(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010815
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】渦流探傷方法及び渦流探傷装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20250116BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113046
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】522502680
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 繁俊
(72)【発明者】
【氏名】川田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北澤 諭
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BA30
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB07
2G053CB24
2G053CC07
2G053DA02
2G053DA09
(57)【要約】
【課題】異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷装置等を提供する。
【解決手段】渦流探傷装置100は、一対の検出コイル2a、2bと、探傷器3と、を備える。探傷器には、複数の校正用鋼管を用いて予め取得された、式(1)で表されるパラメータPηLと、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、探傷器には、1つの校正用鋼管を用いて、予め校正された探傷感度が設定され、探傷器は、鋼管Pに対して算出されたパラメータPηLの値と、探傷感度の校正に用いた校正用鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と、関係とに基づき、設定されている探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、探傷感度補正ステップで補正した探傷感度を用いて、鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する。
PηL=前記検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を、前記鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、
前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて、以下の式(1)で表されるパラメータPηLと、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、
1つの前記校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、
前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、
ことを特徴とする渦流探傷方法。
PηL=前記検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
【請求項2】
前記関係取得ステップにおいて、前記パラメータPηLに代えて、鋼管の断面積S、前記検出コイルの充填率η、及び、前記検出コイルの充填率η×鋼管の断面積Sのうちの何れか1つである代替パラメータと、前記欠陥信号の大きさとの関係を取得し、
前記探傷感度補正ステップにおいて、前記鋼管に対して算出された前記代替パラメータの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記代替パラメータの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷方法。
【請求項3】
前記欠陥検出ステップで欠陥を検出する前記鋼管の外径は、前記検出コイルの充填率ηが0.5以上となる外径である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の渦流探傷方法。
【請求項4】
前記欠陥検出ステップで欠陥を検出する前記鋼管は、ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された鋼管である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の渦流探傷方法。
【請求項5】
所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記鋼管が貫通し、前記鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、
前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、
