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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011094
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】積層グレージングおよびプロセス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20250116BHJP
   C03C 17/04 20060101ALI20250116BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20250116BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C27/12 L
C03C17/04 A
B32B17/10
B60J1/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024160773
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2021557222の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】1904203.5
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ピーター ヴォス
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA17H
4F100AA22B
4F100AA22H
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AK23B
4F100AK23G
4F100BA03
4F100HB312
4F100HB31B
4F100JB20B
4F100JN26B
4G059AA01
4G059AC06
4G059EA01
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA07
4G061AA20
4G061AA25
4G061BA02
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光学的歪みが低減された積層グレージング、及びその製造プロセスの提供。
【解決手段】積層グレージングが、第1の表面及び第2の表面を有する第1のガラスプライと、第3の表面及び第4の表面を有する第2のガラスプライと、第1、第2のガラスプライとの間に位置する少なくとも1つのポリマープライと、積層グレージングの周囲の少なくとも一部の周りの隠しバンドであって、少なくとも1つのセンサーウィンドウを有し、並びに第1の隠し層及び第2の隠し層を含む、隠しバンドと、を備え、第1のガラスプライは、第1の隠し層を有し、第1の隠し層が、第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する第1のセンサーウィンドウ部を備える、第1のガラスプライであり、第2のガラスプライは、第2の隠し層を有し、第2の隠し層が、第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する第2のセンサーウィンドウ部を備える、第2のガラスプライである。
【選択図】図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層グレージングであって、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラスプライと、
第3の表面および第4の表面を有する第2のガラスプライと、
前記第1のガラスプライと前記第2のガラスプライとの間に位置する少なくとも1つの
ポリマープライと、
前記積層グレージングの周囲の少なくとも一部の周りの隠しバンドであって、少なくと
も1つのセンサーウィンドウを有し、ならびに第1の隠し層および第2の隠し層を含む、
隠しバンドと、を備え、
前記第1のガラスプライは、前記第1の表面または前記第2の表面の前記周囲の少なく
とも一部に付着した前記第1の隠し層を有し、前記第1の隠し層が、第1のセンサーウィ
ンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を備える、
第1のガラスプライであり、
前記第2のガラスプライは、前記第3の表面または前記第4の表面の前記周囲の少なく
とも一部に付着した前記第2の隠し層を有し、前記第2の隠し層が、第2のセンサーウィ
ンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を備える、
第2のガラスプライであり、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光
学的歪みがそれぞれ制御されることにより、前記センサーウィンドウの前記光学的歪みの
絶対的な大きさが、前記第1のセンサーウィンドウの光学的歪みおよび前記第2のセンサ
ーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さい、積層グレージング。
【請求項2】
前記第1のセンサーウィンドウ部の形状が、前記第2のセンサーウィンドウ部の形状と
異なることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセン
サーウィンドウ部の光学的歪みを制御する、請求項1に記載の積層グレージング。
【請求項3】
前記第1のセンサーウィンドウ部の前記形状および/または前記第2のセンサーウィン
ドウ部の前記形状が、正方形、長方形、台形、楕円形、または円形である、請求項1また
は2に記載の積層グレージング。
【請求項4】
前記第1のセンサーウィンドウ部および/または前記第2のセンサーウィンドウ部が、
各々、前記第1の隠し層および/または前記第2の隠し層によって部分的または全体的に
囲まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項5】
前記第1のセンサーウィンドウ部または前記第2のセンサーウィンドウ部の前記周囲の
少なくとも一部が、パターン化されており、任意で、ドット、ライン、フェードアウト、
フェザーエッジ、または鋸歯状フェードアウトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記
載の積層グレージング。
【請求項6】
前記第1の隠し層および前記第2の隠し層が、異なる放射率または赤外線反射率を有す
る材料で形成されることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前
記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、請求項1~5のいずれ
か一項に記載の積層グレージング。
【請求項7】
前記第1の隠し層の、および/または前記第2の隠し層の少なくとも一部が、800n
m~2250nmの波長範囲の領域にわたって21%以上の赤外線反射率を有する、請求
項1~6のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項8】
前記第1の隠し層および/または前記第2の隠し層がエナメルを含み、該エナメルはフ
リットおよび無機顔料を含み、かつ、該無機顔料は、クロム鉄顔料、フェライト顔料、ク
ロマイト顔料、またはフェライト/クロマイト(鉄クロマイトとしても知られている)顔
料から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項9】
前記第1の隠し層の前記エナメルおよび/または前記第2の隠し層の前記エナメルが、
低放射率エナメルもしくは低赤外線反射率エナメル、または高放射率エナメルもしくは高
赤外線反射率エナメルから選択されることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光
学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、請求
項1~8のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項10】
前記第1のセンサーウィンドウ部または前記第2のセンサーウィンドウ部のいずれかの
前記周囲が、前記プライの残りの部分上の前記隠し層よりも低い(または高い)赤外線反
射率の隠しフレーム部、および/または、他のガラスプライ上の前記隠し層よりも低い(
または高い)赤外線反射率の、隠しフレーム部を備える、請求項1~9のいずれか一項に
記載の積層グレージング。
【請求項11】
前記第2のセンサーウィンドウ部の前記周囲が、前記隠しフレーム部を備える、請求項
10に記載の積層グレージング。
【請求項12】
前記第1のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、前記第
2のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、かつ、前記第1
のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法が、前記第2のセン
サーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法と各々異なることにより、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の
光学的歪みの制御を可能にする、請求項1~11のいずれか一項に記載の積層グレージン
グ。
【請求項13】
前記第1のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部
