(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010925
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】トレッド部の変形推定方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113239
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】石橋 隆志
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC55
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】転動時のタイヤのトレッド部の変形を容易に推定できる方法を提供する。
【解決手段】トレッド部の変形推定方法100は、タイヤ赤道からタイヤ軸方向にベルト層の半幅以下で任意の距離Ds1を隔てたトレッドゴムの外周面上の点Pを特定する第1ステップS1と、トレッドゴムと路面との摩擦係数がゼロであると仮定したときの点Pの接地面内での軌跡T0と、トレッドゴムと路面との間で滑りが生じないと仮定したときの点Pの接地面内での軌跡T1との比較に基づいて、トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形を計算する第2ステップS2を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの転動時におけるトレッド部のタイヤ軸方向の変形を推定する方法であって、
前記トレッド部は、トレッドゴム及びベルト層を含み、
タイヤ赤道からタイヤ軸方向に前記ベルト層の半幅以下で任意の距離Ds1を隔てた前記トレッドゴムの外周面上の点Pを特定する第1ステップと、
前記トレッドゴムと路面との摩擦係数がゼロであると仮定したときの前記点Pの接地面内での軌跡T0と、前記トレッドゴムと前記路面との間で滑りが生じないと仮定したときの前記点Pの前記接地面内での軌跡T1との比較に基づいて、前記トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形を計算する第2ステップを含む、
トレッド部の変形推定方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、
前記点Pを通る前記トレッドゴムの外周長Lcを取得する第3ステップと、
前記タイヤの任意の子午断面上で、前記ベルト層がタイヤ軸方向に沿ってのびるベルトラインを特定する第4ステップと、
前記子午断面上で、前記点Pを通る前記ベルトラインの垂線VLを特定する第5ステップと、
前記ベルトラインと前記垂線VLとの交点Qのタイヤ軸からの距離Ds2を取得する第6ステップと、
前記第3ステップで取得した前記外周長Lc及び前記第6ステップで取得した前記距離Ds2に基づいて、前記軌跡T0及び前記軌跡T1を計算する第7ステップと、
前記軌跡T0と前記軌跡T1とによって囲まれる領域の面積を計算する第8ステップとを含む、請求項1に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項3】
前記第8ステップは、前記点Pでの接地長さLgを取得する第9ステップを含む、請求項2に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項4】
前記第9ステップは、前記第1ステップで取得した前記外周長Lc及び前記第6ステップで取得した前記距離Ds2に基づいて、前記点Pでの接地長さLgを計算する第10ステップを含む、請求項3に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項5】
前記第8ステップは、前記垂線VLとタイヤ軸Axとの交点Rのタイヤ赤道からの距離Ds3を計算する第11ステップを含む、請求項3に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項6】
前記第8ステップは、前記第1ステップで取得した前記外周長Lcを底面の円周とし、前記距離Ds1と前記距離Ds3との差D1-D3を高さとする仮想の円錐を特定する第12ステップを含む、請求項5に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項7】
前記第8ステップは、前記円錐が前記交点Qを通り、前記路面に平行な平面G’によって切り取られる切断面を特定する第13ステップを含む、請求項6に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項8】
前記第8ステップは、前記切断面の面積Sを計算する第14ステップを含む、請求項7に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項9】
前記第14ステップにおいて、前記切断面の前記面積Sは、下記式(3)によって計算される、請求項8に記載のトレッド部の変形推定方法。
【数1】
