(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025113000
(43)【公開日】2025-08-01
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20250725BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007600
(22)【出願日】2024-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 彩
(72)【発明者】
【氏名】戸田 慎也
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063CB01
2F063EC14
2F063EC27
(57)【要約】
【課題】ひずみゲージ全体としての抵抗温度係数の差を低減することが可能なひずみゲージを提供する。
【解決手段】ひずみゲージは、第1抵抗体と、第1抵抗体が形成された第1面と、第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、第1基材及び前記第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、第1基材と第2基材は、第1基材において第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、第2基材において第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1抵抗体と、
前記第1抵抗体が形成された第1面と、前記第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、
前記第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、前記第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、
前記第1基材及び前記第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ前記第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、
前記第1基材と前記第2基材は、前記第1基材において前記第1線膨張係数が前記第2線膨張係数より大きく、前記第2基材において前記第2線膨張係数が前記第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている、ひずみゲージ。
【請求項2】
第1抵抗体及び第2抵抗体と、
前記第1抵抗体が形成された第1面と、前記第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、
前記第2抵抗体が形成され且つ前記第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、前記第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、
前記第1基材及び前記第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ前記第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、
前記第1基材と前記第2基材は、前記第1基材において前記第1線膨張係数が前記第2線膨張係数より大きく、前記第2基材において前記第2線膨張係数が前記第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている、ひずみゲージ。
【請求項3】
第1抵抗体と、
第1面と、前記第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、
前記第1抵抗体が形成され、且つ前記第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、前記第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、
前記第1基材及び前記第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ前記第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、
前記第1基材と前記第2基材は、前記第1基材において前記第1線膨張係数が前記第2線膨張係数より大きく、前記第2基材において前記第2線膨張係数が前記第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている、ひずみゲージ。
【請求項4】
前記第1基材及び前記第2基材は同じ材料から成る、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記第1基材及び前記第2基材は同じ大きさ及び形状である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記第1基材及び前記第2基材は、同じ厚さである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記第1抵抗体は4つの抵抗部を含み、4つの前記抵抗部はフルブリッジ回路を構成するように接続されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記第1抵抗体は2つの抵抗部を含み、2つの前記抵抗部はハーフブリッジ回路を構成するように接続されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、平板状の基材と、基材上に形成された抵抗体とを備える。抵抗体は、測定対象物のひずみに応じて変形する。特許文献1のひずみセンサでは、フレキシブル基板の裏面に、複数の抵抗式ひずみゲージを貼り付けたゲージベース4を貼り合せ、さらにフレキシブル基板の表面にシート状絶縁部材(カバーフィルム)を貼り合せることで構成されたセンサ構造部6が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平板状の基材は、平面上のある方向に対する基材の線膨張係数と、前記ある方向と前記平面上で直交する方向に対する線膨張係数とが異なる場合がある。ひずみゲージの構成、配置、及び/又は電気的な接続関係によっては、基材の線膨張係数についての異方性が、ひずみゲージによるひずみの検出に影響することがある。例えば、同一の基材上に複数のグリッドを形成する場合、グリッド方向が異なるとグリッド毎の抵抗温度係数(TCR)に差が生じ、これがひずみの検出結果に影響するおそれがある。