の前記x軸寸法よりも大きく、および/または、前記第1のセンサーウィンドウ部の前記
y軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部の前記y軸寸法よりも大きい、請求項12
に記載の積層グレージング。
【請求項14】
小さいほうの前記ウィンドウ部が、大きいほうの前記ウィンドウ部に対して寸法の各端
部にオフセットが存在するように配置される、請求項13に記載の積層グレージング。
【請求項15】
前記第1のセンサーウィンドウ部および/または前記第2のセンサーウィンドウ部が、
-405~+405ミリジオプトリーの範囲、任意で-310~+310ミリジオプトリ
ーの範囲、任意で-205~+205ミリジオプトリーの範囲、任意で-185~+18
5ミリジオプトリーの範囲、好ましくは-155~+155ミリジオプトリーの範囲の光
学的歪みを有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項16】
前記センサーウィンドウが、-195~+195ミリジオプトリーの範囲、任意で-1
45~+145ミリジオプトリーの範囲の光学的歪みを有する、請求項1~15のいずれ
か一項に記載の積層グレージング。
【請求項17】
成形された積層グレージングを製造するプロセスであって、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラス基板ならびに第3の表面および第4
の表面を有する第2のガラス基板を提供するステップと、
前記第1のガラス基板の前記第1の表面または前記第2の表面の少なくとも第1の部分
に第1の隠し層を適用するステップであって、該第1の隠し層が、制御された、第1のセ
ンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部
を備える、ステップと、
前記第2のガラス基板の前記第3の表面または前記第4の表面の少なくとも第1の部分
に第2の隠し層を適用するステップであって、該第2の隠し層が、制御された、第2のセ
ンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部
を備える、ステップと、
任意で、前記第1のガラス基板および前記第2のガラス基板を、570℃を超える温度
に加熱することにより、該第1のガラス基板および該第2のガラス基板を成形するステッ
プと、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に少なくとも1つのポリマープラ
イを配置するステップと、
前記第1のガラス基板、前記ポリマープライおよび前記第2のガラス基板を積層するス
テップと、を含み、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部
の光学的歪みを制御することにより、センサーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさ
が、該第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび該第2のセンサーウィンドウ部の
光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さくされる、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層グレージング、自動車用グレージング、およびそのようなグレージング
を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック中間層(例えば、ポリビニルブチラール、PVB)によって一緒に積層さ
れた2枚のグレージング材料、通常はガラスを含む積層グレージングは、建築用、および
特に自動車用グレージングに有用である。
【0003】
フロントガラスおよび普及しつつある他の自動車用グレージングは、一般に積層グレー
ジングであり、その周囲を覆うように設けられた隠しバンド(obscuration band)を有し得
る。隠しバンドは、多くの場合、黒色または非常に暗い色であり、一般に、可視光(およ
び多くの場合、他の波長、例えばUV)を通さない。隠しバンドは、固定具などのグレー
ジング上の構成部分を隠すのに役立ち、また、例えば、グレージングを所定の位置に固定
するために用いられる接着材にUV保護を提供するのにも役立つ。
【0004】
隠しバンドは、エナメルを用いて製造し得る。このようなエナメルは、一度焼成すると
、風化や摩耗に耐久性を備える。隠しバンドは、ガラス上にエナメルインクをスクリーン
印刷することによって適用され得る。エナメルインクは、そのスクリーン印刷特性を向上
させるために、通常、フリット(フラックス)、顔料および液体成分(オイルなど)を含
む。スクリーン印刷後、エナメルインクを硬化(紫外線照射など)または乾燥(約300
℃まで加熱など)させてもよく、次いで、高温に加熱し焼成してフラックスを溶かしても
よく、ガラス表面への接着性を確実にする。
【0005】
積層グレージングの表面には、グレージングが取り付けられている車両または建物の外
部に面する面から数えて番号を付すのが一般的なプラクティスである。したがって、表面
1は、外部に面する表面であり、露出面である。グレージング材料の2つのプライを含む
積層体では、表面1は外向きのプライの外部面である。表面2は、外部プライの内向きの
表面、すなわち、車両または建物の内部の方を向いている外部プライの表面である。表面
2は、プラスチックの中間層と接触し、およびプラスチックの中間層で覆われているため
、露出面ではない。表面3は、内部プライの外向きの表面、すなわち、車両または建物の
外部の方を向いている内部プライの表面である。表面2と同様に、表面3は、プラスチッ
クの中間層と接触し、プラスチックの中間層で覆われているため、露出面ではない。した
がって、表面2および表面3は、露出されていない、または覆われた表面である。表面4
は、内向きのプライの内部面、すなわち、車両または建物の内部に面する露出面である。
【0006】
積層ガラス、例えばフロントガラスにおいては、隠しバンドは、表面4または積層体の
内面(例えば、表面2、積層体内部のガラス/ポリマー界面)に印刷されてもよい。1つ
のガラスプライに隠しバンドを備えるグレージングは、通常、エナメルをガラス基板に付
与した後、各ガラス基板を高温に加熱することによって成形される。積層体の内側の表面
(例えば、表面2または表面3)に隠しバンドを印刷すると、時々発生し得る透視歪み(p
erspective distortion)を減らし得る。WO-A-2017/159452は、積層ガラ
スを開示しており、表面2および表面4に印刷したある実施形態において、隠しバンドの
近くで透視歪みが低減された。
【0007】
しばしば、エナメルは加熱ステップによって焼成される。成形後、ガラスの印刷領域と
非印刷領域との境界に関連して、光学的歪みが発生し得る。このような光学的歪みは「バ
ーンライン(burnline)」と呼ばれることもあり、境界に対して平行に延在する傾向がある
【0008】
温度プロファイルなどの屈曲プロセスパラメーターを修正することによって、および/
または、ガラス屈曲ツール/鋳型にシールドを設計、構築、および取り付けることによっ
て、バーンラインを低減または排除する試みがなされてきた。
【0009】
EP-A-0415020は、ガラスの光学的品質に悪影響を与えることなく、装飾的
なセラミックエナメル境界を有するガラスシートを優先的に加熱する方法を開示している
。優先的な加熱は、エナメルがガラスよりも速く加熱されるように、ガラスよりもエナメ
ルによって容易に吸収される選択波長で熱エネルギーを放射するヒーターを使用すること
によって達成される。1つの特定の実施形態では、セラミックエナメル境界を有するガラ
スは、そのひずみ点温度を超える温度に予熱される。次いで、コーティングされたガラス
を石英ヒーターにさらして、エナメルをガラスに焼き付けるのに十分な高温に優先的に加
熱する。次に、セラミックエナメルをガラスの残りの部分の温度まで冷却する。
【0010】
US-B-5,443,669は、特に自動車用の、単一または二重の曲率を有する積
層ガラス板を製造するためのプロセス、より具体的には、印刷パターンを有するガラス板
、特に、該印刷パターンが境界となり得る自動車のフロントガラス用のガラス板を製造す
るためのプロセスを開示している。印刷されたパターンは、エナメルインクを用いて形成
される。
【0011】
残念ながら、そのように試みられた解決策では不十分であり、ツールのシールドを設計
、構築、取り付け、および最適化するための高い追加コストおよび時間などの不利な点が
ある。また、シールドが、ガラスの残りの部分の成形に影響を与えるという理由から、一
般的な光学的品質は、他のエリアにおけるガラス成形という観点において付加的に導入さ
れたシールドによって悪影響を受け得る。さらには、その試みられた解決策は、焼成下の
隠しバンドのエナメルインクによって引き起こされる美観的なさらなる問題につながりか
ねない。
【0012】
バーンラインの問題に対するより首尾の良い解決策は、WO-A-2017/0683
68で説明されているように、エナメルの特性を修正して、NIR(近赤外線)およびI
R(赤外線)波長範囲でのスペクトル反射を増加させること(これは、特に中温および高
温で、印刷されたガラス表面と印刷されていないガラス表面との間の放射率の差を減らす
ことと同等であり得る)を包含し得る。
【0013】
高度運転支援システム(ADAS)システム(Mobileyeや他のメーカーが製造
したシステムなど)は、車両において一般的になりつつあり、車線逸脱警報、自動緊急ブ
レーキ、ハイビームアシスト、制限速度の識別その他の用途に使用され得る。これらのシ
ステムのほとんどが、一般にフロントガラスの内面(つまり、表面4)に取り付けられて
