(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025111307
(43)【公開日】2025-07-30
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02P 5/152 20060101AFI20250723BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20250723BHJP
【FI】
F02P5/152
F02P5/145 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005656
(22)【出願日】2024-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124729
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 和紘
(72)【発明者】
【氏名】灰野 翔太
【テーマコード(参考)】
3G022
【Fターム(参考)】
3G022EA02
3G022EA07
3G022FA05
3G022FA06
3G022GA05
3G022GA06
3G022GA13
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ノッキングの誤判定があったことを特定できる制御装置を提供することである。
【解決手段】内燃機関の運転領域は、第1運転領域ないし第N運転領域を含んでいる。第1運転領域ないし第N運転領域のそれぞれは、第1学習値ないし第N学習値を有している。制御装置は、第M運転領域において内燃機関が運転している時にノッキングセンサから取得したノッキング信号に基づいてノッキングが発生したと判定した場合、第M学習値を変化させる学習値変化処理を行う。第1学習値ないし第N学習値のばらつきに関連する第1パラメータの絶対値が第1所定値Y1より大きい場合、および/または、第1学習値の傾きの絶対値ないし第N学習値の傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、制御装置は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置であって、
Nは、2以上の整数であり、
Mは、1以上N以下の整数であり、
内燃機関の運転領域は、第1運転領域ないし第N運転領域を含んでおり、
前記1運転領域ないし前記第N運転領域のそれぞれは、第1学習値ないし第N学習値を有しており、
前記制御装置は、第M運転領域において前記内燃機関が運転している時にノッキングセンサから取得したノッキング信号に基づいてノッキングが発生したと判定した場合、第M学習値を変化させる学習値変化処理を行い、
前記第1学習値ないし前記第N学習値のばらつきに関連する第1パラメータの絶対値が第1所定値Y1より大きい場合、および/または、前記第1学習値の傾きの絶対値ないし前記第N学習値の傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、前記制御装置は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行う、
制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1学習値の絶対値ないし前記第N学習値の絶対値の少なくとも1つが第2閾値より大きい場合、前記特定処理を行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2閾値より大きな絶対値を有する学習値を特定する第1特定処理を行い、
前記制御装置は、前記第1特定処理において特定した前記学習値に対応する運転領域において、誤判定が発生したと特定する第2特定処理を行う、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1特定処理において特定した前記学習値を、特定した前記学習値を除く前記第1学習値ないし前記第N学習値の平均値に近づける、
請求項3に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の制御装置に関する発明としては、例えば、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置が知られている。この内燃機関の制御装置は、気筒で異常燃焼が発生したことを感知した場合に点火タイミングを遅角させ、異常燃焼の発生を感知しない限りにおいて点火タイミングを進角させると共に、内燃機関の運転領域の区分毎に異常燃焼が発生しないような点火タイミングを学習値として記憶する。そして、内燃機関の制御装置は、この学習値を以後の点火タイミングの制御に利用する。内燃機関の制御装置は、経時変化後の内燃機関の運転領域の区分毎の点火タイミングの学習値の基準値を予め記憶している。そして、内燃機関の制御装置は、実際に学習して記憶した学習値と基準値とを比較することにより誤学習の発生を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、内燃機関の制御装置の分野において、異常燃焼の正確な検知が求められている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ノッキングの誤判定があったことを特定できる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面は、
