方法について説明する。
なお、造管工程で製造される電縫鋼管の鋼種は、その多くが炭素鋼であるが、ステンレス鋼を製造することも可能である。
【0026】
<第1実施形態>
[渦流探傷装置]
図1は、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。図1において、電縫鋼管P及び貫通型コイル(励磁コイル1、検出コイル2)は断面で示している。
第1実施形態に係る渦流探傷装置100は、管状に成形された板材(フープ材)の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管(品質保証する電縫鋼管)Pを製造する造管工程において、図1に示す太線矢印の長手方向に搬送される電縫鋼管Pを渦流探傷する装置である。第1実施形態に係る渦流探傷装置100によって渦流探傷される電縫鋼管Pの好ましい鋼種としては、ステンレス鋼を挙げることができる。渦流探傷装置100によって渦流探傷される電縫鋼管Pは、先行フープ材の後端部と、後行フープ材の先端部とが中継ぎ溶接によって接合されることで、連続的に製造される。厚みが異なるフープ材を中継ぎ溶接することで、一定の肉厚ではなく、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管Pが連続的に製造される。渦流探傷装置100は、例えば、造管工程を実行する造管ラインに設置された溶接装置の出側に配置される。
【0027】
図1に示すように、渦流探傷装置100は、電縫鋼管Pが貫通する貫通型コイル(1、2)と、貫通型コイル(1、2)に接続された探傷器3と、を備える。貫通型コイル(1、2)は、貫通型の励磁コイル1と、励磁コイル1内に配置された貫通型の検出コイル2とを有する相互誘導型のコイルである。また、貫通型コイル(1、2)は、検出コイル2として、一対の検出コイル2a及び検出コイル2bを具備し、各検出コイル2a、2bの差動信号が出力される、自己比較方式のコイルである。図1に示す例では、検出コイル2aの巻回方向と、検出コイル2bの巻回方向とが同一であり、検出コイル2aの巻回の終端と、検出コイル2bの巻回の終端とが直列接続されることで、逆相和動信号(すなわち、差動信号)が出力されることになる。
なお、図1では図示を省略しているが、渦流探傷装置100は、電縫鋼管P及び貫通型コイル(1、2)を囲むように配置された、渦流探傷で慣用されている貫通型の磁気飽和用コイルを備える。磁気飽和用コイルに直流の磁気飽和電流を供給することで、渦流探傷する際、電縫鋼管Pは磁気飽和レベルまで磁化されることになる。
【0028】
図1に示すように、探傷器3は、励磁回路31と、受信回路32と、同期検波回路33と、増幅器34と、欠陥判定部35と、電圧検出回路36と、探傷感度設定部37と、を具備する。
励磁回路31は、励磁コイル1に交流の励磁電流を供給する。これにより、電縫鋼管Pに電縫鋼管Pの長手方向に延びる交流磁界が作用し、電縫鋼管Pに渦電流が生じる。
一対の検出コイル2a、2bは、電縫鋼管Pに生じた渦電流を検出することで得られる差動信号を受信回路32に出力する。受信回路32は、受信した差動信号をその後の処理に必要な大きさに調整し、同期検波回路33に出力する。
同期検波回路33は、励磁回路31から出力される参照信号(励磁コイル1に供給する励磁電流と同一の周波数を有する参照信号)に基づき、受信回路32から出力された差動信号を同期検波し、同期検波後の差動信号を増幅器34に出力する。同期検波回路33は、位相調整機能を有し、欠陥に対応する差動信号(欠陥信号)を所定の位相に調整している。
増幅器34には、探傷感度設定部37によって、探傷感度(差動信号の増幅度)が設定される。増幅器34は、同期検波回路33から出力された差動信号を、設定された探傷感度に応じて増幅し、欠陥判定部35に出力する。
欠陥判定部35には、欠陥検出しきい値が設定されている。欠陥判定部35は、増幅器34から出力された増幅後の差動信号をA/D変換した後、A/D変換後の差動信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える差動信号を欠陥信号として検出する。
【0029】
以上に述べた探傷器3の基本的な構成は、渦流探傷に通常用いられる公知の探傷器と同様の構成である。
ただし、第1実施形態の探傷器3は、電圧検出回路36を具備し、電圧検出回路36が、一対の検出コイル2a、2bのうちの何れか一方の検出コイル(図1に示す例では検出コイル2b)に誘起される誘起電圧を検出する点に特徴を有する。
また、第1実施形態の探傷器3は、探傷感度設定部37が、電圧検出回路36で検出した誘起電圧を用いて、予め校正された探傷感度を補正し、補正した探傷感度を増幅器34に設定する点に特徴を有する。
電圧検出回路36及び探傷感度設定部37の具体的な動作については、後述の渦流探傷方法の説明の中で説明する。
【0030】
[渦流探傷方法]
以下、上記の構成を有する渦流探傷装置100を用いた渦流探傷方法について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図2に示すように、第1実施形態に係る渦流探傷方法は、関係取得ステップST11と、探傷感度校正ステップST12と、探傷感度補正ステップST13と、欠陥検出ステップST14と、を有する。