【請求項10】
前記第8ステップは、前記接地長さLgを底辺、線分PQのタイヤ軸方向の成分を高さとする三角形の面積を計算する第15ステップを含む、請求項3に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項11】
前記点Pは、前記トレッド部の軸方向の最も外側の陸部に位置される、請求項1に記載のトレッド部の変形推定方法。
【請求項12】
前記第1ステップでは、複数の前記点Pによって複数の前記外周長Lcが取得される、請求項1に記載のトレッド部の変形推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのトレッド部の変形を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、転動時のタイヤの振る舞いを推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、タイヤの接地圧、接地長さ及びパターン剛性を含む中間物理量を用いることにより、摩耗エネルギーの推定に要する計算時間の短縮化が図られている。
【0005】
転動時のタイヤのトレッドゴムにあっては、接地面内で局所的に発生する剪断変形がトレッド部の発熱や転がり抵抗の一因となっている。従って、転動時のタイヤのトレッド部の変形を容易に推定できる方法を確率することにより、トレッド部の発熱及び転がり抵抗の小さいタイヤの設計に役立てることができる。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、転動時のタイヤのトレッド部の変形を容易に推定できる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タイヤの転動時におけるトレッド部のタイヤ軸方向の変形を推定する方法であって、
前記トレッド部は、トレッドゴム及びベルト層を含み、
タイヤ赤道からタイヤ軸方向に前記ベルト層の半幅以下で任意の距離Ds1を隔てた前記トレッドゴムの外周面上の点Pを特定する第1ステップと、
前記トレッドゴムと路面との摩擦係数がゼロであると仮定したときの前記点Pの接地面内での軌跡T0と、前記トレッドゴムと前記路面との間で滑りが生じないと仮定したときの前記点Pの前記接地面内での軌跡T1との比較に基づいて、前記トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形を計算する第2ステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記トレッド部の変形推定方法は、前記トレッドゴムと路面との摩擦係数がゼロであると仮定したときの前記点Pの接地面内での軌跡T0と、前記トレッドゴムと前記路面との間で滑りが生じないと仮定したときの前記点Pの前記接地面内での軌跡T1との比較に基づいて、前記トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形を計算する。これにより、簡素なステップで、転動時のタイヤのトレッド部の変形を容易に推定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1のトレッド部の構成を示す子午断面図である。
【
図3】本実施形態のトレッド部の変形推定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】トレッドゴムと路面との間の摩擦がゼロでと仮定したときトレッド部の断面図である。
【
図5】トレッドゴムと路面との間で滑りが生じないと仮定したときのトレッド部の断面図である。
【
図6】トレッドゴムと路面との摩擦がゼロである場合及びトレッドゴムと路面との間で滑りが生じない場合の点Pの接地面内での軌跡を示す図である。
【
図7】
図1のタイヤと面積Sを計算するための円錐を示す図である。
【
図9】
図3の第2ステップの詳細の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図9の第8ステップの詳細の一例を示すフローチャートである。
【
図11】トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形をより簡易的に計算するための概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、平面状の路面G上を転動しているタイヤTを示している。本実施形態で適用されるタイヤTは、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含んでいる。
【0011】
図2は、タイヤTのトレッド部2の構成を子午断面で示している。トレッド部2は、トレッドゴム21、ベルト層8及びカーカス7を含んでいる。
【0012】
トレッドゴム21は、ベルト層8のタイヤ半径方向外側に配されている。トレッドゴム21は、路面Gに接触し、路面Gから受ける力をベルト層8を介してカーカス7に伝達する。
【0013】
ベルト層8は、トレッドゴム21とカーカス7との間に配され、トレッドゴム21を補強する。
