(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025111314
(43)【公開日】2025-07-30
(54)【発明の名称】アモルファス変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20250723BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20250723BHJP
H01F 27/25 20060101ALI20250723BHJP
【FI】
H01F27/32 140
H01F37/00 A
H01F27/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005667
(22)【出願日】2024-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】角 考弘
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 諒介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓弥
【テーマコード(参考)】
5E044
【Fターム(参考)】
5E044CA09
5E044CB01
5E044CB03
(57)【要約】
【課題】
アモルファス変圧器の信頼性を向上する。
【解決手段】
コイルの平面に対応した平坦部が設置され、コイルの内周面とアモルファス鉄心の外周面との間に折り込み部が配置される絶縁部材を有するアモルファス変圧器において、前記絶縁部材の折り込み部は、角部での長さが、辺の他の部分より短くなることを回避した構造であるアモルファス変圧器。
【選択図】
図1G
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの平面に対応した平坦部が設置され、コイルの内周面とアモルファス鉄心の外周面との間に折り込み部が配置される絶縁部材を有するアモルファス変圧器において、
前記絶縁部材の折り込み部は、角部での長さが、辺の他の部分より短くなることを回避した構造であるアモルファス変圧器。
【請求項2】
請求項1記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は、角部で他の辺の折り込み部と突き合わさっているアモルファス変圧器。
【請求項3】
請求項2記載のアモルファス変圧器において、前記突合せにより全周に前記折り込み部が形成されているアモルファス変圧器。
【請求項4】
請求項3記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は前記突合せの部分で隣接する辺同士が絶縁テープで一体化されているアモルファス変圧器。
【請求項5】
請求項4記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は、辺の途中で複数の折り込み部が重畳している領域を有するアモルファス変圧器。
【請求項6】
請求項5記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は、角部で最も長いアモルファス変圧器。
【請求項7】
請求項6記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部の角部は、長さが異なる2つの折り込み部により構成されるアモルファス変圧器。
【請求項8】
請求項7記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は前記コイルの内周面に接着されているアモルファス変圧器。
【請求項9】
請求項8記載のアモルファス変圧器において、前記絶縁部材は、前記コイルの平面に対応した平坦部で複数の絶縁部材が重畳した領域を有するアモルファス変圧器。
【請求項10】
請求項9記載のアモルファス変圧器において、前記平坦部で複数の絶縁部材が重畳した領域で、前記複数の絶縁部材が絶縁テープで一体化されているアモルファス変圧器。
【請求項11】
請求項4記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は、各辺では長さが均一であり、角部で長さが変わるアモルファス変圧器。
【請求項12】
請求項11記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は前記コイルの内周面に接着されているアモルファス変圧器。
【請求項13】
請求項12記載のアモルファス変圧器において、前記絶縁部材は、前記コイルの平面に対応した平坦部で複数の絶縁部材が重畳した領域を有するアモルファス変圧器。
【請求項14】
請求項13記載のアモルファス変圧器において、前記平坦部で複数の絶縁部材が重畳した領域で、前記複数の絶縁部材が絶縁テープで一体化されているアモルファス変圧器。
