(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001101
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/185 20160101AFI20241225BHJP
【FI】
H02P6/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100496
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】508077654
【氏名又は名称】株式会社サージュ
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】細岡 竜
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB12
5H560DA12
5H560DB11
5H560DC12
5H560TT09
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象とした相関信号生成方法であって、従来の高周波電圧印加法と同等の設計自由度を有しつつ、かつ、演算負荷の増大を抑えた上でそれを実現することが可能な相関信号生成方法を提供する。
【解決手段】軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象とした相関信号生成方法において、高周波電流(固定子電流)に含まれる軸要素振幅を抽出して、抽出した軸要素振幅を用いて中間信号を合成し、合成した中間信号を用いて正相関信号を生成するようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機における回転子位相速度の推定に用いる相関信号生成方法であって、
軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法における相関信号生成方法において、
下記(26a)式および下記(26b)式に基づき高周波電流に含まれる軸要素振幅を抽出し、
前記抽出した軸要素振幅を用いて下記(28a)式乃至(28d)式に基づき中間信号を合成し、
前記合成した中間信号を用いて、
p
c=f(C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δ)
に基づき正相関信号p
cを生成する
ことを特徴とする相関信号生成方法。
【数37】
【請求項2】
駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機における回転子位相速度の推定に用いる位相速度推定装置において、
離散高周波電圧指令値を生成する高周波電圧印加手段と、
下記(26a)式および下記(26b)式に基づき高周波電流に含まれる軸要素振幅を抽出し、前記抽出した軸要素振幅を用いて下記(28a)式乃至(28d)式に基づき中間信号を合成し、前記合成した中間信号を用いて、
p
c=f(C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δ)
に基づき正相関信号p
cを生成する相関信号生成手段と、
前記相関信号生成手段により生成された前記正相関信号p
cを用いて回転子の位相推定値と速度推定値とを生成する推定値生成手段と
を有することを特徴とする位相速度推定装置。
【数38】
【請求項3】
請求項2に記載の位相速度推定装置において、さらに、
定常的な位相偏差を補正する位相補償手段と
を有することを特徴とする位相速度推定装置。
【請求項4】
請求項2または3のいずれか1項に記載の位相速度推定装置において、さらに、
高周波成分を抽出するバンドパスフィルタと
を有することを特徴とする位相速度推定装置。
【請求項5】
駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の駆動を制御するセンサレスベクトル制御装置において、
請求項2に記載の位相速度推定装置を備えた
ことを特徴とするセンサレスベクトル制御装置。
【請求項6】
駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の駆動を制御するセンサレスベクトル制御装置において、
請求項3に記載の位相速度推定装置を備えた
ことを特徴とするセンサレスベクトル制御装置。
【請求項7】
駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の駆動を制御するセンサレスベクトル制御装置において、
請求項4に記載の位相速度推定装置を備えた
ことを特徴とするセンサレスベクトル制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置に関する。
【0002】
さらに、詳細には、本発明は、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機(例えば、回転子(界磁)に永久磁石(強磁性体)を使用した同期電動機である永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)、同期リラクタンスモータ、誘導モータなどがある。)における回転子の位相(位置と同義である。)および速度の推定に用いる相関信号生成方法であって、軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法(「軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法」については、後に詳述する。)における相関信号生成方法、当該相関信号生成方法を用いて回転子位相速度を推定する位相速度推定装置および当該位相速度推定装置を備えたセンサレスベクトル制御装置に関する。
【背景技術】
【0003】
交流電動機の高効率かつ高応答な制御は、ベクトル制御法により達成することができる。このベクトル制御法は、電動機回転子の位置情報が必要不可欠であるが、この位置情報を取得するために、従来はエンコーダなどの位置センサが利用されてきた。
【0004】
しかしながら、この種の位置センサは、信頼性の低下、体積の増大、コストの増加などの問題を内包しているため、位置センサを必要としないセンサレスベクトル制御法の研究が長年行われてきた。
【0005】
ここで、有力なセンサレスベクトル制御法の一つが、駆動用周波数より高い周波数をもつ高周波電圧を強制印加し、当該強制印加による応答結果の高周波電流を処理して、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の突極位相の推定値を得る高周波電圧印加法というものである(非特許文献1ならびに非特許文献2を参照する。)。
