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特開2025-11341α化澱粉、α化澱粉の製造装置、及びα化澱粉の製造方法
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  • 特開-α化澱粉、α化澱粉の製造装置、及びα化澱粉の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011341
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】α化澱粉、α化澱粉の製造装置、及びα化澱粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20250117BHJP
   A47J 43/04 20060101ALI20250117BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
A23L29/212
A47J43/04
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076663
(22)【出願日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2022028038
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521301312
【氏名又は名称】株式会社アルファテック
(71)【出願人】
【識別番号】508046362
【氏名又は名称】西岡 昭博
(71)【出願人】
【識別番号】509003977
【氏名又は名称】香田 智則
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】福井 勝
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】香田 智則
【テーマコード(参考)】
4B023
4B025
4B053
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE30
4B023LG01
4B023LG08
4B023LG10
4B023LP20
4B025LB25
4B025LD02
4B025LG02
4B025LG07
4B025LG28
4B025LP07
4B053AA01
4B053BA02
4B053BD20
4B053BJ01
4B053BJ12
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、新規な特性を有するα化澱粉を提供することである。
【解決手段】本発明は、所定の要件を満たすα化澱粉を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件1A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件1B)前記少なくとも3つのピークにおいて、高分子量側から1番目のピークが、高分子量側から3番目のピークよりも高い強度である。
(要件1C)結晶化度が22.5%以下である。
【請求項2】
以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件2A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件2B)結晶化度が1%以上12%以下である。
(要件2C)ゲル化試験における損失弾性率が、剪断ひずみ10-4以上100以下の範囲において、1日経過後~3日経過後にかけて上昇する。
【請求項3】
以下の粘度試験で得られた経時的粘度プロファイルにおいて、第1ピークが、初期値に比べて2.0倍以上の強度を示す、請求項1又は2に記載のα化澱粉。
(粘度試験)
1400秒にわたって、一定速度下で、室温、95℃、及び室温の順で温度変化を加える。
【請求項4】
粉砕機構及び温度調整手段を備えるα化澱粉の製造装置であって、
前記粉砕機構は、
対向配置された少なくとも2つの剛性部材と、
前記剛性部材の対向面側からの力によって前記剛性部材同士の隙間間隔が可変するように、前記剛性部材の少なくとも1つを押圧する押圧部材と、を有し、
前記温度調整手段は、前記粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整し、
前記剛性部材は、前記剛性部材の対向面によって形成される隙間に供給された穀粒を剪断して粉砕可能に配置される、
