(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010928
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】電縫金属管及び電縫金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 13/00 20060101AFI20250116BHJP
B21C 37/083 20060101ALI20250116BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B23K13/00 A
B21C37/083 A
B23K33/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113242
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】592260572
【氏名又は名称】日鉄めっき鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧原 保雅
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
(57)【要約】
【課題】電縫金属管の内面からの排出メタルの剥離を抑えることができ、排出メタルの除去作業の必要性を低減できる電縫金属管及び電縫金属管の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による電縫金属管は、突合接合部11を有する金属管本体10と、突合接合部10に形成された余盛113及び排出メタル114と、を備え、余盛113には、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、排出メタル114の根本114aから金属管本体10の周方向に延びる底面115と、底面115から金属管本体10の内方に向けて突出する側壁面116とが設けられており、排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突合接合部を有する金属管本体と、
前記突合接合部に形成された余盛及び排出メタルと、
を備え、
前記余盛には、前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記排出メタルの根本から前記金属管本体の周方向に延びる底面と、前記底面から前記金属管本体の内方に向けて突出する側壁面とが設けられており、
前記排出メタルが前記底面及び前記側壁面と接触する一方で非溶着とされている、
電縫金属管。
【請求項2】
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記底面に沿って延びる第1直線と溶接接合面とが前記余盛の内部においてなす角度(θ1)が90°以上120°以下であり、
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記側壁面に沿って延びる第2直線と、前記溶接接合面に直交するとともに前記底面と前記側壁面との接続点を通る第3直線とが前記余盛の外部においてなす角度(θ2)が130°以下であり、
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記側壁面の高さ(H)が0.2mm以上である、
請求項1に記載の電縫金属管。
【請求項3】
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記底面に沿って延びる第1直線と溶接接合面とが前記余盛の内部においてなす角度(θ1)が90°以上120°以下である、
請求項1に記載の電縫金属管。
【請求項4】
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記側壁面に沿って延びる第2直線と、溶接接合面に直交するとともに前記底面と前記側壁面との接続点を通る第3直線とが前記余盛の外部においてなす角度(θ2)が130°以下である、
請求項1に記載の電縫金属管。
【請求項5】
前記金属管本体の長手方向に直交する断面において、前記側壁面の高さ(H)が0.2mm以上である、
請求項1に記載の電縫金属管。
【請求項6】
金属帯の側端を突き合わせた後に前記側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造する電縫金属管の製造方法であって、前記金属帯は、前記電縫金属管の内周面に相当する内表面、前記側端の端面、及び前記内表面及び前記端面が突き当たる位置に設けられた内面側角部を有しており、
前記金属帯の前記側端を突き合わせる前に、前記内面側角部の形状を矯正する矯正工程を含み、