いる1つ以上のカメラに依存している。カメラを取り付ける好ましい位置は、フロントガ
ラスの上端に向かって、一般的には中央に、またはフロントガラスの中心線に対して対称
的に、すなわち、通常はフロントガラスの同じ部分に配置されるバックミラーの近くであ
る。カメラは、(車両の外部から見たときに)隠しバンドの背後に配置されることが多く
、したがって、カメラが車両の前方のエリアを映すことができる、隠しバンドを構成する
エナメル、インクなどが無い領域を提供する必要がある。
【0014】
隠しバンドのない領域は、例えば、隠しバンドの開口またはくぼみの形態をとることが
でき、一般に「カメラウィンドウ」と呼ばれる。したがって、例えば、カメラウィンドウ
は、隠しバンドによって囲まれていてもいなくてもよい。前方視界を提供することに関す
る同じ考慮事項は、フロントガラスの表面4、多くの場合フロントガラスの同じ部分に配
置される雨センサーまたは光センサーなどのセンサーにも当てはまるため、この用語は「
センサーウィンドウ」と一般化され得る。
【0015】
カメラウィンドウに由来する光学的歪みは、カメラおよびADASを適用することの有
効性を制限し得る。US-A-2018/118116は、フロントガラスの上部中央領
域に配置されたブラックアウト層を含む車両用カメラシステムを開示している。EP-A
-1605729は、視域を加熱して、それにより、視域を通した視界に及ぼす着氷また
は結露の影響を軽減する抵抗加熱要素を含む視域を通して見るための画像デバイスを備え
た車両用フロントガラスを開示している。。DE202018105625U1は、2つ
の印刷領域を有する車両用窓ガラスを開示し、第1の印刷領域の光学効果は、第2の印刷
領域の光学効果によって補償することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
積層グレージングに印刷された隠しバンド内、またはその近くのADASカメラウィン
ドウを含め、積層グレージングの光学的歪みをさらに低減する必要性がある。ADASの
性能に対する要求が高まるにつれ、ADASカメラウィンドウで許容される光学的歪みの
程度は益々低くなるので、このことは特に当てはまる。
【0017】
上記の必要性に対処することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、第1の態様では、
積層グレージングであって、該積層グレージングが、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラスプライと、
第3の表面および第4の表面を有する第2のガラスプライと、
前記第1のガラスプライと前記第2のガラスプライとの間に位置する少なくとも1つの
ポリマープライと、
前記積層グレージングの周囲の少なくとも一部の周りの隠しバンドであって、少なくと
も1つのセンサーウィンドウを有し、ならびに第1の隠し層および第2の隠し層を含む、
隠しバンドと、を備え、
前記第1のガラスプライは、前記第1の表面または前記第2の表面の前記周囲の少なく
とも一部に付着した前記第1の隠し層を有し、前記第1の隠し層が、第1のセンサーウィ
ンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を備える、
第1のガラスプライであり、
前記第2のガラスプライは、前記第3の表面または前記第4の表面の前記周囲の少なく
とも一部に付着した前記第2の隠し層を有し、前記第2の隠し層が、第2のセンサーウィ
ンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を備える、
第2のガラスプライであり、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光
学的歪みがそれぞれ制御されることにより、前記センサーウィンドウの前記光学的歪みの
絶対的な大きさが、前記第1のセンサーウィンドウの光学的歪みおよび前記第2のセンサ
ーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さい、積層グレージングを提供する
【0019】
上記は非常に有利なことである。各プライのセンサーウィンドウ部における光学的歪み
(「センサーウィンドウ部の光学的歪み」)を制御することで、センサーウィンドウ内の
全体的な光学的歪みのバランスをとることができ、その結果、積層グレージングのセンサ
ーウィンドウ全体の歪みが大幅に低減することで、例えばADASカメラシステムが、よ
り鮮明な視界を実現できることに繋がるからである。
【0020】
グレージングにおいて、光学的歪みは通常、ピクセルシフトに繋がり得る、観察者(ま
たはカメラその他の光学センサー)から見た画像の特性であると見なされる。光パワー(O
ptical power)は通常、光学的歪みを引き起こし得るグレージング(ガラスなど)の特性
であると見なされる。光パワーは、一般にジオプトリー(dioptres)(1/mに相当;レン
ズの焦点距離の逆数P=1/f)、またはより一般的にはミリジオプトリー(millidioptr
es)(mdpts:1mdpt=0.001ジオプトリー)で測定される。本明細書にお
いては、文脈上別段の必要がない限り、光学的歪みおよび光パワーは同じ意味で使用され
る。
【0021】
驚くべきことに、本発明の発明者は、一般に、各プライのセンサーウィンドウ部の光学
的歪みが常に高いとは限らないが、その他のプライに積層すると、全体的な光パワーがよ
り高くなり、それゆえに、光学的歪みが発生する結果となり得る、表面の不一致を起こし
得ることを発見した。2つのプライ、特に各プライのセンサーウィンドウ部の光学的歪み
のバランスをとることにより、本発明は、全体的な光パワー/歪みの低減を達成できる。
各プライのセンサーウィンドウ部の光学的歪みのバランスをとることにより、全体的な光
学的歪みが低減される。各プライのセンサーウィンドウの光学的歪みは、それらが互いに
バランスをとるか補償し合うように制御され、正味の歪みを小さくする。これは、光学的
歪み/光パワーの全体的な大きさを大幅に低減させる効果だけでなく、グレージング全体
に光パワー/光学的歪みの急激な変化を減少させる効果もある。理想的な状況としては、
2つのプライの光学的歪みが互いに相殺されるよう、該光学的歪みは等しく、かつ正反対
となる。
【0022】
本発明はまた、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラスプライと、
第3の表面および第4の表面を有する第2のガラスプライと、
前記第1のガラスプライと前記第2のガラスプライとの間に延在する少なくとも1つの
ポリマー中間プライと、
グレージングの周囲の少なくとも一部の周りの隠しバンドと、
前記隠しバンドに備えられた少なくとも1つのセンサーウィンドウであって、前記隠し
バンドが、前記第1のガラスプライおよび前記第2のガラスプライに備えられた第1の隠
し層および第2の隠し層を備える、センサーウィンドウと、を備える、積層グレージング
であって、
前記第1のガラスプライは、前記第1の表面または前記第2の表面の前記周囲の少なく
とも一部に備えられた前記第1の隠し層を有し、前記第1の隠し層が、関連する光学的歪
みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を備える、第1のガラスプライ
であり、
前記第2のガラスプライは、前記第3の表面または前記第4の表面の前記周囲の少なく
とも一部に備えられた前記第2の隠し層を有し、前記第2の隠し層が、関連する光学的歪
みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を備える、第2のガラスプライ
であり、
前記第1の隠し層および前記第2の隠し層が、エナメルで形成されており、かつ、
前記センサーウィンドウ部の構成および前記エナメルの少なくとも1つの特性が、前記
センサーウィンドウ部のそれぞれに関連する前記光学的歪みが互いに補償して、前記グレ
ージングにおける正味の光学的歪みを低減するように選択される、積層グレージングを提
供する。
【0023】
好ましくは、エナメルの選択された特性は、その赤外線反射率である。
【0024】
第1のセンサーウィンドウ部および第2のセンサーウィンドウ部は、好ましくは、可視
スペクトルの領域において十分に高い光透過率を有し、ADASカメラが積層グレージン
グを通過して見ることを可能にする。現在、ADASカメラやその他のセンサーは、一般
的にフロントガラスに取り付けられており、ほとんどの国ではフロントガラスに少なくと
も70%の可視光透過率を備えることが求められる。規制要件は別として、可視光透過率
(例えば、ISO 9050による)は、好ましくは55%、60%を超え、より好まし
くは70%を超え、および最も好ましくは75%を超える。ADASカメラの感度がさら
に高くなり、ADASカメラが十分に機能するために必要な最小光透過率が減少すると、
それらが他のグレージング、例えばバックライト(すなわちリアウィンドウ)に取り付け
られる可能性があり、そのようなグレージングは、20%未満(プライバシーグレージン
グの場合)、または30%未満、または40%未満、または50%未満の可視光透過率を
有し得る。
【0025】
一般に、隠し層、ゆえに隠しバンドは、グレージングの隠し層のISO 9050可視
光透過率が、1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下になるよ
うに、可視光を実質的に通さないように構成されてもよい。
【0026】
各ガラスプライのガラス基板は、成形されていなくてもよい(例えば、平らなガラスで
もよい)が、好ましくは成形されたガラス基板であり、厚さは、例えば、1mm~5mm
などであり得る。通常、隠し層は、例えば自動車のフロントガラスを形成するためにその
