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特開2025-11090抗菌性を有する繊維物品の製造のための変性ポリアミドの使用
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  • 特開-抗菌性を有する繊維物品の製造のための変性ポリアミドの使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011090
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】抗菌性を有する繊維物品の製造のための変性ポリアミドの使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20250116BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20250116BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250116BHJP
   A01N 33/08 20060101ALI20250116BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250116BHJP
   D01F 6/80 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L71/00 Y
A01P3/00
A01N33/08
A01N25/10
D01F6/80
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024160484
(22)【出願日】2024-09-17
(62)【分割の表示】P 2022129685の分割
【原出願日】2018-01-31
(31)【優先権主張番号】102017000013100
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】512007247
【氏名又は名称】ゴールデン レデイ カンパニー ソチエタ ペル アチオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206302
【弁理士】
【氏名又は名称】落志 雅美
(72)【発明者】
【氏名】グラシ,ネリノ
(72)【発明者】
【氏名】ザルティエリ,マウロ
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB04
4H011BC19
4H011DA10
4H011DH06
4J002CH052
4J002CL011
4J002CL031
4J002FA041
4J002FD182
4J002GK02
4L035AA05
4L035EE11
4L035GG01
4L035GG06
4L035JJ14
4L035JJ19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗菌性を有する繊維物品を製造するための、より効果的で汚染が少ない経済的な方法を提供する。
【解決手段】ポリアミドに抗菌性を付与又はポリアミドの抗菌性を向上させるための、ナイロンを含有するポリアミドにおけるポリエーテルアミンの使用が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドの抗菌性を付与又は向上させるための、ナイロンを含有するポリアミドにおけるポリエーテルアミンの使用。
【請求項2】
ポリエーテルアミンがポリエーテルジアミン又はポリエーテルトリアミンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ナイロンが、ナイロン6;ナイロン66;ナイロン12;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12から選択される少なくとも2つの成分を含有する共重合体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
ポリエーテルアミンが、ポリアミド中の遊離アミノ基(NH)を有する鎖末端として主に位置する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
ポリエーテルアミンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、少なくとも約1%、好ましくは少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%であり、ポリエーテルアミンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、約50%以下、好ましくは約30%以下、より好ましくは約25%以下、より一層好ましくは約20%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
ポリアミドは、ポリアミドの総重量に対して、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらに一層好ましくは少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%のナイロンの重量パーセントを含み、ナイロンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、約99%以下、好ましくは約95%以下、より好ましくは約90%以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
ポリエーテルアミンが、少なくとも約500、好ましくは少なくとも約800、より好ましくは少なくとも約1000、より一層好ましくは少なくとも約1500であり、好ましくは約5000以下、より好ましくは約3000以下の平均分子量(Mw)を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
繊維物品を製造するための半製品の製造のために、前記半製品が短繊維;連続単一フィラメントヤーン;連続マルチフィラメントヤーンからなる群から選択される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記半製品が二成分半製品である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
二成分半製品は、半製品の総重量に対して、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約50%であり、好ましくは約95%以下、より好ましくは約80%以下のポリアミドの重量パーセントを含む、請求項9又は10に記載の使用。