【0006】
高周波電圧印加法では、推定する回転子位相は任意に定めることが可能であるが、回転子の負突極位相または正突極位相のいずれかを回転子位相として選定するのが一般的である。負突極位相と正突極位相との間には、電気的に±π/2(rad)の位相偏差が存在するが、いずれかの位相が判明すれば、他方も自ずと判明する。
【0007】
以上を考慮の上、以降の説明においては、特に断らない限り、回転子の負突極位相を回転子位相として説明する。
【0008】
ところで、高周波電圧印加法は、固定子電流に含まれる位相情報を含む成分の信号を抽出し、如何にして回転子位相と相関関係にある信号(本明細書ならび本特許請求の範囲において、「回転子位相と相関関係にある信号」を「相関信号」と適宜に称する。)を合成するかにより特徴付けられる。
【0009】
従来の高周波電圧印加法における代表的な相関信号としては、正相逆相振幅相関信号、軸要素振幅相関信号、高周波電流相関信号が存在する(非特許文献2乃至非特許文献6を参照する。)。
【0010】
ここで、正相逆相振幅相関信号は、高周波電圧印加により発生した高周波電流を構成する正相成分と逆相成分との振幅をフィルタ処理により抽出し、抽出された正相逆相振幅を用いて合成された相関信号であり、多種多様な特徴をもつ相関信号の合成を可能としている(非特許文献2乃至非特許文献5を参照する。)。
【0011】
また、軸要素振幅相関信号は、高周波電流のγδ各軸要素の振幅をフィルタ処理により抽出し、抽出した軸要素振幅を用いて合成された相関信号である(非特許文献2乃至非特許文献5を参照する。)。
【0012】
正相逆相振幅と軸要素振幅とには対応関係が存在しており、軸要素振幅相関信号においても正相逆相振幅相関信号において合成された相関信号と同様の特性をもつ相関信号の合成が可能である(非特許文献2乃至非特許文献5を参照する。)。
【0013】
一方、高周波電流相関信号は、高周波電流の各要素そのものを用いて合成された相関信号である(非特許文献2ならびに非特許文献4乃至非特許文献6を参照する。)。この高周波電流相関信号は、他と比較して特別な信号の抽出を行っていないため、演算負荷を抑えることが可能である(非特許文献2ならびに非特許文献4乃至非特許文献6を参照する。)。
【0014】
しかしながら、高周波電流相関信号においては合成の際にノイズ成分が生じるため、この除去を行うためのフィルタ処理を行うのが実用的である(非特許文献2ならびに非特許文献4乃至非特許文献6を参照する。)。また、合成可能な相関信号の特性は、他と比較して自由度が少ないようである(非特許文献2ならびに非特許文献4乃至非特許文献6を参照する。)。
【0015】
ここで、上記した高周波電圧印加法に対する主要な問題点としては、位相推定の速応性の向上の必要性と、印加電圧に起因する可聴音響ノイズの低減の必要性とが指摘されていた。
【0016】
高周波電圧印加法における位相推定の速応性が制限されるのは、基本的には復調に利用された大時定数(概して狭帯域幅)のフィルタに起因している。このため、高い速応性を持つフィルタを利用可能な復調方法や、この種のフィルタを極力必要としない復調方法の提案が求められている。
【0017】
一方、高周波電圧印加法における可聴音響ノイズの低減については、周波数4kHz乃至16kHzの可聴領域においても、周波数が高くなるほど可聴性が低下する特性があるので、より高い周波数による復調方法の提案が求められている。
【0018】
上記した高周波電圧印加法の主要な問題点を解決するための有効な手法として、PWM搬送波(PWM(パルス幅変調)で用いる搬送波(キャリア波))と同程度の周波数領域(周波数比(印加高周波電圧とPWM搬送波の周波数との周波数比である。即ち、「周波数比=印加高周波電圧/PWM搬送波の周波数」である。)で1乃至1/10の周波数領域であり、本明細書ならび本特許請求の範囲においては、「搬送高周波領域」と適宜に称する。)をもつ高周波電圧を印加する方法(本明細書ならび本特許請求の範囲において、「搬送高周波領域をもつ高周波電圧を印加する方法」を「搬送高周波電圧印加法」と適宜に称する。)がいくつか提案されている(非特許文献3乃至非特許文献17を参照する。)。
【0019】
ここで、高周波電圧の応答たる高周波電流は、電圧周波数をPWM搬送波に近づけるにつれて、微分不連続な応答を示すようになる(非特許文献3乃至非特許文献17を参照する。)。PWM搬送波に比較し周波数比約1/20以下の周波数の高周波電圧を印加する従来の高周波電圧印加法では、微分連続な応答を前提とした解析・処理方法が多用されてきた(非特許文献1ならびに非特許文献2を参照する。)。
【0020】
しかしながら、搬送高周波電圧印加法では、この前提と方法はもはや適用できずに、固定子電流に対して差分処理を前提とした解析・処理方法が用いられてきている(非特許文献7乃至非特許文献17を参照する。)が、この差分処理はノイズに対し脆弱であるという問題点を内包していた。
【0021】
非特許文献3では、搬送高周波電圧を印加しながらも、この応答たる搬送高周波電流を微分処理することなく処理し、位相推定値を得る新たな搬送高周波電圧印加法を提案している。
【0022】
この方法は、インバータ(PWM併用電力変換器)の利用を前提に、搬送高周波電圧の離散時間的印加に対応した微分不連続な高周波電流のサンプル値の解析解を求め、同電流解析解に基づき、復調法、即ち、位相推定法を構築したものである。同電流解析解によれば、高周波電圧周波数が搬送周波数に比較し、十分に低い場合と近い場合との相違は、高周波電圧と高周波電流との間の空間的な位相差、高周波電流の振幅として出現する。これらの相違を考慮に入れれば、印加高周波電圧周波数が搬送周波数に比較し十分に低いことを前提とした従来の高周波電圧印加法(非特許文献1ならびに非特許文献2を参照する。)を搬送高周波領域において適応可能である(非特許文献3、非特許文献5ならびに非特許文献6を参照する。)。
【0023】
しかしながら、実際には、これらの相違に加えて、インバータの短絡防止期間(デッドタイム)やAD変換に伴う電流検出値の時間的な遅れなどの影響によって、上記電流解析解に誤差が生じるようである(非特許文献3ならびに非特許文献5を参照する。)。
【0024】
従って、上記した位相推定法においては、上記した誤差の影響によって、回転子位相の真値と推定値との間に誤差が発生するようであるが(非特許文献5を参照する。)、同誤差の一部は、電流解析解の振幅と高周波電圧と高周波電流との空間的位相差の変化として捉えることが可能なようであり、これらの影響が小さい位相偏差相当値(相関信号)を生成することで、高周波電圧誤差の影響を十分に抑えられるようである(非特許文献3ならびに非特許文献5を参照する。)。
【0025】
