(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010962
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】近赤外線吸収性組成物、インク、インクジェット記録用インク、および印刷物
(51)【国際特許分類】
C09B 7/08 20060101AFI20250116BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20250116BHJP
C09D 11/50 20140101ALI20250116BHJP
C09D 11/32 20140101ALI20250116BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250116BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C09B7/08
C09D11/037
C09D11/50
C09D11/32
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113291
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日水 秋生
(72)【発明者】
【氏名】平佐 美幸
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EE17
2C056FC01
2H186BA11
2H186DA12
2H186FB10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB55
4J039AD03
4J039AD10
4J039BC09
4J039BC13
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE28
4J039BE30
4J039CA07
4J039EA21
4J039EA35
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、高い不可視性と近赤外線吸収能、優れた耐光性を有する塗膜を形成することができ、さらに品質バラツキが小さい近赤外線吸収性組成物、およびそれを用いた近赤外線吸収性のインクやインクジェット記録用インクを提供することにある。さらに本発明の課題は、これらのインクを用いて近赤外線吸収画像を印刷した印刷物を提供することにある。
【解決手段】上記課題は、波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有するインジゴ化合物(A)を水系溶媒中に分散させてなる近赤外線吸収性組成物によって、解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有するインジゴ化合物(A)を水系溶媒中に分散させてなる近赤外線吸収性組成物。
【請求項2】
インジゴ化合物(A)が、下記一般式(1)で表わされる化合物である請求項1に記載の近赤外線吸収性組成物。
一般式(1)
【化1】
[式中、X
1~X
24はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
1~X
24で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。
Mは、金属原子を表す。]
【請求項3】
インジゴ化合物(A)が、下記一般式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の近赤外線吸収性組成物。
一般式(2)
【化2】
[式中、X
25~X
40はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
25~X
40で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。]
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の近赤外線吸収性組成物を含有してなるインク。
【請求項5】
請求項1~3いずれか1項に記載の近赤外線吸収性組成物を含有してなるインクジェット記録用インク。
【請求項6】
請求項4に記載のインクを用いて近赤外線吸収性画像を印刷した印刷物。
【請求項7】
請求項5に記載のインクジェット記録用インクを用いて近赤外線吸収性画像を印刷した印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収性組成物、該組成物から調製したインク、インクジェット記録用インク、およびそれを用いた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線吸収色素は、一般的に700nm~1300nmの近赤外線領域に吸収帯を有する色素であり、主な用途として、近赤外線を吸収・カットする機能を有する半導体受光素子用の光学フィルタ、電子機器用近赤外線カットフィルタ、写真用近赤外線フィルタ、省エネルギー用に熱線を遮断する近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板、太陽光の選択的な利用を目的とする農業用近赤外線吸収フィルム、近赤外線の吸収熱を利用する記録媒体、保護めがね、眼鏡、サングラス、近赤外線カット化粧品、熱線遮断フィルム、電子写真感光体、レーザー溶着用材料、レーザーマーキング用材料などに用いられる。また、CCDカメラ用ノイズカットフィルター、CMOSイメージセンサ用フィルタとしても有用である。
【0003】
また、セキュリティ印刷分野での利用も提案されている。近年、通常の視覚条件では視認性がない不可視的な情報を文書等や、株券、債券、小切手、商品券、宝くじ、定期券等の証券類に記録し、その情報を光学的に読み取る技術が注目されている。こうした技術は、セキュリティ管理等において非常に有用であり、文書等の付加価値の向上や、証券等の偽造防止措置の強化に効果的である。
【0004】
不可視性情報の記録としては、特に人間の目では視認できない700nm~1300nmの近赤外線領域に吸収を有する色素を用いた画像形成材料を使用する方法がある。これらの不可視性情報は、人間の目では視認できなくても、シリコンによる受光素子(CCD、CMOS等)等で検出することが可能である。
【0005】
700nm~1300nmの近赤外領域に吸収を有する代表的な色素としては、フタロシアニン色素、シアニン色素、ジイモニウム色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素などが知られている。これらの中でも特に代表的な色素として、フタロシアニン色素とシアニン色素が挙げられる。それぞれ、顕著な特徴を有しており、フタロシアニン色素は比較的堅牢な構造を有しているため、各種耐性が良好であるが、可視光領域にsoret帯と呼ばれる構造由来の吸収があるため透明性・不可視性が劣っている。一方でシアニン色素は、一般に染料として溶解状態で使用されるため、非常に高い透明性・不可視性を有しているが、各種耐性、特に耐光性が著しく悪い。ジイモニウム色素、スクアリリウム色素、及びクロコニウム色素もシアニン色素に類似した特徴を有している。
このように、現在、不可視性と堅牢性の性能を同時に満足する近赤外線吸収色素はなく、近赤外領域に強い吸収を有すると同時に高い不可視性を有し、さらに十分な堅牢性を有する材料の開発が望まれている。
【0006】
特許文献1~4には、水性の近赤外線吸収塗料およびインクの例が記載されている。しかしこれらの文献に記載されているナフタロシアニンやジインモニウム、クロコニウム系の色素を用いた近赤外線吸収塗料やインクは、耐久性や不可視性において十分とはいえない。また、特許文献5には、耐久性や不可視性を向上させた水性の近赤外線吸収塗料およびインクの例が記載されている。しかしこの文献に記載されているジケトピロロピロール系の色素を用いた近赤外線吸収塗料やインクは、色素構造の製造の工程数が多く、安定的な製造が困難であるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-187955号公報
【特許文献2】特開平9-263717号公報
【特許文献3】特開2002-309131号公報
【特許文献4】特開2002-146254号公報
【特許文献5】特開2010-222557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高い不可視性と近赤外線吸収能、優れた耐光性を有する塗膜を形成することができ、さらに品質バラツキが小さい近赤外線吸収性組成物、およびそれを用いた近赤外線吸収性のインクやインクジェット記録用インクを提供することにある。さらに本発明の課題は、これらのインクを用いて近赤外線吸収画像を印刷した印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記構成を有する近赤外線吸収性組成物、インク、インクジェット記録用インク、および印刷物によって、上記課題が解決できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有するインジゴ化合物(A)を水系溶媒中に分散させてなる近赤外線吸収性組成物に関する。
【0011】
また本発明は、インジゴ化合物(A)が、下記一般式(1)で表わされる化合物である前記近赤外線吸収性組成物に関する。
一般式(1)
【化1】
[式中、X
1~X
24はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
1~X
24で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。
Mは、金属原子を表す。]
【0012】
また本発明は、インジゴ化合物(A)が、下記一般式(2)で表わされる化合物である前記近赤外線吸収性組成物に関する。
一般式(2)
【化2】
[式中、X
25~X
40はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
25~X
40で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。]
【0013】
また本発明は、前記近赤外線吸収性組成物を含有してなるインクに関する。
【0014】
また本発明は、前記近赤外線吸収性組成物を含有してなるインクジェット記録用インクに関する。
【0015】
また本発明は、前記インクを用いて近赤外線吸収性画像を印刷した印刷物に関する。
【0016】
また本発明は、前記インクジェット記録用インクを用いて近赤外線吸収性画像を印刷した印刷物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高い不可視性と近赤外線吸収能、優れた耐光性を有する塗膜を形成することができ、さらに品質バラツキが小さい近赤外線吸収性組成物、およびそれを用いた近赤外線吸収性のインクやインクジェット記録用インクを提供することができる。さらに本発明により、これらのインクを用いて近赤外線吸収画像を印刷した印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願明細書の用語を定義する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、又は「(メタ)アクリルアミド」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」、「アクリル及び/又はメタクリル」、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、又は「アクリルアミド及び/又はメタクリルアミド」を表すものとする。本明細書に挙げる「C.I.」は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。色材は、顔料および染料を含む。
