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特開2025-11067二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011067
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/32 20230101AFI20250116BHJP
   C02F 1/66 20230101ALI20250116BHJP
【FI】
C02F3/32
C02F1/66 530A
C02F1/66 510Z
C02F1/66 540J
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111107
(22)【出願日】2024-07-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2023122859
(32)【優先日】2023-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024002888
(32)【優先日】2024-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520385537
【氏名又は名称】株式会社ノベルジェン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬典
(72)【発明者】
【氏名】工藤 幸一
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040CC11
(57)【要約】
【課題】 水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進する二酸化炭素固定化システムを提供する。
【解決手段】 二酸化炭素固定化システムは、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置
を備えることを特徴とする二酸化炭素固定化システム。
【請求項2】
前記水産物は、貝類、甲殻類、あるいは、刺胞動物であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項3】
前記プロトン除去装置は、陽極及び陰極を有する電子発生装置であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項4】
前記プロトン除去装置は、脱イオン化装置であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項5】
前記プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設内に設置されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項6】
前記プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設に接続されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項7】
前記プロトン除去装置に向かって水流を発生させる第1の水流発生装置
を、さらに備える、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項8】
前記水産物に向かって水流を発生させる第2の水流発生装置
を、さらに備える、請求項7に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項9】
炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物を水中に存在させるステップと、
該水中からプロトンを除去するステップと、
を含むことを特徴とする二酸化炭素固定方法。
【請求項10】
炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するステップと、
を含むことを特徴とする二酸化炭素固定プログラム。
【請求項11】
前記プロトン除去装置における少なくとも一部がT字形であることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項12】
前記プロトンの除去が鉄鋼スラグを用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項13】
前記プロトンの除去がケージを用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水産物の中には、水中の二酸化炭素と炭酸カルシウム(以下、CaCO3ともいう)を利用して自らの殻を形成する生物が存在する。その中でも、貝類は光合成により二酸化炭素を吸収する植物性プランクトンを餌として、炭素、水素、酸素等の元素を取り込み成長する。貝の成長とともに貝殻も成長するが、貝殻は貝が分泌する有機質を基質として水中の二酸化炭素を炭酸カルシウムが結晶化することで形成される。このように、貝類は、水中の二酸化炭素などを利用して殻を形成することで、二酸化炭素を吸収することが知られている(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009/119846
【非特許文献1】第55回天然有機化合物討論会講演要旨集、2018年3月19日公開、p. Oral9 安元剛ら
【非特許文献2】安元剛 日本水産学会誌、第88巻、第6号、2022年11月15日発行、p542
【非特許文献3】Ware, J R. et al., ”Coral reefs: sources or sinks of atomospheric CO2?” Coral Reefs (1991) 11,p127-130
【非特許文献4】海生研ニュースNo.99、2008年7月発行、p2-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、貝類などのバイオミネラリゼーションは、二酸化炭素の固定化には繋がらないという見解がある(非特許文献2)。
【0005】
この見解の理由について説明すると、水中での炭酸カルシウムの原料として、カルシウムイオン(Ca2+)と重炭酸イオン(HCO3 -)があるとした場合、炭酸カルシウム(CaCO3)の生成(石灰化反応、下記式(1)における→方向)により水素イオン(H+、プロトン)が生じ、pHが下がる。そうすると、式(1)と(2)に示すように、形成した炭酸カルシウムが炭酸水素イオンとなり(下記式(1)における←方向)、その炭酸水素イオン(HCO3 -)と水素イオンが反応し、炭酸(H2CO3)を経て、結果として水中へ二酸化炭素(CO2)が放出される(下記式(2)における→方向)というものである。
【0006】
Ca2+ + HCO3 - ⇔CaCO3 + H+ …式(1)
HCO3 -+ H+ ⇔H2CO3⇔CO2 + H2O …式(2)
【0007】
すなわち、プロトンが発生することに伴い、貝殻に固定化された二酸化炭素は、再度水中へ放出されるので、二酸化炭素は貝類に固定されない。
【0008】
また、近年問題となっている海水の酸性化に伴い、炭酸カルシウムの生成(下記式(3)における←方向)が阻害され、むしろその溶解(下記式(3)における→方向)が促進されるとも言われている(非特許文献3)。
CaCO3+ CO2 + H2O ⇔Ca2+ +2HCO3 - …式(3)
【0009】
また、別の課題として、藻類に二酸化炭素を固定化させても、その藻類を餌とする水産物に効率よく給餌できていないことも挙げられる。そのため藻類が固定化した二酸化炭素を原料としたバイオミネラリゼーションが効率良く行われていない。
【0010】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものである。その目的は、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進する二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴に係る二酸化炭素固定化システムは、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置を備える。
【0012】
第1の特徴に係る二酸化炭素固定システムによると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0013】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムにおいて、水産物は、貝類、甲殻類、あるいは、刺胞動物であってもよい。
【0014】
この二酸化炭素固定システムによると、殻や骨格を生成する水産物への二酸化炭素固定化を促進することができる。
【0015】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムにおいて、プロトン除去装置は、陽極及び陰極を有する電子発生装置であってもよい。
【0016】