非特許文献18ならびに非特許文献19は、従来の高周波電圧印加法を搬送高周波電圧印加法へ適用するため、上記した電流解析解の誤差において、位相推定に影響を与える誤差は、高周波電圧の指令値と同真値との単位ベクトル換算した際の位相差(高周波電圧位相誤差)として出現するとの認識のもとに、この位相差の抽出法を提案している。しかしながら、この抽出法により抽出された位相誤差を用いた位相補正機能の実現は容易であるものの、演算負荷の増大が予想されるものであった。
【0026】
非特許文献20は、正相逆相振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象として、上記位相補正機能の実現を相関信号合成法として再構築することで、演算負荷の増大を最小限としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】新中新二:「永久磁石同期モータのベクトル制御技術,上下巻(センサレスベクトル制御の真髄)」,電波新聞社(2008-12)
【非特許文献2】新中新二:「永久磁石同期モータの制御,(センサレスベクトル制御技術)」,東京大学出版局(2013-9)
【非特許文献3】R.Hosooka,S.Shinnaka, N.Nakamura:“New Sensorless Vector Control of PMSM by Discrete-Time Voltage Injection of PWM Carrier Frequency”, IEEJ Trans. IA, vol. 136, No. 11, pp. 837-850 (2016-11)細岡竜・新中新二・中村直人:「センサレス永久磁石同期モータのための離散時間搬送高周波電圧印加法」,電学論D,136,11,pp.837-850 (2016-11)
【非特許文献4】細岡竜:「センサレス永久磁石同期モータのための搬送高周波電圧印加法に関する研究」,神奈川大学学術機関リポジトリ,B0700-02-01工甲226 (2018-3)
【非特許文献5】新中新二:「詳解 同期モータのベクトル制御技術」,東京大学出版局(2019-6)
【非特許文献6】R.Hosooka, N.Nakamura, S.Shinnaka:“Sensorless Vector Control of PMSM using Positive- and Negative-Phase High-Frequency Currents Correlation Signal by Discrete-Time Voltage Injection of PWM Carrier Frequency”, IEEJ Trans. IA, vol. 138, No. 2, pp. 150-163 (2018-2)細岡竜・中村直人・新中新二:「センサレス永久磁石同期モータのための正相逆相高周波電流相関を用いた離散時間搬送高周波電圧印加法」,電学論D,138,2,pp.150-163 (2018-2)
【非特許文献7】R.Masaki, S.Kanekko, Y.Sakurai, and M.Hombu, “Position Sensorless Control System of IPM Motor Based on Voltage Injection Synchronized with PWM Carrier”, IEEJ Trans. IA, vol. 134, No. 1, pp. 37-43 (2002-2)正木良三・金子悟・櫻井芳美・本部光幸:「搬送波に同期した電圧重畳に基づくIPMモータの位置センサレス制御システム」,電学論D,122,1,pp.37-43 (2002-2)
【非特許文献8】S.Shinnaka, “New Sensorless Vector Control of PMSM by Pulsationg Voltage Injection of PWM Carrier Frequency”, IEEJ Trans. IA, vol. 134, No. 6, pp. 596-605 (2014-6)新中新二:「直線形PWM搬送高周波電圧印加による永久磁石同期モータのセンサレスベクトル制御」,電学論D,134,6,pp.596-605 (2014-6)
【非特許文献9】細岡竜・新中新二「センサレス永久磁石同期モータのための直線形PWM搬送高周波電圧印加法の実機検証」,平26電気学会全国大会4-100 (2014-3)
【0028】
【非特許文献10】S.Shinnaka, “New Sensorless Vector Control of PMSM by Rotating Voltage Injection of PWM Carrier Frequency”, IEEJ Trans. IA, vol. 134, No. 6, pp. 606-617 (2014-6)新中新二:「真円形PWM搬送高周波電圧印加による永久磁石同期モータのセンサレスベクトル制御」,電学論D,134,6,pp.606-617 (2014-6)
【非特許文献11】Y.D.Yoon, S.K.Sul, S.Morimoto, and K.Ide: “High-Bandwidth Sensorless Algorithm for AC Machines Based on Square-Wave-Type Voltage Injection”, IEEE Trans Ind. Appl., Vol. 47, No. 3, pp. 1361-1370 (2011-5/6)
【非特許文献12】S.Murakami, T.Shiota, M.Ohta, and K.Ide: “Encoderless Servo Drive With Adequately Designed IPMSM for Pulse-Voltage-Injection-Based Position Detection”, IEEE Trans Ind. Appl., Vol. 48, No. 6, pp. 1922-1930 (2012-11/12)
【非特許文献13】S.Kim, and S.K. Sul: “High Performance Position Sensorless Control Using Rotating Voltage Signal Injection in IPMSM”, EPE 2011, pp. 1-10 (2011-9)
【非特許文献14】S.Kim, J.I. Ha, and S.K. Sul: “PWM Switching Frequency Signal Injection Sensorless Method in IPMSM”, IEEE Trans Ind. Appl., Vol. 48, No. 5, pp. 1576-1587 (2012-9/10)
