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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025110628
(43)【公開日】2025-07-29
(54)【発明の名称】車両制御方法および車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250722BHJP
【FI】
B60L15/20 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004570
(22)【出願日】2024-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 寛之
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125CA02
5H125DD06
5H125DD16
5H125EE09
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】発進する際に上記のような運転者の意図しない挙動を抑制する。
【解決手段】前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリヤモータと、を有する電動車両において、コントローラが要求トルクに応じてフロントモータに対する目標第1トルクとリヤモータに対する目標第2トルクを設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいてフロントモータのトルクである第1トルク及びリヤモータのトルクである第2トルクを制御する車両制御方法において、コントローラは、車両発進時には目標第1トルクとして車両進行方向とは反対方向のトルクである負トルクを設定することを禁止し、車両が動いたことを検知したら、負トルクである目標第1トルクと、目標第1トルクと合成することで要求トルクとなる目標第2トルクと、を設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいて第1トルク及び第2トルクを制御する、車両制御方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリヤモータと、を有する電動車両において、コントローラが要求トルクに応じて前記フロントモータに対する目標第1トルクと前記リヤモータに対する目標第2トルクを設定し、前記目標第1トルク及び前記目標第2トルクに基づいて前記フロントモータのトルクである第1トルク及び前記リヤモータのトルクである第2トルクを制御する車両制御方法において、
前記コントローラは、
車両発進時には前記目標第1トルクとして車両進行方向とは反対方向のトルクである負トルクを設定することを禁止し、
車両が動いたことを検知したら、前記負トルクである前記目標第1トルクと、前記目標第1トルクと合成することで前記要求トルクとなる前記目標第2トルクと、を設定し、
前記目標第1トルク及び前記目標第2トルクに基づいて前記第1トルク及び前記第2トルクを制御する、車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記コントローラは、
前記車両発進後の前記第1トルクを、前記後輪がスリップしたとしてもスリップしたタイミングにおける前記第1トルクが同タイミングにおける前記車両の慣性力より小さくなる変化速度で変化させる、車両制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御方法において、
前記コントローラは、
前記第1トルクの変化速度を、車速が高いほど速くする、車両制御方法。
【請求項4】
前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリヤモータと、を有する電動車両において、コントローラが要求トルクに応じて前記フロントモータに対する目標第1トルクと前記リヤモータに対する目標第2トルクを設定し、前記目標第1トルク及び前記目標第2トルクに基づいて前記フロントモータのトルクである第1トルク及び前記リヤモータのトルクである第2トルクを制御する車両制御装置において、
車両発進時の前記目標第1トルクとして車両進行方向とは反対方向のトルクである負トルクを設定することを禁止する発進トルク設定部と、
車両が動いたか否かを判定する移動判定部と、
車両が動いたと判定したら、前記負トルクである前記目標第1トルクと、前記目標第1トルクと合成することで前記要求トルクとなる前記目標第2トルクと、を設定する走行トルク設定部と、
前記目標第1トルク及び前記目標第2トルクに基づいて前記第1トルク及び前記第2トルクを制御するトルク制御部と、を備える車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法および車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪の接地性能や乗員の快適性の観点から、車両の挙動変化は小さい方が望ましい。特許文献1には、前輪と後輪をそれぞれ異なるモータで駆動する電動車両の姿勢を制御する方法として、前輪と後輪の駆動力配分比を制御することにより、懸架装置のバネ上における荷重変化に起因するバウンシングやピッチングを抑制することが開示されている。具体的には、前輪用懸架手段の側面視における瞬間回転中心角、前輪用懸架手段の側面視における瞬間回転中心角、車両の重心高さ、前後輪の軸間距離に基づいて駆動力配分比を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4887771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載されたような前後輪の駆動力配分を変更可能な車両においては、前輪には進行方向とは反対方向(以下、負方向ともいう)の駆動力を配分し、後輪には進行方向と同一方向(以下、正方向ともいう)の駆動力を配分すると、ピッチングを抑制できることが知られている。
