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<図1>
  • 特開-電線支え及び電線束の支持方法 図1
  • 特開-電線支え及び電線束の支持方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010870
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】電線支え及び電線束の支持方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/30 20060101AFI20250116BHJP
   B61D 17/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
H02G3/30
B61D17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113149
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 晃
(72)【発明者】
【氏名】木元 裕勝
(72)【発明者】
【氏名】関根 眞一
(72)【発明者】
【氏名】矢島 雄太
【テーマコード(参考)】
5G363
【Fターム(参考)】
5G363AA16
5G363DA11
5G363DA16
5G363DC01
(57)【要約】
【課題】鉄道車両構体における電線の配線に係るコストの低減を図る。
【解決手段】電線支え10は、支持対象の複数の電線束の配線方向に延在すると共に、複数の電線束を受けるための受け面24を有する電線受け部20と、電線受け部20に孔状或いは切り欠き状に形成され、受け面24に複数の電線束を固定するための固定用結束手段が通される複数の通し部36と、電線受け部20から連続して設けられ、複数の電線束が電線受け部20によって鉄道車両構体の幅方向に配線される如く電線受け部20を配置するように、鉄道車両構体に取り付けられる取り付け部40とが、1枚の板状部材から一体に形成されて成る。これにより、複数の鋼板が溶接により井桁状に組み立てられた構造の従来の電線支えと比較して、部品点数及び作製工数の双方を低減することができるため、作製コストを低減することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両構体において、複数の電線束を支えるために取り付けられる電線支えであって、
前記複数の電線束の配線方向に延在すると共に、前記複数の電線束を受けるための受け面を有する電線受け部と、
該電線受け部に孔状或いは切り欠き状に形成され、前記受け面に前記複数の電線束を固定するための固定用結束手段が通される複数の通し部と、
前記電線受け部から連続して設けられ、前記電線受け部の延在方向が前記複数の電線束の配線方向と一致する如く前記電線受け部を配置するように、前記鉄道車両構体に取り付けられる取り付け部とが、
1枚の板状部材から一体に形成されて成ることを特徴とする電線支え。
【請求項2】
前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記受け面は、上下方向に並んだ複数のサブ受け面を含み、隣接するサブ受け面の間が、少なくとも部分的に前記複数の通し部によって区切られ、前記電線受け部の上端の2箇所が前記受け面と反対側に直角乃至略直角に折り曲げられることで、2つの前記取り付け部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電線支え。
【請求項3】
前記電線受け部の延在方向を側方向とし、前記2つの取り付け部を上側とした前記受け面の正面視で、前記電線受け部の、前記2つの取り付け部の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠かれた切り欠き状の前記通し部が形成され、前記側方向両側の2つの通し部のうちの少なくとも一方が、最上段に位置する前記サブ受け面の一部を切り欠いて、上から2段目の前記サブ受け面の上端まで及んでいることを特徴とする請求項2記載の電線支え。
【請求項4】
前記電線受け部は、前記複数のサブ受け面の隣接するサブ受け面間の少なくとも1つの位置に、前記受け面と反対側へと折り曲げられた折り曲げ部を有し、
前記2つの取り付け部は、該2つの取り付け部を上側とした前記電線受け部の側面視で、最下段のサブ受け面に対して前記2つの取り付け部が直交乃至略直交するような大きさで、前記受け面と反対側に折り曲げられていることを特徴とする請求項2記載の電線支え。
【請求項5】
前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記複数のサブ受け面は、前記複数の通し部によって区切られた部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっていることを特徴とする請求項2記載の電線支え。
【請求項6】
前記複数の通し部のうちの少なくとも一部の通し部が、前記側方向に延在していることを特徴とする請求項2記載の電線支え。
【請求項7】
前記複数の電線束の配線方向に互いに間隔を空けて、複数設置されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の電線支え。
【請求項8】
鉄道車両構体において、複数の電線束を支持するための方法であって、
前記複数の電線束の配線方向に延在すると共に、前記複数の電線束を受けるための受け面を有する電線受け部と、該電線受け部に孔状或いは切り欠き状に形成された複数の通し部と、前記電線受け部から連続して設けられ、前記鉄道車両構体に取り付けられる取り付け部と、を含む電線支えを、1枚の板状部材から一体に形成し、
前記電線受け部の延在方向が前記複数の電線束の配線方向と一致するように、前記取り付け部を介して前記電線支えを前記鉄道車両構体に取り付け、前記複数の通し部に通した固定用結束手段を利用して、前記受け面に前記複数の電線束を固定することを特徴とする電線束の支持方法。
【請求項9】
前記電線支えを形成する際に、
前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記受け面として、上下方向に並んだ複数のサブ受け面を形成すると共に、隣接するサブ受け面の間が少なくとも部分的に区切られるように、前記複数の通し部を形成し、前記電線受け部の上端の2箇所を前記受け面と反対側に直角乃至略直角に折り曲げることで、2つの前記取り付け部を形成することを特徴とする請求項8記載の電線束の支持方法。
【請求項10】
前記電線支えを形成する際に、
