(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011347
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】鉄イオン溶出体
(51)【国際特許分類】
G03G 9/113 20060101AFI20250117BHJP
G03G 9/09 20060101ALI20250117BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20250117BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250117BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250117BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20250117BHJP
【FI】
G03G9/113 351
G03G9/113 361
G03G9/09
G03G9/08 391
B22F1/00 S
B22F3/00 A
B22F1/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113375
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋平
【テーマコード(参考)】
2H500
4K018
【Fターム(参考)】
2H500AA06
2H500AA15
2H500AB04
2H500AB05
2H500BA30
2H500BA32
2H500CB01
2H500CB14
2H500EA42A
2H500EA42C
2H500EA42F
2H500EA52E
2H500EA53E
2H500EA62E
2H500FA04
4K018BB04
4K018BC30
4K018BD10
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】本開示は、鉄イオンを十分に水中に分散させ、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる鉄イオン溶出体を提供する。
【解決手段】本開示に係る鉄イオン溶出体は、金属鉄を含むキャリアコアと、前記キャリアコアの表面の一部に付着するトナーと、を備える現像剤と、前記現像剤を被覆する炭素材料と、を備え、前記現像剤と前記炭素材料とを押圧して成型される成型体であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鉄を含むキャリアコアと、前記キャリアコアの表面の一部に付着するトナーと、を備える現像剤と、
前記現像剤を被覆する炭素材料と、
を備え、
前記現像剤と前記炭素材料とを押圧して成型される成型体であることを特徴とする鉄イオン溶出体。
【請求項2】
前記現像剤は、前記キャリアコアと前記トナーの一部を覆うキャリアコート剤をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項3】
前記現像剤は、前記キャリアコアと前記キャリアコアの一部を覆うキャリアコート剤を含むキャリアをさらに備え、
前記キャリアの粒子径は、D50で20~100μm、かつ、(D90-D10)/D50が0.5~2.0であることを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項4】
前記トナーは、前記現像剤中に3~10wt%含まれることを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項5】
前記現像剤と、前記炭素材料との比は、3:7~9:1であることを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項6】
前記キャリアコート剤は、カーボンブラックを含むことを特徴とする請求項2に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項7】
前記トナーは、カーボンブラックを含み、
前記トナー中に含まれるカーボンブラックは、前記現像剤中に5~10wt%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項8】
前記キャリアコート剤が前記キャリアコアを覆う被覆率は、30~90%であることを特徴とする請求項2に記載の鉄イオン溶出体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄イオン溶出体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶出体が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、鉄粉とコークス粉(炭素)を混ぜて焼結させた鉄イオン溶出体が開示されている。鉄イオン溶出体は、鉄から炭素へ電子が移動して鉄が二価のイオンとなることで水中に鉄イオンが放出され、富栄養化の原因であるリンや硝酸と結合し、水質浄化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に係る鉄イオン溶出体は、鉄粉を使用しており、鉄粉は粒子径が大きく鉄と炭素の接する面積が少なく、十分に分散できない状態となるため、水中に多量に添加しないと水質浄化が得られず、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができないという課題があった。