【請求項11】
抗菌性を有する繊維物品の製造のための、ナイロンおよび少なくとも1つのポリエーテルアミンを含むポリアミドヤーン又は繊維の使用。
【請求項12】
繊維物品が、結合繊維により構成された不織布;織布;編布:又はそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ポリエーテルアミンがポリエーテルジアミン又はポリエーテルトリアミンである、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
ナイロンが、ナイロン6、ナイロン66、又はナイロン6とナイロン66の共重合体である、請求項11乃至13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
ポリエーテルアミンが、ポリアミド中の遊離アミノ基(NH)を有する鎖末端として主に位置する、請求項11乃至14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
ポリエーテルアミンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、少なくとも約1%、好ましくは少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%であり、ポリエーテルアミンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、約50%以下、好ましくは約30%以下、より好ましくは約25%以下、より一層好ましくは約20%以下である、請求項11乃至15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
ポリアミドが、ポリアミドの総重量に対して、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらに一層好ましくは少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%のナイロンの重量パーセントを含み、ナイロンの重量パーセントが、ポリアミドの総重量に対して、約99%以下、好ましくは約95%以下、より好ましくは約90%以下である、請求項11乃至16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
ポリエーテルアミンが、少なくとも約500、好ましくは少なくとも約800、より好ましくは少なくとも約1000、より一層好ましくは少なくとも約1500の平均分子量(Mw)を有し、好ましくは約5000以下、より好ましくは約3000以下の平均分子量(Mw)を有する、請求項11乃至17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記繊維又はヤーンが二成分構造を有し、その成分の1つがナイロン及びポリエーテルアミン含有する前記ポリアミドである、請求項11乃至18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
二成分繊維又はヤーンは、二成分繊維又はヤーンの総重量に対して、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約50%であり、二成分繊維又はヤーンの総重量に対して、好ましくは約95%以下、より好ましくは約80%以下、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドの重量パーセントを含む、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの分野に関する。特に、本発明の実施態様は、繊維製品、例えば、合成糸、繊維、ヤーンで作られた織物、編物、不織布、又は他の繊維物品を製造するためのスレッド、繊維、又は合成ヤーンを製造するためのポリマーの改良に関する。
本明細書に記載されている実施態様は、ポリアミドの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維物品の製造、特に衣料品の製造においては、物品を製造するために使用されるスレッド、ヤーン又は繊維及びこれらの半製品から得られる衣料品に抗菌性(ANTIMICROBIAL又はANTIBACTERIAL)を付与することへの要求が高まっている。繊維物品を製造するための半製品に抗菌性又は静菌性を付与する必要性は、医療衛生上の理由及び衣料品に用いられる繊維物品中の微生物の存在及び増殖に関連する非病理的な副次的効果に関連する。医療衛生上の理由は、病院又は工業環境等において繊維物品を介する病原体の伝染を減少させる必要性に関連する。微生物の存在及び増殖に関連する副次的効果の中においては、特に衣料品においては、微生物の悪臭の発生がある。
【0003】
特に殺菌性を有する合成繊維から成る繊維物品を製造するために使用される製編や製織に適したポリマーを実現することを目的として多くの研究が行われている。一般的に、ポリマーに抗菌力又は静菌力を付与する方法は、以下の3つのカテゴリーに細分される。
― 殺菌性ポリマー(BIOCIDAL POLYMERS):
通常は微生物の細胞膜上における反応を介して微生物を死滅させる特性を有するポリカチオンの利用に基づく内在性抗菌活性を有するポリマーである。
― 重合殺菌剤(POLYMERIC BIOCIDES):
内在性の抗菌活性を持たないポリマーであり、殺菌性の分子が特異的に結合する。重合殺菌剤は通常その特徴である立体障害のために殺菌性ポリマーよりも効果が低い。立体障害は分子構造中の原子の空間分布により化学反応の遅効化又は抑制を引き起こすことがある効果であることが知られる。これらの場合に使用される殺菌性を有する分子は複雑であり、熱安定性が低く、高価、また一般的に取扱いが困難である。
― 殺菌剤放出ポリマー(BIOCIDE-RELEASING POLYMERS):
抗菌力を有さないポリマーであり、経時的に放出される殺菌性の分子が付着している。実質的には、これらはマトリックス中に種々の方法で捕捉された殺菌性の分子を担持する高分子マトリックスである。これらのポリマーは、放出される殺菌剤が汚染物質であることあるいはポリマーの殺菌剤が経時的に消失し再添加しなければならないことに起因する多くの欠点を有する。
【0004】
抗菌性ポリマーの近年の開発に関する概要は、以下の文献に示される:
Madson R.E. Santos et al., "Recent Developments in Antimicrobial Polymers: A review", in Materials, 2016, 9, 599; doi: 10.3390/ma9070599 (www.mdpi.com/journal/materials);