前記電線受け部の延在方向を側方向とし、前記2つの取り付け部を上側とした前記受け面の正面視で、前記電線受け部の、前記2つの取り付け部の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠いた切り欠き状の前記通し部を形成し、このとき、前記側方向両側の2つの通し部のうちの少なくとも一方を、最上段に位置する前記サブ受け面の一部を切り欠いて、上から2段目の前記サブ受け面の上端まで及ぶように形成することを特徴とする請求項9記載の電線束の支持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電線束を支えるための電線支え及びこれを用いた電線束の支持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両構体には、艤装される機器などで使用するための様々な電線が配線されており、種々の観点から配線方法にも創意工夫が為されている。例えば、特許文献1には、床下機器からの配線を側構体の内部を通して天井裏まで引き回す配線経路構造が開示されており、これによって配線の引き回し距離や引き回し作業が短縮されるため、材料費や作業費を含むコストの低減が図られるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-269728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図7には、鉄道車両構体の妻内面の上部において、複数の電線束の支持に用いられる従来の電線支え100を模式的に示しており、この電線支え100は、複数の鋼板が溶接により井桁状に組み立てられた構造を有している。そして、取り付け部分102を介して、図5(b)に示されるように鉄道車両構体60に取り付けられ、受け部分104に沿って3本の電線束80が結束バンドなどで固定されることで、電線支え100により電線束80が支持されるようになっている。このような電線支え100についても、コスト面などにおいて改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鉄道車両構体における電線の配線に係るコストの低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)鉄道車両構体において、複数の電線束を支えるために取り付けられる電線支えであって、前記複数の電線束の配線方向に延在すると共に、前記複数の電線束を受けるための受け面を有する電線受け部と、該電線受け部に孔状或いは切り欠き状に形成され、前記受け面に前記複数の電線束を固定するための固定用結束手段が通される複数の通し部と、前記電線受け部から連続して設けられ、前記電線受け部の延在方向が前記複数の電線束の配線方向と一致する如く前記電線受け部を配置するように、前記鉄道車両構体に取り付けられる取り付け部とが、1枚の板状部材から一体に形成されて成る電線支え。
【0007】
本項に記載の電線支えは、電線受け部、複数の通し部、及び取り付け部を含んでいる。電線受け部は、支持対象の複数の電線束を受けるための受け面を有し、その受け面と共に複数の電線束の配線方向に延在している。複数の通し部は、複数の電線束が電線受け部の延在方向に沿って受け面に固定される際に、電線束を結束する固定用結束手段が通されるものであって、電線受け部に孔状或いは切り欠き状に形成される。取り付け部は、電線支えを鉄道車両構体に取り付けるために、電線受け部から連続して設けられて鉄道車両構体に取り付けられる部位である。鉄道車両構体に対する取り付けの際に、取り付け部は、電線受け部の延在方向が、複数の電線束の配線方向と一致するような向きで、電線受け部を配置させるように取り付けられる。
【0008】
そして、本項に記載の電線支えは、上述した電線受け部、複数の通し部、及び取り付け部が、鋼板などの1枚の板状部材から、例えばレーザー加工や折り曲げ加工などによって一体に形成されて成るものである。これにより、複数の鋼板が溶接により井桁状に組み立てられた構造の従来の電線支えと比較して、部品点数及び作製工数の双方が低減されるため、作製コストが低減されるものとなる。また、レーザー加工品であるものとすれば、レーザー加工を行う際の作業工数が過大にならない範囲で、様々な形状に柔軟に対応するものとなり、形状変更も容易なものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記受け面は、上下方向に並んだ複数のサブ受け面を含み、隣接するサブ受け面の間が、少なくとも部分的に前記複数の通し部によって区切られ、前記電線受け部の上端の2箇所が前記受け面と反対側に直角乃至略直角に折り曲げられることで、2つの前記取り付け部が形成されている電線支え。
本項に記載の電線支えは、電線受け部の受け面が複数のサブ受け面を含むものであって、それら複数のサブ受け面は、電線受け部の延在方向を側方向とした受け面の正面視において、各々が側方向に延在して上下方向に並ぶ態様となる。このような複数のサブ受け面のうち、隣接するサブ受け面の間が、少なくとも部分的に複数の通し部によって区切られており、換言すれば、複数の通し部のうちの少なくとも一部が、隣接するサブ受け面の間に設けられている。これにより、複数の電線束は、複数のサブ受け面に分散して固定されるものとなる。
【0010】
更に、本項に記載の電線支えは、上記のように電線受け部の延在方向を側方向とした受け面の正面視で、電線受け部の上端の2箇所が受け面と反対側に直角乃至略直角に折り曲げられることで、2つの取り付け部が形成されたものである。このような2つの取り付け部を介して、例えば鉄道車両構体の妻内面の上部に、車内側に突出する態様で鉄道車両構体の幅方向に沿って設けられたフランジなどに対して、電線支えが取り付けられる。これにより、取り付け部の下方に位置する複数のサブ受け面に沿って、複数の電線束がその配線方向に配線されるような向きで、電線支えが鉄道車両構体に強固に取り付けられるものとなる。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記電線受け部の延在方向を側方向とし、前記2つの取り付け部を上側とした前記受け面の正面視で、前記電線受け部の、前記2つの取り付け部の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠かれた切り欠き状の前記通し部が形成され、前記側方向両側の2つの通し部のうちの少なくとも一方が、最上段に位置する前記サブ受け面の一部を切り欠いて、上から2段目の前記サブ受け面の上端まで及んでいる電線支え。
【0012】
本項に記載の電線支えは、電線受け部の延在方向を側方向とすると共に、2つの取り付け部を上側とした受け面の正面視において、電線受け部の、2つの取り付け部の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠かれた切り欠き状の通し部が形成されたものである。すなわち、このような切り欠き状の通し部は、各取り付け部への、電線受け部の側方向両端からの距離などに応じて、電線受け部の上方から、或いは電線受け部の上方及び側方向端部の双方から切り欠かれて形成される。そして、各取り付け部の側方向両側に位置する2つの通し部のうちの少なくとも一方が、上記のような受け面の正面視で最上段に位置するサブ受け面の一部を切り欠いて、上から2段目のサブ受け面の上端まで及んでいるものである。例えば、電線受け部の上方からのみ切り欠かれて形成される通し部は、上から2段目のサブ受け面の上端まで及んでいることが好ましい。
