(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011208
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】インビボ受容体占有率を決定するためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20250116BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20250116BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N27/62 V
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024177293
(22)【出願日】2024-10-09
(62)【分割の表示】P 2020563439の分割
【原出願日】2019-05-09
(31)【優先権主張番号】62/669,442
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100221523
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】ナイユ・ジェン
(72)【発明者】
【氏名】イアン・マッコーリー・キャトレット
(72)【発明者】
【氏名】ジアニン・ゼン
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041LA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、目的の薬物の受容体への結合をモニターし、測定するためのアッセイに関する。
【解決手段】このアッセイにおいて、前記目的の化合物を投与した対象から採取した血液試料を、クエンチャーを含む溶解溶液とインキュベートする。次いで、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、溶解させた血液試料から単離する。前記単離された薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を消化させて、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドを調製する。前記サロゲートペプチドの量を決定する。受容体占有率は、薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって決定することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受容体占有率を測定するためのアッセイ方法であって、
a.受容体に不可逆的に結合する目的の化合物で治療した対象から血液試料を採取し、
b.クエンチャーを含む溶解溶液を前記血液試料に加え、
c.目的の受容体を単離し、
d.前記単離された受容体を消化させてサロゲートペプチドを調製し、
e.前記サロゲートペプチドの量を測定し、次いで薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって薬物の受容体占有率を決定する
工程を含む、アッセイ方法。
【請求項2】
目的の受容体に共有結合する目的の薬物を投与した対象における薬物の受容体占有率を決定するためのアッセイ方法であって、
a.前記目的の薬物で治療した対象から血液試料を採取し、
b.前記目的の薬物と同一の受容体部位に不可逆的に結合するクエンチャーを含む溶解溶液を、前記血液試料に加え、
c.薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を免疫捕捉により単離し、
d.前記単離された薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を消化させて、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドを調製し、
e.前記サロゲートペプチドの量を、LC-MS/MSを用いて測定し、次いで薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって薬物に結合した受容体の量を決定する
工程を含む、アッセイ方法。
【請求項3】
前記目的の薬物が、
図1Aで示されている、請求項2に記載のアッセイ方法。
【請求項4】
前記工程(b)のクエンチャーが、
図1Bで示されている、請求項2に記載のアッセイ方法。
【請求項5】
前記消化工程(d)が、トリプシン消化である、請求項1または2に記載のアッセイ方法。
【請求項6】
前記サロゲートペプチドの量が、LC-MS/MSによって測定される、請求項1に記載のアッセイ方法。
【請求項7】
図1Aで示される薬物を投与した対象におけるBTK受容体占有率を測定するための方法であって、
a.前記薬物を投与した対象から血液試料を採取し、
b.
図1Bで示されるクエンチャーを含む溶解溶液を前記血液試料に加え、
c.薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したBTKを、ストレプトアビジンT1ビーズに結合させた抗BTKビオチン化抗体を用いて単離し、
d.前記単離された薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したBTK抗体複合体をトリプシンで消化させて、サロゲートペプチドを調製し、
e.前記サロゲートペプチドの量を、LC-MS/MSクロマトグラフィーを用いて測定し、次いで薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって薬物に結合したBTKの量を決定する
工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる2018年5月10日提出の米国仮出願番号第62/669,442号の優先権を請求する。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、血液溶解物中の共有結合した化合物によるリアルタイムインビボ受容体占有率を直接測定するための方法に関する。より具体的には、本発明は、臨床薬の開発のための薬力学的バイオマーカーとしてのリアルタイムインビボBTK受容体占有率の測定に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景技術
創薬と開発は、長期かつ高リスクのプロセスである。成功した新しい薬を開発するための平均コストは、早期の発見と開発プロセス間の数えきれない薬物候補の失敗について260億ドルとも推定され、臨床試験に入る薬物候補の全生存率は、12%未満と推定されている(PhRMA Report, "Biopharmaceutical Research & Development: The Process Behind New Medicines", 2015)。これらの薬物候補の失敗を生じる主な問題は、後期開発段階、特に、概念実証(第II期)臨床試験間における臨床的有効性が不十分であるか、または欠如することに関するものであった(Kola, I., et. al., J. Nature Reviews. Drug Discovery 2004, 3, 711-715; Arrowsmith, J., Nature Reviews. Drug Discovery 2011, 10, 87; Morgan, P., et. al., Drug Discovery Today 2012, 17, 419-424)。
【0004】
