(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010844
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】情報記録媒体用ガラス板
(51)【国際特許分類】
G11B 5/73 20060101AFI20250116BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20250116BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20250116BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20250116BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20250116BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
G11B5/73
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
G11B5/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113103
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】倉知 淳史
(72)【発明者】
【氏名】宮部 大亮
(72)【発明者】
【氏名】角田 真悟
【テーマコード(参考)】
4G062
5D112
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB01
4G062DA06
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(57)【要約】
【課題】情報記録媒体に適したガラス板を提供する。
【解決手段】本発明による情報記録媒体用ガラス板は、ヤング率が94GPa以上、比重が2.8以下、ガラス転移温度が700℃以上である。本発明による情報記録媒体用ガラス板は、例えば、15~30モル%のMgOを含むガラス組成物を含み、また例えば、液相温度(T2)から失透温度を差し引いたΔTが20℃以上であり、また例えば、比弾性率が36MNm/kg以上であり、また例えば、厚さが1mm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤング率が94GPa以上であり、
比重が2.8以下であり、
ガラス転移温度が700℃以上である、情報記録媒体用ガラス板。
【請求項2】
15~30モル%のMgOを含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
ガラス転移温度が800℃以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項4】
ヤング率が100GPa以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項5】
液相温度(T2)から失透温度を差し引いたΔTが20℃以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項6】
比弾性率が36MNm/kg以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項7】
比重が2.65以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項8】
厚さが1mm以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項9】
第1主面と第2主面との間のSnO2濃度差が0.5質量%以下である、請求項1に記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス板、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)に代表される情報記録装置に使用するための情報記録媒体に適したガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
HDDに代表される磁気ディスク等の情報記録装置には、記録容量の増大とアクセス時間の短縮が要求され続けている。その達成手段の一つは、情報記録媒体の回転の高速化である。しかし、情報記録媒体の基板は回転により撓むため、回転数が高くなると情報記録媒体の共振が大きくなり、ついには情報記録媒体と磁気ヘッドが衝突し、読み取りエラーや磁気ヘッドクラッシュが発生することが懸念される。したがって、現状の基板では、フライングハイトと呼ばれる磁気ヘッドと情報記録媒体との距離をある程度以下にできず、これが記録容量の増加の足枷となっている。基板の撓み及び共振を小さくするためには、基板のヤング率が高いことが望ましい。ガラスは、その組成にもよるが、基本的に、アルミニウム基板を構成するアルミニウム合金よりもヤング率が高いことが知られている。情報記録媒体の基板を用途として開発されたガラス板は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、情報記録媒体の製造プロセスでは、記録層を形成する工程において高温処理が必要になることがある。このため、情報記録媒体の基板には耐熱性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたガラス板のヤング率は、80GPa程度以下であり、改善の余地がある。そこで本発明は、情報記録媒体に適したガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ヤング率が94GPa以上であり、
