(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011368
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】骨手術用ドリル
(51)【国際特許分類】
A61B 17/16 20060101AFI20250117BHJP
B26F 1/16 20060101ALI20250117BHJP
A61C 1/08 20060101ALI20250117BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61B17/16
B26F1/16
A61C1/08 Z
A61C8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113426
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】592033998
【氏名又は名称】株式会社デンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】中谷 彩織
【テーマコード(参考)】
3C060
4C052
4C159
4C160
【Fターム(参考)】
3C060AA20
3C060BA05
3C060BB19
4C052AA06
4C052DD02
4C159AA54
4C160LL07
4C160LL22
(57)【要約】
【課題】骨手術の際に、手術を行いやすくすることができ、また、骨手術の精度を上げることができる骨手術用ドリルを提供することを課題とする。
【解決手段】基部と刃部とを備える、ヒト又はその他の動物用の骨手術用ドリルであって、
前記刃部は、3~6個の切刃を有する切刃部と、先端刃を有する先端部とを備えており、
前記先端刃の先端角の角度が90°未満であり、そして
前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において、らせん状に配置されている前記骨手術用ドリルにより、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と刃部とを備える、ヒト又はその他の動物用の骨手術用ドリルであって、
前記刃部は、3~6個の切刃を有する切刃部と、先端刃を有する先端部とを備えており、
前記先端刃の先端角の角度が90°未満であり、そして
前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において、らせん状に配置されている前記骨手術用ドリル。
【請求項2】
前記先端刃の先端角の角度が、20°~60°である、請求項1に記載の骨手術用ドリル。
【請求項3】
切刃の数が3である、請求項1又は2に記載の骨手術用ドリル。
【請求項4】
先端刃が、先端刃の外周面において、3個の先端面と3個の接触刃とを備える、請求項3に記載の骨手術用ドリル。
【請求項5】
前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において回転軸対称に配置されており、そして、
前記3~6個の切刃の各々と先端刃とが、接続している、請求項1又は2に記載の骨手術用ドリル。
【請求項6】
人工歯根をヒトの顎骨に埋入するための埋入部位を形成するために用いられる、請求項1又は2に記載の骨手術用ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨手術用ドリルに関する。本発明によれば、骨手術の際に、これまで必要とされていた工程の数を減少させるなど、手術を行いやすくすることができる。また、骨手術の精度を上げることができる。
【背景技術】
【0002】
ヒト及びその他の動物において、骨の切削及び骨の穿孔の形状修正などの骨手術にボーンドリルが使用されている(特許文献1)。ボーンドリルは、ハンドピースに装着するための基部と、骨の切削又は穿孔等を行うための刃を有する刃部とから成る。カッターを回転させることにより、刃部の刃が骨を切削又は穿孔する。
骨手術の中でも、人工歯根をヒトの顎骨に埋入するための埋入部位を形成する手術のドリルステップの一般的な手順では、まずラウンドバーと呼ばれる先端が丸いドリルを用いて、浅い凹みを顎骨に形成する。そして、その凹みを起点として、次にボーンドリルを用いて人工歯根の埋入部位を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特に骨に穿孔を行う場合、径又は先端の形状が異なる複数のドリルを用いて、削孔する孔の径を徐々に広げてゆく必要がある。このような手順では、ドリルを取り替える工程など、必要な工程が多く存在していた。また、ラウンドバーを用いることにより、凹みの径が大きくなりすぎ、中心部分が分かりにくくなることがあった。また、ラウンドバーを使用しても、埋入部位を形成する部位が斜面になっているときに、ドリルが滑ることにより、想定していた埋入位置及び埋入角度からずれてしまうこともあった。