後成形される平らなガラス基板に適用される。
【0027】
ポリマープライは、PVB(通常、1mm未満の厚さ、例えば0.76mmの厚さ)を
含み得る。より優れた性能または機能性(例えば、ソーラーコントロール)が必要な場合
は、さらにプラスチックプライを挟む2つのPVBプライ(例えば、それぞれ0.3~0
.4mmの厚さ)があってもよい。例えば、さらなるプラスチックプライは、PET製で
あってよく、そのようなソーラーコントロールを提供するために、ソーラーコントロール
コーティング(例えば、少なくとも1つの銀層および2つ以上の誘電体層を有する)を有
してもよい。
【0028】
隠し層は、十分な覆い隠しを提供するために着色してもよく、好ましくは非常に暗く、
より好ましくは可視色で実質的に黒であってもよい。隠し層、ゆえに隠しバンドは、通常
、グレージングの周囲の少なくとも一部分の周りにバンドを形成する。
【0029】
通常、第1のセンサーウィンドウ部および第2のセンサーウィンドウ部は、実質的にエ
ナメルフリーである。
【0030】
一実施形態では、第1のセンサーウィンドウ部の形状は、第2のセンサーウィンドウ部
の形状とは異なってもよく、それによって第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよ
び第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを制御し得る。
【0031】
したがって、第1のセンサーウィンドウ部の形状および/または第2のセンサーウィン
ドウ部の形状は独立して、正方形、長方形、台形、楕円形、または円形であってもよい。
【0032】
通常、第1のセンサーウィンドウ部および/または第2のセンサーウィンドウ部は、各
々、第1の隠し層および/または第2の隠し層によって部分的または全体的に囲まれてい
る。第1の隠し層および/または第2の隠し層は、第1のセンサーウィンドウ部および/
または第2のセンサーウィンドウ部の1つの側面、2つの側面、3つの側面または4つの
側面にあってもよい。
【0033】
ウィンドウ部の光学的歪みの制御を改善するために、第1のセンサーウィンドウ部また
は第2のセンサーウィンドウ部の周囲の少なくとも一部は、パターン化されてもよく、任
意で、ドット、ライン、フェードアウト、フェザーエッジ、または鋸歯状フェードアウト
を含んでもよい。
【0034】
本発明の別の実施形態では、第1の隠し層および第2の隠し層は、異なる赤外線反射率
を有する材料で形成されてもよく、それによって、第1のセンサーウィンドウ部の光学的
歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする。
【0035】
例えば、第1の隠し層および/または第2の隠し層は、比較的高い赤外線反射率を有し
得、その結果、第1の隠し層の、および/または第2の隠し層の少なくとも一部は、80
0nm~2250nmの波長範囲の領域にわたって21%以上の赤外線反射率を有する。
上記一部の赤外線反射率は、800nm~2250nmの波長範囲の領域にわたって、2
4%以上、好ましくは27%以上、より好ましくは30%以上、さらにより好ましくは3
2%以上、さらにより好ましくは35%以上、最も好ましくは37%以上であり得る。8
00nm~2250nmの波長範囲の領域は、400nm以上、好ましくは450nm以
上、より好ましくは550nm以上、最も好ましくは610nm以上に及び得る。
【0036】
赤外線反射率は、分光光度計(Perkin Elmer Lambda 9500など
)を用いて、上記波長範囲で測定され得る。
【0037】
重要な特性は、第1の隠し層と第2の隠し層との間の赤外線反射率の差異である。この
差異は、一方の隠し層が、例えば17%~20%の領域の典型的な赤外線反射率を有する
のに対し、もう一方の隠し層は、上記のように、例えば21%以上の高赤外線反射率か、
もしくは例えば16%以下といった低い赤外線反射率を有し得ることに起因する結果であ
ろう。あるいは、一方の隠し層は高赤外線反射率を有し得、他方の隠し層は低い赤外線反
射率を有し得る。好ましくは、第1および第2の隠し層の間の赤外線反射率の差異は、少
なくとも5%、7%、9%、12%、15%、18%または21%である。
【0038】
したがって、一般に高赤外線反射率の隠し層は、プロセス条件に応じて、30~50%
の平均赤外線反射率を有し得る。特に高赤外線反射率を提供しない隠し層は、赤外線(8
00~2000nm)で約17%以下または20%以下の赤外線反射率を有し得るが、一
方、高反射率のエナメルは、上記範囲の大部分で30%以上の反射率を有し得る。
【0039】
第2の隠し層および/または第1の隠し層は、比較的低い赤外線反射率を有し得、その
結果、第1の隠し層および/または第2の隠し層の少なくとも一部は、800nm~22
50nmの波長範囲の領域にわたって20%または16%以下の赤外線反射率を有する。
【0040】
第1の隠し層および/または第2の隠し層は、エナメルを含んでもよい。通常、エナメ
ルはフリットおよび無機顔料を含む。無機顔料は、クロム鉄顔料、フェライト顔料、クロ
マイト顔料、またはフェライト/クロマイト(鉄クロマイトとしても知られている)顔料
から選択されてもよい。
【0041】
エナメルは、適切な赤外線反射顔料および/または近赤外線反射顔料を選択し、かつ、
エナメルに適量の赤外線反射顔料を含めることによって適切な(例えば、高または低)放
射率特性を提供するように構成され得る。エナメルは、無機顔料を10重量%~50重量
%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは12%~32%を含んでもよい
。エナメルは、フリットを20重量%~80重量%含んでもよい。
【0042】
酸化物フリットは、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、フッ化物イオンを有す
る化合物(例えば、フルオライト、フルオラパタイト、クライオライトなど)、酸化ビス
マス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化物カリウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化
バリウム、酸化鉛、酸化リチウム、酸化リン、酸化モリブデン、酸化ストロンチウム、お
よび酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つの化合物の粒子を含み得る。
【0043】
適切な無機顔料は、Fe/Cr顔料、Co/Al顔料、Co/Al/Cr顔料、Co/
Ti顔料、Co/Cr顔料、Ni/Fe/Cr顔料、Ti/Cr/Sb顔料、Fe顔料、
Cr顔料、および/またはこれらの顔料の2つ以上の混合物から選択される顔料を含み得
る。
【0044】
したがって、無機顔料は、クロム鉄顔料、フェライト顔料、クロマイト顔料、またはフ
ェライト/クロマイト(鉄クロマイトとしても知られている)顔料から選択されてもよい
【0045】
積層グレージングの設計の性質に応じて、第1のガラスプライのエナメルおよび第2の
ガラスプライのエナメルは、高赤外線反射率エナメルまたは低赤外線反射率エナメルから
独立して選択されてもよい。
【0046】
第1の隠し層または第2の隠し層の赤外線反射率は、異なる赤外線反射率または異なる
放射率の適切なエナメルを用いることによって制御し得る。
【0047】
したがって、第1の隠し層のエナメルおよび/または第2の隠し層のエナメルは、低赤
外線反射率エナメルまたは高赤外線反射率エナメルから選択されてもよく、それによって
、第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光学的
歪みの制御を可能にする。
【0048】
したがって、高赤外線反射率エナメルの赤外線反射率は、800nm~2250nmの
波長範囲の領域にわたって21%以上であり得る。赤外線反射率は、800nm~225
0nmの波長範囲の領域にわたって24%以上、好ましくは27%以上、より好ましくは
30%以上、さらにより好ましくは32%以上、さらにより好ましくは35%以上、最も
好ましくは37%以上であり得る。
【0049】
800nm~2250nmの波長範囲の領域は、400nm以上、好ましくは450n
m以上、より好ましくは550nm以上、最も好ましくは610nm以上に及び得る。
【0050】
第1のセンサーウィンドウ部または第2のセンサーウィンドウ部のいずれかの周囲が、
プライの残りの部分上の隠し層よりも低い(または高い)赤外線反射率の隠しフレーム部
、および/または、他のガラスプライ上の隠し層よりも低い(または高い)赤外線反射率
の隠しフレーム部を備える場合、光学的歪みのさらなる制御を達成し得る。
【0051】
すなわち、第2のセンサーウィンドウ部の周囲は、隠しフレーム部を備え得る。
【0052】
隠し層/隠しバンドへのセラミック/エナメルの使用は、既知のプロセスを使用し、か
つエナメルの耐久性および性能が証明されているため、有利である。エナメル/セラミッ
ク層は、車両への(接着材などの)接着を保護するためにグレージングエッジで有用であ
る可能性が高いため、セラミックを使用すると、センサーウィンドウに適用される他の方
法と色を合わせる必要がなくなる。本発明は、光学的歪み/光パワーを、セラミック層を
有さない成形ガラスの光学的歪み/光パワーの近くまで低減することを可能にするため、
大きな利点を提供する。セラミック層(すなわちエナメル)で形成された隠し層を使用す
ること自体が有利だからである。
【0053】
別の実施形態では、第1および第2のセンサーウィンドウ部は、異なるサイズであって
よく、すなわち、2つのセンサーウィンドウ部のうちの一方は、他方よりも大きくてもよ
い。例えば、第1のセンサーウィンドウ部は、第2のセンサーウィンドウ部よりも大きく
