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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010874
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】容器詰麦芽発酵飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20250116BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20250116BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20250116BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C12C5/02
A23L2/56
A23L2/00 B
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113156
(22)【出願日】2023-07-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年7月5日にアサヒビール株式会社のウェブサイト(https://www.asahibeer.co.jp/news/2023/0705_4.html)にて公開 令和5年7月5日に神田スクエアホール(東京都千代田区神田錦町二丁目2番地1)にて製品発表
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】寺野 真維
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115MA03
4B117LC03
4B117LE10
4B117LG16
4B117LK06
4B117LK25
4B117LL01
4B117LP05
4B117LP17
4B128CP16
4B128CP39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】開栓後に容器から飲用する場合に優れたドリンカビリティーを示す容器詰麦芽発酵飲料を提供すること。
【解決手段】麦汁発酵液、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む容器詰麦芽発酵飲料であって、リナロール濃度とミルセン濃度との比率が0.5~24、ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率が1~9、及びβ-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率が1~9.5である、容器詰麦芽発酵飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁発酵液、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む容器詰麦芽発酵飲料であって、
リナロール濃度とミルセン濃度との比率が0.5~24、
ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率が1~9、及び
β-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率が1~9.5である、
容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項2】
リナロールの濃度が4~120ppb、ゲラニオールの濃度が7~43ppb、シトロネロールの濃度が6~46ppb、及びミルセンの濃度が1~15ppbである、請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項3】
10~50BUの苦味価を有する請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項4】
麦汁発酵液は、1~5%の外観エキス濃度を有する請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項5】
麦汁発酵液は、7~18%の原麦汁エキス濃度を有する請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項6】
麦汁発酵液は、25w/w%以上の麦芽比率を有する請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項7】
麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液である請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項8】
ビールテイスト飲料である請求項1に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項9】
前記容器はフルオープンエンドを備えた缶容器である請求項1~8のいずれか一項に記載の容器詰麦芽発酵飲料。
【請求項10】
麦汁発酵液、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む容器詰麦芽発酵飲料の製造方法であって、
リナロール濃度とミルセン濃度との比率を0.5~24、
ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率を1~9、及び
β-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率を1~9.5に調整すること、
を含む、容器詰麦芽発酵飲料の製造方法。
【請求項11】
前記容器はフルオープンエンドを備えた缶容器である請求項10に記載の容器詰麦芽発酵飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器詰麦芽発酵飲料に関し、特に、容器詰麦芽発酵ビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発泡酒や新ジャンルの展開によりビール市場に登場する製品の種類が多様化している。その結果、従来からビール市場の主流を占めてきたピルスナータイプのビールに加え、クラフトビール、ベルギービール等の多種多様な香味を有するビールへの人気が高まっている。容器詰麦芽発酵飲料に関しても同様の傾向が見られ、特に穀物及び/又はホップの香りに富み、重厚感がある香味に対する需要が高まっている。
【0003】
特許文献1には、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール及びリナロールを含有するビールテイスト飲料が記載されている。これらの香料は、柑橘的な香りを有すると共に、ビールテイスト飲料の保存による香味の劣化及び好ましくない香りの発生を抑制する効果を奏するものである。特許文献1において、保存により劣化する香味は、「柑橘的な香り」及び「フレッシュな香り」であり、保存により発生する好ましくない香味は、「甘く焦げたような香り」及び「酸化したビールの香り」である。