前記矯正工程では、第1傾斜面及び第2傾斜面が前記内面側角部に形成され、前記第1傾斜面は、前記内表面に接続されるとともに前記内表面に対して傾斜して延在され、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜面と前記側端の端面との間に設けられるとともに前記第1傾斜面に対して傾斜して延在され、
前記内面側角部は、前記金属帯を湾曲させて前記金属帯の側端を突き合わせた際に、前記第1傾斜面と前記内表面との接続点が前記側端の前記端面の延長線よりも前記金属帯の幅方向に係る内側に位置するように矯正される、
電縫金属管の製造方法。
【請求項7】
前記金属帯を湾曲させて前記金属帯の側端を突き合わせた状態において、前記金属帯の長手方向に直交する断面で、前記第2傾斜面の長さをB(mm)とし、前記第1傾斜面の長さをC(mm)とし、前記端面の延長線と前記第2傾斜面に沿って延びる第4直線とが前記内面側角部の外部においてなす角度をφ1(°)とし、前記第1傾斜面に沿って延びる第5直線と前記第4直線とが前記内面側角部の外部においてなす角度をφ2(°)としたとき、
B≧0.76mm、
φ2<180°、及び
Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)>0.3
を満たすように前記内面側角部を矯正する、
請求項6に記載の電縫金属管の製造方法。
【請求項8】
B≧0.80mmを更に満たすように前記内面側角部を矯正し、
前記側端を接合する際のアプセット量を0.5mm以上かつ0.8mm以下に設定する、
請求項7に記載の電縫金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の側端を互いに接合した電縫金属管及び電縫金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の電縫金属管としては、下記の特許文献1に示されている構成を挙げることができる。特許文献1には、突合溶接部を有する金属管本体と、突合溶接部に形成された余盛及び排出メタルとを備えた電縫金属管が記載されている。余盛には、金属管本体の長手方向に直交する断面において、金属管本体の内方に向かって突出する余盛の角部と排出メタルの根本との間に延在された傾斜面が設けられている。そして、排出メタルが余盛と非溶着とされていることで、過酷な加工により排出メタルにクラックが生じたとしても、そのクラックが母材まで伝播することが回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の電縫金属管により、排出メタルのクラックが母材まで伝播することを防止できるようになったが、本発明者らは以下のように新たな課題を見出した。すなわち、排出メタルは、金属帯の側端が互いに押し当てられた際に溶融金属が接合部から押し出されて固化したものである。従来の電縫金属管では、排出メタルが余盛と非溶着とされているので、排出メタルは、その根元で接合部と繋がっているだけである。このため、電縫金属管の切断時等の外力により電縫金属管の内面から排出メタルが剥離しやすく、排出メタルの除去作業が必要となった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、電縫金属管の内面からの排出メタルの剥離を抑えることができ、排出メタルの除去作業の必要性を低減できる電縫金属管及び電縫金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電縫金属管は、一実施形態において、突合接合部を有する金属管本体と、突合接合部に形成された余盛及び排出メタルと、を備え、余盛には、金属管本体の長手方向に直交する断面において、排出メタルの根本から金属管本体の周方向に延びる底面と、底面から金属管本体の内方に向けて突出する側壁面とが設けられており、排出メタルが底面及び側壁面と接触する一方で非溶着とされている。
【0007】
本発明に係る電縫金属管の製造方法は、一実施形態において、金属帯の側端を突き合わせた後に側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造する電縫金属管の製造方法であって、金属帯は、電縫金属管の内周面に相当する内表面、側端の端面、及び内表面及び端面が突き当たる位置に設けられた内面側角部を有しており、金属帯の側端を突き合わせる前に、内面側角部の形状を矯正する矯正工程を含み、矯正工程では、第1傾斜面及び第2傾斜面が内面側角部に形成され、第1傾斜面は、内表面に接続されるとともに内表面に対して傾斜して延在され、第2傾斜面は、第1傾斜面と側端の端面との間に設けられるとともに第1傾斜面に対して傾斜して延在され、内面側角部は、金属帯を湾曲させて金属帯の側端を突き合わせた際に、第1傾斜面と内表面との接続点が側端の端面の延長線よりも金属帯の幅方向に係る内側に位置するように矯正される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電縫金属管によれば、排出メタルが底面及び側壁面と接触する一方で非溶着とされているので、電縫金属管の内面からの排出メタルの剥離を抑えることができ、排出メタルの除去作業の必要性を低減できる。