てよい。より詳細には、第1のセンサーウィンドウ部は、x軸寸法および/またはy軸寸
法を有し得、第2のセンサーウィンドウ部は、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し得
、かつ、第1のセンサーウィンドウ部のx軸寸法および/またはy軸寸法は、第2のセン
サーウィンドウ部のx軸寸法および/またはy軸寸法と各々異なり、それによって、第1
のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの
制御を可能にする。
【0054】
第1のセンサーウィンドウ部のx軸寸法は、第2のセンサーウィンドウ部のx軸寸法よ
りも大きくてよく、および/または、第1のセンサーウィンドウ部のy軸寸法は、第2の
センサーウィンドウ部のy軸寸法よりも大きくてよい。
【0055】
小さいほうの上記ウィンドウ部は、大きいほうの上記ウィンドウ部に対して寸法の各端
部にオフセットが存在するように配置してもよい。好ましくは、小さいほうのウィンドウ
部は、大きいほうのウィンドウ部に対して寸法の各端部にオフセットが存在するように配
置される。寸法の各端部のオフセットは、実質的に同じでも異なっていてもよい。
【0056】
第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび/または第2のセンサーウィンドウ部
の光学的歪みは、センサーウィンドウの光パワー/光学的歪みに寄与すると思われる。し
たがって、第1のセンサーウィンドウ部および/または第2のセンサーウィンドウ部は、
-405~+405ミリジオプトリーの範囲、任意で-310~+310ミリジオプトリ
ーの範囲に制御された光学的歪みを有することが好ましい。より好ましくは、第1のセン
サーウィンドウ部および/または第2のセンサーウィンドウ部は、-205~+205ミ
リジオプトリーの範囲、任意で-185~+185ミリジオプトリーの範囲、好ましくは
-155~+155ミリジオプトリーの範囲の光学的歪みを有する。
【0057】
本発明は、非常に有利である。第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2の
センサーウィンドウ部の光学的歪みの制御(およびバランスをとること)がセンサーウィ
ンドウの大幅な改善をもたらし、特に、±250mdpt(すなわち、センサーウィンド
ウの光学的歪みの絶対的な大きさが250mdpt)、±245mdpt、±205md
pt、±200mdpt、±195mdpt、±190mdpt、±175mdpt、±
165mdpt、±160mdpt、±157mdpt、±152mdpt、±147m
dpt、±145mdpt、±142mdpt、±137mdpt、±132mdpt、
±127mdpt、±122mdpt、±117mdpt、±112mdpt、±107
mdpt、±102mdpt、±97mdpt、±92mdpt、±87mdpt、±8
2mdpt、±77mdpt、±72mdpt、±67mdpt、±65mdpt、±6
2mdptまたは±60mdptの範囲の光パワー/光学的歪みを有するセンサーウィン
ドウをもたらし得るからである。
【0058】
光学的歪み/光パワーの範囲は、より広くまたはより狭くなり得、グレージングの傾斜
角、ウィンドウサイズ、ウィンドウの設計、および屈曲プロセスに依存し得る。
【0059】
センサーウィンドウの結露および/または着氷を低減するために、1つのまたは各セン
サーウィンドウ部は、例えば電気抵抗加熱ワイヤーまたは他の導体を含む加熱装置、任意
で電気加熱グリッドを含み得る。
【0060】
積層グレージングは、2つ以上のセンサーまたはカメラを備えて使用することが望まし
い場合がある。したがって、あるケースでは、積層グレージングは2つ以上のセンサーウ
ィンドウを含み得る。
【0061】
本発明は、第2の態様では、本発明の第1の態様に係る積層グレージングを含む自動車
のフロントガラスを提供する。
【0062】
第3の態様では、本発明は、
成形された積層グレージングを製造するプロセスであって、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラス基板ならびに第3の表面および第4
の表面を有する第2のガラス基板を提供するステップと、
前記第1のガラス基板の前記第1の表面または前記第2の表面の少なくとも第1の部分
に第1の隠し層を適用するステップであって、該第1の隠し層が、制御された第1のセン
サーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を
備える、ステップと、
前記第2のガラス基板の前記第3の表面または前記第4の表面の少なくとも第1の部分
に第2の隠し層を適用するステップであって、該第2の隠し層が、制御された第2のセン
サーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を
備える、ステップと、
任意で、前記第1のガラス基板および前記第2のガラス基板を570℃を超える温度に
加熱することにより、該第1のガラス基板および該第2のガラス基板を成形するステップ
と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に少なくとも1つのポリマープラ
イを配置するステップと、
前記第1のガラス基板、前記ポリマープライおよび前記第2のガラス基板を積層するス
テップと、を含み、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部
の光学的歪みを制御することにより、センサーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさ
が、該第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび該第2のセンサーウィンドウ部の
光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さくされる、プロセスを提供する。
【0063】
本発明は、車両であろうと建物であろうと、平らなガラスに使用される任意の成形プロ
セスに適用可能である。例えば、成形は、プレス屈曲、すなわち対向する屈曲鋳型間で熱
軟化ガラスシートをプレスすることによって、または、たるみ(重力)屈曲、すなわち、
熱軟化ガラスシートを、一般にレール炉内でたるみ屈曲鋳型に支持されている間に、自重
で変形させ得ることによって、実行することができる。成形は、熱軟化ガラスシートをた
るみ屈曲するダイアシストたるみ屈曲によっても実行できるが、シートの一部も小さなパ
ッドまたは鋳型によってプレスされる。
【0064】
異なる成形プロセスは、ガラスプライにおいて異なる光パワーを生み出す傾向があるこ
とが見出された。例えば、たるみ屈曲は、表面4で強度に集中したバーンラインに悩まさ
れるが、一方、表面2で発達したバーンラインは、より適度な力とより拡散する、つまり
より広い領域へと広がる傾向がある。この傾向は、表面4に赤外線反射インクを用いるこ
とによって制御することができ、それによって表面4で発生する光パワーを弱め、表面2
と表面4との間の所望のバランスを達成する。このようにして、正味の光学的歪みの低減
が達成される。
【0065】
一方、プレス屈曲は、表面4のバーンラインを弱める傾向があるが、一方、表面2のバ
ーンラインは可変であり、製造される部品の特性に大きく依存しているように思われる。
表面2のバーンラインが表面4よりも強い場合は、直感に反した方法であるが、表面4の
赤外線反射率が低いインクを使用して、その表面の光学的歪みを実際に増やしてもよい。
しかしながら、表面2の歪みをより良くバランスをとることにより、より小さな正味の光
学的歪みを達成する。あるいは、表面2のバーンラインが表面4よりも弱い場合、2つの
歪みの絶対的な大きさ、および使用可能なインクに応じて、表面4において反射率のより
高いインクを使用するか、または表面2において反射率のより低いインクを使用してもよ
い。
【0066】
したがって、使用中の成形プロセスへのバーンライン、特に使用されているインクの赤
外線反射率などの特性を低減するためのアプローチを選択することが望ましい。
【0067】
第1の隠し層および第2の隠し層を適用することは、エナメルインクを付与することを
含み得、該エナメルインクは、無機顔料およびフリットを含む。
【0068】
第3の態様の他の特徴は、一般に、適切な修正を加えた第1の態様に関連して上記のと
おりである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
ここで、本発明は、例示としてのみ、以下の添付の図面を参照して説明される:
図1(a)】本発明に係る積層グレージングの一実施形態の概略平面図である。
図1(b)】A-A線上の図1(a)のグレージングの一部の概略断面図である。
図2】本発明に係る積層グレージングの別の実施形態の概略平面図である。
図3(a)】実施例で使用されるセンサーウィンドウの概略図(表面4の第2のウィンドウ部が、表面2の第1のウィンドウ部よりも大きく、上部、下部および側面にオフセットがある)である。
図3(b)】実施例で使用されるセンサーウィンドウの概略図(表面4の第2のウィンドウ部が(表面2の第1のウィンドウ部と比較して)再び大きくなり、上部および下部がフェードアウトであり、上部、下部および側面にオフセットがある)である。
図3(c)】実施例で使用されるセンサーウィンドウの概略図(周りのすべてにオフセットがあり(表面2の第1のウィンドウ部と比較して)、および表面4の第2のウィンドウ部の周りに高赤外線反射率/低放射率の隠しフレームがある、より大きな表面4の第2のウィンドウ部)である。
図4】実施例1のピクセル位置に対する光パワーのグラフである。
図5】実施例2のピクセル位置に対する光パワーのグラフである。