制御装置であって、
Nは、2以上の整数であり、
Mは、1以上N以下の整数であり、
内燃機関の運転領域は、第1運転領域ないし第N運転領域を含んでおり、
前記1運転領域ないし前記第N運転領域のそれぞれは、第1学習値ないし第N学習値を有しており、
前記制御装置は、第M運転領域において前記内燃機関が運転している時にノッキングセンサから取得したノッキング信号に基づいてノッキングが発生したと判定した場合、第M学習値を変化させる学習値変化処理を行い、
前記第1学習値ないし前記第N学習値のばらつきに関連する第1パラメータの絶対値が第1所定値Y1より大きい場合、および/または、前記第1学習値の傾きの絶対値ないし前記第N学習値の傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、前記制御装置は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行う、
制御装置である。
【0007】
本発明の第2側面は、
前記制御装置は、前記第1学習値の絶対値ないし前記第N学習値の絶対値の少なくとも1つが第2閾値より大きい場合、前記特定処理を行う、
第1側面に記載の制御装置である。
【0008】
本発明の第3側面は、
前記制御装置は、前記第2閾値より大きな絶対値を有する学習値を特定する第1特定処理を行い、
前記制御装置は、前記第1特定処理において特定した前記学習値に対応する運転領域において、誤判定が発生したと特定する第2特定処理を行う、
第2側面に記載の制御装置である。
【0009】
本発明の第4側面は、
前記制御装置は、前記第1パラメータの絶対値が前記第1所定値Y1より大きい場合、前記第2所定値Y2より大きな絶対値の傾きを有する学習値を特定する第1特定処理を行い、
前記制御装置は、前記第1特定処理において特定した前記学習値に対応する運転領域において、誤判定が発生したと特定する第2特定処理を行う、
第1側面に記載の制御装置である。
【0010】
本発明の第5側面は、
前記制御装置は、前記第1特定処理において特定した前記学習値を、特定した前記学習値を除く前記第1学習値ないし前記第N学習値の平均値に近づける、
第3側面または第4側面に記載の制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノッキングの判定に誤りがあったことを特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、ノッキングセンサ40が出力するノッキング信号gの波形を示したグラフである。
【
図3】
図3は、運転領域と第1運転領域A1ないし第9運転領域A9と第1学習値X1ないし第9学習値X9とを示したグラフである。
【
図4】
図4は、学習値と時刻との関係を示したグラフである。
【
図5】
図5は、運転領域と第1運転領域A1ないし第9運転領域A9と第1学習値X1ないし第9学習値X9とを示したグラフである。
【
図6】
図6は、運転領域と第1運転領域A1ないし第9運転領域A9と第1学習値X1ないし第9学習値X9とを示したグラフである。
【
図7】
図7は、制御装置100が実行するフローチャートである。
【
図8】
図8は、制御装置100aが実行するフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1学習値X1と時刻との関係および第5学習値X5と時刻との関係を示したグラフである。
【
図10】
図10は、第1学習値X1と時刻との関係および第5学習値X5と時刻との関係を示したグラフである。
【
図11】
図11は、第1学習値X1と時刻との関係および第5学習値X5と時刻との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
[車両の構造]
以下に、本発明の一実施形態に係る車両10の構造について図面を参照しながら説明する。
図1は、車両10の概略図である。
【0014】
車両10は、例えば、四輪自動車である。車両10は、内燃機関11、電子スロットル32、クランク角センサ38、ノッキングセンサ40、スロットルポジションセンサ42、制御装置100、記憶装置102、吸気経路R1および排気経路R2を備えている。
【0015】
内燃機関11は、例えば、車両10の動力源として用いられる。内燃機関11は、トランスミッション等の努力伝達装置を介して車両10の車輪を回転させる。内燃機関11は、例えば、4サイクルのガソリンエンジンである。したがって、燃料は、ガソリンである。
【0016】
吸気経路R1は、空気が通過する経路である。吸気経路R1には、インジェクタが設けられている。インジェクタは、燃料を噴射する。これにより、吸気経路R1において混合気が形成される。吸気経路R1は、内燃機関11の吸気ポートに接続されている。そのため、混合気は、吸気経路R1から吸気ポートを介して内燃機関11の燃焼室に流入する。
【0017】
内燃機関11では、混合気が燃焼されることにより、ピストンが上下動する。そして、ピストンの上下動が、クランクシャフトの回転に変換される。これにより、内燃機関11は、動力を発生する。この際、内燃機関11は、排気を発生する。
【0018】