【0014】
カーカス7は、ベルト層8のタイヤ半径方向内側に配されている。カーカス7は、一対のビード部4に跨がって形成され、タイヤTの形状を保持する。
【0015】
図2に示される子午断面では、ベルト層8がタイヤ軸方向Dr1に沿ってのびるラインすなわちベルトライン8Lを特定することができる。ベルトライン8Lは、ベルト層8の厚さの中心を通るラインで定義されるのが望ましいが、通常、ベルト層8の厚さは、ほぼ一定であるため、ベルト層8の最外を通るライン、または、最内を通るラインで定義されてもよい。
【0016】
図3は、本実施形態のトレッド部の変形推定方法100の手順を示すフローチャートである。
【0017】
トレッド部の変形推定方法100は、トレッドゴム21の外周面22上の点Pを特定する第1ステップS1と、転動時の点Pの接地面内での軌跡に基づいて、トレッドゴム21のタイヤ軸方向Dr1の剪断変形を計算する第2ステップS2とを含んでいる。
【0018】
第1ステップS1において、点Pは、タイヤ赤道CLからタイヤ軸方向Dr1に任意の距離Ds1を隔てた外周面上の点で定義される。ここで、点Pの位置は、ベルト層8のタイヤ軸方向Dr1の外端よりもタイヤ軸方向Dr1の内側に制限される。すなわち、距離Ds1は、ベルト層8の半幅以下である。
【0019】
第2ステップS2では、トレッドゴム21と路面Gとの摩擦がゼロであると仮定したときの点Pの接地面内での軌跡T0と、トレッドゴム21と路面Gとの間で滑りが生じないと仮定したときの点Pの接地面内での軌跡T1とが比較される。そして、軌跡T0と軌跡T1との比較に基づいて、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形を計算する。
【0020】
トレッド部の変形推定方法100によれば、上記の簡素な第1ステップS1及び第2ステップS2を実行することにより、転動時のタイヤTのトレッド部2の変形を容易に推定できるようになる。
【0021】
第1ステップS1及び第2ステップS2の実行には、例えば、コンピューター装置が適用される。
【0022】
コンピューター装置は、例えば、各種の演算処理、情報処理等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUの動作を司るプログラム及び各種の情報を記憶するメモリ等とを有している。
【0023】
図4は、トレッドゴム21と路面Gとの摩擦がゼロである場合におけるトレッド部2の非接地領域及び接地領域での断面を示している。非接地領域の断面は、タイヤ軸Axの真上の断面であり、接地領域の断面は、タイヤ軸Axの真下の断面である。(以下、
図5においても同様とする)。
【0024】
同図では、タイヤ赤道CLに対して一方側のみが示され、また、トレッド部2の非接地領域での断面が破線にて、トレッド部2の接地領域での断面が実線にて示されている。説明の便宜上、トレッドゴム21の厚さは、タイヤ軸方向Dr1に均一であるとする(以下、
図5においても同様とする)。
【0025】
トレッドゴム21は、強靱な剛性を有するベルト層8によって補強されているので、トレッドゴム21の外周面22の形状は、ベルトライン8Lの形状に依存する。すなわち、外周面22上の点Pの位置は、点Pを通るベルトライン8Lの垂線VLとベルトライン8Lとの交点Qの位置に依存するとも考えられる。
【0026】
図4で破線にて示される非接地領域において、ベルトライン8Lは、通常、タイヤ赤道CLに対して対称で、タイヤ軸方向Dr1の内側に中心を有する円弧状を呈しているため、交点Qは、点Pに対してタイヤ軸方向Dr1の内側に位置する。タイヤTの転動に伴い、非接地領域で円弧状であったベルトライン8Lは、接地領域で実線にて示されるように路面Gと平行な直線状に変形する。これに伴い、トレッドゴム21の外周面22上の点Pは、点B0の位置に移動する。
【0027】
図5は、トレッドゴム21と路面Gとの間で滑りが生じないと仮定したときのトレッド部2の非接地領域及び接地領域での断面を示している。
【0028】
トレッドゴム21と路面Gとの間で滑りが生じない場合、非接地領域から接地領域を経て非接地領域に至るまで、トレッドゴム21の外周面22上の点Pのタイヤ軸方向Dr1の移動は生じない。従って、点Pは、ベルトライン8Lの変形に関わらず、タイヤ赤道CLからの距離Ds1を維持しながら、点B1の位置に移動する。すなわち、点Pには、ベルトライン8Lの変形に伴って
図4に示されるように点B0の位置に移動しようとするが、トレッドゴム21と路面Gとの摩擦力によって、タイヤ赤道CLから距離Ds1を隔てた点B1の位置に留められる。これによってベルト層8と路面Gとの間のトレッドゴム21には、タイヤ軸方向Dr1の剪断歪が生じていることが理解される。
【0029】
図6は、トレッドゴム21と路面Gとの摩擦がゼロであると仮定したときの点Pの接地面内での軌跡T0と、トレッドゴム21と路面Gとの間で滑りが生じないと仮定したときの点Pの接地面CP内での軌跡T1を示している。なお、同図では、軌跡T0のタイヤ軸方向Dr1の成分が誇張して描かれている。
【0030】
