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特開2025-10935活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システム
<図1>
  • 特開-活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010935
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20250116BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20250116BHJP
【FI】
C02F1/28 D
C02F1/00 K
C02F1/00 V
C02F1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113250
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野宮 高由
(72)【発明者】
【氏名】隋 鵬哲
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 倫子
(72)【発明者】
【氏名】古幡 真祐子
【テーマコード(参考)】
4D624
【Fターム(参考)】
4D624AA05
4D624AB00
4D624BA02
4D624BB01
4D624CA01
4D624DA01
4D624DA03
4D624DA04
4D624DB00
(57)【要約】
【課題】処理水から発生するカビ臭を安価で且つ迅速に把握でき、活性炭注入率を過不足なく決定することが可能で、これにより処理水から発生するカビ臭を長期間安定して抑制することが可能な活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムを提供する。
【解決手段】原水の水質データと気象データを用いた機械学習により原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段201と、水質データ、気象データ、ピコプランクトン数の予測値を格納する格納手段103と、ピコプランクトン数の予測値と水質データとを用いた機械学習により原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段202と、カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、原水に注入する活性炭の活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段204とを備える活性炭注入制御システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の水質データと気象データを用いた機械学習により前記原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段と、
前記水質データ、前記気象データ、前記ピコプランクトン数の予測値を格納する格納手段と、
前記ピコプランクトン数の予測値と前記水質データとを用いた機械学習により前記原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段と、
前記カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、前記原水に注入する活性炭の前記活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段と
を備えることを特徴とする活性炭注入制御システム。
【請求項2】
前記ピコプランクトン数予測手段が、
前記原水のpH、導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む前記水質データと、日射量の情報を少なくとも含む前記気象データとを説明変数とし、前記ピコプランクトン数を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、前記ピコプランクトン数の予測値を演算することを含む請求項1に記載の活性炭注入制御システム。
【請求項3】
前記カビ臭物質濃度予測手段が、
前記ピコプランクトン数の予測値、前記原水の導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む前記水質データとを説明変数とし、前記カビ臭物質濃度を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、前記カビ臭物質濃度の予測値を演算することを含む請求項1に記載の活性炭注入制御システム。
【請求項4】
前記カビ臭物質濃度の予測値と、前記原水の水温を含む水質データと、前記カビ臭物質濃度と関連づけられた前記活性炭注入率の設定値を説明変数とし、前記活性炭注入率の予測値を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、前記活性炭注入率の予測値を演算する活性炭注入率予測手段を備えることを含む請求項1に記載の活性炭注入制御システム。
【請求項5】
前記水質データが、前記原水が貯留される貯留槽の水位、前記貯留槽への前記原水の流入水量、前記原水の水温のデータを更に含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の活性炭注入制御システム。
【請求項6】
前記気象データが、外気温、日照時間、降雨量のデータを更に含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の活性炭注入制御システム。
【請求項7】