【0013】
これにより、各取り付け部の側方向両側には、電線受け部の上方及び側方向端部の双方から切り欠かれた通し部や、上から2段目のサブ受け面の上端まで切り欠かれた通し部が形成される。このような構成により、各取り付け部の側方向両側に、折り曲げられて形成された取り付け部の両側部を鉄道車両構体に取り付けるための、溶接などの作業スペースが確保される。これによって、各取り付け部の正面から視認できる部分に加えて、各取り付け部の両側部も、溶接などによって取り付けられるものとなるため、電線支えがより強固に固定されるものとなる。更に、作業スペースの確保により、取り付け作業が円滑に行われるものである。
【0014】
また、同じく上記のような切り欠き状の通し部の形成による作業スペースの確保によって、鉄道車両構体への取り付け部分から電線束を受ける部分までの間に取り付け作業スペースを確保する必要があった、従来の単純な井桁構造の電線支えよりも、取り付け部から最上段のサブ受け面までの距離が短くなるものである。換言すれば、従来の電線支えよりも、電線束を受ける複数のサブ受け面全体が高い位置に配置されることとなり、結果として複数の電線束がより高い位置に配線されるものである。このため、鉄道車両構体において当該電線支えの近傍に設置される他部材との干渉が低減され、配線作業が行い易くなると共に、他部材の設置スペースの拡大にも寄与するものとなる。しかも、上述した取付作業の円滑化及び配線作業の容易化と、サブ受け面の高位置化による材料費の低減とにより、更なるコストダウンが図られるものである。
【0015】
(4)上記(2)項において、前記電線受け部は、前記複数のサブ受け面の隣接するサブ受け面間の少なくとも1つの位置に、前記受け面と反対側へと折り曲げられた折り曲げ部を有し、前記2つの取り付け部は、該2つの取り付け部を上側とした前記電線受け部の側面視で、最下段のサブ受け面に対して前記2つの取り付け部が直交乃至略直交するような大きさで、前記受け面と反対側に折り曲げられている電線支え。
本項に記載の電線支えは、電線受け部が、受け面と反対側へと折り曲げられた折り曲げ部を有するものであり、この折り曲げ部は、複数のサブ受け面の隣接するサブ受け面間のうちの少なくとも1つの位置に設けられる。そして、2つの取り付け部は、これら2つの取り付け部を上側とした電線受け部の側面視で、最下段に位置するサブ受け面に対して2つの取り付け部が直交乃至略直交するような大きさで、受け面と反対側に折り曲げられている。すなわち、最下段のサブ受け面は折り曲げ部よりも下方に位置することから、2つの取り付け部における折り曲げと折り曲げ部における折り曲げとの、2段階の折り曲げが合わされて、最下段のサブ受け面と2つの取り付け部とが側面視で直交乃至略直交するような位置関係が実現される。
【0016】
これにより、電線受け部に折り曲げ部が形成されず、2つの取り付け部における折り曲げでのみ、最下段のサブ受け面と2つの取り付け部との上記のような位置関係が実現される場合と比較して、2つの取り付け部が最下段のサブ受け面よりも、側面視で受け面と反対側の方へシフトした位置に配置されることになる。このため、正面から2つの取り付け部へアクセスし易くなり、例えば溶接による取り付けの場合は、取り付け部の正面部分へ溶接トーチが入れ易くなって作業性が向上するものである。更に、2段階の折り曲げによって、鉄道車両構体の内面に取り付けられる際のその内面と電線受け部との間に、例えば内面に螺合されたネジ部材などが配置される場合であっても、そのような部材に干渉しないような位置への、折り曲げ部よりも下方のサブ受け面の配置に容易に対応するものとなる。
【0017】
(5)上記(2)項において、前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記複数のサブ受け面は、前記複数の通し部によって区切られた部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっている電線支え。
本項に記載の電線支えは、電線受け部の延在方向を側方向とした受け面の正面視において、複数の通し部によって少なくとも部分的に区切られている複数のサブ受け面の、その複数の通し部によって区切られた部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっているものである。これにより、配線束の固定時に、上下方向の大きさが等しい各サブ受け面の側方向の複数の位置において、常に同じような長さの固定用結束手段が用いられて作業が行われることになる。このため、配線束の固定作業の単純化や、固定用結束手段の使用長さの低減が図られるものとなる。更に、配線束の固定作業を行う作業者は、上記のように上下方向の大きさが等しくなっていることで、固定作業が行い易くなっている各サブ受け面の側方向の複数の位置において、固定用結束手段を巻き付けて配線束を固定するように促される。これにより、固定作業を行う作業者に関わらず、各サブ受け面において固定用結束手段が巻き付けられて配線束が固定される位置が、統一され易くなるものである。
【0018】
(6)上記(2)項において、前記複数の通し部のうちの少なくとも一部の通し部が、前記側方向に延在している電線支え。
本項に記載の電線支えは、隣接するサブ受け面の間などに孔状或いは切り欠き状に形成される、複数の通し部のうちの少なくとも一部の通し部が、側方向すなわち電線受け部の延在方向に延在しているものである。これにより、通し部に通される固定用結束手段を使用する固定結束作業の自由度が向上するものとなり、例えば、鉄道車両構体の幅方向に配線される電線束と、鉄道車両構体の天井部などから合流する電線とを含めた配線作業などにも柔軟に対応するものとなる。
【0019】
(7)上記(1)から(6)項において、前記複数の電線束の配線方向に互いに間隔を空けて、複数設置される電線支え。
本項に記載の電線支えは、複数の電線束の配線方向に互いに間隔を空けて複数設置されるものである。このときの複数の電線支えの設置間隔や設置位置などは、複数の電線束の支持に必要な規定の間隔や、各種の鉄道車両構体で互いに異なる、別部材との位置関係による制約などを加味して設定すればよい。更に、各電線支えの形状及び大きさは、上述の制約や上記(1)から(6)項の要件などを満たしつつ、可能な限り共通化を図るものとする。これにより、コストが抑制されながらも、複数種類の鉄道車両構体において、複数の電線束の長距離の配線にも問題なく対応するものである。
【0020】