以下、各ステップST11~ST14について、具体的に説明する。
【0031】
(関係取得ステップST11)
関係取得ステップST11では、電縫鋼管Pの肉厚範囲(例えば、ステンレス鋼の0.8mm~2.2mm)にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥(校正用電縫鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥)がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用意し、図1の電縫鋼管Pの位置に、電縫鋼管Pに代えて各校正用電縫鋼管を順に配置する。
そして、各校正用電縫鋼管をそれぞれ長手方向に搬送し、検出コイル2bに誘起される誘起電圧(校正用電縫鋼管の人工欠陥が設けられていない部位が一対の検出コイル2a、2bを貫通している状態で誘起される誘起電圧)を、電圧検出回路36で検出する。また、人工欠陥に対応する差動信号(増幅器34から出力された差動信号)である欠陥信号の大きさを、欠陥判定部35で検出する。そして、誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得する。
【0032】
図3は、ステンレス鋼からなる校正用電縫鋼管の肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの関係の一例を示す図である。図3(a)は、校正用電縫鋼管の肉厚と欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。図3(b)は、校正用電縫鋼管の肉厚と誘起電圧との関係の一例を示す図である。図3(c)は、校正用電縫鋼管の誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
なお、図3に示す関係は、複数の校正用電縫鋼管の外径が何れも48.6mmであり、人工欠陥が何れも肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔であり、前述の磁気飽和用コイルに0.5Aの直流の磁気飽和電流を供給し、肉厚0.8mmの校正用電縫鋼管の欠陥信号の大きさが4Vになるように校正した探傷感度を増幅器34に設定した条件で得られた結果である。
【0033】
図3(a)に示すように、校正用電縫鋼管の肉厚と、欠陥信号の大きさとは、良好な相関性を有する。具体的には、校正用電縫鋼管の肉厚が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなる。
また、図3(b)に示すように、校正用電縫鋼管の肉厚と、誘起電圧とは、良好な相関性を有する。具体的には、校正用電縫鋼管の肉厚が大きくなれば、誘起電圧は小さくなる。
したがって、図3(c)に示すように、誘起電圧と、欠陥信号の大きさとは、良好な相関性を有し、誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさは小さくなる。
以上の説明では、肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの3つのパラメータの関係について述べたが、関係取得ステップST11では、少なくとも、図3(c)に示すような、誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得すればよい。この関係は、例えば、2次関数等の近似式で表してもよいし、テーブル形式で表してもよい。そして、関係取得ステップST11では、取得した関係を、探傷感度設定部37に記憶させる。また、この際、関係取得ステップST11で用いた複数の校正用電縫鋼管のうち、後述の探傷感度校正ステップST12で用いる1つの校正用電縫鋼管について検出された誘起電圧も探傷感度設定部37に記憶させる。
【0034】
以下、探傷感度校正ステップST12について説明する前に、図3(a)に示すように、校正用電縫鋼管の肉厚が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなる理由(ひいては、電縫鋼管Pの肉厚が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなる理由)と、図3(c)に示すように、誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさが小さくなる理由と、について、本発明者らが検討した内容を説明する。
【0035】
電縫鋼管Pのような磁性材の性質は、一般に、磁界の強さHを横軸とし、磁束密度Bを縦軸とするBH曲線で表されることが知られている。そして、電縫鋼管Pのような磁性材を渦流探傷する際、磁気特性の部分変動を抑制するために、前述のように、磁気飽和用コイルに直流の磁気飽和電流を供給することで、磁性材を磁気飽和レベルまで磁化することが一般的である。
