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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025112201
(43)【公開日】2025-07-31
(54)【発明の名称】車両および車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20250724BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20250724BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20250724BHJP
【FI】
B60W10/00 102
B60W10/04
B60W10/02
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006360
(22)【出願日】2024-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 克也
【テーマコード(参考)】
3D241
3J057
【Fターム(参考)】
3D241AA67
3D241AD02
3D241AD50
3D241AE02
3D241AE14
3D241BA54
3D241BA55
3D241BA56
3D241BC01
3D241CC02
3D241CC03
3D241CC13
3D241DA03Z
3D241DA19Z
3D241DA52Z
3D241DA69Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3J057BB04
3J057GA80
3J057GB02
3J057GB05
3J057GB36
3J057HH06
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】トルク変動を抑えて運転者の走行フィーリングを向上する。
【解決手段】一態様に係る車両は、走行駆動源である内燃エンジンと、駆動輪と、内燃エンジン側に配置される第1回転体および駆動輪側に配置される第2回転体を含むメインクラッチと、メインクラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、処理回路と、を備える車両であって、処理回路は、メインクラッチの切断状態で車両が走行している状態で、内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定し、燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させるようクラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御を実行し、クラッチ制御が開始した後に、内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定し、燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、内燃エンジンの燃焼を開始させる燃焼開始制御を実行する、ように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記メインクラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、
処理回路と、を備える車両であって、
前記処理回路は、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定し、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させるよう前記クラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御を実行し、
前記クラッチ制御が開始した後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定し、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる燃焼開始制御を実行する、ように構成されている、車両。
【請求項2】
前記駆動輪に動力伝達可能な電動モータを更に備え、
前記処理回路は、前記燃焼開始制御以降、前記内燃エンジンの出力トルクを増加させるよう前記内燃エンジンを制御するとともに、前記電動モータの出力トルクを低減させるよう前記電動モータを制御するように構成されている、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記電動モータは、前記車両における前記内燃エンジンとは別の走行駆動源であり、
前記車両は、前記動力伝達経路における前記第2回転体と前記駆動輪との間に配置され、前記電動モータの出力トルクが伝達される伝達軸を更に備え、
前記処理回路は、前記クラッチ制御において、前記メインクラッチの締結圧力の増加に伴って、前記電動モータの出力トルクを増加させるよう前記電動モータを制御するように構成されている、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記処理回路は、前記燃焼開始制御による前記内燃エンジンの燃焼の開始と同時に、前記電動モータの出力トルクの低減を開始するように構成されている、請求項2または3に記載の車両。
【請求項5】
前記処理回路は、
少なくとも前記クラッチ制御が開始した時点から前記燃焼許可条件が満たされたと判定する時点までは、前記内燃エンジンの気筒の吸気量を調節するためのスロットル弁が閉状態にあるという第1燃焼不可条件、前記内燃エンジンの点火装置による前記気筒での点火が中止されているという第2燃焼不可条件、および、前記内燃エンジンの気筒への燃料供給が停止されているという第3燃焼不可条件、の少なくとも1つが満たされている燃焼不可状態を前記内燃エンジンが維持するよう前記内燃エンジンを制御し、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記燃焼開始制御において、前記内燃エンジンが、前記燃焼不可状態から、前記第1燃焼不可条件、前記第2燃焼不可条件および前記第3燃焼不可条件のいずれも満たされていない燃焼可能状態に変えることにより、前記内燃エンジンの燃焼を開始させるように構成されている、請求項1または2に記載の車両。
【請求項6】
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記クラッチ制御において、前記メインクラッチが切断状態から締結状態に遷移する時間を変更するように構成されている、請求項1または2に記載の車両。
【請求項7】
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記燃焼許可条件を変更するように構成されている、請求項1または2に記載の車両。
【請求項8】
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記内燃エンジンの出力トルクを増加させる制御における、前記内燃エンジンの出力トルクの増加速度を変更するように構成されている、請求項2に記載の車両。
【請求項9】
前記車両は、鞍乗車両である、請求項1または2に記載の車両。
【請求項10】
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、
前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む、車両の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両および車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のハイブリッド車両では、走行中に、伝達軸の回転を利用してエンジンを回転させる。次に車両は、エンジンの燃焼を判定すると、クラッチを制御して伝達軸にエンジンの駆動力が伝達されない状態とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-95015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両では、伝達軸からエンジンへ動力伝達を開始するとともに、エンジンの燃焼を開始する。このため、エンジンの燃焼開始タイミングが定まらず、エンジン燃焼開始に起因するトルク変動が伝達軸に伝達されやすい。このトルク変動に起因して運転者の走行フィーリングを損ねてしまう。