【0006】
そこで、本開示は上記問題に鑑み、鉄イオンを十分に水中に分散させ、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる鉄イオン溶出体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る鉄イオン溶出体は、金属鉄を含むキャリアコアと、前記キャリアコアの表面の一部に付着するトナーと、を備える現像剤と、前記現像剤を被覆する炭素材料と、を備え、前記現像剤と前記炭素材料とを押圧して成型される成型体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本開示によれば、鉄イオンを十分に水中に分散させ、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる鉄イオン溶出体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示に係る鉄イオン溶出体の断面図である。
【
図2】
図2は、本開示に係る鉄イオン溶出体が備える現像剤の断面図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る鉄イオン溶出体が備えるキャリアの断面図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る鉄イオン溶出体をペレット状にした様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本開示に係る鉄イオン溶出体100の断面図である。
図1に示すように、本開示に係る鉄イオン溶出体100は、現像剤10と、炭素材料20と、を備える。本開示に係る鉄イオン溶出体100は、現像剤10と炭素材料20とを押圧して成型される成型体である。鉄イオン溶出体100は、成型体であり、焼結体ではない。本開示に係る鉄イオン溶出体100は、熱を加えないで、押圧して成型される成型体である。
【0012】
以下に現像剤10と、炭素材料20と説明する。
【0013】
図1に示すように、炭素材料20は、現像剤10を被覆する。なお、炭素材料20は、現像剤10の表面の全てを被覆してもよい。炭素材料20は、現像剤10と接触していることにより、局部電池が生成され、鉄イオンが溶出する。
【0014】
また、炭素材料20は、現像剤10を押圧して成型される成型体にするためのバインダーとしても用いられる。炭素材料20は、例えば、コークス、木炭、石炭紛、黒鉛、コールタールピッチ、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、黒鉛、多孔質炭素材料等が使用可能である。これらは単独もしくは2種以上混合されていても使用できる。炭素材料の形状や粒径は問わないが、キャリアコアとの接触点を多くするために粉粒体が好ましく、キャリアよりも小さい粒径が好ましい。中でも粒径が小さい程表面積が増え、キャリアコアとの接触点が増えるため、500μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0015】
図2は、本開示に係る鉄イオン溶出体100が備える現像剤10の断面図である。現像剤10は、
図2に示すように、金属鉄を含むキャリアコア11と、キャリアコア11の表面の一部に付着するトナー12と、を備える。トナー12も鉄イオン溶出体100のバインダーとして機能する。
【0016】
現像剤10は、プリンター等により印刷するために用いられるものであり、使用前、又は使用後のものでもよい。
【0017】
鉄イオン溶出体100は、金属鉄を含むキャリアコア11を備えるため、水中内にて接触するキャリアコア11と炭素材料20とが反応して二価の鉄イオンを発生させることができる。
【0018】
また、現像剤10は、粒径が100μm以下と小さく、表面積が大きい。また、キャリアコア11が含む鉄と、炭素材料20や、トナー12が含む炭素との接触点が多い。よって、現像剤10を備える鉄イオン溶出体100は、鉄イオンを十分に水中に分散させ、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる。さらに、本開示に係る鉄イオン溶出体100は、焼結する必要がないため、製造に係る環境負荷も低減することができる。
【0019】
以下に現像剤10が備えるキャリアコア11とトナー12について詳述する。
【0020】
キャリアコア11は、金属鉄を含む。金属鉄は、フェライト等の酸化鉄ではなく、酸化鉄と区別される。キャリアコア11の形状は、不定形から球形まで用いることができる。キャリアコア11の平均粒子径は、10μm以上150μm以下のものを用いることができ、さらに好ましくは、30μm以上100μm以下である。鉄粒子は、公知のものを用いることができ、還元鉄粒子、アトマイズ鉄粒子およびチッ化鉄粒子などを挙げることができる。還元鉄粒子およびチッ化鉄粒子は、不定形であるので、球形化処理を行ってもよい。
