(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010828
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】自動運転制御装置、及び自動運転制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250116BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20250116BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250116BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G08G1/16 C
B60W30/14
B60W60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113074
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】徳持 大輔
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 茂徳
(72)【発明者】
【氏名】杉山 竜巳
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241CA00
3D241CC01
3D241CC08
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB05Z
5H181AA01
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF05
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】省燃費性能の向上を図りつつ、ドライバの違和感を抑制することが可能な自動運転制御装置等の提供。
【解決手段】自動運転制御装置である自動運転ECU100は、走行制御部22及びコースティング判断部23を備えている。走行制御部22は、ドライバに代わって自車両Amの車速を少なくとも制御するアダプティブクルーズコントロール制御を実行する。コースティング判断部23は、アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりも、自車両Amを惰性で走行させるコースティング制御を実行し易くする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバに代わって自車両(Am)の車速を少なくとも制御するアダプティブクルーズコントロール制御を実行する走行制御部(22)と、
前記アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、前記ドライバが前記自車両の前方を注視していない場合、前記ドライバが前方を注視している場合よりも、前記自車両を惰性で走行させるコースティング制御を実行し易くするコースティング制御部(23)と、
を備える自動運転制御装置。
【請求項2】
前記ドライバの状態を監視するドライバモニタリングシステム(30)から、前記ドライバの状態に関する検知情報を取得する情報取得部(21)、をさらに備え、
前記コースティング制御部は、前記検知情報に基づき、前記ドライバが前方を注視しているか否かを把握し、前記ドライバが前記自車両の前方を注視していない場合、前記ドライバが前方を注視している場合よりも前記コースティング制御を実行し易くする請求項1に記載の自動運転制御装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記ドライバに周辺監視義務のない状態での前記アダプティブクルーズコントロール制御を実施し、
前記コースティング制御部は、実行中の前記アダプティブクルーズコントロール制御が前記周辺監視義務のある状態か否かを把握し、前記ドライバに前記周辺監視義務がない場合、前記ドライバに前記周辺監視義務がある場合よりも前記コースティング制御を実行し易くする請求項1又は2に記載の自動運転制御装置。
【請求項4】
前記コースティング制御部は、
前記走行制御部にて車速(Vm)を制御する前記アダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、前記コースティング制御の継続を許可する車速変動の許容範囲(CSR)を規定し、
前記許容範囲の変更により、前記ドライバが前記自車両の前方を注視していない場合、前記ドライバが前方を注視している場合よりも前記コースティング制御を実行し易くする請求項1に記載の自動運転制御装置。
【請求項5】
前記コースティング制御部は、前記車速変動の前記許容範囲を規定する上限値(ULs)及び下限値(LLs)のうち、前記下限値のみを下げる変更によって前記コースティング制御を実行し易くする請求項4に記載の自動運転制御装置。
【請求項6】
前記コースティング制御部は、
前記走行制御部にて前方車間(Df)を制御する前記アダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、前記コースティング制御の継続を許可する車間変動の許容範囲(CDR)を規定し、
前記許容範囲の変更により、前記ドライバが前記自車両の前方を注視していない場合、前記ドライバが前方を注視している場合よりも前記コースティング制御を実行し易くする請求項1に記載の自動運転制御装置。
【請求項7】
前記コースティング制御部は、前記車間変動の前記許容範囲を規定する上限値(ULd)及び下限値(LLd)のうち、前記上限値のみを上げるか又は前記上限値の設定をなくす変更によって前記コースティング制御を実行し易くする請求項6に記載の自動運転制御装置。
【請求項8】
ドライバに代わって自車両(Am)の車速を少なくとも制御するアダプティブクルーズコントロール制御を実行する走行制御部(22)と、
前記アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、前記ドライバが前記自車両の前方を注視していない場合、前記ドライバが前方を注視している場合よりも、前記自車両を惰性で走行させるコースティング制御を実行し易くするコースティング制御部(23)と、
