(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010881
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】漏電遮断器
(51)【国際特許分類】
H01H 83/02 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
H01H83/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113169
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】谷 敏明
【テーマコード(参考)】
5G030
【Fターム(参考)】
5G030XX15
5G030XX17
5G030YY13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】漏電遮断試験の精度を高めた漏電遮断器を提供する。
【解決手段】電源と負荷との間に接続される給電線と、磁性コアと、磁性コアに巻き付けられ、給電線からの漏洩電流を検出する検出コイルと、を備える零相変流器と、検出コイルに接続され、検出コイルで検出された漏洩電流の信号を第1デジタル信号に変換するA/D変換回路と、第1デジタル信号に基づき、漏電遮断を制御する制御回路と、漏洩電流の周期と異なる周期で、パルス電流を出力するパルス電流出力素子と、磁性コアの、検出コイルとは異なる位置に巻き付けられ、パルス電流出力素子から取得したパルス電流を流す試験用コイルと、を備え、検出コイルは、試験用コイルに流れたパルス電流に誘起される試験電流を検出し、A/D変換回路は、検出コイルで検出された試験電流の信号を第2デジタル信号に変換し、制御回路は、第2デジタル信号に基づき、試験遮断を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間に接続される給電線と、
磁性コアと、前記磁性コアに巻き付けられ、前記給電線からの漏洩電流を検出する検出コイルと、を備える零相変流器と、
前記検出コイルに接続され、前記検出コイルで検出された前記漏洩電流の信号を第1デジタル信号に変換するA/D変換回路と、
前記第1デジタル信号に基づき、漏電遮断を制御する制御回路と、
前記漏洩電流の周期と異なる周期で、パルス電流を出力するパルス電流出力素子と、
前記磁性コアの、前記検出コイルとは異なる位置に巻き付けられ、前記パルス電流出力素子から取得した前記パルス電流を流す試験用コイルと、
を備え、
前記検出コイルは、前記試験用コイルに流れた前記パルス電流によって誘起される試験電流を検出し、
前記A/D変換回路は、前記検出コイルで検出された前記試験電流の信号を第2デジタル信号に変換し、
前記制御回路は、前記第2デジタル信号に基づき、試験遮断を制御する、
漏電遮断器。
【請求項2】
前記パルス電流出力素子は、前記漏洩電流より短い周期で前記パルス電流を出力する、請求項1に記載の漏電遮断器。
【請求項3】
前記パルス電流の周期は、前記A/D変換回路で実行された、前記第1デジタル信号のサンプリングの周期の2倍に対応し、
前記試験電流の周期及び前記第2デジタル信号の周期は、前記第1デジタル信号の周期に対応する、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項4】
前記制御回路は、前記パルス電流出力素子に出力する駆動信号を通じて、前記パルス電流出力素子における前記パルス電流の出力動作を制御する、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項5】
前記制御回路は、前記A/D変換回路で変換された複数の前記第2デジタル信号における各信号値の絶対値を順に足し合わせた値が、閾値以上である場合、前記試験遮断に基づく遮断信号を出力する、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項6】
前記A/D変換回路は、前記漏洩電流の信号及び前記試験電流の信号を、互いに同一周期でサンプリングする、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項7】
前記制御回路から出力される、漏電遮断情報及び試験遮断情報のそれぞれを記憶する記憶部をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項8】
