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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025112145
(43)【公開日】2025-07-31
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20250724BHJP
【FI】
B60W50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006260
(22)【出願日】2024-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 崇仁
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA00
3D241BB00
3D241CC01
3D241CC08
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
(57)【要約】
【課題】低車速域の走行シーンにおいて、運転者に対して要求されるペダル操作を減少させることで車両の運転性をより向上させることのできる車両制御方法及び車両制御装置を提供する。
【解決手段】
運転者のアクセルオフ時に駆動トルクを出力する車両100を制御する車両制御方法であって、車両100が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速Vを学習し、車速Vの学習結果に基づいてクリープ時目標車速Vを演算し、クリープ時目標車速Vに基づいてアクセルオフ時に出力する前記駆動トルクを定める。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のアクセルオフ時に駆動トルクを出力する車両を制御する車両制御方法であって、
前記車両が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速を学習し、
前記車速の学習結果に基づいてクリープ時目標車速を演算し、
前記クリープ時目標車速に基づいて、前記アクセルオフ時に出力する前記駆動トルクを定める、
車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御方法であって、
前記低車速域で走行していた際の前記車速を、前記車両を運転していた運転者の情報及び/又は前記車両が走行していた走行場所の情報に紐づけて学習する、
車両制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御方法であって、
前記走行場所の情報には、
該走行場所における混雑度及び/又は広さを示すパラメータが含まれる、
車両制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御方法であって、
前記車速の学習結果に基づいて定めた前記クリープ時目標車速によって前記車両を制御している際に、運転者によって駆動力及び/又は制動力を修正する修正操作が実行されたか否かを判定し、
前記修正操作の実行判定の結果に応じて再学習を実行する、
車両制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御方法であって、
前記車両の周辺環境を取得し、
前記周辺環境を参照して前記車両から所定距離範囲内に障害物が存在するか否かを判定し、
前記障害物が存在するか否かの判定結果に基づいて前記再学習の要否を判断する、
車両制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の車両制御方法であって、
前記低車速域で走行していた際の前記車速に加えて加速度及び躍度を学習し、
前記車速、前記加速度、及び前記躍度の学習結果に基づいて、前記クリープ時目標車速、クリープ時目標加速度、及びクリープ時目標躍度を演算し、
前記クリープ時目標車速、前記クリープ時目標加速度、及び前記クリープ時目標躍度に基づいて、前記アクセルオフ時に出力する前記駆動トルクを定める、
車両制御方法。
【請求項7】
運転者のアクセルオフ時に駆動トルクを出力する車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速を学習する車速学習部と、
前記車速の学習結果に基づいてクリープ時目標車速を演算する目標車速演算部と、