【0005】
そこで、本開示は、トルク変動を抑えて運転者の走行フィーリングを向上する車両および車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る車両は、走行駆動源である内燃エンジンと、駆動輪と、前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、前記メインクラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、処理回路と、を備える車両であって、前記処理回路は、前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定し、前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させるよう前記クラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御を実行し、前記クラッチ制御が開始した後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定し、前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる燃焼開始制御を実行する、ように構成されている。
【0007】
本開示の一態様に係る車両の制御方法は、走行駆動源である内燃エンジンと、駆動輪と、前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、エンジンの燃焼開始タイミングのばらつきを防いでトルク変動を抑えて運転者の走行フィーリングを向上する車両および車両の制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施の形態に係る車両の模式図である。
図2】コントローラおよびその入出力を示すブロック図である。
図3】EVモードからHEVモードへの切替制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図4図3に示す切替制御における各値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態を説明する。
【0011】
<車両の構成>
図1は、一実施の形態に係る車両1の模式図である。本実施の形態において、車両1は、駆動輪9である後輪と従動輪である前輪とを備えた鞍乗車両である。鞍乗車両としては、自動二輪車や自動三輪車などが例示される。
【0012】
本実施形態で説明される車両1は、ハイブリッド車両である。車両1は、駆動輪9を駆動させるためのトルクを発生させる2つの走行駆動源として、内燃エンジン(以下、単に「エンジン」とも称する)2と電動モータ3とをそれぞれ備える。電動モータ3は、正逆回転可能に構成されている。また、車両1は、変速機4、メインクラッチ(以下、単に「クラッチ」とも称する)21、クラッチアクチュエータ22、およびコントローラ30を備える。
【0013】
変速機4は、走行駆動源から出力された回転動力を変速する。本実施形態では、変速機4は、ドッグクラッチ式のギヤ変速機である。変速機4は、入力軸5、出力軸6、および、変速比の異なる複数組の変速ギヤ対7を有する。入力軸5および出力軸6は、互いに平行である。入力軸5には、エンジン2および電動モータ3から動力が入力される。出力軸6は、出力伝達機構8を介して駆動輪9に動力を伝達する。例えば出力伝達機構8は、ドライブチェーン、ドライブベルト、ドライブシャフト等である。
【0014】
車両1は、運転者による操作を受け付ける少なくとも1つの操作子を備えている。少なくとも1つの操作子は、アクセル操作子、ブレーキ操作子、ブースト操作子、変速操作子、モード切替操作子、または、それらの任意の組合せである。例えばアクセル操作子は、ハンドルに配置されたスロットルグリップであってもよい。例えばブレーキ操作子は、ハンドルに配置されたブレーキレバーであってもよい。例えば変速操作子は、運転者の足で操作されるシフトペダルでもよいし、ハンドルに配置されたレバーやスイッチでもよい。例えばブースト操作子やモード切替操作子は、それぞれ、ハンドルに配置されたスイッチでもよい。これら操作子に対する運転者の操作は、後述の操作センサ31により検出される。
【0015】
変速機4において、運転者による変速操作子の操作に機械的に連動して複数組の変速ギヤ対7から1組が選択される。複数の変速段の中から選択された1つの変速段に対応する変速ギヤ対が、入力軸5から出力軸6へ動力を伝達する。変速機4は、変速操作子に対する運転者の変速操作に電気的に連動してギヤチェンジするように構成されていてもよい。変速機4は、ドッグクラッチ式変速機でなくてもよく、例えば無段変速機であってもよい。
【0016】
メインクラッチ21は、エンジン2から駆動輪9にエンジン動力を伝達する経路であるエンジン動力伝達経路(以下、単に「動力伝達経路」と称する)に配置されている。具体的には、メインクラッチ21は、前記動力伝達経路におけるエンジン2と変速機4の入力軸5との間に配置されている。
【0017】
メインクラッチ21は、摩擦クラッチである。例えばメインクラッチ21は、単板クラッチまたは多板クラッチである。メインクラッチ21は、互いに当接したり離間したりすることが可能な一対の回転体21a,21bを含む。一対の回転体21a,21bのうち、動力伝達経路におけるエンジン2側に配置される回転体を第1回転体21aと称し、動力伝達経路における駆動輪9側に配置される回転体を第2回転体21bと称する。
【0018】
エンジン2の動力が伝達されるプライマリギヤ11が、入力軸5の軸回りに、当該入力軸5に対し相対回転自在に配置されている。プライマリギヤ11と第1回転体21aとが共回転するように互いに接続されている。また、第2回転体21bと入力軸5とが共回転するように互いに接続されている。例えば第1回転体21aは、フリクションプレートであり、第2回転体21bは、クラッチプレートである。メインクラッチ21は、一対の回転体21a,21bの間の摩擦力で回転動力を、一対の回転体21a,21bの一方から他方に伝達する。
【0019】
メインクラッチ21は、クラッチアクチュエータ22により動作される。クラッチアクチュエータ22は、メインクラッチ21を動作させ、メインクラッチ21の締結圧力を変更する。メインクラッチ21の締結圧力は、一対の回転体21a,21bの一方に対して他方を押し付ける圧力である。メインクラッチ21の締結圧力が大きいほど、メインクラッチ21が伝達可能な伝達トルク、すなわち摩擦トルクは大きくなる。つまり、クラッチアクチュエータ22は、メインクラッチ21の伝達可能な伝達トルクを変更する。
【0020】
メインクラッチ21の締結圧力に応じて、メインクラッチ21は、切断状態、締結状態、半クラッチ状態のいずれかの状態となる。メインクラッチ21の切断状態は、一対の回転体21a,21bが互いに離間した状態であり、一方の回転体が回転したとしても、他方の回転体への動力伝達が阻止される状態である。すなわち切断状態は、エンジン2と入力軸5との間で動力が伝達されない状態である。
【0021】
メインクラッチ21の締結状態は、一対の回転体21a,21bの一方に対して他方が予め定められた最大締結圧力で十分に押付けられた状態である。締結状態では、一対の回転体21a、21bの間で基本的に滑りを発生させることなく、回転動力を伝達する状態である。すなわち締結状態は、エンジン2と入力軸5との間で、エンジン2と入力軸5のうちの一方の要素に生じたまたは伝達されたトルクの100%のトルクが、エンジン2と入力軸5のうちの他方の要素に伝達される状態である。
【0022】