前記給電線から送電される交流電力を直流電力に変換する電源回路と、
前記電源回路と前記パルス電流出力素子との間に接続され、前記電源回路から前記パルス電流出力素子に流れる電流を制限する電流制限素子と、
をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項9】
前記制御回路に接続され、試験開始信号を前記制御回路に出力する試験開始スイッチをさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の漏電遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、漏電遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
電源及び負荷の間に接続される給電線からの漏電を検出し、電源から負荷への電力供給を遮断する漏電遮断器が知られている。また、漏電遮断試験を実行可能な漏電遮断器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
漏電遮断器において、漏電遮断試験の精度を高めることが要望されている。
【0005】
本開示は、漏電遮断試験の精度を高めた漏電遮断器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様では、電源と負荷との間に接続される給電線と、磁性コアと、前記磁性コアに巻き付けられ、前記給電線からの漏洩電流を検出する検出コイルと、を備える零相変流器と、前記検出コイルに接続され、前記検出コイルで検出された前記漏洩電流の信号を第1デジタル信号に変換するA/D変換回路と、前記第1デジタル信号に基づき、漏電遮断を制御する制御回路と、前記漏洩電流の周期と異なる周期で、パルス電流を出力するパルス電流出力素子と、前記磁性コアの、前記検出コイルとは異なる位置に巻き付けられ、前記パルス電流出力素子から取得した前記パルス電流を流す試験用コイルと、を備え、前記検出コイルは、前記試験用コイルに流れた前記パルス電流によって誘起される試験電流を検出し、前記A/D変換回路は、前記検出コイルで検出された前記試験電流の信号を第2デジタル信号に変換し、前記制御回路は、前記第2デジタル信号に基づき、試験遮断を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、漏電遮断試験の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る漏電遮断器の全体構成の一例を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る漏電遮断器の試験用コイルに流れるパルス電流の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る漏電遮断器における零相変流器の検出コイルに流れる試験電流の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る漏電遮断器の制御回路で処理される試験信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態に係る漏電遮断器について説明する。なお、「接続」とは、物理的な接続に限られず、電気的な接続の意味を含んでよい。例えば、物体Aが物体Bに接続されるとは、物体Aが物体Bに導電的に(例えば、同電位に)接続される場合に限られず、物体Aが物体Cを介して物体Bに導電的に接続される場合を含んでよい。
【0010】
実施形態に係る漏電遮断器10は、漏洩電流に係るアナログ信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号に基づき、漏電の有無を検出する電子式の漏電遮断器である。
【0011】
漏電遮断器10は、電源1と負荷3の間に接続される。漏電遮断器10は、漏電の検出に応じて、電源1から負荷3への電力供給を遮断するよう動作する、漏電遮断機能を有する。また、漏電遮断器10は、漏電遮断機能が適正に働くか否かを試験する試験機能を有する。漏電遮断器10は、漏電遮断機能の試験の精度を高めることを目的とする。
【0012】
<漏電遮断機能>
漏電遮断器10の試験機能を説明する前提として、はじめに、漏電遮断器10の漏電遮断機能について説明する。
図1を参照して、漏電遮断器10の漏電遮断機能に関連する構成を説明する。
図1は、本実施形態の漏電遮断器10の全体構成を示す模式図である。