原水の過去の水質データと過去の気象データとを含む学習データを使用した機械学習によって構築された機械学習モデルに、原水の水質データ及び気象データの測定値を入力し、前記原水中の将来のピコプランクトン数の予測値を出力させ、
前記ピコプランクトン数の過去の予測値と過去の前記水質データとを用いた機械学習によって構築された機械学習モデルに、前記将来のピコプランクトン数の予測値と前記水質データの測定値を入力し、前記原水中の将来のカビ臭物質濃度の予測値を出力させ、
前記カビ臭物質濃度の将来の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、前記原水へ注入する活性炭の活性炭注入率を制御すること
を有することを特徴とする活性炭注入制御方法。
【請求項8】
原水の水質データと気象データを用いた機械学習により前記原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段と、
前記ピコプランクトン数の予測値と前記水質データとを用いた機械学習により前記原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段と、
前記原水に活性炭を注入する活性炭注入手段と、
前記カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、前記活性炭注入手段が注入する活性炭の前記活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段と
を備えることを特徴とする水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムに関し、例えば、河川水、ダム湖、地下水等の原水中の臭気物質を活性炭に吸着除去させる活性炭処理に好適な活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
河川水や地下水等の原水の水処理では、凝集沈殿処理や砂ろ過処理などの固液分離技術によって不溶解性成分である濁度成分や藻類等を除去する処理が行われている。原水を凝集ろ過するプロセスでは種々の要因によって凝集阻害を起こす場合があるが、その一因としてピコプランクトンの存在が近年問題になっている。ピコプランクトンは、0.2~2.0μmの大きさを持つプランクトンであり、ろ過水の濁度を上昇させる要因となることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
ピコプランクトンは、栄養摂取の仕組みから2つのグループに分類される。1つは、有機物を分解して栄養源とする細菌が主体の従属栄養ピコプランクトンであり、もう1つは、光合成を行う植物ピコプランクトンである。ピコプランクトンは、クロロフィルなどの色素を持ち、蛍光顕微鏡にて観察が可能であり、浄水処理の原水または処理水中に存在していることが確認されている。
【0004】
近年、厚生労働省は、水道水を介して発生したクリプトスポリジウムによる感染症への対応としてろ過水濁度0.1度以下での管理を指導してきている(非特許文献2参照)。そのため、各地の水道事業者は、ろ過水濁度を常時0.1度以下に管理することが最も重要な水質管理項目の一つであると位置づけている。
【0005】
しかしながら、最近の全国各地の水道水源では、富栄養化に起因するピコプランクトンの大発生が頻発してきている。ピコプランクトンは、大きさが0.2~2.0μmと微小であるため、ろ過池より漏出し、ろ過水濁度を0.1度以上に上昇させる原因となる。水道事業体ではその処理対策に苦慮しているところである。また、ピコプランクトンには臭気物質を発生するものがあり、水道水における異臭味の原因になっている。こうした問題を未然に防ぐために、水中に存在するピコプランクトンの量を連続的に監視し、監視結果に応じて凝集剤や塩素等の薬品の注入量を制御する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
多くの浄水場では、原水中の臭気物質や溶解性有機物を除去するために粉末活性炭を注入し、濁質を除去するために凝集剤を注入している。この種の水処理システムでは、原水の水質に応じて粉末活性炭の注入率を決定する必要がある。
【0007】
粉末活性炭の注入率を決定する方法としては、ジャーテスト(以下、「ビーカーテスト」とも称する)が用いられることが多い。ジャーテストは、原水を複数のビーカーに採水し、採水した複数の原水にそれぞれ異なる量の粉末活性炭を注入して、臭気物質や溶解性有機物の除去率を評価し、処理後の臭気濃度および溶解性有機物が目標濃度以下まで低減するために必要な最低限の粉末活性炭注入率を求める方法である。
【0008】
しかしながら、ジャーテストによって粉末活性炭の注入率を決定する方法では、原水の水質の変化に追随した粉末活性炭の注入が非常に難しく、注入率の過不足が生じる恐れがある。また、ジャーテストは、粉末活性炭の最適な注入率を求めるのに時間を要するため、粉末活性炭の最適な注入率が得られたときには、既に原水の水質が変化している可能性もある。実際に、投入する粉末活性炭の注入率を決定する際は、ジャーテストによって得られた注入率よりも安全側で注入率を決定するため、過剰注入となってしまう。
【0009】
粉末活性炭は、凝集剤、硫酸、次亜塩素酸ナトリウム等の他の薬品に比べて単価が非常に高い。そのため、粉末活性炭の過剰注入は薬品コストの急騰を招くおそれがある。経済的な観点からも、粉末活性炭の過剰注入を抑制し、原水の水質の変化に応じた粉末活性炭の最適な活性炭注入率を制御する方法が望まれている。
【0010】
活性炭注入率を制御する方法として、例えば、臭気センサにより粉末活性炭処理槽内の原水中の臭気物質濃度を検出すると同時に、粉末活性炭処理槽内の原水の紫外線吸光度、蛍光強度、および溶解性有機炭素濃度のうち少なくも何れかならびに凝集剤注入率とに基づいて、原水中の臭気物質の除去に必要な粉末活性炭の注入率を算出し、この粉末活性炭注入率に基づいて、粉末活性炭を制御する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