開発中の多くの小分子薬物と生物製剤は、免疫系を調節するように設計されている。そのため、これらの薬物候補は、その所望される応答を得るために非常に低い用量レベルが必要とされることが多い。それゆえ、これらの薬物候補の薬物動態(PK)および薬物力学(PD)的特性の早期理解は、臨床試験のための適切な用量範囲を決定するために不可欠である(Topalian, S. L., et. al., The New England Journal of Medicine 2012, 366, 2443-2454; Brahmer, J. R., et. al., The New England Journal of Medicine 2012, 366, 2455-2465; Tolcher, A. W., et. al., Journal of Clinical Oncology: Official Journal of the American Society of Clinical Oncology 2009, 27, 5800-5807; Hua, F., et. al., Journal of Clinical Pharmacology 2014, 54, 14-22; Rutgeerts, P. J., et. al., Gut 2013, 62, 1122-1130)。薬物開発段階中に臨床的有効性を向上させ、コストを減少させるために、PDプロファイルの定量的測定は、臨床試験の合理的な設計のためのPKプロファイルと同様に重要である。これは、特にPDプロファイルが複数の用量で変化する場合に重要である。
【0005】
受容体占有(RO)アッセイは、分子のその受容体タンパク質(または標的)への結合を測定し、PDプロファイルを作成するために使用できる定量的データを供する(Liang, M., et. al., Cytometry B Clin Cytom 2016, 90, 117-127)。ROの測定は、前臨床動物モデルおよび臨床試験においてメカニズムに関連する有効性に不可欠な測定である。実際に、ROは、ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験において用量漸増を決定するために特に有用である。
【0006】
ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)は、B細胞受容体、Fc受容体-およびRANKL経路を介したシグナル伝達および活性化において重要な役割を果たす(Seiler, T., et. al., Expert Opin Investig Drugs 2017, 26, 909-915; Whang, J. A., et. al., Drug Discovery Today 2014, 19, 1200-1204)。抗体に基づく薬物において、前記ROは、通常、遊離受容体の測定のための標的分子と競合する抗体およびその合計受容体の測定のための非競合抗体を用いてフローサイトメトリーによってモニターされる(Liang, M, et. al., Cytometry B Clin Cytom 2016, 90, 117-127; Woska, J. R., Jr., et. al., Journal of immunological methods 2003, 277, 101-115)。しかしながら、小分子アンタゴニストにおいて、フローサイトメトリーによる占有された受容体を直接検出するための抗体試薬は存在していない。これまで、末梢血単核細胞(PBMC)におけるイブルチニブのBTK ROは、遊離(占有されていない)BTKの活性な占有部位に結合する蛍光結合プローブを用い、SDS/PAGEおよび蛍光ゲルスキャンニングを用いて検出することによって調べられた(Honigberg, L. A.; J. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2010, 107, 13075-13080)。蛍光結合プローブに基づくアッセイは、遊離BTKの量を測定することのみができ、ウェスタンブロットを用いるさらなるアッセイが合計BTKを測定するために必要とされている。臨床試験で生じる試料は大量であるため、2つのアッセイ基盤の使用は実用的ではない。さらに、前記方法は、結合していない測定と合計測定との間の直接的な比較可能性を欠き、高いアッセイバリエーションを生じる。
【0007】
最近、ビオチン化共有結合プローブを用いたELISAに基づくBTK ROアッセイが、アカラブルチニブおよびCC-292の臨床試験で報告され、利用されている(Barf, T., et.al., The Journal of pharmacology and experimental therapeutics 2017; Evans, E. K., et. al., The Journal of pharmacology and experimental therapeutics 2013, 346, 219-22)。この方法では、遊離BTKのみが検出され、薬物が結合したBTK(DB-BTK)が洗い流される。合計BTK濃度は、合計BTKレベルが試料中に一定のままであるものと推定し、投薬前の試料を用いて決定される。
【0008】
あるいは、遊離および合計BTKのための別の時間分解蛍光エネルギー移動(TR-FRET)に基づくアッセイは、末梢血単核細胞(PBMC)におけるBTK占有率を推定するために用いることができる(2016年10月23~26日開催の第7回American Conference on Pharmacometrics(ACoP7)(ワシントン州、ベルビュー)におけるLutz,J.D.Nらのポスター発表)。しかしながら、前記遊離および合計BTKは、同一試料において同時ではなく別々に測定され、合計BTKレベルは、試料間で顕著に変動することが見出された(上記のHonigberg, L. A.)。それゆえ、前記ELISAまたはTR-FRETに基づく方法は、方法の選択から生じる固有の変動によって制限される。
【0009】
液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)アッセイは、その優れたアッセイ選択性および多重化能力のため、タンパク質の定量における可能性を示している(Neubert, H., et. al., Bioanalysis 2014, 6, 1731-1733)。特に、免疫捕捉エンリッチメント(immunocapture enrichment)、続いてLC-MS/MS検出を組み合わせた「ハイブリッド」LBA-LC-MSアッセイは、優れた検出選択性でタンパク質バイオマーカーまたは治療薬を測定するための強力な技術基盤となっている(Stevenson, L., et. al., Bioanalysis 2013, 5, 2903-2918)。前記LC-MSアッセイの主な利点は、同一試料においてDB-BTKおよび遊離BTKの両方を同時に定量化するためのその能力である。それゆえ、前記RO測定は、試料またはランの変動性によって非常に影響を受けにくい。
【0010】
しかしながら、LC-MSアッセイの開発は、多くの難題を有する。第一に、薬物を投与した動物またはヒトに由来する血液試料は、過剰量の薬物を含みうるものであり、生体外で遊離受容体と反応して薬物結合受容体を形成し、その結果、ROの過大評価となる。第二に、LC-MS/MSは、通常、ELISAアッセイより感度が低い。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、目的の薬物の受容体への結合をモニターし、測定するためのアッセイに関する。このアッセイにおいて、目的の化合物を投与した対象から採取した血液試料を、クエンチャーを含む溶解溶液とインキュベートする。次いで、前記薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、前記溶解された血液試料から単離する。前記単離された薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を消化させて、サロゲート薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したペプチドを調製する。前記サロゲートペプチドの量を決定する。受容体占有率は、薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって決定することができる。