を含むように、少なくとも1つのコンピュータ(10)を機能させる自動運転制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、自動運転制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クルーズコントロール制御と惰性走行制御とを実行可能な車両の走行制御装置が開示されている。この走行制御装置は、クルーズコントロール制御に設定された目標車速に対して上限車速と下限車速を規定し、上限車速と下限車速の範囲内にてエンジン加速走行と惰性走行とを繰り返す。さらに、上限車速と下限車速との範囲を広くすることにより、加速及び減速の頻繁な切り替わりによる違和感の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、惰性走行を行うコースティング制御において、上限車速と下限車速との範囲を広くしてしまうと、加速及び減速の頻繁な切り替わりが低減され得る一方で、大きな車速変動が発生し得る。故に、ドライバが前方を注視しているような状態下、大きな車速変動が発生すると、周辺車両と自車両との位置関係がドライバの想定からずれてしまい、ドライバに違和感を与える懸念があった。
【0005】
本開示は、コースティング制御によって省燃費性能の向上を図りつつ、ドライバの違和感を抑制することが可能な自動運転制御装置、及び自動運転制御プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、ドライバに代わって自車両(Am)の車速を少なくとも制御するアダプティブクルーズコントロール制御を実行する走行制御部(22)と、アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、ドライバが自車両の前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりも、自車両を惰性で走行させるコースティング制御を実行し易くするコースティング制御部(23)と、を備える自動運転制御装置とされる。
【0007】
また開示された一つの態様は、ドライバに代わって自車両(Am)の車速を少なくとも制御するアダプティブクルーズコントロール制御を実行する走行制御部(22)と、アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、ドライバが自車両の前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりも、自車両を惰性で走行させるコースティング制御を実行し易くするコースティング制御部(23)と、を含むように、少なくとも1つのコンピュータ(10)を機能させる自動運転制御プログラムとされる。
【0008】
これらの態様では、ドライバが自車両の前方を注視していない場合に、コースティング制御が実行され易くなる。故に、積極的なコースティング制御の実行によって大きな車速変動が発生しても、こうした車速変動は、前方を注視していないドライバの違和感にはなり難い。その結果、省燃費性能の向上を図りつつ、ドライバの違和感を抑制することが可能になる。
【0009】
尚、上記及び特許請求の範囲等における括弧内の参照番号は、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。また、特に組み合わせに支障が生じなければ、特許請求の範囲において明示していない請求項同士の組み合せも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態による自動運転ECUを含む車載ネットワークの全体像を示す図である。
【
図2】エンジンを動力源として含むパワートレインの構成の一例を示す図である。
【
図3】モータジェネレータを動力源として含むパワートレインの構成の一例を示す図である。
【
図4】コースティング制御に用いられるパラメータを例示した表である。
【
図5】自動運転ECUにて実施される走行制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図6】自動運転ECUにて実施されるコースティング判断処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図7】単独走行シーンにて車速変動範囲を拡大したことによる効果を説明するための図である。
【
図8】降り勾配路への進入が予定された追従走行シーンを説明するための図である。
【
図9】
図8に示す追従走行シーンにて、車速変動範囲及び車間変動範囲を拡大したことによる効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態による自動運転制御装置の機能は、
図1及び
図2に示す自動運転ECU(Electronic Control Unit)100によって実現されている。自動運転ECU100は、車両(以下、自車両Am)に搭載されている。自動運転ECU100の搭載により、自車両Amは、自動運転機能を備えた自動運転車両又は自律走行車両となり、自動運転機能によって走行可能となる。
【0012】
自動運転ECU100は、ドライバの運転操作を代行可能な自律走行機能を実現させる車載ECUである。自動運転ECU100は、レベル1程度の運転支援に加えて、レベル2程度の高度運転支援又は部分的な自動運転と、システムが制御主体となるレベル3以上の自動運転とを実施可能である。本開示における自動運転レベルは、米国自動車技術会(Society of Automotive Engineers)によって規定された基準に基づいている。
【0013】
レベル2以下(レベル3未満)の自動運転は、ドライバの目視による自車周辺の監視が必要な周辺監視義務のある自動運転(アイズオン自動運転)となる。レベル2の自動運転には、ドライバにステアリングの把持義務があるハンズオン自動運転と、ステアリングの把持義務がないハンズオフ自動運転とが含まれている。
【0014】
レベル3の自動運転は、自車周囲の監視が不要な周辺監視義務のないアイズオフ自動運転となる。自動運転ECU100は、一定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施するレベル4の完全自動運転を実行可能であってよい。レベル4の自動運転は、ドライバへ向けた運転交代の要請が実質的に発生しないブレインオフの自動運転となる。