軌跡T0と軌跡T1との乖離は、接地面CP内でのトレッドゴム21の剪断変形であると考えることができる。そして、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arの面積Sを計算することにより、接地面CP内でのトレッドゴム21の剪断変形の大きさが求められる。
【0031】
軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arの面積Sが大きいタイヤTは、転動時のトレッド部2の変形が大きく、構造上、発熱及び転がり抵抗が大きい傾向にあると考えられる。逆に、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arの面積Sが小さいタイヤTは、転動時のトレッド部2の変形が小さく、構造上、発熱及び転がり抵抗が小さい傾向にあると考えられる。従って、第2ステップS2では、軌跡T0と軌跡T1との比較に基づいて、トレッドゴム21のタイヤ軸方向Dr1の剪断変形を計算することが可能となる。
【0032】
これにより、簡素なステップで、転動時のタイヤTのトレッド部2の変形を容易に推定できるようになる。
【0033】
さらに本願の発明者は、鋭意研究を重ねた末、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arの面積Sは、タイヤ軸Axを軸とし点Pを通るトレッドゴム21の外周長Lcを底面の円周とする以下に示す仮想の円錐を導入することにより、近似的に計算できることを見出した。
【0034】
図7、8は、タイヤTにおける軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arの面積Sを計算するための仮想の円錐CNを示している。円錐CNは、タイヤ軸Axを軸とし、点Pを通るトレッドゴム21の外周長Lcを底面の円周としている。
【0035】
点Pを通るトレッドゴム21の外周長Lcは、点Pのタイヤ軸Axからの距離rを用いて2πrで計算され、円錐CNは、距離rを底面の半径とする円錐である。
図4,5より、点B0と点B1間の距離は、線分PQのタイヤ軸方向成分である。また、接地領域でのベルトライン8Lは、子午断面において路面Gに平行な直線状に変形することから、ベルト層8は路面Gに平行な平面状に変形する。
【0036】
そうすると、
図8に示される接地面CP内で軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれた領域Arと、円錐CNを点Qを通り路面G(すなわち接地面CP)に平行な平面G’で切断した切断面CSとが合同であり、領域Arの面積Sは、切断面CSの面積S’と等しい。従って、
図8に示される円錐CNの切断面CSの面積S’を計算することにより、トレッドゴム21のタイヤ軸方向Dr1の剪断変形を近似的かつ簡素に計算することが可能となる。
【0037】
図9は、円錐CNを用いて剪断変形を計算する第2ステップS2の詳細の一例を示している。
【0038】
第2ステップS2は、トレッドゴム21の外周長Lcを取得する第3ステップS3と、ベルトライン8Lを特定する第4ステップS4と、垂線VLを特定する第5ステップS5と、交点Qのタイヤ軸Axからの距離Ds2を取得する第6ステップS6と、軌跡T0及び軌跡T1を特定する第7ステップS7と、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれる領域Arの面積Sを計算する第8ステップS8を含んでいる。
【0039】
第3ステップS3では、点Pを通るトレッドゴム21の外周長Lcが取得される。外周長Lcは、正規状態のタイヤTから取得されるのが望ましい。
【0040】
「正規状態」とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0041】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0042】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。タイヤが乗用車用である場合、正規内圧は、例えば、180kPaである。
【0043】
正規リム以外の特定のリムに組み込まれたタイヤTのトレッドゴム21の剪断変形を計算したい場合には、そのリムに組み込まれたタイヤTを実測等してもよい。また、正規内圧以外の特定の内圧が充填されたタイヤTのトレッドゴム21の剪断変形を計算したい場合には、その内圧が充填されたタイヤTを実測等してもよい。
【0044】
外周長Lcは、正規状態のタイヤTを実測することにより取得されるが、FEM(有限要素法)等を用いた正規状態のタイヤTを想定した非転動のシミュレーションによっても取得される。この場合、走行速度に相当する遠心力を考慮したシミュレーションが適用されてもよい。
【0045】
また、タイヤTの加硫金型の設計図面が取得できる場合には、外周長Lcは、上記設計図面に基づいて取得されてもよい。この場合、外周長Lcを容易に取得することが可能となる。
【0046】