比重が2.8以下であり、
ガラス転移温度が700℃以上である、情報記録媒体用ガラス板、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、情報記録媒体に適したガラス板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。本明細書において、ある成分を「実質的に含まない」とは、その成分の含有率が0.1モル%未満、好ましくは0.08モル%未満、より好ましくは0.05モル%未満であることを意味する。また、以下では、ガラス組成物の融液の液相粘度η(単位:dPa・s)の対数(logη)がnとなる温度をTnと表記することがある。また、以下において、含有率及び特性の上限及び下限は、任意に組み合わせることが可能である。
【0010】
本発明は、以下の形態の情報記録媒体用ガラス板を提供する。
第1形態のガラス板は、ヤング率が94GPa以上であり、比重が2.8以下であり、ガラス転移温度が700℃以上である。
【0011】
第2形態のガラス板は、第1形態において、15~30モル%のMgOを含むガラス組成物を含む。
【0012】
第3形態のガラス板は、第1又は第2形態において、ガラス転移温度が800℃以上である。
【0013】
第4形態のガラス板は、第1~第3のいずれか1つの形態において、ヤング率が100GPa以上である。
【0014】
第5形態のガラス板は、第1~第4のいずれか1つの形態において、液相温度(T2)から失透温度を差し引いたΔTが20℃以上である。
【0015】
第6形態のガラス板は、第1~第5のいずれか1つの形態において、比弾性率が36MNm/kg以上である。
【0016】
第7形態のガラス板は、第1~第6のいずれか1つの形態において、比重が2.65以下である。
【0017】
第8形態のガラス板は、第1~第7のいずれか1つの形態において、厚さが1mm以下である。
【0018】
第9形態のガラス板は、第1~第8のいずれか1つの形態において、第1主面と第2主面との間のSnO2濃度差が0.5質量%以下である。
【0019】
[ハードディスク(HDD)]
本実施形態によるガラス板は、高ヤング率かつ低比重であって、情報記録装置、特にHDDに用いる情報記録媒体に適している。
図1は、HDDの一例の部分断面図である。HDD10は、密閉ケースを構成するシュラウドと、シュラウド内に配置された複数枚のプラッタ1とを備えている。
図1では、シュラウドはその部分のみが図示されている。また、情報記録媒体であるプラッタ1の枚数は、図示した4に限定されない。各プラッタ1は、ガラス板と、ガラス板の両主面上に形成された磁気記録層とを備えている。各プラッタ1は、中央部に円形の孔を有するリング状の円板である。隣接するプラッタ1の間にはリング状のスペーサ2が配置され、所定の間隔が確保されている。4枚のプラッタ1は、その孔においてスピンドルモータ3によって回転可能に支持されている。シュラウド内には、ヘッドアセンブリ5がさらに配置されている。ヘッドアセンブリ5は、4枚のプラッタ1の外周部に配置された本体部と、本体部からプラッタ1の主面に沿って延びるスイングアーム部とを有している。スイングアーム部は、その先端にスライダとも呼ばれる磁気ヘッド6を備えている。磁気ヘッド6は、プラッタ1の両主面に対応する数、すなわち
図1では8、が配置されている。磁気ヘッド6は、プラッタ1の回転に伴い、プラッタの主面からわずかに浮上する。プラッタ1の撓みは、磁気ヘッド6のクラッシュをもたらす要因となる。
【0020】
HDDでは、高容量化のため、複数枚の薄いプラッタが狭いスペースに配置される。このような密な配置では、回転するプラッタの撓みがわずかであっても、磁気ヘッドのクラッシュが生じやすくなる。このため、プラッタを構成する材料のヤング率は高いことが望ましい。また、複数枚のプラッタを回転させる小型モータの負荷を小さくするためには、プラッタを構成する比重は小さいことが望ましい。HDDの高容量化の進展に伴い、高ヤング率化と共に低比重化の重要性は大きくなっている。さらに、記録密度向上の観点からは、熱アシスト記録(HAMR;heat-assisted magnetic recording)に代表されるエネルギー-アシスト磁気記録に対応できる磁気記録層の使用が望ましい。熱アシスト記録に対応できる磁気記録層の成膜には高温の熱処理が必要とされる。この場合、基板であるガラス板には耐熱性が求められる。ガラス板の特性としては、ヤング率及び比重と共に、耐熱性の指標となるガラス転移温度(Tg)も重視することが望ましい。