前記探傷器には、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて予め取得された、以下の式(1)で表されるパラメータPηLと、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、
前記探傷器には、1つの前記校正用鋼管を用いて、予め校正された探傷感度が設定され、
前記探傷器は、
前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記探傷感度の校正に用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、
前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、
ことを特徴とする渦流探傷装置。
PηL=前記検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。特に、本発明は、冷間抽伸工程が実行されること等によって、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管、ERW鋼管ともいう)は、公知のように、造管工程において、コイルから巻き出された板材(フープ材と称される)をロールで管状に成形し、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて電気抵抗溶接することで製造される。この電気抵抗溶接は、高周波電力が印加されたインダクションコイルを用いて、板材の端部に渦電流を生成し、この渦電流によって加熱(誘導加熱)された板材の端部をロールで圧接する方法である。電気抵抗溶接によって鋼管の内外面に押し出された溶鋼は、冷却してビードとして鋼管に残存するため、このビードは溶接直後に切削工具で切削される。
【0003】
上記の造管工程で得られた電縫鋼管には、二次加工工程として、一般的に、冷間抽伸工程が実行される。冷間抽伸工程は、鋼管内にプラグやマンドレルを挿入した状態で、ダイスに鋼管を通して引き抜く冷間抽伸を行う工程である。この冷間抽伸工程は、造管工程後の鋼管を素材として、種々の寸法(外径、肉厚)を有する鋼管を製造するのに適したものであり、内外面にビードの切削痕が残る造管工程後の鋼管に比べて、冷間抽伸工程後の鋼管は、外径・肉厚寸法が均一で、表面粗さが改善されるという利点がある。
【0004】
ここで、造管工程において、突き合わせた板材の端部間にスケールが侵入すると、溶接部に欠陥(溶接欠陥)が生じる場合がある。侵入するスケールは、造管工程で使用する冷却水に含有される場合や、板材の成形の際に雰囲気中に浮遊している場合が考えられる。造管工程で生じた溶接欠陥が、次工程である冷間抽伸工程等の二次加工工程まで残存すると、二次加工工程において、この溶接欠陥に応力集中が生じることで、鋼管に割れが生じる可能性がある。鋼管に割れが生じると、鋼管の歩留まりが低下する他、二次加工工程にトラブルが発生してその修復に多大な工数が掛かるおそれがある。このため、造管工程において、品質保証のために溶接欠陥を精度良く検出可能とすることが望まれている。
【0005】
したがって、従来、例えば、特許文献1に記載のように、造管工程では、一般的に、電縫鋼管に交流磁界を作用させることで電縫鋼管に生じた渦電流を、電縫鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、電縫鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷が行われている。
また、例えば、特許文献1に記載のように、冷間抽伸工程が実行された後の鋼管についても同様に、品質保証のために、鋼管に交流磁界を作用させることで鋼管に生じた渦電流を、鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷が行われている。
【0006】
しかしながら、冷間抽伸工程では、用いるダイスやプラグ等を変更することで、種々の外径、肉厚を有する鋼管が製造されるため、同一の探傷感度(差動信号の増幅度)を用いると、外径や肉厚の変化が渦流探傷の探傷精度に影響を及ぼすおそれがある。このため、例えば、外径や肉厚が変化する毎に、冷間抽伸工程を中断し、人工欠陥を設けた校正用鋼管を用いて渦流探傷の探傷感度を校正する方法を採用することが考えられる。しかしながら、このような方法は、冷間抽伸工程の効率を低下させる上、校正用鋼管を用意する(例えば、製品としての鋼管の一部に人工欠陥を設けて校正用鋼管とする)必要があるため、鋼管の歩留まり低下を招くという問題がある。