(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010974
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 41/40 20210101AFI20250116BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
F25B41/40 A
F25B1/00 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113316
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大屋 匠平
(57)【要約】
【課題】起動バイパス回路の減圧手段において流動音を防止ないし抑制した冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】本発明の冷凍サイクル装置Rは、チャンバ4cを有する圧縮機4と、圧縮機4の吐出配管5と吸入配管3とを連結するバイパス回b1とを備え、バイパス回路b1は、圧縮機4の起動前に開けられ、チャンバ4c内の冷媒ガスを、圧縮機4の低圧側へバイパスさせ、バイパス回路b1は、冷媒の流れる方向が重力方向となっている減圧機構8を有している。
【選択図】
図4C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室を有する圧縮機と
前記圧縮機の吐出配管と吸入配管を連結するバイパス回路とを備え、
前記バイパス回路は、
前記圧縮機の起動前に開けられ、前記圧縮室内の冷媒ガスを、前記圧縮機の低圧側へバイパスさせ、
前記バイパス回路は、
冷媒が流れる方向が重力方向である減圧機構を有している
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
圧縮機と、
前記圧縮機の吐出配管と吸入配管とを接続するバイパス回路と、
前記バイパス回路における前記吐出配管から前記吸入配管に至る経路に順に設けられる開閉機構と減圧機構とを備え、
前記開閉機構の出口から前記減圧機構の出口に至る経路の勾配が負である
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置において、
前記バイパス回路の起動バイパス配管を略Uの字形状に構成する場合、前記減圧機構は下る管路または勾配が負の領域とされている
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置において、
前記減圧機構は絞り管である
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置において、
前記バイパス回路は、
前記減圧機構の上流に開閉機構を有し、
前記減圧機構と前記開閉機構間の管路は、前記減圧機構より高い位置に形成されている
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置において、
前記バイパス回路は、
前記減圧機構の上流に開閉機構を有し、
前記開閉機構から前記減圧機構までは液冷媒が溜まることがない構造とされている
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール冷凍機は、停止時に液電磁弁を閉じて低圧側サイクル内の冷媒を圧縮機で回収して停止するポンプダウン停止を通常は行う。ポンプダウン停止した後、圧縮機再起動前は圧縮機前後の高低圧差を小さくするために高圧配管と低圧配管の間に設けた起動バイパス回路でバイパスを行う。
【0003】
通常、起動バイパス回路には電磁弁を備え、起動バイパス回路の電磁弁が開いた際に流動音が発生する。そこで、流動音を抑制するために減圧機構を備えている。しかし、高低圧差の大きい場合などの特定の条件においては流動音が発生する。
【0004】
そこで、特許文献1では、圧縮機(1)の吐出側と吸込側とを、開閉弁(7)と減圧手段(8)とを備えたバイパス路(6)によって接続する。そして、開閉弁(7)と減圧手段(8)との間に圧力センサ(9)を配置する。この構成により、開閉弁(7)の閉弁時には、減圧手段(8)の働きにより圧力センサ(9)により低圧圧力が検出される。