したがって、本発明の目的は、上記のような骨手術中の問題点を解決する事、具体的には、骨手術の際に、手術を行いやすくする事(例えば、必要な工程の数を減少させること)、及び骨手術の精度を上げることが可能なドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、骨手術用ドリルについて、鋭意研究した。その結果、3~6個の切刃と、先端刃とを有し、先端刃の先端角の角度が90°未満であり、そして前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において、らせん状に配置されている骨手術用ドリルにより、このような課題が解決できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]基部と刃部とを備える、ヒト又はその他の動物用の骨手術用ドリルであって、
前記刃部は、3~6個の切刃を有する切刃部と、先端刃を有する先端部とを備えており、
前記先端刃の先端角の角度が90°未満であり、そして
前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において、らせん状に配置されている前記骨手術用ドリル、
[2]前記先端刃の先端角の角度が、20°~60°である、[1]に記載の骨手術用ドリル、
[3]切刃の数が3である、[1]又は[2]に記載の骨手術用ドリル、
[4]先端刃が、先端刃の外周面において、3個の先端面と3個の接触刃とを備える、[3]に記載の骨手術用ドリル、
[5]前記3~6個の切刃の各々は、切刃部の外周面において回転軸対称に配置されており、そして、
前記3~6個の切刃の各々と先端刃とが、接続している、[1]~[4]のいずれかに記載の骨手術用ドリル、及び
[6]人工歯根をヒトの顎骨に埋入するための埋入部位を形成するために用いられる、[1]~[5]のいずれかに記載の骨手術用ドリル
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、骨手術の際に、必要な工程の数を減少させるなど、骨手術の際に、手術を行いやすくする事ができる。また、本発明によれば、骨手術の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の上面図である。
【
図2】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の斜視図の拡大図である。本発明の骨手術用ドリルの先端角が図示されている。
【
図3】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の斜視図の拡大図である。本発明の骨手術用ドリルの先端角が図示されている。
【
図4】本発明の骨手術用ドリルのらせん角を示す図である。
【
図5】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の上面図の拡大図である。本発明の骨手術用ドリルの突出部による角を示している。
【
図6】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の右側面図である。
【
図7】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の下面図である。
【
図8】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の正面図と背面図である。
【
図9】本発明の骨手術用ドリルの一実施形態の斜視図である。
【
図10】
図9に示される骨手術用ドリルの一実施形態を別の方向から見た斜視図である。
【
図11】
図10に示される骨手術用ドリルの一実施形態を別の方向から見た斜視図である。
【0008】
以下、本発明の骨手術用ドリルについて図面を用いて説明するが、当該図面及び説明は好ましい実施形態を例示するものであって、本発明の技術的思想の範囲を限定するものではない。
なお、本発明の骨手術用ドリル及びこれらを構成する各部位を説明する際に、骨手術用ドリルの長軸方向において、基部に近い側を基部側、先端刃を有する先端部に近い側を先端側と表現することがある。