特に、冷間抽伸工程において少量多品種の鋼管を製造する場合には、上記の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、冷間抽伸工程が実行されること等によって、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能な渦流探傷方法及び渦流探傷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った結果、例えば、冷間抽伸工程後の種々の外径、肉厚を有する鋼管において、検出コイルの内径、鋼管の外径及び肉厚によって決まる、PηL=検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長Lで表されるパラメータPηLと、同一寸法の(鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の)欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとが良好な相関性を有し、パラメータPηLの値が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなることを見出した。
このため、人工欠陥が設けられた互いに異なる外径及び異なる肉厚を有する校正用鋼管を用いて、パラメータPηLと、人工欠陥に対応する差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を予め取得しておけば、品質保証する鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と、1つの校正用鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と、予め取得した前記関係とに基づき、前記1つの校正用鋼管を用いて校正した探傷感度を、渦流探傷する鋼管の外径、肉厚に応じた適切な探傷感度に補正でき、精度良く渦流探傷できることに想到した。
【0010】
本発明に係る渦流探傷方法は、上記の本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を、前記鋼管が貫通する一対の検出コイルを用いて検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて、以下の式(1)で表されるパラメータPηLと、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係を取得する関係取得ステップと、1つの前記校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正する探傷感度校正ステップと、前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を有する、ことを特徴とする渦流探傷方法を提供する。
PηL=前記検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
【0011】
なお、本発明に係る渦流探傷方法において、「鋼管」及び「校正用鋼管」は、電縫鋼管に限るものではなく、継目無鋼管等の他の鋼管も含む概念である。
また、本発明に係る渦流探傷方法において、「同一寸法の人工欠陥」は、校正用鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥を意味する。鋼管の渦流探傷の場合、人工欠陥としては、貫通孔が多用される。
また、本発明に係る渦流探傷方法において、パラメータPηLを定義する「検出コイルの充填率η」は、鋼管の外径をOD、検出コイルの内径をIDとすると、以下の式(2)で表される値である。
η=(OD)2/(ID)2 ・・・(2)
なお、一般的に、貫通型の検出コイルは、円筒状のボビンと、ボビンの外面に巻回された巻線と、を備えるが、上記の式(2)における検出コイルの内径IDは、ボビンの内径を意味する。
ただし、「検出コイルの充填率η」は、検出コイルの内径IDを用いた上記の定義に限定されるものではない。検出コイルの平均径d(d=(検出コイルを構成する巻線の外径+検出コイルを構成する巻線の内径)/2)を用いて、以下の式(2)’で表される値を、検出コイルの充填率ηとして定義することも可能である。
η=(OD)2/d2 ・・・(2)’
また、本発明に係る渦流探傷方法において、パラメータPηLを定義する「鋼管の平均周長L」は、鋼管の外径をOD、鋼管の肉厚をWT、円周率をπとすると、以下の式(3)で表される値である。
L=π・(OD-WT) ・・・(3)
また、本発明に係る渦流探傷方法において、関係取得ステップで取得する「パラメータPηLと、・・・欠陥信号の大きさとの関係」とは、パラメータPηLそのものと欠陥信号の大きさとの関係だけを意味するものではなく、パラメータPηLに所定の係数(例えば、1/π)を乗算したものと欠陥信号の大きさとの関係を含む概念である。関係取得ステップで取得する関係が、パラメータPηLそのものと欠陥信号の大きさとの関係である場合、探傷感度補正ステップでは、「前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLそのものの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLそのものの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する」ことになり、関係取得ステップで取得する関係が、パラメータPηLに所定の係数を乗算したものと欠陥信号の大きさとの関係である場合、探傷感度補正ステップでは、「前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLに所定の係数を乗算したしたものの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLに前記係数を乗算したものの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正する」ことになる。