更に、原水濁度及び原水カビ臭値を含む原水水質値と、凝集剤注入率、活性炭注入率から予測処理水カビ臭値を含む予測処理水水質値を予測し、予測結果から最適な凝集剤注入率及び活性炭注入率を制御する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5430788号公報
【特許文献2】特開2022-026969号公報
【特許文献3】特開2015-157239号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】日本水道協会、生物障害を起こさないための浄水処理の手引き 平成18年3月、第57頁
【非特許文献2】厚生労働省告示、薬生水発0529第1号、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」、別紙2、第3頁、令和元年5月29日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1~3に記載される従来の手法のいずれも、安価で簡単かつリアルタイムで原水中の臭気物質を監視し、過不足無く活性炭注入率を決定できるような方法はまだ確率されていない。
【0015】
例えば、特許文献1に記載されるような、生物粒子計数器を用いて水中の生物粒子の個数を監視し、監視結果を利用して凝集剤や塩素等の薬品の注入量を制御する方法では、薬品の濃度が適正範囲に調整されて臭気物質が取り除かれるまでに所定の時間を要する。そのため、急激な生物粒子の増加が生じた際等に迅速に対応することが困難である。また、特許文献1では、生物粒子計数器をはじめとした特別な装置の導入及びメンテナンスが必要で費用と作業時間もかかる。
【0016】
特許文献2に記載された方法は、原水中のカビ臭物質をリアルタイム測定する必要がある。カビ臭に関しての臭気苦情が寄せられる最低濃度は、例えば2-メチルイソボルネオール(2-MIB)では20ng/L以上、ジェオスミンが30~40ng/L以上であるが、このような臭気を誤差なくリアルタイムで測定することは困難である。また、高感度の臭気センサを導入することにより、高額な導入費用と維持管理の手間がかかるため導入障壁も高い。特許文献3に記載された方法も、凝集剤注入率及び活性炭注入率の予測において原水に含まれる原水カビ臭値を測定する際に臭気センサをはじめとした特別なセンサを導入する必要があるため、特許文献2と同様に高額な導入費用と維持管理の手間がかかる。
【0017】
上記課題に鑑み、本発明は、処理水から発生するカビ臭を安価で且つ迅速に把握でき、活性炭注入率を過不足なく決定することが可能で、これにより処理水から発生するカビ臭を長期間安定して抑制することが可能な活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カビ臭物質と強い正の相関にあるピコプランクトン数を機械学習により予測し、ピコプランクトン数の予測結果を用いてカビ臭物質濃度を更に機械学習により予測することが有効であるとの知見を得た。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は一側面において、原水の水質データと気象データを用いた機械学習により原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段と、水質データ、気象データ、ピコプランクトン数の予測値を格納する格納手段と、ピコプランクトン数の予測値と水質データとを用いた機械学習により原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段と、カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、原水に注入する活性炭の活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段とを備える活性炭注入制御システムである。
【0020】
本発明に係る活性炭注入制御システムは一実施態様において、ピコプランクトン数予測手段が、原水のpH、導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データと、日射量の情報を少なくとも含む気象データとを説明変数とし、ピコプランクトン数を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、ピコプランクトン数の予測値を演算することを含む。
【0021】
本発明に係る活性炭注入制御システムは別の一実施態様において、カビ臭物質濃度予測手段が、ピコプランクトン数の予測値、原水の導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データとを説明変数とし、カビ臭物質濃度を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、カビ臭物質濃度の予測値を演算することを含む。
【0022】
本発明に係る活性炭注入制御システムは更に別の一実施態様において、カビ臭物質濃度の予測値と、原水の水温を含む水質データと、カビ臭物質濃度と関連づけられた活性炭注入率の設定値を説明変数とし、活性炭注入率の予測値を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、活性炭注入率の予測値を演算する活性炭注入率予測手段を備えることを含む。
【0023】
本発明に係る活性炭注入制御システムは更に別の一実施態様において、水質データが、原水が貯留される貯留槽の水位、貯留槽への原水の流入水量、原水の水温の情報を更に含む。