【0021】
[ガラス板に含まれるガラス組成物の各成分]
以下において、ガラス成分の含有率を示す%は、特に断らない限り、すべてモル%である。
(SiO2)
SiO2は、ガラス骨格を形成し、耐熱性の向上に寄与する成分である。SiO2の含有率は、50~70%の範囲にあってもよい。SiO2の含有率は、52%以上、さらに53%以上、特に54%以上が好ましく、場合によっては56%以上、さらに57%以上、であってもよい。SiO2の含有率が高すぎると、ヤング率が低下することがある。したがって、SiO2の含有率は、69%以下、67%以下、65%以下、62%以下、61%以下、さらに60%以下、特に59%以下が好ましく、場合によっては58%以下、57.8%以下、さらに57.5%以下であってもよい。
【0022】
(Al2O3)
Al2O3は、ガラス組成物の耐熱性、耐水性等の維持に貢献し、失透温度、粘度等に影響を与える成分でもある。Al2O3の含有率は、7.5~26%の範囲にあってもよい。Al2O3の含有率は、9%以上、さらに10%以上、特に11%以上が好ましく、場合によっては12%以上、さらには14%以上であってもよい。Al2O3の含有率が高すぎると、液相温度が大きく上昇して製造に不都合が生じることがある。したがって、Al2O3の含有率は、24%以下、さらに22%以下が好ましく、場合によっては20%以下、さらには19%以下であってもよい。
【0023】
特に量産を考慮すると、ガラス組成物の失透温度は液相温度よりも十分低いことが好ましい。失透温度を液相温度よりも十分に低下させるために適したAl2O3の含有率は、11~15%、さらに11~14%、特に11.5~13.5%である。後述するように、失透温度を液相温度と比較して十分に低下させるためには、適量のLi2O及び/又はB2O3を添加するとよい。11~15%のAl2O3の含有率は、比重の低下にも寄与することがある。耐クラック荷重を十分に大きく、及び/又は、ガラス転移温度(Tg)を十分に高くするために適したAl2O3の含有率は、15~26%、さらに16~22%、特に17~21%である。
【0024】
<(Al2O3)/(SiO2+Al2O3)>
SiO2とAl2O3の含有率の合計に対するAl2O3のモル比は、0.15~0.35の範囲に設定することが望ましい。これにより、高いヤング率と高すぎない液相温度との両立が容易になる。モル比Al2O3/(SiO2+Al2O3)は、0.16以上、さらに0.18以上、場合によっては0.20以上であってもよく、0.30以下であってもよい。なお、、B2O3及びLi2Oを共に含む組成において、低比重化に適したモル比Al2O3/(SiO2+Al2O3)は、0.25以下である。
【0025】
(MgO)
MgOは、ヤング率の向上に寄与し、失透温度、粘度等に影響を与える成分でもある。MgOの含有率は、15~30%の範囲にあってもよい。MgOの含有率は、17%以上、さらに18%以上、特に20%以上が好ましく、場合によっては21%以上、さらには22%以上であってもよい。MgOの含有率が高すぎると、液相温度が大きく上昇することがある。したがって、MgOの含有率は、29%以下が好ましく、場合によっては28%以下、さらには27%以下であってもよい。
【0026】
失透温度を液相温度よりも十分に低下させるために適したMgOの含有率は、18~30%、さらに20~28%である。
【0027】
耐クラック荷重を十分に大きくするために適したMgOの含有率は、17~30%、さらに18~26%、特に22~26%である。
【0028】
(CaO)
CaOは、耐水性等の維持に貢献し、失透温度、粘度等に影響を与える任意成分である。CaOの含有率は、0~8%の範囲にあってもよい。適量のCaOの添加は液相温度を低下させる観点から好ましい。したがって、CaOは添加することが好ましく(含有率0%超)、その含有率は、0.1%以上、さらには0.12%以上が好ましく、場合によっては2%以上、さらには3%以上であってもよい。ただし、多すぎるCaOはヤング率を低下させることがある。したがって、CaOの含有率は、7%以下、さらには5%以下、特に4.5%以下、場合によっては4%以下が好ましい。ヤング率及び耐クラック荷重の改善のために特に適しているCaOの含有率は、1%未満である。
【0029】
<MgOとCaOとの合計>
MgOとCaOとの含有率の合計は、18~35%、好ましくは20~30%の範囲にあってもよい。
【0030】
<(Al2O3)/(MgO+CaO)>
MgOとCaOの含有率の合計に対するAl2O3のモル比は、1.2以下、さらに1未満に設定することが望ましい。これにより、高いヤング率と高すぎない液相温度との両立が容易になる。モル比Al2O3/(MgO+CaO)は、0.3~0.9、特に0.35~0.85が好ましく、場合によっては0.4~0.7、さらには0.4~0.6であってもよい。モル比Al2O3/(MgO+CaO)は、0.3~0.5であってもよい。ただし、耐クラック荷重の改善に特に適しているモル比Al2O3/(MgO+CaO)は、0.5~1.0、0.7以上1未満、さらに0.7~0.9、特に0.8~0.9である。