【請求項15】
請求項2記載のアモルファス変圧器において、前記折り込み部は、前記角部で、直交して突き合わさっているアモルファス変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアモルファス変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換の効率が高く、環境性能に優れた変圧器として、鉄心にアモルファス薄膜の積層体を用いたアモルファス変圧器が知られている。その一例として、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、アモルファス鉄心をコイルに挿入する際に、アモルファス破片のコイルへの侵入を抑止する目的で、第2の絶縁部材3をアモルファス鉄心の挿入前にコイル端部に設置することが開示されている。特許文献1記載の方式でも、所定の目的は達成されると考えられる。しかし、本願発明者らは、さらに破片の侵入防止の確実性を向上することが、アモルファス変圧器の信頼性を一層向上するためには、より望ましいと考えた。
【0005】
そこで本願発明は、よりアモルファス破片のコイルへの侵入を抑止できるアモルファス変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段の一例を示すと、以下のようになる。
【0007】
コイルの平面に対応した平坦部が設置され、コイルの内周面とアモルファス鉄心の外周面との間に折り込み部が配置される絶縁部材を有するアモルファス変圧器において、前記絶縁部材の折り込み部は、角部での長さが、辺の他の部分より短くなることを回避した構造であるアモルファス変圧器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるアモルファス変圧器によれば、アモルファス破片のコイルへの侵入を、より確実に抑止できるため、アモルファス変圧器の信頼性を向上することが出来る。
【0009】
本願発明の更なる手段および更なる効果は、以下明細書全文を通じ明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の最初の形状を示す説明図である。
【
図1B】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、1次加工後の形状を示す説明図である。
【
図1C】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、形状を説明するための説明図である。
【
図1F】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、2次加工の様子を示す模式説明図である。
【
図1G】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、2次加工後の形状を示す説明図である。
【
図1J】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、2次加工後の形状を示す立体説明図である。
【
図1K】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、3次加工後の形状を示す立体説明図である。
【
図1L】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、4次加工後の形状を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、コイル挿入後の平面説明図である。
【
図3】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、コイル挿入後の断面説明図である。
【
図4】本発明の一実施例で用いる絶縁部材の、コイル挿入後の断面説明図である。
【
図5】本発明の一実施例で用いるアモルファス変圧器の、絶縁部材とアモルファス鉄心とコイルの位置関係を示す説明図である。
【
図6A】本発明の別の実施例で用いる絶縁部材の、最初の形状を示す説明図である。
【
図6B】
図6Aで切断前に短辺側であった辺の、1次加工後の形状を説明する立体図である。
【
図6C】
図6Aで切断前に長辺側であった辺の、1次加工後の形状を説明する立体図である。
【
図6D】本発明の他の実施例で用いる絶縁部材の、2次加工後の形状を示す立体説明図である。
【
図6E】本発明の他の実施例で用いる絶縁部材の、3次加工後の形状を示す立体説明図である。
【
図6F】本発明の他の実施例で用いる絶縁部材の、4次加工後の形状を示す説明図である。
【
図7】本発明の他の実施例で用いる絶縁部材の、コイル挿入後の平面説明図である。
【