【0005】
本開示は、基材の膨張又は収縮による検出精度の低下を抑えることが可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るひずみゲージは、第1抵抗体と、第1抵抗体が形成された第1面と、第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、第1基材及び前記第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、第1基材と第2基材は、第1基材において第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、第2基材において第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている。
【0007】
本開示の一態様に係るひずみゲージは、第1抵抗体及び第2抵抗体と、第1抵抗体が形成された第1面と、第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、第2抵抗体が形成され且つ第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、第1基材及び第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ前記第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、第1基材と第2基材は、第1基材において第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、第2基材において第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている。
【0008】
本開示の一態様に係るひずみゲージは、第1抵抗体と、第1面と、第1面と厚さ方向に対向する第2面とを有する第1基材と、第1抵抗体が形成され、且つ第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する第2基材と、を備え、第1基材及び第2基材はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し且つ第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっており、第1基材と第2基材は、第1基材において第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、第2基材において第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるように重ねて接着されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示のひずみゲージによれば、基材の膨張又は収縮による検出精度の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージの各部とその積層関係を示す図面である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図4】第1実施形態に係るひずみゲージの断面の一例を模式的に示した図である。
【
図7】第2実施形態に係るひずみゲージの断面の一例を模式的に示した図である。
【
図8】第3実施形態に係るひずみゲージの断面の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
本開示において、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右及び前後等の方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、図示する各部材の角部の形状は、直角に限られず、丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、それぞれ略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0013】
例えば、「平行」とは、2つの線又は2つの面が互いに完全に平行でなくても、製造上許容される範囲内であれば互いに平行として扱うことができることを意味する。「直角」、「直交」、「水平」及び「垂直」のそれぞれについても同様に、2つの線又は2つの面の相互の位置関係が製造上許容される範囲内であればそれぞれに該当することが意図される。
【0014】
また、図面には、説明の便宜のために、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸からなるXYZ直交座標系が設定される場合がある。なお、当該座標系は、説明のために定めるものであって、本開示に係るひずみゲージの姿勢について限定するものではない。XYZ直交座標系を設定した場合、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向との用語を用いる場合がある。X軸方向は、X軸正方向及びX軸負方向を含む。Y軸方向は、Y軸正方向及びY軸負方向を含む。Z軸方向は、Z軸正方向及びZ軸負方向を含む。以降は、説明の便宜上、Z軸正方向を上と称し、Z軸負方向を下と称する場合がある。また、ある部材の上方向に在る面を上面、下方向にある面を下面と称する場合がある。
【0015】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図6を参照して、第1実施形態に係るひずみゲージ100Aについて説明する。ひずみゲージ100Aは、本開示におけるひずみゲージの一例である。
【0016】