【0021】
トナー12は、キャリアコア11やキャリアコート剤13の表面の一部に付着し接続している。また、トナー12は、現像剤10中に3~10wt%含まれることが好ましく、5~9wt%含まれることがより好ましい。この濃度範囲とすることで、トナー12が鉄イオン溶出体100のバインダーとして機能し、水の中に入れても崩れにくくなる。
【0022】
キャリアコート剤13は、炭素を含み、カーボンブラックを含むことが好ましい。また、キャリアコート剤13中に含まれるカーボンブラックは、キャリアコート剤13に5~10wt%含むことが好ましい。このようにすれば、鉄イオンが発生した際に発生する電子をコート剤に含まれる炭素によってカーボンブラックによってコート剤が導電剤の働きをすることにより、キャリアコート剤13の炭素にも電子を溜めることができる。また、トナー12は、バインダーにもなっているため、トナー12やキャリアコート剤13に炭素が含まれることで鉄イオン溶出体100の全体に電子を導電することが可能となり、水中に投入した際に沈降すし、溜まっている電子を地中へ放出することが可能となる。電子を溜めることができても鉄イオン溶出体100の系外へ放出する手段が無いと滞留してしまうため、より長期的に鉄イオンを溶出することが可能である。
【0023】
このように、キャリアコア11は金属鉄を含み、炭素材料20や、キャリアコート剤13、トナー12は炭素を含むので、水に入れることで鉄と炭素の電気陰性度(Fe:1.8、C:2.5)の差によって、局部的に電池反応が生成し、鉄電子が炭素に移動して二価の鉄イオンが生成する。つまり、本開示に係る鉄イオン溶出体は、金属鉄を含むキャリアコアの他にトナーも備えるので、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる。
【0024】
トナー12は、トナー母粒子と外添剤とを備える。
【0025】
トナー母粒子は、結着樹脂、着色剤、離型剤を含む。その他、必要に応じて、帯電制御剤、ワックス分散剤、粉砕助剤等を含んでも良い。トナー母粒子の体積平均粒径は、特に制限はないが、目的に応じて適宜選択することができる。4~8μmが好ましい。トナー母粒子の粒径分布は、特に制限ないが、目的に応じて適宜選択することができ、3μm以下の粒子が40個数%以下が好ましい。トナー母粒子の円形度は、特に制限ないが、目的に応じて適宜選択することができ、0.92以上0.97以下が好ましい。トナー母粒子のガラス転移点(Tg)が60℃以下が好ましい。
【0026】
結着樹脂は、当該技術分野で常用される樹脂を用いることができる。複数の樹脂を組み合わせて使用してもよい。結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、40℃以上70℃未満が好ましい。
【0027】
着色剤は、炭素系の着色材料を用いることができる。例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、黒鉛、多孔質炭素材料等が挙げられる。樹脂100重量部に対して、5~10重量部が好ましく、7~10重量部がより好ましい。
【0028】
離型剤は、当該技術分野で常用される離型剤を用いることができる。複数の離型剤を組み合わせて使用してもよい。離型剤の融点は、70℃以上150℃未満が好ましい。離型剤の配合量は、目的に応じて適宜選択することができる。樹脂100重量部に対して、0.5~5.0重量部が好ましく、2.0~5.0重量%が好ましい。
【0029】
帯電制御剤は、当該技術分野で常用される帯電制御剤を用いることができる。帯電制御剤の配合量は、目的に応じて適宜選択することができる。樹脂100重量部に対して、0.5~3重量部が好ましい。重量%換算で、0.5~2.0重量%が好ましい。
【0030】
ワックス分散剤は、当該技術分野で常用されるワックス分散剤を用いることができる。
【0031】
粉砕助剤は、当該技術分野で常用されるワックス分散剤を用いることができる。
【0032】
外添剤は、当該技術分野で常用される外添剤を用いることができる。
【0033】
図3は、本開示に係る鉄イオン溶出体100が備えるキャリア14の断面図である。
図3に示すように、キャリア14は、キャリアコア11とキャリアコア11の一部を覆うキャリアコート剤13を含む。
【0034】
現像剤10が備えるキャリア14の粒子径は、D50で20~100μm、かつ、(D90-D10)/D50が0.5~2.0であることが好ましく、0.8~1.3がより好ましい。現像剤10の粒度分布がシャープであり、粒度分布が揃っている。このようにすれば、キャリアコア11の金属鉄と炭素材料20やトナー12の炭素で局部電池を形成するための接触点数が増加し、鉄イオン溶出の効率が上がる。また、混合性が良くなることで炭素材料20を混ぜるときに均一に混ぜることができる。一方で、粒子径が大きいと金属鉄と炭素の接触点が減り、粒子径が小さいと嵩比重の低下によって炭素材料20との混合性が悪化し、鉄の溶出によって鉄イオン溶出体100内に空隙が発生し崩れやすくなると考えられる。
【0035】