さらに、本発明に係る渦流探傷方法において、「探傷感度」は、差動信号の増幅度を意味する。
なお、本発明に係る渦流探傷方法において、関係取得ステップで用いる校正用鋼管の一部には、互いに同一の外径を有する校正用鋼管や、互いに同一の肉厚を有する校正用鋼管が含まれていてもよい(外径及び肉厚の双方が互いに異なる校正用鋼管が少なくとも複数含まれていればよい)。
【0012】
本発明に係る渦流探傷方法によれば、関係取得ステップにおいて、パラメータPηLと、欠陥信号の大きさとの関係が取得され、探傷感度校正ステップにおいて、1つの校正用鋼管を用いて(品質保証する鋼管の外径範囲及び肉厚範囲にある一の外径及び肉厚を有する校正用鋼管を用いて)、探傷感度が校正される。なお、関係取得ステップ及び探傷感度校正ステップは、この順に実行する場合に限らず、何れを先に実行してもよい。
次に、探傷感度補正ステップにおいて、鋼管(品質保証する鋼管)に対して算出されたパラメータPηLの値と、探傷感度校正ステップで用いた1つの校正用鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と、関係取得ステップで取得した関係とに基づき、探傷感度校正ステップで校正した探傷感度が補正される。この探傷感度の補正としては、例えば、鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と関係とによって求まる欠陥信号の大きさをAとし、1つの校正用鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と関係とによって求まる欠陥信号の大きさをBとすると、校正した探傷感度をB/A倍に補正することが考えられる。
最後に、欠陥検出ステップにおいて、探傷感度補正ステップで補正した探傷感度を用いて、鋼管に存在する欠陥が検出される。
本発明に係る渦流探傷方法によれば、前述のように、校正した探傷感度をB/A倍に補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が鋼管(品質保証する鋼管)に存在する場合、1つの校正用鋼管の外径、肉厚と鋼管の外径、肉厚とが異なる場合であっても、校正用鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷することができる。また、複数の校正用鋼管を用いてパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係を取得し、1つの校正用鋼管に対してパラメータPηLの値を算出しておけば、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、鋼管の歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0013】
また、本発明者らは鋭意検討を行い、前述のパラメータPηLに比べれば相関性はやや低下するものの、鋼管の断面積S、検出コイルの充填率η、検出コイルの充填率η×鋼管の断面積Sの3つのパラメータについても、欠陥信号の大きさと良好な相関性を有し、これらのパラメータの値が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなることを見出した。
したがって、前記関係取得ステップにおいて、前記パラメータPηLに代えて、鋼管の断面積S、前記検出コイルの充填率η、及び、前記検出コイルの充填率η×鋼管の断面積Sのうちの何れか1つである代替パラメータと、前記欠陥信号の大きさとの関係を取得し、前記探傷感度補正ステップにおいて、前記鋼管に対して算出された前記代替パラメータの値と、前記探傷感度校正ステップで用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記代替パラメータの値と、前記関係取得ステップで取得した前記関係とに基づき、前記探傷感度校正ステップで校正した前記探傷感度を補正することも可能である。
上記の代替パラメータを用いる渦流探傷方法によれば、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、パラメータPηLを用いる渦流探傷方法と同等に精度良く渦流探傷可能である。
【0014】
本発明に係る渦流探傷方法において、好ましくは、前記欠陥検出ステップで欠陥を検出する前記鋼管の外径は、前記検出コイルの充填率ηが0.5以上となる外径である。
検出コイルの充填率ηが0.5以上と大きければ、鋼管に作用する交流磁界の磁界強度が大きくなり、渦流探傷の欠陥検出能が高くなる点で好ましい。
【0015】