「波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有する」とは、化合物の溶液での吸収スペクトルにおいて、指定波長の範囲に最大の吸光度を示す波長を有することを意味する。化合物の溶液での吸収スペクトルの測定に用いる測定溶媒は、特に限定はないが、クロロホルム、メタノール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。本明細書では、特に断りがない限りN-メチルピロリドンを測定溶媒として用いている。
【0019】
<可視光>
本明細書において、「可視光」とは波長400nm以上700nm以下の光を意味する。
【0020】
<近赤外線>
本明細書において、「近赤外線」とは波長700nmを超え1300nm以下の光を意味する。
【0021】
<近赤外線吸収性組成物>
本発明の近赤外線吸収性組成物は、波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有するインジゴ化合物(A)を水系溶媒中に分散させてなる。
【0022】
<波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有するインジゴ化合物(A)>
本発明の近赤外線吸収性組成物に含まれるインジゴ化合物(A)は、波長800nmを超え1050nm以下の範囲に極大吸収波長を有する。本発明におけるインジゴ化合物(A)(以下、単にインジゴ化合物(A)ともいう)とは、下記一般式(3)で表される構造を持つ化合物である。インジゴ化合物(A)は近赤外線吸収色素として用いることができる。
【0023】
【0024】
一般式(4)
【化4】
[式中、R
1とR
2はそれぞれ独立に、一般式(4)で表される基、または配位子を有していても良い金属原子を表す。
X
41~X
52はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
41~X
52で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。]
【0025】
(配位子を有していても良い金属原子)
配位子を有していても良い金属原子の金属原子としてはCu、Zn、Co、Ni、Ru、Pd、Pt、Mn、Sn等が挙げられる。2価金属原子が好ましく、Zn、Pdがより好ましい。金属原子としてZn、Pdを用いると、インジゴ化合物(A)の可視光領域の吸収が少ないものが得られる。
【0026】
配位子を持つ金属原子の配位子としては特に限定はないが、β-ジケトナト配位子、オレフィン、共役ケトン、ニトリル、アミン、カルボキシラト配位子、一酸化炭素、ホスフィン、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスファイト、一般式(5)で表される配位子、一般式(6)で表される配位子などの配位子が挙げられる。配位子はキレート配位子であってもよい。中でも、一般式(5)または一般式(6)で表される配位子の場合に、安定な化合物が得られ好ましく、一般式(6)で表される配位子が特に好ましい。
【0027】
一般式(5)
【化5】
[X
53、X
54はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0028】
一般式(6)
【化6】
[X
55~X
62はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
55~X
62で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。]
【0029】
一般式(3)で表される化合物のうち、中でも一般式(1)または一般式(2)で表される化合物が、品質バラツキが小さくて好ましく、一般式(1)表される化合物がより好ましい。
【0030】
【0031】
一般式(2)
【化8】
[式中、X
1~X
40はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、-SO
3H;-COOH;およびこれら酸性基の1価~3価の金属塩;アルキルアンモニウム塩を表す。X
1~X
40で示される基のうち隣り合う2個の基は、連結してそれぞれが結合する炭素原子と共に5員環又は6員環を形成してもよい。
Mは、金属原子を表す。]
【0032】
置換基を有してもよいアルキル基の「アルキル基」は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、n-オクチル基、ステアリル基、2-エチルへキシル基等の直鎖又は分岐アルキル基が挙げられる。「置換基を有するアルキル基」は、例えば、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2-ジブロモエチル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2-エトキシエチル基、2-ブトキシエチル基、2-ニトロプロピル基、ベンジル基、4-メチルベンジル基、4-tert-ブチルベンジル基、4-メトキシベンジル基、4-ニトロベンジル基、2,4-ジクロロベンジル基等が挙げられる。
【0033】
置換基を有してもよいアリール基の「アリール基」は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基等が挙げられる。
「置換基を有するアリール基」は、例えば、p-メチルフェニル基、p-ブロモフェニル基、p-ニトロフェニル基、p-メトキシフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2-アミノフェニル基、2-メチル-4-クロロフェニル基、4-ヒドロキシ-1-ナフチル基、6-メチル-2-ナフチル基、4,5,8-トリクロロ-2-ナフチル基、アントラキノニル基、2-アミノアントラキノニル基等が挙げられる。
【0034】
置換基を有してもよいアルコキシル基の「アルコキシル基」は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシ、n-へキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2-エチルへキシルオキシ基等の直鎖又は分岐アルコキシル基が挙げられる。
「置換基を有するアルコキシル基」は、例えば、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2-ジトリフルオロメチルプロポキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-ブトキシエトキシ基、2-ニトロプロポキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
置換基を有してもよいアリールオキシ基の「アリールオキシ基」は、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、アンスリルオキシ基等が挙げられ、「置換基を有するアリールオキシ基」は、例えば、p-メチルフェノキシ基、p-ニトロフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基、2,4-ジクロロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、2-メチル-4-クロロフェノキシ基等が挙げられる。
【0036】
「置換基を有してもよいアリールアルキル基」は、例えば、ベンジル基、2-フェニルプロパン-イル基、スチリル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等が挙げられる。
【0037】
置換基を有してもよいシクロアルキル基の「シクロアルキル基」は、例えば、シクロペンチル基、シクロへキシル基、アダマンチル基等が挙げられる。「置換基を有するシクロアルキル基」は、例えば、2,5-ジメチルシクロペンチル基、4-tert-ブチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
置換基を有してもよいアルキルチオ基の「アルキルチオ基」は、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基等が挙げられる。
「置換基を有するアルキルチオ基」は、例えば、メトキシエチルチオ基、アミノエチルチオ基、ベンジルアミノエチルチオ基、メチルカルボニルアミノエチルチオ基、フェニルカルボニルアミノエチルチオ基等が挙げられる。
【0039】
置換基を有してもよいアリールチオ基の「アリールチオ基」は、例えば、フェニルチオ基、1-ナフチルチオ基、2-ナフチルチオ基、9-アンスリルチオ基等が挙げられる。
「置換基を有するアリールチオ基」は、例えば、クロロフェニルチオ基、トリフルオロメチルフェニルチオ基、シアノフェニルチオ基、ニトロフェニルチオ基、2-アミノフェニルチオ基、2-ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0040】
置換基を有していてもよいアルキルアミノ基の「アルキルアミノ基」は、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ドデシルアミノ基、オクタデシルアミノ基、イソプロピルアミノ基、イソブチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、sec-ペンチルアミノ基、tert-ペンチルアミノ基、tert-オクチルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、シクロプロピルアミノ基、シクロブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、シクロヘプチルアミノ基、シクロオクチルアミノ基、シクロドデシルアミノ基、1-アダマンタミノ基、2-アダマンタミノ基等が挙げられる。
【0041】
置換基を有していてもよいアリールアミノ基の「アリールアミノ基」は、例えば、アニリノ基、1-ナフチルアミノ基、2-ナフチルアミノ基、o-トルイジノ基、m-トルイジノ基、p-トルイジノ基、2-ビフェニルアミノ基、3-ビフェニルアミノ基、4-ビフェニルアミノ基、1-フルオレンアミノ基、2-フルオレンアミノ基、2-チアゾールアミノ基、p-ターフェニルアミノ基等が挙げられる
【0042】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0043】
酸性基としては、-SO3H、-COOHが挙げられ、これら酸性基の1価~3価の金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、アルミニウム塩等が挙げられる。また、酸性基のアルキルアンモニウム塩としては、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等の長鎖モノアルキルアミンのアンモニウム塩、パルミチルトリメチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、ジラウリルジメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウム塩等の4級アルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0044】
X1~X52、X55~X62で示される基のうち隣り合う2個の基は連結してそれぞれが結合する炭素原子とともに5員環又は6員環を形成してもよい。該5員環又は6員環は置換基を有していてもよい。このような5員環としては、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、イミダゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環等が挙げられ、また6員環としては、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピペラジン環、ピペリジン環、モルフォリン環、ピラジン環、ピロン環、ピロリジン環等が挙げられる。
【0045】