【非特許文献15】D.Kaneko, Y.Iwaji, K.Sakamoto, T.Endoh “Initial Rotor Position Estimation of Interior Permanent Magnet Synchronous Motor”, IEEJ Trans. IA, vol. 123, No. 2, pp. 140-148 (2003-2)金子大吾・岩路善尚・坂本潔・遠藤常博:「IPMモータの停止時・初期位置推定方式」,電学論D,123,2,pp.140-148 (2003-2)
【非特許文献16】J.Lara, and A.Chandra: “Performance Study of Switching Frequency Signal Injection Algorithm in PMSMs for EV Propulsion: A Comparison in Stator and Rotor Coordinates”, ISIE 2014, pp. 865-870 (2014-6)
【非特許文献17】D.Kim, Y.C Kwon, and S.K Sul: “Suppression of injection voltage disturbance for High Frequency square-wave injection sensorless drive with regulation of induced High Frequency current ripple”, IPEC-Hiroshima 2014 - ECCE-ASIA, pp. 925-932 (2014-5)
【非特許文献18】細岡竜:「センサレス永久磁石同期モータのための正相逆相振幅相関に基づく搬送高周波電圧印加法における高周波電圧位相誤差抽出法」,2022年電気学会産業応用部門大会3-10 (2022-8)
【非特許文献19】中村晶浩・車谷大揮・宮本雄太・細岡竜:「楕円形状電圧を利用した搬送高周波電圧印加法の高周波誤差角推定」,2023年電気学会全国大会5-095 (2023-9)
【非特許文献20】細岡竜:「センサレス永久磁石同期モータのための正相逆相振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法における相関信号合成法」,2023年電気学会全国大会5-094 (2023-9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点や当該問題点に関する要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象とした相関信号生成方法であって、従来の高周波電圧印加法と同等以上の設計自由度を有しつつ、かつ、演算負荷の増大を抑えた上でそれを実現することが可能な相関信号生成方法を提供しようとするものである。
【0030】
また、本発明は、本発明による相関信号生成方法を用いた位相速度推定装置を提供しようとするものである。
【0031】
さらに、本発明は、本発明による位相速度推定装置を備えたセンサレスベクトル制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成するために、本発明による相関信号生成方法は、以下の(1)乃至(4)に示す特徴を有するものである。
【0033】
(1)4種の軸要素振幅より、電流解析解における位相誤差の補正機能を有する4種の中間信号を合成し、これを用いて相関信号を合成する。
【0034】
(2)電流解析解における位相誤差の補正機能により、軸要素振幅を抽出する際に必要とされる位相補正処理は不要である。
【0035】
(3)合成される4種の中間信号は、設計パラメータの選定如何により、多種多様な相関信号の合成を可能とする。
【0036】
(4)合成される4種の中間信号は、設計パラメータとして特定の値を選定することにより、従来の軸要素振幅相関信号と同等の相関特性を持つ正相関信号の合成が可能である。即ち、従来の軸要素振幅相関信号と同等の設計自由度を有する。
【0037】
こうした特徴を有する本発明による相関信号生成方法は、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機における回転子位相速度の推定に用いる相関信号生成方法であって、軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法における相関信号生成方法において、下記(26a)式および下記(26b)式に基づき高周波電流に含まれる軸要素振幅を抽出し、上記抽出した軸要素振幅を用いて下記(28a)式乃至(28d)式に基づき中間信号を合成し、上記合成した中間信号を用いて、
【0038】
p
c=f(C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δ)
に基づき正相関信号p
cを生成するようにしたものである。
【数37】
【0039】
また、本発明による位相速度推定装置は、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機における回転子位相速度の推定に用いる相関信号生成装置において、離散高周波電圧指令値を生成する高周波電圧印加手段と、下記(26a)式および下記(26b)式に基づき高周波電流に含まれる軸要素振幅を抽出し、上記抽出した軸要素振幅を用いて下記(28a)式乃至(28d)式に基づき中間信号を合成し、上記合成した中間信号を用いて、
【0040】
p
c=f(C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δ)
に基づき正相関信号p
cを生成する相関信号生成手段と、上記相関信号生成手段により生成された上記正相関信号p
cを用いて回転子の位相推定値と速度推定値とを生成する推定値生成手段とを有するようにしたものである。
【数38】
【0041】
また、本発明による位相速度推定装置は、上記した本発明による位相速度推定装置において、さらに、定常的な位相偏差を補正する位相補償手段とを有するようにしたものである。
【0042】
また、本発明による位相速度推定装置は、上記した本発明による位相速度推定装置において、さらに、高周波成分を抽出するバンドパスフィルタとを有するようにしたものである。
【0043】
また、本発明によるセンサレスベクトル制御装置は、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の駆動を制御するセンサレスベクトル制御装置において、上記した本発明による位相速度推定装置を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明による相関信号生成方法は、以上説明したように構成されているので、軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象とした相関信号生成方法であって、従来の高周波電圧印加法と同等の設計自由度を有しつつ、かつ、演算負荷の増大を抑えた上でそれを実現することが可能な相関信号生成方法を提供することができるようになるという優れた効果を奏するものである。