前記クリープ時目標車速に基づいて、前記アクセルオフ時に出力する前記駆動トルクを定める駆動トルク設定部と、を有する、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法及び車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の加速度を考慮して、アクセルオフ時に車両に作用させる駆動トルク(クリープトルク)を調節する制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-202264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駐車場走行時などの低車速域の走行シーンにおいて、運転者はクリープトルクのみでは車速が不足すると感じた場合には、アクセル操作を行うことが想定される。その一方で、歩行者の飛び出しや他車両を発見した場合など、運転者に対して速やかなブレーキの操作が要求される状況が生じる得る。かかる状況においては、運転者に対しては適宜アクセル操作からブレーキ操作への切り替えを行う必要があり、頻繁なペダル操作が要求されることとなる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、低車速域の走行シーンにおいて、運転者に対して要求されるペダル操作を減少させることで車両の運転性をより向上させることのできる車両制御方法及び車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、運転者のアクセルオフ時に駆動トルクを出力する車両を制御する車両制御方法が提供される。この車両制御方法では、車両が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速を学習し、車速の学習結果に基づいてクリープ時目標車速を演算し、クリープ時目標車速に基づいて、アクセルオフ時に出力する前記駆動トルクを定める。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低車速域の走行シーンにおいて、運転者に対して要求されるペダル操作を減少させることで車両の運転性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両制御方法を適用する車両の概略構成図の一例である。
図2図2は、車両を制御する制御システムの概略構成図の一例である。
図3図3は、各制御フェーズの遷移図である。
図4図4は、学習フェーズを説明するフローチャートである。
図5図5は、通常フェーズを説明するフローチャートである。
図6図6は、検証フェーズを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る車両制御方法を適用する車両100を上方から見た概略構成図の一例である。図1において、車両100の前進時の進行方向(紙面上側)を前、後退時の進行方向(紙面下側)を後ろ、前方を向いた状態における左側を左、同右側を右とする。図2は車両100を制御する制御システムの概略構成図の一例である。
【0011】
本実施形態では、車両100がいわゆる純電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)の場合について説明する。しかしながら、車両100は、シリーズ式のハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)であっても良いし、パラレル式のハイブリッド自動車であっても良いし、内燃機関によって駆動される自動車であっても良い。車両100の車輪を駆動する駆動源の種類は問わない。
【0012】
車両100は、制動・駆動アクチュエータ1と、コントローラ2と、レーダ3と、前方カメラ4と、サイドカメラ5L、5Rと、ナビゲーションシステム6と、アクセルペダル開度センサ(以下、APOセンサともいう。)7と、ブレーキスイッチ8と、ステアリングセンサ9と、加速度センサ10と、車速検出ユニット11と、セレクトスイッチ12と、を備える。
【0013】
制動・駆動アクチュエータ1は、車両100の駆動源である電動モータと、電動モータを制御するインバータ等を含むユニットである。電動モータはバッテリ(図示せず)からの電力供給によって作動し、車輪(図示せず)を駆動する。また、電動モータは、減速時には車両100の運動エネルギを電力として回生することで制動力を発生する。なお、車両100が内燃機関で駆動される場合は、制動・駆動アクチュエータ1は内燃機関である。
【0014】