(8)鉄道車両構体において、複数の電線束を支持するための方法であって、前記複数の電線束の配線方向に延在すると共に、前記複数の電線束を受けるための受け面を有する電線受け部と、該電線受け部に孔状或いは切り欠き状に形成された複数の通し部と、前記電線受け部から連続して設けられ、前記鉄道車両構体に取り付けられる取り付け部と、を含む電線支えを、1枚の板状部材から一体に形成し、前記電線受け部の延在方向が前記複数の電線束の配線方向と一致するように、前記取り付け部を介して前記電線支えを前記鉄道車両構体に取り付け、前記複数の通し部に通した固定用結束手段を利用して、前記受け面に前記複数の電線束を固定する電線束の支持方法。
【0021】
(9)上記(8)項において、前記電線支えを形成する際に、前記電線受け部の延在方向を側方向とした前記受け面の正面視で、前記受け面として、上下方向に並んだ複数のサブ受け面を形成すると共に、隣接するサブ受け面の間が少なくとも部分的に区切られるように、前記複数の通し部を形成し、前記電線受け部の上端の2箇所を前記受け面と反対側に直角乃至略直角に折り曲げることで、2つの前記取り付け部を形成する電線束の支持方法。
【0022】
(10)上記(9)項において、前記電線支えを形成する際に、前記電線受け部の延在方向を側方向とし、前記2つの取り付け部を上側とした前記受け面の正面視で、前記電線受け部の、前記2つの取り付け部の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠いた切り欠き状の前記通し部を形成し、このとき、前記側方向両側の2つの通し部のうちの少なくとも一方を、最上段に位置する前記サブ受け面の一部を切り欠いて、上から2段目の前記サブ受け面の上端まで及ぶように形成する電線束の支持方法。
そして、(8)から(10)項に記載の電線束の支持方法は、各々、上記(1)から(3)項の電線支えを利用して実行されることで、上記(1)から(3)項の電線支えと同様の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記のような構成であるため、鉄道車両構体における電線の配線に係るコストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る電線支えを示しており、(a)が正面図、(b)が側面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る電線支えを示しており、(a)が正面図、(b)が側面図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る電線支えを示しており、(a)が正面図、(b)が側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る電線支えを用いて電線束を配線した様子を示す、鉄道車両構体の妻内面の上部の概略図であって、(a)~(c)で鉄道車両構体の種類が異なるものである。
図5】本発明の実施の形態に係る電線支えと従来の電線支えとによる電線束の配線を比較するための、鉄道車両構体の妻内面の上部の一部概略図であり、(a)が本発明の実施の形態に係る電線支えのもの、(b)が従来の電線支えのものである。
図6】隣接するサブ受け面間に電線支えが折り曲げ部を有する場合と有さない場合との、溶接のし易さを比較するための側面イメージ図であり、(a)が折り曲げ部を有するもの、(b)が折り曲げ部を有さないものである。
図7】従来の電線支えを示す斜視イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体を通して、同一部分若しくは相当する部分は、同一の符号で示している。
図1図3は、各々、本発明の実施の形態に係る電線支え10の構成の一例を示している。詳しくは後述するが、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、例えば図4などに示すように、鉄道車両構体60の妻内面64の上部といった、鉄道車両構体60の何れかの位置において、複数の電線束80を支持するために利用されるものである。本発明の実施の形態に係る電線支え10は、例えば鋼板などの1枚の板状部材からレーザー加工及び折り曲げ加工などによって形成される。以降では、特に断り書きのない限り、各電線支え10が鋼板から形成され、設置位置へ溶接によって取り付けられる場合を例にして説明するが、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、鋼板以外の材料で形成されてもよい。加えて、以降では、本発明の実施の形態に係る電線支え10が、主に鉄道車両構体60の妻内面64の上部に取り付けられる場合を例にして説明するが、電線支え10の取り付け先は、鉄道車両構体60の側面内側や床下など、任意の位置であってよい。
【0026】
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る電線支え10Aは、受け面24を有する電線受け部20、電線受け部20に形成された複数の通し部36、及び2つの取り付け部40を含んでいる。電線受け部20の受け面24は、支持対象の複数の電線束80を受けるためのものであり、本実施形態では3つのサブ受け面28により構成される。3つのサブ受け面28の各々は、図1(a)における左右方向(側方向)に連続或いは断続して延在しており、これらのサブ受け面28に沿って電線束80が配線される。具体的に、最上段に位置するサブ受け面28は、後述するように通し部36b、36cの影響によって側方向に断続的に形成され、残る2つのサブ受け面28は、側方向に連続的に形成されている。
【0027】
複数の通し部36は、サブ受け面28に沿って電線束80を配線する際に、電線束80を固定するために使用される結束バンドなどの固定用結束手段が通される部位であって、図1の実施形態では、通し部36a~36jの10個の通し部36が設けられている。これらのうち、通し部36f及び36iは、側方向に延在する態様で孔状に形成され、残りの8個の通し部36は、切り欠き状に形成されている。より詳しくは、通し部36aは、図1(a)における上方及び左方から切り欠いて形成され、通し部36dは、図1(a)における上方及び右方から切り欠いて形成されている。通し部36b及び36cは、最上段のサブ受け面28の一部を通ってその下のサブ受け面28の上端に達する深さで、上方から切り欠いて形成され、それらの間が最上段のサブ受け面28の上方の切り欠きによって接続されている。通し部36e及び36hは、図1(a)における左方から切り欠いて形成され、通し部36g及び36jは、図1(a)における右方から切り欠いて形成されている。
【0028】