製造装置。
【請求項5】
α化澱粉の製造方法であって、
穀粒を、粉砕機構及び温度調整手段を備える製造装置に供し、剪断条件下で粉砕する工程を含み、
前記粉砕機構は、
対向配置された少なくとも2つの剛性部材と、
前記剛性部材の対向面側からの力によって前記剛性部材同士の隙間間隔が可変するように、前記剛性部材の少なくとも1つを押圧する押圧部材と、を有し、
前記温度調整手段は、前記粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整し、
前記剛性部材は、前記剛性部材の対向面によって形成される隙間に供給された穀粒を剪断して粉砕可能に配置される、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α化澱粉、α化澱粉の製造装置、及びα化澱粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α化澱粉は、通常、澱粉に水を添加したものを加熱及び乾燥することで得られる。
他方で、コスト削減等の観点から、水を添加せずにα化澱粉を製造する方法等も提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4767128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多様化する目的等に応える観点から、新規な特性を有するα化澱粉に対するニーズがある。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、新規な特性を有するα化澱粉の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、α化澱粉の製造において、穀粒の剪断条件を検討した結果、新たな特性を有するα化澱粉を見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件1A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件1B)前記少なくとも3つのピークにおいて、高分子量側から1番目のピークが、高分子量側から3番目のピークよりも高い強度である。
(要件1C)結晶化度が22.5%以下である。
【0008】
(2) 以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件2A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件2B)結晶化度が1%以上12%以下である。
(要件2C)ゲル化試験における損失弾性率が、剪断ひずみ10-4以上100以下の範囲において、1日経過後~3日経過後にかけて上昇する。
【0009】
(3) 以下の粘度試験で得られた経時的粘度プロファイルにおいて、第1ピークが、初期値に比べて2.0倍以上の強度を示す、(1)又は(2)に記載のα化澱粉。
(粘度試験)
1400秒にわたって、一定速度下で、室温、95℃、及び室温の順で温度変化を加える。
【0010】
(4) 粉砕機構及び温度調整手段を備えるα化澱粉の製造装置であって、
前記粉砕機構は、
対向配置された少なくとも2つの剛性部材と、
前記剛性部材の対向面側からの力によって前記剛性部材同士の隙間間隔が可変するように、前記剛性部材の少なくとも1つを押圧する押圧部材と、を有し、
前記温度調整手段は、前記粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整し、
前記剛性部材は、前記剛性部材の対向面によって形成される隙間に供給された穀粒を剪断して粉砕可能に配置される、
製造装置。
【0011】
(5) α化澱粉の製造方法であって、
穀粒を、粉砕機構及び温度調整手段を備える製造装置に供し、剪断条件下で粉砕する工程を含み、
前記粉砕機構は、
対向配置された少なくとも2つの剛性部材と、
前記剛性部材の対向面側からの力によって前記剛性部材同士の隙間間隔が可変するように、前記剛性部材の少なくとも1つを押圧する押圧部材と、を有し、
前記温度調整手段は、前記粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整し、
前記剛性部材は、前記剛性部材の対向面によって形成される隙間に供給された穀粒を剪断して粉砕可能に配置される、
製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な特性を有するα化澱粉が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で使用した臼式粉砕機の模式図である。