メインクラッチ21が切断状態から締結状態に遷移する場合、メインクラッチ21は、半クラッチ状態を経由する。メインクラッチ21の半クラッチ状態は、一対の回転体21a,21bの一方に対して他方が前記最大締結圧力未満で押付けられた状態である。メインクラッチ21の半クラッチ状態は、一対の回転体21a,21bの一方に対して他方が最大締結圧力未満で押付けられた状態である。
【0023】
メインクラッチ21は、締結圧力に応じた許容トルクが設定される。許容トルクは、一対の回転体21a,21bの一方から他方へ伝達可能な最大のトルクである。締結圧力が小さくなるほど許容トルクも小さくなる。半クラッチ状態では、締結状態に比べて、締結圧力が小さいため、許容トルクが小さくなる。たとえば半クラッチ状態のメインクラッチ21は、締結圧力に応じて設定される許容トルクよりも大きなトルクが、エンジン2と入力軸5の一方から伝達された場合、許容トルクよりも大きな当該トルクを、エンジン2と入力軸5の他方に伝えることはない。したがって半クラッチ状態におけるメインクラッチ21の締結圧力を調整することで、メインクラッチ21を介してエンジン2と入力軸5の一方から他方へ伝達可能なトルクを調整することができる。半クラッチ状態での伝達可能なトルクは、段階的に調整できてもよいし、非段階的に調整できてもよい。
【0024】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ22は、油圧アクチュエータである。クラッチアクチュエータ22は、油圧室と、油圧室の油圧によって駆動するピストンと、油圧室の油圧を調整するソレノイドバルブを含む。ソレノイドバルブに与える電流値に応じて、クラッチ21の油圧が変化する。例えば油圧が予め設定された開放相当圧力のとき、クラッチ21は切断状態となり、油圧が締結相当圧力以上であるとき、クラッチ21は締結状態となる。油圧が開放相当圧力と締結相当圧力との間にあるとき、クラッチ21は、伝達可能なトルクが制限されて、回転動力を伝達する半クラッチ状態となる。本実施形態では、クラッチアクチュエータ22は、油圧室の油圧を段階的または連続的に可変設定可能に構成される。これによって、メインクラッチ21を介してエンジン2と入力軸5の一方から他方へ伝達可能なトルクを任意に設定することができる。
【0025】
本実施形態では、電動モータ3の出力軸3aが、メインクラッチ21の第2回転体21bと共回転する。具体的には、電動モータ3の出力軸3aが、ギヤチェーンなどを介して変速機4の入力軸5と共回りするように接続されており、また、前述したように、第2回転体21bと入力軸5とが共回転するように互いに接続されている。このため、電動モータ3の出力軸3aの回転数と変速機4の入力軸5の回転数とは互いに比例する。
【0026】
また、電動モータ3の出力軸3aは、メインクラッチ21を介さずに、変速機4の入力軸5と接続されている。このため、メインクラッチ21が切断状態であっても、エンジン2が回転しているか否かに関係なく、電動モータ3から入力軸5に動力伝達可能である。メインクラッチ21が接続すると、エンジン2の回転トルクを駆動輪9に伝達したり、駆動輪9の回転トルクをエンジン2に伝達したりすることができる。また、上述したとおり、メインクラッチ21の締結圧力を調整することで、一対の回転体21a,21bの一方から他方へ伝達されるトルクを可変にすることができる。
【0027】
図2は、コントローラ30およびその入出力を示すブロック図である。コントローラ30には、少なくとも1つの操作センサ31、エンジン回転数センサ32、モータ回転数センサ33、少なくとも1つの車両状態センサ34が電気的に接続されている。コントローラ30は、少なくとも1つの操作センサ31、エンジン回転数センサ32、モータ回転数センサ33、少なくとも1つの車両状態センサ34などの各種センサから受信した情報に基づいて、エンジン2、電動モータ3およびクラッチアクチュエータ22を制御する。
【0028】
少なくとも1つの操作センサ31は、前述した操作子に対する運転者の操作を検出する。少なくとも1つの操作センサ31は、例えばアクセル操作子であるスロットルグリップの角変位量を検出するアクセル操作センサ、ブレーキ操作子に対するブレーキ操作を検出するブレーキ操作センサ、ブースト操作子に対するブースト操作を検出するブースト操作センサ、変速操作子に対する変速操作を検出する変速操作センサ、モード切替操作子に対するモード切替操作を検出するモード切替操作センサ、または、それらの任意の組合せである。
【0029】
エンジン回転数センサ32は、エンジン2の回転数、すなわちクランク軸2aの回転数(以下、「エンジン回転数」ともいう)を検出する。なお、エンジン回転数センサ32は、クランク軸2aの回転数に対応するパラメータ値を検出できるものでもよい。すなわち、エンジン回転数センサ32は、クランク軸2aの回転を直接検出するものであってもよいし、例えばプライマリギヤ11や第1回転体21aなど、クランク軸2aと共回転する別の回転体の回転を検出するものであってもよい。
【0030】
モータ回転数センサ33は、電動モータ3の出力軸3aの回転数(以下、「モータ回転数」ともいう)を検出する。なお、モータ回転数センサ33は、電動モータ3の出力軸3aの回転数に対応するパラメータ値を検出できるものでもよい。すなわち、モータ回転数センサ33は、電動モータ3の出力軸3aの回転を直接検出するものであってもよいし、例えば入力軸5や第2回転体21bなど、電動モータ3の出力軸3aと共回転する別の回転体の回転を検出するものであってもよい。
【0031】
少なくとも1つの車両状態センサ34は、車両状態を検出する。少なくとも1つの車両状態センサ34は、例えば、車速を検出する車速センサ、各種方向(上下方向、前後方向、左右方向など)の車体の加速度を検出する加速度センサ、リーン角を検出するリーン角センサ、操舵角を検出する操舵センサ、車輪と車体との間に位置するサスペンションのストローク量を検出するストロークセンサ、上下方向の車体の振動数を検出する振動センサ、メインクラッチ21の締結圧力またはそれに相当するパラメータ値を検出するクラッチセンサ、クラッチアクチュエータ22の油温を検出する油温センサ、車体の周囲の気温を検出する温度センサ、電動モータ3に供給する電力を蓄えるバッテリの温度を検出する温度センサ、当該バッテリの充電率(SOC)を検出するバッテリセンサ、または、それらの任意の組合せである。
【0032】
エンジン2は、スロットル装置2a、点火装置2bおよび燃料供給装置2cを含む。スロットル装置2a、点火装置2bおよび燃料供給装置2cは、コントローラ30により制御される。スロットル装置2aは、エンジン2の気筒の吸気量を調節する。例えば、スロットル装置2aは、スロットル弁をモータなどの弁アクチュエータにより開閉動作させる電子制御スロットル装置である。点火装置2bは、エンジン2の燃焼室内の混合気に点火する。点火装置2bは、例えば点火プラグである。燃料供給装置2cは、エンジン2の燃焼室に供給される燃料の量を調節する。燃料供給装置2cは、例えばインジェクタである。
【0033】
コントローラ30は、1つの制御ユニットであってもよいし、複数の制御ユニットに分散されたものであってもよい。コントローラ30は、ハードウェア面においては、少なくとも1つのCPU30a、少なくとも1つのメモリ30bおよびI/Oインターフェース等を有する。少なくとも1つのメモリ30bは、揮発性メモリ、不揮発性メモリを含む。CPU30aおよびメモリ30bは、処理回路の一例である。
【0034】
CPU30aは、エンジン2、電動モータ3およびクラッチアクチュエータ22に対して、車両1の状態に対応した制御を実行する。例えばCPU30aは、車両1の走行モードを切り替える。車両1の走行モードには、EVモード、HEVモードが含まれる。
【0035】
EVモードは、電動モータ3の出力トルクのみで駆動輪9を駆動する走行モードである。EVモードでは、電動モータ3の駆動時にエンジン2が抵抗にならないようにクラッチ21が切断状態である。EVモード中、基本的にエンジン2は停止している。
【0036】
CPU30aは、運転者のアクセル操作量に基づき、ライダー要求トルクを演算する。走行モードがEVモードである場合、CPU30aは、電動モータ3の出力トルクがライダー要求トルクとなるように電動モータ3を制御する。
【0037】