図6】実施例3のピクセル位置に対する光パワーのグラフである。
図7】実施例4のピクセル位置に対する光パワーのグラフである。
図8】実施例5のピクセル位置に対する光パワーのグラフである。
図9】様々な設計のセンサーウィンドウの代替の概略図を示し、表面2(S2)の第1のウィンドウ部および表面4(S4)の第2のウィンドウ部の形状を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図1(a)は、本発明に係る積層グレージング2を示す。積層グレージング2は、自動
車用のフロントガラスである。積層グレージング2は、ガラスプライの間に延在する中間
層によって一緒に積層された2つのガラスプライを備える。中間層は、ポリマープラスチ
ック材料のプライ、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)のプライを含む。積層グレ
ージング2は、該グレージング2の透明部4を取り囲む周辺の隠しバンド6を有する。隠
しバンド6は、光学的に不透明であり、車両の一部を隠し、また、UV光から接着材を保
護する。
【0071】
フロントガラスの上端(車両に取り付けられている場合)の隠しバンド6には、光学的
に透明な高度運転支援システム(ADAS)カメラセンサーウィンドウ10、つまり隠し
バンド6のエナメルフリーの領域がある。車両に取り付けられると、ADASカメラセン
サーウィンドウ10は、カメラがフロントガラスの上部を通して見られる画像を形成する
ことを可能にする。
【0072】
ガラスプライを屈曲のために必要な高温に加熱すると、グレージング2の透明部4およ
び透明カメラウィンドウ10と比較して、黒色の隠しバンド6を備えたグレージングの部
分の加熱速度に違いが観察される。これら加熱速度の違いは、ガラスの局所的な温度差の
発生をもたらし、これらは次いで、熱軟化ガラスの粘度の違いを引き起こす。これらの違
いにより、光学的歪みが生じ得ると考えられている。光学的歪みは、透明部の周囲8にあ
るガラスプライの一部で、隠しバンド6の縁の近く、およびセンサーウィンドウ10にお
いて、ガラスプライの加熱/成形後に生じることがわかっている。ガラスプライの加熱/
成形は、たるみ屈曲またはプレス屈曲の方法によって実行してもよく、前述のように、光
学的歪みの程度および種類は、方法間で異なり得る。印刷されたガラスプライの冷却後に
も光学的歪みが発生し得、これも温度差の発生が原因であると考えられている。
【0073】
図1(b)は、図1(a)のA-A線断面を示す。積層グレージング2は、外側の第1
のガラスプライ12(取り付け時に車両の外部に面する)、内側の第2のガラスプライ1
4、およびPVBのポリマー中間層16(通常は厚さ0.76mm)を有する。図1(a
)に示された隠しバンド6は、グレージングの表面2に1つ、および表面4に1つの計2
つの隠し層を備える。黒く不透明なエナメルの表面2の隠し層18は、第1のセンサーウ
ィンドウ部15を形成する印刷されていない、すなわち透明な領域を備え、外側の第1の
ガラスプライ12の表面2(すなわち、積層体の内側にあり、車両の内部に向いている第
1のガラスプライ12の非露出面)に印刷される。黒く不透明なエナメルの表面4の隠し
層20は、第2のセンサーウィンドウ部17を形成する、同じく印刷されていない領域を
備え、第2のガラスプライ14の表面4(すなわち、取り付けられたとき車両の内部に面
する内側のガラスプライ14の表面)に印刷される。第1のセンサーウィンドウ部15お
よび第2のセンサーウィンドウ部17は一緒に、積層グレージング2においてセンサーウ
ィンドウ10(例えば、ADASカメラ用)を形成する。
【0074】
第2のセンサーウィンドウ部17は、図1の実施形態では、第1のセンサーウィンドウ
部15よりも大きい。これにより、2つのセンサーウィンドウ部の下端の間にオフセット
19が生じ、同様に上端のオフセット21、オフセット19、21が、外側ウィンドウ部
15および内側ウィンドウ部17の上端および下端で、垂直(つまりy軸)寸法の差にな
る(図1(a)に示すように、グレージングが取り付けられた後)。オフセット19、2
1は、図1の実施形態では実質的に同じであるが、他の実施形態では異なり得る。
【0075】
図1に示される実施形態では、両方のガラスプライは、たるみ屈曲によって成形され、
驚くべきことに、より大きな内側ウィンドウ部17が、表面2の隠し層18および表面4
の隠し層20からの光学的歪みのバランスを互いに取らせ、センサーウィンドウ10の全
体的、すなわち正味の光学的歪みを低減する傾向にある。
【0076】
図2は、本発明の別の実施形態に係る積層グレージング22を示す。積層グレージング
22は、自動車用のフロントガラスである。積層グレージング22は、中間層のポリマー
層、例えばポリビニルブチラール(PVB)によって一緒に積層された2つのガラスプラ
イを備える。積層グレージング22は、グレージングの透明部24を取り囲む周辺の隠し
バンド26を有する。隠しバンド26は、光学的に不透明であり、車両の一部を隠し、ま
た、UV光から接着材を保護する。
【0077】
フロントガラスの上端(車両に取り付けられている場合)の隠しバンド26には、左セ
ンサーウィンドウ30および右センサーウィンドウ32を備える、2つの光学的に透明な
高度運転支援システム(ADAS)カメラセンサーウィンドウがある。センサーウィンド
ウには、隠しバンド26のエナメルがない。車両に取り付けられると、センサーウィンド
ウ30、32は、1つ以上のカメラがフロントガラスの上部を通して見られる画像を形成
することを可能にする。
【0078】
図1の実施形態のように、黒色の隠しバンド26と、グレージング24および透明なカ
メラウィンドウ30の透明部との加熱速度の違いにより、光学的歪みは、透明部の周囲2
8にあるガラスプライの一部で、隠しバンド26の縁の近く、およびセンサーウィンドウ
30,32において、ガラスプライの加熱/成形後に生じ得る。ガラスプライの加熱/成
形は、たるみ屈曲またはプレス屈曲の方法によって実行してもよく、光学的歪みの程度お
よび種類は、方法間で異なり得る。
【0079】
両方の実施形態における隠しバンドは、表面にエナメルインクをスクリーン印刷し、硬
化/乾燥し、次いでインクを焼成することによって形成されたエナメルを備える。エナメ
ルは、ホウケイ酸ガラスフリットおよび少なくとも1つの無機顔料(例えば、鉄および/
またはクロムを含有)を含み得る。
【0080】
図3は、実施例で使用されているカメラ/センサーウィンドウの概略図を示す。図3
a)、3(b)および3(c)のそれぞれにおいて、隠しバンド40は、センサーウィン
ドウ42を有する。図3(a)において、表面2の第1のセンサーウィンドウ部よりも大
きい表面4の第2のセンサーウィンドウ部44は、上部にオフセット、5mmの側面(す
なわち、表面4のセンサーウィンドウ部は、表面2のセンサーウィンドウ部よりも上面お
よび側面が5mm大きい)および下部に8mmのオフセットを有する。図3(b)では、
図3(a)のようにオフセットを有する、より大きい表面4の第2のセンサーウィンドウ
部は、ウィンドウ部の下部および上部に鋸歯状フェードアウト46も有する。鋸歯状フェ
ードアウト46は、上端および下端に追加され(それらから差し引かれるのではなく)、
それにより、黒色のプリントは、図3(b)の配置よりもセンサーウィンドウの中心に向
かって少し延在し得る。鋸歯パターンの代わりに、ドット、ライン、またはフェザーエッ
ジなどの他のパターンを使用してもよい。図3(c)では、全周5mmのオフセットを有
する、より大きい表面4の第2のセンサーウィンドウ部44が、隠しバンド40内の表面
4の隠しフレーム48に配置され、該隠しフレーム48は、高赤外線反射率エナメル(表
面4上の隠しバンドの残りの部分の赤外線反射率よりも高い赤外線反射率のもの、および
表面2上のエナメルの赤外線反射率)を備える。
【0081】
これらのカメラ/センサーウィンドウの構成には多数のバリエーションが可能である。
例えば、表面4のセンサーウィンドウ部は、表面2のセンサーウィンドウ部よりも小さく
てもよい。さらに、オフセットは対称である必要はなく、ずらしてもよい、つまり、上下
または左右、あるいはその両方でオフセットが異なってもよい。
【0082】
図9は、表面2(S2)(すなわち、第1のセンサーウィンドウ部)および表面4(S
4)(すなわち、第2のセンサーウィンドウ部)の設計を示すセンサーウィンドウ部の他
のいくつかの設計を示す。図9(a)は一般に図3(a)に示すとおりであり、図9(b
)は片側のS4センサーウィンドウ部を示し、S4に単一の下部バーを有す。図9(c)
および(e)はS4の三方の側の「帽子」または「U」の外形であり、図9(d)は、S
4の複数のバー/ブロックを示す。
【0083】
図1または図2に示すような積層グレージングは、一般的に次のように製造し得る。平
らなガラス基板(例えば、厚さ2.1mmのソーダライムフロートガラス)を、シルクス
クリーンおよびエナメルインクを用いたドクターブレードによるスクリーン印刷(例えば
、50~120スレッド/cmのポリエステルスクリーン、例えば、77または100ス
レッド/cmのポリエステルスクリーンを有するスクリーンを使用)に供し、スクリーン
印刷された境界を形成し、任意で、該境界を、上記基板を300℃未満の温度で赤外線ヒ
ーターからの赤外線放射にさらすことによって乾燥させる。次いで、外側の第1のガラス
プライ12および内側の第2のガラスプライ14を形成するための2つの印刷されたガラ
ス基板を、積み重ね、積み重ねた基板を屈曲させる。この段階では、熱源が供給され、通
常、8分間以上かけて570℃の温度に加熱し、この温度で1分間保持してから、その温
度のまま、プレス屈曲またはたるみ屈曲による標準の屈曲鋳型またはフレームにおいて曲
げて、屈曲を行うことができる。基板同士を分離し、冷却後、PVB中間層(厚さ約0.