車両制御装置としてのコントローラ2は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ2を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。特に、コントローラ2は、車両100の動作を統括的に制御する車両コントローラ、電動モータの動作を制御するモータコントローラ、及びその他の各種処理を実行するための車載のECUにより構成される。
【0015】
レーダ3は、例えば車体前端付近に配置され、電波を用いて車両100の周辺にある物体との距離及びその方向を検出する。
【0016】
前方カメラ4は、例えばルームミラー付近に車両進行方向を向けて配置され、車両100の前方(図中の領域F1)を撮影する。なお、前方カメラ4を、上記の領域F1を撮影するカメラと、車両100の側方(図中の領域F2)を撮影する広角カメラと、からなるカメラユニットとしてもよい。
【0017】
サイドカメラ5L、5Rは、例えばサイドカメラ5Lが左ドアミラーに、サイドカメラ5Rが右ドアミラーに設けられ、車両100の左側方(図中の領域SL)及び右側方(図中の領域SR)を撮影する。なお、サイドカメラ5L、5Rをまとめてサイドカメラ5と称することもある。
【0018】
レーダ3が検出した情報と、前方カメラ4及びサイドカメラ5が撮影した画像情報は、コントローラ2に読み込まれる。コントローラ2は、これらの情報に基づいて車両100の周辺状況、例えば対象物までの距離、対象物との相対距離、対象物との相対速度、対象物の属性等、を特定する。
【0019】
ナビゲーションシステム6は、例えば車室内に配置され、予め記憶した地図情報と人工衛星から取得した位置情報とに基づいて、運転者が設定した目的地までの走行ルートの設定及びガイド等を行う。
【0020】
また、ナビゲーションシステム6は、予め記憶した地図情報と人工衛星から取得した位置情報とに基づいて、車両100の周辺状況、例えば走行中の道路の属性、曲率、幅員、制限車速、交通標識の位置及び内容、及び信号の位置等、を特定する。ここでいう道路の属性とは、高速道路、渋滞路、ワインディング、人口密集地の道路、狭路、駐車場内等である。なお、走行中の道路の曲率及び幅員については、前方カメラ4及びサイドカメラ5が撮影した画像情報を用いて特定することもできる。
【0021】
なお、本実施形態の車両100は、周辺状況を特定するための装置としてレーダ3、前方カメラ4、サイドカメラ5、及びナビゲーションシステム6を備えるが、これに限られるわけではない。例えば、レーダ3、前方カメラ4及びサイドカメラ5のいずれかに替えて、又はこれらに加えて、ライダ(Laser Imaging Detection and Ranging:LIDAR)を備えてもよい。また、ナビゲーションシステム6に替えて、又は加えて、車車間通信や路車間通信等のV2X(Vehicle to Everything)通信が可能な通信装置を備えてもよい。
【0022】
アクセルペダルセンサ7は、運転者が操作するアクセルペダル(図示せず。以下、単に「アクセル」という場合がある。)の開度を検出する。アクセルペダルの開度がゼロでない状態をアクセルオンといい、アクセルペダルの開度がゼロである状態をアクセルオフという。検出されたアクセルペダル開度はコントローラ2に読み込まれる。
【0023】
ブレーキスイッチ8は、運転者が操作するブレーキペダル(図示せず。以下、単に「ブレーキ」という場合がある。)の操作状態を検出する。ブレーキペダルが踏み込まれている状態をブレーキオンといい、ブレーキペダルが踏み込まれていない状態をブレーキオフという。検出されたブレーキペダルの操作状態(ブレーキオン/ブレーキオフ)はコントローラ2に読み込まれる。
【0024】
ステアリングセンサ9は、運転者が操作するステアリング(図示せず)の操作状態(操舵角、操舵力)を検出する。検出されたステアリングの操作状態はコントローラ2に読み込まれる。
【0025】
加速度センサ10は、車両100の加速度Aを検出する。検出された加速度Aはコントローラ2に読み込まれる。
【0026】
車速検出ユニット11は、例えば、車輪の回転速度を検出する回転速度センサを備える。検出された車輪の回転速度はコントローラ2に読み込まれる。車速検出ユニット11は、駆動源の出力トルクに基づいて車速Vを推定する構成であっても良いし、ナビゲーションシステム6から取得した車両100の位置情報に基づいて車速Vを推定する構成であっても良いし、カメラ4、5やレーダ3から取得した情報に基づいて車速Vを推定する構成であっても良い。
【0027】
セレクトスイッチ12は、運転者がシフター(図示せず)で選択した車両100の操作モード(前進モード、後進モード、ニュートラルモード、パーキングモード等)を検出する。検出された操作モードはコントローラ2に読み込まれる。