【0004】
特許文献2には、ゲラニオール及びシトロネロールから選ばれる少なくとも1種の成分を2質量ppb以上含有し、ミルセン、リナロール、ゲラニオール及びシトロネロール等のテルペン類を合計20質量ppm以上含有する、低糖質高麦芽比率のビールテイスト飲料が記載されている。低糖質のビールテイスト飲料において、麦芽比率を上げると、収斂味(しゅうれんみ)が強い飲料となってしまう問題がある。特許文献2のビールテイスト飲料は、香気成分の組成を調整することで、低糖質高麦芽比率ビールテイスト飲料の後味の収斂味を抑制する効果を奏するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-96560号公報
【特許文献2】特開2020-162601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
容器詰麦芽発酵飲料は容器に密閉されているため、容器内の空間には、麦芽、ホップ及び発酵に由来する香気成分が溜まっている。容器詰飲料はその容器に直接口をつけて飲用されることが多い。容器詰麦芽発酵飲料を開栓して飲用する場合、容器内の空間に溜まった香気成分の作用により、飲用者は麦芽発酵飲料の香気を強く感じてこれに飽きてしまう。そのため、容器詰麦芽発酵飲料は、解放された容器で提供される麦芽発酵飲料と比較してドリンカビリティーが低下している。麦芽発酵飲料がより多くの香気を含み、香味に重厚感がある場合、又はその飲料が充填されている容器の開口面積が大きい場合は、ドリンカビリティーの低下がより問題になる。尚、ドリンカビリティーとは、飽きずに何杯も飲み続けられる飲料の性質をいう。
【0007】
本発明は前記問題を解決するものであり、その目的とするところは、開栓後に容器から飲用する場合に優れたドリンカビリティーを示す容器詰麦芽発酵飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を提供する。
【0009】
[態様1]麦汁発酵液、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む容器詰麦芽発酵飲料であって、
リナロール濃度とミルセン濃度との比率が0.5~24、
ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率が1~9、及び
β-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率が1~9.5である、
容器詰麦芽発酵飲料。
【0010】
[態様2]リナロールの濃度が4~120ppb、ゲラニオールの濃度が7~43ppb、シトロネロールの濃度が6~46ppb、及びミルセンの濃度が1~15ppbである、態様1の容器詰麦芽発酵飲料。
【0011】
[態様3]10~50BUの苦味価を有する態様1又は2の容器詰麦芽発酵飲料。
【0012】
[態様4]麦汁発酵液は、1~5%の外観エキス濃度を有する態様1~3のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0013】
[態様5]麦汁発酵液は、7~18%の原麦汁エキス濃度を有する態様1~4のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0014】
[態様6]麦汁発酵液は、25w/w%以上の麦芽比率を有する態様1~5のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0015】
[態様7]麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液である態様1~6のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0016】
[態様8]ビールテイスト飲料である態様1~7のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0017】
[態様9]前記容器はフルオープンエンドを備えた缶容器である態様1~8のいずれかの容器詰麦芽発酵飲料。
【0018】
[態様10]麦汁発酵液、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む容器詰麦芽発酵飲料の製造方法であって、
リナロール濃度とミルセン濃度との比率を0.5~24、
ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率を1~9、及び
β-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率を1~9.5に調整すること、
を含む、容器詰麦芽発酵飲料の製造方法。
【0019】
[態様11]前記容器はフルオープンエンドを備えた缶容器である態様10の容器詰麦芽発酵飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、開栓後に容器から飲用する場合に優れたドリンカビリティーを示す容器詰麦芽発酵飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、容器詰麦芽発酵飲料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す容器詰麦芽発酵飲料及びその製造方法に限定されない。
【0022】
<麦芽発酵飲料>
麦芽発酵飲料は、原料として麦芽を使用してこれを発酵させて得られる飲料をいう。麦芽発酵飲料の具体例には、麦芽発酵ビールテイスト飲料等が該当する。麦芽発酵ビールテイスト飲料は、味及び香りからビールを想起することができるように設計された麦芽発酵飲料をいう。ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。例えば、ビール及び発泡酒は麦芽発酵ビールテイスト飲料に含まれる。
【0023】
本発明の容器詰麦芽発酵飲料は、麦汁発酵液を含有し、好ましくは、一般的なピルスナータイプのビールよりも多い量の香気成分を含有する。
【0024】
<麦汁発酵液>
麦汁発酵液とは、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を発酵させて得られる液をいう。麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の上面発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の下面発酵条件、例えば10℃前後でおよそ1週間発酵させた麦汁発酵液をいう。重厚感をある程度持たせつつもドリンカビリティーが担保された香味を提供する観点から、麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液であることが好ましい。
【0025】
<麦汁発酵液の製造>
麦汁発酵液の製造方法を以下に説明する。重厚感をある程度持たせつつもドリンカビリティーが担保された香味を提供する観点から、麦汁発酵液は、穀物及びホップの香りを強調したものであることが好ましい。