76mm)を用いて積層される。
【0084】
グレージングは、例えば、最初にニップローラーによるプレニップを含む方法、または
ガラスの第1および第2のプライの縁に適用される真空リングを使用してガラスプライお
よびPVB中間層のアセンブリを脱気する方法によって、積層してもよい。次いで、第1
および第2のガラスプライならびにPVB中間層は、6バール~14バールの圧力範囲お
よび110℃~150℃の温度範囲にてオートクレーブ内で一緒に積層される。
【0085】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されない。
【実施例0086】
実施例では、黒色エナメル(例えば、Johnson Matthey 1L530、P
rince DV174100およびPrinceDV17450、高赤外線反射率エナ
メル)を使用し、かつ、図3に示すように表面2および表面4上で様々なサイズおよび形
状のセンサーウィンドウ部を用いて、積層ウィンドウを上記の方法に従って製造した。テ
ストに供した別のインクは、中程度の性能のインクであるJohnson Matthe
y 1L4755-WF789Pである。
【0087】
かなりの数の各積層グレージングサンプルの水平および垂直光パワーを、フィルターを
備えたISRAVision AG標準システムと同等の光パワー測定システムを使用し
て、55°の角度で測定し(比較のために60°のテスト角度に変換)、光パワー積分長
を定義した(例えば、1/2/0 ISRAフィルター、光パワー測定システムの1mm
/1mmフィルターに相当)。
【0088】
可視スペクトル380-780nmの光透過率は、設置角度で測定された少なくとも5
4%であった。
【0089】
各ウィンドウの中心線に沿った平均垂直光パワーは、上部から下部に向かって決定され
、結果は図4から図8のグラフに示されている。x軸は、ウィンドウの中心を基準にした
測定位置をmmで示しているため、ウィンドウの上部は左側(x=負)になり、ウィンド
ウの下部は右側(x=正)になる。y軸は、各位置で測定された光パワーをmdptで示
しているが、上記で言及したように60°に変換されている。
【0090】
[実施例1]
この実施例では、標準レベルの光パワーを発生させるインクを使用している。標準のセ
ンサーウィンドウ部が表面2および表面4に存在する場合の結果を図4に示す。全周で5
mm、下部で8mmの相対的なS2/S4オフセットが存在する(S4ウィンドウ部がよ
り大きい)。ラインDは、表面2で発生した光パワーを示し、これは負であり、ラインE
は、表面4で発生した光パワーを示し、これもウィンドウの中央では負であるが、上下に
向かっては正である。ラインFは、正味の光パワーを示し、これは、ウィンドウの上部、
特に下部に向かって絶対的な大きさが低減しているが、中央ではほとんど改善されていな
い。図4は、隠し層に隣接する印刷面で対立する光パワーのバランスをとることで、どの
ように個々のプライに比べて光学的歪みを低減できるかを示している。しかしながら、表
面2で発生する光パワーは、表面4で発生する光パワーよりもかなり弱いため、最適な結
果は未だ達成されていない。
【0091】
[実施例2]
この実施例では、表面4に赤外線反射率の高いエナメルを使用しており、その結果を図
5に示す。フロントガラスおよびセンサーウィンドウ部の設計は、実施例1と同じである
が、オフセットが全周5mmである(S4は全周でS2よりも約5mm大きかった)。前
述のように、表面4の隠し層は、高赤外線反射率のエナメルを用いている(表面2のエナ
メルは、実施例1のような標準的なエナメルである)。ラインDは、実施例1と同様であ
る。ラインGは、高赤外線反射率を有するエナメルによって表面4上に発生した光パワー
を示す。ラインHは、ウィンドウ内の正味の光パワーを示し;このラインがx軸の近くに
あることから、光学的歪みがどれだけ低減されたかを示している。表面4に高赤外線反射
インクを選択することにより、実施例1の場合よりも表面2(ラインD)の反対側にはる
かに近い歪みプロファイルが生成された。その結果、組み合わされたシステムの光学的歪
みはさらに大幅に低減される。比較として、ラインIは、ベースラインとして印刷されて
いないガラスの光パワーを示している。ウィンドウの下部に向かって正味の光パワーは、
印刷されていないガラスよりも実際には優れており、上部に向かって該光パワーは、印刷
されていないガラスのそれに近いことがわかる。
【0092】
[実施例3]
この実施例では、実施例1および実施例2とは異なるフロントガラスを使用している。
実施例1と同様に、標準インクを使用し、結果を図6に示す。センサーウィンドウ部の設
計は、実施例1の場合と同じで、全体で5mm、下部で8mmのオフセットである。ライ
ンJは、表面2で発生した光パワーを示し、ラインKは、表面4で発生した光パワーを示
す。ラインLは、結合された光パワーを示す。異なる設計のフロントガラスが使用された
が、結果は実施例1と同様の効果を示している。表面4(ラインK)の光パワーは、表面
2(ラインJ)の光パワーよりも絶対的な大きさがより上であるため、補償効果は部分的
つまり、フロントガラスの下部に向かってしか達成されない。
【0093】
[実施例4]
この実施例では、実施例3のフロントガラスを使用し、表面4に高赤外線反射率のエナ
メルを使用している。結果を図7に示す。フロントガラスおよびセンサーウィンドウ部の
設計は、実施例3と同じであるが、オフセットが、全周で5mmであり(S4はS2より
も全周で約5mm大きかった)、表面4の隠し層は、高赤外線反射率のエナメルを使用し
ている。ラインJは、実施例3と同じであり、ラインMは、高赤外線反射率のエナメルを
使用して、表面4で達成された光パワーを示している。ラインMが、x軸を鏡として、ラ
インJのほぼ鏡像となっていることに注意されたい。正味の光パワーはラインNで示され
、大幅に低減している。繰り返すが、これは、センサーウィンドウ部の設計および使用す
るインクを適切に選択した場合、個々のプライで等しくかつ正反対の光パワーが達成され
、これらは、積層後に実質的に互いに打ち消し合い得ることを示している。ラインOは、
比較として印刷されていないガラスのベースラインの光パワーを示している。光学的歪み
は、大幅に低減され、印刷されていないガラスの光学的歪みに近くなる。
【0094】
[実施例5]
この実施例は、光学的歪み/光パワーならびにセンサーウィンドウ部の設計およびエナ
メルの組み合わせのバランスをとるためのかなりの数のアプローチを示している。結果を
図8に示す。フロントガラスおよびセンサーウィンドウ部の設計では、ウィンドウ部の3
つの側面の周りにS4「帽子」を使用したが(図9(c)のように)、(他の実施例のよ
うに)S2の4つの側面すべての周りについて、2~3mm(S4はS2よりも全体的に
約5mm大きかった)のオフセットをつけた。センサーウィンドウの設計は、一般的に図
9(c)と同様であった。ラインPは、標準エナメルを用いた表面2の光パワーを示し、
ラインQは、高赤外線反射率のエナメルを用いた表面2の光パワーを示し、ラインTは、
高赤外線反射率のエナメルを用いた表面4の光パワーを示す。フロントガラスは、2つの
異なる構成を使用して製造した。1つは、表面4のセンサーウィンドウ部が、表面2のセ
ンサーウィンドウ部よりも大きい(ラインR)ものであり、もう1つは、表面2のセンサ
ーウィンドウ部が、表面4のセンサーウィンドウ部よりも大きい(ラインS)ものである
。どちらの場合も、エナメルは赤外線反射率が高かった。ラインRおよびSの両方が、個
々のプライ(ラインQおよびT)にわたり改善を呈していることがわかるが、ラインRが
全体的に最良の結果をもたらす。
【0095】
要約すると、本発明は、第1および第2のガラスプライの光パワープロファイルのバラ
ンスをとることにより、センサーウィンドウについて全体的な光学的歪みおよび光パワー
を著しく低減させることを示す。
【符号の説明】
【0096】
[参照番号]
2:積層グレージング
4:グレージングの透明部
6:隠しバンド
8:透明部の周囲
10:センサー(例えば、ADASカメラ)ウィンドウ
12:第1の(例えば、外側の)ガラスプライ
14:第2の(例えば、内側の)ガラスプライ
15:第1のセンサーウィンドウ部
16:ポリマー中間層
17;第2のセンサーウィンドウ部
18:表面2の隠し層
19:下端のオフセット
20:表面4の隠し層
21:上端のオフセット
22:積層グレージング
24:グレージングの透明部
26:隠しバンド
28:透明部の周囲
30:左センサー(例えば、ADASカメラ)ウィンドウ
32:右センサー(例えば、ADASカメラ)ウィンドウ
40:隠しバンド
42:センサーウィンドウ
44:表面4のウィンドウ部のオフセット
46:鋸歯状フェードアウト
48:隠しフレーム(例えば、高赤外線反射率)
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層グレージングであって、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラスプライと、
第3の表面および第4の表面を有する第2のガラスプライと、
前記第1のガラスプライと前記第2のガラスプライとの間に位置する少なくとも1つのポリマープライと、