【0015】
自動運転ECU100は、レベル2以下の周辺監視義務のある自動運転制御と、レベル3以上の周辺監視義務のない自動運転制御とを少なくとも含む複数のうちで、自動運転機能の制御状態を切り替える。以下の説明では、レベル2以下の自動運転制御を「運転支援制御」と記載し、レベル3以上の自動運転制御を「自律走行制御」と記載する。
【0016】
自律走行制御によって自車両Amが走行する自動走行期間では、予め規定された運転以外の特定行為(以下、セカンドタスク)がドライバに許可され得る。セカンドタスクは、システムからの運転交代要請の発生まで、ドライバに法規的に許可される。例えば、動画コンテンツ等のエンターテイメント系のコンテンツの視聴、スマートフォン等のデバイス操作、及び食事等の行為が、セカンドタスクとして想定される。
【0017】
[車載システムの構成]
自動運転ECU100は、自車両Amに搭載された車載ネットワークの通信バスに、通信可能に接続されている。通信バスには、ドライバモニタリングシステム(Driver Monitoring System,DMS)30、自車センサ40、外界センサ50、及び操作部60等が接続されている。さらに、通信バスには、パワートレイン70を制御する制御装置(パワトレECU)、及びブレーキシステム80を制御する制御装置(ブレーキECU)等がさらに接続されている。通信バスに接続されたこれらのノードは、相互に通信可能である。これらのうちの特定のノード同士は、相互に直接的に電気接続され、通信バスを介することなく通信可能であってもよい。
【0018】
DMS30は、近赤外光源及び近赤外カメラと、これらを制御する制御ユニットとを含む構成であり、ドライバの状態を監視する。DMS30は、運転席のヘッドレスト部分に近赤外カメラを向けた姿勢にて、例えばステアリングコラム部の上面又はインスツルメントパネルの上面等に設置されている。DMS30は、近赤外光源によって近赤外光が照射されたドライバの顔部を、近赤外カメラによって撮影する。近赤外カメラによる撮像画像は、制御ユニットによって画像解析される。制御ユニットは、ドライバのアイポイントの位置及び視線方向等の情報を撮像画像から抽出する。DMS30は、制御ユニットによって抽出されたアイポイントの位置情報及び視線方向情報等を、ドライバの状態に関する検知情報(以下、ドライバ検知情報)として、自動運転ECU100等に提供する。
【0019】
尚、DMS30は、近赤外光源及び近赤外カメラに替えて、可視光カメラを含む構成であってもよい。また、カメラとは異なるセンサ、例えば、LiDARスキャナ、並びに、ドライバの呼吸数、心拍数、血圧、及び体温等のバイタルデータを計測するウェアブル端末等が、DMS30として用いられてもよい。さらに、DMS30は、ドライバ以外の乗員の状態を監視可能であってもよい。
【0020】
自車センサ40は、自車両Amに搭載され、自車両Amの状態を検知する車載センサである。自車両Amには、例えば車速センサ及びIMU(Inertial Measurement Unit)等が自車センサ40として搭載されている。車速センサは、自車両Amの各輪のハブ部分に設けられている。車速センサは、自車両Amの現在の走行速度を示す車速情報を生成し、生成した車速情報を通信バスに逐次出力する。
【0021】
IMUは、加速度センサ及びジャイロセンサを含む構成である。IMUは、自車両Amの重心近傍に設けられており、自車両Amの前後方向に作用する加速度、及びピッチ軸周りに生じるピッチ方向の角速度等を検出する。IMUは、自車両Amの左右方向に作用する加速度、上下方向に作用する加速度、ヨー軸周りに生じるヨー方向の角速度、及びロール軸周りに生じるロール方向の角速度等をさらに検出してもよい。IMUは、自車両Amの現在の加速度情報及び角速度情報を通信バスに逐次出力する。
【0022】
外界センサ50は、自車両Amに搭載され、自動運転に必要な自車周囲の外界情報を取得する車載センサである。自車両Amには、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)センサ、フロントカメラ、及びミリ波レーダ等が外界センサ50として搭載されている。GNSSセンサは、複数の人工衛星(測位衛星)から送信された測位信号を受信することで、自車両Amの現在位置を逐次検出する。GNSSセンサは、自車両Amの現在位置を示す位置情報を生成し、生成した位置情報を通信バスに逐次出力する。
【0023】
フロントユニット及びミリ波レーダは、自車両Amの周辺環境を監視する自律センサである。フロントカメラは、自車両Amの前方範囲を撮影した前方画像を生成する。フロントカメラは、前方画像又は前方画像の解析結果を、検出情報として通信バスに出力する。ミリ波レーダは、ミリ波又は準ミリ波を、自車両Amの前方範囲、前側方範囲、後方範囲及び後側方範囲等へ向けて照射する。ミリ波レーダは、自車周囲の移動物体及び静止物体等で反射された反射波を受信する処理により、自車周囲の物標等の検出情報を生成し、生成した検出情報を通信バスに出力する。尚、リヤカメラ、サラウンドカメラ、ライダ、及びソナー等の自律センサが、外界センサ50として自車両Amに搭載されていてもよい。
【0024】
操作部60は、ドライバ等によるユーザ操作を受け付ける入力部である。操作部60には、例えば自動運転機能の起動及び停止に関連するユーザ操作等が入力される。ステアリングホイールのスポーク部に設けられたステアスイッチ、ステアリングコラム部に設けられた操作レバー、タッチパネルの機能を有するセンタディスプレイ、及びドライバの発話内容を認識する音声入力装置等が、操作部60として利用可能である。操作部60は、ユーザ操作に基づく操作情報を通信バスに出力する。
【0025】
パワートレイン70は、自車両Amを走行させる駆動力を発生させる動力源と、駆動力を駆動輪DWに伝達する駆動系とを含んでなる(
図2及び
図3参照)。動力源には、エンジン71及びモータジェネレータ75の少なくとも一方が用いられる。駆動系は、ギア73及びクラッチ74を有する変速機72と、デファレンシャル76等とによって構成されている。動力源としてモータジェネレータ75のみを用いるパワートレイン70では、変速機72が省略されてもよい(
図3参照)。
【0026】
