(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001116
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】機能性材料
(51)【国際特許分類】
D21H 21/36 20060101AFI20241225BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
D21H21/36
D21H21/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100522
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】304040072
【氏名又は名称】丸住製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】西村 朱十
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AC06
4L055AG03
4L055AG10
4L055AG36
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】 無機多孔結晶等を介することなく、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持させたパルプ含む機能性材料を提供する。
【解決手段】 本発明の機能性材料は、セルロースの水酸基の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されたパルプに、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持させた金属イオン担持パルプを含み、消臭、抗菌及び防カビからなる群から選択される少なくとも一つの機能を発現させることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの水酸基の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されたパルプに、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持させた金属イオン担持パルプを含み、
消臭、抗菌及び防カビからなる群から選択される少なくとも一つの機能を発現させることを特徴とする、機能性材料。
【請求項2】
前記アルカリ金属イオン以外の金属イオンは、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、クロムイオン、錫イオン、バリウムイオン及び鉛イオンからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1記載の機能性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
木材由来パルプ等の親水性高分子内部にゼオライト等の無機多孔結晶を有し、当該無機多孔結晶に金属イオンを担持させた機能性材料が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、特許文献1に記載の機能性材料は、パルプ等の内部の無機多孔結晶に金属イオンを担持させたものである。これに対し、無機多孔結晶を介することなく、パルプに直接金属イオンを担持させることができれば、利便である。
【0005】
そこで、本発明は、無機多孔結晶等を介することなく、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持させたパルプを含む機能性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の機能性材料は、
セルロースの水酸基の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されたパルプ(以下、「硫酸エステル基導入パルプ」という。)に、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持させた金属イオン担持パルプを含み、
消臭、抗菌及び防カビからなる群から選択される少なくとも一つの機能を発現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の機能性材料におけるパルプは、そのセルロースの水酸基の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されていることで、無機多孔結晶等を介することなく、アルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、硫酸エステル基導入パルプに金属イオンを担持させる方法の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、硫酸エルテル基導入パルプにアルカリ金属イオン以外の金属イオンが担持される推定メカニズムについて説明する模式図である。
【
図3】
図3は、金属イオン標準液を用いて作成した、金属イオン濃度(ppm(mg/L))の範囲と対応する吸光度の検量線を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例における金属イオン濃度(ppm(mg/L))と、金属イオン担持量(mmol/g)との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(A)は、実施例における硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量(mmol/g)と、Cu
2+(銅(II)イオン)の最大担持量(mmol/g)との関係を示すグラフである。
図5(B)は、硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量(mmol/g)と、硫酸エステル基とCu