現像剤10と、炭素材料20との比は、3:7~9:1であることが好ましく、7:3~9:1が好ましい。このようにすれば、現像剤10のキャリアコア11に含まれる金属鉄と、炭素材料20の接触点を多くすることができ、鉄イオン溶出の効率が上がる。
【0036】
現像剤10は、キャリアコア11とトナー12の一部を覆うキャリアコート剤13をさらに備えることが好ましい。水と金属鉄が接している場所において、キャリアコート剤13で一部を被覆することによって、鉄イオン溶出体100が腐食するのを防ぐことができる。さらに鉄イオンの溶出によってキャリアコア11が小さくなっていくが、キャリアコート剤13によって形が維持でき、長期的に水中に入れていても崩れにくくなる。
【0037】
キャリアコート剤13は、炭素を含み、カーボンブラックを含むことが好ましい。鉄イオンが発生した際に発生する電子をキャリアコート剤13に含まれる炭素やカーボンブラックによってキャリアコート剤13が導電剤の働きをすることにより、キャリアコート剤13中の炭素にも電子を溜めることができる。鉄と炭素の接触点付近に電子が滞留すると鉄イオンの溶出を妨げる場合がある。よって、このようにすれば、より長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる。
【0038】
また、キャリアコート剤13は、キャリア14中に0.5~5.0wt%含まれることが好ましい。より好ましくは、0.5~3.0wt%含まれることが好ましい。このようにすれば、キャリアコート剤13中の炭素に適度に電子を溜めることができ、より長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる。
【0039】
キャリアコート剤13がキャリアコア11を覆う被覆率は、30~90%であることが好ましい。より好ましくは60~80%が好ましい。このようにすれば、キャリアコート剤13がある程度にキャリアコア11から剥がれて、キャリアコア11の金属鉄が露出することができ、炭素材料20とキャリアコア11の接触性が良くなり、鉄イオンの溶出効率が向上する。なお、キャリアコート剤13を備える現像剤10は、プリンター等により印刷して使用することで、キャリアコート剤13がキャリアコア11を覆う被覆率は、低下する。
【0040】
現像剤10は、使用前、又は使用後のものでもよい旨を上述したが、被覆率が低下する使用後(被覆率90%以下)のものが好ましい。このようにすれば、現像剤10はプリンター等に使用され、使用後の現像剤10を再利用して鉄イオン溶出体に用いられれば、環境負荷の低減につながる。
【0041】
図4は、本開示に係る鉄イオン溶出体をペレット状にした様子を示す図である。本開示に係る鉄イオン溶出体100は、
図4に示すようなペレット状の成型体としてもよい。
【0042】
本開示に係る鉄イオン溶出体100による作用を説明する。
【0043】
まず、本開示に係る鉄イオン溶出体100は、水中に沈められ、鉄イオンが溶出する。
【0044】
そして、鉄イオンが周囲の物質と反応する。例えば、ヘドロ等から出る悪臭である硫化水素(H2S)、富栄養化な洗剤、農薬、肥料等のリン酸と、鉄イオンとが反応する。そうすることで、悪臭である硫化水素(H2S)、富栄養化なリン酸を水中から除去できる。そして、硫化鉄やリン酸鉄となって沈殿する。
【0045】
このように、本開示に係る鉄イオン溶出体100は、アオコや赤潮の原因となる富栄養化やヘドロ等の悪臭を防ぐことができ、水質が浄化・改善することができる。さらに鉄分を水中の植物Pが吸収することで光合成を活性化し、水中の酸素濃度が向上し、環境改善をすることができる。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例等により本開示に係る鉄イオン溶出体を具体的に説明するが、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(キャリアコアの製造)
シリコーン樹脂(信越化学工業社製:KR-255)を用い、カーボンブラック(ライオン社製:ケッチェンブラックEC)を5.0重量%となるように加え、それらをトルエンに分散させ、分散液とした。粒子径60μmの鉄粒子に流動床型コーティング装置を用いて得られた分散液を塗布し、250℃で2時間加熱して、塗布したコート樹脂を硬化させることによって、キャリアコート剤で一部を被覆したキャリアコアを得た。
【0048】
(トナーの製造)
次に、結着樹脂(ポリエステル樹脂 89質量%)、着色剤(カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、製品名:MA-77) 8質量%)、離型剤(パラフィン系ワックス(融点90℃、日本精蝋株式会社、製悲鳴:フィッシャートロプシュワックスFNP0090) 2質量%)、帯電制御剤(カリウム塩(ビス[ベンジラト(2-)-κ(2)O,O]ホウ酸(1-)カリウム、水への溶解度4.382g/L(20℃)、日本カーリット株式会社、製品名:イオン導電材LR-147) 1質量%)の原料を、高性能流動式混合機(ヘンシェルミキサ、全容量:20L、三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)製、型式:FM20C)を用いて、回転数1500rpmで5分間、前混合した。