Xan Xue et al , "Antimicrobial Polymeric Materials with Quaternary Ammonium and Phosphonium Salts", in International Journal of Molecular Sciences, 2015, 16, 3626-3655; doi: 10.3390/ijms 16023626 (www.mdpi.com/journals/ijms);
Diana Santos Morais et al. "Antimicrobial Approaches for Textiles: From Research to Market", in Materials, 2016, 9, 498; doi: 10.3390/ma9060498, (http://www.mdpi.com/j ournal/materials);
Felix Siedenbiedel et al, "Antimicrobial Polymers in Solution and Surfaces: Overview and Functional Principles", in Polymers 2012, 4, 46-71; doi: 10.3390/ polym4010046 (www.mdpi.com/journal/polymers);
Sheila Shahidi et al, "Antibacterial Agents in Textile Industry", in "Antimicrobial Agents", edito da Varaprasad Bobbarala, ISBN 978-953-51-0723-1, September 12, 2012, chapter 19, pages 388-406
【0005】
上記の科学技術文献から明らかなように、抗菌性を有するポリマーの製造は、繊維への形成中又は半製品及びこの製品から得られる繊維製品を用いる際に重大な技術的困難及び/又は欠点が生じる。
したがって、抗菌性を有する繊維物品を製造するためのより効果的で、汚染が少ない経済的な解決方法が継続的に必要とされている。
より一般的には、抗真菌性(ANTIFUNGAL PROPERTIES)を含む抗菌性又は静菌性を有する合成樹脂が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
驚くべきことに、ポリアミド、特にポリアミド66及びポリアミド6の特定の変化によって、このポリマーに抗菌性及び抗真菌性が付与されることが発見され、本発明の目的となった。本明細書及び請求項の範囲においては、「抗菌性」という用語は、一般に、微生物、特に細菌、病原菌、かび及びウイルス(BACTERIA、MICROBES、FUNGI、VIRUSES)の増殖を低減又は阻害する能力を示す。
【0007】
より詳細には、もし、ポリエーテルアミンがポリアミド分子に導入される場合、ナイロン、特にナイロン6及びナイロン66を含有するポリアミドが抗菌性を獲得又は改良することを見出した。また、ナイロン分子に結合したポリエーテルアミン部位を含有するポリアミドは、同じポリアミドポリエーテルアミン部位よりも高い静菌力を持っていることを見出した。
【0008】
WO2014/057364及びWO2015/001515は、水分率、つまり、水分を吸収及び保持する能力を増大させる、ナイロン及びポリエーテルジアミンを含む変性ポリアミドを製造する方法を記載している。特に、これらの変性ポリアミドは、生地及びそれらの生地から得られる衣料品の感触を改善することが示唆されている。しかしながら、これらの先行技術文献は変性ポリアミドの抗菌性に対するポリエーテルアミンの効果を実証していない。
【0009】
一態様によれば、本発明は、ポリアミドの抗菌性を高めるため、すなわち、ポリエーテルアミンを含有しない同じポリアミドよりも高い抗菌力を有する変性ポリアミドを得るためのナイロンを含有するポリアミドにおける少なくとも1つのポリエーテルアミンの使用に関する。ポリエーテルアミン及びナイロンは、共有結合によって結合しポリアミドポリマー鎖の一部を形成するため、ポリマーが例えば衣服等の繊維物品の製造にポリアミドを使用する場合に通常生じる繰り返し洗浄及び/又は熱処理に供される場合においても、ポリエーテルアミンによって付与される抗菌性は、長期にわたって安定であり持続する。
【0010】
本発明によって得られる驚くべき効果のメカニズムは、完全には明らかではない。しかしながら、本開示の範囲を限定することはないが、おそらくポリエーテルアミンに存在するアミノ基は微生物の増殖を阻害し、変性ポリアミドに静菌性を付与する。
【0011】
さらなる実施態様によれば、本発明は、特に衣服に限定されない抗真菌性を含む抗菌性を有する繊維物品を製造するためのナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミド繊維又はヤーンの使用に関する。
【0012】
より一般的な実施態様によれば、本発明は、繊維産業に加えて、変性樹脂の抗菌性が有用となる全ての用途における、抗真菌性を含む抗菌性を有する物品を製造するためのナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドの使用に関する。塩基性ポリマー又は共重合体の選択は、変性樹脂の意図される最終用途に基づくことができる。
【0013】
生地や衣服にバクテリアが存在すると不快な臭気が発生するため、ポリアミドの抗菌力を付与又は向上させるための、本明細書に記載されている使用及び方法は、前記ポリアミドを含有する繊維又はスレッドで製造された衣服における不快な臭気の発生を低減又は防止するための使用及び方法をも示す。
【0014】
本発明はまた、繊維物品、例えば衣服の製造における、悪臭の発生を低減又は防止するナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを含有する繊維又はヤーンの形態における半製品の使用に関する。
【0015】
一般に、繊維又はヤーンは、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドに加えて、他の物質も含有することができ、例えば、ポリエーテルアミンを含まないポリマーを所定の割合を含んでもよい。繊維又はヤーンは、例えば、二成分繊維又はヤーンであってもよい。
【0016】
さらなる実施態様によれば、本発明は、ポリアミドの抗菌性を高めるために、ポリエーテルアミンがポリアミドのポリマー構造に導入された、ナイロンを含有するポリアミドの製造方法に関する。ナイロン及びポリエーテルアミンの特性は、ポリアミドが押出され、特に衣料品に限定されない繊維物品の製造に使用される繊維又はヤーンに変換できるように、有利に選択される。
【0017】