上記の置換基の内、X1~X52、X55~X62として好ましい置換基としては、水素原子、メチル基、メトキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。中でも水素原子、塩素原子、臭素原子の場合、インジゴ化合物(A)の可視光領域の吸収が少ないものが得られ、より好ましい。
【0046】
(インジゴ化合物(A)の合成法)
インジゴ化合物(A)は、一般式(7)で表される化合物を原料に合成することができる。
【0047】
【0048】
一般式(7)中、X63~X70は、X1~X52、X55~X62と同義である。
【0049】
一般式(7)で表される化合物は、特開2012-224593号公報に記載の合成法に従い得ることができる。
【0050】
インジゴ化合物(A)は、一般式(7)で表される化合物とホウ素化合物、または金属錯体とを反応させることで得ることができる。必要に応じ四塩化チタンや塩化アルミニウム等のルイス酸を添加する。
【0051】
反応温度は特に限定されないが、25~170℃の範囲が好ましく、より好ましくは40~130℃である。
【0052】
反応溶媒は特に限定されないが、中間体及びホウ素化合物または金属錯体が溶解するものが好ましい。具体例としては、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、ブロモベンゼン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0053】
ホウ素化合物を使用する場合、ボリン酸エステルが好ましく、ジフェニルボリン酸2-アミノエチルが特に好ましい。
【0054】
反応時間は特に限定されないが、反応の進行をMALDI TOF-MSスペクトルや分光光度計で確認して、原料の消失を確認すればよい。
【0055】
一般式(1)で表される化合物の製造においては、一般式(8)で表される化合物が副成分として生成されることもある。副生成物の存在は、TOF-MSスペクトルによって確認できる。
【0056】
一般式(8)
【化10】
[式中、X
71~X
102は、X
1~X
52、X
55~X
62と同義である。Mは、金属原子を表す。]
【0057】
本発明における、インジゴ化合物(A)は、例えば、以下の化合物が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【化11】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
本発明におけるインジゴ化合物(A)は、アシッドペースティングに代表される公知の溶解析出法を使用して粒子径制御を行ってもよい。具体的には、インジゴ化合物(A)を良溶媒に溶解し、それを大過剰の貧溶媒と混合させてインジゴ化合物(A)を析出させ、溶媒を濾別または留去することによって、インジゴ化合物(A)の粒子径を制御することができる。
【0062】
ここで良溶媒は、例えば、インジゴ化合物(A)を溶解できるものであれば特に限定されないが、無機酸(硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、塩酸、燐酸等)やその水溶液、有機酸(ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸等)、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)やその水溶液、有機塩基(トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ナトリウムメトキシド等)、アルコール系溶媒(メタノール、n-プロパノール、tert-アミルアルコール等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシド、スルホラン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、乳酸エチル等)、アミド系溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン等)、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素系溶媒(オクタン等)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル等)、ハロゲン系溶媒(四塩化炭素、ジクロロメタン等)、イオン性液体(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート等)、二硫化炭素溶媒などが挙げられる。良溶媒の使用量は、インジゴ化合物(A)を溶解できる量であれば特に限定されないが、工業的な経済性の点から、インジゴ化合物(A)100質量部に対して、100~5000質量部が好ましく、500~3000質量部がより好ましい。
【0063】
インジゴ化合物(A)を溶解させるときの温度は、-10~200℃が好ましく、-10~130℃がより好ましく、-10~100℃がさらに好ましい。
【0064】
貧溶媒は、例えば、良溶媒に溶解させたインジゴ化合物(A)を含む溶液と混合させた際に、インジゴ化合物(A)が析出するものであれば特に限定されないが、水系溶媒(水、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液等)などが好適に挙げられる。貧溶媒の使用量は、工業的な経済性の点から、インジゴ化合物(A)を含む溶液100質量部に対し、50~5000質量部が好ましく、100~3000質量部がより好ましい。
【0065】
析出温度は、-10~150℃が好ましく、-5~130℃がより好ましく、0~100℃がさらに好ましい。
【0066】
インジゴ化合物(A)溶液と貧溶媒との混合方法は特に限定されず、インジゴ化合物(A)を析出できればどのような方法で混合してもよい。例えば、インジゴ化合物(A)溶液を予め調製した氷水に注入する方法、及びアスピレーターなどの装置を使用して流水中に連続的に注入する方法などによってインジゴ化合物(A)粒子を析出できる。
【0067】
本発明におけるインジゴ化合物(A)は、公知のソルベントソルトミリング法を使用して粒子径制御を行ってもよい。具体的には、インジゴ化合物(A)、水溶性無機塩及び水溶性溶剤の少なくとも三成分からなる粘土状の混合物を、ニーダー等を使用して強力に混練する。混練後の混合物を水中に投入し、各種撹拌機で撹拌してスラリー化する。得られたスラリーを濾過することにより、水溶性無機塩及び水溶性溶剤を除去して、インジゴ化合物(A)の粒子径を制御することができる。
【0068】
水溶性無機塩は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、及び塩化カリウムなどを使用できる。これらの無機塩は、インジゴ化合物(A)の1質量倍以上、20質量倍以下の範囲で用いる。無機塩の量を1質量倍以上とした場合、インジゴ化合物(A)を十分に微細化できる。また、無機塩の量を20重量倍以下とした場合、混練後に水溶性の無機塩及び水溶性溶剤を除去するための多大な労力が不要であると同時に、一回に処理できるインジゴ化合物(A)の量が減少しないため、生産性の観点で好ましい。
【0069】
ソルベントソルトミリングでは混練に伴って発熱することが多いため、安全性の観点から、沸点が120~250℃程度の水溶性溶剤を使用することが好ましい。水溶性溶剤は、例えば、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2-(イソペンチルオキシ)エタノール、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液体ポリエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、及び低分子量ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0070】
水溶性溶剤の使用量は、インジゴ化合物(A)100質量部に対し5~1,000質量部が好ましく、50~500質量部がより好ましい。水溶性溶剤の使用量を適切に選択することで、混練物をソルベントソルトミリング処理に適した粘度にすることができる。
【0071】
ソルベントソルトミリングの際の混練温度は、-10℃~300℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましい。また、ソルベントソルトミリングの際の混練時間は、0.1~100時間が好ましく、3~24時間がより好ましい。
【0072】
<水系溶媒>
本発明の近赤外線吸収性組成物は、水系溶媒を含む。なお、本発明において「水系溶媒」とは、少なくとも水を含む液体からなる溶媒を意味する。本発明では、水系溶媒として、水以外に、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、ポリアルキレングリコール系溶媒等を好適に使用できる。また、これらの水以外の水系溶媒は、25℃・1気圧下において、水に対する溶解度が5g/100gH2O以上であり、かつ、液体であるものを指す。また、後述するpH調整剤のうち、前記条件を満たすものは、水系溶媒にも含めるものとする。
【0073】
なお、本発明の近赤外線吸収性組成物は、1気圧下における沸点が240℃以上である水系溶媒の含有量が、近赤外線吸収性組成物全量に対し8質量%以下であることが好ましい(0質量%であってもよい)。特に、プラスチック基材等の非浸透性基材に対して、優れた乾燥性、画像品質、耐擦過性を有する印刷物を得るという観点から、1気圧下における沸点が240℃以上である水系溶媒の含有量は5質量%以下である(0質量%であってもよい)ことがより好ましく、2質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが更に好ましく、1質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが特に好ましい。
【0074】
なお、1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることで測定できる。
【0075】
1気圧下における沸点が240℃以上である水以外の水系溶媒を例示すると、グリセリン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、2-ピロリドン、ε-カプロラクトン、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600等が挙げられる。
【0076】
本発明で用いられる水系溶媒は、1気圧下における沸点の加重平均値が100~235℃であることが好ましく、120~210℃であることが更に好ましく、120~195℃であることが特に好ましい。また、プラスチック基材等の非浸透性基材に対する画像品質を考慮すれば、120~180℃ であることが特に好適である。水系溶媒の1気圧下における沸点の加重平均値が100℃以上であれば、インクジェットヘッドからの吐出安定性が良化する。また加重平均値が235℃以下であれば、記録媒体上で乾燥不良を起こすことなく、また残存した水系溶媒によって、水性インキ液滴同士のにじみ等を引き起こすことがなくなり画像品質が良化するうえ、プラスチック基材を始めとした非浸透性基材に対する密着性や、印刷物の耐擦過性も向上する。なお、上記沸点の加重平均値の算出には、上記の1気圧下での沸点が240℃以上である水系溶媒も含めるものとする。また、上記1気圧下における沸点の加重平均値は、それぞれの水溶性有機溶剤について算出した、1気圧下での沸点と、水系溶媒全量に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。
【0077】
また、水系溶媒の沸点の加重平均値を上記範囲に収める観点から、1気圧下における沸点が100~220℃である水系溶媒の配合量が、近赤外線吸収性組成物中の水系溶媒全量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。
【0078】
本発明で好適に用いられる水以外の水系溶媒を例示すると、
