(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010849
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】自動運転システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
B60W30/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113110
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大杉 雅道
(72)【発明者】
【氏名】浦野 博充
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
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3D241DC39Z
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3D241DC59Z
(57)【要約】
【課題】車両の自動運転制御に関連するデータの履歴を適切に保存すること。
【解決手段】車両に搭載される自動運転システムは、車両の周囲の状況を認識して認識データを取得する処理と、認識データに基づいて車両の経路計画を生成する処理と、経路計画に従って車両の自動運転制御を行う処理と、自動運転制御に関連するデータログを記憶装置に記憶する処理と、を実行する。データログは、経路計画の生成に用いられたデータのログを含む。経路計画を生成する処理は、記憶装置の残容量を取得する処理と、残容量が所定量以下の場合に、認識データの精度を下げた対象データを生成し、対象データを用いて生成可能な経路計画を生成する処理と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される自動運転システムであって、
記憶装置と、1又は複数のプロセッサとを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
前記車両の周囲の状況を認識して認識データを取得する処理と、
前記認識データに基づいて前記車両の経路計画を生成する処理と、
前記経路計画に従って前記車両の自動運転制御を行う処理と、
前記自動運転制御に関連するデータログを前記記憶装置に記憶する処理と、
を実行するように構成され、
前記データログは、前記経路計画の生成に用いられたデータのログを含み、
前記経路計画を生成する処理は、
前記記憶装置の残容量を取得する処理と、
前記残容量が所定量以下の場合に、前記認識データの精度を下げた対象データを生成し、前記対象データを用いて生成可能な経路計画を生成する処理と、
を含む
ことを特徴とする自動運転システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転システムであって、
前記対象データを生成する処理は、前記認識データの解像度を下げる処理、前記認識データのサンプリングレートを下げる処理、及び前記認識データの表現を変更する処理の少なくとも何れかを含む
ことを特徴とする自動運転システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動運転システムであって、
前記経路計画の生成は、前記車両が走行する道路内における前記自動運転制御の走行トラジェクトリの生成である
ことを特徴とする自動運転システム。
【請求項4】
車両の自動運転を制御する制御方法であって、
前記車両の周囲の状況を認識して認識データを取得することと、
前記認識データに基づいて前記車両の経路計画を生成することと、
前記経路計画に従って前記車両の自動運転制御を行うことと、
前記自動運転制御に関連するデータログを記憶装置に記憶することと、
を含み、
前記データログは、前記経路計画の生成に用いられたデータのログを含み、
前記経路計画を生成することは、
前記記憶装置の残容量を取得することと、
前記残容量が所定量以下の場合に、前記認識データの精度を下げた対象データを生成し、前記対象データを用いて生成可能な経路計画を生成することと、
を含む
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の自動運転に関連するデータの履歴を保存するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数のノードを備え、当該複数のノードの間で通信が可能な交通システムを開示している。交通システムは、ノード間で送受信される情報を用いて、対象となるノードと対象となる物体との衝突危険度等を算出する。
【0003】
なお、本開示の技術分野或いはそれに関連する技術分野における出願時の技術レベルを示す文献としては、特許文献1の他にも特許文献2を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-149162号公報