【0028】
コントローラ2は、上述した車両100の周辺状況に関する情報である周辺状況情報、各種センサで検出した情報、等を読み込み、これらの情報に基づいて制動・駆動アクチュエータ1を制御する。
【0029】
本実施形態では、コントローラ2は、車両100が所定車速以下の低車速域で走行するシーンを検出すると、運転者のアクセルオフ時(アクセルペダルに対する操作量がゼロであるとき)に駆動源である電動モータに駆動トルク(以下、「クリープトルク」とも称する)を出力させる自動クリープ制御を実行する。
【0030】
ここで、低車速域において自動クリープ制御を実行する意義について説明する。低車速域の走行シーンの一例である駐車場における走行時においては、基本値として定まるクリープトルク(AT車の構造により不可避的に生じるクリープトルク、又は電動車両においてこれを擬似的に再現したアクセル操作オフ時のトルク)のみで車両100を駆動させることで、必要な車速Vが得られる場合もある。
【0031】
その一方で、運転者によっては、この基本的なクリープトルクのみで得られる車速Vでは十分とは感じず、アクセル操作を実行することがある。この場合において、例えば、運転者が車両100の前を通過しようとする歩行者を発見した場合には、アクセル操作を解除してブレーキ操作を実行することが想定される。しかしながら、アクセル操作からブレーキ操作への切り替えに要する時間は運転者の運転スキルや反応速度に大きく依存する。
【0032】
このような状況に鑑みて、本実施形態では、以下の図3図6で説明するように、低車速域の走行シーン(特に駐車場走行時)において、運転者にアクセル操作からブレーキ操作への切り替えを要求することなく、当該運転者が望む車速Vを得ることのできる自動クリープ制御を実行する。
【0033】
特に、本実施形態では、低車速域の走行シーンにおいて、以下の学習フェーズ、通常フェーズ、及び検証フェーズを適宜実行することで、上記目的を達成する。
【0034】
図3は、学習フェーズ、通常フェーズ、及び検証フェーズの遷移を示す図である。図示のように、本実施形態の車両制御方法には、学習フェーズ、通常フェーズ、及び検証フェーズが含まれる。
【0035】
学習フェーズは、車両100における自動クリープ制御を実行する際の車速Vの目標値であるクリープ時目標車速Vを定めるための学習を実行するフェーズである。通常フェーズは、学習フェーズで定められたクリープ時目標車速Vを用いて自動クリープ制御を実行するフェーズである。検証フェーズは、自動クリープ制御の実行中において運転者による修正操作が実行されるかなどを参照して再学習の必要性を判定するフェーズである。
【0036】
本実施形態では、先ず、学習フェーズによる学習によって自動クリープ制御において用いるクリープ時目標車速Vの設定又は更新を行い、学習によって得られたクリープ時目標車速Vを入力として通常フェーズが実行される。また、通常フェーズの実行と並行して検証フェーズが実行される。以下では、各フェーズにおける詳細について説明する。なお、各フェーズにおけるそれぞれの処理は、コントローラ2により実行される。
【0037】
図4は、学習フェーズを説明するフローチャートである。
【0038】
図示のように、学習フェーズでは、ステップS10において、車両100が駐車場を走行しているか否かを判定する。より具体的に、カメラ4,5により取得される周辺画像に含まれる他車両の数などを参照して、車両100の現在地が駐車場であるか否かを判定する。また、車速検出ユニット11により検出される現在の車速V及びナビゲーションシステム6により得られる車両100の位置情報などを参照して、当該判定を実行しても良い。
【0039】
そして、車両100が駐車場を走行していると判断すると、ステップS11の処理を実行する。ステップS11では、車両100の車速Vを記録する。より具体的に、コントローラ2は、車速検出ユニット11により検出される車速Vを所定のサンプリング数k(k=1,2,3・・・)に亘って内部メモリに記録する。なお、以下では、記録された車速Vを、その記録回数を表す文字kを用いて「レコード車速V」と記載する。
【0040】
次に、ステップS12において、レコード車速Vの数(すなわち、サンプリング数k)が一定値以上となったか否かを判定する。そして、サンプリング数kが一定値以上となったと判断すると、ステップS13の処理を実行する。
【0041】
ステップS13において、コントローラ2は、レコード車速Vに、当該車両100を運転する運転者の識別情報I及び走行場所情報Iを紐づけて成る走行車速データD(V,I,I)を生成する。
【0042】