図2】実施例におけるゲル濾過クロマトグラフィー解析の結果を示す図である。
図3】実施例におけるゲル濾過クロマトグラフィー解析の結果を示す図である。
図4】実施例で作製したα化澱粉の結晶化度を示す図である。
図5】実施例で作製したα化澱粉の損失弾性率の動態を示す図である。
図6】実施例における経時的粘度プロファイルの解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0015】
<α化澱粉>
本発明のα化澱粉は、以下の2態様を包含する。
(1)第1の態様に係るα化澱粉
以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件1A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件1B)前記少なくとも3つのピークにおいて、高分子量側からの1番目のピークが、高分子量側からの3番目のピークよりも高い強度である。
(要件1C)結晶化度が22.5%以下である。
(2)第2の態様に係るα化澱粉
以下の要件を全て満たすα化澱粉。
(要件2A)ゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
(要件2B)結晶化度が1%以上12%以下である。
(要件2C)ゲル化試験における損失弾性率が、剪断ひずみ10-4以上100以下の範囲において、1日経過後~3日経過後にかけて上昇する。
【0016】
上記α化澱粉は、既存のα化澱粉とは異なる特性(すなわち、上記各要件)を組み合わせて備える。本発明者らは、このような新規なα化澱粉を、所定の剪断条件(後述する)の採用によって創出した。
【0017】
本発明において「α化澱粉」とは、澱粉を主成分とする穀粒(は米、小麦、蕎麦、小豆等)をα化(糊化、非結晶化)したものを包含する。
【0018】
以下、それぞれの態様に係るα化澱粉について説明する。
【0019】
(第1の態様に係るα化澱粉)
第1の態様に係るα化澱粉(以下、「第1のα化澱粉」ともいう。)は、要件1A乃至1Cを全て満たす。ただし、第1のα化澱粉は、要件1A乃至1Cにくわえて、要件2B及び/又は要件2Cをさらに満たしていてもよく、満たしていなくともよい。
【0020】
[要件1Aについて]
第1のα化澱粉は、そのゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークを有する。
【0021】
本発明において「ゲル濾過クロマトグラフィー」は、実施例に示した方法で取得する。
【0022】
本発明において「アミロペクチンを示すピーク」は、以下の方法で特定し得る。
各「ピーク」は、グラフの立ち上がりの最低値から最高値を経て次の最低値に至る部分を基本とする。ただし、例えば、高分子量側から3番目のピーク及び4番目のピークにおいては、肩としてグラフが表れる場合がある。その場合、例えば、下降曲線が緩やかになる点、もしくは上昇曲線が緩やかになる点をピークの境目とする。
【0023】
第1のα化澱粉は、アミロペクチンを示すピークを、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも3つ有する。アミロペクチンを示すピークの数の上限は特に限定されないが、通常4つ以下である。
また、本発明において、第1、第2、第3、・・・第nのピークは、保持時間の間隔(例えば、120~150分、150~190分、190~230分、及び230~260分)によって区別する。
【0024】
第1のα化澱粉におけるゲル濾過クロマトグラフィーは、特に限定されないが、以下の4つのピークを有し得る。
保持時間120~150分:高分子量側からの1番目のピーク
保持時間150~190分:高分子量側からの2番目のピーク
保持時間190~230分:高分子量側からの3番目のピーク
保持時間230~260分:高分子量側からの4番目のピーク
【0025】
第1のα化澱粉は、上記4つのピーク面積合計に占める各ピーク面積の割合が以下の範囲を満たし得る。
高分子量側からの1番目のピーク:20~40%
高分子量側からの2番目のピーク:25~35%
高分子量側からの3番目のピーク:15~40%
高分子量側からの4番目のピーク:5~20%
【0026】
[要件1Bについて]
第1のα化澱粉の、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークにおいて、高分子量側からの1番目のピークは、高分子量側からの3番目のピークよりも高い強度を有する。