HEVモードは、少なくともエンジン2の出力トルクで駆動輪9を駆動する走行モードである。HEVモードでは、エンジン2の回転動力が変速機4を介して駆動輪9に伝達されるように、クラッチ21は締結状態である。HEVモードでは、電動モータ3およびエンジン2の双方の出力トルクで駆動輪9を駆動させてもよいし、電動モータ3を駆動させずにエンジン2のみの回転動力で駆動輪9を駆動させてもよい。
【0038】
例えば走行モードがHEVモードである場合、CPU30aは、出力トルクとしてエンジン2に要求するトルク(以下、「エンジン要求トルク」と称する)と、出力トルクとして電動モータ3に要求するトルク(以下、「モータ要求トルク」と称する)との合計が、ライダー要求トルクとなるよう、エンジン要求トルクとモータ要求トルクとを決定する。CPU30aは、エンジン2の出力トルクが、決定したエンジン要求トルクとなるようにエンジン2を制御し、電動モータ3の出力トルクが、決定したモータ要求トルクとなるように電動モータ3を制御する。
【0039】
例えば、車両1を前方へ加速させるトルクを発生させる電気モータ6の回転方向を正方向と称し、その反対方向を負方向と称した場合、モータ要求トルクは、正方向のトルクとして決定されてもよいし、負方向のトルクとして決定されてもよい。例えばHEVモードでは、電動モータ3において、バッテリに電力を充電するために、車両走行中に負方向の回生トルクを発生させてもよい。
【0040】
具体的には、HEVモードは、通常走行状態と発電走行状態のいずれかの制御状態をとり得る。例えば通常走行状態では、基本的に、走行に必要な駆動力の全てをエンジン2が負担しており、電動モータ3はエンジン2の出力トルクの不足を補うようにトルクを発生させるだけである。一方、発電走行状態では、電動モータ3に負方向のトルクを要求し、エンジン2には、ライダー要求トルクに加え、電動モータ3による負方向のトルクを相殺するトルクも要求する。これにより、発電走行状態では、電動モータ3で発電しながら車両1を走行させる。
【0041】
本実施形態では、車両1の走行状態を維持したうえで、EVモードからHEVモードに切り替え可能に構成される。この場合、EVモードからHEVモードに切り替わる過程の走行モードとして、過渡モードが設定される。EVモード中、エンジン2は燃焼停止しており、後述の燃焼不可状態にある。このため、EVモードからHEVモードに移行する途中で、エンジン2の燃焼を開始させるために、エンジン2のクランク軸2aを回転させる必要がある。本実施形態では、車両1に始動専用のスタータモータや始動および発電用のISG(インテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ)が搭載されておらず、走行駆動源である電動モータ3によってエンジン2のクランク軸2aを回転させる。なお、本明細書において、エンジン2の燃焼とは、エンジン2の状態を、当該エンジン2の燃焼(すなわちエンジン2の燃焼室内での混合気の燃焼)によりを自力でクランク軸2aを回転させる状態をいう。またエンジンの燃焼開始とは、エンジンが自力でクランク軸2aを回転させる状態とするために、吸気の供給、燃料噴射、混合気の点火の少なくとも1つを開始することをいう。
【0042】
<EVモードからHEVモードへの切替>
以下、車両1の走行を維持したうえで、走行モードを、EVモードからHEVモードに切り替える場合の処理の流れを説明する。言い換えると、走行中にエンジン燃焼停止状態から、エンジン燃焼状態に切り替える処理の流れを説明する。図3は、本実施の形態におけるEVモードからHEVモードへの切替制御の処理の流れを示すフローチャートである。図4は、図3に示す切替制御における各値の時間変化を示すグラフである。
【0043】
図4には、エンジン2および電動モータ3の各回転数を示すグラフ、メインクラッチ21の締結圧力を示すグラフ、各種トルクを示すグラフ、および、スロットル開度を示すグラフが、上から順に示されている。なお、図4の一番上のグラフにおいて、モータ回転数とエンジン回転数とが示されている。また、図4の下から2番目のグラフにおいて、エンジン2の出力トルクであるエンジントルク、電動モータ3の出力トルクであるモータトルク、ライダー要求トルクが示されている。各回転数やトルクは変速機4の入力軸5(伝達軸)における換算値として示されている。
【0044】
図4に示すように、車両1がEVモードで走行している間、クラッチ21は切断状態であり、また、電動モータ3の出力トルクで駆動輪9を駆動している。CPU30aは、電動モータ3の出力トルクがライダー要求トルクとなるように電動モータ3を制御している。
【0045】
図3に示すように、CPU30aは、メインクラッチ21の切断状態で車両1が走行している状態で所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定する(ステップS1)。燃焼要求条件は、エンジン2の燃焼の開始を要求することに関する条件であり、後述のクラッチ制御の開始条件である。
【0046】
本実施形態では、燃焼要求条件は、EVモードからHEVモードへのモード切替条件である。すなわち、車両1のEVモードでの走行中、CPU30aは、燃料要求条件の一例であるモード切替条件が満たされたか否かを判定する。モード切替条件は、運転者によるモード切替操作により満たされてもよいし、運転者によるモード切替操作なしで満たされてもよい。例えば、CPU30aは、モード切替操作センサにより、EVモードからHEVモードへの運転者のモード切替操作が検出されたと判定した場合、モード切替条件が満たされたと判定してもよい。
【0047】
例えばCPU30aは、車両1の各種センサ(例えば車両状態センサ34)から受信した情報に基づき、車両1の現在の走行状態を把握した上で、HEVモードが最適な走行モードであると判定した場合に、EVモードからHEVモードへのモード切替条件が満たされたと判定してもよい。この場合、モード切替条件は、例えば、EVモードの継続が困難な状態となったという条件であり得る。例えばモード切替条件は、バッテリセンサが検出したSOC、すなわちバッテリ残量が、所定値以下であるという条件でもよい。例えばモード切替条件は、ブースト操作センサが運転者によるブースト操作を検出したという条件、言い換えれば、エンジン2と電動モータ3の双方で車両1を加速させるという要求が生じたという条件でもよい。例えばモード切替条件は、バッテリの温度を検出する温度センサにより検出された温度が所定値以上であるという条件でもよい。
【0048】
なお、燃焼要求条件が、モード切替条件に加えて、メインクラッチ21の切断状態で車両1が走行しているという条件を含んでもよい。この場合、CPU30aは、メインクラッチ21の切断状態で車両1が走行しているという条件が満たされているか否かを、クラッチセンサおよび車速センサから受信した情報に基づき判定してもよい。
【0049】
燃焼要求条件が満たされたと判定した場合(ステップS1:Yes、図4のt1)、CPU30aは、エンジン2の燃焼開始前に、クラッチ制御を開始する(ステップS2)。クラッチ制御は、電動モータ3によって駆動する伝達軸(本例では入力軸5)の回転力によって、エンジン2のクランク軸2aの回転数を上昇させる制御である。すなわち、クラッチ制御では、CPU30aは、メインクラッチ21を切断状態から締結状態に向けて遷移させるようにクラッチアクチュエータ22を制御する。本実施形態では、クラッチ制御は、エンジン2の回転に伴う伝達軸(本例では入力軸5)の回転数を、電動モータ3の回転に伴う当該伝達軸の回転数に合わせる回転数同調制御である。言い換えれば、回転数同調制御は、第1回転体21aの回転数と第2回転体21bの回転数とを一致させる制御である。
【0050】
本実施形態では、図4に示すように、CPU30aは、クラッチ制御において、メインクラッチ21の締結圧力を時間変化に応じて徐々に上昇させるよう、クラッチアクチュエータ22を制御する。すなわち、メインクラッチ21の締結圧力の増加に伴い、伝達軸からエンジン2に伝達可能な伝達トルクが増加する。これによって、電動モータ3の出力トルクのうちで、メインクラッチ21を介してエンジン2に伝達される伝達トルクが増加する。伝達トルクが所定のトルクに到達すると、非燃焼状態のエンジン2のクランク軸2aが回転を開始し、クランク軸2aの回転数が増加する。なお、図4では、図の簡単化のため、クラッチ制御の開始時点t1に、エンジン回転数の上昇を開始するように示されたが、実際には、伝達トルクが所定のトルクに到達するまではクランク軸2aは回転しないため、エンジン回転数は、クラッチ締結圧力の上昇を開始するタイミングよりも若干後に上昇し始める。