【特許文献2】特開2020-021326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械学習モデルを利用して車両の自動運転制御を行う技術が知られている。車両の自動運転制御を事後的に検証するための方法として、自動運転制御に関連するデータログを車載記憶装置に保存することが考えられる。但し、車載記憶装置の容量には限界がある。そのため、容量不足が発生して必要なデータを保存できないような状況を回避することが望まれる。
【0006】
本開示の1つの目的は、車載記憶装置の容量が不足することを未然に防ぎ、自動運転制御に関連するデータログを適切に保存することを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つ目の観点は、車両に搭載される自動運転システムに関する。
自動運転システムは、記憶装置と、1又は複数のプロセッサとを備える。
1又は複数のプロセッサは、
車両の周囲の状況を認識して認識データを取得する処理と、
認識データに基づいて車両の経路計画を生成する処理と、
経路計画に従って車両の自動運転制御を行う処理と、
自動運転制御に関連するデータログを記憶装置に記憶する処理と、
を実行するように構成される。
データログは、経路計画の生成に用いられたデータのログを含む。
経路計画を生成する処理は、
記憶装置の残容量を取得する処理と、
残容量が所定量以下の場合に、認識データの精度を下げた対象データを生成し、対象データを用いて生成可能な経路計画を生成する処理と、
を含む。
【0008】
本開示の2つ目の観点は、車両の自動運転を制御する制御方法に関する。
制御方法は、
車両の周囲の状況を認識して認識データを取得することと、
認識データに基づいて車両の経路計画を生成することと、
経路計画に従って車両の自動運転制御を行うことと、
自動運転制御に関連するデータログを車両に記憶装置に記憶することと、
を含む。
データログは、経路計画の生成に用いられたデータのログを含む。
経路計画を生成することは、
記憶装置の残容量を取得することと、
残容量が所定量以下の場合に、認識データの精度を下げた対象データを生成し、対象データを用いて生成可能な経路計画を生成することと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、記憶装置の残容量が取得される。そして、残容量が所定量以下の場合には、対象データの精度が下げられ、精度を下げた対象データで生成可能な経路計画が生成される。対象データの精度が下げられることで、新たに保存されるデータの容量を小さくすることができる。こうして、残容量を温存し、保存すべきデータが保存できなくなる事態を未然に防ぐことができる。
【0010】
このように、本開示によれば、記憶装置の残容量が不足する事態を未然に防ぎ、自動運転制御に関連するデータログを適切に保存することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る車両の自動運転制御に関連する構成例を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る自動運転システムの構成例を示す概念図である。
【
図3】対象データの精度を下げる処理の具体例を説明するための概念図である。
【
図4】実施の形態に係る処理の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.車両の自動運転
図1は、本実施の形態に係る車両1の自動運転制御に関連する構成例を示すブロック図である。自動運転とは、車両1の操舵、加速、及び減速のうち少なくとも1つをオペレータによる運転操作によらず自動的に行うことである。自動運転制御は、完全自動運転制御だけでなく、リスク回避制御、レーンキープアシスト制御、等も含む概念である。オペレータは、車両1に搭乗するドライバであってもよいし、車両1を遠隔操作する遠隔オペレータであってもよい。
【0013】
車両1は、センサ群10、認識部20、計画部30、制御量算出部40、及び走行装置50を含んでいる。
【0014】
センサ群10は、車両1の周囲の状況を認識するために用いられる認識センサ11を含んでいる。認識センサ11としては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。センサ群10は、更に、車両1の状態を検出する状態センサ12、車両1の位置を検出する位置センサ13、等を含んでいてもよい。状態センサ12としては、速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等が例示される。位置センサ13としては、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサが例示される。
【0015】