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージ100Aの各部とその積層関係を示す図面である。本実施形態に係るひずみゲージ100Aは、少なくとも、第1抵抗体60と、第1基材50と、第2基材30と、を備える。
【0017】
第1抵抗体60は、第1基材50に形成される、ひずみゲージ100Aの受感部である。第1基材50は、第1抵抗体60が形成された第1面と、第1面と厚さ方向に対向する面第2面を有する。
図1の例では、第1基材50の上側の面が第1面であり、下側の面が第2面である。
【0018】
第1基材50の第2面は、第2基材30と接着される。第2基材30は、第1基材50の第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する。
図1の例では、第2基材30の上側の面が第3面であり、下側の面が第4面である。ひずみゲージ100Aを使用するときには、第2基材30の第4面を起歪体10に貼り付ける。したがって、
図1の例では、ひずみゲージ100Aは上から順に、第1抵抗体60、第1基材50、第2基材30の順で積層され、そして第2基材30の下側の面が起歪体10に貼り付けられる。
【0019】
図1におけるC11X及びC12Yは第1基材50の線膨張係数を模式的に示している。
図1におけるC21X及びC22Yは、第2基材30の線膨張係数を模式的に示している。本開示に係るひずみゲージ100Aにおいて、第1基材50及び第2基材30は、線膨張係数について異方性を有する。例えば、第1基材50及び第2基材30を矩形状とすると、これらの基材はそれぞれ、縦方向と横方向の線膨張係数が異なっている。本開示に係るひずみゲージ100Aは、
図1に示すように、第1基材50と第2基材30とを積層するときに、両者の2方向の線膨張係数が、特定の大小関係となるように重ね合わせることに特徴がある。詳しい原理は後述するが、ひずみゲージ100Aはこのような特徴を有することにより、ひずみゲージ100A全体として、前記2方向の線膨張係数の差を小さくすることができる。そのため、ひずみゲージ100は、基材の膨張又は収縮による検出精度の低下を抑えることができる。
【0020】
図2は、ひずみゲージ100Aを例示する平面図である。具体的には、
図2は、
図1に示したひずみゲージ100Aの第1基材50の上面を上から下に見下ろした平面図である。前述の通り、第1基材50の上面には第1抵抗体60が形成されている。第1抵抗体60は4つの抵抗部を含む。
図2では一例として、ひずみゲージ100Aが4ゲージのひずみゲージである場合について示している。すなわち、
図2の例では、上面に4つの抵抗部60A~60Dが形成される。ひずみゲージ100Aは、配線80と電極90A~90Dを含む。以降の説明では、電極90A~90Dをまとめて「電極90」とも称する。抵抗部60A~60Dはそれぞれ、一対の配線80を介して2つの電極90に接続されている。抵抗部60A~60Dと電極の接続関係については後で詳述する。
【0021】
[抵抗部60A~60D]
抵抗部60A~60Dはそれぞれ、ひずみゲージ100Aにおいて、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗部60A~60Dは、第1基材50上に所定のパターンで形成された薄膜の抵抗体である。抵抗部60A~60Dは、第1基材50の上面に直接形成されてもよいし、第1基材50の上面に他の層を介して形成されてもよい。なお、
図2では便宜上、抵抗部60A~60Dを濃い梨地模様で示している。
【0022】
抵抗部60A~60Dはそれぞれが、複数の細長状部を含んでいる。ある1つの抵抗部に含まれる細長状部は、その長手方向を同一方向に揃えて配置され、かつ、互い違いに直列に接続される。すなわち、各抵抗部は、全体としてジグザグに折り返す構造を有している。具体的には、例えば抵抗部60A及び60Cに含まれる細長状部は、X軸方向に沿って所定間隔で配置されている。また、抵抗部60B及び60Dに含まれる細長状部は、Y軸方向に沿って所定間隔で配置される。また、隣接する細長状部の端部は、互い違いに連結されている。すなわち、抵抗部60A~60Dはそれぞれ、全体としてジグザグに折り返す構造を有している。
【0023】
このようなジグザグ構造を有する抵抗部において、一定方向に並んだ細長状部の長手方向はグリッド方向である。また、XY平面においてグリッド方向と垂直な方向は、グリッド幅方向である。例えば抵抗部60Aの場合、グリッド方向はX軸方向であり、グリッド幅方向はY軸方向である。
【0024】
抵抗部60A~60Dの厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100Aの使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、抵抗部60A~60Dの膜厚はそれぞれが0.05μm~2μmの範囲の厚さであってよい。特に、抵抗部60A~60Dの厚さが0.1μm以上である場合、抵抗部60A~60Dを構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗部60A~60Dの厚さが1μm以下である場合、抵抗部60A~60Dを構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラック及び(ii)膜の第1基材50からの反りが、低減される。抵抗部60A~60DがそれぞれCrを主成分とする材料から形成される場合、抵抗部60A~60Dはそれぞれ、「横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上」となるように、前記抵抗体の膜厚が200nm以上とされていればなお良い。
【0025】
抵抗部60A~60Dの幅はそれぞれ、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮して、例えば、10μm~100μm程度とすることができる。なお、「抵抗部60A~60Dの幅」とは、抵抗部60A~60Dにおいて、長手方向と直交する方向の長さである。
【0026】
抵抗部60A~60Dは、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗部60A~60Dは、それぞれCrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0027】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0028】