【0049】
得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製、型式:PCM-30)を用いて、シリンダ設定温度100℃、バレル回転数250rpm、原料供給速度10kg/時間の条件で溶融混練して溶融混練物を得た。
【0050】
得られた溶融混練物を冷却ベルトで冷却固化させた後、固化物を流動層式対向型ジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製、型式:カウンタージェットミルAFG)を用いて微粉砕し、ロータリー(遠心力型気流)式分級機(ホソカワミクロン株式会社製、型式:TSPセパレータ)を用いて分級(粒度調整)することにより、体積平均粒子径5.0μm~7.0μmのトナー粒子(トナーコア)を得た。
【0051】
得られたトナー粒子1000gに、外添剤として市販のシリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名:R976s)10gと、シリカドープチタン酸ストロンチウム(チタン酸ストロンチウム及びシリカを含む組成物の表面をシラン化合物で疎水化した微粉体、平均一次粒子径20μm)3gとを添加し、高性能流動式混合機(ヘンシェルミキサ、全容量:20L、三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)製、型式:FM20C)を用いて、回転数3500rpmで3分間混合して、トナー1kgを得た。
【0052】
(現像剤の製造)
上記の製造方法によって得られたトナーと、キャリアコアを、トナー濃度7.0%(トナー/キャリア=1/13.3)となる様に計量し、V型混合機(株式会社 徳寿工作所製、型式:V-5)で20分間攪拌混合することにより、二成分の現像剤を得た。
【0053】
上記の二成分の現像剤を市販の複写機の現像ユニットに充填し、A4伴の記録用紙上に印字率が5%の原稿を100000枚印刷し、その後現像槽から二成分現像剤を取り出し、キャリアコート剤の被覆率を測定したところ、キャリアコート剤がキャリアコアを覆う被覆率は、70%だった。
【0054】
現像剤の平均粒子径は、D50で60μm、(D90-D10)/D50が1.3、トナー濃度7wt%、トナー中のカーボンブラックが8wt%であった。
【0055】
(鉄イオン溶出体の製造方法)
鉄イオン溶出体の製造方法としては、上記の印刷後の二成分の現像剤と炭素材料(カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、製品名:MA-77))を3:1となるように計量(二成分現像剤7.5g、炭素材料2.5g)し、広口びん等(今回は アズワン株式会社製、アイボーイ PP広口びん 50mL)に入れ、両軸駆動ポリ瓶回転台(株式会社 タナカテック 型式:RPB-3S)で混合を行った。混合したサンプルを(NPaシステム株式会社製 50kN テーブルプレス TB-50H)で直径25φ(φ25超硬ダイス、30MPa、1分間)の円柱状のペレットに成型した。
【0056】
このようにして、実施例1の鉄イオン溶出体を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、現像剤の平均粒子径をD50で17μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、現像剤の平均粒子径をD50で20μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0059】
(実施例4)
実施例4では、現像剤の平均粒子径をD50で100μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0060】
(実施例5)
実施例5では、現像剤の平均粒子径をD50で105μmとし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0061】
(実施例6)
実施例6では、現像剤の平均粒子径をD50で55μm、(D90-D10)/D50を0.4とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0062】
(実施例7)
実施例7では、現像剤の平均粒子径をD50で56μm、(D90-D10)/D50を0.5とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0063】
(実施例8)
実施例8では、現像剤の平均粒子径をD50で62μm、(D90-D10)/D50を2.0とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0064】
(実施例9)
実施例9では、現像剤の平均粒子径をD50で64μm、(D90-D10)/D50を2.1とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0065】
(実施例10)
実施例10では、現像剤の平均粒子径をD50で59μm、(D90-D10)/D50を1.4とし、キャリアコート剤を無添加とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0066】
