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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001123
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241225BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20241225BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20241225BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
E04H9/02 331D
E04H9/14 Z
F16F15/03 Z
F16F15/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100541
(22)【出願日】2023-06-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】519334764
【氏名又は名称】鈴木 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA07
2E139AB11
2E139AC19
2E139CA01
2E139CA13
2E139CA14
2E139CA26
2E139CC02
3J048AA03
3J048AC08
3J048BA23
3J048BE08
3J048BG02
3J048DA01
3J048EA07
3J048EA13
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】少ないダンパーで前後左右(水平)方向の振動を吸収可能な免震装置を提供する。
【解決手段】免震対象物を支持する免震構造であって、免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢手段は、前記支持球に直接付勢力を及ぼすことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、
前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記付勢手段は長手方向に伸縮する弾性体を含み、
前記上側転動面は、板状部材からなる底床の下面からなり、
前記底床は、前記弾性体を挿通する挿通孔を有し、
前記弾性体は、前記挿通孔に挿通された状態で、長手方向の一端が前記底床の上面側において固定され、長手方向の他端側が前記底床の下側において前記支持球に連結されている請求項1記載の免震構造。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記弾性体の長手方向の他端に伸縮性を有さない線状体の長手方向の一端が接合されており、前記線状体の長手方向の他端が前記支持球に固定されている請求項2記載の免震構造。
【請求項4】
前記底床及び/又は前記支持球が中空構造であり、浮力により底床に設置された免震対象物を浮かすことができる請求項2又は3記載の免震構造。
【請求項5】
前記支持球は、付勢手段を固定する頂点から底点に向かう子午線方向に溝が設けられている請求項2又は3記載の免震構造。
【請求項6】
前記支持球が磁性金属からなり、前記上側転動面の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される請求項1に記載の免震構造。
【請求項7】
前記支持球が非磁性素材からなり、中空構造であり、その内部に磁石を有し、前記上側転動面の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される請求項1に記載の免震構造。
【請求項8】
前記上側転動面に、前記支持球を転動可能な支持球受けを備える請求項6又は7に記載の免震構造。
【請求項9】
前記支持球受けがベアリングを介して前記支持球を支持する請求項8に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり支承を備えた免震構造に関するもので、さらには、免震対象物を振動方向と逆方向に付勢する付勢手段を有する免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、免震装置は、大きく早い振動を小さく遅い振動に変換するアイソレータと、振動エネルギーを吸収して振動を短時間で収束させるダンパーとから構成されている。アイソレータには、積層免震ゴムや、滑り材(滑り支承)、ベアリング(転がり支承)などが用いられ、ダンパーには、コイルバネやオイルダンパーなどが用いられている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