本発明者らは、例えば、電縫鋼管Pの肉厚範囲の最小値(例えば、0.8mm)を有する校正用電縫鋼管を用いて探傷感度を校正した場合、校正後に渦流探傷する電縫鋼管Pの肉厚が校正用電縫鋼管の肉厚よりも大きくなると、BH曲線上の磁気未飽和レベルまで校正用電縫鋼管内の磁束密度が低下することで、電縫鋼管Pの透磁率が大きくなり、この結果、欠陥信号が大きくなるのではないかと推察した。
【0036】
具体的には、本発明者らは、校正用電縫鋼管を用いて、校正用電縫鋼管内の磁束密度を変化させるために、磁気飽和用コイルに供給する磁気飽和電流の値を変更し、欠陥信号の大きさに対する磁気飽和電流の影響を調査する試験を行った。
図4は、外径48.6mm、肉厚0.8mmのフェライト系ステンレス鋼からなり、肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔である人工欠陥が設けられた校正用電縫鋼管について、磁気飽和電流と、欠陥信号の大きさとの関係を求めた試験結果の一例を示す図である。図4に示すように、磁気飽和電流が低下すると、欠陥信号の大きさが大きくなることが分かった。したがって、校正時に0.5Aの磁気飽和電流を供給したとすると、渦流探傷する電縫鋼管Pの肉厚が校正用電縫鋼管の肉厚よりも大きくなる場合には、図4に示す磁気飽和電流を0.5Aよりも低下させる場合と同様に、電縫鋼管P内の磁束密度が低下することで、欠陥信号の大きさが大きくなるのではないかと推察した。この推察に基づき、本発明者らは、実際に校正用電縫鋼管の肉厚を変更して、欠陥信号の大きさに対する影響を調査した結果、前述の図3(a)に示す結果を得たのである。
【0037】
図5は、検出コイルに誘起される誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさが小さくなることを説明する説明図である。
図5に示すように、一対の検出コイル2a、2bのうちの何れか一方の検出コイル(図5に示す例では検出コイル2b)に誘起される誘起電圧をVcoilとし、励磁コイル1によって励磁される励磁電圧をVtとし、渦電流によって誘起される誘起電圧をVeとすると、以下の式(1)が成立すると考えられる。
Vcoil=Vt-Ve ・・・(1)
ここで、励磁電圧Vtが一定の場合、欠陥信号の大きさが小さくなれば、誘起電圧Veも小さくなるため、上記の式(1)より、誘起電圧Vcoilは大きくなると考えられる。
以上の推察に基づき、本発明者らは、実際に校正用電縫鋼管の肉厚を変更して(誘起電圧Vcoilの大きさを変更して)、欠陥信号の大きさに対する影響を調査した結果、前述の図3(c)に示す結果を得たのである。
【0038】
(探傷感度校正ステップST12)
探傷感度校正ステップST12では、1つの校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する。具体的には、例えば、肉厚0.8mmの校正用電縫鋼管の欠陥信号の大きさが4Vになるように、探傷感度を校正する。そして、探傷感度校正ステップST12では、校正した探傷感度を、探傷感度設定部37に記憶させると共に、増幅器34に設定する。
【0039】
第1実施形態に係る渦流探傷方法では、以上に説明した関係取得ステップST11及び探傷感度校正ステップST12を、校正用電縫鋼管を用いた準備ステップとして実行した後、実際に品質保証する電縫鋼管Pについて渦流探傷するために、探傷感度補正ステップST13及び欠陥検出ステップST14を実行する。
【0040】
(探傷感度補正ステップST13)
探傷感度補正ステップST13は、例えば、電縫鋼管P(図2では「被探傷電縫鋼管」と表記)の肉厚が変化した直後(先行フープ材と厚みの異なる後行フープ材の先端部に相当する部位が一対の検出コイル2a、2bに到達した直後)に実行される。
探傷感度補正ステップST13では、電縫鋼管Pについて電圧検出回路36で検出した誘起電圧が、探傷感度設定部37に入力される。そして、探傷感度設定部37が、入力された電縫鋼管Pの誘起電圧と、探傷感度校正ステップST12で用いた校正用電縫鋼管について検出され記憶されている誘起電圧と、関係取得ステップST11で取得され記憶されている関係とに基づき、探傷感度校正ステップST12で校正した探傷感度を補正する。
【0041】
例えば、探傷感度設定部37に、図3(c)に示す関係(近似式)が記憶され、校正用電縫鋼管の誘起電圧として、肉厚0.8mmの校正用電縫鋼管の誘起電圧19.5Vが記憶されている場合を考える。そして、例えば、肉厚2mmの電縫鋼管Pの誘起電圧18.7Vが電圧検出回路36で検出され、探傷感度設定部37に入力された場合を考えると、探傷感度設定部37は、図3(c)に示す関係から、電縫鋼管Pの誘起電圧18.7Vに対応する欠陥信号の大きさを8.4Vとして算出する。また、探傷感度設定部37は、図3(c)に示す関係から、校正用電縫鋼管の誘起電圧19.5Vに対応する欠陥信号の大きさを4.3Vとして算出する。そして、探傷感度設定部37は、探傷感度校正ステップST12で校正され記憶された探傷感度を、4.3/8.4=0.51倍に補正する。換言すれば、探傷感度設定部37は、校正した探傷感度を5.8dB下げる補正を行う。そして、探傷感度設定部37は、補正した探傷感度を増幅器34に設定する。