【0051】
このようにして電動モータ3の出力トルクの一部は、クランク軸2aを回転させるためのトルクとして奪われる。非燃焼状態のエンジン2は、慣性抵抗、圧縮抵抗、回転抵抗等があるために、電動モータ3からのトルクを受けて回転数が緩やかに増加する。
【0052】
過渡モードのクラッチ制御時、エンジン2は燃焼していないが、図4の下から2番目のグラフでは、エンジントルクは負の値で示されている。これは、クラッチ制御中に他力で駆動される側のエンジン2は、伝達軸(本例では入力軸5)の回転トルクを奪う負荷となるためである。
【0053】
CPU30aは、クラッチ制御において、メインクラッチ21の締結圧力の増加に伴って、電動モータ3の出力トルクを増加させるよう電動モータ3を制御する。すなわち、CPU30aは、メインクラッチ21の締結圧力を上昇させる制御と、電動モータ3の出力トルクを上昇させる制御とを並列的に実行する。
【0054】
具体的には、クラッチ制御中、CPU30aは、メインクラッチ21の締結圧力に応じて電動モータ3からエンジン2に伝達される負荷トルク分を、ライダー要求トルクに上乗せして、モータ要求トルク、ひいては電動モータ3の出力トルクを補正する。より詳しく説明すれば、仮にライダー要求トルクが一定で、且つ、モータの出力トルクが一定であった場合、メインクラッチ21の締結圧力の増加に伴い、モータの出力トルクの一部がクランク軸2aの回転のために奪われ、駆動輪9の回転数が落ちる。これを阻止するために、メインクラッチ21の締結圧力を時間経過に伴って増加させるとともに、モータの出力トルクを、時間経過にともなって増加させる。これにより、メインクラッチ21の締結圧力に応じて電動モータ3のトルクが奪われたとしても、駆動輪9の回転数が落ちるのを抑制できる。すなわち駆動輪9の回転数変化を抑えることで、走行フィーリングへの影響を抑えて、エンジン2の燃焼を安定的して行うことが可能な所定の回転数までエンジン回転数を上昇させることができる。
【0055】
CPU30aは、クラッチ制御が開始した後に、所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定する(ステップS3)。燃焼許可条件は、エンジン2の燃焼を許可することに関する条件である。燃焼許可条件は、エンジン2の燃焼不可状態を燃焼可能状態に移行させる条件である。
【0056】
本実施形態では、燃焼許可条件は、クラッチ制御が完了したという条件、言い換えればメインクラッチ21が締結状態に到達したという条件である。メインクラッチ21が締結状態に到達したことの判定方法は特に限定されない。例えば、CPU30aは、エンジン回転数センサ32およびモータ回転数センサ33から受信した信号に基づき、エンジン回転数の伝達軸換算値とモータ回転数の伝達軸換算値との差が所定の同調基準値以内になったと判定した場合、メインクラッチ21が締結状態に到達したと判定してもよい。あるいは、CPU30aは、クラッチセンサにより検出されたメインクラッチ21の締結圧力またはそれに相当するパラメータ値が、所定値以上であると判定した場合、メインクラッチ21が締結状態に到達したと判定してもよい。例えばクラッチセンサがソレノイドバルブに与える電流値を検出する電流センサである場合、CPU30aは、検出された電流値に基づき、クラッチ21の油圧が締結相当圧力以上であると判定した場合、メインクラッチ21が締結状態に到達したと判定してもよい。
【0057】
クラッチ制御において、CPU30aは、運転者による運転操作または車両状態に応じて、すなわち、操作センサ31または車両状態センサ34から受信した情報に応じて、メインクラッチ21が切断状態から締結状態に遷移する時間を変更するように構成されていてもよい。
【0058】
例えば、CPU30aは、クラッチアクチュエータ22の作動油の温度が大きいほど、メインクラッチ21が切断状態から締結状態に遷移する時間が短くなるように、クラッチアクチュエータ22を制御してもよい。具体的には、CPU30aは、クラッチアクチュエータ22の油温を検出する油温センサから受信した油温に応じた油圧の増加速度となるよう、クラッチアクチュエータ22を制御してもよい。この場合、CPU30aは、検出された油温が高いほど油圧の増加速度が大きくなるようクラッチアクチュエータ22を制御してもよい。
【0059】
例えば、CPU30aは、アクセル操作量またはアクセル操作量の時間変化が大きいほど、メインクラッチ21が切断状態から締結状態に遷移する時間が短くなるように、クラッチアクチュエータ22を制御してもよい。具体的には、CPU30aは、操作センサ31から受信したアクセル操作量に応じた油圧の増加速度となるよう、クラッチアクチュエータ22を制御してもよい。この場合、CPU30aは、アクセル操作量またはアクセル操作量の時間変化が大きくいほど油圧の増加速度が大きくなるようクラッチアクチュエータ22を制御してもよい。
【0060】
CPU30aは、所定の燃焼許可条件が満たされていないと判定した場合(ステップS3:No)、エンジン2の状態を燃焼不可状態に維持する(ステップS6)。エンジン2の燃焼不可状態は、下記(a),(b),(c)の燃焼不可条件の少なくとも1つが満たされている状態である。
(a) エンジン2の気筒の吸気量を調節するためのスロットル弁が閉状態にある。
(b) 点火装置2bによる気筒での点火が中止されている。
(c) 燃料供給装置2cによる気筒への燃料供給が停止されている。
【0061】
本実施形態では、燃焼許可条件が、メインクラッチ21が締結状態に到達したという条件であるため、CPU30aは、クラッチ制御の間、上記(a),(b),(c)の燃焼不可条件の少なくとも1つが維持されるように、スロットル装置2a、点火装置2bおよび燃料供給装置2cのうちの一部または全部を制御するように構成されている。
【0062】
CPU30aは、所定の燃焼許可条件が満たされたと判定した場合(ステップS3:Yes、図4のt2)、すなわち、メインクラッチ21が締結状態に到達した場合、CPU30aは、エンジン2の燃焼を開始させる燃焼開始制御を実行する(ステップS4)。
【0063】
具体的には、CPU30aは、燃焼開始制御において、エンジン2の状態を燃焼不可状態から、上記(a),(b),(c)のいずれの燃焼不可条件も満たされていない燃焼可能状態に変更するように、エンジン2を制御する。例えば、CPU30aは、クラッチ制御の間、スロットル装置2aのスロットル弁が閉状態に維持されていた場合、図3に示すように、ステップS4でスロットル弁を開くようにスロットル装置2aを制御する。なお、図4の一番下のグラフでは、クラッチ制御の間、スロットル開度がゼロ、つまりスロットル弁の閉状態にあることが示されており、クラッチ制御の後、スロットル弁が開かれる例が示されている。
【0064】
燃焼開始制御の開始とともに、CPU30aは、トルク変更制御を開始する(ステップS5)。トルク変更制御では、エンジン2の出力トルクを増加させるようエンジン2を制御するとともに(以下、エンジントルク増加制御とも称する)、電動モータ3の出力トルクを低減させるよう電動モータ3を制御する(以下、モータトルク低減制御とも称する)。より詳しくは、トルク変更制御では、CPU30aは、HEVモードにおけるエンジン要求トルクとモータ要求トルクとを決定する。エンジン要求トルクとモータ要求トルクとの合計が、ライダー要求トルクである。言い換えると、トルク変更制御では、伝達軸換算したトルクとして、エンジン側トルクとモータ側トルクとの合計が、ライダー要求トルクを維持するようにする
【0065】