例えば、特許文献1では、鉄骨架台の四隅に単球転がり支承を設け、基礎耐圧版の四隅に支承受けSUS平板を水平固定するとともに、引きバネ固定端用のアンカー埋込コンクリート立上台を設けて、鉄骨架台のX、Y方向、及び浮きあがりと共振を防止する引きバネを配置した単球転がり支承と引きバネの伸縮作用を組み合わせた免震装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、上下一対の板部材の間を転動する転動体と、該転動体を上下一対の板部材の間に保持する保持器とを備え、該保持器にピニオンを設けるとともに、上下一対の板部材にピニオンと噛合するラックを設けて構成した転がり支承装置が提案されている。特許文献2の転がり支承装置では、積層ゴムとオイルダンパーにより、振動エネルギーを吸収するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-017135号公開公報
【特許文献2】特開2016-003681号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、及び特許文献2の免震装置では、コイルバネやオイルダンパーからなるダンパーが弾性力を発揮する方向が一方向に限られるため、上下前後左右の3方向それぞれの振動をカバーするダンパーが必要となり、装置が複雑で大掛かりになるという問題が有る。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、少ないダンパーで前後左右(水平)方向の振動を吸収可能な免震装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた発明は下記の通りである。免震対象物を支持する免震構造であって、免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢手段は、前記支持球に直接付勢力を及ぼすことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る免震構造は、このように支持球に直接付勢力を働かせるので、1つの付勢手段であらゆる方向の振動をカバーできる。
【0009】
本発明の免震構造は、前記付勢手段が底床の基点(固定具)と支持球の付勢点(接着点)を結ぶ線状の弾性体からなり支持球がいずれの方向に転動しても、線状の弾性体の付勢力により支持球を基の位置に戻すことができる。
【0010】
また特に、前記支持球は、付勢手段を固定する頂点(接着点)から底点に向かう子午線方向に溝が設けられていることが好ましい。かかる溝を設けることで、地震等の振動を受けて伸長した前記弾性体と線状体を、支持球で確実に巻き取ることができるので大きな振幅の地震に対しても確実に免震効果を発揮できる。
【0011】
本発明の免震構造は、前記底床及び前記支持球が中空構造であり、浮力により底床に設置された免震対象物を浮かすようにできることが好ましい。このような構成とすることで、大地震に伴って発生する津波等による浸水の被害も軽減可能となる。
【0012】
また、本発明の免震構造は、前記支持球が磁性金属からなり、前記底床の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢されるようになっている。この構成では、前記本願発明の付勢構造が磁着部材と磁性金属球により構成されているところ、頑丈な磁性金属の支持球を用いることにより、巨大で重量の大きな免震対象物もしっかりと支えることができる。また、本構成においては、磁着部材と支持球がお互いに働く磁力による引力によって静止状態が保たれているが、地震などでこの磁力を上まわる力が加わると支持球は回転する。
【0013】
本発明の免震構造は、前記支持球受けが前記支持球をしっかりと保持することで、地震発生の無い静状態で免震対象物をしっかり固定できる。更に、前記支持球受けがベアリングを介して支持球を支持することが好ましい。ベアリングの働きで支持球の転がりがスムーズになるので、より高い免震・除震効果が期待できる。
【0014】
また、本発明の免震構造は、前記支持球が非磁性素材からなり、中空構造であり、その内部に磁石を有し、前記底床の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される。またこの場合も、前記支持球受けがベアリングであることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の免震構造により、簡単な構成で十分な免震・除震効果が得られるので、小型の什器から大型の建築物まで様々な免震対象物を地震の被害から守ることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態の免震構造の斜視図である。
図2図1の免震構造の正面図である。
図3図1の免震構造の上面図である。
図4図1の免震構造において、地面の水平振動により力を受けた時の状態を示す上面図である。
図5】本発明の第2実施形態の免震構造の正面図である。
図6図5のA-A断面図である。
図7】本発明の第3実施形態の免震構造の下方向からの斜視図である。
図8図7の免震構造の正面図である。