【0027】
本発明において「高分子量側からのn番目のピーク」とは、クロマトグラフィーの保持時間(Retention time)が短いものから数えたn番目のピークを意味する。
例えば、「高分子量側からの1番目のピーク」は、最も短い保持時間で観測されたピークを意味する。
【0028】
本発明において、「高分子量側からの1番目のピークが、高分子量側からの3番目のピークよりも高い強度である」とは、高分子量側からの1番目のピークの値(ピークの高さ)が、高分子量側からの3番目のピークの値よりも高いことを意味する。これは、後述する剪断の力により高分子のアミロペクチンが適度な割合で低分子形態へと変化した結果と推測される。
【0029】
本発明者の検討の結果、後述の比較例(図2(B))に示されるとおり、押圧部材を有しない特許文献1の製造装置を使って得られるα化澱粉は、高分子量側からの1番目のピークは、高分子量側からの3番目のピークよりも低いことを見出した。
【0030】
第1のα化澱粉において、高分子量側からの1番目のピークは、高分子量側からの3番目のピークよりも、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上3倍以下高い強度である。
【0031】
[要件1Cについて]
第1のα化澱粉の結晶化度は、22.5%以下である。つまり、第1のα化澱粉は、非晶部分の割合が高い。
【0032】
第1のα化澱粉の結晶化度の下限は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上、さらに好ましくは7%以上、さらに好ましくは12%以上である。
【0033】
第1のα化澱粉の結晶化度の上限は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは17%以下、又は14%以下である。
【0034】
本発明において「結晶化度」は、実施例に示した方法で特定する。
【0035】
(第2の態様に係るα化澱粉)
第2の態様に係るα化澱粉(以下、「第2のα化澱粉」ともいう。)は、要件2A乃至2Cを全て満たす。ただし、第2のα化澱粉は、要件2A乃至2Cにくわえて、要件1Bをさらに満たしていてもよく、満たしていなくともよい。
【0036】
以下、第1のα化澱粉における要件と重複する要件は、適宜説明を省略する。
【0037】
[要件2Aについて]
要件2Aにおいては、第1のα化澱粉の要件1Aと同様の構成を採用できる。
【0038】
第2のα化澱粉におけるゲル濾過クロマトグラフィーは、特に限定されないが、以下の4つのピークを有し得る。
保持時間120~150分:高分子量側からの1番目のピーク
保持時間150~190分:高分子量側からの2番目のピーク
保持時間190~230分:高分子量側からの3番目のピーク
保持時間230~260分:高分子量側からの4番目のピーク
【0039】
第2のα化澱粉は、上記4つのピーク面積合計に占める各ピーク面積の割合が以下の範囲を満たし得る。
高分子量側からの1番目のピーク
高分子量側からの1番目のピーク:3~40%
高分子量側からの2番目のピーク:20~35%
高分子量側からの3番目のピーク:20~60%
高分子量側からの4番目のピーク:10~20%
【0040】
[要件2Bについて]
第2のα化澱粉の結晶化度は、1%以上12%以下である。つまり、第2のα化澱粉は、非晶部分の割合が適度に高い。結晶化度が該範囲にあるα化澱粉は、押圧部材を有しない特許文献1の製造装置からは得られがたい。
【0041】
第2のα化澱粉の結晶化度の下限は、好ましくは1.2%以上、好ましくは1.5%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは7%以上、さらに好ましくは9%以上である。
α化澱粉の結晶化度α化澱粉の結晶化度を1%未満とすることは、装置の運用にともなうコストがかかるうえ、要件2A及び2Cを満たすα化澱粉の性質(テクスチャー等)にほぼ影響を与えない。換言すれば、要件2A及び2Cとの組合せとして要件2Bを満たすα化澱粉は、過度なコストを抑えて製造でき、良好な性質を有する。
【0042】
第2のα化澱粉の結晶化度の上限は、好ましくは10%以下、より好ましくは11%以下である。
【0043】
[要件2Cについて]
第2のα化澱粉は、ゲル化試験における損失弾性率が、剪断ひずみ10-4以上100以下の範囲において、1日経過後~3日経過後にかけて上昇する。
【0044】
α化澱粉は、ゲル化試験における損失弾性率が経時的に低下することが常識である。