図8】本発明の他の実施例で用いる絶縁部材の、最初の形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例0012】
図1Aは、本発明の一実施例で用いる絶縁部材の最初の形状を示す説明図である。絶縁部材母体1に対し、1次加工として、切断線2で切断するとともに、折り込み線3で折り込みを行う。絶縁部材母体としては、折り込みが可能な絶縁材料であることが求められるため、クラフト紙等が用いることが出来る。一例としては、厚さ0.25mm程度のクラフト紙である。
【0013】
図1Bは、1次加工を絶縁部材母体1に対し行った後の、1次加工後の形状のイメージを示す説明図である。絶縁部材母体1は、11a、12a、13a、14aと、計4つの切断後部材に分割される。切断後部材は、各々、長辺側折り込み部として、11b、12b、13b、14bを有する。また、短辺側折り込み部として、各々、11c、12c、13c、14cを有する。
【0014】
図1Cは、11aの形状を説明するための説明図である。X方向、Y方向を設定し、立体形状の理解を容易にするための図である。
【0015】
図1Dは、
図1CのX方向から見た立体図である。絶縁部材母体1に対し、折り込み部で折り曲げられて、長辺側折り込み部11bが形成されている。
【0016】
図1Eは、
図1CのY方向から見た立体図である。絶縁部材母体1に対し、折り込み部で折り曲げられて、短辺側折り込み部11cが形成されている。
【0017】
同様の加工が、11a、12a、13a、14aと、計4つの切断後部材に成されている。
【0018】
図1Fは、2次加工として、11a、12a、13a、14aの、計4つの部材を、中心に向けて寄せていく、2次加工の様子を示す説明図である。この2次加工としては、最終的に、11a、12a、13a、14aが各々重なり合うように、中心に向けて寄せていく。
【0019】
図1Gは、2次加工後の形状を示す説明図である。11aと12aは重なり部として、11a+12aを有する。同様に、部材間の重なり部として、11a+14a、13a+14a、12a+13の、計4つの重なり部を有することになる。
【0020】
形状の理解を容易にするため、
図1Gに、X方向とY方向を設定する。
【0021】
図1Hは、
図1GのA-A線周辺の立体構造を示す説明図である。左側に11a単独の領域、右側に12a単独の領域を有する。中央部に、11a+12aとして、11aと12aが重畳した領域が形成される。
【0022】
同時に、折り込み部11bと12bが形成される。この際の特徴は、2つの折り込み辺により形成される起立部として、角部が最も長く、中央付近に最も短い部分が形成されることである。換言すれば、角部に山部、中央に谷部が形成されるということもできる。また、角部に最も高い構造、あるいは最も長い構造が形成されるということもできる。さらには、角部の長さや高さが、その辺の他の部分より低くあるいは短くなることを回避する構造ということもできる。
【0023】
図1Iは、
図1GのB-B線周辺の立体構造を示す説明図である。形状の見方や考え方は
図1Hの場合と同様である。
【0024】
図1Jは、
図1Hと
図1Iを重ね合わせた状況を理解するための、2次加工後の形状を示す説明図であり、
図1Gの左上角部を見た立体図となる。図から明らかなように、角部で、14cと12bにより、最も絶縁部材が長くなる、あるいは高くなるように構成されることとなる。
【0025】
図1Kは、
図1Jに対し、3次加工として、絶縁テープ5を張り付けたことを示す図である。これにより、14cと12bが一体化され、絶縁構造が完成する。
【0026】
同様に、他の角部に対しても、同様の構造、処理により、全周に渡り、角部が最も低い部分ではない、すなわち角部が周の他の部分より短くなることを回避した構造となっている。
【0027】
ここで、特許文献1に開示された構造を見てみる。例えば、
図6で、第2の絶縁部材を折り曲げた構造を開示している。折り曲げるという概念自体は、本実施例での説明と類似する。違いは、その折り曲げ方と、折り曲げにより実現される構造の部分である。
【0028】
特許文献1に開示される構造では、
図6や他図で開示されるように、角部で折り込み部分が一番短い構造となる。いわば、角部が谷部となる構造である。
【0029】
一方、改めて本願発明の目的を鑑みると、それは、アモルファス鉄心をコイルに挿入する際に、アモルファス破片のコイルへの侵入を抑止することである。このとき、本願発明者らは、アモルファス鉄心をコイルに挿入する際に、もっともアモルファス鉄心からアモルファス破片が生じやすい部分がどこかを検討した結果、それは角部であることを見出したものである。
【0030】
なぜなら、アモルファス薄膜の積層により構成されるアモルファス鉄心であるが、角部では、アモルファス薄膜の再外層の薄膜の端部がコイルの角部に対向することになるため、接触等の外力が加わった際に、構造的に破損や破片の脱落が生じやすい、いわば最弱点となるためである。