図9図8のB-B断面図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る免震構造における支持球の構造例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本願発明の実施形態を図面を交えながら詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限られるものではない。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る免震構造1を図1乃至図6に示す。免震構造1は底床2の下面を形成する上側転動面21と、支持球3と、付勢手段4と、下側転動面22とを備えている。また、下側転動面22はコンクリート整地された水平面である。ここで「上側」、「下側」というのは地面等に設置された免震構造における支持球3に対しての表現である。
【0019】
底床2は、水平方向に広がる矩形の板状部材からなり、上面で免震対象物A(不図示)を支持し、下面が上側転動面21を構成する。底床2の四隅には、線状体5を挿通する挿通孔7が設けられている。底床2の下面(上側転動面21)の四隅には、挿通孔7を中心にして支持球3を収容する窪み8を備えている。支持球3は地震が起こらない平常時においては窪み8の中に納められている。支持球3を収容する窪み8は、支持球3と略同じ径からなる球面状をなし下方の開口部の直径が支持球3の直径よりも小さく、深さが支持球3の半径より小さく設けられている。底床2の上面には、金属線材を逆V字に折り曲げて形成した固定具6が突設されている。固定具6は、底床2の長辺に沿って2本ずつ計4本が設けられている。
【0020】
付勢手段4は、長手方向(図2の左右方向)の一端側に設けられ、環状ゴムからなる弾性体41と、長手方向の他端側に設けられ、伸縮性を有しない線状体5とを備えている。付勢手段4は、一端側の弾性体41を固定具6に引き掛け、他端側線状体5を、挿通孔7を介して支持球3の表面の接着点30に連結して、弾性体41が付勢手段4の長手方向に伸縮するよう構成されている。弾性体41は公知の素材であればどのような物でも使用可能である。いくつかを例示すると弾性体41は天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂エラストマーなどである。
【0021】
線状体5は、線状をなし伸縮性を有さなければ特に限定されず、公知のものが使用可能であり、糸、紐、ロープ、金属線、鎖等を使用できる。線状体5は、免震対象物に想定される振動の大きさや立地条件等に合わせて適宜の長さや太さのものを使用する。
【0022】
免震構造はその使用目的から見て、いざと言う時に確実に機能するために、常日頃の保守・点検が欠かせない。本実施形態に係る免震構造は、弾性体41と線状体5が底床2の上面に配されているので、底床2の上方から簡単に弾性体41と線状体5の状態を確認でき、必要に応じて修理や交換などの操作も底床2の上方から行え、保守・点検がし易いという効果がある。
【0023】
線状体5の一端は底床2に開けられた挿通孔7を通して底床2の裏面(上側転動面21)に至り、そこで支持球3の接着点30で接合されている。
【0024】
地震等による外力が加わらない状態(以後、「静状態」と称する)で、4つの支持球3は、窪み8に収容された状態で地面に接しており、弾性体41は弛緩しておらず、支持球3から受ける張力が加わっている。
【0025】
なお、底床2の上面にある弾性体41及び線状体5の長さが一定であるため支持球3は転がる範囲が制限される。
【0026】
図3は、静状態における免震構造1の状態を、図4は地震などによって水平方向の力を受けた際の免震構造1の状態を示している。図4に示すように、水平方向の力を受けて、支持球3が窪み8から離脱して底床2に対し転動することで、地面の揺れが底床2に伝わることが抑制されるため、底床2は、水平方向にほとんど移動しない。こうして、底床2の上に設置される免震対象物に対する地震の振動が軽減される。
【0027】
免震構造1においては、底床2が水平方向のいずれの方向に力を受け、支持球3が底床2に対し水平方向のいずれの方向に転動した場合であっても、弾性体41は固定具6と挿通孔7を結ぶ直線方向の引張り力を受けることになるため、いずれの方向に対する振動も抑制することが出来る。図1~3に示したように、支持球3と弾性体41の組み合わせを同一直線上に対向するように2組配することで、底床2が受ける振動を抑制する効果が高くなる。
【0028】
図1の例では、支持球3、弾性体41、線状体5、固定具6で構成される免震構造の構成部分を1つの床面に対して4カ所設けた。また、支持球3を、矩形の底床2の下面四隅付近に設けたが、位置や数は任意である。ただし、支持球3は、底床2に載せる免震対象物を安定して支持するという観点から、3カ所以上設けることが好ましい。
【0029】
底床2は、免震対象物の重量を支えるのに十分な強度を有すれば、素材の種類は問わず、金属板、木板、鉄筋コンクリート、複合素材や異なる素材を組み合わせることも可能である。本実施形態では、免震対象物Aは、付勢手段4を覆い隠さないよう底床2上に設置される。
【0030】