この二酸化炭素固定システムによると、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定化が促進される。この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆくため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この二酸化炭素の固定システムによると、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行うこともできる。
【0017】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムにおいて、プロトン除去装置は脱イオン化装置であってもよい。
【0018】
この二酸化炭素固定システムによると、市販のイオン交換装置、膜、樹脂を使って二酸化炭素固定の促進ができる。また、既存の設備をそのまま利用しつつ、本構成を設置できる。そのため、設置が容易となる。市販のものが使えるため、交換も容易である。
【0019】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムにおいて、プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設内に設置されてもよい。
【0020】
この二酸化炭素固定システムによると、既存の設備の中にプロトン除去装置を設置するので、新たな設置場所の確保が不要である。水産物により近い位置にプロトン除去装置を設置することができるという利点もある。
【0021】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムにおいて、プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設に接続されてもよい。
【0022】
この二酸化炭素固定システムによると、既存の設備の構成を変更することなく、後付けでプロトン除去装置を設置することができる。このように、既存の設備への導入が容易である。
【0023】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムは、プロトン除去装置に向かって水流を発生させる第1の水流発生装置を、さらに備えてもよい。
【0024】
この二酸化炭素固定システムによると、所望の水流を発生させることで、プロトン除去や、水産物へ餌をより効率的に到達させることができる。これにより水産物への二酸化炭素固定を促進できる。具体的には、水流発生装置がプロトン除去装置に向かって水流を発生させることにより、効率的にプロトンを除去することができる。
【0025】
また、第1の特徴に係る二酸化固定システムは、前記水産物に向かって水流を発生させる第2の水流発生装置を、さらに備えてもよい。
【0026】
この二酸化炭素固定システムによると、同じ水中に存在する、水産物の餌となる藻類を効率的に摂取し、藻類が吸収した二酸化炭素を水産物がより効率的に固定化できる。さらに、餌となる藻類を水産物が摂取しやすくなることで、水産物の成長などが促進され高品質な水産物を養殖することができる。また、この二酸化炭素固定システムによると、水産物が水中の二酸化炭素を固定化する際にも、より効率的に固定化することができる。
【0027】
本発明の第2の特徴に係る二酸化炭素固定方法は、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物を水中に存在させるステップと、該水中からプロトンを除去するステップと、を含む。
【0028】
第2の特徴に係る二酸化炭素固定方法によると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0029】
本発明の第3の特徴に係る二酸化炭素固定プログラムは、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するステップと、を含む。
【0030】
第3の特徴に係る二酸化炭素固定プログラムによると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0031】
本発明の第4の特徴に係る環境浄化システムは、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置を備える。
【0032】
第4の特徴に係る環境浄化システムによると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0033】
また、第4の特徴に係る環境浄化システムにおいて、水産物は、貝類、甲殻類、あるいは、刺胞動物であってもよい。
【0034】
この環境浄化システムによると、殻や骨格を生成する水産物への二酸化炭素固定化を促進することができる。
【0035】
また、第4の特徴に係る環境浄化システムにおいて、プロトン除去装置は、陽極及び陰極を有する電子発生装置であってもよい。
【0036】
この環境浄化システムによると、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定化が促進される。この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆくため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この環境浄化システムによると、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行うこともできる。このように、本システムは、水産物の二酸化炭素の固定の促進だけでなく、同時に底泥の浄化や水の浄化などを行う総合的な環境浄化システムでもある。
【0037】
本発明の第5の特徴に係る環境浄化方法は、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物を水中に存在させるステップと、該水中からプロトンを除去するステップと、を含む。
【0038】
第5の特徴に係る環境浄化方法によると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0039】
この環境浄化方法によると、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定化が促進される。この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆくため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この環境浄化方法によると、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行うこともできる。このように、本方法は、水産物の二酸化炭素の固定の促進だけでなく、同時に底泥の浄化や水の浄化などを行う総合的な環境浄化方法でもある。
【0040】
本発明の第6の特徴に係る環境浄化プログラムは、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するステップと、を含む。
【0041】
第6の特徴に係る環境浄化プログラムによると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0042】
この環境浄化プログラムによると、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定化が促進される。この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆくため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この環境浄化プログラムによると、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行うこともできる。このように、本プログラムは、水産物の二酸化炭素の固定の促進だけでなく、同時に底泥の浄化や水の浄化などを行う総合的な環境浄化方法を環境浄化システムに行わせるプログラムでもある。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進する二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムを提供することができる。
【0044】
また、本発明によると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進し、かつ、底泥や水の浄化などを行う環境浄化システム、環境浄化方法及び環境浄化プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化システムを示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係るプロトン除去装置として電子発生装置を使用した図である。
図3】第1の実施形態に係るプロトン除去装置として脱イオン化装置を使用した図である。
図4】第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法を示すフローチャートである。
図5】第2の実施形態に係る二酸化炭素固定化システムを示すブロック図である。