本発明に係る渦流探傷方法は、前記欠陥検出ステップで欠陥を検出する前記鋼管が、ダイスとプラグ又はマンドレルとを用いて冷間抽伸工程が実行された鋼管である場合に好適に用いられる。
本発明に係る渦流探傷方法を冷間抽伸工程が実行された鋼管に適用することで、冷間抽伸工程によって鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、冷間抽伸工程の効率が低下するおそれがないという利点を有する。
【0016】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有する鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記鋼管が貫通し、前記鋼管に交流磁界を作用させることで前記鋼管に生じた渦電流を検出する一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルで渦電流を検出することで得られる差動信号に基づき、前記鋼管に存在する欠陥を検出する探傷器と、を備え、前記探傷器には、前記鋼管の前記外径範囲にある互いに異なる外径及び前記肉厚範囲にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用いて予め取得された、以下の式(1)で表されるパラメータPηLと、前記人工欠陥に対応する前記差動信号である欠陥信号の大きさとの関係が記憶され、前記探傷器には、1つの前記校正用鋼管を用いて、予め校正された探傷感度が設定され、前記探傷器は、前記鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記探傷感度の校正に用いた前記校正用鋼管に対して算出された前記パラメータPηLの値と、前記関係とに基づき、前記設定されている前記探傷感度を補正する探傷感度補正ステップと、前記探傷感度補正ステップで補正した前記探傷感度を用いて、前記鋼管に存在する欠陥を検出する欠陥検出ステップと、を実行する、ことを特徴とする渦流探傷装置としても提供される。
PηL=前記検出コイルの充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷間抽伸工程が実行されること等によって、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、精度良く渦流探傷可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図3】鋼管のパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
【
図4】鋼管の断面積S、検出コイル2の充填率η、検出コイル2の充填率η×鋼管の断面積Sの3つのパラメータと、欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置及びこれを用いた渦流探傷方法について、品質保証する鋼管が冷間抽伸工程が実行された電縫鋼管である場合を例に挙げて説明する。
【0020】
[渦流探傷装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。
図1において、鋼管P及び貫通型コイル(励磁コイル1、検出コイル2)は断面で示している。
本実施形態に係る渦流探傷装置100は、ダイス(図示せず)とプラグ又はマンドレル(図示せず)とを用いて冷間抽伸工程が実行されることで、所定の外径範囲に亘る外径及び所定の肉厚範囲に亘る肉厚を有し、
図1に示す太線矢印の長手方向に搬送される鋼管Pを渦流探傷する装置である。渦流探傷装置100は、例えば、造管工程を実行する造管ラインに設置された溶接装置の出側に配置される。冷間抽伸工程で冷間抽伸された後の鋼管Pの曲がり等を矯正する矯正機の出側に配置される。
【0021】
図1に示すように、渦流探傷装置100は、鋼管Pが貫通する貫通型コイル(1、2)と、貫通型コイル(1、2)に接続された探傷器3と、を備える。貫通型コイル(1、2)は、貫通型の励磁コイル1と、励磁コイル1内に配置された貫通型の検出コイル2とを有する相互誘導型のコイルである。また、貫通型コイル(1、2)は、検出コイル2として、一対の検出コイル2a及び検出コイル2bを具備し、各検出コイル2a、2bの差動信号が出力される、自己比較方式のコイルである。
図1に示す例では、検出コイル2aの巻回方向と、検出コイル2bの巻回方向とが同一であり、検出コイル2aの巻回の終端と、検出コイル2bの巻回の終端とが直列接続されることで、逆相和動信号(すなわち、差動信号)が出力されることになる。
なお、
図1では図示を省略しているが、渦流探傷装置100は、鋼管P及び貫通型コイル(1、2)を囲むように配置された、渦流探傷で慣用されている貫通型の磁気飽和用コイルを備える。磁気飽和用コイルに直流の磁気飽和電流を供給することで、渦流探傷する際、鋼管Pは磁気飽和レベルまで磁化されることになる。
【0022】
図1に示すように、探傷器3は、励磁回路31と、受信回路32と、同期検波回路33と、増幅器34と、欠陥判定部35と、探傷感度設定部36と、を具備する。