【0024】
本発明に係る活性炭注入制御システムは更に別の一実施態様において、気象データが、原水の周囲の外気温、日照時間、降雨量のデータを更に含む。
【0025】
本発明は別の一側面において、原水の過去の水質データと過去の気象データとを含む学習データを使用した機械学習によって構築された機械学習モデルに、原水の水質データ及び気象データの測定値を入力し、原水中の将来のピコプランクトン数の予測値を出力させ、ピコプランクトン数の過去の予測値と過去の水質データとを用いた機械学習によって構築された機械学習モデルに、将来のピコプランクトン数の予測値と水質データの測定値を入力し、原水中の将来のカビ臭物質濃度の予測値を出力させ、カビ臭物質濃度の将来の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、原水へ注入する活性炭の活性炭注入率を制御することを有する活性炭注入制御方法である。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、原水の水質データと気象データを用いた機械学習により原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段と、ピコプランクトン数の予測値と水質データとを用いた機械学習により原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段と、原水に活性炭を注入する活性炭注入手段と、カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、活性炭注入手段が注入する活性炭の活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段とを備えることを特徴とする水処理システムである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、処理水から発生するカビ臭を安価で且つ迅速に把握でき、活性炭注入率を過不足なく決定することが可能で、これにより処理水から発生するカビ臭を長期間安定して抑制することが可能な活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態に係る活性炭注入制御システムを備える水処理システムの一例を示すブロック図である。
図2】サーバーの構成例を示すブロック図である。
図3】ピコプランクトン数の予測値の推移の例を示すイメージ図である。
図4】ピコプランクトン数とカビ臭物質濃度の予測値の推移の例を示すイメージ図である。
図5】ピコプランクトン数、カビ臭物質濃度及び活性炭注入率の予測値の推移の例を示すイメージ図である。
図6】本発明の実施の形態に係る活性炭注入制御方法の例を示すフロー図である。
図7】機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレスト(RF)法を用いてピコプランクトン数を予測した場合の予測結果と測定値との関係を表すグラフである。
図8】機械学習アルゴリズムとして人工ニューラルネットワーク(ANN)法を用いてピコプランクトン数を予測した場合の予測結果と測定値との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0030】
本発明の実施の形態に係る活性炭注入制御システムを備える水処理システムは、図1に示すように、水処理プラント10と、サーバー100と、活性炭注入率制御装置200と、活性炭注入設備(活性炭注入手段)300とを備える。
【0031】
水処理プラント10としては例えば浄水場等の浄水処理設備が利用できる。図1では、水処理プラント10として着水井1、凝集沈殿池2、砂ろ過池3及び配水池4を備える浄水場を例に説明する。しかしながら、本発明の水処理プラント10は、図1の例に限定されるものではなく、図示しないこれら以外の種々の水処理設備を備えてもよいことは勿論である。
【0032】
着水井1は、取水塔等から送水されてきた原水を貯留する貯留槽であり、典型的には取り入れた原水の水量及び水位の調節と原水の水質把握とを行う。着水井1は、原水の水質データを測定するための水質データ測定装置11と原水の気象データを測定するための気象データ測定装置12と活性炭注入設備300とを備えることができる。
【0033】
水質データ測定装置11としては、以下に限定されるものではないが、着水井1の水位を測定するための水位計、pH計、導電率計、濁度計、アルカリ度測定器、原水の着水井1への流量を測定する流量計、水温計、色度計、ピコプランクトン数等を計測するための微粒子計等を備えることができる。その他にも、着水井1内の原水の全有機炭素(TOC)、化学的酸素要求量(COD)、紫外線吸光度、有機物分画、光強度等を測定するための種々の計測器が水質データ測定装置11として含まれていてもよい。
【0034】
気象データ測定装置12としては、水処理プラント10周辺の気象データを測定するための種々のセンサが利用できる。例えば、降水量、日照時間、日射量、外気温を測定するための測定器が気象データ測定装置12として利用できる。水処理プラント10内に気象データ測定装置12が設置されていない場合は、水処理プラント10の周辺にある複数の自治体の気象データを使用してもよい。例えば、複数の自治体の降水量、日照時間、日射量、外気温を含む複数の気象データを取得し、相関性の高い地点の気象データを利用することが好ましい。
【0035】
水質データ測定装置11及び気象データ測定装置12で得られる水質データ及び気象データは、サーバー100内の種々のデータを格納する格納手段103(図2参照)か、或いは、後述する活性炭注入率制御装置200が備える各種データを格納するための記憶媒体で構成される格納手段(不図示)等に出力され、記憶される。