図6】第2の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法を示すフローチャートである。
図7】プロトン除去により微細藻類の増殖効果が得られることを模式的に示す図である。
図8】プロトン除去に係る他の実施形態1を示す図である。
図9】テトラポット型の電子発生装置を備えたプロトン除去装置の使用例を示す図である。
図10】プロトン除去に係る他の実施形態2を示す図である。
図11】鉄鋼スラグと水産物を利用した二酸化炭素の固定技術を示す図である。
図12】鉄鋼スラグによる微細藻類の増殖促進を示す図である。
図13】鉄鋼スラグを用いた二酸化炭素固定化システムの例を示す図である。
図14】プロトン除去に係る他の実施形態3を示す図である。
図15】プロトン除去に係る他の実施形態4を示す図である。
図16】養殖ケージの他の使用例を示す図である。
図17】プロトン除去に係る他の実施形態5を示す図である。
図18】(a)はプロトン除去に係る他の実施形態6を示す図、(b)は負極アンカーを示す斜視図、(c)は負極アンカーの他の形態を示す斜視図である。
図19】プロトン除去に係る他の実施形態7を示す図である。
図20】プロトン除去に係る他の実施形態8を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
<<<<第1の実施形態>>>>
以下に、本発明に係る第1の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化システム10を示すブロック図である。
【0047】
<<<二酸化炭素固定化システム10>>>
二酸化炭素固定化システム10は、主に、炭酸カルシウム(CaCO3)を自己の一部として生成する水産物100が存在する水中からプロトン(H+)を除去するプロトン除去装置200と、養殖施設300とを備える。
【0048】
<<水産物100>>
本実施形態に係る水産物100は、二酸化炭素とカルシウムから炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する石灰化反応を利用して、その殻など自己の一部を生成するものであれば良い。
【0049】
例えば、水産物が生成する炭酸カルシウム(CaCO3)としては、軟体動物の貝類の貝殻、甲殻類の外骨格、刺胞動物(サンゴ類)の骨格、原生動物の有孔虫などの無脊椎動物の殻、および円石藻とよばれる単細胞の藻類が生成するココリスなどが挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る水産物としては、貝類、甲殻類、棘皮動物(ウニ)、刺胞動物(サンゴ類)であり、より好ましくは貝類である。
【0051】
貝類の中で、特に好ましいものは、二枚貝である。
【0052】
二枚貝の中で、特に好ましいものは、カキ、ホタテ、イガイ、シジミ、アサリ、アコヤ貝である。
【0053】
カキの主な種類としては、イタボガキ属のイタボガキ (Ostrea denselamellosa)、ヨーロッパヒラガキ (Ostrea edulis:European flat oyster)、マガキ属のマガキ (Crassostrea gigas:Japanese oyster / Pacific oyster / Rock oyster)、シカメガキ(Crassostrea sikamea)、スミノエガキ(Crassostrea ariakensis)、イワガキ(Crassostrea nippona)、ポルトガルガキ(Crassostrea angulata)、バージニアガキ(Crassostrea virginica) や、タイニー・パシフィックオイスター(Ostrea lurida)、ブラフオイスター(Ostrea chilenesis)が挙げられる。
【0054】
<<水>>
水産物が存在する水は、水産物が生存できるものであればよい。例えば、海水、淡水、汽水などが挙げられる。どのような種類の水であるかは、水産物の種類による。なお、水は二酸化炭素を含むものであることが望ましい。水産物が水中の二酸化炭素を固定化するためである。この二酸化炭素の由来は問わない。例えば、大気中の二酸化炭素が水に移行したものでもよく、また、別の場所で発生又は生成した二酸化炭素を水に導入してもよい。
【0055】
<<プロトン除去装置200>>
プロトン除去装置200は、炭酸カルシウム(CaCO3)を自己の一部として生成する水産物100が存在する水中からプロトン(H+)を除去する。
【0056】
プロトン除去装置200は、水産物100が存在する養殖施設300内に設置されてもよく(図1(a))、養殖施設300に接続されてもよい(図1(b)、(c))。
【0057】
養殖施設とは、水産物を養殖するために、その内部に水産物が存在する場をいう。養殖施設としては、例えば、陸上に設置された水槽や養殖池、水中に設置された河川、湖沼、海面における養殖場が挙げられるが、これに限定されるものではない。このような水槽、養殖池や養殖場は、新規に設置してもよく、既存のものを使用してもよい。なお、この養殖施設は水産物を食用とするための施設に限られず、水産物を維持、保持、育成する目的であれば、いずれの施設、装置などが含まれる。
【0058】
プロトン除去装置は、水産物から生じるプロトンや海水等の酸性化により生じたプロトンを除去できる場所であればどのような場所でも設置されてもよい。つまり、プロトン除去装置は、水産物から生じるプロトンや海水等の酸性化により生じたプロトンを除去できる場所であればどのような場所でも、設置が可能である。例えば、養殖施設の内部や養殖施設に接続した場所に設置できる。また、既存の淡水、汽水、海洋における養殖施設の内部(図3(b))や、養殖施設に接続(図3(a)、(c))した場所などに設置されてもよい。プロトン除去装置は常時設置されてもよいし、所望のタイミングでプロトンを除くように設置されてもよい。
【0059】
プロトン除去装置を養殖施設と接続する場合、図3(a)のようにパイプなどを用いて養殖施設からプロトンを含む水をプロトン除去装置に流入させることや、図3(c)のように直接養殖施設の近傍にプロトン除去装置を含む設備を設置し、養殖施設内のプロトンを含む水がプロトン除去装置を含む設備に移動可能なようにすることもできる。
【0060】
水中に、カルシウムイオン(Ca2+)と重炭酸イオン(HCO3 -)が存在する場合、炭酸カルシウム(CaCO3)の生成(石灰化反応、下記式(1)における→方向)によりプロトン(H+)が生じる。
Ca2+ + HCO3 - ⇔CaCO3 + H+ …式(1)
【0061】
プロトン除去装置200によって、プロトンが除去されると、式(1)における→方向に反応が進み、炭酸カルシウム(CaCO3)の生成が促進される。
【0062】
プロトンが除去されているので、下記式(2)における→方向の反応は抑制され、水中へ二酸化炭素(CO2)が放出されることが抑制される。
HCO3 -+ H+ ⇔H2CO3⇔CO2 + H2O …式(2)
この結果、二酸化炭素は水産物へ固定されることとなる。
【0063】
また、海水の酸性化に伴い、炭酸カルシウムの生成(下記式(3)における←方向)が阻害され、むしろその溶解(下記式(3)における→方向)が促進されるとも言われているが、プロトンを除去することにより、酸性化が抑制され、炭酸カルシウムの生成が促進される。
CaCO3+ CO2 + H2O ⇔Ca2+ +2HCO3 - …式(3)
【0064】
プロトン除去装置として、具体的には、陽極及び陰極を有する電子発生装置、脱イオン化装置、透析(透析装置)、蒸留(蒸留装置)などが使用できる。
【0065】
さらに、水の流れや潮の流れを利用し、プロトンが流れ出る場所に適宜設置することもできる。この場合、水の流れや潮の流れに応じてプロトン除去装置の設置場所を変更しても良い。
プロトン除去装置は、プロトン除去を制御する機構を有しても良い。この制御機構により、水産物へのCO2の固定化状況、藻類の状況、及び/又は養殖施設中の水の状況などに応じて、プロトン除去装置のOn-Offや、プロトン除去の量などの調節をすることができる。
【0066】
<電子発生装置>
プロトン除去装置200として、図2に示すように、電子発生装置を用いてもよい。
【0067】
電子発生装置として、少なくとも陽極(正極又はカソードともいう)と陰極(負極又はアノードともいう)を有し、かつ、この陽極と陰極は外部回路等に接続され、陰極から発生する電子が陽極に移動可能なものをいう。例えば陽極と陰極が一つの装置の中で電子が移動可能なように接続されているものでもよく、陽極と陰極が別々の装置として構成され、これらが外部回路等により接続され、陰極から発生する電子が陽極に移動可能なものでもよい。
【0068】
電子発生装置として、少なくとも陽極がプロトンを含む水に接していればよい。陰極で発生した電子が外部回路等を通じて陽極に移動可能なものであれば、陰極はプロトンを含む水に接しても良いし、接していなくてもよい。
【0069】