CPU30aは、トルク変更制御において、エンジントルク増加制御とモータトルク低減制御とを並列的に実行する。エンジントルク増加制御では、CPU30aは、エンジン2の出力トルクを、決定したエンジン要求トルクに向かって増加させるようにエンジン2を制御する。モータトルク低減制御では、CPU30aは、電動モータ3の出力トルクを、決定したモータ要求トルクに向かって低減させるよう電動モータ3を制御する。モータトルク低減制御では、エンジントルク増加制御による内燃エンジン2の出力トルクの増加に伴って、電動モータ3の出力トルクを低減させる。モータトルク低減制御の開始タイミングは、ステップS4でエンジン2の燃焼を開始させると同時に、つまり、燃焼開始制御の開始タイミングで開始される。
【0066】
なお、図4の下から2番目のグラフでは、HEVモードにおける発電走行状態のモータトルクとエンジントルクとが示されている。発電走行状態であるため、モータトルクは負の値を示している。ただし、HEVモードにおけるモータ要求トルクは、負の値でなくてもよく、例えばゼロでもよいし、正の値でもよい。すなわち、エンジン2の燃焼後であっても、電動モータ3の発生トルクを駆動輪9の回転に利用してもよい。
【0067】
エンジン2の出力トルクおよび電動モータ3の出力トルクが、それぞれ、HEVモードのエンジン要求トルクおよびモータ要求トルクに到達すると(図4のt3)、過渡モードは終了し、HEVモードへの移行が完了する。なお、図4の例では、トルク変更制御を行っている間、各要求トルクが線形に変化する態様を例示しているが、要求トルクが非線形に変化してもよい。
【0068】
以上に説明したように、本実施形態によれば、クラッチ制御を開始してから、十分にエンジン回転数が上昇した状態で、内燃エンジン2の燃焼を開始する。これによってエンジン回転数不足で燃焼不良となることを防いで、燃焼開始時点で安定的にエンジン2の燃焼を実行することができる。その結果、燃焼タイミングがばらつくことを防ぐことができる。また、燃焼タイミングのばらつきに起因するトルク変動を防ぐことができ、走行フィーリングを向上することができる。
【0069】
また、本実施形態では、メインクラッチ21の接続に伴って伝達軸から奪われるトルクを、電動モータ3の出力トルクを増やすことで補うことができる。これにより、メインクラッチ21を切断状態から締結状態に遷移させる際の駆動輪9の回転力の変動、言い換えると駆動輪9の駆動力の変化を抑えることができる。
【0070】
また、本実施形態では、燃焼開始制御において、内燃エンジン2の出力トルクの増加に伴って、電動モータ3の出力トルクを低減することで、全体として駆動輪9に伝達されるトルクの急増を抑制することができる。これによって走行フィーリングをさらに向上することができる。
【0071】
また、本実施形態では、エンジン2の燃焼開始時に電動モータ3の出力トルクの低減を開始するため、エンジン2の燃焼開始に伴う車体ショックを低減する効果を高めることができる。
【0072】
<その他の実施形態>
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0073】
例えば上記実施形態で説明された車両は、自動二輪車や自動三輪車などの鞍乗車両であったが、車両は、鞍乗車両でなくてもよい。車両は、四輪車などであってもよい。ただし、鞍乗車両は、他の車両と比べ比較的軽量であり、車体に生じるショックが運転者の走行フィーリングに影響しやすいため、鞍乗車両は、燃焼タイミングのばらつきに起因するトルク変動を防ぐことができる制御に好適である。
【0074】
例えば上記実施形態で説明された車両は、2つの走行駆動源を備えるハイブリッド車両であったが、車両はこれに限定されない。例えば車両は、走行駆動源を1つだけ備えてもよいし、3つ以上の走行駆動源を備えてもよい。例えば車両は、走行駆動源として内燃エンジンのみを備えるものであってもよい。車両がハイブリッド車両でない場合、燃焼要求条件は、モード切替条件を含まなくてもよい。
【0075】
上記実施形態では、電動モータの駆動力によりエンジンのクランク軸を回転させたが、車両の走行中の慣性力によりエンジンのクランク軸を回転させてもよい。走行駆動源からの動力なしで坂道を下る際にエンジン始動することにも適用可能である。車両が走行駆動源の動力なしで下り坂を下るよう走行している場合の入力軸の回転力によりエンジンのクランク軸を回転させてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、車両1にスタータモータやISGが搭載されていなかったが、車両は、エンジン始動のためのスタータモータやISGを備えてもよい。この場合、スタータモータまたはISGで回転数同調制御を実行してもよい。モータトルク低減制御は、スタータモータまたはISGのトルクを低減する制御であってもよい。すなわち、内燃エンジンに動力伝達可能な電動モータは、走行駆動源であるトラクションモータでもよいし、スタータモータまたはISGであってもよい。
【0077】
動力伝達経路における第2回転体と駆動輪との間に配置され、メインクラッチを介さずに電動モータと接続される伝達軸として、変速機の入力軸が説明されたが、当該伝達軸は、変速機の出力軸であってもよい。また、車両は、変速機を備えなくてもよく、この場合、電動モータの出力トルクが伝達される伝達軸は、動力伝達経路における第2回転体と駆動輪との間に配置されていればよい。
【0078】
燃焼許可条件は、メインクラッチ21が締結状態に到達したという条件以外の条件であってもよい。すなわち燃焼許可条件は、メインクラッチが締結状態になる前に満たされる場合もあり得る。燃焼許可条件は、安定的にエンジンの燃焼を実行できるほど十分にエンジン回転数が上昇した状態であることを直接又は間接的に判定可能な条件であればよい。例えば、燃焼許可条件は、エンジン回転数が、エンジンの燃焼を安定して実施可能な所定の始動回転数以上となるという条件を含んでもよい。例えば燃焼許可条件は、クラッチ制御を開始してから所定の時間が経過したという条件を含んでもよい。例えば燃焼許可条件は、メインクラッチの締結圧力またはそれに相当するパラメータ値(例えばクラッチアクチュエータの油圧など)が、所定値以上になるという条件を含んでもよい。例えば燃焼許可条件は、クラッチアクチュエータの油圧が所定の圧力以上になったという条件を含んでもよい。
【0079】
車両は、車体ショックを許容できるモードと、車体ショックを許容でないモードの運転者の選択を受け付けるユーザインタフェースを備えてもよく、運転操作状態には、ユーザインタフェースに対するモード選択操作が含まれてもよい。また、運転操作状態には、加速操作状態、減速操作状態、定速走行操作状態、制動操作状態、変速操作状態、旋回操作状態、照明操作状態、などが含まれてもよい。
【0080】
上記実施形態では、クラッチアクチュエータとして、油圧アクチュエータが説明されたが、クラッチアクチュエータはこれに限られない。クラッチアクチュエータは、電動モータなどの別の種類のアクチュエータであってもよい。
【0081】
クラッチセンサは、クラッチアクチュエータ22が油圧アクチュエータである場合、油圧を検出する油圧センサであってもよいし、油圧を制御するソレノイドバルブのソレノイドに流れる電流値を検出する電流センサであってもよい。例えばクラッチセンサは、一対の回転体の一方に対する他方の変位を検出する変位センサであってもよい。
【0082】
変速機4は、運転者の変速操作に機械的に連動して変速段を選択するように構成されていたが、運転者の変速操作に電気的に連動して変速段を選択するように構成されていてもよい。
【0083】
トルク変換制御を実行して、エンジンの燃焼を開始させた後、エンジンの出力トルクを増大させるとともに、電動モータの出力トルクを低減させたがこれに限らない。たとえばエンジンの出力トルクを増大させるとともに、電動モータに駆動輪を制動させる制動トルクを発生させることで、駆動輪に伝達するトルクを低減させてもよい。トルクを低減するための電動モータは、走行駆動源となるトラクションモータのほかに、加速支援用、発電用や回生用の電動モータを用いてもよい。また電動モータは、駆動輪に伝達されるトルクが低減されればよく、変速機の入力軸以外の動力伝達経路に接続されてもよい。たとえば電動モータは、クランク軸に直接接続されてもよいし、変速機の出力軸に接続されてもよい。
【0084】
電動モータ以外のトルク低減装置を用いて、エンジン燃焼に伴う駆動輪のトルク増大を低減してもよい。具体的には、駆動輪を制動するためのブレーキ制動装置、メインクラッチ、発電装置などのトルク低減装置を用いて、駆動輪のトルク増大を抑制してもよい。すなわち、処理回路は、燃焼開始制御の開始とともに、トルク低減装置を用いた駆動輪に伝達されるトルクの低減を実行してもよい。