【0009】
また、本発明の電縫金属管及び電縫金属管の製造方法の一実施形態によれば、内面側角部は、金属帯を湾曲させて金属帯の側端を突き合わせた際に、第1傾斜面と内表面との接続点が側端の端面の延長線よりも金属帯の幅方向に係る内側に位置するように矯正されるので、排出メタルが余盛と溶着する虞を低減でき、より確実に排出メタルが底面及び側壁面と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できる。これにより、電縫金属管の内面からの排出メタルの剥離を抑えることができ、排出メタルの除去作業の必要性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態による電縫金属管の断面図である。
【
図2】
図1の余盛及び排出メタルを概略的に示す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態による電縫金属管の製造方法の矯正工程において側端の形状が矯正された金属帯の断面図である。
【
図4】
図3の金属帯の側端が突き合わされた状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態による電縫金属管の製造方法を実施するための電縫金属管製造装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態による電縫金属管1の断面図である。
図1に示すように、電縫金属管1は、突合接合部11を有する金属管本体10と、突合接合部11に形成された余盛113及び排出メタル114とを備えている。
【0013】
金属管本体10は、長手状の管体であり、その周方向に係る一部に突合接合部11を有している。
図1は、突合接合部11の部分における、金属管本体10の長手方向に直交する電縫金属管1の断面を示している。
【0014】
後に
図6を用いて説明するように、電縫金属管1は、金属帯2の側端20を互いに接合したものである。金属帯2が徐々に湾曲されてオープンパイプ3が形成され得る。オープンパイプ3は、金属帯2の幅方向2bに沿う両側の側端20を互いに突き合わせた断面C字状の管体であり、側端20が突き合わされた部分に開口を有している。オープンパイプ3の外周を拘束し、金属帯2の側端20を互いに押し当てながら、金属帯2の側端20を加熱することにより、側端20が互いに溶接されて
図1の突合接合部11が形成される。
【0015】
突合接合部11には、接合部110と熱影響部111とが含まれている。接合部110は、溶融された金属帯2の側端20が互いに接合されている部分である。熱影響部111は、側端20の溶融時の加熱の影響を受けた部分であり、接合部110の両側に形成されている。熱影響部111の両側には非熱影響部112が設けられている。非熱影響部112は金属管本体10の一部を構成する。接合部110及び熱影響部111は、熱の影響により非熱影響部112から組織が変わっている。
【0016】
熱影響部111には余盛113が形成されている。余盛113は、金属帯2の側端20を互いに押し当てる際に、その圧力により熱影響部111において軟化された金属が隆起した部分である。余盛113は、余盛113の両側における非熱影響部112の内周面を接続する仮想内周面112aよりも金属管本体10の内方に突出されている。仮想内周面112aは直線であってよい。余盛113は、金属管本体10の周方向に関して接合部110の両側に設けられている。
【0017】
接合部110には排出メタル114が形成されている。排出メタル114は、接合部110から金属管本体10の内方に向けて突出されている。排出メタル114は、上述の仮想内周面112aよりも金属管本体10の内方に位置されている。排出メタル114は、金属帯2の側端20が互いに押し当てられた際に溶融金属が接合部110から押し出されて固化したものである。この排出メタル114の形成は、溶融金属に含まれる酸化物(ペネトレータ)を接合部110から排出するとの役割を有している。排出メタル114の根本114aは、接合部110と一体である。金属管本体10の周方向に関する排出メタル114の最大幅は、同方向に関する接合部110の幅よりも広い。
【0018】
余盛113には、金属管本体10の長手方向に直交する断面(