排気経路R2は、内燃機関11の排気ポートに接続されている。排気経路R2は、内燃機関11から流出する排気が通過する経路である。
【0019】
電子スロットル32は、吸気経路R1を通過する空気の量(以下、吸気量)を調整する弁である。電子スロットル32は、吸気経路R1に設けられている。電子スロットル32は、後述する制御装置100の制御により、吸気経路R1を開閉する。
【0020】
クランク角センサ38は、内燃機関11のクランクの角度を示すクランク角信号bを生成する。クランク角信号bは、制御装置100に対して出力される。制御装置100は、クランク角信号bに基づいて、内燃機関11の回転速度を算出できる。
【0021】
ノッキングセンサ40は、シリンダブロックの振動の大きさを示すノッキング信号gを生成する。ノッキング信号gは、制御装置100に対して出力される。
【0022】
制御装置100は、ECU(Engine Control Unit)の一部分である。制御装置100は、内燃機関11および電子スロットル32を制御する。記憶装置102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Randam Access Memory)の組み合わせであり、ECUの一部分である。記憶装置102は、制御装置100が実行するプログラムを記憶している。
【0023】
制御装置100には、車速信号a、クランク角信号b、アクセル開度信号c、吸気温・吸気圧信号d、冷却水温信号e、大気圧信号fおよびノッキング信号gが入力される。
【0024】
車速信号aは、車両の実車速を検出する車速センサから出力される。アクセル開度信号cは、アクセルペダルの踏込量または電子スロットル32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率)として検出するセンサから出力される。吸気温・吸気圧信号dは、吸気経路R1内の吸気温および吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される。冷却水温信号eは、内燃機関11の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される。大気圧信号fは、大気圧を検出する大気圧センサから出力される。
【0025】
制御装置100は、車速信号a、クランク角信号b、アクセル開度信号c、吸気温・吸気圧信号d、冷却水温信号e、大気圧信号fおよびノッキング信号gに基づいて、内燃機関11の回転速度を算出すると共に内燃機関11の気筒に充填される吸気量を推算する。そして、制御装置100は、内燃機関11の回転速度および吸気量に基づき、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、点火タイミングを決定する。そして、制御装置100は、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、点火タイミングに基づいて、点火信号h、燃料噴射信号iおよび開度制御信号jを生成する。
【0026】
点火信号hは、イグナイタに対して出力される。イグナイタは、点火信号hに基づいて、点火プラグに火花を発生させる。燃料噴射信号iは、インジェクタに対して出力される。インジェクタは、燃料噴射信号iに基づいて、燃料を噴射する。開度制御信号jは、電子スロットル32に対して出力される。電子スロットル32は、開度制御信号jに基づいて、スロットルバルブを開閉する。
【0027】
[制御装置100の動作]
次に、制御装置100の動作について図面を参照しながら説明する。
図2は、ノッキングセンサ40が出力するノッキング信号gの波形を示したグラフである。
図2の縦軸は加速度を示し、
図2の横軸は時刻を示す。
図3は、運転領域と第1運転領域A1ないし第9運転領域A9と第1学習値X1ないし第9学習値X9とを示したグラフである。
図4は、学習値と時刻との関係を示したグラフである。
【0028】
ノッキング信号gは、シリンダブロックの振動の大きさを示す。したがって、
図2に示すように、内燃機関11においてノッキングが発生した場合、ノッキング信号gの振幅が大きくなる。ノッキング信号gの電圧が第1閾値Th1より大きくなった場合、制御装置100は、内燃機関11にノッキングが発生したと判定する。
【0029】
記憶装置102は、
図3に示す運転領域のグラフを記憶している。
図3のグラフの縦軸は、内燃機関11の負荷率を示す。
図3のグラフの横軸は、内燃機関11の回転速度を示す。制御装置100は、内燃機関11の回転速度および内燃機関11の吸気量に基づいて、内燃機関11の負荷率を算出する。内燃機関11の負荷率は、全負荷状態で内燃機関11を定常運転したときの吸気量に対する、現在の吸気量の比率である。吸気量は、吸気行程において各気筒のそれぞれに流入する空気の量である。
【0030】
内燃機関11の運転領域は、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9を含んでいる。第1運転領域A1ないし第3運転領域A3は、低回転運転領域に位置している。第4運転領域A4ないし第6運転領域A6は、中回転運転領域に位置している。第7運転領域A7ないし第9運転領域A9は、高回転運転領域に位置している。また、第1運転領域A1、第4運転領域A4および第7運転領域A7は、低負荷運転領域に位置している。第2運転領域A2、第5運転領域A5および第8運転領域A8は、中負荷運転領域に位置している。第3運転領域A3、第6運転領域A6および第9運転領域A9は、高負荷運転領域に位置している。第1運転領域A1ないし第9運転領域A9は、互いに重複しない。第1運転領域A1ないし第9運転領域A9のそれぞれは、第1学習値X1ないし第9学習値X9を有している。