また、通し部36aは、図1(a)における左側の取り付け部40の左方、且つ最上段のサブ受け面28の上方に位置し、通し部36bは、左側の取り付け部40の右方、且つ上から2段目のサブ受け面28の上方に位置している。更に、通し部36cは、図1(a)における右側の取り付け部40の左方、且つ上から2段目のサブ受け面28の上方に位置し、通し部36dは、右側の取り付け部40の右方、且つ最上段のサブ受け面28の上方に位置している。これら4つの通し部36a~36dは、固定用結束手段を通すためのスペースだけでなく、取り付け部40を鉄道車両構体60に取り付ける際の作業スペースとしても利用される。一方、3つの通し部36e~36gは、最上段のサブ受け面28とその下のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に電線受け部20の図1(a)における左端、中央近傍、及び右端に位置している。同様に、3つの通し部36h~36jは、最下段のサブ受け面28とその上のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に電線受け部20の図1(a)における左端、中央近傍、及び右端に位置している。
【0029】
上記のようにして複数の通し部36が設けられていることで、3つのサブ受け面28は、図1(a)のような正面視で、複数の通し部36によって上下方向に区切られている部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっている。具体的には、最上段のサブ受け面28については、通し部36a及び36eの間の部分の大きさと、通し部36d及び36gの間の部分の大きさとが等しくなっている。上から2段目のサブ受け面28については、通し部36e及び36hの間の部分、通し部36b及び36iの間の部分、通し部36f及び36iの間の部分、通し部36c及び36iの間の部分、並びに通し部36g及び36jの間の部分の大きさが、互いに等しくなっている。同様に、最下段のサブ受け面28については、通し部36hと受け面24の下端との間の部分、通し部36iと受け面24の下端との間の部分、並びに通し部36jと受け面24の下端との間の部分の大きさが、互いに等しくなっている。更に、3つのサブ受け面28同士でも、上述した部分の大きさが互いに等しくなっている。
【0030】
取り付け部40は、電線支え10Aが鉄道車両構体60に取り付けられる際に利用される部位であって、本実施形態では、上述したように2つの取り付け部40が設けられている。2つの取り付け部40は、電線受け部20の上端の2箇所が受け面24と反対側(図1(b)における右側)に直角乃至略直角に折り曲げられることで、電線受け部20から連続して形成されている。例えば、2つの取り付け部40は、鉄道車両構体60の妻内面64の上部に、室内側に突出するように形成されたフランジ68(図6参照)の下方に重ねられた状態で、取り付け部40の、図1(a)のような正面視で視認できる部分や両側部が、溶接トーチ90を用いてフランジ68に対して溶接固定される。この際、2つの取り付け部40の両側に位置する通し部36a~36dが、上述したように、溶接トーチ90が挿入される溶接の作業スペースとして利用される。
【0031】
次に、図2を参照して、本発明の第2実施形態に係る電線支え10Bは、第1実施形態に係る電線支え10Aとの比較において、3つのサブ受け面28を有する電線受け部20、複数の通し部36、及び2つの取り付け部40を含む点が共通しているが、全体的な形状が異なっている。具体的に、第2実施形態に係る電線支え10Bは、第1実施形態に係る電線支え10Aよりも、側方向(図2(a)における左右方向)の長さが大きくなっており、また、電線受け部20に折り曲げ部32が形成されている。本実施形態の折り曲げ部32は、最上段のサブ受け面28とその下のサブ受け面28との間の位置が、受け面24と反対側(図2(b)における右側)へと僅かに折り曲げられることで形成されている。そして、2つの取り付け部40は、図2(b)のような側面視で、最下段のサブ受け面28に対して各取り付け部40が直交乃至略直交するような大きさで、受け面24と反対側に折り曲げられている。すなわち、第2実施形態に係る電線支え10Bの2つの取り付け部40は、第1実施形態に係る電線支え10Aの2つの取り付け部40よりも、折り曲げの角度が僅かに小さくなっている。
【0032】
第2実施形態に係る電線支え10Bには、10個の通し部36k~36tが設けられている。これらのうち、通し部36l~36n、36p、36q、36s、36tは、図1に示した通し部36b~36d、36f、36g、36i、36jと類似しているため、ここでの詳しい説明は省略する。通し部36kは、図2(a)のような正面視において、最上段のサブ受け面28の一部を通ってその下のサブ受け面28の上端に達する深さで、上方から切り欠いて形成され、その左方に位置するサブ受け面28の上方の切り欠きと接続されている。このため、最上段のサブ受け面28は、通し部36k~36mの影響によって側方向に断続的に形成されている。また、最上段のサブ受け面28は、折り曲げ部32に起因して、僅かに上方に傾いた状態になっている。
【0033】
通し部36oは、通し部36kに達しない長さで、図2(a)における左方から右方向に延在して切り欠かれて形成され、通し部36rは、通し部36sに達しない長さで、左方から右方向に延在して切り欠かれて形成されている。また、通し部36kは、図2(a)における左側の取り付け部40の左方、且つ上から2段目のサブ受け面28の上方に位置している。通し部36oは、最上段のサブ受け面28とその下のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に電線受け部20の図2(a)における左端に位置している。同様に、通し部36rは、最下段のサブ受け面28とその上のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に電線受け部20の図2(a)における左端に位置している。
【0034】
上記のようにして複数の通し部36が設けられていることで、電線支え10Bの3つのサブ受け面28は、複数の通し部36によって上下方向に区切られている部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっている。具体的には、以下の部分の上下方向の大きさが、同じサブ受け面28内で及び異なるサブ受け面28同士で、互いに等しくなっている。すなわち、受け面24の上端と通し部36oとの間の部分、受け面24の上端と通し部36pとの間の部分、通し部36n及び36qの間の部分、通し部36o及び36rの間の部分、通し部36k及び36rの間の部分、通し部36l及び36sの間の部分、通し部36p及び36sの間の部分、通し部36m及び36sの間の部分、通し部36q及び36tの間の部分、通し部36rと受け面24の下端との間の部分、通し部36sと受け面24の下端との間の部分、並びに通し部36tと受け面24の下端との間の部分である。
【0035】