例えば、抵抗部60A~60DがCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、例えば、抵抗部60A~60DがCr混相膜である場合、抵抗部60A~60Dがα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ100Aのゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗部60A~60Dはα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗部60A~60Dはα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0029】
また、抵抗部60A~60DがCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ひずみゲージ100Aのゲージ率の低下を抑制することができる。
【0030】
また、Cr混相膜におけるCrNとCr2Nとの比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。Cr2Nは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗部60A~60Dのセラミックス化を低減し、抵抗部60A~60Dの脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0031】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のN2もしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0032】
[配線80]
配線80は抵抗部60A~60Dそれぞれを、電極90と電気的に接続する。配線80の長さは、配線80が直線状か否かにかかわらず5mm以上とすることが好ましい。配線80の長さを5mm以上とすることで、電極90にリード線等をはんだ付けする際の熱が、第1抵抗体60、又はこれを覆うカバー層102に伝わり難くなり、ゲージ諸特性の熱負荷を軽減できる。
【0033】
[電極90]
電極90は、ひずみにより第1抵抗体60の各抵抗部に生じる抵抗値の変化を外部に出力する。電極90には、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。各電極90は第1基材50上に形成される。電極90は、例えば、
図2のように平面視で略円形であってもよいし、略矩形であってもよい。また、電極90は、配線80よりも拡幅して形成されていてもよい。
【0034】
なお、ひずみゲージ100Aが4ゲージのひずみゲージとして出力が得られるのであれば、第1抵抗体60と配線80及び電極90との接続方法は
図2に示した例に限定されない。また、配線80及び電極90の材質、構造、形状、長さ、及び大きさについても特に限定されない。例えば、配線80は直線状には限定されず、任意のパターンとしてもよい。
【0035】
例えば、配線80はそれぞれ、第1金属層81と、第1金属層81の上面に積層された第2金属層82とで構成されていてもよい。なお、第1抵抗体60と第1金属層81とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成してもよい。また、第2金属層82は、第1金属層81よりも低抵抗の材料から形成されてよい。また、第2金属層82は、第1抵抗体60の各抵抗部よりも低抵抗の材料から形成されていてよい。例えば、第1抵抗体60がCr混相膜である場合、第2金属層82の材料として、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、或いは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。第2金属層82は、第1金属層81の一部に形成されてもよいし、第1金属層81の全体に形成されてもよい。また例えば、ひずみゲージ100Aは、配線80のそれぞれと同様に形成されるダミー配線80Eを有していてもよい。
【0036】
また、ひずみゲージ100Aはカバー層102を備えていてもよい。
図2においてカバー層102は破線で示される。カバー層102は、第1抵抗体60及び配線80を被覆し、電極90を露出するように、第1基材50の上面に設けられている。ひずみゲージ100Aは、カバー層102を備えることにより、第1抵抗体60及び配線80に機械的な損傷等が生じることが防止される。ひずみゲージ100Aは、カバー層102を備えることにより、第1抵抗体60及び配線80が湿気等から保護される。なお、カバー層102は、電極90を除く部分の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0037】
カバー層102の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層102は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層102の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層102の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層102を設けることで、第1抵抗体60に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層102を設けることで、第1抵抗体60を湿気等から保護することができる。
【0038】
[ブリッジ回路]
次に、第1抵抗体60の抵抗部60A~60Dにより形成されるブリッジ回路について説明する。
図3は、ブリッジ回路の一例を示す図である。
図3では抵抗部60A~60Dでフルブリッジ回路を形成する場合の配線の一例を説明する。フルブリッジ回路120は抵抗部60A~60Dを含み、抵抗部60A~60Dは図示の通り直列に接続されている。より詳しくは、フルブリッジ回路120は、抵抗部60A~60Dに接続された接続部P12,P23,P34,P41と、接続部P12,P23,P34,P41に接続された4つの電極90を有する。各抵抗部と各接続部の間、及び、各接続部と各電極90の間は配線80にて接続される。なお、接続部P12,P23,P34,P41はそれぞれ、回路が分岐・接続している部分を示したものであり、これらは独立した部材でなくてもよい。