【0036】
活性炭注入設備300は、活性炭を原水に注入する設備である。活性炭注入設備300は、活性炭の性状により、湿式粉末活性炭(ウエット炭)と乾式粉末活性炭(ドライ炭)、及び粒状又は粉末状の活性炭を注入する設備等が利用できる。本実施形態では、活性炭の注入量を常に過不足なく注入可能な、粒状又は粉末状の活性炭を注入可能な注入設備が活性炭注入設備300として用いられることが好ましい。
【0037】
活性炭の種類は限定されない。例えば、カビ臭を効率良く除去可能な活性炭として、ヤシガラ、石炭、木炭を主な原料として800~1000℃で水蒸気と反応させて活性化させた活性炭を使用することが好ましい。中でも、細孔を有し、約800~2500m2/g程度の比表面積を有する活性炭を用いることができる。このような活性炭の細孔内に、例えばジェオスミンや2-MIB等の原水及び処理水の臭気物質又は汚れの原因になる有機物等を吸着させることにより、臭気物質や有機物等が効率良く除去できる。
【0038】
本実施形態のカビ臭物質の除去に使用される活性炭の粒径に特に制限されないが、本実施形態では、取り扱い性等の観点から、粒度が0.15mm以下、平均孔径1~20nm程度の細孔を有する粉状活性炭を用いることが好ましい。なお、活性炭の粒度はJIS K1474:2014の活性炭試験方法に基づく有効径(10%通過径)で評価される。活性炭の粒径は、カビ臭を効率良く除去するために、原水のピコプランクトン数に応じて適宜調整及び変更してもよい。
【0039】
図1の例では、水質データ測定装置11、気象データ測定装置12、活性炭注入設備300が着水井1に接続される例を示している。しかしながら、水質データ測定装置11、気象データ測定装置12及び活性炭注入設備300は、活性炭処理が行われる貯留槽、或いはピコプランクトン数を測定したい任意の設備に適用可能であることは勿論である。例えば、水質データ測定装置11、気象データ測定装置12及び活性炭注入設備300は、凝集沈殿池2、砂ろ過池3、配水池4の任意の設備に接続されていてもよい。即ち、本発明で説明される原水とは、着水井1内に供給される原水だけではなく、水質データ測定装置11、気象データ測定装置12及び活性炭注入設備300が接続される各種設備に収容される各種処理水をも含む意味で使用される。
【0040】
サーバー100は1又は複数台備えることができる。サーバー100は必ずしも水処理プラント10内に配置されている必要はなく、水処理プラント10とは別の他の場所に配置され、通信ネットワーク(不図示)を通じて活性炭注入率制御装置200に接続されていてもよい。サーバー100を省略し、活性炭注入率制御装置200をサーバー100の代わりに利用してもよい。
【0041】
サーバー100は、図2に示すように、例えば、各種プログラムに基づいて各種情報を演算処理する制御部101と、クライアント装置等と各種情報の授受を行う通信部102と、原水の水質データ、気象データ、及びピコプランクトン数予測手段201が演算したピコプランクトン数の予測値や各種制御プログラム等を格納可能な格納手段103とを備え、これらがバス等によって接続されている。
【0042】
図1の活性炭注入率制御装置200は一般的なハードウェア構成で構成されることができ、プロセッサ、メモリ(例:RAM等)、記憶媒体(例:HDD、SSD等)及び通信モジュールを備えることができる。活性炭注入率制御装置200は、1台のハードウェアを構成してもよいし複数台のハードウェアに分散されていてもよい。
【0043】
活性炭注入率制御装置200は、原水の水質データと気象データを用いた機械学習により原水中のピコプランクトン数を予測するピコプランクトン数予測手段201と、ピコプランクトン数予測手段201によるピコプランクトン数の予測値と原水の水質データとを用いた機械学習により原水中のカビ臭物質濃度を予測するカビ臭物質濃度予測手段202と、カビ臭物質濃度予測手段202によるカビ臭物質濃度の予測結果に基づいて、典型的には着水井1中の原水へ注入する活性炭の活性炭注入率を決定する活性炭注入率決定手段203と、カビ臭物質濃度の予測結果に基づいて決定された活性炭注入率に基づいて、原水に注入する活性炭の活性炭注入率を制御する活性炭注入制御手段204とを備える。
【0044】
ピコプランクトン数予測手段201は、機械学習アルゴリズムにより、所定の説明変数を取得し、所定の目的変数を出力するように構築された機械学習モデルを用いて、原水のピコプランクトン数の予測値を演算し、演算結果をサーバー100の格納手段103又は活性炭注入率制御装置200が備える格納手段(不図示)に記憶させる。
【0045】
なお、本実施形態において「ピコプランクトン数」とは、例えば、単位容積あたりに存在するピコプランクトンの個数をいい、具体的には、原水1mlあたりに存在する細胞径0.2~2.0μmのピコプランクトンの個数で表す。
【0046】
機械学習アルゴリズムとしては、特に限定されないが、ランダムフォレスト(RF)法、人工ニューラルネットワーク(ANN)法、SVR法(サポートベクター回帰法)、PLS法(部分最小二乗法:PartialLeastSquares)、決定木法、超短期記憶ニューラルネットワーク(LSTM)法等が利用できる。本実施形態では、それらの中でもANN法、RF法又はLSTM法を用いて構築された機械学習モデルを用いることが特に好ましい。
【0047】
説明変数としては、水処理プラント10で得られる種々のデータが利用できるが、本実施形態では原水の水質データと気象データとを少なくとも使用する。
【0048】
水質データとしては、例えば、浄水処理場の場合、pH、導電率、濁度、アルカリ度(M-アルカリ度)、色度、透明度、全有機炭素(TOC)、化学的酸素要求量(COD)、紫外線吸光度、有機物分画、微粒子数、栄養塩類濃度(全窒素(T-N)、全リン(T-P))、光強度、溶存酸素等が挙げられる。