しかし、第2のα化澱粉は、このような常識に反し、損失弾性率が経時的に上昇する。
したがって、要件2Cを備えるα化澱粉は新規である。
【0045】
本発明において「損失弾性率が1日経過後~3日経過後にかけて上昇する」とは、ゲル化試験の開始3日経過後における損失弾性率が、ゲル化試験の開始1日経過後の損失弾性率よりも高いことを意味する。
本発明のより好ましい態様は、ゲル化試験の開始3日経過後における損失弾性率が、ゲル化試験の開始2日経過後の損失弾性率よりも高く、かつ、ゲル化試験の開始2日経過後における損失弾性率が、ゲル化試験の開始1日経過後の損失弾性率よりも高い態様を包含する。
【0046】
本発明において「ゲル化試験」は、実施例に示した方法で行う。
【0047】
[その他の要件]
第1及び第2のα化澱粉のその他の要件は特に限定されないが、以下の粘度特性を有していてもよい。
【0048】
本発明の好ましい態様において、α化澱粉は、以下の粘度試験で得られた経時的粘度プロファイルにおいて、第1ピークが、初期値に比べて2.0倍以上の強度を示す。
(粘度試験)
1400秒にわたって、一定速度下で、室温、95℃、及び室温の順で温度変化を加える。
【0049】
本発明において「経時的粘度プロファイル」とは、経時的な温度変化にともなう、粘度変化を示すデータを意味する。より詳細には、経時的粘度プロファイルは実施例に示す方法で特定される。
【0050】
本発明において「経時的粘度プロファイルの第1ピーク」とは、経時的な温度変化にともない最初に生じたピークを意味する。
【0051】
本発明において「経時的粘度プロファイルの初期値」とは、経時的粘度プロファイルの解析開始時点の数値を意味する。
【0052】
本発明者の検討の結果、押圧部材を有しない特許文献1の製造装置を使って得られるα化澱粉は、経時的粘度プロファイルにおいて、第1ピークが、初期値と同等か、それ以下であること、さらには、第1ピーク(約400sec)以降に、初期値の値よりも低い値が認められることを見出した。
したがって、上記粘度特性を備える第1のα化澱粉は新規である。
【0053】
本発明の好ましい態様において、第1のα化澱粉の経時的粘度プロファイルは、第1ピーク以降も、初期値よりも常に高い値を示す。
【0054】
第1のα化澱粉において、経時的粘度プロファイルの第1ピークは、初期値に比べて、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上10倍以下の高い強度である。
【0055】
(用途)
本発明のα化澱粉の用途は特に限定されず、従来知られるα化澱粉と同様の用途(食品、医薬品等)等の任意の用途に使用され得る。
【0056】
<α化澱粉の製造方法>
本発明のα化澱粉は、穀粒のα化に用いられる任意の装置によって製造し得る。
【0057】
本発明のα化澱粉の製造工程において、穀粒に対し水を添加してもよく、水を添加しなくともよい。
簡便にα化澱粉を得る観点から、本発明のα化澱粉の製造工程は、穀粒に対し水を添加する工程を含まないことが好ましい。
【0058】
(好ましい製造装置)
α化澱粉の製造方法としては、2つの臼を軸に固定し、その間に配置した穀粒を、臼を回転によって磨り潰して粉砕する方法が知られる(例えば、日本国特許第4767128号公報)。
しかし、本発明者らは、臼同士の隙間間隔が可変な状態で剪断条件下に粉砕を行うと、新規な特性を有するα化澱粉、つまり本発明のα化澱粉が得られやすいことを見出した。
【0059】
具体的には、本発明のα化澱粉が得られやすい装置として、所定の粉砕機構及び温度調整手段を備えるα化澱粉の製造装置が挙げられる。
該製造装置において、粉砕機構は、対向配置された少なくとも2つの剛性部材と、剛性部材の対向面側からの力によって、剛性部材同士の隙間間隔が可変するように、剛性部材の少なくとも1つを押圧する押圧部材と、を有する。
温度調整手段は、粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整する。
剛性部材は、剛性部材の対向面によって形成される隙間に供給された穀粒を剪断して粉砕可能に配置される。
【0060】
本発明の好ましい態様において、α化澱粉は、穀粒を上記製造装置に供し、剪断条件下で粉砕することで得られる。
【0061】
[粉砕機構]
粉砕機構は、剛性部材と、押圧部材と、を少なくとも有する。
【0062】
本発明において「剛性部材」とは、少なくとも2つが対向するように配置され、その間に供給された穀粒を剪断して粉砕する部材である。
剛性部材同士の隙間間隔は、好ましくは0~3~0mm、より好ましくは0~1mmであり得る。