第3ステップS3で外周長Lcが取得されることにより、円錐CNの底面の半径rが算出されうる(
図8参照)。
【0047】
第4ステップS4では、タイヤTの任意の子午断面上で、ベルト層8がタイヤ軸方向Dr1に沿ってのびるベルトライン8Lが特定される。ベルトライン8Lは、例えば、正規状態のタイヤTのX線画像等に基づいて特定される。
【0048】
タイヤTの設計図面が取得できる場合には、ベルトライン8Lは、タイヤTの設計図面に基づいて取得されてもよい。この場合、ベルトライン8Lを容易に取得することが可能となる。
【0049】
第5ステップS5では、子午断面上で、点Pを通るベルトライン8Lの垂線VLが幾何計算により特定される。
【0050】
第6ステップS6では、まず、ベルトライン8Lと垂線VLとの交点Qが幾何計算により特定され、交点Qのタイヤ軸Axからの距離Ds2が取得される。
【0051】
第7ステップS7では、第3ステップS3で取得した外周長Lc及び第6ステップS6で取得した距離Ds2に基づいて、軌跡T0及び軌跡T1が特定される。
【0052】
第8ステップS8では、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれる領域Arの面積Sが計算される。
【0053】
図10は、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれる領域Arの面積Sを計算する第8ステップS8の詳細の一例を示している。
【0054】
第8ステップS8は、点Pでの接地長さLgを取得する第9ステップS9を含んでいる。
【0055】
第9ステップS9において、接地長さLgは、例えば、正規荷重が負荷された正規状態のタイヤTを実測することにより取得されるが、FEM(有限要素法)等を用いた正規状態のタイヤTを想定した非転動のシミュレーションによっても取得される。
【0056】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。タイヤが乗用車用の場合、正規荷重は、例えば、荷重の88%に相当する荷重である。
【0057】
正規荷重以外の特定の荷重におけるトレッドゴム21の剪断変形を計算したい場合には、その荷重が負荷されたタイヤTを実測等することにより、接地長さLgが取得される。
【0058】
また、特定のスリップ角及びキャンバー角が付与されたタイヤTにおけるトレッドゴム21の剪断変形を計算したい場合には、そのスリップ角及びキャンバー角が付与されたタイヤTを実測等することにより、接地長さLgが取得される。
【0059】
ここで、
図8において、円錐CNの底面の半径rと距離Ds2との差r-Ds2をa、接地長さLgを弦とする半径rの扇形の中心角をθとすると、
cos(θ/2)=Ds2/r=1-a/r (1)
であり、
sin(θ/2)=Lg/2r (2)
である。
【0060】
式(1)によって、第3ステップS3で外周長Lcから算出される半径r及び第6ステップS6で取得される距離Ds2から中心角θが特定される。さらに式(2)によって、中心角θ及び上記半径rから接地長さLgが特定される。従って、接地長さLgは、第1ステップS1で取得した外周長Lc及び第6ステップS6で取得した距離Ds2に基づく計算によっても取得されうる。
【0061】
すなわち、第9ステップS9は、第1ステップで取得した外周長Lc及び第6ステップで取得した距離Ds2に基づいて、点Pでの接地長さLgを計算する第10ステップS10を含んでいてもよい。
【0062】
第8ステップS8は、垂線VLとタイヤ軸Axとの交点Rのタイヤ赤道からの距離Ds3を計算する第11ステップS11を含んでいる。交点Rは、円錐CNの頂点を構成する。円錐CNの底面は、タイヤ赤道CLからタイヤ軸方向Dr1に距離Ds1を隔てているため、距離Ds1と距離Ds3との差Ds1-Ds3は、円錐CNの高さhとなる。
【0063】
第8ステップS8は、円錐CNを特定する第12ステップS12を含んでいる。第12ステップS12において特定される円錐CNの円周は、第1ステップS1で取得した外周長Lcであり、当該円錐CNの高さhは、第1ステップS1における任意の距離Ds1と第11ステップS11で計算された距離Ds3とから計算される。
【0064】
第8ステップS8は、切断面CSを特定する第13ステップS13を含んでいる。第13ステップS13において特定される切断面CSは、円錐CNが交点Qを通り、路面Gに平行な平面G’によって切り取られる面である。切断面CSは、
図8に示されるように、弓形状を呈する。
【0065】
第8ステップS8は、切断面CSの面積Sを計算する第14ステップS14を含んでいる。第14ステップS14において計算される切断面CSの面積Sは、下記式(3)によって表される。
【数1】
【0066】
既に述べたように、切断面CSの面積Sは、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形を示している。このため、面積Sとトレッドゴム21のタイヤ軸方向のばね定数との積によって、タイヤ赤道CLから距離Ds1を隔てた外周面上の点Pにおいて発生する横力が計算されうる。