パワートレイン70は、パワトレECUをさらに備えている。パワトレECUは、マイクロコントローラを主体に構成された車載コンピュータである。パワトレECUは、エンジン71、変速機72、及びモータジェネレータ75等の作動を制御し、駆動輪DWに制御目標とする駆動力及び制動力(エンジンブレーキ又は回生力)を発生させる。
【0027】
ブレーキシステム80は、自車両Amの各輪に設けられたブレーキユニットと、各ブレーキユニットの作動させる油圧系統とを含んでなる。ブレーキユニットには、ディスクブレーキ及びドラムブレーキ等が用いられる。油圧系統は、ブレーキ圧を発生させる電動油圧ポンプ、ブレーキ圧を制御する電動ブレーキブースター、及び電動ブレーキブースターと各ブレーキユニットを接続するブレーキパイプ等によって構成されている。
【0028】
ブレーキシステム80は、ブレーキECUをさらに備えている。ブレーキECUは、マイクロコントローラを主体に構成された車載コンピュータである。ブレーキECUは、電動ブレーキブースターの作動を制御することで、各輪のブレーキユニットに制御目標とする制動力を発生させる。
【0029】
[自動運転ECUの構成]
自動運転ECU100は、処理部11、RAM12、記憶部13、入出力インターフェース14、及びこれらを接続するバス等を備えた制御回路10を主体として含むコンピュータである。処理部11は、RAM12へのアクセスにより、本開示の自動運転制御方法を実現するための種々の処理(インストラクション)を実行する。記憶部13には、処理部11によって実行される種々のプログラム(自動運転制御プログラム等)が格納されている。処理部11によるプログラムの実行により、自動運転ECU100には、自動運転機能を実現するための複数の機能部として、情報取得部21、走行制御部22、及びコースティング判断部23等が構築される。
【0030】
情報取得部21は、車載ネットワークの各ノードから通信バスに出力された情報を取得する。情報取得部21は、DMS30からドライバ検知情報を取得する。情報取得部21は、自車センサ40から車速情報及び加速度情報等を取得する。情報取得部21は、外界センサ50から位置情報及び検出情報等を取得する。情報取得部21は、操作部60から操作情報等を取得する。
【0031】
走行制御部22は、ドライバに代わって自車両Amの車速(以下、自車車速Vm,
図7参照)及び前方車間Df(
図9参照)を制御するアダプティブクルーズコントロール(Adaptive Cruise Control)制御を実行する。前方車間Dfは、自車両Amと同一のレーンを走行する前方車両(以下、先行車両Af,
図8参照)と、自車両Amとの間の車間距離である。アダプティブクルーズコントロール制御により、自車両Amは、ドライバのアクセル操作のない状態で、ドライバによって設定された目標速度を維持しながら、先行車両Af及び自車両Am間の車間距離を維持しつつ、走行を継続する。
【0032】
走行制御部22は、情報取得部21を通じて、操作情報、位置情報、検出情報、車速情報、及び加速度情報等を取得する。走行制御部22は、自車前方の道路形状を示す地図データをさらに取得してもよい。走行制御部22は、アダプティブクルーズコントロール制御に、レーンキープ制御を組み合わせることができる。アダプティブクルーズコントロール制御及びレーンキープ制御を実行する走行制御部22は、検出情報に基づき、走行中の自車レーンの区画線、及び先行車両Af等を認識し、ドライバの運転操作に依らないで、自車両Amを自車レーンに沿って自動走行させる。
【0033】
走行制御部22は、操作情報に基づき、アダプティブクルーズコントロール制御の起動を指示するユーザ操作を把握すると、アダプティブクルーズコントロール制御を開始する。走行制御部22は、アダプティブクルーズコントロール制御において、パワートレイン70及びブレーキシステム80へ向けた要求トルクの出力により、自車両Amの加減速を制御する。走行制御部22は、先行車両Afが認識されていない場合、ドライバによって設定された車速(以下、設定車速SS,
図7参照)を維持するように、自車両Amの加減速を制御する。一方、先行車両Afが認識されている場合、走行制御部22は、ドライバによって設定された車間距離(以下、設定車間SD,
図9参照)を維持するように、パワートレイン70による加減速を制御する。設定車間SDは、ユーザ操作に基づき、例えば「長い(遠い)・中間・短い(近い)」等の3段階、又は「長い・やや長い・中間・やや短い・短い」等の5段階のうちで切り替え可能とされる。
【0034】
走行制御部22は、レベル3以上の自律走行制御の実施が許可された高速道路及び自動車専用道路等において、ドライバに周辺監視義務のない状態でのアダプティブクルーズコントロール制御を実行する。走行制御部22は、実行中のアダプティブクルーズコントロール制御について、ドライバに周辺監視の義務があるか否かを示す情報、言い替えれば、実行中の制御の自動運転レベルを示す情報(以下、ADレベル情報)を、コースティング判断部23に提供する。
【0035】
コースティング判断部23は、アダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、コースティング制御を実行するか否かを判断する。コースティング制御は、自車両Amを惰性で走行させる惰性走行制御である。コースティング制御によれば、自車両Amを走行させる駆動エネルギが低減され、省燃費化が可能になる。尚、本開示では、エンジン71が走行に使用する燃料量を低減することに加えて、モータジェネレータ75が走行に使用する電力量を低減すること(いわゆる省電費化)も、省燃費化に含むものとする。
【0036】
コースティング判断部23は、コースティング実行要求の走行制御部22への出力により、走行制御部22及びパワートレイン70と連携して、コースティング制御を実行する。具体的に、駆動系にクラッチ74を有するパワートレイン70が制御対象である場合(
図2参照)、コースティング制御では、クラッチ74が解放状態とされる。以上により、エンジン71及びモータジェネレータ75等の動力源と、駆動輪DWとが切り離される。変速機72をニュートラルの状態にすることで、動力源と駆動輪DWとが切り離されてもよい。以上の結果、自車両Amは、駆動源が停止した状態で、走行抵抗に抗して惰性走行する。
【0037】
また、動力源にモータジェネレータ75を用いており、かつ、クラッチ74を含まないパワートレイン70が制御対象である場合(
図3参照)、コースティング制御では、モータジェネレータ75による駆動及び回生が共に停止される。以上により、自車両Amは、モータジェネレータ75の引きずり抵抗を含む走行抵抗に抗して惰性走行する。