図1に示す断面)において、排出メタル114の根本114aから金属管本体10の周方向に延びる底面115と、底面115から金属管本体10の内方に向けて突出する側壁面116とが設けられている。また、余盛113には、側壁面116の先端に位置する頂部117と、頂部117から非熱影響部112に向けて金属管本体10の周方向に延在する外側面118とが更に設けられていてよい。排出メタル114は、底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされている。換言すると、余盛113には凹状の溝が形成されており、排出メタル114は、その凹状の溝の内壁に接するように凹状の溝の内部に位置されている。排出メタル114は、頂部117の間から金属管本体10の内方に向けて露出されている。排出メタル114の最内端は、頂部117よりも金属管本体10の内方に位置していてよい。
【0019】
ここで、排出メタル114は熱の影響により靱性が低下しており、過酷な加工を受けたとき排出メタル114にクラックが生じやすい。排出メタル114が底面115及び側壁面116と非溶着とされていることで、排出メタル114のクラックが母材(余盛113)まで伝播することを防止できる。その一方で、排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触されていることで、電縫金属管1の内面からの排出メタル114の剥離を抑えることができる。排出メタル114の剥離の抑制は、排出メタル114が接合部110から押し出される過程において底面115及び側壁面116の表面における微細な空隙に排出メタル114の一部が入り込むことよるアンカー効果、及び/又は排出メタル114の外面と底面115及び側壁面116との間に摩擦によって果たされると考えられる。
【0020】
次に、
図2は、
図1の余盛113及び排出メタル114を概略的に示す説明図である。
図2に示すように、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、底面115及び側壁面116は、接続点119で接続されている。接続点119は、底面115及び側壁面116によって形成された窪んだ角の頂点であり得る。接続点119は、金属管本体10の長手方向に沿って延びる線を形成してよい。
【0021】
底面115に沿って延びる第1直線L1と、側壁面116に沿って延びる第2直線L2とが余盛113の外部においてなす角度θ0は、80°以上180°未満であり得る。第1直線L1は、排出メタル114の根本114aと、底面115と側壁面116との接続点119とを通る直線であり得る。第2直線L2は、接続点119と側壁面116の先端の頂部117とを通る直線であり得る。頂部117は、余盛113の中で、最も電縫金属管1の内方に位置する点と言える。
【0022】
また、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、底面115に沿って延びる第1直線L1と溶接接合面S0とが余盛113の内部においてなす角度θ1が80°以上120°以下であることが好ましく、90°以上120°以下であることがより好ましい。角度θ1が80°未満のとき、底面115が過剰に仮想内周面112aに近づく方向に延び、排出メタル114と底面115及び側壁面116との接触面積が減少する虞がある。すなわち、角度θ1が80°以上であることで、排出メタル114と底面115及び側壁面116との接触面積が減少する虞を低減できる。また、角度θ1が90°以上であることで、接触面積が減少する虞をより確実に低減できる。また、角度θ1が120°超のとき、排出メタル114の食い込み及び/又は排出不足が発生して、溶接部強度に懸念が生じることがある。すなわち、角度θ1が120°以下であることで溶接部強度に懸念が生じる虞を低減できる。溶接接合面S0は、金属管本体10の周方向に関する接合部110の中心位置を通る面であり得る。溶接接合面S0は、金属管本体10の径方向に係る中心位置を通っていてよい。
【0023】
後述のように、金属帯2の幅方向2bに沿う両側の側端20を互いに突き合わせる前に、
図3に示すように金属帯2の内面側角部23の形状を矯正することができる。内面側角部23の形状矯正により角度θ1を調整することができる。また、金属帯2の側端20を互いに押し当てながら金属帯2の側端20を加熱して金属帯2の側端20を互いに溶接するとき、アプセット量(側端20の押し当て量)を調整することにより角度θ1を調節することができる。アプセット量が小さいほど角度θ1が大きくなる。
【0024】
また、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、側壁面116に沿って延びる第2直線L2と、溶接接合面S0に直交するとともに底面115と側壁面116との接続点119を通る第3直線L3とが余盛113の外部においてなす角度θ2が135°以下であることが好ましく、130°以下であることがより好ましい。角度θ2が135°超のとき、側壁面116と排出メタル114との接触面積が減少する虞がある。すなわち、角度θ2が135°以下であることで側壁面116と排出メタル114との接触面積が減少する虞を低減できる。また、角度θ2が130°以下であることで、接触面積が減少する虞をより確実に低減できる。なお、角度θ2の下限値は特に限定されないが、例えば側壁面116が溶融せずに残存できる下限値として80°程度が考えられる。