【0045】
また、本発明による位相速度推定装置ならびに当該位相速度推定装置を備えたセンサレスベクトル制御装置によれば、演算負荷の増大を抑えた上で各装置を実現することが可能になるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、3種の座標系と回転子突極位相との関係を示す説明図である。
【
図2】
図2は、正相関信号の特性例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の一例による位相速度推定装置(Phase-speed estimator)のブロック構成説明図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す位相速度推定装置における相関信号生成器(correlation signal generator)のブロック構成説明図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す相関信号生成器における振幅抽出器(Amplitude Extractor)のブロック構成説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の一例によるセンサレスベクトル制御装置のブロック構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置の実施の形態の一例として、永久磁石同期モータへ適用した例を詳細に説明するものとする。
【0048】
(I) 本発明の実施の形態の一例による相関信号生成方法の説明
【0049】
ここで、
図1には、3種の座標系と回転子突極位相との関係を示す説明図があらわされている。
【0050】
より詳細には、
図1には、d軸,q軸からなるdq同期座標、α軸,β軸からなるαβ固定座標、γ軸,δ軸からなるγδ準同期座標の3種の座標系と回転子突極位相との関係を示す説明図があらわされている。同図におけるd軸方向は、回転子の負突極位相方向として定められている。
【0051】
なお、回転子に永久磁石を用いた交流電動機(例えば、永久磁石同期モータなどである。)において、磁気回路の飽和やdq軸間の軸間磁束干渉などの非線形特性の影響を無視できる場合には、d軸方向は回転子磁石のN極方向でもある。
【0052】
まず、
図1に示すように、速度ω
γで回転するγδ準同期座標系において、永久磁石同期モータの回転子(Rotor)10におけるd軸が主軸のγ軸に対し、ある瞬時に位相θ
γをなしているものとする。
【0053】
そうすると、γδ準同期座標系上における永久磁石同期モータの数学モデル(回路方程式)は、次に示す(1)式乃至(8)式として記述することができる。
【数1】
【0054】
上記した(1)式乃至(8)式において、2行1列ベクトルν
1,ι
1,φ
1は、それぞれ固定子の電圧,電流,(鎖交)磁束を意味している。2行1列ベクトルφ
ι,φ
mは固定子磁束φ
1を構成する成分を示しており、φ
ιは固定子電流ι
1に起因した固定子反作用磁束(電機子反作用磁束)であり、また、φ
mは回転子永久磁石に起因した回転子磁束である。Ιは2行2列単位行列であり、Jは次に示す(9)式で定義された2行2列交代行列である。
【数2】
【0055】
また、ω
2nは回転子の電気速度であり、R
1は固定子巻線の抵抗である。L
ι,L
mは固定子の同相インダクタンス,鏡相インダクタンスであり、d軸,q軸インダクタンスとは次に示す(3)式によりあらわされる関係を有する。
【数3】
【0056】
また、sは微分演算子d/dtである。
【0057】
駆動用電圧に高周波電圧を重畳印加する場合に、固定子の電圧、電流、磁束に関しては、次に示す(11)式が成立する。
【数4】
【0058】
ここにおいて、(11)式における脚符f,hは、各々、駆動用成分,高周波成分を意味する。
【0059】
次に、上記において説明したγδ準同期座標系上における永久磁石同期モータの数学モデル(回路方程式)を踏まえて、離散時間高周波電圧と離散時間高周波電流とについて説明する。
【0060】
まずはじめに、離散時間高周波電圧について説明するが、駆動用電圧・電流に対して高周波電圧・電流の周波数が十分に高い場合には、次式が近似的に成立する。
【数5】
【0061】
上記した(12a)式、(12b)式、(13a)式および(13b)式が明示しているように、高周波磁束φιhは高周波電圧νιhに対して積分的な動的関係にあるが、高周波電流ιιhは高周波磁束φιhに対して静的な関係にある。
【0062】
印加高周波電圧ν
1hの平均周波数ω
hに関しては、座標系速度ω
γとの相対比において、次に示す(14)式の関係が成立しているものとする。
【数6】
【0063】
上記した(14)式が成立している状況下では、(13a)式は以下に示す(15)式のように近似される。
【数7】
【0064】
ここで、(15)式も右辺の連続時間高周波電圧ν1hは、零次ホールダとしてモデル化される電力変換器を介して印加するものとする。
【0065】
また、
【0066】
時間t=kT
s~(k+1)T
s
の連続時間高周波電圧ν
1hに対応した離散時間高周波電圧をν
1h,kと表現する。離散時間高周波電圧ν
1h,kとしては、高周波周期T
h,平均速度ω
hで空間的に回転する次の楕円係数Kをもつ一定楕円形高周波電圧を考える。
【数8】
【0067】
ここに、脚符kはt=kT
sでのサンプリング時刻を意味する。θ
h0は、印加高周波電圧の初期位相であり、本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、特に断りが無い限りθ
h0=0であるものとする。高周波周期T
hに関しては、簡単のため、離散時間周期T
sと正の整数N
h≧2を用いた次の関係を保持するように選定するものとする。
【数9】
【0068】
なお、Nh=2を選定する場合においては、電圧形状は楕円係数Kに依らずに直線形となる。
【0069】
電圧指令から電流検出の過程における誤差としては、電圧指令値に応じた電圧を発生させる電力変換や電流検出に伴うAD変換の時間的な遅れ等の外的要因が考えられる。本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、全ての外的要因に伴う誤差は、電圧指令値に応じた電圧を発生させる際の電力変換の誤差に集約されるものとしてモデル化するようにした。このために、(16a)式乃至(16c)式に示す離散時間高周波電圧ν
1h,kに対応した指令値ν
*