1価アルコール系溶媒として、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-ブタノール、イソブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等が、
2価アルコール系溶媒(ジオール系溶媒)として、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール等が、
3価以上のアルコール系溶媒(ポリオール系溶媒)として、1,2,4-ブタントリオール、ジグリセリン等が、
グリコールエーテル系溶媒として、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が、
ポリアルキレングリコール系溶媒として、ジプロピレングリコール等が、
鎖状アミド系溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β -ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N- ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β -オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N- ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド等が、
環状アミド系溶媒として、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等が、
環状カルバメート系溶媒として、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン等が、
それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本発明で用いられる水以外の水系溶媒は、画像品質及び乾燥性に優れる印刷物が得られ、バインダー樹脂や界面活性剤との相溶性に優れ、更には、前記水系溶媒自体の粘度が低く吐出安定性にも優れた近赤外線吸収性組成物が得られるという観点から、水酸基を1個または2個有する水系溶媒が好適に選択される。中でも、水酸基を2個有する水系溶媒、すなわち、ジオール系溶媒が特に好適に選択される。
【0080】
またジオール系溶媒の中でも、少なくとも炭素数2~5のアルカンジオールを1種以上使用することが好ましく、より好ましくは炭素数3~4のアルカンジオールであり、特に好ましくは炭素数3のアルカンジオールである。
【0081】
本発明で用いられる水以外の水系溶媒の含有量は、近赤外線吸収性組成物全量に対し1~30質量%であることが好ましい。またインクジェットヘッド上で吐出安定性を確保し、非浸透性機材であっても優れた密着性、乾燥性、画像品質を有する印刷物が得られるという観点から、3~27質量%以下であることがより好ましく、5~25質量%以下であることが特に好ましい。
【0082】
<分散樹脂>
本発明の近赤外線吸収性組成物は、分散樹脂を含んでいてもよい。
分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)などを使用することができるが、これらに限定されない。中でも、材料選択性の大きさや合成の容易さの点で、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、及び、エステル樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。また、インクの分散安定性及び吐出安定性が良化する観点から、後述するバインダー樹脂と同種の樹脂を使用することが好適である。
【0083】
上記の分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限なく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、分散樹脂として、水溶性樹脂を選択してもよいし、水不溶性樹脂を選択してもよい。なお「水不溶性樹脂」とは、対象となる分散樹脂の、25℃・1質量%水混合液が、肉眼で見て透明でないものを指す。
【0084】
本発明において、分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その酸価が50~450mgKOH/gであることが好ましく、100~400mgKOH/gであることがより好ましい。特に好ましくは150~350mgKOH/gである。酸価を上記の範囲内とすることで、インジゴ化合物(A)の分散安定性を保つことが可能でありインクジェットヘッドから安定して吐出することが可能となる。また、インクジェットヘッド上での吐出安定性を維持することが可能となる。更に分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。
【0085】
一方、分散樹脂として水不溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、10~80mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が前記範囲内であれば、乾燥性や耐擦過性に優れた印刷物が得られる。
【0086】
なお本明細書における樹脂の酸価は既知の装置、例えば京都電子工業社製AT-610を用いて、電位差滴定法により測定することができる。
【0087】
本発明の近赤外線吸収性組成物では、インジゴ化合物(A)に対する吸着能を向上させ分散安定性を確保するという観点から、分散樹脂に芳香族基を導入することが好ましい。その結果、インジゴ化合物(A)の微細分散を実施したとしても、長期に渡って、近赤外線吸収性組成物の分散安定性、吐出安定性を確保することが可能となるためである。なお、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。中でもフェニル基やトリル基が、分散安定性を十分に確保できる面から好ましい。
【0088】
インジゴ化合物(A)を含むインクの分散安定性、印刷品質、乾燥性の両立の観点から、芳香環を含有する単量体の含有量は、分散樹脂全量に対し5~75質量%であることが好ましく、5~65質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更により好ましい。
【0089】
また、芳香族基に加えて、分散樹脂に炭素数8~36のアルキル基を導入することが特に好適である。アルキル基の炭素数を8~36とすることにより、分散液の低粘度化、インジゴ化合物(A)を含むインクの分散安定性の向上、及び、吐出安定化を実現できるためである。なおアルキル基の炭素数として、より好ましくは炭素数10~30であり、更に好ましくは炭素数12~24である。またアルキル基は炭素数8~36の範囲であれば、直鎖状及び分岐鎖状のいずれも使用することができるが、直鎖状のものが好ましい。直鎖状のアルキル基としてはエチルヘキシル基(C8)、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C 14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタニル基(C32)、テトラトリアコンタニル基(C34)、ヘキサトリアコンタニル基(C36)などが挙げられる。
【0090】
炭素数8~36のアルキル鎖を含有する単量体の含有量は、分散液の低粘度化と印刷物の耐擦過性とを両立させる観点から、分散樹脂全量に対し5~60質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることが特に好ましい。
【0091】
なお、分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、近赤外線吸収性組成物への溶解度を上げるため、樹脂中の酸基が塩基で中和されていることが好ましい。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば分散樹脂の10質量%水溶液を作製し、前記水溶液のpHを測定することにより確認することができる。インジゴ化合物(A)を含む近赤外線吸収性組成物の分散安定性を向上させるという観点から、前記水溶液のpHが7~11であることが好ましく、7.5~10.5であることがより好ましい。
【0092】
上記の、分散樹脂を中和するための塩基としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノールなどの有機アミン系溶剤、アンモニア水、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0093】
分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その重量平均分子量は、1,000~50,000の範囲であることが好ましく、5,000~40,000の範囲であることがより好ましく、10,000~35,000の範囲であることが更に好ましく、15,000~30,000の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が前記範囲であることにより、インジゴ化合物(A)が水中で安定的に分散し、また近赤外線吸収性組成物に適用した際の粘度調整などが行いやすい。重量平均分子量が1,000以上であると、近赤外線吸収性組成物中に添加されている水系溶媒に対して分散樹脂が溶解しにくくなるために、インジゴ化合物(A)に対する分散樹脂の吸着が強まり、分散安定性が向上する。重量平均分子量が50,000以下であると、分散時の粘度が低く抑えられるとともに、近赤外線吸収性組成物の分散安定性やインクジェットヘッドからの吐出安定性が向上し、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0094】
分散樹脂の配合量は、インジゴ化合物(A)の配合量に対して1~100質量%であることが好ましい。分散樹脂の比率を上記範囲内とすることで、分散液の粘度を抑え、近赤外線吸収性組成物の分散安定性・吐出安定性が良化する。インジゴ化合物(A)と分散樹脂の比率としてより好ましくは2~50質量%であり、特に好ましくは4~45質量%である。
【0095】
<分散助剤>
本発明の近赤外線吸収性組成物では、インジゴ化合物(A)の分散安定性及び吐出安定性を著しく向上させるとともに、インジゴ化合物(A)の微細分散が可能となることで印刷物の色再現性もまた向上する観点から、分散助剤を併用してもよい。分散助剤は、インジゴ化合物(A)に対する、分散樹脂または界面活性剤の吸着率の向上に寄与する材料である。本発明では、分散助剤として従来既知の材料を任意に使用でき、特に、色素誘導体と言われる化合物が好適に使用できる。
【0096】
<インクおよびインクジェット記録用インク>
本発明のインクおよびインクジェット記録用インクは、本発明の近赤外線吸収性組成物を含有してなる。また、本発明のインクおよびインクジェット記録用インクは、バインダー樹脂、界面活性剤等を含んでいてもよい。以下で本発明のインクおよびインクジェット記録用インクに含まれる各成分について説明する。
【0097】
<バインダー樹脂>
本発明のインクでは、印刷物の耐擦過性向上のため、バインダー樹脂を用いることができる。なお、前記バインダー樹脂として2種類以上の樹脂を併用してもよい。
【0098】
本明細書における「バインダー樹脂」とは、印刷物の層(印刷層、インク層)を記録媒体に結着させるために使用される樹脂である。本発明のインクは分散樹脂を含んでもよいが、前記分散樹脂とバインダー樹脂とは、インジゴ化合物(A)に対する吸着率によって区別される。すなわち、インジゴ化合物(A)に対する吸着率が、配合量全量に対し50質量%以上である樹脂を分散樹脂、50質量%未満である樹脂をバインダー樹脂と判断する。
【0099】
なお、インク中に存在する樹脂が、本明細書におけるバインダー樹脂であるかどうかを確認する方法として、インジゴ化合物(A)に対する吸着率を測定する方法がある。例えば、必要に応じて水で希釈したインクに遠心分離処理を施し(例えば、30,000rpmで4時間)、インジゴ化合物(A)と上澄み液とに分離する。そして、前記上澄み液に含まれる固形分を測定したとき、前記固形分が、インク中に含まれる樹脂全量に対して50質量%よりも大きければ、前記樹脂をバインダー樹脂であると判断する。
