(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025111227
(43)【公開日】2025-07-30
(54)【発明の名称】電波反射特性推定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20250723BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N22/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005525
(22)【出願日】2024-01-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス https://www.ieice-taikai.jp/2023general/jpn/pdfdownload.html 掲載日:令和5年2月28日 [刊行物等] 2023年電子情報通信学会 総合大会 開催日:令和5年3月7日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://www.ieice-taikai.jp/2023general/jpn/pdfdownload.html 掲載日:令和5年2月28日 [刊行物等] 2023年電子情報通信学会 総合大会 開催日:令和5年3月8日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://eucaptool.eucap2023.org/login 掲載日:令和5年3月25日 [刊行物等] EuCAP 2023-The 17th European Conference on Antennas and Propagation 開催日:令和5年3月31日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://ken.ieice.org/ken/paper/20230720mCWc/ 掲載日:令和5年7月13日 [刊行物等] 電子情報通信学会短距離無線通信研究会 開催日:令和5年7月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、総務省、「仮想空間における電波模擬システム技術の高度化に向けた研究開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100185465
【弁理士】
【氏名又は名称】白銀 成志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 潤一
(57)【要約】
【課題】電波の反射特性を推定するための物体の物性パラメータを非破壊的に推定する。
【解決手段】複数の媒質により多層構造に形成された対象物Tの電波反射特性に関する物性パラメータを算出する演算部2を備え、演算部は、対象物に入射された電波の反射波の電波反射特性を計測した計測値を取得し、対象物に生じる多重反射に基づく電波反射特性を推定するための多重反射モデルを用いて電波反射特性を算出し、電波反射特性の算出値と、計測値との差を低減するように多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される物性パラメータを調整し、調整した物性パラメータを用いた多重反射モデルを用いて算出値を算出する算出処理を実行し、算出値と、計測値との差を最小化するまで算出処理を繰り返し実行し、複数の媒質の層数を算出すると共に、物性パラメータを各層毎に算出する、電波反射特性推定装置1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の媒質により多層構造に形成された対象物の電波反射特性に関する物性パラメータを算出する演算部を備え、
前記演算部は、
前記対象物に入射された電波の反射波の前記電波反射特性を計測した計測値を取得し、
前記対象物に生じる多重反射に基づく前記電波反射特性を推定するための多重反射モデルを用いて前記電波反射特性を算出し、
前記電波反射特性の算出値と、前記計測値との差を低減するように前記多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される前記物性パラメータを調整し、
調整した前記物性パラメータを用いた前記多重反射モデルを用いて前記算出値を算出する算出処理を実行し、
前記算出値と、前記計測値との差を最小化するまで前記算出処理を繰り返し実行し、
複数の前記媒質の層数を算出すると共に、前記物性パラメータを各層毎に算出する、
電波反射特性推定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記算出処理において、