励磁回路31は、励磁コイル1に交流の励磁電流を供給する。これにより、鋼管Pに鋼管Pの長手方向に延びる交流磁界が作用し、鋼管Pに渦電流が生じる。
一対の検出コイル2a、2bは、鋼管Pに生じた渦電流を検出することで得られる差動信号を受信回路32に出力する。受信回路32は、受信した差動信号をその後の処理に必要な大きさに調整し、同期検波回路33に出力する。
同期検波回路33は、励磁回路31から出力される参照信号(励磁コイル1に供給する励磁電流と同一の周波数を有する参照信号)に基づき、受信回路32から出力された差動信号を同期検波し、同期検波後の差動信号を増幅器34に出力する。同期検波回路33は、位相調整機能を有し、欠陥に対応する差動信号(欠陥信号)を所定の位相に調整している。
増幅器34には、探傷感度設定部36によって、探傷感度(差動信号の増幅度)が設定される。増幅器34は、同期検波回路33から出力された差動信号を、設定された探傷感度に応じて増幅し、欠陥判定部35に出力する。
欠陥判定部35には、欠陥検出しきい値が設定されている。欠陥判定部35は、増幅器34から出力された増幅後の差動信号をA/D変換した後、A/D変換後の差動信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える差動信号を欠陥信号として検出する。
【0023】
以上に述べた探傷器3の基本的な構成は、渦流探傷に通常用いられる公知の探傷器と同様の構成である。
ただし、本実施形態の探傷器3は、探傷感度設定部36が、後述のパラメータPηLの値を用いて、予め校正された探傷感度を補正し、補正した探傷感度を増幅器34に設定する点に特徴を有する。
探傷感度設定部36の具体的な動作については、後述の渦流探傷方法の説明の中で説明する。
【0024】
[渦流探傷方法]
以下、上記の構成を有する渦流探傷装置100を用いた渦流探傷方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る渦流探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る渦流探傷方法は、関係取得ステップST1と、探傷感度校正ステップST2と、探傷感度補正ステップST3と、欠陥検出ステップST4と、を有する。
以下、各ステップST1~ST4について、具体的に説明する。
【0025】
(関係取得ステップST1)
関係取得ステップST1では、鋼管Pの外径範囲(例えば、31.8mm~48.6mm)にある互いに異なる外径及び肉厚範囲(例えば、1.2mm~2.3mm)にある互いに異なる肉厚をそれぞれ有し、互いに同一寸法の人工欠陥(校正用鋼管の肉厚方向に直交する方向の断面寸法が同一の人工欠陥)がそれぞれ設けられた複数の校正用鋼管を用意し、
図1の鋼管Pの位置に、鋼管Pに代えて各校正用鋼管を順に配置する。
そして、各校正用鋼管をそれぞれ長手方向に搬送し、人工欠陥に対応する差動信号(増幅器34から出力された差動信号)である欠陥信号の大きさを、欠陥判定部35で検出する。そして、以下の式(1)で表されるパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係を取得する。
PηL=検出コイル2の充填率η×鋼管の平均周長L ・・・(1)
上記の式(1)において、検出コイル2の充填率ηは、鋼管の外径をOD、検出コイル2の内径(検出コイル2を構成するボビンの内径)をIDとすると、以下の式(2)で表される値である。
η=(OD)
2/(ID)
2 ・・・(2)
また、上記の式(1)において、鋼管の平均周長Lは、鋼管の外径をOD、鋼管の肉厚をWT、円周率をπとすると、以下の式(3)で表される値である。
L=π・(OD-WT) ・・・(3)
したがって、パラメータPηLは、検出コイル2の内径ID、鋼管の外径OD及び肉厚WTによって決まるパラメータである。
【0026】
図3は、鋼管のパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
図3(a)は、校正用鋼管のパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
図3(b)は、
図3(a)に示す校正用鋼管以外の鋼管も含めたパラメータPηLと欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
なお、
図3(a)に示す関係は、外径・肉厚の組み合わせが、(外径,肉厚)=(48.6mm,2.3mm)、(42.7mm,1.2mm)、(38.1mm,1.2mm)、(38.1mm,1.8mm)、(31.8mm,2.3mm)の5本の校正用鋼管を用い、人工欠陥が何れも肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔であり、前述の磁気飽和用コイルに1.0Aの直流の磁気飽和電流を供給し、以下の表1に示すNo.1~No.8の8条件で、内径IDの異なる2種類の検出コイル2(ID=53.6mm、47.7mm)を用いて、欠陥信号の大きさを検出することによって得られた結果である。なお、