電子発生装置として、図2に示すように、微生物電池を使用しても良い。微生物電池を使用した場合、底に溜まった泥(以下、底泥又はヘドロともいう)若しくは汚泥(活性汚泥を含む、以下同様)などのバイオマス(以下、底泥などのバイオマス、ともいう)または生活排水などの有機物を含む層に陰極(アノード)を差し込むことで、微生物電池とすることができる。なお、陰極を差し込む場所または層としては、発電細菌が生育出来るものであれば、底泥若しくは汚泥以外のバイオマスまたは有機物を用いることができる。本実施形態における微生物電池とは、微生物の代謝能力を利用して、底泥などの有機物等の化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置(微生物電子発生装置)である。微生物電池は、微生物が有機物を分解する過程で生じる電子を利用する。微生物が有機物を分解した際に生じる電子を陰極(アノード)が回収し、その電子が外部回路を通じて陽極(カソード)に移動する。この過程で、微生物の力を利用して発電できるだけでなく、底泥などのバイオマス、生活排水などに含まれる有機物を燃料にするため、微生物電池は、発電と同時に排水の処理や環境浄化の手段としても注目されている(特許文献1)。しかし、微生物電池を利用して、プロトンを除去することにより水産物における炭酸カルシウム形成および水産物への二酸化炭素固定を促進することは報告されていない。
【0070】
本実施形態では、この陽極で、水産物が炭酸カルシウムを形成する際に放出したプロトン(水素イオン)や海水の酸性化によって生じたプロトンと水中の酸素が、その電子を利用した還元反応により水(H2O)を発生させる。この反応により、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定が促進される。
【0071】
また、この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆく。そのため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この過程で、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行える。
【0072】
<脱イオン化装置>
プロトン除去装置200として、脱イオン化装置を用いてもよい。この場合、例えば、図3の(a)から(c)のプロトン除去装置を脱イオン化装置とすることができる。
【0073】
脱イオン化装置として、プロトンを吸着または除去できるものであればよい。例えばイオン交換装置やイオン吸着装置が挙げられる。
【0074】
イオン交換装置としては、イオン交換膜やイオン交換樹脂が挙げられ、特に好ましくは陽イオン交換膜や陽イオン交換樹脂である。
【0075】
イオン吸着装置としては、プロトンを吸着又は除去できるものであればよく、例えば、ゼオライト、スメクタイト(モンモリロナイトともいう)、炭、カーボンナノチューブ、金属錯体などが挙げられ、プロトンを吸着又は除去できる限りにおいて、これらを組み合わせたものでも良い。好ましくはゼオライトである。
【0076】
脱イオン化装置を用いることにより、市販のイオン交換装置、膜、樹脂を使って二酸化炭素固定の促進ができる。また、既存の設備をそのまま利用しつつ、本構成を設置できる。そのため、設置が容易となる。市販のものが使えるため、交換も容易である。
【0077】
<透析装置>
プロトン除去装置200として、透析装置を用いてもよい。
【0078】
透析装置としては、水産物の周りの水からプロトンを除去できるものであればよい。例えば、透析膜を使用してプロトンを水産物の周りの水から除去をすることができる。
【0079】
電気透析も用いることができる。電気透析とは、電気的な力を利用してプロトンを分離や除去する技術である。装置としては、例えば、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に、その間に2種類のスペーサー(脱塩室、濃縮室)を介して多数組積層し、その両端に1対の電極を配置する。そこで、脱塩室に原液を供給するとプロトンなどの陽イオンは陰極(-極)に向かって陽イオン交換膜を透過して右隣の濃縮室に移動するが、濃縮室の陰極側は陰イオン交換膜で仕切られているために、さらに右隣の脱塩室に移動することはできない。この結果、濃縮室ではプロトンなどの陽イオンが濃縮される。この濃縮された液を取り除くことでプロトンの除去が可能となる。
【0080】
透析装置を用いることにより、市販の透析膜を利用して、二酸化炭素固定の促進ができる。また、既存の設備をそのまま利用しつつ、本構成を設置できる。そのため、設置が容易となる。市販のものが使えるため、交換も容易である。
【0081】
設置場所としては、水産物から生じるプロトンや海水等の酸性化により生じたプロトンを除去できる場所であればどのような場所でも設置されてもよい。例えば、養殖施設の内部や接続した場所に設置できる。透析装置は常時設置されてもよいし、所望のタイミングでプロトンを除くように設置されてもよい。
【0082】
透析装置を養殖施設と接続する場合、プロトン除去装置と同様に、図3(a)のようにパイプなどを用いて養殖施設からプロトンを含む水がプロトン除去装置に流れ込むようにすることや、図3(c)のように直接養殖施設の近傍に透析装置を含む設備を設置することもできる。
【0083】
<蒸留装置>
プロトン除去装置200として、蒸留装置を用いてもよい。
【0084】
蒸留とは、水を沸騰させて蒸気にし、その後冷却して液体に戻すことでイオンや不純物を除去する方法をいう。この過程では、プロトンや水素イオンも除去される。蒸留を行うことができる装置(以下、蒸留装置という)を用いることにより、既存の設備をそのまま利用しつつ、本構成を設置できる。そのため、設置が容易となる。蒸留により、殺菌した水を利用できるため、衛生的に安全である。
【0085】
設置場所としては、水産物から生じるプロトンや海水等の酸性化により生じたプロトンを除去できる場所であればどのような場所でも設置されてもよい。例えば、養殖施設の内部や接続した場所に設置できる。透析装置は常時設置されてもよいし、所望のタイミングでプロトンを除くように設置されてもよい。
【0086】
<<養殖施設300>>
養殖施設300として、水産物を養殖するために、その内部に水産物が存在する場所であればよい。たとえば、養殖施設としては、例えば、陸上に設置された水槽や養殖池、水中に設置された河川、湖沼、海面における養殖場が挙げられるが、これに限定されるものではない。このような水槽、養殖池や養殖場は、新規に設置してもよく、既存のものを使用してもよい。なお、この養殖施設は水産物を食用とするための施設に限られず、水産物を維持、保持、育成する目的であれば、いずれの施設、装置などが含まれる。
【0087】
<<<二酸化炭素固定化方法及びプログラム>>>
第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法及び二酸化炭素固定化ブログラムについて、図4に基づいて説明する。
【0088】
まず、ステップS101において、カルシウムを自己の一部として生成する水産物を水中に存在させる。
【0089】
次に、ステップS102において、水中からプロトンを除去する。
【0090】
プロトン除去装置は、水中からプロトンを除去する制御サーバの役割を備えていてもよい。
【0091】
制御サーバは、主に、プロセッサ(CPU(中央処理装置)など)、ROM(リードオンリーメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、補助記憶装置(HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)や各種のメモリーカードなど)、I/F(通信インターフェース装置)や入力操作装置(キーボード、マウス、タッチパネルなど)や表示装置(液晶ディスプレイ、タッチパネルなど)などを備えた各種のパーソナルコンピュータやワークステーションなどにすることができる。また、制御サーバは、各種の演算処理及びデータ処理や、他のサーバとの通信処理などの各種の処理を実行できる。
【0092】
制御サーバは、上述したようなパーソナルコンピュータ等の1つの装置として形成されてもよく、制御サーバの各機能がインターネットを介してアクセス可能なクラウド上に形成されてもよい。
【0093】
制御サーバがアクセス可能な記憶装置には、各種のプログラム(図4に示す二酸化炭素固定化プログラム等)やデータベース等が記憶されている。
【0094】
記憶装置は、制御サーバに直接接続されてもよく、インターネットを介してクラウド上に配置されてもよい。
【0095】
<<<効果>>>
第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムによると、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、水産物への二酸化炭素の固定化を促進することができる。
【0096】
具体的には、炭酸カルシウムの生成時に発生するプロトンを除去することで、貝類などの水産物への二酸化炭素の固定を促進できる。
【0097】
また、珊瑚礁や貝類など海洋酸性化により炭酸カルシウム形成が阻害される生物の、炭酸カルシウム形成を促進し、その生育を促進できる。
【0098】
また、水産物100は、貝類、甲殻類、あるいは、刺胞動物であることが好ましい。この二酸化炭素固定システムによると、殻や骨格を生成する水産物への二酸化炭素固定化を促進することができる。
【0099】