【0049】
水質データは種々のデータを使用することができるが、これらのデータの中でもピコプランクトン数の増減と強い正の相関を有するデータを説明変数として優先的に利用することが好ましい。ピコプランクトン数と相関を有する水質データとしては、例えば、濁度は、ピコプランクトン数の増減に大きく影響する。濁度をピコプランクトン数の説明変数として機械学習の際の学習データに使用することにより、ピコプランクトン数の予測を精度良く行うことができる。
【0050】
原水中のCO2量が増加すると、ピコプランクトン数が増加する傾向にある。原水中のCO2量が増大すると、原水がやや酸性側となりpHが下がる。よって、pHをピコプランクトン数の説明変数として機械学習の際の学習データに使用することもまた好ましい。
【0051】
原水中の栄養塩類濃度が高くなると、ピコプランクトン数が増加する。原水中の栄養塩類濃度が高くなると、導電率及びM-アルカリ度が高くなるため、導電率及びM-アルカリ度をピコプランクトン数の説明変数として機械学習の際の学習データに使用することもまた好ましい。
【0052】
説明変数を多くするほど、ピコプランクトン数の予測精度は高まるが、多すぎると検証等に膨大な計算資源を必要とする。また、原水中のピコプランクトン数が基準値よりも大幅に多い場合や、水質変動又は気象変動等が急に生じる場合、ピコプランクトン数の予測精度が低くなる場合もある。
【0053】
ピコプランクトン数の予測精度を高くしつつ、原水又は処理水から発生するカビ臭を簡易且つ迅速に把握でき、活性炭注入率を過不足なく決定するための説明変数としては、pH、導電率、濁度、アルカリ度(M-アルカリ度)の情報を少なくとも含む水質データと日照量を含む気象情報とを含むことが好ましい。更には、説明変数としてピコプランクトン数の予測対象とする原水又は処理水が貯留される着水井1等の貯留槽の水位、貯留槽への原水の流入水量、水温のデータを更に含むことが好ましい。
【0054】
着水井1の水位が下がると原水中にカビ等が増殖することがある。また、貯留槽への流入水量が少なくなると着水井1の水位が下がり、原水中のカビ臭物質濃度が高まるおそれもある。強い日光の照射等によって着水井1中の水温が上がると、ピコプランクトンが増殖することがある。よって、原水又は処理水を貯留する貯留槽の水位、貯留槽への原水の流入水量、水温のデータを上記水質データに加えて更に含むことで、ピコプランクトン数の予測精度をより高めることができる。
【0055】
気象データとしては、日射量の情報の他に、外気温、日照時間、降雨量の情報を更に含むことがより好ましい。日射量は、日射センサ等を用いて、着水井1周辺の直達日射量と散乱日射量と全天日射量等の任意の日射量を測定する。原水又は処理水を貯留する貯留槽の周辺に気象データを測定するためのセンサが無い場合には、着水井1の周辺の複数の自治体の気象データから着水井1周辺の気象データの平均値を計算により求めても良い。
【0056】
使用する水質データ及び気象データは、機械学習モデルの学習データとして使用する際には、水質データ及び気象データに含まれる欠損値を削除または補完し、外れ値を削除する前処理(補正)を行う等の前処理を行うことが好ましい。また、水質データ及び気象データとしては、瞬時値だけではなく過去のデータの推移を含んだ時系列データが利用されることが好ましい。時系列データは少なくとも数か月程度含むことが精度良く予測する観点からは好ましく、半年~1年程度含むことがより好ましい。
【0057】
カビ臭物質濃度予測手段202は、ピコプランクトン数予測手段201によって予測されたピコプランクトン数の予測値と、原水の導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データとを説明変数とし、カビ臭物質濃度を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、カビ臭物質濃度の予測値を演算する。
【0058】
カビ臭物質濃度予測手段202が、ピコプランクトン数の予測値と水質データとを用いた機械学習により、カビ臭物質濃度の予測値を演算することによって、原水から直接カビ臭物質を測定する必要がない。その結果、カビ臭物質測定のためのセンサを必要とせずに設備の小型化及び簡略化が可能で、センサのメンテナンス作業等も省略でき、原水中のカビ臭物質濃度を迅速かつリアルタイムに把握できる。
【0059】
カビ臭物質濃度の予測に用いられる説明変数としては、ピコプランクトン数の予測値と、原水の導電率、濁度(好ましくは260nmでの紫外線吸光度(E260))、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データの他に、気象データとして、日射量及び水温の情報を少なくとも含んでもよく、外気温、日照時間の情報を更に含んでもよい。カビ臭物質濃度の予測精度を更に向上させるために、例えば、TOC、貯留槽の水位、貯留槽への原水の流入水量、日照時間などの水質データを更に含むことが好ましく、更に、pH、降雨量(降水量)、T-N、T-Pの任意のいずれかの水質データを説明変数として更に加えてもよい。
【0060】
カビ臭物質はピコプランクトンが増殖する際に生産されることが多く、ピコプランクトン数と強い正の相関がある。即ち、カビ臭物質濃度は[ピコプランクトン数×カビの増殖率]と表現できる。カビ臭物質濃度の予測に際しては、ピコプランクトン数の増殖を抑制させる因子と増長させる因子とを相互に考慮することで、予測精度をより高めることができる。
【0061】