【0005】
しかし、上記のような駆動力配分にすると、次のような問題が生じるおそれがある。例えば、前輪が乾燥路面に接地し、後輪が凍結路面に接地している状態で停車しているところから発進(前進)する際に上記駆動力配分にすると、後輪がスリップすることで前進のためのトラクションが得られず、前輪の駆動力によって後退してしまうおそれがある。つまり、運転者は前進を意図しているのに、車両は後退してしまうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、発進する際に上記のような運転者の意図しない挙動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、前輪を駆動するフロントモータと、後輪を駆動するリヤモータと、を有する電動車両において、コントローラが要求トルクに応じてフロントモータに対する目標第1トルクとリヤモータに対する目標第2トルクを設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいてフロントモータのトルクである第1トルク及びリヤモータのトルクである第2トルクを制御する車両制御方法が提供される。この方法において、コントローラは、車両発進時には目標第1トルクとして車両進行方向とは反対方向のトルクである負トルクを設定することを禁止し、車両が動いたことを検知したら、負トルクである目標第1トルクと、目標第1トルクと合成することで要求トルクとなる目標第2トルクと、を設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいて第1トルク及び第2トルクを制御する。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、発進する際に運転者の意図しない挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、電動車両の概略構成図である。
図2図2は、コントローラの構成図である。
図3図3は、発進制御の概要を説明するための図である。
図4図4は、発進制御の制御ルーチンを示すフローチャートの一例である。
図5図5は、発進制御を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図6図6は、逆相制御における第1トルクの変化速度と車速との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[システムの構成]
図1は、電動車両100の概略構成を示す説明図である。図1に示すように、電動車両100は、フロントモータ21によって前輪22を駆動し、リヤモータ31によって後輪32を駆動する四輪駆動車両である。
【0012】
電動車両100は、フロント駆動システム11、リヤ駆動システム12、バッテリ13、及び、コントローラ14を備える。
【0013】
フロント駆動システム11は、フロントモータ21によって、前輪22を駆動するシステムである。フロント駆動システム11は、フロントモータ21及び前輪22の他に、フロントインバータ23、回転センサ24、及び、電流センサ25等を備える。
【0014】
フロントモータ21は、例えば三相交流同期電動機であり、フロントインバータ23から入力される交流電力によって駆動される。フロントモータ21の出力トルクは、前輪22に駆動力を生じさせる。また、フロントモータ21は、前輪22によって連れ回されて回転するときに、いわゆる回生トルクを発生させる。これにより、フロントモータ21は、電動車両100の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。
【0015】
前輪22は、電動車両100の前方に配置された1対の駆動輪である。前輪22は、フロントギヤボックス26及びドライブシャフト27を介してフロントモータ21に接続される。本実施形態では、前輪22は右前輪及び左前輪からなる。但し、右前輪及び左前輪はドライブシャフト27によって連結され、一体になって駆動されるので、本実施形態では、右前輪及び左前輪を区別せず、これらをまとめて前輪22という。
【0016】
回転センサ24は、フロントモータ21の回転子位相αを検出する。回転子位相αはいわゆる電気角[rad]である。回転センサ24は、例えば、レゾルバやエンコーダである。検出された回転子位相αは、コントローラ14に入力される。
【0017】
電流センサ25は、フロントモータ21の各相に流れる電流(以下、三相電流という)iuf,ivf,iwfを検出する。フロントモータ21の三相電流iuf,ivf,iwfは、コントローラ14に入力される。
【0018】