【0085】
クラッチ制御でのメインクラッチの締結圧力の時間変化は、可変でもよい。メインクラッチの締結圧力の時間変化は、運転者が車体ショックを許容できる状況にあるか否かに応じて変えてもよい。例えば処理回路は、操作センサ31または車両状態センサ34から受信した情報に基づいて、運転者が車体ショックを許容できる状況か否かを判定してもよい。処理回路は、運転者が車体ショックを許容できる状況と判定した場合のクラッチ締結圧力の時間変化が、運転者が車体ショックを許容できない状況と判定した場合のクラッチ締結圧力の時間変化より大きくなるように、クラッチアクチュエータを制御してもよい。
【0086】
トルク変更制御でのモータトルクの時間変化およびエンジントルクの時間変化は、可変でもよい。モータトルクおよびエンジントルクの時間変化は、運転者が車体ショックを許容できる状況にあるか否かに応じて変えてもよい。例えば処理回路は、操作センサ31または車両状態センサ34から受信した情報に基づいて、運転者が車体ショックを許容できる状況か否かを判定してもよい。処理回路は、運転者が車体ショックを許容できる状況と判定した場合のモータトルクの時間変化が、運転者が車体ショックを許容できない状況と判定した場合のモータトルクの時間変化より大きくなるように、電動モータを制御してもよい。処理回路は、運転者が車体ショックを許容できる状況と判定した場合のエンジントルクの時間変化が、運転者が車体ショックを許容できない状況と判定した場合のエンジントルクの時間変化より大きくなるように、エンジンを制御してもよい。
【0087】
処理回路は、操作センサから受信した情報に基づき、運転者によりアクセル操作、変速操作、ブースト操作がなされたと判定した場合、運転者が車体ショックを許容できる状況であると判定してもよい。処理回路が、モード切替操作センサにより運転者のモード切替操作が検出されたことによりモード切替条件が満たされた場合、運転者が車体ショックを許容できる状況であると判定してもよい。
【0088】
処理回路は、車両状態センサから受信した情報に基づき、車両がリーン状態または操舵状態であると判定した場合、運転者が車体ショックを許容できない状況であると判定してもよい。
【0089】
処理回路が、運転者のモード切替操作によらずモード切替条件が満たされた場合、運転者が車体ショックを許容できない状況であると判定してもよい。一方、処理回路が、運転者のモード切替操作によらずモード切替条件が満たされた場合、運転者が車体ショックを許容できない状況であると判定してもよい。
【0090】
上記実施形態では、ステップS4でスロットル弁を開くようにスロットル装置2aを制御されたが、エンジン2の燃焼不可状態にある間、燃焼不可条件(a)は満たされていないことが好ましい。言い換えれば、エンジン2の燃焼不可状態にある間、燃焼不可条件(b)、(c)、または、(b)と(c)の双方が、満たされていることが好ましい。すなわち、例えば燃焼開始制御において、スロットル弁を全開にした状態で、エンジンにおける点火阻止、燃料供給停止、または、点火阻止と燃料供給停止の双方を実行することが好ましい。これにより、スロットル弁による絞りが抑えられて吸気抵抗が低減するため、燃焼不可状態におけるクランク軸を回しやすくなる。
【0091】
エンジンの燃焼開始した後にも、エンジン燃焼状態を維持した上で、クラッチを切断してEVモードでの走行を継続してもよい。
【0092】
上記実施形態では、図3に示す各処理を処理回路が実行したが、図3に示す各処理の一部又は全部が運転者の操作により実行されてもよい。
【0093】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成または方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。フローチャートにおいて順番に示されている2つのブロックは、場合によって、同時に実行されることもでき、または逆順に実行されることもできる。
【0094】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの任意の組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0095】
[開示態様]
以下の態様のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0096】
[態様1]
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記メインクラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、
処理回路と、を備える車両であって、
前記処理回路は、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定し、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させるよう前記クラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御を実行し、
前記クラッチ制御が開始した後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定し、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる燃焼開始制御を実行する、ように構成されている、車両。
【0097】
前記構成によれば、クラッチ制御が開始した後に燃焼許可条件が満たされたと判定してから、燃焼開始制御を実行するため、十分にエンジン回転数が上昇した状態で、内燃エンジンの燃焼を開始することができる。これによってエンジン回転数不足で燃焼不良となることを防いで、燃焼開始時点で安定的にエンジンの燃焼を実行することができる。その結果、燃焼タイミングがばらつくことを防ぐことができる。また、燃焼タイミングのばらつきに起因するトルク変動を防ぐことができ、走行フィーリングを向上することができる。
【0098】
[態様2]
前記駆動輪に動力伝達可能な電動モータを更に備え、
前記処理回路は、前記燃焼開始制御以降、前記内燃エンジンの出力トルクを増加させるよう前記内燃エンジンを制御するとともに、前記電動モータの出力トルクを低減させるよう前記電動モータを制御するように構成されている、態様1に記載の車両。
【0099】
前記構成によれば、内燃エンジンの出力トルクの増加に伴って、電動モータの出力トルクを低減することで、全体として駆動輪に伝達されるトルクの急増を抑制することができる。これによって走行フィーリングをさらに向上することができる。
【0100】
[態様3]
前記電動モータは、前記車両における前記内燃エンジンとは別の走行駆動源であり、
前記車両は、前記動力伝達経路における前記第2回転体と前記駆動輪との間に配置され、前記電動モータの出力トルクが伝達される伝達軸を更に備え、
前記処理回路は、前記クラッチ制御において、前記メインクラッチの締結圧力の増加に伴って、前記電動モータの出力トルクを増加させるよう前記電動モータを制御するように構成されている、態様2に記載の車両。
【0101】
前記構成によれば、メインクラッチの接続に伴って伝達軸から奪われるトルクを、電動モータの出力トルクを増やすことで補うことができる。これにより、メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させる際の駆動輪の回転力の変動、言い換えると駆動輪の駆動力の変化を抑えることができる。
【0102】
[態様4]
前記処理回路は、前記燃焼開始制御による前記内燃エンジンの燃焼の開始と同時に、前記電動モータの出力トルクの低減を開始するように構成されている、態様2または3に記載の車両。
【0103】
前記構成によれば、エンジンの燃焼開始時に電動モータの出力トルクの低減を開始するため、エンジンの燃焼開始に伴う車体ショックを低減する効果を高めることができる。
【0104】
[態様5]
前記処理回路は、