【0067】
タイヤ赤道CLに対して対称に設計されている通常のタイヤTをスリップ角=0、キャンバー角=0で負荷した場合、接地面CP内でタイヤ赤道CLから距離Ds1を隔てた外周面上の点Pにおいて発生する横力と、タイヤ赤道CLから距離-Ds1を隔てた外周面上の点において発生する横力とが互いに打ち消し合う。このため、ベルト層8の転がりに起因するプライステアを無視すると、タイヤ赤道CLの一方側で発生する横力とタイヤ赤道CLの他方側で発生する横力とが釣り合って、タイヤTの全体として発生する横力は検出されない。
【0068】
本実施形態では、タイヤ赤道CLから任意の距離Ds1を隔てた外周面上の点Pにおいて発生する横力を計算できるので、トレッド部2の発熱及び転がり抵抗の低減に役立てることができる。
【0069】
図11は、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形をより簡易的に計算するための概念を示している。
【0070】
図8における切断面CSの面積Sは、
図11における接地長さLgを底辺、線分PQのタイヤ軸方向の成分を高さとする三角形CS’の面積S’で近似される。従って、軌跡T0と軌跡T1とによって囲まれる領域Arの面積Sは、三角形CS’の面積S’を計算することにより、概算できる。
【0071】
すなわち、第8ステップS8は、切断面CSの面積Sを計算する上記第14ステップS14に替えて、接地長さLgを底辺、線分PQのタイヤ軸方向の成分を高さとする三角形CS’の面積S’を計算する第15ステップS15を含んでいてもよい。
【0072】
タイヤTのトレッド部2には、通常、タイヤ周方向に連続してのびる周方向溝が形成されており、トレッドゴム21は、周方向溝によって複数の陸部に区分される。これに伴い、トレッドゴム21の剪断変形は、周方向溝によって分断され、陸部毎に大きく異なっている。
【0073】
図4によると、トレッドゴム21と路面Gとの摩擦がゼロである場合、接地前後における点Pのタイヤ軸方向の移動量は、ベルトライン8Lの変形量に依存することが理解される。そして、ベルトライン8Lの変形量は、タイヤ軸方向の外側に向かって増加する。
【0074】
そうすると、タイヤ軸方向の外側に向かって、接地前後における点Pのタイヤ軸方向の移動量が大きくなる。すなわち、タイヤ赤道CLからの距離Ds1が大きくなるに従い、領域Arの面積S(すなわちトレッドゴム21の剪断変形)が大きくなり、トレッド部2の発熱及び転がり抵抗に及ぼす影響が大きくなる。
【0075】
このような観点から、点Pは、トレッド部2の軸方向の最も外側の陸部に位置される、のが望ましい。
【0076】
例えば、本発明の変形推定方法100を適用して計算された剪断変形に基づく横力は、複数のトレッドゴム21とベルトライン8Lのプロファイルにおいて、FEMを用いた転動のシミュレーションで計算された横力と同等の傾向を示すことが発明者によって確認されている。なお、当該比較においては、タイヤ赤道CLからトレッド接地半幅の80%の距離Ds1を隔てた点Pにおける剪断変形が計算された。
【0077】
トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形は、複数の点Pにて計算されてもよい。すなわち、第1ステップS1では、複数の点Pによって複数の外周長Lcが取得されてもよい。この場合、第2ステップS2では、複数の点Pでのトレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形が計算される。
【0078】
これにより、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形がより詳細に計算されうる。なお、このような複数の点Pにおける剪断変形の計算にあっても、FEM等を用いた転動のシミュレーションと比較すると、本発明のトレッド部の変形推定方法100は、極めて短時間で計算がなされる。
【0079】
特に、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形は、トレッド部2の軸方向の最も外側の陸部における複数の点Pにて計算されるのが望ましい。
【0080】
また、サイドウォール部3及びビード部4の構造に関わりなく、トレッドゴム21とベルトライン8Lのプロファイルのみからトレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形が計算できる。従って、本発明のトレッド部の変形推定方法100では、計算の準備も簡素化される。
【0081】
また、本発明のトレッド部の変形推定方法100は、トレッドゴム21のタイヤ軸方向の剪断変形を簡易的に計算できるので、タイヤTの自動設計方法の一部に組み込むことも可能である。
【0082】
タイヤTの自動設計方法は、例えば、タイヤTの各種の設計パラメーターを設定するステップと、設定された設計パラメーターに含まれる設計変数を逐次変更させてタイヤTの各種性能を計算するステップと、計算されたタイヤTの性能を評価するステップと、性能の評価に基づいて、最適な設計パラメーターを決定するステップを含む。トレッドゴム21とベルトライン8Lのプロファイルは、タイヤTの設計パラメーターに含まれる。