2+のモル比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の機能性材料における金属イオン担持パルプは、硫酸エステル基導入パルプに、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが担持されたものである。
【0010】
前記硫酸エステル基導入パルプは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材であり、含まれるセルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が、式(1)で示される硫酸エステル基で置換されたものである。
【0011】
(-OSO3
-)r・Zr+ (1)
式(1)において、
rは、独立した1~7の自然数であり、
Zr+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属イオン、1価の遷移金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン、及び、カチオン性高分子からなる群から選択される少なくとも1つであり、r=2以上のとき、アルカリ土類金属イオン、多価金属イオン、及び、カチオン性官能基(例えば、ジアミン等)を分子内に2つ以上含む化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0012】
なお、式(1)において、特にr=2以上のとき、前記硫酸エステル基導入パルプには、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが担持されていることがあるが、後述する方法で調製された硫酸エステル基導入パルプでは、多くの場合、r=1となり、Zr+は、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンである。また、式(1)における1価の陰イオン部分を、硫酸エステル基ということもできる。
【0013】
<硫酸エステル基導入パルプの物性>
前記硫酸エステル基導入パルプの物性は、特に限定されないが、例えば、つぎのとおりである。
【0014】
<硫酸エステル基の導入量>
硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量は、例えば、0.6mmol/g以上、0.8mmol/g以上、1mmol/g以上、1.2mmol/g以上となるように調整されていることが好ましい。
【0015】
なお、上限値は、特に限定されないが、結晶性が低下することに起因する繊維の崩壊及びコストの増加を抑制する観点から、例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量が、9.9mmol/g以下、5mmol/g以下である。
【0016】
<硫酸エステル基の導入量の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量で評価したり、直接的に硫酸エステル基を測定することで評価し得る。例えば、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、CHNS/O元素分析装置で測定し得る。また、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、電気伝導度測定により算出することもできる。
【0017】
<結晶化度>
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、結晶構造としてセルロースI型結晶構造を有しており、その結晶化度が75%以下であってもよい。また、繊維形状を維持する観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、30%以上が好ましい。さらに、硫酸エステル基導入パルプの調製における取扱性の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、30%以上、40%以上である。
【0018】
<結晶化度の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、X線回折装置を用いて測定し得る。
【0019】
<平均繊維長>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長は、特に限定されず、例えば、0.2mm~2mm、0.2mm~1.8mm、0.2mm~1.5mm、0.2mm~1mmである。
【0020】
<短繊維長(%)>
また、硫酸エステル基導入パルプは、以下のような繊維長が短いパルプを含んでもよい。この繊維長が短いパルプ(以下、「短繊維」という。)としては、例えば、繊維長分布において、0.04mm以上0.2mm以下の繊維長を有するパルプが挙げられる。硫酸エステル基導入パルプにおける短繊維の含有率(%)(すなわち、短繊維率(%))は、例えば、10%以上、15%以上である。
【0021】
硫酸エステル基導入パルプは、取扱性の観点では、前記短繊維の含有率(%)(すなわち、短繊維率(%))が、繊維長分布において、例えば、10%~70%、10%~60%、10%~50%、10%~45%、15%~45%である。
【0022】
<平均繊維幅>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維幅は、特に限定されず、例えば、5μm~10μm、10μm~50μm、20μm~40μm、20μm~30μmである。
【0023】
<平均繊維長、平均繊維幅及び繊維分布の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長及び平均繊維幅は、例えば、ISO 16065-2:2007に準拠したローレンツェン&ベットレー社製のファイバーテスターや繊維長分布測定器を用いて測定し得る。また、硫酸エステル基導入パルプにおける繊維長分布及び繊維幅分布は、例えば、ISO 16065-2:2007に準拠した繊維長分布測定器を用いて測定し得る。