【0031】
このため、本願発明者らは、さらに破片の侵入防止の確実性を向上し、アモルファス変圧器の信頼性を一層向上するには、角部での保護範囲を拡大することこそが、構造的に最適な対応策であることを見出したものである。
【0032】
そのため、本発明では、特許文献1に、結果的に開示されている構造である、絶縁部材が角部にて谷部となる構造に対し、積極的に角部を保護するため、角部が谷部にならない構造とすることを企図したものである。
【0033】
本実施例では、その一例として、角部で絶縁部材が。その周の中で最も短くなることを回避した。これにより、角部での保護を強化でき、アモルファス破片の脱落とその影響を低減することが実現する。本願発明の効果は、特許文献1に対し、この段階で顕著な違いが達成されているものである。このため、この段階で、本発明は、その技術思想と効果を主張するものである。
【0034】
特許文献1の場合、角部では折り込み部がない構造となっている。それに対し、本発明の技術思想では、折り込み部は、角部で他の辺の折り込み部と突き合わさっているということができる。
【0035】
また、さらに、前記突き合せにより、全周に前記折り込み部が形成されているということもできる。これにより、全集にわたり、アモルファス鉄心からのアモルファス破片の脱落に対する保護、抑制が実現できる。
【0036】
なおこの際、前記角部で、隣接する2つの折り込み部は直交して突き合わさっていると表現することも出来る。これにより、隙間なく、角部の保護が実現する。
【0037】
さらに、積極的に、角部で絶縁部材が最も長くなるようにする、あるいは最も高くなるようにすることで、さらに効果の向上を達成することも可能である。
【0038】
次に、3次加工として、
図1Gに対応する
図1Lで、平面的な絶縁部材の重なり部にも、絶縁テープ5が貼り付けされ、全体が一体化される。これにより、絶縁部材20が完成する。
【0039】
図2は、コイル8に対し、絶縁部材20が接地された様子を示す平面図である。絶縁部材20の折り込み部がコイル8の内周の内側に位置するような形状となっている。
【0040】
図3は、
図2の、直行方向での形状、もしくは立体形状を説明する模式立体図である。絶縁部材20の折り込み部21がコイル8の内周の内側に位置していることが、より容易に理解できる。
【0041】
図4は、
図3と同様であり、別辺の立体形状を説明する模式立体図である。絶縁部材20の折り込み部22がコイル8の内周の内側に位置していることが、より容易に理解できる。
なお、
図3の21は、
図1での11b、12b、13b、14bといった長辺側折り込み部に対応し、
図4の22は、
図1での11c、12c、13c、14cといった短辺側折り込み部に相当する。
【0042】
そして、これら折り込み部をコイル8と接着剤等で固着、固定することで、アモルファス鉄心挿入時の引っ掛かりを抑制し、よりアモルファス破片の発生や脱落の抑制を実現する。
【0043】
図5は、
図2に対し、アモルファス鉄心9の位置関係を追記した図である。アモルファス変圧器の完成時の、絶縁部材20周辺の絶縁平面構造の説明図となる。
図5からも想定されるように、アモルファス鉄心9の角部はアモルファス薄膜の最外層の端部が位置することになるため、そこに着目して保護を強化する本願発明の重要性と効果を理解することが出来る。
【0044】
完成系のアモルファス変圧器の構造自体は、絶縁部材20の形状や、その製造過程の方法を除けば、現在一般に用いられているアモルファス変圧器と同等であるため、記載の冗長化を回避する意図で、完成系のアモルファス変圧器の図示は省略している。
【0045】
なお、本願発明の技術思想や効果をこれまで主に形状面から述べた。
【0046】
一方、製造方法という観点で見ると、本実施例で説明した製造過程による絶縁部材20の形成は、角部が周の他の部分より短くなるのを回避する、もしくは角部に山部あるいは長い部分を形成するのに際し、1つの絶縁部材母体を折り紙の要領で加工、形成するという製造方法上の特徴も有する。むろん、完成系の形状が本願発明で説明の形状と同じ技術思想に至るものであれば、製造方法は特に限定するものではない。
【0047】
しかし、本実施例で説明の、折り紙の要領での絶縁部材の形成は、無駄な部材の発生が生じず、かつ確実に、角部に山部あるいは長い部分を形成することが出来るという顕著な特徴と、製造上の容易化を実現できるため、本願の技術思想を実現する上で、非常に好適な製造方法であるものである。
本実施例で実施例1の場合と異なるには、明確な山部や谷部は形成されず、辺の全域に渡り折り込み部の高さあるいは長さは同一となる点である。本実施例によっても、角部が谷部あるいは最も低い部分となることを回避できるため、実施例1で説明した各種の効果を奏することが出来る。