【0083】
以上、本発明のタイヤTのトレッド部の変形推定方法100が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0084】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0085】
[本発明1]
タイヤの転動時におけるトレッド部のタイヤ軸方向の変形を推定する方法であって、
前記トレッド部は、トレッドゴム及びベルト層を含み、
タイヤ赤道からタイヤ軸方向に前記ベルト層の半幅以下で任意の距離Ds1を隔てた前記トレッドゴムの外周面上の点Pを特定する第1ステップと、
前記トレッドゴムと路面との摩擦係数がゼロであると仮定したときの前記点Pの接地面内での軌跡T0と、前記トレッドゴムと前記路面との間で滑りが生じないと仮定したときの前記点Pの前記接地面内での軌跡T1との比較に基づいて、前記トレッドゴムのタイヤ軸方向の剪断変形を計算する第2ステップを含む、
トレッド部の変形推定方法。
[本発明2]
前記第2ステップは、
前記点Pを通る前記トレッドゴムの外周長Lcを取得する第3ステップと、
前記タイヤの任意の子午断面上で、前記ベルト層がタイヤ軸方向に沿ってのびるベルトラインを特定する第4ステップと、
前記子午断面上で、前記点Pを通る前記ベルトラインの垂線VLを特定する第5ステップと、
前記ベルトラインと前記垂線VLとの交点Qのタイヤ軸Axからの距離Ds2を取得する第6ステップと、
前記第3ステップで取得した前記外周長Lc及び前記第6ステップで取得した前記距離Ds2に基づいて、前記軌跡T0及び前記軌跡T1を計算する第7ステップと、
前記軌跡T0と前記軌跡T1とによって囲まれる領域の面積を計算する第8ステップとを含む、本発明1に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明3]
前記第8ステップは、前記点Pでの接地長さLgを取得する第9ステップを含む、本発明2に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明4]
前記第9ステップは、前記第1ステップで取得した前記外周長Lc及び前記第6ステップで取得した前記距離Ds2に基づいて、前記点Pでの接地長さLgを計算する第10ステップを含む、本発明3に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明5]
前記第8ステップは、前記垂線VLとタイヤ軸Axとの交点Rのタイヤ赤道からの距離Ds3を計算する第11ステップを含む、本発明3に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明6]
前記第8ステップは、前記第1ステップで取得した前記外周長Lcを底面の円周とし、前記距離Ds1と前記距離Ds3との差D1-D3を高さとする仮想の円錐を特定する第12ステップを含む、本発明5に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明7]
前記第8ステップは、前記円錐が前記交点Qを通り、前記路面に平行な平面G’によって切り取られる切断面を特定する第13ステップを含む、本発明6に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明8]
前記第8ステップは、前記切断面の面積Sを計算する第14ステップを含む、本発明7に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明9]
前記第14ステップにおいて、前記切断面の前記面積Sは、下記式(3)によって計算される、本発明8に記載のトレッド部の変形推定方法。
【数1】
[本発明10]
前記第8ステップは、前記接地長さLgを底辺、線分PQのタイヤ軸方向の成分を高さとする三角形の面積を計算する第15ステップを含む、本発明3に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明11]
前記点Pは、前記トレッド部の軸方向の最も外側の陸部に位置される、本発明1に記載のトレッド部の変形推定方法。
[本発明12]
前記第1ステップでは、複数の前記点Pによって複数の前記外周長Lcが取得される、本発明1に記載のトレッド部の変形推定方法。
【符号の説明】
【0086】
100 :トレッド部の変形推定方法
2 :トレッド部
8 :ベルト層
8L :ベルトライン
21 :トレッドゴム
22 :外周面
Ar :領域
Ax :タイヤ軸
CL :タイヤ赤道
CN :円錐
CP :接地面
CS :切断面
CS’ :三角形
Dr1 :タイヤ軸方向
Ds1 :距離
Ds2 :距離
Ds3 :距離
G :路面
G’ :平面
Lc :外周長
P :平面
PQ :線分
Q :交点
R :交点
S :面積
S’ :面積
T :タイヤ
T0 :軌跡
T1 :軌跡
VL :垂線
h :高さ
r :半径