前記多重反射モデルを用いて前記対象物の第1反射面における前記物性パラメータを算出し、
前記物性パラメータを適用した前記第1反射面の前記電波反射特性を算出し、
前記電波反射特性の前記算出値と、前記計測値との差が閾値以上である場合、前記第1反射面の上層に第2反射面を追加し、
前記第2反射面に前記第1反射面の前記物性パラメータを適用し、前記第1反射面の新たな前記物性パラメータを算出し、
新たな前記物性パラメータを初期値として、前記多重反射モデルに基づいて前記第1反射面の前記電波反射特性の前記算出値を算出する前記算出処理を実行し、
前記算出値と前記計測値との差が前記閾値未満となる第m層まで第m反射面を追加して前記算出処理を繰り返し実行し、前記物性パラメータを算出する、
請求項1に記載の電波反射特性推定装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記媒質の複素誘電率と、層厚とを含む前記物性パラメータを算出する、
請求項1に記載の電波反射特性推定装置。
【請求項4】
複数の媒質により多層構造に形成された対象物の電波反射特性に関する物性パラメータを算出する電波反射特性推定方法を実行するコンピュータにインストールされたプログラムであって、
前記対象物に入射された電波の反射波の前記電波反射特性を計測した計測値を取得し、
前記対象物に生じる多重反射に基づく前記電波反射特性を推定するための多重反射モデルを用いて前記電波反射特性の算出値を算出し、
前記算出値と、前記計測値との差を低減するように前記多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される物性パラメータを調整し、
調整した前記物性パラメータを用いた前記多重反射モデルを用いて前記算出値を算出する算出処理を実行し、
前記算出値と、前記計測値との差を最小化するまで前記算出処理を繰り返し実行し、
複数の前記媒質の層数を算出すると共に、前記物性パラメータを各層毎に算出する処理を前記コンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の物性パラメータを推定可能な電波反射特性推定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線ネットワークの通信エリアの品質を予測する場合、通信エリアの電波伝搬特性をシミュレーションにより算出するためのレイトレーシング法が広く用いられている。レイトレーシング法は、計算機を用いて通信エリアの3次元環境モデルを作成し、電波(レイ)の反射・回折・透過を計算する事でエリア内の電波伝搬特性を計算するシミュレーション手法である。レイトレーシング法を用いて正確な計算を行うためには、物体の形状、電気的特性、材料の厚み情報等のパラメータを適用し、正確な環境モデルを作成する事が重要である。
【0003】
従来、物体の誘電特性や厚み情報を推定する手法として、外部から照射した試験電波の反射特性を利用する反射電力法やエリプソメトリー法等が知られている。非特許文献1には、ミリ波帯において、物体の複素誘電率を測定するためのエリプソメトリー法を用いた計測手法が提案されている。非特許文献2には、多層構造の物体の誘電率の異方性を計測する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】酒井 泰二, 続山 浩二, 山崎 貴昭, 橋本 修, “エリプソメトリー法を用いたミリ波帯における複素誘電率測定に関する基礎検討”,電子情報通信学会論文誌 B Vol.J86-B No.5 pp.846-849, 2003.
【非特許文献2】P. Dankov, “Two-resonator method for measurement of dielectric anisotropy in multilayer samples,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 54, no. 4, pp. 1534.1544, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境内に存在する物体の幾何形状は、レーザ計測等を用いて計測することができる。物体の電波の反射特性を推定するためには、物体の電気的特性や材料の厚み情報等を計測する必要がある。しかしながら、計測のために現物を削り取り、物体のサンプルを調査する事は非現実的である。そのため、非破壊的な手法を用いて物体の電波の反射特性を予測する技術が求められている。
【0006】