【0031】
(B2O3)
B2O3は、ガラスの骨格を形成すると共に、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分である。B2O3の含有率は、0~3%の範囲にあってもよい。微量のB2O3の添加は、失透温度の低下に寄与することがある。微量のB2O3の添加は、比重の低下にも寄与することがある。したがって、B2O3は添加することが好ましく(含有率0%超)、その含有率は、0.1%以上、0.2%以上、特に0.3%以上が好ましく、場合によっては0.5%以上、さらには0.7%以上であってもよい。ただし、多すぎるB2O3はヤング率を低下させることがある。B2O3の含有率は、2.5%以下、さらに2%以下、特に1.8%以下が好ましく、場合によっては1.6%以下、さらに1.5%以下であってもよい。B2O3の含有率の好ましい範囲の一例は、0.1~1.6%である。
【0032】
(Li2O)
Li2Oは、ガラスの骨格を修飾する成分であり、液相温度、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分である。Li2Oの含有率は、0~3%の範囲にあってもよい。この範囲のLi2Oの添加は、失透温度の低下に効果がある。したがって、Li2Oは、添加することが好ましく(含有率0%超)、その含有率は、0.1%以上、0.2%以上、特に0.3%以上が好ましく、場合によっては0.5%以上、さらには0.7%以上であってもよい。Li2Oの含有率が高すぎると、ヤング率が低下することがある。したがって、Li2Oの含有率は、2.5%以下、さらに2%以下、特に1.8%以下が好ましく、場合によっては1.6%以下、さらに1.5%以下であってもよい。Li2Oの含有率の好ましい範囲の一例は、0.2~2.5%であってNa2Oの含有率よりも高い範囲である。
【0033】
<B2O3とLi2Oとの共存>
B2O3とLi2Oとを共存させると(B2O3>0%、Li2O>0%)、ガラスの液相温度と失透温度とを適切に調整することが容易になる。B2O3とLi2Oとの共存は、ガラスの低比重化の観点からも有利である。B2O3とLi2Oとの含有率の合計は、0.1%以上、さらには0.5%を超えていること、特に0.7%以上が好ましく、場合によっては1%以上であってもよい。また、この合計は、5.5%以下、さらに5%以下、特に4%が好ましく、場合によっては3.5%以下であってもよい。B2O3及びLi2Oの含有率は、それぞれ0.1~4%、さらに0.2~3%、特に0.2~2.5%であってもよい。低比重化の観点から、B2O3及びLi2Oの含有率は、それぞれ0.1~1.3%であってもよい。
【0034】
B2O3とLi2Oとを適切な比で添加することが特性改善の観点からは有利である。B2O3/Li2Oにより示されるモル比は、0.2~5、さらには0.4~2.5、特に0.5~2、場合によっては0.8~1.25の範囲が好適である。
【0035】
(Na2O)
Na2Oは、Li2Oと同様、液相温度、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分である。ただし、Li2Oよりもヤング率を低下させる効果が大きいため、その含有率は0~0.2%であってもよい。Na2Oは、基本的に含有させないことが望ましいが、ガラス融液の清澄のために0.2%を限度として、さらには0.15%を限度として、例えば0%を超え0.1%未満の範囲で添加することが好ましい。
【0036】
<以上に説明した成分の合計>
以上に説明した7成分(SiO2、Al2O3、MgO、CaO、B2O3、Li2O及びNa2O)の含有率の合計は、95%以上、さらには97%以上、特に98%以上、とりわけ99%以上であることが好ましく、場合によって99.5%、さらには99.9%を上回っていてもよく、100%であってもよい。7成分の合計が100%になる実施形態では、言い換えると、ガラス組成物が、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、B2O3、Li2O及びNa2Oのみから構成される。
【0037】
<追加成分>
以上に説明した7成分以外の追加成分としては、以下を例示できる。ただし、追加成分が以下に限定されるわけではなく、追加成分の含有率の表示も例示である。
【0038】
(K2O)
K2Oも、Li2Oと同様、液相温度、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分であり、ガラス融液の清澄を促進する効果を奏する。ただし、Na2Oよりもヤング率を低下させる効果がさらに大きいため、その含有率は0~0.1%、さらに0~0.05%、特に0~0.03%の範囲に設定することが好ましい。
【0039】
(SrO)
SrOも、液相温度、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分である。ただし、SrOの添加によってもヤング率が低下することがある。また、多すぎるSrOはガラス融液の均質性を阻害することがある。したがって、SrOの含有率は、0~5%の範囲に設定することが好ましい。SrOの含有率は、3%以下、さらには1%以下、特に0.5%以下、とりわけ0.1%以下が好適である。また、SrOの含有率は、CaOの含有率との合計が8%以下、さらには6%以下、特に5%以下、場合によっては4%以下となるように設定することが好ましい。