【0031】
ここで、第1学習値X1ないし第9学習値X9について説明する。Mは、1以上9以下の整数である。制御装置100は、第M運転領域において内燃機関11が運転している時にノッキングセンサ40から取得したノッキング信号gに基づいてノッキングが発生したと判定した場合、第M学習値XMを増加させる学習値変化処理を行う。本実施形態では、制御装置100は、
図2に示すように、ノッキング信号gの電圧が第1閾値Th1より大きくなった場合、第M学習値XMを1つ増加させる。すなわち、第M学習値XMは、第M運転領域においてノッキングが発生したと判定された回数を示している。
【0032】
図4の細線は、ノッキングの誤判定がされなかった場合の時刻と学習値との関係を示したグラフである。
図4の太線は、ノッキングの誤判定がされた場合の時刻と学習値との関係を示したグラフである。内燃機関11では、内燃機関11の内部にデポジットが蓄積されることにより、異常燃焼が発生しやすくなる。そのため、ノッキングが発生したと制御装置100が判定する回数は、時間経過に伴って増加する。すなわち、第1学習値X1ないし第9学習値X9は、時間経過に伴って増加する。
【0033】
ただし、制御装置100がノッキングの誤判定をする可能性が有る。具体的には、内燃機関11に一時的に振動が加わったり、電気的なノイズがノッキング信号gに一時的に混入したりする場合がある。この場合、ノッキング信号gは、内燃機関11においてノッキングが発生していないにもかかわらず、
図2に示すような波形を有する。その結果、制御装置100は、内燃機関11にノッキングが発生していないにもかかわらず、内燃機関11にノッキングが発生したと誤判定をする。このような誤判定が発生すると、
図4の太線に示すように、学習値が急激に増加する。
【0034】
ここで、
図5および
図6は、運転領域と第1運転領域A1ないし第9運転領域A9と第1学習値X1ないし第9学習値X9とを示したグラフである。
図6には、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9における時刻と学習値との関係も示した。
図5のグラフは、
図4のグラフから所定時間が経過したグラフである。
図6のグラフは、
図5のグラフから所定時間が経過したグラフである。
図5のグラフでは、ノッキングの誤判定が発生していない。
図6のグラフでは、ノッキングの誤判定が発生している。また、
図5および
図6のグラフでは、第1学習値X1ないし第N学習値XNのそれぞれが増加すると、第1運転領域A1ないし第N運転領域ANの色が濃くなる。
【0035】
ノッキングは、一時的に集中して発生しにくい。そのため、制御装置100がノッキングの誤判定をしていない場合、
図3、
図5の順にグラフが変化する。そして、
図5のグラフに示すように、第1学習値X1ないし第9学習値X9にばらつきが発生しにくい。第1学習値X1ないし第9学習値X9は、時間経過に伴って均一に増加する。
【0036】
一方、誤判定の原因となる電気的なノイズは、一時的に集中して発生する。そのため、電気的なノイズが発生した時の運転領域の学習値が急激に増加する。そのため、制御装置100がノッキングの誤判定をしている場合、
図3、
図5、
図6の順にグラフが変化する。その結果、制御装置100がノッキングの誤判定をしている場合、
図6のグラフに示すように、第1学習値X1ないし第9学習値X9にばらつきが発生する。
図6のグラフでは、第2学習値X2、第4学習値X4および第5学習値X5は、他の学習値よりも大きい。
【0037】
そこで、第1学習値X1ないし第9学習値X9のばらつきに関連する第1パラメータP1が第1所定値Y1より大きい場合、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行う。第1所定値Y1は、実験により求められる。ばらつきに関連する第1パラメータP1は、以下の(1)~(7)のパラメータが挙げられる。本実施形態では、第1パラメータP1として、(1)のパラメータが用いられる。
(1)第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差
(2)第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最小値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の中央値との差
(3)第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の中央値との差
(4)第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最小値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差
(5)第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最小値との差
(6)第1学習値X1ないし第9学習値X9の分散
(7)第1学習値X1ないし第9学習値X9の標準偏差