【0012】
本発明の1の実施態様において、目的の化合物は、前記受容体に共有結合する。
【0013】
本発明の別の実施態様において、前記クエンチャーは、目的の化合物と競合して、前記目的の化合物と同一部位で前記受容体と不可逆的に結合する。
【0014】
本発明の別の実施態様において、前記クエンチャーを、前記目的の化合物のモル過剰レベルで前記緩衝液に加える。本発明の別の実施態様において、前記クエンチャーを、内在の受容体濃度に基づいて、105~1000倍過剰量で前記緩衝液に加える。
【0015】
本発明の別の実施態様において、クエンチャーを含む溶解溶液を、血液試料を採取した後即時に加える。本発明の別の実施態様において、クエンチャーを含む溶解溶液を、血液試料採取後5分以内に加える。
【0016】
本発明の別の実施態様において、前記薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、免疫捕捉工程を用いて単離する。本発明の別の実施態様において、前記受容体は、固形担体(例えば、磁気ビーズ、アガロースビーズまたはカラム充填物質)上に固定された捕捉薬剤に特異的に結合し、それにより捕捉抗体にあまり強く結合しない他の内在性タンパク質およびペプチドから分離される[Fung, E.N. et al., Bioanalysis 2016, 8, 847-856]。
【0017】
本発明の別の実施態様において、前記薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、消化工程前に免疫捕捉基質から除去する。
【0018】
本発明の別の実施態様において、前記薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、免疫捕捉基質と結合させたままで消化させる。
【0019】
本発明の別の実施態様において、消化工程で用いられるプロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、およびメタロプロテアーゼからなる群から選択される。プロテアーゼの例としては、トリプシン、キモトリプシン、Glu-Cプロテアーゼ、Lys-Cプロテアーゼ、Lys-Nプロテアーゼ、Asp-Nプロテアーゼ、Arg-Cプロテアーゼが挙げられる。
【0020】
本発明の別の実施態様において、前記薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドを、1回のLC-MS/MSランにより同時に測定する。
【0021】
本発明の別の実施態様において、受容体占有率は、薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって算出する。
【0022】
本発明の1の実施態様において、受容体占有率は、1)受容体に不可逆的に結合する目的の化合物を投与した対象から血液を採取し、2)前記採取した血液に、前記目的の化合物と同一部位に不可逆的に結合するクエンチャー化合物を含む溶解溶液を即時加え、3)薬物およびクエンチャーが結合した受容体を、免疫捕捉工程を用いて、溶解されクエンチされた血液試料から単離し、4)前記単離された薬物およびクエンチャーが結合した受容体を、免疫捕捉基質にさらに結合させながら消化させ、5)薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの量を、1回のLC-MS/MSランで同時に測定し、次いで6)薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって受容体占有率を決定することで測定する。
【0023】
上記実施態様の1の好ましい態様において、受容体は、BTKであり、目的の化合物は、
図1Aで示され、ならびに対応するクエンチャーは、
図1Bで示される。
【0024】
上記実施態様の別の好ましい態様において、前記免疫捕捉基質は、ストレプトアビジンT1捕捉ビーズである。
【0025】
上記実施態様の別の好ましい態様において、mAbクローン#MAB5807またはmAbクローン#MAB D3H5は、免疫捕捉基質に結合した抗BTK抗体である。
【0026】
上記実施態様の別の好ましい態様において、単離されたクエンチャーが結合し、かつ薬物が結合したBTKは、免疫捕捉ビーズとさらに結合させながらトリプシンで消化させる。
【0027】
上記実施態様の別の好ましい態様において、BTK受容体占有率は、薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによって算出する。
【0028】
本発明の1の実施態様において、BTK受容体占有率は、1)
図1Aで示される化合物を投与した対象から血液を採取し、2)
図1Bで示されるクエンチャー化合物を含む溶解溶液を即時加え、3)薬物およびクエンチャーが結合したBTKを、免疫捕捉工程を用いて単離し、4)前記単離された薬物およびクエンチャーが結合したBTKを、免疫捕捉ビーズとさらに結合させながらトリプシンで消化させ、5)薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの量を、1回のLC-MS/MSランで同時に測定し、次いで6)薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの総量と比較することによってBTK受容体占有率を決定することで測定する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1Aおよび1Bは、A)化合物A;B)クエンチャー化合物の構造を示す。
【
図2】
図2は、ヒトおよびサル(アカゲザル/カニクイザル)にそれぞれ由来するBTKタンパク質の配列アラインメントを示す。囲み部分は、解析に用いたトリプシンペプチドを示す。前記アミノ酸配列内において、Cys481(矢印を付けた)は、化合物A(DB-BTK)またはクエンチャー化合物(QB-BTK)のいずれかに結合する。
図1Aまたは1Bの化合物に結合するトリプシンペプチドQRPIFIITEYMANGCLLNYLR(配列番号1、表1で示される)を定量のために用いた。
【
図3】
図3は、免疫捕捉LC-MS/MSによるBTK ROアッセイの模式図を示す。用いたサロゲートペプチドは、薬物が結合したペプチド(DB-QRP)およびクエンチャーが結合したペプチド(QB-QRP)である。
【
図4】
図4は、異なる製造業者による捕捉抗体(■ mAb-D3H5、□ mAb-MAB5807)が、ヒト血液中の内在性BTKと組み換えBTK(標準物質として使用)との間で異なる免疫捕捉能力を有することを示す。
【
図5A】
図5A~5Dは、DB-BTK(5Aおよび5B)およびQB-BTK(5Cおよび5D)から調製したサロゲートペプチドの50℃(5Aおよび5C)または60℃(5Bおよび5D)でのLC-MS/MS応答におけるトリプシン濃度、消化時間の効果を示す。サロゲートペプチドのDB-QRPおよびQB-QRPを、ThermoのQ Exactive(登録商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(登録商標)質量分析計を用いてLC-HRMSにより測定した。前記試験を各条件につき3回行った。
【
図5B】
図5A~5Dは、DB-BTK(5Aおよび5B)およびQB-BTK(5Cおよび5D)から調製したサロゲートペプチドの50℃(5Aおよび5C)または60℃(5Bおよび5D)でのLC-MS/MS応答におけるトリプシン濃度、消化時間の効果を示す。サロゲートペプチドのDB-QRPおよびQB-QRPを、ThermoのQ Exactive(登録商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(登録商標)質量分析計を用いてLC-HRMSにより測定した。前記試験を各条件につき3回行った。
【
図5C】