【0040】
(BaO)
BaOも、液相温度、失透温度、粘度等の特性に影響を与える任意成分である。ただし、BaOを添加するとヤング率が著しく低下することがある。また、BaOは環境負荷や作業環境が大きい成分である。したがって、BaOは、実質的に含まないこととするのが好ましい。
【0041】
(遷移金属酸化物等)
遷移金属酸化物と呼ばれる遷移元素(周期表第3族~第11族)の酸化物も、追加成分として許容される。遷移金属酸化物としては、TiO2、ZrO2、Fe2O3、Y2O3、La2O3、CeO2を例示できる。第12族の元素の酸化物であるZnOも追加成分として許容される。これらの酸化物は、基本的には排除することが望ましいが、原料由来又は製造装置由来の不純物として不可避的に混入する場合がある。また、酸化物の種類によっては、その微量の添加が清澄剤等として効果を発揮する場合もある。第3族~第12族の元素の酸化物の含有率は、その合計により表示して、3%以下、さらには1%以下、特に0.5%以下が好ましく、必要があれば0.1%以下に制限してもよい。各遷移金属酸化物の含有率は、0.5%以下、特に0.3%以下、とりわけ0.1%以下であることが好ましい。
【0042】
TiO2及びY2O3の含有率の合計は、3%以下、さらに2%以下であってもよい。TiO2及びY2O3の含有率は、それぞれ、1%以下、0.7%以下であってもよい。これらの成分の含有率を抑制すると、製造コストにおいて有利になることがある。これらの成分の含有率の抑制は、低比重化の観点からも有利である。
【0043】
本明細書において、ガラス組成物において複数の価数をとって存在する遷移元素の酸化物の含有率は、その金属の酸化数が最大である酸化物に換算して算出することとする。例えば、酸化鉄は、通常、Fe2O3又はFeOとしてガラス組成物中に存在する。したがって、FeOとして存在している酸化鉄はFe2O3に換算され、Fe2O3として存在している酸化鉄と合算して、酸化鉄の含有率(慣用的に「T-Fe2O3」と表記される)が算出される。
【0044】
(その他の成分)
上記以外の追加の成分としては、SnO2、Sb2O3、Sb2O5、SO3、Cl及びFを例示できる。これらの成分は清澄剤として作用し得る。また別の追加の成分として、Ga2O3及びP2O5を例示できる。この欄に例示したSnO2からP2O5までの各成分の含有率も、0.5%以下、特に0.3%以下、とりわけ0.1%以下であることが好ましい。
【0045】
<ガラス組成物の好ましい形態の例示>
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、希土類元素の酸化物を実質的に含まない。本発明の別の一実施形態において、ガラス組成物は、0~0.5%のT-Fe2O3を含み、MgO、CaO及びFeOを除いて、2価の金属の酸化物を実質的に含まない。本発明のまた別の一実施形態において、ガラス組成物は、Li2O及びNa2Oを除いて、アルカリ金属酸化物を実質的に含まない。本発明のさらに別の一実施形態において、ガラス組成物は、TiO2及びZrO2を実質的に含まない。本発明のまたさらに別の一実施形態において、ガラス組成物は、窒化物の含有率が10重量%以下であり、好ましくは窒化物を実質的に含まない。本発明のまたさらに別の一実施形態において、ガラス組成物は、結晶化ガラスではない。言い換えると、X線回折によって結晶に由来する回折ピークが確認されない。
【0046】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、上述の7成分(SiO2、Al2O3、MgO、CaO、B2O3、Li2O及びNa2O)と追加の5成分(K2O、SrO、TiO2、ZrO2及びT-Fe2O3)の含有率の合計が、99%以上、さらには99.5%以上、特に99.9%以上、とりわけ99.95%以上、場合によっては100%である。この形態において、追加の5成分の含有率は、K2O:0~0.05%、SrO:0~5%、TiO2:0~0.1%、ZrO2:0~0.1%、T-Fe2O3:0~0.5%である。
【0047】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、上述の7成分(SiO2、Al2O3、MgO、CaO、B2O3、Li2O及びNa2O)と追加の3成分(K2O、TiO2及びT-Fe2O3)の含有率の合計が、99%以上、さらには99.5%以上、特に99.9%以上、とりわけ99.95%以上、場合によっては100%である。この形態において、追加の3成分の含有率は、K2O:0~0.05%、TiO2:0~0.1%、T-Fe2O3:0~0.5%である。
【0048】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、
SiO2 50~70%
Al2O3 7.5~26%
MgO 15~30%
CaO 0~8%
B2O3 0~3%
Li2O 0~3%