リヤ駆動システム12は、リヤモータ31によって、後輪32を駆動するシステムであり、フロント駆動システム11と対称に構成される。したがって、リヤ駆動システム12は、リヤモータ31及び後輪32の他に、リヤインバータ33、回転センサ34、電流センサ35、リヤギヤボックス36、ドライブシャフト37等を備える。リヤ駆動システム12を構成するこれら各部は、フロント駆動システム11の各部と同様に機能する。すなわち、後輪32は、電動車両100の後方に配置された1対の駆動輪である。後輪32は、右後輪及び左後輪からなるが、本実施形態ではこれらを区別せず、右後輪及び左後輪をまとめて後輪32という。後輪32は、別の駆動輪である前輪22との対比において、第2の駆動輪である。回転センサ34が検出するリヤ駆動システム12の回転子位相は「α」である。電流センサ35が検出するリヤモータ31の各相に流れる電流は「iur,ivr,iwr」である。
【0019】
バッテリ13は、フロント駆動システム11とリヤ駆動システム12に共通に設けられ、フロントモータ21とリヤモータ31を駆動する電力を供給する。また、回生制御時には、バッテリ13は、フロントモータ21及びリヤモータ31で生じた回生電力によって充電される。
【0020】
コントローラ14は、電動車両100の制御装置である。コントローラ14は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等を含む1または複数のコンピュータによって構成される。また、コントローラ14は、予め定める所定の制御周期で、フロントモータ21及びリヤモータ31等を制御するようにプログラムされている。例えば、コントローラ14は、各種の車両変数を取得し、これらの車両変数に基づいて、フロントモータ21及びリヤモータ31を駆動するためのPWM信号をそれぞれ生成する。そして、コントローラ14は、生成したPWM信号をそれぞれフロントインバータ23及びリヤインバータ33に入力することにより、車両変数に応じてフロントモータ21及びリヤモータ31を駆動させる。
【0021】
車両変数とは、電動車両100の制御状態等を表すパラメータである。コントローラ14は、車両変数として、例えば、アクセル開度APO、バッテリ13の直流電圧Vdc、フロントモータ21の回転速度ω(角速度)、リヤモータ31の回転速度ω(角速度)、及び、ピッチレート検出値λdet′等を車両変数として取得する。アクセル開度APOは、運転者によるアクセルペダルの操作量を表すパラメータである。ピッチレート検出値λdet′は、ピッチレートλ′の検出値である。ピッチレートλ′は、ピッチ角λの時間変化率である。車両変数は、例えば図示しないセンサ等を用いて、必要に応じて適宜検出され得る。また、車両変数は、演算により取得され得る。
【0022】
[モータ制御]
図2は、コントローラ14の、本実施形態に係る制御に関係する構成を示す図である。
【0023】
コントローラ14は、車両変数(例えばアクセル開度APO)に基づいて要求トルクを算出し、要求トルクに応じてフロントモータ21の目標トルクである目標第1トルクと、リヤモータ31の目標トルクである目標第2トルクを設定する。なお、コントローラ14は、アクセル開度APOに基づいて要求トルクを演算する代わりに、ADAS(Advanced Drive Assistance System)またはAD(Autonomous Driving)システム等からの指令に基づいて演算することができる。
【0024】
そして、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいてフロントモータ21のトルクである第1トルクと、リヤモータ31のトルクである第2トルクを制御する。この制御のためにコントローラ14は、発進トルク設定部14Aと、移動判定部14Bと、走行トルク設定部14Cと、トルク制御部14Dと、を備える。
【0025】
発進トルク設定部14Aは、車両発進時における目標第1トルク及び目標第2トルクを、車両変数に基づいて設定する。移動判定部14Bは、電動車両100が動いているか否かを車輪の動きに基づいて判定する。車輪の動きは図示しない車輪速センサにより検出する。走行トルク設定部14Cは、発進時に車両が動き出してからの目標第1トルク及び目標第2トルクを設定する。トルク制御部14Dは、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいて、フロントモータ21のトルク(以下、第1トルクともいう)及びリヤモータ12のトルク(以下、第2トルクともいう)を制御する。
【0026】
上記の通り、電動車両100はフロントモータ21及びリヤモータ31を用いた四輪駆動走行が可能であり、前輪22の駆動力(つまり第1トルク)と後輪32の駆動力(つまり第2トルク)との駆動力配分を制御することができる。そして、この特徴を利用して電動車両100のピッチングを抑制する制御を行うことができる。
【0027】
ピッチングを抑制する場合には、第2トルクを第1トルクより大きくすればよく、特に、第1トルクを負トルクとし、第2トルクを要求トルクに第1トルク分のトルクを上乗せした正トルクとすることで、ピッチングの抑制効果が大きくなることが知られている。以下の説明において、フロントモータ21が負トルク、リヤモータ31が正トルクを発生するように駆動力を配分する制御を、逆相制御ともいう。
【0028】
車両発進時に逆相制御を実行すれば、乗員の快適性及び接地性の向上を図ることができる。ただし、これは前輪22及び後輪32の両方がスリップしていないことが前提となる。前進で発進しようとする場合に、前輪22だけがグリップし、後輪32がスリップすると、負トルクである第1トルクによって電動車両100は運転者の意図に反して後退してしまう。
【0029】