【0005】
一方、開閉弁(7)の開弁時には、圧縮機(1)の稼働により圧力センサ(9)により高圧圧力が検出される。この結果、開閉弁(7)と減圧手段(8)と圧力センサ(9)とからなる簡単で且つ安価な構成で、低圧圧力に基づく冷房運転時の「蒸発圧力一定制御」と高圧圧力に基づく暖房運転時の「凝縮圧力一定制御」とを実現できる。また、空気調和機の冷暖房性能の向上の低コスト化を図ることができる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-350004号公報(
図1、
図2、段落0034等)
【特許文献2】特開平8-313067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、起動バイパス回路において、流動音を抑制するために減圧手段(8)を備えるが、高低圧差が大きい場合や、周囲温度が低い状態などにおいては冷媒の液化が進み別の流動音が発生してしまうことがある。高低圧差が大きい場合や周囲温度が低い状態での流動音の原因は、減圧手段(8)を気液二相流が通過することにある。
【0008】
本発明は上記実状に鑑み創案されたものであり、起動バイパス回路の減圧手段において流動音を防止ないし抑制した冷凍サイクル装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の冷凍サイクル装置は、チャンバを有する圧縮機と前記圧縮機の吐出配管と吸入配管を連結するバイパス回路とを備え、前記バイパス回路は、前記圧縮機の起動前に開けられ、前記チャンバ内の冷媒ガスを、前記圧縮機の低圧側へバイパスさせ、前記バイパス回路は、冷媒が流れる方向が重力方向である減圧機構を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起動バイパス回路の減圧手段において流動音を防止ないし抑制した冷凍サイクル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の冷凍サイクル装置の回路図。
【
図3A】比較例の起動バイパス前の起動バイパス回路における減圧機構の状態の模式図。
【
図3B】比較例の起動バイパス後の起動バイパス回路における減圧機構の状態の模式図。
【
図4A】実施形態の減圧機構を含む起動バイパス回路の起動前の状態の模式図。
【
図4B】実施形態の減圧機構を含む起動バイパス回路の起動前の状態の模式図。
【
図4C】実施形態の減圧機構を含む起動バイパス回路の起動後の状態の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に、本発明に係る実施形態の冷凍サイクル装置Rの回路図を示す。
実施形態の冷凍サイクル装置Rは、室外に配置される冷凍機r1と、屋内に配置される蒸発ユニットr2とを具備している。
蒸発ユニットr2は、屋内にある冷蔵ケース,冷蔵庫内,冷凍ケース,冷凍庫内等を冷却する。
【0013】
<冷凍サイクル装置Rの主冷媒回路>
図1に示す冷凍サイクル装置Rの主冷媒回路の構成を説明する。
以下、冷凍機r1の吸込み入口r1aから冷媒の流れに沿って順に説明する。
まず、屋内の蒸発ユニットr2の蒸発器15でガス化した冷媒は、吸入ガス配管1を通り、室外の冷凍機r1の吸込み入口r1aから、気液分離器のアキュムレータ2に流れ込む。アキュムレータ2は、冷媒の気液分離により圧縮機4へ流れ込む液冷媒量を一定値以下に抑制する。圧縮機4は、非圧縮性の液冷媒が流入することで高圧となり破損のおそれがあるからである。
【0014】
アキュムレータ2から流出したガス冷媒は、圧縮機吸入ガス配管3を経由し、圧縮機4の吸入口4iへ流入する。圧縮機4の圧縮工程により昇圧され温度上昇したガス冷媒は、圧縮機4の吐出口4oから放出される。
圧縮機2から流出したガス冷媒は,吐出ガス配管5を経由し、凝縮器6に入り凝縮され液体となる。
ここで、圧縮機4の起動時の負荷低減のため、吐出ガス配管5と圧縮機吸入ガス配管3(または吸入ガス配管1)との間に起動バイパス回路b1を設けている。起動バイパス回路b1は、開閉機構7と減圧機構8とを有している。
【0015】