ここで、運転者の識別情報Iは、例えば、車室内に配された所定の入力インターフェースを介して予め入力された運転者の情報をコントローラ2の内部メモリに記憶しておき、当該情報を読み出すことで取得することができる。また、運転者の識別情報Iについては、車両100の外部に配される外部サーバ(所定のクラウド等)において予め記録されている運転者の識別情報Iを、当該外部サーバとのV2X通信により取得する構成を採用しても良い。また、走行場所情報Iとしては、ナビゲーションシステム6により得られる車両100の現在位置を用いることができる。
【0043】
ステップS14において、走行車速データD(V,I,I)を参照して、運転者の識別情報Iに紐づくクリープ時目標車速V(I,I)を定める。より具体的に、コントローラ2は、例えばレコード車速Vに対して所定の統計処理(サンプリング数k当たりの平均値を求める演算など)を適用することで、クリープ時目標車速V(I,I)を求めることができる。これにより、通常フェーズにおいて実行される自動クリープ制御において目指すべき車速Vを、各運転者の走行場所に応じた趣向を考慮した値に定めることができる。
【0044】
なお、運転者の趣向は、走行している駐車場の混雑度合い及び広さなどによっても影響を受けると考えられる。この点を考慮して、駐車場の混雑度合い及びは広さなどを示唆するパラメータを定め、当該パラメータを参照して走行車速データD(V,I,I)からクリープ時目標車速V(I,I)を演算するアルゴリズムを採用しても良い。より具体的に、車両100に搭載されたカメラ4,5、レーダ3、及びライダ等の外界認識センサ、及び/又はV2X通信を用いることで、周辺車両及び歩行者の数、並びに車両100と他の交通参加者との距離及び密度を演算し、これらの演算値から駐車場の混雑度合い及び広さを定量化することで上記パラメータを定めることができる。さらに、当該パラメータを用いて走行車速データD(V,I,I)を適宜補正することで、駐車場の混雑度合い及び広さの影響が考慮されたクリープ時目標車速V(I,I)を定めることができる。
【0045】
次に、ステップS15において、クリープ時目標車速V(I,I)が、所定の上限車速未満であるか否かを判定する。なお、上限車速は、低車速域の走行時における安全性などを考慮して定められる車速Vの上限値である。具体的な数値に限定されるものではないが、一例として、上限車速は20[km/h]程度に設定することができる。
【0046】
そして、クリープ時目標車速V(I,I)が上限値未満である場合には、ステップS14で演算したクリープ時目標車速V(I,I)を最新の値として記録し、本学習フェーズを終了する。一方、クリープ時目標車速V(I,I)が上限値を超える場合には、ステップS14で演算したクリープ時目標車速V(I,I)を破棄して(ステップS16)、本学習フェーズを終了する。なお、本学習フェーズで演算されたクリープ時目標車速V(I,I)を破棄した場合には、前回以前の学習フェーズで定められたクリープ時目標車速V(I,I)を、本学習フェーズにおける学習結果として出力し、通常フェーズにおいて用いることができる。
【0047】
そして、学習フェーズで得られるクリープ時目標車速V(I,I)を入力として、通常フェーズが実行される。
【0048】
図5は、通常フェーズを説明するフローチャートである。
【0049】
図示のように、通常フェーズのステップS20では、学習フェーズにおける上記ステップS10と同様に、車両100が駐車場を走行しているか否かを判定する。そして、車両100が駐車場を走行していると判断すると、ステップS21の処理を実行する。
【0050】
ステップS21では、運転者に対して、自動クリープ制御の実行許可を求める処理を行う。より具体的には、例えば車室内のディスプレイに、自動クリープ制御の実行の提案及びその実行を許可するか否かを確認する内容を含むテキスト表示を行う。
【0051】
そして、運転者により自動クリープ制御の実行許可が得られると、自動クリープ制御を実行する(ステップS22のYes及びステップS23)。より具体的に、運転者により車室内の入力インターフェースを介して実行許可の意思を示す操作がなされると、現在の車速Vが学習フェーズで定めたクリープ時目標車速V(I,I)に近づくようにクリープトルクを定め、定めたクリープトルクに基づいて制動・駆動アクチュエータ1を操作する。
【0052】
次にステップS24において、自動クリープ制御が実行されている状況下において、車両100のスリップ率が所定値以下であるか否かを判定する。スリップ率が所定値以下である場合には自動クリープ制御を維持して本通常フェーズを終了する。一方、スリップ率が所定値を超える場合には自動クリープ制御を停止して(ステップS25)、本通常フェーズを終了する。