このような運転者の意図に反する挙動を抑制するため、本実施形態では以下に説明する発進制御を実行する。
【0030】
図3は、発進制御の概要を説明するための図である。
【0031】
停車中のタイミング0においてアクセルペダルが踏み込まれると、発進用の目標第1トルク及び目標第2トルクが設定される。このとき、コントローラ14は逆相制御を禁止する。つまり、目標第1トルクとして負トルクを設定することを禁止する。本実施形態では目標第1トルクとしてゼロが設定される。タイミング0から演算等に要する遅れ時間が経過したタイミングT1において、リヤモータ31が回転を開始する。このとき、目標第1トルクがゼロなのでフロントモータ21はトルクを発生しない。
【0032】
リヤモータ31が回転し始めると、リヤモータ31と後輪32の間に介在するリヤギヤボックス36の各歯車間のガタが減少し始める。そして、リヤギヤボックス36のガタがつまったタイミングT2において、リヤタイヤ32が回転し始めて電動車両100が動き始める。このとき、当然、前輪22も回転し始める。
【0033】
前輪22が回転し始めると、前輪22とフロントモータ21の間に介在するフロントギヤボックス26の各歯車間のガタが減少し始める。そして、フロントギヤボックス26のガタがつまったタイミングT3においてフロントモータ21が回転し始める。
【0034】
そして、タイミングT4においてフロントモータ21が回転していることを検知したら、逆相制御の禁止が解除される。タイミングT4以降は、逆相制御が開始され、フロントモータ21の第1トルクは負トルクである目標第1トルクに向けて制御され、リヤモータ31の第2トルクは、目標第2トルクに向けて制御される。このときの目標第2トルクは、目標第1トルクと合成することで要求トルクになる大きさとする。例えば、目標第1トルクを要求トルクのA[%]の大きさの負トルクとすると、目標第2トルクは100+A[%]の正トルクとなる。
【0035】
上記のように制御することで、発進時に後輪32がスリップしても電動車両100が後退することはない。そして、電動車両100が動き始めてから(図3のタイミングT4以降)逆相制御を開始することで、ピッチングを抑制することができる。
【0036】
図4は、上記制御の制御ルーチンを示すフローチャートの一例である。当該制御ルーチンは停車中に実行される。
【0037】
ステップS100において、コントローラ14はアクセルペダルがONの状態か否かを判定し、ONの場合はステップS110の処理を実行し、ONでない場合は当該判定を繰り返す。
【0038】
ステップS110において、コントローラ14は、前輪0[%]、後輪100[%]の駆動力配分でフロントモータ21及びリヤモータ31にトルク指示を出す。
【0039】
ステップS120において、コントローラ14は、リヤモータ31が回転しているか否かを判定し、回転している場合はステップS130の処理を実行し、回転していない場合はステップS170の処理を実行する。なお、本ステップの判定は、トルク指示が出てからモータが動き出すまでの遅れ時間が経過してから実行する。
【0040】
ステップS130において、コントローラ14は後述する期間1が経過するまでに前輪22の回転を検知したか否かを判定し、検知した場合はステップS140の処理を実行し、検知しないまま期間1が経過した場合はステップS160の処理を実行する。期間1は、例えばリヤモータ31が回転開始してから、後輪32及び前輪22が回転開始するまでに要すると想定される期間である。具体的には発進用の第2目標トルクやリヤギヤボックス36の歯車のバックラッシ等に応じて定まる。なお、図3においては、リヤギヤボックス36のガタがつまるタイミングT2において前輪22の回転を検知しているが、期間1としてタイミングT1~T2間よりも長い期間を設定してもよい。
【0041】
ステップS140において、コントローラ14は、後述する期間2が経過するまでにフロントモータ21の回転を検知したか否かを判定し、検知した場合はステップS150の処理を実行し、検知しないまま期間2が経過した場合はステップS160の処理を実行する。期間2は、例えば前輪22が回転開始してからフロントギヤボックス26のガタがつまるまでに要すると想定される期間である。具体的には発進用の第2目標トルクやフロントギヤボックス26の歯車のバックラッシ等に応じて定まる。なお、図3においては、フロントモータ22が回転開始した後、かつ期間2が経過する前のタイミングT4においてフロントモータ22の回転を検知しているが、期間2としてタイミングT2~T4間よりも長い期間を設定してもよい。
【0042】
ステップS150において、コントローラ14は逆相制御を許可し、目標第1トルクを負トルクとしてフロントモータ21の制御を開始する。そして、フロントモータ21に配分した負トルクの分、第2目標トルクを増大させる。逆相制御の詳細については後述する。
【0043】
ステップS160において、コントローラ14は逆相制御の禁止を維持する。ステップS130で期間1が経過するまでに前輪22の回転を検知しなかった場合は、後輪32が回転しているのに前輪22が回転していないということである。つまり後輪32がスリップして電動車両100が動いていないということである。この状況で逆相制御を行うと、フロントモータ21に配分した負トルクによって電動車両100は後退してしまうので、逆相制御を禁止する。また、ステップS140でフロントモータ21の回転を検知していない状況では、フロントギヤボックス26のガタがつまっていないと推定できる。この状況で逆相制御を開始すると、フロントギヤボックス26内のギヤ同士の衝突による歯打ち音や振動が発生するおそれがあるので、逆相制御の禁止を維持する。また、期間2が経過してもフロントモータ21の回転を検知できない場合にはフロント駆動機構11に何らかの不具合が発生していると考えられるので、この場合も逆相制御の禁止が維持され、本ルーチンとは別の、フェールセーフ用の制御ルーチンが実行される。