ここで、上述した各サブ受け面28の上下方向の大きさとは、各サブ受け面28を正面視したときの大きさである。このため、折り曲げ部32が形成されている電線支え10Bでは、図2(a)のような正面視において、最上段のサブ受け面28の上述した部分の上下方向の大きさが、残り2つのサブ受け面28の上述した部分の上下方向の大きさよりも、僅かに小さく見えている。なお、第2実施形態に係る電線支え10Bには、図2に示された形状の、図2(a)のような正面視で左右対称のものも存在する。また、第2実施形態に係る電線支え10Bの電線受け部20、複数の通し部36、及び2つの取り付け部40の基本的な役割は、第1実施形態に係る電線支え10Aのものと同様である。
【0036】
更に、図3を参照して、本発明の第3実施形態に係る電線支え10Cは、第2実施形態に係る電線支え10Bとの比較において、3つのサブ受け面28及び折り曲げ部32を有する電線受け部20、複数の通し部36、及び2つの取り付け部40を含む点が共通しているが、全体的な形状が異なっている。具体的に、第3実施形態に係る電線支え10Cは、第2実施形態に係る電線支え10Bよりも、側方向(図3(a)における左右方向)の長さが更に大きくなっており、2つの取り付け部40間の距離も大きくなっている。また、最下段のサブ受け面28の図3(a)における左右方向の長さが、その上のサブ受け面28よりも右側に大きくなっている。
【0037】
第3実施形態に係る電線支え10Cには、複数の通し部36として、11個の通し部36u~36aeが形成されている。これらのうち、通し部36u~36w、36y、36abは、図1に示した通し部36a~36c、36e、36hと類似しているため、ここでの詳しい説明は省略する。通し部36xは、図3(a)のような正面視において、最上段のサブ受け面28の一部を通ってその下のサブ受け面28の上端に達する深さで、上方及び右方から切り欠いて形成されている。通し部36z及び36aaは、側方向に延在する態様で孔状に形成され、同様に、通し部36ac及び36adも、側方向に延在する態様で孔状に形成されている。通し部36aeは、図3(a)のような正面視において、最上段のサブ受け面28及びその下のサブ受け面28の一部を通って、最下段のサブ受け面28の上端に達する深さで、上方及び右方から切り欠いて形成されている。このため、通し部36aeは、通し部36xと接続されて形成されている。
【0038】
また、通し部36xは、図3(a)における右側の取り付け部40の右方、且つ上から2段目のサブ受け面28の上方に位置し、通し部36aeは、上から2段目のサブ受け面28の右方、且つ最下段のサブ受け面28の上方に位置している。通し部36z及び36aaは、最上段のサブ受け面28とその下のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に通し部36vと36wとの間に位置している。同様に、通し部36ac及び36adは、最下段のサブ受け面28とその上のサブ受け面28との間を区切るようにそれらの間に位置しており、更に通し部36abと36aeとの間に位置している。
【0039】
上記のようにして複数の通し部36が設けられていることで、電線支え10Cの3つのサブ受け面28についても、複数の通し部36によって上下方向に区切られている部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっている。具体的には、以下の部分の上下方向の大きさが、同じサブ受け面28内で及び異なるサブ受け面28同士で、互いに等しくなっている。すなわち、通し部36u及び36yの間の部分、受け面24の上端と通し部36zとの間の部分、受け面24の上端と通し部36aaとの間の部分、通し部36y及び36abの間の部分、通し部36v及び36acの間の部分、通し部36z及び36acの間の部分、通し部36aa及び36adの間の部分、通し部36w及び36adの間の部分、通し部36x及び36aeの間の部分、通し部36abと受け面24の下端との間の部分、通し部36acと受け面24の下端との間の部分、通し部36adと受け面24の下端との間の部分、並びに通し部36aeと受け面24の下端との間の部分である。
【0040】
ここで、上述した各サブ受け面28の上下方向の大きさとは、各サブ受け面28を正面視したときの大きさであり、電線支え10Cには、上述したように折り曲げ部32が形成されている。このため、図3(a)のような正面視において、最上段のサブ受け面28の上述した部分の上下方向の大きさは、残り2つのサブ受け面28の上述した部分の上下方向の大きさよりも、僅かに小さく見えている。なお、第3実施形態に係る電線支え10Cの電線受け部20、複数の通し部36、及び2つの取り付け部40の基本的な役割は、第1実施形態に係る電線支え10Aのものと同様である。
【0041】
続いて、図4には、種類が異なる3つの鉄道車両構体60A~60Cの各々の妻内面64の上部において、本発明の実施の形態に係る電線支え10を用いて、複数(3本)の電線束80を配線した様子を示している。何れの鉄道車両構体60においても、図中左側で上方まで配線された3本の電線束80が、鉄道車両構体60の幅方向(図中左右方向)に互いに間隔を空けて設置された4つの電線支え10に固定されて、幅方向の略全体にわたって配線されている。電線支え10の各々は、上述したように、2つの取り付け部40が、鉄道車両構体60の天井部に沿って設置されたフランジ68(図6参照)などに対して、溶接で固定されることで設置されている。
【0042】
図4(a)の鉄道車両構体60Aでは、2つの第1実施形態に係る電線支え10Aが幅方向の中央近傍に設置され、第2実施形態に係る電線支え10Bが左側に設置され、第3実施形態に係る電線支え10Cが右側に設置されている。同様に、図4(b)の鉄道車両構体60Bでも、2つの第1実施形態に係る電線支え10Aが幅方向の中央近傍に設置され、第2実施形態に係る電線支え10Bが左側に設置され、第3実施形態に係る電線支え10Cが右側に設置されている。これに対し、図4(c)の鉄道車両構体60Cでは、2つの第1実施形態に係る電線支え10Aが幅方向の中央近傍に設置され、第2実施形態に係る電線支え10Bが左側に設置され、図2(a)のものと左右対称形状の第2実施形態に係る電線支え10Bが右側に設置されている。
【0043】
図1図3も参照して、電線支え10の各々では、3つのサブ受け面28の各々に沿って電線束80が固定され、このとき、各サブ受け面28の上下に位置する通し部36などに通された固定用結束手段が利用されて、電線束80が固定される。各電線支え10に断続的に設けられた最上段のサブ受け面28では、断続の要因となっている切り欠き状の通し部36(図1の通し部36b及び36c、図2の通し部36k~36m、図3の通し部36v及び36w)を飛び越して、電線束80が配線されている。結果として、取り付け部40を介した電線支え10の取り付けにより、複数の電線束80が電線受け部20によって鉄道車両構体60の幅方向に配線されるように、複数のサブ受け面28を有する電線受け部20が配置されることになる。