(実施例11)
実施例11では、現像剤の平均粒子径をD50で58μm、キャリアコート剤の被覆率を28%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0067】
(実施例12)
実施例12では、現像剤の平均粒子径をD50で58μm、キャリアコート剤の被覆率を30%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0068】
(実施例13)
実施例13では、キャリアコート剤の被覆率を90%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0069】
(実施例14)
実施例14では、キャリアコート剤の被覆率を93%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0070】
(実施例15)
実施例15では、キャリアコート剤中のカーボンブラックを無とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0071】
(実施例16)
実施例16では、現像剤中におけるトナー濃度を2.8wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0072】
(実施例17)
実施例17では、現像剤中におけるトナー濃度を3.0wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0073】
(実施例18)
実施例18では、現像剤中におけるトナー濃度を10.0wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0074】
(実施例19)
実施例19では、現像剤中におけるトナー濃度を10.5wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0075】
(実施例20)
実施例20では、トナー中のカーボンブラックの濃度を4.8wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0076】
(実施例21)
実施例21では、トナー中のカーボンブラックの濃度を5.0wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0077】
(実施例22)
実施例22では、トナー中のカーボンブラックの濃度を10.0wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0078】
(実施例23)
実施例23では、トナー中のカーボンブラックの濃度を10.2wt%とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0079】
(実施例24)
実施例24では、現像剤と炭素材料との比を1.0:4.0とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0080】
(実施例25)
実施例25では、現像剤と炭素材料との比を3.0:7.0とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0081】
(実施例26)
実施例26では、現像剤と炭素材料との比を9.0:1.0とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0082】
(実施例27)
実施例27では、現像剤と炭素材料との比を9.5:0.5とし、それ以外は実施例1と同じ条件で実施例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0083】
(比較例1)
比較例1では、押圧して成型される成型体ではなく、熱を加えた焼結体であるフェライトを用い、比較例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0084】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様に現像剤を製造し、炭素材料と混合させるのみで、プレス成型しない(成型体でない)比較例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0085】
(比較例3)
比較例3では、炭素材料を無添加とし、それ以外は実施例1と同じ条件で比較例に係る鉄イオン溶出体を得た。
【0086】
なお、粒子径、(D90-D10)/D50について、平均粒子径D50および、D90,D10は、マイクロトラック粒度分析計(日機装社製)を用いて測定した。
【0087】
キャリアコート剤の量は、熱量計測定装置(TGA)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で室温から800℃まで昇温したときに質量減少が発生するかで確認を行った。現像剤中のトナーとの分離は、TREK JAPAN社製、型式:model 210HS-2Aを用いて、確認を行った。0.2gの現像剤を取って台にのせ、ステンレスメッシュ(#795)をかぶせた。次にメッシュの上に吸引ノズルをあてて、現像剤中のトナーを吸引して分離した。