センサ検出情報SENは、センサ群10によって得られる情報である。センサ検出情報SENは、認識センサ11が検出する認識センサ情報を含んでいる。例えば、センサ検出情報SENは、カメラによって撮影される画像や、LIDARによって得られる点群情報を含んでいる。また、センサ検出情報SENは、車両1の状態を示す車両状態情報を含んでいてもよい。センサ検出情報SENは、車両1の位置を示す位置情報を含んでいてもよい。
【0016】
認識部20は、センサ検出情報SENを受け取る。認識部20は、認識センサ11により得られる情報に基づいて、車両1の周囲の状況を認識する。例えば、認識部20は、車両1の周囲の物体を認識する。物体としては、歩行者、他車両(先行車両、駐車車両、等)、白線、道路構造物(例:ガードレール、縁石)、落下物、信号機、交差点、標識、等が例示される。認識結果情報RESは、認識部20による認識結果を示す。例えば、認識結果情報RESは、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す物体情報を含む。
【0017】
計画部(planner)30は、認識部20から認識結果情報RESを受け取る。また、計画部30は、車両状態情報、位置情報、予め生成された地図情報を受け取ってもよい。地図情報は、高精度3次元地図情報であってもよい。計画部30は、受け取った情報に基づいて、予め決められた走行経路に沿って走行するための車両1の経路計画PLNを生成する。走行経路は、例えば、車両1のオペレータによって予め入力される。別の例として、車両1の目的地がオペレータによって入力され、計画部30が入力された目的地までの走行経路を決定してもよい。
【0018】
経路計画PLNは、現在の走行車線を維持する、車線変更を行う、追い越しを行う、右左折を行う、操舵する、加速する、減速する、停止する、等を含む。更に、計画部30が行う経路計画PLNは、車両1の走行トラジェクトリを含んでいてもよい。走行トラジェクトリは、車両1が走行する道路内における目標位置及び目標速度を含んでいる。
【0019】
制御量算出部40は、計画部30から経路計画PLNを受け取る。制御量算出部40は、車両1が経路計画PLNに従って走行するために必要な制御量CONを算出する。経路計画PLNが走行トラジェクトリを含む場合、制御量CONは、車両1と走行トラジェクトリとの間の偏差を減少させるために要求される制御量であるということもできる。制御量CONは、操舵制御量、駆動制御量、及び制動制御量のうち少なくとも一つを含む。操舵制御量としては、目標舵角、目標トルク、目標モータ角、目標モータ駆動電流、等が例示される。駆動制御量としては、目標速度、目標加速度、等が例示される。制動制御量としては、目標速度、目標減速度、等が例示される。
【0020】
走行装置50は、操舵装置51、駆動装置52、及び制動装置53を含んでいる。操舵装置51は、車輪を転舵する。例えば、操舵装置51は、電動パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動装置52は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置52としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置53は、制動力を発生させる。走行装置50は、制御量算出部40から制御量CONを受け取る。走行装置50は、操舵制御量、駆動制御量、及び制動制御量のそれぞれに従って、操舵装置51、駆動装置52、及び制動装置53を動作させる。これにより、車両1が経路計画PLNに従って走行する。
【0021】
認識部20は、ルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。ルールベースモデルは、予め決められたルール群に基づいて認識処理を行う。機械学習モデルとしては、NN(Neural Network)、SVM(Support Vector Machine)、回帰モデル、決定木モデル、等が例示される。NNは、CNN(Convolutional Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。NNにおける各層の種類、層の数、ノード数は任意である。機械学習モデルは、機械学習を通して予め生成される。認識部20は、モデルにセンサ検出情報SENを入力することによって認識処理を行う。認識結果情報RESは、モデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0022】
計画部30も同様に、ルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。計画部30は、モデルに認識結果情報RESを入力することによって計画処理を行う。経路計画PLNは、モデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0023】
制御量算出部40も同様に、ルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。制御量算出部40は、モデルに経路計画PLNを入力することによって制御量算出処理を行う。制御量CONは、モデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0024】