1h,kとして、次のものを考える。
【数10】
【0070】
ここで、θ
heは次に示す(20)式で定義された離散時間高周波電圧指令と同真値との位相誤差である。
【数11】
【0071】
離散時間高周波電圧指令ν*
1h,kは、電力変換器へ送られることで離散時間高周波電圧が発生し、永久磁石同期モータへと印加される。簡単のため、離散時間高周波電圧の楕円形状に関しては、真値と同指令値の変化が無視可能なものとする。即ち、
【0072】
K*=K (21)
とする。
【0073】
次に、離散時間高周波電流応答について説明するが、(16a)式の離散時間高周波電圧ν
1h,kの印加に対する離散時間高周波電流ι
1h,kは、楕円係数Kが一定の場合には、次式として与えられる。
【数12】
【0074】
(22a)式、(22b)式および(22c)式の高周波電流は、次式にて再表現される。
【数13】
【0075】
上式の通り、離散時間高周波電圧の位相誤差θheの影響は、高周波電流を構成する単位ベクトルの位相変化として現れる。
【0076】
次に、離散時間電流の振幅抽出と位相推定について説明するが、まず、振幅抽出と相関信号の合成について説明する。
【0077】
はじめに、振幅抽出について説明すると、次式に基づき高周波電流ι
1h,kに含まれる軸要素振幅を抽出するようにする。
【数14】
【0078】
上式において、
【数15】
は、正規化周波数ゼロで減衰ゼロを、正規化周波数
【数16】
で十分な減衰を示すディジタルローパスフィルタを意味する。
【数17】
は、(25a)式および(25b)式で定義された高周波電圧位相と同じ平均速度ω
hで変化する振幅抽出用高周波位相であり、簡単には、
【数18】
として高周波電圧位相指令をそのまま持ち得ればよい。
【0079】
Δθ
*
hは高周波電圧位相指令θ
*
h、k-1と振幅抽出用高周波位相
【数19】
の偏差である。
【0080】
次に、中間信号の合成について説明するが、正相関信号p
cを合成する前準備として、(26a)式および(26b)式に基づき抽出された軸要素振幅
【数20】
を用いて、中間信号C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δを次式に基づき合成する。
【数21】
【0081】
(28a)式乃至(28d)式に基づき合成された中間信号は、振幅
【数22】
に含まれる離散的位相特性
【数23】
、位相誤差θ
he、位相偏差Δθ
*
hの影響を受けない信号となる。
【0082】
また、K
γc,K
γs,K
δcは、設計者に委ねられた任意の設計パラメータである。設計パラメータの代表的な選定例は、以下のとおりである。
【数24】
【0083】
(28a)式乃至(28d)式において、K
γc=K
γs=K
δc=Kと選定した中間信号C
2γ,S
2γ,S
2δ,C
2δと軸要素振幅c
γ,s
γ,s
δ,c
δとは、次式に示す比例関係となり、この違いを考慮することにより、従来の軸要素振幅を用いた相関信号合成法を、搬送高周波電圧印加法に適用することが可能となる。
【数25】
【0084】
次に、正相関信号の合成について説明するが、上記により合成された中間信号C2γ,S2γ,S2δ,C2δを用いて、正相関信号pcを合成する手法について説明する。
【0085】
即ち、次に示す式(33)に基づく相関信号合成法は、従来の軸要素振幅を用いた正相関信号合成法と同様に、種々多様なものが考えられる。
【0086】
pc=f(C2γ,S2γ,S2δ,C2δ) (33)
【0087】
ここで、本明細書ならびに本特許請求においては、(33)式に基づく相関信号合成法の一例として、次式で与えられた正相関信号を示す。
【数26】
【0088】
ここで、atan2(・)は、4象限逆正接処理を意味する。また、Kcは設計者に委ねられた任意の設計パラメータである。上記した(34)式および(35)式に基づき合成された正相関信号は、中間信号の設計パラメータKγc,Kγs,Kδcの選定を含め、正相相関特性、演算負荷に関して、非常に自由度の高い設計が可能である。
【0089】
代表的なパラメータは、次の通りである。
【数27】
【0090】
図2には、楕円係数K=0.5,位相誤差θ
he=0.5[rad],設計パラメータK
c=Kの条件下において、(36a)式に基づく正相関信号の特性例が示されている。この
図2より、本正相関信号は設計パラメータ如何により、楕円係数K=0.5において、位相特性
【数28】
および位相誤差θ
heの値に関わることなく±π/2の範囲にて優れた直線近似特性を有することが確認される。
【0091】
なお、上記した本発明にかかる中間信号は、次に示す(40)式に基づき変換することにより、非特許文献20にて紹介されている中間信号と同様の特性となる中間信号を合成することも可能である。
【数39】
【0092】
従って、従来の高周波電圧印加法で用いられていた正相逆相振幅と軸要素振幅と同様の対応関係が存在するため、非特許文献20にて紹介されている中間信号で合成可能な正相間信号と同様の特性となる正相間信号を、上記した本発明にかかる中間信号においても合成することが可能である。即ち、従来の正相逆相振幅抽出を用いた正相間信号と等価な特性を持つ正相間信号の合成することも可能である。
【0093】
次に、一般化積分形PLL法について説明する。合成された正相関信号p
cは、一般化積分形PLL法に基づき処理され、α軸から見た回転子の位相推定値
【数29】
に変換される。併せて、回転子の速度推定値
【数30】
が生成される。一般化積分形PLL法(離散時間版)は、以下のように記述される。
【数31】
【0094】
ここで、(38a)式右辺のΔθ
sは、軸間磁束干渉、高周波残留外乱等により生じる定常的な位相偏差の補償信号である。また、回転子の速度推定値
【数32】
は、γδ準同期座標系速度をそのまま用いてもよいし、ローパスフィルタ処理して用いてもよい。
【0095】
なお、(38c)式には、直接利用する場合と一次ローパスフィルタを用いる場合との2例を示した。
【0096】
(II) 本発明の実施の形態の一例による位相速度推定装置の説明
【0097】
図3には、本発明の実施の形態の一例による位相速度推定装置(Phase-speed estimator)のブロック構成説明図があらわされている。
【0098】
なお、
図3ならびに後述する
図4乃至
図6においては、視認性を向上するために、2行1列のベクトル信号を1本の太い信号線で示している。
【0099】
即ち、
図3には、離散時間高周波電圧指令値の生成と、離散時間高周波電流を処理して回転子の位相推定値および速度推定値の生成とを担う位相速度推定装置が示されている。
【0100】
この