【0025】
後述のように、金属帯2の幅方向2bに沿う両側の側端20を互いに突き合わせる前に、
図3に示すように金属帯2の内面側角部23の形状を矯正することができる。内面側角部23の形状矯正により角度θ2を調整することができる。また、金属帯2の側端20を互いに押し当てながら金属帯2の側端20を加熱して金属帯2の側端20を互いに溶接するとき、アプセット量(側端20の押し当て量)を調整することにより角度θ2を調節することができる。アプセット量が大きいほど角度θ2が大きくなる。
【0026】
また、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、側壁面116の高さHが0.2mm以上であることが好ましい。高さHが0.2mm以上であることで、側壁面116が排出メタル114を包み込み、側壁面116と排出メタル114との接触面積を確保でき、より確実に排出メタル114の剥離を抑えることができる。高さHは、頂部117と第3直線L3との間の最短距離であり得る。なお、高さHの上限値は特に限定されないが、高さHが排出メタル114の高さを超えても排出メタル114と側壁面116との接触面積の確保に寄与しないため、排出メタル114の高さが高さHの上限値として考えられる。一般に、排出メタル114の高さは、金属管本体10の壁厚の30%程度であり得る。
【0027】
後述のように、金属帯2の幅方向2bに沿う両側の側端20を互いに突き合わせる前に、
図3に示すように金属帯2の内面側角部23の形状を矯正することができる。内面側角部23の形状矯正により高さHを調整することができる。また、金属帯2の側端20を互いに押し当てながら金属帯2の側端20を加熱して金属帯2の側端20を互いに溶接するとき、アプセット量(側端20の押し当て量)を調整することにより高さHを調節することができる。アプセット量が大きいほど高さHが小さくなる。
【0028】
次に、
図3~
図5を参照しながら、本発明の実施の形態による電縫金属管1の製造方法について説明する。
図3は本発明の実施の形態による電縫金属管1の製造方法の矯正工程において側端20の形状が矯正された金属帯2の断面図であり、
図4は
図3の金属帯2の側端20が突き合わされた状態を示す説明図であり、
図5は
図4の領域Vを拡大して示す説明図である。
【0029】
電縫金属管1の製造方法は、金属帯2の側端20を突き合わせた後に側端20を高周波加熱により溶接して電縫金属管1を製造するものである。
図3に示すように、金属帯2は、電縫金属管1の内周面に相当する内表面21、側端20の端面22、及び内表面21と端面22とが突き当たる位置に設けられた内面側角部23を有している。
【0030】
電縫金属管1の製造方法は、金属帯2の側端20を突き合わせる前に、
図3に示すように内面側角部23の形状を矯正する矯正工程を含む。矯正工程は、金属帯2を湾曲させる前に行われてよい。矯正工程では、第1傾斜面231及び第2傾斜面232が内面側角部23に形成される。第1傾斜面231は、内表面21に接続されるとともに内表面21に対して傾斜して延在されている。第2傾斜面232は、第1傾斜面231と側端20の端面22との間に設けられるとともに第1傾斜面231に対して傾斜して延在されている。なお、矯正前の内面側角部23は、
図3の内表面21の延長線と端面22の延長線とによって区画される直角の角を形成していてよい。
【0031】
図4に示すように、内面側角部23は、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた際に、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aが側端20の端面22の延長線EL(
図5参照)よりも金属帯2の幅方向Wに係る内側に位置するように矯正される。接続点231aが端面22の延長線ELよりも金属帯2の幅方向Wに係る外側に突出した場合、金属帯2の側端20を互いに押し当てて接合(溶接)した後に、排出メタル114が余盛113と溶着する傾向にある。すなわち、内面側角部23を上述のように矯正することで、排出メタル114が余盛113と溶着する虞を低減でき、より確実に排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できる。なお、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた際とは、
図6のフォーミングロール群5の最終ロールを抜け出た直後であって、
図6のスクイズロール61に導入される前のタイミングであってよい。フォーミングロール群5の最終ロールは、フィンパスロールであり得る。
【0032】
図4及び