図5A~5Dは、DB-BTK(5Aおよび5B)およびQB-BTK(5Cおよび5D)から調製したサロゲートペプチドの50℃(5Aおよび5C)または60℃(5Bおよび5D)でのLC-MS/MS応答におけるトリプシン濃度、消化時間の効果を示す。サロゲートペプチドのDB-QRPおよびQB-QRPを、ThermoのQ Exactive(登録商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(登録商標)質量分析計を用いてLC-HRMSにより測定した。前記試験を各条件につき3回行った。
【
図5D】
図5A~5Dは、DB-BTK(5Aおよび5B)およびQB-BTK(5Cおよび5D)から調製したサロゲートペプチドの50℃(5Aおよび5C)または60℃(5Bおよび5D)でのLC-MS/MS応答におけるトリプシン濃度、消化時間の効果を示す。サロゲートペプチドのDB-QRPおよびQB-QRPを、ThermoのQ Exactive(登録商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(登録商標)質量分析計を用いてLC-HRMSにより測定した。前記試験を各条件につき3回行った。
【
図6】
図6は、DB-BTK(■)およびQB-BTK(□)の両方についての各電荷段階におけるシグナル応答の比較を示す。
【
図7A】
図7A~7Cは、SciexのTriple Quad5500質量分光計から得られた(7A)DB-QRPペプチドに対してm/z 967.4における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;(7B)QB-QRPペプチドに対してm/z 962.5における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;ならびに(7C)SIL-QB-QRPペプチド(内部標準)に対してm/z 965.9における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトルを示す。
【
図7B】
図7A~7Cは、SciexのTriple Quad5500質量分光計から得られた(7A)DB-QRPペプチドに対してm/z 967.4における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;(7B)QB-QRPペプチドに対してm/z 962.5における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;ならびに(7C)SIL-QB-QRPペプチド(内部標準)に対してm/z 965.9における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトルを示す。
【
図7C】
図7A~7Cは、SciexのTriple Quad5500質量分光計から得られた(7A)DB-QRPペプチドに対してm/z 967.4における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;(7B)QB-QRPペプチドに対してm/z 962.5における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトル;ならびに(7C)SIL-QB-QRPペプチド(内部標準)に対してm/z 965.9における[M+3H]3+のエレクトロスプレー陽イオンMS/MSプロダクトイオンスペクトルを示す。
【
図8-1】
図8A~8Fは、DB-QRP(DB-BTKのためのサロゲートペプチド)(8A~8C)およびQB-QRP(QB-BTKのためのサロゲートペプチド)(8D~8F)、ならびにそれらの内部標準(IS)のための多重反応モニタリング(MRM)クロマトグラムを示す;(8Aおよび8D)ブランクサル血液溶解物(内在性BTKの存在をクエンチャーまたは薬物それぞれにより前もって処理することによって排除した)から得られた分析物のクロマトグラム;(8Bおよび8E)LLOQおよびそのISにおける分析物を含むサル血液溶解物から得られた分析物のクロマトグラム;(8Cおよび8F)ISのみを含むサル血液溶解物から得られたISのクロマトグラム。(cおよびf)[13C9,15N]-QB-QRPは、DB-QRPおよびQB-QRPのためのISとして使用した。
【
図8-2】
図8A~8Fは、DB-QRP(DB-BTKのためのサロゲートペプチド)(8A~8C)およびQB-QRP(QB-BTKのためのサロゲートペプチド)(8D~8F)、ならびにそれらの内部標準(IS)のための多重反応モニタリング(MRM)クロマトグラムを示す;(8Aおよび8D)ブランクサル血液溶解物(内在性BTKの存在をクエンチャーまたは薬物それぞれにより前もって処理することによって排除した)から得られた分析物のクロマトグラム;(8Bおよび8E)LLOQおよびそのISにおける分析物を含むサル血液溶解物から得られた分析物のクロマトグラム;(8Cおよび8F)ISのみを含むサル血液溶解物から得られたISのクロマトグラム。(cおよびf)[13C9,15N]-QB-QRPは、DB-QRPおよびQB-QRPのためのISとして使用した。
【
図9A】
図9A~9Dは、
図1Aで示される化合物(BMS-986195)を0.10mg/kgまたは0.5mg/kgの2つの異なる用量で投与したサル#5149、#5151、および#5169から得られたPKおよびPD結果を示す。血液試料をPK評価のために1日目に1、3、5、7、および24時間で採取し(9Aおよび9Bで示されるデータ)、PD評価のために投薬前、1、3、5、7、24、48、72、144、および168時間で採取した(9Cおよび9Dで示されるデータ)(実施例2を参照のこと)。
【
図9B】
図9A~9Dは、
図1Aで示される化合物(BMS-986195)を0.10mg/kgまたは0.5mg/kgの2つの異なる用量で投与したサル#5149、#5151、および#5169から得られたPKおよびPD結果を示す。血液試料をPK評価のために1日目に1、3、5、7、および24時間で採取し(9Aおよび9Bで示されるデータ)、PD評価のために投薬前、1、3、5、7、24、48、72、144、および168時間で採取した(9Cおよび9Dで示されるデータ)(実施例2を参照のこと)。
【
図9C】
図9A~9Dは、
図1Aで示される化合物(BMS-986195)を0.10mg/kgまたは0.5mg/kgの2つの異なる用量で投与したサル#5149、#5151、および#5169から得られたPKおよびPD結果を示す。血液試料をPK評価のために1日目に1、3、5、7、および24時間で採取し(9Aおよび9Bで示されるデータ)、PD評価のために投薬前、1、3、5、7、24、48、72、144、および168時間で採取した(9Cおよび9Dで示されるデータ)(実施例2を参照のこと)。
【
図9D】
図9A~9Dは、
図1Aで示される化合物(BMS-986195)を0.10mg/kgまたは0.5mg/kgの2つの異なる用量で投与したサル#5149、#5151、および#5169から得られたPKおよびPD結果を示す。血液試料をPK評価のために1日目に1、3、5、7、および24時間で採取し(9Aおよび9Bで示されるデータ)、PD評価のために投薬前、1、3、5、7、24、48、72、144、および168時間で採取した(9Cおよび9Dで示されるデータ)(実施例2を参照のこと)。
【0030】
EFS-WEBにより電子的に提出した配列表の参照
本出願とともに提出されたASCIIテキストファイル12728WOPCT_ST25.txt(サイズ:16kb、2019年4月8日作成)の電子的に提出された配列表の内容は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明は、本発明の好ましい実施態様の下記の詳細な説明および本明細書に含まれる実施例を参照することによってより容易に理解されうる。
【0032】