【0063】
剛性部材は、従来知られる装置における臼やローラーに採用される任意の形状、材質等であり得る。
【0064】
本発明において「押圧部材」とは、2つの剛性部材の対向面とは逆側の面側に配置され、剛性部材同士の隙間間隔を可変させるものである。
ただし、隙間間隔は、剛性部材の対向面側から生じる力(例えば、穀粒の粉砕にともなって生じる力等)によって可変する。
【0065】
押圧部材は、任意の付勢手段(例えば、スプリング)であり得る。
【0066】
第1のα化澱粉を得る場合、付勢手段の荷重は、穀粒を充分に剪断し、(要件1C)を満たすα化澱粉が得られやすくする観点から、好ましくは100N以上、より好ましくは160N以上である。
付勢手段の荷重は、剛性部材同士の隙間間隔を充分に可変し、(要件1B)を満たすα化澱粉が得られやすくする観点から、好ましくは300N以下、好ましくは250N以下、好ましくは220N以下、好ましくは150N以下、より好ましくは136N以下である。
【0067】
第2のα化澱粉を得る場合、付勢手段の荷重は、穀粒を充分に剪断し、(要件2B)を満たすα化澱粉が得られやすくする観点から、好ましくは90N以上、より好ましくは100N以上、さらに好ましくは130N以上、より好ましくは200N以上である。
付勢手段の荷重は、剛性部材同士の隙間間隔を充分に可変し、(要件2C)を満たすα化澱粉が得られやすくする観点から、好ましくは300N以下、好ましくは250N以下、より好ましくは220N以下、さらに好ましくは200N以下である。
【0068】
押圧部材の数は特に限定されず、2つの剛性部材の両方を押圧するように配置してもよいし、片方を押圧するように配置してもよい。
【0069】
粉砕機構による穀粒の粉砕条件は特に限定されないが、剛性部材を、剪断速度が好ましくは90~600sec-1、より好ましくは280~600sec-1となるように回転させてもよい。
【0070】
[温度調整手段]
温度調整手段は、粉砕機構によって剪断される過程の穀粒温度を調整する。
【0071】
温度調整手段は、従来知られるヒーターであり得る。
穀粒の剪断は、例えば、好ましくは80℃以上、より好ましくは100~200℃で行われ得る。
【0072】
製造装置のその他の構成は、従来知られる構成(穀粒供給口、穀粒取出口等)を目的等に応じて採用できる。
【実施例0073】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
<α化澱粉の作製>
以下の方法により、臼式粉砕機によって穀粒を粉砕し、α化澱粉を作製した。
【0075】
(1)臼式粉砕機の準備
小型の温度制御型臼式粉砕機を準備した。
この粉砕機は、日本国特許第4767128号の図1に示される装置と同様の構造を有する。具体的には、対向配置された上臼及び下臼(剛性部材に相当する。)を備える粉砕機構、上臼の温度を調整できる温度調整手段、穀粒供給口、穀粒取出口等を備える。
この粉砕機においては、穀粒供給口に供給した穀粒が、上臼と下臼との隙間空間に供給され、上臼及び下臼の作用によって粉砕される。粉砕物(α化澱粉)は穀粒取出口から回収できる。
【0076】
この粉砕機の上臼と下臼は位置が固定されており、下臼は、上臼との対向面に対して水平方向に回転し、穀粒に剪断力を与える。
本例では、下臼の下にスプリング(押圧部材に相当する。)を設け、上臼との対向面に対して垂直方向にも可動するように改造した。
【0077】
スプリングは、荷重が50N~220Nの範囲であるものを用いた。荷重の値が高いほど、上臼と下臼との隙間間隔が可変しにくくなる。
【0078】
本例で用いた臼式粉砕機の模式図を図1に示す。
【0079】
(2)穀粒の剪断
穀粒として、トウモロコシ由来アミロペクチン、及び令和2年度山形県産米「はえぬき」を準備した。
この穀粒を臼式粉砕機に供給し、上臼と下臼との隙間(約0mm)で剪断し、粉砕した。なお、本例において、穀粒への加水は行っていない。
得られた粉砕物がα化澱粉に相当する。
なお、剪断の温度は、120℃に設定した。剪断速度は、500sec-1に設定した。
【0080】
(3)α化澱粉の分析
得られたα化澱粉について、ゲル濾過クロマトグラフィー解析、結晶化度の測定、及びゲル化試験を行った。
【0081】
(3-1)ゲル濾過クロマトグラフィー解析
α化澱粉(20mg)に、蒸留水1.6mLを加え、ホモジナイザーで懸濁したのち、5M NaOHを0.4ml加え攪拌後、37℃で、30分間糊化した。
次いで、蒸留水及び溶離液(0.05M NaOH/0.2% NaCl)を各2mL加え、混和し、5μmのフィルターで濾過したものをサンプル液として調製した。