図5に示すように、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた状態において、金属帯2の長手方向に直交する断面で、第2傾斜面232の長さをB(mm)とし、第1傾斜面231の長さをC(mm)とし、端面22の延長線ELと第2傾斜面232に沿って延びる第4直線L4とが内面側角部23の外部においてなす角度をφ1(°)とし、第1傾斜面231に沿って延びる第5直線L5と第4直線L4とが内面側角部23の外部においてなす角度をφ2(°)としたとき、
B≧0.76mmであり、
φ2<180°であり、
Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)>0.3
を満たすように内面側角部23を矯正することが好ましい。これらを満たすことで、より確実に排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できる。
【0033】
また、B≧0.80mmを更に満たすように内面側角部23を矯正し、側端20を接合する際のアプセット量を0.5mm以上かつ0.8mm以下に設定することがより好ましい。これらにより、更により確実に排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できる。
【0034】
アプセット量とは、側端20を接合する際の側端20の押し当て量に相当し、溶接直前のオープンパイプ3の周長と溶接直後の電縫金属管1の周長の差である。より具体的には、アプセット量は、後述のスクイズロール61に導入される直前位置におけるオープンパイプ3の外周長から同位置におけるオープンパイプ3の端面間の離間距離を差し引いた値と、電縫溶接後の電縫金属管1の周長との差によって表すことができる。スクイズロール61に導入される直前位置としては、スクイズロール61の1m手前の位置を設定し得る。
【0035】
なお、第4直線L4は、端面22と第2傾斜面232との接続点232aと、第2傾斜面232と第1傾斜面231との接続点232bとを通る直線であり得る。第5直線L5は、第2傾斜面232と第1傾斜面231との接続点232bと、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aとを通る直線であり得る。「Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)」は、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aと端面22の延長線ELとの最短距離を表す。
【0036】
また、第2傾斜面232の長さBの上限値、角度φ2の下限値、及び「Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)」の上限値は、実施条件に応じて適宜決定できる。第2傾斜面232の長さBを適度な長さに留めることで、第1傾斜面231と排出メタル114との接触面積が小さくなる虞を回避できる。角度φ2を適度に確保することで、余盛113への排出メタル114の溶着を回避できる。「Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)」を適度な値に留めることで、第1傾斜面231と排出メタル114との接触面積が小さくなる虞を回避できる。
【0037】
また、金属帯2は、電縫金属管1の外周面に相当する外表面24、及び外表面24と端面22とが突き当たる位置に設けられた外面側角部25を有している。電縫金属管1の製造方法は、金属帯2の側端20を突き合わせる前に、
図4に示すように外面側角部25の形状を矯正する第2矯正工程を更に含んでいてよい。外面側角部25の矯正では、外面側角部25に第3傾斜面251が形成される。第3傾斜面251は、外表面24に接続されるとともに外表面24に対して傾斜して延在されている。
【0038】
次に、
図6は、本発明の実施の形態による電縫金属管1の製造方法を実施するための電縫金属管製造装置を示す説明図である。
図6の電縫金属管製造装置は、平板状の金属帯2からオープンパイプ3を経て電縫金属管1を製造するための装置である。電縫金属管製造装置には、クラッシング設備4、フォーミングロール群5及び溶接設備6が設けられている。
【0039】
クラッシング設備4は、金属帯2の側端20を突き合わせる前に金属帯2の内面側角部23(
図3等参照)の形状を矯正するための設備である。クラッシング設備4には、金属帯2の幅方向2bに沿って互いに離間して配置された一対のクラッシングロール40が設けられている。一対のクラッシングロール40の間に金属帯2を通し、クラッシングロール40に内面側角部23を押し当てることにより内面側角部23の形状の矯正することができる。
【0040】