【0024】
<粘度>
硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が前述の値以下の場合、例えば、分散液が所定の粘度を有する。例えば、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が70%以下の場合において、硫酸エステル基導入パルプを水に分散させた分散液における粘度が、1000mPa・s以上、5000mPa・s以上、10000mPa・s以上である。特に、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が60%以下であれば、分散液の粘度が増加する傾向にある。また、平均繊維長が1mm以下であれば、その傾向がより強くなる。
【0025】
<粘度の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの粘度(mPa・s)は、例えば、測定温度20℃で、B型粘度計を用いて測定でき、回転数6rpmと回転数60rpmで測定を行い、各々の粘度値からチキソトロピー性指数TI値を算出することもできる。
TI値=(回転数6rpmの粘度)/(回転数60rpmの粘度)
【0026】
TI値は、適宜調整することができ、高いTI値が必要とされる場合には、TI値の下限値は、例えば、3以上、4以上、5以上である。また、TI値の上限値は、例えば、10以下、8以下、6以下、5以下である。一方で、低いTI値が好適な場合には、下限値は、例えば、1以上であり、上限値は、例えば、3以下、2.5以下である。
【0027】
前記硫酸エステル基導入パルプは、例えば、以下に示す方法により得ることができるが、この方法に限定されない。
【0028】
この方法の概略は、セルロースを含む繊維原料(例えば、木材系のパルプ(以下、単に「木材パルプ」という。)等)を化学処理に供することによって硫酸エステル基導入パルプを調製するものである。この化学処理工程は、前記繊維原料を、後述する硫酸エステル基供与化合物と、尿素又は尿素誘導体(以下、「尿素等」という。)とに接触させる接触工程と、この接触工程後の繊維原料を加熱反応に供してセルロースの水酸基の一部を硫酸エステル基で置換する反応工程と、を含む。
【0029】
なお、本明細書において、繊維原料とは、セルロース分子を含む繊維状のパルプ等をいう。パルプとは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材である。このセルロース繊維は、複数の微細繊維(例えば、ミクロフィブリル等)が集合したものである。そして、この微細繊維とは、D-グルコースがβ(1→4)グルコシド結合した鎖状の高分子であるセルロース分子(以下、単に「セルロース」ということがある。)が複数集合したものである。また、繊維原料は、事前に洗浄することが好ましい。例えば、200メッシュ若しくは235メッシュのふるい上で水を使ってろ過脱水することで、細かすぎる微細繊維やゴミをふるい落とすことができ、調製時の取扱性が向上するため望ましい。言い換えれば、200メッシュや235メッシュの残渣となり得るサイズのセルロース繊維が集合したものがパルプである。前記水は、水道水であってもよいが、イオン交換水又は純水であることが好ましく、これ以降において同様である。
【0030】
この方法に用いられる繊維原料は、前述したようにセルロースを含むものであれば、特に限定されず、例えば、一般的にパルプといわれるものを用いてもよいし、ホヤや海藻等から単離されるセルロース等を含むものを用いることもでき、セルロース分子で構成されるものであれば、どのようなものであってもよい。前記パルプとしては、例えば、木材パルプ、溶解パルプ、コットンリンタ等の綿系のパルプ、麦わら、バガス、楮、三椏、麻、ケナフ、果物等の非木材系のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙等から調製された古紙系のパルプ等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、入手のしやすさの観点から、木材パルプが繊維原料として用いやすい。
【0031】
この木材パルプには、様々な種類が存在するが、使用に際して特に限定されず、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプ等が挙げられる。なお、繊維原料として前記パルプを用いる場合、1種類のパルプを単独で用いてもよいし、2種類以上のパルプを併用してもよい。
【0032】
前記硫酸エステル基供与化合物は、繊維原料に硫酸エステル基を供与可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、スルファミン酸、スルファミン酸塩、硫黄と共有結合する2つの酸素を持つスルホニル基を有するスルフリル化合物等が挙げられ、これらの化合物の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記硫酸エステル基供与化合物は、硫酸等と比べて酸性度が低く、硫酸エステル基の導入効率が高く、安価で、安全性が高いことから、スルファミン酸が好ましい。これ以降、前記硫酸エステル基供与化合物として、スルファミン酸を、前記尿素等として、尿素を用いた場合を例にとり、説明する。
【0033】
<接触工程>
接触工程は、セルロースを含む繊維原料を、スルファミン酸と、尿素とに接触させる工程である。この接触工程は、前記接触を起こさせることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、スルファミン酸及び尿素を溶媒に溶解させた反応液に繊維原料を浸漬等して反応液を繊維原料に含浸させてもよいし、繊維原料に対してかかる反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対してスルファミン酸及び尿素をそれぞれ別々に塗布したり、含浸させたり、スプレー噴霧してもよい。これらのうち、反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を用いれば、均質にスルファミン酸及び尿素を繊維原料に接触させやすい。