認識部20、計画部30、及び制御量算出部40のうち2以上は、一体的に構成されていてもよい。認識部20、計画部30、及び制御量算出部40の全てが一体的に構成されていてもよい(End-to-End構成)。例えば、認識部20と計画部30は、センサ検出情報SENから経路計画PLNを出力するNNにより一体的に構成されていてもよい。一体的構成の場合であっても、認識結果情報RESや経路計画PLNといった中間生成物が出力されてもよい。例えば、認識部20と計画部30がNNにより一体的に構成される場合、認識結果情報RESは、NNの中間層の出力であってよい。
【0025】
認識部20、計画部30、及び制御量算出部40は、車両1の自動運転を制御する「自動運転制御部」を構成している。
【0026】
図2は、本実施形態に係る自動運転システム100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。自動運転システム100は、上述の自動運転制御部の機能を少なくとも有する。
【0027】
自動運転システム100は、処理部101と、センサ群10と、走行装置50と、アクチュエータ群60と、を含んでいる。処理部101は、センサ群10、走行装置50、及びアクチュエータ群60と通信可能に構成されている。
【0028】
処理部101は、1又は複数のプロセッサ110(以下、単にプロセッサ110と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置120(以下、単に記憶装置120と呼ぶ)を含むコンピュータである。
【0029】
プロセッサ110は、各種処理を実行する。プロセッサ110として、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、等が例示される。認識部20、計画部30、及び制御量算出部40は、単一のプロセッサ110で実現されてもよいし、別々のプロセッサ110で実現されてもよい。記憶装置120は、各種情報を格納する。記憶装置120としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。
【0030】
記憶装置120は、コンピュータプログラム130とモデルデータ140を格納している。
【0031】
コンピュータプログラム130は、プロセッサ110によって実行される。コンピュータプログラム130を実行するプロセッサ110と記憶装置120との協働により、自動運転システム100における各種処理が実現される。コンピュータプログラム130は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0032】
モデルデータ140は、認識部20、計画部30、及び制御量算出部40に含まれるモデルのデータである。モデルデータ140は、記憶装置120に格納される。プロセッサ110は、自動運転機能の実行において、モデルデータ140からモデルを選択して利用することにより、認識部20、計画部30、及び制御量算出部40を構成する。
【0033】
アクチュエータ群60は、車両1が備える各種機器のアクチュエータを含んでいる。例えば、アクチュエータ群60は、ステアリングホイールを振動させるための振動アクチュエータやステアリングホイールに反力トルクを発生させるための反力トルクアクチュエータを含んでいる。アクチュエータ群60は、処理部101により制御可能に構成されている。
【0034】
2.プロセッサによる処理
プロセッサ110がコンピュータプログラム130を実行することにより実現される処理は、認識データ取得処理、経路計画生成処理、及びデータログ記憶処理を含む。
【0035】
プロセッサ110は、認識データ取得処理によって認識データを取得する。認識データは、プロセッサ110が車両1の周囲の状況を認識することにより得られるデータである。つまり、ここでいう認識データは、認識センサ情報、及び認識結果情報RESの少なくともいずれかについてのデータである。
【0036】
プロセッサ110は、経路計画生成処理によって、認識データに基づいて車両1の経路計画を生成する。経路計画生成処理は、計画部30において実行される。
【0037】
プロセッサ110は、データログ記憶処理によって、自動運転制御に関連するデータログを記憶装置120に記憶する。記憶されるデータログは、経路計画の生成に用いられたデータのログを含む。
【0038】
また、経路計画生成処理は、残容量取得処理を含む。プロセッサ110は、残容量取得処理によって記憶装置120の残容量を取得する。
【0039】
残容量取得処理の結果、取得された残容量が所定量以下であった場合、プロセッサ110は、経路計画生成処理において認識データの精度を下げたデータを生成する。以下、精度を下げた認識データを対象データと呼ぶ。
【0040】
また、残容量取得処理によって取得された残容量が所定量以下であった場合、プロセッサ110は、経路計画生成処理において、対象データで生成可能な経路計画を生成する。