【0053】
すなわち、自動クリープ制御を実行してクリープトルクの増大が促されると、車輪速度と車体速度の間に意図しない差が発生する(スリップ率が大きくなる)ことが想定される。これに対して、上記ステップS24及びステップS25の処理を実行することで、スリップ率が許容範囲を超えて大きくなった場合に自動クリープ制御を停止することができる。
【0054】
なお、上述したステップS24又はステップS25の判定に基づいて自動クリープ制御を停止する際には、運転者に当該停止を告知するための処理(例えば車室内ディスプレイによる表示など)を実行することが好ましい。
【0055】
また、自動クリープ制御が実行されている状況下において、一定回数以上のアクセル操作及び/又はブレーキ操作の実行が検知される場合には、自動クリープ制御を停止する制御を採用しても良い。すなわち、自動クリープ制御を実行している際に、運転者が一定回数以上のアクセル操作及び/又はブレーキ操作を実行している場合には、車両100における周辺環境(障害物や歩行者の存在など)の影響で自動クリープ制御を継続することが望ましくないシーンであることが想定される。このため、上記ステップS25及びステップS26の処理を実行することで当該シーンにおいて自動クリープ制御を停止することができ、運転者の操作に対する干渉を回避することができる。さらに、上記自動クリープ制御について、運転者の手動操作により適宜、その作動と非作動を切り替え可能とすることが好ましい。
【0056】
次に、上記の通常フェーズと並行して実行される検証フェーズについて説明する。
【0057】
図6は、検証フェーズを説明するフローチャートである。
【0058】
検証フェーズのステップS30では、学習フェーズにおける上記ステップS10と同様に、車両100が駐車場を走行しているか否かを判定する。そして、車両100が駐車場を走行していると判断すると、ステップS31の処理を実行する。
【0059】
ステップS31では、アクセル操作、ブレーキ操作、車速V、及び加速度Aを記録する。より具体的に、コントローラ2は、アクセルペダルセンサ7により検出されるアクセル操作、ブレーキスイッチ8により検出されるブレーキ操作、車速検出ユニット11により検出される車速V、及び加速度センサ10により検出される加速度Aを所定の演算サンプリング数に亘って内部メモリに記録する。
【0060】
そして、記録された各量に基づいて、運転者による修正操作が一定回数以上であるか否かを判定する。より具体的に、車速V若しくは加速度Aの変化量が所定値以下となるアクセル操作又はブレーキ操作の回数が所定回数以上となる場合に、運転者による修正操作が一定以上であると判断する。ここで、車速V又は加速度Aの変化量が所定値を超える際のアクセル操作又はブレーキ操作(一定以上の加減速を伴う操作)は、例えば障害物の回避など、車速Vが望む値に達していないこと以外の要因により実行されたものと考えられる。したがって、このような一定以上の車速V又は加速度Aの変化を伴うアクセル操作又はブレーキ操作については運転者による修正操作のカウントから除外することで、再学習の必要性をより高精度に判断することができる。
【0061】
また、例えば車両100の周辺(車両100から所定距離範囲内)に障害物が存在することで、運転者が当該障害物を避けるなどの目的でアクセル操作又はブレーキ操作を行うシーンが想定される。一方で、この場合における運転者の操作は、車速Vが望む値に達していないことによるものでは無いため、当該操作を修正操作に含めて再学習の必要性を判断すると、学習の精度低下に繋がることが想定される。したがって、ステップS31における各量の記録とともに当該各量の検出時において車両100から所定距離範囲内の障害物が存在するか否かの判定を行い、障害物が存在していないときのアクセル操作及びブレーキ操作のみを、運転者による修正操作の回数としてカウントすることが好ましい。なお、所定距離範囲内の障害物が存在するか否かの判定は、上述した外界認識センサ及び/又はV2X通信により得られる車両100の周辺状況を入力として実行することができる。
【0062】
そして、運転者による修正操作が一定回数以上であると判断すると、再学習が必要であると判断して(ステップS33)、再度学習フェーズ(図3)を実行する。なお、再度の学習フェーズにおいては、ステップS31において記録した車速Vを、学習フェーズ(特にステップS12)におけるレコード車速Vとして用いても良い。
【0063】
以上説明した本実施形態の車両制御方法による作用効果をまとめて説明する。
【0064】