【0034】
なお、スルファミン酸及び尿素を溶解させる溶媒は、特に限定されず、例えば、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、2-プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水等のプロトン性極性溶媒、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。特に、スルファミン酸及び尿素を溶かしやすい観点から、水が好ましい。
【0035】
なお、この接触工程により繊維原料にスルファミン酸及び尿素を接触させた状態のものを「反応液含浸繊維」ということがある。
【0036】
<反応液の接触量>
繊維原料への反応液の接触においては、繊維原料に対して反応液中のスルファミン酸及び尿素が所定の割合となるようにすることが好ましい。具体的には、反応工程に供する際の反応液含浸繊維中の繊維原料に対する反応液中のスルファミン酸の量及び尿素の量が適切な量となるように接触させる。より具体的には、反応工程の加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料(乾燥質量である固形分質量)に対するスルファミン酸の接触量が、尿素の接触量と同程度かそれよりも多くなるように調整する。
【0037】
例えば、反応液は、スルファミン酸及び尿素の混合比が、質量比において、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の質量部を、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対する尿素の質量部で除した値(スルファミン酸/尿素)が0.8以上、0.85以上、1以上となるように調製する。
【0038】
また、例えば、スルファミン酸の接触量は、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して、70質量部以上、100質量部以上、200質量部以上となるように調整する。
【0039】
また、例えば、尿素の接触量、すなわち、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対する尿素の接触量は、スルファミン酸との前記関係を維持しつつ、繊維原料の固形分質量100質量部に対して、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上となるように調整する。また、尿素の接触量の上限値は、特に限定されないが、例えば、前記繊維原料の固形分質量100質量部に対して、350質量部以下、300質量部以下、250質量部以下である。
【0040】
前記繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の接触量及び尿素の接触量は、例えば、反応工程に供する反応液含浸繊維の状態に応じて適宜算出できる。
【0041】
<反応液含浸繊維の状態>
前述した、次工程の反応工程に供する反応液含浸繊維の状態としては、例えば、反応液含浸繊維をそのままの状態、すなわち、繊維原料と反応液を接触させたままで積極的な水分除去を行わない状態のものや、繊維原料と反応液を接触させた状態のものから水分を積極的に除去した状態のもの、等を挙げることができる。
【0042】
前者(積極的な水分除去を行わない状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態(例えば、スラリー状の状態等を含む)のものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものから繊維原料を取り出して静置して調製したもの等を含む。
【0043】
一方、後者(積極的な水分除去を行った状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態から水分を意識的に除去したものをいう。例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態から繊維原料を取り出して風乾等により自然乾燥させて調製したものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものをろ過脱水して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに風乾して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに循環送風式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを循環送風式の乾燥機や加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、等を含む。
【0044】
このように、反応工程に供する反応液含浸繊維は、前述した積極的な水分除去を行わない状態のものや、積極的な水分除去を行ってある程度の水分を除去した状態のものであってもよい。また、乾燥により水分を除去する場合には、乾燥後の水分率が1%程度であっても特に問題がない。特に、後者の方法を用いれば、反応工程に供する反応液含浸繊維中の水分を低くできるので、反応工程の加熱反応における反応時間を短くできる。このため、硫酸エステル基導入パルプの生産性を向上し得るという利点がある。また、脱水処理を行う方法を用いれば、反応液を多量に処理する際より効率よく反応液含浸繊維を調製し得るという利点がある。
【0045】
なお、積極的に乾燥する方法を用いる場合、反応液含浸繊維の水分率が1%程度まで乾燥してもよく、1%よりもかなり低い絶乾状態にまで乾燥する方法で水分を除去してもよい。
【0046】
なお、本明細書では、反応液含浸繊維の水分率が1%以上の非絶乾状態のものを湿潤状態ともいう。例えば、反応液を含浸等させたままの状態のものやある程度脱水処理した状態のものはもちろん、ある程度乾燥処理した状態のものも、本明細書では湿潤状態ということがある。