そのような因子として例えば、導電率は、植物プランクトンの生育に必要な有機酸、T-N、T-Pの総量をある程度の精度で表現できる点で有効である。植物プランクトンにとって必須な微量元素である鉄は、溶存有機錯体鉄として存在している。そのため、原水中の濁度は、植物プランクトンの増減を把握できる点で有効な因子であるといえる。また、植物プランクトンは光合成により増殖するため、他の考慮因子(導電率、濁度、水温)が一定値を超えた場合に日射量が高ければ、ピコプランクトン数が一気に増殖し、これによりカビ臭物質も増大すると考えられる。M-アルカリ度は、水中に溶け込んだCO2濃度の指標として活用でき、数値が高いほどピコプランクトンが増殖しやすく、カビ臭物質濃度も増大する。水温は、カビの種類にもよるが、20℃を超えるとカビの増殖速度が大きくなる傾向にあるものが多い。貯留槽の水位が低いほど単位体積当たりの植物プランクトン濃度が高くなり、カビ臭物質濃度の増加につながる。貯留槽の原水の流入水量は、少ないほど原水の滞留時間が長くなり、カビ臭物質濃度の合成時間も長くなる。また、日照時間は、多いほど植物プランクトンは増殖しやすくカビ臭物質濃度も高くなりやすい。pHは、原水中のCO2濃度や溶存性の溶存有機物の指標になり得るものであり、植物プランクトンの増殖が起こった場合、原水中のCO2濃度が減少するためアルカリ性になる傾向にある。降雨量は、降雨による原水の増加分だけカビ臭物質濃度が希釈される点で有効な因子である。
【0062】
このような事情を考慮すると、カビ臭物質濃度の予測に際しては、導電率、日射量、濁度、M-アルカリ度、水温の情報を学習パラメータとして利用することで予測を適切に行うことができ、貯留槽の水位、貯留槽への原水の流入水量、日照時間を更に考慮にいれることが好ましく、pH、降水量をよりさらに考慮に入れることが好ましい。さらに、栄養塩類濃度、光強度の少なくともいずれかを考慮に入れてもよい。
【0063】
活性炭注入率決定手段203は、カビ臭物質濃度予測手段202によって予測されたカビ臭物質濃度予測値に対して最適な活性炭注入率となるように活性炭注入率を決定する。活性炭注入率決定手段203は、活性炭注入率決定のために予め用意された相関式や物理モデル等を用いて演算してもよい。
【0064】
或いは、活性炭注入率決定手段203は、カビ臭物質濃度の予測値と、原水の水温を含む水質データと、カビ臭物質濃度と関連づけられた活性炭注入率の設定値を説明変数とし、活性炭注入率の予測値を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、活性炭注入率の予測値を演算する活性炭注入率予測手段を備えていてもよい。活性炭注入制御手段204は、活性炭注入率決定手段203による活性炭注入率の予測値に基づいて、活性炭注入設備300から注入される活性炭の注入率を制御するための制御信号を活性炭注入設備300へ出力する。
【0065】
図3は、ピコプランクトン数予測手段201による原水中のピコプランクトン数の現在時刻及び将来(n分後)における予測値の推移、図4は、カビ臭物質濃度予測手段202による原水中のカビ臭物質濃度の予測値の推移、図5は活性炭注入率決定手段203による活性炭注入率の決定結果の推移を表すイメージ図である。カビ臭物質濃度はピコプランクトン数の増減に応じて増減する。そのため、活性炭注入率をカビ臭物質濃度の予測値に基づいて最適な注入率となるように調整することで、活性炭注入率を過不足なく決定することが可能となる。また、本実施形態に係る活性炭注入制御システムを用いた水処理装置によれば、将来(n分後)のカビ臭物質濃度の予測値を予測することができるため、例えば、原水中のピコプランクトン数が短時間で急激に増加する場合や、水質変動又は気象変動の変動が急変する場合においても、活性炭注入制御をより適切に行うことができる。その結果、処理水から発生するカビ臭を長期間安定して抑制することが可能となる。
【0066】
図1に示す水処理システムを用いた活性炭注入制御方法の一例を図6のフローチャートを用いて説明する。ピコプランクトン数を計測したい地点に気象データ測定装置12と活性炭注入設備300を設置する。例えば図1に示すように、着水井1に、水質データとして、pH、導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも測定するための水質データ測定装置11と日射量の情報を少なくとも測定するための気象データ測定装置12と活性炭注入設備300を設置する。ステップS11において、水質データ測定装置11及び気象データ測定装置12は、原水の水質データと気象データを取得する。取得結果は、サーバー100内に保存される。
【0067】
ステップS12において、ピコプランクトン数予測手段201は、原水のpH、導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データと、日射量の情報を少なくとも含む気象データとを説明変数とし、ピコプランクトン数を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、ピコプランクトン数の予測値を演算する。例えば、ピコプランクトン数予測手段201は、原水の過去の水質データと過去の気象データとを含む学習データを使用した機械学習によって構築された機械学習モデルに、原水の水質データ及び気象データの測定値を入力し、原水中の将来(n分後)のピコプランクトン数の予測値を出力する。ピコプランクトン数の演算結果はサーバー100内に保存される。
【0068】
ステップS13において、カビ臭物質濃度予測手段202は、ピコプランクトン数予測手段201が予測したピコプランクトン数の予測値、原水の導電率、濁度、M-アルカリ度の情報を少なくとも含む水質データとを説明変数とし、カビ臭物質濃度を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、カビ臭物質濃度の予測値を演算する。例えば、カビ臭物質濃度予測手段202は、ピコプランクトン数の過去の予測値と過去の水質データとを用いた機械学習によって構築された機械学習モデルに、将来のピコプランクトン数の予測値と気象データの測定値を入力し、原水中の将来(n分後)のカビ臭物質濃度の予測値を出力する。カビ臭物質濃度の予測値はサーバー100内に保存される。