【0038】
ただし、上記判定処理では、制御装置100は、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9のいずれの運転領域においてノッキングの誤判定が発生したのかを特定できない。ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値は、
図4に示すように、急激に増加する。すなわち、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値の傾きは、大きな値を有する。そこで、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の傾きに基づいて、ノッキングの誤判定が発生した第1運転領域A1ないし第9運転領域A9を特定する。
【0039】
具体的には、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の傾きを算出する。第1学習値X1ないし第9学習値X9の傾きは、時間に対する第1学習値X1ないし第9学習値X9の変化の割合である。制御装置100は、第2所定値Y2より大きな傾きを有する学習値を特定する第1特定処理を行う。第2所定値Y2は、実験により求められる。
図6では、第2学習値X2、第4学習値X4および第5学習値X5の傾きが第2所定値Y2より大きい。そこで、制御装置100は、第1特定処理において第2学習値X2、第4学習値X4および第5学習値X5を特定する。このように、制御装置100は、第1パラメータP1が第1所定値Y1より大きい場合、第2所定値Y2より大きな傾きを有する学習値を特定する第1特定処理を行う。
【0040】
さらに、制御装置100は、第1特定処理において特定した学習値に対応する運転領域において、ノッキングの誤判定が発生したと特定する第2特定処理を行う。
図6では、制御装置100は、第2運転領域A2、第4運転領域A4および第5運転領域A5において、ノッキングの誤判定が発生したと特定する。
【0041】
さらに、制御装置100は、第1特定処理において特定した学習値を、特定した学習値を除く第1学習値ないし第N学習値の平均値に近づける。本実施形態では、制御装置100は、第2特定処理において特定した学習値を、特定した学習値を除く第1学習値ないし第N学習値の平均値と一致させる。これにより、ノッキングの誤判定により増加した学習値は、適切な値に修正される。
【0042】
次に、制御装置100の動作についてフローチャートを参照しながら説明する。
図7は、制御装置100が実行するフローチャートである。制御装置100は、記憶装置102が記憶しているプログラムを読み出すことにより、フローチャートを実行する。
【0043】
制御装置100は、内燃機関11を始動させる(ステップS1)。
【0044】
次に、制御装置100は、ノッキング信号gに基づいて、内燃機関11にノッキングが発生しているか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2では、制御装置100は、ノッキング信号gの電圧が第1閾値Th1より大きくなったか否かを判定する。ノッキングが発生した場合、本処理はステップS3に進む。ノッキングが発生しなかった場合、本処理はステップS4に進む。
【0045】
ノッキングが発生した場合、制御装置100は、ノッキングが発生した時の運転領域(第M運転領域AM)に対応する学習値(第M学習値XM)を1つ増加させる(ステップS3)。この後、本処理は、ステップS4に進む。
【0046】
前記ステップS4において、制御装置100は、内燃機関11を停止するか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4では、制御装置100は、ドライバが内燃機関11を停止する操作を行ったか否かを判定する。制御装置100が内燃機関11を停止する場合、本処理はステップS5に進む。制御装置100が内燃機関11を停止しない場合、本処理はステップS2に戻る。
【0047】
制御装置100が内燃機関11を停止する場合、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の履歴情報を更新する(ステップS5)。より詳細には、後述するステップS8において、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きが算出される。第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きの算出には、現在を含む所定期間における第1学習値X1ないし第9学習値X9と時間との関係を示したグラフが必要である。そこで、記憶装置102は、直近10回の走行における第1学習値X1ないし第9学習値X9と時間との関係を示したグラフを、第1学習値X1ないし第9学習値X9の履歴情報として記憶している。直近10回の走行に要した期間が所定期間に相当する。制御装置100は、10回前の走行時の第1学習値X1ないし第9学習値X9を第1学習値X1ないし第9学習値X9の履歴情報から削除すると共に、ステップS1~S4における第1学習値X1ないし第9学習値X9を第1学習値X1ないし第9学習値X9の履歴情報に追加する。また、1回の走行に要した期間は、制御装置100が内燃機関11を始動してから制御装置100が内燃機関11を停止するまでの期間である。
【0048】