【0047】
また、本明細書にいう絶乾とは、例えば、塩化カルシウムや五酸化二リン等の乾燥剤を入れたデシケータ等で減圧したり、長時間加熱乾燥処理を行って水分率を1%よりも低くした状態のものを意味する。
【0048】
したがって、接触工程において、前述の後者の方法(積極的な水分除去を行った状態での反応方法)を用いる場合には、反応液含浸繊維の水分率を非絶乾状態にする方法を用いてもよいし、絶乾状態にする方法を用いてもよいが、好ましくは非絶乾状態にする方法を用いるのがよい。
【0049】
なお、本明細書における反応液含浸繊維の水分率は、下記式を用いて算出される。
反応液含浸繊維の水分率(%)=100-(反応液含浸繊維における固形分質量(g)/水分率測定時における反応液含浸繊維(g))×100={(水分率測定時における反応液含浸繊維(g)-反応液含浸繊維における固形分質量(g))/水分率測定時における反応液含浸繊維(g)}×100
【0050】
上記式中の反応液含浸繊維における固形分質量(g)とは、反応液含浸繊維の乾燥質量をいう。具体的には、乾燥機等を用いて試料を105℃で乾燥させて恒量となるように調整された乾燥質量をいう。例えば、反応液含浸繊維を乾燥機に入れ、所定の乾燥条件(例えば、温度105℃、2時間)で乾燥して質量を測定することにより、反応液含浸繊維から水分が除去された後の乾燥したもの(すなわち、前記乾燥条件で除去されないもの。例えば、繊維原料や反応液中の試薬等を含むもの)の質量を算出できる。また、恒量とは、処理施設内における雰囲気中の水分と原料中の水分が見かけ上出入りしなくなる状態のことを意味する。具体的には、一定時間(例えば、2時間)乾燥させた後、連続して測定した2回の質量の変化量が乾燥開始時の質量に対して1%以内となった状態を意味する(ただし、2回目の質量測定は、1回目に要した乾燥時間の半分以上とする)。
【0051】
なお、反応液を接触させる際の繊維原料の状態は、特に限定されず、例えば、乾燥した状態であってもよいし、ウェットの状態(すなわち、湿潤状態)であってもよい。
【0052】
<接触工程における予備乾燥工程>
前記例で、接触工程における反応液含浸繊維の調製方法において、積極的な水分除去を行った状態の反応液含浸繊維を調製する方法について説明したが、この方法で加熱しながら水分を除去する方法(予備乾燥工程)を用いる場合(例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを直接加熱乾燥したり、脱水処理したものを加熱乾燥するような場合等)には、加熱温度が所定の温度以下となるように調整するのが望ましい。この予備乾燥工程における乾燥温度は、特に限定されないが、反応液含浸繊維に含まれる水分や周囲の水分を除去でき、且つ、前記反応が進行しない温度となるように調整されていることが好ましい。例えば、予備乾燥工程における乾燥温度として、反応液含浸繊維の雰囲気温度が100℃以下となるように調整できる。一方、作業性の観点では、50℃以上となるように調整するのが好ましい。したがって、接触工程における予備乾燥工程の乾燥温度は、好ましくは50℃~100℃、70℃~100℃である。
【0053】
<接触工程における水分調整工程>
接触工程は、反応液と接触させる繊維原料の水分率を所定の範囲内に入るように調整する水分調整工程を含んでもよい。この水分調整工程は、繊維原料が所定の水分率となるように乾燥したり、加湿したりして所定の水分量となるように調整する工程である。この水分調整工程を含むことにより、反応液等と接触させる際の繊維原料中の水分量をある程度均質にできるので、連続操業における製品安定性を向上させる可能性がある。また、繊維原料をある程度乾燥して水分量を少なくすれば(例えば、水分率が1%~10%)、保管性を向上させ得るという利点がある。
【0054】
<反応工程>
前述のごとく、接触工程で調製された反応液含浸繊維は、次工程の反応工程に供される。この反応工程は、接触工程から供された反応液含浸繊維中の、繊維原料に含まれるセルロース繊維と、スルファミン酸と、尿素とを反応させて、セルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部をスルファミン酸の硫酸エステル基に置換させて、繊維原料に含まれるセルロース繊維に硫酸エステル基を導入する工程である。すなわち、この反応工程は、反応液含浸繊維に含まれるセルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部を、硫酸エステル基に置換する反応を行う工程である。
【0055】
この反応工程は、反応液含浸繊維中のセルロース繊維の水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換する反応が可能な方法であれば、特に限定されず、例えば、反応液含浸繊維を加熱することにより反応を促進させる方法を用い得る。以下、この加熱方法により反応を行う場合を例にとり、説明する。
【0056】
<反応工程における反応温度>
反応工程における反応温度は、特に限定されないが、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、前記繊維原料を構成するセルロース繊維に硫酸エステル基を導入できる温度であることが好ましい。例えば、反応工程に供した反応液含浸繊維の雰囲気温度が、100℃~200℃、120℃~200℃、120℃~180℃、120℃~160℃となるように調整する。加熱時における雰囲気温度が200℃以下であれば、繊維の熱分解及び変色を抑制できる。
【0057】
なお、反応工程に用いられる加熱器等は、特に限定されず、例えば、接触工程後の反応液含浸繊維を直接的又は間接的に前記要件を満たしながら加熱可能なものを用いることができ、公知の乾燥機、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置、熱プレス機(例えば、アズワン(株)製のAH-2003C)を用いたホットプレス法等を用い得る。特に、操作性の観点では、反応工程でガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を用いるのが好ましい。