図3に示す位相速度推定装置(Phase-speed estimator)100は、(19a)式および(19b)式に基づき離散高周波電圧指令値を生成する高周波電圧印加手段たる高周波電圧指令器(HFVC, High-Frequency Voltage Commander)102と、(26a)式および(26b)式に基づき高周波電流(固定子電流)に含まれる正相振幅・逆相振幅を抽出して、抽出した正相振幅・逆相振幅を用いて(28a)式乃至(28d)式に基づき中間信号を合成し、合成した中間信号を用いて(33)式に基づき正相関信号を生成する相関信号生成手段たる相関信号生成器(Correlation signal generator)104と、(38a)式、(38b)式、(38c)式および(38d)式に基づき回転子のα軸からみた回転子の位相推定値と速度推定値を生成する推定値生成手段たる位相同期器(Phase synchronizer)106とを有して構成されている。
【0101】
符号108は、 高周波成分を抽出するバンドパスフィルタ(Band-pass filter)であるが、相関信号生成器104を構成する振幅抽出手段たる振幅抽出器(Amplitude Extractor)(
図4を参照する。)の設計如何によって、位相速度推定装置100においては必ずしも必要ではない。この点を考慮して、
図3においては破線ブロックにより示している。
【0102】
また、符号110は、位相補償手段である位相補償器(Phase compensator)である。この位相補償器110は、定常的な位相偏差を補正するための位相補正信号KθΔθsを生成する役割を担っているが、本発明による位相速度推定装置100の実施に必ずしも必要ではないので、バンドパスフィルタ108と同様に破線ブロックで示している。
【0103】
ここで、
図4には、
図3に示す位相速度推定装置における相関信号生成器(correlation signal generator)のブロック構成説明図があらわされている。
【0104】
また、
図5には、
図4に示す相関信号生成器における振幅抽出器(Amplitude Extractor)のブロック構成説明図があらわされている。
【0105】
相関信号生成器104は、(26a)式および(26b)式に基づき高周波電流(固定子電流)に含まれる正相振幅・逆相振幅を抽出する振幅抽出手段たる振幅抽出器(Amplitude Extractor)112と、(28a)式乃至(28d)式および(33)式に基づき正相関信号を合成する正相関信号合成手段たる相関信号合成器(Correlation signal synthesizer)114とを有して構成されている。
【0106】
以上の構成において、位相速度推定装置100は、ベクトル回転器(
図6に示すベクトル回転器212を参照する。)の出力信号であるγδ準同期座標系上の固定子電流を入力として受け、回転子の位相推定値、速度推定値および離散高周波電圧指令値を出力する。
【0107】
より詳細には、高周波電圧指令器102は、(19a)式および(19b)式に基づき離散高周波電圧指令値を生成して、位相速度推定装置100の外部へ出力する。
【0108】
そして、相関信号生成器104の振幅抽出器112によって、(26a)式および(26b)式に基づいて離散時間高周波電流ι
1h,kから軸要素振幅
【数33】
が抽出される(
図5を参照する。)。
【0109】
振幅抽出器112によって抽出された軸要素振幅
【数34】
は、相関信号合成器114へ出力される。
【0110】
相関信号合成器114は、(28a)式乃至(28d)式および(33)式に基づき正相関信号pcを合成して、合成した正相関信号pcを位相同期器106へ出力する。
【0111】
位相同期器106は、正相関信号p
cを用いて(38a)式、(38b)式、(38c)式および(38d)式を実行して、永久磁石同期モータの回転子のα軸からみた回転子の位相推定値
【数35】
と、回転子の速度推定値
【数36】
とを生成して、位相速度推定装置100の外部へ出力する。
【0112】
(III) 本発明の実施の形態の一例によるセンサレスベクトル制御装置の説明
【0113】
図6には、本発明の実施の形態の一例によるセンサレスベクトル制御装置のブロック構成説明図があらわされている。
【0114】
この本発明の実施の形態の一例によるセンサレスベクトル制御装置200は、上記において説明した本発明による位相速度推定装置100を備えており、永久磁石同期モータ300の駆動を制御する。
【0115】
図6において、符号202で示すブロックS
Tは3相2相変換器であり、符号204で示すSは2相3相変換器である。
【0116】
なお、
図6においては、固定子電圧、固定子電流の表現に関し、これら信号が定義された座標系を明示すべく、脚符r(γδ準同期座標系),s(αβ固定座標系),t(uvw座標系)を付して示した。
【0117】
センサレスベクトル制御装置200は、上記において説明した位相速度推定装置100を備えており、固定子電圧の印加、固定子電流の検出と制御は、これらの同期が図られた上で、離散時間的に遂行される。
【0118】
センサレスベクトル制御装置200において、電流フィードバック内の符号206で示すブロックF
bs(z
-1)は、固定子電流に含まれる高周波成分を除去するための高周波成分除去フィルタ(高周波成分を除去するためのディジタルフィルタ)であるが、使用されないこともある。この点を考慮して、
図6においては破線ブロックにより示している。
【0119】
なお、ディジタルフィルタFbs(z-1)としては、一般に、バンドストップフィルタが利用されるが、高周波電流の周波数が特に高い場合、高帯域幅のローパスフィルタを利用することもある。
【0120】
より詳細には、センサレスベクトル制御装置200は、電力変換器(インバータ:Inverter)208と、離散時間電流検出器210と、3相2相変換器202と、2相3相変換器204と、逆ベクトル回転器212と、ベクトル回転器214と、電流制御器(Current controller)216と、指令変換器(Command conveter)218と、速度制御器(Speed controller)220と、高周波成分除去フィルタ206と、上記において説明した本発明による位相速度推定装置100と、係数器222と、余弦正弦信号発生器224とを有して構成されている。
【0121】
センサレスベクトル制御装置200においては、離散時間電流検出器210で検出された3相の固定子電流は、3相2相変換器202でαβ固定座標系上の2相電流に変換された後に、逆ベクトル回転器212により、回転子位相(dq同期座標系の位相と同一)へゼロ位相偏差で位相同期を目指したγδ準同期座標系の2相電流に変換される。
【0122】
3相2相変換器202で変換された2相電流は、高周波成分除去フィルタ206により固定子電流に含まれる高周波成分が除去され、高周波成分が除去された2相電流が電流制御器216に出力される。