また、免震対象物Aの床部分を本発明の底床2に見立てて本発明の免震構造1を設けても良いし、免震対象物Aの床部分とは別に、本発明の免震構造1を備えた底床2の上に載置してもよい。
【0031】
支持球3は、底床2とその上の免震対象物の重量を支えるのに十分な強度を有すれば、特に素材は限定されず、免震対象物の重量に合わせて、木、石、樹脂、金属等を適宜に用いることが出来るが、建造物等の重量物を支持する場合は、強度と耐久性に優れる金属製が好ましい。
【0032】
図1図3の免震構造を支持する地盤に水平方向の揺れが加わると、免震対象物はその質量による慣性でもとの位置に留まろうとするため、免震構造物に固定された底床2は、地盤に対し相対的に地盤の揺動方向と逆向きとなり支持球3は静状態における位置から離脱し、地盤の揺動方向に転動する。すると付勢手段4の引っ張る力が働いて支持球3は静止状態の位置に戻される。地震の場合はその繰り返しとなる。こうして底床2及び制振対象物Aの振動が抑制される。
【0033】
本実施形態において、底床2及び支持球3を中空構造として、底床2に設置された免震対象物を浮かすことのできるような構成とすれば、大地震により発生が懸念される津波への対応ともなる。すなわち津波などによる免震対象物への浸水被害を免れることができる。
【0034】
図1図3に示した例では、底床2が支持球3と接する部分に窪み8が設けられている。支持球3は、頂部が窪み8に納まることにより、静状態での免震構造1の安定が良く保たれる。図1図4では窪み8の設置状態と窪み8と支持球3の当接状態を分かりやすくするように窪みの深さを少し誇張している。窪みの深さが極端に大きくなると、地震の水平方向の揺れにより支持球3が窪み8からずれる際に縦揺れの振動が発生してしまうことが想定される。窪み8の深さを適宜に設計することで、静状態での安定と地震発生時の窪み8から支持球3が脱出する際の縦揺れ振動を抑制することの両立が可能である。
【0035】
(第2実施形態)
図5図6には図1図3に示した免震構造において、底床2に窪み8を設けずに静状態での安定性を保つための構造例を示した。図5図6の例では、底床2に支持球3を収容する窪みは設けられておらず、支持球3の上端部が水平に切り取られている。静状態において、支持球3はこの水平部分で底床2に接している。これにより、免震対象物の静状態での安定が保たれる。
【0036】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る免震構造を図7図8に示した。この実施形態では、内部固定具15により底床2に磁着部材11が固定されており、更にその磁着部材11を囲むように設けられた支持球受け12に支持球3が収容されている。ここで支持球3は磁性金属からなるので、支持球3と磁着部材11は磁力により互いに引き合い、その引力が免震構造の付勢手段として働く。
【0037】
磁着部材は公知のものが使用できる。支持球3に働く磁力が強いほど付勢手段としての機能に優れる。磁着部材に使用可能な磁石としては、永久磁石の他に電磁石も使用可能である。磁着部材に使用可能な磁性金属としては、鉄、ニッケル等やこれらからなる合金等も挙げられる。
【0038】
図7図8の例では、支持球3は支持球受け12を介して底床2を支持している。このような支持球受け12が存在することで、底床2に固定された磁着部材11が底床2から突出していても支持球3による支持が可能になる。また、磁着部材11と支持球3の間に隙間が設けられることで、底床2内に磁着部材11を格納するための空間を設ける必要が無いだけでなく、底床2の面上に後付けで磁着部材11を設置できるので、免震構造1の製造がより容易に行える。
【0039】
本実施形態には、図9(a)に示すように、支持球3が中実の磁性金属であり、支持球受け12にベアリング13が備わっている態様と、図9(b)に示すように、支持球3が非磁性素材からなり、中空構造であり、その内部に磁石14が支持球3に対しフリーの状態で収容され、支持球受け12にベアリング13が備わっている態様と(図9(b)の例では磁石14が磁着部材11に引かれる力により、支持球3の内壁で向い合っている)、図9(c)に示すように、支持球3が中空の磁性金属であり、ベアリングの無い支持球受け12を介して底床2を支持する態様が含まれる。
【0040】
ベアリング13を有する図9の(a)と(b)の例では、支持球3はベアリング13と当接しているため、支持球3と支持球受け12の摩擦が小さく支持球3がスムーズに動く。またベアリングが無い同図(c)の例では、支持球受け12の支持球3と当接する部分が面とり加工を施しているのでベアリングを有する場合と同様に支持球3はスムーズに動くことができる。
【0041】
本実施形態では、磁着部材11、支持球受け12、磁性金属からなる支持球3で構成される免震構造は、四角形の底床2の下面四隅付近に設けたが、位置や数は任意である。ただし、底床に載せる免震対象物を安定して支持するという観点から、支持球3は、3カ所以上設けることが好ましい。
【0042】