【0058】
<反応工程における反応時間>
反応工程として前記加熱方法を用いる場合の加熱時間(すなわち、反応時間)は、特に限定されないが、例えば、反応温度を前記範囲となるように調整した場合、1分以上、5分以上、10分以上、15分以上であり、操作性及びコストの観点からは、5分~300分、5分~120分である。
【0059】
以上のごとき工程を行うことにより、硫酸エステル基導入パルプを調製できる。
【0060】
<反応工程後の洗浄工程>
反応工程の後に、硫酸エステル基導入パルプを洗浄する洗浄工程を含んでもよい。硫酸エステル基導入パルプは、スルファミン酸(硫酸エステル基供与化合物)の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にする洗浄工程を設ければ、取扱性を向上できる。
【0061】
この洗浄工程は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプがほぼ中性になるようにできればよい。例えば、硫酸エステル基導入パルプが中性になるまで純水等で洗浄するという方法を用い得る。また、アルカリ溶液等を用いた中和洗浄を行ってもよい。かかる中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物等が挙げられる。そして、無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物等が挙げられる。
【0062】
なお、洗浄工程における硫酸エステル基導入パルプの分取は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプと洗浄水との濾別ができればよい。例えば、反応後の硫酸エステル基導入パルプの洗浄は、目開き243μm(70メッシュ)~20μm(635メッシュ)、目開き132μm(120メッシュ)~45μm(300メッシュ)、目開き75μm(200メッシュ)~45μm(300メッシュ)のステンレスふるいを用いて洗浄するという方法を用い得る。
【0063】
前記アルカリ金属イオン以外の金属イオン(以下、単に「金属イオン」ということがある。)としては、例えば、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、クロムイオン、錫イオン、バリウムイオン、鉛イオン等が挙げられる。
【0064】
つぎに、
図1を参照して、前記硫酸エステル基導入パルプに金属イオンを担持させる方法の一例について説明するが、前記方法は本例に限定されない。
【0065】
図1に示すとおり、蓋付きの容器3に金属イオンの水溶液2を入れた後、金属イオンの水溶液2に硫酸エステル基導入パルプ1を沈め、容器3に蓋をして、所定時間金属イオンの水溶液2に硫酸エステル基導入パルプ1を浸漬させる。前記浸漬後、200メッシュのふるい上で硫酸エステル基導入パルプ1を多量の水で洗浄することで、金属イオンを担持させた硫酸エステル基導入パルプ(本発明における金属イオン担持パルプ)を得ることができる。
【0066】
金属イオンの水溶液2における金属イオンの濃度は、例えば、100ppm~1000ppm(100mg/L~1000mg/L)である。さらに濃度の高い金属イオンの水溶液2を採用すれば、硫酸エステル基導入パルプへの金属イオンの担持に要する時間を短くできる。一方で、金属イオンの水溶液2の濃度を高くすると硫酸エステル基導入パルプに担持されなかった金属イオンが増加することが予期され、排水処理する際の負荷を考慮すれば、金属イオンの水溶液2の濃度を適度なものとすることが望ましい。
【0067】
金属イオンの水溶液2の量(体積)と、それに浸漬させる硫酸エルテル基導入パルプ1の質量との比率は、特に限定されないが、例えば、50mLの金属イオンの水溶液2に対して、0.5gの硫酸エステル基導入パルプ1となる程度の比率とすればよい。
【0068】
金属イオンの水溶液2に硫酸エステル基導入パルプ1を浸漬させる時間も、特に限定されないが、例えば、5分程度かそれ以上とすればよい。
【0069】
つぎに、
図2を参照して、硫酸エステル基導入パルプにアルカリ金属イオン以外の金属イオンが担持される推定メカニズムについて説明する。
図2に模式的に示すように、
図1に示す金属イオンの水溶液2中において、硫酸エステル基導入パルプ1に担持されていたアルカリ金属イオン(
図2においては、Na
+(ナトリウムイオン))が、アルカリ金属イオン以外の金属イオン(
図2においては、Cu
2+)に交換されること等により、硫酸エステル基導入パルプにアルカリ金属イオン以外の金属イオンが担持されると推定される。ただし、本発明は、この推定に限定されない。硫酸エステル基導入パルプに担持されるアルカリ金属イオン以外の金属イオンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0070】
なお、硫酸エステル基導入パルプがアルカリ金属イオン以外の金属イオンを担持可能であり、且つ、前記金属イオンは、前記硫酸エステル基導入パルプに対して最大量担持されることが、後述の実施例で実証されている。
【0071】
本発明の金属イオン担持パルプを含む機能性材料は、消臭、抗菌及び防カビのいずれか1つ又は2つ以上の機能を発現可能である。アルカリ金属イオン以外の金属イオンが消臭及び抗菌機能を発現させることが、前述の特許文献1(特許第4149066号)に記載されており、当該特許公報の特許権者(レンゴー(株))のホームページには、それらに加え、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが防カビ機能を発現させることが記載されている