【0041】
以上の処理が行われることによる効果について説明する。データログ記憶処理におけるデータログの記憶は、機械学習モデルを利用した自動運転制御がどのように行われたかを後に検証することが必要になった場合等に備えて行われる。そのため、認識データのうち経路計画の生成に用いられたデータについては、取捨選択されることなく全てのデータログが記憶されることが望ましい。
【0042】
しかし、もし記憶装置120の残容量が減少し、必要な容量に対して不足する事態となれば、プロセッサ110は記憶装置120に新たなデータを記憶することができなくなってしまう。残容量取得処理は、このような事態を防ぐために行われる。
【0043】
つまり、残容量が所定量以下となり、容量が不足する可能性が示唆される場合には、精度が下げられた対象データを用いて経路計画が生成される。対象データは、データログの保存の対象となるデータである。つまり、データログの保存の対象となるデータの容量が小さくなることで、新たに記憶装置120に記憶されるデータログの容量を削減することができる。こうして、記憶装置120の残容量を温存し、残容量が不足して経路計画の生成に用いられた認識データが保存できなくなる事態を未然に防ぐことができる。
【0044】
また、残容量が少なくなっている場合には、対象データで生成可能な経路計画が生成される。具体的には、通常時よりも車両1の制御におけるマージンを大きく持たせた経路計画が生成される。通常時よりもマージンを大きくした経路計画が生成されることで、対象データを用いる場合であっても、車両1の走行の安全性を担保することができる。
【0045】
なお、対象データが生成されるのは、記憶装置120の残容量が所定量以下となった場合である。つまり、記憶装置120の残容量が十分にあり、残容量を温存する必要がない場面では通常通りの精度の認識データを用いて経路計画が生成される。そのため、マージンを確保するために車両1の経路計画の自由度を低くする必要はなくなり、車両1の乗員の満足度を保つことができる。
【0046】
3.対象データを生成する処理
図3には、対象データを生成する処理、つまり認識データの精度を下げる処理の具体例が3つ示されている。
【0047】
1つ目の例では、認識データの解像度が下げられる。解像度は、認識データに含まれる情報の密度を意味する。例えば、認識データがカメラによって撮影される画像である場合、解像度を下げることは、画像を構成する画素又はドットの数を減らすことを意味する。或いは、認識データがLIDARによって得られる点群情報である場合、解像度を下げることは、点群を構成する点の密度を下げることを意味する。
【0048】
2つ目の例では、認識データのサンプリングレートが下げられる。例えば、認識データが認識センサ11により得られる情報である場合、認識センサ11による検出頻度又は認識部20による認識センサ11からの情報の取得頻度の少なくともいずれかが下げられる。或いは、計画部30が認識部20から認識結果情報RESを取得する頻度が下げられてもよい。
【0049】
3つ目の例では、認識データの表現が変更される。より具体的には、認識データの表現がより抽象度の高い表現に変更される。例えば、認識結果情報RESの物体情報が示す他車両や歩行者についての情報を、他車両や歩行者の形状等も含む詳細な情報から、他車両や歩行者をバウンディングボックスで表した情報に変更する。或いは、認識結果情報RESの物体情報が、車両1が走行する車線の外に存在する縁石についての情報を含むとする。この場合には、例えば、物体情報を縁石の位置や高さも含む詳細な情報から、縁石が存在することのみを示す情報に変更する。
【0050】
つまり、対象データを生成することは、認識データを粗いデータにすることと言い換えることもできる。このように認識データの精度が下げられ、粗いデータとされることで、データの容量を少なくすることができる。例えば、認識データの解像度が下げられる場合、単位空間当たりの情報量が少なくなるため、同じ対象を認識したときに取得されるデータの容量は少なくなる。或いは、認識データのサンプリングレートが下げられる場合、単位時間当たりの情報量が少なくなるため、同じ時間に取得されるデータの容量は少なくなる。或いは、認識データの表現が抽象度の高い表現に変更された場合にも、取得されるデータの量は少なくなる。例えば、縁石の詳細な位置を含む情報よりも、縁石が存在することのみを示す情報の方がデータ容量は少なくなる。このように新たに取得されるデータの容量を減らすことで、記憶装置120の残容量を温存することができ、残容量が不足する事態を未然に防ぐことができる。
【0051】
また、プロセッサ110は、対象データを生成する場合には、対象データを用いて生成可能な経路計画を生成する。対象データを用いる場合、認識センサ情報や認識結果情報RESの誤差が大きくなる可能性がある。そこで、プロセッサ110は、認識センサ情報や認識結果情報RESの誤差が大きくなっても対応できるように、通常時よりもマージンを持たせた走行となるような車両1の経路計画PLNを生成する。