【0039】
抵抗部60Aと抵抗部60Bは、接続部P12を介して接続され、抵抗部60Bと抵抗部60Cは、接続部P23を介して接続され、抵抗部60Cと抵抗部60Dは、接続部P34を介して接続され、抵抗部60Dと抵抗部60Aは、接続部P41を介して接続されている。電極90Bは、接続部P12を介して抵抗部60A,60Bに接続され、電極90Cは、接続部P23を介して抵抗部60B,60Cに接続され、電極90Dは、接続部P34を介して抵抗部60C,60Dに接続され、電極90Aは、接続部P41を介して抵抗部60A,60Dに接続されている。電極90Bと電極90Dとの間には、直流電圧Eが供給される。電極90Cと電極90Aとの間の電圧は、アナログの出力電圧e0である。フルブリッジ回路120では、出力電圧e0が得られる。ひずみゲージ100Aは、起歪体10のひずみ量を出力電圧e0として検出することができる。
【0040】
[ひずみゲージ100Aの断面]
図4は、ひずみゲージ100Aの断面の一例を模式的に示した図である。なお
図4は、
図1及び
図2に示したひずみゲージ100Aの一部分を切り取った断面図である。具体的には、
図4は、ひずみゲージ100Aを、
図2に示した抵抗部60A~60Dのいずれかが形成されている箇所で、Z軸方向に切断した場合の断面を示している。なお、
図4において、カバー層102の図示は省略している。以降の各実施形態における断面図も同様である。
【0041】
[起歪体10及び接着層20]
起歪体10は、ひずみゲージ100Aにひずみを伝達する部材である。ひずみゲージ100Aを貼り付け可能であれば、起歪体10の大きさ、形、材質、形状は特に限定されない。例えば起歪体10は板状であってよい。ひずみゲージ100Aは、例えば接着剤により起歪体10に貼り付けられる。接着剤を使用する場合、ひずみゲージ100Aの下面(より詳細には、第2基材30の下面)と起歪体10との間に、接着剤の層である接着層20が形成される。なお、ひずみゲージ100Aは接着剤以外の方法で起歪体10に貼り付けられてもよいため、接着層20は形成されない場合もある。例えば、ひずみゲージ100Aは、両面テープ等を用いて起歪体10に貼り付けられてもよい。
【0042】
[第2基材30]
第2基材30は、起歪体10の上面に接着される。第2基材30は、可撓性を有する。第2基材30は、例えば板状を成す。第2基材30は、Z軸方向において所定の厚さを有する。第2基材30の下面は起歪体10に貼り付けられる。第2基材30の上面には第1基材50が貼り付けられる。なお、第2基材30の厚さ及び材料は特に限定されない。第2基材30は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。第2基材30は第1基材50と同一の材料から形成されてもよく、同一の厚さを有していてもよい。
【0043】
[接着層40と第1基材50]
第1基材50は、例えば接着剤で第2基材30の上面に貼り付けられる。接着剤を使用する場合、第1基材50の下面と第2基材30の上面との間に、接着剤の層である接着層40が形成される。なお、第1基材50は接着剤以外の方法で第2基材30に貼り付けられてもよいため、接着層40は形成されない場合もある。例えば、第1基材50と第2基材30とは、両面テープ等を用いて起歪体10に貼り付けられてもよい。また、起歪体10と第2基材30を接着する接着剤と、第2基材30と第1基材50とを接着する接着剤とは種類が異なるものであってもよい。
【0044】
第1基材50は、第1抵抗体60等を形成するためのベース層となる部材である。第1基材50は、例えば板状を成す。第1基材50の厚さ方向は、Z軸方向に沿う。第1基材50は、可撓性を有する。第1基材50の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100Aの使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、第1基材50の厚さは5μm~500μm程度であってよい。なお、起歪体10から第1抵抗体60の各抵抗部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、第1基材50の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、第1基材50の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0045】
第1基材50は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。
【0046】
具体的な商品名を挙げるならば、第1基材50の材料として、ユーピレックス(登録商標)25S、ゼノマックス(登録商標)F38、カプトン(登録商標)100EN-Z、ユーピレックス50S、カプトン140EN-Z、ゼノマックスF15等を使用することができる。
【0047】
第1基材50が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、第1基材50は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0048】
第1基材50の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられる。また、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を第1基材50の材料としてもよい。又、第1基材50の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。金属製の第1基材50を用いる場合、第1基材50の上面を被覆するように絶縁膜が設けられる。なお、第1基材50及び第2基材30の具体的な材料は、以上説明したものに限られない。
【0049】
[第1抵抗体60]
前述の通り、第1抵抗体60は第1基材50の上面に形成される。第1抵抗体60の材料及び厚さについても前述の通りである。
【0050】