フォーミングロール群5は、複数のフォーミングロールによって構成されるものであり、金属帯2の搬送方向2aに沿うクラッシング設備4の下流側に配置されている。クラッシング設備4で側端20の形状が矯正された金属帯2は、フォーミングロール群5で徐々に湾曲されてオープンパイプ3とされる。オープンパイプ3は、金属帯2の幅方向2bに沿う両側の側端20を互いに突き合わせたものであり、側端20が突き合わされた部分に開口を有する断面C字状の管体である。
【0041】
詳細には図示しないが、フォーミングロール群5の最終ロールは、フィンパスロールであり得る。フィンパスロールにより、
図4に示すように外面側角部25の形状を矯正することができる。
【0042】
溶接設備6は、金属帯2の搬送方向2aに沿うフォーミングロール群5の下流側に配置された設備であり、加熱コイル60及びスクイズロール61を有している。加熱コイル60は、高周波電流が通されるコイルである。加熱コイル60の内側をオープンパイプ3が通されるとき、オープンパイプ3を構成する金属帯2の側端20が加熱(高周波加熱)されて溶融される。スクイズロール61は、オープンパイプ3の外周を拘束する一対のサイドロールによって構成されるものであり、加熱コイル60における加熱で溶融されたオープンパイプ3における金属帯2の側端20を互いに押し当てて接合する(溶接する)。
【0043】
すなわち、本実施の形態の電縫金属管製造装置では、金属帯2の側端20を突き合わせた後に側端20を高周波加熱により溶接して電縫金属管1を製造する。なお、図示はしないが、溶接設備6の後段には、電縫溶接後の金属管(溶接設備6の直後の金属管)の大きさ及び形状を矯正する矯正設備が設けられていてもよい。矯正設備が設けられる場合、矯正設備における矯正後の金属管が電縫金属管1に相当する。一方、矯正設備が設けられない場合、電縫溶接後の金属管が電縫金属管1に相当する。
【0044】
なお、以上の説明では、内面側角部23にクラッシングロール40を押し当てることにより内面側角部23の形状を矯正するように説明したが、成形ロールのフィンパスロールによる成形、バイト切削、グラインダ研削や、これらを組合せた方法によっても内面側角部23の形状の矯正を行い得る。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0046】
本発明者らは、以下の表1に示すように内面側角部23の矯正条件を変更しながら、複数の電縫金属管1を試作した。電縫金属管1の製造には
図6に示す電縫金属管製造装置を用い、クラッシングロール40の形状を変更することで内面側角部23の矯正条件を変更した。試作した電縫金属管1は、いずれも外径が25.4mmであるとともに、肉厚が4.5mmであった。
【0047】
【0048】
表1の「エッジ形状1」の欄は、クラッシングロール40を抜け出た直後の内面側角部23の形状を示している。クラッシングロール40を抜け出た直後の形状は、
図3の形状に対応している。
【0049】
表1の「エッジ形状2」の欄は、フォーミングロール群5を抜け出た直後の内面側角部23の形状を示している。フォーミングロール群5を抜け出た直後の形状は
図4及び
図5の形状に対応しており、その寸法は金属帯2の湾曲の影響も受けている。
【0050】
表1の「アプセット量」の欄は、溶接設備6におけるオープンパイプ3のアプセット量を示している。上述のように、アプセット量とは、側端20を接合する際の側端20の押し当て量に相当し、溶接直前のオープンパイプ3の周長と溶接直後の電縫金属管1の周長の差である。
【0051】
表1の「ビード形状」の欄は、溶接設備6を抜け出た後の突合接合部11の形状を示している。溶接設備6を抜け出た後の形状は、
図1及び
図2の形状に対応している。
【0052】
表1の「剥離」の欄は、排出メタル114の剥離の発生頻度を表している。二重丸(◎)は排出メタル114の剥離の発生頻度が極めて少なかったことを示し、丸(〇)は排出メタル114の剥離の発生頻度が少なかったことを示し、バツ(×)は排出メタル114の剥離の発生頻度が高かったことを示す。
【0053】
表1の「総合」の欄は、電縫金属管1の溶接状態と排出メタル114の剥離の発生頻度を考慮した総合評価を表している。二重丸(◎)は溶接状態が良好かつ排出メタル114の剥離の発生頻度が極めて少なかったことを示し、丸(〇)は溶接状態が良好かつ排出メタル114の剥離の発生頻度が少なかったことを示し、三角(△)は排出メタル114の剥離の発生頻度が少なかったが溶接状態が良好でなかったことを示し、バツ(×)は溶接状態が悪かったことを示す。
【0054】
実施例1~6は、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた際に、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aが側端20の端面22の延長線ELよりも金属帯2の幅方向Wに係る内側に位置するように内面側角部23を矯正した例である。表中の「Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)」が正であるとき、接続点231aが延長線ELよりも金属帯2の幅方向Wに係る内側に位置していることを表している。