本実施形態では、運転者のアクセルオフ時に駆動トルク(クリープトルク)を出力する車両100を制御する車両制御方法が提供される。この車両制御方法では、車両100が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速V(レコード車速V)を学習し、車両100のクリープ時目標車速Vを演算し、クリープ時目標車速Vに基づいてクリープトルクを定める。
【0065】
これにより、車両100が実際に低車速域で走行していた際の車速Vの記録を学習することにより、クリープ走行中において好適と推定される車速V(クリープ時目標車速V)を定め、当該クリープ時目標車速Vに基づいてクリープトルクを調節することができる。したがって、駐車場走行時などの低車速域における走行シーンにおいて、運転者によるアクセル操作又はブレーキ操作を要することなく必要な車速Vを確保することができ、車両100の運転性をより向上させることができる。
【0066】
特に、本実施形態では、低車速域で走行していた際の車速V(レコード車速V)を、車両100を運転していた運転者の情報(識別情報I)及び車両100が走行していた走行場所の情報(走行場所情報I)に紐づけて学習する。
【0067】
これにより、車両100を運転する複数の運転者及び走行場所に紐付いたクリープ時目標車速V(I,I)を求めることができる。すなわち、クリープ走行時における車速Vを、当該車両100を運転する各運転者のそれぞれの趣向と走行場所を加味した値に調節することができる。
【0068】
なお、演算の簡素化を図るために、レコード車速Vを運転者の識別情報I及び走行場所情報Iの何れか一方のみを紐づけて学習する構成を採用しても良い。また、レコード車速Vから運転者の識別情報I及び走行場所情報Iの何れも紐づけずに学習を実行する構成を採用し、さらなる演算の簡素化を図っても良い。
【0069】
また、本実施形態では、車速Vの学習結果に基づいて定めたクリープ時目標車速Vによって車両100を制御している際に、運転者によって駆動力及び/又は制動力を修正する修正操作が実行されたか否かを判定する。そして、修正操作の実行判定の結果に応じて再学習を実行する。
【0070】
これにより、学習結果に応じて定めたクリープ時目標車速Vが、運転者の趣向に合致してない状況を検知した上で、再度の学習によりクリープ時目標車速Vを適宜調節(更新)することができる。
【0071】
さらに、本実施形態では、車両100の周辺環境を取得し、当該周辺環境を参照して車両100から所定距離範囲内に障害物が存在するか否かを判定する。そして、障害物が存在するか否かの判定結果に基づいて再学習の要否を判断する。
【0072】
これにより、車両100の周辺に障害物が存在することに起因して運転者によるアクセル操作及び/又はブレーキ操作が実行された状況を検知することができるので、当該障害物が存在する状況下で行われた操作であることを考慮して再学習の必要性を決めることができる。したがって、クリープ走行中における車速Vが運転者にとって望ましい値ではない状況を適切に推定し、当該状況に絞って再学習が必要である旨の判断を行うことができるので、誤学習の発生を防止することができる。
【0073】
また、本実施形態では、上記の車両制御方法の実行に適した車両制御装置として機能するコントローラ2が提供される。
【0074】
特に、このコントローラ2は、車両100が過去に所定車速以下の低車速域で走行していた際の車速V(レコード車速V)を学習する車速学習部、車速Vの学習結果に基づいてクリープ時目標車速Vを演算する目標車速演算部、及びクリープ時目標車速Vに基づいてアクセルオフ時に出力する駆動トルク(クリープトルク)を定める駆動トルク設定部として機能する。
【0075】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0076】
本実施形態では、図2の学習フェーズのステップS11において、車両100の車速Vに加えて、加速度A、及び躍度Jを記録する。加速度Aは加速度センサ10の検出値として取得することができ、躍度Jは取得された加速度Aを時間微分することにより求めることができる。また、加速度Aを車速Vの時間微分により求め、躍度Jはこのように求めた加速度Aをさらに時間微分することで求めても良い。なお、以下では、記録された加速度A、及び躍度Jを、それぞれ、「レコード加速度A」及び「レコード躍度J」と記載する。
【0077】