第1基材50及び第2基材30はそれぞれ、厚さ方向と直交する第1方向に対する第1線膨張係数と、厚さ方向と直交し、且つ第1方向と直交する第2方向に対する第2線膨張係数と、が異なっているという特性を持つ。また、第1基材50及び第2基材30は、第1基材50において第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、第2基材30において第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるよう、重ねて接着される。
【0051】
なお、第1基材50の第1線膨張係数及び第2線膨張係数、並びに、第2基材30の第1線膨張係数及び第2線膨張係数の具体的な値は特に限定されない。これらの線膨張係数はそれぞれ、基材の材料、形状、大きさ、及び厚さによって定まる。例えば絶縁樹脂フィルムで基材を作製した場合、基材の長手方向及び短手方向の線膨張係数はそれぞれ、-1~20ppm/℃程度となることが多い。
【0052】
本実施形態では、分かり易さのため、第1方向をX軸方向、第2方向をY軸方向とした場合を例に挙げて、この線膨張係数の大小について説明する。しかしながら、第1方向及び第2方向は、第1基材50及び第2基材30の辺に沿った方向でなくてもよい。なお、本実施形態では、
図1に示したように、第1基材50及び第2基材30の「厚さ方向」はZ軸方向に相当する。
【0053】
[第1基材50の第1線膨張係数C11X及び第2線膨張係数C12Y]
図5は、第1基材50を例示する平面図である。
図5では、温度上昇前の第1基材50が実線で示され、温度上昇後の第1基材50が2点鎖線で示されている。第1基材50では、X軸方向(すなわち、第1方向)に対する第1線膨張係数C11Xと、Y軸方向(すなわち、第2方向)に対する第2線膨張係数C12Yとが異なっており、C11X>C12Yである。
【0054】
第1線膨張係数C11Xは、次式(1)によって算出できる。
【0055】
C11X=ΔLX11/LX10…(1)
ここで、ΔLX11は、第1基材50の温度が1K上昇した場合の第1基材50のX軸方向における伸びである。LX10は、温度上昇前の第1基材50のX軸方向における長さである。ΔLX11は、温度上昇後の第1基材50のX軸方向における長さLX11と、温度上昇前の第1基材50のX軸方向の長さLX10との差である。
【0056】
第2線膨張係数C12Yは、次式(2)によって算出できる。
【0057】
C12Y=ΔLY11/LY10…(2)
ここで、ΔLY11は、第1基材50の温度が1K上昇した場合の第1基材50のY軸方向における伸びである。LY10は、温度上昇前の第1基材50のY軸方向における長さである。ΔLY11は、温度上昇後の第1基材50のY軸方向における長さLY11と、温度上昇前の第1基材50のY軸方向の長さLY10との差である。
【0058】
[第2基材30の第1線膨張係数C21X及び第2線膨張係数C22Y]
図6は、第2基材30を例示する平面図である。
図6では、温度上昇前の第2基材30が実線で示され、温度上昇後の第2基材30が2点鎖線で示されている。第2基材30では、X軸方向(すなわち、第1方向)に対する第1線膨張係数C21Xと、Y軸方向(すなわち、第2方向)に対する第2線膨張係数C22Yとが異なっており、C22Y>C21Xである。
【0059】
第1線膨張係数C21Xは、次式(3)によって表現できる。
【0060】
C21X=ΔLX21/LX20…(3)
ここで、ΔLX21は、第2基材30の温度が1K上昇した場合の第2基材30のX軸方向における伸びである。LX20は、温度上昇前の第1基材50のX軸方向における長さである。ΔLX21は、温度上昇後の第2基材30のX軸方向における長さLX21と、温度上昇前の第2基材30のX軸方向の長さLX20との差である。
【0061】
第2線膨張係数C22Yは、次式(4)によって表現できる。
【0062】
C22Y=ΔLY21/LY20…(4)
ここで、ΔLY21は、第2基材30の温度が1K上昇した場合の第2基材30のY軸方向における伸びである。LY20は、温度上昇前の第2基材30のY軸方向における長さである。ΔLY21は、温度上昇後の第2基材30のY軸方向における長さLY21と、温度上昇前の第2基材30のY軸方向の長さLY20との差である。
【0063】
[第1基材50と第2基材30との積層関係]
再び
図1を参照して説明する。ひずみゲージ100Aの第1基材50は、第1線膨張係数C11Xが第2線膨張係数C12Yよりも大きい。このような第1基材50に対し、第2基材30は、第2線膨張係数C22Yが第1線膨張係数C21Xよりも大きくなるような向きで重ねて貼り付けられる。このような向きで第1基材50と第2基材30とを重ね合わせることで、2枚の基材を合わせた全体として、第1線膨張係数と、第2線膨張係数との値の差を小さくすることができる。例えば、XY平面上における第1基材50の向きと第2基材30の向きは、
図1に示すように直交していてもよい。更に言えば、第1基材50と第2基材30とが同じ部材(すなわち同じ形状、大きさ、及び厚さで同じ材質から成る基材)の場合、Z軸方向から見ると、2枚の基材を90度回転させて貼り合わせてもよい。
【0064】
このように、本実施形態に係るひずみゲージ100Aは、全体として、基材の線膨張係数の差を小さくすることができる。したがって、ひずみゲージ100Aは、基材の線膨張係数の差に起因するノイズを低減することができる。
【0065】
より詳細に説明すると、まず、基材が膨張するとき、その上に形成されている抵抗体の長さもある程度影響を受けて変化する。このとき、線膨張係数が高い方向に対する抵抗体の長さの変化量は、線膨張係数が低い方向に対する抵抗体の変化量よりも大きくなる。例えば
図1~2の抵抗部60Aと60Bを比較すると、グリッド方向がX軸方向と並行な抵抗部60Bの方が、グリッド方向がX軸方向と直交している抵抗部60Aよりも伸びるため、抵抗部60Bの抵抗値の方が高くなる。
【0066】
このように、基材の線膨張係数に異方性があると、同じ抵抗部でも、配置方向(すなわちグリッド方向)によって抵抗値がばらついてしまう。基材は吸湿や温度上昇等により膨張するが、特に温度上昇による膨張の場合、上述したような抵抗値のばらつきが生じると、抵抗温度係数(TCR)も抵抗部ごとに値が異なってしまうため、ひずみゲージ100A全体の温度補償の性能が低下する。
【0067】