次に、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の少なくとも1つが第2閾値Th2より大きいか否かを判定する(ステップS6)。第1学習値X1ないし第9学習値X9の少なくとも1つが第2閾値Th2より大きい場合、本処理はステップS7に進む。第1学習値X1ないし第9学習値X9の全てが第2閾値Th2より大きくない場合、本処理は終了する。
【0049】
第1学習値X1ないし第9学習値X9の少なくとも1つが第2閾値Th2より大きい場合、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差(第1パラメータP1)が第1所定値Y1より大きいか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7では、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9のばらつきに関連する第1パラメータP1に基づいて、ノッキングの誤判定が発生したか否かを判定している。第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差が第1所定値Y1より大きい場合、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したと判定する。そこで、本処理はステップS8に進む。第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差が第1所定値Y1より大きくない場合、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生しなかったと判定する。そこで、本処理は終了する。
【0050】
第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差が第1所定値Y1より大きい場合、制御装置100は、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きの中に第2所定値Y2より大きい値が存在するか否かを判定する(ステップS8)。第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きの中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、本処理はステップS9に進む。第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きの中に第2所定値Y2より大きい値が存在しない場合、本処理は終了する。
【0051】
第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きの中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、制御装置100は、第2所定値Y2より大きな傾きを有する学習値を特定する第1特定処理を行う(ステップS9)。ステップS9では、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生した学習値を特定している。本実施形態では、制御装置100は、第1特定処理において第L学習値XLを特定する。Lは、1以上N以下の整数である。
【0052】
次に、制御装置100は、第1特定処理において特定した第L学習値XLに対応する第L運転領域ALを特定する(ステップS10)。これにより、制御装置100は、第L運転領域においてノッキングの誤判定が発生したと特定する。そして、制御装置100は、第1特定処理において特定した第L学習値を、第1学習値ないし第L-1学習値および第L+1ないし第N学習値の平均値に一致させる(ステップS11)。この後、本処理は終了する。
【0053】
[効果]
制御装置100によれば、ノッキングの判定に誤りがあったことを判定できる。より詳細には、ノッキングは、一時的に集中して発生しにくい。そのため、制御装置100が誤判定をしていない場合、
図5のグラフに示すように、第1学習値X1ないし第9学習値X9にばらつきが発生しにくい。
【0054】
一方、誤判定の原因となる電気的なノイズは、一時的に集中して発生する。そのため、電気的なノイズが発生した時の運転領域の学習値が急激に増加する。その結果、制御装置100が誤判定をしている場合、
図6のグラフに示すように、第1学習値X1ないし第9学習値X9にばらつきが発生する。
【0055】
そこで、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9のばらつきに関連する第1パラメータP1を算出する。第1パラメータP1は、例えば、第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最大値と第1学習値X1ないし第9学習値X9の平均値との差である。そして、制御装置100は、第1パラメータP1が第1所定値Y1より大きい場合、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行う。これにより、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したことを特定できる。
【0056】