【0013】
図1に示すように、漏電遮断器10は、給電線20a,20bと、零相変流器30と、増幅回路41と、A/D変換回路42と、制御回路50と、不揮発性メモリ52と、感度電流切替スイッチ55と、引外し部60と、電源回路71と、を備える。なお、漏電遮断器10は、試験機能を果たすための構成要素である、試験開始スイッチ110と、パルス電流出力素子120と、電流制限素子130と、試験用コイル140と、をさらに備える。試験機能を果たすためのこれらの構成要素に関しては、別途説明する。
【0014】
給電線20a,20bのそれぞれは、電源1と負荷3の間に接続される。電源1から送電された電力は、給電線20a,20bを通じて、負荷3に供給される。すなわち、給電線20a,20bのそれぞれは、電源1から負荷3に電力を供給するための電路に対応する。
【0015】
ここで、電源1の例として、交流電力を送電する電力系統が挙げられる。電源1は、商用の電力系統であってもよいし、それ以外の電力系統であってもよい。また、電源1は、U相、V相及びW相の3相の交流電力を送電するものであってよいし、単相の交流電力を送電するものであってもよい。
【0016】
負荷3は、電源1及び給電線20a,20bを通じて送電された電力によって駆動する機器である。負荷3の例として、モータ等の電動機が挙げられる。ただし、負荷3の種類は、これに限定されない。
【0017】
給電線20aの一端は、漏電遮断器10の電源側端子22aを通じて、電源1と接続される。給電線20aの他端は、漏電遮断器10の負荷側端子23aを通じて、負荷3と接続される。また、給電線20bの一端は、漏電遮断器10の電源側端子22bを通じて、電源1と接続される。給電線20bの他端は、漏電遮断器10の負荷側端子23bを通じて、負荷3と接続される。
【0018】
給電線20aは、給電線20aの開閉を切り替える遮断スイッチをさらに備える。また、給電線20bは、給電線20bの開閉を切り替える別の遮断スイッチをさらに備える。各遮断スイッチの接点が閉じている場合、給電線20a,20bを含む電路を通じて、電源1から負荷3に電力が供給される。これに対して、引外し部60の遮断動作に応じて、それぞれの遮断スイッチの接点が開く。この場合、給電線20a,20bが遮断される。なお、それぞれの遮断スイッチの図示を省略する。
【0019】
電源1からU相、V相、W相の三相の交流電力が送電される場合、漏電遮断器10は、さらに別の給電線を備える。さらに別の給電線は、給電線20a,20bと同様、電源1及び負荷3の間に接続されるとともに、引外し部60の遮断動作に応じて接点を開く遮断スイッチを備える。
【0020】
電源1から負荷3への交流電力が、給電線20a,20bを含む3本の給電線を通じて送電される場合、例えば、給電線20aは、U相の交流電力を送電する。給電線20bは、V相の交流電力を送電する。給電線20a,20bとは別の給電線は、W相の交流電力を送電する。
【0021】
以下、電源1と負荷3の間に接続される給電線として、2本の給電線20a,20bを例に説明する。ただし、漏電遮断器10が、給電線20a,20b及び別の給電線を含む3本の給電線を備える場合に関しても、同様の説明が成り立つ。
【0022】
零相変流器30は、給電線20a,20bで生じた漏洩電流を検出する。
図1に示すように、零相変流器30は、リング状の磁性コア31と、検出コイル32と、を備える。検出コイル32は、磁性コア31に巻き付けられた巻線である。
【0023】
磁性コア31は、給電線20a,20bの外側に周設される。すなわち、給電線20a,20bのそれぞれは、磁性コア31の内側を通過する。磁性コア31を構成する物質は、給電線20a,20bに電流が流れたことに対応して、内部に磁束を通す物質であれば、特に限定されない。一例として、Fe-Ni系の磁性合金が挙げられる。
【0024】
検出コイル32は、零相変流器30において、二次巻線とも称されるコイルである。検出コイル32は、磁性コア31内の磁束密度の変化によって励磁された電流を検出する。換言すれば、検出コイル32は、零相変流器30における漏洩電流の検出部に対応する。
【0025】
ここで、給電線20a,20bに漏洩電流が生じた場合、給電線20a,20bのそれぞれに流れた相電流の合成値(合成ベクトルの大きさ)は、「0」以外の値になる。その結果、磁性コア31内の磁束密度が変化し、検出コイル32に励磁電流が誘起される。これにより、検出コイル32は、漏洩電流を検出する。
【0026】