なお本明細書においては、特に断らない限り、数値A及び数値Bについて「A~B」という表記は「A以上B以下」と等価であるものとする。すなわち、「A~B」という表記には、両端の数値A及び数値Bが含まれる。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0009】
本発明の骨手術用ドリル1は、基部2と刃部3を備え、前記刃部3は、3~6個の切刃6を有する切刃部4と、先端刃7を有する先端部5とを備えており、前記先端刃の先端角αの角度が90°未満であり、そして、前記3~6個の切刃6の各々は、切刃部4の外周面において、らせん状に配置されている。
【0010】
本発明の骨手術用ドリル1は、先端刃の先端角の角度が90°未満である。したがって、埋入部位を形成する部位が斜面になっている場合でも、想定していた埋入位置及び埋入角度からずれてしまうことを防止することができる。また、本発明の骨手術用ドリルは、先端刃の先端角の角度が90°未満であり、さらに3~6個の切刃を有する切刃部を有することで、手術部位に凹みを形成した後に刃を交換することなく回転して骨の切削を行うことができる。すなわち、先端刃の先端角の角度が90°未満であり、さらに3~6個の切刃を有する切刃部を有することで、骨手術中に頻繁にドリルを交換する必要がなくなる。
【0011】
本発明の骨手術用ドリルは、基部2と刃部3を備えている。基部2は、機器に取り付けるための、そして、手術者が把持するための部分である。
刃部3は、1又は複数のマーキング9を備えていてもよい。このマーキング9を備えることにより、穿孔により形成した凹みの深度の把握が容易になる。
【0012】
刃部3は、切刃6を有する切刃部4と、先端刃7を有する先端部5とを備える。切刃6の数は、3~6個、3~5個、3~4個、又は3個である。切刃6の数が3~6個であることにより、切刃の数が1~2個である場合と比較して、骨手術用ドリル1の切刃部の耐久性が改善される。また切刃6の数が奇数、すなわち3又は5個であることにより、切削又は穿孔中に振動が生じることを防止することができる。これは、切刃6同士が対角線上に存在しないためである。すなわち、切刃6の数が奇数であることにより、骨手術用ドリルの先端が切削部から滑りにくくなる。したがって、切刃6の数が奇数、すなわち3又は5個であることにより、骨手術の精度をさらに上げることができる。
切刃6の各々は、切刃部4の外周面において、らせん状に配置されている。先端刃7は、先端部5の外周面に存在する。先端刃7は、3~6個、3~5個、3~4個、又は3個の先端面10が、先端部5の先端側で互いに接続する構造を有する。切刃6の各々は、切刃部4において、先端刃7と接続、詳細には、先端面10の各々と接続していてもよい。切刃6の数は、好ましくは、先端面10の数と同じである。
らせん状の切刃6の各々は、刃部3の基部側を起点として、先端側に向かって配置されている。らせん状の切刃6の終点の各々は、骨手術用ドリルの長軸方向において、先端刃7と重複し(
図1における参照番号4及び5が示す破線の矢印参照)、好ましくは、らせん状の切刃6の各々と先端刃とが、接続している。好ましくは、先端刃7が切刃6の各々に接続している部分の各々は、先端刃7から切刃6の各々にかけて骨手術用ドリル1の中心軸13に近づく方向に曲折している。
【0013】
切刃6のらせん角βの角度の各々は、例えば、5°~60°、10°~45°、10°~30°、又は15°~30°である。切刃6のらせん角βの角度は、らせん状に配置されている切刃6と、骨手術用ドリルの長軸方向に平行な直線とが形成している角である。切刃6のらせん角βの角度が、5°~60°であることにより、骨の切削又は穿孔の操作が容易になる。3~6個の切刃6のらせん角βの角度の各々は、同じでもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0014】
らせん状の切刃6の各々には、突出部8が配置されている。突出部8が配置されていることにより、骨手術用ドリルの方向修正が可能となる。「骨手術用ドリルの方向修正」とは、骨手術用ドリルの先端部分をそのままの位置に固定したまま、骨手術用ドリルを動かすことである。骨手術用ドリルの方向修正を行った場合、骨手術用ドリルの刃部3の軌道は、扇形となる。骨手術用ドリルの方向修正が可能である場合、穿孔角度の修正が容易となる。
突出部8は、骨手術用ドリル1の中心軸から離れるようにらせんを形成し、そして角γを形成して中心軸に近づくように配置されることが好ましい。突出部8による角γの角度は、例えば、30°~120°、45°~105°、又は45°~90°である。