【0042】
(欠陥検出ステップST14)
欠陥検出ステップST14では、探傷感度補正ステップST13で補正した探傷感度を用いて、電縫鋼管Pに存在する欠陥を検出する。具体的には、増幅器34が、同期検波回路33から出力された差動信号を、設定された補正後の探傷感度に応じて増幅し、欠陥判定部35に出力する。そして、欠陥判定部35が、増幅器34から出力された増幅後の差動信号をA/D変換した後、A/D変換後の差動信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える差動信号を欠陥信号として検出する。
【0043】
以上に説明した第1実施形態に係る渦流探傷装置100及びこれを用いた渦流探傷方法によれば、探傷感度校正ステップST12で校正した探傷感度が、探傷感度補正ステップST13で電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧と、探傷感度校正ステップST12で用いた1つの校正用電縫鋼管について検出した誘起電圧と、関係取得ステップST11で取得した関係とに基づき、補正される。この補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用電縫鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が電縫鋼管Pに存在する場合、1つの校正用電縫鋼管の肉厚と電縫鋼管Pの肉厚とが異なる場合であっても、校正用電縫鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷可能である。また、電縫鋼管Pの異なる肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、造管工程の効率が低下したり、電縫鋼管Pの歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0044】
<第2実施形態>
[渦流探傷装置]
図6は、本発明の第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aの概略構成を模式的に示す図である。図6において、電縫鋼管P及び貫通型コイル(励磁コイル1、検出コイル2)は断面で示している。
第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aは、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様に、管状に成形された板材(フープ材)の端部同士を突き合わせて溶接することで、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管(品質保証する電縫鋼管)Pを製造する造管工程において、図6に示す太線矢印の長手方向に搬送される電縫鋼管Pを渦流探傷する装置である。第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aによって渦流探傷される電縫鋼管Pの好ましい鋼種としては、炭素鋼を挙げることができる。渦流探傷装置100Aによって渦流探傷される電縫鋼管Pは、第1実施形態に係る渦流探傷装置100によって渦流探傷される電縫鋼管Pと同様に、先行フープ材の後端部と、後行フープ材の先端部とが中継ぎ溶接によって接合されることで、連続的に製造される。厚みが異なるフープ材を中継ぎ溶接することで、一定の肉厚ではなく、所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する電縫鋼管Pが連続的に製造される。渦流探傷装置100Aは、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様に、例えば、造管工程を実行する造管ラインに設置された溶接装置の出側に配置される。
以下、第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aについて、主として第1実施形態に係る渦流探傷装置100と異なる構成要素について説明し、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様の構成要素については、同じ符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0045】
図6に示すように、第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aも、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様に、電縫鋼管Pが貫通する貫通型コイル(1、2)と、貫通型コイル(1、2)に接続された探傷器3Aと、を備える。また、図6では図示を省略しているが、電縫鋼管P及び貫通型コイル(1、2)を囲むように配置された、渦流探傷で慣用されている貫通型の磁気飽和用コイルを備える。渦流探傷装置100Aが備える貫通型コイル(1、2)の構成は第1実施形態と同様であるが、探傷器3Aの構成が第1実施形態と異なる。