これに対して、給電線20a,20bに漏洩電流が生じていない場合、給電線20a,20bのそれぞれに流れた相電流の合成値(合成ベクトルの大きさ)は、「0」となる。その結果、磁性コア31内の磁束密度が変化せず、検出コイル32に励磁電流が流れない。すなわち、検出コイル32は、漏洩電流を検出しない。
【0027】
増幅回路41は、検出コイル32の両端のそれぞれに接続される。増幅回路41は、検出コイル32によって検出された漏洩電流の信号を増幅する。また、増幅回路41の出力端子は、A/D変換回路42の入力端子に接続される。増幅回路41は、増幅した電流信号を、A/D変換回路42に出力する。
【0028】
A/D変換回路42は、増幅回路41から出力された信号をデジタル信号に変換する。具体的には、A/D変換回路42は、増幅回路41から出力された信号のサンプリング(標本化)、量子化、及び符号化のそれぞれの処理を実行し、電流信号をデジタル信号に変換する。なお、検出コイル32で検出された漏洩電流の信号に基づくデジタル信号は、「第1デジタル信号」に対応する。
【0029】
A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期は、漏洩電流の周期より短い。漏洩電流の周期は、電源1から送電される交流電力(交流電流)の周期に概ね対応している。すなわち、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期は、電源1から送電される交流電力(交流電流)の周期より短い。
【0030】
例えば、50Hzの周波数を有する交流電流が、電源1から送電される場合、漏洩電流の周期は、約0.01秒となる。漏洩電流の検出精度を高めるため、サンプリングの周期は、約0.3ms(漏洩電流の周期の1/30)~約2ms(漏洩電流の周期の1/20)であることが好ましい。ただし、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期は、これに限定されない。
【0031】
A/D変換回路42の出力端子は、制御回路50の入力端子に接続される。A/D変換回路42は、変換したデジタル信号の列を制御回路50に出力する。なお、図示されるA/D変換回路42は、制御回路50とは別体の回路であるが、制御回路50と一体の回路であってもよい。
【0032】
制御回路50は、給電線20a,20bにおける漏電を検出する漏電検出処理を実行し、給電線20a,20bの遮断を制御する。具体的には、制御回路50は、A/D変換回路42から出力されたデジタル信号を処理し、給電線20a,20bにおける漏電を検出する。なお、漏電検出に基づく遮断は、「漏電遮断」の一例である。
【0033】
制御回路50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、CPUで実行されるプログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、を備えるマイクロコンピュータである。また、制御回路50が備えるCPUの演算処理機能の一部又は全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の他の電子回路に担わせるようにしてもよい。
【0034】
制御回路50が実行する漏電検出処理の例として、以下が挙げられる。まず、制御回路50は、A/D変換回路42から出力されたデジタル信号に基づき、例えば、漏洩電流の実効値を算出する。また、制御回路50は、算出した漏洩電流の実効値と、閾値とを比較する。漏洩電流の実効値が閾値以上である場合、制御回路50は、漏電を検出し、引外し部60を動作させるための遮断信号を出力する。一方、漏洩電流の実効値が閾値未満である場合、制御回路50は、遮断信号を出力しない。この場合、引外し部60は動作せず、給電線20a,20bは、遮断されない。
【0035】
制御回路50は、A/D変換回路42から出力されたデジタル信号の列から、漏洩電流の最大値や平均値等、漏洩電流に関する他の電気情報を算出してもよい。また、制御回路50は、算出した他の電気情報に基づき、漏電を検出してもよい。
【0036】
制御回路50は、漏電の検出に応じて漏電遮断情報を生成することが好ましい。また、制御回路50は、生成した漏電遮断情報を不揮発性メモリ52に出力することが好ましい。ここで、漏電遮断情報は、例えば、漏洩電流の実効値等の情報、その他の漏電に関わる各種情報のほか、実際に漏電があったことに由来する遮断であることを識別するための遮断要因情報を含むことが好ましい。