本発明は、電波の反射特性を推定するための物体の誘電特性、厚み情報を含む物性パラメータを非破壊的に推定することができる電波反射特性推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の媒質により多層構造に形成された対象物の電波反射特性に関する物性パラメータを算出する演算部を備え、前記演算部は、前記対象物に入射された電波の反射波の前記電波反射特性を計測した計測値を取得し、前記対象物に生じる多重反射に基づく前記電波反射特性を推定するための多重反射モデルを用いて前記電波反射特性を算出し、 前記電波反射特性の算出値と、前記計測値との差を低減するように前記多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される前記物性パラメータを調整し、調整した前記物性パラメータを用いた前記多重反射モデルを用いて前記算出値を算出する算出処理を実行し、前記算出値と、前記計測値との差を最小化するまで前記算出処理を繰り返し実行し、複数の前記媒質の層数を算出すると共に、前記物性パラメータを各層毎に算出する、電波反射特性推定装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、物体の誘電特性、厚み情報等の物性パラメータを非破壊的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る電波反射特性推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】対象物の電波反射特性の測定方法を示す図である。
【
図3】物性パラメータを推定する手法を示す図である。
【
図6】電波反射特性推定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示されるように、電波反射特性推定装置1は、計測装置10により計測された対象物Tの計測値を取得するように構成されている。計測装置10は、例えば、放射部11から対象物Tに電波を放射し、対象物Tから反射した反射波を受信部12において受信する。計測装置10は、例えば、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)である。放射部11は、例えば、電波を放射する誘電体レンズアンテナにより構成されている。
【0011】
放射部11の誘電体レンズアンテナは、一次放射器から放射された電波の位相をレンズ前方において同期させ、電波に指向性を与えて放射させるように構成されている。受信部12は、放射部11と同様に誘電体レンズアンテナにより構成されており、放射部11と逆に対象物Tに生じる指向性を持った反射波を受信するように構成されている。計測装置10は、受信部12において受信した電波の電波強度を計測し、計測値を電波反射特性推定装置1に出力する。
【0012】
電波反射特性推定装置1は、取得した計測値のデータに基づいて電波反射特性を推定する演算処理を実行する。電波反射特性推定装置1は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置により実現される。電波反射特性推定装置1は、演算処理を実行する演算部2を備えている。電波反射特性推定装置1は、演算に必要なデータ及びプログラムが記憶された記憶部3を備えている。演算部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサが記憶部3に記憶されたプログラムを実行するように構成されている。
【0013】
演算部2は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部3が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0014】
電波反射特性推定装置1は、演算に必要な情報を入力するための入力部5を備えている。入力部5は、例えば、キーボード装置、タッチパネル等の情報を入力するための装置により構成されている。電波反射特性推定装置1は、演算部2により演算された演算結果を出力する表示部4を備えている。表示部4は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置により構成されている。表示部4は、タッチパネルにより構成されていてもよく、その場合、入力操作を受け付けるための表示画像を表示することにより、入力部5として構成されていてもよい。上記構成により、電波反射特性推定装置1は、取得した計測値のデータに基づいて、対象物Tの電波反射特性を算出し、算出結果を表示部4に表示する。
【0015】
図2には、対象物Tの計測方法が示されている。計測装置10を用い、自由空間法により対象物Tに様々な入射角θで入射した電波の反射波を計測する。計測装置10により、反射波の伝搬チャネルの計測値が計測される。対象物Tは、例えば、建物等の建材や家具等の素材であり、複数の媒質により多層構造に形成されている。対象物Tの各層は、異なる誘電率及び透磁率の媒質により形成されている。対象物Tに放射部11から電波を所定の入射角(θi)で入射すると、各層において電波が透過して入射すると共に、各層の反射面により電波が反射され、複数の反射波が受信部12により受信される。