本明細書で用いられるように、用語「不可逆的に結合」は、活性部位への共有結合を形成することによって、あるいは、単に、関連する時間基準で実質的に0であるように極めて強く結合することによって受容体に持続的に結合する化合物のタイプを意味する。
【0033】
本明細書で用いられるように、用語「目的の化合物」および「薬物」は、交換可能に用いられ、目的の標的に結合する分子を意味する。
【0034】
本明細書で用いられるように、用語「標的」および「受容体」は、ROアッセイに着目して指し示す場合に交換可能に用いられる。
【0035】
本明細書で用いられるように、用語「即時に」は、クエンチャー分子を含む溶解溶液を血液試料に加える時、血液試料が採取された後できるだけ早いことを意味する。あるいは、クエンチャー分子を含む溶解溶液は、血液試料が採取された後最初の5分以内に加えられる。
【0036】
本発明は、インビボ受容体占有アッセイ、より具体的には、インビボブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)受容体占有(RO)アッセイの開発を記載する。測定感度は、結合または遊離の標的が5%以下でありうる非常に高いか、または非常に低い占有レベルでROを決定することが重要である。
【0037】
本発明は、a)目的の化合物で治療した対象から血液試料を採取し、b)受容体特異的なクエンチャーを含む溶解溶液を前記血液試料に加え、c)目的の受容体を単離し、d)前記単離された受容体を消化させてサロゲートペプチドを調製し、e)前記サロゲートペプチドの量を測定し、次いで薬物が結合したサロゲートペプチドの量を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したサロゲートペプチドの量と比較することによって受容体占有率を決定する工程を含む方法である。
【0038】
目的の化合物を投与した対象から血液試料を採取すること
本発明の1の実施態様において、前記目的の化合物は、前記受容体の少なくとも1つのアミノ酸に不可逆的に結合する。目的の化合物の一例は、BTKに不可逆的に結合する
図1Aで示される化合物である。
【0039】
受容体特異的なクエンチャーを含む溶解溶液を血液試料に加えること
受容体占有(RO)アッセイ開発の選択および感度に影響を与える多くの試行が行われた。特に、血液試料中の遊離の薬物および遊離の受容体の存在は、溶解工程の間に生体外で薬物が結合した受容体を生成しうるため、ROの過大評価を生じうる。溶解工程の間に受容体特異的なクエンチャーを加えることは、遊離の受容体を、クエンチャーが結合した(QB)受容体に急速に変換し、それにより生体外において薬物が結合した受容体の形成を妨げることが知見された。
【0040】
1の実施態様において、前記ROアッセイは、血液試料をクエンチャーの存在下で溶解させて、内在性受容体を、クエンチャーが結合した受容体に変換し、それにより内在性薬物が結合した受容体の形成を妨げることを含む。
【0041】
本発明の1の実施態様において、前記クエンチャーは、目的の化合物と同一のアミノ酸に不可逆的に結合する。好ましくは、前記クエンチャーは、受容体への結合において目的の化合物と競合する。本発明の別の実施態様において、前記クエンチャーは、溶解溶液に目的の化合物に対して過剰モルで加える。本発明の別の実施態様において、前記クエンチャーを含む溶解溶液は、血液試料を採取した後即時に加える。
【0042】
当業者は、細胞溶解溶液を認識しうる。市販されている細胞溶解緩衝液には、NP-40溶解緩衝液(TheromFisher Scientific)、RIPA溶解緩衝液(Abbexa)、ACK溶解緩衝液(TheromFisher Scientific)、細胞溶解緩衝液(10x)(カタログ番号:9803,Cell Signaling Technology)が含まれる。前記溶解緩衝液は、細胞を非変性条件下で溶解するために用いられる。
【0043】
クエンチャー化合物の一例は、BTKに不可逆的に結合する
図1Bで示される化合物である。
【0044】
薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体を、細胞溶解溶液から単離すること
免疫捕捉は、標的タンパク質および捕捉薬剤の特有の免疫親和力を利用する高度に選択的な試料浄化方法である(Stevenson, L., et. al., Bioanalysis 2013, 5, 2903-2918)。内在性標的のために高い免疫捕捉効率を有する適切な捕捉抗体を選択することは、そのアッセイを成功させるために重要である。市販品として入手できない特異的な抗体の場合、それらの標的タンパク質に特異的な抗体を調製する方法は、当業者に公知である。
【0045】
免疫捕捉効率を評価するために、抗体を、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合する標的を用いてスクリーニングする。抗体は、薬物が結合する標的とクエンチャーが結合する標的の両方に対する高い親和性に基づいて選択される。例えば、BTKに特異的な抗体を選択するために、市販品として入手可能なmAbクローン#MAB5807およびmAbクローン#D3H5の免疫捕捉能力を評価した。驚くべきことに、前記mAbクローン#MAB5807は、内在性BTK、DB-BTK、またはQB-BTKを必要とされる感度で検出できなかったが、組み換えBTK、DB-BTK、またはQB-BTKに対して高い親和性を示す。
図4に示されるように、内在性BTKからのLC-MS反応は、mAbクローン#5807を用いた場合に非常に低かったが、もう一方のクローンのmAbクローン#D3H5は、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した組み換えBTKに対して中程度の反応を付与し、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した内在性BTKに対してより高い反応を付与した。最終的な目的は、ヒト血液中で薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した内在性BTKを決定することであったため、クローン#D3H5をBTK ROアッセイで使用するために選択した。
【0046】
薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体サロゲートペプチドを調製すること
ROアッセイで使用するために調製した受容体サロゲートペプチドは、目的の化合物の結合部位を含んでいる必要がある。また、前記サロゲートペプチドは、LC-MS検出に感度を有する必要がある。
【0047】
本発明の1の実施態様において、単離された薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体は、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、およびメタロプロテアーゼからなる群から選択される1つまたはそれ以上のプロテアーゼで消化させる。許容可能なプロテアーゼの例としては、トリプシン、キモトリプシン、Glu-Cプロテアーゼ、Lys-Cプロテアーゼ、Lys-Nプロテアーゼ、Asp-Nプロテアーゼ、Arg-Cプロテアーゼが挙げられる。
【0048】
表1は、様々なプロテアーゼで消化させたときに調製したサロゲートペプチドを記載する。
表1.様々なプロテアーゼで処理した場合に調製したBTKペプチド
【表1】
【0049】
薬物が結合した標的およびクエンチャーが結合した標的の定量化は、代表的なサロゲートペプチドのMS反応に基づくものであるため、これらのサロゲートペプチドの消化収率は、検出感度に極めて影響を与えうる。
【0050】
本発明の1の実施態様において、消化工程は、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合した受容体の免疫捕捉基質からの溶解前または溶解後に行われる。好ましくは、前記消化工程は、標的が免疫捕捉基質に結合している間に行われる。例えば、薬物が結合し、かつクエンチャーが結合したBTKを、免疫捕捉ビーズにさらに結合させながらトリプシン消化で処理した。