(https://www.rengo.co.jp/products/functional/cellg.html)。また、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが消臭機能を発現することは、東亜合成研究年報 第3号 52~56(2000)、愛媛県産業技術研究所研究報告 No.54 6~10(2016)にも記載されている。そして、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが抗菌機能を発現させることは、日本家政学会誌 Vol.53 No.9 927~935(2002)にも記載されている。さらに、アルカリ金属イオン以外の金属イオンが抗菌及び防カビ効果を発現させることは、愛産研食品工業技術センターニュース2008年9月号にも記載されている(https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/s_no34_2_01.pdf)。
【実施例0072】
(硫酸エステル基導入パルプの調製)
丸住製紙(株)製の平均繊維長が2.54mmの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)(以下、単に「パルプ」ということがある。)を、大量のイオン交換水で洗浄後、目開き75μm(200メッシュ)のふるいで水を切った。このようにして得たパルプの一部をとりわけ固形分濃度を測定したところ、21.6質量%であった。前記イオン交換水としては、オルガノ(株)のイオン交換水生成装置(型番:G-5DSTSET)で測定される電気伝導度が0.1μS/cm~0.2μS/cmのものを用い、これ以降、それを純水という。その後、湿潤状態のパルプをアルミパッドに広げ、105℃雰囲気下の乾燥機に入れ、水分率が約1%に達するまで約1時間乾燥させた。
【0073】
<接触工程>
パルプ20g(固形分質量)に反応液1000gを加え、反応液をパルプに含浸させた。前記反応液としては、スルファミン酸と尿素の混合比が、濃度比(g/L)において、スルファミン酸:尿素=200g/L:400g/Lとなるように混合した水溶液を用いた。前記スルファミン酸としては、扶桑化学工業(株)製、純度99.8%を、前記尿素としては、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.0%、型番:特級試薬を用いた。
【0074】
反応液を含浸させたパルプを吸引ろ過により脱水して、アルミバットに広げた。ついで、このアルミパッドを80℃雰囲気下の乾燥機に入れて乾燥し、反応液含浸パルプを調製した。前記吸引ろ過には、ろ紙(Advantech社製、型番:No.2)を用いた。
【0075】
<反応工程>
前記反応液含浸パルプを、乾燥機を用いて加熱反応に供した。前記乾燥機の恒温槽の温度は、120℃、加熱時間は、25分とした。
【0076】
<反応工程後の洗浄工程>
前記反応工程後のパルプを、目開き45μm(300メッシュ)のふるい上で中和後、純水で洗浄した。中和剤としては、炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)水溶液を用いた。このようにして、硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプを調製した。
【0077】
(金属イオンの担持)
図1に示すように、所定の濃度(ppm(mg/L))に調製した金属イオン(Cu
2+又はZn
2+(亜鉛(II)イオン))の水溶液50mLに硫酸エステル基導入パルプ0.5gを沈め、5分間浸漬させた。なお、金属イオンの水溶液は、金属塩化物(塩化銅(II)二水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)又は塩化亜鉛(II)(富士フイルム和光純薬(株)製))を純水に溶解することで調製し、その濃度は、溶解した金属塩化物中の金属イオン濃度を示す。前記浸漬後、200メッシュのふるい上で前記硫酸エステル基導入パルプを多量の純水で洗浄することで、金属イオンを担持させた硫酸エステル基導入パルプ(金属イオン担持パルプ)を得た。
【0078】
図3は、前記金属イオンの水溶液の濃度からの金属イオンの担持量の定量に用いた検量線を示すグラフである。前記検量線の作成には、金属標準液(1000ppm(1000mg/L)銅標準液(富士フイルム和光純薬(株)製、型番:JCSS元素標準液)又は1000ppm(1000mg/L)亜鉛標準液(富士フイルム和光純薬(株)製、型番:JCSS元素標準液))を用いた。pH5.5の0.1M酢酸緩衝液でこれらの標準液を希釈して、0.2ppm(0.2mg/L)、0.5ppm(0.5mg/L)、0.7ppm(0.7mg/L)及び1ppm(1mg/L)の希釈標準液(金属イオンの水溶液)を調製した。2.5mLの希釈標準液の入った石英セルに1.4mMキシレノールオレンジ(金属指示薬(発色試薬))を10μL入れ、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製、型番:UV-2600i)で576nm(Cu
2+)又は572nm(Zn
2+)の吸光度を測定した。リファレンス溶液(金属イオン濃度0ppm)は、前記酢酸緩衝液とした。
図3(A)は、Cu
2+の結果であり、
図3(B)は、Zn
2+の結果である。
図3に示すとおり、金属イオン濃度1ppm(1mg/L)以下で、良好な検量線が得られた。
【0079】
前記検量線を用いて、金属イオン担持パルプの金属イオン担持量を定量した。前述した金属イオン担持パルプ調製に用いた金属イオンの水溶液を、前記検量線の範囲内である約0.5ppm(約0.5mg/L)にpH5.5の0.1M酢酸緩衝液を用いて希釈した。この際、パルプが混入しないように、金属イオンの水溶液は、遠心分離後の上澄み液を採取した。
【0080】
前述した検量線作成と同様の方法で前記希釈液の吸光度を測定し、その吸光度と前記検量線を用いて、硫酸エステル基導入パルプの添加前後の金属イオンの水溶液の濃度の差から金属イオン担持量を算出した。
【0081】
例えば、硫酸エステル基導入パルプ(0.5g)添加前の金属イオンの水溶液(50mL)の濃度が100ppm(100mg/L)、添加後の濃度が90ppm(90mg/L)であった場合、500μgの金属イオンを担持できたと解される。すなわち、硫酸エステル基導入パルプ1g当たり金属イオン1mgの担持量である。