突出部8が切刃6の各々の全体にわたって配置されることにより、切刃6が全体として鋸刃構造を有することが好ましい。突出部8は、らせん状の切刃6が切刃部4を一周する間に、例えば、5~20個、7~15個、又は10~13個配置されている。
らせん状の切刃6の各々は、好ましくは、中心軸を中心として回転軸対称に配置されている。
【0015】
先端部5において、先端面10同士が接触する部分は、接触刃14を形成している。先端刃7の先端角αは、2つの接触刃14が形成する角である。接触刃14が形成する線の一方又は両方が曲線である場合、先端角αを形成するための線は、先端側の頂点11と先端面10同士の接続の終点12との線となる。先端刃7は、好ましくは、3個の先端面10と3個の接触刃14とを備える。
「先端刃の先端角の角度が90°未満である」とは、接触刃14同士が形成する複数の角の角度のうちの少なくとも1つが90°未満であることを意味する。接触刃14同士が形成する複数の角の角度の全てが90°未満であることが好ましい。切刃6が3個でありそして先端面10が3個の場合、「先端刃の先端角の角度が90°未満である」とは、接触刃14同士が形成する角の組み合わせ、α1、α2、及びα3の角度のうちの少なくとも1つが90°未満であることを意味する。切刃6が3個配置されそして先端面10が3個配置されている場合、接触刃14同士が形成する角の組み合わせ、α1、α2、及びα3の角度の全てが90°未満であることが好ましい。
「先端刃の先端角の角度が90°未満である」とは、切刃6が4個配置されそして先端面10が4個配置されている場合も同様に、α1、α2、α3、α4、α5、及びα6(図示せず)の角度のうちの少なくとも1つが90°未満であることを意味する。切刃6が4個でありそして先端面10が4個配置されている場合、接触刃14同士が形成する角の組み合わせ、α1、α2、α3、α4、α5、及びα6(図示せず)の角度の全てが90°未満であることが好ましい。
複数の先端角αの角度は同じでもよく、異なっていてもよい。先端面10は、平面であってもよく、曲面でもよい。
【0016】
先端刃7の先端角αの角度は、例えば、90°未満、15°以上90°未満、20°~75°、25°~60°、又は25°~45°である。先端刃7の先端角αの角度の値が90°未満であることで、埋入部位を形成するための部位が斜面になっている場合でも、想定していた埋入位置及び埋入角度からずれてしまうことを防止することができる。
先端刃7の形状は、好ましくは三角錐形状である。先端刃7の形状は、らせん状ではない。
【0017】
本発明の骨手術用ドリル1は、太さが一定であってもよく、テーパ形状(先端側になるにつれて細くなる形状)であってもよい。
本発明の骨手術用ドリル1の基部2と刃部3とを含む全長は、以下に限定されるわけではないが、例えば、4~50mm、6~45mm、8~42mm、10~40mm、15~40mm、又は20~40mmである。
本発明の骨手術用ドリル1の刃部3の長さは、以下に限定されるわけではないが、例えば、3~40mm、5~35mm、8~30mm、10~28mm、又は15~25mmである。
本発明の骨手術用ドリル1の刃部3の直径は、以下に限定されるわけではないが、例えば、0.5~5mm、0.8~4mm、1.0~3mm、又は1.2~2.5mmである。
【0018】
図10及び11は、本発明の骨手術用ドリル1の一実施形態の構造をより明確に表した図である。
図10及び11で表される本発明の骨手術用ドリル1の一実施形態は、
図1~9で表される本発明の骨手術用ドリル1の一実施形態と同じである。
【0019】
本発明の骨手術用ドリル1は、ヒト又はその他の動物の骨手術に使用することができる。その他の動物としては、以下に限定されるわけではないが、例えば、サル、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、モルモット、ウサギ、マウス、又はラットが挙げられる。本発明の骨手術用ドリル1は、好ましくはヒトに用いるためのものであり、より好ましくは、人工歯根をヒトの顎骨に埋入するための埋入部位を形成するために用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、骨手術の際に、必要な工程の数を減少させるなど、手術を行いやすくすることができる。また、骨手術の精度を上げることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 骨手術用ドリル
2 基部
3 刃部
4 切刃部
5 先端部
6 切刃
7 先端刃
8 突出部
9 マーキング
10 先端面
11 先端側の頂点
12 先端面10同士の接続の終点
13 中心軸
14 接触刃
15 刃部の直径