【0123】
電流制御器216は、γδ準同期座標系上の駆動用2相電流が、各相の電流指令値に追随するようにγδ準同期座標系上の駆動用2相電圧指令値を生成する。
【0124】
ここで、センサレスベクトル制御装置200においては、位相速度推定装置100の高周波電圧指令器102により生成された離散高周波電圧指令値を駆動用2相電圧指令値に重畳させ、重畳合成した2相電圧指令値をベクトル回転器214へ出力することになる。
【0125】
ベクトル回転器214は、γδ準同期座標系上の重畳合成の電圧指令値をαβ固定座標系の2相電圧指令値に変換し、2相3相変換器204へ出力する。
【0126】
そして、2相3相変換器204は、2相電圧指令値を3相電圧指令値に変換し、電力変換器208への最終電圧指令値として出力する。
【0127】
電力変換器208は、最終電圧指令値に応じた電圧を発生し、この電圧を永久磁石同期モータ300へ印加して、永久磁石同期モータ300の駆動を制御する。
【0128】
上記において説明したように、位相速度推定装置100は、ベクトル回転器212の出力信号であるγδ準同期座標系上の固定子電流を入力として受け、回転子の位相推定値、速度推定値および離散高周波電圧指令値を出力する。
【0129】
位相速度推定装置100から出力された回転子の位相推定値は、余弦正弦信号発生器224において余弦・正弦信号に変換された後に、γδ準同期座標系を決定づける逆ベクトル回転器212、ベクトル回転器214へ出力される。なお、このことは、回転子位相推定値をγδ準同期座標系の位相(γ軸の位相と等価)とすることを意味している。
【0130】
また、γδ準同期座標系上の2相電流指令値は、トルク指令値を指令変換器218を通じて変換することにより得ている。速度制御器220には、位相速度推定装置100からの出力信号の1つである回転子の速度推定値が、一定値である極対数Npの逆数を係数器22を介して乗じられ機械速度推定値に変換された後に送られる。
【0131】
図6においては、速度制御システムを構成した例を示しているので、速度制御器220の出力としてトルク指令値を得ている。なお、制御目的がトルク制御にあり速度制御システムを構成しない場合には、速度制御器220は不要である。この場合には、トルク指令値が外部から直接印加されることになる。
【0132】
(IV) 本発明の実施の形態の一例による相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置の作用効果
【0133】
上記した説明においては、軸要素振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法を対象とした相関信号生成方法について示した。この相関信号生成方法は、相関信号を合成する前段階として、4種の軸要素振幅に対応した4種の中間信号を合成し、これを用いて正相間信号を合成するものである。中間信号の合成に際して、2種の任意パラメータの選定により多種多様な特性をもつ正相関信号の合成を可能としつつ、搬送高周波電圧印加法において、従来の高周波電流振幅相関法と等価な特性をもつ正相関信号の合成をも可能としている。また、同中間信号が位相補正機能により、軸要素振幅を抽出する際に必要とされていた位相補正処理を不要としている。
【0134】
(V) その他の実施の形態について
【0135】
なお、上記した実施の形態は例示に過ぎないものであり、本発明は他の種々の形態で実施することができるものである。即ち、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換えあるいは変更などを適宜に行うことができる。
【0136】
即ち、上記においては、本発明による相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置の実施の形態の一例として、本発明を永久磁石同期モータへ適用した場合について詳細に説明した。
【0137】
しかしながら、本発明による相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置の構成は、上記において説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換えあるいは変更などを適宜に行うことができる。
【0138】
また、上記においては、本発明の理解を容易にするために、交流電動機として永久磁石同期モータを例にとり、これに関連した相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置について詳述したが、本発明による相関信号生成方法、位相速度推定装置およびセンサレスベクトル制御装置は、永久磁石同期モータに適用する場合に限定されるものではなく、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機(永久磁石同期モータの他に、例えば、同期リラクタンスモータや誘導モータなどがある。)であれば、いずれの交流電動機にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、駆動用周波数より高い周波数の高周波電圧の印加に対し、回転子が突極特性を示す交流電動機の制御に利用することができる。
【符号の説明】
【0140】
10 回転子(Rotor)
100 位相速度推定装置(Phase-speed estimator)
102 高周波電圧指令器(HFVC, High-Frequency Voltage Commander)(高周波電圧印加手段)
104 相関信号生成器(Correlation signal generator)(相関信号生成手段)
106 位相同期器(Phase synchronizer)(推定値生成手段)
108 バンドパスフィルタ(Band-pass filter)
110 位相補償器(Phase compensator)(位相補償手段)
112 振幅抽出器(Amplitude Extractor)(振幅抽出手段)
114 相関信号合成器(Correlation signal synthesizer)(相関信号合成手段)
200 センサレスベクトル制御装置
202 3相2相変換器
204 2相3相変換器
206 高周波成分除去フィルタ(高周波成分を除去するためのデジタルフィルタ)
208 電力変換器(インバータ:Inverter)
210 離散時間電流検出器
212 逆ベクトル回転器
214 ベクトル回転器
216 電流制御器(Current controller)
218 指令変換器(Command conveter)
220 速度制御器(Speed controller)
222 係数器
224 余弦正弦信号発生器
300 永久磁石同期モータ(SM)