ポリアミドの抗菌性を高めるために、ポリエーテルアミンがポリアミドのポリマー構造に導入された、ナイロンを含有するポリアミドを含有するヤーン又は繊維の形態における半繊維製品を製造する方法も開示されている。
【0018】
不快な臭気の発生を低減するために、ポリエーテルアミンがポリアミドのポリマー構造に導入された、ナイロンを含有するポリアミドを含有するヤーン又は繊維の形態の半繊維製品を製造する方法も開示されている。
【0019】
この方法は、重合工程中にポリエーテルアミンを添加する工程を含んでもよい。したがって、本発明の目的は、改良された抗菌性を有する、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを形成するための重合工程におけるポリエーテルアミンの使用を含む。
【0020】
他の実施態様において、この方法は、ポリエーテルアミンをナイロンを含有するポリアミドと接触させ、ナイロンのカルボキシル末端基とポリエーテルアミン分子のアミノ基とを反応させ、その結果、カルボキシル末端基をポリエーテルアミン部へ置換する、ポリエーテルアミンとポリアミドが反応するステップを提供することができる。
【0021】
したがって、本発明の目的は、ナイロンを含有するポリアミドを変性する方法におけるポリエーテルアミンの使用であり、少なくとも1つのポリエーテルアミンをその化学構造体の中、すなわちそのポリマー鎖に導入して、ポリエーテルアミンを含有する変性ポリアミドの抗菌能力を付与する又は高めることにもある。
【0022】
本発明はまた、繊維又はヤーンの形態の半製品を不織布、織布、又は編布などの繊維構造に変換するステップを含む、繊維物品を製造する方法に関する。半製品は、繊維構造の抗菌性を高めるために、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを含む。
【0023】
好ましくは、ポリアミドに使用されるポリエーテルアミンは少なくとも2つのアミン末端基(NH)を有し、その一方はポリアミドのナイロン分子との結合に使用され、他方は得られたポリマー鎖で利用可能な状態である。
【0024】
本明細書に開示される実施態様によれば、ポリエーテルアミンは、好ましくはポリエーテルジアミン又はポリエーテルトリアミンである。
【0025】
好ましくは、ナイロンは、ナイロン6又はナイロン66、又はナイロン6とナイロン66の共重合体である。
【0026】
ポリエーテルアミンで変性されたポリアミドを使用することにより、工業的レベルで容易に実施できるプロセスによってヤーン及び繊維の抗菌性を得ることができる。特に、実際には、ポリエーテルアミンをポリアミド鎖に導入するためのプロセス条件は、ポリアミドの製造に使用されるものと実質的に異ならない。さらに、これは、同様の効果を達成することを目的とした現在知られている他の工業プロセスと比較し、明らかな経済性の優位性を有する。
【0027】
様々な製造プロセスにおいて、アミン基は、ポリマー鎖の末端位置に結合することができるが、アミン基がポリマー鎖方向の中間位置にあることも可能である。
【0028】
アミノ基で変性されたナイロン6及びナイロン66の使用は、静菌性又は抗菌性の繊維物品の製造に特に有用である。これらの製品は、衣料品分野だけでなく、例えば家具分野、自動車産業、又は家庭用、病院用又は一般向けのタオル、シーツ、ガウン等の繊維物品の製造等、他の分野にも使用できる。
【0029】
さらに、アミノ基によって変性されたポリアミドに付与された抗菌性又は静菌性は、繊維産業以外の分野でも有用である。合成樹脂が繊維又はヤーンに必要な物理的性質とは異なる物理的性質を持たなければならない分野で、静菌性及び/又は抗菌性を持つ異なる変性ポリアミドを使用できる場合がある。例えば、歯科分野では、樹脂は歯科補綴物、歯科用器具、歯科用スプリント、歯科用バイトなどの製造に使用される。これらの用途では、合成樹脂に機械的強度と剛性の特別な特性を付与する必要がある。歯科用樹脂の抗菌特性は特に有用である。
【0030】
さらなる実施態様によれば、本明細書には、歯科分野で有用となる機械的特性とともに抗菌性を有するポリエーテルアミン由来のアミノ基で修飾されたポリアミドの使用が記載されている。これらの用途において、いくつかの実施態様によれば、ベースポリアミドは、ナイロン6又はナイロン66の代わりにナイロン12を含むことができる。
【0031】
具体的に開示されているのは、抗真菌性を含む静菌性又は抗菌性を有する歯科用物品の製造のためのナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドの使用であり、その中には、歯科用スプリント、歯科用バイト、歯科補綴物及びその構成品が含まれる。
【0032】
本明細書の特徴及び実施態様を以下のとおり開示し、特許請求の範囲に本明細書のさらに記載し、本書類の結合パートを形成する。上記の簡潔な説明は、本発明の様々な実施態様の特徴について、以下の詳細な説明がよりよく理解され、技術への本発明への貢献がよりよく理解されるように記載する。当然のことなら、本発明の上記以外の特徴についてもこれ以降及び特許請求の範囲に記載される。この点に関して、本発明のいくつかの実施態様を詳細に説明する前に、本発明の様々な実施態様は、その適用において以下の説明及び図に示される構成の詳細及び要素の配置に限定されないと理解される。本発明は、他の実施態様が可能であり、様々な方法で実行及び実施することができる。また、本明細書で使用される語法及び用語は説明を目的とするものであり、限定するためのものではないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ナイロン66からなるポリアミド及びナイロン66とポリエーテルジアミンとを含有するポリアミドで製造された生地の抗菌性を示すグラフであり、ISO 20743:2013に従って得られた結果を示している。
図2】ナイロン66からなるポリアミド及びナイロン66とポリエーテルジアミンとを含有するポリアミドで製造された生地の抗菌性を示すグラフであり、ASTM E2315-03に従って得られた結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示される実施態様の以下の詳細な説明は、添付の図面を参照する。異なる図面の同じ参照番号は、同一又は類似の要素を示す。また、図面は縮尺どおりである必要はない。以下の詳細な説明は、本発明を限定するものではない。代わりに、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって定義される。
【0035】
説明中の「一つの実施態様」、「ある実施態様」、「いくつかの実施態様」の参照は、実施態様に関連する特定の性質、構造又は特徴が、開示された対象の少なくとも一つに含まれることを意味する。したがって、様々な場所における「一つの実施態様」、「ある実施態様」、「いくつかの実施態様」という語句は、必ずしも同じ実施態様を指すとは限らない。さらに、1つ又は複数の実施態様において、特定の性質、構造、又は特徴が適切な方法で組み合わせることができる。