【0069】
ステップS14において、活性炭注入率決定手段203は、カビ臭物質濃度の予測値と、原水の水温を含む水質データと、カビ臭物質濃度と関連づけられた活性炭注入率の設定値を説明変数とし、活性炭注入率の予測値を目的変数とする機械学習アルゴリズムにより構築された機械学習モデルを用いて、活性炭注入率の予測値を演算する。例えば、活性炭注入率決定手段203は、カビ臭物質濃度の将来(n分後)の予測値に基づいて、原水へ注入する将来(n分後)の活性炭の注入率の予測値を出力する。活性炭注入率の予測値はサーバー100内に保存される。なお、活性炭注入率の予測値は機械学習を用いずに、カビ臭物質濃度の予測値と予め設定された活性炭注入率との関係から所定の物理モデル等を用いることによって演算してもよい。
【0070】
ステップS15において、活性炭注入制御手段204は、活性炭注入率決定手段203による活性炭注入率の予測値に基づいて、活性炭注入設備300から注入される活性炭の注入率を制御するための制御信号を活性炭注入設備300へ出力する。
【0071】
本発明の実施の形態に係る活性炭注入制御方法によれば、機械学習を利用して原水又は処理水から発生する現在又は将来のカビ臭を、特別なセンサを用いることなく適切に予測することができる。これにより、カビ臭を除去するための活性炭の注入率を常時適切な範囲に制御することができ、原水又は処理水から発生し得るカビ臭を長期間安定して抑制できる。
【0072】
本発明の実施の形態に係る活性炭注入制御方法に用いられる機械学習モデルの作製方法の一例を用いて説明する。なお、以下に示す作製方法は一例であり、以下に示す例以外にも種々の作製方法によって作製してもよいし、予測誤差が適正範囲内であれば、以下に示す手順の一部を省略できることは勿論である。
【0073】
まず、水質データ測定装置11及び気象データ測定装置12が取得した原水の水質データ及び気象データの時系列データを取得する。次に、着水井1で測定するピコプランクトン数を目的変数とし、水質データ測定装置11及び気象データ測定装置12で得られた水質データ及び気象データの中から機械学習処理を実行するための説明変数を選択し、所定の機械学習アルゴリズムを用いて機械学習モデルを作製する。
【0074】
機械学習モデルの作製においては、機械学習の予測精度を向上させるためにハイパーパラメータを選択することが好ましい。ハイパーパラメータの選択においては、例えば、機械学習用の学習データとテストデータとの割合を70:30~90:10、典型的には80:20にし、テストデータに対する予測精度によって予測精度を判断する。
【0075】
例えば、機械学習アルゴリズムとしてRF法を利用する場合は、決定木の本数、深さ、決定木に使用する説明変数の数等を調整する。決定木の本数は多いほど予測精度が向上するが多すぎると演算に時間を要する。決定木の深さは浅くしすぎると正確な予測ができない一方で、深すぎると過学習が起こりやすくなる。以下に限定されないが、少なくともピコプランクトン数及びカビ臭物質濃度の予測においては、決定木の本数を10~500程度、より好ましくは50~120とし、説明変数として用いるデータの種類を3~15個程度、より好ましくは5~12個とし、深さをNoneとすることが好ましい。
【0076】
機械学習アルゴリズムとしてANN法を利用する場合は、設置する層(レイヤ)の数、一つの層に設置するニューロンの数、ドロップアウト率等を調整する。レイヤ数が多いほど複雑な事象に対しても正確な予測が行える一方で、学習が難しくなることがある。ニューロン数も同様に多いほど複雑な学習ができるが多すぎると過学習になりやすい。活性化関数も種類によっては出力に違いが出る。学習率についても大きすぎると学習スピードが上がるが最適解が適切に得られない場合がある。以下に限定されないが、少なくともピコプランクトン数及びカビ臭物質濃度の予測においては、レイヤ数を1~10程度、より好ましくは2~5とし、ニューロン数、ドロップアウト率、活性化関数、学習率を適宜最適化してハイパーパラメータを設定することが好ましい。
【0077】
図7は機械学習アルゴリズムとしてRF法を用いた場合におけるピコプランクトン数の予測結果の特性図を示している。相関係数は0.934となり、ピコプランクトン数を高い精度で予測できていることが分かる。
【0078】
図8は機械学習としてANN法を用いた場合におけるピコプランクトン数の予測結果の特性図を示している。相関係数は0.941となり、ANN法によっても高い精度でピコプランクトンを予測できていることが分かる。
【0079】
このように、発明の実施の形態に係る活性炭注入制御システム、活性炭注入制御方法及び水処理システムによれば、処理水から発生するカビ臭を高価なセンサ等を用いることなく安価で且つ迅速に把握でき、活性炭注入率を過不足なく決定することが可能となる。また、機械学習モデルを用いた予測により将来の水質変動を予測することができるため、原水及びこれを処理した処理水から発生するカビ臭を長期間安定して抑制することが可能となる。
【0080】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できる。
【符号の説明】
【0081】
1…着水井
2…凝集沈殿池
3…砂ろ過池
4…配水池
10…水処理プラント
11…水質データ測定装置
12…気象データ測定装置
100…サーバー
101…制御部
102…通信部
103…格納手段
200…活性炭注入率制御装置
201…ピコプランクトン数予測手段
202…カビ臭物質濃度予測手段
203…活性炭注入率決定手段
204…活性炭注入制御手段
300…活性炭注入設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8