【0046】
図6に示すように、探傷器3Aは、励磁回路31と、受信回路32と、同期検波回路33と、増幅器34と、欠陥判定部35と、電圧検出回路36と、電圧判定部38と、を具備する。すなわち、第2実施形態の探傷器3Aは、励磁回路31と、受信回路32と、同期検波回路33と、増幅器34と、欠陥判定部35と、電圧検出回路36と、を具備する点で、第1実施形態の探傷器3と同様である。一方、第2実施形態の探傷器3Aは、第1実施形態の探傷器3が具備する探傷感度設定部37に代えて、電圧判定部38を具備する点が第1実施形態の探傷器3と異なる。
探傷器3Aの基本的な構成は、渦流探傷に通常用いられる公知の探傷器と同様の構成である。
ただし、第2実施形態の探傷器3Aは、電圧検出回路36を具備し、電圧検出回路36が、一対の検出コイル2a、2bのうちの何れか一方の検出コイル(図6に示す例では検出コイル2b)に誘起される誘起電圧を検出する点に特徴を有する。この点は第1実施形態の探傷器3が具備する電圧検出回路36と同様である。
また、第2実施形態の探傷器3Aは、電圧判定部38が、電圧検出回路36で検出した誘起電圧が、記憶されている誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する点に特徴を有する。
電圧判定部38の具体的な動作については、後述の渦流探傷方法の説明の中で説明する。
【0047】
[渦流探傷方法]
以下、上記の構成を有する渦流探傷装置100Aを用いた渦流探傷方法について説明する。
図7は、本発明の第2実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る渦流探傷方法は、誘起電圧範囲特定ステップST21と、探傷感度校正ステップST22と、判定ステップST23と、欠陥検出ステップST24と、警報信号出力ステップST25と、を有する。
以下、各ステップST21~ST25について、具体的に説明する。
【0048】
(誘起電圧範囲特定ステップST21)
誘起電圧範囲特定ステップST21では、電縫鋼管Pの肉厚範囲(例えば、炭素鋼の1mm~6mm)にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥(校正用電縫鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥)がそれぞれ設けられた複数の校正用電縫鋼管を用意し、図6の電縫鋼管Pの位置に、電縫鋼管Pに代えて各校正用電縫鋼管を順に配置する。
そして、各校正用電縫鋼管をそれぞれ長手方向に搬送し、検出コイル2bに誘起される誘起電圧(校正用電縫鋼管の人工欠陥が設けられていない部位が一対の検出コイル2a、2bを貫通している状態で誘起される誘起電圧)を、電圧検出回路36で検出する。また、人工欠陥に対応する差動信号(増幅器34から出力された差動信号)である欠陥信号の大きさを、欠陥判定部35で検出する。そして、誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得する。さらに、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲を特定する。
【0049】
図8は、炭素鋼からなる校正用電縫鋼管の肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの関係の一例を示す図である。図8(a)は、校正用電縫鋼管の肉厚と欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。図8(b)は、校正用電縫鋼管の肉厚と誘起電圧との関係の一例を示す図である。図8(c)は、校正用電縫鋼管の誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
なお、図8に示す関係は、複数の校正用電縫鋼管の外径が31.8mm、38.1mm、42.7mm、48.6mmのいずれかであり、人工欠陥が何れも肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔であり、前述の磁気飽和用コイルに1.0Aの直流の磁気飽和電流を供給し、肉厚1.2mmの校正用電縫鋼管の欠陥信号の大きさが4Vになるように校正した探傷感度を増幅器34に設定した条件で得られた結果である。
【0050】
図8(a)に示すように、校正用電縫鋼管の肉厚と欠陥信号の大きさとの相関性は低く、肉厚が変化しても、欠陥信号の大きさの変化が少ない。
また、図8(b)に示すように、校正用電縫鋼管の肉厚と誘起電圧との相関性も低く、肉厚が変化しても、誘起電圧の変化が少ない。
したがって、図8(c)に示すように、校正用電縫鋼管の誘起電圧と欠陥信号の大きさとの相関性も低く、誘起電圧が変化しても、欠陥信号の大きさの変化が少ない。このため、誘起電圧範囲特定ステップST21では、校正用電縫鋼管の誘起電圧と、欠陥信号の大きさとの関係を取得し、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲を特定する。図8(c)に示す例では、誘起電圧の範囲が14.5V~16.1Vに特定されている。