【0038】
コースティング制御が実行されると、自車両Amは、惰性で走行をすることになるため、設定車速SS又は設定車間SDを維持できなくなる。そのため、コースティング判断部23は、設定車速SS及び設定車間SDに対して許容幅を持たせる(
図4参照)。具体的に、コースティング判断部23は、走行制御部22にて自車車速Vmを制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、設定車速SSを基準として、車速変動の許容範囲(以下、車速変動範囲CSR,
図7等参照)を規定する。一例として、コースティング判断部23は、コースティング制御の継続を許可する車速変動範囲CSRの上限値(以下、車速上限値ULs)を設定車速SSと同一の速度に設定する。加えて、コースティング判断部23は、車速変動範囲CSRの下限値(以下、車速下限値LLs)を、設定車速SSよりも所定の速度(例えば、5km/h程度)だけ低い速度に設定する。
【0039】
コースティング判断部23は、走行制御部22にて車間距離を制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、先行車両Afの車速(以下、先行車車速Vf)を基準として、車速変動範囲CSRを規定する(
図9参照)。コースティング判断部23は、設定車速SSに替えて、先行車車速Vfを採用する。一例として、コースティング判断部23は、車速上限値ULsを先行車車速Vfと同一の速度に設定し、車速下限値LLsを先行車車速Vfよりも所定の速度(例えば、5km/h程度)だけ低い速度に設定する。
【0040】
さらに、コースティング判断部23は、設定車間SDを基準として、車間変動の許容範囲(以下、車間変動範囲CDR,
図9参照)を規定する。一例として、コースティング判断部23は、コースティング制御の継続を許可する車間変動範囲CDRの上限値(以下、車間上限値ULd)を、設定車間SDよりも所定の距離(例えば、10m程度)だけ長い距離に設定する。加えて、コースティング判断部23は、車間変動範囲CDRの下限値(以下、車間下限値LLd)を、設定車間SDと同一の距離に設定する。
【0041】
[コースティング制御の詳細]
ここまで説明したコースティング制御を実行すると、自動運転ECU100は、車速変動範囲CSR又は車間変動範囲CDRから外れないように、緩やかな加速と減速とを繰り返すことで、省燃費を実現する。しかし、コースティング制御の実行により、自車周囲の他車両と自車両Amとの位置関係がドライバの想定とずれてしまうと、ドライバに違和感が与えられてしまう。以上のように、コースティング制御による省燃費性能の向上は、ドライバの違和感とトレードオフの関係となり得る。
【0042】
そこで、自動運転ECU100は、ドライバの注視ポイントに応じてコースティング制御のオン及びオフを切り替えることで、ドライバの違和感を抑制しつつ、省燃費性能の向上を実現する。自動運転ECU100は、自動運転レベル3以上の自律走行制御の実行によってドライバが前方を注視しなくてもよいシーンにおいて、積極的なコースティング制御を実行し、ドライバに違和感を与えないようにしつつ、省燃費化を可能にする。
【0043】
詳記すると、コースティング判断部23は、情報取得部21を通じて取得するDMS30のドライバ検知情報(視線方向情報)に基づき、ドライバが前方を注視しているか否かを把握する。加えて、コースティング判断部23は、走行制御部22から取得するADレベル情報に基づき、実行中のアダプティブクルーズコントロール制御について、ドライバに周辺監視義務のある状態か否かを把握する。コースティング判断部23は、ドライバに周辺監視義務のないアダプティブクルーズコントロール制御の実行期間において、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりも、コースティング制御を実行し易くする。
【0044】
コースティング判断部23は、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合に、ドライバが前方を注視している場合よりもコースティング制御を実行し易くするため、車速変動範囲CSR及び車間変動範囲CDRを変更する。具体的に、走行制御部22にて自車車速Vmを制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、コースティング判断部23は、車速変動範囲CSR(
図7参照)を拡大する。また、走行制御部22にて前方車間Dfを制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、コースティング判断部23は、車速変動範囲CSRに加えて、車間変動範囲CDR(
図7及び
図9参照)を拡大する。コースティング判断部23は、パラメータの切り替えにより、自車車速Vm及び前方車間Dfの各許容幅を拡大させる。
【0045】
コースティング判断部23は、車速変動範囲CSRを拡大する場合、車速変動範囲CSRを規定する車速上限値ULs及び車速下限値LLsのうちで、車速下限値LLsのみを変更する(下げる)。一例として、コースティング判断部23は、前方注視時(
図4 パターン1参照)よりも大きい所定の速度(例えば、20km/h程度)だけ設定車速SS(
図7参照)よりも低い速度に、車速下限値LLsを設定する(
図4 パターン2参照)。尚、車速上限値ULsは、前方注視時と同様に、設定車速SSと同一の速度に設定される。
【0046】
コースティング判断部23は、車間変動範囲CDRを拡大する場合、車間変動範囲CDRを規定する車間上限値ULd及び車間下限値LLdのうち、車間上限値ULdのみを変更する。一例として、コースティング判断部23は、車間上限値ULdの設定をなくす(
図4 パターン2参照)。尚、車間下限値LLdは、前方注視時と同様に、設定車間SD(
図9参照)と同一の距離に設定される。
【0047】
[走行制御処理及びコースティング判断処理]
次に、ここまで説明したアダプティブクルーズコントロール制御及びコースティング制御を実現するため、自動運転ECU100にて実施される走行制御処理及びコースティング判断処理の各詳細を、
図5及び
図6に基づき、
図1及び
図4を参照しつつ説明する。
【0048】