【0044】
図4に示すように、複数種類の鉄道車両構体60における複数の電線束80の配線が、可能な限りの部材の共通化が考慮されて、第1実施形態に係る電線支え10A~第3実施形態に係る電線支え10Cの3種の形状の電線支え10で実現されている。これら3種の電線支え10A~10Cの使い分けは、電線受け部20と妻内面64との間のネジ部材72(図6参照)などの有無、他部材の制約を受けて断続的に設置されることがある取り付け先のフランジ68などの設置間隔、各電線支え10で固定支持できる電線束80の長さなどを考慮して行えばよい。
【0045】
ここで、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、上述したような構成に限定されるものではなく、設置先の鉄道車両構体60などに応じて様々な構成を取り得るものである。例えば、電線支え10の側方向の大きさは、電線束80を固定する必要がある長さに応じて任意に設定してよい。また、複数の通し部36の位置、形状、及び大きさは、溶接などの取り付け作業と、固定用結束手段を用いた配線作業との作業性などを考慮して、適切と考えられる任意の位置、形状、及び大きさに設定してよい。更に、取り付け部40は、直角乃至略直角での折り曲げ以外の方法で形成されてもよく、各電線支え10に1つのみ或いは3つ以上設けられてもよく、複数設けられる場合の側方向の間隔も任意に設定してよい。また、折り曲げ部32は、隣接するサブ受け面28間の1つの位置のみではなく、隣接するサブ受け面28間の2つ以上の位置に設けられていてもよく、例えば、図2及び図3における最下段のサブ受け面28とその上のサブ受け面28との間にも、折り曲げ部32が形成されてもよい。
【0046】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、図1図3に示すように、電線受け部20、複数の通し部36、及び取り付け部40を含んでいる。電線受け部20は、支持対象の複数の電線束80(図4参照)を受けるための受け面24を有し、その受け面24と共に複数の電線束80の配線方向(図中左右方向)に延在している。複数の通し部36は、複数の電線束80が電線受け部20の延在方向に沿って受け面24に固定される際に、電線束80を結束する固定用結束手段が通されるものであって、電線受け部20に孔状或いは切り欠き状に形成される。取り付け部40は、電線支え10を鉄道車両構体60(図4参照)に取り付けるために、電線受け部20から連続して設けられて鉄道車両構体60に取り付けられる部位である。鉄道車両構体60に対する取り付けの際に、取り付け部40は、図4に示すように、電線受け部20の延在方向が、複数の電線束80の配線方向と一致するような向きで、電線受け部20を配置させるように取り付けられる。
【0047】
そして、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、上述した電線受け部20、複数の通し部36、及び取り付け部40が、鋼板などの1枚の板状部材から、例えばレーザー加工や折り曲げ加工などによって一体に形成されて成るものである。これにより、複数の鋼板が溶接により井桁状に組み立てられた構造の従来の電線支え100(図7参照)と比較して、部品点数及び作製工数の双方を低減することができるため、作製コストを低減することが可能となる。また、レーザー加工品であるものとすれば、レーザー加工を行う際の作業工数が過大にならない範囲で、様々な形状に柔軟に対応することができ、形状変更にも容易に対応することができる。
【0048】
また、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、電線受け部20の受け面24が複数のサブ受け面28を含むものであって、それら複数のサブ受け面28は、図1図3の(a)のような、電線受け部20の延在方向を側方向とした受け面24の正面視において、各々が側方向に延在して上下方向に並ぶ態様となる。このような複数のサブ受け面28のうち、隣接するサブ受け面28の間が、少なくとも部分的に複数の通し部36によって区切られており、換言すれば、複数の通し部36のうちの少なくとも一部が、隣接するサブ受け面28の間に設けられている。これにより、複数の電線束80を、複数のサブ受け面28に分散して固定することができる。
【0049】
更に、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、上記のように電線受け部20の延在方向を側方向とした受け面24の正面視で、電線受け部20の上端の2箇所が受け面24と反対側(図1図3の(b)における右側)に直角乃至略直角に折り曲げられることで、2つの取り付け部40が形成されたものである。このような2つの取り付け部40を介して、例えば鉄道車両構体60の妻内面64の上部に、車内側に突出する態様で鉄道車両構体60の幅方向に沿って設けられたフランジ68(図6参照)などに対して、電線支え10が取り付けられる。これにより、取り付け部40の下方に位置する複数のサブ受け面28に沿って、複数の電線束80をその配線方向である鉄道車両構体60の幅方向に配線するような向きで、電線支え10を鉄道車両構体60に強固に取り付けることができる。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、図1図3の(a)のような、電線受け部20の延在方向を側方向とすると共に、2つの取り付け部40を上側とした受け面24の正面視において、電線受け部20の、2つの取り付け部40の各々の側方向両側に位置する部分に、少なくとも上方から切り欠かれた切り欠き状の通し部36が形成されたものである。すなわち、このような切り欠き状の通し部36は、各取り付け部40への、電線受け部20の側方向両端からの距離などに応じて、電線受け部20の上方から、或いは電線受け部20の上方及び側方向端部の双方から切り欠かれて形成される。そして、各取り付け部40の側方向両側に位置する2つの通し部36のうちの少なくとも一方が、上記のような受け面24の正面視で最上段に位置するサブ受け面28の一部を切り欠いて、上から2段目のサブ受け面28の上端まで及んでいるものである。すなわち、図1の通し部36b及び36c、図2の通し部36k~36m、図3の通し部36v~36xがそのような通し部36に相当する。
【0051】
これにより、各取り付け部40の側方向両側には、電線受け部20の上方及び側方向端部の双方から切り欠かれた通し部36(図1の通し部36a及び36d、図2の通し部36n、図3の通し部36u)や、上から2段目のサブ受け面28の上端まで切り欠かれた通し部36が形成される。このような構成により、各取り付け部40の側方向両側に、折り曲げられて形成された取り付け部40の両側部を鉄道車両構体60に取り付けるための、溶接などの作業スペースを確保することができる。これによって、各取り付け部40の正面から視認できる部分に加えて、各取り付け部40の両側部も、溶接などによって取り付けることができるため、電線支え10をより強固に固定することが可能となる。更に、作業スペースの確保により、取り付け作業を円滑に行うことができる。