これに対し、本実施形態に係るひずみゲージ100Aによれば、ひずみゲージ100A全体として、第1方向に対する線膨張係数と、第2方向に対する線膨張係数との差(すなわち、異方性)を低減することができる。これにより、グリッド方向が異なる複数の抵抗部(例えば抵抗部60Aと60B、60Cと60D等)のTCRの差異を小さくすることができる。その結果、ひずみゲージ100A全体として、基材の膨張又は収縮による検出精度の低下を抑えることができるという効果を奏する。
【0068】
なお、第1基材50と第2基材30とは、同じ材料から成る基材であってもよいし、異なる材料から成る基材であってもよい。また、第1基材50と第2基材30とは、同じ形状及び大きさであってもよいし、異なる形状及び大きさであってもよい。また、第1基材50及び第2基材30は、同じ厚さであってもよいし、異なる厚さであってもよい。特に、第1基材50と第2基材30とが同一の材料である場合、
図5及び
図6によれば、C11X+C21X=C12Y+C22Yとなる。したがって、基材の線膨張係数の差をより小さくすることができるため、基材の膨張又は収縮によるひずみ検出精度の低下を抑えることができる。更に、第1基材50と第2基材30は、同じ基材(同じ材料、形状、大きさ、及び厚さ)であってもよい。この場合、同じ2枚の基材をXY平面上で直交するように上下に重ね合わせることで、第1方向と第2方向に対する基材の膨張量の差をほぼ相殺することができる。したがって、基材の線膨張係数の差を更に小さくすることができるため、基材の膨張又は収縮によるひずみ検出精度の低下をより抑えることができる。
【0069】
なお、上述のように、同じ基材(同じ材料、形状、大きさ、及び厚さ)を重ねて貼り合わせるのであれば、ひずみゲージ100Aは、2枚以上且つ偶数枚の基材を上下に貼り合わせたゲージであってもよい。なおこの場合、基材は2枚を平面視で直交するように上下に重ね合わせた構造を1組とし、この1組のユニットを上下に複数個重ね合わせることとなる。
【0070】
[ひずみゲージ100Aの製造方法]
次に、本実施形態に係るひずみゲージ100Aの製造方法について説明する。
【0071】
はじめに、第1基材50の上面に金属層を形成する。ここでは、便宜上、金属層Aと称する。金属層Aは、最終的にパターニングされて、第1抵抗体60及び配線80(配線80が2層から成る場合は、第1金属層81)となる層である。金属層Aの材料や厚さは、上述の第1抵抗体60及び配線80(又は第1金属層81)の材料や厚さと同様である。
【0072】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。第1基材50の上面に金属層Aを成膜後、周知のフォトリソグラフィ法により、金属層Aを
図2の抵抗部60A~60D等と同様の平面形状にパターニングする。
【0073】
なお、第1基材50の上面に下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、第1基材50の上面に、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ100Aのゲージ特性を安定化させることができる。
【0074】
本開示において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗部60A~60D)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、第1基材50に含まれる酸素又は水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び/又は、第1基材50と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0075】
第1基材50を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0076】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ100Aにおいて、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ100Aにおいて、ゲージ特性が向上する。
【0077】
機能層の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0078】
機能層の平面形状は、例えば
図2に示す抵抗部60A~60Dの平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層と抵抗部60A~60Dとの平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層が絶縁材料から形成される場合には、機能層を抵抗部60A~60Dの平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層は例えば抵抗部60A~60Dが形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層は、第1基材50の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0079】
次に、金属層Aの上面に、電極90(及び第2金属層82)を形成する。電極90(及び第2金属層82)は、例えば、フォトリソグラフィ法又はセミアディティブ法により形成できる。これにより、第1基材50の上面に、抵抗部60A~60D、配線80、及び電極90が形成される。
【0080】
次に、前述の通り第1抵抗体60(本実施形態では抵抗部60A~60D)、配線80、及び電極90を形成した第1基材50の下面を、第2基材30に貼り付ける。これにより、ひずみゲージ100Aが完成する。第1基材50と第2基材30との貼付けの向きは、前述した通りである。
【0081】
なお、必要に応じて、第1基材50の上面にカバー層102を設けてもよい。カバー層102は、例えば、第1基材50の上面に、第1抵抗体60及び配線80を被覆し電極90を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層102は、第1基材50の上面に、第1抵抗体60及び配線80を被覆し電極90を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。電極90を露出させる開口部は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。