制御装置100によれば、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9のいずれの運転領域においてノッキングの誤判定が発生したかを特定できる。より詳細には、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値は、
図4に示すように、急激に増加する。すなわち、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値の傾きは、大きな値を有する。そこで、制御装置100は、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きを算出する。これにより、制御装置100は、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きに基づいて、ノッキングの誤判定が発生した第1運転領域A1ないし第9運転領域A9を特定できる。
【0057】
制御装置100によれば、内燃機関11の出力の低下が抑制される。より詳細には、制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9が大きくなると、点火プラグへの点火タイミングを遅角させる。これにより、制御装置100は、ノッキングが発生することを抑制できる。ただし、内燃機関11の出力が低下する。したがって、ノッキングの誤判定が発生している場合、ノッキングが発生していないにもかかわらず、内燃機関11の出力が低下する。
【0058】
そこで、制御装置100は、第2特定処理において特定した学習値を、特定した学習値を除く第1学習値ないし第N学習値の平均値に近づける。これにより、誤判定により増加した学習値は、適切な値に修正される。その結果、内燃機関11の出力の低下が抑制される。
【0059】
(第1変形例)
次に、第1変形例に係る制御装置100aについて図面を参照しながら説明する。
図8は、制御装置100aが実行するフローチャートである。
【0060】
制御装置100aは、ステップS8~S10の代わりにステップS19,S20が実行される点において、制御装置100と相違する。制御装置100aのステップS1~S7は、制御装置100のステップS1~S7と同じであるので説明を省略する。制御装置100aは、第2閾値Th2より大きな学習値を特定する第1特定処理を行う(ステップS19)。本実施形態では、制御装置100aは、第1特定処理において第L学習値XLを特定する。
【0061】
次に、制御装置100aは、第1特定処理において特定した第L学習値XLに対応する第L運転領域ALにおいて、ノッキングの誤判定が発生したと特定する第2特定処理を行う(ステップS20)。この後、本処理はステップS11に進む。制御装置100aのステップS11は、制御装置100のステップS11と同じであるので説明を省略する。制御装置100aは、制御装置100と同じ理由により、ノッキングの判定に誤りがあったことを判定できる。
【0062】
また、制御装置100によれば、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9のいずれの運転領域においてノッキングの誤判定が発生したかを特定できる。より詳細には、誤判定が発生した運転領域の学習値は、
図4に示すように、急激に増加する。そのため、誤判定が発生した運転領域の学習値は、他の学習値よりも大きい。そこで、制御装置100aは、第2閾値Th2より大きな学習値を特定する第1特定処理を行う。これにより、制御装置100は、第1運転領域A1ないし第9運転領域A9のいずれの運転領域においてノッキングの誤判定が発生したかを特定できる。
【0063】
(第2変形例)
第2変形例に係る制御装置100bについて図面を参照しながら説明する。
図9ないし
図11は、第1学習値X1と時刻との関係および第5学習値X5と時刻との関係を示したグラフである。
【0064】
制御装置100bは、
図7のステップS8の処理の代わりに、2つの学習値を比較する処理を行う点において、制御装置100と相違する。より詳細には、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値は、
図4に示すように、急激に増加する。すなわち、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値の傾きは、大きな値を有する。そこで、制御装置100は、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きを算出する。これにより、制御装置100は、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きに基づいて、ノッキングの誤判定が発生した第1運転領域A1ないし第9運転領域A9を特定できる。
【0065】
一方、
図4に示すように、ノッキングの誤判定が発生した運転領域の学習値のグラフの形状は、ノッキングの誤判定が発生していない運転領域の学習値のグラフの形状と大きく異なる。そこで、制御装置100は、
図9のように第1学習値X1および第5学習値X5の両方が時間経過と共に緩やかに増加している場合には、第1運転領域A1および第5運転領域A5の両方にノッキングの誤判定が発生していないと判定する。また、制御装置100は、