【0026】
まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに必要に応じて35~60℃で0~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸などへ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
【0027】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素剤を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0028】
糖化に供される穀類は麦芽を含む。糖化に供される穀類中の麦芽の含有量は、例えば25w/w%以上、好ましくは50w/w%以上、より好ましくは67w/w%以上である。糖化に供される穀類は麦芽100%であってもよい。尚、水を除く全原料に対する麦芽の割合(w/w%)を麦芽比率という。穀類中の麦芽の含有量が多いほど、得られる麦汁の麦芽由来の穀物香、旨味、コク感及び飲みごたえが強くなる。
【0029】
穀物感を強調した麦汁発酵液を製造する観点から、麦芽比率は、好ましくは50w/w%以上である。
【0030】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0031】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0032】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。上記麦汁煮沸の操作により、麦汁が得られる。
【0033】
麦汁の原麦汁エキス濃度は、低過ぎると水っぽくなり、飲みごたえに欠ける味となってしまう。一方、高過ぎると味が重くなり過ぎてしまい、口の中で不快なべたつきを感じてしまう。よって、香味のバランスを保つ観点から、本発明の麦汁の原麦汁エキス濃度は7~18%、好ましくは10~15%、より好ましくは12~14%である。麦汁の原麦汁エキス濃度は水分量を加減して調節することができる。
【0034】
得られた麦汁は、発酵に供される。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行う。接種する酵母は、上面発酵酵母を用いてもよく、下面発酵酵母を用いてもよい。
【0035】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は30~100%とすることが好ましい。麦汁発酵液の外観最終発酵度が30%未満であると、アミノ態窒素が十分に減少せず、麦汁発酵液のpHを十分に低下させるために多量の酸の添加が必要になることがある。本発明の麦汁発酵液の外観最終発酵度は、好ましくは、50~95%、より好ましくは、60~90%である。
【0036】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(%)を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0037】
尚、エキスとは不揮発性固形分をいう。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度を意味する。
【0038】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは外観最終エキスである。]
【0039】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0040】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0041】
外観最終発酵度は、例えば、糖化条件、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び原材料の種類や配合量などを調整することにより、制御することができる。例えば、糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、外観最終発酵度を高めることができる。
【0042】
発酵終了後、さらに、熟成工程として、得られた麦汁発酵液を貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の麦汁発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、麦汁発酵液が得られる。
【0043】
得られる麦汁発酵液は、1.0~5.0%の外観エキスを有する。外観エキスが1.0%未満であると、得られるビールテイスト飲料のビールらしい風味が失われ水っぽさを感じることがある。一方、外観エキスが5.0%を超えると、得られるビールテイスト飲料のビールらしいキレが弱くなることがある。外観エキスは、好ましくは1.5~4.5%、より好ましくは1.5~3.5%である。
【0044】
<容器詰麦芽発酵飲料の製造>
本発明の容器詰麦芽発酵飲料の製造方法は、麦汁発酵液を容器詰麦芽発酵飲料に含有させることを含む。この場合、麦汁発酵液を容器詰麦芽発酵飲料のベース液として使用してよく、麦汁発酵液を容器詰麦芽発酵飲料として使用してもよい。
【0045】
本発明の容器詰麦芽発酵飲料の製造方法は、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを、それぞれ下記濃度範囲及び下記比率範囲を充足するように調整することを含む。容器詰麦芽発酵飲料中の香気成分濃度は、香気成分自体を添加剤として添加する方法、又は香気成分を含有する香料を添加剤として添加する方法を使用して調整することができる。
【0046】
香気成分は原料から麦汁発酵液に導入されるため、高疎水性香気成分を含む原料の使用量を調節することによっても、容器詰麦芽発酵飲料の高疎水性香気成分濃度を調節することができる。リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含む原料の具体例としては、ホップ等が挙げられる。
【0047】
容器詰麦芽発酵飲料の製造方法において、香気成分の濃度の調節は、例えば、麦汁煮沸工程、冷却工程、発酵工程、熟成工程又はろ過工程等任意の工程で行うことができる。例えば、麦汁煮沸工程において調節する場合は、香気成分濃度に寄与する物質の添加量や添加タイミングを調節することで所望の香気成分濃度にすることが可能である。
【0048】
(香気成分)
本発明の容器詰麦芽発酵飲料は、香気成分として、少なくともリナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを含有する。
【0049】
リナロールは、式C1018Oで示されるモノテルペンアルコールであり、フローラル様の香気を有する香気成分である。ゲラニオールは、C1018Oで示されるモノテルペンアルコールであり、バラ様の香気を有する香気成分である。シトロネロールは、式C1020Oで示されるモノテルペンアルコールであり、バラ様の香気を有する香気成分である。ミルセンは、式C1016で示されるモノテルペンであり、青臭くホップらしい芳香を有する香気成分である。