以上、図1乃至図9を使用して複数の実施形態により本発明を説明したが、これらの実施形態を組み合わせて使用しても構わない。一枚の底床に異なる構成の付勢手段を設ける方法も採用可能であるが、それぞれ別の付勢手段を備えた複数の免震構造の上に1つの免震対象物を載せるという方法も可能である。
【0043】
本願発明の複数の免震構造を組み合わせる例として、図2又は図5に示した免震構造と図8に示した免震構造の組み合わせを挙げることができる。例えば、図2に示した支持球3と支持球3の間に図9(a)乃至図9(c)で示されるような磁着部材11、支持球受け12と支持球3からなる構造を設置する。弾性体41を含む免震構造は、磁力により付勢する免震構造に比べて強い揺れに対する免震効果が高く、一方支持球受け12を含む免震構造は、前記支持球受け12が支持球3をしっかりと保持するので、静状態において静置を保つ効果が高い。両者を組み合わせることで振動が殆どない状態では完全に静置を保ち、いざ大きな水平振動を受けても確実にそれを抑えることができるものである。
【0044】
また、このような組み合わせとすることで、図2で設けられている窪み8、図5で設けられている支持球3の水平面を省略することができ、工程の簡略化やコストの削減の効果も期待できる。
【0045】
(第4実施形態)
最後に、第1、第2実施形態の様に、付勢手段4が弾性体41と線状体5とからなる場合において、地震等による外部振動の振幅が大きい場合にも確実に対応可能な実施形態について説明する。大きな振幅の外部振動を受けた場合、それによる支持球3の移動距離も延びる。この際に、線状体5は支持球3に巻き取られることとなるが、巻き取られる長さ、つまり支持球3の移動距離が支持球3の周長よりかなり大きくなると、線状体5は支持球3に二重、三重・・・に巻き付くことになる。この時に、支持球3の表面が滑らかであると、線状体5が支持球3の表面にしっかりと巻き付くことが出来なくなる。線状体5が支持球3の表面にしっかりと巻き付かなかった場合、ゴム弾性による復元が一気に起こるため、具合が悪い。
【0046】
そこで、このような事態を防ぐ方策として支持球3の表面に溝を設けることが考えられる。この例が図10である。図10(a)は支持球3を正面から見た図で、図10(b)は上から見た図である。接着点30に線状体5が接合される。球状体3以外の底床、線状体等は省略している。
【0047】
図10(b)で分るように、球状体3の表面には線状体5を固定する接着点30(頂点3a)から底点3bに向かって等角度で並ぶ16本の溝31が設けられている。このような構造とすることで振幅が大きい地震が起きた際に線状体5及び弾性体41を確実に球状体3で巻き取って除震出来る。のみならず、水平面(頂点面32、底点面33)は上側転動面21、下側転動面22と接しているので静状態での安定性が増す。
【0048】
本願発明の免震構造の下側転動面22は、支持球3が転動しやすいように、平らな水平面であることが好ましい。建築物の免震構造として使用する場合は、整地してコンクリート等で水平に養生した面を下側転動面22としてその上に他の構成を設置すればよい。また、前記のコンクリート等で水平に養生した面の上に適宜鉄板等を載せて下側転動面22としてよい。什器や家具等を載せて使用する場合は、室内の床面を下側転動面22としてその上に他の構成を設置する。この場合、床面の上にカーペット等が敷かれている場合は、そのカーペット等が下側転動面22として機能する。
【0049】
本願発明の免震構造が適用できる免震対象物の例としては、一戸建てやマンション等の建築物、タンス等の家具や、陳列棚やOAデスク等の什器類が挙げられる。この他に、使用に際して微小な振動からの隔離が必要な分析装置類、例えば大型の走査型電子顕微鏡(SEM)等に対しても好適に適用しうる。
【0050】
以上、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではない。本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1 免震構造
2 底床
21 上側転動面
22 下側転動面
3 支持球
3a 頂点
3b 底点
4 付勢手段
41 弾性体
5 線状体
6 固定具
7 挿通孔
8 窪み
11 磁着部材
12 支持球受け
13 ベアリング
14 磁石
15 内部固定具
30 接着点
31 溝
32 頂点面
33 底点面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る免震構造1を図1乃至図に示す。免震構造1は底床2の下面を形成する上側転動面21と、支持球3と、付勢手段4と、下側転動面22とを備えている。また、下側転動面22はコンクリート整地された水平面である。ここで「上側」、「下側」というのは地面等に設置された免震構造における支持球3に対しての表現である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
また地震等による外力が加わらない状態(以後、「静状態」と称する)で、4つの支持球3は、窪み8に収容された状態で地面に接しており、弾性体41は弛緩しておらず、支持球3から受ける張力が加わっている。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、