【0037】
不揮発性メモリ52は、制御回路50に接続される記憶媒体である。また、不揮発性メモリ52は、制御回路50から出力された漏電遮断情報等を記憶する。不揮発性メモリの例として、フラッシュメモリをはじめとするEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の記憶媒体が挙げられる。ただし、不揮発性メモリは、これらに限定されない。
【0038】
図示される不揮発性メモリ52は、制御回路50と別体の記憶媒体であるが、制御回路50と一体の記憶媒体であってもよい。なお、不揮発性メモリ52は、「記憶部」の一例である。
【0039】
感度電流切替スイッチ55は、制御回路50が、漏電検出処理の際に参照する閾値を切り替えるスイッチである。感度電流切替スイッチ55は、例えば、作業者の操作に応じて、設定可能な閾値に対応する複数の感度電流を相互に切り替える。感度電流切替スイッチ55は、例えば、100mA、1A、10A等、離散的に感度電流を切り替えられるものであってもよい。また、感度電流切替スイッチ55は、例えば、100mA~10Aの電流範囲の中から連続的に感度電流を切り替えられるものであってもよい。
【0040】
引外し部60は、引外しコイル61と、引外しコイル61を励磁するスイッチ62と、を備える電磁式の引外し装置である。ただし、引外し部60は、他の方式で動作する引外し装置やスイッチング回路等であってもよい。
【0041】
引外しコイル61は、給電線20a,20bがそれぞれ備える遮断スイッチの近傍に配置される。また、引外しコイル61の一端は、電源回路71に接続される。引外しコイル61の他端は、スイッチ62に接続される。
【0042】
スイッチ62は、制御回路50からの遮断信号に応じて、引外しコイル61を励磁するスイッチング素子である。例えば、スイッチ62は、制御回路50に接続される制御電極62a(例えば、ゲート電極)と、引外しコイル61に接続される第1主電極62b(例えば、ソース電極)と、接地端子として機能する第2主電極62c(例えば、ドレイン電極)と、を備えるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)である。
【0043】
制御回路50から出力された遮断信号に応じて、スイッチ62がONする。これにより、引外しコイル61に電流が流れ、引外しコイル61が励磁される。その結果、遮断スイッチの接点が開き、給電線20a,20bのそれぞれが、遮断される。
【0044】
電源回路71は、給電線20aに接続される入力端子と、給電線20bに接続される別の入力端子と、制御回路50及び引外し部60にそれぞれ接続される出力端子と、を備える。また、電源回路71は、電流制限素子130に接続される別の出力端子を備えることが好ましい。
【0045】
電源回路71は、給電線20a,20bから送電される交流電力を直流電力に変換するとともに、変換した直流電力の電圧値を、制御回路50が動作可能な電圧値に降圧する。
【0046】
電源回路71の例として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET等の半導体素子から構成される複数のスイッチング素子を含むレギュレータ回路やコンバータ回路が挙げられる。ただし、電源回路71は、レギュレータ回路やコンバータ回路等に限定されない。
【0047】
<試験機能>
次に、
図1~
図4を参照して、漏電遮断器10の試験機能を説明する。
図1は、本実施形態の漏電遮断器10の全体構成を示す模式図である。
図2は、試験用コイル140に流れるパルス電流の一例を示す図である。
図3は、零相変流器30の検出コイル32に流れる試験電流の一例を示す図である。
図4は、制御回路50で処理される試験信号の一例を示す図である。
【0048】
漏電遮断器10は、給電線20a,20b、零相変流器30、増幅回路41、A/D変換回路42、制御回路50、不揮発性メモリ52、感度電流切替スイッチ55、及び引外し部60等の漏電遮断機能を果たすための各構成要素に加え、試験開始スイッチ110、パルス電流出力素子120、電流制限素子130、及び試験用コイル140等の試験機能を果たすための構成要素を備える。
【0049】
漏電遮断器10における漏電遮断機能を果たすための各構成要素も、漏電遮断器10が試験機能を果たすために、適宜動作する。ここで、制御回路50は、試験の際、デジタル信号である試験信号に基づき、漏電検出処理を模擬する模擬処理を実行する。
【0050】