【0100】
インク用のバインダー樹脂の形態として、一般に水溶性樹脂と樹脂微粒子とが知られており、本発明ではどちらかを選択して用いてもよいし、両者を組み合わせて使用してもよい。例えば樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量であり、印刷物の耐擦過性を高めることができるうえ、印刷物の画像品質にも優れる。また、バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用したインクは、吐出安定性に優れる。なお本明細書において「水溶性樹脂」とは、上述した水不溶性樹脂ではないもの、すなわち、対象となる樹脂の25℃・1質量%水混合液が、肉眼で見て透明であるものを指す。
【0101】
本発明で用いられるバインダー樹脂の種類としてアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン・アクリル複合樹脂、スチレンブタジエン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、エステル樹脂、オレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、分散安定性及び吐出安定性に優れたインクが得られるという観点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン・アクリル複合樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を使用することが好ましい。また一般に、ウレタン樹脂、ウレタン・アクリル複合樹脂、オレフィン樹脂はガラス転移温度が低いため、プラスチック基材を始めとした非浸透性基材に対する密着性や画像品質の観点から、好適に選択される。
【0102】
バインダー樹脂のガラス転移温度は、要求される特性に応じて、例えば以下のように選択できる。具体的には、吐出安定性や印刷物の耐擦過性を向上させ、乾燥性や耐ブロッキング(印刷後の記録媒体を重ねた際、印刷層が別の記録媒体に貼りつく現象)性にも優れたインクを得るためには、前記ガラス転移温度は60~140℃であることが好ましく、70~135℃であることがより好ましく、80~130℃であることが特に好ましい。
【0103】
一方で、本発明のインクを、プラスチック基材を始めとした非浸透性基材に対して使用する場合は、画像品質や密着性の観点から、ウレタン樹脂、ウレタン・アクリル複合樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂、並びに/あるいは、ガラス転移温度が-120~45℃(好ましくは-80~25℃であり、より好ましくは-60~15℃である)であるアクリル樹脂、及びスチレンアクリル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を用いることが好ましい。
【0104】
ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定した値であり、例えば以下のように測定できる。樹脂を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンを試験容器としてDSC測定装置(例えば、島津製作所社製DSC-60Plus)内のホルダーにセットする。そして5℃/分の昇温条件にて測定を行い、得られたDSCチャートから読み取ったベースラインシフトの温度を、本明細書におけるガラス転移温度とする。
【0105】
更に、プラスチック基材に対する密着性、印刷物の耐擦過性、及び、耐ブロッキング性の観点から、バインダー樹脂として、オレフィン樹脂と、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びウレタン・アクリル複合樹脂から選択される1種以上の樹脂とを含むことが好適である。
【0106】
バインダー樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限なく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。
【0107】
本発明におけるバインダー樹脂として水溶性樹脂を使用する場合、その重量平均分子量は、インクジェットノズルからの吐出安定性を確保し、様々な記録媒体に対して、優れた密着性や耐擦過性を有する印刷物が得られるという観点から、5,000~50,000であることが好ましく、8,000~45,000であることがより好ましく、10,000~40,000であることが更に好ましい。
【0108】
本発明におけるバインダー樹脂の重量平均分子量は、常法によって測定できる。例えば、東ソー社製TSKgelカラムと、RI検出器とを装備したGPC測定装置(東ソー社製HLC-8120GPC)を用い、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算値を、本明細書における重量平均分子量とする。
【0109】
インク全量に対するバインダー樹脂の含有量は、固形分換算で1~15質量%であることが好ましく、2~12質量%であることがより好ましく、4~10質量%であることが更に好ましい。バインダー樹脂の量を上記範囲内とすることで、分散安定性や吐出安定性が低下することなく、印刷物の耐擦過性、乾燥性、更には画像品質に優れたインクを得ることができる。
【0110】
<界面活性剤>
本発明では、バインダー樹脂と組み合わせて使用することで、吐出安定性、印刷物の画像品質、及び、乾燥性に優れたインクが得られるという観点から、界面活性剤を1種以上含むことが好ましい。一般に界面活性剤として、アセチレンジオール系、アセチレンアルコール系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレン系等、用途に合わせて様々なものが知られているが、本発明のインクは、アセチレンジオール系及び/またはシロキサン系の界面活性剤を含むことが好ましい。
【0111】
本発明で用いることができるアセチレンジオール系界面活性剤として、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、及び、そのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0112】
また本発明で好適に使用できるシロキサン系界面活性剤として、例えば、1個以上のエチレンオキサイド基及び/または1個以上のプロピレンオキサイド基を、ポリジメチルシロキサン鎖の側鎖及び/または両末端に有するシロキサン系界面活性剤が挙げられる。具体的には、東レ・ダウコーニング社製の8032ADDITIVE 、FZ-2104、FZ-2120、FZ-2122、FZ-2162、FZ-2164、FZ-2166、FZ-2404、FZ-7001、FZ-7002、FZ-7006、L-7001、L-7002、SF8427、SF8428、SH3748、SH3749、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、SH8400、ビックケミー社製のBYK-331、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3530、BYK-UV3570、エボニック社製のTEGOWet250、TEGOWet260、TEGOWet270、TEGOWet280、TEGOGlide410、TEGOGlide432、TEGOGlide435、TEGOGlide440、TEGOGlide450、信越化学工業社製のKF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-945、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017、KF-6020、KF-6204、X-22-4515、日信化学工業社のシルフェイスSAGシリーズ等が挙げられる。
【0113】
また本発明で好適に使用できるポリオキシアルキレン系界面活性剤として、例えば、下記一般式(9)で表される化合物が挙げられる。
【0114】
一般式(9):
R-O-(EO)m-(PO)n-H
【0115】
上記一般式(9)において、Rは、炭素数8~22であるアルキル基、炭素数8~22であるアルケニル基、炭素数8~22であるアルキルカルボニル基、または、炭素数8~22であるアルケニルカルボニル基を表す。なお上記Rは、分岐構造であってもよい。また、EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を表す。mはEOの平均付加モル数を示し、2~50の数であり、nはPOの平均付加モル数を示し、0~50の数である。なおnが0でない場合、(EO)mと(PO)nの付加順序は問わず、付加はブロックでもランダムでもよい。
【0116】
本発明で使用することができる界面活性剤は、分子中で疎水性基と親水性基とに分かれて存在していることが好適である。そのため、上記に例示した界面活性剤の中でも、親水性であるエチレンオキサイド基を有しているものが特に好適に選択される。
【0117】
また、バインダー樹脂との親和性を高め、分散安定性及び吐出安定性に優れたインクが得られるとともに、にじみや濃淡ムラのない画像品質に優れた印刷物が得られるという観点から、HLB値が0~5である界面活性剤を使用することが好適であり、前記HLB値が0~4である界面活性剤を含むことが特に好適である。
【0118】
特に、分散安定性や吐出安定性に加え、プラスチック基材等の非浸透性基材上で、インク液滴同士のにじみや濃淡ムラの少ない、優れた画像品質を有する印刷物が得られる観点から、HLB値が0~5(好ましくは0~4)である界面活性剤と、HLB値が6~18(好ましくは7~18、特に好ましくは8~16)である界面活性剤とを併用することが好ましい。
【0119】
なお、HLB(Hydrophile-LipophileBalance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つであり、小さいほど疎水性が高く、大きいほど親水性が高いことを表す。化学構造からHLB値を算出する方法は種々知られており、また実測する方法も様々知られているが、本発明では、アセチレンジオール系界面活性剤やポリオキシアルキレン系界面活性剤のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。なおグリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量を用いて、下記式(10)を用いてHLB値を算出する方法である。
【0120】
式(10):
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0121】
一方、シロキサン系界面活性剤のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば「界面活性剤便覧」(西一郎ら編、産業図書株式会社、1960年)のp.324に記載されている以下方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させたのち、前記溶解液を25℃下で攪拌しながら、2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式(11)によってHLB値が算出できる。
【0122】
式(11):
HLB値=0.89×A+1.11
【0123】
本発明のインクにおける界面活性剤の含有量は、インク全量に対して0.2~4質量%であることが好ましい。より好ましくは0.5~2質量%である。
【0124】
<水>
本発明のインクに含まれる水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。またその含有量は、インキ全質量中20~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0125】