【0016】
放射部11は、TE(Transverse Electric)波、TM(Transverse Magnetic)波の異なる偏波条件により電波を放射する。受信部12は、各偏波モードにより反射波を受信する。計測装置10により、対象物Tから複数の伝搬経路を介して反射される複数の反射波の電波強度、受信時の反射角θi等の伝搬チャネルに関する計測値が計測される。計測値は、電波反射特性推定装置1に出力される。
【0017】
図3には、対象物Tの反射波の反射角(入射角=反射角:θi)と反射率Rとの関係に基づく電波反射特性が示されている。電波反射特性推定装置1において演算部2は、計測値に基づいて測定点にフィットする誘電率及び透磁率を探索するように演算し、対象物Tの電波反射特性がマッチする物性パラメータを推定する。以下、対象物Tの物性パラメータを推定する手法について説明する。
【0018】
図4には、単一の媒質M1により形成された対象物Tが示されている。対象物Tは、例えば、誘電率ε
0の単一の媒質M1により形成されている。対象物Tの第1反射面#1には、入射波H1が所定の入射角θ
iにより入射される。入射波H1は、誘電率ε
1の空間M2中から対象物Tに入射される。入射波H1は、TM波のモードにより入射され、TM波モードにおいて反射波H2が計測される。入射波H1は、TE波のモードによっても入射され、TE波モードにおいて反射波H2が計測される。
【0019】
入射波H1は、対象物Tの第1反射面#1において反射角θiにより反射して反射波H2が生成される。入射波H1の一部は、第1反射面#1から媒質M1内に透過し、屈折して入射する。これにより、反射波H2の電波強度は、入射波H1に比して低下する。
【0020】
演算部2は、以下の式(1)により示されるフレネルの反射モデルに基づいて、対象物Tに入力されるTEモードの電波(入射波)の単一反射の反射率Rを算出する。
【数1】
但し、
n1:√(ε0/ε1)
θi:反射角
♯1:反射面
【0021】
演算部2は、以下の式(2)により示されるフレネルの反射モデルに基づいて、対象物Tに入力されるTMモードの電波(入射波)の単一反射の反射率Rを算出する。
【数2】
【0022】
図5には、2層の媒質M1,M2により形成された対象物Tが示されている。対象物Tは、例えば、誘電率ε
0の媒質M1の上層に誘電率ε
1の媒質M2が追加されて形成されている。追加された媒質M2の第2反射面#2には、入射波H1が所定の入射角θ
iにより入射される。入射波H1は、誘電率ε
2の空間M3中から対象物Tに入射される。入射波H1は、TM波のモードにより入射され、TM波モードにおいて反射波H2が計測される。入射波H1は、TE波のモードによっても入射され、TE波モードにおいて反射波H2が計測される。入射波H1は、対象物Tの第2反射面#2において反射角θ
iにより反射して反射波H2が生成される。
【0023】
入射波H1の一部は、第2反射面#2から媒質M2内に透過し、屈折して入射する。媒質M2内に入射した電波は、媒質M1の第1反射面#1において反射し、第2反射面#2において再び屈折し反射角θiにより空間M3中に放射され、反射波H3が生成される。2層の媒質M1,M2により形成された対象物Tに入射される入射波H1は、2つの反射面により多重反射を発生させ、2つの反射波H2,H3を反射させる。演算部2は、多重反射モデルを示す以下の式(3)により、対象物Tに入力されるTMモードの電波(入射波)の多重反射(2層)の反射率Rを算出する。
【0024】
【数3】
但し、
【数4】
演算部2は、式(3)を拡張し、複数の媒質の層により形成された対象物Tに入力されるTMモードの電波(入射波)の多重反射の反射率Rを算出する。
【0025】
演算部2は、同様に、多重反射モデルを示す以下の式(4)により、m個(m:自然数)の媒質の層により形成された対象物Tに入力されるTEモードの電波(入射波)の多重反射の反射率Rを算出する。
【数5】
但し、
【数6】
【数7】
以下、上述した単一反射モデルを多層反射モデルに含めて多重反射モデルと呼ぶ。
【0026】
演算部2は、計測装置10から、対象物Tに入射された電波の反射波の電波反射特性を計測した計測値を取得する。演算部2は、対象物に生じる多重反射に基づく上述した多重反射モデルを用いて電波反射特性の算出値を算出する。演算部2は、以下の式(5)により、算出値と、計測値との差を低減するように多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される物性パラメータを調整する。
【数8】
但し、
【数9】
【数10】
【0027】