図5に示す走行制御処理は、アダプティブクルーズコントロール制御の起動に基づき、走行制御部22を主体として実施される。走行制御処理は、アダプティブクルーズコントロール制御がオフ状態となるまで、コースティング判断部23によって繰り返し実施される。
【0049】
走行制御処理のS11では、走行制御部22が、設定車速SS(
図7参照)と車速情報の示す現在車速との差分に基づき、車速フィードバック制御による要求加速度Avを演算する。走行制御部22は、S12にて、検出情報に基づき、先行車両Af(
図9参照)の有無を判定する。先行車両Afがある場合(S12:YES)、走行制御部22は、S13にて、設定車間SD(
図9参照)と検出情報の示す現在の車間距離との差分に基づき、車間フィードバック制御による要求加速度Adを演算する。一方、先行車両Afがない場合(S12:NO)、走行制御部22は、S13での要求加速度Adの演算をスキップする。
【0050】
S14では、コースティング判断部23が、コースティング制御のオン及びオフの判断するコースティング判断処理(後述する)を実施する。走行制御部22は、S15にて、S14での判断結果を把握する。具体的に、走行制御部22は、S15にて、コースティング判断部23からコースティング実行要求が出力されているか否かを判定する。
【0051】
走行制御部22は、コースティング実行要求がない場合(S15:NO)、S16にて、要求加速度Av,Adを最小化する指令値を、パワートレイン70及びブレーキシステム80へ向けて出力する。以上により、通常のアダプティブクルーズコントロール制御が実行される。一方、コースティング実行要求がある場合(S15:YES)、走行制御部22は、S17にて、コースティング実行要求をパワートレイン70へ向けて出力する。以上により、コースティング制御が実行される。
【0052】
図6に示すコースティング判断処理は、走行制御処理のサブ処理として実行される。コースティング判断処理のS101では、コースティング判断部23が、走行制御部22から取得するADレベル情報に基づき、実行中のアダプティブクルーズコントロール制御の自動運転レベルを判定する。自動運転レベル2以下(レベル3未満)のアダプティブクルーズコントロール制御が実行中であり、ドライバに周辺監視義務がある場合(S101:NO)、コースティング判断部23は、S103にて、予め準備されたパラメータ1(
図4参照)の採用を決定する。
【0053】
一方、自動運転レベル3以上のアダプティブクルーズコントロール制御が実行中の場合、即ち、ドライバに周辺監視義務がない場合(S101:YES)、コースティング判断部23は、S102にて、DMS30にて生成されるドライバ検知情報を取得する。コースティング判断部23は、ドライバ検知情報に基づき、ドライバが前方を注視しているか否かを判定する。ドライバが前方を注視している場合(S102:YES)、コースティング判断部23は、S103にて、予め準備されたパラメータ1(
図4参照)の採用を決定する。対して、ドライバが前方を注視していない場合(S102:NO)、コースティング判断部23は、S104にて、予め準備されたパラメータ2(
図4参照)の採用を決定する。
【0054】
コースティング判断部23は、S105にて、検出情報に基づき、先行車両Af(
図9参照)の有無を判定する。先行車両Afがある場合(S105:YES)、コースティング判断部23は、S106にて、先行車両AfのN秒先(例えば、5秒程度)の行動を予測する。具体的に、コースティング判断部23は、先行車両Afの加減速、登坂及び降坂等の行動を予測する。
【0055】
コースティング判断部23は、S107にて、S101~S104において選択したパラメータを制約条件として、N秒先の自車両Amの燃費を予測演算する。コースティング判断部23は、S107での予測演算の結果に基づき、S108にて、自車両Amの燃費がN秒後まで向上するか否かを判定する。コースティング判断部23は、N秒後までの燃費が向上すると判定した場合(S108:YES)、S109にて、コースティング制御の実行を判断する。この場合、コースティング判断部23は、コースティング要求フラグ(
図7及び
図9参照)をオン状態とし、コースティング実行要求を走行制御部22に出力する。
【0056】
一方、N秒後までの燃費が向上しないと判定した場合(S108:NO)、コースティング判断部23は、S109の実行判断をスキップする。加えて、車速変動範囲CSRから自車車速Vmが外れると予測した場合、又は車間変動範囲CDRから前方車間Dfが外れると予測した場合も、コースティング判断部23は、S109の実行判断をスキップする。これらの場合、コースティング判断部23は、コースティング要求フラグをオフ状態とし、コースティング実行要求の出力も実施しない。
【0057】
[コースティング制御の積極実行による効果]
次に、車速変動範囲CSR及び車間変動範囲CDRの拡大による効果の詳細を、
図7~
図9に基づき、
図1及び
図4を参照しつつ、説明する。
【0058】
図7に示す単独走行のシーンにおいて、走行制御部22は、自車車速Vmが設定車速SSとなるように、アダプティブクルーズコントロール制御を実行する。ドライバが前方を注視している場合(
図7B参照)、コースティング判断部23は、パラメータ1(
図4参照)の採用により、車速変動範囲CSRを5km/hに設定する。その結果、コースティング要求フラグのオン及びオフの切り替え、即ち、コースティング制御の開始及び中断が繰り返される。
【0059】
一方、ドライバが前方を注視していない場合(
図7A参照)、コースティング判断部23は、パラメータ2(
図4参照)の採用により、車速下限値LLsを通常時(前方注視時)よりも引き下げる。コースティング判断部23は、自車車速Vmの変動許容幅である車速変動範囲CSRを、5km/hから20km/hに拡大する。その結果、コースティング要求フラグのオン及びオフの切り替え頻度が低減され、コースティング制御を実行する1回の時間が長くなる。その結果、燃費の向上効果も大きくなる。
【0060】
図8及び
図9に示す先行車両Afの追従走行シーンにて、先行車両Af及び自車両Amの前方に降り勾配が存在している。先行車両Af及び自車両Amは、時刻t1にて、共に水平な平坦路を走行している。そして、時刻t2にて、先行車両Afが、自車両Amよりも先に降り勾配路に進入する。さらに、時刻t3にて、自車両Amが、先行車両Afに続いて降り勾配路に進入する。