【0052】
また、同じく上記のような切り欠き状の通し部36の形成による作業スペースの確保によって、図7に示すような、鉄道車両構体60への取り付け部分102から電線束80を受ける部分104までの間に取り付け作業スペースを確保する必要があった、従来の単純な井桁構造の電線支え100よりも、取り付け部40から最上段のサブ受け面28までの距離を短くすることができる。換言すれば、図5(b)のような従来の電線支え100よりも、図5(a)に示すように、電線束80を受ける複数のサブ受け面28全体を高い位置に配置することができるため、結果として複数の電線束80をより高い位置に配線することができる。このため、鉄道車両構体60の妻内面64の上部近傍などの、電線支え10の取り付け先の近傍に設置される他部材との干渉を低減することができ、配線作業を行い易くできると共に、他部材の設置スペースの拡大にも寄与することが可能となる。しかも、上述した取付作業の円滑化及び配線作業の容易化と、サブ受け面28の高位置化による材料費の低減とにより、更なるコストダウンを図ることもできる。
【0053】
更に、図2及び図3に示すように、本発明の第2及び第3実施形態に係る電線支え10B、10Cは、電線受け部20が、受け面24と反対側へと折り曲げられた折り曲げ部32を有するものであり、この折り曲げ部32は、複数のサブ受け面28の隣接するサブ受け面28間のうちの少なくとも1つの位置に設けられる。そして、2つの取り付け部40は、図2(b)及び図3(b)のような、これら2つの取り付け部40を上側とした電線受け部20の側面視で、最下段に位置するサブ受け面28に対して2つの取り付け部40が直交乃至略直交するような大きさで、受け面24と反対側に折り曲げられている。すなわち、最下段のサブ受け面28は折り曲げ部32よりも下方に位置することから、2つの取り付け部40における折り曲げと折り曲げ部32における折り曲げとの、2段階の折り曲げが合わされて、最下段のサブ受け面28と2つの取り付け部40とが側面視で直交乃至略直交するような位置関係が実現される。
【0054】
これにより、電線受け部20に折り曲げ部32が形成されず、2つの取り付け部40における折り曲げでのみ、最下段のサブ受け面28と2つの取り付け部40との上記のような位置関係が実現される場合と比較して、2つの取り付け部40を最下段のサブ受け面28よりも、側面視で受け面24と反対側の方へシフトした位置に配置することができる。参考として、図6には、本発明の実施の形態に係る電線支え10を(a)に、上記のような比較対象の電線支え110を(b)に示している。上記のような配置により、正面(図中左側)から2つの取り付け部40へアクセスし易くなり、例えば溶接による取り付けの場合は、取り付け部40の正面部分へ溶接トーチ90を入れ易くすることができ、溶接部分44の溶接の作業性を向上することが可能となる。更に、2段階の折り曲げによって、鉄道車両構体60の妻内面64と電線受け部20との間に、例えば妻内面64に螺合されたネジ部材72などが配置される場合であっても、そのようなネジ部材72に干渉しないような位置への、折り曲げ部32よりも下方のサブ受け面28の配置に容易に対応することができる。
【0055】
また、図1図3に示すように、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、電線受け部20の延在方向を側方向とした受け面24の正面視において、複数の通し部36によって少なくとも部分的に区切られている複数のサブ受け面28の、その複数の通し部36によって区切られた部分の上下方向の大きさが、互いに等しくなっているものである。これにより、配線束80の固定時に、上下方向の大きさが等しい各サブ受け面28の側方向の複数の位置において、常に同じような長さの固定用結束手段を用いて作業を行うことができる。このため、配線束80の固定作業の単純化や、固定用結束手段の使用長さの低減を図ることが可能となる。更に、配線束80の固定作業を行う作業者は、上記のように上下方向の大きさが等しくなっていることで、固定作業が行い易くなっている各サブ受け面28の側方向の複数の位置において、固定用結束手段を巻き付けて配線束80を固定するように促される。これにより、固定作業を行う作業者に関わらず、各サブ受け面28において固定用結束手段を巻き付けて配線束80を固定する位置を、統一し易くすることができる。
【0056】
また、図1図3に示すように、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、隣接するサブ受け面28の間などに孔状或いは切り欠き状に形成される、複数の通し部36のうちの少なくとも一部の通し部36が、側方向すなわち電線受け部20の延在方向に延在しているものである。これにより、通し部36に通される固定用結束手段を使用する固定結束作業の自由度を向上することができ、例えば、鉄道車両構体60の幅方向に配線される電線束80と、鉄道車両構体60の天井部などから合流する電線とを含めた配線作業などにも柔軟に対応することができる。
【0057】
加えて、本発明の実施の形態に係る電線支え10は、複数の電線束80の配線方向、例えば図4では鉄道車両構体60の幅方向に、互いに間隔を空けて複数設置されるものである。このときの複数の電線支え10の設置間隔や設置位置などは、複数の電線束80の支持に必要な規定の間隔や、各種の鉄道車両構体60で互いに異なる、妻内面64の上部などにおける別部材との位置関係による制約などを加味して設定すればよい。更に、各電線支え10の形状及び大きさは、上述の制約などを満たしつつ、可能な限り共通化を図るものとし、例えば図4では、複数種類の鉄道車両構体60における電線束80の配線を、3種類の電線支え10A~10Cによって実現している。これにより、コストを抑制しながらも、複数種類の鉄道車両構体60において、妻内面64の上部における幅方向などの、複数の電線束80の長距離の配線にも問題なく対応することが可能となる。
【0058】
他方、本発明の実施の形態に係る電線束の支持方法は、上述したような電線支え10(10A~10C)を利用して実行されることで、本発明の実施の形態に係る電線支え10と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0059】
10(10A~10C):電線支え、20:電線受け部、24:受け面、28:サブ受け面、32:折り曲げ部、36:(36a~36ae):通し部、40:取り付け部、60(60A~60C):鉄道車両構体、80:電線束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7