また、プロトン除去装置200は、陽極及び陰極を有する電子発生装置であってもよい。この二酸化炭素固定システムによると、水中のプロトンが回収され、水産物の二酸化炭素の固定化が促進される。この過程で還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆくため、底の泥の浄化をすることもできる。さらに、この過程で、底泥の有機物が、発電細菌により分解され、窒素等の栄養塩が水中に溶出するため、その栄養塩によって微細藻類が増殖できる。この増殖した微細藻類により、水の浄化も行うこともできる。微細藻類が水中のアンモニア、硝酸態窒素又は亜硝酸態窒素などの窒素、リン酸等の栄養塩を吸収するためである。
【0100】
また、プロトン除去装置200は、脱イオン化装置であってもよい。この二酸化炭素固定システムによると、市販のイオン交換装置、膜、樹脂を使って二酸化炭素固定の促進ができる。また、既存の設備をそのまま利用しつつ、本構成を設置できる。そのため、設置が容易となる。市販のものが使えるため、交換も容易である。
【0101】
また、プロトン除去装置200は、水産物100が存在する養殖施設300内に設置されてもよい。この二酸化炭素固定システムによると、既存の設備の中にプロトン除去装置200を設置するので、新たな設置場所の確保が不要である。水産物100により近い位置にプロトン除去装置200を設置することができるという利点もある。
【0102】
また、プロトン除去装置200は、水産物100が存在する養殖施設300に接続されてもよい。この二酸化炭素固定システムによると、既存の設備の構成を変更することなく、後付けでプロトン除去装置200を設置することができる。このように、既存の設備への導入が容易である。
【0103】
<<<<第2の実施形態>>>>
以下に、本発明に係る第2の実施形態について、図面に基づいて説明する。図5は、第2の実施形態に係る二酸化炭素固定化システム10を示すブロック図である。
【0104】
<<<二酸化炭素固定化システム10>>>
二酸化炭素固定化システム10は、図5に示すように、主に、炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物100が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置200と、プロトン除去装置200に向かって水流を発生させる水流発生装置500とを備える。
【0105】
水産物100、プロトン除去装置200、養殖施設300については、第1の実施形態と同様である。
【0106】
<<水流発生装置500>>
水流発生装置500は、プロトン除去装置200に向かって、及び/あるいは、水産物100に向かって、水流を発生させる。
【0107】
水流発生装置500は、所望の水流を発生する。水流を発生できる装置であればよく、スクリュー、ポンプなどが挙げられる。また動力としては電力、ガス、風力、潮力、水の流れ、ソーラー発電などを利用できる。これらの動力によりスクリューを回転させることやポンプを稼働すること水流を発生させることもできる。水流の種類は特に限定はないが、湧昇流のように深層から表層に向かった流れや、その逆の流れ、さらには水平方向の流れなど、が挙げられる。
【0108】
水流発生装置500は、プロトン除去装置200に向かって水流を発生させてもよい。これにより、効率的にプロトンを除去することができる。
【0109】
また、水流発生装置500は、水産物100に向かって水流を発生させても良い。これにより、藻類が吸収した二酸化炭素を水産物がより効率的に固定化できる。さらに、餌となる藻類を水産物が摂取しやすくなることで、水産物の成長などが促進され高品質な水産物を養殖することができる。水流の方向は、上述のいずれか又は組み合わせでも良い。
【0110】
プロトン除去装置200に向かって水流を発生させる水流発生装置と、水産物100に向かって水流を発生させる水流発生装置は、同じ装置でもよく、別の装置でもよい。
【0111】
<藻類>
水産物100が存在する水中には、水産物100の餌となる藻類が、存在してもよい。
以下に、藻類について説明する。
【0112】
藻類は、光合成により二酸化炭素を吸収し糖類を合成するとともに、酸素を放出する。培養条件による分類や、種による分類や、適応する培養水による分類や、浄化機能に応じた分類などがある。培養条件による藻類の分類は、海水適応種、淡水適応種、汽水適応種、24度以上温度帯適応種、21-24度帯適応種、18-21度温度帯適応種、15-18度温度帯適応種、12-15度温度帯適応種、12度以下温度帯適応種などがある。種による藻類の分類は、珪藻、藍藻、褐藻、緑藻、ユーグレナ、渦鞭毛藻、ハプト藻(円石藻、イソクリシス、パブロバなど)などがある。適応する培養水による藻類の分類は、酸性適応種、中性適応種、アルカリ性適応種などの複数の種類がある。浄化機能に応じた藻類の分類は、重金属回収、有害物質回収などがある。これらの藻類を養殖施設300に投入できる。
【0113】
また、藻類として、水産物の餌となり、かつ、二酸化炭素を固定する能力の高い藻類を用いることもできる。具体的には、珪藻、藍藻、褐藻、緑藻、ユーグレナ、渦鞭毛藻、ハプト藻(円石藻、イソクリシス、パブロバなど)などが挙げられる。
【0114】
藻類は、季節に応じて使い分けても、培養条件や使用する培養水の種類に応じて使い分けてもよい。
【0115】
水流発生装置500によって、水産物100に、効率よく餌となる藻類が届けられる。
【0116】
<<<二酸化炭素固定化方法及びプログラム>>>
第2の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法及び二酸化炭素固定化ブログラムについて、図6に基づいて説明する。
【0117】
まず、ステップS201において、カルシウムを自己の一部として生成する水産物100を水中に存在させる。
【0118】
次に、ステップS202において、プロトン除去装置200に向かって水流を発生させる。
【0119】
次に、ステップS202と並行して、ステップS203において、水中からプロトンを除去する。
【0120】
さらに、ステップS202及びS203と並行して、ステップS204において、水産物100に向かって水流を発生させる。
【0121】
なお、ステップS202から204の順番は特に限定されるものではない。プロトンが除去できること、及び/又は、水産物に餌となる微細藻類を効率的に届けること、ができるのであれば、その順番は限定されない。
【0122】
<<<効果>>>
第2の実施形態に係る二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムによると、所望の水流を発生させることで、プロトン除去や、水産物へ餌をより効率的に到達させることができる。これにより水産物への二酸化炭素固定を促進できる。
【0123】
具体的には、水流発生装置500がプロトン除去装置200に向かって水流を発生させることにより、効率的にプロトンを除去することができる。
【0124】
また、水流発生装置500が水産物100に向かって水流を発生させることにより、同じ水中に存在する、水産物100の餌となる藻類を効率的に摂取し、藻類が吸収した二酸化炭素を水産物がより効率的に固定化できる。さらに、餌となる藻類を水産物が摂取しやすくなることで、水産物の成長などが促進され高品質な水産物を養殖することができる。
【0125】
<<<<プロトン除去装置による微細藻類の増殖効果>>>>
図7は、プロトン除去により微細藻類の増殖効果が得られることを模式的に示している。図7の例では、図2の例と同様に、電子発生装置として、微生物電池が使用されているが、微細藻類の増殖効果が得られれば、各種のプロトン除去装置を採用することが可能である。
【0126】
図2の例については、還元体である底泥が酸化体に変わり、底泥が浄化されてゆき、底の泥を浄化できる点について説明した。そのうえ、例えば、図7のような例では、プロトン除去により、養殖施設や共生バイオリアクターにおける微細藻類を増殖させることが可能である(図7)。共生バイオリアクターは、例えば、1つの養殖施設(養殖施設300など)内で、藻類を培養し、藻類を餌とする水産物を育成する装置、施設、システムなどである。共生バイオリアクターは、本出願人による特願2023-122860号明細書などに開示されている。
【0127】
図7は、図2の例と同様な構成において、底泥の浄化に加え、微細藻類の増殖効果が得られることを示している。図7に示すように、底泥の有機物が、発電細菌により分解される。さらに、窒素等の栄養塩が水中に溶出し、栄養塩によって微細藻類が増殖する。そして、微細藻類の増殖により、カキ(牡蠣)等の水産物に対する飼料の供給が行われる。
また微細藻類が増殖することにより、微細藻類による水の浄化も行うことができる。微細藻類は水中のアンモニア、硝酸態窒素又は亜硝酸態窒素などの窒素、リン酸等の栄養塩を吸収するためである。
【0128】
ここで、図7の例では、図中の左側に示すように、環境改質動態のモニタリングが行われている。電子発生装置で発生した電子は、電位測定部に含まれる電流計1202によって検出される。さらに、環境発電部1204において環境発電が行われ、各種環境センサにより、環境の検出が行われる。電位測定部は環境観測等に用いられ、電位測定部の測定結果を利用して、例えば、更にプロトン除去装置の数を増やすか否か、といった事項の決定を行うことが可能である。