試験開始スイッチ110は、制御回路50に接続される。試験開始スイッチ110は、例えば、作業者の操作に応じて閉じる接点を有する。試験開始スイッチ110は、接点が閉じることで、試験開始信号を制御回路50に出力する。制御回路50は、試験開始スイッチ110からの試験開始信号の入力に応じて、パルス電流出力素子120に駆動信号を出力する。
【0051】
制御回路50は、比較的、低電圧で動作する(例えば、5V)。試験開始スイッチ110は、作業者が直接触れる部材である。したがって、試験開始スイッチ110が、低電圧で動作する制御回路50に接続されることで、作業者の感電等をより確実に防ぐことができる。
【0052】
パルス電流出力素子120は、制御回路50から出力される駆動信号に応じて、複数のパルス電流を試験用コイル140に順次出力する。
図1に示すように、本実施形態のパルス電流出力素子120は、MOSFETを含むスイッチング素子である。ただし、パルス電流出力素子120は、例えば、IGBTやバイポーラトランジスタ等の他の半導体素子を含むスイッチング素子であってもよい。また、パルス電流出力素子120は、リレー素子を含む継電器であってもよい。
【0053】
パルス電流出力素子120は、例えば、ゲート電極に対応する制御電極121と、ソース電極に対応する第1主電極122と、ドレイン電極に対応する第2主電極123と、を備える。制御電極121は、制御回路50に接続される。第1主電極122は、電流制限素子130を通じて、電源回路71に接続される。第2主電極123は、試験用コイル140に接続される。制御回路50からの駆動信号が、制御電極121に入力されることで、第1主電極122と第2主電極123とが導通する。これにより、制御回路50からの駆動信号のON/OFFに応じたパルス電流が、試験用コイル140に順次出力される。
【0054】
パルス電流出力素子120の駆動電力は、給電線20a,20bのそれぞれから、電源回路71を通じて供給されることが好ましい。これにより、給電線20a,20bから送電される交流電圧値を、電源回路71を通じて、パルス電流出力素子120が適正に駆動する直流電圧値に調整することができる。
【0055】
パルス電流出力素子120に供給される電流は、電流制限素子130によって所望の値に制限されることが好ましい。電流制限素子130の例として、抵抗素子が挙げられる。また、電流制限素子130は、電流制限機能を備える他の素子であってもよい。これにより、パルス電流出力素子120から出力される各パルス電流のピーク値の大小を調整することができる。その結果、感度電流切替スイッチ55の感度電流に対応したピーク値を有するパルス電流を用いて、試験を行うことができ、複数の感度電流のそれぞれに対応する閾値毎に、漏電が適切に検出されるか否かを確認することができる。
【0056】
パルス電流出力素子120から出力されるそれぞれのパルス電流は、パルス幅に対応する期間に流れる矩形波状の電流である。ここで、「矩形波状」は、例えば、電流が流れる最初のタイミングで現れる角状の過渡的な歪みを有する矩形波を含む。パルス電流出力素子120から出力されるパルス電流の周期は、漏洩電流の周期より短い。パルス電流の周期は、例えば、任意のパルス電流(例えば、
図2に示すパルス電流S11)の起点と、次のパルス電流(例えば、パルス電流S12)の起点の間の時間に対応する(
図2に示す時間T1)。
【0057】
別途説明するように、パルス電流に由来する試験信号は、零相変流器30の検出コイル32、増幅回路41、及びA/D変換回路42を通じて、制御回路50に伝達される。また、制御回路50に伝達された試験信号は、制御回路50の模擬処理に用いられる。ところで、給電線20a,20bは、試験期間中も通電している。そのため、試験中に漏洩電流が生じた場合に、漏洩電流に由来する信号が、試験信号の伝達経路にノイズとして混入する可能性がある。そこで、パルス電流の周期を、漏洩電流の周期と異ならせることで、制御回路50は、パルス電流に由来する試験信号を、漏洩電流に由来する信号と区別できる。また、パルス電流の周期を、漏洩電流の周期より短く設定することで、制御回路50は、パルス電流に由来する試験信号と、漏洩電流に由来する信号とを、より的確に区別することができる。よって、漏電遮断の試験の精度を高めることができる。
【0058】
パルス電流の周期は、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期と関連付けられた周期であることが好ましい。すなわち、パルス電流の周期は、制御回路50の漏電検出処理で処理されるデジタル信号の周期と関連付けられることが好ましい。