Na2O 0~0.2%
を含み、
MgOとCaOとの含有率の合計が18~35モル%の範囲にあり、
Al2O3/(MgO+CaO)により算出されるモル比が1.2以下である。
【0049】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、
SiO2 53~60%
Al2O3 11~15%
MgO 18~30%
CaO 0~5%
B2O3 0.2~1.5%
Li2O 0.5~2.5%
Na2O 0~0.2%
を含み、
Al2O3/(MgO+CaO)により算出されるモル比が0.3~0.5である。
このガラス組成物におけるMgOとCaOとの含有率の合計は18~35%の範囲にある。この実施形態は、失透温度を液相温度等との関係において好ましい範囲に調整することに特に適している。
【0050】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、
SiO2 53~60%
Al2O3 15~26%
MgO 17~30%
CaO 0~5%
B2O3 0.2~3%
Li2O 0.2~1.5%
Na2O 0~0.2%
を含み、
Al2O3/(MgO+CaO)により算出されるモル比が0.5~1.0、好ましくは0.7~0.9である。このガラス組成物におけるMgOとCaOとの含有率の合計は18~35%の範囲にある。この実施形態において、CaOの含有率は、0~4.5%であってもよい。この実施形態は、耐クラック荷重の向上に特に適している。
【0051】
本発明の一実施形態において、ガラス組成物は、
SiO2 56~70%
Al2O3 15~26%
MgO 15~26%
CaO 0~3%
B2O3 0~3%
Li2O 0~3%
Na2O 0~0.2%
を含み、
Al2O3/(MgO+CaO)により算出されるモル比が0.5~1.2である。この実施形態は、高Tg化、すなわち耐熱性の向上に特に適している。
【0052】
[ガラス板の特性]
HDD等の情報記録装置内では情報記録媒体の撓みの低減が求められている。例えば、HDDでは、上述したとおり、回転するプラッタの撓みにより、磁気ヘッドがプラッタに接触してクラッシュしうるためである。撓みの低減には、プラッタの基板を構成するガラス板の剛性が高いこと、具体的にはヤング率が高いことが望ましい。また、プラッタの基板を構成するガラス板の比重は低いことが望ましい。ガラス板の低比重化によるプラッタの軽量化は、HDDの消費電力の低減に寄与しうる。ガラス板の高ヤング率化及び低比重化は、複数枚のプラッタを備えるHDDに代表される、高容量化が進展した情報記録装置においてその重要性が特に高い。上述したように、熱アシスト記録に対応する磁気記録層との関係において、ガラス板の高Tg化もその重要性は高い。
【0053】
(比重)
本発明の一実施形態において、ガラス板の比重は、2.8以下、好ましくは2.7以下であり、より好ましくは2.65以下、さらに好ましくは2.64以下、特に好ましくは2.63以下である。この程度に比重が小さいガラス板は、特に情報記録媒体に適している。比重の下限は、特に限定されないが、2.5以上であってもよい。
【0054】
(ヤング率)
本発明の一実施形態において、ガラス板のヤング率は、94GPa以上、95GPa以上、97GPa以上、98GPa以上、さらに100GPa以上、好ましくは101GPa以上、さらに好ましくは103GPa以上、場合によっては104GPa以上である。ヤング率の上限は、特に限定されないが、110GPa以下、さらには107GPa以下、場合によっては105GPa以下であってよい。ヤング率の測定方法は、実施例の欄において説明する。ヤング率が高いガラス板は情報記録媒体に適している。
【0055】
(比弾性率)
比弾性率は、ヤング率を比重で除することにより求めることができる。比弾性率が高いガラス板は、情報記録媒体に特に適している。情報記録媒体は、高速で回転させたときにモータ等の駆動装置への負荷が小さく、かつ撓みが小さいことが望ましいためである。本発明の一実施形態において、ガラス板の比弾性率は、36MNm/kg以上、36.5MNm/kg以上、好ましくは37MNm/kg以上、さらに好ましくは38MNm/kg以上、特に好ましくは39MNm/kg以上である。
【0056】
(耐クラック荷重)
本発明の一実施形態において、ガラス板の耐クラック荷重は、300g以上であり、好ましくは400g以上、より好ましくは500g以上である。驚くべきことに、本発明の一実施形態によれば、耐クラック荷重が特別に高い、例えば900g以上、さらには1000g以上、特に1200g以上のガラス板を提供することも可能である。耐クラック荷重の上限は、特に限定されないが、2000g以下であってよい。耐クラック荷重の測定方法は、実施例の欄において説明する。耐クラック荷重が大きいガラス板は情報記録媒体に適している。本発明の別の一実施形態において、ガラス板は、その耐クラック荷重が300~550gの範囲にあり、かつその失透温度TLが1250~1350℃である。
【0057】
(高温粘性)