図10のように第1学習値X1および第5学習値X5の両方が時間経過と共に急激に増加している場合には、一時的にノッキングが発生したと判定し、第1運転領域A1および第5運転領域A5の両方にノッキングの誤判定が発生していないと判定する。また、制御装置100は、
図11のように第1学習値X1が時間経過と共に緩やかに増加しているのに対して、第5学習値X5が時間経過と共に急激に増加している場合には、第5運転領域A5にノッキングの誤判定が発生していると判定する。制御装置100は、第1学習値X1ないし第9学習値X9の全ての学習値に対して、上記処理を行う。これにより、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生した第1運転領域A1ないし第9運転領域A9を特定できる。
【0066】
(その他の実施形態)
本発明に係る制御装置は、制御装置100,100a,100bに限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。
【0067】
なお、燃料は、ガソリン以外であってもよい。燃料は、ガソリン以外の炭化水素燃料であってもよいし、バイオエタノール燃料等のアルコール燃料であってもよい。
【0068】
なお、自動車は、三輪自動車であってもよいし、二輪自動車であってもよい。二輪自動車は、コーナーの進行方向と同方向に車体が傾斜するリーン車両である。三輪自動車は、リーン車両であってもよいし、コーナーの進行方向と逆方向にロールする車両であってもよい。
【0069】
なお、制御装置100は、ノッキングが発生したと判定した場合、学習値を減少させる学習値変化処理を行ってもよい。すなわち、制御装置100は、第M運転領域において内燃機関が運転している時にノッキングセンサから取得したノッキング信号gに基づいてノッキングが発生したと判定した場合、第M学習値を変化させる学習値変化処理を行えばよい。
【0070】
なお、第1パラメータP1は、(1)~(7)のパラメータのいずれかである。ただし、(1)~(7)のパラメータが負の値を取る可能性が有る。具体的には、(2)のパラメータにおいて、第1学習値X1ないし第9学習値X9の内の最小値から第1学習値X1ないし第9学習値X9の中央値を減算すると、負の値が得られる。そこで、第1学習値X1ないし第9学習値X9のばらつきに関連する第1パラメータP1の絶対値が第1所定値Y1より大きい場合、制御装置100は、ノッキングが発生したとの判定が誤りであったと判定する判定処理を行えばよい。
【0071】
第1学習値X1ないし第9学習値X9が減少する場合、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きは、負の値である。そこで、第1学習値X1の傾きの絶対値ないし第N学習値XNの傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、制御装置100は、ノッキングが発生したとの判定が誤りであったと判定する判定処理を行えばよい。
【0072】
なお、第1パラメータP1が負の値であり、第1学習値X1の傾きないし第9学習値X9の傾きが負の値である場合がある。この場合、制御装置100は、第1パラメータP1の絶対値が第1所定値Y1より大きい場合、第2所定値Y2より大きな絶対値の傾きを有する学習値を特定する第1特定処理を行えばよい。
【0073】
なお、第1学習値X1ないし第9学習値X9が減少する場合、第1学習値X1ないし第9学習値X9が負の値である可能性が有る。制御装置100aは、第1学習値X1の絶対値ないし第N学習値の絶対値の少なくとも1つが第2閾値より大きい場合、特定処理を行えばよい。さらに、制御装置100aは、第2閾値より大きな絶対値を有する学習値を特定する第1特定処理を行えばよい。
【0074】
なお、第1学習値X1の傾きの絶対値ないし第N学習値XNの傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する場合、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したと特定する特定処理を行ってもよい。すなわち、(A)および/または(B)の条件が満たされたら、制御装置100は、ノッキングの誤判定が発生したと特定してもよい。
(A)第1学習値X1ないし第N学習値XNのばらつきに関連する第1パラメータP1の絶対値が第1所定値Y1より大きい。
(B)第1学習値X1の傾きないし第N学習値XNの傾きの絶対値の中に第2所定値Y2より大きい値が存在する。
【0075】
なお、運転領域は、第1運転領域A1ないし第N運転領域ANを含んでいればよい。Nは、2以上の整数である。
【0076】
なお、内燃機関11は、ポート噴射形式のレシプロエンジンに限らない。内燃機関11は、直噴形式の内燃機関であってもよい。また、内燃機関11は、ロータリーエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0077】
10:車両
11:内燃機関
32:電子スロットル
38:クランク角センサ
40:ノッキングセンサ
42:スロットルポジションセンサ
100,100a,100b:制御装置
102:記憶装置
A1:第1運転領域
A2:第2運転領域
A3:第3運転領域
A4:第4運転領域
A5:第5運転領域
A6:第6運転領域
A7:第7運転領域
A8:第8運転領域
A9:第9運転領域
AL:第L運転領域
AM:第M運転領域
AN:第N運転領域
R1:吸気経路
R2:排気経路