【0036】
本明細書及び特許請求の範囲において図示又は言及される比率、濃度、量及びその他の数値は、範囲として表されることができる。これは、便宜上及び正確さのために用いられるものであることが理解されるべきであり、範囲は、範囲の限定として明示される数値のみを含むと理解されるべきではない。反対に、数値の範囲は、範囲に含まれる全ての個々の数値及び範囲に含まれる2つの数値で区切られた全ての下位範囲を含むという意味で広範かつ柔軟であることは理解されるべきである。したがって、一般に、表現「約Aから約Bまでの範囲」は、限定された数値A及びBの範囲だけでなく、XとYが、AとBの間に含まれる数値である場合に「約Xから約Y」までの任意の下位範囲であることも示唆する。
【0037】
物質B中の物質Aの含有量が最大値の割合のシリーズ及び最小値の割合のシリーズによって定義されている場合、物質Aは、その最小値のいずれか1つ及び最大値のいずれか1つの組み合わせによってそれぞれ定義された複数の範囲内にある量でそのグループに含まれると理解されるべきである。例えば、少なくともx%、好ましくは少なくとも(x-n)%及びy%以下、好ましくは(y-m)%以下を含有するという定義は、範囲[x;y]、[x;(y-m)]、[(x-n);y]、[(x-n);(y-m)]を含む。これらの範囲は各々は、その最大値と最小値の間で定義された各下位範囲も含む。
【0038】
「約」という用語は、数値を有効数字へ端数処理したものを含み得る。
本明細書で使用される「約」という用語は、ある数値又はある数値の範囲を指す場合、数値又は範囲の変動の程度を許容し、例えば、示された数値、又はある範囲の示された限定の数値の10%以内、又は示された数値の5%以内である。
【0039】
本明細書で使用される平均分子量(Mw)という用語は、特に明記しない限り、重量平均分子量(一般にMwと略される)として理解されるべきである。
【0040】
本明細書に記載されている実施態様によれば、改善された抗菌能力、又は衣服に加工され着用された時に不快な臭気を発生する傾向が低い、ヤーン又は繊維の製造用のナイロンを含有するポリアミド系ポリマーを得るために、ポリアミドのナイロン分子に結合したポリエーテルアミンが使用される。
【0041】
一般に、ポリアミドは、染色可能な酸(アニオン)又は塩基(カチオン)ポリマーであってもよい。特に有利な実施態様では、ポリアミドは、例えばナイロン66(ポリヘキサメチレン アジポアミド)を含有し得る。他の実施態様において、ポリアミドはナイロン6、すなわちポリ(ε-カプロラクタム)を含有し得る。さらなる実施態様では、ポリアミドは、ナイロン6とナイロン66の共重合体であってもよい。
【0042】
ポリエーテルアミンを含有するポリアミドは、バッチ又は連続重合反応により提供され得る。例えば、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドの重合を得るために、二酸、ナイロン塩及びポリエーテルアミンを混合することにより、そして、混合物を制御された圧力で1回以上の加熱及び冷却サイクルで加熱することにより提供される。
【0043】
ポリエーテルアミンが重合工程中にポリアミド分子に導入される、ポリエーテルアミンを含有するポリアミドの製造方法の例は、WO2014/057364に記載されており、その内容は本明細書に結合的に組み込まれる。
【0044】
他の実施態様では、適切な重合工程によってポリアミドが既に形成された後に、ポリエーテルアミンはポリアミド鎖に導入することができる。例えば、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを使用して、ポリアミド及びポリエーテルアミンを紡糸システムに供給する押出機内、又は温度と圧力を制御した別の容器内で反応させて、ポリアミド分子の末端基をポリエーテルアミン分子に置換させることができる。
【0045】
押出機又は他の加圧容器内でポリアミドとポリエーテルアミンを反応により、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを製造する方法の例は、WO2015/001515に記載されており、その内容は、本明細書に結合的に組み込まれる。
【0046】
バッチプロセスと押出プロセスの両方による、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを製造するための可能な方法に関する詳細を下記に示す。
【0047】
本明細書において、参照は、単一のポリエーテルアミン(すなわち、一種類のポリエーテルアミン分子のみ)が用いられる実施例を具体的に参照しているが、いくつかの実施態様においては、異なる式を有する複数のポリエーテルアミンが、ポリアミド鎖に組み込まれることもできると理解されるべきである。
【0048】
いくつかの実施態様おいて、ポリエーテルアミンは、以下の一般式(1)で示されるポリエーテルモノアミンとすることができる:
【0049】
【化1】
【0050】
式中、エチレンオキシドの場合はR=Hであり、プロピレンオキシドの場合はR=CHである。式中、x及びyは、ポリマー鎖中に存在するプロピレンオキシド及びエチレンオキシドの数に応じて変化する。式(1)のポリエーテルモノアミンは、例えば、Jeffamine(登録商標)Mシリーズ(Huntsman社(米国))として販売されている。
【0051】
好ましい実施態様では、ポリエーテルアミンは複数の遊離NH基を有し、重合反応においてNH基の一つは、ポリアミド鎖のナイロン66又はナイロン6と共有結合を形成する。
【0052】
いくつかの態様において、ポリエーテルアミンは、以下の一般式(2)のポリエーテルジアミンである;
【0053】
【化2】
【0054】
式中、x、y及びzは、ポリマー鎖中のエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの数に応じて変わってもよい。
【0055】
一般式(2)のポリエーテルジアミンは、例えば、Jeffamine(登録商標)EDシリーズ及びElastamine(登録商標)REシリーズ(いずれもHuntsman社(米国))として販売されている。
【0056】
好ましい態様では、ポリエーテルアミンは少なくとも約500、好ましくは少なくとも約800、より好ましくは少なくとも約1000、より一層好ましくは少なくとも約1500、好ましくは約5000以下、より好ましくは約3000以下の平均分子量(Mw)を有し、例えば、1500~2500である。。
【0057】
一つの実施態様は、Elastamine(登録商標)RE-2000(Huntsman社)又はJeffamine(登録商標)ED2003のが使用され提供し、いずれも式(1)を有し、