本発明の一形態において、ガラス板の温度T2(ガラス板の融液の液相粘度η(単位:dPa・s)の対数(logη)が2となる温度;液相温度)は、1490℃以下、1480℃以下、さらに1470℃以下、場合によっては1460℃以下であり得る。低いT2は、情報記録媒体の量産に適している。同様に、温度T2.5は、1400℃以下、1390℃以下、さらに1380℃以下、場合によっては1370℃以下であり得る。温度T3は、1310℃以下、1300℃以下、さらに1290℃以下、場合によっては1280℃以下であり得る。
【0058】
(失透温度)
本発明の一形態において、ガラス板の失透温度TLは、1450℃以下であり、好ましくは1400℃以下であり、より好ましくは1380℃以下、特に好ましくは1350℃以下である。失透温度TLが高いガラス板には結晶が析出しやすい。プラッタ等の情報記録媒体の表面に析出した結晶は、媒体の表面の平滑性を損なう要因になりうる。低い失透温度は、情報記録媒体用のガラス板においてその重要性が大きい。
【0059】
(高温粘性と失透温度との関係)
本発明の一実施形態において、液相温度T2から、ガラス板の失透温度TLを差し引いた値(ΔT)は、20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは100℃以上である。
【0060】
(ガラス転移温度)
本発明の一実施形態において、ガラス板のガラス転移温度(ガラス転移点)Tgは、700℃以上、さらに好ましくは725℃以上、より好ましくは750℃以上、特に好ましくは800℃以上である。Tgが高いガラス組成物は、情報記録媒体に特に適している。上述したとおり、記録層を形成する工程において高温処理が必要になることがあり、この場合には情報記録媒体に耐熱性が要求されるためである。ガラス転移温度Tgの上限は、特に限定されないが、例えば850℃である。
【0061】
液相粘度η、失透温度TL及びガラス転移温度Tgの測定方法は、実施例の欄において説明する。
【0062】
[情報記録媒体]
以上に説明したガラス板は、情報記録媒体としての利用に適している。ヤング率が高くて撓みにくく、比重が小さくてモータへの負荷が小さく、Tgが高くて耐熱性が高いガラス板は、情報記録媒体に特に適している。ガラス板は、円盤状の形状を有していてもよい。円盤状のガラス板は、その中心部に孔を有していてもよい。ガラス板の外径は、3.5インチ以下、2.5インチ以下、さらに1.8インチ以下であってもよい。ガラス板の厚みは、例えば1mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、0.635mm以下、さらに0.5mm以下であってもよい。
【0063】
ガラス板は化学強化ガラスとしてもよい。化学強化処理は、周知のとおり、ガラスに含まれるアルカリイオンをそれよりもイオン半径が大きいアルカリイオン、例えばリチウムイオンをナトリウムイオンにより、或いはナトリウムイオンをカリウムイオンにより置換することにより、ガラスの表面に圧縮応力を導入する処理である。ガラス板の化学強化処理は、通常アルカリイオンを含む溶融塩にガラス板を接触させることにより実施される。溶融塩としては、硝酸カリウム、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混塩を例示できる。硝酸カリウム単独の溶融塩を用いる場合、硝酸カリウムの熱分解及びガラスの耐熱性を考慮し、溶融塩の温度は460℃~500℃程度が適切である。ガラスと溶融塩とを接触させる時間は、例えば4時間~12時間が適切である。
【0064】
本実施形態のガラス板の表面粗さRaは、0.3nm以下、0.2nm以下、さらに0.1nm以下であってもよい。Raは、正確には、日本産業規格(JIS)B 0601-2001に規定されている算術平均粗さである。ガラス板は、少なくとも一方の主面において、好ましくは両方の主面において、上記程度に小さい表面粗さを有していればよい。表面平坦性に優れたガラス板は、情報記録媒体に適している。
【0065】
本実施形態のガラス板は、上述のとおり、低い失透温度TL、及び/又は、大きなΔTを有しうる。このため、研磨による表面粗さの低減に適している。失透が生じたガラス板には結晶粒が存在するため、精密に研磨したとしても、上述程度の平坦性を達成することは困難である。なお、上記程度の表面粗さの低減は、例えば、酸化セリウムを含む研磨剤を用いた精密研磨により達成できる。
【0066】
本実施形態のガラス板を製造する方法に特に制限はないが、フロート法よりもガラス融液の冷却速度が大きい方法、例えばプレス成形法、オーバフローダウンドロー法、ロールアウト法が適している。フロート法による製造は、冷却速度が極めて小さく、失透が生じやすいためである。フロート法により得られたガラス板、すなわちフロートガラスでは、フロート槽において熔融錫と接触したボトム面への錫の拡散が観察される。反対側のトップ面には錫が拡散しないため、フロートガラスの2つの主面の間には酸化錫の濃度差が観察される。この濃度差は、1質量%程度以上に至ることが多い。本実施形態のガラス板は、第1主面と第2主面との間の酸化錫(SnO2)濃度差が0.5質量%以下、さらに0.1質量%以下であってもよい。主面における酸化錫(SnO2)濃度は、主面近傍、具体的には主面から10μmの深さまでを測定したときのSnO2の最大濃度により表示できる。この最大濃度は、実施例の欄で述べる方法により測定できる。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