<その他の成分>
本発明のインクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするためにpH調整剤を添加することができる。pH調整剤として利用できる化合物として、例えば、
アルカノールアミンとして、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノールなどが、
その他の含窒素化合物として、アンモニア水、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、尿素、ピペリジンなどが、
アルカリ金属の水酸化物として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが、
アルカリ金属の炭酸塩として、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどが、
酸性化合物として、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などが、
それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。上記のpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0126】
pH調整剤の配合量は、インク全量に対し0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.2~1.5質量%であることが最も好ましい。
【0127】
また本発明のインクは、上記の成分の他に、所望の物性値を持つインクとするために、消泡剤、防腐剤、紫外線吸収剤などの添加剤を必要に応じて適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量は、インクの全質量に対して、0.01~10質量%が好適である。
【0128】
なお、本発明のインクは重合性単量体を実質的に含まないことが好ましい。
【0129】
<含窒素化合物のpKa値>
上記の通り、本発明のインクには、水溶性有機溶剤及び/またはpH調整剤として、含窒素化合物が使用できる。一方で、使用する含窒素化合物によっては、分散安定性や吐出安定性に悪影響を及ぼす可能性があることから、本発明においては、その量を制限することが好適である。
【0130】
具体的には、鎖状アミド系溶剤、環状アミド系溶剤、環状カルバメート系溶剤の配合量の総量を、インク全量に対して3質量%以下(0質量%であってもよい)とすることが好ましく、1質量%以下(0質量%であってもよい)とすることが更に好ましい。詳細な理由は不明ながら、これらの化合物を大量に配合すると、分散安定性や吐出安定性が悪化する傾向がある。
【0131】
また、前記以外の化合物であっても、25℃におけるpKa値が2以下(好ましくは、前記pKa値が4以下)、または、10以上(好ましくは、前記pKa値が9.5以上)である含窒素化合物は、その配合量の総量を、インク全量に対して3質量%以下(0質量% であってもよい)とすることが好ましく、1質量%以下(0質量%であってもよい)とすることが特に好ましい。これらの化合物は酸性または塩基性が強く、やはり分散安定性や吐出安定性に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0132】
なお、本発明のpKa値は既知の方法、例えば電位差滴定法によって測定できる。また、25℃ におけるpKa値が2以下である含窒素化合物の例として、尿素(pKa値=0.2)が挙げられ、また、25℃におけるpKa値が10以上である含窒素化合物の例として、シクロヘキシルアミン(pKa値=10.6)、モノエチルアミン(pKa値=10.7)、ジエチルアミン(pKa値=11.0)、トリエチルアミン(pKa値=10.7)、ピペリジン(pKa値=11.2)が挙げられる。
【0133】
<特定金属原子>
本発明の近赤外線吸収性組成物は、インジゴ化合物(A)の構成成分以外に少量のLi、Na、Mg、K、Cs、Co、Ca、Fe、SiおよびZr(以下、特定金属原子ともいう)を含む金属成分が存在する場合がある。これら特定金属原子を含む金属成分が多く存在すると、分散安定性が阻害される場合、耐熱性が低下する場合がある。
【0134】
本発明の近赤外線吸収性組成物に含まれる該金属成分中の特定金属原子の合計含有量は、近赤外線吸収性組成物全体に対し、1~1000質量ppmであることが好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下が特に好ましい。また、特定金属原子の合計量の下限は、特に限定されないが、近赤外線吸収性組成物全体に対し、1質量ppm以上が好ましく、5質量ppm以上がより好ましい。
【0135】
本発明の近赤外線吸収性組成物に含まれる各特定金属原子の含有量は、近赤外線吸収性組成物全体に対し、各々100質量ppm以下であることが好ましく、各々50質量ppm以下であることがより好ましい。
【0136】
近赤外線吸収性組成物に含まれる各種原料あるいは製造過程において装置から混入した金属原子を除去する方法としては、特開2010-83997号公報、特開2018-36521号公報、特開平7-198928号公報、特開平8-333521号公報、特開2009-7432号公報等による水洗による方法、特開2011-48736号公報に記載のマグネットによる磁性異物の除去等の方法が挙げられ、単独または複数の方法を適宜使用する。
【0137】
特定金属原子の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)によって、測定できる。
【0138】
<近赤外線吸収性組成物およびインクの製造方法>
上記したような成分からなる本発明の近赤外線吸収性組成物およびインクは、既知の方法によって製造できる。特に、分散安定性及び吐出安定性に優れた近赤外線吸収性組成物およびインクが得られる点から、インジゴ化合物(A)を含む分散液をあらかじめ製造したのち、前記分散液、バインダー樹脂、界面活性剤等を混合する、という製造方法が好適に選択される。以下に本発明の近赤外線吸収性組成物およびインクの製造方法の例を説明するが、上記の通り、前記製造方法は以下に限定されるものではない。
【0139】
(1)分散液の製造
(1-1)水溶性の分散樹脂を用いて分散処理する方法
分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、前記分散樹脂と水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを混合・攪拌し、分散樹脂水溶液を作製する。前記分散樹脂水溶液に、インジゴ化合物(A)を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過や、固形分の調整を行い、分散液を得る。
【0140】
(1-2)水不溶性の分散樹脂を用いて分散処理する方法
また、水不溶性樹脂である分散樹脂により被覆された、インジゴ化合物(A)の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に分散樹脂を溶解させ、必要に応じて前記分散樹脂を中和した、分散樹脂溶液を作製する。前記分散樹脂溶液に、インジゴ化合物(A)と、水とを添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により前記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過や、固形分の調整を行い、分散液を得る。
【0141】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、インジゴ化合物(A)の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザーなどが挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミルなどの商品名で市販されている。
【0142】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、分散液の粒度分布を制御する方法として、上記に挙げた分散機の粉砕メディアのサイズを調整すること、粉砕メディアの材質を変更すること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、攪拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後フィルターや遠心分離機などで分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。インジゴ化合物(A)を好適な粒度範囲に収めるためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1~3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0143】
(2)インクの調製
上記で得られた分散液に、バインダー樹脂、界面活性剤、水溶性有機溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げたpH調整剤やその他の添加剤を加え、攪拌・混合する。なお、必要に応じて前記混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら攪拌・混合してもよい。
【0144】
(3)粗大粒子の除去
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離などの手法により除去し、インクとする。濾過分離の方法としては、既知の方法を適宜用いることができるが、フィルターを使用する場合、その開孔径は、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0145】
<インクの特性>
本発明のインクは、25℃における粘度を3~20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、通常の4~10KHzの周波数を有するヘッドから10~70KHzの高周波数のヘッドにおいて、安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4~10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。なお、上記粘度は常法により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インク1mLを使用して測定することができる。
【0146】
また、安定的に吐出できるインクにするとともに、画像品質に優れた印刷物が得られる点から、本発明のインクは、25℃における静的表面張力が18~35mN/mであることが好ましく、20~32mN/mであることが特に好ましい。なお、静的表面張力は25℃の環境下において、Wilhelmy法により測定された表面張力を指し、例えば協和界面科学社製CBVP-Zを用い、白金プレートを使用して測定できる。
【0147】
更に、記録媒体に着弾した後、速やかに界面活性剤が配向し、記録媒体上で好適な濡れ性を得ることで優れた画像品質を得るという観点から、本発明のインクは、最大泡圧法による、10ミリ秒における動的表面張力が26~36mN/mであることが好ましく、より好ましくは28~36mN/mであり、特に好ましくは30~36mN/mである。なお、本明細書における動的表面張力は、例えばKruss社製バブルプレッシャー動的表面張力計BP100を用いて、25℃環境下で測定できる。
【0148】