以上の説明では、肉厚、誘起電圧及び欠陥信号の大きさの3つのパラメータの関係について述べたが、誘起電圧範囲特定ステップST21では、少なくとも、図8(c)に示すような、誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得し、欠陥信号の大きさが所定範囲内にある誘起電圧の範囲を特定すればよい。そして、誘起電圧範囲特定ステップST21では、特定した誘起電圧の範囲を、電圧判定部38に記憶させる。
【0051】
(探傷感度校正ステップST22)
探傷感度校正ステップST22では、第1実施形態の探傷感度校正ステップST12と同様に、1つの校正用電縫鋼管を用いて、探傷感度を校正する。具体的には、例えば、肉厚1.2mmの校正用電縫鋼管の欠陥信号の大きさが4Vになるように、探傷感度を校正する。そして、探傷感度校正ステップST22では、校正した探傷感度を増幅器34に設定する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と異なり、電縫鋼管Pの肉厚が変化しても、増幅器34に設定する探傷感度は補正しない(校正した探傷感度をそのまま用いる)。
【0052】
第2実施形態に係る渦流探傷方法では、以上に説明した誘起電圧範囲特定ステップST21及び探傷感度校正ステップST22を、校正用電縫鋼管を用いた準備ステップとして実行した後、実際に品質保証する電縫鋼管Pについて渦流探傷するために、判定ステップST23、欠陥検出ステップST24及び警報信号出力ステップST25を実行する。
【0053】
(判定ステップST23)
判定ステップST23は、例えば、電縫鋼管P(図7では「被探傷電縫鋼管」と表記)の肉厚が変化した直後(先行フープ材と厚みの異なる後行フープ材の先端部に相当する部位が一対の検出コイル2a、2bに到達した直後)に実行される。
判定ステップST23では、電縫鋼管Pについて電圧検出回路36で検出した誘起電圧が、電圧判定部38に入力される。そして、電圧判定部38が、入力された電縫鋼管Pの誘起電圧が、記憶されている誘起電圧の範囲内にあるか否かを判定する。
例えば、電圧判定部38に、図8(c)に示す誘起電圧の範囲14.5V~16.1Vが記憶され、肉厚2.3mmの電縫鋼管Pについて誘起電圧15.9Vが電圧検出回路36で検出され、電圧判定部38に入力された場合を考えると、電圧判定部38は、入力された電縫鋼管Pの誘起電圧が、記憶されている誘起電圧の範囲内にあると判定することになる。
【0054】
(欠陥検出ステップST24)
欠陥検出ステップST24では、判定ステップST23において、電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が、誘起電圧範囲特定ステップST21で特定した誘起電圧の範囲内にあると判定された場合(図7の判定ステップST23で「Yes」となる場合)に、探傷感度校正ステップST22で校正した探傷感度を用いて、電縫鋼管Pに存在する欠陥を検出する。具体的には、増幅器34が、同期検波回路33から出力された差動信号を、校正され設定された探傷感度に応じて増幅し、欠陥判定部35に出力する。そして、欠陥判定部35が、増幅器34から出力された増幅後の差動信号をA/D変換した後、A/D変換後の差動信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える差動信号を欠陥信号として検出する。
【0055】
(警報信号出力ステップST25)
警報信号出力ステップST25では、判定ステップST23において、電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が、誘起電圧範囲特定ステップST21で特定した誘起電圧の範囲内に無いと判定された場合(図7の判定ステップST23で「No」となる場合)に、電圧判定部38が、アラーム音等の所定の警報信号を出力する。電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が特定した誘起電圧の範囲内に無い場合には、何らかの異常が生じていると考えられるため、警報信号が出力された場合には、必要に応じて、造管工程を中断し、検出コイル2の異常の有無を点検したり、校正用電縫鋼管を用いて探傷感度を校正し直す等の処置が可能である。
【0056】