前記積層グレージングの周囲の少なくとも一部の周りの隠しバンドであって、少なくとも1つのセンサーウィンドウを有し、ならびに第1の隠し層および第2の隠し層を含む、隠しバンドと、を備え、
前記第1のガラスプライは、前記第1の表面または前記第2の表面の前記周囲の少なくとも一部に付着した前記第1の隠し層を有し、前記第1の隠し層が、第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を備える、第1のガラスプライであり、
前記第2のガラスプライは、前記第3の表面または前記第4の表面の前記周囲の少なくとも一部に付着した前記第2の隠し層を有し、前記第2の隠し層が、第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を備える、第2のガラスプライであり、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みがそれぞれ制御されることにより、前記センサーウィンドウの前記光学的歪みの絶対的な大きさが、前記第1のセンサーウィンドウの光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さく、
前記第1のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、前記第2のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、かつ、前記第1のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法と各々異なることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、積層グレージング。
【請求項2】
前記第1のセンサーウィンドウ部の形状が、前記第2のセンサーウィンドウ部の形状と異なることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを制御する、請求項1に記載の積層グレージング。
【請求項3】
前記第1のセンサーウィンドウ部の形状および/または前記第2のセンサーウィンドウ部の形状が、正方形、長方形、台形、楕円形、または円形である、請求項1または2に記載の積層グレージング。
【請求項4】
前記第1のセンサーウィンドウ部および/または前記第2のセンサーウィンドウ部が、各々、前記第1の隠し層および/または前記第2の隠し層によって部分的または全体的に囲まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項5】
前記第1のセンサーウィンドウ部または前記第2のセンサーウィンドウ部の前記周囲の少なくとも一部が、パターン化されており、任意で、ドット、ライン、フェードアウト、フェザーエッジ、または鋸歯状フェードアウトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項6】
前記第1の隠し層および前記第2の隠し層が、異なる放射率または赤外線反射率を有する材料で形成されることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項7】
前記第1の隠し層の、および/または前記第2の隠し層の少なくとも一部が、800nm~2250nmの波長範囲の領域にわたって21%以上の赤外線反射率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項8】
前記第1の隠し層および/または前記第2の隠し層がエナメルを含み、該エナメルはフリットおよび無機顔料を含み、かつ、該無機顔料は、クロム鉄顔料、フェライト顔料、クロマイト顔料、またはフェライト/クロマイト(鉄クロマイトとしても知られている)顔料から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項9】
前記第1の隠し層の前記エナメルおよび/または前記第2の隠し層の前記エナメルが、低放射率エナメルもしくは低赤外線反射率エナメル、または高放射率エナメルもしくは高赤外線反射率エナメルから選択されることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、請求項8に記載の積層グレージング。
【請求項10】
前記第1のセンサーウィンドウ部または前記第2のセンサーウィンドウ部のいずれかの前記周囲が、前記第1のガラスプライもしくは前記第2のガラスプライの残りの部分上の前記隠し層よりも低い(または高い)赤外線反射率の隠しフレーム部、および/または、前記第1のガラスプライと前記第2のガラスプライのうちののガラスプライ上の前記隠し層よりも低い(または高い)赤外線反射率の、隠しフレーム部を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項11】
前記第2のセンサーウィンドウ部の前記周囲が、前記隠しフレーム部を備える、請求項10に記載の積層グレージング。
【請求項12】
前記第1のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法よりも大きく、および/または、前記第1のセンサーウィンドウ部の前記y軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部の前記y軸寸法よりも大きい、請求項1~11のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項13】
前記第1のセンサーウィンドウ部と前記第2のセンサーウィンドウ部のうちの小さいほうが前記第1のセンサーウィンドウ部と前記第2のセンサーウィンドウ部のうちの大きいほうに対して寸法の各端部にオフセットが存在するように配置される、請求項12に記載の積層グレージング。
【請求項14】
前記第1のセンサーウィンドウ部および/または前記第2のセンサーウィンドウ部が、-405~+405ミリジオプトリーの範囲、任意で-310~+310ミリジオプトリーの範囲、任意で-205~+205ミリジオプトリーの範囲、任意で-185~+185ミリジオプトリーの範囲、好ましくは-155~+155ミリジオプトリーの範囲の光学的歪みを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項15】
前記センサーウィンドウが、-195~+195ミリジオプトリーの範囲、任意で-145~+145ミリジオプトリーの範囲の光学的歪みを有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の積層グレージング。
【請求項16】
成形された積層グレージングを製造するプロセスであって、
第1の表面および第2の表面を有する第1のガラス基板ならびに第3の表面および第4の表面を有する第2のガラス基板を提供するステップと、
前記第1のガラス基板の前記第1の表面または前記第2の表面の少なくとも第1の部分に第1の隠し層を適用するステップであって、該第1の隠し層が、制御された、第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第1のセンサーウィンドウ部を備える、ステップと、
前記第2のガラス基板の前記第3の表面または前記第4の表面の少なくとも第1の部分に第2の隠し層を適用するステップであって、該第2の隠し層が、制御された、第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを有する少なくとも1つの第2のセンサーウィンドウ部を備える、ステップと、
任意で、前記第1のガラス基板および前記第2のガラス基板を、570℃を超える温度に加熱することにより、該第1のガラス基板および該第2のガラス基板を成形するステップと、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に少なくとも1つのポリマープライを配置するステップと、
前記第1のガラス基板、前記ポリマープライおよび前記第2のガラス基板を積層するステップと、を含み、
前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みを制御することにより、センサーウィンドウの光学的歪みの絶対的な大きさが、該第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび該第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの絶対的な大きさよりも小さくされ
前記第1のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、前記第2のセンサーウィンドウ部が、x軸寸法および/またはy軸寸法を有し、かつ、前記第1のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法が、前記第2のセンサーウィンドウ部の前記x軸寸法および/または前記y軸寸法と各々異なることにより、前記第1のセンサーウィンドウ部の光学的歪みおよび前記第2のセンサーウィンドウ部の光学的歪みの制御を可能にする、プロセス。
【外国語明細書】