表1~2に示した組成となるようにガラス原料を調合し、1500~1600℃に保持した電気炉内で4時間溶融した。溶融時には、ガラスの均質性を確保するため、石英ガラス製の攪拌棒で複数回攪拌を行った。その後、溶融したガラスをステンレス製の枠内に流出させて板状のガラスを作製した。板状のガラスは、各ガラスのガラス転移温度+20~50℃の温度で2時間以上保持した後、約8時間程度かけて室温まで放冷することで徐冷した。こうして得たガラスに、研削加工及び研磨加工(酸化セリウム研磨)を施し、試料ガラスを得た。
【0068】
(比重)
比重(密度)は、試料ガラスの小片について、水を浸液として用いたアルキメデス法により測定した。
【0069】
(ヤング率)
ヤング率は、日本産業規格(JIS)R 1602-1995に記載された超音波パルス法に従って測定した。各試験片は5mm×25mm×35mmの直方体とした。また、測定は、室温、大気中で実施した。用いた装置は、Panametrics製model 25DLPlusである。また、ヤング率を比重で除して比弾性率を得た。
【0070】
(耐クラック荷重)
耐クラック荷重は、鏡面研磨した試料ガラスの表面にビッカース圧子を押し当てる試験により測定した。用いた装置はアカシ製作所製ビッカース硬度計である。試料ガラスは、平行平面を有する板状に加工した。また、圧子を押し当てる平面は、酸化セリウム研磨剤の懸濁液を用いて鏡面に研磨した。当該鏡面研磨面にビッカース圧子を15秒間押し当てて、除荷5分後に、試料ガラスの表面に残る正方形の圧痕においてその頂点からクラックが生じているかを計測した。クラックが生じたか否かは、ビッカース硬度計に組み込まれている顕微鏡を用いて観察して判断した。顕微鏡の倍率は100倍である。この計測を10回実施し、クラックが生じた頂点の数を計測した頂点の合計数40で除してクラック発生確率Pを算出した。以上の計測を、P=100%に達するまで、荷重50g、100g、200g、300g、500g、1000g、2000gの順に荷重を変えて繰り返し、各荷重でのクラック発生確率Pを求めた。こうして、P=50%を跨いで隣り合う2つの荷重WH及びWLとその時のクラック発生確率PH及びPL(PH<50%<PL)とを得た。荷重及びクラック発生確率をそれぞれ横軸及び縦軸として2点(WH,PH)、(WL,PL)を通る直線を描き、P=50%となる荷重を耐クラック荷重とした。
【0071】
(失透温度TL)
試料ガラスを粉砕し、目開き2.380mmの篩を通り、目開き1.000mmの篩に残ったガラス粒を集め、そのガラス粒をエタノールに浸漬して超音波洗浄した後、恒温槽で乾燥させた。このガラス粒30~32gを幅12mm、長さ200mm、深さ10mmの白金ボート上にほぼ一定の厚さになるように入れて測定試料とした。この白金ボートを950~1550℃の温度勾配を有する電気炉(温度勾配炉)内に2時間保持した。測定試料中に分布する結晶相(失透)が観察された部位の最高温度を液相温度TLとして評価した。
【0072】
(T2、T2.5、T3)
T2、T2.5、及びT3は、試料ガラスについて白金球引上げ法に25℃間隔で各温度での粘度を計測し、その中間の粘度はFulcherの式により算出することにより、測定した。
【0073】
(ガラス転移温度Tg)
試料ガラスから径5mm、長さ18mmの円柱状試料を作製し、TMA装置により5℃/分で加熱した際の熱膨張曲線を測定した。この曲線に基づいて、ガラス転移温度Tgを得た。
【0074】
(SnO2濃度)
電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA;日本電子製「JXA8600」)とそれに装着した波長分散型X線検出器(WDX;加速電圧:15kV,試料電流:2.5x10-7A、スキャンスピード:66μm/分、分光結晶:PET)を用い、ガラス板の表面から10μmの深さまでに存在する2価及び4価のSnを測定し、SnO2に換算した。測定は、ガラス板の両主面について実施した。10μmまでの深さの最大濃度を当該主面におけるSnO2の濃度とした。
【0075】
得られた各サンプルについて上述した特性を測定した。結果を表1~2に示す。比較例3~4から理解できるように、TiO2、Y2O3等の添加によりヤング率を引き上げることは可能である。しかし、実施例1~10から理解できるように、MgOによるヤング率の向上は、ヤング率の向上と共に、比重の制御を可能とする点で有利である。比較例1~2及び5~7におけるヤング率は、98GPa未満であった。比較例1~2は、T2が相対的に高く、量産にはやや不利でもある。なお、走査型プローブ顕微鏡(SPM;SII Nanotechnology製「SPI3700」)を用いて測定したところ、Raは、全実施例及び比較例の両面について、0.01nm~0.30nmの範囲にあった。また、ガラス板の両主面におけるSnO2濃度の相異は、全実施例及び比較例について、0.1質量%以下であった。
【0076】
【0077】