そして、各値のサンプリング数kが一定値以上となったと判断すると(ステップS12のYes)、レコード車速Vに当該車両100を運転する運転者の識別情報I及び走行場所情報Iを紐づけて成る走行車速データD(V,I,I)、レコード加速度Aに識別情報I及び走行場所情報Iを紐づけて成る走行加速度データD(A,I,I)、及びレコード躍度Jに識別情報I及び走行場所情報Iを紐づけて成る走行躍度データD(J,I,I)を生成する。
【0078】
さらに、ステップS14において、走行車速データD(V,I,I)、走行加速度データD(A,I,I)、及び走行躍度データD(J,I,I)を参照して、それぞれ、クリープ時目標車速V(I,I)、クリープ時目標加速度A(I,I)、及びクリープ時目標躍度J(I,I)を定める。なお、クリープ時目標加速度A(I,I)及びクリープ時目標躍度J(I,I)は、それぞれ、車速Vをクリープ時目標車速V(I,I)に近づける際の加速度A及び躍度Jの目標値である。より具体的に、例えばレコード加速度A及びレコード躍度Jのそれぞれに対して所定の統計処理(サンプリング数k当たりの平均値を求める演算など)を適用することで、クリープ時目標加速度A(I,I)、及びクリープ時目標躍度J(I,I)とすることができる。
【0079】
そして、図5の通常フェーズのステップS23において、コントローラ2は、自動クリープ制御を実行する。より具体的に、コントローラ2は、現在の車速V、加速度A、及び躍度Jが、学習フェーズで定めた上記のクリープ時目標車速V(I,I)、クリープ時目標加速度A(I,I)、及びクリープ時目標躍度J(I,I)に近づくようにクリープトルクを演算し、当該クリープトルクに基づいて制動・駆動アクチュエータ1を操作する。
【0080】
これにより、車速Vの学習に加え、加速度A及び躍度Jを同時に学習し、その結果に応じたクリープトルクを定めることで、自動クリープ制御中において、車速Vがクリープ時目標車速V(I,I)に到達するまでの加速度A及び躍度Jを識別情報Iにより特定される運転者の個人の趣向を考慮して定めることができる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態では、低車速域で走行していた際の車速Vに加えて加速度A及び躍度Jを学習し、車速V、加速度A、及び躍度Jの学習結果に基づいて、クリープ時目標車速V(I,I)、クリープ時目標加速度A(I,I)、及びクリープ時目標躍度J(I,I)を演算する。そして、クリープ時目標車速V(I,I)、クリープ時目標加速度A(I,I)、及びクリープ時目標躍度J(I,I)に基づいて、クリープトルクを定める。
【0082】
これにより、運転者によるアクセル操作が行われていない状況下において、車速Vを所望のクリープ時目標車速Vに調節しつつ、車速Vがクリープ時目標車速Vに到達するまでにおける加速度A及び躍度Jも運転者にとって望まれる値に調節することができる。
【0083】
なお、上記ステップS11において、車両100から所定距離範囲内に障害物が存在するなどの車両100の挙動を制限する要因が存在するか否かをさらに判定し、当該要因が存在すると判断した場合においてその際に検出される車速V、加速度A、及び躍度Jを記録から除外する構成を採用しても良い。すなわち、この場合に行われるアクセル操作及び/又はブレーキ操作(車速V、加速度A、及び/又は躍度Jの変化)は、主として障害物との衝突を避けるためなどの安全上の理由によるものであって運転者の趣向に沿うものではないと考えられる。したがって、当該シーンで検出される各量を学習に用いるデータから除外することで誤学習を防ぐことができる。
【0084】
また、車両100から所定距離範囲内に障害物が存在するか否かの判定に代えて、又はこれとともに、記録された加速度A、躍度J、及び車両諸元から車両100のピッチ量及び/又は車両乗員に作用するモーメントを推定して、当該推定結果を参照してて適宜、記録される車速V、加速度A、及び躍度Jを学習に用いるデータから除外する構成を採用しても良い。例えば、一定以上に強い減速度が生じる状況では、車両100は乗員にとって首がもたげるなどの不快な挙動を示すこととなる。このため、当該挙動を示す状況は、少なくとも運転者の趣向に沿ったものでは無いとみなすことができる。したがって、推定したピッチ量及び/又はモーメントと所定の判定値との比較結果などに応じて当該挙動を示す状況を推定し、そのような状況が発生している際に検出される車速V、加速度A、躍度Jを学習に用いるデータから除外することで、学習の精度をより向上させることができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0086】
2 駆動力演算ユニット(車両制御装置、駆動トルク制御部)
100 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6