図3(a)に示す結果を得る際には、表1においてNo.3及びNo.8に示すように、外径OD=38.1mm、肉厚WT=1.2mmの校正用鋼管の欠陥信号の大きさ、及び、外径OD=31.8mm、肉厚WT=2.3mmの校正用鋼管の欠陥信号の大きさが、それぞれ4Vになるように校正した探傷感度を増幅器34に設定した。
【表1】
【0027】
図3(a)に示すように、パラメータPηLと、欠陥信号の大きさとは、良好な相関性(2次関数で近似したときの決定係数R
2=0.94)を有する。具体的には、パラメータPηLの値が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなる。
図3(a)に示すような関係は、例えば、2次関数等の近似式で表してもよいし、テーブル形式で表してもよい。そして、関係取得ステップST1では、取得した関係を、探傷感度設定部36に記憶させる。また、この際、関係取得ステップST1で用いた複数の校正用鋼管のうち、後述の探傷感度校正ステップST2で用いる1つの校正用鋼管に対するパラメータPηLの値も探傷感度設定部36に記憶させる。
【0028】
(探傷感度校正ステップST2)
探傷感度校正ステップST2では、1つの校正用鋼管を用いて、探傷感度を校正する。具体的には、例えば、前述の表1のNo.8に示す外径OD=31.8mm、肉厚WT=2.3mmの校正用鋼管の欠陥信号の大きさが4Vになるように、探傷感度を校正する。そして、探傷感度校正ステップST2では、校正した探傷感度を、探傷感度設定部36に記憶させると共に、増幅器34に設定する。
【0029】
本実施形態に係る渦流探傷方法では、以上に説明した関係取得ステップST1及び探傷感度校正ステップST2を、校正用鋼管を用いた準備ステップとして実行した後、実際に品質保証する鋼管Pについて渦流探傷するために、探傷感度補正ステップST3及び欠陥検出ステップST4を実行する。
【0030】
(探傷感度補正ステップST3)
探傷感度補正ステップST3は、例えば、渦流探傷する鋼管P(
図2では「被探傷鋼管」と表記)の先端部が一対の検出コイル2a、2bに到達する前に実行される。
探傷感度補正ステップST3では、これから渦流探傷する際に用いる検出コイル2の内径ID、これから渦流探傷する鋼管Pの外径OD及び肉厚WTが、探傷感度設定部36に入力される(
図1参照)。これにより、探傷感度設定部36は、入力された検出コイル2の内径ID、鋼管Pの外径OD及び肉厚WTに基づき、前述の式(1)~(3)によって、鋼管Pに対するパラメータPηLの値を算出する。そして、探傷感度設定部36は、鋼管Pに対して算出されたパラメータPηLの値と、探傷感度校正ステップST2で用いた校正用鋼管に対して算出され記憶されているパラメータPηLの値と、関係取得ステップST1で取得され記憶されている関係とに基づき、探傷感度校正ステップST2で校正した探傷感度を補正する。
【0031】
例えば、探傷感度設定部36に、
図3(a)に示す関係(近似式)が、横軸のパラメータPηLをXとし、縦軸の欠陥信号の大きさをYとした場合に、Y=0.0097X
2-1.0004X+30.407で表される2次関数として記憶されている場合を考える。また、探傷感度設定部36に、校正用鋼管に対するパラメータPηLの値として、前述の表1のNo.8に示す、検出コイル2の内径ID=47.7mmで、外径OD=31.8mm、肉厚WT=2.3mmの校正用鋼管に対するパラメータPηLの値である41.2mmが記憶されている場合を考える。
そして、後述の表2のNo.9に示す検出コイル2の内径ID=47.7mm、鋼管Pの外径OD=37.6mm及び肉厚WT=1.3mmが探傷感度設定部36に入力され、パラメータPηL=70.8mmが算出された場合を考えると、探傷感度設定部36は、
図3(a)に示す関係(近似式)から、鋼管Pに対するパラメータPηL=70.8mmに対応する欠陥信号の大きさを8.20Vとして算出する。また、探傷感度設定部36は、
図3(a)に示す関係(近似式)から、校正用鋼管に対するパラメータPηL=41.2mmに対応する欠陥信号の大きさを5.66Vとして算出する。そして、探傷感度設定部36は、探傷感度校正ステップST2で校正され記憶された探傷感度を、5.66/8.20=0.69倍に補正する。換言すれば、探傷感度設定部36は、校正した探傷感度を3.2dB下げる補正を行う。そして、探傷感度設定部36は、補正した探傷感度を増幅器34に設定する。
また、上記とは別の鋼管Pに関して、後述の表2のNo.12に示す検出コイル2の内径ID=47.7mm、鋼管Pの外径OD=41.15mm及び肉厚WT=1.825mmが探傷感度設定部36に入力され、パラメータPηL=91.9mmが算出された場合を考えると、探傷感度設定部36は、
図3(a)に示す関係(近似式)から、鋼管Pに対するパラメータPηL=91.9mmに対応する欠陥信号の大きさを20.39Vとして算出する。また、探傷感度設定部36は、前述と同様に、
図3(a)に示す関係(近似式)から、校正用鋼管に対するパラメータPηL=41.2mmに対応する欠陥信号の大きさを5.66Vとして算出する。そして、探傷感度設定部36は、探傷感度校正ステップST2で校正され記憶された探傷感度を、5.66/20.39=0.28倍に補正する。換言すれば、探傷感度設定部36は、校正した探傷感度を11.1dB下げる補正を行う。そして、探傷感度設定部36は、補正した探傷感度を増幅器34に設定する。