以上に説明した第2実施形態に係る渦流探傷装置100A及びこれを用いた渦流探傷方法によれば、電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が、誘起電圧範囲特定ステップST21で特定した誘起電圧の範囲内にあるか否かが判定される。電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にあると判定された場合には、仮に、1つの校正用電縫鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が電縫鋼管Pに存在する場合、1つの校正用電縫鋼管の肉厚と電縫鋼管Pの肉厚とが異なる場合であっても、校正した探傷感度をそのまま用いて、校正用電縫鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷可能である。また、電縫鋼管Pについて検出した誘起電圧が、特定した誘起電圧の範囲内にあると判定された場合には、電縫鋼管Pの異なる肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度をそのまま用いるだけでよい)ため、造管工程の効率が低下したり、電縫鋼管Pの歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0057】
なお、以上の説明では、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と、第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aとを、別の渦流探傷装置として説明したが、本発明はこれに限るものではない。渦流探傷装置100、100Aの双方の構成要素を有する1つの渦流探傷装置を採用し、この渦流探傷装置を用いて渦流探傷方法を実行することも可能である。具体的には、例えば、電縫鋼管Pの鋼種がステンレス鋼の場合には、渦流探傷装置100の構成要素(励磁コイル1、検出コイル2、励磁回路31、受信回路32、同期検波回路33、増幅器34、欠陥判定部35、電圧検出回路36、探傷感度設定部37)を使用して、前述の渦流探傷方法(ステップST11~ST14)を実行し、電縫鋼管Pの鋼種が炭素鋼の場合には、渦流探傷装置100Aの構成要素(励磁コイル1、検出コイル2、励磁回路31、受信回路32、同期検波回路33、増幅器34、欠陥判定部35、電圧検出回路36、電圧判定部38)を使用して、前述の渦流探傷方法(ステップST21~ST25)を実行するなど、電縫鋼管Pの鋼種に応じて双方の構成要素を使い分ける態様を採用することも可能である。
【0058】
また、以上の説明では、第1実施形態に係る渦流探傷装置100を用いて鋼種がステンレス鋼の電縫鋼管Pを渦流探傷し、第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aを用いて鋼種が炭素鋼の電縫鋼管Pを渦流探傷する態様を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではない。検出コイルに誘起される誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を予め調査しておき、両者が良好な相関性を有する鋼種の電縫鋼管Pについては、第1実施形態に係る渦流探傷装置100を用いて渦流探傷し、肉厚が変化しても誘起電圧の変化も欠陥信号の大きさの変化も少ない傾向になっている鋼種の電縫鋼管Pについては、第2実施形態に係る渦流探傷装置100Aを用いて渦流探傷するなど、各鋼種における誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係に応じて、用いる渦流探傷装置を選択することも可能である。
【0059】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る渦流探傷装置及び渦流探傷方法は、渦流探傷を実行する対象が、造管工程における電縫鋼管Pではなく、冷間抽伸工程後の種々の外径、肉厚を有する鋼管である点が、第1実施形態に係る渦流探傷装置100及び渦流探傷方法と異なり、その他の構成については、基本的に第1実施形態と同様である。
以下、第3実施形態に係る渦流探傷装置及び渦流探傷方法について、主として第1実施形態に係る渦流探傷装置及び渦流探傷方法と異なる点を説明し、同様の点については説明を適宜省略する。また、第3実施形態に係る渦流探傷装置及び渦流探傷方法について、第1実施形態の説明において参照した図1及び図2を援用し、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様の構成要素、及び、第1実施形態に係る渦流探傷方法と同様のステップについては、同じ符号を用いて説明する。
【0060】
[渦流探傷装置]
第3実施形態に係る渦流探傷装置も、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と同様に、鋼管Pが貫通する貫通型コイル(1、2)と、貫通型コイル(1、2)に接続された探傷器3と、を備える(図1参照)。また、鋼管P及び貫通型コイル(1、2)を囲むように配置された、渦流探傷で慣用されている貫通型の磁気飽和用コイルを備える。
第3実施形態の探傷器3は、第1実施形態と同様に、励磁回路31と、受信回路32と、同期検波回路33と、増幅器34と、欠陥判定部35と、電圧検出回路36と、探傷感度設定部37と、を具備する(図1参照)。第3実施形態の探傷感度設定部37も、第1実施形態と同様に、電圧検出回路36で検出した誘起電圧を用いて、予め校正された探傷感度を補正し、補正した探傷感度を増幅器34に設定する。