【0061】
走行制御部22は、先行車両Afまでの前方車間Dfが設定車間SDとなるように、アダプティブクルーズコントロール制御を実行する。ドライバが前方を注視している場合(
図9B参照)、コースティング判断部23は、パラメータ1(
図4参照)の採用により、車間変動範囲CDRを10mに設定する。その結果、先行車両Afの降り勾配への進入後、自車両Amの降り勾配路への進入以前(時刻t2からt3の間)に、コースティング要求フラグのオフ切り替え、即ち、コースティング制御の中断が発生する。以上により、自車両Amは、前方車間Dfの維持のため降り勾配路の手前で加速した後に、コースティング制御を再実施する。
【0062】
一方、ドライバが前方を注視していない場合(
図9A参照)、コースティング判断部23は、パラメータ2(
図4参照)の採用により、車間下限値LLdの設定をなくす。コースティング判断部23は、車速の変動許容幅である車速変動範囲CSRを、10mから上限なしの状態まで拡大する。その結果、追従走行シーンでのコースティング要求フラグのオフ切り替え、即ち、コースティング制御の中断が回避される。このように、コースティング制御が継続されることで、燃費の向上効果も大きくなる。
【0063】
(実施形態まとめ)
ここまで説明した本実施形態では、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合に、コースティング制御が実行され易くなる。故に、積極的なコースティング制御の実行によって大きな車速変動が発生しても、こうした車速変動は、前方を注視していないドライバの違和感にはなり難い。その結果、省燃費性能の向上を図りつつ、ドライバの違和感を抑制することが可能になる。
【0064】
加えて本実施形態では、ドライバの状態を監視するDMS30から、ドライバの状態に関するドライバ検知情報が取得される。コースティング判断部23は、ドライバ検知情報に基づき、ドライバが前方を注視しているか否かを把握する。そして、コースティング判断部23は、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりもコースティング制御を実行し易くする。以上のように、ドライバの注視位置をDMS30によって検知することで、コースティング判断部23は、ドライバが前方を注視していない期間を適切に把握し、積極的にコースティング制御を実行できる。その結果、省燃費性能の向上とドライバの違和感の抑制とが、より確実に両立可能となる。
【0065】
また本実施形態では、ドライバに周辺監視義務のない状態でのアダプティブクルーズコントロール制御が実施される。コースティング判断部23は、実行中のアダプティブクルーズコントロール制御が周辺監視義務のある状態か否かを把握する。コースティング判断部23は、ドライバに周辺監視義務がない場合、ドライバに周辺監視義務がある場合よりもコースティング制御を実行し易くする。以上のように、ドライバにおける周辺監視義務の有無(自動運転レベル)を参照することでも、コースティング判断部23は、ドライバが前方を注視していない期間を適切に把握し、積極的にコースティング制御を実行できる。
【0066】
さらに本実施形態では、走行制御部22にて自車車速Vmを制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、コースティング制御の継続を許可する車速変動範囲CSRが規定される。そして、コースティング判断部23は、車速変動範囲CSRの変更により、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりもコースティング制御を実行し易くする。このように、車速変動範囲CSRを変更することで、コースティング判断部23は、コースティング制御の実行し易さを適切に調整できる。その結果、省燃費性能の向上とドライバの違和感の抑制とが、より確実に両立され得る。
【0067】
加えて本実施形態のコースティング判断部23は、車速変動範囲CSRを規定する車速上限値ULs及び車速下限値LLsのうち、車速下限値LLsのみを下げる変更によってコースティング制御を実行し易くする。以上によれば、コースティング制御の実行中に自車車速Vmが上がりすぎるのを避けつつ、車速変動範囲CSRを拡大する変更が可能になる。その結果、アダプティブクルーズコントロール制御を適切に実施しつつ、省燃費性能の向上とドライバの違和感の抑制との両立が可能になる。
【0068】
また本実施形態では、走行制御部22にて前方車間Dfを制御するアダプティブクルーズコントロール制御が実行されている場合、コースティング制御の継続を許可する車間変動範囲CDRが規定される。そして、コースティング判断部23は、車間変動範囲CDRの変更により、ドライバが自車両Amの前方を注視していない場合、ドライバが前方を注視している場合よりもコースティング制御を実行し易くする。このように、車間変動範囲CDRを変更することで、コースティング判断部23は、コースティング制御の実行し易さを適切に調整できる。その結果、省燃費性能の向上とドライバの違和感の抑制とが、より確実に両立され得る。
【0069】
さらに本実施形態のコースティング判断部23は、車間変動範囲CDRを規定する車間上限値ULd及び車間下限値LLdのうち、車間上限値ULdの設定をなくす変更によってコースティング制御を実行し易くする。以上によれば、コースティング制御の実行中の先行車両Afへの過度な接近を避けつつ、車間変動範囲CDRを拡大する変更が可能になる。その結果、アダプティブクルーズコントロール制御を適切に実施しつつ、省燃費性能の向上とドライバの違和感の抑制との両立が可能になる。
【0070】
尚、上記実施形態では、制御回路10が「コンピュータ」に相当し、コースティング判断部23が「コースティング制御部」に相当し、自動運転ECU100が「自動運転制御装置」に相当する。また、車間変動範囲CDR及び車速変動範囲CSR「許容範囲」に相当し、車間上限値ULd及び車速上限値ULsが「上限値」に相当し、車間下限値LLd及び車速下限値LLsが「下限値」に相当し、自車車速Vmが「車速」に相当する。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本開示による一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0072】