【0051】
サロゲートペプチドの量を測定すること
本発明の1の実施態様において、受容体占有率は、クエンチャーが結合し、かつ薬物が結合したサロゲートペプチドを、1回のLC-MS/MSランで同時に測定することによって決定することができる。
【0052】
最初の方法開発期間中、反応物から調製したDB-BTKおよびQB-BTKは、Q Exactive HF高分解能質量分析(HRMS)を用いて分析した。サロゲートペプチドから予測される正確な質量を用いることにより、全てのサロゲートペプチドを同定した。各電荷段階のシグナル存在数(signal abundance)を
図6に示す。前記データは、DB-BTKおよびQB-BTKの両方が3つの電荷段階において最も高い反応を付与し、それゆえ、前記[M+3H]3+イオンを、MRM検出のための親イオンとしてDB-QRP(DB-BTKのサロゲートペプチド)およびQB-QRP(QB-BTKのサロゲートペプチド)の両方のために用いたことを示す。
図7A~7Cに示されるように、数種類のプロダクトイオンをMS/MSスペクトルで示した。y2イオン(m/z~288)およびb6イオン(DB-QRPおよびQB-QRPについてm/z~755、ISについてm/z~765)に対応するプロダクトイオンは、b6イオンより良好なy2イオンでMRM検出のための優れた強度を示す。m/z~288におけるy2イオンは、DB-QRPおよびQB-QRPのMRMチャンネルで示される干渉ピーク(interference peak)を有するため、b6イオンをMRM検出のためのプロダクトイオンとして使用した。
【0053】
ブランクサル血液溶解物、DB-BTKについて0.250nMおよびQB-BTKについて0.125nMのLLOQ濃度においてDB-BTKおよびQB-BTKが添加されたブランクサル血液溶解物からのDB-QRP、QB-QRP、およびISの典型的なMRMクロマトグラムを
図8a、8b、8d、および8eで示す。ISのみを含むブランクサル血液溶解物からの[13C9,15N]-QB-QRPの典型的なMRMマスクロマトグラムを
図8cおよび8fで示す。コントロールブランクサル血液溶解物を分析した時のDB-QRP、QB-QRP、またはISのいずれの保持時間またはイオンチャネルにおいて前記ブランクサル溶解物からの顕著な干渉ピークは見出されなかった。DB-QRP、QB-QRP、およびそれらのISは、5.02、4.87、および4.87分の保持時間それぞれでUHPLCカラムから溶出した。
【0054】
定量化の下限値
DB-QRPおよびQB-QRPのための定量化の下限値(LLOQ)は、標準曲線における両方の分析物について最も低い濃度である0.250nMおよび0.125nMであった。
図8bおよび8eに示されるように、LLOQ濃度レベルにおけるDB-QRPまたはQB-QRPのシグナル対ノイズ(S/N)は、少なくとも3またはそれ以上高かった。
【0055】
標準曲線ならびにQCの正確性および精度
血液溶解物中のBTK ROを定量化するための方法の検証について、全ての標準曲線を、DB-BTKについて0.250~12.5nM、およびQB-BTKについて0.125~12.5nMの範囲の標準曲線を用いて1/x加重二次(weighted quadratic)回帰モデルに適合させた。各ランにおいて、較正標準の少なくとも3分の2については、それらの設定値(nominal values)から逆算された濃度の偏差が、±20.0%以内(LLOQレベルにおける±25.0%)であった。表2~3に示されるように、それらの設定値から逆算された濃度の偏差は、3回の正確および精度の高いランについて、DB-BTKでは、±11.1%以内であり、QB-BTKでは、±19.8%であった。前記正確性および精度は、品質管理サンプルを用いて評価した。
表2.DB-BTKアッセイのための標準曲線サンプルの精度および正確性から得られたデータ概要
【表2】
表3.QB-BTKアッセイのための標準曲線サンプルの精度および正確性から得られたデータ概要
【表3】
表4.アッセイ適格性(assay qualification):25、50、および90%のBTK占有率を含むサル血液溶解物から得られた品質管理データ
【表4】
【0056】
表4に示されるように、測定BTK RO%と理論BTK RO%との差異は、6個のQC_25% RO試料のうち1個および6個のQC_50% RO試料のうち1個を除いて、3回全てのランに対する全てのQCについて±5%以内であった。
【0057】
CV%およびDev%は、-16.2%のDev%であった1回のQC_25% ROを除いて、3回のラン全てにおける全てのQCについて10%以内であった(表5)。これらの結果により、前記方法は、サル血液溶解物におけるBTK RO%の分析について精度が高く正確であったことが示された。
表5.25、50、および90%のBTK占有率を含むサル血液溶解物から得られた品質管理データ概要(n=6)
【表5】
【0058】
安定性試験
サル血液溶解物におけるDB-BTKおよびQB-BTKについて示された安定性を表6にまとめる。この結果により、DB-BTKおよびQB-BTKの安定性は、DB-BTKまたはQB-BTKの絶対濃度が、-80℃での2回の凍結融解サイクル後、RTで24時間保存後、または-80℃で224日間後に減少するにも関わらず、測定BTK RO%と理論BTK RO%との差が、全てのQCについて±5%であったため、BTK RO%において影響がないか、最小限の影響であることが示された。
表6.25%および90%のBTK RO%における品質管理サンプルの安定性試験
【表6】
【0059】
免疫捕捉LC-MS/MS受容体占有アッセイの使用
RO測定は、前臨床動物モデルおよび臨床試験においてメカニズムに関連する有効性のために不可欠な測定である。実用上、ROは、最初のヒト(FIH)試験において用量漸増を決定する際に特に有用である。
【実施例0060】
実施例1
薬物が結合したBTK(DB-BTK)およびクエンチャーが結合したBTK(QB-BTK)標準物および品質管理サンプルの調製
試薬と材料
図1Aおよび1Bで示される薬物およびクエンチャー化合物は、各々、Bristol-Myers Squibb(ニュージャージー州、プリンストン)における研究開発により合成した。ビオチン化ウサギ抗BTKモノクローナル抗体(ロット番号:D3H5,カタログ番号:12624)および10x緩衝液(カタログ番号:9803)は、Cell Signaling Technology(マサチューセッツ州、ダンバーズ)から入手した。Dynabeads MyoneストレプトアビジンT1ビーズ(カタログ番号:65602)は、ThermoFisher Scientific(カリフォルニア州、カールスバッド)から入手した。組み換えBTKタンパク質(カタログ番号:PV3587)は、Life Technologies(カリフォルニア州、カールスバッド)から入手した。前記プロテアーゼ阻害剤(カタログ番号:539134)は、Millipore Sigma(マサチューセッツ州、ビレリカ)から入手した。アッセイで用いた内部標準(IS)の[13C9,15N]-QB-QRP(N末端およびC末端の両方に隣接アミノ酸を含む)(表8)は、Bristol-Myers Squibb(BMS)(米国ニュージャージー州、プリンストン)における化学合成部門で合成した。サルACD-A全血は、Bioreclamation Inc.(ニューヨーク州、ウェストベリー)から入手した。全ての他の試薬は、分析級のものであった。MagnaBot 96マグネット分離デバイス(カタログ番号:V8151)は、Promega Corporation(ウィスコンシン州、マディソン)から入手した。
【0061】
薬物が結合したBTK(DB-BTK)のための標準試料の調製
組み換えBTK(5.9μM,200μL)を400μLのPBSと合わせ、次いでアセトニトリル中の1.0mg/mLの薬物溶液(