少なくとも前記クラッチ制御が開始した時点から前記燃焼許可条件が満たされたと判定する時点までは、前記内燃エンジンの気筒の吸気量を調節するためのスロットル弁が閉状態にあるという第1燃焼不可条件、前記内燃エンジンの点火装置による前記気筒での点火が中止されているという第2燃焼不可条件、および、前記内燃エンジンの気筒への燃料供給が停止されているという第3燃焼不可条件、の少なくとも1つが満たされている燃焼不可状態を前記内燃エンジンが維持するよう前記内燃エンジンを制御し、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記燃焼開始制御において、前記内燃エンジンが、前記燃焼不可状態から、前記第1燃焼不可条件、前記第2燃焼不可条件および前記第3燃焼不可条件のいずれも満たされていない燃焼可能状態に変えることにより、前記内燃エンジンの燃焼を開始させるように構成されている、態様1乃至4のいずれかに記載の車両。
【0105】
前記構成によれば、燃焼許可条件が満たされる前に内燃エンジンが燃焼することを防止できる。
【0106】
[態様6]
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記クラッチ制御において、前記メインクラッチが切断状態から締結状態に遷移する時間を変更するように構成されている、態様1乃至5のいずれかに記載の車両。
【0107】
前記構成によれば、運転者による運転操作または車両状態に応じて、クラッチ制御においてメインクラッチが切断状態から締結状態に遷移する時間を変更するため、例えばクラッチの締結圧力が増加することに伴って車体に生じるショックを状況に応じて調整できる。例えば運転者の加速意図に応じた車体ショックの許容度を鑑みて車両を制御することができる。例えば、アクセル操作量またはその時間変化が大きい場合には、車体に生じる多少のショックを許容して、メインクラッチが切断状態から締結状態に遷移する時間を短縮できる。
【0108】
[態様7]
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記燃焼許可条件を変更するように構成されている、態様1乃至6のいずれかに記載の車両。
【0109】
前記構成によれば、運転者による運転操作または車両状態に応じて燃焼許可条件を変更するため、エンジン燃焼のタイミングを状況に応じて調整できる。例えば運転者による運転操作または車両状態から、エンジンの燃焼タイミングが多少ばらつくことを運転者が許容できる状況にある場合には、エンジンの回転数が比較的低い状態で燃焼開始制御するができる。
【0110】
[態様8]
前記処理回路は、運転者による運転操作または車両状態に応じて、前記内燃エンジンの出力トルクを増加させる制御における、前記内燃エンジンの出力トルクの増加速度を変更するように構成されている、態様2乃至7のいずれかに記載の車両。
【0111】
前記構成によれば、運転者による運転操作または車両状態に応じて、内燃エンジンの出力トルクの増加速度を変更するため、例えば内燃エンジンの出力トルクの増加速度を大きくすることに伴って車体に生じるショックを状況に応じて調整できる。例えば運転者の加速意図に応じた車体ショックの許容度を鑑みて車両を制御することができる。例えば、アクセル操作量またはその時間変化が大きい場合には、車体に生じる多少のショックを許容して、内燃エンジンの出力トルクの増加速度を大きくすることができる。
【0112】
[態様9]
前記車両は、鞍乗車両である、態様1乃至8のいずれかに記載の車両。
【0113】
前記構成によれば、鞍乗車両は、他の車両と比べ比較的軽量であり、車体に生じるショックが運転者の走行フィーリングに影響しやすいため、燃焼タイミングのばらつきに起因するトルク変動を防ぐことができる制御に好適である。
【0114】
[態様10]
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、
前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させる前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む、車両の制御方法。
【0115】
前記方法によれば、メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、燃焼許可条件が満たされたと判定してから、エンジンの燃焼を開始させるため、十分にエンジン回転数が上昇した状態で、内燃エンジンの燃焼を開始することができる。これによってエンジン回転数不足で燃焼不良となることを防いで、燃焼開始時点で安定的にエンジンの燃焼を実行することができる。その結果、燃焼タイミングがばらつくことを防ぐことができる。また、燃焼タイミングのばらつきに起因するトルク変動を防ぐことができ、走行フィーリングを向上することができる。また、内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、トルク低減装置を制御して駆動輪に伝達されるトルクを低減させるため、全体として駆動輪に伝達されるトルクの急増を抑制することができる。これによって走行フィーリングをさらに向上することができる。
【0116】
上記制御方法を少なくとも1つのプロセッサに実行させる、車両の制御プログラム。
【符号の説明】
【0117】
1 :車両
2 :内燃エンジン
2a :スロットル装置
2b :点火装置
2c :燃料供給装置
3 :電動モータ
4 :変速機
5 :入力軸
6 :出力軸
7 :変速ギヤ対
9 :駆動輪
21 :メインクラッチ
21a :第1回転体
21b :第2回転体
22 :クラッチアクチュエータ
30 :コントローラ
30a :CPU
31 :操作センサ
32 :エンジン回転数センサ
33 :モータ回転数センサ
34 :車両状態センサ
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-11-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本開示の一態様に係る車両の制御方法は、走行駆動源である内燃エンジンと、駆動輪と、前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0114
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0114】
[態様10]
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、
前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む、車両の制御方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項10
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項10】
走行駆動源である内燃エンジンと、
駆動輪と、
前記内燃エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記内燃エンジン側に配置される第1回転体、および、前記動力伝達経路における前記駆動輪側に配置される第2回転体を含み、締結状態と切断状態との間で切り替え可能なメインクラッチと、
前記駆動輪に伝達されるトルクを低減するトルク低減装置と、を備える車両の制御方法であって、
前記メインクラッチの切断状態で前記車両が走行している状態で、前記内燃エンジンの燃焼の開始を要求することに関する所定の燃焼要求条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼要求条件が満たされたと判定した場合、前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させること、
前記メインクラッチを切断状態から締結状態に遷移させ始めた後に、前記内燃エンジンの燃焼を許可することに関する所定の燃焼許可条件が満たされたか否かを判定すること、
前記燃焼許可条件が満たされたと判定した場合、前記内燃エンジンの燃焼を開始させるとともに、前記トルク低減装置を制御して前記駆動輪に伝達されるトルクを低減させること、を含む、車両の制御方法。