サンプル液5mLをゲルろ過カラム(Toyopearl HW75S×2-65S-55S、Φ2cm×30cm×4本)にアプライし、溶離液0.05M NaOH/0.2% NaCl、流速1mL/minの条件でゲル濾過を行った。
検出はIRディテクターを用い、100分から260分の検出値を用いた。
【0082】
ゲル濾過クロマトグラフィー解析の結果を図2及び3に示す。
【0083】
図2において、(A)は「136N」のスプリングを用いた場合の結果を示し、(B)は「160N」のスプリングを用いた場合の結果を示す。
なお、「136N」のスプリングを用いた場合、剛性部材(本例では下臼)の対向面側からの力によって、上臼と下臼との隙間間隔が可変していた。他方で、「160N」のスプリングを用いた場合、剛性部材(本例では下臼)の垂直方向における位置が固定され、上臼と下臼との隙間間隔が固定していた。
【0084】
図2(A)に示されるとおり、荷重「136N」のスプリングを用いた場合、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークが認められた(Retention time:約120min、約140min、約160min、約220min、約240min)。
また、高分子量側からの1番目のピーク(Retention time:約120min)が、高分子量側からの3番目のピーク(Retention time:約160min)よりも高い強度だった。
したがって、荷重「136N」のスプリングを用いた場合、(要件1A)、(要件1B)、及び(要件2A)をそれぞれ満たすα化澱粉が得られた。
【0085】
これに対し、図2(B)に示されるとおり、荷重「160N」のスプリングを用いた場合においても、アミロペクチンを示す少なくとも3つのピークが認められた(Retention time:約120min、約140min、約160min、約220min、約240min)。
しかし、高分子量側からの1番目のピーク(Retention time:約120min)は、高分子量側からの3番目のピーク(Retention time:約160min)よりも低い強度だった。
したがって、荷重「160N」のスプリングを用いた場合、(要件1A)及び(要件2A)を満たすが、(要件1B)を満たさないα化澱粉が得られた。
【0086】
なお、データは示していないが、押圧部材を有しない特許文献1の製造装置から得られたα化澱粉は、いずれも、図2(B)と同様の特徴を有するピークを示した。
【0087】
図3は、Control(スプリングなし)、又は50~220Nの各スプリングを用いて得られたα化澱粉のゲル濾過クロマトグラフィーについて、4つのピーク面積合計に占める各ピーク面積の割合を示した図である。
なお、「従来法」とは、スプリングなし、かつ、120℃で糊化を行って得られたα化澱粉のゲル濾過クロマトグラフィーの結果である。
【0088】
このように、剪断の際に、剛性部材の対向面側からの力によって剛性部材同士の隙間間隔が可変させるかどうかで、得られるα化澱粉のゲル濾過クロマトグラフィーが全く異なることは意外な知見である。
【0089】
(3-2)結晶化度の測定
広角X線回折の測定結果に基づき、ピークを非晶散乱及び結晶反射に分離した。
得られた非晶散乱によるピークの積分値を「S」、結晶反射によるピークの積分値を「S」し、下式に基づきα化澱粉の結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=(Sc/(Sc+Sa))×100
【0090】
(広角X線回折の測定条件)
測定機器:「RINT-RAPID」、Rigaku社製
スキャンスピード:4°/min
測定角度:5~35°
管電圧:40kV
管電流:30mA
【0091】
図4は、剪断に用いたスプリングの荷重と、得られたα化澱粉の結晶化度との関係をプロットしたものである。なお、図4において、荷重が「0」である結果は、スプリングを用いずに剪断を行った結果である。
【0092】
図4の荷重「136N」の結果のとおり、結晶化度は約10%だった。
したがって、荷重「136N」のスプリングを用いた場合、上記のとおり、(要件1A)、(要件1B)、及び(要件2A)だけではなく、(要件1C)及び(要件2B)をも満たすα化澱粉が得られた。
また、荷重「60N」以上のスプリングを用いた場合、(要件1C)及び(要件2B)を満たすα化澱粉が得られやすかった。
【0093】