上記実施形態では、ドライバが前方を注視しているか否かの判断に、ADレベル情報とドライバ検知情報とが用いられていた。こうした前方注視中か否かを判断する判断手法は、適宜変更されてよい。例えば、上記実施形態の変形例1のコースティング判断部23は、ADレベル情報のみを用いて、ドライバが前方を注視しているか否かを判断する。具体的に、コースティング判断部23は、自動運転レベル3以上の自律走行制御が実行されている場合、ドライバが前方を注視していないと推定し、自動運転レベル2以下の運転支援制御が実行されている場合、ドライバが前方を注視していると推定する。
【0073】
また上記実施形態の変形例2では、走行制御部22にて自律走行制御が実行されておりかつ、センタディスプレイを用いて動画コンテンツが再生されている場合、コースティング判断部23は、ドライバが前方を注視していないと推定する。
【0074】
上記実施形態では、車速変動範囲CSR及び車間変動範囲CDRは、パターン1及びパターン2という2段階のうちで切り替えられていた。こうした許容幅の切り替えは、2段階の切り替えに限定されず、多数(3以上)のパターンのうちで切り替えられてもよく、又は連続的に変更(拡大)されてもよい。例えば、上記実施形態の変形例3では、レベル2以下、レベル3以上かつ前方注視中、レベル3以上かつ前方を注視していない状態、の順で自車車速Vm及び前方車間Dfの変動許容幅が拡大される。
【0075】
上記実施形態の変形例4では、パターン2の車間上限値ULdは、前方注視時よりも長い所定の距離(例えば、20m程度)を加えた値に設定される。即ち、コースティング判断部23は、車間上限値ULdをなくすことに替えて、車間上限値ULdのみを上げる変更により、前方非注視時のコースティング制御を実行し易くする。
【0076】
上記実施形態の変形例5では、車速上限値ULs及び車速下限値LLsの両方を変更することにより、車速変動範囲CSRの拡大が実現される。また、上記実施形態の変形例6では、車速上限値ULs及び車速下限値LLsのうちで、車速上限値ULsを上げる変更により、車速変動範囲CSRの拡大が実現される。
【0077】
上記実施形態の変形例7では、車間上限値ULd及び車間下限値LLdの両方を変更することにより、車間変動範囲CDRの拡大が実現される。また、上記実施形態の変形例8では、車間上限値ULd及び車間下限値LLdのうちで、車間下限値LLdを下げる変更により、車速変動範囲CSRの拡大が実現される。車間下限値LLdを下げる変更は、例えば、「長い」又は「中間」等に設定されていた設定車間SDを、一時的に「短い」に自動変更することによって実現される。
【0078】
上記実施形態では、追従走行モードでのアダプティブクルーズコントロール制御の実行中に、コースティング制御を行う場合、車速変動範囲CSR及び車間変動範囲CDRの両方が拡大されていた。対して、上記実施形態の変形例9では、追従走行モードにおいて、車速変動範囲CSR及び車間変動範囲CDRのうちで、車間変動範囲CDRのみが拡大される。
【0079】
さらに、上記実施形態の変形例10では、追従走行モードでの車速変動範囲CSRの拡大幅は、単独走行モードにおける車速変動範囲CSRの拡大幅と異なっている。具体的に、追従走行モードでの車速変動範囲CSRの拡大幅は、単独走行モードにおける車速変動範囲CSRの拡大幅よりも小さくされてもよく、又は大きくされてもよい。
【0080】
上記実施形態にて、自動運転ECUによって提供されていた各機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。さらに、こうした機能がハードウェアとしての電子回路によって提供される場合、各機能は、多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によっても提供可能である。
【0081】
上述実施形態の処理部は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural network Processing Unit)及び他の専用機能を備えたIPコア等をさらに含む構成であってよい。処理部は、プリント基板に個別に実装された構成であってもよく、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、SoC(System on Chip)及びFPGA等に実装された構成であってよい。
【0082】
各種プログラム等を記憶する記憶媒体(持続的有形コンピュータ読み取り媒体,non-transitory tangible storage medium)の形態は、適宜変更されてよい。さらに、記憶媒体は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、自動運転ECU等の制御回路に電気的に接続される構成であってよい。また、記憶媒体は、自動運転ECUへのプログラムのコピー元又は配信元となる光学ディスク、ハードディスクドライブ、及びソリッドステートドライブ等であってもよい。
【0083】
上記の自動運転ECUを搭載する車両は、一般的な自家用の乗用車に限定されず、レンタカー用の車両、有人タクシー用の車両、ライドシェア用の車両、貨物車両及びバス等であってもよい。また、自動運転ECUを搭載する車両は、右ハンドル車両であってもよく、又は左ハンドル車両であってもよい。さらに、車両が走行する交通環境は、左側通行を前提とした交通環境であってもよく、右側通行を前提とした交通環境であってもよい。本開示による自動運転制御は、それぞれの国及び地域の道路交通法、さらに車両のハンドル位置等に応じて適宜最適化されてよい。
【0084】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10 制御回路(コンピュータ)、21 情報取得部、22 走行制御部、23 コースティング判断部(コースティング制御部)、30 ドライバモニタリングシステム(DMS)、100 自動運転ECU(自動運転制御装置)、Am 自車両、CSR 車速変動範囲(車速変動の許容範囲)、CDR 車間変動範囲(車間変動の許容範囲)、Df 前方車間、ULs 車速上限値(車速変動の許容範囲の上限値)、LLs 車速下限値(車速変動の許容範囲の下限値)、ULd 車間上限値(車間変動の許容範囲の上限値)、LLd 車間下限値(車間変動の許容範囲の下限値)、Vm 自車車速(車速)