【0059】
ここで、「サンプリングの周期と関連付けられた周期」の例として、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期の2倍の周期が挙げられる。ただし、パルス電流の周期は、これに限定されない。
【0060】
パルス電流の周期をサンプリングの周期の2倍とすることで、試験信号の周期を、漏電検出処理で処理されるデジタル信号の周期に対応させることができる。これにより、制御回路50は、パルス電流に由来する試験信号と、漏洩電流に由来する信号とを、さらに的確に区別することができる。よって、漏電遮断の試験の精度をより高めることができる。
【0061】
試験用コイル140は、零相変流器30の磁性コア31に巻き付けられる巻線である。試験用コイル140の一端は、パルス電流出力素子120の第2主電極123に接続される。これにより、試験用コイル140は、パルス電流出力素子120から出力された複数のパルス電流を順次取得する。
図2に示すように、パルス電流S11,S12,S13,・・・,S1nは、例えば、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期の2倍の周期に対応する時間間隔で、試験用コイル140に順次流れる。
【0062】
試験用コイル140は、磁性コア31の、検出コイル32とは異なる位置に巻き付けられる。すなわち、試験用コイル140は、磁性コア31を介して、検出コイル32に磁気的に結合される。そのため、パルス電流S11,S12,S13,・・・,S1nのそれぞれが、試験用コイル140に順次流れるにしたがい、検出コイル32に、複数の試験電流が流れる。すなわち、検出コイル32は、試験電流を検出する。
【0063】
試験用コイル140にパルス電流が流れると、
図3に示すように、試験用コイル140での電流変化から、正の電流値を有する試験電流(例えば、S21,S23,・・・,S2m-1)が、検出コイル32に流れる。また、それぞれのパルス電流が流れ終わった時点における、試験用コイル140での電流変化から、負の電流値を有する試験電流(例えば、S22,S24,・・・,S2m)が、検出コイル32に流れる。これにより、検出コイル32に、正の電流値を有する試験電流と、負の電流値を有する試験電流とが、交互に流れる。
図3に示す例の場合、試験電流S21,S22,S23,S24,・・・S2m-1,S2mの順に、試験電流が流れる。これらの正及び負の電流値を有する試験電流は、「試験用コイル140に流れたパルス電流によって誘起される試験電流」に対応する。
【0064】
正の電流値を有する試験電流と、負の電流値を有する試験電流とが交互に現れる試験電流(S21,S22,S23,S24,・・・,S2m-1,S2m)の周期は、A/D変換回路42で実行されるサンプリングの周期(漏電検出処理で処理されるデジタル信号の周期)に対応する。ここで、試験電流の周期は、例えば、任意の試験電流(例えば、
図3に示す試験電流S21)の起点と、次の試験電流(例えば、試験電流S22)の起点の間の時間に対応する(
図3に示す時間T2)。ただし、試験電流の周期は、これに限定されない。
【0065】
検出コイル32は、検出した試験電流の信号を増幅回路41に出力する。パルス電流の周期を漏洩電流の周期に比べて十分に短くすることで、検出コイル32における試験電流の検出精度を高められる。これにより、漏電遮断の試験の精度をさらに高めることができる。また、増幅回路41は、検出コイル32から出力された信号を増幅し、増幅した信号をA/D変換回路42に出力する。
【0066】
A/D変換回路42は、試験電流に対応する信号のサンプリング、量子化、及び符号化のそれぞれの処理を実行し、試験電流に対応する信号をデジタル信号に変換する。これにより、漏電検出処理で処理されるデジタル信号の周期と、互いに同一の周期を有する信号が得られる。得られた信号は、「試験信号」に対応する。ここで、試験信号の周期は、例えば、任意の試験信号(例えば、
図4に示す試験信号S31)の起点と、次の試験信号(例えば、試験信号S32)の起点の間の時間に対応する(
図4に示す時間T3)。なお、検出コイル32で検出された試験電流の信号(増幅回路41を経たものを含む)を変換したデジタル信号(試験信号)は、「第2デジタル信号」の一例である。
【0067】