【0055】
これに対して、比較例1は、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた際に、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aが側端20の端面22の延長線ELよりも金属帯2の幅方向Wに係る外側に突出するように内面側角部23を矯正した例である。
【0056】
比較例1では、排出メタル114が余盛113と溶着していた。これに対して、実施例1~5では、排出メタル114が余盛113と溶着せず、排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できていた。
【0057】
この結果から、金属帯2を湾曲させて金属帯2の側端20を突き合わせた際に、第1傾斜面231と内表面21との接続点231aが側端20の端面22の延長線ELよりも金属帯2の幅方向Wに係る内側に位置するように内面側角部23を矯正することで、排出メタル114が余盛113と溶着する虞を低減でき、より確実に排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できることが確認できた。
【0058】
上述のように、実施例1~6は、排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成できていた例である。これらにおいて排出メタル114の剥離を調査したところ、いずれも排出メタル114の剥離の発生頻度が低かった。
【0059】
これに対して、比較例2~3では、排出メタル114の剥離の発生頻度が高かった。これら比較例2~3は、排出メタル114が余盛113と溶着していなかったものの、底面115及び側壁面116のいずれか一方が欠落していた例である。底面115及び側壁面116のいずれか一方が欠落していたため、電縫金属管1の内面からの排出メタル114が剥離しやすかったと考えられる。
【0060】
この結果から、排出メタル114が底面115及び側壁面116と接触する一方で非溶着とされた状態を形成することで、電縫金属管1の内面からの排出メタル114の剥離を抑えることができ、排出メタル114の除去作業の必要性を低減できることが確認できた。
【0061】
特に、実施例1~3は、金属管本体10の長手方向に直交する断面において、底面115に沿って延びる第1直線L1と溶接接合面S0とが余盛113の内部においてなす角度θ1が90°以上120°以下であり、かつ金属管本体10の長手方向に直交する断面において、側壁面116に沿って延びる第2直線L2と、溶接接合面S0に直交するとともに底面115と側壁面116との接続点119を通る第3直線L3とが余盛113の外部においてなす角度θ2が130°以下であり、かつ金属管本体10の長手方向に直交する断面において、側壁面116の高さHが0.2mm以上である例である。
【0062】
一方、実施例4は角度θ1が90°未満の例であり、実施例5は角度θ2が130°超の例であり、実施例6は側壁面116の高さHが0.2mm未満の例である。実施例1~3では、実施例4~6と比較して排出メタル114の剥離の発生頻度が低かった。また、比較例5は角度θ1が120°超の例であり、比較例5では溶接状態が悪かった。このことから、実施例1~3のように、角度θ1が90°以上120°以下であり、角度θ2が130°以下であり、側壁面116の高さHが0.2mm以上であることで、より確実に電縫金属管1の内面からの排出メタル114の剥離を抑えることができることが確認できた。
【0063】
ここで、「エッジ形状2」の欄に示すように、B≧0.76mmであり、φ2<180°であり、Bsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)>0.3であるとき、総合評価が二重丸(◎)又は丸(〇)の実施例1~6を製造することができた。このことから、B≧0.76mm、φ2<180°、及びBsin(φ1)-Ccos(φ1+φ2-90°)>0.3を満たすように内面側角部23を矯正することで、より確実に電縫金属管1の内面からの排出メタル114の剥離を抑えることができることを理解できる。また、B≧0.80mmを更に満たすように内面側角部23を矯正し、側端20を接合する際のアプセット量を0.5mm以上かつ0.8mm以下に設定することで、総合評価が二重丸(◎)の実施例1~3を製造することができた。このことから、B≧0.80mmを更に満たすように内面側角部23を矯正し、側端20を接合する際のアプセット量を0.5mm以上かつ0.8mm以下に設定することで、更により確実に電縫金属管1の内面からの排出メタル114の剥離を抑えることができることを理解できる。