【0129】
発明者等の知見では、このように、プロトン除去装置により微細藻類を増殖させることで、水産物の肥育をより一層短期間で行うことが可能になった。つまり、前述の特願2023-122860号明細書などに開示されている共生バイオリアクターを用いることにより、カキ等の水産物の肥育を、従来よりも短期化することが可能となったが、さらにプロトン除去を組み合わせることにより、より一層の短期肥育が可能となった。なお、プロトン除去を行うことにより、貝類等の水産物における貝殻から二酸化炭素(CO2)が溶出するのを抑制できる。この結果、前述したように、より殻の成長を促進でき、水産物のサイズを大きくできる。
さらに、プロトン除去装置により底泥の浄化ができるため、養殖環境の改善も行うことが可能になった。また、プロトン除去装置により微細藻類を増殖させることができるため、水の浄化や水質の改善も行うことが可能となった。また、微細藻類は水中のアンモニア、硝酸態窒素又は亜硝酸態窒素などの窒素、リン酸等の栄養塩を吸収できるため、プロトン除去装置により微細藻類が増殖することで、水の浄化も行うことが可能となった。
【0130】
<<<<プロトン除去に係る各種の実施形態>>>>
<<<プロトン除去に係る他の実施形態1>>>
プロトン除去に関しては、これまでに説明した例の他にも、種々の形態が考えられる。例えば、図8の例では、電子発生装置1210が、逆向きの(水平部分が下方に位置する)T字形の形状に形成されており、陽極(正極)1212と陰極(負極)1214とが一体に形成されている。陰極1214の側は、底泥の中に埋められ、底泥の中で、例えば、水平方向に延びている。陽極1212の側は、水中に突出し、例えば、真上方向に延びている。つまり、電子発生装置1210を用いて微生物電池が形成される。
【0131】
図8の右側に示すように、海洋に溶存した二酸化炭素(CO2)の一部が、水産物(ここでは二枚貝)の貝殻に固定される。水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、プロトンが放出され、放出されたプロトンは、陽極1212により吸収され、回収される。このように、貝殻形成時に放出されるプロトンを陽極側に誘引し、酸素と結合させることで、放出プロトンの除去が行われる。
【0132】
電子発生装置1210を、前述のようなT字形に形成することで、陰極1214の側の部位が底泥に効率よく引っ掛かる(係止する)。そして、電子発生装置1210の、底泥の中での固定や位置決めを、より確実に行うことが可能となる。この結果、電子発生装置1210の設置が容易になる。また、電子発生装置1210を簡便な形状とすることができ、電子発生装置1210の量産が容易になる。また、電子発生装置1210の形状が、逆向きのT字形であることから、重心が低く、導電性構造物1241の姿勢が安定し易い。
【0133】
なお、プロトン除去装置に備えられる電子発生装置1210の形状は、負極1214に発電細菌が付着でき、正極1212でプロトンが除去できる形状であれば、どのような形状であってもよい。好ましくは、設置した際にプロトン除去装置が安定する形状が考えられる。別の観点では、好ましくは、発電細菌の付着やプロトンの除去が容易になる形状や、そのために表面積を大きくできる形状が考えられる。
【0134】
例えば、負極1214の側の部位を円盤状(或いは、矩形盤状や多角形盤状など)に形成し、電子が移動するための部分を突出させるような形状であってもよい。このような形状は、例えば、画鋲型など称することが可能である。このようにすることで、負極1214の側の円盤状の部位を底泥に引っ掛けることができる。さらに、負極1214の側を直棒状とし、正極の側を円盤状等としてもよい。これらの場合、電子発生装置1210の形状における少なくとも一部(断面を含む)がT字形であればよい。
【0135】
また、負極1214の側の部位を放射状に形成し、負極1214が複数方向に延びる形状にすることが考えられる。この場合、例えば、電子発生装置1210を、テトラポット(消波ブロック)に類似した形状とすることが可能である。これらの場合、電子発生装置1210の形状における少なくとも一部(断面を含む)がT字形であればよい。
【0136】
このようにすることで、電子発生装置1210の、より多くの部位が、底泥に係止する。そして、電子発生装置1210を、底泥中において、より強固に固定できる。さらに、電子発生装置1210における表面積を、より多く確保できる。また、テトラポットのように慣用されている物品の形状に合わせることで、公知の物品の成形型(コンクリート成形型など)を利用でき、成形のための型を新たに製作する必要がないため、低コストで量産することが可能である。なお、テトラポット状の形態についても、例えば、後述する図21に一例を示すように、負極1214が複数方向(2方向以上)に延びる形態であり、複数の位置の断面形状がT字形になることから、その形状における少なくとも一部(断面を含む)がT字形であるということができる。
【0137】
図9は、テトラポット型の電子発生装置1210を備えたプロトン除去装置の使用例を示している。図9の例では、養殖場の底泥(養殖場底泥)に、多数の電子発生装置1210がマトリクス状に設置されている。図9の例では、負極1214の側が、底泥の外に出ている。負極1214の側は、全体が底泥の外に出ていてもよく、一部が底泥の中に埋まっていてもよい。この点は、これまでに説明した各種の実施形態でも同様である。
【0138】
図9の例では、プロトン除去の状況が、リアルタイムモニタリングされている。モニタリングは、電位測定部1216を用いて行われており、電位測定部1216により検出された電位の情報は、監視装置1218へ無線通信(又は有線通信)される。図21における「AVS」は、「酸揮発性硫化物量」を表している。このような電位測定部1216を備え、電位のモニタリングを行うことにより、環境観測が可能になる。そして、水中におけるプロトン除去の状況を、リアルタイムで把握することが可能となる。
【0139】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態2>>>
図10は、プロトン除去に係る他の実施形態を示している。図10の例においては、プロトン除去装置の電子発生装置1220が、複数(多数)の鉄鋼スラグ1228を用いて構成されている。鉄鋼スラグ1228は、鉄鋼の製造過程において発生する副産物であり、図10の左上部から中央部において示すように、底泥に散布される。
【0140】
鉄鋼スラグ1228は、底泥に散布され、他の鉄鋼スラグ1228と接触する状態で積み上げられる。積み上げられた鉄鋼スラグ1228における水中側が正極1222となり、底泥側が負極1224となる。つまり、鉄鋼スラグ1228を用いて微生物電池が形成される。
【0141】
図10の例では、図中の右側に示すように、大気中の二酸化炭素(CO2)が、海洋中に取り込まれて海洋溶存CO2となる。海洋溶存CO2の一部は、例えば、水産物(ここでは二枚貝)の貝殻形成により貝殻に固定される。
【0142】
水産物においては、バイオミネラリゼーションの過程でプロトンが放出される。放出されたプロトンは、鉄鋼スラグ1228により吸収され、回収される。このように、貝殻形成時に放出されるプロトンを陽極側に誘引し、酸素と結合させることで、放出プロトンの除去が行われる。
【0143】
なお、図10の例は、鉄鋼スラグ1228と水産物(ここでは二枚貝)を利用した二酸化炭素の固定技術を提供している。この、鉄鋼スラグ1228と水産物(ここでは二枚貝)を利用した二酸化炭素の固定技術においては、図11に示すように、海洋溶存CO2の他の一部が、光合成により微細藻類に固定される。
【0144】
ここで、鉄鋼スラグ1228は、藻や植物プランクトン等の育成に必要な鉄分を多く含む。一般に、鉄鋼スラグは、高炉で鉄鉱石を溶融・還元する際に発生する高炉スラグと、鉄を精錬する製鋼段階で発生する製鋼スラグに大別される。製鋼スラグの方がより多くの鉄分を含むため、実施形態に係る鉄鋼スラグ1228として製鋼スラグを用いたり、製鋼スラグを可能な限り多く含んでいたりすることが好ましい。
【0145】
<<鉄鋼スラグ1228による微細藻類の増殖促進>>
図12は、鉄鋼スラグ1228による微細藻類の増殖促進について、左側から右側へ段階的に示している。まず、図12の左側に示すバイオリアクター(バイオリアクターシステム)において、大気中の二酸化炭素(CO2)が、海洋中に取り込まれて海洋溶存CO2となる。さらに、海洋溶存CO2が、微細藻類、珪藻、光合成細菌等において、光合成により固定される。
【0146】
バイオリアクターにおいては、鉄鋼スラグ1228が、底泥に撒かれている。鉄鋼スラグ1228は、図10の例のように散布されていてもよい。鉄鋼スラグ1228から、光合成に必要な元素である鉄(Fe)や、その他の物質が溶出する。その他の物質としては、リン(P)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)などがある。鉄鋼スラグ1228の鉄溶出効果は、無機鉄塩よりも長期に渡り持続する。そして、鉄鋼スラグ1228からの鉄を利用して光合成が行われ、微細藻類の増殖効果が得られる。
【0147】