【0082】
[第2実施形態]
本開示に係るひずみゲージは、第1基材と第2基材の間に、第2抵抗体を設けていてもよい。以下、第2実施形態に係るひずみゲージ100Bについて説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態と同様の説明である箇所は、説明を繰り返さない。以降の実施形態においても同様である。
【0083】
図7は、第2実施形態に係るひずみゲージ100Bの断面の一例を模式的に示した図である。なお、
図7はひずみゲージ100Bを、抵抗部が形成されている箇所でZ軸方向に切断した場合の断面を示している。
【0084】
第2実施形態に係るひずみゲージ100Bは、少なくとも、第1抵抗体60と、第1基材50と、第2抵抗体62と、第2基材30と、を備える。
図4と
図7を比較して分かる通り、ひずみゲージ100Bは、第2基材30の上面に第2抵抗体62が形成されている点で、第1実施形態に係るひずみゲージ100Aと異なる。
【0085】
より詳しくは、ひずみゲージ100Bの第1基材50は、第1抵抗体60が形成された第1面と、直接又は間接的に第2抵抗体62に接している第2面を有する。また、ひずみゲージ100Bの第2基材30は、第2抵抗体62が形成され且つ前記第2面に直接又は間接的に接着された第3面と、起歪体10に接着される第4面とを有する。第1基材50及び第2基材30の第1線膨張係数及び第2線膨張係数の関係性は、第1実施形態にて説明したひずみゲージ100Aと同様である。
【0086】
なお、ひずみゲージ100Bにおける、第1基材50の上面に形成される構成(例えば、第1抵抗体60、配線80、及び電極90の配置と接続関係等)は、ひずみゲージ100Aと同様である。また、第2基材30の上面にも、第1基材50の上面と同様の構成及び接続関係で、第2抵抗体62(の4つの抵抗部)、配線80、及び電極90が形成され、これらがフルブリッジ回路を形成するように接続されてよい。なお、ひずみゲージ100Bにおいて、第2抵抗体62はひずみ検出に使用してもよいし、使用しなくてもよい。第2抵抗体62をひずみ検出に使用しない場合、第2基材30の上面に配線80および電極90は形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
【0087】
ひずみゲージ100Bは、第1実施形態のひずみゲージ100Aと同様の作用効果を奏する。なお、第1基材50及び第2基材30を同一材料とする場合、抵抗体(より詳しくは、4つの抵抗部)が形成された基材を2つ用意し、これらを組み合わせることでひずみゲージ100Bを作製してもよい。すなわち、2つの基材を、上側に配置される基材の第1線膨張係数が第2線膨張係数より大きく、下側に配置される基材の第2線膨張係数が第1線膨張係数より大きくなるように上下に重ねてこれらを接着する。これにより、上側の基材及び抵抗体がそれぞれ第1基材50及び第1抵抗体60としてはたらき、下側の基材及び抵抗体がそれぞれ第2基材30及び第2抵抗体62としてはたらく。
【0088】
[第3実施形態]
本開示に係るひずみゲージは、第1基材の上面に第1抵抗体を設けず、第2基材の上面に第1抵抗体を設けた構成としてもよい。以下、第3実施形態に係るひずみゲージ100Cについて説明する。
図8は、第3実施形態に係るひずみゲージ100Cの断面の一例を模式的に示した図である。なお、
図8はひずみゲージ100Cを、抵抗部が形成されている箇所でZ軸方向に切断した場合の断面を示している。
【0089】
第3実施形態に係るひずみゲージ100Cは、少なくとも、第1基材50と、第1抵抗体60と、第2基材30と、を備える。
図4と
図8を比較して分かる通り、ひずみゲージ100Cは、第1基材50の上面ではなく、第2基材30の上面に第1抵抗体60が形成されている点で、第1実施形態に係るひずみゲージ100Aと異なる。
【0090】
より詳しくは、ひずみゲージ100Cの第1基材50は、第1面と、第1面と厚さ方向に対向する第2面を有する。ひずみゲージ100Cの第2基材30は、第1抵抗体60が形成され、且つ第1基材50の第2面に直接または間接的に接着された第3面と、第3面と厚さ方向に対向する第4面とを有する。第1基材50及び第2基材30の第1線膨張係数及び第2線膨張係数の関係性は、第1実施形態にて説明したひずみゲージ100Aと同様である。
【0091】
ひずみゲージ100Cでは、第2基材30の上面に、第1基材50の上面と同様の構成及び接続関係で、第1抵抗体60(の4つの抵抗部60A~60D)、配線80、及び電極90が形成され、これらがフルブリッジ回路を形成するように接続されてよい。すなわち、ひずみゲージ100Cでは、第2基材30に形成された第1抵抗体60がひずみゲージ100Cの受感部となる。なお、ひずみゲージ100Cの電極は、ひずみゲージ100Cの側面を介して、又は、第1基材50及び/又は第2基材30に設けられたスルーホールを介して、ひずみゲージ100Cの外部へと接続されてよい。ひずみゲージ100Cは、第1実施形態のひずみゲージ100A及び第2実施形態のひずみゲージ100Bと同様の作用効果を奏する。
【0092】
[変形例2]
本開示に係るひずみゲージはハーフブリッジ回路で実現されてもよい。例えば、第1実施形態に係るひずみゲージ100Aの第1抵抗体60は2つの抵抗部を含み、配線によってこの2つの抵抗部と電極がハーフブリッジ回路を構成するように接続されていてもよい。また例えば、第2実施形態に係るひずみゲージ100Bの第1抵抗体60及び/又は第2抵抗体62は2つの抵抗部を含み、この2つの抵抗部が前述のようにハーフブリッジ回路を構成するように接続されていてもよい。また例えば、第3実施形態に係るひずみゲージ100Cにおいて、第1抵抗体60が2つの抵抗体を有し、当該2つの抵抗体がハーフブリッジ回路を構成していてもよい。いずれの場合も、各実施形態に係るひずみゲージと同様の効果が得られる。
【0093】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
100A,100B,100C…ひずみゲージ、30…第2基材、50…第1基材、60…第1抵抗体、60A~60D…抵抗部、62…第2抵抗体、120…フルブリッジ回路