図1Aで示される化合物)の15μL(2701μMの薬物,15μL)を添加した。次に、該溶液をRTで1時間インキュベートし、1919nMのDB-BTK濃度とした。DB-BTK濃度は、遊離BTKのDB-BTKへの変換が過剰量の薬物の存在下で~100%であったため、反応で用いられる合計遊離BTK量を基準にした。
【0062】
クエンチャーが結合したBTK(QB-BTK)のための標準試料の調製
組み換えBTK(5.9μM,200μL)を400μLのPBSと合わせ、次いでアセトニトリル中の1.0mg/mLのクエンチャー溶液(
図1Bで示される化合物)の15μL(2806μMのクエンチャー,15μL)を添加した。該溶液をRTで1時間インキュベートし、1919nMのQB-BTK濃度とした。QB-BTK濃度は、遊離BTKのQB-BTKへの変換が過剰量の薬物の存在下で~100%であったため、反応で用いられる合計遊離BTK量を基準にした。
【0063】
クエンチャーを含む溶解緩衝液混合物(0.0133xプロテアーゼ阻害剤および1.5μMのクエンチャー溶液を含む2x緩衝液)の調製
15mLの10x溶解緩衝液を含む1つのバイアルを、DMSO中の1.0mLのプロテアーゼ阻害剤および80μLの0.5mg/mLのクエンチャー溶液(
図1Bで示される化合物)と混合した。次いで、該溶液を、75mLの合計体積とするために59mLの脱イオン化水で希釈した。
【0064】
薬物を含む溶解緩衝液混合物(0.0133xプロテアーゼ阻害剤および1.5μMの薬物溶液を含む2x緩衝液)の調製
15mLの10x溶解緩衝液を含む1つのバイアルを、DMSO中の1.0mLのプロテアーゼ阻害剤および83μLの0.5mg/mLの薬物溶液(
図1Aで示される化合物)と混合した。次いで、該溶液を、75mLの合計体積とするために59mLの脱イオン化水で希釈した。
【0065】
サル血液からの溶解物+433(100% QB-BTK)の調製
サルACD-A全血(3.5mL)を、1.5μMのクエンチャー(
図1Bで示される化合物)を含む7mLの溶解緩衝液と合わせた。該試料を室温で1時間振盪した。
【0066】
サル血液からの溶解物+195(100% DB-BTK)の調製
サルACD-A全血(3.5mL)を、1.5μMの薬物(
図1Aで示される化合物)を含む7mLの溶解緩衝液と合わせた。該試料を室温で1時間振盪した。
【0067】
内在性BTKを含む血液溶解物を用いた品質管理サンプル(QC)の調製
BTK RO QCは、異なる割合の溶解物+433および溶解物+195を混合することによって調製する。25%、50%、および90%のBTK RO%である低QC(LQC)、中間QC(MQC)、および高QC(HQC)は、表7で示されるように、それぞれ、2250/750、1500/1500、および300/2700(v/v)の溶解物+433/溶解物+195を混合することによって調製した。
表7.内在性BTKを含むサル血液溶解物を用いた品質管理サンプルの調製
【表7】
a溶解物+433は、サル溶解物をクエンチャー溶液で前処理することによって得た(
図1B)。
b溶解物+195は、サル溶解物を薬物溶液で前処理することによって得た(
図1A)。
【0068】
DB-BTK(BTK+195)標準曲線の調製(サル血液溶解物+433を使用する)
DB-BTKの0.250、0.500、1.00、2.00、5.00、10.0、および12.5nMにおける較正標準(STD)を、DB-BTK保存溶液(緩衝液中で1919nM)の各希釈によって0%のDB-BTKを含むサル血液溶解物中で調製した。調製中、DB-BTKの200および20nMの中間希釈物を、1919nMのDB-BTK保存溶液を血液溶解物+433で希釈することによって調製し、次いで最終STD試料にさらに希釈した。設定濃度は血液体積に基づき、血液溶解物中の実際の濃度は、3の希釈因子により各々の1/3であった。
【0069】
QB-BTK(BTK+433)標準曲線の調製(サル血液溶解物+195を使用する)
QB-BTKの0.125、0.250、0.500、1.00、2.00、5.00、10.0、および12.5nMにおける較正標準(STD)を、QB-BTK保存溶液(緩衝液中で1919nM)の各希釈によって0%のQB-BTKを含むサル血液溶解物中で調製した。調製中、QB-BTKの200および20nMの中間希釈物を、1919nMのQB-BTK保存溶液を血液溶解物+195で希釈することによって調製し、次いで最終STD試料にさらに希釈した。設定濃度は血液体積に基づき、血液溶解物中の実際の濃度は、3の希釈因子により各々の1/3であった。
【0070】
抗BTKビオチン化抗体を有するストレプトアビジンT1捕捉ビーズの調製
免疫沈澱のためのDynabeads MyoneストレプトアビジンT1ビーズの濃度は、10mg/mLであった。ビオチン化mAbの結合能は、20μg mAb/mgビーズであった。合計25mLのストレプトアビジンT1ビーズを、各2.5mLの10個のチューブに分注した。該試料を3mLのPBST溶液で洗浄した。DynaMag(登録商標)-5マグネットを用いて該マグネットビーズを液体試料マトリックスから分離した。最後の洗浄液を捨て、該ビーズを各チューブ中の2.5mLのPBSTで再懸濁し、次いで0.500mLのビオチン化抗BTK抗体(1mg/mL,ロット番号:D3H5)を加えた。10個のチューブ中の試料(0.500mL)をRTで1時間インキュベートした。該ビーズを該溶液から分離し、各チューブ中のビーズを3mLのPBSTで洗浄した。該チューブ中のビーズを2.5mLのPBSTで再懸濁した。最終抗BTK抗体濃度は、0.2μg/μLのビーズであった。該試料を次の使用のために4℃で保存した。
【0071】
血液溶解物からの薬物が結合したBTK(DB-BTK)およびクエンチャーが結合したBTK(QB-BTK)エンリッチメント(Enrichment)のための免疫捕捉
コントロールサル血液溶解物、較正標準、品質管理サンプル、またはサル試験試料についての3000μLの血液溶解物試料の一定分量を室温で遠心分離した。ビーズ上の抗BTK捕捉抗体(0.2μgmAb/μLビーズで60μL)を、遠心分離した試料の上澄み物に加え、該試料をRTで120分間インキュベートし、続いて遠心分離した。該上澄み物を除去し、PBSTを該ビーズ試料に加えた。該試料をTECAN液体ハンドラー上のLowBind 96ウェルプレートに移し、MagnaBot 96マグネット分離デバイスの上に置いた。該ビーズを800μLのPBSTで2回洗浄し、続いて500μLの25mM NH4OAc(0.05% Tween-20を含む)で洗浄した。洗浄緩衝液を除去し、LowBind 96ウェルプレート中のビーズを下記に記載されるようなトリプシン消化に用いた。
【0072】
トリプシン消化
(100μLの25mM NH4OAc(0.05% Tween-20を含む)を加えた)ブランク溶解物を除き、IS(25mM NH4OAc(0.05% Tween-20を含む)中の100μLの0.5μg/mL SIL-QB-QRP)を、96ウェルプレート中のビーズに加え、25μLの100mM NH4HCO3を各試料に加えた。該試料を、25μLの新たに調製した100mM NH4HCO3中で160ng/μLのトリプシン溶液を加えることによって消化し、50℃で30分間インキュベートし、次いで20μLの50%/50%のMeOH/ギ酸(v/v)でクエンチした。該試料を短くボルテックスし、次いでMagnaBot 96デバイスの上に置き、該上澄み物を新たな96ウェルプレートに移し、続いて4000rpmで2分間遠心分離した。該試料をLC-MS/MSにより分析した。
【0073】
UHPLC-MS/MS分析
アッセイ適格性および試料分析のために、Sciex(カリフォルニア州、フォスターシティ)からのAB Sciex Triple Quad 5500質量分光計をLC-MS/MSデータ取得のために用いた。
【0074】