【0050】
香気成分は、人工的に化学合成したものであっても、天然物に由来するもの、例えば酵母による発酵代謝物として得られるものであってもよい。また、香気成分に異性体(例:構造異性体及び光学異性体)が存在する場合、その香気成分は、いずれの異性体であってもよく、それらの異性体の混合物であってもよい。
【0051】
前記香気成分の濃度は、以下に示す範囲内の比率を充足する。それにより、リナロール、ゲラニオール及びβ-シトロネロールによる華やかな香気とミルセンによる青臭い香気が調和して、容器詰麦芽発酵飲料のドリンカビリティーが向上する。
【0052】
リナロール濃度とミルセン濃度との比率は0.5~24、好ましくは7~19より好ましくは9~15である。
【0053】
前記に加重して、ゲラニオール濃度とミルセン濃度との比率は1~9、好ましくは2~7、より好ましくは3~6である。
【0054】
前記に加重して、β-シトロネロール濃度とミルセン濃度との比率は1~9.5、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。
【0055】
また、容器詰麦芽発酵飲料のドリンカビリティーを向上させる観点から、本発明の容器詰麦芽発酵飲料は、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンを、それぞれ以下に示す範囲内の濃度にて含有することが好ましい。
【0056】
リナロールの濃度は、4~120ppb、好ましくは30~93ppb、より好ましくは50~80ppbである。
【0057】
前記に加重して、ゲラニオールの濃度は、7~43ppb、好ましくは15~35ppb、より好ましくは20~30ppbである。
【0058】
前記に加重して、シトロネロールの濃度は、6~46ppb、好ましくは10~35ppb、より好ましくは15~30ppbである。
【0059】
前記に加重して、ミルセンの濃度は、1~15ppb、好ましくは2~10ppb、より好ましくは3~8ppbである。
【0060】
(苦味価)
容器詰麦芽発酵飲料は、所定の苦味価(単位:BU)を有することが好ましい。容器詰麦芽発酵飲料が所定の苦味価を有することで、容器詰麦芽発酵飲料の香味がよりクラフトビール様に感じられる。ここで、苦味価とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標である。
【0061】
容器詰麦芽発酵飲料の苦味価は、10~50BUであることが好ましい。容器詰麦芽発酵飲料の苦味価が10BU未満であると、容器詰麦芽発酵飲料のクラフトビール様の苦味が不十分になる場合がある。また、容器詰麦芽発酵飲料の苦味価が50BUを超えると、容器詰麦芽発酵飲料の苦みが際立ち、嗜好性が低くなる場合がある。容器詰麦芽発酵飲料の苦味価は、20~40BUであることがより好ましく、25~35BUであることがさらに好ましい。
【0062】
苦味価は、例えばビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、8.15(2004)に記載の方法により測定することができる。
【0063】
容器詰麦芽発酵飲料の苦味価は、苦味物質を含む原材料(例えばホップ等)の品種やその使用量、及び当該原材料の添加のタイミング等を調整すること、又は苦味物質を適宜添加することによって調節することができる。苦味物質としては、単離したイソα酸を用いることができる。また、イソα酸はホップに含有されており、ホップ又はホップエキスとして用いることもできる。ホップ又はホップエキスとは、ホップの葉、その磨砕物、これらを水や熱湯で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物及び乾燥物を指す
【0064】
(その他の工程)
容器詰麦芽発酵飲料の製造方法は、公知の装置等を用いた、カラメル色素等を添加する工程、煮沸工程、pH調整工程、ろ過工程、香味調節工程、炭酸ガスを溶解させる工程等をさらに含んでもよい。
【0065】
容器詰麦芽発酵飲料の製造方法は、必要に応じて、食物繊維、大豆ペプチド、炭酸、エキス類、香料、酸味料、甘味料、苦味料、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、各種栄養成分等を添加する工程をさらに含んでもよい。
【0066】
(容器)
製造された容器詰麦芽発酵飲料は容器に充填され、密閉される。容器の種類としては、樽容器、缶容器、PETボトル容器、瓶容器など、容器詰麦芽発酵飲料の容器として、通常用いられる容器を用いることができる。中でも開口面積が大きい容器は、缶から飲用する時に香りを強く感じることができ、容器詰麦芽発酵飲料のドリンカビリティーの向上効果が大きくなるので好ましい。容器詰麦芽発酵飲料の容器としては、例えば、プルオープンタブを備えた缶容器、ステイオンタブを備えた缶容器、フルオープンエンドを備えた缶容器を使用することが好ましく、フルオープンエンドを備えた缶容器を使用することがより好ましい。
【実施例0067】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行った。次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得た。得られた麦汁の原麦汁エキス濃度は12.7%であった。この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液(麦汁下面発酵液)を得た。麦汁発酵液のアルコール度数は5.6v/v%、外観エキス濃度は2.2%であった。
【0069】
また、香気成分として、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール及びミルセンの濃度を、攪拌枝吸着抽出法(SBSE法:Stir Bar Sorptive Extraction)を使用して測定した。この麦汁発酵液を試料1とした。
【0070】
上記香気成分を、香気組成を調整するための香料として準備した。そして、これらを試験区1の麦汁発酵液に所定量含有させた。香気成分の種類及び量を表1~4に示す。このようにして、香気組成を調整した麦汁発酵液である、試料2~20を製造した。
【0071】
[ドリンカビリティー評価]
製造した麦汁発酵液を訓練されたパネリスト4名によるドリンカビリティー評価に供した。まず、各試料を内容量350mlの缶容器に充填し、フルオープンエンドの缶蓋を取り付けて缶容器詰飲料を得た。その後、得られた飲料を8℃に調温し、パネリストが開栓して飲用を開始し、その時点から5分間に飲用した量を測定した。4名におけるこの飲用量の平均を用いて、ドリンカビリティーをA~Dの4段階で評価した。A~Dの評価基準は、平均が170ml以上の場合をA、167ml以上170ml未満をB、160ml以上167ml未満をC、160ml未満をDとした。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】