また、図4に示されるとおり、荷重「200N」、「220N」、「250N」、及び「290N」において、結晶化度は、それぞれ、約2%、約1.2%、約1.5%、及び約1.5%であり、いずれも、(要件1C)及び(要件2B)を満たしていた。
【0094】
これに対し、荷重「50N」以下のスプリングを用いた場合、(要件1C)及び(要件2B)を満たさないだけではなく、非晶化が充分ではないことから、諸性能が劣るα化澱粉が得られた。
なお、図示していないが、これらのα化澱粉は、結晶化度が12%超であるα化澱粉(非晶性が低いα化澱粉)であるか、又は、結晶化度が1%未満であるα化澱粉(非晶性が過剰であるα化澱粉)であった。また、結晶化度が1%未満であるα化澱粉を得る際には、非常に強い剪断負荷やエネルギーを要したが、結晶化度が1%以上であるα化澱粉とテクスチャー等はほぼ変わらなかった。
【0095】
このように、剪断の際に、剛性部材の対向面側からの力によって剛性部材同士の隙間間隔が可変させるかどうかや、その程度に応じて、得られるα化澱粉の結晶化度が全く異なることは意外な知見である。
【0096】
(3-3)損失弾性率の測定
以下の条件でα化澱粉のゲル化を行い、損失弾性率を測定した。
【0097】
(3-3-1)米ゲルの作製
各α化澱粉のドライベース重量の3倍量の水を加え、以下の条件で高速せん断攪拌によってゲル化を行った。
得られた各サンプル(米ゲル)は、空気と接触しないようポリエチレン製の袋に密封し、冷蔵保存(4℃~10℃)した。冷蔵保存は3日間にわたって行い、0日目、1日目、2日目、及び3日目の各時点で米ゲルの採取を行い、後述する方法で損失弾性率を測定した。
[高速せん断攪拌の条件]
装置:「ロボクープR-5plus」(FMI社)
撹拌条件:回転数1500rpm、攪拌時間3分
【0098】
(3-3-2)動的粘弾性の測定
以下の条件で、0.01%~100%における損失弾性率「G”」の測定を行った。
なお、測定中の米ゲルの乾燥を防ぐため、各測定前にサンプル側面に四隣オイルを塗布した。また、測定前に測定温度(測定開始温度)で5分間保持し、温度を平衡化した。
[測定条件]
装置:「MCR301」(Anton Paar社)
治具:25mmパラレルプレート
条件:ひずみ0.01~100%、周波数1Hz、温度25℃
【0099】
図5は、得られた各α化澱粉について、損失弾性率と剪断ひずみとの関係を示した図である。
図5に示されるとおり、136~220Nのスプリングを用いた剪断によって得られたα化澱粉は、いずれも、ゲル化後の損失弾性率が、時間経過とともに上昇した。
これらのα化澱粉は、ゲル化試験における損失弾性率が、剪断ひずみ10-4以上100以下の範囲において、1日経過後~3日経過後にかけて上昇した。
したがって、136~220Nのスプリングを用いて剪断を行った場合、(要件2C)を満たすα化澱粉が得られた。
【0100】
これに対し、スプリングを用いない剪断によって得られたα化澱粉(特許文献1の製造装置を使って得られるα化澱粉に相当する。)、及び100Nのスプリングを用いた剪断によって得られたα化澱粉は、ゲル化後の損失弾性率が、経時的に低下した。
【0101】
このように、剪断の際に、剛性部材の対向面側からの力によって剛性部材同士の隙間間隔が可変させるかどうかによって、α化澱粉の損失弾性率の動態が全く異なることは意外な知見である。
【0102】
(3-4)経時的粘度プロファイルの解析
以下の条件で経時的糊化粘度挙動を解析し、経時的粘度プロファイルを取得した。
α化澱粉(3.5g)に水25gを加え、サンプルを作製した。
次いで、「MCR301」(Anton Paar社)を用い、各サンプルに対し、1400秒にわたって温度変化を与えた。
温度プログラムは以下のように設定した。まず、35℃で温度を平衡化したのち、毎分10℃ずつ昇温させて95℃にし、6分間温度を保持し、最後に35℃になるまで毎分10℃ずつ降下させた。なお、パドル回転数は160rpmに設定した。
【0103】
図6は、得られた経時的粘度プロファイルを示す。
図6に示されるとおり、スプリングを用いて剪断を行った場合、経時的粘度プロファイルの第1ピーク(約400sec)が、初期値(0sec)よりも遥かに大きかった(2倍以上)。また、第1ピーク(約400sec)以降も、初期値よりも常に高い値を示した。
【0104】
これに対し、スプリングを用いないで剪断を行った場合、経時的粘度プロファイルの第1ピークと、初期値との間には、2.0倍未満の差しか認められなかった。さらに、第1ピーク(約400sec)以降に、初期値の値よりも低い値が認められた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6