yは約39と等しく、
(x+z)は約6と等しく、
そして、約2000の平均分子量(Mw)を有する。
【0058】
他の実施態様において、以下の特徴を有する式(2)のポリエーテルジアミンを用いることができる:
【0059】
好ましくは、ポリエーテルジアミンは、理想的なAHEW(アミン水素当量)に関して10%以下のAHEWを有する。用語「AHEW」は、ポリエーテルアミンの平均分子量を一分子当たりの活性アミン水素の数によって除したものとして定義される。例えば、平均分子量2000を有し、すべてのポリエーテル末端基がアミノ末端であり、一分子当たりの活性アミノ水素が4である理想的なポリエーテルアミンのAHEWは、当量あたり500gになるであろう。末端の10%がアミノ基ではなくヒドロキシル基である場合は、一分子当たりの活性アミン水素が3.6のみであり、ポリエーテルアミンのAHEWは、当量あたり556gになるであろう。
【0060】
一分子当たりの活性アミン水素の数、得られるポリエーテルアミンのAHEWは、公知技術及び従来技術に従って計算することができる。例えば、ISO 9702規格によって規定される手順を用いて、アミン基の窒素含有量を計算される。
【0061】
特に有利な実施態様において、ポリエーテルアミンは、好ましくは1500以上の分子量及びポリエーテルジアミンの理想的なAHEWの10%を超えないAHEWを有する、ポリエーテルジアミンである。
【0062】
本明細書に記載されている態様において、ポリエーテルジアミンは、一般式(2)を有し、PPG(ポリプロピレングリコール)基に対してPEG(ポリエチレングリコール)基が多いポリマー鎖の組成、すなわち、y>(x+z)を有する。
【0063】
他の態様において、ポリエーテルジアミンは、ポリエチレングリコール(PEG)基及びポリプロピレングリコール(PPG)基を含有し、PPG基が多いポリマー鎖を有してもよい。この種のポリエーテルジアミンは、Elastamine(登録商標)RPシリーズ(Huntsman社)として販売されている。
【0064】
さらに他の態様において、ポリエーテルジアミンは、ポリプロピレングリコール及びポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)に基づく構造を有することができる。この種のポリエーテルジアミンの例は、Elastamine(登録商標)RTシリーズ(Huntsman社)としえ販売されるポリエーテルジアミンである。
【0065】
約1500以上、約2500以下の平均分子量を有するREシリーズのポリエーテルジアミンが現在好ましいが、特に繊維及びヤーンの製造のためのポリアミド類への適用のためには、より高い平均分子量を有するポリエーテルジアミン、例えばElastamine(登録商標)RP3-5000(Huntsman社)のような約5000以下の平均分子量のポリエーテルジアミンを用いることができる。さらなる態様において、ポリエーテルジアミンは、例えばより低い分子量(Mw)を有することができる。
【0066】
さらなる態様において、ポリエーテルジアミンは、以下の一般式(3)中のポリプロピレングリコール(PPG)基から構成されるポリマー鎖を有する。
【0067】
【化3】
【0068】
例えば、Huntsman社によって製造及び販売されるJeffamine(登録商標)Dシリーズのポリエーテルジアミンがあり、平均分子量(Mw)は約230から約4000まで可変であり、xは、約2.5から約68まで可変である。
【0069】
さらなる態様においては、2を超えるアミノ基(NH)末端の数を有するポリエーテルアミンを用いることができる。例えば、ポリエーテルアミンは、以下の一般式(4.1)のポリエーテルトリアミンであることができる。
【0070】
【化4】
【0071】
式中、(x+y+z)は、5~6であり、Mwは、約440である。その他の態様において、ポリエーテルトリアミンは、以下の一般式(4.2)で示されることができる。
【0072】
【化5】
【0073】
ここで、x+y+zは、約50~約85の間であり、約3000~約5000の平均分子量(Mw)である。この種のポリエーテルトリアミンの例は、Huntsman社(米国)によって製造及び販売されるJeffamine(登録商標)Tシリーズである。
【0074】
本明細書に記載されている変性ポリアミドは、ナイロン塩、二酸及びポリエーテルアミンを開始原料としてバッチ又は連続プロセスによって製造することができる。いくつかの実施態様において、二酸、ポリエーテルアミン及びナイロン塩を接触させ、混合物を形成し、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドを形成する混合物の重合を得るのに十分な温度と圧力で密閉容器内の混合物を加熱する工程を提供する。ナイロン塩は、ナイロン66塩(アジピン酸ヘキサメチレンジアミン)、ナイロン6塩、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0075】
ナイロン塩は、約50~約99重量%、好ましくは約50~約95重量%の総重量で供されてもよい。
【0076】
一般に、重合は、適切な圧力及び温度プロファイルを伴う、後続の複数回の加熱サイクルを含むことができる。可能な重合サイクルのより詳細な説明は、WO2014/057364に見られる。使用されるナイロン塩の種類に応じて、一般的に最終ポリマーは、ポリエーテルアミン分子が存在するポリマー鎖中に、ナイロン6、ナイロン66又はナイロン6とナイロン66の共重合体を含むポリアミドであり得る。
【0077】
最終製品は、チップ状に形成され、公知の技術による押出方法によって、後続の紡糸工程で使用され得る。
【0078】
さらなる実施態様において、上記に示したように、例えば押出機又は加圧容器内でナイロンを含有するポリアミドとポリエーテルアミンを反応させることにより、重合後であってもポリエーテルアミンをポリアミド鎖に導入することができる。この種の方法はWO2015/001515に記載されている。
【0079】
いくつかの実施態様において、ポリアミドとポリエーテルアミンは、ポリアミドとポリエーテルアミンとの反応を促進するために、必要に応じて添加剤とともに容器に投入される。ポリマー塊を融解温度にし、ポリエーテルアミンと反応させて変性ポリアミドを得る。
【0080】
添加剤は、カルボキシル基及びアミノ基と反応するのに適した、熱可塑性ポリマー、特にポリアミド用の鎖延長剤又はグラフト剤を含んでもよい。いくつかの実施態様では、添加剤は、BASF社によって販売されている鎖延長剤Joncryl(登録商標)ADR-3400であってもよい。他の適切な添加剤は、デュポン社のFusabond N493、Athochem社のOrgalloy R 6000-6600、Ciba Specialty Chemicals社のIrgarod RA20であり得る。