ただし、第3実施形態に係る渦流探傷装置は、第1実施形態に係る渦流探傷装置100と異なり、例えば、冷間抽伸工程で冷間抽伸された後の鋼管(例えば、電縫鋼管)Pの曲がり等を矯正する矯正機の出側に配置される。
【0061】
[渦流探傷方法]
第3実施形態に係る渦流探傷方法も、第1実施形態に係る渦流探傷方法と同様に、関係取得ステップST11と、探傷感度校正ステップST12と、探傷感度補正ステップST13と、欠陥検出ステップST14と、を有する(図2参照)。
ただし、第3実施形態の関係取得ステップST11では、第1実施形態と異なり、鋼管Pの外径範囲(例えば、31.8mm~48.6mm)にある互いに異なる外径及び肉厚範囲(例えば、1.2mm~2.3mm)にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥(校正用鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥)がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用意し、図1の鋼管Pの位置に、鋼管Pに代えて各校正用鋼管を順に配置する。
そして、各校正用鋼管をそれぞれ長手方向に搬送し、検出コイル2bに誘起される誘起電圧(校正用鋼管の人工欠陥が設けられていない部位が一対の検出コイル2a、2bを貫通している状態で誘起される誘起電圧)を、電圧検出回路36で検出する。また、人工欠陥に対応する差動信号(増幅器34から出力された差動信号)である欠陥信号の大きさを、欠陥判定部35で検出する。そして、誘起電圧と欠陥信号の大きさとの関係を取得する。
【0062】
詳細については省略するが、第1実施形態と同様に、誘起電圧と、欠陥信号の大きさとは、良好な相関性を有し、誘起電圧が大きくなれば、欠陥信号の大きさは小さくなる。この関係は、例えば、2次関数等の近似式で表してもよいし、テーブル形式で表してもよい。そして、関係取得ステップST11では、取得した関係を、探傷感度設定部37に記憶させる。また、この際、関係取得ステップST11で用いた複数の校正用電縫鋼管のうち、探傷感度校正ステップST12で用いる1つの校正用電縫鋼管について検出された誘起電圧も探傷感度設定部37に記憶させる。
【0063】
第3実施形態の探傷感度校正ステップST12、探傷感度補正ステップST13及び欠陥検出ステップST14については、対象が冷間抽伸工程後の鋼管Pである点を除き、第1実施形態と同様である。
【0064】
以上に説明した第3実施形態に係る渦流探傷装置及びこれを用いた渦流探傷方法によれば、探傷感度校正ステップST12で校正した探傷感度が、探傷感度補正ステップST13で鋼管Pについて検出した誘起電圧と、探傷感度校正ステップST12で用いた1つの校正用鋼管について検出した誘起電圧と、関係取得ステップST11で取得した関係とに基づき、補正される。この補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が鋼管Pに存在する場合、1つの校正用鋼管の外径、肉厚と鋼管Pの外径、肉厚とが異なる場合であっても、校正用鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷可能である。また、鋼管Pの異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、冷間抽伸工程の効率が低下したり、鋼管Pの歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0065】
なお、以上の説明では、渦流探傷を実行する対象が、冷間抽伸工程後の種々の外径、肉厚を有する鋼管Pである場合について説明したが、必ずしもこれに限るものではなく、冷間抽伸工程によって、外径が同一で、種々の肉厚を有する鋼管(所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管)Pを製造し、この鋼管Pを渦流探傷を実行する対象にすることも可能である。
この場合、第3実施形態の関係取得ステップST11では、鋼管Pの肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて、誘起電圧と、欠陥信号の大きさとの関係を取得し、探傷感度校正ステップST12では、前記複数の校正用鋼管のうちの1つの校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正すればよい。
【符号の説明】
【0066】
1・・・励磁コイル
2、2a、2b・・・検出コイル
3、3A・・・探傷器
31・・・励磁回路
32・・・受信回路
33・・・同期検波回路
34・・・増幅器
35・・・欠陥判定部
36・・・電圧検出回路
37・・・探傷感度設定部
38・・・電圧判定部
100、100A・・・渦流探傷装置
P・・・電縫鋼管(鋼管)
図1
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図8