下記のLC-MS/MS条件を、アッセイ適格性およびPD試料分析のために用いた。処理した試料それぞれについて、該消化物の50μL体積を、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)システム(モデルLC-30AD、Shimadzu Scientific Instruments,Inc.(メリーランド州、コロンビア))に入れた。下記に記載のUHPLC-MS/MS条件を、サル血液溶解物中の占有されクエンチされたBTKの定量化のために特に用いた。Waters CORTECS(登録商標)UPLC C18+カラム(2.1×100mm,1.6μm,Waters Corporation(マサチューセッツ州、ミルフォード))を、DB-QRPおよびQB-QRPペプチドの分析のために用いた。移動相Aは、水中の0.1% ギ酸から構成され;移動相Bは、アセトニトリル中の0.1% ギ酸であった。UHPLC分離は、グラジエント溶離液(15% Bで開始し、0.5分間保持し、続いてB%を2.5分で15%から30%に変化させ、さらにB%を4.9分で30%から45%に変化させ、次いでB%を0.1分で45%から90%に増加させ、1分間保持し、続いてB%を0.1分で95%から15%に減少させ、1.0分間保持し、10.0分で停止した)を用いて行った。流速は0.600mL/分であり、カラム温度は60℃であった。バルブ設定を切り替え、UHPLC溶離液を、3.0~6.5分の時間でAB Sciex(カリフォルニア州、フォスターシティ)から入手したターボイオンスプレー源(turbo ion spray source)を備えたTriple Quad 5500(登録商標)質量分光計に入れた。該質量分光計は、下記設定で陽性エレクトロスプレーイオン化モードにおいて操作した:Curtainガス,30ユニット;CADガス,9ユニット;ガス1,65ユニット;ガス2,65ユニット;正の4000Vのターボイオンスプレー電圧および600℃のターボプローブ温度。該質量分光計は、QB-QRP、DB-QRP、およびSIL-QB-QRP(IS)のそれぞれについてm/z 962.493>755.40、967.174>755.40、および965.825>765.50のトランジション(transition)でMRMモードにおいて操作した(表8)。生データを、クロマトグラムのピーク積分のためにAnalyst(登録商標)ソフトウェア(バージョン1.6.2,AB SCIEX)を用いて処理し、処理した結果を、較正標準の回帰およびQCおよび他の試料の濃度計算のためにWatson LIMS(登録商標)(バージョン7.4,ThermoFisher Scientific Inc.)に転送した。アッセイ性能に関する統計学的データ(ANOVA)を、Watson LIMS(登録商標)を用いて算出した。
表8.サロゲートペプチドおよびそれらの安定な放射性同位体で標識した内部標準についてLC-MS/MS検出のために用いたMRMトランジション
【表8】
aこのサロゲートペプチドは、トリプシンペプチドの21アミノ酸の最初の3アミノ酸の記号に基づいてQRPと命名する。DB-QRP=薬物が結合したQRPペプチド;QB-QRP=クエンチャーが結合したQRPペプチド。
bF*の記号は、[13C9,15N]-フェニルアラニンを表す。下線のペプチド部分は、トリプシンペプチドであり、LC-MS/MSアッセイでモニターした。
【0075】
アッセイ適格性
正確性および精度によるアッセイ適格性を、さらなる安定性試験(BTK RO QCの凍結融解、RTおよび長期安定性を含む)とともに行う。方法の直線性は、全ての適格性の実行において7つのDB-BTK(0.250nM~12.5nM)または8つのQB-BTK(0.125nM~12.5nM)転正曲線点を用いて評価した。1/x加重による二次回帰モデルを定量化のために用いた。受容基準は下記のとおりであった:実施それぞれにおいて、較正標準の少なくとも3分の2について、それらの設定チから逆算した濃度の偏差が±20.0%以内であった(LLOQレベルの±25.0%)。BTK RO QCのためには、各レベルのQCの少なくとも50%について、測定BTK RO%と理論BTK RO%との差異が±5%以内であるべきである。例えば、BTK RO QC_25%について、測定BTK RO%は、25.0±5.0%以内であるべきである。前記アッセイ選択性は、ブランク血液溶解物のみであるQC0(ISのみを含むブランク溶解物)を用いて評価した。
【0076】
実施例2
サルPD試験への適用
確率されたELISAに基づくアッセイと比較したLC-MS/MSによるBTK ROアッセイの有用性およびロバスト性を評価するために、
図1Aで示される化合物の単回漸増用量試験を行った。カニクイザルに、薬物化合物1Aを0.1、0.2、および0.5mg/kgのPOで投与した。血液試料は、実施例3に記載のLC-MS/MSおよびリガンド結合アッセイ(LBA)によるBTK ROアッセイを用いるPK評価のために1日目に1、3、5、7、および24時間で採取し、PD評価のために投与前、1、3、5、7、24、48、72、144、および168時間に採取した。
【0077】
LC-MS/MSによるBTK ROアッセイのためのPD試料
PD試料の採取前に、2x溶解緩衝液を0.0133xプロテアーゼ阻害剤および1.5μMのクエンチャー(
図1Bで示される化合物)溶液とともに含む下記の溶解緩衝混合液を調製した:15mLの10x溶解緩衝液を含む1つのバイアルに、1.0mLのプロテアーゼ阻害剤および80μLのDMSO中の0.5mg/mLのクエンチャー化合物1Bを混合した。次いで、該溶液を75mLの合計体積とするために59mLの脱イオン水で希釈した。
【0078】
上述したように、2mLの血液試料を前記設定時点で採取した。1.5mLの採取した血液を3mLの溶解緩衝混合液(クエンチャー化合物1Bを含む)に溶解した。混合直後に、該試料を室温で1時間振盪した。該血液溶解試料を採取後すぐに-70℃またはそれ以下で保存した。該試料は、LC-MS/MSアッセイによる免疫捕捉のために使用した。
【0079】
実施例3
LBAによるBTK ROアッセイ
サルACD-Aで処理した全血を、投薬後の設定時点で採取し、96ウェルのV底の2mLプレート(Costar,カタログ#3960)に加え、次いでプロテアーゼ阻害剤(Calbiochem,カタログ#539134)およびビオチン化プローブ(BMT-105186)を含む2x溶解緩衝液(Cell Signaling,カタログ#9803)で溶解した。該溶解物を、ストレプトアビジンでコーティングしたプレート(ThermoFisher Scientific,neutrAvidin(登録商標)カタログ#15128)に移し、室温で1時間振盪しながらインキュベートした。洗浄後、抗BTK抗体(Cell Signaling,カタログ#8547,PBS+0.05% Tween20+0.5% BSA中で1:1000希釈)を加え、室温で1時間振盪しながらインキュベートした。該プレートを洗浄し、続いてヤギ抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ二次抗体(インビトロジェン,G21234)をPBS+0.05% Tween20+0.5% BSA中において1:2,500希釈で加えた。該ELISAを、テトラメチルベンジジン(TMB)(Sigma,カタログ#T0440)を加えて発色させ、2.0N 硫酸を加えて停止させた。450nmにおける吸光度を読み、試験試料のBTK不活性の相対%を、溶解前の完全なBTK不活性を考慮に入れるために、2μM BMT-126867で前処理した血液に由来するクエンチされた溶解物と混合した通常のサル血液に由来する異なる比率の溶解物を含む試料の標準曲線から算出した。
【0080】
LC-MSによる薬物動態分析
0.5mLのサル血液を、PK評価のために設定時点で採取した。各血液試料を遠心分離して血漿を分離した。10μLの125μM クエンチャー溶液(
図1Bで示される化合物)を200μLの血漿にすぐに加えた。混合後、該試料を-20℃で保存し、LC-MS/MS分析に使用した。