前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記付勢手段は長手方向に伸縮する弾性体を含み、
前記上側転動面は、板状部材からなる底床の下面からなり、
前記底床は、前記付勢手段を挿通する挿通孔を有し、
前記付勢手段は、前記挿通孔に挿通された状態で、長手方向の一端が前記底床の上面側において固定され、長手方向の他端側が前記底床の下側において前記支持球に連結されていて、
前記付勢手段は、前記弾性体の長手方向の他端に伸縮性を有さない線状体の長手方向の一端が接合されており、前記線状体の長手方向の他端が前記支持球に固定されていることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記底床及び/又は前記支持球が中空構造であり、浮力により底床に設置された免震対象物を浮かすことができる請求項記載の免震構造。
【請求項3】
前記支持球は、付勢手段を固定する頂点から底点に向かう子午線方向に溝が設けられている請求項記載の免震構造。
【請求項4】
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記支持球が磁性金属からなり、前記上側転動面の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される免震構造。
【請求項5】
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記支持球が非磁性素材からなり、中空構造であり、その内部に磁石を有し、前記上側転動面の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される免震構造。
【請求項6】
前記上側転動面に、前記支持球を転動可能な支持球受けを備える請求項又はに記載の免震構造。
【請求項7】
前記支持球受けがベアリングを介して前記支持球を支持する請求項に記載の免震構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
前記課題を解決するためになされた発明は下記の通りである。
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、
前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記付勢手段は長手方向に伸縮する弾性体を含み、
前記上側転動面は、板状部材からなる底床の下面からなり、
前記底床は、前記付勢手段を挿通する挿通孔を有し、
前記付勢手段は、前記挿通孔に挿通された状態で、長手方向の一端が前記底床の上面側において固定され、長手方向の他端側が前記底床の下側において前記支持球に連結されていて、
前記付勢手段は、前記弾性体の長手方向の他端に伸縮性を有さない線状体の長手方向の一端が接合されており、前記線状体の長手方向の他端が前記支持球に固定されていることを特徴とする免震構造。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の免震構造は、前記付勢手段が底床の基点(固定具)と支持球の付勢点(接着点)を結ぶ線状の弾性体を含み支持球がいずれの方向に転動しても、線状の弾性体の付勢力により支持球を基の位置に戻すことができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、本発明の免震構造は、
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記支持球が磁性金属からなり、前記底床の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢されるようになっている。この構成では、前記本願発明の付勢構造が磁着部材と磁性金属球により構成されているところ、頑丈な磁性金属の支持球を用いることにより、巨大で重量の大きな免震対象物もしっかりと支えることができる。また、本構成においては、磁着部材と支持球がお互いに働く磁力による引力によって静止状態が保たれているが、地震などでこの磁力を上まわる力が加わると支持球は回転する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、本発明の免震構造は、
免震対象物を支持する免震構造であって、
免震対象物とともに水平方向に揺動する上側転動面と、
地盤と共に水平方向に揺動する下側転動面と、
上側転動面、及び前記下側転動面の間を転動する支持球と、
前記支持球を所定の位置に付勢すべく前記支持球に付勢力を及ぼす付勢手段とを備え、前記付勢力は、前記所定の位置と前記支持球の間に働く引っ張り力であり、
前記支持球が非磁性素材からなり、中空構造であり、その内部に磁石を有し、前記底床の前記所定の位置に磁性を有する金属、又は磁石からなる磁着部材が設けられ、またその外側に設けられた支持球受けを介して、前記支持球が前記磁着部材に引き寄せられることにより、前記所定の位置に付勢される。またこの場合も、前記支持球受けがベアリングであることが特に好ましい。