バイオリアクターで増殖させた微細藻類等のバイオマスが、図12の右側に示された、共生バイオリアクター/二酸化炭素固定システム(以下では「組み合わせシステム」と称する)に導入される。組み合わせシステムにおいて、微細藻類による飼料の供給が行われ、貝等の水産物が育成され、水産物におけるCO2の固定が促進される。また、微細藻類等の光合成によるCO2の固定も行われる。
【0148】
組み合わせシステムにおいて、図10の例、及び、図11の例と同様に、鉄鋼スラグ1228によるプロトン除去が行われる。この結果、水産物の成長を促進でき、水産物のサイズを大きくできる。
【0149】
<<鉄鋼スラグ1228を用いた二酸化炭素固定化システムの例>>
図13は、プロトン除去装置として鉄鋼スラグ1228を用いた二酸化炭素固定化システムの例を示している。図13の例では、図12の例と同様のシステムに対し、電位測定部1236や、観察用カメラ1238、及び、AI管理システム1240が追加されている。
【0150】
図13における左上の「微生物共生バイオリアクター」は、図12の例の「バイオリアクター」に対応する。図13における「二酸化炭素固定バイオリアクター」は、図12の例の「共生バイオリアクター/二酸化炭素固定システム」(組み合わせシステム)に対応する。
【0151】
電位測定部1236としては、図9の例の電位測定部1216と同様のものを用いることが可能である。観察用カメラ1238は、水中の水産物を撮影し、得られた画像データ(直接観察画像のデータ)をAI管理システム1240に送信できるものであればよい。
【0152】
AI管理システム1240は、AI(人工知能)を利用した水産物の育成管理を行うことが可能なものである。AI管理システム1240は、主には、バイオリアクターの制御、微生物共生叢のモニタリング、バイオマス供給の調整、二酸化炭素固定バイオリアクターのモニタリング、二枚貝成長効果モニタリング、及び、電位データの取得、等といった処理を行う。
【0153】
AI管理システム1240は、物理化学データ、生物学データ、及び、二枚貝育成状況データ等を取り扱う。物理化学データには、温度、pH、COD(化学的酸素要求量)、BOD(生物学的酸素要求量)、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、水溶性リン酸、重金属、及び、電位データ等の各種のデータが含まれる。
【0154】
生物学データには、微細藻類の種類、細胞サイズ、細胞密度、クロロフィルaの量、及び、濁度等の各種のデータが含まれる。二枚貝育成状況データには、直接観察画像のデータが含まれる。
【0155】
図13の例のシステムによれば、鉄鋼スラグ1228を用いた二酸化炭素固定化システムを、より自動化の進んだものとすることができる。
【0156】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態3>>>
図14は、プロトン除去に係るさらに他の実施形態を示している。図14の例では、プロトン除去装置の電子発生装置に鉄鋼スラグ1228が用いられており、この点で、図14の例は、図9図13の例と同様である。しかし、図14の例では、鉄鋼スラグ1228は、例えば、導電性コンクリート製の導電性構造物1241に混入(内蔵)されている。
【0157】
図14の例の導電性構造物1241は、断面が台形となる柱状(四角錐台状)に形成されている。導電性構造物1241の下端側は、底泥中に埋められており、上端側は、水中に飛び出している。導電性構造物1241の下端側は負極1244となり、上端側は正極1242となる。つまり、導電性構造物1241を用いて微生物電池が形成される。
【0158】
図14の例のプロトン除去装置によれば、多数の鉄鋼スラグ1228を1つの導電性構造物1241にまとめることができる。そして、多数の鉄鋼スラグ1228の取り扱いが容易になる。さらに、少ない量の鉄鋼スラグ1228より、長い(高さの大きい)電子発生装置を形成できる。また、導電性構造物1241の内部の鉄鋼スラグ1228を調整して、特性の異なる導電性構造物1241を量産する、といったことが可能となる。また、導電性構造物1241の形状が台形状であることから、重心が低く、導電性構造物1241の姿勢が安定し易い。
【0159】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態4>>>
図15は、プロトン除去に係る更に他の実施形態を示している。図15の例では、微生物電池システム付き牡蠣(カキ)養殖ケージ(以下では「養殖ケージ」と称する)1250が、支持ワイヤ1251により水中に吊り下げられている。養殖ケージ1250は、籠状(檻状)の構造物であり、内側で、複数の水産物の養殖(ここではカキのシングルシード養殖)が行われるようになっている。なお、養殖ケージ1250は、例えば、蓄養ケージであってもよい。
【0160】
養殖ケージ1250には、微生物電池(微生物電池システム)が組み合わされている。微生物電池システムは、養殖ケージ1250内に設けられた正極(陽極)1252と、底泥に設置された負極(陰極)1254とを備えている。正極1252は、長尺状に形成されており、養殖ケージ1250の内部のほぼ全長に行き渡っている。微生物電池システムにおける電子発生のメカニズムは、これまでに説明した各種の電子発生装置と同様である。なお、正極1252は、微生物電池を構成できるものであれば、複数に分割されていてもよい。
【0161】
図15の例では、大気中の二酸化炭素(CO2)が海洋中に取り込まれて海洋溶存CO2となる。さらに、海洋溶存CO2の一部が、養殖ケージ1250内の水産物(ここではカキ)の貝殻に固定される。養殖ケージ1250内では、水産物の炭酸カルシウム生成におけるバイオミネラリゼーションの過程で、プロトンが放出される。放出されたプロトンは、正極1252により吸収され、回収される。このように、貝殻形成時に放出されるプロトンが正極1252側に誘引され、酸素と結合させることで放出プロトンが除去され、貝殻からのCO2溶出が抑制される。
【0162】
図15の例のような養殖ケージ1250は、例えば、図16に示すように、複数並べて使用することも可能である。この場合、プロトン除去システムを大規模化することが可能となる。
【0163】
図16の例では、養殖ケージ1250が、複数個(ここでは4個)を1組とし、水中に直線状に並べて設置されている。個々の養殖ケージ1250には、微生物電池を構成する負極1254が組み合わされている。各組の養殖ケージ1250には、微生物電池を構成する正極1252が通されている。負極1254は、底泥に設置されており、正極1252に電気的に接続されている。
【0164】
個々の養殖ケージ1250の内部では、図15の例と同様にプロトン除去が行われる。プロトン除去の状況は、電位測定部1216等を用いてリアルタイムモニタリングされている。
【0165】
このようなプロトン除去システムによれば、プロトン除去を広範囲で大規模に行うことが可能となる。なお、養殖ケージ1250の配置の態様は、図16に示すような直列に限られるものではなく、例えば、並列、マトリクス状、千鳥状、或いはこれらの組み合わせ、などのように種々の態様を採用することが可能である。
【0166】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態5>>>
図17は、プロトン除去に係るさらに他の実施形態を示している。図17の例は、プロトン除去装置(微生物電池システム)付き牡蠣(カキ)養殖ケージ(以下では「養殖ケージ」と称する)1260が用いられている点で、図15の例と同様である。しかし、負極1264が、養殖ケージ1260の内部に設置されている点で、図15の例と異なる。
【0167】
図15の例では、養殖ケージ1260の内部において、負極1264の周りに発電細菌が生育できるような環境が形成される。発電細菌が生育できるような環境を形成するため、養殖ケージ1260の底部に底泥を収容し、負極1264を底泥に設置することが考えられる。このようにすることで、養殖ケージ1260の中に、正極1262と負極1264を配置することが可能である。そして、微生物電池システムが付加されたカキ養殖ケージを、養殖ケージ1260の中に必要な構成が集約されたコンパクトなものとすることが可能となる。なお、発電細菌が生育出来るものであれば、底泥若しくは汚泥以外のバイオマスまたは有機物を養殖ゲージの中に設置してもよい。
【0168】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態6>>>
図18(a)は、プロトン除去に係るさらに他の実施形態を示している。図18(a)の例では、図15の例、及び、図16の例と同様に養殖ケージ1250が用いられている。複数(ここでは4つ)の養殖ケージ1250が、陽極ライン1272を介して、支柱1274の間に吊り下げられている。支柱1274は、底泥に立てられており、水中に突出している。陽極ライン1272は、支柱1274の間に掛け渡されている。
【0169】
底泥には、複数(ここでは3つ)の負極アンカー1276が設置されており、負極アンカー1276は、ステンレスワイヤー1278やワイヤ固定フック1280を介して、陽極ライン1272に、電気的に接続されている。負極アンカー1276は、図18(a)、図18(b)に示すように、先端(図18(a)における下端)が尖った形状の先鋭部1282を有しており、底泥に突き刺さっている。陽極ライン1272と負極アンカー1276は、微生物電池システムを構成しており、負極アンカー1276から陽極ライン1272へ電子が移動する。