本発明のインクは、高い不可視性を有する印刷物を得るために、インジゴ化合物(A)の平均二次粒子径(D50)を40~500nmとすることが好ましく、より好ましくは50~400nmであり、特に好ましくは60~300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるためには、上記のように分散処理工程を制御すればよい。なお、インジゴ化合物(A)の平均二次粒子径(D50)とは、粒度分布測定機(例えばマイクロトラック・ベル社製マイクロトラックUPAEX-150)を用い、動的光散乱法によって測定されるメジアン径を表す。
【0149】
<インキ-前処理液セット>
本発明のインクは、凝集剤を含む前処理液と組み合わせ、インキ-前処理液セットの形態で使用することもできる。凝集剤を含む前処理液を記録媒体上に付与することで、インク中に含まれる固体成分を意図的に凝集させる層(インク凝集層)を形成することができる。そして前記インク凝集層上にインクを着弾させることで、インク液滴間のにじみや色ムラを防止し、印刷物の画像品質を著しく向上させることができる。更に、前処理液に使用する材料によっては、印刷物の密着性、耐擦過性、耐ブロッキング性もまた向上できる。
【0150】
本明細書における「凝集剤」とは、インクに含まれる、インジゴ化合物(A)や樹脂微粒子の分散状態を破壊し凝集させる、及び/または、水溶性樹脂を不溶化し前記インクを増粘させることができる成分を意味する。本発明のインクと組み合わせる前処理液に使用する凝集剤としては、画像品質を著しく向上できる観点から、金属塩及びカチオン性高分子化合物から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。中でも、優れた画像品質を得るという観点から、前記凝集剤として金属塩を使用することが好ましく、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+からなる群から選択される多価金属イオンの塩を含むことが特に好ましい。なお、凝集剤として金属塩を使用する場合、その含有量は、前処理液全量に対し、2~30質量%であることが好ましく、3~25質量%であることが特に好ましい。
【0151】
その他前処理液には、有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤などを適宜に添加することができる。それぞれ、具体的に使用できる材料は、上記インクの場合と同様である。
【0152】
なお、前処理液の静的表面張力は、本発明のインクと組み合わせて使用した際に、画像品質に優れた印刷物が得られるという観点から、20~45mN/mであることが好ましく、23~40mN/mであることがより好ましい。特に好ましくは25~37mN/mである。なお前処理液の静的表面張力は、インクの静的表面張力と同様の方法で測定できる。
【0153】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクは、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与する記録方法に使用される。
【0154】
前記インクジェット記録方法におけるパス方式として、記録媒体に対しインクを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、前記記録媒体の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら吐出・記録を行うシリアル方式、のどちらを採用してもよい。ただし、シリアル方式の場合、前記インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすい。そのため、本発明のインクを印刷する際は、シングルパス方式、特に、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を通過させるパス方式が好ましく用いられる。
【0155】
インクを吐出する方式にも特に制限は無く、既知の方式、例えば、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット[登録商標])方式等が利用できる。
【0156】
また、インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量は、乾燥負荷の軽減効果が大きく、また画像品質の向上という点からも、0.2~30ピコリットルであることが好ましく、1~20ピコリットルであることがより好ましい。
【0157】
本発明のインクを、インクジェット印刷方式により記録媒体上に付与した後、前記記録媒体上のインクの乾燥機構を備えていることが好ましい。前記乾燥機構で用いられる乾燥方法として、加熱乾燥法、熱風乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法などが挙げられる。
【0158】
本発明では、インク中の液体成分の突沸を防止し、画像品質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~250℃ とすることが、それぞれ好ましい。
【0159】
また上記乾燥方法は、単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、インクを乾燥させることができる。
【0160】
<記録媒体>
本発明のインクを印刷する記録媒体は、特に限定されるものではなく、既知のものを任意に使用できる。中でも、非浸透性基材または難浸透性基材が好適であり、特に非浸透性基材に対して好適に使用できる。なお本明細書では、記録媒体の浸透性は、動的走査吸液計によって測定される吸水量によって判断するものとする。具体的には、下記方法によって測定される、接触時間100msecにおける純水の吸水量が、1g/m2未満である記録媒体を「非浸透性基材」とし、1~10g/m2である記録媒体を「難浸透性基材」とする。
【0161】
記録媒体の吸水量は、例えば以下の条件で測定できる。動的走査吸液計として、熊谷理機工業社製KM500winを使用し、23℃・50%RHの条件下、15~20cm角程度にした記録媒体を用いて、以下に示す条件で、純水の転移量を測定する。
・測定方法:螺旋走査(Spiral Method)
・測定開始半径:20mm
・測定終了半径:60mm
・接触時間:10~1,000msec
・サンプリング点数:19(接触時間の平方根に対してほぼ等間隔になるよう測定)
・走査間隔:7mm
・回転テーブルの速度切替角度:86.3度
・ヘッドボックス条件: 幅5mm、スリット幅1mm
【0162】
非浸透性基材または難浸透性基材の例として、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコールの様なプラスチック基材、コート紙、アート紙、キャスト紙のような塗工紙基材、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタンの様な金属基材、ガラス基材などが挙げられる。上記の基材は印刷媒体の表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの記録媒体の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明のインクジェット記録方法で使用される記録媒体の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0163】
なお、本発明のインクの濡れ性を向上し、画像品質や乾燥性を向上させ、また、印刷物表面が均一化するため耐擦過性や密着性もまた向上できるため、上記に例示した非浸透性基材または難浸透性基材に対し、コロナ処理やプラズマ処理といった表面改質方法を施すことも好ましい。
【0164】
<コーティング処理>
本発明のインクを用いて作製した印刷物は、必要に応じて、印刷面をコーティング処理してもよい。前記コーティング処理の具体例として、コーティング用組成物の塗工・印刷や、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出しラミネート法などによるラミネート加工などが挙げられ、いずれかを選択してもよいし、両者を組み合わせても良い。
【0165】
なお、コーティング用組成物を塗工・印刷することによって印刷物にコーティング処理を施す場合、その塗工・印刷方法として、インクジェット印刷のように記録媒体に対して非接触で印刷する方式と、記録媒体に対し前記コーティング用組成物を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。また、コーティング用組成物を記録媒体に対して非接触で印刷する方式を選択する場合、前記コーティング用組成物として、本発明の水性インクジェットインキから顔料を除外した、実質的に着色剤成分を含まないインキ( クリアイ
ンキ) を使用することが好適である。
【実施例0166】
以下、実施例で本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。なお、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
【0167】
実施例に先立ち、各測定方法について説明する。
【0168】
(化合物の同定方法)
本発明に用いた化合物の同定には、赤外吸収スペクトル、およびMALDI TOF-MSスペクトルを用いた。MALDI TOF-MSスペクトルは、ブルカー・ダルトニクス社製MALDI質量分析装置autoflexIIIを用い、得られたポジティブモードにおけるマススペクトラムの分子イオンピークと、計算によって得られる質量数との一致をもって、得られた化合物を同定した。
【0169】
(インジゴ化合物(A)の極大吸収波長)
インジゴ化合物(A)の極大吸収波長は、インジゴ化合物(A)をN-メチルピロリドンで10ppm溶液にした後、400~1300nmの範囲の吸収スペクトルにおいて、最大の吸光度を示す波長を極大吸収波長として、紫外可視近赤外分光光度計U-4150(日立ハイテクノロジーズ社製)により測定した。
【0170】
(インジゴ化合物(a1-1)~(a4-1))
特開2012-224593号公報に記載の方法と同様にして、下記構造式で表されるインジゴ化合物(a1-1)~(a4-1)を合成した。インジゴ化合物(a1-1)~(a4-1)の極大吸収波長は、それぞれ1000nm、1040nm、1015nm、1005nmであった。
【0171】
【0172】
(インジゴ化合物(a5-1)~(a7-1))
特開2013-87233号公報に記載の方法と同様にして、下記構造式で表されるインジゴ化合物(a5-1)~(a7-1)を合成した。インジゴ化合物(a5-1)~(a7-1)の極大吸収波長は、それぞれ905nm、835nm、890nmであった。
【0173】
【0174】
(インジゴ化合物(a8-1))
反応容器中で、アニリン10.7部、ブロモベンゼン120部、およびジアザビシクロオクタン25.7部を加え、攪拌した。その後、四塩化チタンの1mol/lトルエン溶液95.2部を滴下した。滴下後、インディゴ10.0部を加え、10時間還流した。反応終了後、メタノールを加え、濾過し、緑色粉末を得た。これをジクロロメタンと水で分液を行い、有機層を濃縮することで、化合物(1-1)を14.6部得た。
【0175】
【0176】
反応容器中で、化合物(1-1)13.5部、酢酸亜鉛(II)2水和物22.0部とN-メチルピロリドン120部を混合攪拌し、昇温後50℃で5時間攪拌した。攪拌したまま30℃まで冷却した反応溶液を、メタノール500部へ攪拌しながら注入し、青色のスラリーを得た。このスラリーを濾過し、メタノール500部で洗浄し、乾燥して、11.1部のインジゴ化合物(a8-1)を得た。インジゴ化合物(a8-1)の極大吸収波長は、830nmであった。
【0177】
【0178】
(インジゴ化合物(a9-1))
化合物(1)の合成で使用したインディゴ10.0部を、バットブルー5 22.0部に変更した以外は、化合物(1)の合成と同様の操作を行い、化合物(2)を24.4部得た。
【0179】
【0180】
インジゴ化合物(a8-1)の合成で使用した化合物(1)13.5部を、化合物(2)23.9部に変更した以外は、インジゴ化合物(a8-1)の合成と同様の操作を行い、インジゴ化合物(a9-1)を23.5部得た。インジゴ化合物(a9-1)の極大吸収波長は、838nmであった。