【0032】
以下の表2は、前述の表1に示す校正用鋼管とは別の4本の鋼管Pについて、欠陥信号の大きさを検出した結果を示す。表2に示す結果は、前述の表1に示す校正用鋼管の場合と同様に、人工欠陥が何れも肉厚方向に延びる直径1.5mmの貫通孔であり、前述の磁気飽和用コイルに1.0Aの直流の磁気飽和電流を供給し、内径ID=47.7mmの検出コイル2を用いて、欠陥信号の大きさを検出することによって得られた結果である。
【表2】
図3(b)に「〇」でプロットしたデータ及び近似式は、
図3(a)に示すものと同一であり、
図3(b)に「●」でプロットしたデータが、表2に示す結果に対応する。
図3(b)から分かるように、「●」でプロットした校正用鋼管とは別の鋼管Pについて実際に検出した欠陥信号の大きさは、近似式と比較的良く合致している。したがって、探傷感度補正ステップST3において、探傷感度校正ステップST2で校正した探傷感度を適切に補正することが可能である。
【0033】
(欠陥検出ステップST4)
欠陥検出ステップST4では、探傷感度補正ステップST3で補正した探傷感度を用いて、鋼管Pに存在する欠陥を検出する。具体的には、増幅器34が、同期検波回路33から出力された差動信号を、設定された補正後の探傷感度に応じて増幅し、欠陥判定部35に出力する。そして、欠陥判定部35が、増幅器34から出力された増幅後の差動信号をA/D変換した後、A/D変換後の差動信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える差動信号を欠陥信号として検出する。
【0034】
以上に説明した本実施形態に係る渦流探傷装置100及びこれを用いた渦流探傷方法によれば、探傷感度校正ステップST2で校正した探傷感度が、探傷感度補正ステップST3で鋼管Pに対して算出されたパラメータPηLの値と、探傷感度校正ステップST2で用いた1つの校正用鋼管に対して算出されたパラメータPηLの値と、関係取得ステップST1で取得した関係とに基づき、補正される。この補正した探傷感度を用いることで、仮に、1つの校正用鋼管の人工欠陥と同一寸法の欠陥が鋼管Pに存在する場合、1つの校正用鋼管の外径、肉厚と鋼管Pの外径、肉厚とが異なる場合であっても、校正用鋼管の人工欠陥と同等の大きさの欠陥信号が得られることになるため、精度良く渦流探傷可能である。また、鋼管Pの異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正する必要がない(校正した探傷感度を補正するだけでよい)ため、冷間抽伸工程の効率が低下したり、鋼管Pの歩留まり低下が生じるおそれがない。
【0035】
なお、本発明者らは、鋼管の断面積S、検出コイル2の充填率η、検出コイル2の充填率η×鋼管の断面積Sの3つのパラメータについても、欠陥信号の大きさとの相関性を評価した。
図4は、鋼管の断面積S、検出コイル2の充填率η、検出コイル2の充填率η×鋼管の断面積Sの3つのパラメータと、欠陥信号の大きさとの関係の一例を示す図である。
図4(a)は鋼管の断面積Sと欠陥の大きさとの関係を、
図4(b)は検出コイル2の充填率ηと鋼管の断面積Sと欠陥の大きさとの関係を、
図4(c)は検出コイル2の充填率η×鋼管の断面積Sと欠陥の大きさとの関係を示す。なお、
図4は、複数の校正用鋼管を用いて取得した前述の
図3に示す結果と同じデータを用いて、横軸のパラメータを書き換えたものに相当する。
図4に示すように、前述のパラメータPηLに比べれば相関性はやや低下する(2次関数で近似したときの決定係数R
2がいずれも0.94よりも小さくなる)ものの、良好な相関性を有し、これらのパラメータの値が大きくなれば、欠陥信号の大きさも大きくなることを見出した。
【0036】
したがって、関係取得ステップST1において、パラメータPηLに代えて、鋼管の断面積S、検出コイル2の充填率η、及び、検出コイル2の充填率η×鋼管の断面積のうちの何れか1つである代替パラメータと、欠陥信号の大きさとの関係を取得することが考えられる。そして、探傷感度補正ステップST3において、鋼管Pに対して算出された代替パラメータの値と、探傷感度校正ステップST2で用いた校正用鋼管に対して算出された代替パラメータの値と、関係取得ステップST1で取得した関係とに基づき、探傷感度校正ステップST2で校正した探傷感度を補正することも可能である。
上記の代替パラメータを用いる渦流探傷方法によれば、鋼管の外径及び肉厚がそれぞれ所定の外径範囲及び所定の肉厚範囲において変化しても、異なる外径及び肉厚毎に探傷感度を校正することなく、パラメータPηLを用いる渦流探傷方法と同等に精度良く渦流探傷可能である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・励磁コイル
2、2a、2b・・・検出コイル
3・・・探傷器
31・・・励磁回路
32・・・受信回路
33・・・同期検波回路
34・・・増幅器
35・・・欠陥判定部
36・・・探傷感度設定部
100・・・渦流探傷装置
P・・・鋼管(電縫鋼管)