A/D変換回路42は、試験信号を制御回路50に出力する。このように、検出コイル32から制御回路50に至る、パルス電流に由来する試験電流の信号の経路と、漏洩電流に由来する信号の経路とを、互いに同一にすることで、検出コイル32、増幅回路41、及びA/D変換回路42が、漏電遮断機能におけるそれぞれの役割を適切に果たすか否かを確認することができる。
【0068】
制御回路50は、A/D変換回路42から出力された試験信号に基づき、模擬処理を実行する。制御回路50が実行する模擬処理の例として、以下が挙げられる。
【0069】
まず、制御回路50は、A/D変換回路42から出力された各試験信号の信号値に基づき、例えば、漏洩電流の実効値を模擬する模擬値Iを算出する。ここで、試験信号の列は、
図4に示すように、正の信号(例えば、試験信号S31,S33,・・・,S3k-1)と、負の信号(例えば、試験信号S32,S34,・・・,S3k)とが、時系列的に交互に並ぶ信号列である。
【0070】
制御回路50は、例えば、各試験信号の信号値における絶対値を順に足し合わせる。例えば、試験信号S31の信号値(S31)の絶対値が|(S31)|であり、試験信号S32の信号値(S32)の絶対値が|(S32)|であり、試験信号S33の信号値(S33)の絶対値が|(S33)|であり、試験信号S3k-1の信号値(S3k-1)の絶対値が|(S3k-1)|であり、試験信号S3kの信号値(S3k)の絶対値が|(S3k)|である場合、制御回路50は、[模擬値I=|(S31)|+|(S32)|+|(S33)|+・・・+|(S3k-1)|+|(S3k)|]を演算する。
【0071】
このように、特定の周期でサンプリングされた試験信号の絶対値同士をそれぞれ足し合わせる処理は、任意の信号列の中から特定の周期を有する信号をフーリエ変換によって抽出し、抽出した信号の信号値同士を足し合わせる処理に対応する。すなわち、制御回路50は、模擬値Iの算出にあたり、フーリエ変換等の計算負荷の大きな処理を実行せず、特定の周期で並ぶ複数の試験信号の積算値を得ることができる。その結果、計算負荷を低減し、かつ、漏洩電流の実効値を適切に反映した模擬値Iを算出することができる。
【0072】
ただし、模擬値Iの算出方法は、これに限定されない。例えば、[模擬値I=(S31)-(S32)+(S33)-・・・+(S3k―1)-(S3k)]のように、正の試験信号の信号値と、負の試験信号の信号値に(-1)を乗じた値とを、それぞれ足し合わせた値を演算することで、模擬値Iを算出するようにしてもよい。
【0073】
続いて、制御回路50は、演算した模擬値Iと閾値とを比較する。ここで、閾値は、漏電検出処理に用いられる閾値と同様の値である。閾値は、感度電流切替スイッチ55で選択された感度電流のそれぞれの値と対応させてもよい。
【0074】
続いて、制御回路50は、模擬値Iと閾値とを比較した結果、模擬値Iが閾値以上である場合、引外し部60に遮断信号を出力し、給電線20a,20bを含む電路を遮断するよう制御する。これに対して、模擬値Iが閾値未満である場合、制御回路50は、遮断信号を出力しない。制御回路50は、これら各処理を含んだ模擬処理を実行する。なお、試験による制御回路50の遮断動作は、「試験遮断」の一例である。
【0075】
制御回路50は、模擬処理を実行した結果に関する試験結果情報を生成することが好ましい。例えば、試験結果情報には、試験結果として、試験遮断をした場合の試験遮断情報と、試験遮断をしなかった場合の試験非遮断情報と、が含まれる。また、制御回路50は、生成した試験結果情報を不揮発性メモリ52に出力することが好ましい。これにより、不揮発性メモリ52は、制御回路50から出力された遮断情報が、漏電遮断であるのか、試験遮断であるのかを、区別して記憶することができる。すなわち、不揮発性メモリ52に記憶される遮断情報から、漏電遮断の回数、試験遮断の回数、試験の成功回数(試験非遮断の回数)等に係る漏電遮断器10の状態情報を把握でき、漏電遮断器10のメンテンナンス情報等に活用することができる。
【0076】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
10 漏電遮断器
20a,20b 給電線
30 零相変流器
31 磁性コア
32 検出コイル
41 増幅回路
42 A/D変換回路
50 制御回路
52 不揮発性メモリ
55 感度電流切替スイッチ
60 引外し部
61 引外しコイル
62 スイッチ
71 電源回路
110 試験開始スイッチ
120 パルス電流出力素子
130 電流制限素子
140 試験用コイル