凝縮器6にて凝縮した冷媒は受液器9へ流れる。受液器9はサイクル全体の冷媒の余剰を調整するものである。受液器9は、例えば冷媒が多すぎた場合,凝縮器6の内部に液冷媒が溜まってしまい、凝縮器6の性能低下を招くことが考えられる。そこで、受液器9を設けることで,受液器9が余剰な液冷媒を保持してくれるため凝縮器6の性能低下を抑えることができる。
受液器9を出た冷媒は、インジェクション回路10と液冷媒配管11とに分岐される。液冷媒配管11を流れる冷媒は、室外の蒸発ユニットr2内の膨張弁14に到る。
【0016】
膨張弁14により減圧された冷媒は、蒸発器15にて蒸発することで冷却対象を冷却し,ガス化する。蒸発器15によりガス化した冷媒は、吸入ガス配管1を経て再び冷凍機r1の吸込み入口r1aに到る。
圧縮機4は,吸入口4iと吐出口4oとインジェクションポート4jと圧縮室4rとを有している。インジェクションポート4jは、圧縮室4rの圧縮過程の箇所と接続される構造となっている。冷凍機r1は一般的な空気調和装置と異なり,外気が高い条件においても,冷蔵冷凍を行うために蒸発温度を低く保つ必要がある。
【0017】
このため、冷媒の圧縮機4の吸入圧力と吐出圧力の差が大きくなりやすい。吸入圧力と吐出圧力との差が大きい場合、圧縮過程でガス冷媒が温度上昇しやすく、条件によっては,例えば100℃を超えてしまうことが考えられる。圧縮機4は,吐出ガスの温度上限が決められている。この温度上限を超えると最悪の場合に圧縮機4が故障に到る可能性もある。
【0018】
そのため,冷凍サイクル装置Rでは,吐出温度を下げるために,インジェクション回路10を設けている。インジェクション回路10は、圧縮過程の圧縮室4rとつながっているインジェクションポート4jへ、エンタルピの低い冷媒を流すインジェクションを行っている。インジェクション回路10は開閉機構12と膨張弁13とで構成される。
【0019】
スクロール冷凍機である冷凍機r1は、停止時に液電磁弁の開閉機構7を閉めて低圧側サイクル内の圧縮機吸入ガス配管3の冷媒を圧縮機4で回収して停止するポンプダウン停止を行う。
【0020】
図2に、
図1のI部拡大図を示す。
ポンプダウン停止した後、圧縮機4の再起動前は圧縮機4の前後の高低圧差を小さくするために高圧配管の吐出ガス配管5と、低圧配管の圧縮機吸入ガス配管3との間に設けた起動バイパス回路b1でバイパスが行われる。
起動バイパス回路b1は、バイパス配管17と開閉機構7と減圧機構8とを備えている。減圧機構8は絞り管(内径を小さくした管)としている。減圧機構8を絞り管とすることで、気相の冷媒r1を簡単な構成で減圧できる。
【0021】
<比較例の起動バイパス回路b101の減圧機構108>
図3Aに、比較例の起動バイパス前の起動バイパス回路b101における減圧機構108の状態の模式図を示す。なお、
図3Aの矢印G方向は重力が加わる方向を示す。
比較例の開閉機構(図示せず)の下流の減圧機構108を含む起動バイパス配管b101は、
図3Aに示すように、略Uの字形状に形成されている。そして、減圧機構108は、略Uの字形状の起動バイパス配管b101の下流側に形成されている。
【0022】
略U字形状の起動バイパス配管b101の底部b101tには、液相の冷媒r0が重力G受けて貯留している。一方、気相の冷媒r1は液相の冷媒r0より軽いために液相の冷媒r0の上方に存在する。
【0023】
図3Bに、比較例の起動バイパス後の起動バイパス回路b101の減圧機構108の状態の模式図を示す。
図3Cに、
図3BのII部拡大図を示す。
起動バイパス後、比較例の起動バイパス回路b101においては、気相の冷媒r1が矢印α101のように流れる。すると、底部b101tにある液相の冷媒r0が、気相の冷媒r1に押されて流れ、減圧機構108において、重力Gに逆らって上方へ流れ気相の冷媒r1と液相の冷媒r0とが混合状態となる。この際、減圧機構108における気相の冷媒r1と液相の冷媒r0との混合状態から、異音が発生する。
【0024】
すなわち、冷媒rの流れが減圧機構108において重力Gに逆らう上向きの場合、減圧機構108の前では液相の冷媒r0は気相の冷媒r1に巻き上げられることで上昇するため、減圧機構108内では気相の冷媒r1と液相の冷媒r0とが交互に通過する。気相の冷媒r1と液相の冷媒r0とは流速が違うことに加え、圧縮性も違うため減圧機構108の出口で冷媒rが振動し流動音(異音)が発生する。