【0044】
ステップS170においては、コントローラ14はリヤモータ31が故障していると判定し、本ルーチンを終了する。ステップS170で故障していると判定した場合には、本ルーチンとは別の、フェールセーフ用の制御ルーチンが実行される。
【0045】
次に、逆相制御について図5図6を参照して説明する。
【0046】
図5は上記の発進制御を実行した場合のタイムチャートの一例である。図5の実線は本実施形態に係る発進制御を示し、破線は発進時から逆相制御を行う場合(以下、比較例ともいう)について示している。なお、図5におけるタイミング0~T4は、図3におけるタイミング0~T4と対応している。図6は逆相制御における第1トルクの変化速度と車速との関係を示す図である。
【0047】
比較例に係る制御では、タイミングT1から逆相制御を開始しているので、例えばタイミングT2以降も前輪22が回転していない場合、つまり後輪32がスリップしている場合には電動車両100が後退してしまう。
【0048】
これに対して本実施形態に係る発進制御では、タイミング0でアクセルペダルが踏み込まれると、遅れ時間経過後のタイミングT1からリヤモータ31のトルク(第2トルク)が増大し始める。リヤギヤボックス26のガタがつまり、前輪22及び後輪32が回転開始するタイミングT2から加速度が発生する。そして、フロントモータ22の回転が検知されたタイミングT4から逆相制御が開始される。これにより、後輪32がスリップしている場合でも電動車両100が後退することはない。
【0049】
そして、本実施形態に係る制御では、逆相制御の開始後にフロントモータ22のトルク(第1トルク)は負方向に増大し、リヤモータ32のトルク(第2トルク)は第1トルクが負方向に増大した分だけ正方向に増大する。このときの第1トルクの変化速度は、後輪32がスリップしたとしてもスリップしたタイミングにおける第1トルクが同タイミングにおける電動車両100の慣性力より小さくなる大きさに設定する。これにより、仮に逆相制御の開始後に後輪32がスリップしたとしても、電動車両100の慣性力が第1トルクの絶対値より大きいため、電動車両100が第1トルクによって後退することを防止できる。
【0050】
コントローラ14は、第1トルクの変化速度を車速に応じて変化させる。これは、電動車両100の慣性力の大きさに関与する主なパラメータのうち、車重は電動車両100の仕様に応じた固定値であり、変動するのは車速だからである。具体的には、図6に示すように車速が高くなるほど変化速度も速くする。これは、車速が高くなるほど電動車両100の慣性力が大きくなり、車速をゼロ以下にするために必要な負トルクが大きくなるからである。
【0051】
以上のように本実施形態では、前輪22を駆動するフロントモータ21と、後輪32を駆動するリヤモータ31と、を有する電動車両100において、コントローラ14が要求トルクに応じてフロントモータ21に対する目標第1トルクとリヤモータ32に対する目標第2トルクを設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいてフロントモータ21のトルクである第1トルク及びリヤモータ31のトルクである第2トルクを制御する車両制御方法が提供される。この方法においてコントローラ14は、車両発進時には目標第1トルクとして車両進行方向とは反対方向のトルクである負トルクを設定することを禁止し、電動車両100が動いたことを検知したら、負トルクである目標第1トルクと、目標第1トルクと合成することで要求トルクとなる目標第2トルクと、を設定し、目標第1トルク及び目標第2トルクに基づいて第1トルク及び第2トルクを制御する。これにより、発進時に後輪32がスリップし前輪22だけがグリップしている状態になっても、電動車両100が運転者の意図に反した方向に発進することがなくなる。
【0052】
本実施形態では、コントローラ14は、車両発進後の第1トルクを、後輪32がスリップしたとしてもスリップしたタイミングにおける第1トルクが同タイミングにおける電動車両100の慣性力より小さくなる変化速度で変化させる。これにより、発進後に後輪32がスリップしても、電動車両100が急激に停車したり反対方向に走ったりすることを防止できる。
【0053】
本実施形態では、コントローラ14は第1トルクの変化速度を車速が高いほど速くする。これにより、後輪32がスリップした場合の急激な停車等を防止しつつ、加速の遅延を抑制できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0055】
11:フロント駆動システム,12:リヤ駆動システム,13:バッテリ,14:コントローラ,21:フロントモータ,22:前輪,23:フロントインバータ,24:回転センサ,25:電流センサ,26:フロントギヤボックス,27:ドライブシャフト,31:リヤモータ,32:後輪,33:リヤインバータ,34:回転センサ,35:電流センサ,36:リヤギヤボックス,37:ドライブシャフト,100:電動車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6