【0082】
図4は、前記金属イオンの水溶液における金属イオン濃度(100ppm(100mg/L)、200ppm(200mg/L)、500ppm(500mg/L)及び1000ppm(1000mg/L))と、硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプにおける金属イオン担持量(mmol/g)との関係を示すグラフである。
図4(A)は、Cu
2+の結果であり、
図4(B)は、Zn
2+の結果である。
図4に示すとおり、金属イオン濃度が高くなるとともに、金属イオン担持量が一定の値となり(以下、これを「最大担持量」という。)、硫酸エステル基導入パルプは、金属イオンを担持可能であることがわかった。
【0083】
図5(A)は、硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量(mmol/g)と、Cu
2+の最大担持量(mmol/g)との関係を示すグラフである。また、
図5(B)は、硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量(mmol/g)と、硫酸エステル基とCu
2+のモル比との関係を示すグラフである。
図5(A)及び
図5(B)において、硫酸エステル基とは、前述の式(1)における1価の陰イオン部分をいう。なお、
図5における硫酸エステル基の導入量が1.02mmol/g及び1.58mmol/gの硫酸エステル基導入パルプは、前述の接触工程において、スルファミン酸:尿素を、200g/L:300g/L及び200g/L:100g/Lとしたこと以外は、前述の硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプと同様にして調製した。また、
図5における硫酸エステル基の導入量が1.88mmol/gの硫酸エステル基導入パルプは、前述の接触工程において、パルプ5g(固形分質量)に反応液100gを加えたこと、及び、スルファミン酸:尿素を200g/L:100g/Lとしたこと以外は、前述の硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプと同様にして調製した。
図5(A)及び
図5(B)に示すように、硫酸エステル基とCu
2+との比率が略1:0.5となり、いずれの硫酸エステル基の導入量においても、硫酸エステル基導入パルプに対してCu
2+が最大量担持されることが確認された。
【0084】
(消臭性能評価)
容量5LのコックつきPVDF(ポリフッ化ビニリデン)パックに40ppmの酢酸ガス2Lを封入し、そこに硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプに0.35mmol/gのCu2+を担持させた水分率10%未満の金属イオン担持パルプ0.5gを入れ、室温(20~25℃)で2時間静置した。検知管法(気体採取器に取り付けたガス検知管を用いて、100mLの測定対象ガスを吸引した時に観測される、検知管目盛から目視で読み取った目盛濃度(ppm))にて金属イオン担持パルプを入れる前と前記静置後の酢酸ガス濃度を測定したところ、酢酸ガスの除去率が97.5%であった。なお、前記検知管としては、酢酸ガス検知管((株)ガステック製、測定範囲1ppm~100ppm)を用いた。一方、Cu2+に代えて、Na+を担持させた硫酸エステル基導入パルプを用いた以外は同条件で測定すると、酢酸ガスの除去率は、40%程度であった。また、硫酸エステル基を導入していない針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を用いた以外は同条件で測定すると、酢酸ガスの除去率は、10%程度であった。このように、Cu2+を担持させた硫酸エステル基導入パルプは、酢酸ガスに起因する臭気に対して優れた消臭効果を発現することが確認された。
【0085】
(抗菌性能評価)
抗菌性能評価は、JIS L 1902に準拠し、菌液吸収法により行った。評価には、試験菌株として黄色ぶどう球菌・Staphylococcus NBRC 12732を用いた。なお、試験菌懸濁液の調製には、界面活性剤(Tween80(登録商標))を添加し調製したものを用いた。評価試料として、硫酸エステル基の導入量が0.68mmol/gの硫酸エステル基導入パルプに0.35mmol/gのCu2+を担持させた金属イオン担持パルプ及び硫酸エステル基を導入していない針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をそれぞれ凍結乾燥した水分率10%未満のものを用いた。加えて、対照試料には、評価試料の代わりに標準布(綿100%、白布)を用いて培養したものを使用した。
【0086】
試験により得られた接種直後及び18時間培養後の生菌数を用いて、以下の式に従い抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値={(18時間培養後の対照試料の生菌数の常用対数値)-(接種直後の対照試料の生菌数の常用対数値)}-{(18時間培養後の評価試料の生菌数の常用対数値)-(接種直後の評価試料の生菌数の常用対数値)}=(対照試料の増殖値F)-(評価試料の増殖値G)
※ただし、(接種直後の対照試料の生菌数の常用対数値)>(接種直後の評価試料の生菌数の常用対数値)のとき、(接種直後の評価試料の生菌数の常用対数値)を(接種直後の対照試料の生菌数の常用対数値)と置き換え抗菌活性値を算出する。
【0087】
試験の結果、Cu2+を担持させた金属イオン担持パルプの抗菌活性値は5.9、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)の抗菌活性値は1.2をそれぞれ示した。このように、Cu2+を担持させた硫酸エステル基導入パルプは、菌株に対して優れた抗菌効果を発現することが確認された。
【0088】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。