演算部2は、調整した物性パラメータを用いた多重反射モデルを用いて算出値を算出する算出処理を実行する。演算部2は、算出値と、計測値との差が減少するように算出処理を繰り返し実行する。演算部2は、算出処理により対象物Tの層数を算出すると共に、複数の媒質の複素誘電率及び層厚を含む物性パラメータを各層毎に算出する。
【0028】
演算部2は、以下の算出処理により対象物Tの物性パラメータを推定する。演算部2は、例えば、対象物Tが第1反射面#1を有するとして(
図4参照)、物性パラメータ(ε
0,ε
1)の初期値が適用された多重反射モデルに基づいて、対象物Tの電波反射特性(反射率)の第1算出値を出力する。演算部2は、数式(7)に基づいて、対象物Tの反射率の計測値と多重反射モデルを用いて算出される反射率の第1算出値との差を最小とするように、単一反射に基づく対象物Tの電波反射特性を示す複素誘電率や対象物Tの厚みを含む物性パラメータ(ε
0,ε
1)を調整する。
【0029】
演算部2は、調整した物性パラメータが適用された多重反射モデルに基づいて、対象物Tの電波反射特性の第1算出値を算出する。演算部2は、第1算出値と計測値との差と、予め設定された閾値とを比較する。演算部2は、第1算出値と計測値との差が閾値以上であるか否かを判定する。演算部2は、第1算出値と計測値との差が閾値以上である場合、対象物Tの第1反射面#1の上層に第2反射面#2を追加する(
図5参照)。
【0030】
演算部2は、前回の第1反射面#1の物性パラメータを適用した電波反射特性の第1算出値を第2反射面#2の電波反射特性に代入し、第1反射面#1の電波反射特性の新たな第2算出値を算出する。演算部2は、数式(7)に基づいて、対象物Tの反射率の計測値と多重反射モデルを用いて算出される反射率の第2算出値との差を最小とするように、多重反射に基づく対象物Tの電波反射特性を示す複素誘電率や対象物Tの厚みを含む物性パラメータを調整する。演算部2は、調整した新たな物性パラメータを初期値として多重反射モデルに基づいて、対象物Tの第1反射面の電波反射特性の第2算出値を算出する算出処理を実行する。
【0031】
演算部2は、算出値と計測値との差が閾値未満となる第m層まで第m反射面を追加して算出処理を繰り返し実行し、複数の媒質の層数を算出すると共に、物性パラメータを各層毎に算出する。
【0032】
図6には、電波反射特性推定装置1において実行される電波反射特性推定方法の処理の流れが示されている。上述した電波反射特性推定方法は、電波反射特性推定装置1を構成するコンピュータにインストールされたプログラムにより実行される。演算部2は、対象物Tに入射された電波の反射波の電波反射特性を計測した計測値を取得する(ステップS100)。演算部2は、対象物Tに生じる多重反射に基づく電波反射特性を推定するための多重反射モデルを用いて電波反射特性を算出する(ステップS102)。演算部2は、電波反射特性の算出値と、計測値との差を低減するように多重反射モデルに含まれる複数の媒質に設定される物性パラメータを調整する(ステップS104)。
【0033】
演算部2は、調整した物性パラメータを用いた多重反射モデルを用いて電波伝搬特性を算出する算出処理を実行する(ステップS106)。演算部2は、算出値と、計測値との差が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS108)。
演算部2は、算出値と、計測値との差が閾値未満である場合、その時点の各パラメータを適用し、複数の媒質の層数を算出すると共に、物性パラメータを各層毎に算出する(ステップS110)。
【0034】
上述したように、電波反射特性推定装置1によれば、レイトレーシング法等の電波伝搬シミュレーションに用いる通信エリアの環境モデルを作成する際に、エリア内に存在する対象物Tの物性パラメータを算出することができる。電波反射特性推定装置1によれば、多層構造の対象物Tの各層の厚み、複素誘電率を含む物性パラメータと各層の層数とを算出することができる。電波反射特性推定装置1によれば、対象物Tの物性パラメータを非破壊の手法に基づいて推定する事ができる。電波反射特性推定装置1によれば、精度の高い電波の伝搬シミュレーションを行うための物性パラメータを推定することができる。電波反射特性推定装置1によれば、通信エリア設計や電波エミュレータでの通信シミュレーション等への活用が期待できる。
【0035】
本発明に係る各実施形態は、一例であり、発明の範囲を限定するものではない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。これらの実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1 電波反射特性推定装置
2 演算部
3 記憶部
4 表示部
5 入力部
10 計測装置
11 放射部
12 受信部
T 対象物