【0170】
図18(a)の例では、ワイヤ固定フック1280は環状に形成されており、ワイヤ固定フック1280の内側には、陽極ライン1272が通されている。そして、ワイヤ固定フック1280が、陽極ライン1272に沿って移動可能であり、ワイヤ固定フック1280とともに、ステンレスワイヤー1278や負極アンカー1276も移動可能である。
【0171】
このような実施形態によっても、図15の例、及び、図16の例と同様に、プロトン除去を行うことが可能である。そして、プロトン除去を広範囲で大規模に行うことが可能となる。なお、養殖ケージ1250の配置の態様は、図18(a)に示すような直列に限られるものではなく、例えば、並列、マトリクス状、千鳥状、或いはこれらの組み合わせ、などのように種々の態様を採用することが可能である。
【0172】
また、負極アンカー1276は、図18(b)に示すような、複数の先鋭部1282を備えた形態に限定されず、例えば、図18(c)に示す負極アンカー1286のように、1つの先鋭部1284を備えた形態のものであってもよい。図18(c)の例では、先鋭部1284は、円錐状に形成されている。
【0173】
また、図18(b)に示す先鋭部1282、及び、図18(c)に示す先鋭部1284を、例えば、導電性コンクリートで形成された導電性構造物としてもよい。さらに、負極アンカー1276、1286を全体的に導電性コンクリートにより形成してもよい。これらのようにすることで、先鋭部1282、1284、及び、負極アンカー1276、1286を容易に量産することが可能となる。
【0174】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態7>>>
図19は、プロトン除去に係るさらに他の実施形態を示している。本実施形態では、プロトン除去装置200が海水などの水中に沈められている。なお、プロトン除去装置200は完全に水中に沈められていなくてもよく、プロトン除去装置200の設置位置としては、プロトン除去装置200にプロトンを含む水が流れ込む場所であればよい。例えば、プロトン除去装置200は水中で浮いていてもよく、プロトン除去装置200の一部が水中に沈んでいてもよい。本実施形態のプロトン除去装置200では、正極(陽極)として、酸化塩化ビスマス(BiOCl)が用いられ、負極(陰極)として、Ag、Cu、Au、Ptなどの金属が用いられる。また同様の機能を有する素材であれば、正極(陽極)として金属以外の素材も用いる事ができる。プロトン除去装置200にプロトンを含む水が供給され、正極(陽極)と負極(陰極)との間に当該水が導入されると、当該水からプロトンが除去される。
具体的には、正極(陽極)で下記反応が進行することよりプロトンが除去される。
BiOCl+2H+3e→Bi+Cl+H
正極(陽極)から負極(陰極)に向かって電子が移動し、水中のマイナスイオン(Clイオン)が負極(陰極)に誘導され、負極(陰極)で下記反応が進行する。
3×(X+Cl→XCl+e) X:Agなど
この機構により、水中のプロトンが除去される。
本実施形態によれば、底泥などの有機物が存在しない場合でも、実施形態1から6と同じようにプロトンを除去できるという効果が得られる。なお、プロトン除去装置200を設置する場所は、プロトン除去装置200にプロトンを除去したい水を導入できる場所であればよい。
【0175】
<<<プロトン除去に係る他の実施形態8>>>
図20は、プロトン除去に係るさらに他の実施形態を示している。本実施形態では、実施形態7と同様な構成のプロトン除去装置200がプロトンを含有する海水などの水の系外に設置されている。プロトン除去の機構は実施形態7と同様である。
本実施形態では、プロトンを含有する水が、ポンプ(図示せず)や重力などにより、水供給経路3000を通過して、プロトン除去装置200に供給される。プロトン供給装置200でプロトンが除去された水は、水排出経路3010を通過して、海水などの水に還流する。
本実施形態によれば、実施形態7と同じ効果を得られる。さらに、プロトン除去装置200を、プロトンを除去したい水の外側に設置することができる。このため、プロトン除去装置200のメンテナンスが容易になる、という効果が得られる。
【0176】
ここまでに説明をした、二酸化炭素固定化システム、二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定プログラムの各実施形態は、それぞれ環境浄化システム、環境浄化方法及び環境浄化プログラムにも適用することができる。なお、環境浄化とは、汚染された大気、水、土壌などから汚染物を除去、減少、撤去、固定などすることをいい、例えば、地球上の二酸化炭素を除去又は固定などすること、底に溜まった泥を浄化すること、水を浄化すること、などを含むがこれに限定されるものではない。
【0177】
<<<<実施の形態の範囲>>>>
上述したように、本実施の形態を記載した。しかし、この開示の一部をなす記載及び図面は、限定するものと理解すべきでない。ここで記載していない様々な実施の形態等が含まれる。
【符号の説明】
【0178】
10 二酸化炭素固定化システム
100 水産物
200 プロトン除去装置
300 養殖施設
400 プロトン除去装置を含む設備
500 水流発生装置
1210 電子発生装置
1220 電子発生装置
1228 鉄鋼スラグ
1241 導電性構造物
1250 養殖ケージ
1260 養殖ケージ
1272 陽極ライン
1276 負極アンカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物が存在する水中からプロトンを除去するプロトン除去装置と、
前記プロトンの除去の状況をモニタリングする電位測定部と、を備え
前記プロトン除去装置が、陽極及び陰極を有する電子発生装置であり、
前記水産物が、二酸化炭素とカルシウムから炭酸カルシウムを生成する石灰化反応を利用して、前記炭酸カルシウムを自己の一部として生成する、貝類、甲殻類、棘皮動物、刺胞動物、または藻類である、二酸化炭素固定化システム。
【請求項2】
前記プロトンの除去を制御する機構を更に備える、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項3】
前記プロトン除去装置が、前記水産物が存在する水中から直接的または間接的にプロトンを除去する、請求項1または2に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項4】
前記電子発生装置において、前記陽極が、酸化塩化ビスマス(BiOCl)を有し、前記陰極が、Ag、Cu、Au、Ptから選択される金属を有する、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項5】
前記電子発生装置において、前記陰極が発電細菌を含むバイオマス又は有機物を含む層に設置されている、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項6】
前記プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設内に設置されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項7】
前記プロトン除去装置は、前記水産物が存在する養殖施設に接続されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項8】
前記プロトン除去装置に向かって水流を発生させる第1の水流発生装置を、さらに備える、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項9】
前記水産物に向かって水流を発生させる第2の水流発生装置を、さらに備える、請求項に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項10】
前記プロトン除去装置における少なくとも一部がT字形であることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項11】
前記プロトンの除去が鉄鋼スラグを用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項12】
前記プロトンの除去が養殖ケージを用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素固定化システム。
【請求項13】
炭酸カルシウムを自己の一部として生成する水産物を水中に存在させるステップと、
プロトン除去装置を用いて該水中からプロトンを除去するステップと、
前記プロトンの除去の状況をモニタリングするステップと、を含み、
前記水産物は、二酸化炭素とカルシウムから炭酸カルシウムを生成する石灰化反応を利用して、前記炭酸カルシウムを自己の一部を生成する、貝類、甲殻類、棘皮動物、刺胞動物、または藻類である、ことを特徴とする二酸化炭素固定方法。
【請求項14】
前記プロトンの除去を制御するステップを更に含むことを特徴とする請求項13に記載の二酸化炭素固定化方法。