【0088】
キャリアコート剤がキャリアコアを覆う被覆率は、以下の方法で算出した。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、キャリアコート剤を備える現像剤の表面に金等の導電剤を蒸着しないまま、加速電圧2.0kVの電子線で観察する。キャリアコア(金属鉄)は白く観察されるため、それ以外の部分の領域の現像剤の全面積に対する割合を計算する。これをキャリアの粒子100個について行い、得られた値の平均値をコート被覆率とした。
【0089】
キャリアコート剤中のカーボンブラックの有無は、熱量計測定装置(TGA)を用いて行った。試料を窒素雰囲気下で40℃~600℃まで20℃/minで加熱後、5分保持する。ここでCB(カーボンブラック)以外の有機物が分解される。その後400℃まで20℃/minで冷却し、雰囲気を窒素から空気に換えて5分保持した後、800℃まで20℃/minで昇温し、30分保持する。窒素雰囲気下から空気雰囲気下に換えた後に重量減少率があれば炭素材料(カーボンブラック)が含有されている。
【0090】
現像剤中のトナー濃度は、TREK JAPAN社製、型式:model 210HS-2Aを用いて、確認を行った。0.2gの現像剤を取って台にのせ、ステンレスメッシュ(#795)をかぶせる。次にメッシュの上に吸引ノズルをあてて、現像剤中のトナーを吸引する。その後台に残った現像剤の重量を測定し、トナー濃度を測定した。
【0091】
トナー中のカーボンブラック濃度は、現像剤中トナー濃度測定時に吸引したトナーをTGAで測定を行い、算出した。試料を窒素雰囲気下で40℃~600℃まで20℃/minで加熱後、5分保持する。ここでCB(カーボンブラック)以外の有機物が分解される。その後400℃まで20℃/minで冷却し、雰囲気を窒素から空気に換えて5分保持した後、800℃まで20℃/minで昇温し、30分保持する。窒素雰囲気下から空気雰囲気下に換えた後の重量減少率をカーボンブラック量とした。
【0092】
現像剤の粒径及び鉄イオン溶出体の組成を以下の表に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
以上の実施例及び比較例に係る鉄イオン溶出体を水中に含侵させ、3日後と10日後における水中のFe2+濃度を測定した。なお、Fe2+濃度の測定は、下記の通りである。作成した鉄イオン溶出体の重量に対して、20倍量の蒸留水をガラス製のサンプル瓶に入れ(サンプルが5gの場合100gの蒸留水)、3日放置後と10日放置後、水中の上澄み液をパックテスト(株式会社共立理化学研究所)によって2価鉄イオン濃度を測定した。
【0096】
また、以上の実施例及び比較例に係る鉄イオン溶出体を水中に含侵させた後の成型体の外観を、含侵直後と10日後で観察した。なお、外観の観察の評価は下記の通りである。
◎:成型したそのままの形で存在(非常に優れている)
〇:一部分が崩れている(優れている)
△:崩れているが、かろうじて成型体を留めている(やや優れている)
×:成型時の形を留めていない(ほぼ粉状になっている)(優れていない)
【0097】
以上の評価結果を以下の表に示す。
【0098】
【0099】
全ての実施例では、3日後及び10日後においてもFe2+濃度が0.1ppm以上であり、鉄イオンを溶出させ、十分に水中に分散させることができた。中でもキャリアコート剤がキャリアコアを覆う被覆率が低い鉄イオン溶出体においては、Fe2+を多く溶出する傾向にあり、優れた結果を示した。また、粒子径が小さい鉄イオン溶出体、トナー濃度が低い鉄イオン溶出体、現像剤の比が高い鉄イオン溶出体においてもFe2+を多く溶出する傾向にあり、優れた結果を示した。
【0100】
また、全ての実施例では、外観においては、含侵直後と10日後においても成型時の形を留めており、優れた結果を示した。中でもキャリアコート剤がキャリアコアを覆う被覆率が高い鉄イオン溶出体は、成型したそのままの形で存在するなど優れた結果を示した。また、トナー濃度が高い鉄イオン溶出体、トナー中のカーボンブラックの濃度が低い鉄イオン溶出体、炭素材料の比が高い鉄イオン溶出体においても優れた結果を示した。
【0101】
一方で、フェライトを用いた比較例1、成型しない比較例2、炭素材料を添加しない比較例3においては、Fe2+の溶出が極めて少なく、悪い結果となった。また、比較例1を除いて、含侵後の外観の結果も悪い結果となった。
【0102】
以上より、本開示に係る鉄イオン溶出体によれば、鉄イオンを十分に水中に分散させ、長期的に安定した量の鉄イオンを溶出することができる。
【0103】
なお、上記のように本開示の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本開示の範囲に含まれるものとする。
【0104】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、鉄イオン溶出体の構成、動作も本開示の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。