【0181】
【0182】
(インジゴ化合物(a10-1))
化合物(1)の合成で使用したアニリン10.7部を、p-トルイジン12.3部に変更した以外は、化合物(1)の合成と同様の操作を行い、化合物(3)を14.9部得た。
【0183】
【0184】
反応容器中で、化合物(3)14.0部、酢酸亜鉛(II)2水和物22.0部、とテトラヒドロフラン120部を混合攪拌し、昇温後40℃で5時間攪拌した。攪拌したまま30℃まで冷却した反応溶液を、メタノール500部へ攪拌しながら注入し、青色のスラリーを得た。このスラリーを濾過し、メタノール500部で洗浄し、乾燥して、11.1部のインジゴ化合物(a10-1)を得た。インジゴ化合物(a10-1)の極大吸収波長は、833nmであった。
【0185】
【0186】
(インジゴ化合物(a11-1))
化合物(1)の合成で使用したアニリン10.7部を、3-メトキシアニリン14.2部に変更した以外は、化合物(1)の合成と同様の操作を行い、化合物(4)を17.3部得た。
【0187】
【0188】
インジゴ化合物(a8-1)の合成で使用した化合物(1)13.5部を、化合物(4)14.5部に変更した以外は、インジゴ化合物(a8-1)の合成と同様の操作を行い、インジゴ化合物(a11-1)を12.3部得た。インジゴ化合物(a11-1)の極大吸収波長は、835nmであった。
【0189】
【0190】
(インジゴ化合物(a12-1))
反応容器中で、化合物(1)13.5部、酢酸ニッケル(II)4水和物19.0部とN-メチルピロリドン120部を混合攪拌し、昇温後100℃で5時間攪拌した。攪拌したまま30℃まで冷却した反応溶液を、メタノール500部へ攪拌しながら注入し、青色のスラリーを得た。このスラリーを濾過し、メタノール500部で洗浄し、乾燥して、11.5部のインジゴ化合物(a12-1)を得た。インジゴ化合物(a12-1)の極大吸収波長は、820nmであった。
【0191】
【0192】
(化合物(b1-1))
特開2010-222557号公報に記載の方法と同様にして、下記構造式で表される化合物(b1-1)を合成した。
極大吸収波長はクロロホルム中で780nmであった。
【0193】
【0194】
(化合物(b2-1))
特許6751762号公報に記載の方法と同様にして、下記構造式で表される化合物(b2-1)を合成した。
極大吸収波長はクロロホルム中で850nmであった。
【0195】
【0196】
インジゴ化合物(a1-1)~(a12-1)、化合物(b1-1)~(b2-1)は、同じ製造方法で繰り返し3回製造した。以下、例えば(a1-1)を繰り返し3回製造したものは(a1-1)、(a1-2)、(a1-3)と表記し、他の化合物についても同様とする。
【0197】
<近赤外線吸収性組成物の製造>
近赤外線吸収性組成物の製造にあたり、分散剤を製造した。
【0198】
(分散剤[C-1]溶液の調製)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてアクリル酸30部、スチレン35部、ラウリルメタクリレート35部、及び、重合開始剤としてV-601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、110℃で3時間反応させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃ で1時間反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを39部添加して中和したのち、水を100部添加した。その後、混合溶液を100℃ 以上に加熱してブタノールを留去したのち、水を用いて固形分が30%になるように調整することで、分散剤[C-1]の水溶液(固形分30%)を得た。なお、上記に記載した方法で測定した、分散剤[C-1]の重量平均分子量は16,000、酸価は230であった。
【0199】
[実施例1]
(近赤外線吸収性組成物(D-1))
インジゴ化合物(a1-1)20.0部に、イオン交換水200.0部、特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSN-B 、花王社製)2.0部を添加し、アイガーミルで3時間分散処理して、近赤外線吸収性組成物(D-1)を得た。
【0200】
[実施例2~36、比較例1~6]
(近赤外線吸収性組成物(D-2)~(D-36)、(D-73)~(D-78))
インジゴ化合物(a1-1)を表1-1、1-2に記載の化合物に変更した以外は、近赤外線吸収性組成物(D-1)と同様にして、近赤外線吸収性組成物(D-2)~(D-36)、(D-73)~(D-78)を得た。
【0201】
[実施例37]
(近赤外線吸収性組成物(D-37))
インジゴ化合物(a1-1)20.0部、イオン交換水60.0部、分散剤[C-1]溶液20.0部をディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800.0部を充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、近赤外線吸収性組成物(D-37)を得た。
【0202】
[実施例38~72、比較例7~12]
インジゴ化合物(a1-1)を表1-1、1-2に記載の化合物に変更した以外は、近赤外線吸収性組成物(D-37)と同様にして、近赤外線吸収性組成物(D-38)~(D-72)、(D-79)~(D-84)を得た。
【0203】
【0204】
【0205】
<インクジェット記録用インクの製造>
インクジェット記録用インクの製造にあたり、バインダー樹脂を製造した。
【0206】
(バインダー樹脂[E-1]溶液の調製)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH-10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2-エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部、スチレン7部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH-10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃ で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して樹脂微粒子水分散体を得た。なお、固形分は、150℃ 20分焼き付け残分により求めた。得られた樹脂微粒子水分散体をバインダー樹脂[E-1]溶液とした。
【0207】
[実施例101]
(インクジェット記録用インク(F-1))
近赤外線吸収性組成物(D-1)40.3部に、グリセリン10部、トリエチレングリコール10部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル10部、トリエタノールアミン0.2部、アセチレングリコール系界面活性剤(オルフィンE1010、日信化学社製)1部を混合し、35℃で1時間撹拌した。なお、残りは超純水(比抵抗値18MΩ・cm以上)を添加し、全量が100部となるように調製した。その後、1.0μmのフィルタで濾過して、本発明のインクジェット記録用インク(F-1)を得た。
【0208】
[実施例102~136、比較例101~106]
(インクジェット記録用インク(F-2)~(F-36)、(F-73)~(F-78))
近赤外線吸収性組成物(D-1)を表2に記載の近赤外線吸収性組成物に変更した以外は、インクジェット記録用インク(F-1)と同様にして、インクジェット記録用インク(F-2)~(F-36)、(F-73)~(F-78)を得た。
【0209】
[実施例137]
近赤外線吸収性組成物(D-37)を20部、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを40部、イオン交換水を27.5部、定着樹脂[E-1]溶液を12.5部混合し、インクジェット記録用インク(F-37)を得た。
【0210】
[実施例138~172、比較例107~112]
近赤外線吸収性組成物(D-37)を表2に記載の近赤外線吸収性組成物に変更した以外は、インクジェット記録用インク(F-37)と同様にして、インクジェット記録用インク(F-38)~(F-72)、(F-79)~(F-84)を得た。
【0211】
(インクジェット記録用インクの不可視性及び近赤外線吸収能評価)
インクジェット記録用インク(F-1)~ (F-84)について、インクジェットプリンターPM-A700(商品名、EPSON社製)用のブラックインク用のインクカートリッジに詰めてフォト光沢紙(EPSON社製PM写真紙<光沢>(KA420PSK 、EPSON)(商品名)にカラー設定「黒」にてベタ画像を印刷し、以下の方法で評価を行った。
ベタ画像をフォト光沢紙にフォト光沢紙にプリントして得られた画像について、反射分光濃度計(エックスライト株式会社製、x-rite939)を用いて測定を行い、式(I)中のΔE 及び式(II)中のRを求めた。
0≦ΔE≦15 (I)
(100-R)≧75 (II)
[式(I)中、ΔEは下記式(III):
【0212】
【数1】
[式(III)中、L
1、a
1、b
1はそれぞれ画像形成前における記録媒体表面のL値、a値、及びb値を示し、L
2、a
2、b
2はそれぞれ前記画像形成材料を用いて付着量4g/m
2の定着画像を記録媒体表面に形成した時の画像部におけるL値、a値、及びb値を示す。)で表されるCIE1976L*a*b*表色系における色差を示し、式(II)中、R(単位:%)は前記画像部における波長850nmの赤外線反射率を示す。]
【0213】
L1、a1、b1、L2、a2、b2は反射分光濃度計を用いて得ることができる。本発明におけるL1、a1、b1、L2、a2、b2は、反射分光濃度計としてエックスライト株式会社製、x-rite939を用いて測定されたものである。
なお、◎は非常に良好なレベル、○は良好なレベル、×は実用には適さないレベルである。評価基準は下記の通りである。
<<不可視性>>
◎:ΔE 10未満
○:ΔE 10以上、15未満
×:ΔE 15以上
<<近赤外線吸収能>>
◎:(100-R) 80以上
○:(100-R) 75以上、80未満
×:(100-R) 75未満
【0214】
(インクジェット記録用インクの耐光性評価)
上記の不可視性と近赤外線吸収能を評価する際に作製した場合と同様にして得られた試験片を、耐光性試験機(TOYOSEIKI社製「SUNTEST CPS+」)に入れ、24時間放置した。この際、放射照度47mW/cm2、300~800nmの広帯の光にて試験を実施した。耐光性試験前後の画像について、反射分光濃度計(エックスライト株式会社製、x-rite939)を用いて測定を行い、式(II)中のRを求めた。光照射前のそれに対する残存率を求め、耐光性を、下記基準で評価した。なお、残存率の算出は、以下の式を用いて算出した。
残存率=〈照射後の(100-R)〉÷〈照射前の(100-R)〉×100
◎:残存率が95%以上
○:残存率が90%以上、95%未満
×:残存率が90%未満
【0215】
(品質バラツキ評価)
品質バラツキ評価の基準は以下の通りである。
○:不可視性、近赤外線吸収能、耐光性の各評価において、同じ化合物を繰り返し製造して作製したインクの評価が全て同じである。
×:不可視性、近赤外線吸収能、耐光性の各評価において、同じ化合物を繰り返し製造して作製したインクの評価が1つ以上違う。
【0216】
【0217】
【0218】
本発明のインクジェット記録用インクは、いずれも不可視性、近赤外線吸収能、耐光性が良好であり、繰り返し製造したときの品質バラツキが小さいことが示された。一方で比較例のインクジェット記録用インクは、繰り返し製造したときの品質にバラツキがあることが示された。
【0219】
以上の結果より、本発明の近赤外線吸収性組成物は品質バラツキが小さいことがわかる。また、本発明の近赤外線吸収性組成物から作製したインクジェット記録用インクを使用した印刷物は、良好な不可視性、近赤外線吸収能、耐光性を有し、それらの品質を安定的に供給することができる。