【0025】
<実施形態の起動バイパス回路b1(
図2参照)の減圧機構8>
図4A、
図4Bに、実施形態の減圧機構8を含む起動バイパス回路b1の起動前の状態の模式図を示す。
【0026】
図4Cに、実施形態の減圧機構8を含む起動バイパス回路b1の起動後の状態の模式図を示す。なお、
図4A~
図4Cにおいて矢印α11の方向は冷媒rが流れる方向を示す。
実施形態の減圧機構8を含むバイパス配管17は、
図4A、
図4Bに示すように、略Uの字形状を有している。減圧機構8は、略Uの字形状のバイパス配管17の上流側(バイパス配管17が下方に延びる側)に縮径される減圧機構8が形成されている。
【0027】
図2に示すように、減圧機構8を含むバイパス配管17は、開閉機構7の出口oから減圧機構8の出口8oに至る経路の勾配が負であるように設けられている。
また、減圧機構8は下る管路または勾配が負の領域の管路とされている。或いは、減圧機構8と開閉機構7との間のバイパス配管17は、減圧機構8より高い位置に形成されている。つまり開閉機構7よりも低い位置に減圧機構8が配置されている。或いは、開閉機構7から減圧機構8までは液冷媒が溜まることがないバイパス配管17とされている。これにより、減圧機構8における異音を、以下に示すように抑制できる。
【0028】
起動バイパス回路b1の減圧機構8は、起動前には
図4A、
図4Bに示す状態にある。
図4Aに示すように、起動前は起動バイパス回路b1の底部b1tに液相の冷媒r0が貯留されている。その他の部分は、気相の冷媒r1または空気で満たされている。
或いは、
図4Bに示すように、起動前は起動バイパス回路b1の縮径される減圧機構8に液相の冷媒r0が表面張力で滞留している。
【0029】
その後、起動すると、起動バイパス回路b1の底部b1tにある液相の冷媒r0(
図4A参照)または起動バイパス回路b1の減圧機構8にある液相の冷媒r0(
図4B参照)が、
図4Cに示すように、上流側に流される。この際、液相の冷媒r0は、気相の冷媒r1と混じって下流側に流れる。この際、減圧機構8は、液相の冷媒r0が重力Gで下方に流れるように形成されているので、気相の冷媒r1と液相の冷媒r0とが減圧機構8に流れる現象が起きない。そのため、減圧機構8においての異音の発生を抑制できる。
【0030】
詳細には、
図4Aに示すように、冷媒rの流れが減圧機構8において下向きの場合、開閉機構7が“閉”である時にバイパス配管17に液相の冷媒r0が存在しても減圧機構8の下流に溜まる。その場合、開閉機構7が開となり、気相の冷媒r1が流れる際に、冷媒rが、減圧機構8を二相流として通過しないため流動音は発生しない。
【0031】
また、
図4Bに示すように、毛細管現象などにより減圧機構8に冷媒rの液だまりができたとしても、開閉機構7が“開”となった際には、気相の冷媒r1に押されて液相の冷媒r0のみが連続で流れた後に、気相の冷媒r1のみが流れる。そのため、減圧機構8へ二相流としての通過はおきず流動音は発生しない。流動音を防止ないし抑制できる。
【0032】
以上の構成によれば、開閉機構7が閉じている状態において、重力方向にのみ開閉機構7と減圧機構8との間のバイパス配管17が開いているため開閉機構7と減圧機構8の間には液相の冷媒rが存在しない。よって、高低圧差が大きい場合や周囲温度が低い状態でも、起動バイパス回路b1でバイパスを行った際に減圧機構8には気相しか流れず流動音が発生しない。
したがって、起動バイパス回路b1の減圧機構8において、流動音がしない冷凍サイクル装置Rを実現できる。
【0033】
<<その他の実施形態>>
1.本発明は、前記した実施形態の構成に限られることなく、添付の特許請求の範囲内で様々な変形形態、具体的形態が可能である。
【符号の説明】
【0034】
3 圧縮機吸入ガス配管(吸入配管)
4 圧縮機
4r 圧縮室
5 吐出ガス配管(吐出配管)
7 開閉機構
7o 開閉機構の出口
8 減圧機構
8o 減圧機構の出口
17 バイパス配管(起動バイパス配管)
b1 起動バイパス回路(バイパス回路)
R 冷凍サイクル装置