【0052】
例えば、プロセッサ110は、対象データを用いるときには、先行車両との車間距離を通常時よりも大きくとった経路計画PLNを生成する。或いは、プロセッサ110は、車両1を減速させる必要がある場面において、通常時よりもより早いタイミングで減速を開始するような経路計画PLNを生成する。或いは、プロセッサ110は、通常時よりも車両1の車線変更の回数が少なくなるような経路計画PLNを生成する。或いは、カーブした路面を走行する際に、通常時には効率のよい走行となるように車線の左右どちらかの端によって走行する場合でも、対象データを用いるときは車線の真ん中を走行するように経路計画PLNを生成する。
【0053】
4.処理例
図4は、プロセッサ110が実行する処理の例を示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートに係る処理は、例えば、自動運転制御を実行中に所定の処理周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップS110で、プロセッサ110は、記憶装置120の残容量を取得する。
【0055】
次にステップS120で、プロセッサ110は、ステップS110において取得した記憶装置120の残容量が所定量以下か否かを判断する。
【0056】
残容量が所定量以下であると判断されるとき(ステップS120;Yes)、処理はステップS130に進む。一方、残容量が所定量よりも多いと判断されるとき(ステップS120;No)、処理はステップS150に進む。
【0057】
ステップS130で、プロセッサ110は、認識データを取得する。さらに、プロセッサ110は、認識データの精度を下げることにより経路計画PLNの生成に用いられる対象データを生成する。より具体的には、プロセッサ110は、取得した認識データに対して、解像度を下げる、サンプリングレートを下げる、及び表現を変更する、ことの少なくともいずれかを行う。
【0058】
次にステップS140で、プロセッサ110は、ステップS130で生成した対象データに基づく経路計画PLNを生成する。ステップS140では、プロセッサ110は、対象データを用いて生成可能な経路計画PLNを生成する。具体的には、車両1の制御にマージンを持たせるような経路計画PLNが生成される。
【0059】
一方、ステップS150では、プロセッサ110は、認識データを取得する。認識データが取得される点についてはステップS130と同様である。ただし、ステップS150では、対象データの生成は行われない、つまり、認識データの精度を下げることは行われない。
【0060】
次にステップS160で、プロセッサ110は、ステップS150で取得した認識データに基づく経路計画PLNを生成する。ここでは、通常通りの経路計画PLNが生成される。つまり、車両1の制御におけるマージンを大きくすることは行われない。
【0061】
ステップS140又はステップS160の処理が行われた後、処理はステップS170に進む。ステップS170で、プロセッサ110は、経路計画の生成に用いられたデータのデータログを記憶装置120に記憶する。ステップS170の後、処理は終了する。
【0062】
5.応用例
データログ記憶処理によって記憶されたデータログは、機械学習モデルを利用した自動運転制御の検証等に用いられるため、データログの保存が特に求められるのは、機械学習モデルが適用される部分への入力となるデータである。そこで、精度が下げられる認識データについても、機械学習モデルが適用される部分への入力となるデータとされるとより適切である。例えば、認識部20のみに機械学習モデルが適用される場合には、経路計画生成処理において精度が下げられる認識データは、認識部20への入力となる認識センサ情報とされるとより適切である。
【0063】
また、記憶装置120の残容量が所定量以下の場合においてプロセッサ110が精度を下げる認識データは、道路内における走行トラジェクトリの生成に関わるデータに限定されてもよい。道路内における走行トラジェクトリの生成に関わる認識データは、例えば、車両1の周囲の物体に関する認識結果である。例えば、プロセッサ110は、車両1の前方に存在する障害物を認識し、認識結果に基づいて障害物を避けるための走行トラジェクトリを生成する。記憶装置120の残容量が所定量以下の場合には、このような、走行トラジェクトリの生成に関わる認識データの精度が下げられてもよい。
【0064】
また、プロセッサ110の少なくとも一部は、車両1の外部のサーバに含まれるプロセッサであってもよい。そして、
図4のフローチャートに例示される処理の一部又は全部は、車両1の外部のサーバにおいて行われてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…車両、10…センサ群、20…認識部、30…計画部、40…制御量算出部、50…走行装置、60…アクチュエータ群、100…自動運転システム、110…プロセッサ、120…記憶装置、CON…制御量、RES…認識結果情報、SEN…センサ検出情報、PLN…経路計画