【0081】
ポリアミドとポリエーテルアミンとの反応後、得られたポリマーは直接押出され、繊維、衣料品又は他の物品の製造用のヤーン又は繊維の形成のための、単一又はマルチフィラメントヤーンを得ることができる。
【0082】
本明細書に記載されている実施態様において、ポリアミド中のポリエーテルアミンの量は、ポリアミドの総重量に対して、約1重量%~約50重量%、例えば約2重量%~約30重量%、好ましくは約5重量%~約25重量%、例えば、約8重量%~約20重量%の間にすることができる。
【0083】
いくつかの実施態様において、ポリアミドは、ポリアミドの総重量に対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに一層好ましくは少なくとも80%、例えば少なくとも85%のナイロンの量を含む。 いくつかの実施態様において、ナイロンの割合は、ポリアミドの総重量に対して、99%以下、好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、さらにより好ましくは90%以下、例えば85%以下である。
【0084】
本明細書に記載されているように、変性されたポリアミドが例えば二成分繊維等の他のポリマーとの混合又は組み合わせで使用される場合、ナイロン及びポリエーテルアミンの上記の割合は、第二成分のポリマー又はそれらに結合したさらなるポリマーの重量を除く、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドの総重量を示す。
【0085】
使用可能なポリアミドは、例えば約8,000~約18,000UMAの分子質量を有することができる。いくつかの実施態様において、ポリアミドは、約9,000~約15,000UMA、例えば、約10,000~約14,000UMAである分子質量を有する。
【0086】
可能な実施態様において、ポリアミドは、カルボキシル末端基(COOH)の数に等しいアミノ末端基(NH)の数を有することができ、例えばいずれも47である。
【0087】
本明細書に記載されているポリアミドは、連続ヤーン又は短繊維の形態で、繊維産業用の半製品を製造するために有利に使用することができる。ヤーンは、単一又はマルチフィラメントヤーンであり得る。
【0088】
ヤーンは、押出によって得られ、短繊維は押出した連続ヤーンを細断することによって得られる。本明細書に記載されている方法に従ってポリマーの押出から得られるヤーンは、LOY(低配向糸)、POY(部分配向糸)又はFDY(全延伸糸)タイプのマルチフィラメント繊維ヤーンであってもよい。
【0089】
ヤーンを細断し繊維にする場合、繊維は、例えば、約10~約100mmの間の長さを有してもよい。短繊維は、公知の紡績工程によって連続ヤーンに変換することができる。
【0090】
他の実施態様によれば、短繊維が用いられ、不織布の製造や繊維のプライを形成し、続いて機械的、水圧的、化学的、熱的結合プロセス又はこれらの組み合わせに供される。
【0091】
ヤーンは、製織プロセス、編みプロセス又はその他の使用のために用いることができる。
【0092】
本明細書に記載されているプロセスによって製造されるヤーンは、物理的、機械的特性を変性するために処理することができる。いくつかの実施態様において、ヤーンは、他のヤーンと組み合わせて複合製品を得ることができる。いくつかの実施態様において、紡糸口金から得られるヤーンは、例えばインターレースジェット又はカバージェット又はその他の適切なデバイスによってテクスチャード加工又はタスラン加工、伸縮加工、弾性ヤーンと組み合わせ加工をすることができる。
【0093】
ヤーン又は繊維は、単一成分であることができる。この場合、フィラメントは同一の物質から構成される。 他の実施態様において、ヤーンは、複数成分、例えば二成分であってもよい。ヤーンを形成する一つ又は複数のフィラメントは、この場合、2つの異なるポリマーにより形成される2つの部分を含む。いくつかの態様において、フィラメントは、異なるポリマーで製造されたインナーコアおよび外側コーティングを含む(いわゆる「コア-スキン」二成分繊維)。
可能な実施態様によれば、インナーコアを囲む外側部分又はスキンは、ポリアミド及びポリエーテルアミンを含有する高水分率ポリマーから構成することができ、一方でコアは、異なるポリマー、例えばポリエーテルアミン分子を含有しないポリアミドから構成することができる。 いくつか実施態様において、ナイロン6又はナイロン66のコアは、本明細書に従って製造されたポリアミド及びポリエーテルアミンのスキンとともに、押出されることができる。
【0094】
いくつかの態様において、二成分繊維は、ポリプロピレン又は熱可塑性ポリウレタン又はポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレート等で構成される又はそれらを含有する第二成分を有してもよい。
【0095】
他の実施態様において、各フィラメントを形成する2つの成分は、一方を他方の内側に挿入するのではなく、互いに並列に配置(いわゆる「並列」二成分繊維)されることができる。
【0096】
複数成分で構成される繊維、特に二成分で構成される繊維を製造するための押出ヘッドは、公知であり、本明細書に記載されている内容における状況で有利に用いることができる。
【0097】
いくつかの実施態様において、二成分ヤーンは、構成するポリマーの10重量%~95重量%、好ましくは50重量%~80重量%がポリアミド及びポリエーテルアミンを含有するポリマーで製造されてもよく、一方で残る部分は未変性ポリアミド(すなわち、ポリエーテルアミンを含有しないポリアミド)又は例えばナイロンのみ又は他の種類のポリマー(例えばポリプロピレン)からなる。
【0098】
いくつかの実施態様において、ヤーンは、1~300の間、例えば5~200の間のフィラメント数で押出される。
【0099】
いくつかの態様において、ヤーンは、約5~約6000dtexの間のヤーンカウントを有する。有利な実施態様において、ヤーンは、0.5~20の間のDPF値(フィラメント当たりのdtex)を有する。
【0100】
特にいくつかの態様において、ヤーンは、1(単一フィラメント)~約100の間、好ましくは約30~約60の間を含む数のフィラメントを有し、また、約7~約140dtexの間、好ましくは約40~約60dtexの間を含むフィラメント数を有する。いくつかの実施態様において、ポリマーは、20~80cm/秒の間の押出速度で押出される。紡糸口金から出るフィラメントは、例えば気流等の公知の方法によって有利に冷却されることができる。
【0101】
この工程において、個々のフィラメントは、横方向の空気の流れによって冷却され、給油部に収束して通過することにより結合してマルチフィラメントヤーンを形成する。下流でヤーンは、一つ又は複数の延伸及び/又は弛緩及び/又は安定化ローラーに供給することができる。ローラーは、互いに異なる周速度で電動で制御され、ヤーンに必要な又は所望の延伸及び/又は配向の程度を与える。
【0102】
いくつかの実施態様において、ヤーンは、20%~60%の間の伸長に供される。
【0103】
最後に、ヤーンは巻かれ、リール又はパッケージを形成する。巻き速度は、例えば、約1000~約5500m/分の間を含むことができる。
【実施例0104】
(抗菌性の試験)
ポリエーテルアミンを含有するポリアミドの抗菌力について、後述するように比較の試験が、実施された。
【0105】
生地サンプルは、カウント46dtexで40フィラメントを有するポリアミド66のマルチフィラメントヤーンを用いて丸編機で編まれており、また生地サンプルはヤーンの総重量に対して、8重量%に等しい重量のポリエーテルジアミンElastamine(登録商標)RE2000(Huntsman社)によって変性された、ポリアミド66のマルチフィラメントヤーン(カウント46 dtex、40フィラメント)を用いて編まれている。
【0106】
生地サンプルには、ISO 20743:2013規格に従って以下の細菌を接種した。
-グラム陽性菌、staphilococcus aureus(黄色ブドウ球菌)(DSM 346)
-グラム陰性菌、klebsiella pneumoniae(クレブシエラ・ニューモニエ)(DSM 789)
また、ASTM E2315-03規格に従って以下の細菌を接種した。
-グラム陽性菌、staphilococcus aureus(黄色ブドウ球菌)(DSM 346)
-グラム陰性菌、escherichia coli(大腸菌)(DSM 1576)
【0107】
図1は、ISO 20743:2013に従って得られた結果を示し、図2は、ASTM E2315-03に従って得られた結果を示す。ナイロン66、並びに、ナイロン66及びヤーンの総重量に対して8重量%に等しい重量のポリエーテルジアミンElastamine(登録商標)RE2000(Huntsman社)を含有する変性ポリアミドにおいて検出された細菌数(10単位)を各細菌毎に示す。図1からわかるように、ISO試験によると、ポリエーテルジアミンを含有する変性ポリアミドで製造された生地サンプルは、抗菌性を有する。
-黄色ブドウ球菌に関しては40%抗菌活性、すなわち、ポリエーテルアミンを用いずに、同じポリアミドで製造した参照用の生地で得たものよりも40%低い細菌増殖
-クレブシエラ・ニューモニエに関しては4%抗菌活性、すなわち、ポリエーテルアミンを用いずに、同じポリアミドで製造した参照用の生地で得たものよりも4%低い細菌増殖
【0108】
図2のASTM試験によると、ポリエーテルジアミンを含有する変性ポリアミドで製造された生地サンプルは、抗菌性を有する。
-黄色ブドウ球菌に関しては50%抗菌活性、すなわち、ポリエーテルアミンを用いずに、同じポリアミドで製造した参照用の生地で得たものよりも50%低い細菌増殖
-大腸菌に関しては30%抗菌活性、すなわち、ポリエーテルアミンを用いずに、同じポリアミドで製造した参照用の生地で得たものよりも30%低い細菌増殖
【0109】
両方の図で示されたデータは、細菌の接種の24時間後に得られた。各図において、各細菌の2つの棒グラフが図に示されている。左側の棒グラフは、標準のポリアミド(ナイロン66)を用いて製造された参照サンプル(参照用の生地)に関し、一方、右側の棒グラフは、ポリエーテルアミンを含有する変性ポリアミドで製造されたサンプルに関する。
【0110】
使用する国際試験規格は、試験を行うために従う手順を確立するためのみに使用されていることは重要である。それらは、検出活性が弱いか、良好であるか、優秀かどうかを定めるためのいかなる絶対的基準又は相対的な比較基準も提供しない。このパラメータは、それが最終的に比較されなければならない最終製品の特性(例えば、生地から発生する匂い等)に基づいて、定められなければならない。
【0111】
上記データによると、ポリエーテルアミンの導入によって化学的に変性した繊維を用いて作製される生地は、標準繊維(ナイロン66)を用いて作製された同じ生地と比較して生地中の細菌増殖の低減を特徴とすると言える。抗菌活性は2つの異なるタイプの試験(ISO及びASTM)で確認された。実際に比較したポリアミドをベースとした生地では、黄色ブドウ球菌に関して40%と50%の活性が測定されており、それらは比較可能である。クレブシエラ・ニューモニエは、特に耐性菌であり、殺菌が困難であることに明記しなければならない。したがって、他の細菌株に関して得られるものよりも、明らかにより低い活性が得られた。
【0112】
最後に、不快な臭いを生成する能力に関して、すべての細菌コロニーが同等というわけではない。この指標に関して、特に関連するテストは大腸菌の試験である。
【0113】
実施された試験は、ナイロン鎖へのポリエーテルアミン分子の導入により、その抗菌活性に関してポリマーの実質的な改善が可能になることを示している。
【0114】
ポリマー鎖へのポリエーテルアミンの挿入による、ポリアミドの変性に起因する抗菌活性の増加により、重合したフィラメント物質を得ることができる、すなわち、繊維又はヤーンを生地又は不織布に変換することにより、繊維物品を製造する際に有利に使用できる短繊維に変換することができるマルチフィラメントヤーン又は単一フィラメントヤーンを形成することに適する。これらの繊維物品は、細菌の増殖による悪臭の発生を低減する能力のために、衣料品分野、特にスポーツウェアで有利に使用することができる。抗菌活性は、実際に悪臭の発生の原因となる微生物の増殖の低減をもたらす。さらに、変性されたポリマーは、健康及び衛生上の理由のため、細菌の負荷の低減が必要とされる時、すなわち細菌量の低減が必要とされる時にも有利に使用される。例えば、本明細書に記載されている改良された抗菌特性を有する変性ポリアミドを使用する繊維材料は、特に病院内での使用のために、コート、パジャマ、シーツ、ドレープ、保護マスク、枕カバー、ブランケット、カーテン、包帯及びその他のものに用いることができる。
【0115】
例えば、抗菌活性を付与又は向上させた、ナイロン及びポリエーテルアミンを含有するポリアミドは、医療分野において一般的にポリアミドが用いられる全ての用途において使用することができる。例えば、ポリエーテルアミンは、医療用ヤーン及び膜の製造向けポリアミドに抗菌性を付与するために使用され、例えば、縫合ヤーン、血管形成用カテーテル用バルーン膜(ナイロン11又はナイロン12の形成においても)、包帯、医療用薄膜、血液透析膜、腱及び靭帯再建材料等がある。本明細書に記載されている変性ポリアミド、例えば変性ポリアミド12(ナイロン12)は、特に歯科用物品の製造、特に、歯科用スプリント、歯科用バイト、歯科用器具、義歯、固定又は可動式歯科補綴物及びこれらの構成品の一部使用することができる。
図1
図2
【外国語明細書】